説明

接触検知によるワークの基準位置設定機能を有する工作機械

【課題】ワークの中心座標を基準位置として設定することができるワークの基準位置設定機能を有する工作機械を得る。
【解決手段】可動軸が流体軸受により支持された工作機械に、加工面が直交する2つの線に対して線対称なワークを、機械座標系の軸と前記2つの線が平行となるように配置する。前記2つの線と平行な第1の線に沿ってワークの両側から機上計測装置のプローブのスタイラス先端を接触させる。接触は位置偏差の増大で検出する。接触時の座標を記憶する(S2〜S11)。前記2つの線と平行な第2の線に沿って、同様にプローブを移動させて接触時の座標を記憶する(S12〜S21)。第1、第2の線上でそれぞれ測定した中間点の座標はワーク中心座標である。このワーク中心座標をワーク基準位置として設定する(S22)。簡単にワークの基準位置を設定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機上にワークの形状測定および形状解析のために機上計測装置を備えた工作機械に関し、ワークの形状測定のために基準位置設定機能を備える工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
超精密加工において、ナノ単位の形状精度を実現するためには、加工を終了したワークを工作機械から取り外すことなく、工作機械上で加工形状を計測し、計測結果に基づいて補正加工を行うことが必要不可欠である。
そのような機上計測では、工具の刃先と機上計測装置に備えたプローブのスタイラス先端の位置関係を確立することにより、正確な補正加工が可能になる。そのために、ワークを加工するときの座標と、機上計測するときの計測座標の関係が確立していなければならない。このワークを加工するときの座標と、機上計測するときの計測座標の関係をとるためにワークの基準位置を設定する必要がある。
【0003】
このワークの基準位置の設定方法として、従来、次のような方法が知られている。
ワークの基準位置をワークの取り付けられる回転軸の中心とする。そして、芯出し球を回転軸の面盤に取り付ける。変位検出器を利用して、芯出し球の中心を回転軸の中心に合わせた後、機上計測装置のプローブを用いて芯出し球の頂点出しを行い、回転軸の中心座標を確定する。次に、芯出し球を取り外し、ワークを取り付ける。ワークまたはワークの治具の中心座標を、変位検出器を利用して回転軸の中心に合わせて、求めておいた回転軸の中心座標をワーク、またはワークの治具の基準位置とするという方法が知られている。
【0004】
また、ワークの端面位置をワークの原点として設定する方法として、主軸にタッチセンサを取り付けておき、ワークの端面に向けて主軸を早い速度で移動させてタッチセンサがONとなると停止させて、逆方向に遅い速度で移動させ、タッチセンサがOFFとなった時点の位置を記憶し、この位置をワークの原点として設定するようにした発明が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特公平8−350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の芯出し球を回転軸の面盤に取り付けてワークの基準位置を設定する方法は、基準位置設定までの手順が複雑で、時間がかかる。また、オペレータの熟練度によってはかなりの誤差が生じる可能性があり問題である。
又、特許文献1に記載された方法は、端面を検出し、その端面を原点として設定するものであり、適用が限られたものである。また、タッチセンサを用いて接触を検知することから、超精密加工を行う可動軸の軸受に流体軸受を使用するものにおいては、接触したとき可動軸が移動してしまい、タッチセンサでの接触の検出では、正確に座標を検出することが難しいという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、接触検知により座標を検知しワークの中心座標を基準位置として設定することができるワークの基準位置設定機能を有する工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、可動軸が流体軸受により支持され、ワークの形状測定および形状解析のために機上に配設された機上計測装置を備え、数値制御装置で制御される工作機械において、前記機上計測装置は、先端に微小な