説明

接触式マイクロホン

【課題】NAMマイクロホンなどの接触式マイクロホンの耐騒音性をさらに改善し、騒音環境下で通常音声や非可聴つぶやき音声などを明瞭に収音し易くする。
【解決手段】振動伝達部材7bはマイクロホン素子2の振動膜5および収音当接部材12dと接し、制振部材8bはカバー部材9と収音当接部材12dまたは振動伝達部材7bとの間に充填されている。振動伝達部材7bが円筒19eに格納されることにより音響ファイバー19dが構成され、円筒19eの断面は収音当接部材12dの収音対象物3との接触面の裏面およびマイクロホン素子2の収音開口部11と対向し、円筒19eの側面は制振部材8bと当接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音環境下でも目的とする通常発話時の音声や人間の耳には聴こえないほどの微弱な物音または非可聴つぶやき声を明瞭に収音することができる接触式マイクロホンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
耳介の後下方部であって頭骸骨の乳葉突起直下の皮膚表面にマイクロホンを当接し、非可聴なつぶやき音声(Non−Audible Murmur、以下「NAM」と略す)を始めとする種々の音声や体内伝導音4を伝達振動として採取するための接触式マイクロホン、いわゆるNAMマイクロホンがある(例えば特許文献1)。このようなNAMマイクロホンは、発声内容の秘匿を主な目的とした音声入力・音声認識や無音声電話への応用から始まったが、近年では医学用途として患者の体内伝導音4である脈拍や心臓音を常時モニタリングする振動ピックアップ検出器としても注目されている。
【0003】
図16は、従来の接触式マイクロホンの基本構造を示す側断面図である。従来の接触式マイクロホン100のマイクロホン素子2(各実施例ではエレクトレット・コンデンサ・マイクロホンを用いている、以下「ECM」と略す)は、皮膚などの収音対象物3より収音した話者の音声などの体内伝導音4が、後に述べる振動伝達部材107を介して振動膜5に伝わると、振動膜5の振動を電気信号に変換し、導線6を介して外部へと伝達する。
【0004】
振動伝達部材107は、マイクロホン素子2と接触またはそれを包み込むように取り付けられ、体内伝導音4の振動をマイクロホン素子2まで損失なく伝達する。この振動伝達部材107には、例えば、シリコーンエラストマー(例えば特許文献2)やウレタンエラストマー(例えば特許文献3)などのプラスチック材料が用いられる。そして、その一方がマイクロホン素子2の振動膜5と接触し、もう一方は収音対象物3と広く接している。制振部材108は、背景雑音である気導音が接触式マイクロホンの背面から侵入するのを防止するもので、例えば弾性エポキシ樹脂により、マイクロホン素子2の収音開口部11を除く全体を覆うよう構成されている。カバー部材9は、アルミなどの金属やアクリル、ABSなどのプラスチックからなり、接触式マイクロホン100全体の機械的強度を保持するとともに、製造時には樹脂注入鋳型の役目を果たしている。
【0005】
このような従来の接触式マイクロホン100を用いて、感度良く皮膚などの体内伝導音4を収音するには、収音対象物3と振動伝達部材107との界面における振動の反射を低く抑えなければならない。音の反射率は、以下の(式1)に示すスネル則により表される。
【0006】
r2=(Z2−Z1)2/(Z2+Z1)2 (式1)
ここで、r2:2種類の異種物質1と2の界面における反射率、Z1:物質1の音響インピーダンス(空気の場合を含む)、Z2:物質2の音響インピーダンスである。
【0007】
(式1)を見ればわかるように、互いに接する2つの物質の音響インピーダンスが近い値であれば音の反射率は0に近く、減衰の度合いも小さい。逆に、互いに接する2つの物質の音響インピーダンスが離れた値だと音の反射率は大きくなり、減衰の度合いも大きくなる。したがって、振動伝達部材107の音響インピーダンスを収音対象物3(皮膚)のそれになるだけ近づければ、収音対象物3と振動伝達部材107との境界面における体内伝導音4の反射が小さくなり、体内伝導音4の損失が抑制される。
【0008】
【表1】

(表1)は、各種材料の音響インピーダンスの値を示した表である。この(表1)を見れば、振動伝達部材107を構成するシリコーンエラストマーやウレタンエラストマーなどのプラスチック材料が、軟質組織(皮膚)の音響インピーダンスと近い値を有していることがわかる。すなわち、プラスチック材料の音響インピーダンスは248×104(kg/m2・s)程度であり、軟質組織(皮膚)の音響インピーダンス=135×104(kg/m2・s)に近い値を有している。なお、マイクロホン素子2の振動膜5も、基本的にはプラスチック材料であり、その点では振動伝達部材107と同様である。
【0009】
このことにより、従来の接触式マイクロホン100は、そのマイクロホン素子2における体内伝導音4の感度が向上するとともに、その収音帯域も広くなり(特に2kHz付近から上の高周波域の減衰を低減する)、通常発話時や非可聴なつぶやき声を発声する時の生体軟組織(皮膚)の振動を感度よく拾うことができるとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2004/021738
【特許文献2】WO2005/067340
【特許文献3】特開2007−043516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら実際に上記従来の技術では、発声する人の周囲に存在する背景雑音(騒音)、すなわちいわゆる気導音10も少なからず収音してしまう。これは、同じく(表1)を見ればわかるように、振動伝達部材107として採用している上記シリコーンエラストマーやウレタンエラストマーなどのプラスチック材料の音響インピーダンス=248×104(kg/m2・s)が、軟組織(皮膚)だけでなく、空気の音響インピーダンス=415(kg/m2・s)ともかなり近い値を有しているためである。
【0012】
この点について、図16を用いてより詳細に述べる。実はほとんどの場合、収音対象物3とカバー部材9の開口端部との間には、わずかな隙間18が生じている。そして、振動伝達部材107は、その隙間18において外部の空気と接触している。
【0013】
ここで先ほども述べたように、プラスチック材料からなる振動伝達部材107と空気とは、かなり近い音響インピーダンスを有している。したがって、できるだけ収音したくない背景雑音(騒音)、いわゆる気導音10aが、このわずかな隙間18を介して接触式マイクロホン100の内部へと侵入し、本来収音したい体内伝導音4に混入して収音される。あるいは、収音対象物3(皮膚)を介して接触式マイクロホン100に収音される外部からの気導音10b(今後、併せて「気導音10」と表記)も存在する。気導音10cについては、カバー部材9による反射や、その内部にある制振部材108による吸収により、マイクロホン素子2への到達を低減することができる。しかしながら、気導音10aおよび10bについては、本来収音したい体内伝導音4に混入するので、相手の話す内容が明瞭に聴き取れず、あるいは携帯情報端末機側の音声入力・音声認識のエラーを引き起こしてしまうなどの問題があった。
【0014】
本発明はこのような従来の課題を解決するものであり、NAMマイクロホンなどの接触式マイクロホンの耐騒音性をさらに改善し、通常音声や非可聴つぶやき音声などのみを明瞭に収音し易くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記目的を達成するために、振動膜を有するマイクロホン素子と、マイクロホン素子を格納する振動伝達部材と、振動伝達部材を格納する制振部材と、開口部を有しマイクロホン素子、振動伝達部材および制振部材を格納するカバー部材と、カバー部材の開口部を覆って配置される当接部材と、を備え、振動伝達部材はマイクロホン素子の振動膜および当接部材と接し、制振部材はカバー部材と当接部材または振動伝達部材との間に充填されている。この構成により、騒音環境下による周囲の背景雑音の混入を反射・抑制し、目的とする収音対象物の振動のみを効率よく収音することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の接触式マイクロホンによれば、耐騒音性がさらに改善され、通常音声のみならず話者のつぶやき音などのような非可聴な音声や物音のみを明瞭に皮膚などの収音対象物から収音し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)本発明の実施例1における接触式マイクロホンの側断面図、(b)本発明の実施例2における接触式マイクロホンの側断面図
【図2】本発明の接触式マイクロホンのS/N比を評価する方法を示す図
【図3】本発明の実施例3における接触式マイクロホンの側断面図、(a)全体側断面図、(b)振動伝達部材先端部の拡大図
【図4】本発明の実施例3と対比関係にある比較例における接触式マイクロホンの側断面図(a)比較例1における接触式マイクロホンの側断面図、(b)比較例2における接触式マイクロホンの側断面図
【図5】本発明の実施例3と対比関係にある比較例における接触式マイクロホンの側断面図(a)比較例3における接触式マイクロホンの側断面図、(b)比較例4における接触式マイクロホンの側断面図
【図6】本発明の実施例3を用いた接触式マイクロホンの応用例における側断面図
【図7】本発明の実施例4における接触式マイクロホンの側断面図、(a)全体側断面図、(b)振動伝達部材先端部の拡大図
【図8】本発明の実施例4と対比関係にある比較例5における接触式マイクロホンの側断面図
