説明

搬送台車

【課題】構造簡素で、荷台を支えるバネ力の調整が容易にでき、軽量物の搬送に好適な搬送台車を提供すること。
【解決手段】無人で移動させる搬送台車1において、移動可能な台車部10に昇降自在に設置された荷台2を、上記荷台の上方に設置した本体部60と、これから引き出し可能なワイヤ61と、ワイヤ61を巻き取り方向に付勢する付勢手段とを備えたスプリングバランサ6により昇降可能に支持せしめ、荷台2に載置した搬送物Mの重量によりワイヤ61が引き出されて上記荷台が下降すると、荷台2の昇降を回転作動に変換する作動変換手段たるラック部3、ピニオン部31を介して駆動輪5を前進駆動せしめ、搬送物Mの取り出しによりワイヤ61が巻き戻されて荷台2を引き上げられ、荷台2の上昇により駆動輪5を後退駆動させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は搬送台車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車工場の組立ラインなどでは、車両の組立部材類を無人の搬送台車により搬送することが行なわれている。この種の搬送台車として、電動モータで駆動する自動搬送台車(AGV)がある。電動の自動搬送台車では、台車自体に電動モータやバッテリ、制御装置が搭載され、バッテリの充電や、モータ、制御装置のメンテナンスなどの保守管理に手間がかかる。
【0003】
そこで電動モータを使わない自動搬送台車として、搬送物の重量を利用して台車を前進させるとともに、台車の前進作動に伴いエネルギーを蓄え、台車から上記搬送物が取り出された後に、上記蓄えたエネルギーにより台車を後退させるようにしたものがある(特許文献1参照)。
図4はこの種の代表的な搬送台車を示す。搬送台車1Aは、金属棒材のフレーム材からなる台車部10に昇降可能な荷台2を備えている。荷台2は、複数(4本)の下方へ延びるガイドシャフト20を、これらに対応して台車部10に設けられたガイド部材11に上下方向に摺動可能に挿通せしめて昇降自在とされ、ガイドシャフト20の外周に沿い荷台2とガイド部材11との間に設けられたコイルスプリング9により支持されている。また荷台2にはガイドシャフト20の下側に下方へ延び、荷台2ともに昇降するラック部3と、ラック部3と噛合してラック部3の昇降作動を回転作動に変換するピニオン部31が設置され、ピニオン部31は複数の歯車39によりピニオン部31の回転を駆動輪5へ伝達するようにしている。
【0004】
搬送台車1Aは荷台2に搬送物Mを載せると、その重量により荷台2がコイルスプリング9の付勢力に抗して下降し、この下降がラック部3とピニオン部31とで回転作動に変換され、駆動輪5に伝えられて前進せしめる。
搬送後に、荷台2から搬送物Mを取り出すと、コイルスプリング9により荷台2が押し上げられ、この荷台2の上昇によりラック部3を介してピニオン部31が上記下降時とは逆方向に回転し、この逆回転が駆動輪5に伝達されて後退せしめる。
【特許文献1】特開2004−331052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記搬送台車1Aは荷台2を4本のガイドシャフト20および4本のコイルスプリング9で支え、自動車のトランスミッションなどの重量の重いもの(約20kg)を搬送する構成としている。ところで、搬送台車1Aの構成では、搬送物の重量に応じたバネ力のコイルスプリング9を用いることとなるが、重量の異なる搬送物を搬送する場合にコイルスプリング9のバネ力の調整ができずコイルスプリング9を交換しなければならない。また一部のコイルスプリング9の劣化等により荷台2の水平バランスに崩れが生じた場合もコイルスプリング9の微調整ができず交換が必要となるが、搬送台車1Aは構造が複雑で、コイルスプリング9の交換には荷台2を引き上げてガイドシャフト20をガイド部材11から引き抜かなければならず交換作業に手間がかかる。
また搬送台車1Aは構造が複雑な分、搬送台車自体の重量が重いので、機動性が良いといえず、軽量物の搬送に好適とは言えない。
