搬送ローラー、搬送装置及び印刷装置
【課題】重量及びコストを減少させると共に、媒体支持領域を効率よく低コストに形成した搬送ローラー及び搬送装置、印刷装置を提供する。
【解決手段】搬送装置20は、プレス加工により一対の端面61a, 61bを突き合わせて円筒状(ローラー本体16)に形成され、長手方向の少なくとも一部に媒体Pを支持する媒体支持領域50が形状転写加工により形成された搬送ローラー15を備える。
【解決手段】搬送装置20は、プレス加工により一対の端面61a, 61bを突き合わせて円筒状(ローラー本体16)に形成され、長手方向の少なくとも一部に媒体Pを支持する媒体支持領域50が形状転写加工により形成された搬送ローラー15を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ローラー、搬送装置及び印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷装置として種々のプリンターが提供されている。このようなプリンターでは、印刷用紙等の記録媒体(搬送媒体)を各種ローラーにより搬送する。具体的には、搬送ローラー及び従動ローラーで印刷部に搬送し、ここで印刷した後、排紙ローラー及び従動ローラーで記録媒体を排出するように構成されている。
【0003】
特に、搬送ローラーは、従動ローラーとの間に印刷用紙を挟持し、その状態で回転駆動することにより、用紙をキャリッジの移動方向と直交する副走査方向に移動させるようになっている。したがって、印刷用紙を記録位置まで精度良く搬送し、さらに印刷速度に合わせて順次送り込むことから、高い搬送力が要求されている。
【0004】
そこで、搬送ローラーに高い摩擦力を保持させるため、特許文献1には金属製丸棒の周面に目打ち加工によって多数の突起を形成する技術が開示されている。
ところが、この技術では、軸状(円柱状)の表面に周方向に沿って突起を形成するため、作業性が悪いといった課題がある。また、中実の材料を用いるため、搬送ローラーを用いる例えばプリンターの総重量コストが増大するといった課題もある。
【0005】
このような背景のもとに特許文献2には、中実軸のコストダウンを目的として、金属板を曲げ加工して円筒状(中空状)の軸(円筒軸)に成形し、この円筒軸を中実の金属製丸棒材に替えて用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3271048号公報
【特許文献2】特開2006−289496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2の円筒軸に高い摩擦力を付与する方法として、特許文献1の技術を適用した場合には、中空状の円筒軸であるため加工中に変形しやすく、印刷用紙等の搬送媒体の搬送精度が悪化するという問題がある。
このため、円筒軸の表面に樹脂層を形成し、その樹脂層に直径10〜20μm程度の微粒子を噴き付けて付着させる技術が採用されているが、樹脂や微粒子の大半が円筒軸に付着せずに廃棄されるため効率が悪く、処理時間も長いため、製造コストが高いという問題がある。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、重量及びコストを減少させると共に、媒体支持領域を効率よく低コストに形成した搬送ローラーと、この搬送ローラーを用いた搬送装置、印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る搬送ローラー、搬送装置、印刷装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
本発明に係る搬送装置は、プレス加工により一対の端面を突き合わせて円筒状に形成され、長手方向の少なくとも一部に媒体を支持する媒体支持領域が形状転写加工により形成された搬送ローラーを備えることを特徴する。
【0010】
この発明によれば、搬送ローラーの表面に、短時間で確実に、しかも軸に変形を発生させることなく、効率よく低コストに媒体支持領域を形成するので、コストダウン及び軽量化が可能であり、更に媒体の良好な搬送を実現することができる。
【0011】
また、前記形状転写加工は、金属板をプレス加工により円筒状に形成するに先立って、前記金属板の所定領域に対して行われることを特徴とする。
【0012】
これにより、容易かつ確実に搬送ローラーの表面に媒体支持領域を形成することができる。
【0013】
また、前記形状転写加工は、金属板をプレス加工により円筒状に形成すると同時に、前記金属板の所定領域に対して行われることを特徴とする。
【0014】
これにより、工数を増やすことなく、搬送ローラーの表面に効率よく確実に媒体支持領域を形成することができる。
【0015】
また、前記媒体支持領域は、前記搬送ローラーの両端部を除く中央部に設けられていることを特徴とする。
【0016】
これにより、印刷用紙等の媒体(搬送媒体)を搬送するのに必要な領域にのみ媒体支持領域を選択的に形成することができる。
【0017】
前記媒体支持領域は、所定の表面粗さを有する高摩擦領域であることを特徴とする。
【0018】
これにより、印刷用紙等の媒体(搬送媒体)に滑りが発生することなく、確実に搬送することができる。
【0019】
本発明に係る印刷装置は、記録媒体を搬送ローラーにより搬送する搬送部と、前記搬送部により搬送される前記記録媒体に対して印刷処理を行う印刷部と、を備える印刷装置において、前記搬送部として上述した搬送装置を用いたことを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、上述した搬送装置が用いられているので、コストダウン及び軽量化が可能である。また、媒体(搬送媒体、記録媒体)の良好な搬送により、高品質な印刷を行うことができる。
【0021】
本発明に係る搬送ローラーは、プレス加工により一対の端面を突き合わせて円筒状に形成され、長手方向の少なくとも一部に所定の表面粗さを有する高摩擦領域が形状転写加工により形成されたことを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、プレス加工により円筒状に形成された軸の表面に、短時間で確実に、しかも軸に変形を発生させることなく、効率よく低コストに高摩擦領域を形成することができる。したがって、印刷用紙等の媒体(搬送媒体、記録媒体)を高精度に搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るインクジェットプリンターの側断面図である。
【図2】(a)は搬送ユニットの平面図、(b)は駆動系の側面図である。
【図3】(a)は搬送ローラー機構の概略構成図、(b)は軸受けの概略構成を示す図である。
【図4】(a)、(b)はローラー本体の基材としての金属板を示す平面図である。
【図5】(a)は第1の製造方法で形成した高摩擦領域50を示す拡大図、(b)は第1の製造方法における形状転写加工を示す図である。
【図6】(a)〜(c)は金属板のプレス加工を説明するための工程図である。
【図7】(a)〜(c)は金属板のプレス加工を説明するための工程図である。
【図8】(a)は搬送ローラーを示す平面図、(b)繋ぎ目を示す断面図である。
【図9】(a)は第2の製造方法における形状転写加工を示す図、(b)は第2の製造方法で形成した高摩擦領域50を示す拡大図である。
【図10】搬送ローラーの繋ぎ目及び開口の変形例を示す図である。
【図11】搬送ローラーの繋ぎ目及び開口の変形例を示す図である。
【図12】搬送ローラーの繋ぎ目及び開口の変形例を示す図である。
【図13】(a)〜(c)は搬送ローラーの繋ぎ目の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの側断面図である。
図2(a)はインクジェットプリンターの搬送ユニットを示す平面図、図2(b)は搬送ユニットの駆動系を示す側面図である。
【0025】
図1に示すように、インクジェットプリンター1は、プリンター本体3と、プリンター本体3の後側上部に設けられた給紙部5と、プリンター本体3の前側に形成された排紙部7と、を備えて構成される。
【0026】
給紙部5には給紙トレイ11が設けられており、給紙トレイ11には複数枚の用紙(媒体、搬送媒体、記録媒体)Pが積載されるようになっている。ここで、用紙Pとしては、普通紙、コート紙、OHP(オーバーヘッドプロジェクタ)用シート、光沢紙、光沢フィルム等が用いられる。
給紙トレイ11の下流側には給紙ローラー13が設けられている。給紙ローラー13は、対向する分離パッド(図示せず)との間で給紙トレイ11の最上部に位置する用紙Pを挟圧し、前方へ送り出すように構成されている。
【0027】
