説明

接着性ゴム組成物及びそれを用いたタイヤ

【課題】スチールコード等との初期接着性及び湿熱老化後の接着性に優れることに加え、熱老化後の接着性にも優れた接着性ゴム組成物を提供する。
【解決手段】カルボキシル基含有化合物を天然ゴムにグラフト重合又は付加させてなる変性天然ゴムを5質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、硫黄を1〜10質量部及び有機酸コバルト塩をコバルト量として0.03〜1質量部配合してなることを特徴とする接着性ゴム組成物である。前記カルボキシル基含有化合物のグラフト量又は付加量は、前記天然ゴムに対して0.01〜20質量%の範囲が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性ゴム組成物及びそれを用いたタイヤに関し、特にスチールコード等との初期接着性、湿熱老化後の接着性及び熱老化後の接着性に優れた接着性ゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ、コンベアベルト、ホース等、特に強度が要求されるゴム製品には、ゴムを補強して強度を向上させる目的で、スチールコード等の金属補強材をゴム組成物で被覆した複合材料が用いられている。該ゴム−金属複合材料が高い補強効果を発揮して信頼性を得るためには、ゴム−金属補強材間に安定した経時変化の少ない接着が必要である。かかる複合材料を得るために、亜鉛、黄銅等でメッキされたスチールコード等の金属補強材を、硫黄を配合したゴム組成物に埋設し、加熱加硫時にゴムの加硫と同時に接着させる、いわゆる直接加硫接着が広く用いられている。また、これまで、該直接加硫接着におけるゴム−金属補強材間の接着性を向上させるための様々な検討が行われてきており、例えば、ゴム組成物にカルボキシル基含有化合物を配合することで、ゴム組成物の金属に対する接着性が向上すると言われている。
【0003】
一方、天然ゴムラテックスにビニル系単量体を添加してグラフト重合する技術(特許文献1〜6参照)が知られており、該技術で得られたグラフト化天然ゴムは、接着剤用途等で実用化されている。しかしながら、該グラフト化天然ゴムは、天然ゴム自身の特性を変えるために多量(20〜50質量%)のビニル化合物がグラフト重合されているため、天然ゴム本来の優れた物理特性を有しておらず、金属補強材と接着される接着性ゴム組成物のゴム成分として不適である。
【0004】
【特許文献1】特開平5−287121号公報
【特許文献2】特開平6−329702号公報
【特許文献3】特開平9−25468号公報
【特許文献4】特開2000−319339号公報
【特許文献5】特開2002−138266号公報
【特許文献6】特開2002−348559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、カルボキシル基含有化合物を配合することで、ゴム組成物の金属に対する接着性が向上すると言われているが、本発明者らが検討したところ、カルボキシル基含有化合物を配合することで、ゴム組成物の金属に対する湿熱老化後の接着性が確かに向上するものの、熱老化後の接着性が低下してしまうことが分った。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、スチールコード等との初期接着性及び湿熱老化後の接着性に優れることに加え、熱老化後の接着性にも優れた接着性ゴム組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる接着性ゴム組成物を用いた耐久性の高いタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、カルボキシル基含有化合物を天然ゴムにグラフト重合又は付加させてなる変性天然ゴムをゴム成分として使用し、更に硫黄及び有機酸コバルト塩を特定量配合することで、スチールコード等との初期接着性、湿熱老化後の接着性及び熱老化後の接着性に優れた接着性ゴム組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の接着性ゴム組成物は、カルボキシル基含有化合物を天然ゴムにグラフト重合又は付加させてなる変性天然ゴムを5質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、硫黄を1〜10質量部及び有機酸コバルト塩をコバルト量として0.03〜1質量部配合してなることを特徴とする。
【0009】
本発明の接着性ゴム組成物の好適例においては、前記カルボキシル基含有化合物のグラフト量又は付加量が、前記天然ゴムに対して0.01〜20質量%である。
【0010】
