説明

揚げ油の劣化酸化防止方法

【課題】安全に簡単に実施することができ、かつ、安価で確実に効果を期待することができる揚げ油の劣化酸化防止方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る揚げ油の劣化酸化防止方法は、揚げ油に対し、pH10以上のアルカリイオン水を添加することをすることを特徴とする。アルカリイオン水を揚げ油に添加するタイミングは、揚げ油の加熱前、揚げ物食品の製造作業のインターバル中、或いは、揚げ物食品の製造作業の終了後(フィルターによる揚げ油の濾過後)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンカツ、唐揚げ、天ぷら、ドーナッツ、揚げ菓子などの揚げ物食品の製造に用いられる揚げ油の劣化酸化防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、揚げ油の劣化或いは酸化を防止、抑制するための技術として、様々な技術が開発されている。例えば、フライヤーに揚げカスの沈殿槽及び攪拌装置を付設したものや、静電気の電位によって揚げ油等の鮮度維持を補助できるようにした静電気式還元化装置などのほか、食用油中に不活性ガスを導入できるようにしたものなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−144336号公報
【特許文献2】特開2002−017320号公報
【特許文献3】特開2001−025382号公報
【特許文献4】特開2000−014318号公報
【特許文献5】特開平8−24865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の劣化酸化防止技術は、十分な効果が期待できるものが少なく、また、十分な効果が期待できるものとしては、非常に大掛かりな装置乃至は設備を導入する必要があるものが殆どで、設備コストが嵩み、小規模な飲食店や家庭での実施には適していないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記のような従来技術を好適に解決することができる揚げ油の劣化酸化防止方法であって、安全に簡単に実施することができ、かつ、安価で確実に効果を期待することができる揚げ油の劣化酸化防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る揚げ油の劣化酸化防止方法は、揚げ油に対し、pH10以上のアルカリイオン水を添加することをすることを特徴としている。尚、アルカリイオン水を揚げ油に添加するタイミングは、揚げ油の加熱前、揚げ物食品の製造作業のインターバル中、或いは、揚げ物食品の製造作業の終了後(フィルターによる揚げ油の濾過後)とすることが好ましい。
【0007】
揚げ油の加熱前にアルカリイオン水を添加する際、その添加量は、pH10以上12未満のアルカリイオン水を用いる場合には、揚げ油に対し、0.1〜10重量%の範囲とすることが好ましく、pH12以上のアルカリイオン水を用いる場合には、揚げ油に対し、0.1〜5重量%の範囲とすることが好ましい。尚、アルカリイオン水を揚げ油に添加した後、適宜撹拌することが好ましい。
【0008】
揚げ物食品の製造作業のインターバル中、或いは、揚げ物食品の製造作業の終了後にアルカリイオン水を添加する際、その添加量は、pH10以上12未満のアルカリイオン水を用いる場合には、揚げ油の油面の面積100cmにつき、1〜20mlの範囲とすることが好ましく、pH12以上のアルカリイオン水を用いる場合には、揚げ油の油面の面積100cmにつき、0.5〜10mlの範囲とすることが好ましい。尚、高温の揚げ油に対してアルカリイオン水を添加する場合、揚げ油の油面に向けて噴霧することが好ましい。
【0009】
更に、加熱前の揚げ油にpH12以上のアルカリイオン水を添加し、撹拌し、揚げ物食品の製造作業のインターバル中にpH12以上のアルカリイオン水を噴霧し、揚げ物食品の製造作業の終了後にpH12以上のアルカリイオン水を噴霧するようにしても良い。この場合のアルカリイオン水の添加量は、加熱前においては、揚げ油の0.1〜5重量%の範囲、インターバル中においては、油面の面積100cmにつき0.5〜10mlの範囲、製造作業の終了後においては油面の面積100cmにつき、0.5〜10mlの範囲とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の揚げ油の劣化酸化防止方法は、安全に簡単に実施することができ、かつ、安価で確実に劣化酸化防止効果を期待することができる。より具体的には、揚げ油は、使用し続けると、酸素、温度、水分、金属イオン、光の影響を受けて劣化酸化し、その結果、泡立ちやすく、発煙しやすくなり、また、色が濃くなり、油ぎれが悪くなり、臭いがきつくなるところ、本発明に係る方法を実施すると、強アルカリイオン水の還元作用により、揚げ油の劣化酸化を防止することができ、上記のような問題を好適に回避することができる。