送り出された用紙Pは、下側に配置された搬送ローラー15と、上側に配置された従動ローラー17と、からなる搬送ローラー機構19に至る。
そして、搬送ローラー機構19に至った用紙Pは、搬送ローラー15の回転駆動によって印刷処理に伴う精密で正確な搬送(紙送り)動作を受けつつ、搬送ローラー機構19の下流側に位置する印字ヘッド(印刷部)21へ搬送されるようになっている。
【0028】
印字ヘッド21は、キャリッジ23に保持されており、キャリッジ23は、給紙方向(用紙Pの搬送方向)と直交する方向に往復移動するよう構成されている。
印字ヘッド21と対向する位置には、プラテン24が配設されており、プラテン24は、キャリッジ23の移動方向に沿って間隔をあけて配置された、複数のダイヤモンドリブ25によって構成されている。ダイヤモンドリブ25は、印字ヘッド21によって用紙Pに印刷を行う際に、用紙Pを下側から支持するものであり、詳しくは、ダイヤモンドリブ25の頂面が支持面として機能するようになっている。
なお、印字ヘッド21による印字処理(印刷処理)は、制御部CONTによって制御されるようになっている。
【0029】
印字ヘッド21とダイヤモンドリブ25との距離は、用紙Pの厚さに応じて調節可能になっており、これによって用紙Pは、ダイヤモンドリブ25の頂面上を滑らかに通過しつつ、高品質に印刷されるようになっている。印字ヘッド21で印刷された用紙Pは、排紙部7に設けられる排紙ローラー27によって順次排出されるようになっている。
【0030】
排紙ローラー機構29は、下側に配置された排紙ローラー27と上側に配置された排紙ギザローラー28とを備えて構成されたもので、排紙ローラー27の回転駆動によって用紙Pを引き出し、排出するようになっている。
【0031】
ここで、搬送ローラー機構19及び排紙ローラー機構29の駆動部30及び搬送ローラー15、排紙ローラー27の駆動速度の関係について説明する。
プリンター本体3には、図2(a)、(b)に示すように、制御部CONTの制御下で駆動される搬送モーター32が設けられている。この搬送モーター32の駆動軸にはピニオン33が設けられており、ピニオン33には搬送駆動ギア35が歯合しており、搬送駆動ギア35には搬送ローラー15が内挿されて連結されている。
このような構成のもとに搬送モーター32等は、搬送ローラー15を回転駆動する駆動部30となっている。
【0032】
また、搬送ローラー15には、搬送駆動ギア35と同軸にインナーギア39が設けられており、このインナーギア39には中間ギア41が歯合しており、中間ギア41には排紙駆動ギア43が歯合している。排紙駆動ギア43の回転軸は、図2(a)に示すように排紙ローラー27の軸体45となっている。
このような構成のもとに、搬送ローラー機構19の搬送ローラー15と排紙ローラー機構29の排紙ローラー27とは、同一の駆動源である搬送モーター32からの回転駆動力を受け、駆動されるようになっている。
【0033】
なお、排紙ローラー27の回転速度は、各ギアのギア比を調整することにより、搬送ローラー15の回転速度より速くなるように設定されている。したがって、排紙ローラー機構29の排紙速度は、搬送ローラー機構19の搬送速度より増速率だけ速くなっている。
また、搬送ローラー機構19による用紙Pの挟持力(押圧力)は、排紙ローラー機構29による挟持力(押圧力)よりも大きく設定されている。したがって、搬送ローラー機構19と排紙ローラー機構29とが共に用紙Pを挟持しているとき、その用紙搬送速度は、排紙ローラー機構29の排紙速度とは関係なく、搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されるようになっている。
【0034】
次に、本発明に係る搬送ローラー15及びこれを備える搬送ローラー機構19について説明する。
図3(a)は搬送ローラー機構19の概略構成を示す図、(b)は軸受けの概略構成を示す図である。
【0035】
搬送ローラー15は、亜鉛メッキ鋼板やステンレス板等の金属板がプレス加工されて円筒状に形成されたローラー本体16と、このローラー本体16の表面に設けられた高摩擦領域50とを備えてなるものである。
【0036】
また、この搬送ローラー15は、その両端部がプラテン24に一体成形された軸受26に回転可能に保持されている。図3(b)に示すように、軸受26は、上方に開口するU字形に形成され、このU字形部位に搬送ローラー15を嵌め込むことで、搬送ローラー15を前後側及び下側の3方向から軸支する。
なお、高摩擦領域50を有する搬送ローラー15とこれを支持する軸受26とにより、搬送部(搬送装置)20が構成される。
【0037】
また、搬送ローラー15の一端又は両端には、インナーギア39や搬送駆動ギア35が回転不能に係合し連結するための係合部(図示せず)が形成されている。搬送ローラー15には、種々の連結部品に連結するため、種々の形態の係合部が形成可能になっている。
また、高摩擦領域50は、本実施形態ではローラー本体16の両端部を除く中央部に選択的に形成されている。
【0038】
従動ローラー17は、複数(例えば6個)のローラー17aが同軸に配列されて構成されたもので、搬送ローラー15の高摩擦領域50に対向して、高摩擦領域50に当接する位置に配置されたものである。これらローラー17aからなる従動ローラー17には、付勢バネ(図示せず)が取り付けられており、これによって従動ローラー17は、搬送ローラー15側に付勢されている。
したがって、従動ローラー17は、搬送ローラー15の高摩擦領域50に所定の押圧力(用紙Pに対する挟持力)で接し、搬送ローラー15の回転動作に従動して回転するようになっている。また、搬送ローラー15と従動ローラー17との間で用紙Pを挟持する力が大きくなり、用紙Pの搬送性がより良好になっている。
なお、この従動ローラー17の各ローラー17aの表面には、高摩擦領域50との摺接による損傷を緩和するため、例えばフッ素樹脂塗装等の低摩耗処理が施されている。
【0039】
また、ローラー本体16は、金属板がプレス加工され、対向する一対の端面が互いに近接させられて円筒状に形成されたものである。したがって、このローラー本体16は、一対の端面61a、61bが僅かながら離間しており、これによって端面61a、61b間には繋ぎ目が形成されている。
【0040】
次に、搬送ローラー15の製造方法について説明する。
搬送ローラー15を製造する方法としては、金属板60をプレス加工してローラー本体16を形成するに先立って予め金属板60に高摩擦領域50を形成する第1の製造方法と、金属板60をプレス加工してローラー本体16を形成すると同時に金属板60に高摩擦領域50を形成する第2の製造方法と、がある。
【0041】
〔第1の製造〕
まず、第1の製造について説明する。
図4(a)に示すように矩形板状または帯状の大型金属板65を用意する。この大型金属板65としては、例えば厚さ1mm程度の亜鉛メッキ鋼板が用いられる。続いて、この大型金属板65をプレス加工することにより、図4(b)に示すように、ローラー本体16に対応する大きさの細長い矩形板状の金属板60、すなわちローラー本体16の基材を形成する。
【0042】
次いで、図5(a)に示すように、金属板60の一方の表面のうち長手方向のほぼ中央部に高摩擦領域50を形成する。高摩擦領域50の形成方法としては、形状転写加工が用いられる。すなわち、図5(b)に示すように、平坦な下型201上に金属板60を載置し、凸凹形状を有する上型202を金属板60の上面に押付けて、金属板60押圧することで、金属板60の上面に上型202の凸凹形状を転写する加工が施される。
【0043】
上型202のプレス面には、高摩擦領域50を形成するために、例えば網目状の凹部202aが形成されており、凹部202aが金属板60の表面を変形させることにより、金属板60の表面に高摩擦領域50が形成される。
なお、高摩擦領域50は、表面粗さが、例えばRy=100〜200μm以下、Rz=5〜10μm以上に形成される。
【0044】
例えば、図5(a)に示すように、金属板60の表面に網目状(格子状)に凸部52が配置された高摩擦領域50が形成される。つまり、凸部52として、延在方向の異なる2種類の直線状の凸部52a,52bが形成される。例えば、凸部52a,52bの金属板60の長手方向及び短手方向とのなす角は、共に約45度である。また、例えば、凸部52a,52bのそれぞれの間隔(幅)は約50μm、深さは約7μm、傾斜(斜面)角度は、約45度である。
このように凸部52(凸部52a,52b)は、金属板60の長手方向の中央部の表面に、規則的に配置され、かつ、互いに交差して格子形状をなして、高摩擦領域50を形成する。
【0045】
なお、上型202のプレス面に網目状(格子状)の凹部202aを形成する場合に限らず、目打ち加工により、凸凹形状を形成してもよい。
