説明

損傷鉄筋の補強方法及び補強材

【課題】 アルカリ骨材反応等によって鉄筋コンクリート構造物中に配設された鉄筋が損傷した場合であっても、適切かつ確実に補修を行い、鉄筋コンクリート構造物の耐力や剛性を保持する。
【解決手段】 鉄筋20が損傷した部分のコンクリート40をはつり取って鉄筋20の損傷部分30を露出させる工程(b)と、鉄筋20の損傷部分30に長繊維からなる補強材10を取り付ける工程(c)と、補強後の鉄筋20とコンクリート40との空隙内に充填材50を充填する工程(d)と、コンクリート40をはつり取った部分に断面修復材60を充填して断面を修復する工程(e)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、損傷鉄筋の補強方法に関するものであり、例えばコンクリート構造物内に配設された鉄筋が、アルカリ骨材反応等によって破断あるいは腐食した際に、損傷鉄筋を補強するための方法及び補強材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物中には鉄筋が配設されており、この鉄筋は、アルカリ骨材反応、塩害、コンクリートの中性化等によって損傷することが知られている。そして、鉄筋コンクリート構造物中に配設された鉄筋が損傷すると、鉄筋コンクリート構造物の耐力や剛性が著しく低下する可能性がある。
【0003】
従来、破断あるいは腐食した鉄筋の補修方法について種々の技術が提案されている。
一般的には、便宜的に破断面をまたいで添え筋を配置して、鉄筋に添え筋を溶接する方法が用いられている。このような方法として、例えば、鉄筋が破断したことが判明すると、コンクリートをはつり取って鉄筋の損傷部分を露出させた後に、破断部分に補修金具等を配設し、鉄筋と補修金具等を溶接する方法が開示されている(特許文献1参照)。
この特許文献1に記載された技術は、コンクリートをはつり取って鉄筋の損傷部分を露出させた後に、破断箇所を挟み込むようにして補修金具や補修用鉄筋を配設し、破断鉄筋と補修金具や補修用鉄筋とを溶接することにより、鉄筋の損傷部分を補強するようになっている。
【0004】
また、鉄筋が破断したことが判明すると、コンクリート構造物の表面から鉄筋の破断部まで穿孔し、破断箇所を溶接する方法が開示されている(特許文献2参照)。
この特許文献2に記載された技術は、コンクリートを外部からはつり取ることなく、鉄筋の破断部が露出するまでコンクリートの表面から破断部まで穿孔し、酸化金属とアルミニウムの化学反応で生成された高温の溶融金属を流し込むことで破断部の周囲を鋳込み、破断鉄筋同士を溶接することにより、鉄筋の損傷部分を補強するようになっている。

【0005】
【特許文献1】特開2006−38752号公報
【特許文献2】特開2005−238296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、鉄筋が破断する場合の多くは、鉄筋の曲げ加工部で破断が発生するため、これを適切かつ確実に補修するのは困難であり、上述した従来の技術では十分な対応がなされているとは言えなかった。
【0007】
すなわち、上述した特許文献1に記載されている技術では、鉄筋の破断箇所に添え筋を配置して溶接するため、溶接熱により鉄筋の材質を損なう可能性があった。さらに、アルカリ骨材反応等による膨張が収束していないと、補修を行ったとしても補修後の膨張により鉄筋に損傷が生じる可能性もあった。さらに、添え筋を用いているため、補修後に、規定されている最小被り厚を満足できない可能性もあった。
【0008】
また、上述した特許文献2に記載されている技術では、鉄筋の破断が広範囲にわたっている場合、すなわち残存する鉄筋間の距離が大きい場合には、破断部を確実に溶接することができないおそれがあった。
【0009】
このように、従来より行われている破断あるいは腐食した鉄筋の補修方法では、適切かつ確実な補修を行うことができないのが現状である。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、アルカリ骨材反応等によって鉄筋コンクリート構造物中に配設された鉄筋が損傷した場合であっても、適切かつ確実に補修を行い、鉄筋コンクリート構造物の耐力や剛性を保持することが可能な損傷鉄筋の補強方法及び補強材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る損傷鉄筋の補強方法及び補強材は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を備えている。
