説明

接着装置及び接着方法

【課題】表面がフッ素樹脂で構成された基材同士を、接着剤を用いることなく、かつその構造・組成を変化させることなく接着することができる接着装置及び接着方法を提供する。
【解決手段】大気圧プラズマ処理装置10A、10Bによりフッ素樹脂シートS1、S2の表面がプラズマ処理される。表面がプラズマ処理されたフッ素樹脂シートS1、S2同士が圧着ローラ対62によりフッ素樹脂シートS1、S2の融点以下の任意の温度で熱圧着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面がフッ素樹脂で構成された基材同士を接着させる接着装置及び接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フッ素樹脂は、耐薬品性、耐熱性、電気絶縁性、防汚性、耐候性、耐紫外線劣化性、撥水撥油性、低摩擦係数など、他の樹脂に見られない優れた性質を備えている。ここで、従来から、表面がフッ素樹脂などで構成された基材同士を複合化させるためには、接着剤が用いられていた。
【0003】
しかしながら、接着剤を使用すると、接着剤と基材との親和性が悪いため、接着強度が低くなったり、また接着ムラがあったり、基材が相互に剥がれてしまうなどの問題がある。
【0004】
また、接着剤と基材との親和性を上げるために、薬液処理などで表面改質を行っているが、接着剤を必要とするために接着剤層(数10μm)が存在し、基材の特性に影響が出てしまう問題が残る。
【0005】
また、従来の薬剤処理による表面改質では、製造工程が複雑で長くなり(薬液処理、水洗い、乾燥、接着剤塗布、接着などが必要)、また、装置が大型化する問題がある。
【0006】
なお、上記従来技術は公用の技術であり、本発明は公用の技術をもとに開発したものである。このため、出願人は、特許出願の時において本発明に関連する文献公知発明の存在を知らず、文献公知発明の名称その他の文献公知発明に関する情報の所在の記載を省略する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、接着剤を用いずに基材同士を接合しようとすると、基材の融点付近あるいはそれ以上の温度で、溶着させなければならない。その温度で基材同士を溶着させると、基材の組成の変化、形状の変形、変色などが生じてしまうことがあり、使用できる基材の材質、用途が限定されてしまう不便さがある。
【0008】
また、接着剤を用いずに基材同士を接着できるようにするためには、基材の構造・組成から変更しなければならず、膨大な時間と経費が必要となってくる。また、基材の構造・組成を変えると、基材の優れた特性(例えば、耐熱性、強度、絶縁性など)を犠牲にすることにもなる。
【0009】
そこで、本発明は、表面がフッ素樹脂で構成された基材同士を、接着剤を用いることなく、かつその構造・組成を変化させることなく接着することができる接着装置及び接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、表面がフッ素樹脂で構成された基材同士を接着させる接着装置であって、前記基材の表面を大気圧又はその近傍の圧力下でプラズマにより表面処理する大気圧プラズマ処理装置と、前記大気圧プラズマ処理装置によりプラズマ処理された前記基材同士を前記基材の融点以下の任意の温度で圧着させる圧着装置と、を含んで構成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の接着装置において、前記圧着装置は、前記基材を前記基材の融点以下の任意の温度に加熱する加熱機能を兼備していることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の接着装置において、前記大気圧プラズマ処理装置は、炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールを気化するアルコール気化手段と、前記アルコール気化手段により気化された前記低級アルコールと不活性ガスとを混合して処理ガスを生成する処理ガス生成手段と、接地された接地電極と、前記接地電極に対向して配置された印加電極と、前記印加電極と前記接地電極との間に高周波電圧を印加させる高周波電圧印加手段と、前記処理ガスを前記印加電極と前記接地電極との間に供給する処理ガス供給手段と、を有することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接着装置において、前記基材の表面処理部が平面状となるように前記基材を支持する基材支持手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の接着装置において、前記低級アルコールは、エタノールであることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、表面がフッ素樹脂で構成された基材同士を接着させる接着方法であって、前記基材の表面を大気圧又はその近傍の圧力下でプラズマにより表面処理する表面処理工程と、表面処理された前記基材同士を前記基材の融点以下の任意の温度で圧着させる圧着工程と、を含んで構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、大気圧プラズマ処理装置により基材の表面がプラズマ処理される。プラズマ処理された基材同士が圧着装置により基材の融点以下の任意の温度で圧着される。これにより、接着剤を用いることなく、基材同士を接着させることができる。
