説明

接着接合構造、接合方法および接合装置

【課題】 接着時間を増大させずに接着形態等にかかわらずエネルギー硬化型接着剤の硬化収縮による位置ずれを極力抑制して高精度な位置合わせを可能とする被接着物と接着物との接合構造、その接合方法及びその接合装置を提供すること。
【解決手段】 被着物と該被着物に対して位置合わせする接着物とが、エネルギー硬化型接着剤からなる接着部を介して接合される接合構造において、前記接着物は、硬化タイミングが異なる複数の接着剤を用いた層を有し、前記エネルギー硬化型接着剤にエネルギーを照射して硬化する際に、前記エネルギー硬化型接着剤の硬化収縮力が前記被着物または前記接着物と前記エネルギー硬化型接着剤とが接した箇所から伝わらないように、前記硬化タイミングが異なる複数の接着剤を有する層は、前記硬化タイミングが早いエネルギー硬化型接着剤が、前記被接着物と前記接着物とに架かることがないよう分断されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着接合構造、接合方法および接合装置に関し、特に、接合後の位置ずれの少ない接着接合構造、接合方法および接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来部品接合等被接着物に接着物を接着する接着剤として、熱硬化型や光硬化型等のエネルギー硬化型接着剤が知られており、この中にはいくつかの性質を兼ね備えたものもある。これらのエネルギー硬化型接着剤は、反応速度が速く硬化時間が短くてすむことから、生産工程の効率化を図る目的で様々な分野で利用されている。
【0003】
ところで、このようなエネルギー硬化型接着剤では、硬化する際に体積収縮(硬化収縮)が起こり、この硬化収縮に伴って応力(硬化収縮力)が発生する。一般に、アクリル系紫外線硬化型樹脂では5〜10%、エポキシ系紫外線硬化型樹脂では2〜5%程度硬化収縮し、この硬化収縮の量に比例して硬化収縮力が発生する。この硬化収縮力は、接着強度の面においては僅かな強度低下が生じるのみで大きな影響を与えないが、被接着物と接着物との位置のずれを生じさせる点、特に部品接合において高精度の位置調整が要求される精密組立においては大きな問題となる。
【0004】
すなわち、精密組立の工程において、被接着物に対する接着物の位置合わせを厳密に調整した後に、この被接着物と接着物とを接合するエネルギー硬化型接着剤の硬化収縮の影響でその調整した位置にずれが生じると、精密組立品はその機能自体を有さない阻害品となる可能性がある。
【0005】
このような問題を回避するために、以下のようなものが提案されている。
第1に、被接着物と接着物との間に中間保持部材を介装してエネルギー硬化型接着剤を薄く少量使用することによって、硬化収縮量を小さくするものである(例えば、特許文献1の特開平10−309801号公報参照)。
第2に、照射するUV光を制御して照射のばらつきをなくすことによって硬化収縮量を均一化するものである(例えば、特許文献2の特開2001−350072号公報及び特許文献3の特開平8−72300号公報参照)。
【0006】
第3に、照射するUV光を集光して仮固定した後に発散光にして本固定する発明や、光硬化型接着剤を塗布するごとに硬化させて熱変形によるずれを抑える発明である(例えば、特許文献4の特開平9−243962号公報及び特許文献5の特開平10−7991号公報参照)。
【0007】
さらに第4に、エネルギー硬化型接着剤自体に手を加え、セラミック微粒子を添加したり、充填材を添加したりして硬化収縮量を小さくするものや、紫外線硬化型樹脂に熱収縮型樹脂を添加して硬化と収縮とを別々に制御するものである(例えば、特許文献6の特開平7−201028号公報、特許文献7の特開平10−121013号公報及び特許文献8の特開平5−41408号公報参照)。
【特許文献1】特開平10−309801号公報
【特許文献2】特開2001−350072号公報
【特許文献3】特開平8−72300号公報
【特許文献4】特開平9−243962号公報
【特許文献5】特開平10−7991号公報
【特許文献6】特開平7−201028号公報
【特許文献7】特開平10−121013号公報
【特許文献8】特開平5−41408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、面接着を想定したものであり、例えば多軸調整等のためにエネルギー硬化型接着剤を厚く多量に必要とする場合等には利用できず接着形態が限定されるという問題がある。また、中間保持部材が必要とされ部品点数が増加する上に、被接着物と接着物と中間保持部材との3部材について接着性のよいエネルギー硬化型接着剤を考慮する必要があり、さらに、接着箇所が増えるという問題もある。
また、特許文献2及び特許文献3に記載の発明も、基本的に接着形態が面接着に限定されてしまう。さらに、UV硬化型接着剤の塗布むらがある場合は硬化収縮による位置ずれを回避できない可能性がある。
【0009】
また、特許文献4に記載の発明では、最初に集光によって仮固定を行っても発散光による本固定の際の硬化収縮力が大きいため、位置ずれが大きくなってしまうという問題がある。一方、特許文献5に記載の発明では、熱変形以外の硬化収縮については考慮されておらず、硬化するごとにその硬化収縮量が積み重なっていくため、最終的には位置ずれが大きく現れることとなる。
【0010】
そして、特許文献6〜8に記載の発明では、エネルギー硬化型接着剤の量を増やせばこれに比例して硬化収縮量も増えその分位置ずれが大きくなるため、エネルギー硬化型接着剤を多く必要とする接着形態等には好適とはいえず、また、添加剤を加えることにより光の透過率が低下しその分硬化させるためのエネルギーの照射量を多くする必要が生じる場合がある。
【0011】
このような影響を考慮し特願2003−185663において一つのエネルギー硬化型接着剤を硬化させた後に、硬化タイミングをずらして他のエネルギー硬化型接着剤を硬化させる、エネルギー硬化型接着剤を複数層用いた方法を提案した。