【0011】
尚、pH10以上の強アルカリ性のイオン水は、180℃程度まで加熱した油に対して噴霧した場合でも、油はねが起きず、安全に実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、本発明を実施するための形態について説明する。本発明に係る揚げ油の劣化酸化防止方法は、揚げ油に対し、強アルカリ性のアルカリイオン水(pH10以上)を添加することを基本とするものであり、添加するタイミングは、揚げ油の加熱前、揚げ物食品の製造作業のインターバル中、或いは、揚げ物食品の製造作業の終了後(フィルターによる揚げ油の濾過後)とする。
【0013】
揚げ油の加熱前にアルカリイオン水を添加するとき、その添加量は、pHが10以上12未満のアルカリイオン水を用いる場合には、揚げ油に対し、0.1〜10重量%の範囲とする。添加量が0.1重量%よりも少ないと、十分な劣化酸化防止効果を期待できない可能性があり、10重量%を超えて添加しても、劣化酸化防止効果は頭打ちとなり、より高い効果が得られる訳ではないからである。
【0014】
一方、pHが12以上のアルカリイオン水を用いる場合には、揚げ油に対し、0.1〜5重量%の範囲で添加する。添加量が0.1重量%よりも少ないと、十分な劣化酸化防止効果を期待できない可能性があり、また、5重量%添加すれば十分に効果が期待できる一方、5重量%を超えて添加しても、より高い効果が得られる訳ではないからである。従って、5重量%添加すれば十分である。尚、アルカリイオン水を添加したら、必要に応じて適宜撹拌する。
【0015】
揚げ物食品の製造作業のインターバル中、或いは、揚げ物食品の製造作業の終了後にアルカリイオン水を添加するとき、その添加量は、pHが10以上12未満のアルカリイオン水を用いる場合には、揚げ油の油面の面積100cmにつき、1〜20mlの範囲とする。添加量が1mlよりも少ないと、十分な劣化酸化防止効果を期待できない可能性があり、20mlを超えて添加しても、劣化酸化防止効果は頭打ちとなり、より高い効果が得られる訳ではないからである。
【0016】
一方、pHが12以上のアルカリイオン水を用いる場合には、揚げ油の油面の面積100cmにつき、0.5〜10mlの範囲で添加する。添加量が0.5mlよりも少ないと、十分な劣化酸化防止効果を期待できない可能性があり、また、10ml添加すれば十分に効果が期待できる一方、10mlを超えて添加しても、より高い効果が得られる訳ではないからである。従って、10ml添加すれば十分である。
【0017】
高温の揚げ油に対してアルカリイオン水を添加する場合、アルカリイオン水をスプレー容器に収容し、揚げ油の油面に向けて噴霧することによって行う。一般に、高温の油に水を投入すると、激しく反応し、高温の油滴と水滴が周囲に飛散して、非常に危険であるが、噴霧すると滴が非常に小さくなるほか、強アルカリ性のアルカリイオン水は、高温の油に投入した際の反応が、普通の水を投入した場合よりも小さくなるため、強アルカリイオン水を噴霧して高温の油に添加しても、油滴、水滴が周囲に飛散するという危険な状態とはならず、安全に作業を行うことができる。
【0018】
更に、加熱前の揚げ油にpHが12以上のアルカリイオン水を投入し、撹拌し、揚げ物食品の製造作業のインターバル中にpHが12以上のアルカリイオン水を噴霧し、揚げ物食品の製造作業の終了後にpHが12以上のアルカリイオン水を噴霧するようにしても良い。この場合のアルカリイオン水の添加量は、加熱前においては、揚げ油の0.1〜5重量%の範囲、インターバル中においては、油面の面積100cmにつき0.5〜10mlの範囲、製造作業の終了後においては油面の面積100cmにつき、0.5〜10mlの範囲とすることが好ましい。
【0019】
