説明

推進ユニット用旋回装置

【課題】小型の電動機と大きな減速比が確保された小型の減速機とを備え、大幅に小型化が図られた旋回アクチュエータを実現するとともに、推進ユニットの旋回動作に必要な十分な大きさの旋回トルク及び旋回速度を確保する。
【解決手段】旋回アクチュエータ11は、旋回ギアに噛み合うピニオン17が設けられた減速機13と減速機13を回転駆動する電動機12とを有する。減速機13は、内歯20が設けられたケース15、内歯20に噛み合う外歯歯車26、外歯歯車26を偏心回転させるクランク軸24、クランク軸24を回転自在に保持するとともにピニオン17が取り付けられた出力部25、を有する。電動機12の定格回転速度は1000RPM以上3000RPM以下に、減速機13における速比は50以上100以下に、旋回ギアに対するピニオン17の速比は10以上20以下に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペラの回転により船舶を推進させるとともにプロペラ軸と垂直な旋回軸線を中心として船舶において回転自在に支持された推進ユニットを、旋回軸線を中心に旋回させる推進ユニット用旋回装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アジマススラスターやポッド等と称され、プロペラの回転により船舶を推進させるとともにプロペラ軸と垂直な旋回軸線を中心として船舶において回転自在に支持された推進ユニットが知られている。そして、この推進ユニットが設けられる船舶においては、特許文献1に開示されているように、旋回軸線を中心に推進ユニットを旋回させる推進ユニット用旋回装置が設けられている。このように推進ユニット及び推進ユニット用旋回装置が設けられた船舶においては、推進ユニットのプロペラが回転することで船舶が推進され、推進ユニット用旋回装置によって推進ユニットが旋回することで船舶の操舵が行われる。
【0003】
特許文献1に開示された推進ユニット用旋回装置においては、サーボモータとこのサーボモータの駆動軸に取り付けられた減速機とを有し、推進ユニットを旋回軸線を中心に旋回させる旋回アクチュエータが設けられている。そして、旋回アクチュエータの減速機の出力軸には、ピニオンが取り付けられており、このピニオンが、旋回軸線を軸線方向として配置される旋回ギアである旋回輪に噛み合うように配置されている。これにより、サーボモータの回転駆動力が減速機で減速されて伝達されてピニオンから出力され、旋回輪とともに推進ユニットが旋回されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−57002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された推進ユニット用旋回装置の旋回アクチュエータにおいては、上記のサーボモータとして、上記の減速機に比して相当に大きく構成された大型の電動機が用いられている。このため、推進ユニットの旋回動作に必要な旋回トルクが確保されるものの、電動機の大型化を招いてしまい、旋回アクチュエータの小型化を図ることが困難である。一方、旋回アクチュエータにおいて、電動機を小型化して推進ユニットの旋回動作に必要な旋回トルクを確保するためには、大きな減速比を有する減速機を用いる必要がある。大きな減速比を有する減速機として、多くの歯車要素を有する平歯車機構、遊星歯車機構、又はウォームギア機構として構成された歯車機構やこれらの組み合わせとして構成された歯車機構を用いることが考えられる。しかしながら、これらの歯車機構によって大きな減速比を確保しようとすると、減速機自体の大型化を招いてしまうことになる。このため、旋回アクチュエータの小型化を図ることが困難となる。また、推進ユニット用旋回装置においては、推進ユニットの旋回速度として、2RPMから3RPM程度の速度を確保することも要求される。以上のことから、従来においては、小型の電動機と大きな減速比が確保された小型の減速機とを備えて大幅に小型化が図られた旋回アクチュエータを実現することが難しく、また、そのような旋回アクチュエータによって推進ユニットの旋回動作に必要な十分な大きさの旋回トルク及び旋回速度を確保することも困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、小型の電動機と大きな減速比が確保された小型の減速機とを備え、大幅に小型化が図られた旋回アクチュエータを実現できるとともに、推進ユニットの旋回動作に必要な十分な大きさの旋回トルク及び旋回速度を確保することができる、推進ユニット用旋回装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための第1発明に係る推進ユニット用旋回装置は、プロペラの回転により船舶を推進させるとともにプロペラ軸と垂直な旋回軸線を中心として船舶において回転自在に支持された推進ユニットを、前記旋回軸線を中心に旋回させる推進ユニット用旋回装置に関する。そして、第1発明に係る推進ユニット用旋回装置は、前記旋回軸線を中心位置として配置された旋回ギアの内周又は外周に形成された歯に噛み合うピニオンが設けられた減速機と当該減速機に連結されて当該減速機を回転駆動する電動機とを有し、前記電動機が回転することで前記推進ユニットを前記旋回軸線を中心に旋回させる旋回アクチュエータを備え、前記減速機は、内歯が内周に配置されたケースと、前記ケースに収納されるとともに前記内歯が噛み合う外歯が外周に設けられた外歯歯車と、前記外歯歯車を偏心させて回転させるクランク軸と、前記クランク軸の一端側及び他端側を回転自在に保持するとともに前記ピニオンが取り付けられた出力部と、を有し、前記電動機の定格回転速度は、1000RPM以上で3000RPM以下の範囲に設定され、前記減速機における速比は、50以上で100以下の範囲に設定され、前記旋回ギアに対する前記ピニオンの速比は、10以上で20以下の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0008】
この発明によると、電動機の回転駆動力を減速機で減速して出力する旋回アクチュエータによって、旋回ギアを介して推進ユニットが旋回駆動される。そして、旋回アクチュエータの減速機は、クランク軸の回転によって外歯歯車がケース内周の内歯と噛み合いながら偏心して揺動回転し、クランク軸とともに公転する出力部を介してピニオンから回転力を出力する減速機として構成されている。このため、平歯車機構、遊星歯車機構、又はウォームギア機構として構成された歯車機構やこれらの組み合わせとして構成された歯車機構とは異なり、相当に大きな減速比を小型でコンパクトに構成された減速機により容易に実現することができる。そして、大きな減速比を小型の減速機で確保できるため、推進ユニットの旋回動作に必要な旋回トルクを確保するために大型の電動機を用いる必要がなく、電動機の小型化を図ることもできる。これにより、旋回アクチュエータの大幅な小型化を達成することができる。また、大きな減速比を確保できる減速機を備えた旋回アクチュエータが用いられるため、旋回ギアに対するピニオンの速比を小さく設定でき、旋回ギアの小型化を図ることもできる。
【0009】
また、本発明によると、旋回ギアに対するピニオンの速比が10以上で20以下の範囲に設定される。このため、速比が20以下に設定されることで、旋回ギアにおいて、厚み方向の寸法を薄く設定することができるとともに径方向の寸法の増大を抑制して小型化を確保することができる。また、速比が20以下に設定されて、旋回ギアの径方向の寸法を小さくすることができるため、旋回ギアの製造が容易となり、低コストで旋回ギアを製造することができる。一方、上記の速比が10以上に設定されることで、径方向の寸法を小さく設定した旋回ギアにおいて厚み方向の寸法の増大も抑制して小型化を図ることができる。そして、推進ユニットに必要なケーブルや油圧配管等を挿通するために旋回ギアの内側に形成される中空部の径方向の寸法について、推進ユニットにおいて要求される水準の径方向寸法を確保することができる。そして、本発明によると、電動機の定格回転速度が1000RPM以上で3000RPM以下の範囲に設定される。このため、定格回転速度が1000RPM以上となることで、電動機の仕様について十分に小型化を図ることができる高速回転の仕様に設定することができる。そして、定格回転速度が3000RPM以下となることで、汎用の電動機を用いて旋回アクチュエータを製造することができ、旋回アクチュエータの製造が容易となり、低コストで旋回アクチュエータを製造することがで
きる。更に、減速機における速比が50以上で100以下の範囲に設定される。このため、推進ユニットの旋回速度として要求される2RPMから3RPM程度の速度を確保することができる。
【0010】
従って、本発明によると、小型の電動機と大きな減速比が確保された小型の減速機とを備え、大幅に小型化が図られた旋回アクチュエータを実現できるとともに、推進ユニットの旋回動作に必要な十分な大きさの旋回トルク及び旋回速度を確保することができる、推進ユニット用旋回装置を提供することができる。
【0011】
第2発明に係る推進ユニット用旋回装置は、第1発明の推進ユニット用旋回装置において、前記減速機は、前記ピニオンを前記出力部に対して回転可能に保持する保持機構と、前記ピニオンの前記出力部に対する連結状態を、前記ピニオンが前記出力部とともに回転するように前記出力部に対して固定されて連結された固定状態と、前記ピニオンの前記出力部に対する固定状態を解除して前記ピニオンが前記出力部に対して前記保持機構のみを介して回転可能に連結された固定解除状態と、の間で切り替え可能な連結切替機構と、を有していることを特徴とする。
