説明

接着状態検査装置

【課題】ベース部材にリング部材を接着したユニット部材の全数検査に適用可能であり、より短い検査時間にてより適切に接着状態を検査することができる接着状態検査装置を提供する。
【解決手段】円筒状の本体部の一方の開口端にフランジ部11Fが形成されたベース部材11におけるフランジ部11Fに、フランジ部の径に対応した径を有して中央部が開口した円板状であるリング部材12を、接着剤を用いて接着したユニット部材10の接着状態を検査する接着状態検査装置20において、ユニット部材を固定する固定手段21と、固定手段にて固定されたユニット部材を超音波加振する加振手段22と、加振手段にて加振されたユニット部材におけるリング部材の表面温度分布状態を示す画像を撮像可能な撮像手段23と、撮像手段にて撮像された画像を解析して得られた温度分布に基づいてリング部材の接着状態を判定する画像処理手段24と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状のベース部材に形成されたフランジ部に、フランジ部の径に対応した径を有して中央部が開口した円板状であるリング部材を、接着剤を用いて接着した、ユニット部材の接着状態を検査する接着状態検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、図1(A)に示すように、円筒状の本体部11Hの一方の開口端にフランジ部11Fが形成された金属製のスリンガ11(ベース部材に相当)のフランジ部11Fに、中央部が開口された円板状であるとともに着磁された樹脂製のマグネットリング12(リング部材に相当)を、接着剤を用いて接着したパルサリング10(ユニット部材に相当し、例えば車輪の回転速度の検出等に使用される)が、数多く生産されている。
パルサリング10は、スリンガ11のフランジ部11Fにマグネットリング12が接着されたシンプルなものであるが、接着剤の剥がれ等が無いようにチェックするには、フランジ部11Fとマグネットリング12との間に存在するべき接着剤Sが、全周に亘って適量、且つ均一に存在しているか否かを作業者が目視でチェックしなければならないので、非常に手間がかかる。
スリンガ11及びマグネットリング12は透明ではないので、図1(B)に示すようにパルサリング10の側面からのみ接着剤Sを目視可能である。しかし、接着剤Sの層は非常に薄く、目視で確認することは非常に手間がかかる。
そこで、フランジ部11Fとマグネットリング12との間の接着不良を適切に検査できる検査装置が望まれている。
【0003】
例えば特許文献1に記載された従来技術には、被検査体である金属製の薄板の裏側から所定領域をハロゲンランプ等のヒータにて一様に加熱し、薄板の所定領域から放射された赤外線による赤外線像を撮像し、被検査体である薄板の表面または表面近傍の欠陥を検出する、被検査体の検査装置が開示されている。
また、他の検査装置としては、超音波探傷法を用いた検査装置や、蛍光浸透探傷法を用いた検査装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−90801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された従来の検査装置では、被検査体をヒータにて一様に加熱する必要がある。金属製の薄板ならばヒータにて一様に加熱することが容易であるが、立体的な形状を有するパルサリングを、ヒータにて一様に加熱することは非常に困難である。
また、超音波探傷法を用いる場合、パルサリングを液体に浸し、マグネットリングの表面を超音波センサで走査する必要があるため、非常に長い検査時間を要してしまう。
また、蛍光浸透探傷法を用いる場合、パルサリングを蛍光剤(液体)に浸して蛍光剤を浸透させた後、スリンガからマグネットリングを剥離しなければ接着状態を確認することができないので、製造したパルサリングの全数検査には適していない。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、ベース部材にリング部材を接着したユニット部材の全数検査に適用可能であり、より短い検査時間にてより適切に接着状態を検査することができる接着状態検査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの接着状態検査装置である。
請求項1に記載の接着状態検査装置は、円筒状の本体部の一方の開口端にフランジ部が形成されたベース部材における前記フランジ部に、前記フランジ部の径に対応した径を有して中央部が開口した円板状であるリング部材を、接着剤を用いて接着したユニット部材の接着状態を検査する接着状態検査装置において、前記ユニット部材を固定する固定手段と、前記固定手段にて固定されたユニット部材を超音波加振する加振手段と、前記加振手段にて加振されたユニット部材における前記リング部材の表面温度分布状態を示す画像を撮像可能な撮像手段と、前記撮像手段にて撮像された画像を解析して得られた温度分布に基づいて前記リング部材の接着状態を判定する画像処理手段と、を備えている。
【0007】
また、本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの接着状態検査装置である。
請求項2に記載の接着状態検査装置は、請求項1に記載の接着状態検査装置であって、前記固定手段には、前記ユニット部材における前記ベース部材のみが固定されており、前記加振手段は、音響ホーンを介して前記固定手段にのみ接触しており、当該固定手段を超音波加振することで前記ユニット部材を超音波加振する。