【図9】本発明の実施例5における接触式マイクロホンの側断面図、(a)全体側断面図、(b)振動伝達部材先端部の拡大図
【図10】本発明の実施例5における接触式マイクロホンの作製方法の例を示す図
【図11】本発明の実施例5における接触式マイクロホンの作製方法の例を示す図
【図12】本発明の実施例5における接触式マイクロホンの作製方法の例を示す図
【図13】本発明の実施例5における接触式マイクロホンの作製方法の例を示す図
【図14】本発明の実施例5における接触式マイクロホンの作製方法の例を示す図
【図15】本発明の実施例6における接触式マイクロホンの側断面図
【図16】従来の接触式マイクロホンの基本構造を示す側断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な内容について実施例を用いて説明する。
【0019】
(実施例1)
図1(a)は、本発明の実施例1における接触式マイクロホンの側断面図である。ここではまず図1(a)を用いて、SUS製(200μ厚)の収音当接部材12aを有する接触式マイクロホンについて説明する。従来の接触式マイクロホン100(図16参照)と共通または同様の部材については、同じ符号を用いて説明する。ちなみに収音当接部材12aは、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)には無い部材である。また、後に述べる振動伝達部材7aおよび制振部材8aに関しても、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)が有する振動伝達部材107(図16参照)および制振部材108(図16参照)とは若干異なる構成を有している。そしてこれらが、本発明の特徴的な部分となっている。
【0020】
図1(a)における本実施例1の接触式マイクロホン1aのマイクロホン素子2は、皮膚などの収音対象物3より収音した話者の音声などの体内伝導音4が、収音当接部材12aと振動伝達部材7aとを介して振動膜5に伝わると、振動膜5の振動を電気信号に変換し、導線6を介して外部へと伝達する。
【0021】
カバー部材9は、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)と同様に、アルミなどの金属やアクリル、ABSなどのプラスチックからなり、接触式マイクロホン1a全体の機械的強度を保持するとともに、製造時には樹脂注入鋳型の役目を果たしている。
【0022】
振動伝達部材7aは、体内伝導音4の振動をマイクロホン素子2まで損失なく伝達するもので、例えばウレタンエラストマーにより構成され、その一方がマイクロホン素子2の振動膜5と接触している点では、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)と同様である。
【0023】
しかしながら、振動伝達部材7aのもう一方は、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)のように、それ自体が収音対象物3と広く接しているわけではない。本実施例1の振動伝達部材7aは、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)にはなかった、収音当接部材12aのほぼ中央部付近と接している。収音当接部材12aは、例えば200μm厚のSUS304により構成されている。そして、本実施例1の接触式マイクロホン1aにおいて、振動伝達部材7aと収音当接部材12aとの接触部は、収音当接部材12aの略中心に設けられている。また、振動伝達部材7aと収音当接部材12aとの接触部が有する接触面積のうち、収音当接部材12aが収音対象物3と接触する面と平行な方向の接触面積は、振動伝達部材7aの他の部分における平行方向の断面積以下となっている。さらにまた、収音当接部材12aが収音対象物3と接触する面と平行な方向において、マイクロホン素子2、振動伝達部材7aおよび収音当接部材12aのそれぞれの中心は、収音当接部材12aが収音対象物3と接触する面と垂直な方向において略同一の軸上にある、とも言える。以上の構成により、本実施例1の接触式マイクロホン1aは、騒音環境下による周囲の背景雑音の混入を反射・抑制し、目的とする収音対象物の振動のみを効率よく収音することができる。その結果、耐騒音性がさらに改善され、通常音声のみならず話者のつぶやき音などのような非可聴な音声や物音のみを明瞭に皮膚などの収音対象物から収音し易くすることができる。その特徴と効果については、後ほどさらに詳細に説明する。
【0024】
制振部材8aは、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)と同様に、背景雑音である気導音10が接触式マイクロホン1aの背面から侵入するのを防止するもので、例えば弾性エポキシ樹脂により、マイクロホン素子2の収音開口部11を除く全体を覆うよう構成されている。それに加えて本実施例1の制振部材8aは、従来の接触式マイクロホン(図16参照)とは異なり、収音当接部材12aとも接しており、振動伝達部材7aの周囲を取り囲むように配置されている。そして、マイクロホン素子2の本体と振動伝達部材7aおよび制振部材8aは、カバー部材9と収音当接部材12aとにより、内部に密閉されている。なお、振動伝達部材7aは、収音当接部材12aの略中央部とマイクロホン素子2の収音開口部11の略中央部とを結んで配置されている。本実施例1の場合、マイクロホン素子2の収音開口部11の略中央部は、収音当接部材12aの略中央部の直下に配置されおり、その最短距離を結ぶよう、振動伝達部材7aが設けられている。なお、マイクロホン素子2の振動膜5も、基本的には振動伝達部材107(図16参照)と同様のプラスチック材料により形成されている。
【0025】
以上に述べた構成を有する本実施例1の接触式マイクロホン1aの特徴について、これより述べる。
【0026】
先ほども述べたように、本実施例1の接触式マイクロホン1aが有する収音当接部材12aは、例えば200μ厚のSUS304、すなわち金属部材により構成されている。先の(表1)に示すとおり、金属部材の音響インピーダンスは4160×104kg/m2・sで、収音対象物3として想定している皮膚などの軟質組織はもちろん、外部からの気導音10を伝達する空気や、振動伝達部材7aを構成するプラスチック部材と大きく異なる。
【0027】
すなわち、本実施例1の接触式マイクロホン1aは、このような音響インピーダンスが著しく異なる部材を、収音対象物3からマイクロホン素子2の振動膜5へと至る体内伝導音4の伝達経路に配置していることになる。この場合、従来の常識では、収音当接部材12aと収音対象物3または振動伝達部材7aとの境界面において、体内伝導音4の反射が大きくなり、マイクロホン素子2の振動膜5へは伝達しにくくなるはずである。
【0028】
しかしながら、このようなデメリットがあったとしても、できるだけ収音したくない外部からの気導音10の減衰率が、収音したい体内伝導音4の減衰よりも大きい。つまり、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)よりも、本実施例1の接触式マイクロホン1aのほうが、S/N比としては高いので、体内伝導音4をより効率的に収音することができる。
【0029】
その理由については次のように考えられる。図1(a)に示す本実施例1の収音当接部材12aに体内伝導音4が与えられた場合、その物理的な振動による振幅は、収音当接部材12aの中心部において最も大きくなる。そして、その体内伝導音4による物理的な振動が最も大きくなる収音当接部材12aの中心部からマイクロホン素子2の振動膜5へと至る経路には、マイクロホン素子2の振動膜5と同様、プラスチック材料により構成された振動伝達部材7aが配置されている。これにより、体内伝導音4による物理的な振動を効率的にマイクロホン素子2の振動膜5へと伝えることができる。
【0030】
なおかつ、振動伝達部材7aの周囲には、制振部材8aが配置されている。このことは、収音当接部材12aの中心部以外の部分から侵入しようとする外部からの気導音10が制振部材8aによってくい止められ、マイクロホン素子2の振動膜5にまで達しにくいことを意味する。そして、マイクロホン素子2の本体と振動伝達部材7aおよび制振部材8aは、カバー部材9と収音当接部材12aとにより、それらの内部に密閉されているため、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)とは異なり、外部からの気導音10が侵入する余地は無い。よって、外部からの気導音10がマイクロホン素子2の振動膜5に到達するためには、収音当接部材12aの周辺部から、結果的に距離が遠く、音の伝達効率に優れた振動伝達部材7aが接触している収音当接部材12aの中央部まで廻り込まなければならない。この廻り込みの間に、外部からの気導音10の減衰は、より大きくなるのである。
【0031】
以上のように、図1(a)に示す本実施例1の接触式マイクロホン1aは、本来収音したい体内伝導音4にとっては、より収音されやすく、できるだけ収音したくない外部の気導音10にとっては、より収音されにくい構造を有している。そのため、外部の気導音10に対する体内伝導音4のS/N比が改善され、体内伝導音4をより効率的に収音することができる。
【0032】
このような本実施例1の接触式マイクロホン1aが、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)に対して、実際にどれくらい性能が上がったかについて、これより示す。性能の良し悪しを判断するために、騒音環境下における接触式マイクロホンのS/N比と明瞭度の評価を行った。