【0012】
この発明によると、旋回アクチュエータにおける減速機や電動機に故障が発生した場合、連結切替機構によってピニオンの出力部に対する連結状態を固定状態から固定解除状態に移行させることができる。これにより、故障した旋回アクチュエータを駆動力の伝達経路から切り離すことができ、故障した旋回アクチュエータが駆動力伝達経路に介在してしまうことによって旋回ギアや推進ユニット等の他の機器の破損を招いて損害が拡大してしまうことを防止することができる。そして、ピニオンを出力部に対して回転可能に保持する保持機構が設けられているため、固定解除状態においても、ピニオンがそのまま出力部に保持された状態に維持される。このため、固定解除状態へ移行させる作業の際、作業者は、連結切替機構を操作するだけでよく、ピニオンを出力部から取り外して別の場所へ搬送するためのクレーン等の装置や複数人での作業が不要となる。従って、旋回アクチュエータの故障が生じた際に、故障した旋回アクチュエータを駆動力伝達経路から切り離す作業を、作業者が一人であっても容易且つ速やかに行うことができる。
【0013】
第3発明に係る推進ユニット用旋回装置は、第2発明の推進ユニット用旋回装置において、前記連結切替機構は、前記ピニオンを軸方向と平行に貫通するとともに前記出力部に形成された挿入穴に対して抜き取り可能に挿入された状態で前記ピニオンの前記出力部に対する回転方向の変位を規制する複数の軸状部材を有していることを特徴とする。
【0014】
この発明によると、固定状態においては、連結切替機構における複数の軸状部材がピニオンを貫通して出力部に対して挿入されており、ピニオンの出力部に対する回転方向の変位が規制され、ピニオンが出力部とともに回転するよう固定されている。一方、旋回アクチュエータに故障が発生した場合、作業者は、ピニオンを貫通して出力部に挿入された複数の軸状部材を抜き取るだけで、ピニオンの出力部に対する固定状態を解除し、保持機構のみでピニオンが保持された固定解除状態に移行させる作業を行うことができる。従って、連結切替機構を簡素な構成で構築することができるとともに、故障した旋回アクチュエータを駆動力伝達経路から切り離す作業を、作業者が一人であっても軸状部材を抜くだけで極めて容易且つ速やかに行うことができる。
【0015】
第4発明に係る推進ユニット用旋回装置は、第2発明又は第3発明の推進ユニット用旋回装置において、前記保持機構は、前記出力部に対して固定され、前記ピニオンを前記出力部に対して回転可能に支持するとともに当該ピニオンに対して軸方向において係止することで当該ピニオンを保持することを特徴とする。
【0016】
この発明によると、固定解除状態においては、出力部に対して固定された保持機構によって軸方向でピニオンを係止させて回転可能な状態のまま保持することができる。このため、固定解除状態においてピニオンを出力部に対して回転可能に保持する保持機構を簡素な構成で構築することができる。
【0017】
第5発明に係る推進ユニット用旋回装置は、第2発明乃至第4発明のいずれかの推進ユニット用旋回装置において、前記保持機構は、前記連結切替機構によって前記ピニオンの前記出力部に対する連結状態が前記固定解除状態に切り替えられたときに、前記ピニオンと前記旋回ギアとの噛み合いが外れる位置まで前記ピニオンを前記旋回ギアに対して退避可能に保持することを特徴とする。
【0018】
この発明によると、固定解除状態においては、ピニオンと旋回ギアとの噛み合いが外れる位置までピニオンを旋回ギアに対して退避させた状態でピニオンを保持機構によって保持することができる。このため、故障した旋回アクチュエータを駆動力伝達経路から切り離した際に、ピニオンを旋回ギアに対して噛み合わせたまま空回りさせることもなく、旋回ギアに無駄な負荷や抵抗を与えてしまうことを防止することができる。
【0019】
第6発明に係る推進ユニット用旋回装置は、第2発明乃至第5発明のいずれかの推進ユニット用旋回装置において、前記旋回アクチュエータは、複数備えられ、それぞれの前記旋回アクチュエータにおける前記減速機が、前記保持機構及び前記連結切替機構を有していることを特徴とする。
【0020】
この発明によると、旋回アクチュエータが複数備えられており、いずれかの旋回アクチュエータに故障が発生した場合であっても、その旋回アクチュエータの減速機において連結切替機構を操作し、ピニオンと出力部の連結状態を速やかに固定解除状態に移行させることができる。このため、故障した旋回アクチュエータを駆動力伝達経路から速やかに切り離し、故障していない旋回アクチュエータにてすぐに推進ユニットの旋回動作を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、小型の電動機と大きな減速比が確保された小型の減速機とを備え、大幅に小型化が図られた旋回アクチュエータを実現できるとともに、推進ユニットの旋回動作に必要な十分な大きさの旋回トルク及び旋回速度を確保することができる、推進ユニット用旋回装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】船舶とその船舶に設けられる推進ユニット及び推進ユニット用旋回装置とについて示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る推進ユニット用旋回装置と推進ユニットとを模式的に示す斜視図である。
【図3】図2に示す推進ユニット用旋回装置における旋回アクチュエータの正面図であって、一部断面で示す図である。
【図4】図3に示す旋回アクチュエータにおける減速部及びケースの一部を拡大して示す断面図である。
【図5】図3に示す旋回アクチュエータにおける保持機構の作動を説明する図であって、図3のA−A線矢視位置に対応する断面図である。
【図6】図3に示す旋回アクチュエータにおける連結切替機構の作動を説明する図であって、図3の一部に対応する断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る推進ユニット用旋回装置と推進ユニットとを模式的に示す斜視図である。
【図8】図7に示す推進ユニット用旋回装置における旋回アクチュエータの正面図であって、一部断面で示す図である。
【図9】図8に示す旋回アクチュエータにおける減速部及びケースの一部を拡大して示す断面図である。
【図10】図8に示す旋回アクチュエータにおける連結切替機構の作動を説明する図であって、図8の一部に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。本発明の実施形態は、プロペラの回転により船舶を推進させるとともにプロペラ軸と垂直な旋回軸線を中心として船舶において回転自在に支持された推進ユニットを、旋回軸線を中心に旋回させる推進ユニット用旋回装置として、広く適用することができるものである。
【0024】
(推進ユニット)
図1は、本発明の第1実施形態に係る推進ユニット用旋回装置1が設けられる船舶100について外形線のみで模式的に示す模式図である。図1に示す船舶100には、アジマススラスターやポッド等と称され、この船舶100を推進させるための推進ユニット101が設けられている。また、図2は、推進ユニット用旋回装置1と推進ユニット101とを模式的に示す斜視図である。
【0025】
図1及び図2に示す推進ユニット101は、船舶100の後方の下部に配置されており、略水平に配置されるポッド本体101aとこのポッド本体101aに対して回転自在に支持されるプロペラ101bとを備えて構成されている。ポッド本体101aは、船舶100の後方下部において旋回筒103及びストラット102を介して下方に吊り下げられた状態で支持されている。尚、旋回筒103は、円形断面を有する筒状に形成されて船舶100に対して回転自在に取り付けられている。この旋回筒103の上端側には、外周に歯104aが形成された外歯歯車要素として構成された旋回ギア104が設けられている。旋回ギア104は、リング状に形成されており、旋回筒103と一体に回転するように構成されている。尚、リング状に形成された旋回ギア104の内側の中空部(図示を省略)には、推進ユニット101に必要なケーブルや油圧配管等(図示を省略)が挿通される。また、ストラット102は、翼状断面を有する筒状に形成され、上端側で旋回筒103に対して固定されるとともに下端側にポッド本体101aが固定されている。これにより、推進ユニット101は、プロペラ101bのプロペラ軸101cと垂直な旋回軸線P(図1において一転鎖線で示す)を中心として船舶100において旋回筒103及びストラット102を介して回転自在に支持されている。そして、後述する推進ユニット用旋回装置1の作動によって、旋回軸線Pを中心とした推進ユニット101の旋回動作が行われる。
【0026】
また、推進ユニット101は、プロペラ101aが回転することにより船舶100を前方に向かって推進させるように構成されている。プロペラ101aのプロペラ軸101cは、インバータ107によって回転が制御される推進用の電動機108に対して複数組(例えば2組)のかさ歯車機構を介して連結されている。これにより、電動機108の回転軸方向が変換されてプロペラ軸101cに伝達され、プロペラ101bが回転駆動されて船舶100の推進力が得られることになる。
【0027】
尚、船舶100には、操縦者の操作に基づいて船舶100の航行状態の集中制御を行うメインコントローラ105が備えられている。このメインコントローラ105には、下位のコントローラとして推進コントローラ106が接続されており、更に推進コントローラ106に上記のインバータ107が接続されている。そして、メインコントローラ105から推進コントローラ106に対して船舶100の推進速度指令が出力される。推進コン