また、規則的に配置された凸凹形状には限らない。例えば、上型202のプレス面に直径10〜20μm程度の硬質微粒子(ダイヤモンド等)を付着させて、不規則な凸凹形状を形成する。そして、この不規則な凸凹形状を金属板60の表面に転写するようにしてもよい。これにより、高摩擦領域50は、不規則な凸凹を有する形状となる。
【0046】
次いで、高摩擦領域50が形成された金属板60を、図6(a)〜(c)、図7(a)〜(c)のプレス加工工程図に示すように円筒状(パイプ状)にプレス加工し、その両側(長辺側)の端面61a、61bを近接させる。
すなわち、まず、図6(a)に示す雄型101と雌型102とで金属板60をプレス加工し、金属板60の両側部62a、62bを円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。なお、図6(a)においては、各部材を分かりやすくするため、金属板60と雄型101と雌型102との間にそれぞれ間隔を開けてこれらの部材を記しているが、この間隔は実際には存在せず、金属板60と雄型101、雌型102とはそれぞれの接触部においてほぼ密着している。これは、後述する図6(b)、(c)、図7(a)〜(c)においても同様である。
【0047】
続いて、図6(a)で得られた金属板60の幅方向(曲げ方向)における中央部を、図6(b)に示す雄型103と雌型104とでプレス加工し、円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。
次いで、図6(c)に示すように、図6(b)で得られた金属板60の内部に芯型105を配置し、図6(c)に示す上型106と下型107とを用いて、図7(a)〜(c)に示すようにして金属板60の両側部62a、62bの各端面61a、61bを近接させる。
【0048】
ここで、図6(c)および図7(a)〜(c)に示す芯型105の外径は、形成する円筒状の中空パイプの内径と等しくしてある。また、上型106のプレス面106cの半径と下型107のプレス面107aの半径は、それぞれ、形成する中空パイプの外径の半径と等しくしてある。また、図7(a)〜(c)に示すように上型106は左右一対の割型であり、これら割型106a、106bは、それぞれ独立して昇降可能に構成されている。
【0049】
すなわち、図6(c)に示す状態から、図7(a)に示すように右側の割型106aを下型107に対して相対的に下降させ(以下、同様に型の移動は相対的移動を意味する)、金属板60の一方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。なお、下型107も上型106と同様左右一対の割型とし(割面107b参照)、この図7(a)に示す工程の際に、同じ側の下型を上昇させてもよい。
次いで、図7(b)に示すように、芯型105を少し(一方の側の端面61aと他方の側の端面61bとを近接させることができる程度に)下降させるとともに、他方の側の割型106bを下降させ、金属板60の他方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。
【0050】
その後、図7(c)に示すように、芯型105および一対の割型106a、106bをともに下降させ、円筒状の中空パイプ(ローラー本体16)を形成する。この状態で左右両側の端面61a、61bは、僅かな隙間を介して十分に近接した状態となる。すなわち、この円筒状の中空パイプにあっては、基材である金属板60の両端面61a、61bが互いに近接してなることでこれら両端面61a、61b間に繋ぎ目が形成され、したがってこの繋ぎ目は、両端面61a、61bが離間していることによって隙間を有したものとなっている。
【0051】
図4〜図7に示す工程は、順送プレス加工により連続的に行われる。
そして、円筒状の中空パイプ(ローラー本体16)には、図8(a)に示すように、端面61a、61b間に繋ぎ目80が形成される。上述した一連のプレス加工では、金属板60の両端面61a、61b間の隙間が無くなるように、すなわち、両端面61a、61bが互いに当接するようにするのが好ましい。しかしながら、得られる中空パイプ(ローラー本体16)の真円度や振れ量を良好にしつつ、この隙間を完全に無くすのは非常に困難であり、したがって、現状ではある程度の隙間が形成されるようになる。
【0052】
この繋ぎ目80は、金属板60の外周面と内周面とが同じ寸法(幅)であることにより、図8(b)に示すように、一対の端面61a、61b間の距離が、ローラー本体16の外周面側で相対的に広く、内周面側で相対的に狭くなっている。すなわち、これら一対の端面61a、61b間の、ローラー本体16の外周面側での距離d1は、内周面側での距離d2に比べて大きくなっている。具体的には、本実施形態では外周面側での距離d1は30μmとなり、内周面側での距離d2は10μmとなっている。
【0053】
なお、上述した一連のプレス加工の後に、搬送ローラー15(ローラー本体16)の寸法精度、真円度、振れを少なくするために、搬送ローラー15(ローラー本体16)を矯正する加工、例えば矯正プレス加工などを施してもよい。
また、搬送ローラー15(ローラー本体16)のうち、高摩擦領域50が形成された領域に無電解Ni−Pメッキを施してもよい。なお、メッキとしては、無電解Ni−Pメッキに限定されるものではなく、例えば、硬質クロームメッキや電気メッキを用いてもよい。
このようにして、搬送ローラー15が製造される。
【0054】
〔第2の製造〕
次に、第2の製造について説明する。なお、第1の製造と重複する工程等については、説明を省略又は簡単にする。また、図面も流用して説明する。
まず、図4(a)に示すように矩形板状または帯状の大型金属板65を用意する。続いて、この大型金属板65をプレス加工することにより、図4(b)に示すように、ローラー本体16に対応する大きさの細長い矩形板状の金属板60を形成する。
【0055】
次いで、金属板60を、図6(a)〜(c)、図7(a)〜(c)のプレス加工工程図に示すように円筒状(パイプ状)にプレス加工し、その両側(長辺側)の端面61a、61bを近接させる。
すなわち、図6(a)に示す雄型101と雌型102とで金属板60をプレス加工し、金属板60の両側部62a、62bを円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。続いて、図6(b)に示す雄型103と雌型104とで、金属板60の幅方向(曲げ方向)における中央部をプレス加工し、円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。更に、図6(c)に示すように、金属板60の内部に芯型105を配置する。
そして、図7(a)〜(c)に示すように、上型106と下型107とを用いて、金属板60の両側部62a、62bの各端面61a、61bを近接させる。これにより、円筒状の中空パイプ(ローラー本体16)を形成する。この状態で左右両側の端面61a、61bは、僅かな隙間を介して十分に近接した状態となる。
【0056】
この一連のプレス加工と同時に、中空パイプ(ローラー本体16)の中央部に高摩擦領域50が形成される。
高摩擦領域50の形成方法としては、形状転写加工が用いられる。すなわち、上型106(割型106a,106b)と下型107のプレス面106c,107aには、それぞれ凸凹形状が形成されており、上型106と下型107とで金属板60を押圧する際に、この凸凹形状を金属板60、すなわち中空パイプ(ローラー本体16)の表面に転写する加工が施される。
【0057】
図9(a)に示すように、上型106と下型107のプレス面106c,107aには、高摩擦領域50を形成するために、例えば網目状の凹部106d,107dが形成されており、凹部106d,107dが金属板60(ローラー本体16)の表面を変形させることにより、金属板60(ローラー本体16)の表面に高摩擦領域50が形成される。
なお、図9(a)は、図6(c)〜図7(c)に図示された上型106と下型107と同一物であり、説明の都合上、書き直したものである。
そして、高摩擦領域50は、表面粗さが、例えばRy=100〜200μm以下、Rz=5〜10μm以上に形成される。
【0058】
例えば、図9(b)に示すように、ローラー本体16の表面に網目状(格子状)に凸部52が配置された高摩擦領域50が形成される。つまり、凸部52として、互いに巻き方向の異なる2種類の螺旋状の凸部52a,52bが形成される。例えば、凸部52a,52bのローラー本体16の周方向及び軸方向とのなす角は、共に約45度である。また、例えば、凸部52a,52bのそれぞれの間隔(幅)は約50μm、深さは約7μm、傾斜(斜面)角度は、約45度である。