球を有するスタイラスを備えたプローブを有し、各可動軸へのそれぞれの位置指令と各可動軸の位置を検出する位置検出器で検出された各位置との位置偏差を各可動軸毎に検出する位置偏差検出手段と、加工面が直交する2つの線に対して線対称なワーク形状で、かつ、前記2つの線が機械座標系の軸と平行に配置されたワークに対して、前記2つの線とそれぞれ平行な線の両側からワーク方向に前記プローブを移動させて前記ワークと前記スタイラス先端とを接触させるよう前記可動軸を駆動する駆動制御手段と、前記ワークと前記スタイラス先端との接触を前記位置偏差検出手段によって検出された位置偏差の増大で検知する接触検知手段と、前記接触検知手段によって接触を検知した瞬間に前記可動軸を停止させる可動軸停止手段と、前記接触検知手段によって接触を検知した瞬間の座標を求める座標検知手段と、求められた座標よりワークの中心座標を求めワークの基準位置として設定する設定手段とを有することを特徴とする接触検知によるワークの基準位置設定機能を有する工作機械である。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記工作機械が有する可動軸を、直動軸と回転軸で構成し、前記直動軸の位置を検出する位置検出器は、分解能10nm以下のリニアスケールによって構成したものである。又、請求項3に係る発明は、前記回転軸の位置を検出する位置検出器を、分解能1万分の1度以下のパルスコーダによって構成し、該回転軸はモータに直接連結されダイレクトに駆動されるものとした。
又、請求項4に係る発明は、前記ワークの加工面と前記プローブの中心軸は直交するように配置するものとした。請求項5に係る発明は、前記位置偏差検出手段によって検出された位置偏差の値が予め定められた値以上になった瞬間を前記ワークと前記プローブのスタイラス先端との接触として、前記接触検知手段で検知するものとした。
【0010】
請求項6に係る発明は、前記ワークはその加工面が垂直となるように工作機械に取り付けられ、前記駆動制御手段は、水平方向の右及び左から前記プローブのスタイラス先端を近づけて接触させ、前記接触検知手段によって接触を検知したときの水平方向のそれぞれの座標を前記座標検知手段で求め、さらに、前記駆動制御手段は、前記ワークの垂直方向の上側および下側から前記プローブのスタイラス先端を前記ワークに接触させ、前記接触検知手段によって接触を検知したときの垂直方向のそれぞれの座標を前記座標検知手段で求め、前記設定手段は、求められた水平の座標より前記ワークの水平方向の中心座標を求め、垂直方向の座標よりワークの垂直方向の中心座標を求めて、各中心座標をワーク基準位置として設定するものとした。
請求項7に係る発明は、前記座標検知手段で求めた水平方向両端でのそれぞれの座標値の差を求め、この差の半分の値を小さいほうの座標値に加算した座標値をワークの水平方向の中心座標とし、前記座標検知手段で求めた前記垂直方向両端でのそれぞれの座標値の差を求め、この差の半分の値を小さいほうの座標値に加算した座標値をワークの垂直方向の中心座標として、前記ワークの中心座標を求めワーク基準位置として設定するようにした。そして、請求項8に係る発明は、前記ワークの中心座標を基準として、ワーク面にプローブのスタイラス先端を接触させ、機上計測装置によるワークの工作機械上での計測を行うものとした。
【発明の効果】
【0011】
可動軸が流体軸受で支持され、摩擦がほとんどない可動軸を有する超精密加工用の工作機械においても、簡単に、機上計測装置でワーク形状を計測するための基準位置を設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の超精密加工を行う機上に機上計測装置が配設された工作機械の概略図である。この実施形態では、可動軸は3つの直動軸と1つの回動軸を備えている。工作機械のベース1上には、水平方向のX軸方向(図1において紙面垂直方向)に駆動される直動軸のX軸部材2が取り付けられ、該X軸部材2上に回転テーブル5が取り付けられている。該回転テーブル5はX軸と直交する軸のB軸回りに回転する。この回転テーブル5には治具6を介して機上計測装置10が取り付けられている。又、ベース1には、X軸方向と直交する水平方向に駆動される直動軸のZ軸部材4が取り付けられている。さらに、X軸、Z軸と直交し、回転軸のB軸と平行なY軸方向に移動する直動軸のY軸部材3がZ軸部材4に取り付けられている。さらに、Y軸部材3にはワーク7が取り付けられている。