トローラ106はこの推進速度指令に基づいて電動機108の回転指令信号をインバータ107に出力し、推進ユニット101におけるプロペラ101bの回転速度が制御される。尚、本実施形態では、ポッド本体101aの外部に電動機108が配置されて、かさ歯車機構を介して回転がプロペラ軸101cに伝達されるものを例にとって説明したが、この通りでなくもよい。即ち、電動機108が、ポッド本体101a内に配置されて、プロペラ軸101aと連結されていてもよい。
【0028】
(推進ユニット用旋回装置の第1実施形態)
次に、本発明の第1実施の形態に係る推進ユニット用旋回装置1(以下、単に「旋回装置1」ともいう)について説明する。図1及び図2に示す旋回装置1は、複数の旋回アクチュエータ11(11a、11b、11c、11d)を備えて構成されている。尚、図1の模式図では、複数の旋回アクチュエータ11について、1つの要素で模式的に示している。この旋回アクチュエータ11は、本実施形態の旋回装置1においては、4つ備えられている。そして、各旋回アクチュエータ11(11a、11b、11c、11d)は、船舶100に固定され、それぞれ電動機12と減速機13とを備えて構成されている。
【0029】
電動機12は、後述する減速機13に連結されて減速機13を回転駆動するように構成されている。この電動機12の定格回転速度は、1000RPM以上で3000RPM以下の範囲に設定されている。また、図1に示すように、各電動機12は、インバータ110に接続されており、このインバータ110によって供給電力が制御される。尚、インバータ110は、通信可能に接続された旋回コントローラ109からの指令信号に基づいて、電動機12の回転速度や回転位置を制御するように構成されている。
【0030】
上記の旋回コントローラ109は、上位のメインコントローラ105に対して通信可能に接続されている。そして、メインコントローラ105から旋回コントローラ109に対しては、操縦者の操作に基づいてメインコントローラ105にて決定される船舶100の旋回方向や旋回速度を規定する旋回指令信号が発信される。旋回コントローラ109は、メインコントローラ105からのこの旋回指令信号に基づいて、各電動機12における回転速度と回転を停止する回転角度位置とについての回転指令信号をインバータ110に出力する。この旋回コントローラ109により、インバータ110、旋回装置1の旋回アクチュエータ11(11a〜11d)、旋回ギア104を介して、推進ユニット101の旋回方向における回転位置及び回転速度が制御される。
【0031】
図3は、旋回アクチュエータ1の正面図であって、減速機13について断面で示す図である。図3に示すように、旋回アクチュエータ1の減速機13は、入力軸14、ケース15、減速部16、ピニオン17、保持機構18、連結切替機構19、等を備えて構成されている。尚、各旋回アクチュエータ11(11a、11b、11c、11d)における減速機13は、いずれも同様に構成されている。
【0032】
図3に示すように、減速機13は、下側に配置された一端側においてケース15から一部が突出するように位置する後述のキャリア25にピニオン17が取り付けられ、上側に配置された他端側においてケース15に対して電動機12が取り付けられている。そして、減速機13においては、上側に配置された電動機12から入力された回転駆動力をケース15の内側に配置された減速部16を介して減速して伝達してピニオン17から出力する。
【0033】
尚、各減速機13に設けられたピニオン17は、旋回軸線Pを中心位置として配置されて船舶100に対して回転自在に支持された旋回ギア104の外周に形成された歯104aとそれぞれ噛み合うように配置されている(図1及び図2を参照)。また、各ピニオン17は、旋回ギア104の外周に沿ってその周方向における均等角度位置に(本実施形態
では90°毎に)配置されている。このように各ピニオン17が配置されているため、各電動機12が回転することで各ピニオン17が回転し、船舶100に回転自在に支持されるとともにピニオン17に噛み合う旋回ギア104が旋回軸線Pを中心として回転する。そして、旋回ギア104が設けられた旋回筒103及びストラット102とともに推進ユニット101が旋回軸線Pを中心に回転する。このため、旋回アクチュエータ11は、電動機12が回転することで推進ユニット101を旋回軸線Pを中心に旋回させるように構成されている。
【0034】
ここで、減速機13について更に詳しく説明する。尚、以下の説明においては、減速機13にて、ピニオン17が配置される下側である出力側を一端側として、電動機12が配置される上側である入力側を他端側として説明する。
【0035】
図4は、図3におけるケース15及び減速部16の一部を拡大して示す断面図である。図3及び図4に示すように、ケース15は、筒状に形成された第1ケース部15a、第2ケース部15b及び第3ケース部15cを備えて構成され、これらの第1乃至第3ケース部(15a、15b、15c)が直列に配置されてボルト等の締結手段によって連結されている。尚、第1ケース部15aが一端側に配置され、その他端側に第2ケース部15bが固定され、更にその第2ケース部15bの他端側に第3ケース部15cが固定されている。ケース15の内部には、入力軸14や減速部16等が収納され、電動機12の出力軸12a、入力軸14及び減速部16は、減速機13の回転中心線Q(図3及び図4において一点鎖線で図示)の方向に沿って直列に配置されている。ケース15は、一端側(第1ケース部15aの端部側)が開口形成され、他端側(第3ケース部15cの端部側)には電動機12が固定されている。尚、ケース15の内部は外部に対してシール部材によって密封されており、この密封されたケース15の内部には潤滑油が充填されている。
【0036】
また、ケース15における第1ケース部15aの内周には、本実施形態における内歯を構成する複数のピン内歯20(図3及び図4では、断面でなく外形を図示)が配置されている。ピン内歯20は、ピン状の部材(丸棒状の部材)として形成され、その長手方向が回転中心線Qと平行に位置するように配置されるとともに、第1ケース部15aの内周において周方向に沿って等間隔で配列され、後述する外歯歯車26の外歯41と噛み合うように構成されている。
【0037】
図3に示すように、入力軸14は、電動機12の出力軸12aに対してカップリング21を介して連結されており、電動機12からの駆動力がその他端側に入力される軸状の部材として設けられている。そして、入力軸14の一端側には、減速部16における後述のクランク軸用歯車23と噛み合うギア部14aが設けられており、この入力軸14は、電動機12から駆動力を減速部16に伝達するように構成されている。また、ケース15の第2ケース部15bは一端側に向かって段状に拡径する外形となるように形成されており、この第2ケース部15bの拡径する部分に対して、入力軸14の中途部分が玉軸受22を介して回転自在に支持されている。
【0038】
図3及び図4に示すように、減速部16は、クランク軸用歯車23、クランク軸24、キャリア25、外歯歯車26、主軸受(30、31)、クランク軸軸受(32、33)等を備えて構成されている。
【0039】
クランク軸用歯車23は、平歯車要素として設けられており、入力軸14のギア部14aと噛み合うようにギア部14aの周囲に複数(例えば、3つ)配置され、ギア部14aに対して減速機13の径方向(回転中心線Qに対して垂直な方向)に位置している。クランク軸用歯車23は、中央部分に貫通孔が形成され、この貫通孔においてクランク軸24の他端側に対してスプライン結合により固定されている。
【0040】
クランク軸24は、回転中心線Qを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に複数(例えば、3つ)配置されており、その軸方向が回転中心線Qと平行になるように配置されている。各クランク軸24(図3及び図4では、外形を図示し、一部のみ断面を図示)は、外歯歯車26に形成されたクランク用孔34をそれぞれ貫通するように配置されており、他端側に配置された入力軸14からの駆動力がクランク軸用歯車23を介して伝達されて回転することで外歯歯車26を偏心させて揺動回転させる軸部材として設けられている。そして、クランク軸24は、自らの回転(自転)に伴う外歯歯車26の回転とともに、公転動作を行うことになる。
【0041】
また、クランク軸24には、第1偏心部24a、第2偏心部24b、第1軸部24c、第2軸部24dが形成され、一端側から、第1軸部24c、第1偏心部24a、第2偏心部24b、第2軸部24dの順番で設けられている。第1偏心部24a及び第2偏心部24bは、軸方向と垂直な断面が円形断面となるように形成され、それぞれの中心位置がクランク軸24の回転中心線に対して偏心するように設けられている。第1偏心部24a及び第2偏心部24bは、外歯歯車26のクランク用孔34に配置されている。
【0042】
クランク軸24の一端側に設けられた第1軸部24cは、クランク軸軸受32を介してキャリア25に対して回転自在に保持されている。クランク軸24の他端側に設けられた第2軸部24dは、クランク軸軸受33を介してキャリア25に対して回転自在に保持されている。また、第2軸部24dには、クランク軸軸受33から他端側に突出するように位置するその端部側において、前述したように、クランク軸用歯車23が固定されている。尚、クランク軸軸受(32、33)は、例えば、円錐ころ軸受として設けられている。