【0033】
最初に、本実施例1を含む本発明の接触式マイクロホンのS/N比を評価する方法を、以下に示す。図2は、接触式マイクロホンのS/N比を評価する方法を示す図である。なお、このS/N比の評価方法は、全ての接触式マイクロホンに対して共通に用いられる。
【0034】
まず、半無音響室の中で、展示会場の雑踏を録音した音声ファイル(日本音響学会配布)を背景雑音、すなわち外部の気導音10として再生装置13aにより再生し、アンプ13bを介してスピーカー13cより流す。その状態で、騒音計により100dBと計測される位置において、接触式マイクロホン(本実施例1においては図1(a)に示す接触式マイクロホン1a)を咽喉あたりに装着する。そして、日本聴覚医学会にて推奨されている単音節20語音表の文字を、通常発話(約90dB)で各2秒おきに発音して録音を行う。その録音波形を基に、接触式マイクロホン1aで収音された外部の気導音10と、話者の発声すなわち体内伝導音4との音圧比を、下記に記す(式2)を用いてdB換算してS/N比とし、評価を行う。
【0035】
S/N比(dB)=20log(S/N) (式2)
さらに、先のS/N比測定時に得られた単音節20語音表の録音音声ファイルを、任意の被験者4名に聴かせ、聞き取った文字を記録してもらう。そして、それぞれの正答率を計算して単音節明瞭度とし、その単音節明瞭度を0.85で除して文章了解度として評価を行う。ちなみに、文章了解度を算出する際に単音節明瞭度を0.85で除するのは、一般に「単音節明瞭度の正答率が85%あれば文章了解度は100%となる」と言われているためである。
【0036】
なお、このような評価方法の詳細については、「公害防止管理者等など資格認定講習用 新・公害防止の技術と法規2009 騒音・振動編」のp117にも記載されている。
【0037】
以上の方法により評価を行った結果、図1(a)に示す本実施例1における接触式マイクロホン1aのS/N比は20dBであり、100dB騒音下における文章了解度は75%であることがわかった。これに対し、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)のS/N比は7dBであった。以上のことから、図1(a)に示す本実施例1における接触式マイクロホン1aのS/N比がかなり向上していることが明らかとなった。
【0038】
このように、性能が改善された本実施例1の接触式マイクロホン1aは、例えば以下のようなプロセスにより作成できる。まず図1(a)において、制振部材8aがカバー部材9に充填される。この時、マイクロホン素子2や振動伝達部材7aを格納するための格納部(図示せず)が、例えば2液系弾性エポキシ樹脂のキャスティング法などにより制振部材8a内に形成される。次に、制振部材8aおよびカバー部材9を貫通する貫通孔(図示せず)が形成され、その貫通孔にマイクロホン素子2の導線6が通された後、制振部材8a内の格納部の底面にマイクロホン素子2が設置される。その後、マイクロホン素子2の収音開口部11にウレタンエラストマーが注入・ポッティングされ、80℃で1時間の加熱により振動伝達部材7aが形成される。このとき、振動伝達部材7aは自らの表面張力により先端部が半球状になっている。そして、収音当接部材12a、すなわち厚み200μのSUS製の蓋が、同じく制振部材8aを形成する際に用いた2液系弾性エポキシ樹脂を接着剤として、80℃で1時間の加熱硬化により接着固定されると、先の図1(a)に示す接触式マイクロホン1aが完成する。
【0039】
なお、本実施例1において制振部材8aとして用いた弾性エポキシ樹脂としては、例えばセメダイン社製EP001(業務用エポキシ樹脂系弾性接着剤)を変性ポリアミン硬化剤にて等量混合し、80℃にて硬化させたものが好ましく用いられる。また、本実施例1において振動伝達部材7aとして用いたウレタンエラストマーとしては、例えば(株)エクシールコーポレーション社製ポリウレタン人肌のゲル原液(C−15の主剤と硬化剤を3:1にて混合し、80℃にて硬化させたもの)が好ましく用いられる。さらに、収音当接部材12aおよびカバー部材9については、体内気導音4を伝達する空気(415kg/m2・s)と音響インピーダンスの値がかけ離れた材質を有する鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属(4160×104kg/m2・s)の他に、ガラスなどのセラミックス(1122×104kg/m2・s)であっても構わない。
【0040】
以上のように、本実施例1の接触式マイクロホンを用いれば、耐騒音性がさらに改善され、騒音環境下で通常音声や非可聴つぶやき音声などが明瞭に収音し易くなる。
【0041】
(実施例2)
図1(b)は、本発明の実施例2における接触式マイクロホンの側断面図を示した図である。本実施例2の接触式マイクロホン1bの構成は、先に述べた実施例1における接触式マイクロホン1aと共通している部分が多いので、それらについては説明を省略する。先の実施例1と異なるのは、収音当接部材12bおよび制振部材8bである。これらを中心に、本実施例2の接触式マイクロホン1bについてこれより説明する。
【0042】
図1(b)における本実施例2の接触式マイクロホン1bのマイクロホン素子2は、皮膚などの収音対象物3より収音した話者の音声などの体内伝導音4が、収音当接部材12bと振動伝達部材7aとを介して振動膜5に伝わると、振動膜5の振動を電気信号に変換し、導線6を介して外部へと伝達する。本実施例2の接触式マイクロホン1bにおいても、先の実施例1と同様、振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触部は、収音当接部材12bの略中心に設けられている。また、振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触部が有する接触面積のうち、収音当接部材12bが収音対象物3と接触する面と平行な方向の接触面積は、振動伝達部材7aの他の部分における平行方向の断面積以下となっている。さらにまた、収音当接部材12bが収音対象物3と接触する面と平行な方向において、マイクロホン素子2、振動伝達部材7aおよび収音当接部材12bのそれぞれの中心は、収音当接部材12bが収音対象物3と接触する面と垂直な方向において略同一の軸上にある、とも言える。以上の構成により、本実施例2の接触式マイクロホン1bは、騒音環境下による周囲の背景雑音の混入を反射・抑制し、目的とする収音対象物の振動のみを効率よく収音することができる。その結果、耐騒音性がさらに改善され、通常音声のみならず話者のつぶやき音などのような非可聴な音声や物音のみを明瞭に皮膚などの収音対象物から収音し易くすることができる。
【0043】
本実施例2の収音当接部材12bは、アルミニウム金属製のキャップ形状1.5mm厚の当接部材を有しており、カバー部材9との入れ子構造により、かん合・接着されている。また、制振部材8bは、フェニルアミノシランにより表面改質したシリカ粉(アドマテックス社製SC6202−SXC)を重量比で50%分散させた弾性エポキシ樹脂系複合材を用いている。このように、シリカのような無機材料系フィラーを含むことで弾性率が増大し、カバー部材9やマイクロホン素子2の金属部分との密着性が増加する。また、内包したマイクロホン素子2がしっかり固定されるので、マイクロホン素子2の振動板5のみではなくマイクロホン素子2全体が動くことによる伝達振動の損失を防いでいる。
【0044】
それに加えて、制振部材8bの音響インピーダンスが、カバー部材9やマイクロホン素子2の金属部分の音響インピーダンスにより近い値となるので、これらの金属部分と制振部材8bとの界面での反射が抑制され、制振部材8b中の弾性エポキシ樹脂成分による振動の吸収損失に効果がある。この点については、後に述べる実施例4と比較例5との対比において、詳細に述べる。
【0045】
なお、制振部材8bに分散される無機材料系フィラーとしては、サブミクロンから100ミクロンの粒子サイズのものが好ましく用いられる。これは、サブミクロン以下のものは一般的に分散性が悪く、凝集し分布制御の妨げとなり、100ミクロン以上のものは、分散性が悪いために沈降・偏析しやすく、接触式マイクロホン2の機械的強度を下げてしまうためである。
【0046】
また、制振部材8bに分散される無機材料系フィラーとしては、先に述べたシリカの他に、アルミナ、ジルコニア、シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、コロイダルシリカ、チタニアなどを用いることができる。そしてこれらは単独であってもよく、上記の中から2種類以上選択され混合されたものが用いられても構わない。
【0047】
次に、制振部材8bに分散される無機材料系フィラーの含有率についてであるが、75%以上だと粘度の上昇により製造プロセスによるハンドリングが困難となると同時に、2液エポキシ樹脂でたびたび問題となる可使時間の短縮につながり、含有率が5%以下だと制振効果が認められないことがわかっている。これらのことから、制振部材8bに分散される無機材料系フィラーの含有率は5〜75%の範囲が好ましい。
【0048】
さらに、本実施例1および1bにおける収音当接部材12aおよび12bとして採用している金属材料はSUSやアルミ二ウムであるが、これは以下の理由による。
【0049】
一般に、音響インピーダンスは(式3)に示すように密度ρと材料中の音速cによって決定され、材料中の音速cは(式4)に示すように密度ρと体積弾性率kによって決定される。
【0050】
Z=ρ・c (式3)
