説明

揮発性物質除去装置

【課題】 高粘度流体の製造のために溶剤を分離させる揮発性物質除去装置についての熱エネルギー利用の効率化を図ることを目的とする。
【解決手段】 減圧容器11の上部に装着された加熱器12に重畳させて予熱器13を配設し、高粘度流体を予熱器13と加熱器12を順次通過させて減圧容器11に供給する。予熱器13には、減圧容器11において気化した溶剤の蒸気を供給する。減圧容器11の内部は、予熱器13と凝縮器14等を介して真空ポンプ15により吸引されて負圧に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スチレン系ポリマー及びノルボルネン系ポリマー等の高粘度物質を製造する際に、製造過程において使われる溶剤、モノマー等を揮発除去して、高粘度物質の濃度を上昇させる溶剤等の揮発性物質を除去する揮発性物質除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系ポリマー及びノルボルネン系ポリマーは、包装材や容器などの包装用やその光学性能を利用した樹脂製品等など用途が拡大しつつある。このスチレン系ポリマー及びノルボルネン系ポリマーの溶液等の高粘度物質の製造過程においては、未反応モノマーや溶剤等の揮発性物質が含有されており、この揮発性物質を除去する必要があり、この除去のために除去装置が用いられている。
【0003】
ポリマー溶液から揮発性物質を除去する装置としては、この種の高粘度流体を外部加熱された円筒内壁に掻取羽根により押し広げながら攪拌を行うことで加熱して揮発分を除去する薄膜式蒸発器があるが、構造上の制約から、一基当たりの伝熱面積に限界があるため不利であると共に、掻取羽根の駆動装置を必要とするため、ランニングコストやメンテナンスの点から不経済である。一方、本願出願人は、減圧容器と熱交換器とを組み合わせた揮発性物質除去装置を、既に提案している(特許文献1参照)。
【0004】
図2はこの種の従来の揮発性物質除去装置に関する概略のフロー図であり、除去される揮発性物質を含有した高粘度流体は原料供給管1を通って熱交換器2に供給される。この熱交換器2には熱媒体供給管2aを通して熱媒体が供給され、前記高粘度流体を加熱した熱媒体が熱媒体回収管2bから回収され、図示しない加熱器を通って加熱された後、再び熱交換器2に供給されるように循環させてある。
【0005】
前記熱交換器2は減圧容器3の上部に配設されており、熱交換器2で加熱された高粘度流体はこの減圧容器3に供給される。減圧容器3は真空ポンプ4によって内部が吸引されて負圧とされており、吸引された減圧容器3内の溶剤の蒸気は途中で凝縮器5を通過して気体と液体とに分離され、気体は真空ポンプ4から排気系に回収され、液体は図示しない貯槽に貯留されて回収される。
【0006】
ところで、従来の揮発性物質除去装置では、ランニングコストの割合が高いことから、これを低減できる経済性の有利な発泡ポリスチレン再生装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
この特許文献2に開示された発泡ポリスチレン再生装置は、発泡ポリスチレンを溶剤により溶解して得たポリスチレン溶解物から異物を除去する濾過器と、異物を除去された後のポリスチレン溶解物を溶剤の蒸発温度まで加熱してポリスチレン溶解物から溶剤ガスを分離する蒸発分離器と、溶剤ガスの分離除去に際してポリスチレン溶解物を予熱する加熱器と、分離された溶剤ガスを冷却して回収する凝縮器とを備えた発泡ポリスチレン再生装置において、前記加熱器の上流側に予熱器を設け、前記溶剤ガスを前記凝縮器へ供給する前に前記予熱器へ加熱源として供給するガス配管を設けた構造からなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平1−30845号公報
【特許文献2】特開2003−246878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図2に示した揮発性物質除去装置では、真空ポンプ4により減圧容器3の内部から吸引された溶剤の蒸気を凝縮器5で冷却しているため、高温ガスが保有する大きな熱量が冷媒との間で交換されて廃棄されている。冷媒に伝達された熱は、冷水塔や空冷式熱交換器等で排出されており、環境雰囲気の温暖化と温室効果を促進することになる。
【0010】
また、特許文献2に記載された発明では、ポリスチレン溶解物の供給路の途中の加熱器の上流側に予熱器を配置させ、これに蒸発分離器で分離された溶剤ガスを供給した後に凝縮器に給送させて溶剤を回収している。前記予熱器はポリスチレン溶解物のタンクから前記加熱器に至る供給路に配することになるから、既存の設備の場合にはこの供給路に予熱器を配設するスペースを確保することが困難な場合が生じる。