【0043】
キャリア25は、基部キャリア27と、端部キャリア28と、支柱29とを備えて構成されている。そして、このキャリア25は、クランク軸24の一端側及び他端側を回転自在に保持するとともにピニオン17が取り付けられる本実施形態における出力部を構成している。
【0044】
基部キャリア27は、その一端側において、後述の保持機構18及び連結切替機構19を介してピニオン17が連結されている。また、基部キャリア27は、その他端側にクランク保持穴35が形成され、このクランク保持穴35によって各クランク軸24の一端側をその第1軸部24cにてクランク軸軸受32を介して回転自在に保持している。クランク保持穴35は、回転中心線Qを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に形成されている。
【0045】
端部キャリア28は、支柱29を介して基部キャリア27と連結され、円板状の部材として設けられている。端部キャリア28には、回転中心線Qを中心とした周方向に沿った均等角度の位置にクランク軸24の他端側の第2軸部24dが配置される貫通孔としてクランク貫通孔36が形成されている。このクランク貫通孔36において、クランク軸24の他端側がその第2軸部24dにてクランク軸軸受33を介して回転自在に保持されている。
【0046】
支柱29は、基部キャリア27と端部キャリア28との間に配置され、基部キャリア27と端部キャリア28とを連結する柱状部分として設けられている。支柱29は、回転中心線Qを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に複数(例えば、3つ)配置され、その軸方向が回転中心線Qと平行となるように配置されている。尚、支柱29とクランク軸24とは、回転中心線Qを中心とした周方向に沿って交互に配置されている。各支柱29は、基部キャリア27に一体に形成され、基部キャリア27の他端側において突出するように設けられている。そして、各支柱29には、端部キャリア28に形成された貫通孔に
向かって開口するとともに回転中心線Qと平行に延び、支柱ピン37が圧入される支柱ピン穴38が形成されている。支柱ピン37が端部キャリア28の他端側から支柱ピン穴38に亘って圧入されることで、基部キャリア27及び端部キャリア28の周方向の位置が合わされる。また、各支柱29には、端部キャリア28に形成された貫通孔に向かって開口するとともに軸方向に沿って延び、支柱ボルト39(図3及び図4にて破線で図示)が挿入される支柱ボルト穴が形成されている。この支柱ボルト穴の内周には、雌ネジ部分が形成され、支柱ボルト39の一端側には、雄ネジ部分として形成されたネジ部が設けられている。支柱ボルト39は、端部キャリア28を貫通するよう配置されるとともにそのネジ部が上記の支柱ボルト穴の雌ネジ部分と螺合することで、端部キャリア28と基部キャリア27とを支柱29を介して結合するように構成されている。
【0047】
主軸受(30、31)は、キャリア25をケース15に対して回転自在に保持するように構成されている。主軸受30は、基部キャリア27をその外周側において第1ケース部15aの内周側に対して回転自在に保持する玉軸受として構成されている。また、主軸受31は、端部キャリア28をその外周側において第1ケース部15aの内周側に対して回転自在に保持する玉軸受として構成されている。
【0048】
外歯歯車26は、平行に配置された状態でケース15内に収納される第1外歯歯車26aと第2外歯歯車26bとで構成されている。第1外歯歯車26a及び第2外歯歯車26bにはそれぞれ、クランク軸24が貫通するクランク用孔34、及び、支柱29が貫通する支柱貫通孔40が形成されている。第1外歯歯車26a及び第2外歯歯車26bは、回転中心線Qと平行な方向において、クランク用孔34及び支柱貫通孔40の位置がそれぞれ対応するように配置されている。外歯歯車26(26a、26b)のクランク用孔34は、円形孔として形成され、クランク軸24に対応して外歯歯車26の周方向に沿って均等角度の位置に複数(例えば、3つ)配置されている。また、支柱貫通孔40は、支柱29の断面形状に対応した孔として形成され、支柱29に対応して外歯歯車26の周方向に沿った均等角度の位置に複数(例えば、3つ)配置されている。また、支柱貫通孔40は、外歯歯車26の周方向において、クランク用孔34と交互に形成されている。尚、支柱貫通孔40には、支柱29が遊嵌状態で貫通している。
【0049】
また、第1外歯歯車26a及び第2外歯歯車26bのそれぞれの外周には、ピン内歯20に噛み合う外歯41が設けられている。尚、第1外歯歯車26a及び第2外歯歯車26bの外歯41の歯数は、ピン内歯20の歯数よりも1個又は複数個少なくなるように設けられている。このため、クランク軸24が回転するごとに、噛み合う外歯41とピン内歯20との噛み合いがずれ、外歯歯車26(26a、26b)が偏心して揺動回転するように構成されている。
【0050】
また、外歯歯車26は、クランク用孔34において外歯用軸受(42、43)を介してクランク軸24を回転自在に保持している。外歯用軸受42は第1偏心部24aを第1外歯歯車26aに対して、外歯用軸受43は第2偏心部24bを第2外歯歯車26bに対して、それぞれ回転自在に保持している。尚、外歯用軸受(42、43)は、円筒ころ軸受又はニードルころ軸受として構成されている。
【0051】
尚、上述した入力軸14から出力部であるキャリア25までの駆動力伝達経路における速比、即ち、減速機13における速比は、50以上で100以下の範囲に設定されている。また、出力部における基部キャリア27に取り付けられたピニオン17の旋回ギア104に対する速比は、10以上で20以下の範囲に設定されている。
【0052】
図3に示すように、保持機構18は、ピニオン17を出力部であるキャリア25における基部キャリア27に対して回転可能に保持するボルト部材として構成されている。ピニ
オン17の径方向における中央部分には第1貫通孔17aが形成されており、保持機構18は、その軸部が第1貫通孔17aに対して遊嵌状態で貫通するように配置されている。このため、ピニオン17は、保持機構18の軸部の周囲で回転可能な状態で配置されている。尚、第1貫通孔17aは、減速機13の回転中心線Qと同方向に配置されるピニオン17の軸方向に沿ってこのピニオン17を貫通するように形成されている。そして、図3のA−A線矢視断面図である図5(a)に示すように、ピニオン17の軸方向と垂直な方向における第1貫通孔17aの断面は、ピニオン17の径方向に延びる長孔状の断面形状に形成されている。尚、図5(a)においては、ピニオン17については模式的に示しており、その外周の歯については一部のみを図示している(図5(b)も同様)。
【0053】
また、保持機構18は、そのボルト頭部18aと反対側の先端側の外周に雄ネジ部18bが形成されている。そして、基部キャリア27の一端側の端部には、回転中心線Qに沿った中心位置に設けられて一端側に向かって開口する雌ネジ穴27aが形成されており、保持機構18の雄ネジ部18bがこの雌ネジ孔27aに螺合するように構成されている。このように、保持機構18は、第1貫通孔17aを遊嵌状態で貫通した状態で雄ネジ部18bが雌ネジ穴27aに螺合することで、基部キャリア27に固定されるとともに、ピニオン17の一端側に向かう方向の移動をボルト頭部18aで係止して阻止するように設けられている。即ち、保持機構18は、出力部であるキャリア25に固定され、ピニオン17をキャリア25に対して回転可能に支持するとともにピニオン17に対して軸方向において係止することでこのピニオン17を保持するように構成されている。
【0054】
図3に示すように、連結切替機構19は、出力部であるキャリア25の基部キャリア27に対するピニオン17の連結状態を固定状態と固定解除状態との間で切り替え可能な機構として設けられており、複数(本実施形態では、2つ)の軸状部材44を備えて構成されている。各軸状部材44は、本実施形態ではボルト部材として設けられている。ピニオン17の径方向における中心から離れた位置には、円形断面を有する第2貫通孔17bが複数(本実施形態では、2つ)形成されており、各軸状部材44は、その軸部が各第2貫通孔17bに対して貫通するように配置されている。尚、各第2貫通孔17bは、ピニオン17の軸方向と平行な方向にこのピニオン17を貫通するように形成されている。そして、2つの第2貫通孔17bは、ピニオン17の中心位置に対して点対称な位置に設けられている。
【0055】
また、連結切替機構19における各軸状部材44は、そのボルト頭部44aと反対側の先端側の外周に雄ネジ部44bが形成されている。一方、基部キャリア27の一端側の端部には、回転中心線Qから径方向に離れた位置で各第2貫通孔17bに対向する位置に複数(本実施形態では、2つ)の挿入穴27bが一端側に向かって開口するように形成されている。そして、各軸状部材44の雄ネジ部44bは、各挿入穴27bに対して螺合するように構成されている。尚、図3に示す軸状部材44のボルト頭部44aには、凹み形成された六角穴が設けられており、六角レンチ等を用いて軸状部材44の挿入穴27bに対する締め付け操作や緩め操作が行われることになる。
【0056】