このように凸部52(凸部52a,52b)は、ローラー本体16の軸方向の中央部の表面に、規則的に配置され、かつ、互いに交差して格子形状をなして、高摩擦領域50を形成する。
【0059】
なお、上型106と下型107のプレス面106c,107aに網目状(格子状)の凹部106d,107dを形成する場合に限らず、目打ち加工により、凸凹形状を形成してもよい。
また、規則的に配置された凸凹形状には限らない。例えば、上型106と下型107のプレス面106c,107aに直径10〜20μm程度の硬質微粒子(ダイヤモンド等)を付着させて、不規則な凸凹形状を形成する。そして、この不規則な凸凹形状を金属板60の表面に転写するようにしてもよい。これにより、高摩擦領域50は、不規則な凸凹を有する形状となる。
【0060】
図4、図6及び図7に示す一連のプレス加工及び形状転写加工工程は、順送プレス加工により連続的に行われる。
そして、上述した一連のプレス加工の後に、搬送ローラー15(ローラー本体16)の寸法精度、真円度、振れを少なくするために、搬送ローラー15(ローラー本体16)を矯正する加工、例えば矯正プレス加工などを施してもよい。
また、搬送ローラー15(ローラー本体16)のうち、高摩擦領域50が形成された領域に無電解Ni−Pメッキを施してもよい。
このようにして、搬送ローラー15が製造される。
【0061】
次に、インクジェットプリンター1の動作について、図1、図2を参照して説明する。
給紙ローラー13によって給紙された用紙Pは、搬送ローラー機構19の上流側近傍に至ると、搬送ローラー15と従動ローラー17との間に引き込まれ、両ローラーの駆動によって下流側に位置する印字ヘッド21の下方に向けて定速で搬送される。
【0062】
その際、搬送ローラー15には高摩擦領域50が形成されており、従動ローラー17がこの高摩擦領域50に当接する位置に配置されているので、これら搬送ローラー15と従動ローラー17との間で用紙Pを挟持する力が大きくなり、用紙Pの搬送性がより良好になっている。
【0063】
そして、用紙Pの印刷開始端が、印字ヘッド(印刷部)21の直下の所定の印刷位置に到達すると、印刷が開始される。その後、用紙Pの始端が排紙ローラー機構29に至ると、排紙動作が開始される。
なお、排紙ローラー機構29の搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度より速く設定されているため、用紙Pにはバックテンションが掛かった状態で搬送される。ただし、搬送ローラー機構19と排紙ローラー機構29とが共に用紙Pを挟持しているときには、上述したようにその用紙搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されている。
したがって、このように排紙ローラー機構29と搬送ローラー機構19とによって排紙と搬送とを同時に行う際にも、その用紙搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されているため、搬送ムラのない正確で安定した紙送り(搬送)がなされるようになる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係る搬送ローラー15によれば、プレス加工により円筒状に形成された円筒軸を用いた場合であっても、ローラー本体16の表面に、短時間で確実に、しかもローラー本体16に変形を発生させることなく、効率よく低コストに高摩擦領域(媒体支持領域)50を形成することができる。したがって、良好な搬送力を維持でき、用紙P等の媒体を高精度に搬送することができる。
【0065】
つまり、本実施形態に係る搬送ローラー15によれば、高摩擦領域50の形成方法として、ローラー本体16の表面に樹脂層を形成し、その樹脂層に微粒子を噴き付けて付着させる方法を用いていないので、製造工程が簡略化され、処理時間も短く、したがって製造コストを抑えることができるという利点がある。
【0066】
また、本実施形態の搬送部(搬送装置)20によれば、上述した搬送ローラー(搬送ローラー)15を備えているので、コストダウン及び軽量化が可能であり、更に用紙Pの良好な搬送を実現することができる。
【0067】
また、本実施形態のインクジェットプリンター(印刷装置)1によれば、上述した搬送部20を備えているので、コストダウン及び軽量化が可能であり、さらに高品質な印刷を行うことができる。
【0068】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0069】
例えば、搬送ローラー15(ローラー本体16)の繋ぎ目については、上述した実施形態に限定されることなく、以下に示すように、種々の形状を採用することができる。具体的には、例えば、繋ぎ目を以下に示す形状とすることができる。
【0070】
図10から図13は、繋ぎ目の変形例を示す図である。
図10に示すように、繋ぎ目81を螺旋状に形成してもよい。また、図11に示すように、繋ぎ目82を波線状に形成してもよい。
【0071】
また、図12に示すように、繋ぎ目84をジグザグ(直線が左右に何回も折れ曲がっている形)状に形成してもよい。
【0072】
また、図13(a)に示すように、ローラー本体16の中心軸16aと平行な直線部85aとこれに交差する直線部85bとからなる、矩形波状の繋ぎ目85を形成してもよい。
この繋ぎ目85については、図13(b)に示すようにローラー本体16の全長に亘って形成されていてもよく、図13(c)に示すようにその中央部を除く両端部に選択的に形成されていてもよい。
図13(c)に示したように繋ぎ目85を両端部にのみ形成する場合には、これら繋ぎ目85の間は、例えばローラー本体16の中心軸と平行な直線部86とすることができる。
また、このように繋ぎ目85を両端部にのみ形成し、その間の中央部については直線部86とした場合、高摩擦領域50の形成領域を直線部86に対応させて形成するのが好ましい。
【0073】
例えば、上述した実施形態では、本発明に係る搬送ローラーを、搬送ローラー機構19における搬送ローラー15に適用したが、これに限らない。排紙ローラー機構29における排紙ローラー27や排紙ギザローラー28に適用することもできる。また、搬送ローラー機構19における従動ローラー17にも適用することができる。
更に、用紙以外の媒体を搬送する搬送ローラーに対しても適用することができる。
また、印刷装置以外に用いられる搬送ローラー、搬送装置に適用することもできる。
【0074】
また、搬送ローラー15(ローラー本体16)のうち高摩擦領域50を形成する領域は、媒体支持領域に対応させる必要があるが、それ以外の領域にも形成しても構わない。つまり、搬送ローラー15(ローラー本体16)の全長に亘って高摩擦領域50を形成してもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…インクジェットプリンター(印刷装置)、 15…搬送ローラー、 16…ローラー本体、 20…搬送部(搬送装置)、 21…印字ヘッド(印刷部)、 26…軸受、 50…高摩擦領域(媒体支持領域)、 61a, 61b…端面、 80〜85…繋ぎ目、 106…上型、 107…下型、 201…下型、 202…上型、 P…用紙(媒体)
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ローラー、搬送装置及び印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷装置として種々のプリンターが提供されている。このようなプリンターでは、印刷用紙等の記録媒体(搬送媒体)を各種ローラーにより搬送する。具体的には、搬送ローラー及び従動ローラーで印刷部に搬送し、ここで印刷した後、排紙ローラー及び従動ローラーで記録媒体を排出するように構成されている。
【0003】
特に、搬送ローラーは、従動ローラーとの間に印刷用紙を挟持し、その状態で回転駆動することにより、用紙をキャリッジの移動方向と直交する副走査方向に移動させるようになっている。したがって、印刷用紙を記録位置まで精度良く搬送し、さらに印刷速度に合わせて順次送り込むことから、高い搬送力が要求されている。
【0004】
そこで、搬送ローラーに高い摩擦力を保持させるため、特許文献1には金属製丸棒の周面に目打ち加工によって多数の突起を形成する技術が開示されている。
ところが、この技術では、軸状(円柱状)の表面に周方向に沿って突起を形成するため、作業性が悪いといった課題がある。また、中実の材料を用いるため、搬送ローラーを用いる例えばプリンターの総重量コストが増大するといった課題もある。
【0005】
