説明

推進剤タンク締結金具、及び推進剤タンクの締結方法

【課題】 人工衛星のアポジ・キック・エンジンに使用される燃料及び酸化剤は質量が非常に大きいため、主構造体であるセントラルシリンダに締結される。その締結の際、製造公差による締結部品間の隙間によって荷重線がずれた場合、二次的な大きなモーメントが発生する。それを軽減するために、締結部品毎の製造公差を厳しくする、組立段階において部品合わせの現合接着や現合加工を行う等の対応をとっているが、これらの対応では、手間隙が掛かること、特殊加工のための専用治工具が必要なこと等から生産性を阻害する要因の一つとなっている。
【解決手段】 二つの偏心した円柱状の締結金具部品を組み合わせ、それらの位相を適当に合わせることにより、タンク締結のインタフェース穴の中心位置を高精度に位置決めすることが可能となる。これにより、生産性を向上しつつ、二次的なモーメントを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、推進剤タンクを、人工衛星(以下、衛星と称する)の中央部に配置されたセントラルシリンダに締結するための、インタフェース用の推進剤タンク締結金具及び、推進剤タンクの締結方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、多くの静止軌道衛星は、ロケットによる軌道投入速度では、静止軌道まで到達することができない。各々の衛星にて、静止軌道到達に必要となるアポジ・キック・エンジンと燃料及び酸化剤からなる推進装置を搭載しており、推進装置の推進力によって軌道位置を変更している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−130565号公報(第497頁、第1図、及び第2図)
【0004】
この軌道変更で消費する燃料及び酸化剤の量は多く、燃料及び酸化剤を充填した燃料及び酸化剤タンクは非常に大きな質量を有する傾向がある。
【0005】
このため、この燃料及び酸化剤タンクを取り付けるインタフェースは、大荷重を効率良く伝達するため、強度の高い金具にて取り付けられる(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献2】特開2003−291899号公報(第4頁、第1図、及び第5図)
【0007】
また、大荷重を伝達するため、製造公差による部品間の隙間によって荷重線がずれた場合、衛星全体に対し二次的な大きなモーメントが発生するため、部品ごとの製造公差を厳しくする必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の燃料及び酸化剤タンクの締結部は、製造公差による二次的なモーメントを極力発生させないように、部品毎の製造公差を厳しくする、組立段階において、部品合わせの現合接着や現合加工を行う等の対応をしている。この現合接着、現合加工は、通常の組立方法に比べて加工の手間隙が掛かり、特殊な加工であるためその加工のための専用治工具を必要とする場合もあり、生産性を阻害する要因の一つとなっている。
【0009】
本発明は、係る課題を解決するために成されたものであり、製造公差による部品間の位置ずれや隙間を最小限にしながらも、通常の加工の範囲内で作業を実施することができ、特殊作業による専用治工具の必要性や特殊作業による手間隙を排除、もしくは削減することができるようにした、推進剤タンクの締結金具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による推進剤タンク締結金具は、人工衛星に設けられた中空のセントラルシリンダと、セントラルシリンダに収容される燃料または酸化剤の充填された推進剤タンクとを、相互結合する推進剤タンク締結金具であって、締結部品を介してセントラルシリンダまたは推進剤タンクの一方に結合される円筒曲面形状の内筒穴を有し、外面が当該内筒穴に対し同軸でかつ偏芯した円筒曲面形状をなす第1の締結金具と、締結部品を介してセントラルシリンダまたは推進剤タンクの他方に結合される円筒曲面形状の外面と、当該外面に対し同軸でかつ偏芯した円筒曲面形状の内筒穴を有し、当該内筒穴が上記第1の締結金具の外面に嵌合して、上記第1の締結金具と結合する第2の締結金具と、を具備したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、推進剤タンクとセントラルシリンダとの結合時に、現合加工のような特殊な組立作業を行うことなく、推進剤タンク締結部の荷重線がずれることによる二次的モーメントの発生を極力抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る実施の形態1によるセントラルシリンダと推進剤タンクの配置を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態1による人工衛星の推進剤タンク締結部品の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明に係る実施の形態1によるセントラルシリンダと推進剤タンクの配置を示す図である。図2は、実施の形態1による人工衛星の推進剤タンク締結部品の構成を示す図である。
【0014】
図1において、セントラルシリンダ2は、衛星の中央部に配置され、衛星構造の主荷重経路を構成している主構造体である。セントラルシリンダ2は、中空円筒状のシリンダ形状をなしている。推進剤タンク3は、燃料または酸化剤が内部に充填されており、燃料タンクまたは酸化剤を構成している。推進剤タンク3は、セントラルシリンダ2の内部に収納され、セントラルシリンダ2に結合される。推進剤タンク締結金具1は、セントラルシリンダ2と、その内部に搭載される推進剤タンク3とを、締結する目的で使用される。
【0015】
図2において、推進剤タンク締結金具1は、大きく分けて二つの部品から構成されている。その一つは、推進剤タンク2と直接結合するボルトやピン等に直接締結される第1の締結金具としての金具4である。もう一つは、前述の金具4と締結され、かつ、衛星の主荷重経路であるセントラルシリンダ2に結合される第2の締結金具としての金具5である。各々の金具は円柱形状をしている。
【0016】