すなわち、本発明に係る損傷鉄筋の補強方法は、鉄筋コンクリート構造物内に配設された鉄筋が、アルカリ骨材反応、塩害、コンクリートの中性化等によって損傷した場合の損傷鉄筋の補強方法に関するものであり、以下の4つの工程を含んでいる。
【0012】
第1の工程は、鉄筋が損傷した部分のコンクリートをはつり取って鉄筋の損傷部分を露出させる工程である。第2の工程は、鉄筋の損傷部分に長繊維からなる補強材を取り付ける工程である。第3の工程は、補強後の鉄筋とコンクリートとの空隙内に充填材を充填する工程である。第4の工程は、コンクリートをはつり取った部分に断面修復材を充填して断面を修復する工程である。
【0013】
このような工程を実施することにより、破断あるいは断面減少した鉄筋を補強して、鉄筋コンクリート構造物の耐力や剛性を保持することができる。
【0014】
ここで、前記鉄筋の損傷部分に長繊維からなる補強材を取り付ける工程は、高分子接着剤を用いて、鉄筋表面にシート状とした補強材を層状に貼り付ける工程とすることが可能である。このような補強材取付工程は、特に鉄筋の損傷箇所が少ない場合に有用であり、損傷状態に応じて適切かつ確実に補修を行うことができる。
【0015】
また、前記鉄筋の損傷部分に長繊維からなる補強材を取り付ける工程は、予め所要の断面積となるように長繊維を束ね、この長繊維の両端部を樹脂で固めて突起部を形成し、高分子接着剤及び止着部材を用いて鉄筋に固定する工程とすることが可能である。このような補強材取付工程は、特に鉄筋の損傷箇所が多い場合に有用であり、予め複数の補強材を準備しておくことにより、迅速な補修を行うことができる。
【0016】
本発明に係る損傷鉄筋の補強材は、鉄筋コンクリート構造物内に配設された損傷鉄筋の補強材に関するものである。この補強材は、鉄筋の損傷部分に合わせて所要の断面積となるように束ねられた長繊維と、前記長繊維の両端部を樹脂で固めて形成した突起部と、前記長繊維の両端部を鉄筋に固定するための止着部材と、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る損傷鉄筋の補強方法によれば、アルカリ骨材反応等によって鉄筋コンクリート構造物中に配設された鉄筋が損傷した場合であっても、適切かつ確実に補修を行い、鉄筋コンクリート構造物の耐力や剛性を保持することができる。
【0018】
特に、本発明に係る損傷鉄筋の補強方法は、使用する部材が特殊なものではなく、さらに工程が簡易であるため、施工が容易であり、施工時間を短縮することができるとともに施工費用を低減することができる。また、溶接を必要としないため、鉄筋が二次的損傷を受けるおそれがない。また、アルカリ骨材反応等による膨張が収束しておらず、補修後に膨張が生じた場合であっても、鉄筋に生じる可能性がある過大な応力を鉄筋損傷部分において吸収することができる。さらに、補強により見かけ上の鉄筋径が増加したとしても、使用している長繊維が非腐食性であるため、被り厚の減少による影響が殆どない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る損傷鉄筋の補強方法及び補強材の実施形態を説明する。
本発明に係る損傷鉄筋の補強方法及び補強材は、鉄筋コンクリート構造物内に配設された鉄筋が、アルカリ骨材反応、塩害、コンクリートの中性化等によって損傷した場合に適用される技術であり、主として以下の4つの工程を含んで構成されている。
【0020】
第1の工程では、鉄筋が損傷した部分のコンクリートをはつり取って鉄筋の損傷部分を露出させる。続く第2の工程では、鉄筋の損傷部分に長繊維からなる補強材を取り付ける。続く第3の工程では、補強後の鉄筋とコンクリートとの空隙内に充填材を充填する。続く第4の工程では、コンクリートをはつり取った部分に断面修復材を充填して断面を修復する。
【0021】
<第1の実施形態>
次に、本発明に係る損傷鉄筋の補強方法の主要工程である第2の工程について説明する。
図1〜図3は、本発明の第1の実施形態に係る損傷鉄筋の補強方法及び補強材を説明するものであり、図1は損傷鉄筋の補強手順を示す縦断面図、図2は補強された損傷鉄筋を示す斜視図、図3は損傷鉄筋の補強材の斜視図である。
【0022】
第1の実施形態に係る損傷鉄筋の補強方法では、図3に示すような補強材10を使用する。この補強材10は、長繊維をシート状としたものであり、図2に示すように、シート状の長繊維を層状に重ねて鉄筋20の表面に貼り付けることにより、鉄筋20の損傷部分(破断面)30の補強を行う。
【0023】
長繊維は、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維等を用いることができる。なお、長繊維はこれらの素材に限られるものではなく、繊維の強度と弾性係数が補強に十分な値を有していれば、他の素材であってもかまわない。