【0017】
ここで、基材の融点以下の低温度で基材同士を接着することができるため、基材の組成・構造に変化は無く、基材の優れた特性も犠牲にすることはない。また、基材と基材との間に接着剤層が存在しないので、基材の特性に影響を与えることもない。
【0018】
また、大気圧プラズマ処理装置を用いた均一な表面改質を行うので、各基材の接着強度にムラが生じてしまうことも防止できる。
【0019】
さらに、製造工程が極めて簡便(大気圧プラズマ処理、熱圧着処理のみ)であるため、接着装置を小型化することができる。この結果、接着装置の省スペース化、低コスト化、環境負荷の低減などを実現することができる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、圧着装置が基材を基材の融点以下の任意の温度に加熱する加熱機能も兼備しているため、基材は圧着装置により基材の融点以下の任意の温度に加熱され、圧着される。このように、1つの圧着装置により加熱機能と圧着機能の双方の機能を持たせることができるため、加熱装置を別途設ける構成と比較して、部品点数を削減することができる。また、基材の加熱工程と圧着工程を略同時に行うことができるため、基材同士を接着するまでの時間を短縮することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、アルコール気化手段により炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールが気化され、その気化された低級アルコールと不活性ガスとが処理ガス生成手段により混合されて処理ガスが生成される。生成された処理ガスは、処理ガス供給手段により、印加電極と接地電極との間に供給される。また、高周波電圧印加手段により、印加電極と接地電極との間に高周波電圧が印加される。これにより、印加電極と接地電極との間の処理ガスが電離してプラズマが発生し、処理ガスが電離した励起状態となって活性化される。そして、印加電極と接地電極との間に発生したプラズマを基材の表面に照射することにより、基材の表面処理(プラズマ処理、表面改質)が行われる。
【0022】
より具体的には、炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールがプラズマ中で励起されると、−H、−OH、または−O−等が解離される。表面がフッ素樹脂で構成された基材の表面のC−F結合は、その結合エネルギの関係から、アルコールから解離した−Hによって切断される。Fが切断されたCの未結合手(ダングリングボンド)に、−OHまたは−O−が付き、表面のフッ素樹脂などに親水性を与えることになる。これにより、基材の表面を改質させることができる。
【0023】
なお、炭素数が比較的多い高級アルコールを用いると、アルコールがプラズマ中で励起させる際、粘性が高くなり過ぎて気化させることができないか、あるいはクラスター状になるため、励起が極めて困難になる。また、多価アルコールを用いた場合も、粘性が高くなるため、励起が困難になる。さらに、第3級アルコールを用いると、第3級アルコールが酸化されないため、親水性の官能基を解離させることはできない。これらのように、炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールを用いることにより、基材の表面を都合良く改質させることができる。
【0024】
以上のように、処理ガスの生成には上記低級アルコールを用いることにより、ほとんど有害性がないため、環境に悪影響を及ぼすことを防止できる。また、低級アルコールにはほとんど有害性がないため、低級アルコールを取り扱うために、有害性を考慮した特別な設備が不要となる。また、低級アルコールにはほとんど有害性がないため、低級アルコールを廃液処理するための特別な設備が不要となる。このように、本発明では、環境に悪影響を及ぼすことを防止できるとともに、設備を製造するための製造コストや設備を作動させるためのランニングコストを大幅に低減させることができる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、基材支持手段により基材が支持されるため、基材の表面処理部が平面状になる。基材の表面処理部を平面状とすることにより、プラズマを斑なく基材の表面処理部に照射させることができ、表面処理の品質を向上させることができる。
【0026】