c=√(k/ρ) (式4)
したがって、(式3)、(式4)より、音響インピーダンスZと密度ρと体積弾性率kとの関係は以下のように導かれる:
Z=√(ρ・k) (式5)
【0051】
【表2】

ここで(表2)に示す、各種金属の音速cを参照すると、鉄系やアルミ系、チタン系金属の音速cが、他の金属よりも比較的大きいことがわかる。(式3)より明らかなように、音響インピーダンスZは音速cに比例する。鉄系やアルミ系、チタン系金属などの音響インピーダンスは、他の金属よりも相対的に大きな値となるため、好んで用いられる。
【0052】
以上のように、本実施例2の接触式マイクロホンを用いれば、耐騒音性がさらに改善され、騒音環境下で通常音声や非可聴つぶやき音声などが明瞭に収音し易くなる。
【0053】
(実施例3)
図3は、本発明の実施例3における接触式マイクロホンの側断面図である。図3(a)は、本実施例3における接触式マイクロホン1cの全体側断面図であり、図3(b)は、振動伝達部材7aの先端部の拡大図である。本実施例3の接触式マイクロホン1cの構成は、先に述べた実施例1または実施例2と共通している部分が多いため、それらについてはその説明をできるだけ省略し、主に、先に述べた実施例1と異なる部分について、これより説明する。
【0054】
まず、本実施例3の接触式マイクロホン1cにおいても、先の実施例1および2と同様、振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触部は、収音当接部材12bの略中心に設けられている。また、振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触部が有する接触面積のうち、収音当接部材12bが収音対象物3と接触する面と平行な方向の接触面積は、振動伝達部材7aの他の部分における平行方向の断面積以下となっている。さらにまた、収音当接部材12bが収音対象物3と接触する面と平行な方向において、マイクロホン素子2、振動伝達部材7aおよび収音当接部材12bのそれぞれの中心は、収音当接部材12bが収音対象物3と接触する面と垂直な方向において略同一の軸上にある、とも言える。以上の構成により、本実施例3の接触式マイクロホン1cは、騒音環境下による周囲の背景雑音の混入を反射・抑制し、目的とする収音対象物の振動のみを効率よく収音することができる。その結果、耐騒音性がさらに改善され、通常音声のみならず話者のつぶやき音などのような非可聴な音声や物音のみを明瞭に皮膚などの収音対象物から収音し易くすることができる。
【0055】
制振部材8bは弾性エポキシ樹脂とシリカとの複合材であり、収音当接部材12bはアルミニウム製1.5mm厚のキャップ状を有する。これらの点においては、先に述べた実施例2と同様である。しかしながら、先の実施例2における収音当接部材12bが、カバー部材9との入れ子構造により、直接的にかん合・接着されていたのに対し、本実施例3における接触式マイクロホン1cでは次のような構造を有している。
【0056】
すなわちまず、制振部材8bの内部には、金属製のワッシャ22が、マイクロホン素子2の周囲を取り囲むように配置されている。次に、収音当接部材12bおよびカバー部材9は、それぞれ、プラスチックまたは金属製の上下連結用チューブ23との入れ子構造により、かん合・接着されている。そのため、収音当接部材12bとカバー部材9とは、上下連結用チューブ23を介して、間接的に接合されていることになる。
【0057】
さらに、制振部材8b内部にあるマイクロホン素子2と収音当接部材12bとの間には、いわゆる音響ファイバー19が配置されている。音響ファイバー19は、実施例1および実施例2においても用いられている振動伝達部材7aを、アルミニウム製の円筒19aの内部に配置したものである。すなわち、振動伝達部材7aが円筒19aに格納されることにより音響ファイバー19が構成され、円筒19aの断面は収音当接部材12bの収音対象物3との接触面の裏面およびマイクロホン素子2の収音開口部11と対向し、円筒19aの側面は制振部材8bと当接している。この音響ファイバー19は、収音当接部材12bから振動伝達部材7aへと伝達される体内伝導音4の振動が、マイクロホン素子2の振動膜5以外の部分へと拡散するのを防いでいる。これにより、収音当接部材12bからの体内伝導音4は、損失がより少なく効率よく、マイクロホン素子2の振動膜へと伝達される。また、音響ファイバー19は、周囲の空気からいわゆる雑音として制振部材8bに伝達される気導音10の振動が、マイクロホン素子2の振動膜5へと伝達するのを防ぐ役割も有している。
【0058】
このような、マイクロホン素子2の周囲に配置されたワッシャ22や、上下連結用チューブ23による間接的な接合構造を有しているのは、カバー部材9および収音当接部材12bの略中心にマイクロホン素子2および音響ファイバー19を配置するためである。それは、後に述べる本実施例3の接触式マイクロホン1cの作成プロセスにおいて、特に効果を有する。
【0059】
次に、図3(b)に示す振動伝達部材と収音当接部材との接触部位の拡大図について説明する。振動伝達部材7aは、その硬化前のウレタンエラストマー前駆体の表面張力により、一般的には半球面状の形状を有していて、任意の接触面積により収音当接部材12bと接している。一般に、伝達される振動エネルギー(音圧力)は接触面積に比例する。この接触面積が大きすぎると、収音対象物3(皮膚)との接触面に僅かに存在する隙間18や、周囲の空気を介して接触式マイクロホンの周辺の空気からその加振力により伝わってきた気導音10の一部が、本来収音したい体内伝導音4とともに収音される。その結果、気導音10に対する体内伝導音4のS/N比は低い値となってしまう。そのため、音響ファイバー19の内径は、少なくともマイクロホン素子2の収音開口部11の直径に対して0.5〜5倍の範囲が好ましい。
【0060】
このような、本実施例3における接触式マイクロホン1cは、例えば以下のようなプロセスにより作製することができる。
【0061】
先に示した図3において、まず、マイクロホン素子2の収音開口部11より、ウレタンエラストマー(例えば(株)エクシールコーポレーション社製ポリウレタン人肌のゲル原液(C−15)の主剤と硬化剤を3:1にて混合したもの)を注入し、80℃で1時間の加熱により振動伝達部材7aの一部を形成する。
【0062】
次に、カバー部材9の内側に上下連結用チューブ23を配置し、マイクロホン素子2の導線6をカバー部材9に貫通させ、カバー部材9の略中心部にマイクロホン素子2を設置する。その状態で、制振部材8bの硬化前の前駆体である、例えばシリカを50wt%含む2液系弾性エポキシ樹脂を、マイクロホン素子2の高さ近くまで充填する。そして、その制振部材8bの硬化前の前駆体であるエポキシ樹脂の上に、マイクロホン素子2の径に合わせて穴が設けてあるアルミニウム(金属)製のワッシャ22を載せる。このとき、マイクロホン素子2がワッシャ22の貫通孔の内部の略中心に配置されるよう、ワッシャ22を設置する。このとき、ワッシャ22の外径を上下連結用チューブ23の内径よりもやや小さく設定すると、マイクロホン素子2をカバー部材9の略中心に設置しやすい。その状態で80℃で1時間の加熱により硬化し、制振部材8bの一部が形成される。
【0063】
さらに、マイクロホン素子2の収音開口部11の上に円筒19aを配置する。このとき、円筒19aの中心が収音開口部11の中心にほぼ合うようにしておく。その円筒19aの空洞内部に前述のウレタンエラストマーを注入し、80℃で1時間の加熱を行う。このようにして、先にマイクロホン素子2の収音開口部11より注入しておいたウレタンエラストマーと、円筒19aに注入したウレタンエラストマーとが一体となって、振動伝達部材7aが形成される。そして、この振動伝達部材7aと円筒19aとにより、音響ファイバー19が形成される。なお、音響ファイバー19の先端部分には、振動伝達部材7aが、自らの表面張力により凸の半球面または半楕円球面形状のメニスカスを形成している。
【0064】
その後さらに、カバー部材9および上下連結用チューブ23の残りの空間部分に、制振部材8bの硬化前の前駆体であるエポキシ樹脂を適量、追加充填し、厚み1.5mmのアルミ二ウム製のカップ形状の収音当接部材12aを覆い被せ、80℃にて1時間硬化させると、本実施例3の接触式マイクロホン1cが完成する。
【0065】
このようにして完成した接触式マイクロホン1cの収音当接部材12bとカバー部材9とはほぼ同心円筒形状であるので、それらの中心はほぼ一致している。そしてマイクロホン素子2は、先に述べたワッシャ22によりカバー部材9の略中心に配置されている。したがって、マイクロホン素子2の中心と収音当接部材12bのそれとはほぼ一致していると言える。
【0066】
このようにワッシャ22は、マイクロホン素子2を収音当接部材12bの略中心に配置する手助けとなっており、その効果は、先の実施例1に述べたのと同様である。すなわち、収音当接部材12bに体内伝導音4が与えられた場合、その物理的な振動による振幅は、収音当接部材12bの中心部において最も大きくなる。そして、その体内伝導音4による物理的な振動が最も大きくなる収音当接部材12bの中心部からマイクロホン素子2の振動膜5へと至る経路には、マイクロホン素子2の振動膜5と同様、プラスチック材料により構成された振動伝達部材7aが配置されている。これにより、体内伝導音4による物理的な振動を効率的にマイクロホン素子2の振動膜5へと伝えることができる。
【0067】
なおかつ、振動伝達部材7aの周囲には、制振部材8aが配置されている。これは、収音当接部材12aの中心部以外の部分から侵入しようとする外部からの気導音10が制振部材8aによってくい止められ、マイクロホン素子2の振動膜5にまで達しにくいことを意味する。