本発明の接着性ゴム組成物の他の好適例においては、前記ゴム成分は、前記変性天然ゴム及びそれ以外の天然ゴムを合計50質量%以上含み、更に、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム及びブチルゴムからなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0011】
本発明の接着性ゴム組成物の他の好適例においては、前記変性天然ゴム及びそれ以外の天然ゴムがゴム成分中100質量%である。
【0012】
本発明の接着性ゴム組成物においては、前記硫黄の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して4〜7質量部であることが好ましく、また、前記有機酸コバルト塩の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対してコバルト量として0.07〜0.4質量部であることが好ましい。
【0013】
更に、本発明のタイヤは、上記接着性ゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カルボキシル基含有化合物を天然ゴムにグラフト重合又は付加させてなる変性天然ゴムを含むゴム成分に対して硫黄及び有機酸コバルト塩を配合してなり、スチールコード等との初期接着性及び湿熱老化後の接着性に優れることに加え、熱老化後の接着性にも優れた接着性ゴム組成物を提供することができる。また、かかる接着性ゴム組成物を用いた耐久性の高いタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の接着性ゴム組成物は、カルボキシル基含有化合物を天然ゴムにグラフト重合又は付加させてなる変性天然ゴムを5質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、硫黄を1〜10質量部及び有機酸コバルト塩をコバルト量として0.03〜1質量部配合してなることを特徴とする。
【0016】
上述のように、上記カルボキシル基含有化合物をゴム組成物に配合することで、ゴム組成物のスチールコード等の金属材料に対する湿熱老化後の接着性を改善することができるが、この場合、耐熱老化接着性が大幅に低下してしまう。これに対して、本発明の接着性ゴム組成物においては、上記カルボキシル基含有化合物を天然ゴムにグラフト重合又は付加させてなる変性天然ゴムを用いることで、ゴム組成物の金属材料に対する耐熱老化接着性を低下させることなく、湿熱老化後の接着性を向上させることができる。
【0017】
本発明の接着性ゴム組成物に用いる変性天然ゴムとしては、天然ゴムラテックスに上記カルボキシル基含有化合物を添加し、該カルボキシル基含有化合物を天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子にグラフト重合又は付加させ、更に凝固及び乾燥してなる変性天然ゴムが好ましい。
【0018】
上記天然ゴムラテックスとしては、特に限定されず、例えば、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、界面活性剤や酵素で処理した脱タンパク質ラテックス、及びこれらを組み合せたもの等を用いることができる。
【0019】
上記天然ゴムラテックスに添加されて、該天然ゴムラテックス中の天然ゴムにグラフト重合するカルボキシル基含有化合物は、分子内に少なくとも一つのカルボキシル基を有し、天然ゴム分子とグラフト重合できる限り特に制限されるものでない。ここで、該カルボキシル基含有化合物は、天然ゴム分子とグラフト重合するために、分子内に炭素−炭素二重結合を有することが好ましく、カルボキシル基含有ビニル系単量体であることが好ましい。
【0020】
上記カルボキシル基含有ビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、テトラコン酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸類;フタル酸、コハク酸、アジピン酸等の非重合性多価カルボン酸と、(メタ)アリルアルコール、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有不飽和化合物とのモノエステルのような遊離カルボキシル基含有エステル類及びその塩等が挙げられる。これらの中でも、不飽和カルボン酸類が好ましい。これらカルボキシル基含有ビニル系単量体は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0021】
