説明

損傷組織へのB細胞投与による組織機能の回復

本発明は、損傷組織の機能の回復を促進するのに有用な薬剤の調製におけるB細胞の使用を提供する。本発明は概して、薬学的に許容可能なキャリア中に比較的純粋なBリンパ球細胞の集団を含む組成物の損傷組織への投与により損傷組織の機能の回復を促進するシステム及び方法に関する。細胞の不均質混合物からのB細胞の精製及び損傷細胞へのB細胞の投与に役立つためのキットが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大まかに、損傷組織への比較的純粋なBリンパ球集団の投与による損傷組織の機能回復を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疾患又は事故による組織機能の損失は、依然として主要な健康問題である。例えば、心臓損傷及び脳損傷は、世界中の死亡及び身体障害の2大原因である。米国では、心疾患が全死亡原因の40%を占め、うっ血性心不全の主な原因である(American Heart Association. Heart and Stroke Update. ダラス, テキサス州: American Heart Association, 2003)。急性心筋梗塞又は慢性心筋虚血を引き起こす心疾患はまた、心機能の著しい低下を引き起こす可能性がある。虚血発作の重篤性又は持続期間が限られる場合、心筋細胞は生き延び、幾つかのプレコンディショニング機構を通じてさらなる虚血性傷害から防御される。しかしながら、虚血が急に引き起こされ、長期にわたり重篤である場合は心筋細胞死が起きる(Kloner RA 他, 「短時間虚血の結末:スタンニング、プレコンディショニング及びそれらの臨床上の意義:パート1」, Circ., 2001, 104, 2981-2989)。正常な条件下では、成人心筋細胞は再生する能力を欠いており、損傷心筋細胞は、時間と共に、残存する生存可能な心筋細胞の代償性肥大に伴い結合瘢痕組織で置換される(Gulbins H 他, 「細胞移植−今後の心臓修復のための有力な療法か?」, Heart Surg Forum, 2002, Vol.5, (4), E28-34)。瘢痕組織による梗塞生じた部位の置換は、虚血部位内の機能的な心筋細胞の損失、非虚血性部位又は境界部位の進行性リモデリング、及び心臓性能の全体的な低下を引き起こす。
【0003】
卒中は、米国における死亡の3番目の主な原因であり、成人身体障害の1番の原因である。血塊による動脈閉塞に起因する脳への血流遮断により引き起こされる虚血性卒中は、全ての卒中の約70〜80パーセントを示す。脳への血流の欠乏は、脳細胞の部位から酸素及び栄養分を奪い、細胞死をもたらす。損傷を受けた脳の部位により制御される身体機能は失われる。これらの機能としては、会話、運動及び記憶が挙げられる。
【0004】
損傷組織の修復は、損傷の瞬間に始まる複雑なプロセスであり、数ヶ月から数年間継続する可能性がある。このプロセスは、3つの主要な段階、即ち炎症期、増殖期及びリモデリング期へ分類することができる(Witte MB 他, 「創傷治癒の一般的な原理」, Surg CHn North Am, 1997, 77, 509-528)。
【0005】
炎症期は即時的に起こり、5〜7日間継続する可能性がある。この時期中では、外傷のように組織損傷及び/又は細胞破壊を伴う場合、血管収縮が起こり、血塊が形成し、血塊は露出した組織又は損傷組織における一時的な防御壁として役立つ。血塊は、創傷閉鎖プロセスを開始させる活性化血小板により放出されるサイトカイン及び成長因子、並びに創傷部位へ循環炎症細胞を補充するための走化性シグナルを供給する。引き続いて血管拡張が起こり、食作用が開始される。
【0006】
次は増殖期であり、最大3週間継続する可能性がある。この時期中に顆粒化が始まり、線維芽細胞によるコラーゲン床の形成が起こり、損傷部位の補充が起こる。新たな毛細血管が顆粒化組織形成と呼ばれるプロセスで形成され、続いて収縮が行われ、ここで創傷縁が結合し、損傷部位が減少する。増殖期の最終段階は上皮再形成である。皮膚創傷治癒では、ケラチノサイトが暫定的なマトリックスを通って起点から全ての方向に移動して損傷部位を覆う。組織修復の最終期はリモデリング期である。リモデリング期は最大2年間継続する可能性があり、創傷の引張り強さを増大し続ける新たなコラーゲンの生産を包含す
る。
【0007】
免疫系は組織修復の重要な調節因子として認識されている。免疫系は2つの部分、即ち体液性防御及び細胞性防御から構成される。体液性防御機構は、抗体及び補体を含み、この防御機構が組織修復のプロセスで果たす役割についてはあまり知られていない。他方で、好中球、マクロファージ及びTリンパ球を含む細胞性防御機構について多くのことが知られている。これらの細胞集団は、秩序だった時間枠で損傷部位へ遊走して、サイトカイン、リンホカイン及び成長因子の形態でシグナル伝達分子を分泌することにより修復プロセスに寄与する(Witte MB 他, 「創傷治癒の一般的な原理」, Surg CHn North Am, 1997, 77, 509-528)。好中球は、損傷部位で出現する最初の細胞であり、食作用及びデブリドマンに関与する。マクロファージは、損傷部位へ遊走する次の細胞である。マクロファージは、炎症プロセス及びデブリドマンプロセスを完了させて、重要な組織修復サイトカイン及び成長因子を送達する。Tリンパ球は、損傷部位へ遊走する最後の細胞であり、増殖期中に現れ、その役割として、このプロセスが終結するように炎症性応答及び成長状態のダウンレギュレーションを含む(Barbul A 他, 「創傷治癒におけるT細胞依存的免疫系の役割」, Prog Clin Biol Res, 1988, 266, 161-175)。免疫系における全ての細胞が組織修復プロセスに関与するとは限らないと考えられる。例えば、組織修復におけるB細胞(Bリンパ球)の役割は不明瞭であり、ヘルパーT2細胞サイトカイン及びBリンパ球活性化因子が損傷部位で検出されていないため、重要ではないと推測される。組織修復におけるB細胞の役割に関してわずかではあるが証拠が存在することから、B細胞は病原性役割を有することが示唆される(Zhang M 他, 「虚血/再灌流障害を開始する特異的な自己反応性IgM抗体の同定」, Proc Natl Acad Sd, USA, 2004, 101, 3886-3891)。
【0008】
B細胞は抗体生産において果たす役割で最も有名である。B細胞は一生を通じて造血幹細胞(HSC)から生成され、まず胎児肝臓、続いて成体骨髄で生成される。細胞質カスケードは、B細胞成熟に必要なタンパク質の発現を変更する組織微小環境シグナルに応答して開始される。成熟骨髄B細胞は、その表面膜上でIgDを発現して、自己抗原誘導死からB細胞を防御する。この成熟細胞は周辺へ移動し、そこで抗原により活性化されて、抗体分泌プラズマ細胞又はメモリーB細胞のいずれかとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、組織機能を失った患者に利用可能な治療の選択肢が増大している一方で、これらの選択肢は、依然としてそれらの有効性には限りがある。細胞死の量を抑制して、身体機能の損失を回復させる新たな療法が大いに必要とされる。組織損傷の治療に関する魅力的な概念は、細胞ベースの療法である。機能の改善を伴う損傷組織への細胞生着の徴候はこのアプローチを支持する。しかしながら、最も適切な細胞のタイプはいまだ明確になっていない。多くのグループが、様々な細胞で患者を治療し始めようとしている一方で、研究者は、これらの細胞がどのように損傷組織を修復するかのメカニズムのいくつかを理解し始めている。必要なのは、どの細胞又はどの細胞の組み合わせが、損傷組織の修復に最も適切であるかの同定である。
【0010】
多様な細胞療法の方法が試されている一方で、細胞療法における共通の目標は、例えば損傷した心筋への骨格筋芽細胞の送達を用いるような、標的組織に機能的に関連する細胞の損傷組織への導入、又は目的の始原細胞(幹細胞又は前駆細胞)の損傷組織への導入が新たな組織及び構造を再生させ、損傷臓器の機能を回復させることである。骨髄は、様々な組織に対する幹細胞の良く知られた供給源であり、主として血液系に対する幹細胞の供給源である。心筋梗塞のような組織損傷に作用した標識骨髄細胞を有する動物において、これらの標識骨髄細胞のいくらかが治癒組織へ組み込まれることが見出されることがいくつかの研究により実証されてから、潜在的な治療用の細胞の供給源として骨髄に対して初
期の注目がなされた。しかしながら、治癒組織への骨髄由来細胞の組み込みが実証されたのに対して、骨髄由来のどのタイプの細胞が組織へ組み込まれたのか、及びこれらの細胞が損傷組織の機能的回復にどの程度寄与したのかということを含む多くの疑問が依然として明らかになっていないままである。それにもかかわらず、ヒトの実験を含むこの分野における研究を進行させる治療上の効果における十分な潜在能力が見られた。骨髄由来細胞療法に対する実験は、未分画骨髄としても既知である骨髄全体、あるいはその内部に含まれる内皮前駆体、造血幹細胞(CD34+、AC133+)及び非造血幹細胞(CDstrol+)を利用している。未分画骨髄、骨髄由来前駆体及び幹細胞が実験的に使用され続けている一方で、これらの使用に関する初期の結果は、ほんの限られた改善又はネガティブな結果であり、期待していたものではなく、初期の動物実験と骨髄由来細胞の治療上の価値の関連性に疑問を投げかけた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[発明の概要]
本発明は、損傷組織の機能を改善させるための組成物及び方法を提供することにより上述の問題に対処する。本発明は、プレプロB細胞、プロB細胞、プレB細胞、未熟B細胞及びいくつかの成熟B細胞を含むB細胞系列の細胞が、損傷組織へ移植されると、損傷後の回復を促進する能力を有することを初めて実証する。
【0012】