【0008】
また、本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの接着状態検査装置である。
請求項3に記載の接着状態検査装置は、請求項1または2に記載の接着状態検査装置であって、前記画像には、超音波加振によって前記ベース部材のフランジ部と前記リング部材との間の接着剤から発生した熱に基づいた前記リング部材の表面温度分布状態が撮像されており、前記画像処理手段は、前記画像に撮像されている表面温度に応じた領域に基づいて画像解析を行い、前記リング部材の接着不良個所の有無を判定する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の接着状態検査装置を用いれば、立体的な形状を有するユニット部材において、超音波加振することで、接着剤の部分に内部摩擦を発生させて接着剤の部分を一様に発熱させることができる。そして、リング部材の表面の温度分布状態にて接着剤の発熱状態を確認することで、リング部材の接着状態のチェックを、短時間に、且つ適切に行うことができる。
この場合、リング部材を剥離する必要がないので、製造したユニット部材の全数検査に適用可能である。
また、ユニット部材を固定手段に固定した後は、超音波加振して撮像するだけであるので、より短い検査時間にてリング部材の接着状態を検査することができる。
【0010】
また、請求項2に記載の接着状態検査装置によれば、接着剤の部分に、より適切に内部摩擦を発生させて発熱させることができる。
【0011】
また、請求項3に記載の接着状態検査装置によれば、より適切にリング部材の接着不良個所を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】パルサリング10の斜視図(A)、側面図(B)の例である。
【図2】本発明の接着状態検査装置20の概略斜視図(A)、接着状態検査装置20にパルサリング10を固定して接着状態を検査する様子を説明する図(B)である。
【図3】撮像手段にて撮像した画像に基づいて接着不良個所の有無を判定する方法の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。図1(A)は、スリンガ11のフランジ部11Fにマグネットリング12を接着したパルサリング10の斜視図の例を示しており、図1(B)はパルサリング10の側面図の例を示している。
【0014】
●[パルサリング10の構造(図1)]
図1(A)及び(B)に示すように、スリンガ11(ベース部材に相当)は、円筒状の本体部11Hを有しており、本体部11Hの一方の開口端にはフランジ部11Fが形成されている。例えばスリンガ11は金属製である。
またマグネットリング12(リング部材に相当)は、フランジ部11Fの径に対応した径を有し、中央部が開口した円板状であり、着磁されている。例えばマグネットリング12は樹脂製である。
そしてフランジ部11F(またはマグネットリング12の少なくとも一方)に接着剤Sが塗布され、マグネットリング12とフランジ部11Fとが接着され、パルサリング10(ユニット部材に相当)ができあがる。
【0015】
このパルサリング10に、マグネットリング12が、接着剤の剥がれ等が無いように適切に接着されているか否かを確認することが重要であるが、図1(B)に示すように、接着剤Sの層は非常に薄く、作業者が目視でチェックするには非常に手間がかかる。マグネットリング12またはフランジ部11Fが透明であれば、接着剤Sの広がり状態を容易に確認することができるが、マグネットリング12もフランジ部11Fも透明ではない。
そこで、手間なく容易にマグネットリング12の接着状態を判定することができる接着状態検査装置20を、以下にて説明する。
【0016】
●[接着状態検査装置20の構造と、接着状態の検査方法(図2、図3)]
図2(A)は接着状態検査装置20の概略構造を示す図(斜視図)である。また図2(B)は、接着状態検査装置20にパルサリング10を固定して接着状態を検査する様子を説明する図である。
接着状態検査装置20は、パルサリング10を固定する固定手段21と、固定手段21にて固定されたパルサリング10を超音波加振する加振手段22と、加振手段22にて加振されたパルサリング10のマグネットリング12の表面温度分布状態を示す画像を撮像可能な撮像手段23と、撮像手段23にて撮像された画像を解析してマグネットリング12の接着状態を判定する画像処理手段24と、を備えている。
【0017】
固定手段21は基台20aに設けられ、固定手段21の上部にはパルサリング10の内径よりも少し小さな外径の取り付け部が形成され、パルサリング10を強固に固定するためのスリット21aと、ダイヤル21bを備えている。作業者は、ダイヤル21bを回転させることで、スリット21aの幅を増減して嵌合したパルサリング10の固定と開放を容易に行うことができる。
固定手段21の上部にパルサリング10を嵌合させて固定させた場合(図2(B)参照)、嵌合させた固定手段21の上部はパルサリング10のフランジ部11Fよりも下にある。つまり、固定手段21は、パルサリング10におけるスリンガ11のみを固定しており、マグネットリング12を固定しないように構成されている。
【0018】