図6は、図3におけるピニオン17とその近傍とを示す切欠き断面図であって、挿入穴27bに対して軸状部材44が螺合した状態(図6(a))と取り外された状態(図6(b))とを示す図である。軸状部材44は、図6(a)に示すように、第2貫通孔17bを貫通した状態で雄ネジ部44bが挿入穴27bに螺合することで、ピニオン17の回転方向の変位を軸状部材44の軸部で係止して規制することになる。このとき、ピニオン17は、基部キャリア27に対して固定された状態で連結されている。一方、図6(b)に示すように、雄ネジ部44bと挿入穴27bとの螺合が緩められて軸状部材44が図中の矢印で示すように挿入穴27bから取り出されることで、ピニオン17は、回転方向の変位の規制が解除された状態(保持機構18を中心として回転自在の状態)となる。
【0057】
上記のように、複数の軸状部材44は、ピニオン17を軸方向と平行に貫通するとともに出力部であるキャリア25に形成された挿入穴27bに対して抜き取り可能に挿入された状態でピニオン17のキャリア25に対する回転方向の変位を規制するように構成されている。そして、複数の軸状部材44を有する連結切替機構19は、各軸状部材44が各挿入穴27bに螺合した図6(a)に示す状態では、ピニオン17のキャリア25に対する連結状態を固定状態とし、各軸状部材44が各挿入穴27bから取り出された図6(b)に示す状態では、ピニオン17のキャリア25に対する連結状態を固定解除状態とする。即ち、上記の固定状態においては、ピニオン17がキャリア25とともに回転するようにキャリア25に対して固定されて連結された状態となる。そして、上記の固定解除状態においては、ピニオン17のキャリア25に対する固定状態が解除されてピニオン17がキャリア25に対して保持機構18のみを介して回転可能に連結された状態となる。
【0058】
図5(b)は、図3のA−A線矢視位置に対応する断面を示す図であって、図5(a)に示す状態からピニオン17が図5(a)における矢印B方向に移動した状態を示す図である。前述のように、ピニオン17には長孔状の断面を有する第1貫通孔17aが設けられている。このため、連結切替機構19によってピニオン17のキャリア25に対する連結状態が上記の固定解除状態に切り替えられたときに、図5(b)に示すようにピニオン17が移動可能となる。これにより、保持機構18は、ピニオン17と旋回ギア104との噛み合いが外れる位置までピニオン17を旋回ギア104に対して退避可能に保持できることになる。
【0059】
次に、上述した旋回装置1の作動について説明する。旋回装置1においては、旋回コントローラ109からの指令信号に基づいて作動するインバータ110により複数の旋回アクチュエータ11における各電動機12の回転が制御される。そして、電動機12の出力軸12aが回転すると、入力軸14がともに回転し、ギア部14aに噛み合うクランク軸用歯車23が回転し、更に、クランク軸用歯車23が固定された各クランク軸24とともに第1及び第2偏心部(24a、24b)が回転する。この回転に伴って、第1及び第2偏心部(24a、24b)から外歯歯車26(26a、26b)に対して荷重が作用し、外歯歯車26(26a、26b)がピン内歯20と噛み合いをずらしながら揺動するように偏心して回転する。そして、外歯歯車26(26a、26b)の偏心回転に伴って、外歯歯車26(26a、26b)に対して回転保持されたクランク軸24が自転しながら回転中心線Qを中心として公転動作を行う。このクランク軸24の公転動作により、クランク軸24を回転自在に保持する出力部であるキャリア25が回転する。このとき、連結切替機構19によってピニオン17のキャリア25に対する連結状態は固定状態になっており、大きなトルクがキャリア25とともに回転するピニオン17から出力されることになる。
【0060】
尚、上記のように旋回装置1が作動して複数の旋回アクチュエータ11の各ピニオン17からトルクが出力されることで、各ピニオン17と旋回ギア104との噛み合いを介して旋回コントローラ109の指令に基づく目標の回転速度で目標の回転位置まで推進ユニット101が回転する。これにより、推進ユニット101の所望の旋回動作が行われることになる。
【0061】
一方、旋回アクチュエータ11のいずれかにおいて減速機13や電動機12に故障が発生した場合、作業者は、その故障が発生した旋回アクチュエータ11において連結切替機構19を操作することになる。即ち、作業者は、基部キャリア27の挿入穴27bに螺合している各軸状部材44を緩め、これらの軸状部材44を挿入穴27bから取り外す操作を行うことになる。これにより、ピニオン17のキャリア25に対する連結状態が固定状態から固定解除状態に切り替えられることになる。尚、作業者は、ピニオン17の連結状
態を固定解除状態に切り替えた後は、ピニオン17を第1貫通孔17aの範囲内で保持機構18に対して水平に移動させる。これにより、ピニオン17と旋回ギア104との噛み合いが外れる位置までピニオン17が旋回ギア104に対して退避することになる。
【0062】
以上説明したように、推進ユニット用旋回装置1によると、電動機12の回転駆動力を減速機13で減速して出力する旋回アクチュエータ11によって、旋回ギア104を介して推進ユニット101が旋回駆動される。そして、旋回アクチュエータ11の減速機13は、クランク軸24の回転によって外歯歯車26がケース15の内周のピン内歯20と噛み合いながら偏心して揺動回転し、クランク軸24とともに公転する出力部であるキャリア25を介してピニオン17から回転力を出力する減速機として構成されている。このため、平歯車機構、遊星歯車機構、又はウォームギア機構として構成された歯車機構やこれらの組み合わせとして構成された歯車機構とは異なり、相当に大きな減速比を小型でコンパクトに構成された減速機13により容易に実現することができる。そして、大きな減速比を小型の減速機13で確保できるため、推進ユニット101の旋回動作に必要な旋回トルクを確保するために大型の電動機を用いる必要がなく、電動機12の小型化を図ることもできる。これにより、旋回アクチュエータ11の大幅な小型化を達成することができる。また、大きな減速比を確保できる減速機13を備えた旋回アクチュエータ11が用いられるため、旋回ギア104に対するピニオン17の速比を小さく設定でき、旋回ギア104の小型化を図ることもできる。
【0063】
また、推進ユニット用旋回装置1によると、旋回ギア104に対するピニオン17の速比が10以上で20以下の範囲に設定される。このため、速比が20以下に設定されることで、旋回ギア104において、厚み方向の寸法を薄く設定することができるとともに径方向の寸法の増大を抑制して小型化を確保することができる。また、速比が20以下に設定されて、旋回ギア104の径方向の寸法を小さくすることができるため、旋回ギア104の製造が容易となり、低コストで旋回ギア104を製造することができる。一方、上記の速比が10以上に設定されることで、径方向の寸法を小さく設定した旋回ギア104において厚み方向の寸法の増大も抑制して小型化を図ることができる。そして、推進ユニット101に必要なケーブルや油圧配管等を挿通するために旋回ギア104の内側に形成される中空部の径方向の寸法について、推進ユニット101において要求される水準の径方向寸法を確保することができる。そして、推進ユニット用旋回装置1によると、電動機12の定格回転速度が1000RPM以上で3000RPM以下の範囲に設定される。このため、定格回転速度が1000RPM以上となることで、電動機12の仕様について十分に小型化を図ることができる高速回転の仕様に設定することができる。そして、定格回転速度が3000RPM以下となることで、汎用の電動機12を用いて旋回アクチュエータ11を製造することができ、旋回アクチュエータ11の製造が容易となり、低コストで旋回アクチュエータ11を製造することができる。更に、減速機13における速比が50以上で100以下の範囲に設定される。このため、推進ユニット101の旋回速度として要求される2RPMから3RPM程度の速度を確保することができる。
【0064】
従って、推進ユニット用旋回装置1によると、小型の電動機12と大きな減速比が確保された小型の減速機13とを備え、大幅に小型化が図られた旋回アクチュエータ11を実現できるとともに、推進ユニット101の旋回動作に必要な十分な大きさの旋回トルク及び旋回速度を確保することができる。
【0065】
また、推進ユニット用旋回装置1によると、旋回アクチュエータ11における減速機13や電動機12に故障が発生した場合、連結切替機構19によってピニオン17のキャリア25に対する連結状態を固定状態から固定解除状態に移行させることができる。これにより、故障した旋回アクチュエータ11を駆動力の伝達経路から切り離すことができ、故障した旋回アクチュエータ11が駆動力伝達経路に介在してしまうことによって旋回ギア
104や推進ユニット101等の他の機器の破損を招いて損害が拡大してしまうことを防止することができる。そして、ピニオン17を出力部に対して回転可能に保持する保持機構18が設けられているため、固定解除状態においても、ピニオン17がそのままキャリア25に保持された状態に維持される。このため、固定解除状態へ移行させる作業の際、作業者は、連結切替機構19を操作するだけでよく、ピニオン17をキャリア25から取り外して別の場所へ搬送するためのクレーン等の装置や複数人での作業が不要となる。従って、旋回アクチュエータ11の故障が生じた際に、故障した旋回アクチュエータ11を駆動力伝達経路から切り離す作業を、作業者が一人であっても容易且つ速やかに行うことができる。
【0066】