本発明の方法は、任意の動物へ適用され得ることが理解されよう。さらに、「動物」という用語は、本出願では「ヒト」を包含することが理解されよう。
【0013】
本発明は、動物又はヒトへの投与のための薬剤の調製におけるB細胞の使用を提供し、上記薬剤は、損傷組織を治療するのに有用である。かかる薬剤は、薬学的に許容可能なキャリアを含んでもよい。かかる薬剤は任意に、損傷組織の機能の回復、あるいは動物又はヒトへ投与された比較的純粋なB細胞の集団の機能及び/又は生存を促進する別の物質を含んでもよい。
【0014】
B細胞療法は、非限定的に心臓、脳、腎臓、筋肉及び肺を含む多様なタイプの組織における修復を促進する潜在能力を有する。虚血性心臓組織へのBリンパ球の投与が、心機能の回復を改善させることは本発明の驚くべき発見である。Bリンパ球は、虚血性心臓組織への投与に関して本発明の好ましい細胞である。これらの細胞の注入は、心機能を改善させる。本発明は有効量のBリンパ球又はそれらの改変体が損傷組織の機能を改善させることを明らかにする。好ましい実施の形態では、本発明は有効量のBリンパ球又はそれらの改変体が心機能を改善させることを明らかにする。改変体B細胞としては、低酸素又は化学的変化にさらされた細胞、遺伝的に改変されたB細胞、あるいは様々な化学条件又は物理条件への暴露により改変されたB細胞が挙げられる。これらの条件としては、温度、圧力、浸透圧条件、pH、並びに様々な濃度の分子化合物、電解質、及びB細胞活性化因子といったタンパク質、並びに類似の物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
損傷組織へ投与される細胞の好ましいタイプは、ベータ(B)リンパ球及びその前駆体であり、今後B細胞又はBリンパ球と称する。任意のタイプのB細胞を使用することができる。当業者に既知であるように、B細胞は特異的な表面タンパク質の存在を特徴とする。これらとしては、B220、CD19、CD43、CD45RA、CD5、Mac−1、IgM、IgD、IgG、CD62L、CD23、CD21、CD40及びB細胞受容体(Igαβ)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、B細胞はヒトB細胞であり、1つ又は複数のCD19、B220又はB細胞受容体(Igαβ)表面タンパク質を有することを特徴とする。本発明は、CD45、CD45RB及びCD45RO抗原も包含するCD45抗原ファミリーのメンバーであるCD45RA抗原に対する抗体を使用してラットで実施される研究について記載している。
【0016】
本発明は、損傷組織を治療するのに使用されるB細胞が比較的純粋であるべきであり、且つ大量の幹細胞を含有すべきでないことと明らかにする。本出願において、「比較的純粋な」とは、蛍光励起細胞走査(FACS)分析により測定される場合に、少なくとも純度80%、純度85%、純度88%、又はより高い度合いの純度、例えば少なくとも純度90%、好ましくは少なくとも純度95%、好ましくは少なくとも純度97%、又は好ましくは少なくとも純度98%であることを意味する。骨髄におけるB細胞集団は、不均質集団であり、プレプロB細胞、プロB細胞、プレB細胞、未熟B細胞及びいくつかの成熟B細胞を含有する。本出願で報告されるいくつかの実験では、CD45RA抗体を使用してラットの骨髄からB細胞を単離する場合、これらの種々のタイプのB細胞が全て得られ、動物への投与に使用される。以下の主張は制限を目的としたものではなく、任意のタイプのB細胞又はそれらの組合せが本発明の方法で使用され得ると考えられる。
【0017】
B細胞は、直接損傷組織、損傷を取り囲む組織へ局所的に、脳室内、筋内、心筋内、腎内、肝臓内へ又は全身的に投与される。一実施形態では、B細胞は梗塞を生じた心筋へ、あるいは梗塞を生じた組織周辺の心筋へ投与される。虚血性心臓組織への細胞の注入又は心臓血管系を通じた細胞の注入は、梗塞が生じた後の心機能を高める。本発明の方法は、虚血発作後の心機能の減退を減じるのに使用することができる。さらに、本発明の方法は、虚血後又は虚血性損傷後の心機能を改善させる。この心機能の改善は、個体に良質な生活又は長寿を提供し、当該個体は、他の場合には禁止又は禁忌である身体活動に従事することが可能となる。本発明の方法の使用は、虚血後の心機能を回復させることにより心虚血の発作後の心停止の可能性を減少する。
【0018】
本発明は、B細胞、損傷組織周辺の結合部位又は損傷組織周辺のデバイス上の結合部位に結合する物質を投与することにより、損傷組織のような目的の部位でB細胞の濃度を増大させる方法を包含する。かかる物質は、例えばB細胞上のCD19抗原、損傷組織周辺の結合部位又は損傷組織周辺のデバイス上の結合部位に結合するバイファンクショナル抗体である。この方法によると、損傷組織の周辺のB細胞の数が増大する。B細胞が動物又はヒトに存在する場合でも、あるいは回収、精製されて動物又はヒトに投与される場合でもこの方法は使用することができる。
【0019】
本発明の方法は、非限定的に末梢血管疾患、例えば糖尿病による四肢の組織の組織灌流の減少、1つ又は複数の冠動脈のアテローム性動脈硬化症に罹患した患者における心灌流の減少、バイパス手術又は他の心臓手術を受けた患者における心灌流の減少、虚血性腎臓病を含む腎臓病、1つ又は複数の頸動脈又はそれらの分岐のアテローム性動脈硬化症、あるいは1つ又は複数の椎骨動脈又は脳血管循環における他の動脈のアテローム性動脈硬化症に罹患した患者における頭蓋灌流の減少、一時的な虚血発作、卒中、外傷、塊又は任意の他の原因に起因する血液の閉塞を含む、低減した灌流又は正常に満たない血流及び酸化に関連する他の状態を治療するのに使用してもよい。
【0020】
本発明は虚血性組織又は心臓組織の治療に限定されない。B細胞は任意の損傷組織へ投与される。外傷、疾患、化学的又は他の環境暴露が他の主原因である。虚血は、損傷組織を生じる状態の1つのタイプである。好ましくは、B細胞は任意の損傷後の組織へ投与される。組織損傷は多様な原因に起因する。例えば、組織損傷は虚血、出血、臓器移植、外傷、手術、炎症、感染、火傷、疾患進行、老化又は多くの他の原因後に起こる可能性がある。
【0021】
B細胞はまた、他の形態の療法と併用して投与される。同時投与され得る物質としては、非限定的に、幹細胞動員因子(GM−CSF、SDF、GCSF、血小板由来成長因子(PDGF));成長因子VEGF、FGF、IGF−I;ニトログリセリンのような酸
化窒素供与体;COX−2阻害剤;利尿薬、血管新生因子(VEGF、アンジオスタチン阻害剤);血流促進因子;抗炎症薬;抗高血圧症薬;HMGコレダクターゼ阻害剤;スタチン;アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;創傷治癒促進薬;NSAIDS;ケモカインアンタゴニスト;トロンビン;細胞外分子;CXCL12、CXCL13、CCL19、CCL21、CCL25、CXCL9及びCXCL10を含むがこれらに限定されないケモカイン;MADCAM1(粘膜アドレシン細胞接着分子1)及びVCAM1(血管細胞−接着分子1)を含むインテグリンリガンド;インターロイキン4;並びにBリンパ球の生存及び有効性を高める任意の環境因子を含む因子、あるいはそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本方法は適切に灌流されていない組織の灌流を促進するため、また細胞の虚血性状態に対する耐性を高めるのに使用され、損傷を与える虚血発作の発症を防止するか、又は実質的に遅延させると考えられる。かかる療法はまた、例えば運動中のような需要が高まった状況で組織がより良好に機能するように、組織の灌流が最適ではない患者において有益に作用する。
【0023】
以下の主張は限定を目的とするものではなく、心臓組織へのB細胞の投与は梗塞を生じた心臓組織又は梗塞を生じた心臓組織付近に常に存在する心臓幹細胞又は前駆細胞を活性化し、細胞の虚血性状態に対する耐性を高め、コラーゲンの分解を阻害し得ると考えられる。
【0024】
本発明はまた、バイパス手術の候補者でない患者において心機能を改善させるのに使用され得る。
【0025】
本発明はまた、虚血性組織への投与に使用され得る比較的純粋なB細胞の集団を調製するのに使用されるキットを提供する。かかるキットは、不均質の細胞集団から目的の細胞を選択及び分離するのに有用な、当業者に既知の様々な抗体を包含する。これらの抗体は概して、当業者に既知であるタンパク質、ポリペプチド及び糖タンパク質のような細胞ごとに特異的な特徴である表面抗原を認識する一次抗体を含む。これらのキットは、これらの表面抗原を認識するかかる抗体を包含する。キットの使用説明書は、各キットに同封される。
【0026】
これらのキットは、B細胞を回収する際に使用される器材及び装置を包含する。例えば、B細胞が骨髄から得られる場合、これらのキットは通常上後腸骨であるが、場合によっては胸骨、腸骨稜、脛骨又は大腿骨の内部へ突き通るように設計された11ゲージのテーパー針デバイスを包含する。突き通した後、ポリカーボネートシリンジを取り付けて、真空にし、骨髄を得る。
【0027】
キットは、単離される細胞のタイプ、例えばB細胞に特異的であり、特異的な組織又は臓器から得られる不均質細胞混合物における使用に関してさらに特殊化された抗体及び器材を包含する。器材はチュービング導管、分離器、フィルトレータ及び容器のような分離若しくは調製で有用な装置又は試薬、細胞培養機器及び容器を含むインキュベーション装置、並びに化学試薬又は分子試薬を包含する。つまり、骨髄由来の細胞調製物からのB細胞の単離は、骨髄由来B細胞上の表面抗原に特異的な抗体の使用を必要とする。さらに、かかるキットは、目的の骨髄由来B細胞から分離されるべき骨髄由来細胞上の表面抗原に特異的な抗体を包含する。この方法によると、ポジティブ選択手法は、任意にネガティブ選択手法と組み合わせて使用される。ネガティブ選択を促進するために、キットは、ネガティブ選択により特定のタイプの細胞を単離するために、例えば、B細胞のような単離される細胞タイプを除く全てのタイプの細胞に特異的である抗体を包含するように設計される。これらのキット中に含まれる道具は、プラスチック、ステンレス鋼、ニチノール、ゴ