【0068】
さらに本実施例3の場合、音響ファイバー19の周囲にある円筒19aは、収音当接部材12bから振動伝達部材7aへと伝達される体内伝導音4の振動が、マイクロホン素子2の振動膜5以外の部分へと拡散するのを防いでいる。これにより、収音当接部材12bからの体内伝導音4は、損失が少なく効率よく、マイクロホン素子2の振動膜へと伝達される。また、音響ファイバー19は、周囲の空気からいわゆる雑音として制振部材8bに伝達される気導音10の振動が、マイクロホン素子2の振動膜5へと伝達するのを防ぐ役割も有している。
【0069】
ちなみに上下連結用チューブ23は、制振部材8bの追加充填時に、音響ファイバー19が倒れないよう補助するとともに、制振部材8bが外にこぼれないよう、また、収音当接部材12bとの間に空間が生じないよう、制振部材8を適量格納する役割を担っている。
【0070】
このように作製された接触式マイクロホン1cを、先の実施例1においても用いた単音節20語音表により評価した結果は以下の通りである。すなわち、本実施例3における接触式マイクロホン1cのS/N比は17dBであり、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)のS/N比7dBと比較して、騒音環境下のS/N比が向上していることが明らかになった。以下の点については、後に示す比較例により、その重要さについて詳しく述べる。まず第1点は、振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触部が、収音当接部材12bの略中心にあることである。第2点は、音響ファイバー19の内部にある振動伝達部材7aすなわち音響ファイバー19の内径が、少なくともマイクロホン素子2の収音開口部11の直径に対して0.5〜5倍の範囲に収められることが好ましい。そして第3点は、制振部材8bと収音当接部材12bとの間には空間を設けず、制振部材8bが収音当接部材12b、上下連結用チューブ23およびカバー部材9と接してフルに充填されていることである。
【0071】
以上のように、本実施例3の接触式マイクロホンを用いれば、耐騒音性がさらに改善され、騒音環境下で通常音声や非可聴つぶやき音声などが明瞭に収音し易くなる。
【0072】
(比較例1)
図4(a)は、本発明の実施例3と対比関係にある比較例1における接触式マイクロホンの側断面図である。
【0073】
本比較例1における接触式マイクロホン1dの構成および作成方法は、先に述べた実施例3における接触式マイクロホン1cと共通している部分が多いものの、次の点において異なっている。1つは、振動伝達部材7aが収音当接部材12bの裏側全体にも塗布・硬化されており、その結果、振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触面積が、マイクロホン素子2の収音開口部11の直径に対して0.5〜5倍の範囲外にあることである。もう一つは、収音当接部材12bの裏側全体に塗布・硬化されている収音当接部材12bと制振部材8bとの間に空洞21が生じていることである。
【0074】
この比較例1における接触式マイクロホン1dのS/N比は10dBであり、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)のS/N比7dBと比較して、騒音環境下のS/N比がそれほど向上していないことが明らかとなった。これは、振動伝達部材7aが収音当接部材12bの裏側全体に塗布・硬化されたことにより、外部周囲の雑音である気導音10が、収音当接部材12bの周辺部から振動伝達部材7aを介してマイクロホン素子2へと伝達されやすくなったためであると考えられる。
【0075】
この比較例1からわかるように、振動伝達部材7aは、音響ファイバー19の内径に収まるようにし、収音当接部材12bとの接触を大きくし過ぎないよう、かつその略中心部において接触させることが必要である。そして、その接触面積は、少なくともマイクロホン素子2の収音開口部11の直径に対して0.5〜5倍の範囲に収めることが好ましい。
【0076】
(比較例2)
図4(a)は、本発明の実施例3と対比関係にある比較例2における接触式マイクロホンの側断面図である。
【0077】
本比較例2における接触式マイクロホン1eの構成および作成方法は、先に述べた実施例3における接触式マイクロホン1cと共通している部分が多いものの、次の点において異なっている。1つは、制振部材8bが、収音当接部材12bの裏側全体に塗布・硬化されており、なおかつ振動伝達部材7aが収音当接部材12bに接していないことである。もう一つは、制振部材8b内部の収音当接部材12b近傍に空洞21が生じていることである。
【0078】
この比較例2における接触式マイクロホン1eのS/N比は5dBであり、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)のS/N比7dBと比較して、騒音環境下のS/N比がさらに悪化していることが明らかとなった。これは、振動伝達部材7aが収音当接部材12bの略中心部と接触していないため、外部周囲の雑音である気導音10のみならず、本来収音したい体内伝導音4まで、その手前にある制振部材8bにより吸収損失されてしまったためと考えられる。
【0079】
この比較例2からわかるように、振動伝達部材7aは、収音当接部材12bと接触させることが必要である。そしてその接触は、収音当接部材12bの略中心であることが好ましい。
【0080】
(比較例3)
図5(a)は、本発明の実施例3と対比関係にある比較例3における接触式マイクロホンの側断面図である。
【0081】
本比較例3における接触式マイクロホン1fの構成および作成方法は、先に述べた実施例3における接触式マイクロホン1cと共通している部分が多いものの、次の点において異なっている。すなわち、振動伝達部材7aは収音当接部材12bと接しているものの、制振部材8bと収音当接部材12bとの間に空洞21が生じていることである。
【0082】
この比較例3における接触式マイクロホン1eのS/N比は12dBであり、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)のS/N比7dBと比較して、騒音環境下のS/N比は若干良くなるが、実施例3ほどではないことが明らかとなった。これは、外部周囲の雑音である気導音10が制振部材8bの内部に侵入した後、制振部材8bとその内部に生じた空洞21内にある空気との界面において反射を繰り返したため、結果的に音響ファイバー19よりマイクロホン素子2へと伝達したためと考えられる。すなわち、制振部材8bの内部に生じた空洞21により、制振部材8bによる気導音10の吸収損失が阻害されている。
【0083】
この比較例3からわかるように、制振部材8bと収音当接部材12bとの間には空洞21を設けず、制振部材8bが収音当接部材12b、上下連結用チューブ23およびカバー部材9と接してフルに充填されていることが必要である。
【0084】
(比較例4)
図5(b)は、本発明の実施例3と対比関係にある比較例4における接触式マイクロホンの側断面図である。
【0085】
本比較例4における接触式マイクロホン1gの構成および作成方法は、先に述べた実施例3における接触式マイクロホン1cと共通している部分が多いものの、次の点において異なっている。すなわち、音響ファイバー19内部にある振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触部が、カバー部材9および収音当接部材12bの略中心と一致していないということである。本比較例4においては、マイクロホン素子2および音響ファイバー19の各中心が収音当接部材12bの中心と円周とを結ぶ直線(半径)の略中間地点となるよう配置されている。
【0086】
この比較例3における接触式マイクロホン1eのS/N比は9dBであり、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)のS/N比7dBと比較して、騒音環境下のS/N比は若干良くなるが、実施例3ほどではないことが明らかとなった。1つは、振動伝達部材7aの収音当接部材12bとの接触部から、収音当接部材12bの一方の周辺部までの距離が短く、外部周囲の雑音である気導音10がマイクロホン素子2へ伝達されやすいためである。もう1つは、音響ファイバー19内部の収音当接部材12bの略中心において、収音当接部材12bに与えられる体内伝導音4の物理的な振動は最も大きくなるのに、本比較例4における振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触部がそこに配置されていないためである。
【0087】
この比較例4からわかるように、マイクロホン素子2および音響ファイバー19(すなわち振動伝達部材7aの中心は、収音当接部材12bの略中心に配置されることが必要である。
【0088】
以上の比較例により明確となったように、振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触部は、収音当接部材12bの略中心にあることが必要である。また、音響ファイバー19の内部にある振動伝達部材7aすなわち音響ファイバー19の内径は、少なくともマイクロホン素子2の収音開口部11の直径に対して0.5〜5倍の範囲に収められることが好ましい。そして、制振部材8bと収音当接部材12bとの間には空間を設けず、制振部材8bが収音当接部材12b、上下連結用チューブ23およびカバー部材9と接してフルに充填されていることが必要である。