請求項5に記載の発明によれば、低級アルコールはエタノールであることにより、大気圧プラズマ処理を行う上で最も安全性を向上させることができる。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、大気圧プラズマ処理装置などにより基材の表面がプラズマ処理される。プラズマ処理された基材同士が圧着装置などにより基材の融点以下の任意の温度で圧着される。これにより、接着剤を用いることなく、基材同士を接着させることができる。
【0028】
ここで、基材の融点以下の低温度で基材同士を接着することができるため、基材の組成・構造に変化は無く、基材の優れた特性も犠牲にすることはない。また、基材と基材との間に接着剤層が存在しないので、基材の特性に影響を与えることもない。
【0029】
また、大気圧プラズマ処理装置を用いた均一な表面改質を行うので、各基材の接着強度にムラが生じてしまうことも防止できる。
【0030】
さらに、製造工程が極めて簡便(大気圧プラズマ処理、熱圧着処理のみ)であるため、接着装置を小型化することができる。この結果、接着装置の省スペース化、低コスト化、環境負荷の低減などを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明の第1実施形態に係る接着装置について、図面を参照して説明する。
【0032】
図1に示すように、接着装置1は、2つの大気圧プラズマ処理装置10A、10Bと、1つの圧着装置11と、で構成されている。
【0033】
先ず、大気圧プラズマ処理装置10A、10Bについて説明する。
なお、2つの大気圧プラズマ処理装置10A、10Bは、全く同一のものであるので、各大気圧プラズマ処理装置10A、10Bの同一の構成については同符号を付すとともに、一方の大気圧プラズマ処理装置10Aの構成について以下に説明し、他方の大気圧プラズマ処理装置10Bの構成については説明を省略する。
【0034】
大気圧プラズマ処理装置10Aは、印加電極12を備えている。この印加電極12と対向する位置には接地電極14が配置されている。なお、印加電極12と接地電極14の一方または両方の電極は、誘電体で覆われている。接地電極14は地面にアース接続されている。
【0035】
また、接地電極14の一方の端部側には、フッ素樹脂シート(基材)S1を印加電極12と接地電極14との間に送り出すロール状の送出装置16が配置されている。また、接地電極14の他方の端部側には、表面処理及び熱圧着されたフッ素樹脂シートS1を巻き取るロール状の巻取装置64が配置されている。
【0036】
また、接地電極14の両端部近傍には、フッ素樹脂シートS1に皺が発生しないように下方からフッ素樹脂シートS1を支持する支持ロール20、22がそれぞれ配置されている。これにより、フッ素樹脂シートS1の表面処理部は平面状になる。なお、送出装置16及び巻取装置64は、図示しないモータなどの駆動源に接続されている。これにより、送出装置16は、駆動源からの駆動力により回転駆動できるようになっている。
【0037】
ここで、フッ素樹脂シートS1は、フィルム状又はシート状に形成されていることが好ましいが、これに限られるものではなく、例えば、板状、チューブ状、バルク状など、処理表面が平面となるものであれば、種々の形状のものを用いることができる。また、フッ素樹脂シートS1は、分子内にフッ素原子を含むものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などが挙げられる。
【0038】
また、印加電極12には、マッチング回路24を介して高周波電源26が電気的に接続されている。この高周波電源26により印加電極12と接地電極14との間に高周波電圧が印加される。また、印加電極12には、導管28により混合器30が接続されている。
【0039】
混合器30には、導管32によりガス流量計測装置34を介して第1の処理ガス源36が接続されている。また、混合器30には、導管38により気化器40及びガス流量計測装置42を介して第2の処理ガス源44が接続されている。この気化器40には、導管46により電磁バルブ48を介してエタノール供給源50が接続されている。
【0040】
ここで、第1の処理ガス源36及び第2の処理ガス源44の内部には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)などの希ガスや、窒素(N)などの不活性ガスが充填されている。第1の処理ガス源36及び第2の処理ガス源44の内部には、これら単体の不活性ガスが充填されていてもよく、また数種類の不活性ガスが混合したガスが充填されていてもよいが、表面改質の効果が高いヘリウム(He)ガスが充填されていることが特に好ましい。
【0041】
また、エタノール供給源50にはエタノール(COH)が充填されているが、エタノール(COH)に限られるものではなく、例えば、メタノール(CHOH)など、炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールであればよい。
【0042】
なお、本実施形態の接着装置1には、上記大気圧プラズマ処理装置10A、10Bが2つ配置されている。
【0043】