ム及び他の材料から構成されてもよく、これらは細胞を結合、集中又は排除する。キットはまた、標識された一次抗体を含有してもよく、その結果、免疫磁気的分離を含むがこれらに限定されない当業者に既知の手法により標識細胞が分離される。かかる標識は市販されている。これらのキットは任意に二次抗体を含有してもよく、二次抗体自体は標識されてもよく、一次抗体に結合し得る。抗体に結合される標識は当業者に既知であり、発光標識及び磁気応答標識が挙げられるが、これらに限定されない。抗体は、光、熱又は他の望ましくない条件から防御するためにカスタマイズされたキット中の容器に保管される。抗体は、凍結乾燥状態、あるいは任意に防腐剤を含有する利便性のよい緩衝液系中に保管される。キットはまた、精製及び溶出工程におけるサンプル取扱い時に使用するため、及び保管又はその後の細胞ドナーへの投与のための、単離されたB細胞の懸濁用の薬学的に許容可能な緩衝液を含有してもよい。
【0028】
一実施形態では、キットはアフィニティーカラムの形態で、ポジティブ選択、ネガティブ選択又はその両方のための抗体を含有する。かかるカラムは、カラム内のマトリックスのFc領域に結合した抗体を含有する。不均質細胞調製物は、アフィニティーカラムへ注入される。
【0029】
これらのキットはまた、抗体を細胞調製物と混合するための容器、ピペット採取手段のような溶液を移動させるための手段、目盛付きフラスコ、目盛付き遠心管等を含有する。さらに、キットは、無菌性を保証するための包装済み閉鎖系を包含する。
【0030】
これらのキットはまた、B細胞の送達用のデバイスを含有してもよい。標的送達部位に応じて、様々なデバイスが含まれ得る。血管内及び経皮送達は、標準的なシリンジで達成できるのに対して、脳、心臓及び腎臓への送達には、標的臓器又は標的臓器周辺への細胞注入又は直接的な注射が可能な特殊経腔デバイスが含まれる。
【0031】
したがって、本発明の目的は、損傷組織又は損傷組織周辺へのB細胞の投与、あるいは損傷組織に対する他の手段により、損傷組織における機能回復を促進する方法を提供することである。
【0032】
本発明の目的は、損傷心臓組織又は損傷心臓組織周辺へのB細胞の投与により損傷心臓組織における心機能の回復を促進する方法を提供することである。
【0033】
本発明の別の目的は、損傷組織又は損傷組織周辺への投与のための有効量の比較的純粋なB細胞を提供することである。
【0034】
本発明の別の目的は、ヒトへの投与のためにB細胞を取得、精製するのに有用なキットを提供することである。
【0035】
本発明の別の目的は、不均質細胞集団における他の細胞からB細胞を分離するのに有用なキットを提供することである。
【0036】
本発明の利点は、B細胞の投与後に損傷組織が改善し、機能促進及び生活の質の向上、並びに罹患率及び死亡率の減少をもたらすことである。
【0037】
本発明の利点は、虚血性心臓組織へのB細胞投与後に心機能が改善し、心臓血管機能の促進及び生活の質の向上、並びに心停止の可能性の減少をもたらすことである。
【0038】
本発明のこれらの及び他の目的、特徴並びに利点は、以下の開示する実施形態の詳細な説明及び特許請求の範囲に目を通した後に明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
[発明の詳細]
本発明は、有効な量のB細胞の投与により損傷組織を治療する新たな有効且つ効率的な方法を提供する。組織損傷は、非限定的に虚血、糖尿病及び他の慢性疾患、臓器及び組織移植、外傷、火傷、卒中(虚血性及び出血性)、感染、炎症、手術並びに他の原因などの多数の原因から生じる。投与されるべきB細胞は、好ましくは自己細胞であり、当業者に既知の手法を使用してドナーから回収される。かかるB細胞の供給源は、一般的に既知である骨髄、血液、脾臓、リンパ節及び同種異系供給源が挙げられるが、これらに限定されない。続いて、比較的純粋なB細胞の集団を得るために、B細胞は不均質細胞集団から精製される。かかる精製手法は本出願に記載されている。不均質細胞集団からB細胞を精製するためのキットが提供される。
【0040】
本発明は、動物又はヒトに投与する、損傷組織を治療するのに有用である薬剤の調製におけるB細胞の使用を提供する。かかる薬剤は薬学的に許容可能なキャリアを含んでもよい。かかる薬剤は任意に、損傷組織の機能の回復、あるいは動物又はヒトへ投与される比較的純粋なB細胞の集団の機能及び/又は生存を促進する別の物質を含んでもよい。本発明の方法は任意の動物に適用され得ることが理解されよう。「動物」という用語は、本出願では「ヒト」を包含することが理解されよう。
【0041】
B細胞は、組織修復を促進するため、あるいは損傷組織へ投与されたB細胞の保持、並びに有効性及び生存を促進するための当業者に既知の他の療法と併用して投与される。本発明は、不均質細胞混合物からのB細胞の分離及び精製に有用なキットを提供する。
【0042】
本発明は、種々のタイプの損傷組織を治療するのに使用される一方で、心組織が本発明により治療されるべき好ましい組織である。
【0043】
B細胞の調製
B細胞の任意の供給源が本発明で有用である。かかるB細胞は当業者に既知であるように、骨髄、脾臓、リンパ節、血液又はB細胞の供給源である他の同種異系組織に由来する。B細胞の好ましい供給源は骨髄及び血液である。かかる方法に関する参照文献としては、Funderud S 他, 「免疫磁気分離によるバフィコートからポジティブ選択されるCD19+Bリンパ球の機能特性」, Eur J Immunol, 1990, 20(1):201-6、Monfalcone他, 「マウスリンパ節を酵素的に解離することにより調製される細胞懸濁液におけるB細胞及びT細胞マイトジェンに対する白血球多様性並びに応答の増加」, J Leukoc Biol 1986 39(6):617-28が挙げられ、Miltenyi Biotecは、組織からB細胞及び形質細胞を単離するためのプロトコルと共にキットを販売している。
【0044】
一実施形態では、骨髄は好ましくは当業者に既知の無菌的手法を使用して上後腸骨から得られる。本方法により得られるB細胞は、単離及びある程度の精製を行った直後に使用されるか、その後の使用のために保管されるか、あるいは使用前に一定期間培養される。骨髄におけるB細胞集団は、プレプロB細胞、プロB細胞、プレB細胞、未熟B細胞及びいくつかの成熟細胞を含有する。本出願では、B細胞という用語はプレプロB細胞、プロB細胞、プレB細胞、未熟B細胞及び成熟B細胞を包含する。B細胞は、血液又は他の組織から当業者に既知の手法を使用して単離することができる。本発明の結果は、これらのB細胞がレシピエントに投与される場合に幹細胞又は前駆細胞を多く含むべきではないことを実証する。
【0045】
不均質細胞集団からB細胞又は前駆B細胞を得る方法
不均質細胞集団からB細胞又は前駆B細胞を得る方法は当業者に既知である。これらの
手法の多くが目的のB細胞又はB細胞前駆体の表面上の分子を認識する一次抗体を用い、これらの抗体を使用して細胞をポジティブ選択し、望ましくない細胞と分離させる。この手法はポジティブ選択として既知である。当業者により一般的に用いられる他の手法は、目的のB細胞又はB細胞前駆体と分離されるべき細胞の表面上の分子を認識する一次抗体を使用する。この方法によると、これらの望ましくない細胞上の分子が抗血清に結合して、これらの細胞は不均質細胞集団から除去される。この手法はネガティブ選択として既知である。ポジティブ選択手法及びネガティブ選択手法を組み合わせて、比較的純粋なB細胞又は前駆B細胞の集団を得ることもできる。本出願では、「比較的純粋な」とは少なくとも純度80%、純度85%、純度88%又はより高い純度、例えば少なくとも純度90%、少なくとも純度95%、少なくとも純度97%又は少なくとも純度98%であることを意味する。
【0046】
細胞に結合した抗体を分離するための多数の手法が当業者に利用可能である。抗体は分離が容易な標識又はタグを提供する様々な分子に連結される。一実施形態では、一次抗体は磁界における分離を可能にする磁気ビーズに連結される。別の実施形態では、一次抗体は蛍光励起細胞分取器における細胞の分離を可能にする蛍光分子に連結することもできる。蛍光標識及び磁気標識は、分離を達成するために一次抗体及び/又は二次抗体で一般的に使用される。一次抗体に結合する二次抗体は、蛍光励起細胞分取器における細胞の分離を可能にする蛍光分子で標識される。あるいは、金属性マイクロビーズが一次抗体又は二次抗体に連結されてもよい。この様式では、磁石を使用してこれらの抗体とそれらに結合された細胞とを単離することができる。
【0047】
ポジティブ選択及びネガティブ選択を達成するために、不均質細胞集団は、細胞表面上の抗原への抗体の結合を達成するのに十分な時間、一次抗体と共にインキュベートされる。一次抗体が標識される場合、分離はこの工程で行われる。二次抗体が用いられる場合は、二次(抗一次)抗体は、一次抗体への二次抗体の結合を達成するのに十分な時間、一次抗体に結合された細胞と共にインキュベートされる。二次抗体が蛍光標識を有する場合、細胞は蛍光励起細胞分取器から送り出されて、目的の細胞へ結合した標識抗血清を単離する。二次抗体が磁気標識を有する場合は、一次抗体を有する選択細胞及び二次抗体標識されたマイクロビーズは複合体を形成して、磁石を通過すると保持される一方で、他の未標識細胞は細胞培地と一緒に除去される。続いて、ポジティブ標識された細胞は溶出され、さらなる処理の準備が整う。ネガティブ選択は磁界を通過した未標識細胞の回収である。
【0048】