このような背景のもとに特許文献2には、中実軸のコストダウンを目的として、金属板を曲げ加工して円筒状(中空状)の軸(円筒軸)に成形し、この円筒軸を中実の金属製丸棒材に替えて用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3271048号公報
【特許文献2】特開2006−289496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2の円筒軸に高い摩擦力を付与する方法として、特許文献1の技術を適用した場合には、中空状の円筒軸であるため加工中に変形しやすく、印刷用紙等の搬送媒体の搬送精度が悪化するという問題がある。
このため、円筒軸の表面に樹脂層を形成し、その樹脂層に直径10〜20μm程度の微粒子を噴き付けて付着させる技術が採用されているが、樹脂や微粒子の大半が円筒軸に付着せずに廃棄されるため効率が悪く、処理時間も長いため、製造コストが高いという問題がある。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、重量及びコストを減少させると共に、媒体支持領域を効率よく低コストに形成した搬送ローラーと、この搬送ローラーを用いた搬送装置、印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る搬送ローラー、搬送装置、印刷装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
本発明に係る搬送装置は、プレス加工により一対の端面を突き合わせて円筒状に形成され、長手方向の少なくとも一部に媒体を支持する媒体支持領域が形状転写加工により形成された搬送ローラーを備えることを特徴する。
【0010】
この発明によれば、搬送ローラーの表面に、短時間で確実に、しかも軸に変形を発生させることなく、効率よく低コストに媒体支持領域を形成するので、コストダウン及び軽量化が可能であり、更に媒体の良好な搬送を実現することができる。
【0011】
また、前記形状転写加工は、金属板をプレス加工により円筒状に形成するに先立って、前記金属板の所定領域に対して行われることを特徴とする。
【0012】
これにより、容易かつ確実に搬送ローラーの表面に媒体支持領域を形成することができる。
【0013】
また、前記形状転写加工は、金属板をプレス加工により円筒状に形成すると同時に、前記金属板の所定領域に対して行われることを特徴とする。
【0014】
これにより、工数を増やすことなく、搬送ローラーの表面に効率よく確実に媒体支持領域を形成することができる。
【0015】
また、前記媒体支持領域は、前記搬送ローラーの両端部を除く中央部に設けられていることを特徴とする。
【0016】
これにより、印刷用紙等の媒体(搬送媒体)を搬送するのに必要な領域にのみ媒体支持領域を選択的に形成することができる。
【0017】
前記媒体支持領域は、所定の表面粗さを有する高摩擦領域であることを特徴とする。
【0018】
これにより、印刷用紙等の媒体(搬送媒体)に滑りが発生することなく、確実に搬送することができる。
【0019】
本発明に係る印刷装置は、記録媒体を搬送ローラーにより搬送する搬送部と、前記搬送部により搬送される前記記録媒体に対して印刷処理を行う印刷部と、を備える印刷装置において、前記搬送部として上述した搬送装置を用いたことを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、上述した搬送装置が用いられているので、コストダウン及び軽量化が可能である。また、媒体(搬送媒体、記録媒体)の良好な搬送により、高品質な印刷を行うことができる。
【0021】
本発明に係る搬送ローラーは、プレス加工により一対の端面を突き合わせて円筒状に形成され、長手方向の少なくとも一部に所定の表面粗さを有する高摩擦領域が形状転写加工により形成されたことを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、プレス加工により円筒状に形成された軸の表面に、短時間で確実に、しかも軸に変形を発生させることなく、効率よく低コストに高摩擦領域を形成することができる。したがって、印刷用紙等の媒体(搬送媒体、記録媒体)を高精度に搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るインクジェットプリンターの側断面図である。
【図2】(a)は搬送ユニットの平面図、(b)は駆動系の側面図である。
【図3】(a)は搬送ローラー機構の概略構成図、(b)は軸受けの概略構成を示す図である。
【図4】(a)、(b)はローラー本体の基材としての金属板を示す平面図である。
【図5】(a)は第1の製造方法で形成した高摩擦領域50を示す拡大図、(b)は第1の製造方法における形状転写加工を示す図である。
【図6】(a)〜(c)は金属板のプレス加工を説明するための工程図である。
【図7】(a)〜(c)は金属板のプレス加工を説明するための工程図である。
【図8】(a)は搬送ローラーを示す平面図、(b)繋ぎ目を示す断面図である。
【図9】(a)は第2の製造方法における形状転写加工を示す図、(b)は第2の製造方法で形成した高摩擦領域50を示す拡大図である。
【図10】搬送ローラーの繋ぎ目及び開口の変形例を示す図である。
【図11】搬送ローラーの繋ぎ目及び開口の変形例を示す図である。
【図12】搬送ローラーの繋ぎ目及び開口の変形例を示す図である。
【図13】(a)〜(c)は搬送ローラーの繋ぎ目の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの側断面図である。
図2(a)はインクジェットプリンターの搬送ユニットを示す平面図、図2(b)は搬送ユニットの駆動系を示す側面図である。
【0025】
図1に示すように、インクジェットプリンター1は、プリンター本体3と、プリンター本体3の後側上部に設けられた給紙部5と、プリンター本体3の前側に形成された排紙部7と、を備えて構成される。
【0026】
給紙部5には給紙トレイ11が設けられており、給紙トレイ11には複数枚の用紙(媒体、搬送媒体、記録媒体)Pが積載されるようになっている。ここで、用紙Pとしては、普通紙、コート紙、OHP(オーバーヘッドプロジェクタ)用シート、光沢紙、光沢フィルム等が用いられる。
給紙トレイ11の下流側には給紙ローラー13が設けられている。給紙ローラー13は、対向する分離パッド(図示せず)との間で給紙トレイ11の最上部に位置する用紙Pを挟圧し、前方へ送り出すように構成されている。
【0027】
送り出された用紙Pは、下側に配置された搬送ローラー15と、上側に配置された従動ローラー17と、からなる搬送ローラー機構19に至る。
そして、搬送ローラー機構19に至った用紙Pは、搬送ローラー15の回転駆動によって印刷処理に伴う精密で正確な搬送(紙送り)動作を受けつつ、搬送ローラー機構19の下流側に位置する印字ヘッド(印刷部)21へ搬送されるようになっている。
【0028】
印字ヘッド21は、キャリッジ23に保持されており、キャリッジ23は、給紙方向(用紙Pの搬送方向)と直交する方向に往復移動するよう構成されている。
印字ヘッド21と対向する位置には、プラテン24が配設されており、プラテン24は、キャリッジ23の移動方向に沿って間隔をあけて配置された、複数のダイヤモンドリブ25によって構成されている。ダイヤモンドリブ25は、印字ヘッド21によって用紙Pに印刷を行う際に、用紙Pを下側から支持するものであり、詳しくは、ダイヤモンドリブ25の頂面が支持面として機能するようになっている。
なお、印字ヘッド21による印字処理(印刷処理)は、制御部CONTによって制御されるようになっている。
【0029】
印字ヘッド21とダイヤモンドリブ25との距離は、用紙Pの厚さに応じて調節可能になっており、これによって用紙Pは、ダイヤモンドリブ25の頂面上を滑らかに通過しつつ、高品質に印刷されるようになっている。印字ヘッド21で印刷された用紙Pは、排紙部7に設けられる排紙ローラー27によって順次排出されるようになっている。
【0030】
排紙ローラー機構29は、下側に配置された排紙ローラー27と上側に配置された排紙ギザローラー28とを備えて構成されたもので、排紙ローラー27の回転駆動によって用紙Pを引き出し、排出するようになっている。
【0031】
ここで、搬送ローラー機構19及び排紙ローラー機構29の駆動部30及び搬送ローラー15、排紙ローラー27の駆動速度の関係について説明する。
プリンター本体3には、図2(a)、(b)に示すように、制御部CONTの制御下で駆動される搬送モーター32が設けられている。この搬送モーター32の駆動軸にはピニオン33が設けられており、ピニオン33には搬送駆動ギア35が歯合しており、搬送駆動ギア35には搬送ローラー15が内挿されて連結されている。