前述のボルトやピンと結合される金具4は、円柱形状をなしている。金具4は、円の中心から偏心した位置に、推進剤タンク2に締結されるボルトやピン等の締結部品と結合するインタフェース穴6を有している。このインタフェース穴6は、穴やねじが設けられている。また、金具4は、円柱状の金具外面側にて、金具5と結合される。
【0017】
前述のセントラルシリンダ2と結合する金具5は、円柱形状をなしている。金具5は、円の中心から偏心した位置に、ボルトやピンと結合される金具4とのインタフェース穴7を有している。インタフェース穴7は、円筒形状の穴から構成される。金具5は、インタフェース穴7の穴の内側面で、金具4と嵌合して結合される。また、金具5は、ボルトやフランジ等の締結部品を介したねじ結合または、接着結合により、セントラルシリンダ2に締結固定される。
【0018】
各々の金具4、5は、共にインタフェース穴6、7が円の中心から偏心した位置に存在している。結合時にこれらの金具4、5の回転方向の位置を相互に変化させることにより、角度位相が相互に変化することによって、最も内側に位置するインタフェース穴6の中心位置を変化させることが可能である。
すなわち、二つの偏心した円柱状の締結金具部品である金具4、5を組み合わせ、それらの位相を適当に合わせることにより、タンク締結用のインタフェース穴6の中心位置を高精度に位置決めすることが可能となる。これにより、生産性を向上しつつ、二次的なモーメントを抑制することができる。
【0019】
以上説明した通り、実施の形態1による推進剤タンク締結金具は、人工衛星に設けられた中空のセントラルシリンダ2と、セントラルシリンダ2に収容される燃料または酸化剤の充填された推進剤タンク3とを、相互結合する推進剤タンク締結金具1であって、締結部品を介して推進剤タンク3に結合される円筒曲面形状の内筒穴6を有し、外面が内筒穴6に対し同軸でかつ偏芯した円筒曲面形状をなす第1の締結金具4と、締結部品を介してセントラルシリンダ2に結合される円筒曲面形状の外面、及び外面の円筒軸に対して同軸でかつ偏芯した円筒曲面形状の内筒穴7を有し、当該内筒穴7が上記第1の締結金具4の外面に嵌合して、上記第1の締結金具4と結合する第2の締結金具5と、を具備したことを特徴とする。
【0020】
また、金具4の内筒穴6を締結部品に結合してまたは推進剤タンク3に結合する工程と、金具5の外面を締結部品に結合してセントラルシリンダ2に結合する工程と、金具4の外面を、金具5の内筒穴7に嵌合し、かつ金具4の外面に対する金具5の内筒穴7の位置を、金具5の内筒穴7の軸周りに位置調整した後、金具4と金具5を結合することで、セントラルシリンダ2と推進剤タンク3に対して、推進剤タンク締結金具1を位置合わせして締結する。
【0021】
これによって、燃料または酸化剤の充填された推進剤タンク3の締結金具について、機械加工精度を厳しくする、これらの金具を現合接着する、現合加工する等の特殊な作業を行うことなく、燃料または酸化剤の充填された推進剤タンクにおける、締結部の荷重線がずれることによる二次的モーメントの発生を極力抑えることができる。かくして、製造工程における手間隙が削減でき、費用、工期の点でその削減効果は大きい。
【0022】
実施の形態1による推進剤タンク締結金具1は、静止軌道衛星の燃料または酸化剤タンク3をセントラルシリンダ2へ締結させる締結金具として利用することができる。この推進剤タンク締結金具は、静止軌道衛星に搭載される大型の燃料または酸化剤タンクを、衛星構造の主荷重経路であるセントラルシリンダに締結するためのインタフェース用の締結金具を構成することができる。この推進剤タンク締結金具を利用することにより、宇宙インフラのスムーズな発展の一助となる可能性を持つ。
【0023】
なお、金具4の内筒穴6を、締結部品を介してセントラルシリンダ2に結合し、金具5の外面を、締結部品を介して推進剤タンク3に結合しても良く、同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 タンク締結金具、2 セントラルシリンダ、3 推進剤タンク、4 金具(第1の締結金具)、5 金具(第2の締結金具)、6 インタフェース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工衛星に設けられた中空のセントラルシリンダと、セントラルシリンダに収容される燃料または酸化剤の充填された推進剤タンクとを、相互結合する推進剤タンク締結金具であって、
締結部品を介してセントラルシリンダまたは推進剤タンクの一方に結合される円筒曲面形状の内筒穴を有し、外面が当該内筒穴に対し同軸でかつ偏芯した円筒曲面形状をなす第1の締結金具と、
締結部品を介してセントラルシリンダまたは推進剤タンクの他方に結合される円筒曲面形状の外面と、当該外面に対し同軸でかつ偏芯した円筒曲面形状の内筒穴を有し、当該内筒穴が上記第1の締結金具の外面に嵌合して、上記第1の締結金具と結合する第2の締結金具と、
を具備した推進剤タンク締結金具。
【請求項2】
人工衛星に設けられた中空のセントラルシリンダと、セントラルシリンダに収容される燃料または酸化剤の充填されたタンクとを、相互結合する推進剤タンクの締結方法であって、
円筒曲面形状の内筒穴を有し、外面が内筒穴に対し同軸でかつ偏芯した円筒曲面形状をなす第1の締結金具について、その内筒穴を締結部品に結合してセントラルシリンダまたは推進剤タンクの一方に結合する工程、
円筒曲面形状の外面と、当該外面に対し同軸でかつ偏芯した円筒曲面形状の内筒穴を有する第2の締結金具について、その外面部を締結部品に結合してセントラルシリンダまたは推進剤タンクの他方に結合する工程、
上記第1の締結金具の外面を、上記第2の締結金具の内筒穴に嵌合し、かつ第1の締結金具の外面に対する第2の締結金具の内筒穴の位置を、第2の締結金具の内筒穴の軸周りに位置調整した後、上記第1の締結金具と第2の締結金具を結合する推進剤タンクの締結方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−255782(P2011−255782A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131942(P2010−131942)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】