MACS技術(Miltenyi Biotec)は、本発明で使用できるものの一例であり、MACSマイクロビーズ、MACSカラム及びMACS分離器の使用に基づく。この技術は当業者に既知である。MACSマイクロビーズは高度に特異的なモノクローナル抗体に結合する超常磁性粒子である。MACSマイクロビーズは標的細胞集団を磁気的に標識するのに使用される。MACSマイクロビーズは、サイズがおよそ50nmであり、光学顕微鏡法では目に見えず、生分解性であり、細胞にとって穏やかである。
【0049】
マイクロビーズは極度に小さいので、標識細胞を保持するために急勾配磁界の使用が必要である。MACSカラム技術は、最適な細胞生存度及び機能を維持しながら、この強力な磁界を発生するように設計される。永久磁石中に配置されるコーティングされた細胞向けのマトリックスを有するMACSカラム、即ちMACS分離器を使用することにより、磁力は最小のマイクロビーズで標識された標的細胞を保持するのに十分である。緩衝液でカラムをすすぐだけで、標識又は未標識細胞分画に影響を及ぼすことなく未標識細胞は完全に洗い流され、最適に回収することができる。磁石からカラムを取り出すことにより、標識分画を得ることができる。MACS技術を用いると、標識分画及び未標識分画の両方は非常に純粋となり、細胞を最適に回収することができる。
【0050】
不均質細胞集団及び幹細胞集団からのB細胞の単離はネガティブ選択プロセスを包含し、低張性緩衝液中に骨髄を投入し、緩衝液から赤血球を遠心分離することによる赤血球溶解を受ける。赤血球組織片は試験管から取り出される上清中に存在したままである。続いて骨髄由来細胞は、抗体を結合する適切な条件下の緩衝液中に再懸濁される。あるいは骨髄は、密度勾配遠心分離に付すことができる。骨髄由来細胞を含有するバフィコート層は遠心分離後に勾配から取り出される。細胞を洗浄し、抗体結合緩衝液中に再懸濁させて、幹細胞、T細胞、顆粒球及び単球/マクロファージに対する一次抗体と共にインキュベートした(いわゆる系列デプリーション)後、B細胞に対する抗体を使用してポジティブ選択を行う。
【0051】
本出願では、抗CD3及び抗CD4抗体がT細胞に使用され、抗CD11b/c抗体が単球/マクロファージに使用され、抗顆粒球抗体が顆粒球に使用され、c−kit抗体が幹細胞に使用された。続いて、ポジティブ選択に関してCD45RA抗体がラットB細胞に使用された。
【0052】
別の実施形態では、一次抗体はマトリックスへ結合されて、細胞をこのマトリックスと共にインキュベートさせる。一次抗体により認識される表面抗原を有する細胞は一次抗体に結合されるのに対して、これらの表面抗原を有さない他の細胞は結合されない。一実施形態では、このマトリックスは、シリンジ中に含有されて、アフィニティーカラムとして作用する。続いて、結合された細胞は、カラムから溶出され、この段階で使用されるか、あるいは同じ一次抗体又は標的細胞上の別の表面抗原を認識する別の一次抗体を含有する別のアフィニティーカラムにおけるさらなる精製工程に付される。結合された細胞の溶出は、pHの調節、張度の変化、塩を有する緩衝液の添加又は当業者に既知の抗原−抗体結合を干渉するのに有用な他の手法を使用して行われる。これらのアフィニティーカラムは、損傷組織へ投与する比較的な純粋なB細胞の調製物を得るために、ポジティブ選択、ネガティブ選択又はその両方に使用される。
【0053】
B細胞の前処理
間葉細胞へのB細胞接着を増大させるため、及びB細胞活性を促進するために、B細胞は任意に低酸素条件へ暴露させることにより前処理されてもよい。上述するように、いったん骨髄が回収されて、B細胞が単離されると、この前処理を行うことができる。B細胞の送達に先立って、B細胞は、生理学的レベル未満のレベルの酸素を含有する閉鎖系内でインキュベートされる。
【0054】
投与される細胞の数
投与されるべき細胞数は、治療されるべき損傷組織の面積又は容積、送達の方法、及び場合によっては治療対象の種に関連する。例えば、ラットは、比較的小さい心臓を有するため、心筋は、イヌ、ブタ及びヒトのようなより大きな種よりもはるかに小さく薄い。ラット研究で使用される細胞の数は、実施例1及び図面に記載されている。本明細書中で報告されるラット研究における注入は、それぞれ4回の20μlの注入から構成された。したがって、終了時に、80μl中に含まれる総計106個の細胞が、およそ1.2gmの重量のラット心臓へ注入された。
【0055】
投与されるB細胞の数の範囲の1つは、治療されるべき梗塞を生じた組織の容積及び場合によっては治療されるべき種に応じて、104個〜1014個のB細胞であるが、それに限定されない。他の範囲としては、105個〜1012個のB細胞及び106個〜1010個のB細胞が挙げられる。
【0056】
個々の注入容量としては、1μl〜1000μl、1μl〜500μl、10μl〜250μl又は20μl〜150μlの範囲が挙げられるが、それに限定されない。動物1
匹当たりの総注入容量は、種、送達方法及び治療対象の組織の容量に応じて、10μl〜10mlの範囲である。
【0057】
より大きな動物への投与に関しては、より大きな容量に含まれるより多くの数の細胞が用いられる。ブタの心臓を使用して実施される研究では、総計108個の未分画骨髄細胞が、総容積1.6mlでそれぞれ100μlの16回の注入で投与された。ヒト患者は、ブタでの使用に関して上述したのと同様の数の細胞及び同様の容量の細胞である有効量のB細胞で治療されるが、より多くても、或いはより少なくてもよい。
【0058】
投与の部位及び方法
B細胞は、損傷組織又は損傷組織の周辺へ任意の方法を用いて投与される。B細胞は、シリンジ及び適切な大きさの針を介した注入により投与される。
【0059】
B細胞はまた、体腔、脈管、管、臓器の内腔内で、臓器、心膜腔又は胸膜腔臓器周辺の空間内で、あるいは髄腔内で配置されるカニューレにより投与される。B細胞はまた、表面創傷に関して局所的に、あるいは手術中の損傷組織へ直接的に塗布されてもよい。一実施形態では、B細胞は、動脈により供給される損傷組織への動脈内カニューレにより投与される。
【0060】
本方法では、細胞は、1つ又は複数の注入で損傷組織へ直接投与される。細胞はまた、損傷組織周辺の境界域へ投与されてもよい。梗塞を生じた心臓組織の場合、B細胞はまた、梗塞を生じた心臓組織、及び梗塞が生じた心臓組織周辺の境界域へ直接投与されてもよい。別の実施形態では、細胞は、梗塞が生じていない、灌流が適切に行われていない組織へ投与されてもよい。組織への注入部位間の距離又は間隔は、細胞を受け取る領域の大きさ及び種に応じて様々であることが理解されよう。例えば、ラットでは心臓が小さく、細胞の注入は、約1mm〜2mmの間隔を取って行われる。
【0061】
ラットよりもはるかに大きな心臓を有するブタ又はヒトでは、細胞は任意に、心内エコー検査(ICE)手引きによりBoston Scientific Stiletto(商標)心筋注入カテーテルを使用して心筋へ投与される。心筋注入カテーテルは、製造業者の指示書に従って大腿動脈切開により導入されて、使用される。一実施形態では、細胞の総数は、総容積約1.6ml中1×108個以上の細胞を含有する100μl容積を16回注入(虚血性領域へ8回注入、及び境界域領域へ8回注入)することで組織へ送達される。かかる処理は、損傷領域又は損傷領域の境界域への単離したての骨髄細胞の注入を含む。
【0062】
本発明の別の方法は、B細胞を循環させ、且つ/又は標的組織へ誘導する作用物質を投与することである。これらの方法は、回収及び再注入を必要とせずに標的組織でB細胞のレベルの増加を促進する。例えば、CXCL13は、B細胞動員因子と共に標的組織へ送達されて、標的組織においてB細胞を増強することができる既知のB細胞ケモカインである。別の方法は、標的組織内に含有されるケモカインの量を、B細胞活性に適したレベルへと低減させるケモカイン拮抗薬を利用する。別の方法は、標的組織へ又は標的組織付近へ、B細胞抗原と反応する抗体を含有するマトリックスでコーティングされ、移植部位でB細胞を局在化及び濃縮させる、血管内ステントのような基板又はデバイスを移植することである。この方法では、循環するB細胞の数は、骨髄のような別の臓器からの回収物により増強され、単離、濃縮されて、患者の血液系へ送達し戻される。
【0063】
別の方法は、標的組織でのB細胞を濃縮又は増加させるために、移植基板、デバイスの表面又は損傷組織へのB細胞の付着を促進するための、in vivoにおけるB細胞を調整する他の方法を利用する。この方法では、B細胞上の表面抗原、例えばCD19表面
抗原へ接着し、同様に移植表面又は損傷組織へ接着して、当該部位でB細胞局在化を引き起こす、バイファンクショナル抗体のような物質を全身的に送達することができる。このアプローチは、動物又はヒトから回収される自己B細胞の投与と併用することができる。このアプローチはまた、自己B細胞が動物又はヒトから回収されない状況であるが、損傷組織での内因性B細胞の増加が望ましい場合に使用することができる。例えば、損傷組織を有する動物又はヒトへ投与されたかかる物質は、循環するB細胞のような利用可能なB細胞に、及び同様に損傷組織の部位に結合することができ、それによりその部位でB細胞の数を増加させる。
【0064】
梗塞が生じた心臓組織への投与方法
注入は、好ましくは32ゲージ〜21ゲージの範囲、あるいは30ゲージ〜23ゲージの範囲の小ゲージ針によりなされる。針サイズは、注入される組織のタイプ、深さ及び厚さに応じて多様である。例えば、ラットでは、27ゲージ針を用いる。ヒトでは、様々なゲージの針又はカテーテルが使用される。27ゲージ針を利用するBoston Scientific Stiletto(商標)心筋注入カテーテルが用いられてもよい。一実施形態では、注入は、心膜を通して心筋の梗塞を生じた領域へなされる。
【0065】
細胞の回収及び注入に関連する手順は全て、滅菌的手法を使用して実施される。梗塞を生じた領域は、心エコー検査を使用して可視化され、注入は、X線透視検査及び心内エコー手引きの両方を使用して実施される。別の手法としては、経食道エコーの使用が挙げられる。別の手法としては、経皮直接注入のための視覚的、触知的及び解剖学的ランドマークの使用が挙げられる。報告されるさらに別の手法は、可視化を要さない静脈内送達である。冠動脈注入が使用される場合、X線透視検査は好ましい方法である。