また、接着装置1は、圧着装置11を備えている。この圧着装置11は、1対の圧着ローラ対62で構成されている。圧着ローラ対62は、フッ素樹脂シートS1、S2の進行方向に対して回転可能になるように設けられている。すなわち、圧着ローラ対62の一方の圧着ローラ62Aの外周の一部には、一方の大気圧プラズマ処理装置10Aで表面がプラズマ処理されて搬送されてきたフッ素樹脂シートS1が接触すね。また、圧着ローラ対62の他方の圧着ローラ62Bの外周の一部には、他方の大気圧プラズマ処理装置10Bで表面がプラズマ処理されて搬送されてきたフッ素樹脂シートS2が接触する。そして、各圧着ローラ62A、62Bの回転とともに、各フッ素樹脂シートS1、S2が搬送方向下流側に搬送されていく。
【0044】
ここで、各圧着ローラ62A、62Bには、ヒータ63A、63Bがそれぞれ内蔵されている。各圧着ローラ62A、62Bの外周面に接触した各フッ素樹脂シートS1、S2は、フッ素樹脂シートS1、S2の融点以下の任意の温度に加熱される。具体的には、フッ素樹脂シートS1、S2の融点は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、327℃)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA、310℃)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、275℃)であるが、各圧着ローラ62A、62Bにより、200℃以下の温度まで加熱される。
【0045】
また、各圧着ローラ62A、62B間の隙間は、各フッ素樹脂シートS1、S2に所定のニップ圧を付与することができるように、任意の寸法に設定されている。なお、この各圧着ローラ62A、62B間の隙間は、基材となる各フッ素樹脂シートS1、S2の厚みなどにより適宜調整される。
【0046】
次に、本実施形態の接着装置1の作用について説明する。
【0047】
図1に示すように、駆動源からの駆動により送出装置16及び巻取装置64が回転駆動されて、フッ素樹脂シートS1、S2が印加電極12と接地電極14との間に送り出される。このとき、印加電極12と接地電極14との間に位置するフッ素樹脂シートS1、S2の表面処理部は、フッ素樹脂シートS1、S2の表面処理部の近傍が各支持ロール20、22により下方から支持されているので、平面状となり、かつ皺がない状態となっている。
【0048】
また、エタノール供給源50から液体のエタノールが導管46を通って気化器40に供給される。この気化器40によりエタノールが気化される。また、第2の処理ガス供給源44から不活性ガスが所定の流量だけ導管38を通って気化器40に供給される。気化器40で気体にされたエタノールは、第2の処理ガス供給源44から供給された不活性ガスによりバブリングされ、このバブリングされたガスが混合器30に供給される。このとき、第2の処理ガス供給源44から気化器40に供給される不活性ガスの流量がガス流量計測装置42により計測され、その計測値に基づいて電磁バルブ48が制御されることにより、エタノール供給源50から気化器40に供給されるエタノールの流量が制御される。このように、気化器40では、エタノールが気化されるとともに、第2の処理ガス源44から供給された不活性ガスと気化されたエタノールとが混合されて混合ガスとなる。
【0049】
また、第1の処理ガス源36からは所定の流量の不活性ガスが導管32を通って混合器30に供給される。この第1の処理ガス源36から供給される不活性ガスは、キャリアガスとして作用する。混合器30では、第2の処理ガス源44から供給された不活性ガスと気化されたエタノールとが混合された混合ガスと、第1の処理ガス源36から供給された不活性ガスとが混合される。これにより、混合器30では、希釈ガス(処理ガス)が生成される。混合器30で生成された希釈ガス(処理ガス)が導管28を通って印加電極12と接地電極14との間に供給される。
【0050】
一方、印加電極12と接地電極14との間には、高周波電源26から高周波電圧が印加される。このときの周波数は、高周波(数百kHzから数十MHz)が用いられるが、特に、工業用周波数である13.56MHzとすることが好ましい。また、印加電極12と接地電極14との間は、大気圧(1013hPa)の近傍の圧力(900hPa以上1013hPa以下)となっている。
【0051】
なお、印加電極12と接地電極14との間に作用する圧力を900hPaよりも小さくすると、真空ポンプや真空容器が必要となり、設備の製造コスト及び設備のランニングコストが増大するため、不具合となる。また、印加電極12と接地電極14との間に作用する圧力を1013hPaよりも大きくすると、処理ガスが外部に漏れてしまうことを防止するために耐圧容器あるいはより高い気密性が必要となり好ましくない。
【0052】
印加電極12と接地電極14との間に希釈ガス(処理ガス)が供給されるとともに高周波電圧が印加されると、印加電極12と接地電極14との間の放電空間内の希釈ガス(処理ガス)が電離してプラズマが発生し、希釈ガス(処理ガス)が電離した励起状態となって活性化される。そして、放電空間内に発生したプラズマがフッ素樹脂シートS1、S2の表面に接することにより、フッ素樹脂シートS1、S2の表面処理(表面改質)が行われる。