そこで本発明は、バネ部材を取り外すことなくバネ力の調整作業が容易にでき、かつバネ力の微調整が可能で、特に重量の軽い部材の搬送に好適な搬送台車を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、移動可能な台車部と、該台車部に昇降自在に設置された荷台と、該荷台を昇降可能に支持する荷台支持手段と、上記荷台の昇降作動を回転作動に変換する作動変換手段と、該作動変換手段を介して回転駆動されて上記台車部を移動させる駆動輪とを備え、上記荷台に載置した搬送物の重量により下降する上記荷台の下降作動で上記駆動輪を前進駆動せしめ、上記荷台から搬送物が取り出された後に上記荷台を上昇せしめて荷台の上昇作動で上記駆動輪を後退駆動せしめるようになした搬送台車において、上記荷台支持手段として、上記荷台の上方に設置した本体部と、該本体部から引き出し可能なワイヤと、該ワイヤを巻き取り方向に付勢する付勢手段とを備えたスプリングバランサを用い、上記ワイヤの引き出し端を上記荷台に連結せしめ、搬送物の重量により上記ワイヤが引き出されて上記荷台が下降し、搬送物の取り出しにより上記ワイヤが巻き戻されて荷台を引き上げる構成とする。
荷台支持手段としてスプリングバランサを用いたので、従来のコイルスプリングを用いた搬送台車よりも構造簡素で、またスプリングバランサは荷台の引き上げ力を与えるバネ力の調整が容易で、軽量物の搬送に好適である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の搬送台車において、上記荷台は、その左右両側の側縁の中央部に設けたガイド片と、上記台車部に立設されて上記ガイド片を摺動案内するガイドレールとからなる左右一対の案内手段により昇降案内され、上記スプリングバランサは、上記本体部を上記左右のガイドレールの上方位置で左右一対設置してこれらのワイヤの引き出し端を上記荷台の左右の側縁の中央部に連結する。
スプリングバランサは台車部への設置が容易である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の搬送台車において、上記作動変換手段として、上記荷台から垂直下方へ延び、荷台と一体に昇降するラック部と、該ラック部に噛合せしめたピニオン部とで構成し、上記ラック部の昇降により回転する上記ピニオン部の回転作動を上記駆動輪に伝達せしめるようになす。
ラック部とピニオン部とで駆動輪を駆動して台車を移動させることができる。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1ないし3に記載の搬送台車において、上記スプリングバランサは、上記本体部を形成するケース部材の内部に、上記ワイヤを巻いたリールと、上記付勢手段として上記リールを上記ワイヤ巻き取り方向に付勢するゼンマイバネとを備え、該ゼンマイバネの調整により上記ワイヤの巻き取り付勢力を調整可能とする。
ゼンマイバネはリール側を巻いてゼンマイバネの巻き数を変えることで容易にバネ力を調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1ないし図3に基づいて本発明の実施形態を説明する。本実施形態は、自動車工場の組立ラインと部品収納棚との間で、自動車の車室に組み付けられる部品、例えば空調ユニット(重量約5kg)等を搬送させる搬送台車に本発明を適用したものである。なお、搬送台車は、上記部品収納棚と組立ラインとの間の短い距離(5m程度)を直線状に往復移動する。
【0011】
図1、図2に示すように、搬送台車1は、左右一対の駆動輪5と左右一対の補助輪51により移動可能な台車部10と、これに昇降可能に設けた荷台2と、荷台2の昇降作動を回転作動に変化する作動変換手段3を備えている。台車部10は金属角パイプからなるフレーム構造で、4本の縦フレーム101と、これらの上端間、下端間および中間位置を水平方向四角形状に連結する複数の横フレーム102,103,104,105とで縦長の略直方体形状をなす。なお各フレームは軽量化を図るためアルミパイプ材からなる。
【0012】
台車部10の下端には、左右の横フレーム103に設けられた左右一対の軸受106にこれらを架け渡す車軸50が設けてあり、車軸50により左右の駆動輪5が支持されている。左右の駆動輪5は車軸50に固定され、車軸50と一体に回転する。台車部10の下端の両駆動輪5の前側には左右の補助輪51が設置してある。
【0013】
台車部10の左右両側には、荷台2の昇降を案内する案内手段たる左右一対のガイドレール3が設置してある。各ガイドレール3は、図略ではあるが断面ほぼ角形C字状をなすアルミ製のレール材からなり、その開口を台車部10の中心へ向け、レール上端を台車部10の上下中央の左右の横フレーム104の前後方向中央部に結合するとともに、レール下端を台車部10の下端の左右の横フレーム103の前後方向中央部に結合して両横フレーム104,103を上下に架け渡すように設けてある。
【0014】
荷台2は水平な板状をなし、その上面に搬送物Mの前後移動を容易とするローラーコンベア部21が設置してある。