【0012】
しかしながら、特願2003−185663の方法を用いれば、精密位置決めが可能となるが、一つのエネルギー硬化型接着剤が硬化する間、流動性を確保する為、他のエネルギー硬化型接着剤に硬化エネルギーを与えないようにしたり、硬化に要する積算エネルギー量が大きい接着剤を用いて硬化速度を変えたりしている。
このような構成では、図13に示すように、接着部が完全に硬化するまでに要する時間が通常のエネルギー硬化型接着剤を一つだけ用いた構成よりも長くなってしまう。
【0013】
これを改善する為には、硬化エネルギー(光硬化方接着剤であれば光量)を増大させて短時間化するのが一般的であるが、硬化エネルギーを増大させれば接着剤自体の硬化収縮量も増大し、また発生する熱量も大きくなり熱変形を起こして、精密位置決めができなくなる可能性がある。
【0014】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、接着時間を増大させずに接着形態等にかかわらずエネルギー硬化型接着剤の硬化収縮による位置ずれを極力抑制して高精度な位置合わせを可能とする被接着物と接着物との接合構造、その接合方法及びその接合装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記した様々な問題点に鑑みてなされたものであって、請求項1に記載の発明は、被着物と該被着物に対して位置合わせする接着物とが、エネルギー硬化型接着剤からなる接着部を介して接合される接合構造において、前記接着物は、硬化タイミングが異なる複数の接着剤を用いた層を有し、前記エネルギー硬化型接着剤にエネルギーを照射して硬化する際に、前記エネルギー硬化型接着剤の硬化収縮力が前記被着物または前記接着物と前記エネルギー硬化型接着剤とが接した箇所から伝わらないように、前記硬化タイミングが異なる複数の接着剤を有する層は、前記硬化タイミングが早いエネルギー硬化型接着剤が、前記被接着物と前記接着物とに架かることがないよう分断されていることを特徴とする接着接合構造に関する。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記層は、粘度の異なる複数のエネルギー硬化型接着剤によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の接着接合構造に関する。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記層は、早いタイミングで硬化が進む前記エネルギー硬化型接着剤の硬化収縮力が当該早いタイミングで硬化する接着剤よりも遅いタイミングで硬化する接着剤の粘度または粘弾性により吸収されることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の接着接合構造に関する。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の層を構成するエネルギー硬化型接着剤にエネルギーを照射して硬化する際に、前記エネルギー硬化型接着剤にエネルギーを照射して硬化する際に、前記エネルギー硬化型接着剤の硬化収縮力が前記被着物または前記接着物と前記エネルギー硬化型接着剤とが接した箇所から伝わらないように、複数のエネルギー硬化型接着剤によって形成され、前記接着剤のうちの少なくとも一の部分のエネルギー硬化型接着剤の粘度上昇または粘弾性の上昇が定常状態に達した後に、他の部分のエネルギー硬化型接着剤を硬化させて完了させることを特徴とする接合方法に関する。
【0019】
請求項5に記載の発明は、初期粘度の異なる複数のエネルギー硬化型接着剤を、少なくとも前記初期粘度の最も低いエネルギー硬化型接着剤によって、他のエネルギー硬化型接着剤が前記被接着物と前記接着物とに架かることがないよう、層状に塗布し、次いで前記エネルギー硬化型接着剤の各層にエネルギーを照射して、前記初期粘度の最も高いエネルギー硬化型接着剤の粘度上昇が定常状態に達した後に、他のエネルギー硬化型接着剤を前記硬化収縮力を伝えられる粘度に到達させて接着硬化を完了させることを特徴とする請求項4に記載の接合方法に関する。
【0020】
請求項6に記載の発明は、前記エネルギー硬化型接着剤の硬化収縮力が前記エネルギー硬化型接着剤と接した箇所を通して外部へ伝えられる粘度に到達するエネルギー量の異なる複数のエネルギー硬化型接着剤を、少なくとも前記エネルギー量の最も高いエネルギー硬化型接着剤が前記被接着物と前記接着物とに架からないように、層状に塗布し、次いで前記エネルギー硬化型接着剤の各層にエネルギーを照射して、前記エネルギー量の最も低いエネルギー硬化型接着剤の粘度上昇が定常状態に達した後に、他のエネルギー硬化型接着剤を前記硬化収縮力を伝えられる粘度に到達させて接着硬化を完了させることを特徴とする請求項4〜請求項5のいずれか1項に記載の接合方法に関する。
【0021】
請求項7に記載の発明は、全ての層のエネルギー硬化型接着剤の粘度上昇が定常状態に達した後、照射するエネルギーの照射強度を増加させて接着硬化させることを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の接合方法に関する。
【0022】
請求項8に記載の発明は、前記エネルギー硬化型接着剤の粘度は、照射されるエネルギーの量を照射強度及び照射時間に基づいて算出することを特徴とする請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載の接合方法に関する。
【0023】
