説明

揮発性有機化合物の吸着剤

【課題】従来よりも低温でVOC(揮発性有機化合物)を再生でき、且つ触媒作用を低減することができる吸着剤を提供する。
【解決手段】本発明による吸着剤は、酸化チタンを主成分とする材料をアルカリ性水溶液中で水熱処理して得られる遷移形状の酸化チタンが密集して形成された不織布状凝集物からなり、揮発性有機化合物の吸着機能を有する。この吸着剤によれば、活性炭等よりも低い再生空気温度でVOCを再生できるとともに、酸化触媒として作用しないため発火現象や重合反応を防止することが可能である。そのため、VOCを浄化すると同時にリサイクル使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気汚染物質を吸着させる有機化合物浄化装置等に用いる吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装施設、接着用の乾燥施設、印刷工場、工業製品乾燥施設、半導体クリーンルームなどの排気中には、揮発性有機化合物(以下、VOCと称す)に代表される大気汚染物質が多く含まれる。これら排気はVOC濃縮装置にて浄化され、該VOC濃縮装置からは小風量の高濃度化された再生空気が生成される。
こうしたVOC濃縮装置にはゼオライトや活性炭が広く吸着剤として使用されている。VOC濃縮装置によるVOCの再生方法としては、廃熱回収型の燃焼装置である蓄熱燃焼装置および触媒燃焼装置にて酸化分解して浄化処理する方法(特許文献1の段落[0002],[0019]を参照)と、固定床内の活性炭に吸着させた後、この活性炭を再生する蒸気とともに凝縮させ、液体として回収処理する方法(特許文献2の段落[0007],[0011]、特許文献3の段落[0003],[0004]を参照)とが知られている。
【特許文献1】特開2006−187698号公報
【特許文献2】特開2001−239127号公報
【特許文献3】特開2004−121921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述したVOC濃縮装置に使用される吸着剤のうち、ゼオライトは再生空気温度として160〜200℃を必要とする。一方、活性炭の再生空気温度は120〜140℃(特許文献3の段落[0031],[0035]を参照)とゼオライトに比べて低温であり、ゼオライトではできなかった蒸気再生が可能である。そのため、VOC濃縮装置には活性炭が採用される場合が多い。しかし、活性炭に固有の触媒作用により、VOCの重合反応および酸化分解反応が促進されるので、処理する物質によっては、VOC濃縮装置の性能劣化や、装置内の活性炭が発熱し発火に至るリスクがある。また、触媒作用と再生時の加熱温度が原因で吸着したVOCの変質が起こり、リサイクル使用の妨げとなっている。
【0004】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑み、従来よりも低温でVOCを再生でき、触媒作用を低減することができる吸着剤について提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による揮発性有機化合物の吸着剤は、酸化チタンを主成分とする材料をアルカリ性水溶液中で水熱処理して得られる繊維形状の酸化チタンが密集して形成された不織布状凝集物からなり、大気汚染物質を吸着浄化する。この吸着剤は、加熱により揮発性有機化合物を脱着させてもよい。また、この吸着剤は、疎水化処理またはアルカリ処理を施すことにより触媒反応を抑制してもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明による揮発性有機化合物の吸着剤は、活性炭の再生空気温度である120〜140℃より低い温度でのVOCの再生が可能である。また、例えばトルエンやキシレンなどの芳香族系化合物、脂肪族系化合物、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類、塩素化合物などの排気に含まれる主要なVOCに対する酸化触媒としての作用も認められず、活性炭を使用した場合に懸念される発火現象や重合反応が防止できる。したがって、吸着したVOCの品質を落とすことがなくなり、排気中に含まれるVOCの浄化と同時に回収してリサイクル使用することが可能となる。
【0007】