荷台2には、台車部10の左右のガイドレール4に対応して、左右側縁の前後中央にそれぞれ左右一対のガイド片41が設けてある。各ガイド片41は断面ほぼT字形をなす合成樹脂製の棒材で、その上端を荷台2の上記側縁の中央外面に結合して垂直下方へ延ばしてある。ガイド片41は断面T字形の広幅部をガイドレール4内に挿入し、狭幅部をガイドレール4の開口内に挿入してガイドレール4に沿って摺動自在に嵌合してある。このように荷台2はガイドレール4およびこれに沿って摺動するガイド片41より昇降案内される。
【0015】
そして荷台2は、左右のガイドレール4の上方位置で、左右側縁の前後中央部がそれぞれ、荷台支持手段たる左右一対のスプリングバランサ6により上方から吊下げられている。スプリングバランサ6は公知の製品で、本体部たる円形容器状のケース部材60の内部にリールが設けられ、該リールに巻かれて、ケース部材60から外へ引き出し可能のワイヤ61を備えている。またスプリングバランサ6には引き出されたワイヤ61を巻き取り方向に付勢するゼンマイバネが組み込んである。なお渦巻き状の上記ゼンマイバネは一端がケース側に連結され、他端がリール側に連結されており、リール側を巻いてゼンマイバネの巻き数を増減させることでワイヤ61を巻き取り方向に付勢するバネ力を調整することができ、この調整はスクリュードライバなどの工具1本で容易にできる。
【0016】
左右のスプリングバランサ6はそれぞれ、ケース部材60の上端の取付ブラケット62を介して台車部10の上端の左右両側の横フレーム102に前後中央に吊下げるように設けてある。そして両スプリングバランサ6は引き出したワイヤ61の先端をそれぞれ、荷台2の左右の側縁の前後中央に連結して、ワイヤ61を巻き取る付勢力により荷台2を上方へ引き上げるように支持している。
【0017】
なお荷台2は、図略のストッパにより上昇時の上限位置が規制され、空荷の状態で、荷台2の上面が、搬送物Mを収納棚側Sから搬送台車1側へ移す収納棚Sのプラットホームとほぼ水平となる高さ位置に設定してある。
【0018】
上記作動変換手段として、荷台2の下面中央から垂直下方へ突設して荷台2と一体に昇降するラック部3と、台車部10側に設けられ、ラック部3と噛合してラック部3の昇降により回転するピニオン部31とで構成してある。
【0019】
ラック部3はその上端に一体に形成した平板状の取付ブラケットを荷台2の下面中央に重ね合わせて結合してある。
ピニオン部31は、台車部10の中間の左右の横フレーム105に設けた左右の軸受け107とこれらの間に架け渡たした回転軸30に支持され、回転軸30と一体に回転するようにしてある。また回転軸30にはピニオン部31の横にスプロケット32を設け、ピニオン部31と一体に回転するようにしてある。
【0020】
そして、ピニオン部31のスプロケット32と、駆動輪5の車軸50に設けられたスプロケット52とがチェーン部材34で連結され、ピニオン部31の回転を駆動輪5へ伝達するようにしてある。
なお、図1の35は、ラック部3とピニオン部31との噛合がはずれないように、ラック部3をピニオン部31側へ押える押え部、350は押え部35を支える支柱である。
【0021】
図1に示すように、搬送台車1は、収納棚Sから荷台2に空調ユニットMが載せられると、その重量によりスプリングバランサ6の付勢力に抗してワイヤ61が引き出されて荷台2が下降し、これに伴うラック部3の下降(矢印D方向)によりピニオン部31が矢印F方向に回転し、駆動輪5が矢印F方向に回転駆動して搬送台車1が前進する(白矢印F方向)。
【0022】
図3に示すように、搬送台車1が組立ラインL側に到着すると、台車部10に設けられた図略のストッパにより荷台2の下降を規制して搬送台車1の前進を止める。なお、荷台2の上昇の上限を規制する上記ストッパおよび荷台2の下降の加減を規制するストッパは、例えばガイドレール4内に設けてガイド片41の上昇および下降を規制する構成とすることが望ましい。
荷台2から空調ユニットMを組立ラインL側のプラットホームに移し、空荷にすると、スプリングバランサ6のゼンマイバネの復元力でワイヤ61が巻き戻され、荷台2およびラック部3が上昇し(矢印U方向)、ピニオン部31およびこれを介して駆動輪5が矢印R方向に回転して搬送台車1が白矢印R方向に後退して収納棚側へ戻る。
【0023】
なお、収納棚Sと組立ラインLのとの間で搬送台車1を往復移動させるに当って、軌道レールにより搬送台車1を案内することが望ましい。例えば、上記軌道レールとして、駆動輪5や補助輪51を転動案内するレールでもよいし、収納棚Sと組立ラインL間の床面に断面U字状の細幅の直線状の溝部を設ける一方、これに対応して搬送台車1の下端に下方へ突出して上記溝部に挿入するピンを設け、上記溝部で上記ピンを案内するようにしてもよい。