尚、ここでは、アルカリイオン水として、特開平8−24865号公報に記載されている方法によって製造したものを使用する。この方法によって製造したアルカリイオン水は、熱的、時間的に安定しており、他の方法によって製造したアルカリイオン水と異なり、一年間室温で放置した場合でもpH値は初期の値に保持されるという点で、非常に優れている。
【実施例1】
【0020】
ここで、本発明に係る揚げ油の劣化酸化防止方法の実施例1について説明する。まず、下記の試料1〜4を用意するとともに、揚げ油2.8kgをそれぞれ貯留した電気フライヤーを合計5セット(A〜E)用意した。そして、これらの試料を各電気フライヤー内の揚げ油にそれぞれ添加、撹拌し、揚げ油を加熱して、唐揚粉をつけた鶏肉を揚げる作業を複数回行い、それらの作業の終了後に、揚げ油の酸化の度合いを測定し、製造した鶏唐揚げの風味を評価し、揚げ油の油量の変化を測定する実験を、6日間に亘って行った。
試料1:pH9のアルカリイオン水
試料2:pH10のアルカリイオン水
試料3:pH11のアルカリイオン水
試料4:pH12のアルカリイオン水(特開平8−24865号公報に記載されている方法によって製造したもの)
【0021】
(第1日目)
揚げ油の加熱前に、電気フライヤーAには試料1を、電気フライヤーBには試料2を、電気フライヤーCには試料3を、電気フライヤーDには試料4をそれぞれ添加し、撹拌した。各試料の添加量は、いずれも28g(各フライヤー内の揚げ油の1重量%に相当する。)とした。尚、電気フライヤーEには、何も添加しなかった。
【0022】
次に、電気フライヤーA〜Eの揚げ油を180℃まで加熱し、唐揚粉をつけた鶏肉(300g/1回)を揚げて鶏唐揚げを製造する作業を、それぞれ1時間のインターバルを置いて合計6回行った。その後、揚げ油をフィルターで濾過し、揚げ油の酸化の度合いを測定し、製造した鶏唐揚げの風味を評価し、揚げ油の油量の変化をチェックし、油量が減少したときは、新しい揚げ油を補充して、実験開始前の値(2.8kg)に復帰するようにした。尚、酸化の度合いは、AV(酸価、Acid Value)値の変化を測定することによって行った。
【0023】
(第2〜6日目)
前日に使用した揚げ油を、それぞれ元の電気フライヤーA〜Eに戻し、引き続き使用して、第1日目と全く同様の作業(試料1〜4の添加、撹拌、鶏唐揚げ製造作業(合計6回/1日あたり)、揚げ油の濾過、AV値測定、風味評価、油量測定、揚げ油補充)を行った。各日毎のAV値、及び、油量の測定結果、並びに、風味の評価結果を次表に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
まず、試料1(pH9のアルカリイオン水)を添加した電気フライヤーAについて説明すると、加熱開始後、揚げ油が160℃まで昇温した時点で、油はねが生じ、危険な状態となったため、第1日目の開始直後の時点で実験を中止した。従って、電気フライヤーAにおいては、鶏肉を揚げる作業も、酸化の度合いを測定する作業も行っていない。
【0026】
表1に示すように、何も添加していない電気フライヤーEにおいては、日程が進行するに従って、AV値が次第に上昇し、第6日目終了時点で3.0となり、揚げ油の劣化酸化が進行した。これに対し、試料2〜4(pH10〜12のアルカリイオン水)を添加した電気フライヤーB〜Dにおいては、AV値はいずれも0.5から最大2.0の間で推移した。しかも、第4日目終了時点で、一旦2.0まで上昇した後、更に揚げ物作業を行ったにも拘わらず、1.0まで降下した。電気フライヤーEの結果と比較すると、試料2〜4を添加した電気フライヤーB〜Dでは、揚げ油の劣化酸化を好適に防止できたことがわかる。
【0027】
また、電気フライヤーEによって製造した鶏唐揚げの風味については、第2日目までは、概ね良好で問題はなかったが、第3日目から油っぽさが多少気になり始め、第6日目では、油臭さ、油っぽさが気になる状態となった。これに対し、電気フライヤーB〜Dにおいては、第6日目まで概ね良好で、油っぽさ、油臭さなどの問題は生じなかった。この結果からも、揚げ油の劣化酸化を好適に防止できたことがわかる。
【0028】
揚げ油の油量は、何も添加していない電気フライヤーEにおいては、毎日、100〜200g減少したが、表1に示すように、電気フライヤーB,Cにおいては、第5日目、第6日目にそれぞれ100gずつ減少したものの、第1〜4日目までは減少しなかった。また、電気フライヤーDにおいては、第1〜6日目まで、油量減少は見られなかった。
【0029】