【0089】
(実施例3の変形例)
先の実施例3および比較例4より明らかとなったように、音響ファイバー19の内部にある振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触部は、収音当接部材12bの略中心にあることが必要である。しかしながら、音響ファイバー19の中心とマイクロホン素子2の中心とを、収音当接部材12bの中心に略一致させて配置する必要は無い。その例について、これより述べる。
【0090】
図6は、本発明の実施例3の音響ファイバーを用いた接触式マイクロホンの応用例における側断面図である。図6に示す接触式マイクロホン1kの音響ファイバー19bは、収音当接部材12cに伝達した振動を、その内部空間に閉じ込め、折り曲げ自在な円筒19cの内壁による反射の繰り返しにより、マイクロホン素子2へと伝達する機能を有する。そのため、図6に示すように、曲線自由形状の円筒19cを用いると、マイクロホン素子2の中心を収音当接部材12cの中心の直下以外に配置することが可能となる。このとき、音響ファイバー19bの内部に配置された振動伝達部材7aが収音当接部材12cと接している部分の中心が、収音当接部材12cの中心と略一致するようになっていればよい。なぜならば、収音当接部材12cの中心は、そこに与えられる体内伝導音4の物理的な振動が最も大きくなるからである。このように、接触式マイクロホン1gの形状に関しては、設計の自由度を増すことができる。
【0091】
(実施例4)
図7は、本発明の実施例4における接触式マイクロホンの側断面図である。図7(a)は、接触式マイクロホン1jの全体側断面図であり、図7(b)は、振動伝達部材7aの先端部の拡大図である。本実施例4の接触式マイクロホン1jの構成は、先に述べた実施例3と共通している部分が多いため、それらについてはその説明をできるだけ省略し、主に、先に述べた実施例3と異なる部分について、これより説明する。なお、実施例3に配置されているワッシャ22が本実施例4においては省略されているが、このワッシャ22はもちろん、実施例3と同様に配置されていてもよい。
【0092】
まず、本実施例4の接触式マイクロホン1jにおいても、先の実施例1〜3と同様、振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触部は、収音当接部材12bの略中心に設けられている。また、振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触部が有する接触面積のうち、収音当接部材12bが収音対象物3と接触する面と平行な方向の接触面積は、振動伝達部材7aの他の部分における平行方向の断面積以下となっている。さらにまた、収音当接部材12bが収音対象物3と接触する面と平行な方向において、マイクロホン素子2、振動伝達部材7aおよび収音当接部材12bのそれぞれの中心は、収音当接部材12bが収音対象物3と接触する面と垂直な方向において略同一の軸上にある、とも言える。それに加えて、振動伝達部材7aが円筒19aに格納されることにより音響ファイバー19が構成され、円筒19aの断面は収音当接部材12bの収音対象物3との接触面の裏面およびマイクロホン素子2の収音開口部11と対向し、円筒19aの側面は制振部材8bと当接している。以上の構成により、本実施例4の接触式マイクロホン1jは、騒音環境下による周囲の背景雑音の混入を反射・抑制し、目的とする収音対象物の振動のみを効率よく収音することができる。その結果、耐騒音性がさらに改善され、通常音声のみならず話者のつぶやき音などのような非可聴な音声や物音のみを明瞭に皮膚などの収音対象物から収音し易くすることができる。
【0093】
本実施例4の接触式マイクロホン1jにおいて、先の実施例3は無い特徴的な部分は、音響ファイバー19が収音当接部材12bと接触する先端部分において、振動伝達部材7aの内部に内包・接着されたプラスチック球20である。すなわち、振動伝達部材7bの収音当接部材12bとの接触面側に、振動伝達部材7bよりも硬度の高い部材が設けられている。このプラスチック球20としては、例えば佐藤鉄工所製のものが用いられる。この他に、ウレタンゴム、ポリアセタール、ポリアミド66、テフロン(登録商標)、ABS、スチレン、アクリル、シリコン樹脂などであれば、いずれであっても構わない。なお、本実施例4においては、振動伝達部材7aとして採用しているウレタンエラストマーと密着力がよく、繰り返し振動して用いられるという(潤滑性と)信頼性の観点から、ウレタンゴム(硬度80°および硬度95°)をプラスチック球20として用いることが好ましい。このウレタンゴムは、振動伝達部材7aよりもその硬度が高い。
【0094】
また、このようなプラスチック球20としては、マイクロホン素子2の振動膜5の開口部の直径に相当する2mmφや3/32inch、1/8inch、5/32inchなどの直径を有するものが一般的に用いられる。
【0095】
このような、振動伝達部材7aよりも硬度の高いプラスチック球20を、音響ファイバー19が収音当接部材12bと接触する先端部分にある振動伝達部材7aに内包・接着させることで、収音当接部材12bの略中心部と点接触が可能となる。そしてこれにより、収音対象物3(皮膚など)から収音当接部材12b全体に伝達される振動が一点に集中される。それとともに、周囲の空気あるいは接触式マイクロホン1jの装着時に発生する収音対象物3との隙間18の空気を介して収音当接部材12bの周辺部から伝達される気導音(騒音)10が、カットされやすくなる。すなわち、気導音10にとっては、それが固体振動として伝達される収音当接部材12bの(点接触している)中心部までの距離が、本来収音したい体内伝導音4よりも遠くなる。そして、収音当接部材12bの(点接触している)中心部に至る途中で、収音当接部材12bの下層に位置する制振部材8bが気導音10の一部を吸収損失するため、S/N比向上の効果が大きくなる。
【0096】
このように作製された接触式マイクロホン1jを、先の実施例1と同様に単音節20語音表を用いて評価した結果は以下の通りである。すなわち、本実施例4における接触式マイクロホンのS/N比は28dBであり、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)のS/N比7dBと比較して、騒音環境下のS/N比が大幅に向上していることが明らかになった。そして、先の実施例3と比較しても、そのS/N比はさらに向上している。
【0097】
なお、本実施例4における接触式マイクロホン1jを用いた100dB騒音下における文章了解度は85%であった。
【0098】
以上のように、本実施例4の接触式マイクロホンを用いれば、耐騒音性がさらに改善され、騒音環境下で通常音声や非可聴つぶやき音声などが明瞭に収音し易くなる。
(比較例5)
【0099】
図8は、本発明の実施例4と対比関係にある比較例5における接触式マイクロホンの側断面図である。
【0100】
本比較例5における接触式マイクロホン1hの構成および作成方法は、先に述べた実施例4における接触式マイクロホン1jと共通している部分が多いものの、次の点において異なっている。すなわち、先の実施例4における制振部材8b(シリカを50wt%含む2液系弾性エポキシ樹脂)に代えて、先の実施例1においても用いられた弾性エポキシ樹脂単独で構成された制振部材8aとしている。
【0101】
この比較例1における接触式マイクロホン1dのS/N比は20dBであり、先の実施例1や2と比較しても遜色無いが、実施例4と比較した場合は、その性能差が倍以上あることがわかった。これは採用している制振部材の材質の違いによる。この材質相違は損失係数の大小となり、先の(式5)に示すS/N比の式において、雑音を示す分母の項に反映される。
【0102】
また、弾性エポキシ樹脂がシリカとの複合化によって弾性率と重量がより大きくなり、共振周波数がマイクロホン素子2の振動膜5と大きくずれる方向に変化する。これにより、収音対象物3からの固体振動によってマイクロホン素子2そのものの振動が少なくなり、収音対象物3からの固体振動が振動膜5の振動へと変換される割合が相対的に増える。これは、先の(式5)に示すS/N比の式において、収音したい信号を示す分子の項を大きくする役割を果たす。
【0103】
以上のことから、採用する制振部材としては、実施例4において採用した弾性エポキシ樹脂とシリカとの複合材による制振部材8bのほうが、比較例5において採用した弾性エポキシ樹脂よりも高い収音性能を得られることがわかった。
【0104】
(実施例5)
図9は、実施例5における接触式マイクロホンの側断面図を示した図である。図9(a)は、本実施例5における接触式マイクロホン1kの全体側断面図であり、図9(b)は、振動伝達部材7bの先端部の拡大図である。本実施例5の接触式マイクロホン1nの構成は、先に述べた実施例2と共通している部分が多いため、それらについてはその説明をできるだけ省略し、主に、先に述べた実施例2と異なる部分について、これより説明する。
【0105】