【0053】
より具体的には、エタノールがプラズマ中で励起されると、−H、−OH、または−O−等が解離される。フッ素樹脂シートS1、S2のフッ素樹脂表面のC−F結合は、その結合エネルギの関係から、アルコールから解離した−Hによって切断される。Fが切断されたCの未結合手(ダングリングボンド)に、−OHまたは−O−が付き、表面のフッ素樹脂に親水性を与えることになる。これにより、フッ素樹脂シートS1、S2のフッ素樹脂表面を改質させることができる。
【0054】
なお、炭素数が比較的多い高級アルコールを用いると、アルコールがプラズマ中で励起させる際、粘性が高くなり過ぎて気化させることができないか、あるいはクラスター状になるため、励起が極めて困難になる。また、多価アルコールを用いた場合も、粘性が高くなるため、励起が困難になる。さらに、第3級アルコールを用いると、第3級アルコールが酸化されないため、親水性の官能基を解離させることはできない。これらのように、エタノールを用いることにより、フッ素樹脂シートS1、S2のフッ素樹脂表面を都合良く改質させることができる。
【0055】
上述したように、各大気圧プラズマ処理装置10A、10Bを用いて表面改質(プラズマ処理)された各フッ素樹脂シートS1、S2は、各圧着ローラ62A、62B側に搬送される。
【0056】
各フッ素樹脂シートS1、S2が各圧着ローラ62A、62Bに到達し、その外周面に接触すると、各圧着ローラ62A、62Bの表面は内蔵されているヒータ63A、63Bにより任意の温度に加熱されているため、各フッ素樹脂シートS1、S2の温度が融点以下の任意の温度(200℃以下)に加熱される。そして、各フッ素樹脂シートS1、S2は、融点以下の任意の温度(200℃以下)に加熱された状態で、各圧着ローラ62A、62Bにより所定のニップ圧で接合されて接着される。接着された各フッ素樹脂シートS1、S2は、一体となり、巻取装置64にそのまま巻き取られる。
【0057】
以上のように、大気圧プラズマ処理装置10A、10Bを用いてフッ素樹脂シートS1、S2を複合化させる方法によれば、大気圧プラズマ処理装置10A、10Bを用いてフッ素樹脂シートS1、S2の表面を改質するため、フッ素樹脂シートS1、S2の融点以下の低温度で接合することができる。このため、フッ素樹脂シートS1、S2の組成や構造に変化は無く、その特性も犠牲にすることはない。
【0058】
また、フッ素樹脂シートS1、S2の間に接着剤層が存在しないので、フッ素樹脂シートS1、S2の特性に影響を与えることもない。さらに、大気圧プラズマ処理装置10A、10Bを用いた均一な表面改質を行うので、フッ素樹脂シートS1、S2の接着強度にムラが生じてしまうことも防止できる。
【0059】
また、製造工程が極めて簡便(大気圧プラズマ処理、熱圧着処理のみ)であるため、接着装置1を小型化することができる。この結果、接着装置1の省スペース化、低コスト化、環境負荷の低減などを実現することができる。
【0060】
特に、大気圧プラズマ処理装置10A、10Bの処理ガスの生成にはエタノールを用いることにより、有害性がないため、環境に悪影響を及ぼすことを防止できる。また、エタノールには有害性がないため、エタノールを取り扱うために、有害性を考慮した特別な設備が不要となる。また、エタノールには有害性がないため、エタノールを廃液処理するための特別な設備が不要となる。このように、本発明では、環境に悪影響を及ぼすことを防止できるとともに、設備を製造するための製造コストや設備を作動させるためのランニングコストを大幅に低減させることができる。特に、アルコールとしてエタノールを用いることにより、最も安全性を向上させることができる。
【0061】
さらに、各支持ロール20、22によりフッ素樹脂シートS1、S2が支持されるため、フッ素樹脂シートS1、S2の表面処理部が平面状になる。フッ素樹脂シートS1、S2の表面処理部を平面状とすることにより、プラズマを斑なくフッ素樹脂シートS1、S2の表面処理部に照射させることができ、表面処理の品質を大幅に向上させることができる。
【0062】
次に、本発明の第2実施形態に係る接着装置について説明する。
なお、第2実施形態では、第1実施形態の接着装置1の構成を一部変更したものであるため、重複する構成については同符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0063】
図2に示すように、第2実施形態の接着装置2は、1つの大気圧プラズマ処理装置10Cと、1つの圧着装置13と、で構成されている。大気圧プラズマ処理装置10Cは、印加電極12の上方向と下方向に、印加電極12と対向する接地電極14がそれぞれ配置されている。また、各接地電極14の近傍には、支持ロール20、22がそれぞれ配置されている。また、大気圧プラズマ処理装置10Cは、フッ素樹脂シートS1、S2を圧着ローラ62A、62B側に送り出す送出装置16をそれぞれ備えている。このように、接着装置2では、1つの大気圧プラズマ処理装置10Cで2つのフッ素樹脂シートS1、S2の大気圧プラズマ処理(表面改質)を同時に行うことができる。