一般に、揚げ物作業を継続的に行うと、次第に揚げ油の油量が減少していくことになるが、その主たる理由は、揚げ油が揚げ物の表面に付着したり、内部に浸透して、鍋外へ移行してしまうためであると考えられる。また、揚げ油に対して加熱を繰り返すと、油の分子が互いに結合して大きな分子となり、その結果、粘度が上昇することになる。このことも、油量減少の要因となる。更に、揚げ物作業を行う過程で、揚げ物の材料中に含まれていた水分が揚げ油中に浸み出すことがあるが、この場合、浸み出した水分によって揚げ油中に遊離脂肪酸が発生し、これが油量減少の要因ともなり得る。
【0030】
試料2〜4を添加した電気フライヤーB〜D内の揚げ油は、加熱を繰り返しても、油の分子同士が結合しにくくなり、油の粘度の経時的な上昇が抑制され、揚げ物内部に吸収された状態、或いは、表面に付着した状態で鍋外へ移行する量が減少する。また、揚げ物の材料中の水分が揚げ油中に浸み出しても、遊離脂肪酸が生じにくくなる。その結果、電気フライヤーB〜Dでは、揚げ油の油量減少を回避乃至は抑制できたのではないかと考えられる。
【0031】
また、pH10〜12のアルカリイオン水は、界面活性力、乳化作用を有しているため、pH10〜12のアルカリイオン水を揚げ油に添加すると、界面活性力、乳化作用によって、揚げ油の劣化酸化が緩和されると考えられる。更に、pH10〜12のアルカリイオン水には、「OH」イオンが大量に含まれている。このアルカリイオン水を揚げ油中に添加すると、乳化して揚げ油中に均一に分散し、「H」イオン(揚げ油の汚れのもと)と反応し、浄化作用が起こっていると考えられる。揚げ油に添加され、乳化して均一に分散したアルカリイオン水は、揚げ油が100℃以上に加熱されると、揚げ油中で水蒸気となる。そして、アルカリイオン水の水蒸気は、油中を通って油面まで浮上し、油面から空気中に放出されることになる。このとき、即ち、アルカリイオン水の水蒸気が油中を通過する際に、還元作用が生じ、揚げ油が浄化されている。pH10〜12のアルカリイオン水における揚げ油の還元作用、浄化作用は、揚げ油に添加した際、アルカリイオン水が、揚げ油中において、きれいに、むら無く、均一に分散することによって実現される。特に、試料4のアルカリイオン水は、「アルカリ値は高く、アルカリ度は低い」という特質を有しているため、油と接触させた状態で撹拌すると、鹸化し、石鹸のように汚れを落とす効果が得られる。尚、水道水やpH9以下のアルカリイオン水は、揚げ油に添加した場合、均一に分散させることができず、効果的な還元作用、浄化作用は期待することができない。
【0032】
表1の結果からも明らかなように、揚げ油の加熱前にアルカリイオン水(pH10〜12)を添加すると、添加しなかったときと比べ、劣化酸化の進行を遅らせることができることが実証された。また、揚げ油の加熱前にアルカリイオン水を添加する場合、pH10以上のアルカリイオン水であれば、安全に揚げ物作業を行えることが確認された。
【0033】
更に、試料2〜4の添加量を加減して、上記と同様の試験を実施してみたところ、試料2及び試料3については、添加量を0.1〜10重量%の範囲とすることが有効であること、試料4については、添加量を0.1〜5重量%の範囲とすることが有効であることが確認された。
【実施例2】
【0034】
次に、本発明に係る揚げ油の劣化酸化防止方法の実施例2について説明する。まず、実施例1と同様に、試料1〜4(pH9〜12のアルカリイオン水)を用意するとともに、揚げ油2.8kgをそれぞれ貯留した電気フライヤーを合計5セット(A〜E)を用意した。そして、各電気フライヤーの揚げ油を加熱して、唐揚粉をつけた鶏肉を揚げる作業と、試料1〜4をそれぞれの電気フライヤー内の揚げ油に添加する作業を複数回ずつ行い、それらの作業の終了後に、揚げ油の酸化の度合いを測定し、製造した鶏唐揚げの風味を評価し、揚げ油の油量の変化を測定する実験を、6日間に亘って行った。
【0035】
(第1日目)
電気フライヤーA〜Eの揚げ油を180℃まで加熱し、唐揚粉をつけた鶏肉(300g/1回)を揚げて鶏唐揚げを製造する作業をそれぞれ行い、その後すぐに、電気フライヤーAには試料1を、電気フライヤーBには試料2を、電気フライヤーCには試料3を、電気フライヤーDには試料4を、高温(180℃)の揚げ油の油面に向けて噴霧して添加した。電気フライヤーEについては、何も添加しなかった。尚、試料1〜4の1回の添加量は、それぞれ3ml(揚げ油の油面の面積100cmあたり1mlに相当する。)とした。
【0036】