まず、本実施例5の接触式マイクロホン1nにおいても、先の実施例1〜4と同様、振動伝達部材7bと収音当接部材12dとの接触部は、収音当接部材12dの略中心に設けられている。また、振動伝達部材7bと収音当接部材12dとの接触部が有する接触面積のうち、収音当接部材12dが収音対象物3と接触する面と平行な方向の接触面積は、振動伝達部材7bの他の部分における平行方向の断面積以下となっている。さらにまた、収音当接部材12dが収音対象物3と接触する面と平行な方向において、マイクロホン素子2、振動伝達部材7bおよび収音当接部材12dのそれぞれの中心は、収音当接部材12dが収音対象物3と接触する面と垂直な方向において略同一の軸上にある、とも言える。それに加えて、振動伝達部材7bが円筒19eに格納されることにより音響ファイバー19dが構成され、円筒19eの断面は収音当接部材12dの収音対象物3との接触面の裏面およびマイクロホン素子2の収音開口部11と対向し、円筒19eの側面は制振部材8bと当接している。以上の構成により、本実施例5の接触式マイクロホン1nは、騒音環境下による周囲の背景雑音の混入を反射・抑制し、目的とする収音対象物の振動のみを効率よく収音することができる。その結果、耐騒音性がさらに改善され、通常音声のみならず話者のつぶやき音などのような非可聴な音声や物音のみを明瞭に皮膚などの収音対象物から収音し易くすることができる。
【0106】
本実施例5に配置されているワッシャ22が、先の本実施例2においては配置されていないが、これは先にも示したように、マイクロホン素子2を収音当接部材12dの略中心に配置するためのものであり、大きな相違点ではない。このワッシャ22はもちろん、本実施例5にも同様に配置されていてよい。
【0107】
また、本実施例5の音響ファイバー19dも、先の実施例2においては配置されておらず、先の実施例3や実施例4に登場したものと似たものである。本実施例5における音響ファイバー19dは、円筒19eの空洞内部に振動伝達部材7b(後述)が充填されたものであり、その長さや内部の振動伝達部材7bの組成が、先の実施例3や実施例4のそれとは異なる。しかしながら、収音当接部材12dから振動伝達部材7aへと伝達される体内伝導音4の振動が、マイクロホン素子2の振動膜5以外の部分へと拡散するのを防ぐ働きを有しているという機能は、先の実施例3や実施例4と同様である。さらに、周囲の空気からいわゆる雑音として制振部材8bに伝達される気導音10の振動が、マイクロホン素子2の振動膜5へと伝達するのを防ぐ役割も有している。その点では、本実施例5の音響ファイバー19dは、先の実施例3や実施例4に示したものと同じ機能を有している。
【0108】
本実施例5の制振部材8bは弾性エポキシ樹脂(図示せず)とシリカ27との複合材であり、収音当接部材12dはアルミニウム製1.5mm厚のキャップ状を有する。これらの点においては、実施例2と同様である。しかしながら、本実施例5の収音当接部材12dの制振部材8bおよび振動伝達部材7bと接する裏面の略中心には、逆テーパー状の穿孔24が、収音当接部材12dを貫通しない程度に形成されている(本実施例5の場合、6.6mmφのドリルを用いて、孔径が5mmになるよう穿孔24を形成した)。すなわち、収音当接部材12dが収音対象物3との接触面を有する部分のうち、その中心部における厚さは周辺部よりも薄く構成されている。そして、その逆テーパー状の穿孔24には、振動伝達部材7bが注入されている。
【0109】
この穿孔24の径は、気導音10が伝達してくると考えられる接触式マイクロホン1kの外周部からの距離を制御するとともに、体内伝導音4による垂直方向の振動を受ける面積を制御する。また、穿孔24の深さは、当然のことながら収音当接部材12dの残りの厚み(例えば0.5mm)を決定し、収音対象物3の固体振動に対する追随性を左右する。このような構造をとることにより、収音対象物3(皮膚など)からの固体振動は、穿孔24の孔径に相当する面積だけ厚みが薄くなった、収音当接部材12dの略中央部において感度の良い収音を可能とする。それとともに、周囲の空気あるいは接触式マイクロホン1kの装着時に発生する収音対象物3との隙間18の空気を介して、気導音10(騒音)が収音当接部材12dの周辺部から伝達されたとしても、それが固体振動として伝達される収音当接部材12dの略中央部までの距離は遠いので、S/N比向上にも効果がある。
【0110】
なお、本実施例5において採用した振動伝達部材7bとしては、先の実施例1〜実施例3において用いたウレタンエラストマーに無機フィラー(本実施例5においてはシリカ27)を複合化させ、体積弾性率を傾斜させたものを用いた。この体積弾性率の傾斜は例えば、硬化前にそれらの成分の比重差による自然沈降法を用いることで、収音当接部材12d側では無機フィラー(シリカ27)を多く存在させ、マイクロホン素子2の振動膜5側では少なく存在させるようにすれば可能である。このようにすれば、収音当接部材12dとの接触面と、マイクロホン素子2の振動膜5との接触面のそれぞれにおいて、振動伝達部材7bの体積弾性率を収音当接部材12dまたは振動膜5に近いものとすることができる。こうして、それぞれの接触面において音響インピーダンスのマッチングが図られ、体内伝導音4による振動の反射減衰が低減される。
【0111】
このような本実施例5における接触式マイクロホン1kは、例えば、以下のようなプロセスにより作製することができる。図10〜図14は、本発明の実施例5における接触式マイクロホン1kの作製方法の例を示す図である。
【0112】
まず、図10(a)に示すように、旋盤ドリル26などにより、収音当接部材12dの裏側中央部に穿孔24(貫通しない孔)を開ける。次に、図10(b)に示すように、制振部材8bを用いて金属製の円筒19eを収音当接部材12dの裏側中央部に接着し、80℃で1時間硬化させる。その際、金属製の円筒19eの端部断面が穿孔24の輪郭を囲むように、金属製の円筒19eを配置する。そして、図10(c)に示すように、ウレタンエラストマーに無機フィラーを複合化させた振動伝達部材7bを、その円筒19eの空洞内部に注入する。この、ウレタンエラストマーに無機フィラーを複合化させた振動伝達部材7bは、例えばウレタンエラストマー(例えば(株)エクシールコーポレーション社製ポリウレタン人肌のゲル原液(C−15)の主剤と硬化剤)に、あらかじめγ―アミノプロピルトリアルコキシシラン、またはグリシドキシプロピルトリアルコキシシランなどで表面処理したシリカフィラー(粒子径:数十μから数百μ)を20wt%分散させたものである。
【0113】
さらに、図11(a)に示すように、振動伝達部材7bを室温下で5時間、放置した後、80℃にて1時間硬化させる。このような放置処理により、図11(b)に示すように、振動伝達部材7bに含有されるフィラー(シリカ27)が、ウレタンエラストマーとの比重の差により自然沈降する。そして、収音当接部材12d側ではシリカフィラーが多く存在し、マイクロホン素子2の振動膜5側では少なく存在する状態となった音響ファイバー19dが形成される。すなわち、振動伝達部材7bは体積弾性率が傾斜し、収音当接部材12dとの接触面と、マイクロホン素子2の振動膜5との接触面のそれぞれにおいて、振動伝達部材7bの体積弾性率を収音当接部材12dまたは振動膜5に近いものとすることができる。こうして、それぞれの接触面において音響インピーダンスのマッチングが図られ、体内伝導音4による振動の反射減衰が低減される。その後、図11(c)に示すように、硬化前の制振部材8bを音響ファイバー19dの周辺部分に充填する。
【0114】
一方、図12(a)に示すように、カバー部材9の略中心部には、導線6と接続されたマイクロホン素子2を配置する。このとき、マイクロホン素子2の導線6は、カバー部材9に設けられた貫通孔(符号は図示せず)に通し、カバー部材9の外部に出しておく。
【0115】
次に、その状態で、制振部材8bの硬化前の前駆体である、例えばシリカを50wt%含む2液系弾性エポキシ樹脂を、マイクロホン素子2の高さ近くまで充填する。そして、図12(b)に示すように、その制振部材8bの硬化前の前駆体であるエポキシ樹脂の上に、マイクロホン素子2の径に合わせて穴が設けてあるワッシャ22を載せる。このとき、マイクロホン素子2がワッシャ22の貫通孔の内部の略中心に配置されるよう、ワッシャ22を設置する。その状態で80℃で1時間の加熱により硬化し、制振部材8bの一部が形成される。
【0116】
さらに、図12(c)に示すように、マイクロホン素子2の収音開口部11より、ウレタンエラストマー(例えば(株)エクシールコーポレーション社製ポリウレタン人肌のゲル原液(C−15)の主剤と硬化剤を3:1にて混合したもの)7cを注入し、80℃で1時間加熱・硬化させる。このウレタンエラストマー7cは、先の振動伝達部材7bを作製する過程で無機フィラーを複合化させていないものと同等である。
【0117】
以上のようにそれぞれ作業を終えた収音当接部材12d(図10、図11参照)とカバー部材9(図12参照)とを、図13に示すように、互いにかん合させる。このとき、図14(a)に示すように、あらかじめ収音当接部材12dに設けられた排出孔25より、制振部材8bの硬化前の前駆体であるエポキシ樹脂の余剰分が排出される。そうすれば、制振部材8bの内部などに空洞が生ずることもなく、必要十分な制振部材8bが充填される。その後、図14(b)に示すように、約400gの錘を載せた状態にて80℃で1時間加熱・硬化させれば、本実施例5における接触式マイクロホン1nが完成する。
【0118】
このとき、マイクロホン素子2の内部にある振動膜5側に充填されたウレタンエラストマー7cは、もともと、先の振動伝達部材7bを作製する過程で無機フィラーを複合化させていないものと同などのものである。したがって、ウレタンエラストマー7cは、音響ファイバー19dの円筒19e内に充填された振動伝達部材7bと一体化し、結果的にはその一体化したものも振動伝達部材7bということになる。そして、収音当接部材12d側ではシリカフィラーが多く存在し、マイクロホン素子2の振動膜5側ではほとんど存在しない状態となった音響ファイバー19dが形成される。すなわち、振動伝達部材7bは体積弾性率が傾斜し、収音当接部材12dとの接触面と、マイクロホン素子2の振動膜5との接触面のそれぞれにおいて、振動伝達部材7bの体積弾性率を収音当接部材12dまたは振動膜5に近いものとすることができる。こうして、それぞれの接触面において音響インピーダンスのマッチングが図られ、体内伝導音4による振動の反射減衰が低減される。