本発明による揮発性有機化合物の吸着剤は、所定の浄化効率を発揮する為に要求される再生温度を低減できたことにより、従来のVOC回収装置に必要であったスチーム発生器などの付帯設備が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明による揮発性有機化合物の吸着剤は、酸化チタンを主成分とする材料をアルカリ性水溶液中で水熱処理して得られる繊維形状の酸化チタンが密集して形成された不織布状である。このような不織布状吸着剤については、本出願人による発明を記載した国際公開第2006/095482号パンフレットおよび特許第3944233号明細書に詳述されている。当該技術を応用すれば、比表面積(BET)が1000m2/gにも達する酸化チタンの不織布状吸着剤を得ることができる。この不織布状吸着剤を構成する酸化チタンの繊維は、概して、直径が2〜100nm、軸方向長さが50nm〜10μmである。酸化チタンを主成分とする材料としては、主成分の酸化チタンにシリカゲルやゼオライトなどの微細孔をもつ物質を含ませたものを使用することも可能である。
【0009】
具体的製法として例をあげると、粉末状、あるいはゾル、ゲル状の酸化チタン含有材料を濃度5〜25モル/kgのアルカリ性水溶液に混入して撹拌し、これを入れた容器を密閉した後、乾燥器内において70〜150℃の条件下で10〜30時間加熱して水熱処理を行う。この水熱処理後の生成物をイオン交換水で水洗し、希塩酸等の無機酸で中和して余剰のアルカリ分を除去した後、遠心分離器で固形分を取り出して乾燥させると、繊維形状の酸化チタンが密集して形成された不織布状のものが得られる。
このときのアルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウムを用いるとおおよそチューブ(中空)形の繊維形状となった酸化チタンが得られ、水酸化カリウムを用いるとおおよそワイヤー(中実)形の繊維形状となった酸化チタン(以下、スポンジ酸化チタンと称す)が得られる。
【0010】
このようにして得られたスポンジ酸化チタンを110℃で24時間乾燥後、室温でジメチルジエトキシシラン(信越化学工業(株)製KBE22)に浸漬し、110℃で24時間乾燥することにより、疎水化処理されたスポンジ酸化チタンが得られる。また、スポンジ酸化チタンの疎水化処理は、疎水化薬剤(例えば、α、β、γ−シクロデキストリン、Iodosobenzoic Acid、3-Carboxy-4-iodosobenzyl)oxy-β-CD(Complex))がエタノール、アセトニトリルなどの溶剤に単体もしくは混合して溶けている溶液中にスポンジ酸化チタンを浸漬した後、乾燥炉にて乾燥してもよい。
その他の方法としては、スポンジ酸化チタンを110℃で24時間乾燥後、室温でシリコーンレジン(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製SR−2410)にてシリコーンレジンコート処理するか、フッ素シリコーンコーティング剤(信越化学工業(株)製KP−801M)にてフッ素シリコーンコーティング処理するか、または有機シリコーンレジン(信越化学工業(株)製KP−18C)にてシリコーンレジン処理してもよい。
【実施例】
【0011】
以下の実施例は、この発明の実験例である。図1を参照して説明する。
【0012】
(実施例1)
大きさφ1×2mm程度のペレット状に加工したスポンジ酸化チタン検体2.5gを100℃で1時間乾燥させた後室温に戻し、テドラー(登録商標)バッグ等のサンプリングバッグAに入れて、133kPaに真空引きした。
【0013】
また、サンプリングバッグBには3LのG3窒素ガス(純度99.9995%)とトルエン150μLとを入れて80℃にて気化させた後、25℃に冷却した。そして、サンプリングバッグB内のガスを0.5mL採取し、ガスクロマトグラフ((株)島津製作所製GC−9A)を用いてトルエン濃度を求めた結果、11,500ppmとなった。
【0014】
次に、サンプリングバッグAとサンプリングバッグBとを図1に示されるように接続し、サンプリングバッグB内のガスをサンプリングバッグAに移して2時間放置した後、サンプリングバッグA内のトルエン濃度を前記ガスクロマトグラフを用いて求めた。その後、サンプリングバッグAを恒温槽に入れ、80℃にて1時間加熱した後のトルエン濃度を前記ガスクロマトグラフを用いて求めた。また、比較として、検体を入れない場合についても同様に、トルエン濃度を前記ガスクロマトグラフを用いて求めた。結果を表1に示す。
【0015】
【表1】

表1から、スポンジ酸化チタン検体はトルエンを吸着すること、ならびに80℃で脱着することが分かる。
【0016】
(実施例2)
大きさφ1×2mm程度のペレット状に加工したスポンジ酸化チタン検体2.5gを110℃で24時間乾燥後、室温でジメチルジエトキシシラン(信越化学工業(株)製KBE22)に浸漬し、その後110℃で24時間乾燥させて疎水化スポンジ酸化チタン検体とした。続いて、該スポンジ酸化チタン検体を室温に戻し、サンプリングバッグCに入れ、133kPaに真空引きした。