このような構成のもとに搬送モーター32等は、搬送ローラー15を回転駆動する駆動部30となっている。
【0032】
また、搬送ローラー15には、搬送駆動ギア35と同軸にインナーギア39が設けられており、このインナーギア39には中間ギア41が歯合しており、中間ギア41には排紙駆動ギア43が歯合している。排紙駆動ギア43の回転軸は、図2(a)に示すように排紙ローラー27の軸体45となっている。
このような構成のもとに、搬送ローラー機構19の搬送ローラー15と排紙ローラー機構29の排紙ローラー27とは、同一の駆動源である搬送モーター32からの回転駆動力を受け、駆動されるようになっている。
【0033】
なお、排紙ローラー27の回転速度は、各ギアのギア比を調整することにより、搬送ローラー15の回転速度より速くなるように設定されている。したがって、排紙ローラー機構29の排紙速度は、搬送ローラー機構19の搬送速度より増速率だけ速くなっている。
また、搬送ローラー機構19による用紙Pの挟持力(押圧力)は、排紙ローラー機構29による挟持力(押圧力)よりも大きく設定されている。したがって、搬送ローラー機構19と排紙ローラー機構29とが共に用紙Pを挟持しているとき、その用紙搬送速度は、排紙ローラー機構29の排紙速度とは関係なく、搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されるようになっている。
【0034】
次に、本発明に係る搬送ローラー15及びこれを備える搬送ローラー機構19について説明する。
図3(a)は搬送ローラー機構19の概略構成を示す図、(b)は軸受けの概略構成を示す図である。
【0035】
搬送ローラー15は、亜鉛メッキ鋼板やステンレス板等の金属板がプレス加工されて円筒状に形成されたローラー本体16と、このローラー本体16の表面に設けられた高摩擦領域50とを備えてなるものである。
【0036】
また、この搬送ローラー15は、その両端部がプラテン24に一体成形された軸受26に回転可能に保持されている。図3(b)に示すように、軸受26は、上方に開口するU字形に形成され、このU字形部位に搬送ローラー15を嵌め込むことで、搬送ローラー15を前後側及び下側の3方向から軸支する。
なお、高摩擦領域50を有する搬送ローラー15とこれを支持する軸受26とにより、搬送部(搬送装置)20が構成される。
【0037】
また、搬送ローラー15の一端又は両端には、インナーギア39や搬送駆動ギア35が回転不能に係合し連結するための係合部(図示せず)が形成されている。搬送ローラー15には、種々の連結部品に連結するため、種々の形態の係合部が形成可能になっている。
また、高摩擦領域50は、本実施形態ではローラー本体16の両端部を除く中央部に選択的に形成されている。
【0038】
従動ローラー17は、複数(例えば6個)のローラー17aが同軸に配列されて構成されたもので、搬送ローラー15の高摩擦領域50に対向して、高摩擦領域50に当接する位置に配置されたものである。これらローラー17aからなる従動ローラー17には、付勢バネ(図示せず)が取り付けられており、これによって従動ローラー17は、搬送ローラー15側に付勢されている。
したがって、従動ローラー17は、搬送ローラー15の高摩擦領域50に所定の押圧力(用紙Pに対する挟持力)で接し、搬送ローラー15の回転動作に従動して回転するようになっている。また、搬送ローラー15と従動ローラー17との間で用紙Pを挟持する力が大きくなり、用紙Pの搬送性がより良好になっている。
なお、この従動ローラー17の各ローラー17aの表面には、高摩擦領域50との摺接による損傷を緩和するため、例えばフッ素樹脂塗装等の低摩耗処理が施されている。
【0039】
また、ローラー本体16は、金属板がプレス加工され、対向する一対の端面が互いに近接させられて円筒状に形成されたものである。したがって、このローラー本体16は、一対の端面61a、61bが僅かながら離間しており、これによって端面61a、61b間には繋ぎ目が形成されている。
【0040】
次に、搬送ローラー15の製造方法について説明する。
搬送ローラー15を製造する方法としては、金属板60をプレス加工してローラー本体16を形成するに先立って予め金属板60に高摩擦領域50を形成する第1の製造方法と、金属板60をプレス加工してローラー本体16を形成すると同時に金属板60に高摩擦領域50を形成する第2の製造方法と、がある。
【0041】
〔第1の製造〕
まず、第1の製造について説明する。
図4(a)に示すように矩形板状または帯状の大型金属板65を用意する。この大型金属板65としては、例えば厚さ1mm程度の亜鉛メッキ鋼板が用いられる。続いて、この大型金属板65をプレス加工することにより、図4(b)に示すように、ローラー本体16に対応する大きさの細長い矩形板状の金属板60、すなわちローラー本体16の基材を形成する。
【0042】
次いで、図5(a)に示すように、金属板60の一方の表面のうち長手方向のほぼ中央部に高摩擦領域50を形成する。高摩擦領域50の形成方法としては、形状転写加工が用いられる。すなわち、図5(b)に示すように、平坦な下型201上に金属板60を載置し、凸凹形状を有する上型202を金属板60の上面に押付けて、金属板60押圧することで、金属板60の上面に上型202の凸凹形状を転写する加工が施される。
【0043】
上型202のプレス面には、高摩擦領域50を形成するために、例えば網目状の凹部202aが形成されており、凹部202aが金属板60の表面を変形させることにより、金属板60の表面に高摩擦領域50が形成される。
なお、高摩擦領域50は、表面粗さが、例えばRy=100〜200μm以下、Rz=5〜10μm以上に形成される。
【0044】
例えば、図5(a)に示すように、金属板60の表面に網目状(格子状)に凸部52が配置された高摩擦領域50が形成される。つまり、凸部52として、延在方向の異なる2種類の直線状の凸部52a,52bが形成される。例えば、凸部52a,52bの金属板60の長手方向及び短手方向とのなす角は、共に約45度である。また、例えば、凸部52a,52bのそれぞれの間隔(幅)は約50μm、深さは約7μm、傾斜(斜面)角度は、約45度である。
このように凸部52(凸部52a,52b)は、金属板60の長手方向の中央部の表面に、規則的に配置され、かつ、互いに交差して格子形状をなして、高摩擦領域50を形成する。
【0045】
なお、上型202のプレス面に網目状(格子状)の凹部202aを形成する場合に限らず、目打ち加工により、凸凹形状を形成してもよい。
また、規則的に配置された凸凹形状には限らない。例えば、上型202のプレス面に直径10〜20μm程度の硬質微粒子(ダイヤモンド等)を付着させて、不規則な凸凹形状を形成する。そして、この不規則な凸凹形状を金属板60の表面に転写するようにしてもよい。これにより、高摩擦領域50は、不規則な凸凹を有する形状となる。
【0046】
次いで、高摩擦領域50が形成された金属板60を、図6(a)〜(c)、図7(a)〜(c)のプレス加工工程図に示すように円筒状(パイプ状)にプレス加工し、その両側(長辺側)の端面61a、61bを近接させる。
すなわち、まず、図6(a)に示す雄型101と雌型102とで金属板60をプレス加工し、金属板60の両側部62a、62bを円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。なお、図6(a)においては、各部材を分かりやすくするため、金属板60と雄型101と雌型102との間にそれぞれ間隔を開けてこれらの部材を記しているが、この間隔は実際には存在せず、金属板60と雄型101、雌型102とはそれぞれの接触部においてほぼ密着している。これは、後述する図6(b)、(c)、図7(a)〜(c)においても同様である。
【0047】
続いて、図6(a)で得られた金属板60の幅方向(曲げ方向)における中央部を、図6(b)に示す雄型103と雌型104とでプレス加工し、円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。
次いで、図6(c)に示すように、図6(b)で得られた金属板60の内部に芯型105を配置し、図6(c)に示す上型106と下型107とを用いて、図7(a)〜(c)に示すようにして金属板60の両側部62a、62bの各端面61a、61bを近接させる。
【0048】
ここで、図6(c)および図7(a)〜(c)に示す芯型105の外径は、形成する円筒状の中空パイプの内径と等しくしてある。また、上型106のプレス面106cの半径と下型107のプレス面107aの半径は、それぞれ、形成する中空パイプの外径の半径と等しくしてある。また、図7(a)〜(c)に示すように上型106は左右一対の割型であり、これら割型106a、106bは、それぞれ独立して昇降可能に構成されている。