機上計測装置10は、先端に微小な球13を持ったスタイラス12を有するプローブ11を備え、ワーク7の加工面に対してプローブ11の中心軸が直交するように配置されている。
【0013】
なお、この実施形態では、直動軸のX軸、Y軸、Z軸を駆動するモータは、リニアモータで構成され、回動軸のB軸を駆動するモータは、回転サーボモータで構成され、回転テーブル5と回転サーボモータはダイレクトに接続され、ダイレクトドライブを構成している。
又、X軸、Y軸、Z軸、B軸の各軸は、流体軸受(空気軸受)で支持され、摩擦のほとんどない可動軸とされている。
【0014】
図2は、この工作機械を制御する制御装置である数値制御装置の要部ブロック図である。数値制御部21では、加工プログラムを読み出して実行し、各軸への移動指令を各軸サーボ制御手段22x〜22bに出力する。X軸のモータ24xを制御するX軸サーボ制御手段22xに記載されているように、各軸サーボ制御手段22x〜22bは、位置制御部221、速度制御部222、電流制御部223等で構成されており、Y軸、Z軸、B軸のサーボ制御手段22y、22z、22bもこのX軸サーボ制御手段22xの構成と同一である。
【0015】
各軸サーボ制御手段22x〜22bの位置制御部221では、エラーレジスタ221aとポジションゲインKの項221bで構成され、数値制御部21から各軸サーボ制御手段22x〜22bにそれぞれ指令された移動位置と、位置、速度を検出する位置・速度検出器25x〜25bからフィードバックされる位置との差である位置偏差εをエラーレジスタ221aで求め、該位置偏差εにポジションゲインKを乗じて、指令速度を求め出力する。速度制御部222では、位置制御部221から出力される指令速度より位置・速度検出器25x〜25bからフィードバックされる速度を減じて速度偏差を求め、比例・積分処理等の速度のフィードバック制御を行い電流指令(トルク指令)を求める。そして、電流制御部223では、この電流指令とアンプ23x〜23bからフィードバックされる電流とに基づいて電流フィードバック制御を行いアンプ23x〜23bを介して各軸モータ24x〜24bを駆動する。
【0016】
この実施形態では、直動軸のX軸、Y軸、Z軸のモータ24x、24y、24zはリニアモータで構成されている。また、回転軸のB軸を駆動するモータ24bは、回転サーボモータで構成され、上述したように回転テーブル5をダイレクトドライブするように構成されている。又、リニアモータで構成された直動軸のX軸、Y軸、Z軸のモータ24x、24y、24zで駆動される各可動部材の位置は、リニアスケールで構成された位置・速度検出器25x、25y、25zで検出している。
【0017】
本実施形態の工作機械は、超精密加工を実施するものであることから、このリニアスケールで構成される位置・速度検出器25x、25y、25zは10nm(ナノメータ)以下の検出分解能の高精度な検出器で構成されている。また、回転軸のB軸のモータ24bに取り付けられる、パルスコーダ等の位置・速度検出器25bも、1万分の1度以下の分解能を有する高精度の分解能の位置・速度検出器25bで構成されている。
【0018】
上述した工作機械の構成、及び該工作機械を制御する制御部の構成は、従来の超精密加工用の工作機械及びその制御装置とほぼ同じであるが、本発明は、機上計測装置を備え、接触検知によるワークの基準位置設定機能を有する点において、従来の工作機械と相違するものである。
【0019】
本実施形態は、機上計測装置10のプローブ11が備えるスタイラス先端の微小な球13をワーク7に当接して、この当接したときの座標よりワークの中心座標を求めて基準位置とするものである。
【0020】
本実施形態の工作機械は、前述したように各直動軸のX軸部材2、Y軸部材3、Z軸部材4及び回転軸のB軸回りに回転する回転テーブル5は、流体軸受で支持されており、摩擦がほとんどない。そのため、プローブ11が備えるスタイラス12の先端の球13とワーク7が接触し、プローブ11又はワーク7に負荷がかかると、この負荷によりいずれかの可動軸が移動する。この移動により指令位置と検出位置との位置偏差εが増大するから、この位置偏差εの増大を検出することによって、プローブ11とワーク7の接触を検出できる。
【0021】