【0066】
細胞送達の1つの方法では、閉塞バルーンが、梗塞を生じた組織の近位で配置されて、細胞を送達する。一般的なデバイスは、低圧を使用して膨らませるPTCAバルーンであり、細胞はワイヤ内腔を介して送達される。利点は、流れを一次的に止めて、標的組織内での細胞接着及び取り込みを高めることである。
【0067】
別の実施形態では、注入は、注入手段を装備した血管カテーテルによりなされる。かかるカテーテルは、インターベンション心臓専門医、獣医又は別の熟達した助手のような当業者により導かれる。カテーテルは、当業者に既知であるような心内エコー検査手引き(ICE)及びNOGAマッピング(電気信号コンダクタンスマップ)を含むがこれらに限定されない可視化手法を使用して冠動脈につながる血管系を通して梗塞が生じた領域へ誘導される。NOGAは、信号を心筋生存度と相関すると報告されているECG検出アルゴリズムと組み合わせた三次元(3D)マッピングシステムを利用するカーテル系に関する商品名である。
【0068】
キャリア
投与されるべきB細胞は、薬学的に許容可能な液体のような、薬学的に許容可能なキャリア中に懸濁される。かかる液体としては、生理食塩水、細胞培養培地及び血漿が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる薬学的に許容可能なキャリアとしては、サイトカイン及び成長因子を有する又は有さない、スキャフォールド、マトリックス、グルー、ゲル及び他の組織保持キャリアが挙げられる。
【0069】
B細胞の投与時期
損傷組織へのB細胞の投与の時期は、患者の状態に応じて様々である。概して、B細胞は、損傷後に数時間、数週、数ヶ月又は数年投与される。本発明はまた、慢性状態を治療するのに使用されてもよく、その場合、投与スケジュールは、医師及び獣医により決定される。細胞は、患者の状態の重篤性、及びB細胞の投与後の機能の回復に応じて、損傷後
に1回又はそれ以上、患者へ投与される。
【0070】
併用療法
組織損傷の治療のための細胞単独の使用に加えて、本発明は、他の物質と細胞との併用療法を念頭に置いている。かかる物質としては、組織機能の回復、あるいは投与されるべき細胞の機能及び/又は生存(送達の成功)を促進する物質が挙げられるが、これらに限定されない。かかる物質としては、成長因子VEGF、FGF、IGF−1;ニトログリセリンのような酸化窒素ドナー;COX−2阻害剤;抗炎症薬;HMGコレダクターゼ阻害剤;スタチン;アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、トロンビン、並びに非限定的にCXCL12、CXCL13、CCL19、CCL21、CCL25、CXCL9及びCXCL10を含むケモカイン;NSAIDSケモカイン拮抗薬、トロンビン、細胞外分子、並びに非限定的にMADCAM1(粘膜アドレシン細胞接着分子1)及びVCAM1(血管細胞−接着分子1)を含むインテグリンリガンド;インターロイキン−4;血管拡張薬、浸透作用物質、抗凝結剤、酸/塩基改質剤及び界面活性剤といった血管灌流を改変する物質、又はそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。これらの物質は、当業者に既知の投与量且つレジメンで投与される。
【0071】
損傷組織の治療
B細胞は、任意の損傷組織、あるいは機能低下組織へ投与される。好ましくは、B細胞は、任意の損傷後の組織へ投与される。組織損傷は、多様な原因に起因する。本発明の方法で治療される組織の損傷につながる疾患又は状態としては、虚血又は出血、臓器移植、外傷、手術、炎症、感染、心血管疾患、並びに急性梗塞、慢性虚血及び灌流が適切でない心筋を含む心臓病、末梢血管疾患、糖尿病に起因する灌流の低下、並びに慢性腎虚血を含む腎臓病、うっ血性心不全及び虚血性卒中が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
B細胞は、損傷組織へ直接投与されてもよく、且つ/又は損傷を取り囲む組織へ投与されてもよい。一実施形態では、B細胞は、梗塞を生じた心筋へ又は梗塞を生じた組織周辺の心筋へ投与される。虚血性心臓組織への細胞の注入は、梗塞を生じた後の心機能を高める。本発明の方法は、虚血発作後の心機能の減退を減じるのに使用することができる。さらに、本発明の方法は、虚血後の心機能を改善させる。この心機能の改善は、かかる個体により良好な生活の質又は長寿を提供し、他の場合では禁止又は禁忌でありる身体活動又は他の活動に従事することが可能となる。虚血後の心機能を回復させることにより、本発明の方法の使用は、心虚血の発作後の心停止の可能性を減少させる。
【0073】
本発明の方法は、非限定的に、末梢血管疾患、四肢に位置する組織の糖尿病における組織灌流の減少、1つ又は複数の冠動脈アテローム性動脈硬化症を伴う患者における心灌流の減少、バイパス手術又は他の心臓手術を受ける患者における心灌流の減少、虚血性腎臓病を含む腎臓病、1つ又は複数の頸動脈又はそれらの分岐のアテローム性動脈硬化症あるいは1つ又は複数の椎骨動脈又は脳血管循環における他の動脈アテローム性動脈硬化症を伴う患者における頭蓋灌流の減少、一時的な虚血発作、卒中、並びに外傷、塊又は任意の他の原因に起因する血管の閉塞を含む、灌流の低下又は異常な血流及び酸化に関連する他の状態を治療するのに使用されてもよい。
【0074】
ヒトにおける損傷組織を治療するためのシステム
本発明は、ヒトにおける損傷組織を治療するためのシステムを包含する。このシステムは、損傷組織を有するヒトからB細胞を含有するサンプルを得ること、比較的純粋なB細胞の集団を得るために当該サンプルを精製すること、組成物を生成するために当該比較的純粋なB細胞の集団を薬学的に許容可能なキャリアと組み合わせること、及び当該ヒトにおける損傷組織を治療するのに有効な量の組成物を、損傷組織を有するヒトへ投与することを含む幾つかの工程を含む。
【0075】
このシステムでは、本出願の他の箇所で記載されるようにヒトにおける損傷組織を治療する目標を達成するための機器及び試薬が用いられる。
【0076】
キット
本発明は、ヒトB細胞の単離のために使用するキットを包含する。これらのキットは、不均質細胞集団からのB細胞を単離するのに有用である。キットを使用するための説明書が提供される。
【0077】
キットは、ポジティブ選択手法、ネガティブ選択手法又はそれらを組み合わせて、細胞の不均質混合物から比較的純粋なB細胞の集団を単離することができる。ポジティブ選択手法は、B細胞上の抗原を認識する抗体を用いる。抗原B細胞を認識する抗体としては、CD19、CD19+、B220+又はB細胞受容体(Igαβ)+を結合する抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
B細胞のポジティブ選択に関するキットの非限定的な例は、実施例10に提示される。ネガティブ選択手法は、B細胞と分離されるべき細胞上の抗原を認識する抗体を用いる。B細胞のネガティブ選択に関するキットの非限定的な例は、実施例11に提示される。ネガティブ選択手法は、非限定的に、以下のヒト細胞表面抗原:T細胞、NK細胞、顆粒球、単球/マクロファージ及び赤血球上に存在するCD2、CD3、CD14、CD16、CD36、CD43、CD56並びにグリコホリンを結合する抗体を用いる。
【0079】
一般的には、キットは、任意に遠心分離チャンバーを含む分離チャンバー、分離チャンバーへ接続される回収バッグ、並びに接続ユニット、接続ライン及びルアーといった当該回収バッグを分離チャンバーへ接続させるための手段、マニホールド、B細胞上の抗原を認識する種々の抗体又は非B細胞上の抗原を認識する種々の抗体、あるいはその両方、並びにフィルタ又はカラムといった分離手段及び単離されたB細胞用の回収バイアルを包含する。
【0080】
抗体は、当業者に既知であるように磁気ビーズへ連結されてもよい。キットは、アフィニティーカラムを用いてもよく、ポジティブ選択又はネガティブ選択に使用される抗体は、当業者に既知のクロマトグラフィ媒質のような媒質、例えばセファロース中に懸濁される。かかる抗体は、本出願の他の箇所に記載されている。かかるアフィニティーカラムは、分離チャンバーとして機能する。別の分離チャンバーは、その内壁上において抗体でコーティングされた管である。
【0081】
キットはまた、ポリスチレン、ポリプロピレン、ステンレス鋼、ニチノール、ゴム又は細胞へ結合することが知られている他の材料を用いてもよい。
【0082】
キットは任意に、結合した細胞又はフィルタにより捕捉された細胞の溶出のための緩衝液、ヒトへの投与前に単離されたB細胞を再懸濁させるための緩衝液を含有する。細胞を捕捉し、細胞をウイルス又は他の望ましくない血漿成分と分離させるフィルタも用いることができる。
【0083】
以下の実施例は本発明をさらに説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。一方、本発明の様々な実施形態、変更形態及び均等物がなされてもよく、それは、本明細書中の記載に触れた当業者が、本発明の精神から逸脱することなく容易に予期し得ることが明らかに理解されよう。
【実施例】
【0084】
実施例1
ラットにおける虚血後の心機能の回復
骨髄細胞はドナーラットから回収され、幹細胞及びB細胞集団へ分離され、梗塞を生じたレシピエントラット心臓へ直接注入された。これらの動物は極度の近交系であり、多くの場合ヒトの条件に代えてこのようにして使用される。ベースライン及び2週にわたる追跡心エコー検査を実施して、左心室収縮末期径及び左心室拡張末期径並びに短縮パーセント(短縮パーセントは、心臓の短軸「拍動径」(拡張末期径と収縮末期径との間の距離)を拡張期における直径で除算したものである)を測定した。この測定は、全体的な左心室機能を正確に反映して、駆出分割率と強く相関する。