請求項9に記載の発明は、被着物と該被着物に対して位置合わせされる接着物とがエネルギー硬化型接着剤からなる接着部を介して接合される接合構造であって、前記接着部は、硬化タイミングが異なる複数の層を有した接着部により接合する接合装置であって、複数の前記エネルギー硬化型接着剤を塗布する塗布手段と、前記エネルギー硬化型接着剤を硬化させるためにエネルギーを照射するエネルギー照射手段と、該エネルギー照射手段のオン・オフを制御するエネルギー照射制御手段とを備えることを特徴とする接合装置に関する。
【0024】
請求項10に記載の発明は、複数の前記エネルギー硬化型接着剤を塗布する塗布手段と、前記エネルギー硬化型接着剤を硬化させるためにエネルギーを照射するエネルギー照射手段と、該エネルギー照射手段のオン・オフを制御するエネルギー照射制御手段と、該エネルギー照射手段の照射強度を制御するエネルギー照射強度制御手段と、該エネルギー照射手段により変化する接着剤の粘度または粘弾性を検知する粘度・粘弾性検知手段とを備えることを特徴とする接合装置に関する。
【0025】
請求項11記載の発明は、粘度・粘弾性検知手段は、前記エネルギー照射手段が照射するエネルギーの照射強度及び照射時間に基づいて照射されるエネルギーの量を算出し、粘度または粘弾性を検知することを特徴とする請求項10に記載の接合装置に関する。
【発明の効果】
【0026】
請求項1に記載の発明によって、エネルギー硬化型接着剤が硬化する際の硬化収縮によって生じる硬化収縮分を補填(補充)するように流動変形して、硬化収縮に伴う引張応力を吸収するため、この引張応力が被接着物まで伝播することなく、被接着物に対する接着物の位置ずれを極力抑制して高精度な位置合わせを可能とする。
また、これらの複数の層はエネルギー硬化型接着剤から形成されているが、位置ずれの原因となる引張応力を発生させる層は決まっており、それ以外の層が厚くても位置ずれには影響しないため、エネルギー硬化型接着剤を多量に使用することが可能で接着形態が限定されない。
さらに、完全硬化に必要な積算光量が同じかそれ以下であるので、接着部全体の完全硬化時間を1つの層の完全硬化時間と同じにすることができ、接着工程時間の短縮が可能となり、請求項1記載の接合構造が実現できる。
【0027】
請求項2に記載の発明によって、エネルギー硬化型接着剤が硬化する際の硬化収縮によって生じる硬化収縮分を補填(補充)するように流動変形して、硬化収縮に伴う引張応力を吸収するため、この引張応力が被接着物まで伝播することなく、被接着物に対する接着物の位置ずれを極力抑制して高精度な位置合わせを可能とする。
また、これらの複数の層はエネルギー硬化型接着剤から形成されているが、位置ずれの原因となる引張応力を発生させる層は決まっており、それ以外の層が厚くても位置ずれには影響しないため、エネルギー硬化型接着剤を多量に使用することが可能で接着形態が限定されない。
さらに、完全硬化に必要な積算光量が同じかそれ以下であるので、接着部全体の完全硬化時間を1つの層の完全硬化時間と同じにすることができ、接着工程時間の短縮が可能となる。
【0028】
請求項4〜6の接合方法によって、完全硬化時間に比べ初期に発生する引張応力の終了した後、照射強度を増大するので全ての層の完全硬化時間をより短時間で終了させることができる。また、引張応力が終了している為、照射強度を増大させても硬化収縮が大きくなることがなく、より高精度な請求項4の接合方法が実現できる。
またエネルギー硬化型接着剤の硬化タイミングを正確に判断できる。
すなわち、エネルギー硬化型接着剤が硬化する際の硬化収縮によって生じる硬化収縮分を補填(補充)するように流動変形して、硬化収縮に伴う引張応力を吸収するため、この引張応力が被接着物まで伝播することなく、被接着物に対する接着物の位置ずれを極力抑制して高精度な位置合わせを可能とする。
また、これらの複数の層はエネルギー硬化型接着剤から形成されているが、位置ずれの原因となる引張応力を発生させる層は決まっており、それ以外の層が厚くても位置ずれには影響しないため、エネルギー硬化型接着剤を多量に使用することが可能で接着形態が限定されない。
さらに、完全硬化に必要な積算光量が同じかそれ以下であるので、接着部全体の完全硬化時間を1つの層の完全硬化時間と同じにすることができ、接着工程時間の短縮が可能となる接合装置が提供できる。
【0029】
請求項7に記載の発明によって、完全硬化時間に比べ初期に発生する引張応力の終了した後、照射強度を増大するので全ての層の完全硬化時間をより短時間で終了させることができる。また、引張応力が終了している為、照射強度を増大させても硬化収縮が大きくなることがなく、より高精度な接合装置が提供できる。
【0030】
請求項8に記載の発明によって、エネルギー硬化型接着剤の硬化タイミングを正確に判断できる。
【0031】
請求項9に記載の発明によって、エネルギー硬化型接着剤が硬化する際の硬化収縮によって生じる硬化収縮分を補填(補充)するように流動変形して、硬化収縮に伴う引張応力を吸収するため、この引張応力が被接着物まで伝播することなく、被接着物に対する接着物の位置ずれを極力抑制して高精度な位置合わせを可能とする。
また、これらの複数の層はエネルギー硬化型接着剤から形成されているが、位置ずれの原因となる引張応力を発生させる層は決まっており、それ以外の層が厚くても位置ずれには影響しないため、エネルギー硬化型接着剤を多量に使用することが可能で接着形態が限定されない。
さらに、完全硬化に必要な積算光量が同じかそれ以下であるので、接着部全体の完全硬化時間を1つの層の完全硬化時間と同じにすることができ、接着工程時間の短縮が可能となる接合装置が提供できる。
【0032】
請求項10に記載の発明によって、完全硬化時間に比べ初期に発生する引張応力の終了した後、照射強度を増大するので全ての層の完全硬化時間をより短時間で終了させることができる。また、引張応力が終了している為、照射強度を増大させても硬化収縮が大きくなることがなく、より高精度な接合装置が提供できる。
【0033】
請求項11に記載の発明によって、エネルギー硬化型接着剤の硬化タイミングを正確に判断できる請求項9の接合装置が提供できる。
【0034】