また、推進ユニット用旋回装置1によると、連結切替機構19の固定状態においては、複数の軸状部材44がピニオン17を貫通してキャリア25に対して挿入されており、ピニオン17のキャリア25に対する回転方向の変位が規制され、ピニオン17がキャリア25とともに回転するよう固定されている。一方、旋回アクチュエータ11に故障が発生した場合、作業者は、ピニオン17を貫通してキャリア25に挿入された複数の軸状部材44を抜き取るだけで、ピニオン17のキャリア25に対する固定状態を解除し、保持機構18のみでピニオン17が保持された固定解除状態に移行させる作業を行うことができる。従って、連結切替機構19を簡素な構成で構築することができるとともに、故障した旋回アクチュエータ11を駆動力伝達経路から切り離す作業を、作業者が一人であっても軸状部材44を抜くだけで極めて容易且つ速やかに行うことができる。
【0067】
また、推進ユニット用旋回装置1によると、連結切替機構19の固定解除状態においては、キャリア25に対して固定された保持機構18によって軸方向でピニオン17を係止させて回転可能な状態のまま保持することができる。このため、固定解除状態においてピニオン17をキャリア25に対して回転可能に保持する保持機構18を簡素な構成で構築することができる。
【0068】
また、推進ユニット用旋回装置1によると、連結切替機構19の固定解除状態においては、ピニオン17と旋回ギア104との噛み合いが外れる位置までピニオン17を旋回ギア104に対して退避させた状態でピニオン17を保持機構18によって保持することができる。このため、故障した旋回アクチュエータ11を駆動力伝達経路から切り離した際に、ピニオン17を旋回ギア104に対して噛み合わせたまま空回りさせることもなく、旋回ギア104に無駄な負荷や抵抗を与えてしまうことを防止することができる。
【0069】
また、推進ユニット用旋回装置1によると、旋回アクチュエータ11が複数備えられており、それぞれの旋回アクチュエータ11における減速機13が、保持機構18及び連結切替機構19を有している。このため、いずれかの旋回アクチュエータ11に故障が発生した場合であっても、その旋回アクチュエータ11の減速機13において連結切替機構19を操作し、ピニオン17とキャリア25の連結状態を速やかに固定解除状態に移行させることができる。このため、故障した旋回アクチュエータ11を駆動力伝達経路から速やかに切り離し、故障していない旋回アクチュエータ11にてすぐに推進ユニット101の旋回動作を行うことができる。
【0070】
(推進ユニット用旋回装置の第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る推進ユニット用旋回装置2(以下、単に「旋回装置2」ともいう)について説明する。図7は、推進ユニット用旋回装置2と推進ユニット101とを模式的に示す斜視図である。旋回装置2は、第1実施形態の旋回装置1と同様に、船舶100(図1参照)において回転自在に支持された推進ユニット101を旋回軸線Pを中心に旋回させる旋回装置として構成される。そして、旋回装置2は、複数の旋回アクチュエータ51(51a、51b、51c、51d)を備えて構成されている。旋回ア
クチュエータ51は、旋回装置2においては、第1実施形態と同様に、4つ備えられている。そして、各旋回アクチュエータ51(51a、51b、51c、51d)は、船舶100に固定され、それぞれ電動機52と減速機53とを備えて構成されている。
【0071】
電動機52は、第1実施形態と同様に構成され、減速機53に連結されて減速機53を回転駆動するように設けられている。そして、電動機52の定格回転速度は、1000RPM以上で3000RPM以下の範囲に設定されている。この電動機52は、第1実施形態の電動機12と同様に、インバータ110を介して旋回コントローラ109の指令に基づいて運転が制御される。
【0072】
図8は、旋回アクチュエータ2の正面図であって、減速機53について断面で示す図である。図8に示すように、旋回アクチュエータ2の減速機53は、入力軸54、ケース55、減速部56、ピニオン57、保持機構58、連結切替機構59、等を備えて構成されている。各旋回アクチュエータ51(51a、51b、51c、51d)における減速機53は、いずれも同様に構成されている。
【0073】
図8に示すように、減速機53は、下側に配置された一端側においてケース55から一部が突出するように位置する後述のキャリア65にピニオン57が取り付けられ、上側に配置された他端側においてケース55に対して電動機52が取り付けられている。そして、減速機53においては、上側に配置された電動機52から入力された回転駆動力をケース55の内側に配置された減速部56を介して減速して伝達してピニオン57から出力する。
【0074】
各減速機53に設けられたピニオン57は、第1実施形態のピニオン17と同様に、旋回ギア104の外周に形成された歯104aとそれぞれ噛み合うとともに、旋回ギア104の外周に沿ってその周方向における均等角度位置に配置されている(図7参照)。これにより、第1実施形態と同様に、旋回アクチュエータ51は、電動機52が回転することで推進ユニット101を旋回軸線Pを中心に旋回させるように構成されている。
【0075】
ここで、減速機53について更に詳しく説明する。尚、以下の説明においては、第1実施形態と同様に、減速機53にて、ピニオン57が配置される下側である出力側を一端側として、電動機52が配置される上側である入力側を他端側として説明する。
【0076】
図9は、図8におけるケース55及び減速部56の一部を拡大して示す断面図である。図8及び図9に示すように、ケース55は、筒状に形成された第1ケース部55a及び第2ケース部55bを備えて構成され、これらの第1及び第2ケース部(55a、55b)がボルトによって連結されている。尚、第1ケース部55aが一端側に配置され、その他端側に第2ケース部55bが固定されている。ケース55の内部には、入力軸54や減速部56等が収納され、電動機52の出力軸52a、入力軸54及び減速部56は、減速機53の回転中心線Q(図8及び図9において一点鎖線で図示)の方向に沿って配置されている。ケース55は、一端側(第1ケース部55aの端部側)が開口形成され、他端側(第2ケース部55bの端部側)には電動機52が固定されている。尚、ケース55の内部は外部に対してシール部材によって密封されており、この密封されたケース55の内部には潤滑油が充填されている。また、ケース55における第1ケース部55aの内周には、第1実施形態のピン内歯20と同様に構成されて後述の外歯歯車66の外歯81と噛み合う複数のピン内歯60(本実施形態における内歯)が、第1実施形態と同様に配置されている。
【0077】
図8及び図9に示すように、入力軸54は、電動機52の出力軸52aに対してキー結合(図示せず)を介した嵌合により連結されており、電動機52からの駆動力がその他端
側に入力される軸状の部材として設けられている。そして、入力軸54の一端側には、減速部56における後述のクランク軸用歯車63と噛み合うギア部54aが設けられており、入力軸54は、電動機52から駆動力を減速部56に伝達するように構成されている。また、入力軸54は、その一端側から減速部56の中央部に対して回転中心線Qに沿って挿入された状態で配置されており、一端側の端部がキャリア65に対して玉軸受61を介して回転自在に支持されている。
【0078】
図8及び図9に示すように、減速部56は、クランク軸用歯車63、クランク軸64、キャリア65、外歯歯車66、主軸受(70、71)、クランク軸軸受(72、73)等を備えて構成されている。
【0079】
クランク軸用歯車63は、平歯車要素として設けられており、減速部56の内側において、入力軸54のギア部54aと噛み合うようにギア部54aの周囲に複数(例えば、3つ)配置されており、ギア部54aに対して減速機53の径方向(回転中心線Qに対して垂直な方向)に位置している。クランク軸用歯車63は、中央部分に貫通孔が形成され、この貫通孔においてクランク軸64の一端側に対してスプライン結合により固定されている。
【0080】
クランク軸64は、回転中心線Qを中心とした周方向に沿った位置に複数(例えば、3つ)、第1実施形態のクランク軸24と同様に配置されている。そして、各クランク軸64は、外歯歯車66に形成されたクランク用孔74をそれぞれ貫通するように配置され、入力軸54からの駆動力がクランク軸用歯車63を介して伝達されて回転することで外歯歯車66を偏心させて揺動回転させる軸部材として設けられている。このクランク軸64は、自らの回転(自転)に伴う外歯歯車66の回転とともに、公転動作を行うことになる。
【0081】
また、クランク軸64には、第1実施形態の第1及び第2偏心部(24a、24b)、第1及び第2軸部(24c、24d)と同様に、第1偏心部64a、第2偏心部64b、第1軸部64c、第2軸部64dが形成されている。第1偏心部64a及び第2偏心部64bは、外歯歯車66のクランク用孔74に配置されている。クランク軸64の一端側に設けられた第1軸部64cは、クランク軸軸受72を介してキャリア65に対して回転自在に保持されている。クランク軸64の他端側に設けられた第2軸部64dは、クランク軸軸受73を介してキャリア65に対して回転自在に保持されている。また、第1軸部64cには、クランク軸軸受72から一端側に突出するように位置するその端部側において、前述したように、クランク軸用歯車63が固定されている。尚、クランク軸軸受(72、73)は、例えば、円筒ころ軸受又はニードルころ軸受として設けられている。
【0082】
キャリア65は、基部キャリア67と、端部キャリア68と、支柱69と、出力軸部62を備えて構成されている。そして、このキャリア65は、クランク軸64の一端側及び他端側を回転自在に保持するとともにピニオン57が取り付けられる本実施形態における出力部を構成している。
【0083】