これらの一連の作業(300gの鶏唐揚げを製造する作業と、試料1〜4を添加する作業)を、1時間のインターバルを置いて合計6回行った。その後、揚げ油をフィルターで濾過し、揚げ油の酸化の度合いを測定し、製造した鶏唐揚げの風味を評価し、揚げ油の油量の変化をチェックし、油量が減少したときは、新しい揚げ油を補充して、実験開始前の値(2.8kg)に復帰するようにした。
【0037】
(第2〜6日目)
前日に使用した揚げ油を、それぞれ元の電気フライヤーA〜Eに戻し、引き続き使用して、第1日目と全く同様の作業(鶏唐揚げ製造作業(合計6回/1日あたり)、試料1〜4の添加(合計6回/1日あたり)、揚げ油の濾過、AV値測定、風味評価、油量測定、揚げ油補充)を行った。各日毎のAV値、及び、油量の測定結果、並びに、風味の評価結果を次表に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
まず、電気フライヤーAについて説明すると、第1回目の揚げ物作業の終了後、揚げ油の油面に向けて試料1を噴霧したところ、油はねが生じ、危険な状態となったため、添加量が規定値に達する前に実験を中止した。従って、電気フライヤーAにおいては、AV値、油量等を測定する作業を行っていない。
【0040】
表2に示すように、何も添加していない電気フライヤーEにおいては、日程が進行するに従って、AV値が次第に上昇し、第6日目終了時点で3.0となり、揚げ油の劣化酸化が進行した。これに対し、試料2〜4(pH10〜12のアルカリイオン水)を添加した電気フライヤーB〜Dにおいては、AV値はいずれも0.5から最大2.0の間で推移した。電気フライヤーEの結果と比較すると、試料2〜4を添加した電気フライヤーB〜Dでは、揚げ油の劣化酸化を好適に防止できたことがわかる。
【0041】
また、電気フライヤーEによって製造した鶏唐揚げの風味については、第2日目までは、概ね良好で問題はなかったが、第3日目から油っぽさが多少気になり始め、第6日目では、油臭さ、油っぽさが気になる状態となった。これに対し、電気フライヤーB〜Dにおいては、第6日目まで概ね良好で、油っぽさ、油臭さなどの問題は生じなかった。この結果からも、揚げ油の劣化酸化を好適に防止できたことがわかる。
【0042】
揚げ油の油量は、何も添加していない電気フライヤーEにおいては、毎日、100〜200g減少したが、表2に示すように、電気フライヤーBにおいては、第1日目は減少せず、電気フライヤーCにおいては、第2日目までは減少せず、電気フライヤーDにおいては、第4日目まで油量減少は見られなかった。その理由は、実施例1の場合と同様であると考えられる。
【0043】
表2の結果からも明らかなように、揚げ物作業のインターバル中、或いは、揚げ物作業の終了後にアルカリイオン水(pH10〜12)を添加すると、添加しなかったときと比べ、劣化酸化の進行を遅らせることができることが実証された。また、揚げ物作業のインターバル中、或いは、揚げ物作業の終了後にアルカリイオン水を添加する場合、pH10以上のアルカリイオン水であれば、安全に揚げ物作業を行えることが確認された。
【0044】
更に、試料2〜4の添加量を加減して、上記と同様の試験を実施してみたところ、試料2及び試料3については、添加量を、揚げ油の油面の面積100cmにつき、1〜20mlの範囲とすることが有効であること、試料4については、添加量を、揚げ油の油面の面積100cmにつき、0.5〜10mlの範囲とすることが有効であることが確認された。
【実施例3】
【0045】
次に、本発明に係る揚げ油の劣化酸化防止方法に関し、安全性確認のために行った試験について説明する。まず、下記の試料a〜cを用意し、常温の揚げ油100gに対し、試料a〜cを10gずつ個別に添加し、撹拌した後、それぞれを加熱した。
試料a:水道水(pH7)
試料b:掃除用のものとして市販されている電解アルカリイオン水(pH10)
試料c:特開平8−24865号公報に記載されている方法によって製造したアルカリイオン水(pH12.5)
【0046】
試料cを添加した揚げ油は、180℃まで加熱しても、油はねは起こらず、安全であることが確認された。また、試料bを添加した揚げ油については、180℃まで加熱する過程で、僅かに反応があり、「パチパチ」という音が発生したが、油滴が鍋からはね上がる程度までには至らず、安全であることが確認された。試料aを添加した揚げ油は、加熱開始後、120℃程度まで昇温した時点で激しく反応し、油滴が鍋からはね上がり、非常に危険な状態となったため、火を止めて実験を中止した。
【0047】