【0049】
すなわち、図6(c)に示す状態から、図7(a)に示すように右側の割型106aを下型107に対して相対的に下降させ(以下、同様に型の移動は相対的移動を意味する)、金属板60の一方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。なお、下型107も上型106と同様左右一対の割型とし(割面107b参照)、この図7(a)に示す工程の際に、同じ側の下型を上昇させてもよい。
次いで、図7(b)に示すように、芯型105を少し(一方の側の端面61aと他方の側の端面61bとを近接させることができる程度に)下降させるとともに、他方の側の割型106bを下降させ、金属板60の他方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。
【0050】
その後、図7(c)に示すように、芯型105および一対の割型106a、106bをともに下降させ、円筒状の中空パイプ(ローラー本体16)を形成する。この状態で左右両側の端面61a、61bは、僅かな隙間を介して十分に近接した状態となる。すなわち、この円筒状の中空パイプにあっては、基材である金属板60の両端面61a、61bが互いに近接してなることでこれら両端面61a、61b間に繋ぎ目が形成され、したがってこの繋ぎ目は、両端面61a、61bが離間していることによって隙間を有したものとなっている。
【0051】
図4〜図7に示す工程は、順送プレス加工により連続的に行われる。
そして、円筒状の中空パイプ(ローラー本体16)には、図8(a)に示すように、端面61a、61b間に繋ぎ目80が形成される。上述した一連のプレス加工では、金属板60の両端面61a、61b間の隙間が無くなるように、すなわち、両端面61a、61bが互いに当接するようにするのが好ましい。しかしながら、得られる中空パイプ(ローラー本体16)の真円度や振れ量を良好にしつつ、この隙間を完全に無くすのは非常に困難であり、したがって、現状ではある程度の隙間が形成されるようになる。
【0052】
この繋ぎ目80は、金属板60の外周面と内周面とが同じ寸法(幅)であることにより、図8(b)に示すように、一対の端面61a、61b間の距離が、ローラー本体16の外周面側で相対的に広く、内周面側で相対的に狭くなっている。すなわち、これら一対の端面61a、61b間の、ローラー本体16の外周面側での距離d1は、内周面側での距離d2に比べて大きくなっている。具体的には、本実施形態では外周面側での距離d1は30μmとなり、内周面側での距離d2は10μmとなっている。
【0053】
なお、上述した一連のプレス加工の後に、搬送ローラー15(ローラー本体16)の寸法精度、真円度、振れを少なくするために、搬送ローラー15(ローラー本体16)を矯正する加工、例えば矯正プレス加工などを施してもよい。
また、搬送ローラー15(ローラー本体16)のうち、高摩擦領域50が形成された領域に無電解Ni−Pメッキを施してもよい。なお、メッキとしては、無電解Ni−Pメッキに限定されるものではなく、例えば、硬質クロームメッキや電気メッキを用いてもよい。
このようにして、搬送ローラー15が製造される。
【0054】
〔第2の製造〕
次に、第2の製造について説明する。なお、第1の製造と重複する工程等については、説明を省略又は簡単にする。また、図面も流用して説明する。
まず、図4(a)に示すように矩形板状または帯状の大型金属板65を用意する。続いて、この大型金属板65をプレス加工することにより、図4(b)に示すように、ローラー本体16に対応する大きさの細長い矩形板状の金属板60を形成する。
【0055】
次いで、金属板60を、図6(a)〜(c)、図7(a)〜(c)のプレス加工工程図に示すように円筒状(パイプ状)にプレス加工し、その両側(長辺側)の端面61a、61bを近接させる。
すなわち、図6(a)に示す雄型101と雌型102とで金属板60をプレス加工し、金属板60の両側部62a、62bを円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。続いて、図6(b)に示す雄型103と雌型104とで、金属板60の幅方向(曲げ方向)における中央部をプレス加工し、円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。更に、図6(c)に示すように、金属板60の内部に芯型105を配置する。
そして、図7(a)〜(c)に示すように、上型106と下型107とを用いて、金属板60の両側部62a、62bの各端面61a、61bを近接させる。これにより、円筒状の中空パイプ(ローラー本体16)を形成する。この状態で左右両側の端面61a、61bは、僅かな隙間を介して十分に近接した状態となる。
【0056】
この一連のプレス加工と同時に、中空パイプ(ローラー本体16)の中央部に高摩擦領域50が形成される。
高摩擦領域50の形成方法としては、形状転写加工が用いられる。すなわち、上型106(割型106a,106b)と下型107のプレス面106c,107aには、それぞれ凸凹形状が形成されており、上型106と下型107とで金属板60を押圧する際に、この凸凹形状を金属板60、すなわち中空パイプ(ローラー本体16)の表面に転写する加工が施される。
【0057】
図9(a)に示すように、上型106と下型107のプレス面106c,107aには、高摩擦領域50を形成するために、例えば網目状の凹部106d,107dが形成されており、凹部106d,107dが金属板60(ローラー本体16)の表面を変形させることにより、金属板60(ローラー本体16)の表面に高摩擦領域50が形成される。
なお、図9(a)は、図6(c)〜図7(c)に図示された上型106と下型107と同一物であり、説明の都合上、書き直したものである。
そして、高摩擦領域50は、表面粗さが、例えばRy=100〜200μm以下、Rz=5〜10μm以上に形成される。
【0058】
例えば、図9(b)に示すように、ローラー本体16の表面に網目状(格子状)に凸部52が配置された高摩擦領域50が形成される。つまり、凸部52として、互いに巻き方向の異なる2種類の螺旋状の凸部52a,52bが形成される。例えば、凸部52a,52bのローラー本体16の周方向及び軸方向とのなす角は、共に約45度である。また、例えば、凸部52a,52bのそれぞれの間隔(幅)は約50μm、深さは約7μm、傾斜(斜面)角度は、約45度である。
このように凸部52(凸部52a,52b)は、ローラー本体16の軸方向の中央部の表面に、規則的に配置され、かつ、互いに交差して格子形状をなして、高摩擦領域50を形成する。
【0059】
なお、上型106と下型107のプレス面106c,107aに網目状(格子状)の凹部106d,107dを形成する場合に限らず、目打ち加工により、凸凹形状を形成してもよい。
また、規則的に配置された凸凹形状には限らない。例えば、上型106と下型107のプレス面106c,107aに直径10〜20μm程度の硬質微粒子(ダイヤモンド等)を付着させて、不規則な凸凹形状を形成する。そして、この不規則な凸凹形状を金属板60の表面に転写するようにしてもよい。これにより、高摩擦領域50は、不規則な凸凹を有する形状となる。
【0060】
図4、図6及び図7に示す一連のプレス加工及び形状転写加工工程は、順送プレス加工により連続的に行われる。
そして、上述した一連のプレス加工の後に、搬送ローラー15(ローラー本体16)の寸法精度、真円度、振れを少なくするために、搬送ローラー15(ローラー本体16)を矯正する加工、例えば矯正プレス加工などを施してもよい。
また、搬送ローラー15(ローラー本体16)のうち、高摩擦領域50が形成された領域に無電解Ni−Pメッキを施してもよい。
このようにして、搬送ローラー15が製造される。
【0061】
次に、インクジェットプリンター1の動作について、図1、図2を参照して説明する。
給紙ローラー13によって給紙された用紙Pは、搬送ローラー機構19の上流側近傍に至ると、搬送ローラー15と従動ローラー17との間に引き込まれ、両ローラーの駆動によって下流側に位置する印字ヘッド21の下方に向けて定速で搬送される。
【0062】
その際、搬送ローラー15には高摩擦領域50が形成されており、従動ローラー17がこの高摩擦領域50に当接する位置に配置されているので、これら搬送ローラー15と従動ローラー17との間で用紙Pを挟持する力が大きくなり、用紙Pの搬送性がより良好になっている。
【0063】
そして、用紙Pの印刷開始端が、印字ヘッド(印刷部)21の直下の所定の印刷位置に到達すると、印刷が開始される。その後、用紙Pの始端が排紙ローラー機構29に至ると、排紙動作が開始される。