基部キャリア67は、中央部分に入力軸54が貫通する貫通孔が形成された円盤状の部材として設けられるとともに、その一端側の複数個所(例えば、3箇所)において、一端側に向かって開口する凹み形成された部分が形成されている。この凹み形成された部分により、クランク軸用歯車63が配置される空間が構成されている。また、基部キャリア67は、その一端側において、複数のボルト78(図8では破線で1本のみ図示)によって出力軸部62が締結されて固定されている。また、基部キャリア67には、回転中心線Qを中心とした周方向に沿った均等角度の位置にクランク軸64の一端側の第1軸部64cが配置される貫通孔としてクランク貫通孔75が形成されている。このクランク貫通孔7
5において、クランク軸64の一端側がその第1軸部64cにてクランク軸軸受72を介して回転自在に保持されている。
【0084】
出力軸部62は、円盤状の部材として設けられ、その他端側において、前述のボルト78によって基部キャリア67に対して固定されている。そして、出力軸部62の他端側の端部の中央部分には凹部が形成され、この凹部において、入力軸54の一端側の端部を玉軸受61を介して回転自在に保持している。また、出力軸部62の一端側には、後述の保持機構58及び連結切替機構59を介してピニオン57が連結されている。
【0085】
端部キャリア68は、中央部分に入力軸54が貫通する貫通孔が形成された円板状の部材として設けられ、支柱69を介して基部キャリア67と連結されている。端部キャリア68には、回転中心線Qを中心とした周方向に沿った均等角度の位置にクランク軸64の他端側の第2軸部64dが配置される貫通孔としてクランク貫通孔76が形成されている。このクランク貫通孔76において、クランク軸64の他端側がその第2軸部64dにてクランク軸軸受73を介して回転自在に保持されている。尚、クランク貫通孔76には、クランク軸64のスラスト荷重を支持する玉軸受79も配置されている。
【0086】
支柱69は、基部キャリア67と端部キャリア68との間に配置され、基部キャリア67と端部キャリア68とを連結する柱状部分として設けられ、第1実施形態の支柱29と同様に構成されている。そして、各支柱69は、基部キャリア67に対して他端側に突出するとともに一体に形成される。また、第1実施形態の支柱ピン37と同様に構成される支柱ピン77によって、基部キャリア67及び端部キャリア68の周方向の位置が合わされる。また、第1実施形態の支柱ボルト39と同様に構成される支柱ボルト(図示せず)によって、端部キャリア68と基部キャリア67とが支柱69を介して結合される。
【0087】
主軸受(70、71)は、キャリア65をケース55に対して回転自在に保持するように構成されている。主軸受70は、基部キャリア67をその外周側において第1ケース部55aの内周側に対して回転自在に保持する円錐ころ軸受として構成されている。また、主軸受71は、端部キャリア68をその外周側において第1ケース部15aの内周側に対して回転自在に保持する円錐ころ軸受として構成されている。
【0088】
外歯歯車66は、平行に配置された状態でケース55内に収納される第1外歯歯車66aと第2外歯歯車66bとで構成されている。第1外歯歯車66a及び第2外歯歯車66bにはそれぞれ、クランク軸64が貫通するクランク用孔74、及び、支柱69が貫通する支柱貫通孔80が形成されている。外歯歯車66のクランク用孔74及び支柱貫通孔80は、第1実施形態のクランク貫通孔34及び支柱貫通孔40と同様に構成されている。尚、第1外歯歯車66a及び第2外歯歯車66bの中央部分にそれぞれ形成された貫通孔には、入力軸54が貫通した状態で配置されている。また、第1外歯歯車66a及び第2外歯歯車66bのそれぞれの外周には、ピン内歯60に噛み合う外歯81が設けられている。そして、第1実施形態と同様に、外歯81の歯数はピン内歯60の歯数よりも1個又は複数個少なくなるように設けられ、クランク軸64が回転するごとに、噛み合う外歯81とピン内歯60との噛み合いがずれ、外歯歯車66(66a、66b)が偏心して揺動回転することになる。また、外歯歯車66は、第1実施形態の外歯用軸受(42、43)と同様に構成される外歯用軸受(82、83)を介してクランク用孔74においてクランク軸64を回転自在に保持している。
【0089】
尚、上述した入力軸54から出力部であるキャリア65までの駆動力伝達経路における速比、即ち、減速機53における速比は、50以上で100以下の範囲に設定されている。また、出力部における出力軸部62に取り付けられたピニオン57の旋回ギア104に対する速比は、10以上で20以下の範囲に設定されている。
【0090】
図8に示すように、保持機構58は、ピニオン57を出力部であるキャリア65における出力軸部62に対して回転可能に保持するボルト部材として構成されている。ピニオン57の径方向における中央部分には、第1実施形態の第1貫通孔17aと同様に構成される第1貫通孔57aが形成されており、保持機構58は、その軸部が第1貫通孔57aに対して遊嵌状態で貫通するように配置されている。このため、ピニオン57は、保持機構58の軸部の周囲で回転可能な状態で配置されている。
【0091】
また、保持機構58は、そのボルト頭部58aと反対側の先端側の外周に雄ネジ部58bが形成されている。そして、出力軸部62の一端側の端部には、回転中心線Qに沿った中心位置に設けられて一端側に向かって開口する雌ネジ穴62aが形成されており、保持機構58の雄ネジ部58bがこの雌ネジ孔62aに螺合するように構成されている。このように、保持機構58は、第1貫通孔57aを遊嵌状態で貫通した状態で雄ネジ部58bが雌ネジ穴62aに螺合することで、出力軸62に固定されるとともに、ピニオン57の一端側に向かう方向の移動をボルト頭部58aで係止して阻止するように設けられている。即ち、保持機構58は、出力部であるキャリア65に固定され、ピニオン57をキャリア65に対して回転可能に支持するとともにピニオン57に対して軸方向において係止することでこのピニオン57を保持するように構成されている。
【0092】
図8に示すように、連結切替機構59は、出力部であるキャリア65の出力軸部62に対するピニオン57の連結状態を固定状態と固定解除状態との間で切り替え可能な機構として設けられており、複数(例えば、3つ)の軸状部材84を備えて構成されている。各軸状部材84は、本実施形態ではボルト部材として設けられている。ピニオン57の径方向における中心から離れた位置には、円形断面を有する第2貫通孔57bが複数(例えば、3つ)形成されており、各軸状部材84は、その軸部が各第2貫通孔57bに対して貫通するように配置されている。尚、各第2貫通孔57bは、ピニオン17の軸方向と平行な方向にこのピニオン57を貫通するように形成されている。そして、複数の第2貫通孔57bは、ピニオン17の中心位置を中心にした周方向における均等角度の位置に設けられている。
【0093】
また、連結切替機構19における各軸状部材84は、そのボルト頭部84aと反対側の先端側の外周に雄ネジ部84bが形成されている。一方、出力軸部62の一端側の端部には、回転中心線Qから径方向に離れた位置で各第2貫通孔57bに対向する位置に複数(例えば、3つ)の挿入穴62bが一端側に向かって開口するように形成されている。そして、各軸状部材84の雄ネジ部84bは、各挿入穴62bに対して螺合するように構成されている。
【0094】
図10は、図8におけるピニオン57とその近傍とを示す切欠き断面図であって、挿入穴62bに対して軸状部材84が螺合した状態(図10(a))と取り外された状態(図10(b))とを示す図である。軸状部材84は、図10(a)に示すように、第2貫通孔57bを貫通した状態で雄ネジ部84bが挿入穴62bに螺合することで、ピニオン57の回転方向の変位を軸状部材84の軸部で係止して規制することになる。このとき、ピニオン57は、出力軸部62に対して固定された状態で連結されている。一方、図10(b)に示すように、雄ネジ部84bと挿入穴62bとの螺合が緩められて軸状部材84が図中の矢印で示すように挿入穴62bから取り出されることで、ピニオン57は、回転方向の変位の規制が解除された状態(保持機構58を中心として回転自在の状態)となる。
【0095】
上記のように、複数の軸状部材84は、ピニオン57を軸方向と平行に貫通するとともに出力部であるキャリア65に形成された挿入穴62bに対して抜き取り可能に挿入された状態でピニオン57のキャリア65に対する回転方向の変位を規制するように構成され
ている。そして、複数の軸状部材84を有する連結切替機構59は、各軸状部材84が各挿入穴62bに螺合した図10(a)に示す状態では、ピニオン57のキャリア65に対する連結状態を固定状態とし、各軸状部材84が各挿入穴62bから取り出された図10(b)に示す状態では、ピニオン57のキャリア65に対する連結状態を固定解除状態とする。即ち、上記の固定状態においては、ピニオン57がキャリア65とともに回転するようにキャリア65に対して固定されて連結された状態となる。そして、上記の固定解除状態においては、ピニオン57のキャリア65に対する固定状態が解除されてピニオン57がキャリア65に対して保持機構58のみを介して回転可能に連結された状態となる。
【0096】