【0024】
本発明によれば、荷台2を支持しこれを上方へ引き上げる荷台支持手段として、左右一対のスプリングバランサ6を用いたので、従来構造に比べて構造簡素にでき、その分、搬送台車1自体を軽量にできるので機動性が向上し、軽量物の搬送に好適である。
またスプリングバランサ6は、荷台2を引き上げるバネ力をスクリュードライバなどの工具一本で容易に調整でき、微調整も可能であるので、従来構造のようにコイルスプリングの交換と言った作業手間がかからず、重量の異なる多種類の搬送物の搬送に適している。
搬送台車1の荷台2は、その左右両側縁の前後中央部で、ガイドレール3により昇降案内される位置が、左右一対のスプリングバランサ6により上方から支えられるので水平バランスが崩れにくい。また水平バランスが崩れても左右のスプリングバランサ6のバネ力の微調整で容易にバランスを保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の搬送台車を示すもので、台車部のフレームの一部を破断した側面図で、荷台の下降による台車の前進駆動の説明図である。
【図2】上記搬送台車の正面図である。
【図3】図1に対応して、荷台の上昇による台車の後退駆動の説明図である。
【図4】従来の代表的な無人の搬送台車の概略側面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 搬送台車
10 台車部
2 荷台
3 ラック部(作動変換手段)
31ピニオン部(作動変換手段)
4 ガイドレール(案内手段)
41 ガイド片(案内手段)
5 駆動輪
6 スプリングバランサ(荷台支持手段)
60 ケース部材(本体部)
61 ワイヤ
M 搬送物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動可能な台車部と、該台車部に昇降自在に設置された荷台と、該荷台を昇降可能に支持する荷台支持手段と、上記荷台の昇降作動を回転作動に変換する作動変換手段と、該作動変換手段を介して回転駆動されて上記台車部を移動させる駆動輪とを備え、
上記荷台に載置した搬送物の重量により下降する上記荷台の下降作動で上記駆動輪を前進駆動せしめ、
上記荷台から搬送物が取り出された後に上記荷台を上昇せしめて荷台の上昇作動で上記駆動輪を後退駆動せしめるようになした搬送台車において、
上記荷台支持手段として、上記荷台の上方に設置した本体部と、該本体部から引き出し可能なワイヤと、該ワイヤを巻き取り方向に付勢する付勢手段とを備えたスプリングバランサを用い、上記ワイヤの引き出し端を上記荷台に連結せしめ、
搬送物の重量により上記ワイヤが引き出されて上記荷台が下降し、搬送物の取り出しにより上記ワイヤが巻き戻されて荷台を引き上げる構成としたことを特徴とする搬送台車。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送台車において、
上記荷台は、その左右両側の側縁の中央部に設けたガイド片と、上記台車部に立設されて上記ガイド片を摺動案内するガイドレールとからなる左右一対の案内手段により昇降案内され、
上記スプリングバランサは、上記本体部を上記左右のガイドレールの上方位置で左右一対設置してこれらのワイヤの引き出し端を上記荷台の左右の側縁の中央部に連結した搬送台車。
【請求項3】
請求項1または2に記載の搬送台車において、
上記作動変換手段として、上記荷台から垂直下方へ延び、荷台と一体に昇降するラック部と、該ラック部に噛合せしめたピニオン部とで構成し、上記ラック部の昇降により回転する上記ピニオン部の回転作動を上記駆動輪に伝達せしめるようになした搬送台車。
【請求項4】
請求項1ないし3に記載の搬送台車において、
上記スプリングバランサは、上記本体部を形成するケース部材の内部に、上記ワイヤを巻いたリールと、上記付勢手段として上記リールを上記ワイヤ巻き取り方向に付勢するゼンマイバネとを備え、該ゼンマイバネの調整により上記ワイヤの巻き取り付勢力を調整可能とした搬送台車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−70294(P2010−70294A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237810(P2008−237810)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】