このように、本発明は、上記問題点を回避するために、被接着物と位置合わせした接着物とが、エネルギー硬化型接着剤からなる接着部を介して接合される接合構造が、多層の接着部からなり、前記接着部の一層に存在するエネルギー硬化型接着剤の硬化タイミングと、他の接着剤層の硬化タイミングが異なるようにし、前記接着部の一層を硬化させた後に、この層と硬化タイミングの異なる他層(他層の少なくとも1つの層)を、流動性を保持したエネルギー硬化型接着剤が流動変形して硬化収縮に伴う引張応力を吸収するため、この引張応力が被着物まで影響を与えることなく、被接着物に対する接着物の位置ずれを防止して極めて高精度な接着(接合)を可能とする。
【0035】
また請求項1、4によれば、図1に示すように、エネルギー硬化型接着剤にエネルギーを照射して硬化する際に、エネルギー硬化型接着剤の粘度に上昇するまで(ある粘弾性に達するまで)の到達時間が異なる複数のエネルギー硬化型接着剤によって形成され、最も粘度が上昇する(または粘弾性が高くなる)のが遅い層によって、他のエネルギー硬化型接着剤が被接着物と接着物とに架かることがないよう分断されている。
このため、全ての層のエネルギー硬化型接着剤をほぼ同時に硬化を開始させ、各接着剤の硬化途中で流動性を保持した層と硬化収縮を起こす層に分けることができるので、流動性を保持したエネルギー硬化型接着剤が流動変形して硬化収縮に伴う引張応力を吸収する効果を短時間で行うことが可能となる。
【0036】
より具体的には、接着剤が硬化収縮を起こし被接着物が規定予定位置からずれるには、図3に示すように、いくつかの段階(過程)を踏む。まず、エネルギー硬化型接着剤にエネルギーが照射されて硬化が開始されると、重合が進むことによって、部分的に硬化して収縮と粘度の上昇とが起こる。硬化収縮しないと、規定位置からの位置ずれは起こらない。そして、その規定位置を含む層を形成するエネルギー硬化型接着剤が、硬化収縮力を伝える時点で位置ずれが発生し始める。さらに硬化し、粘度上昇してある所定の粘度に達した状態である定常状態に達すると、位置ずれが終了する。その後、重合率がある所定値に達した時点で硬化が終了する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
図3に示すように、エネルギー照射を行うと、ある層を構成する接着剤の粘度(粘弾性)が硬化反応に伴い上昇し、さらにこの層を構成する接着剤の硬化を進めると、この接着剤の粘度がある時点で増加する度合いが少なくなる(ほぼ平坦:プラトーになる)。このプラトーとなる時点での粘度をνk(図3中ではν2)とするとこのνkとなる状態を定常状態と言い、この定常状態に達すると、他の層の接着剤がこの層との界面部にある他の部材と接した箇所に硬化収縮力が一般に集中してこの力が外部へ伝えられる。本発明では、この力の伝達を小さくするような組合せにし、他の層によって一の層が被接着物と接着物とに架かることがないよう、すなわち、硬化収縮力を分断すると、流動性を保持した他層のエネルギー硬化型接着剤が流動変形して硬化収縮に伴う引張応力を吸収する。このような効果を短時間で発揮することが本発明では可能となる。特に図3のような重合速度(硬化速度)が同じ程度のものを選択するのが最も効率が良い。この図3で示す縦軸が「エネルギー線照射」とあるグラフは、横軸がOFFからONに変化した時を開示時間(0sec)であり、ONからOFFに変化した終了時間(60sec)である。この図の例では、積算光量が6000mJ/cm2であり、照射強度が100mW/cm2である接着剤を用いた。図3の縦軸が粘度のグラフは、例えば粘度ν1は例えば15000Pa・S程度であり、ν2は100000Pa・S程度である。この粘度は典型的な例を示す。図4および図13も同様である。
【0038】
エネルギー硬化型接着剤が硬化する際に、硬化収縮に伴う硬化収縮力が、外部へと伝わる伝達速度の早い部分と遅い部分ができる。この早い部分が到達タイミングに達した時点では、残余の部分のエネルギー硬化型接着剤は未だ流動性を保っている状態となる。エネルギー硬化型接着剤が硬化すると硬化収縮が起こり、引張応力が発生するが、このような状態下において、到達タイミングの早い部分で引張応力が発生すると、残余の部分によって到達タイミングの早い部分が被着物と接着物とに架かることがないように形成されているため、図1の(b)に示すように、この引張応力は流動性を保持した部分のエネルギー硬化型接着剤にのみ働き、流動性を有するエネルギー硬化型接着剤は硬化収縮によって生じる硬化収縮分を補填(補充)するように流動変形していく。このように、残余の部分のエネルギー硬化型接着剤が流動変形して硬化収縮に伴う応力(硬化収縮力)を吸収するため、この応力が被着体まで伝播しないため、被着体に対する接着物の位置ずれは発生しない。また、到達タイミングの早い部分では被着体と接着物とに硬化収縮を阻害されず自由に硬化できる為、内部残留応力が発生することが極めて少ない。内部応力の残留は、経時変化を起こす重要な要素(たとえば、時間が経過すると共に接着した箇所から亀裂が生じたり、その箇所の機械的強度等が低下するなど)である。このため、内部残留応力を抑えることでこのような経時変化を抑えることができる。
【0039】
続いて、図1の(c)に示すように、残余の到達タイミングの遅い部分が到達タイミングに達する過程においても同様にして硬化収縮が起こり、応力が発生する。到達タイミングが遅い部分が硬化する際に発生する応力は他に吸収されずに被接着物に伝播し、その結果、被接着物に対する接着物の位置ずれは生じてしまう。しかしながら、すでに発生した応力は吸収されてしまっているため、この分のずれ幅は小さく抑えられる。
【0040】
すなわち、到達タイミングの異なる複数の層を有さず、接着部を構成するエネルギー硬化型接着剤を均等に硬化させる接合構造の場合と比較してみると、図2に示すように、このような接合構造では、エネルギー硬化型接着剤の硬化収縮に伴う応力を吸収するものがなく、この応力が接着物から被着物にまで直接伝播するため、エネルギー硬化型接着剤の硬化に伴う硬化収縮分がそのまま被着物に対する接着物の位置ずれ分になって現れ、ずれ幅の大きい位置ずれが発生する。