【0024】
補強材10として必要な長繊維の量は、概算以下の通りである。
炭素繊維の場合には、引張強度3000N/mm2として鉄筋面積の約1/8の量が必要である。アラミド繊維の場合には、引張強度2000N/mm2として鉄筋面積の約1/5の量が必要である。ビニロン繊維の場合には、引張強度1000N/mm2として鉄筋面積の約1/2.5の量が必要である。
他の素材の長繊維を用いる場合にも、同様にして必要量を求めることができる。
【0025】
また、補強材10の長さは、使用する長繊維の強度やシートの厚さに応じて変動はあるが、強度が大きい場合やシート厚が大きい場合には、1層の接着長さが長くなるものの接着箇所数が減少するため、標準的な総接着長さは概ね8〜10cm程度となる。
【0026】
なお、長繊維として炭素繊維を用いる場合に、鉄筋20の表面と長繊維とを電気的に絶縁することが好ましい。すなわち、炭素繊維は、強度及び弾性係数等の点から、本発明に用いる長繊維として有用である。しかし、炭素繊維と鉄筋20とが接触すると、接触部において局部電池が形成され、鉄筋20が腐食するおそれがあることが知られている。そこで、鉄筋20の表面と長繊維とを電気的に絶縁することにより、鉄筋20の腐食を防止することができる。
【0027】
第1の実施形態に係る損傷鉄筋の補強方法では、図1に示すように、鉄筋コンクリート構造物内に配設された鉄筋20が破断していることが発見されると(a)、鉄筋20が損傷している部分のコンクリート40をはつり取って鉄筋20の損傷部分30を露出させる(b)。なお、鉄筋20の破断を発見するには、コンクリート構造物の外面を目視してひび割れを捜したり、あるいは既知の非破壊検査を行えばよい。非破壊検査の方法は、例えば特開2005−181302号公報等に記載されている。
【0028】
続いて、高分子接着剤を用いて、鉄筋20の表面にシート状とした補強材10を層状に貼り付ける(c)。補強材10として必要な長繊維の量及び補強材10の長さは上述した通りである。
【0029】
続いて、補強後の鉄筋20とコンクリート40との空隙内に充填材50を充填する(d)。充填材50は、例えばポリマー、ポリマーモルタル、セメントモルタル等を用いることができる。
【0030】
続いて、コンクリート40をはつり取った部分に断面修復材60を充填して断面を修復する(e)。断面修復材60は、例えば、樹脂系の断面修復材として、SBR系、EVA系、PAE系等のポリマーセメントモルタルや、ポリエステル樹脂系、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系等のポリマーモルタルを用いることができる。また、セメント系の断面修復材として、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超速硬セメント等のセメントと、骨材、コンクリート用混和剤等を配合した普通セメントモルタルまたはコンクリート等を用いることができる。
【0031】
第1の実施形態に係る損傷鉄筋の補強方法及び補強材10は、特に鉄筋20の損傷箇所が少ない場合に有用であり、損傷状態に応じて適切かつ確実に補修を行うことができる。
【0032】
<第2の実施形態>
図4〜図6は、本発明の第2の実施形態に係る損傷鉄筋の補強方法及び補強材を説明するものであり、図4は損傷鉄筋の補強手順を示す縦断面図、図5は補強された損傷鉄筋を示す斜視図、図6は損傷鉄筋の補強材の斜視図である。
【0033】
第2の実施形態に係る損傷鉄筋の補強方法では、図6に示すような補強材110を使用する。この補強材110は、鉄筋20の損傷部分30に合わせて所要の断面積となるように束ねられた長繊維111と、長繊維111の両端部を樹脂で固めて形成した突起部112と、長繊維111の両端部を鉄筋20に固定するための止着部材113とからなる。そして、図5に示すように、高分子接着剤及び止着部材113を用いて補強材110を鉄筋20の表面に固定することにより、鉄筋20の損傷部分30の補強を行う。
【0034】
長繊維111の素材、必要量、必要長さ等は、上述した実施形態1と同様である。また、長繊維111として炭素繊維を用いる場合には、鉄筋20の表面と長繊維111とを電気的に絶縁することが好ましい。
【0035】
止着部材113は、図6に示すように、軸方向に開放部を有する円筒状の圧着金具からなる。この止着部材113を金属で構成する場合には、鉄筋20との電位の違いによる腐食を防止するため、鉄筋20と同じ素材とすることが好ましい。なお、止着部材113は圧着金具に限られるものではなく、補強材110を鉄筋20に固定できればどのような部材を使用してもよく、例えばプラスチック製の結束帯を用いることができる。