本発明においては、上記カルボキシル基含有化合物の天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子へのグラフト重合を、乳化重合で行うことが好ましい。ここで、該乳化重合においては、一般的には、天然ゴムラテックスに水及び必要に応じて乳化剤を加えた溶液中に、上記カルボキシル基含有化合物を加え、更に重合開始剤を加えて、所定の温度で撹拌して上記カルボキシル基含有化合物を重合させることが好ましい。なお、上記カルボキシル基含有化合物の天然ゴムラテックスへの添加においては、予め天然ゴムラテックス中に乳化剤を加えてもよいし、カルボキシル基含有化合物を乳化剤で乳化した後に天然ゴムラテックス中に加えてもよい。なお、天然ゴムラテックス及び/又はカルボキシル基含有化合物の乳化に使用できる乳化剤としては、特に限定されず、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のノニオン系の界面活性剤が挙げられる。
【0022】
上記重合開始剤としては、特に制限はなく、種々の乳化重合用の重合開始剤を用いることができ、その添加方法についても特に制限はない。一般に用いられる重合開始剤の例としては、過酸化ベンゾイル、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-ジアミノプロパン)ヒドロクロライド、2,2-アゾビス(2-ジアミノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。なお、重合温度を低下させるためには、レドックス系の重合開始剤を用いることが好ましい。かかるレドックス系重合開始剤において、過酸化物と組み合せる還元剤としては、例えば、テトラエチレンペンタミン、メルカプタン類、酸性亜硫酸ナトリウム、還元性金属イオン、アスコルビン酸等が挙げられる。レドックス系重合開始剤における過酸化物と還元剤との好ましい組み合せとしては、tert-ブチルハイドロパーオキサイドとテトラエチレンペンタミンとの組み合せ等が挙げられる。
【0023】
天然ゴム本来の優れた物理特性を維持しつつ、接着性ゴム組成物の接着性を向上させるには、各天然ゴム分子に上記カルボキシル基含有化合物が少量且つ均一に導入されることが重要であるため、上記重合開始剤の添加量は、上記カルボキシル基含有化合物に対し1〜100mol%の範囲が好ましく、10〜100mol%の範囲が更に好ましい。
【0024】
上述した各成分を反応容器に仕込み、30〜80℃で10分〜7時間反応させることで、天然ゴム分子に上記カルボキシル基含有化合物がグラフト共重合した変性天然ゴムラテックスが得られる。
【0025】
一方、上記天然ゴムラテックスに添加されて、該天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子に付加反応するカルボキシル基含有化合物は、分子内に少なくとも一つのカルボキシル基を有し、天然ゴム分子に付加反応できる限り特に制限されるものでない。ここで、該カルボキシル基含有化合物は、天然ゴム分子に付加反応するために、分子内にメルカプト基を有することが好ましく、カルボキシル基含有メルカプト化合物であることが好ましい。
【0026】
上記カルボキシル基含有メルカプト化合物としては、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、メルカプトマロン酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸等が挙げられ、これらの中でも、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸等が好ましい。これらカルボキシル基含有メルカプト化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0027】
上記カルボキシル基含有化合物を天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子に付加させて変性天然ゴムを得る場合は、天然ゴムラテックスに水及び必要に応じて乳化剤を加えた溶液中に、上記カルボキシル基含有化合物を加え、所定の温度で撹拌して、上記カルボキシル基含有化合物を天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子の主鎖の二重結合に付加反応させることが好ましい。また、上記カルボキシル基含有化合物の天然ゴムラテックスヘの添加においては、予め天然ゴムラテックス中に乳化剤を加えてもよいし、カルボキシル基含有化合物を乳化剤で乳化した後に天然ゴムラテックスに加えてもよい。また、必要に応じて、更に有機過酸化物を添加することもできる。なお、天然ゴムラテックス及び/又はカルボキシル基含有化合物の乳化に使用できる乳化剤としては、特に限定されず、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のノニオン系の界面活性剤が挙げられる。
【0028】