なお、排紙ローラー機構29の搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度より速く設定されているため、用紙Pにはバックテンションが掛かった状態で搬送される。ただし、搬送ローラー機構19と排紙ローラー機構29とが共に用紙Pを挟持しているときには、上述したようにその用紙搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されている。
したがって、このように排紙ローラー機構29と搬送ローラー機構19とによって排紙と搬送とを同時に行う際にも、その用紙搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されているため、搬送ムラのない正確で安定した紙送り(搬送)がなされるようになる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係る搬送ローラー15によれば、プレス加工により円筒状に形成された円筒軸を用いた場合であっても、ローラー本体16の表面に、短時間で確実に、しかもローラー本体16に変形を発生させることなく、効率よく低コストに高摩擦領域(媒体支持領域)50を形成することができる。したがって、良好な搬送力を維持でき、用紙P等の媒体を高精度に搬送することができる。
【0065】
つまり、本実施形態に係る搬送ローラー15によれば、高摩擦領域50の形成方法として、ローラー本体16の表面に樹脂層を形成し、その樹脂層に微粒子を噴き付けて付着させる方法を用いていないので、製造工程が簡略化され、処理時間も短く、したがって製造コストを抑えることができるという利点がある。
【0066】
また、本実施形態の搬送部(搬送装置)20によれば、上述した搬送ローラー(搬送ローラー)15を備えているので、コストダウン及び軽量化が可能であり、更に用紙Pの良好な搬送を実現することができる。
【0067】
また、本実施形態のインクジェットプリンター(印刷装置)1によれば、上述した搬送部20を備えているので、コストダウン及び軽量化が可能であり、さらに高品質な印刷を行うことができる。
【0068】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0069】
例えば、搬送ローラー15(ローラー本体16)の繋ぎ目については、上述した実施形態に限定されることなく、以下に示すように、種々の形状を採用することができる。具体的には、例えば、繋ぎ目を以下に示す形状とすることができる。
【0070】
図10から図13は、繋ぎ目の変形例を示す図である。
図10に示すように、繋ぎ目81を螺旋状に形成してもよい。また、図11に示すように、繋ぎ目82を波線状に形成してもよい。
【0071】
また、図12に示すように、繋ぎ目84をジグザグ(直線が左右に何回も折れ曲がっている形)状に形成してもよい。
【0072】
また、図13(a)に示すように、ローラー本体16の中心軸16aと平行な直線部85aとこれに交差する直線部85bとからなる、矩形波状の繋ぎ目85を形成してもよい。
この繋ぎ目85については、図13(b)に示すようにローラー本体16の全長に亘って形成されていてもよく、図13(c)に示すようにその中央部を除く両端部に選択的に形成されていてもよい。
図13(c)に示したように繋ぎ目85を両端部にのみ形成する場合には、これら繋ぎ目85の間は、例えばローラー本体16の中心軸と平行な直線部86とすることができる。
また、このように繋ぎ目85を両端部にのみ形成し、その間の中央部については直線部86とした場合、高摩擦領域50の形成領域を直線部86に対応させて形成するのが好ましい。
【0073】
例えば、上述した実施形態では、本発明に係る搬送ローラーを、搬送ローラー機構19における搬送ローラー15に適用したが、これに限らない。排紙ローラー機構29における排紙ローラー27や排紙ギザローラー28に適用することもできる。また、搬送ローラー機構19における従動ローラー17にも適用することができる。
更に、用紙以外の媒体を搬送する搬送ローラーに対しても適用することができる。
また、印刷装置以外に用いられる搬送ローラー、搬送装置に適用することもできる。
【0074】
また、搬送ローラー15(ローラー本体16)のうち高摩擦領域50を形成する領域は、媒体支持領域に対応させる必要があるが、それ以外の領域にも形成しても構わない。つまり、搬送ローラー15(ローラー本体16)の全長に亘って高摩擦領域50を形成してもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…インクジェットプリンター(印刷装置)、 15…搬送ローラー、 16…ローラー本体、 20…搬送部(搬送装置)、 21…印字ヘッド(印刷部)、 26…軸受、 50…高摩擦領域(媒体支持領域)、 61a, 61b…端面、 80〜85…繋ぎ目、 106…上型、 107…下型、 201…下型、 202…上型、 P…用紙(媒体)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス加工により一対の端面を突き合わせて円筒状に形成され、長手方向の少なくとも一部に媒体を支持する媒体支持領域が形状転写加工により形成された搬送ローラーを備える搬送装置。
【請求項2】
前記形状転写加工は、金属板をプレス加工により円筒状に形成するに先立って、前記金属板の所定領域に対して行われる請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記形状転写加工は、金属板をプレス加工により円筒状に形成すると同時に、前記金属板の所定領域に対して行われる請求項1に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記媒体支持領域は、前記搬送ローラーの両端部を除く中央部に設けられている請求項1から3のいずれか一項に記載の搬送装置。
【請求項5】
前記媒体支持領域は、所定の表面粗さを有する高摩擦領域である請求項1から4のいずれか一項に記載の搬送装置。
【請求項6】
記録媒体を搬送ローラーにより搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送される前記記録媒体に対して印刷処理を行う印刷部と、
を備える印刷装置において、
前記搬送部として請求項1から5のいずれか一項に記載の搬送装置を用いた印刷装置。
【請求項7】
プレス加工により一対の端面を突き合わせて円筒状に形成され、
長手方向の少なくとも一部に所定の表面粗さを有する高摩擦領域が形状転写加工により形成された搬送ローラー。
【請求項1】
プレス加工により一対の端面を突き合わせて円筒状に形成され、長手方向の少なくとも一部に媒体を支持する媒体支持領域が形状転写加工により形成された搬送ローラーを備える搬送装置。
【請求項2】
前記形状転写加工は、金属板をプレス加工により円筒状に形成するに先立って、前記金属板の所定領域に対して行われる請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記形状転写加工は、金属板をプレス加工により円筒状に形成すると同時に、前記金属板の所定領域に対して行われる請求項1に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記媒体支持領域は、前記搬送ローラーの両端部を除く中央部に設けられている請求項1から3のいずれか一項に記載の搬送装置。
【請求項5】
前記媒体支持領域は、所定の表面粗さを有する高摩擦領域である請求項1から4のいずれか一項に記載の搬送装置。
【請求項6】
記録媒体を搬送ローラーにより搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送される前記記録媒体に対して印刷処理を行う印刷部と、
を備える印刷装置において、
前記搬送部として請求項1から5のいずれか一項に記載の搬送装置を用いた印刷装置。
【請求項7】
プレス加工により一対の端面を突き合わせて円筒状に形成され、
長手方向の少なくとも一部に所定の表面粗さを有する高摩擦領域が形状転写加工により形成された搬送ローラー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−26031(P2011−26031A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170887(P2009−170887)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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