図3は、可動軸の軸受として流体軸受を用い、可動部を移動させたときの位置偏差を測定したものである。可動軸の移動で摩擦力がほとんど発生しないことから、位置偏差の変動は格段と小さいものとなっている。図3において、符号Pで示す点は、スタイラス12の先端の球13とワーク7が接触した点である。
【0022】
この図3に示すように、流体軸受で支持された可動軸は位置偏差がほとんど現れず、これらの軸に僅かな負荷がかかったときに発生する位置偏差が、負荷がかからないときと比較し大きなものとなっている。そのため、可動軸に負荷がかかったか否かを位置偏差で検出するための比較基準値の設定が容易で、スタイラス12の先端の球13とワーク7との接触を精度よく検出することができる。
【0023】
本実施形態は、ワーク7の加工面と平行な断面が、加工面と同一形状を有するワークであり、かつ、加工面が2つの直交する線に対してそれぞれ線対称の形状を有するワーク7を対象とするものである。そして、このワーク7の線対称となる線の2つの直交する線は機械座標系の軸と平行になるように、ワーク7は工作機械に取り付けられるものである。図1に示す例では、ワーク7の対称線がX軸、Y軸と平行となるように取り付けられている。
【0024】
図4は、本実施形態において、ワーク7が直方体でその加工面7aの中心座標を求め該中心座標をワークの基準位置として設定する場合の説明図である。この直方体のワーク7は、図4(a)に示すように、加工面7aは垂直面であり、該加工面7aは垂直方向(Y軸方向)と水平方向(X軸方向)の2つの直交する直線に対して線対称の形状である。このようなワーク7に対して、該ワークの中心座標を検出しワークの基準位置として設定する場合、線対称の線と平行な線に沿って、機上計測装置10におけるプローブ11のスタイラス12の球13がワーク7の両側よりワーク7に接触するように移動させて、位置偏差が増大したとき、そのときの座標を接触位置の座標として記憶するようにする。
【0025】
図4(b)は、水平方向(X軸方向)にワーク7とプローブ11を相対移動させて示すスタイラス12の球13とワーク7の接触点の座標を求めるときの動作説明図である。図4(b)はワーク7の上面7bをみる方向からみた図であり、図1における上方からみた図である。X軸部材2、Y軸部材3、Z軸部材4を移動させてワーク7の側面7cに対して、プローブ11が有するスタイラス12の球13が当接可能の状態に位置決めし、X軸部材2を駆動し、図4(b)に破線の矢印で示すように、プローブ11を水平方向にワーク7に向かって移動させ、スタイラス12の球13とワーク7の側面7cが接触したときの位置偏差(X軸部材を駆動するサーボ制御手段22xのエラーレジスタ221aで求められる位置偏差、もしくは回転テーブル5を駆動するサーボ制御手段22bのエラーレジスタ221aで求められる位置偏差)が増大する点を接触点として、移動軸の座標(X軸の座標)を求める。次に、プローブ11をワーク7の反対側面側に移動させて、同様に、X軸部材2を駆動し、プローブ11を水平方向にワーク7に向かって移動させ、スタイラス12の球13とワーク7の側面7cが接触し位置偏差が増大するときのX軸の座標を求める。こうして求められた2つのX座標値を加算し2で割れば、加工面の水平方向(X軸方向)の中間座標が求められる。この座標は加工面7aの水平方向の中心座標、すなわちX軸中心座標を表すものとなる。
【0026】
図4(c)は、垂直方向にワーク7とプローブ11を相対移動させて示すスタイラス12の球13とワーク7の接触座標を求めるときの動作説明図であり、図1において、Y軸部材3を駆動し、スタイラス12の球13をワーク7の上面7bと下面に接触させて、ワークの加工面7aの中心Y軸座標を求めるときの説明図である。X軸部材2、Y軸部材3、Z軸部材4を移動させてワーク7の上面7bにプローブ11のスタイラス12の球13が当接可能の状態に位置決めし、Y軸部材3を駆動し、図4(c)に破線の矢印で示すように、プローブ11を垂直方向にワーク7に向かって移動させ、スタイラス12の球13とワーク7の上面7bが接触し、Y軸の位置偏差が増大する点を接触点として、そのY軸座標を求める。
【0027】
次に、同様に、スタイラス12の球13とワーク7の下面が接触するようにY軸部材3を移動させてY軸の位置偏差が増大するときのY軸座標を求める。こうして求められた2つのY座標値を加算し2で割れば、加工面7aの垂直方向(Y軸方向)の中心座標、すなわちY軸中心座標を求めることができる。