上記付加反応により変性天然ゴムを得る場合においても、天然ゴム本来の優れた物理特性を維持しつつ、接着性ゴム組成物の接着性を向上させるには、各天然ゴム分子に上記カルボキシル基含有化合物が少量且つ均一に導入されることが重要であるため、上記変性反応は、撹拌しながら行うことが好ましく、例えば、天然ゴムラテックス及びカルボキシル基含有化合物等の上記成分を反応容器に仕込み、30〜80℃で10分〜24時間反応させることで、天然ゴム分子に上記カルボキシル基含有化合物が付加した変性天然ゴムラテックスが得られる。
【0029】
上記のようにして得た変性天然ゴムラテックスを凝固し、洗浄後、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー等の乾燥機を用いて乾燥することで、固形状態の変性天然ゴムが得られる。ここで、変性天然ゴムラテックスを凝固するのに用いる凝固剤としては、特に限定されるものではないが、ギ酸、硫酸等の酸や、塩化ナトリウム等の塩が挙げられる。
【0030】
また、本発明の接着性ゴム組成物には、天然ゴムラテックス以外の天然ゴム源、例えば、カップランプ、ラテックスの酸凝固物及びそのアンスモークドシート、乾燥後の天然ゴム等を用いて製造した変性天然ゴムを用いることもでき、この場合、これら固形状の天然ゴム源に、上記カルボキシル基含有化合物を添加し、機械的なせん断力をかけることにより、該カルボキシル基含有化合物を天然ゴムにグラフト重合又は付加させて、変性天然ゴムを得ることが好ましい。ここで、固形状天然ゴム源に機械的なせん断力をかけるのに用いる装置としては、ドライプリブレーカー、二軸混練押出機等が挙げられる。
【0031】
上記変性天然ゴムにおいて、上記カルボキシル基含有化合物のグラフト量又は付加量は、天然ゴムに対して0.01〜20.0質量%の範囲が好ましく、0.05〜10.0質量%の範囲が更に好ましい。上記カルボキシル基含有化合物のグラフト量又は付加量が0.01質量%未満では、接着性ゴム組成物の耐熱老化接着性を維持しつつ、湿熱老化後の接着性を十分に改良できないことがある。また、上記カルボキシル基含有化合物のグラフト量又は付加量が20.0質量%を超えると、天然ゴム本来の優れた物理特性が損なわれることがある。
【0032】
本発明の接着性ゴム組成物のゴム成分は、上述した変性天然ゴムを5質量%以上含むことを要し、その他、未変性の天然ゴムや各種合成ゴムを含むことができる。ここで、合成ゴムとしては、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)及びブチルゴム(IIR)が好ましい。上記ゴム成分は、上記変性天然ゴム及びそれ以外の天然ゴムを合計50質量%以上含み、更に、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム及びブチルゴムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、また、上記変性天然ゴム及びそれ以外の天然ゴムのみからなることも好ましい。
【0033】
本発明の接着性ゴム組成物に配合される硫黄の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対し1〜10質量部の範囲であり、4〜7質量部の範囲が好ましい。硫黄の配合量が1質量部未満では、ゴム組成物とスチールコード等の金属補強材との接着性が不十分であり、10質量部を超えると、接着層が肥大化し、接着性が低下する。
【0034】
本発明の接着性ゴム組成物に配合される有機酸コバルト塩の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対しコバルト量として0.03〜1質量部の範囲であり、0.07〜0.4質量部の範囲が好ましい。有機酸コバルト塩の配合量がコバルト量として0.03質量部未満では、ゴム組成物とスチールコード等の金属補強材との接着性が充分でなく、1質量部を超えると、ゴム組成物の老化特性が悪化する。ここで、上記有機酸コバルト塩としては、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト等が挙げられる。また、該有機酸コバルト塩は、有機酸の一部をホウ酸等で置き換えた複合塩でもよく、具体的には、OMG製の商標「マノボンド」等が挙げられる。
【0035】
本発明の接着性ゴム組成物には、上記ゴム成分、硫黄、有機酸コバルト塩の他に、カーボンブラック等の充填剤、老化防止剤、亜鉛華、加硫促進剤等のゴム業界で通常使用される配合剤を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。また、本発明の接着性ゴム組成物は、ロールやインターナルミキサー等の混練り機を用いて混練りすることで製造することができ、得られた接着性ゴム組成物をシート状に加工し、更に加工されたシート2枚でスチールコードを挟んだ状態に成形加工して、カーカスプライやベルト層等に用いることができる。なお、本発明の接着性ゴム組成物と接着されるスチールコード等の金属補強材は、ゴムとの接着を良好にするために黄銅、亜鉛或いはこれらにニッケルやコバルトを含有する金属でメッキ処理されていることが好ましく、黄銅メッキ処理されていることが特に好ましい。