【0085】
正常な壁運動及び収縮性を有する正常な心臓は、機能不全性心臓と比較してより大きなパーセントの短縮値を示し、機能不全心臓では、収縮性は低下し、短縮は低減する。ポジティブdP/dTを含む血行力学的指数を2週にわたる追跡方法により測定した。心臓を回収し、梗塞を生じた領域及び毛細血管密度を確定するために組織学的染色に付した。
【0086】
幹細胞及びB細胞の同時注入は、図2におけるポジティブdP/dT測定で見られるようにB細胞単独の注入に比較して左心室機能に対して有害な影響を及ぼした。B細胞と組み合わせられた幹細胞の有害な影響は、全骨髄を使用に関して報告されたマイナスの結果に対する説明の1つである。
【0087】
この結果により、比較的純粋なB細胞の集団が注入された場合、短縮パーセントにより確定されるように、心機能の改善が見られることが示された(図3を参照)。この改善は、HSC単独の投与が機能を高めず、骨髄内に含まれる他の細胞も機能を高めなかったことから、B細胞に特有であった(データは示さず)。心臓虚血性損傷修復に対するB細胞のメカニズムを研究する本発明者の研究により、B細胞は、細胞増殖を増大させ、細胞アポトーシスを減少させることが示された。以上より、これらのデータにより、比較的純粋なB細胞の集団の投与は、心臓において機能的回復及び解剖学的回復をもたらすことが実証された。
【0088】
動物:イソフルラン(酸素0.8L中3.5%)を経口気管内挿管に付して、陽圧で通気して(Topo, Kent Scientific)、雄スプラーグ・ドーリーラット(体重約250〜350g)を麻酔した。麻酔は、イソフルラン(酸素0.5L中3.5%)を使用して維持された。続いて、動物を、37℃に維持された制御加熱パッド上に配置させた(Gaymar T/Pump)。左心室梗塞に相関するST上昇を確認するために、ECGモニタリングを実施した。
【0089】
骨髄細胞分離:ドナースプラーグ・ドーリーラットを、80mg/kgのケタミン、2.0mg/kgのキシラジンで麻酔し、失血させて安楽死させた。大腿骨及び脛骨を回収し、2%ウシ胎児血清(FBS)及びゲンタマイシン(2mg/ml)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で骨幹を流した。骨髄(BM)を回収して、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で1:2に希釈して、フィコール密度勾配(Histopaque−1077、Sigma, セントルイス, ミズーリ州)上へ層状にした。バフィコートを回収して、DPBSで3度洗浄した後、各種抗体と共にインキュベートして、Miltenyiの細胞分離手順へ付した。CD3(T細胞)、CD8(T細胞)、顆粒球(好中球)、CD11b/c(単球)及びckit(HSC)抗体を使用した系列デプリーション、続くCD45RA抗体によるポジティブ選択により、あるいはCD45RA抗体単独によるポジティブ選択によりB細胞を選択した。造血幹細胞(HSC)は、上述の抗体を用いた系列デプリーション、続くckit抗体によるポジティブ選択により選択されたのに対して、非造血幹細胞は、上述の抗体+CD45抗体を用いた系列デプリーション、続くckitに対する抗体によるポジティブ選択により選択された。細胞集団の純度は、フローサイトメトリー分析を使用して確定した。本出願では、「比較的純粋な」とは、少なく
とも純度80%、純度85%、純度88%、又はより一層高い純度、例えば少なくとも純度90%、好ましくは少なくとも純度95%、好ましくは少なくとも純度97%、又は好ましくは少なくとも純度98%であることを意味する。いったん集団を分離して、純度を蛍光励起細胞走査分析(図1)により確認されると、細胞は、心筋注入の当日まで37℃で保持されるか、あるいはすぐに動物へ注入された。細胞注入の当日に、HSC、NHSC及びB細胞をDPBSで洗浄して、注入用の滅菌生理食塩水中に再懸濁させた。
【0090】
心筋梗塞の誘導:手術の準備及びドレープ後に、滅菌的手法及び機器を使用して、左側胸開を行い、開胸用胸開創器を挿入した。左前下行枝(LAD)を単離して、滅菌6−0プロレンを使用して結紮させ、動脈結紮を、色の視覚的変化、又はST上昇のECG変化を伴う梗塞を生じた領域におけるブランチングにより確認した。偽手術された動物に同じ手順を行ったが、LAD周囲の結紮糸は左方に結ばれた。別の対照群は、B細胞の投与を加えた偽手術群であった。群は全て図面に示される。
【0091】
STレベルは、PR間隔に対して測定した。頻拍又は虚血を伴って、ST振幅が変化するにつれ、方向が変化した。ST上昇を引き起こす病理学的プロセスは、心臓配向性の長軸からベクトル全体をシフトさせ、貫壁性虚血(梗塞又は痙縮)の領域を通って移動させた。
【0092】
骨髄細胞処理:LADの結紮後及び心筋梗塞が生じたのを確認した後、27ゲージの針を有するハミルトンシリンジを使用して、約1mm〜2mm間隔を空けて、梗塞を生じた領域へ直接、20μlの4回注入(注入1回につき約250,000個の細胞、1μl当たり12,500個の細胞)で総計106個の細胞(但し、図2に示される一例を除く、ここでは5×106個が単独注入された)を動物に付与した。注入は、外科医により実施され、心筋へ直接手により行われた。対照動物には生理食塩水を注入した。滅菌縫合糸(4−0ビクリル)を使用して、胸を閉じて、動物を外科手術から回復させた。
【0093】
細胞培養方法
これらの実験の別の態様では、動物に、37℃で一晩培養したB細胞を投与した。個々に培養することに加えて、幹細胞及びB細胞の両方を共培養させて、B細胞はトランスウェルフィルタ(孔径0.4μm)の上部に、幹細胞はトランスウェルフィルタの下に配置させた。細胞は、B細胞対幹細胞の1:1の比で播種して、1%ペニシリン及び1%ストレプトマイシンを含有するDMEM中で一晩培養した。B細胞又は幹細胞のいずれかを翌日回収して、注入用に調製した。
【0094】
B細胞を幹細胞と同時投与する場合、投与される細胞の総数は106個であった。幹細胞及びB細胞は混合されて、細胞のスラリーが注入された。
【0095】
心エコー検査評価:心エコー検査手順は、胸を開く直前に実施され、屠殺の2週後に繰り返した。最初に、左心室(LV)2次元短軸像を、中央乳頭及び肺尖レベルのレベルで得た。利得設定を最適化し、画像が軸上に存在することを確実にした後、Mモード追跡を、腹側及び背側LV壁を通して記録した。Mモード心エコー検査は、心臓の一次元像(深さ)を提供する。Mモード画像は、ビームの軸に沿った様々な組織界面からのエコーを表す。心周期中に動くこれらのエコーは、時間の次元を提供して、各時間帯においてオシロスコープ/記録上でスイープされた。したがって、記録上に見られる線は、時間内の任意の時点でトランスデューサー及び他の心臓構造物に関する結像された構造物の位置に相当した。Mモード心エコー図は、高いサンプリングレートを使用して、心臓境界のより精密な画像を提供することができる。心周期全体にわたる心臓寸法及び動きの測定は、多くの場合、Mモード追跡からより精密に得られる。Mモード追跡に関する配向性は、梗塞を生じた領域及び梗塞を生じていない領域における壁厚及び動きの描写を可能にするように選択
された。結果は、VHSテープ上に記録されて、Mモード追跡を解析した。LV質量は、立方式を使用した内部ソフトウェアにより自動的に算出された。背側壁厚に対する相対腹側壁厚、及びLV内部寸法は、少なくとも3回連続した心周期から測定した。心臓内左室内径短縮率及び中壁左室内径短縮率を指標として、LV収縮機能を推定した。
【0096】
再研究及び終結:2週後、上述するように動物を鎮静させて、挿管した。切開を頸部領域に対して行い、右頸動脈を解剖した。2 Fr Millarカテーテル(SPR−612又はSPC320;Millar Instruments, ヒューストン, テキサス州)を、右頸動脈を介してLVへ挿入した。LVの圧力は、大動脈圧と共に記録した(dP/dT)。動物をKClで屠殺して、心臓を取り出し、湿重量を記録して、組織学的評価用に加工処理した。
【0097】
組織学的組織加工処理:屠殺後、心臓を生理食塩水灌流で簡単にすすいだ後、大動脈に通したカニューレを介して4%パラホルムアルデヒドを使用して固定した。固定後、組織を、心臓細胞アポトーシス分析用又は心臓細胞増殖分析用の2つの方法のうち1つの方法で加工処理した:1)パラフィン包埋、2)組織凍結媒質中に包埋。
【0098】
心臓細胞増殖の確定:心筋梗塞及び細胞注入手順時に、ブロモデオキシウリジン(BrdU)ペレットを動物に移植した。2週後、動物を安楽死させて、心臓をBrdU評価用に加工処理した。BrdU陽性細胞は、標識抗BrdU抗体で染色され、核は全て、ヘマトキシリンで対比染色された。画像は全て、40倍対物レンズを使用して撮り、陽性細胞を定量化した。BrdU陽性細胞が、偽手術(結紮なし)された動物で少量検出された。BrdU増殖細胞は、結紮+生理食塩水処理した動物で観察されたが、より多くのBrdU染色が、B細胞処理心臓で見出された(図4)。
【0099】
心臓細胞アポトーシスの確定:動物に偽手術(結紮なし)又はB細胞注入を伴う結紮を受けさせた。動物を手術の48時間後に安楽死させた。心臓を、TUNELアッセイを使用したアポトーシスの組織学的評価用に加工処理した。アポトーシス細胞は、安定な色素原であるジアミノベンジジンで染色される一方で、核は全て、ヘマトキシリンで染色された。画像は全て、40倍対物レンズを使用して撮り、陽性細胞を定量化した(図5)。
【0100】
統計学−血行力学的データ
t検定を実施して、p<0.05で両側検定に基づいて有意性を評価した。分散分析(ANOVA)もまた、全ての種々の心機能測定に関して実施されて、群間の最小二乗平均における差が検出された場合、Tukey posthoc解析を実施して、p値を付与した。
【0101】