こうして、加工面(XY平面)の中心座標が求まる。
【0028】
図5は、円柱形状でその端面が加工面であるワーク7の例である。この例も図1に示すように、加工面が垂直面となるように取り付けられるものであり、加工面は水平軸のX軸と垂直軸のY軸に対して線対称である。このワーク7の例も、図5(b)、(c)に示すように水平方向(X軸方向)、垂直方向(Y軸方向)のワーク両側より、プローブ11のスタイラス12の球13がワーク7に接近し接触するように相対移動させ、その接触点の座標の中間座標を求めることによって、加工面7aの円の中心を求めることができる。図5(b)に示すように、X軸方向の両側よりスタイラス12の球13をワークに接近させて接触させ、接触時に得られた2つの座標の中間点を求めれば、加工面7aの中心のX座標が求まり、同様に、図5(c)に示すように、Y軸方向の両側よりスタイラス12の球13をワークに接近させて接触させ、接触時に得られた2つの座標の中間点を求めれば、加工面7aの中心のY座標が求まる。
【0029】
こうして求めたワークの中心座標を基準位置として設定すれば、機上計測装置のプローブのスタイラス先端位置と工具刃先位置の対応を確立することができる。例えば、加工プログラムの座標系の原点をワーク中心位置とすれば、設定した座標を原点とすることによって、スタイラス先端位置と工具刃先位置は同じ位置を示すものとなり、正確な補正加工ができる。
【0030】
図6は、数値制御装置が実行するワークの基準位置設定処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
工作機械に、機械の座標系の軸とワークの対称線が平行となるようにワーク7を取り付け、機上計測装置のプローブ11の中心軸がワークの加工面に対して垂直となるように配置し、かつ、実行する加工プログラムを数値制御装置に入力した後、ワークの基準位置設定指令を数値制御装置に入力すると、数値制御部21のプロセッサは、図6に示す処理を開始する。
【0031】
まず、入力された加工プログラムより、ワーク7の加工面における2つの対称線と平行な線をアプローチ線とし、該アプローチ線上で、ワーク7とプローブ11が干渉せず、該アプローチ線に沿ってプローブ11をワーク7に向かって移動させたとき、プローブ11が有するスタイラス12の先端の球13がワーク7と接触する4つの測定アプローチ位置を求める(ステップS1)。
【0032】
第1のアプローチ線上(この実施形態では第1のアプローチ線は水平線のX軸と平行な線である)の一方の測定アプローチ位置にプローブを位置決めする(ステップS2)。次に、ワーク7の方向へプローブ11を移動させる。すなわち、X軸モータ24xを駆動し、X軸部材2を移動させてプローブ11をワーク7方向に移動させる(ステップS3)。そして、各軸サーボ制御手段22x〜22bの位置制御部221のエラーレジスタ221aで求められる位置偏差εが基準値を超えていないか判断する(ステップS4)。プローブ11が有するスタイラス12の先端の球13がワーク7と接触すると、X軸の位置偏差もしくは、B軸の位置偏差が増大し、基準値を超え、これを検出すると、プローブ11の移動を停止させ(X軸モータ24xの駆動を停止させ)、このときの移動軸の座標、すなわち、X軸座標をレジスタR1に格納する(ステップS5、S6)。なお、プローブ11の移動(X軸モータ24xの駆動)を停止させる方法としては、数値制御装置が備えるスキップ機能を利用し、位置偏差εが基準値を超えたことをスキップ信号として、該スキップ信号が入力されると、ステップS3で指令していた移動指令の残りを停止し、次の処理に移行させるようにする。
【0033】
次に、プローブ11を測定アプローチ位置に戻すと共にプローブ11がワーク7と干渉しないように退避させて、第1のアプローチ線上(X軸と平行な線上)の他方の測定アプローチ位置にプローブ11を位置決めする(ステップS7)。この実施形態では、B軸モータ24bを駆動して回転テーブル5を所定量回転させるか、Z軸モータ24zを駆動しZ軸部材4を所定量移動させて、プローブ11とワーク7が干渉しない状態として、X軸部材2を駆動して、プローブ11を移動させて、回転テーブル5又はZ軸部材4をもとの位置に戻すことによって、プローブ11を第1のアプローチ線上における他方の測定アプローチ位置に位置決めすることができる。
【0034】