【0041】
ここで硬化収縮に伴う硬化収縮力を外部へ伝えられる粘度への到達タイミングとは、接着部の層のそれぞれにおいてエネルギー硬化型接着剤の流動性がなくなり被接着物または接着物をずらす事ができる瞬間の時間的なことをいう(図3)。したがって、必ずしも重合率(硬化率)などで示さなくとも、エネルギー硬化型接着剤の粘度または粘弾性と被接着物または接着物の重さ、摩擦係数に密接に関係する。また、エネルギーが与えられる方向の層の厚みを考えた場合、エネルギー線硬化型接着剤が硬化する際には、エネルギー供給源に近いところから遠いところに向けて硬化が始まるため、近いところから遠いところにかけて粘度の勾配をもつこととなるのが一般的な傾向である。したがって、この場合は、エネルギー供給源から最も遠いところ、すなわち、硬化の最も遅いところのエネルギー硬化型接着剤の流動性がなくなり、被接着物または接着物をずらす事ができる瞬間の時間をいう。図3では、エネルギー照射量(積算照射量)を、6000mJ/cm2の接着剤を好適な例として示したが、この例示は本発明を説明するために使用したものであり、「エネルギー線照射」とある最上段のグラフの横軸は、一般には、積算光量のパーセントで示すこともできる。このため、両方の単位で図3の最上段のグラフを示す。
【0042】
請求項1、4を満たす第一の実施形態である請求項9の接着接合装置は、図5に示すように、複数のエネルギー硬化型接着剤を塗布する塗布手段と、エネルギー硬化型接着剤を硬化させるためにエネルギーを照射するエネルギー照射手段と、エネルギー照射手段のオン・オフを制御するエネルギー照射制御手段とを備えている。
この接着接合装置を用いて、請求項2のように接着部をそれぞれ初期粘度が異なる複数のエネルギー硬化型接着剤によって形成し、請求項5の方法を行うことで、位置ずれを防止して高精度な接着接合を可能とする。
【0043】
すなわち、これらのエネルギー硬化型接着剤の各層はそれぞれ被着物の接着面及び接着物の接着面と平行になるようにそれぞれ連接されて形成され、粘度の低いエネルギー硬化型接着剤の層は粘度の高い層が被着物と接着物との両方に接するように架かる(両方を跨ぐ)ことがないようになっている。
【0044】
また、粘度の低いエネルギー硬化型接着剤層の連接方向の幅は粘度の高い層の幅よりも薄く形成することで引張応力の発生する部分を少なくでき、ずれ幅をより小さく抑えられる。
【0045】
また、この接着接合装置を用いて、請求項3のように接着部をそれぞれ硬化収縮力を外部へ伝えられる粘度に到達するエネルギー量が異なる複数のエネルギー硬化型接着剤によって形成し、請求項6の方法を行うことで、位置ずれを防止して高精度な接着接合を可能とするものである。
ここで、初期粘度が異なるエネルギー硬化型接着剤と硬化収縮力を外部へ伝えられる粘度に到達するエネルギー量が異なるエネルギー硬化型接着剤の粘度曲線を図4に示す。この図4で使用した接着剤3aは、アクリル系のUV硬化型接着剤であり、必要な積算光量(硬化率が100%になるための必要な光量)が6J/cm2、初期粘度が15000〜20000mPa・S、接着剤3bは、エポキシ系UV硬化型接着剤(必要な積算光量:20J/cm2、初期粘度15000〜20000Pa・S)である。本明細書では、符号が同一の接着剤は、同一の接着剤を用いている。このような接着剤を用いて、たとえば10gの重量の接着物、クリアランスが0.5〜1.0mmで、断面積が3mmφに、接着剤を充填し、図3に示すような効果挙動を示す接着剤を硬化させて、固定した。従来の方法では、3σで、10μm程度のバラツキが生じていたが、本発明の方法を用いると、これが、3σで2μmと、1/5に低下していた。
【0046】
図6に示すように、請求項1、4を満たす第二の実施形態である請求項10のエネルギー硬化型接着剤を硬化させるためにエネルギーを照射するエネルギー照射手段7と、エネルギー照射手段のオン・オフを制御するエネルギー照射制御手段4と、エネルギー照射手段の照射強度を制御するエネルギー照射強度制御手段8と、該エネルギー照射手段の粘度を検知する粘度検知手段とを備える。
この接着接合装置を用いて、請求項3または請求項4ように接着部をそれぞれ複数のエネルギー硬化型接着剤によって形成し、請求項5、6の方法を行う際に請求項7の方法をとることで、接着硬化に要する時間を短縮し位置ずれを防止して高精度な接着接合を可能とするものである。
【0047】
すなわち、引張応力の発生タイミングが最も遅い部分において、引張応力が終了するタイミングに達した後も重合率(硬化率)100%に達するまでエネルギー照射を行うが、この過程においては、ずれに及ぼす引張応力が発生しない為、反応を促進させる為にエネルギー照射強度を高くし接着硬化時間を短縮させることができる。
【0048】
請求項7、10を満たす粘度検知手段は、エネルギー照射手段が照射するエネルギーの照射強度及び照射時間に基づいて照射されるエネルギーの量を算出し、算出された値を前記層のそれぞれのタイミングに至るに必要なエネルギー量と照合することにより、硬化収縮力を外部へ伝えられる粘度への到達タイミングを判断する。
【0049】
具体的には、あらかじめ測定されたエネルギー照射部からの強度とそれぞれのエネルギー硬化型接着剤の粘度の関係を測定したデータをコンピュータに記憶させておき、コンピュータは照射時間をカウントすることによって測定値との関係で積算光量を算出する。また、エネルギー照射部から照射される強度は一定であり接着部に均一に照射されるようになっている。粘度の測定には、自由減衰振動法による粘弾性試験によって求められる。本発明では、エー・アンド・デイ社製「剛体振り子型物性試験器」などで測定可能である。すなわち、本発明では、予め、使用する個々の接着剤が硬化する条件を、エネルギー(例えば紫外線または熱量)照射量と、各接着剤とのこのエネルギー照射量と粘弾性との関係を、グラフ化して記憶しておき、このグラフ化したデータを用いることができる。粘弾性の測定は、一定周波数で測定した値を用いることができる(たとえば15Hz)。