加振手段22は、支柱22pを介して基台20aに設けられ、音響ホーン22aを介して超音波振動を伝達するように構成されている。また図2(B)に示すように、音響ホーン22aは固定手段21のみに接触するように構成されている。
これにより、加振手段22は、音響ホーン22aと固定手段21を介してスリンガ11に超音波振動を伝達し、スリンガ11のフランジ部11Fとマグネットリング12の間に存在している接着剤に内部摩擦を発生させて一様に接着剤を発熱させる。この結果、マグネットリング12の表面にも、接着剤から発熱した熱が伝達される。
【0019】
撮像手段23は、支柱23pを介して基台20aに設けられ、マグネットリング12から放射される赤外線(発熱した接着剤から伝達された熱による赤外線)に基づいた表面温度分布状態の画像(いわゆるサーモグラフィ)を撮像可能であり、撮像された画像の各領域には、温度に応じた色が記録されている。
画像処理手段24は、例えばパーソナルコンピュータであり、撮像手段23が撮像した画像を取り込み、マグネットリング12の接着状態を判定する。なお、画像処理手段24にて加振手段22の動作を制御してもよい。
【0020】
図3(A)に示すように、例えば画像処理手段24には、マグネットリング12の実体部分の領域RL(境界、輪郭)を示す画像30bが予め記憶されている。
そして画像処理手段24は、撮像手段23が撮像した画像30a(サーモグラフィであり、実体の外形形状は写っていない。この画像を図3(A)のTAに示す。)と、予め記憶している実体の画像30bとを合成した合成画像30cを作成する。
例えば画像処理手段24は、マグネットリング12の縁部から接着剤の所定温度の色(予め記憶された温度および色)までの距離ΔDが所定距離(予め記憶されたΔDでもよい)以上となる個所を検出すると、この個所を接着不良個所(剥がれ部)と判定する。また、例えば画像処理手段24は、接着剤の所定温度の領域の幅ΔWが所定幅以下となる個所を検出すると、この個所を接触不良個所(剥がれ部)と判定する。
【0021】
以上、本実施の形態にて説明した接着状態検査装置20を用いれば、製造したパルサリング10を液体に浸す必要がなく、パルサリング10からマグネットリング12を剥がす必要もなく、しかも短時間に且つ適切に、全数チェックすることが可能である。
また、超音波加振手段(音響ホーン)とパルサリング10とが直接的に接触していないので、パルサリング10の損傷等を防止することができる。
なお、パルサリング10の製造時点のチェックに用いる他にも、耐久試験後(または経時変化後)のパルサリング10におけるマグネットリング12の接着状態の検査にも使用することができ、製造及び設計のための有益なデータを得ることに利用できる。
【0022】
本発明の接着状態検査装置20は、本実施の形態で説明した外観、構成、構造、処理等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
本実施の形態にて説明した接着状態検査装置20は、パルサリングの接着状態の検査に限定されず、接着剤を用いて接着した種々の部材の接着状態の検査に利用できる。
【符号の説明】
【0023】
10 パルサリング(ユニット部材)
11 スリンガ(ベース部材)
11F フランジ部
11H 本体部
12 マグネットリング(リング部材)
20 接着状態検査装置
21 固定手段
22 加振手段
22a 音響ホーン
23 撮像手段
24 画像処理手段
30a 画像(サーモグラフィ)
30b 画像(実体の画像)
30c 合成画像
S 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の本体部の一方の開口端にフランジ部が形成されたベース部材における前記フランジ部に、前記フランジ部の径に対応した径を有して中央部が開口した円板状であるリング部材を、接着剤を用いて接着したユニット部材の接着状態を検査する接着状態検査装置において、
前記ユニット部材を固定する固定手段と、
前記固定手段にて固定されたユニット部材を超音波加振する加振手段と、
前記加振手段にて加振されたユニット部材における前記リング部材の表面温度分布状態を示す画像を撮像可能な撮像手段と、
前記撮像手段にて撮像された画像を解析して得られた温度分布に基づいて前記リング部材の接着状態を判定する画像処理手段と、を備えている、
接着状態検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の接着状態検査装置であって、
前記固定手段には、前記ユニット部材における前記ベース部材のみが固定されており、
前記加振手段は、音響ホーンを介して前記固定手段にのみ接触しており、当該固定手段を超音波加振することで前記ユニット部材を超音波加振する、
接着状態検査装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の接着状態検査装置であって、
前記画像には、超音波加振によって前記ベース部材のフランジ部と前記リング部材との間の接着剤から発生した熱に基づいた前記リング部材の表面温度分布状態が撮像されており、
前記画像処理手段は、前記画像に撮像されている表面温度に応じた領域に基づいて画像解析を行い、前記リング部材の接着不良個所の有無を判定する、
接着状態検査装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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