次に、X軸モータ24xを駆動し、ワーク7方向にプローブ11を移動させ(ステップS8)、プローブ11がワーク7と接触し、X軸の位置偏差又B軸の位置偏差が基準値を超えると(ステップS9)、X軸モータ24xの駆動を停止し(ステップS10)、そのときのX軸座標をレジスタR2に格納する(ステップS11)。
【0035】
さらに、回転テーブル5やZ軸部材4を移動させて、プローブ11がワーク7と干渉しないように退避させて、第2のアプローチ線上(Y軸と平行な線上)の一方の測定アプローチ位置にプローブ11を位置決めする(ステップS12)。この場合、Y軸部材を移動させることによって、プローブ11を相対的にワーク7に対して位置決めすることになる。そして、Y軸モータ24yを駆動しプローブ11を相対的にワーク7方向に移動させる(ステップS13)。ワーク7とプローブ11が有するスタイラス12の先端の球13が接触し、Y軸の位置偏差εが基準値を超えると(ステップS14)、プローブ11のワーク7に対する相対移動を停止させる(ステップS15)。すなわち、Y軸モータ24yの駆動を停止し、Y軸部材3の移動を停止させる。そしてこのときのY軸座標をレジスタR3に格納する(ステップS16)。
【0036】
さらに、同様に、プローブ11がワーク7と干渉しないように退避させて、第2のアプローチ線上(Y軸と平行な線上)の他方の測定アプローチ位置にワーク7をプローブ11に対して相対的に位置決めする(ステップS17)。そして、Y軸モータ24yを駆動しワーク7をプローブ11の方向に駆動し(ステップS18)、ワーク7がプローブ11におけるスタイラス12の先端の球13と接触し、Y軸の位置偏差εが基準値を超えると(ステップS19)、プローブ11に対するワーク7の相対移動を停止する(ステップS20)させる。すなわち、Y軸モータ24yの駆動を停止し、Y軸部材3の移動を停止させる。そしてこのときのY軸座標をレジスタR4に格納する(ステップS21)。
【0037】
こうして求めたレジスタR1、R2に記憶するX軸の座標を加算し2で割ることによって、2つのX座標の中間座標を求め、レジスタR3、R4に記憶するY軸の座標を加算し2で割ることによって、2つのY座標の中間座標を求める。このX、Y座標の中間座標は、ワーク7の中心座標を表すものであるから、このワーク中心座標をワークの基準位置として設定し(ステップS22)、このワークの基準位置設定処理を終了する。
なお、水平方向両端の座標値の差を求め、この差の半分の値を小さいほうの座標値に加算した座標値をワークの水平方向の中心座標とし、垂直方向両端の座標値の差を求め、この差の半分の値を小さいほうの座標値に加算した座標値をワークの垂直方向の中心座標として、前記ワークの中心座標を求めワーク基準位置として設定してもよい。
【0038】
こうして設定されたワークの基準位置に基づいて、プローブのスタイラス先端をワーク面に接触させ、機上計測装置によりワークを工作機械上で計測する。このワークの基準位置を介して、スタイラス先端と刃物の刃先が関係づけられるから、計測した形状に基づいて補正加工が明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態の工作機械の概略図である。
【図2】同実施形態における数値制御装置の要部ブロック図である。
【図3】可動軸の軸受として流体軸受を用いたときの、位置偏差の変動を示す図である。
【図4】本発明の実施形態において、直方体のワークにおける加工面の中心座標を求めワークの基準位置として設定する場合の説明図である。
【図5】本発明の実施形態において、円柱のワークにおける端面を加工面としたときのワーク中心座標を求めワークの基準位置として設定する場合の説明図である。
【図6】同実施形態におけるワークの基準位置設定処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0040】
1 工作機械のベース
2 X軸部材
3 Y軸部材
4 Z軸部材
5 回転テーブル
6 治具
7 ワーク
10 機上計測装置
11 プローブ
12 スタイラス
13 球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動軸が流体軸受により支持され、ワークの形状測定および形状解析のために機上に配設された機上計測装置を備え、数値制御装置で制御される工作機械において、