【0011】
一方、特許文献1に記載された揮発性物質除去装置では、減圧容器の上部に加熱用の熱交換器が配されている構造が採用されている。
【0012】
そこで、この発明は、減圧容器の上部に高粘度流体の加熱用熱交換器が配された揮発性物質除去装置であって、エネルギーの利用効率を向上させて、ランニングコストを良好にし、温室効果を抑止できるようにした揮発性物質除去装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係る揮発性物質除去装置は、減圧容器の上部に加熱器が装着され、高粘度流体を該加熱器を通過させて加熱した後に前記減圧容器に供給し、該減圧容器内で揮発性の溶剤を蒸発させて高粘度流体から溶剤を分離させる揮発性物質除去装置において、前記加熱器の高粘度流体の流路の上流側に該加熱器に重畳させて予熱器を装着させ、前記減圧装置内で発生した溶剤の蒸気を前記予熱器に導入して、高粘度流体を加熱摺ることを特徴としている。
【0014】
前記減圧容器内で蒸発した溶剤の蒸気を前記予熱器に供給して、高粘度流体を加温した後に前記加熱器に導入するようにしたものである。このため、加熱器に供給される高粘度流体は加熱器においてより効果的に加熱される。
【0015】
また、請求項2の発明に係る揮発性物質除去装置は、前記予熱器と加熱器とのそれぞれの高粘度流体の加熱流路を連続させてあることを特徴としている。
【0016】
重畳させて配設した前記予熱器と加熱器との高粘度流体を加熱するそれぞれの加熱流路を、これら予熱器と加熱器との間で外気に接触することがなく、一経路としたものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係る揮発性物質除去装置によれば、加熱器に導入される前処理において高粘度流体が加温されるから、加熱器に供給する熱媒の熱量を減少させることができ、エネルギー効率を向上させる。しかも、予熱器に供給される溶剤の蒸気が保有する熱は、従前には殆ど廃棄されていたものであり、この熱量の有効利用を図って、エネルギー効率をさらに向上させることができる。
【0018】
しかも、前記加熱器に供給される熱媒の熱量等の仕様を従前と同様とする場合には、予熱器で加温された高粘度流体が加熱器に導入されるため、該加熱器の出口温度を従前と等しい温度に確保するのであれば、加熱器の伝熱面積を従前のものよりも小さくすることができる。このため、該加熱器を小型化できる。したがって、予熱器を該加熱器に重畳させて設置した場合でも、総体積において従前の加熱器と大きくなることがなく、設備の大型化を抑制できる。
【0019】
また、請求項2の発明に係る揮発性物質除去装置によれば、予熱器と加熱器との加熱流路が連続させてあるため、予熱器で加温された高粘度流体が迅速に加熱されることになって、高粘度流体を効率よく加熱することができ、熱媒体を効率的に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明に係る揮発性物質除去装置を説明する図であり、この揮発性物質除去装置に関する概略のフロー図である。
【図2】従来の揮発性物質除去装置に関する概略のフロー図であり、図1に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図示した好ましい実施の形態に基づいて、この発明に係る揮発性物質除去装置を具体的に説明する。
【0022】
図1はこの発明に係る揮発性物質除去装置10の概略の構造を示すと共に、この揮発性物質除去装置10に関する各流体のフローを併記してある。揮発性物質除去装置10は減圧容器11の上部に加熱器12が装着され、この加熱器12の上側に予熱器13を重畳させて装着してある。例えば、この揮発性物質除去装置10では、高粘度流体であるポリマー溶液から溶剤や未反応モノマー等の揮発性物質を分離してポリマーを採取する場合、ポリマー溶液は図示しないタンクから原料供給路10aを通って予熱器13に供給される。予熱器13から排出されるポリマー溶液は該予熱器13を重畳させた加熱器12に導入され、該加熱器12から前記減圧容器11内に供給される。
【0023】
また、前記予熱器13と加熱器12とのそれぞれの高粘度流体の加熱流路を連続させてある。すなわち、予熱器13を加熱器12に重畳させて配設することにより、加熱流路の予熱器13から加熱器12に至る部分を外気に接触させることなく、連続した一経路とする。
【0024】
前記加熱器12はいわゆるプレートフィン型の熱交換器からなり、熱媒体供給路12aを通して熱媒体が供給され、前記ポリマー溶液を加熱した後に熱媒体回収路12bから回収され、図示しない加熱装置を通して加熱された後、再び加熱器12に供給されるように循環させてある。前記予熱器13はいわゆるプレートフィン型の熱交換器からなり、熱媒体は前記減圧容器11の上部に連通させた熱回収路11aを通して供給され、前記ポリマー溶液を加温した後に溶剤回収路11bから回収される。この溶剤回収路11bには凝縮器14を介して真空ポンプ15が接続されており、この真空ポンプ15により吸引されて減圧容器11内が負圧とされる。