【0119】
このように作製された接触式マイクロホン1nを、先の実施例1と同様に単音節20語音表を用いて評価した結果は以下の通りである。すなわち、本実施例3における接触式マイクロホン1cのS/N比は28.5dBであり、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)のS/N比7dBと比較して、騒音環境下のS/N比が大幅に向上していることが明らかになった。また、振動伝達部材7bの一部が収音当接部材12dの略中央部に入り込んだ構造となっており、接触式マイクロホン1n自体の低背化・小型化にも寄与している。
【0120】
以上のように、本実施例5の接触式マイクロホンを用いれば、耐騒音性がさらに改善され、騒音環境下で通常音声や非可聴つぶやき音声などが明瞭に収音し易くなる。
【0121】
(実施例6)
図15は、本発明の実施例6における接触式マイクロホンの側断面図である。図15(a)は、本実施例6における接触式マイクロホン1mの全体側断面図であり、図15(b)は、本実施例6における接触式マイクロホン1mを上から見た透視図である。本実施例3の接触式マイクロホン1cの構成は、先に述べた実施例1または実施例2と共通している部分が多いため、それらについてはその説明をできるだけ省略し、主に、先に述べた実施例1と異なる部分について、これより説明する。
【0122】
まず、本実施例6の接触式マイクロホン1mにおいても、先の実施例1〜4と同様、振動伝達部材7aと収音当接部材12bとの接触部が有する接触面積のうち、収音当接部材12bが収音対象物3と接触する面と平行な方向の接触面積は、振動伝達部材7aの他の部分における平行方向の断面積以下となっている。それに加えて、振動伝達部材7aが円筒19aに格納されることにより音響ファイバー19が構成され、円筒19aの断面は収音当接部材12bの収音対象物3との接触面の裏面およびマイクロホン素子2の収音開口部11と対向し、円筒19eの側面は制振部材8bと当接している。以上の構成により、本実施例6の接触式マイクロホン1mは、騒音環境下による周囲の背景雑音の混入を反射・抑制し、目的とする収音対象物の振動のみを効率よく収音することができる。その結果、耐騒音性がさらに改善され、通常音声のみならず話者のつぶやき音などのような非可聴な音声や物音のみを明瞭に皮膚などの収音対象物から収音し易くすることができる。
【0123】
本実施例6に示す接触式マイクロホン1mは、先に述べた振動伝達部材7a(7bまたは7eでもよい)を有する音響ファイバー19(19bまたは19dでもよい)とマイクロホン素子2との対を、複数有している。これらの対を増やすことにより、S/N比が改善される。すなわち、先の(式5)の分子項を大きくすることにつながる。
【0124】
なお、マイクロホン素子2および振動伝達部材7aのそれぞれの中心軸は、収音当接部材12bが収音対象物3と接触する面と垂直な方向において略同一の軸上にあり、先に述べた複数の組み合わせの各中心より得られる仮想重心点は、収音当接部材12bの中心と略一致していることが望ましい。ちなみに、マイクロホン素子2の数が増えると、それらが有する導線6の配線に支障をきたすため、例えば少なくとも2個以上のマイクロホン素子2を電気的に直列に接続させても良い。
【0125】
このように作製された接触式マイクロホン1mを、先の実施例1と同様に単音節20語音表を用いて評価した結果は以下の通りである。本実施例3における接触式マイクロホン1cのS/N比は25dBであり、従来の接触式マイクロホン100(図16参照)のS/N比7dBと比較して、騒音環境下のS/N比がやはり向上していることが明らかとなった。すなわち、マイクロホン素子2の数を増やすことは、接触式マイクロホンのS/N比の改善に寄与することにつながる。
【0126】
以上のように、本実施例6の接触式マイクロホンを用いれば、耐騒音性がさらに改善され、騒音環境下で通常音声や非可聴つぶやき音声などが明瞭に収音し易くなる。
【0127】
なお、本発明の実施例は上記の実施例1〜実施例6に限らず、これらそれぞれの各部分を組み合わせたものも考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
このようにして耐騒音性の向上が図れた接触式マイクロホンは、一般的な屋外や工事現場などの騒音環境下において、話者の音声や非可聴なつぶやき音を背景雑音の混入なく、明瞭に採取することが可能になる。また、通常音声通話や音声入力・音声認識・無音声電話へ応用することにより、携帯情報端末機などへのエラーのない音声入力や、内容秘匿通話において非常に明瞭な音声・音質を有するコミュニケーションの実現が可能となる。さらに、本発明における接触式マイクロホンは、作業用や工事用のヘルメットの顎紐や防寒のための耳覆いなどに、組み込むことも可能である。またさらに、プライバシー保護を目的に、周囲の話し声を収音せずに振動検出対象物の振動のみを検出するセンサとして使用することもできる。例えば、一般家庭用の水道流量検出センサである。その他、床へ埋め込むことにより歩行者の歩行紋を検出し侵入者を特定する、などのセキュリティ分野にも応用することができる。
【符号の説明】
【0129】
1a〜1h、1j〜1m、100 接触式マイクロホン
2 マイクロホン素子
3 収音対象物(皮膚など)
4 体内伝導音
5 振動膜
6 導線
7a、7b、107 振動伝達部材
7c ウレタンエラストマー
8a、8b、108 制振部材
9 カバー部材
10、10a、10b、10c 気導音
11 収音開口部
12a、12b、12c、12d 収音当接部材
18 隙間
19、19b、19d 音響ファイバー
19a、19c、19e 円筒
20 プラスチック球
21 空洞
22 ワッシャ
23 上下連結用チューブ
24 穿孔
25 排出孔
26 旋盤ドリル
27 シリカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動膜を有するマイクロホン素子と、
前記マイクロホン素子を格納する振動伝達部材と、
前記振動伝達部材を格納する制振部材と、
開口部を有し前記マイクロホン素子、振動伝達部材および制振部材を格納するカバー部材と、
前記カバー部材の開口部を覆って配置される収音当接部材と、を備え、
前記振動伝達部材は前記マイクロホン素子の振動膜および前記収音当接部材と接し、
前記制振部材は前記カバー部材と前記収音当接部材または前記振動伝達部材との間に充填されたことを特徴とする接触式マイクロホン。
【請求項2】
前記振動伝達部材と前記収音当接部材との接触部は、前記収音当接部材の略中心に設けられたことを特徴とする請求請1記載の接触式マイクロホン。
【請求項3】
前記収音当接部材が収音対象物と接触する面と平行な方向において、前記マイクロホン素子、前記振動伝達部材および前記収音当接部材のそれぞれの中心は、前記収音当接部材が収音対象物と接触する面と垂直な方向において略同一の軸上にあることを特徴とする請求項1または請求項2記載の接触式マイクロホン。
【請求項4】
前記マイクロホン素子と前記音響ファイバーとの組み合わせを複数有し、前記マイクロホン素子および前記振動伝達部材のそれぞれの中心軸は、前記収音当接部材が収音対象物と接触する面と垂直な方向において略同一の軸上にあり、前記組み合わせの各中心より得られる仮想重心点は、前記収音当接部材の中心と略一致したことを特徴とする請求項1記載の接触式マイクロホン。
【請求項5】
前記振動伝達部材と前記収音当接部材との接触部が有する接触面積のうち、前記収音当接部材が収音対象物と接触する面と平行な方向の接触面積は、前記振動伝達部材の他の部分における前記平行方向の断面積以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の接触式マイクロホン。
【請求項6】
前記振動伝達部材が円筒に格納されることにより音響ファイバーが構成され、前記円筒の断面は前記収音当接部材の収音対象物との接触面の裏面および前記マイクロホン素子の収音開口部と対向し、前記円筒の側面は前記制振部材と当接したことを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の接触式マイクロホン。
【請求項7】
前記収音当接部材が収音対象物との接触面を有する部分のうち、その中心部における厚さは周辺部よりも薄く構成されたことを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の接触式マイクロホン。
【請求項8】
前記振動伝達部材の前記収音当接部材との接触面側に、前記振動伝達部材よりも硬度の高い部材が設けられたことを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の接触式マイクロホン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−213037(P2012−213037A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77632(P2011−77632)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【特許番号】特許第5018979号(P5018979)
【特許公報発行日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】