【0036】
本発明のタイヤは、上記接着性ゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とし、ここで、該タイヤ部材としては、ベルトやカーカス等が好ましい。上記接着性ゴム組成物をベルトやカーカスに用いたタイヤは、接着性ゴム組成物とスチールコード等の金属補強材との初期接着性、湿熱老化後の接着性及び耐熱老化接着性が高いため、耐久性に優れる。なお、本発明のタイヤは、上述の接着性ゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いる以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
<製造例1>
(天然ゴムラテックスの変性反応工程)
フィールドラテックスをラテックスセパレーター[斎藤遠心工業製]を用いて回転数7500rpmで遠心分離して、乾燥ゴム濃度60%の濃縮ラテックスを得た。この濃縮ラテックス1000gを、撹拌機及び温調ジャケットを備えたステンレス製反応容器に投入し、予め100mLの水と900mgの乳化剤[エマルゲン1108,花王株式会社製]をイタコン酸 30gに加えて乳化したものを900mLの水と共に添加し、これらを窒素置換しながら常温で30分間撹拌した。次に、重合開始剤としてtert-ブチルハイドロパーオキサイド 1.2gとテトラエチレンペンタミン 1.2gとを加え、40℃で2時間反応させることにより、変性天然ゴムラテックスを得た。
【0039】
(凝固及び乾燥工程)
次に、上記変性天然ゴムラテックスにギ酸を加えpHを4.7に調整し、変性天然ゴムラテックスを凝固させた。このようにして得られた固形物をクレーパーで5回処理し、シュレッダーに通してクラム化した後、熱風式乾燥機により110℃で210分間乾燥して変性天然ゴムAを得た。このようにして得られた変性天然ゴムAの質量から、単量体として加えたイタコン酸の転化率が100%であることが確認された。また、該変性天然ゴムAを石油エーテルで抽出し、更にアセトンとメタノールの2:1混合溶媒で抽出することによりホモポリマーの分離を試みたが、抽出物を分析したところホモポリマーは検出されず、添加したイタコン酸の100%が天然ゴム分子に導入されていることが確認された。従って、上記変性天然ゴムAにおけるイタコン酸のグラフト量は、天然ゴムに対して5質量%である。
【0040】
<製造例2>
イタコン酸 30gの代わりに、メタクリル酸 20gを加える以外は、上記製造例1と同様にして変性天然ゴムBを得た。また、変性天然ゴムAと同様にして、変性天然ゴムBを分析したところ、添加したメタクリル酸の100%が天然ゴム分子に導入されていることが確認された。従って、変性天然ゴムBにおけるメタクリル酸のグラフト量は、天然ゴムに対して3.33質量%である。
【0041】
<製造例3>
上記天然ゴムラテックスを変性反応工程を経ずに、直接、凝固及び乾燥させて天然ゴムCを調製した。
【0042】
<製造例4>
イタコン酸 30gに代えてメルカプト酢酸 21gを加えて乳化したもの反応容器に添加し、tert-ブチルハイドロパーオキサイド及びテトラエチレンペンタミンを加えずに、60℃で8時間させる以外は、上記製造例1と同様にして変性天然ゴムDを得た。また、得られた変性天然ゴムDにおけるメルカプト酢酸の付加量を熱分解ガスクロマトグラフ−質量分析装置[Agilent社製]を用いて分析したところ、天然ゴムに対して2.80質量%であった。
【0043】
<製造例5〜6>
メルカプト酢酸 21gの代わりに、表1に示すカルボキシル基含有メルカプト化合物を表1に示す量加える以外は、上記製造例4と同様にして変性天然ゴムE及びFを得た。また、変性天然ゴムDと同様にして、変性天然ゴムE及びFのメルカプト化合物の付加量を分析して、表1に示す結果を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
(実施例1〜5及び比較例1)
プラストミルで混練して表2に示す配合処方のゴム組成物を調製し、該ゴム組成物に対して、下記の方法でムーニー粘度、硬度、破断時伸び(Eb)及び接着性を測定・評価した。結果を表3に示す。
【0046】
(1)ムーニー粘度
JIS K6300-1997に準拠して、130℃にてゴム組成物のムーニー粘度ML1+4(130℃)を測定した。数値が小さい程、ムーニー粘度が低く、良好であることを示す。
【0047】
(2)硬度
上記ゴム組成物を160℃で15分間加硫して得た加硫ゴムに対し、JIS K6253-1993に準拠して、硬度を測定した。
【0048】
(3)破断時伸び
上記ゴム組成物を160℃で15分間加硫して得た加硫ゴムに対し、JIS K6301-1997に準拠して引張試験を行い、破断時の伸び(Eb)を測定した。破断時伸びが大きい程、物理特性が高く良好であることを示す。