この結果により、比較的純粋なB細胞の集団を注入した場合に、心機能の改善(図3の短縮パーセントの変化を参照)がもたらされることが示されている。しかしながら、幹細胞及びB細胞を同時投与した場合、改善は観察されなかった(図2、図3)。注入及び培養の直前の単離したての骨髄細胞は、損傷後の心機能において最大の改善をもたらした(図3)。心臓虚血性損傷修復に関するB細胞のメカニズムを調べる研究により、B細胞は細胞増殖を増大させ、細胞アポトーシスを減少させることが示される。総合すると、これらのデータは、比較的純粋なB細胞の集団の投与が、心臓における機能的回復及び解剖学的回復を提供したことを実証する。
【0102】
実施例2
心筋梗塞が生じた後のヒト患者の治療
55歳男性は、アンギナを訴えて彼の心臓専門医を訪ねた。動脈造影図により、左前下行枝において90%閉塞が明らかとなっている。トレッドミル試験中に、患者は、急性心筋梗塞を患い、生き延びている。続く試験により、左心室心筋の一部が、梗塞により損傷
を受けていることが明らかとなっている。
【0103】
患者は開胸手術を受けて、左冠動脈前下行枝を伏在静脈移植片でバイパスした。手術中、梗塞が生じた領域は可視化された。骨髄およそ200mlを腸骨稜から吸引して、加工処理して、CD19+細胞の亜集団を分離させた。1.6mlにつき約1億個の細胞の濃度で、これらの骨髄由来B細胞が16回、27ゲージ針を使用して、注入1回当たり総容積約100μlで、虚血性心筋組織へ直接注入された。
【0104】
手術の完了後、患者は、その後数ヶ月間モニタリングされた。CD19+細胞の注入を施した虚血領域は、この期間中に血管分布及び収縮機能の改善を示した。
【0105】
実施例3
心筋梗塞が生じた後のヒト患者の治療
右冠動脈の梗塞を伴う62歳女性患者は、虚血性損傷を患っている。B細胞を患者の骨髄から得て、細胞の投与前に一晩培養した(1億2千万個の細胞を含有する1000μl)。当業者により梗塞が生じた後の患者へ提供されるものに類似したプロトコルを使用して、患者は薬物のレジメン下に置かれる。翌日、患者の冠動脈に、大腿動脈を介して鼠径部に導入されるガイドカテーテルをカニューレ挿入する。PTCAバルーンを、このカテーテルを通じて冠動脈へ導入して、十分な圧力で膨らませて、冠血流を塞いだ。PTCAワイヤを除去した後、細胞を、バルーンワイヤ管腔を通して注入して、膨らませたバルーンに対して遠位に送達させた。およそ90秒後、バルーンをしぼませて、手順を終了させた。完了後、患者は、その後数ヶ月モニタリングされた。CD19+細胞の注入を施した虚血領域は、この期間中に血管分布及び収縮機能の改善を示した。
【0106】
実施例4
心筋梗塞が生じた後のヒト患者の治療
左心室において梗塞を伴う35肥満男性は、外科的バイパスではなくPTCAが適用された。B細胞を腸骨から回収して、大動脈弁を交差させ、左心筋を嵌め込んで、心筋へ直接細胞を注入することを可能にする針を配置させる大腿経由デバイスを用いて送達させた。注入に先立って、B細胞は、細胞保持、生存性及び有効性を高めるフィブリンシーラント、生体ポリマー又はコラーゲンのようなマトリックス物質と混合された。さらに、梗塞の周辺に配置されるステントは、マトリックス、及びこれらの細胞を優先的に誘引及び保持するB細胞抗原と反応する抗体でコーティングされた。
【0107】
実施例5
虚血後のうっ血性心不全を伴うヒト患者の治療
患者は、虚血により引き起こされると考えられるうっ血性心不全に罹患している。この手順は、患者の腸骨稜から骨髄50〜500mlを回収することから始まり、キット(密閉バッグ系)を用いて比較的純粋な配合物中からCD19+細胞を単離した。これらの細胞の送達に先立って、患者の冠動脈に、PTCA業界に共通した診断用カテーテルをカニューレ挿入した。精製した細胞の動脈への送達は、診断用カテーテルへの細胞の注入により達成された。心機能の改善は、細胞の投与の数日後に測定された。
【0108】
実施例6
出血性卒中後の中枢神経系に対する損傷を伴うヒト患者の治療
患者は、左中大脳動脈から分岐している小動脈からの出血に起因する出血性卒中に罹患している。中心後回周辺での出血は、運動機能に大きな悪影響を及ぼす。この手順は、患者の腸骨稜から骨髄50〜500mlを回収することから始まり、キット(密閉バッグ系)を用いて比較的純粋な配合物中からおよそ2億個のCD19+B細胞を単離した。これらの細胞の送達に先立って、患者の内頸動脈に、インターベンション外科医に一般的に既
知の診断用カテーテルをカニューレ挿入した。デバイスは、左内頸動脈へ配置されて、中大脳動脈の原点へと装着した。薬学的に許容可能なキャリア中に懸濁させた精製したB細胞は、中大脳動脈へ徐々に注入されて、血流により出血の部位へ運搬された。運動機能の改善は、B細胞の投与の数日後に測定された。
【0109】
実施例7
出血性卒中後の中枢神経系に対する損傷を伴うヒト患者の治療
患者は、後大脳動脈から分岐している小動脈からの出血に起因する出血性卒中を患っていた。後頭皮質の18野及び19野付近での出血は、視覚機能に大きな悪影響を及ぼす。この手順は、患者の血液からB細胞を回収すること、及びキット(密閉バッグ系)を用いて比較的純粋な配合物中からCD19+B細胞を単離することから始まる。これらの細胞の送達に先立って、患者の頭蓋を定位固定装置で固定して、後頭骨における開頭手術を、神経外科医に一般的に既知の手法により実施した。硬膜を穿孔して、薬学的に許容可能なキャリア中に1億個を越えるB細胞を含有する注入シリンジに接続された針を、マイクロマニピュレータを使用して血塊を取り囲む18野へ導入した。続いて、B細胞を1〜5μlの容量で徐々に注入した。この手順を、血塊を取り囲む19野への注入においても繰り返した。視覚機能の改善は、B細胞の投与の数日後に測定された。
【0110】
実施例8
PTCA手順後の腎臓に対する損傷を伴うヒト患者の治療
患者は、透視診断における可視化のための造影剤を使用するPTCA手法を用いた、心筋の血管を再生させるための一般的な手法を受ける。患者の腎臓は、造影剤に反応して、造影誘導ネフロパシーと呼ばれる腎臓の一部の機能不全を引き起こす。この手順は、患者の後腸骨から骨髄50〜500mlを回収することから始まり、キット(密閉バッグ系)を用いて比較的純粋な配合物中からCD19+細胞を単離した。これらの細胞の送達に先立って、患者の腎動脈に、腎動脈への溶液の送達用に設計された送達カテーテルをカニューレ挿入した。精製した細胞の動脈への送達は、カテーテルへの細胞の注入により達成された。腎機能の改善は、B細胞の投与のその後数週間にわたって観察された。
【0111】
実施例9
腎臓移植を受けるヒト患者の治療
末期腎疾患を患う患者は、組織適合ドナーから腎臓の移植を受ける。移植後、骨髄50〜500mlを患者の後腸骨から回収して、キット(密閉バッグ系)を用いて比較的純粋な配合物中からCD19+細胞を単離した。続いて、これら単離されたB細胞は、腎臓を外科的に移植する前に、ドナー腎臓全体にわたって注入される。腎機能及び臓器拒絶反応の改善は、B細胞の投与のその後数週間にわたって観察された。
【0112】
実施例10
ヒト骨髄からのB細胞の単離
この実施例では、B細胞の供給源として骨髄が選択され、骨髄がポジティブ免疫磁気分離により選択される。ヒト自己骨髄B細胞は、密閉且つ滅菌環境で流体移行及び分離プロセスの両方が可能である回収バッグが取り付けられた、特別に設計された分離チャンバー中で単離された。このB細胞選択プロセスで使用されるU材料は滅菌されている。回収された骨髄は、分離チャンバーへ入れられて、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1:2に希釈され、チャンバーの遠心分離セクション内に含有されるフィコール密度勾配上へ層状にされた。骨髄細胞を密度勾配遠心分離に付した。上部フィコール層は、廃棄バッグに誘導された。中間層内に含有される骨髄単核球(MNC)は、光学センサにより検出、回収され、PBSで洗浄された。洗浄したMNCは、B細胞特異的抗原であるCD19に対して誘導され、マイクロ磁気ビーズへ結合した抗体を含有する回収バッグに誘導された。細胞は、抗体−マイクロ磁気ビーズと共に制御温度で20分間インキュベートされた。続い
て、磁石を回収バッグに適用して、その結果、抗体−マイクロ磁気ビーズに結合した細胞が、回収バッグの側面に維持される。抗体へ結合しなかった細胞を除去した。続いて、磁石を回収バッグから分離して、抗体−マイクロ磁気ビーズへ結合した細胞を、細胞を抗体から移動させるCD19により認識されるペプチドを含有する緩衝液中に懸濁させた。磁石を再度回収バッグに適用して、放出されたCD19+B細胞を取り出し、回収した。B細胞は、細胞を未結合ペプチドと分離させる滅菌フィルタ上に洗浄されて、未結合ペプチドは、フィルタを通って廃棄管へと流れる。B細胞を緩衝液中に再懸濁させて、患者へ移植し戻す準備が整う。
【0113】
材料(H材料は滅菌されている)
この実施例で使用される材料の幾つかとして、遠心分離チャンバー、活栓マニホールド、接続ユニット、接続ライン、投入生成物用ポート、洗浄溶液用ポート、再懸濁用ポート、針注入部位を有する排出生成物用ポート、無針ルアー、回収バッグ又は管、廃棄物バッグ、投入ライン離脱装置、最終生成物用のバイアル、0.2μmフィルタ、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、細胞移植緩衝液、フィコール溶液及びマイクロ磁気ビーズへ結合したCD19抗体が挙げられる。
【0114】
実施例11
ヒト血液からのB細胞の単離