前記機上計測装置は、先端に微小な球を有するスタイラスを備えたプローブを有し、
各可動軸へのそれぞれの位置指令と各可動軸の位置を検出する位置検出器で検出された各位置との位置偏差を各可動軸毎に検出する位置偏差検出手段と、
加工面が直交する2つの線に対して線対称なワーク形状で、かつ、前記2つの線が機械座標系の軸と平行に配置されたワークに対して、前記2つの線とそれぞれ平行な線の両側からワーク方向に前記プローブを移動させて前記ワークと前記スタイラス先端とを接触させるよう前記可動軸を駆動する駆動制御手段と、
前記ワークと前記スタイラス先端との接触を前記位置偏差検出手段によって検出された位置偏差の増大で検知する接触検知手段と、
前記接触検知手段によって接触を検知した瞬間に前記可動軸を停止させる可動軸停止手段と、
前記接触検知手段によって接触を検知した瞬間の座標を求める座標検知手段と、
求められた座標よりワークの中心座標を求めワークの基準位置として設定する設定手段と、
を有することを特徴とする接触検知によるワークの基準位置設定機能を有する工作機械。
【請求項2】
工作機械が有する可動軸は、直動軸と回転軸で構成され、前記直動軸の位置を検出する位置検出器は、分解能10nm以下のリニアスケールによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の接触検知によるワークの基準位置設定機能を有する工作機械。
【請求項3】
前記回転軸の位置を検出する位置検出器は、分解能1万分の1度以下のパルスコーダによって構成され、該回転軸はモータに直接連結されダイレクトに駆動されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接触検知によるワークの基準位置設定機能を有する工作機械。
【請求項4】
前記ワークの加工面と前記プローブの中心軸は直交していることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の接触検知によるワークの基準位置設定機能を有する工作機械。
【請求項5】
前記接触検知手段は、前記位置偏差検出手段によって検出された位置偏差の値が予め定められた値以上になった瞬間を前記ワークと前記プローブのスタイラス先端との接触として検知することを特徴とする請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の接触検知によるワークの基準位置設定機能を有する工作機械。
【請求項6】
前記ワークはその加工面が垂直となるように工作機械に取り付けられ、前記駆動制御手段は、水平方向の右及び左から前記プローブのスタイラス先端を近づけて接触させ、前記接触検知手段によって接触を検知したときの水平方向のそれぞれの座標を前記座標検知手段で求め、さらに、前記駆動制御手段は、前記ワークの垂直方向の上側および下側から前記プローブのスタイラス先端を前記ワークに接触させ、前記接触検知手段によって接触を検知したときの垂直方向のそれぞれの座標を前記座標検知手段で求め、前記設定手段は、求められた水平の座標より前記ワークの水平方向の中心座標を求め、垂直方向の座標よりワークの垂直方向の中心座標を求めて、各中心座標をワーク基準位置として設定する請求項1乃至5の内のいずれか1項に記載の接触検知によるワークの基準位置設定機能を有する工作機械。
【請求項7】
前記座標検知手段で求めた水平方向両端でのそれぞれの座標値の差を求め、この差の半分の値を小さいほうの座標値に加算した座標値をワークの水平方向の中心座標とし、前記座標検知手段で求めた前記垂直方向両端でのそれぞれの座標値の差を求め、この差の半分の値を小さいほうの座標値に加算した座標値をワークの垂直方向の中心座標として、前記ワークの中心座標を求めワーク基準位置として設定するようにした請求項6に記載の接触検知によるワークの基準位置設定機能を有する工作機械。
【請求項8】
前記ワークの中心座標を基準として、ワーク面にプローブのスタイラス先端を接触させ、機上計測装置によるワークの工作機械上での計測を行うことを特徴とする請求項1乃至7の内のいずれか1項に記載の接触検知によるワークの基準位置設定機能を有する工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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