【0049】
(4)接着性試験
黄銅(Cu:63質量%、Zn:37質量%)メッキしたスチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、該スチールコードを上下両側から上記ゴム組成物でコーティングし、これを160℃で15分間加硫して、幅12.5mmのサンプルを作製した。次に、ASTM−D−2229に準拠して、該サンプルのスチールコードを引き抜き、ゴムの被覆状態を目視で観察し、被覆率を0〜100%で表示して接着性の指標とした。数値が大きい程、接着性が高く良好であることを示す。なお、初期接着性は、加硫直後に測定した結果であり、湿熱老化接着性は、加硫後、70℃、100%RH、3日間の湿熱条件下で老化させた後に測定した結果であり、耐熱老化接着性は、加硫後、空気中、100℃、7日間の条件下で老化させた後に測定した結果である。
【0050】
【表2】

【0051】
*1 使用したゴム成分の種類を表3中に示す.
*2 N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン.
*3 N,N'-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド.
*4 OMG製, 商標「マノボンド C22.5」, コバルト含有率=22.5質量%.
【0052】
(比較例2)
表2に示す配合に、更にイタコン酸をゴム成分100質量部に対して5質量部配合して比較例2のゴム組成物を調製し、上記の方法でムーニー粘度、硬度、破断時伸び(Eb)及び接着性を測定・評価した。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3の実施例と比較例1との比較から、天然ゴムに代えて、カルボキシル基含有化合物を天然ゴムにグラフト重合又は付加させてなる変性天然ゴムを用いることで、湿熱老化後の接着性が大幅に向上することが分る。また、実施例と比較例2の結果から、配合時にカルボキシル基含有化合物を添加すると、耐熱老化接着性が低下するものの、カルボキシル基含有化合物を天然ゴムにグラフト重合又は付加させてなる変性天然ゴムを用いることで、耐熱老化接着性の低下を防止できることが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有化合物を天然ゴムにグラフト重合又は付加させてなる変性天然ゴムを5質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、硫黄を1〜10質量部及び有機酸コバルト塩をコバルト量として0.03〜1質量部配合してなることを特徴とする接着性ゴム組成物。
【請求項2】
前記カルボキシル基含有化合物のグラフト量又は付加量が、前記天然ゴムに対して0.01〜20質量%であることを特徴とする請求項1に記載の接着性ゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分は、前記変性天然ゴム及びそれ以外の天然ゴムを合計50質量%以上含み、更に、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム及びブチルゴムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の接着性ゴム組成物。
【請求項4】
前記変性天然ゴム及びそれ以外の天然ゴムがゴム成分中100質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接着性ゴム組成物。
【請求項5】
前記硫黄の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して4〜7質量部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の接着性ゴム組成物。
【請求項6】
前記有機酸コバルト塩の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対してコバルト量として0.07〜0.4質量部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の接着性ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の接着性ゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とするタイヤ。

【公開番号】特開2006−152046(P2006−152046A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341618(P2004−341618)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】