この実施例では、B細胞の供給源として全血が選択され、全血がネガティブアフィニティー分離により選択される。ヒト自己末梢血B細胞は、密閉且つ滅菌環境で流体移行及び分離プロセスの両方が可能である回収バッグが取り付けられた、特別に設計された分離チャンバー中で単離された。このB細胞選択プロセスで使用される材料は全て滅菌されている。回収された血液は、分離チャンバーへ入れられて、遠心分離チャンバーに誘導される。血液細胞の遠心分離後、血漿を含有する上部層は、廃棄袋に誘導される。中間層であるバフィコート内に含有される富化された白血球は、光学センサにより検出されて、回収バッグに誘導された。細胞をPBSで洗浄し、CNBr活性化セファロースに結合した非B細胞特異的抗原に対する抗体を含有する緩衝液中に再懸濁させた。使用した抗体は、以下のヒト細胞表面抗原:T細胞、NK細胞、顆粒球、単球/マクロファージ及び赤血球上に存在するCD2、CD3、CD14、CD16、CD36、CD43、CD56並びにグリコホリンAに誘導された。細胞−抗体混合物は、温度を制御して20分間インキュベートして、空のカラムへ入れた。溶出緩衝液をカラムに添加して、抗体に結合しない細胞、即ちB細胞が溶出された。B細胞をPBSで洗浄して、緩衝液中に再懸濁させて、患者へ移植し戻す準備が整う。
【0115】
材料(材料は全て滅菌されている)
この実施例で使用される材料の幾つかとして、遠心分離チャンバー、活栓付きのプラスチックカラム、活栓マニホールド、接続ユニット、接続ライン、投入生成物用ポート、洗浄溶液用ポート、再懸濁用ポート、針注入部位を有する排出生成物用ポート、無針ルアー、回収バッグ、廃棄物バッグ、投入ライン離脱装置、最終生成物用のバイアル、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、細胞溶出緩衝液、細胞移植緩衝液、CNBr活性化セファロースに結合した細胞系列特異的抗体(抗CD2、抗CD3、抗CD14、抗CD16、抗CD36、抗CD43、抗CD56及び抗グリコホリンA抗体)が挙げられる。
【0116】
上記で引用した特許、刊行物及び抜粋は全て、それらの全体が参照により本明細書に援用される。上述の事項は、単に本発明の好ましい実施形態を示すに過ぎないこと、また添付の特許請求の範囲で規定されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多数の修正又は変更が本発明の好ましい実施形態内で成されてもよいことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】ckit+造血幹細胞(HSC)及びCD45RAポジティブ選択される細胞(B細胞)のフローサイトメトリー分離を表す図である。
【図2】虚血性損傷後の骨髄細胞の特異的な集団の注入後の心収縮能をモニタリングする一次スクリーニング。骨髄は、ドナースプラーグ・ドーリーラット大腿骨及び脛骨から回収して、様々な細胞集団を単離した。6匹のレシピエントラットは、左前下行冠動脈の結紮を受けて、生理食塩水、1×106個のHSC、5×105個のB細胞と組み合わせた5×105個のHSC、あるいは1×106個のB細胞を単独で、梗塞が生じた領域へ直接注入した。2週後、生存動物(6匹のラットのうち5匹)に追跡心エコー検査、及び心収縮能(dP/dT)を含む血行力学的測定を行った。擬似手術した(結紮なし)動物及び結紮+生理食塩水注入動物を対照として包含した。B細胞とHSCが組み合わせて注入される場合のdP/dTにより測定される心臓収縮能、及びdP/dTにより測定される心臓弛緩能の衰退、並びにB細胞が単独で注入される場合のこれらのパラメータの改善に留意されたい。
【図3】B細胞は、虚血性損傷後に心機能を再現性よく増強する。骨髄は、ドナースプラーグ・ドーリーラット大腿骨及び脛骨から回収されて、B系列及び幹細胞集団が単離された。レシピエントラットは、左前下行冠動脈の結紮を受けて、単離したての細胞(HSC細胞及びB細胞)又は一晩培養した細胞(培養B細胞及び非造血幹細胞(NHSC)と共培養されたB細胞)総計100万個を、梗塞が生じた領域への結紮直後に注入した。2週後、生存動物に追跡心エコー検査及び血行力学的測定を行った。心室短軸直径方向短縮を心機能の尺度としてモニタリングし、分散分析(ANOVA)を実施して、データの有意性を確定した。擬似手術した(結紮なし)動物、結紮+生理食塩水注入動物及びHSC注入動物を対照として包含した。
【図4】心臓細胞増殖は、心筋梗塞が生じた後のB細胞注入後にアップレギュレートされるが、必ずしもアップレギュレートされるとは限らない。動物には、梗塞及び細胞注入時にBrdUペレットを埋め込んだ。2週後、動物を安楽死させて、増殖細胞の核DNAへのBrdU組み込みの評価用に心臓を加工処理した。陽性細胞は、BrdUに対する抗体を使用して同定した。BrdUに関して陽性である細胞染色の割合は、梗塞が生じた周囲領域内で定量される細胞の総数に対する比較により確定した。データの有意性は、スチューデントt検定(両側)を使用して評価した。
【図5】B細胞は、アポトーシスを低減させることにより虚血性損傷後の心臓組織を保護する。細胞アポトーシスの評価は、TUNELアッセイを使用して実施した。動物には、結紮手術、それに続く生理食塩水又はB細胞注入(100万個の細胞)を施した。手術の48時間目に動物を安楽死させて、心臓をアポトーシスの評価用に加工処理した。梗塞が生じた周囲領域内のアポトーシス細胞は、梗塞が生じた周囲領域で定量される細胞の総数に対する比較により定量化された。データの有意性は、スチューデントt検定(両側)を使用して評価した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物又はヒトの損傷組織を治療するのに有用な薬剤の調製におけるB細胞の使用。
【請求項2】
前記損傷組織が心臓組織である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記薬剤が薬学的に許容可能なキャリアをさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記B細胞が比較的純粋なB細胞集団を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
薬学的に許容可能なキャリア中に比較的純粋なB細胞集団を含む組成物を、損傷組織を有する動物又はヒトへ一定量投与することを含み、当該量が、該損傷組織を治療するのに有効な量である、動物又はヒトの損傷組織を治療する方法。
【請求項6】
比較的純粋なB細胞集団が、幹細胞及びB細胞を含有する不均質の細胞集団から幹細胞を実質的に除去して比較的純粋なB細胞の集団を得ることを含む方法により調製される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
動物又はヒトの損傷組織においてB細胞密度を増加させる物質を当該動物又はヒトへ投与することを含む、動物又はヒトにおける損傷組織を治療する方法。
【請求項8】
動物又はヒトの損傷組織を治療するためのシステムであって、
損傷組織を有する動物又はヒトからB細胞を含有するサンプルを得ること、
サンプルを精製して、比較的純粋なB細胞の集団を得ること、
比較的純粋なB細胞の集団を薬学的に許容可能なキャリアと組み合わせて、組成物を調製すること、及び、
損傷組織を有する動物又はヒトへ、損傷組織を治療するのに有効な量の当該組成物を投与すること
を含むシステム。
【請求項9】
骨髄、リンパ節、脾臓又は血液に由来するものである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のB細胞。
【請求項10】
CD19+細胞、B220+細胞若しくはB細胞受容体(Igαβ)+細胞又はそれらの組合せである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のB細胞。
【請求項11】
損傷組織が虚血組織である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の損傷組織。
【請求項12】
損傷組織が心臓組織、肺組織、神経組織、肝組織、筋組織又は腎組織である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の損傷組織。
【請求項13】
損傷組織が虚血性心臓組織である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の損傷組織。
【請求項14】
損傷組織の機能の回復、又は動物もしくはヒトへ投与される比較的純粋なB細胞集団の機能及び/もしくは生存を促進する物質の投与をさらに含む、請求項5、6又は7に記載の方法。
【請求項15】
不均質のヒト細胞集団からヒトB細胞を単離するのに有用なキットであって、
遠心分離チャンバーを含む分離チャンバー、
接続ユニット、
接続ライン、
回収バッグ、
ヒトB細胞上の抗原を認識することが可能な、磁性粒子に結合した抗体、
フィルタ、
回収チューブ、及び、
該キットの使用説明書
を含むキット。
【請求項16】
不均質のヒト細胞集団からヒトB細胞を単離するのに有用なキットであって、
遠心分離チャンバーを含む分離チャンバー、
接続ユニット、
接続ライン、
回収バッグ、
不均質のヒト細胞集団中のB細胞ではない細胞上の抗原を認識することが可能な、媒質に結合した抗体、
回収チューブ、及び、
該キットの使用説明書
を含むキット。
【請求項17】
単離されたB細胞を再懸濁させるための緩衝液をさらに含む、請求項15又は16に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−536930(P2008−536930A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507782(P2008−507782)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【国際出願番号】PCT/US2006/014445
【国際公開番号】WO2006/113647
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(507345701)エーシーティーエックス,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】