【0050】
流動性を保持する為の接着層の形状の例を、図8、9、10に示す。
図8〜10のようにエネルギー硬化型接着剤が被着物と接着物の両方に接することがないように配置する。このように接着物や被着物に平行に塗布する形態をとると膜厚の管理や接着剤の配置等作業性が良くなる。また実際に硬化を行う際に初めに固まる部分が壁の役割を果たし、流動を保持する部分が硬化する段階で硬化収縮による引張応力が調整面に対して平行になるので制御性が向上する。このような構造を基本にして層構造を増やした構成をとっても良い。
【0051】
粘度が異なるエネルギー硬化型接着剤は、粘度を調整するためにモノマーや溶剤を配合することで粘度調節を行えばよく、例えばUV硬化型接着剤(NTTアドバンステクノロジ株式会社製の商品名AT8224とThree bond株式会社製の商品名3033B)といった積算光量が同じで粘度のみ異なるものを用いることが望ましい。
【0052】
接着剤界面で混ざり合うことなく接着層を形成するには、例えば光硬化型接着剤では光重合性オリゴマー、光重合性モノマーの組成、濃度を適宜調整することで可能となる。
このような光硬化型接着剤に使用される光開始剤としては、例えば、ベンジル、ベンゾフェノン、ミフィラーズケトン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩などを用い、硬化剤には脂肪族アミン、環状脂肪族アミン、芳香族アミン、酸無水物などを用いることで可能となる。
【0053】
また、少なくとも初めに硬化させる部分のみに、ガラス転移温度が高いもの、熱膨張係数が小さいもの、弾性率の低いもの、吸湿率の低いものといった接着剤の性質を選ぶことによって経時変化に対する信頼性が向上できる。
【0054】
被着物の例としては、ガラス板、セラミックス板、金属板等の光学ベースから構成されている。また、接着物はレンズ、回折格子、ミラー等の光学素子、受光素子、発光素子、CCD等の固体撮像素子等の光学部品から構成されている。
【0055】
塗布手段は、被着物と接着物とを接合する為のエネルギー硬化型接着剤を塗布する塗布シリンジ等と図示しないシリンジ移動手段とを備えており、接着剤塗布手段として複数種類の接着剤を塗布する手段を有している構成となっている。また、塗布手段として任意量の接着剤を塗布する手段を備えていても良い。塗布方法としては、スプレー方式、ミスト方式や接着剤液中に直接浸す方法でも良く、粘着剤を貼り付ける方法でも良い。また、それら塗布により接着剤が海島構造をとっても良い。
【0056】
エネルギー照射手段は、エネルギー硬化型接着剤として、例えば紫外線硬化型あるいは可視光硬化型などの光硬化型接着剤が使用される場合には、その硬化エネルギー帯を放射するエネルギー源と、放射されたエネルギーを所定位置まで導光する光ファイバと、導光されたエネルギーを硬化箇所に照射する集光レンズ又は発散レンズとを備えている。
【0057】
照射強度可変手段8としては、例えば、透過光量可変フィルタである濃度可変フィルタで透過光量(照射光量)を調整できる。また、照射強度可変手段8として液晶材料を用いた場合には、電圧調整により透過光量(照射光量)を調整できる。また、機械式のフィルタを回転させて透過光量を調整するものも用いることができる。また、偏光フィルタを組み合わせて偏光軸を傾けるなどして調整するようにしてもよい。また、エネルギー源(光源)自体に強度(光強度)をプログラマブルに変えることができるような市販のものを用いることもできる。また、ファイバに入射するエネルギー(光)を絞りで調整するものもある。また、エネルギー源自体の放射エネルギーを電気的に制御することもできる。
【0058】
制御手段は、必要に応じて、エネルギー照射手段を個別にON/OFFすることができる機能(照射制御手段)、照射強度を可変できるように制御する機能(照射強度制御手段)、遮光手段の入射/遮光を制御する機能(遮光制御手段)を有している。
【0059】
第1実施形態のフロー
次に本発明に係る第一の実施形態の接着接合装置に備える制御部の制御フローを図11に示す。
先ず、被着物1、接着物2、(複数の)エネルギー硬化型接着剤(3a、3b、3c、・・・、)を調整により所定の位置にセットする(ステップS1)。次に、エネルギー硬化型接着剤ごとの照射条件(積算光量)の条件をセットする(ステップS2)。次に、硬化箇所にエネルギー照射を行う(ステップS3)。次に、現在のエネルギー線積算光量を算出する(ステップS4)。次に、算出された積算光量と予め設定されているエネルギー硬化型接着剤の硬化の終了する積算光量とを比較して、積算光量が設定値(硬化の終了する積算光量)に到達したかどうか判定し(ステップS5)、積算光量が設定値に達していない場合にはステップS3に戻り、設定値に達した場合には終了する。
【0060】
第2実施形態のフロー
次に第二の実施形態の接着接合装置に備える制御部の制御フローを図12に示す。
先ず、被着物、接着物、(複数の)エネルギー硬化型接着剤を調整により所定の位置にセットする(ステップS1)。次に、エネルギー硬化型接着剤ごとの照射条件(引張応力の終了する積算光量と硬化の終了する積算光量)の条件をセットする(ステップS2)。次に、硬化箇所にエネルギー照射を行う(ステップS3)。次に、現在のエネルギー線積算光量を算出する(ステップS4)。次に、算出された積算光量と予め設定されているエネルギー硬化型接着剤の引張応力の終了する積算光量とを比較して、積算光量が設定値(引張応力の終了する積算光量)に到達したかどうか判定し(ステップS5)、積算光量が設定値に達していない場合にはステップS3に戻り、設定値に達した場合には、エネルギー照射強度を被着物と接着物に影響の出ない範囲で高く変化させる(ステップS6)。そして次に、算出された積算光量と予め設定されているエネルギー硬化型接着剤の硬化が終了する積算光量とを比較して、積算光量が設定値に到達したかどうか判定し(ステップS8)、積算光量が設定値に達していない場合にはステップS6に戻り、設定値に達した場合には、終了する。