【0036】
第2の実施形態に係る損傷鉄筋の補強方法では、図4に示すように、鉄筋コンクリート構造物内に配設された鉄筋20が破断していることが発見されると(a)、鉄筋20が損傷している部分のコンクリート40をはつり取って鉄筋20の損傷部分30を露出させる(b)。
【0037】
続いて、高分子接着剤により補強材110を鉄筋20に貼り付けるとともに、補強材110の両端部に形成された突起部112の内側に止着部材113を位置させて、止着部材113により鉄筋20と補強材110とを挟み込む。そして、止着部材113を締め付けることにより、鉄筋20の表面に補強材110を固定する(c)。
【0038】
続いて、補強後の鉄筋20とコンクリート40との空隙内に充填材50を充填し(d)、コンクリート40をはつり取った部分に断面修復材60を充填して断面を修復する(e)。充填材50及び断面修復材60は、上述した実施形態1と同様のものを用いることができる。
【0039】
第2の実施形態に係る損傷鉄筋の補強方法及び補強材110は、特に鉄筋20の損傷箇所が多い場合に有用であり、予め複数の補強材110を準備しておくことにより、迅速な補修を行うことができる。
【0040】
<他の実施形態>
なお、上述した実施形態では、破断鉄筋に対して本発明を適用した例を示したが、本発明は、破断鉄筋だけではなく、塩害、コンクリートの中性化等、種々の劣化要因により腐食して断面積が減少した鉄筋の補強にも適用することができる。
【0041】
また、長繊維の素材、量、長さは、補修対象となる鉄筋が施工されている環境や鉄筋の径等に応じて適宜変更して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る損傷鉄筋の補強手順を示す縦断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る損傷鉄筋の補強方法により補強された損傷鉄筋を示す斜視図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る損傷鉄筋の補強方法に用いる補強材の斜視図。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る損傷鉄筋の補強手順を示す縦断面図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る損傷鉄筋の補強方法により補強された損傷鉄筋を示す斜視図。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る損傷鉄筋の補強方法に用いる補強材の斜視図。
【符号の説明】
【0043】
10,110 補強材
20 鉄筋
30 損傷部分
40 コンクリート
50 充填材
60 断面修復材
111 長繊維
112 突起部
113 止着部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物内に配設された損傷鉄筋の補強方法であって、
鉄筋が損傷した部分のコンクリートをはつり取って鉄筋の損傷部分を露出させる工程と、
鉄筋の損傷部分に長繊維からなる補強材を取り付ける工程と、
補強後の鉄筋とコンクリートとの空隙内に充填材を充填する工程と、
コンクリートをはつり取った部分に断面修復材を充填して断面を修復する工程と、
を含むことを特徴とする損傷鉄筋の補強方法。
【請求項2】
前記鉄筋の損傷部分に長繊維からなる補強材を取り付ける工程は、
高分子接着剤を用いて、鉄筋表面にシート状とした補強材を層状に貼り付けることを特徴とする請求項1に記載の損傷鉄筋の補強方法。
【請求項3】
前記鉄筋の損傷部分に長繊維からなる補強材を取り付ける工程は、
予め所要の断面積となるように長繊維を束ね、この長繊維の両端部を樹脂で固めて突起部を形成し、高分子接着剤及び止着部材を用いて鉄筋に固定することを特徴とする請求項1に記載の損傷鉄筋の補強方法。
【請求項4】
鉄筋コンクリート構造物内に配設された損傷鉄筋の補強材であって、
鉄筋の損傷部分に合わせて所要の断面積となるように束ねられた長繊維と、
前記長繊維の両端部を樹脂で固めて形成した突起部と、
前記長繊維の両端部を鉄筋に固定するための止着部材と、
を備えたことを特徴とする損傷鉄筋の補強材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−95348(P2008−95348A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277049(P2006−277049)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】