また、揚げ油を180℃まで加熱した状態で、試料a〜cを油面に向けてそれぞれ個別に噴霧する実験を行ったところ、試料cを噴霧した揚げ油は、表面において小さな泡が立ち、「シュウシュウ」という音が発生したが、泡も音もすぐに消え、油はねは起こらず、安全であることが確認された。試料bを噴霧した揚げ油は、試料cのときよりも活発に泡が立ち、音も若干高くなったが、油はねは起こらず、危険な状態にはならなかった。試料aを噴霧した揚げ油は、更に活発に泡が立ち、音も更に高く、大きくなり、油はねが生じた。尚、180℃の揚げ油に対し、試料cを、噴霧するのではなく、小さじですくって少量を投入してみたところ、激しく反応し、油はねが生じ、危険な状態となった。
【0048】
これらの安全性の確認の試験の結果、pH10以上のアルカリイオン水であれば、常温の揚げ油に添加後、加熱する場合でも、また、高温の揚げ油に噴霧する場合でも、安全に作業を行うことができることが確認された。また、特開平8−24865号公報に記載されている方法によって製造したアルカリイオン水を用いた場合には、極めて安全に、好適に作業を行うことができることが確認された。更に、高温の揚げ油に添加する際には、噴霧することが有効であること(反応を抑えることができ、安全性を確保しようとする上で好適であること)が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚げ油に対し、pHが10以上のアルカリイオン水を添加することを特徴とする、揚げ油の劣化酸化防止方法。
【請求項2】
揚げ油に対し、0.1〜10重量%の範囲で、pHが10以上12未満のアルカリイオン水を添加し、撹拌することを特徴とする、揚げ油の劣化酸化防止方法。
【請求項3】
揚げ油に対し、0.1〜5重量%の範囲で、pHが12以上のアルカリイオン水を添加し、撹拌することを特徴とする、揚げ油の劣化酸化防止方法。
【請求項4】
前記揚げ油の加熱前に、前記アルカリイオン水を添加し、撹拌することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の揚げ油の劣化酸化防止方法。
【請求項5】
揚げ物食品の製造作業のインターバル中に、フライヤー又は鍋内に貯留された状態の揚げ油の油面に向けて、pHが10以上のアルカリイオン水を噴霧することによって、前記揚げ油に前記アルカリイオン水を添加することを特徴とする、揚げ油の劣化酸化防止方法。
【請求項6】
揚げ物食品の製造作業の終了後に、フィルターによって揚げ油を濾過し、次いで、いずれかの容器内に貯留された状態の前記揚げ油の油面に向けて、pHが10以上のアルカリイオン水を噴霧することによって、前記揚げ油に前記アルカリイオン水を添加することを特徴とする、揚げ油の劣化酸化防止方法。
【請求項7】
前記揚げ油の油面の面積100cmにつき、1〜20mlの範囲で、pHが10以上12未満のアルカリイオン水を、前記揚げ油の油面の全面に対して噴霧することを特徴とする、請求項5又は6に記載の揚げ油の劣化酸化防止方法。
【請求項8】
前記揚げ油の油面の面積100cmにつき、0.5〜10mlの範囲で、pHが12以上のアルカリイオン水を、前記揚げ油の油面の全面に対して噴霧することを特徴とする、請求項5又は6に記載の揚げ油の劣化酸化防止方法。
【請求項9】
加熱前の揚げ油に対し、0.1〜5重量%の範囲で、pHが12以上のアルカリイオン水を添加し、撹拌し、
揚げ物食品の製造作業のインターバル中に、フライヤー又は鍋内に貯留された状態の前記揚げ油の油面に向けて、当該油面の面積100cmにつき、0.5〜10mlの範囲で、pHが12以上のアルカリイオン水を、前記揚げ油の油面の全面に対して噴霧し、
揚げ物食品の製造作業の終了後に、フィルターによって前記揚げ油を濾過し、次いで、いずれかの容器内に貯留された状態の前記揚げ油の油面に向けて、当該油面の面積100cmにつき、0.5〜10mlの範囲で、pHが12以上のアルカリイオン水を噴霧することによって、前記揚げ油に前記アルカリイオン水を添加することを特徴とする、揚げ油の劣化酸化防止方法。

【公開番号】特開2010−193737(P2010−193737A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40246(P2009−40246)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(591087703)株式会社アロンワールド (13)
【Fターム(参考)】