【0061】
なお、本発明は上述した形態に限られるものではなく、いずれもその接着部が2つの層を有しているものとして説明したが、これに限られず、硬化タイミングの早い層が被着物と接着物との両方に接するように架かる(両方を跨ぐ)ことがなければよい。したがって、例えば、図7aに示す接合構造のように、接着部が3つの層を有していても、さらにそれ以上の任意の複数層から構成されていてもよく、2層に限定されるものではない。
また、接合構造では、いずれもその各層がそれぞれ接着面と平行になっているものとして説明したが、これに限られず、図7bに示す接合構造のようにしてもよい。ただし、接着部が2つの層を有し、これらの各層がそれぞれ接着面と平行になっている接合構造では、エネルギー硬化型接着剤を塗布する際の層の幅(厚さ)のコントロール等が容易で作業性に優れている。
【0062】
また、エネルギー硬化型接着剤として光硬化型接着剤を用いることとしたが、エネルギー硬化型接着剤であればこれに限られず、例えば熱硬化型接着剤であってもよい。熱硬化型接着剤の場合は、熱のエネルギーを加えることによって各層を硬化タイミングをずらしながら硬化させる。
さらに、照射部からの強度と照射時間とから積算光量を算出するものとしたが、これに限られず、光量計測器を用いて直接照射部からのエネルギー量を測定し、この測定値を積算光量としてコンピュータが受けるようにしてもよい。また、温度計測器を用いてエネルギー硬化型接着剤の硬化反応熱を測定し、この測定値をコンピュータが受けてその測定値の温度から積算光量を算出するようにしてもよいし、直接測定値の温度とエネルギー硬化型接着剤の硬化タイミング時の温度とをコンピュータが照合するようにしてもよい。以上のいずれの測定によっても、エネルギー硬化型接着剤の硬化タイミングの正確な判断が可能となる。なお本発明では、エネルギー線硬化型接着剤に、嫌気性硬化型接着剤、湿気硬化型(シラノール基またはアルコキシシラン基を有するシリコーン系接着剤、ウレタン系)接着剤を混合してあるいは部分的に分離したようにして用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の接合構造は、位置ずれを起こさない構造となっており、このような位置ずれを起こさないようにするための装置、方法を提供することによって、ある部材を被着体に接合する際に、位置ずれが起こらないため、設計しやすく、製品の歩留まりをさらに高めることができ、特に、光学部品などを固定する際に用いることができる、接合構造、装置、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】エネルギー硬化型接着剤にエネルギーを照射して硬化する際に、エネルギー硬化型接着剤の粘度に上昇するまで(ある粘弾性に達するまで)の到達時間が異なる複数のエネルギー硬化型接着剤によって形成され、最も粘度が上昇する(または粘弾性が高くなる)のが遅い層によって、他のエネルギー硬化型接着剤が被接着物と接着物とに架かることがないよう分断されている層構成例を示す本発明の接合構造の例を示す図である。
【図2】本発明の接合構造において、エネルギー硬化型接着剤の硬化収縮に伴う応力を吸収するものがなく、この応力が接着物から被着物にまで直接伝播するため、エネルギー硬化型接着剤の硬化に伴う硬化収縮分がそのまま被着物に対する接着物の位置ずれ分になって現れ、ずれ幅の大きい位置ずれが発生する例を示す図である。
【図3】エネルギー線照射により重合率と照射時間との関係、粘度と照射時間との関係および位置ずれ量と照射時間との関係を示す図である。上から2番目のグラフの縦軸の重合率は、接着剤でいう硬化率を表す。
【図4】初期粘度が異なるエネルギー硬化型接着剤と硬化収縮力を外部へ伝えられる粘度に到達するエネルギー量が異なるエネルギー硬化型接着剤の粘度曲線を示す図である。
【図5】本発明の第一の実施形態の接着接合装置を示す図である。
【図6】本発明の第二の実施形態の接着接合装置を示す図である。
【図7】接着部が3つの層を有している接合構造の別の例を示す図であり、(a)は、接着層が、被着物面と略平行に構成されている例であり、(b)は、接着層が、2種類(複数)の接着剤から構成され、ある接着剤3a同士を、異なる接着剤3bを介して接着層が構成されている接合構造の構成を示し、(c)は、接着層を構成する接着剤3a、3bをそれぞれ異なる層の厚みに構成する接合構造の例を示している。この(c)では、接着剤3aおよび3bを接着物面上と、被着物面上に層の厚みを略一定にして形成しているが、本発明では、これに限定されない。
【図8】流動性を保持する為の接着層の形状の例を、示す図である。
【図9】流動性を保持する為の接着層の形状の例を、示す他の図である。
【図10】流動性を保持する為の接着層の形状の例を、示すもう1つの図である。
【図11】第一の実施形態の接着接合装置の制御フローを示すフローチャートである。
【図12】第二の実施形態の接着接合装置の制御フローを示すフローチャートである。
【図13】接着部が完全に硬化するまでに要する時間が通常のエネルギー硬化型接着剤を一つだけ用いた構成よりも長くなってしまうことを説明するための図である。
【符号の説明】
【0065】
1 被着物(被着体)
2 接着物(接着体)
3、3a、3b エネルギー硬化型接着剤(光硬化型接着剤、放射線硬化型接着剤または熱硬化型接着剤)
4 制御手段
5 エネルギー照射制御手段
6 エネルギー源
7 エネルギー照射手段
8 エネルギー照射強度制御手段
9 エネルギー(光、放射線または熱)