【0064】
また、接着装置2は、接着されたフッ素樹脂シートS同士を巻き取るロール状の巻取装置64を備えている。
【0065】
なお、第1実施形態と同様に、圧着装置13として、圧着ローラ対62が用いられている。圧着ローラ対62は、一方の圧着ローラ62Aと、他方の圧着ローラ62Bと、で構成されている。
【0066】
第2実施形態においても、大気圧プラズマ処理装置10Cを用いてフッ素樹脂シートS1、S2の表面を改質するため、フッ素樹脂シートS1、S2の融点以下の低温度で接合することができる。このため、フッ素樹脂シートS1、S2の組成・構造に変化は無く、その特性も犠牲にすることはない。また、接着剤層が存在しないので、フッ素樹脂シートS1、S2の特性に影響を与えることもない。さらに、大気圧プラズマ処理装置10Cを用いた均一な表面改質を行うので、フッ素樹脂シートS1、S2の接着強度にムラが生じてしまうことも防止できる。また、製造工程が極めて簡便(大気圧プラズマ処理、熱圧着処理のみ)であるため、接着装置2を小型化することができる。この結果、接着装置2の省スペース化、低コスト化、環境負荷の低減などを実現することができる。
【0067】
特に、第2実施形態の接着装置2は、1つの大気圧プラズマ処理装置10Cで構成されているため、2つの大気圧プラズマ処理装置10A、10Bを備えた第1実施形態の接着装置1と比較して接着装置2を一層小型化することができる。この結果、接着装置2の一層の省スペース化、低コスト化、環境負荷の低減などを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1実施形態に係る接着装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る接着装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0069】
1 接着装置
2 接着装置
10A 大気圧プラズマ処理装置
10B 大気圧プラズマ処理装置
10C 大気圧プラズマ処理装置
11 圧着ローラ対(圧着装置)
12 印加電極
13 圧着ローラ対(圧着装置)
14 接地電極
20 支持ロール(基材支持手段)
22 支持ロール(基材支持手段)
26 高周波電源(高周波電圧印加手段)
28 導管(処理ガス供給手段)
30 混合器(処理ガス生成手段)
40 気化器(アルコール気化手段)
62A 圧着ローラ(圧着ローラ対、圧着装置)
62B 圧着ローラ(圧着ローラ対、圧着装置)
63A ヒータ
63B ヒータ
S1 フッ素樹脂シート(基材)
S2 フッ素樹脂シート(基材)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面がフッ素樹脂で構成された基材同士を接着させる接着装置であって、
前記基材の表面を大気圧又はその近傍の圧力下でプラズマにより表面処理する大気圧プラズマ処理装置と、
前記大気圧プラズマ処理装置によりプラズマ処理された前記基材同士を前記基材の融点以下の任意の温度で圧着させる圧着装置と、
を含んで構成されたことを特徴とする接着装置。
【請求項2】
前記圧着装置は、前記基材を前記基材の融点以下の任意の温度に加熱する加熱機能を兼備していることを特徴とする請求項1に記載の接着装置。
【請求項3】
前記大気圧プラズマ処理装置は、
炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールを気化するアルコール気化手段と、
前記アルコール気化手段により気化された前記低級アルコールと不活性ガスとを混合して処理ガスを生成する処理ガス生成手段と、
接地された接地電極と、
前記接地電極に対向して配置された印加電極と、
前記印加電極と前記接地電極との間に高周波電圧を印加させる高周波電圧印加手段と、
前記処理ガスを前記印加電極と前記接地電極との間に供給する処理ガス供給手段と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の接着装置。
【請求項4】
前記基材の表面処理部が平面状となるように前記基材を支持する基材支持手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接着装置。
【請求項5】
前記低級アルコールは、エタノールであることを特徴とする請求項3又は4に記載の接着装置。
【請求項6】
表面がフッ素樹脂で構成された基材同士を接着させる接着方法であって、
前記基材の表面を大気圧又はその近傍の圧力下でプラズマにより表面処理する表面処理工程と、
表面処理された前記基材同士を前記基材の融点以下の任意の温度で圧着させる圧着工程と、
を含んで構成されたことを特徴とする接着方法。


【図1】
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【図2】
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