【0017】
また、サンプリングバッグDには3LのG3窒素ガス(純度99.9995%)とシクロヘキサノン150μLを入れ、80℃にて気化させた後、25℃に冷却した。そして、サンプリングバッグD内のガスを0.5mL採取し、前記ガスクロマトグラフを用いてシクロヘキサノン濃度を求めた結果、11,800ppmとなった。
【0018】
次に、サンプリングバッグCとサンプリングバッグDとを図1に示されるように接続し、サンプリングバッグD内のガスをサンプリングバッグCに移して2時間放置した後、サンプリングバッグC内のシクロヘキサノン濃度を前記ガスクロマトグラフを用いて求めた。その後、サンプリングバッグCを恒温槽に入れ、80℃にて1時間加熱した後、シクロヘキサノン濃度を前記ガスクロマトグラフを用いて求めた。また、比較として、スポンジ酸化チタン検体の場合、検体を入れない場合、代替的に市販活性炭を用いた場合についても同様に、シクロヘキサノン濃度を前記ガスクロマトグラフを用いて求めた。結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

表2から、どの検体もシクロヘキサノンを吸着するが、疎水化スポンジ酸化チタン検体のみシクロヘキサノンを80℃で脱着することが分かる。
【0020】
さらに、吸着剤の触媒作用(酸化)により、シクロヘキサノンからアジピン酸が生成する反応が起こっているかを調べた。疎水化スポンジ酸化チタン検体と、前記スポンジ酸化チタン検体と、市販活性炭とをそれぞれ純水に浸漬して超音波抽出した溶液を液体クロマトグラフ(アジレントテクノロジー(株)製HP−1100)を用いて分析した結果、疎水化スポンジ酸化チタン検体からはアジピン酸の生成が確認されなかった。したがって、スポンジ酸化チタンを疎水化処理することにより、触媒作用を抑制できると言える。
【0021】
疎水化処理されたスポンジ酸化チタンは、例えば繊維紙、金属、樹脂、セラミックスを担体として用いてもよく、該担体はハニカム状、ペレット状、ビーズ状に形成して吸着素子として用いてもよい。ハニカムは更にローター状にし、ペレット、ビーズは単数もしくは複数のバケットの中に充填して固定床として用いてもよい。
【0022】
例えば、ハニカムローターは次のようにして作られる。疎水化処理されたスポンジ酸化チタンがシリカゾルなどのバインダーを伴ったスラリー中に分散した状態で、ハニカム状の繊維紙に含浸させた後、ローター状にする。また、疎水化処理されたスポンジ酸化チタンを繊維紙にバインダーとともに直接漉き込んで、ハニカムローターを形成してもよい。
【0023】
このようにして得られたハニカムローターは、疎水化処理されたスポンジ酸化チタンを使用している為、触媒反応が抑制される。VOC濃縮装置を再生空気温度80℃、冷却温度−20℃にて用いれば、例えば活性炭では酸化分解が著しく処理できないシクロヘキサノンでも、変質、劣化させることなく回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】検体に測定用のガスを吸着させる実験を説明する図である。
【符号の説明】
【0025】
A,B,C,D サンプリングバッグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンを主成分とする材料をアルカリ性水溶液中で水熱処理して得られる繊維形状の酸化チタンが密集して形成された不織布状凝集物からなる吸着剤であって、揮発性有機化合物の吸着機能を有することを特徴とする吸着剤。
【請求項2】
加熱により前記揮発性有機化合物を脱着させることを特徴とする請求項1記載の吸着剤。
【請求項3】
疎水化処理またはアルカリ処理を施すことにより触媒反応を抑制することを特徴とする請求項1記載の吸着剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−195803(P2009−195803A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38815(P2008−38815)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(599073490)株式会社アースクリーン東北 (25)
【出願人】(507177836)株式会社アースクリーンテクノ (2)
【出願人】(508052477)
【出願人】(391043974)株式会社ユー・コーポレーション (12)
【Fターム(参考)】