10、10a、10b 塗布手段(たとえばディスペンサ、シリンジ)
11a、11b エネルギー硬化型接着剤の応力発生タイミング
12a、12b エネルギー硬化型接着剤の応力終了タイミング
13 接着構造
14a、14b 接着剤の硬化終了時間
d1、d2 ずれ幅
ν1 硬化収縮が伝わる粘度
ν2 硬化収縮が終了する粘度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被着物と該被着物に対して位置合わせする接着物とが、エネルギー硬化型接着剤からなる接着部を介して接合される接合構造において、
前記接着物は、硬化タイミングが異なる複数の接着剤を用いた層を有し、
前記エネルギー硬化型接着剤にエネルギーを照射して硬化する際に、前記エネルギー硬化型接着剤の硬化収縮力が前記被着物または前記接着物と前記エネルギー硬化型接着剤とが接した箇所から伝わらないように、前記硬化タイミングが異なる複数の接着剤を有する層は、前記硬化タイミングが早いエネルギー硬化型接着剤が、前記被接着物と前記接着物とに架かることがないよう分断されていることを特徴とする接着接合構造。
【請求項2】
前記層は、粘度の異なる複数のエネルギー硬化型接着剤によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の接着接合構造。
【請求項3】
前記層は、早いタイミングで硬化が進む前記エネルギー硬化型接着剤の硬化収縮力が当該早いタイミングで硬化する接着剤よりも遅いタイミングで硬化する接着剤の粘度または粘弾性により吸収されることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の接着接合構造。
【請求項4】
請求項1に記載の層を構成するエネルギー硬化型接着剤にエネルギーを照射して硬化する際に、前記エネルギー硬化型接着剤にエネルギーを照射して硬化する際に、前記エネルギー硬化型接着剤の硬化収縮力が前記被着物または前記接着物と前記エネルギー硬化型接着剤とが接した箇所から伝わらないように、複数のエネルギー硬化型接着剤によって形成され、
前記接着剤のうちの少なくとも一の部分のエネルギー硬化型接着剤の粘度上昇または粘弾性の上昇が定常状態に達した後に、他の部分のエネルギー硬化型接着剤を硬化させて完了させることを特徴とする接合方法。
【請求項5】
初期粘度の異なる複数のエネルギー硬化型接着剤を、少なくとも前記初期粘度の最も低いエネルギー硬化型接着剤によって、他のエネルギー硬化型接着剤が前記被接着物と前記接着物とに架かることがないよう、層状に塗布し、次いで前記エネルギー硬化型接着剤の各層にエネルギーを照射して、前記初期粘度の最も高いエネルギー硬化型接着剤の粘度上昇が定常状態に達した後に、他のエネルギー硬化型接着剤を前記硬化収縮力を伝えられる粘度に到達させて接着硬化を完了させることを特徴とする請求項4に記載の接合方法。
【請求項6】
前記エネルギー硬化型接着剤の硬化収縮力が前記エネルギー硬化型接着剤と接した箇所を通して外部へ伝えられる粘度に到達するエネルギー量の異なる複数のエネルギー硬化型接着剤を、少なくとも前記エネルギー量の最も高いエネルギー硬化型接着剤が前記被接着物と前記接着物とに架からないように、層状に塗布し、次いで前記エネルギー硬化型接着剤の各層にエネルギーを照射して、前記エネルギー量の最も低いエネルギー硬化型接着剤の粘度上昇が定常状態に達した後に、他のエネルギー硬化型接着剤を前記硬化収縮力を伝えられる粘度に到達させて接着硬化を完了させることを特徴とする請求項4又は請求項5のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項7】
全ての層のエネルギー硬化型接着剤の粘度上昇が定常状態に達した後、照射するエネルギーの照射強度を増加させて接着硬化させることを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項8】
前記エネルギー硬化型接着剤の粘度は、照射されるエネルギーの量を照射強度及び照射時間に基づいて算出することを特徴とする請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項9】
被着物と該被着物に対して位置合わせされる接着物とがエネルギー硬化型接着剤からなる接着部を介して接合される接合構造であって、前記接着部は、硬化タイミングが異なる複数の層を有した接着部により接合する接合装置であって、
複数の前記エネルギー硬化型接着剤を塗布する塗布手段と、前記エネルギー硬化型接着剤を硬化させるためにエネルギーを照射するエネルギー照射手段と、該エネルギー照射手段のオン・オフを制御するエネルギー照射制御手段とを備えることを特徴とする接合装置。
【請求項10】
複数の前記エネルギー硬化型接着剤を塗布する塗布手段と、前記エネルギー硬化型接着剤を硬化させるためにエネルギーを照射するエネルギー照射手段と、該エネルギー照射手段のオン・オフを制御するエネルギー照射制御手段と、該エネルギー照射手段の照射強度を制御するエネルギー照射強度制御手段と、該エネルギー照射手段により変化する接着剤の粘度または粘弾性を検知する粘度・粘弾性検知手段とを備えることを特徴とする接合装置。
【請求項11】
粘度検知手段は、前記エネルギー照射手段が照射するエネルギーの照射強度及び照射時間に基づいて照射されるエネルギーの量を算出し、粘度または粘弾性を検知することを特徴とする請求項10に記載の接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−22249(P2006−22249A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202780(P2004−202780)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】