上述した旋回装置2は、旋回装置1と同様に作動することになる。即ち、旋回アクチュエータ51の電動機52が作動すると、出力軸52aとともに入力軸54が回転し、ギア部54aに噛み合うクランク軸用歯車63とともに各クランク軸64が回転する。この回転により、第1及び第2偏心部(64a、64b)から外歯歯車66(66a、66b)に対して荷重が作用し、外歯歯車66(66a、66b)がピン内歯60と噛み合いをずらしながら揺動して偏心回転する。これにより、クランク軸64が自転しながら公転動作を行い、出力部であるキャリア65が回転する。このとき、連結切替機構59によってピニオン57のキャリア65に対する連結状態は固定状態になっており、大きなトルクがキャリア65とともに回転するピニオン57から出力される。そして、各ピニオン57と旋回ギア104との噛み合いを介して推進ユニット101が回転し、推進ユニット101の旋回動作が行われることになる。
【0097】
一方、旋回アクチュエータ51のいずれかにおいて減速機53や電動機52に故障が発生した場合、作業者は、その故障が発生した旋回アクチュエータ51において連結切替機構59を操作することになる。即ち、作業者は、出力軸62の挿入穴62bに螺合している各軸状部材84を緩め、これらの軸状部材84を挿入穴62bから取り外す操作を行うことになる。これにより、ピニオン57のキャリア65に対する連結状態が固定状態から固定解除状態に切り替えられることになる。尚、ピニオン57の第1貫通孔57aは、第1実施形態の第1貫通孔17aと同様に構成されている。このため、作業者は、ピニオン57の連結状態を固定解除状態に切り替えた後は、ピニオン57を第1貫通孔57aの範囲内で保持機構58に対して水平に移動させることができる。これにより、ピニオン57と旋回ギア104との噛み合いが外れる位置までピニオン57が旋回ギア104に対して退避することになる。
【0098】
以上説明した推進ユニット用旋回装置2によると、第1実施形態の推進ユニット用旋回装置1と同様の効果を奏することができる。即ち、推進ユニット用旋回装置2によると、小型の電動機52と大きな減速比が確保された小型の減速機53とを備え、大幅に小型化が図られた旋回アクチュエータ51を実現できるとともに、推進ユニット101の旋回動作に必要な十分な大きさの旋回トルク及び旋回速度を確保することができる。また、推進ユニット用旋回装置2によると、旋回アクチュエータ51の故障が生じた際に、故障した旋回アクチュエータ51を駆動力伝達経路から切り離す作業を、作業者が一人であっても容易且つ速やかに行うことができる。また、連結機構59及び保持機構58を簡素な構成で構築することができる。また、故障した旋回アクチュエータ51を駆動力伝達経路から切り離した際に、ピニオン57を旋回ギア104に対して噛み合わせたまま空回りさせることもなく、旋回ギア104に無駄な負荷や抵抗を与えてしまうことを防止することができる。また、故障した旋回アクチュエータ51を駆動力伝達経路から速やかに切り離し、故障していない旋回アクチュエータ51にてすぐに推進ユニット101の旋回動作を行うことができる。
【0099】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができ
る。例えば、次のように変更して実施することができる。
【0100】
(1)本実施形態では、旋回アクチュエータが4つ備えられているものを例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、旋回アクチュエータの数については、種々変更して実施してもよい。
【0101】
(2)本実施形態では、旋回ギアの外周に形成された歯に対して旋回アクチュエータのピニオンが噛み合う場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。即ち、旋回ギアの内周に形成された歯に対して旋回アクチュエータのピニオンが噛み合うように構成されるものであってもよい。
【0102】
(3)本実施形態では、旋回ギアが設けられた旋回筒が船舶に対して回転自在に支持されて、旋回アクチュエータが船舶に対して固定された場合を例にとって説明したがこの通りでなくてもよい。即ち、旋回ギアが設けられた旋回筒が船舶に対して固定され、旋回軸線を中心として旋回ギアの周方向に沿って配置された旋回アクチュエータが船舶に対して旋回軸線を中心に周方向に移動可能なようにストラット側に固定されているものであってもよい。
【0103】
(4)また、減速機におけるクランク軸やキャリア等については、種々形態を変更して実施することができる。例えば、クランク軸が回転中心線上に配置されたセンタクランクタイプの減速機が用いられてもよい。また、基部キャリアと端部キャリアとを連結する支柱は、基部キャリアに一体に形成されていなくてもよく、基部キャリアとは別部材として形成されていてもよい。また、クランク軸及び支柱の数は、本実施形態とは異なっていてもよい。また、クランク軸の偏心部の個数や外歯歯車の枚数については、2つでなくてもよい。また、保持機構及び連結切替機構については、ボルト部材以外の形態の要素によって構成されていてもよい。また、連結切替機構における軸状部材の数については、種々変更して実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、プロペラの回転により船舶を推進させるとともにプロペラ軸と垂直な旋回軸線を中心として船舶において回転自在に支持された推進ユニットを、旋回軸線を中心に旋回させる推進ユニット用旋回装置として、広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0105】
1 推進ユニット用旋回装置
11、11a、11b、11c、11d 旋回アクチュエータ
12 電動機
13 減速機
15 ケース
17 ピニオン
20 ピン内歯(内歯)
24 クランク軸
25 キャリア(出力部)
26 外歯歯車
100 船舶
101 推進ユニット
104 旋回ギア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラの回転により船舶を推進させるとともにプロペラ軸と垂直な旋回軸線を中心として船舶において回転自在に支持された推進ユニットを、前記旋回軸線を中心に旋回させる推進ユニット用旋回装置であって、
前記旋回軸線を中心位置として配置された旋回ギアの内周又は外周に形成された歯に噛み合うピニオンが設けられた減速機と当該減速機に連結されて当該減速機を回転駆動する電動機とを有し、前記電動機が回転することで前記推進ユニットを前記旋回軸線を中心に旋回させる旋回アクチュエータを備え、
前記減速機は、内歯が内周に配置されたケースと、前記ケースに収納されるとともに前記内歯が噛み合う外歯が外周に設けられた外歯歯車と、前記外歯歯車を偏心させて回転させるクランク軸と、前記クランク軸の一端側及び他端側を回転自在に保持するとともに前記ピニオンが取り付けられた出力部と、を有し、
前記電動機の定格回転速度は、1000RPM以上で3000RPM以下の範囲に設定され、
前記減速機における速比は、50以上で100以下の範囲に設定され、
前記旋回ギアに対する前記ピニオンの速比は、10以上で20以下の範囲に設定されていることを特徴とする、推進ユニット用旋回装置。
【請求項2】
請求項1に記載の推進ユニット用旋回装置であって、
前記減速機は、
前記ピニオンを前記出力部に対して回転可能に保持する保持機構と、
前記ピニオンの前記出力部に対する連結状態を、前記ピニオンが前記出力部とともに回転するように前記出力部に対して固定されて連結された固定状態と、前記ピニオンの前記出力部に対する固定状態を解除して前記ピニオンが前記出力部に対して前記保持機構のみを介して回転可能に連結された固定解除状態と、の間で切り替え可能な連結切替機構と、
を有していることを特徴とする、推進ユニット用旋回装置。
【請求項3】
請求項2に記載の推進ユニット用旋回装置であって、
前記連結切替機構は、前記ピニオンを軸方向と平行に貫通するとともに前記出力部に形成された挿入穴に対して抜き取り可能に挿入された状態で前記ピニオンの前記出力部に対する回転方向の変位を規制する複数の軸状部材を有していることを特徴とする、推進ユニット用旋回装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の推進ユニット用旋回装置であって、
前記保持機構は、前記出力部に対して固定され、前記ピニオンを前記出力部に対して回転可能に支持するとともに当該ピニオンに対して軸方向において係止することで当該ピニオンを保持することを特徴とする、推進ユニット用旋回装置。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の推進ユニット用旋回装置であって、
前記保持機構は、前記連結切替機構によって前記ピニオンの前記出力部に対する連結状態が前記固定解除状態に切り替えられたときに、前記ピニオンと前記旋回ギアとの噛み合いが外れる位置まで前記ピニオンを前記旋回ギアに対して退避可能に保持することを特徴とする、推進ユニット用旋回装置。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載の推進ユニット用旋回装置であって、
前記旋回アクチュエータは、複数備えられ、
それぞれの前記旋回アクチュエータにおける前記減速機が、前記保持機構及び前記連結切替機構を有していることを特徴とする、推進ユニット用旋回装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−93350(P2011−93350A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246800(P2009−246800)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)