【0025】
また、前記減圧容器11の下部には排出ポンプ16が装着されて、減圧容器11の下部に滞留したポリマーが排出され、給送路16aを通って次工程へ給送される。
【0026】
以上により構成されたこの発明に係る揮発性物質除去装置10の作用を、以下に説明する。
【0027】
前記原料供給路10aを通して溶剤としてCyclohexane(C612:シクロヘキサン*、8,000kg/hr)にPolymer(ポリマー、2,000kg/hr)を溶解させたポリマー溶液を温度約60℃、圧力約3kg/cm2Gで前記予熱器13に供給する。予熱器13には、後述するように減圧容器11においてポリマーから分離した溶剤の蒸気との間で熱交換されて、ポリマー溶液が加温される。加温されたポリマー溶液は該予熱器13を重畳させてある加熱器12に供給される。この加熱器12において熱媒体との間で熱交換され、加熱されたポリマー溶液が減圧容器11に供給される。
【0028】
減圧容器11の内部は、前記熱回収管11aと予熱器13、溶剤回収管11b、凝縮器14を介して真空ポンプ15により吸引されて約0.014kg/cm2Gに減圧されており、このため、加熱器12に供給されたポリマー溶液は圧力差によって減圧容器11に吸引されることになる。また、加熱器12によりポリマー溶液は約280℃に加熱される。
【0029】
減圧容器11に供給されたポリマー溶液は、負圧下におかれることによって溶剤分が気化して蒸発し、ポリマー分は液体状で減圧容器11内に滞留する。すなわち、供給されたポリマー溶液が、溶剤とポリマーとに分離される。分離された溶剤は前記熱回収路11aから排出され、純度が高められたポリマーは減圧容器11に滞留し、前記排出ポンプ16によって排出されて、前記給送路16aを通って次工程へ給送される。
【0030】
前記溶剤の蒸気は、約280℃、0.014kg/cm2Gで8,000kg/hrが排出され、これが前記予熱器13に供給される。予熱器13には前述の通りのポリマー溶液が導入され、該ポリマー溶液を加温した後に溶剤の蒸気は約70℃に降温する。その後、凝縮器14によって約−26℃まで冷却されて液化した後に回収される。
【0031】
以上の仕様によりエネルギー削減について検討する。ポリマー溶液として、シクロヘキサン8,000kg/hrとポリマー2,000kg/hrを重合させたほぼ60℃のものを加熱器12に供給する。
現状における加熱器12に供給される熱媒入熱は2,227kwであり、冷却廃熱は2,111kwであり、合計で4,338kwのエネルギー消費量となっている。
これに対して、前記予熱器13を設置した場合の加熱器12に供給される熱媒入熱は、1,301kwとなり、冷却廃熱は1,197kwで、合計で2,498kwとなる。
すなわち、予熱器13を装着することによって1,840kwのエネルギーを削減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明に係る揮発性物質除去装置によれば、ポリマー溶液から分離された溶剤の蒸気が保有する熱量をポリマー溶液の予熱に利用することにより、揮発性物質除去装置のエネルギー効率の向上に寄与する。
【符号の説明】
【0033】
10 揮発性物質除去装置
11 減圧容器
11a 熱回収路
11b 溶剤回収路
12 加熱器
13 予熱器
14 凝縮器
15 真空ポンプ
16 排出ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧容器の上部に加熱器が装着され、高粘度流体を該加熱器を通過させて加熱した後に前記減圧容器に供給し、該減圧容器内で揮発性の溶剤を蒸発させて高粘度流体から溶剤を分離させる揮発性物質除去装置において、
前記加熱器の高粘度流体の流路の上流側に該加熱器に重畳させて予熱器を装着させ、
前記減圧装置内で発生した溶剤の蒸気を前記予熱器に導入して、高粘度流体を加熱摺ることを特徴とする揮発性物質除去装置。
【請求項2】
前記予熱器と加熱器とのそれぞれの高粘度流体の加熱流路を連続させてあることを特徴とする請求項1に記載の揮発性物質除去装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−86006(P2013−86006A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227552(P2011−227552)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】