説明

搬送波型ひずみ測定装置

【課題】 使用回路は、環境問題にも配慮したRoHS対応部品で構成し、電源ノイズの低減を図りつつ、浮遊容量などによる不平衡成分を自動的に常時打消し、測定ブリッジに含まれるひずみゲージに応じた抵抗値変化に伴う実際の抵抗成分を精度よく測定する。
【解決手段】 搬送波型ひずみ測定装置は、測定ブリッジ11、該ブリッジ11の出力を入力する入力トランス12、該ブリッジの出力を帰還された補償量で補正する打消し回路14、1次側電源回路18を含む1次側の回路系統と、該測定ブリッジ11の出力から前記補償量を作り出す搬送波増幅回路21、容量分位相検波回路23、容量分打消し駆動回路24、搬送波発振回路26および2次側電源28を含む2次側の回路系統とに分けて構成されている。1次側の回路系統と2次側の回路系統とは、磁気的な結合手段と、光学的な結合手段である光信号伝達手段とを介してのみ結合され、電気的な接続部分は有しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送波型ひずみ測定装置に係り、より詳しくは、電源ノイズの影響を阻止しつつ、ひずみゲージを含む測定ブリッジに発生する容量不均衡分を常に自動的に打消し得る搬送波型ひずみ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ひずみゲージを使用した応力測定には、搬送波型動ひずみ測定装置(以下、「搬送波型ひずみ測定装置」と略称する)が多用されている。その理由は、電源などのハムノイズに原理的に強く、また、測定ブリッジまでの接続配線に接点などを使用しても熱起電力に影響されず、高精度の測定ができるからである。
また、ひずみゲージを使用して応力測定をする場合、ひずみゲージは、小型、軽量であり、測定対象物に殆ど影響を与えないことが最大の特徴である。
一般に、測定点からひずみ測定装置まで入力ケーブルを延長する必要があるが、搬送波型ひずみ測定装置を使用する場合、前記入力ケーブルによる分布容量(浮遊容量とも称される)が生じる。
前記分布容量は、測定ブリッジの抵抗値の初期不平衡値と共に、容量分の初期不平衡値として現れる。ひずみゲージの抵抗変化分は測定に必要なものであるが、容量分は、正確な測定を妨げる要因(測定精度阻害要因)となる。
この容量分に関しては、入力ケーブルの長さ、周囲の温度、湿度などの環境で常時変化する。
【0003】
ここで、容量不平衡成分がいかに正確な測定を得ることの阻害となるかについて、図4(a)、(b)を用いて説明する。
図4(a)は、一般的な搬送波型ひずみ測定装置において、ひずみ測定装置からホィートストンブリッジ回路構成の測定ブリッジに至るまでの回路構成を図式化した説明図であり、(b)は、(a)の等価回路図である。
図4(a)において、搬送波型ひずみ測定装置83に、測定ブリッジ81の固定抵抗R1,R2,R3およびひずみゲージR4(測定箇所の抵抗)で構成されるホィートストンブリッジ回路を、入力ケーブル82で接続した状態を示すものである。ホィートストンブリッジ回路構成の測定ブリッジ81には、小型、軽量であって、測定対象物の変形に殆ど影響を与えないひずみゲージR4が使用されるが、入力ケーブル82には、分布容量(浮遊容量とも称される)が生じる。この分布容量は、固定抵抗R1,R2,R3およびひずみゲージR4からなる測定ブリッジ81の出力中に、初期不平衡値と共に、容量分の不平衡値としても現れる。このひずみゲージR4の抵抗変化分は測定に必要なものであるが、容量分およびその変化は、上述したように、正確な測定を妨げる要因(測定精度阻害要因)となる。
【0004】
以下、この測定精度阻害要因についてさらに詳しく分析する。
図4(a)に示すひずみ測定装置83からホィートストンブリッジ回路構成の測定ブリッジ81までの間の回路構成では、入力ケーブル82が介在することにより、測定ブリッジ81の各辺と接地(GND)との間にC分が存在する。
測定ブリッジ81の四辺の抵抗は、R1〜R4とし、該四辺のC分をC1〜C4とすると図4(b)のような等価回路となる。さらに、測定ブリッジ81の4辺は、抵抗値Rとし、4辺の容量の不平衡分を容量値Caとし、GNDとの間のC分を容量値Cgとすると、図5に示すような等価回路となる。但し、図5に示す等価回路では、A−C間に搬送波電圧Eを印加し、測定ブリッジ81の出力をEoutとしている。
以下の説明では、GNDとの間のC分(即ちCg)は、GNDとの絶縁が十分であれば、Cgは、無視することができる。
搬送波電圧Eの角周波数をωとすると、図5に示す等価回路の出力電圧Eoutは、(1)式で示される。
【0005】
【数1】

また、ひずみ量をεとし、ゲージ率をKsとすると、1枚ゲージである場合の等価ブリッジの出力電圧Eoutは、(2)式で示される。
【0006】
【数2】

(1)式および(2)式から(3)式が得られる。
【0007】
【数3】

ゲージ率Ks=2.00として、(3)式をひずみ量εに関して解くと、(4)式を得る。
【0008】
【数4】

さらに、(4)式を実数部と虚数部とに分けると、(5)式に変形される。
【0009】
【数5】

(5)式において、aを(6)式、bを(7)式と置くと、(8)式を得る。
【0010】
【数6】

【0011】
【数7】

【0012】
【数8】

但し、(8)式において、cosθ、sinθ、およびzは、それぞれ(9)式で示される。
【0013】
【数9】

【0014】
(8)式は、位相のずれた正弦波の合成波形の式となることを示している。
以下、等価ブリッジのC分の不平衡分(容量値Ca)と、ひずみ量εとの関係を説明する。
図6は、ひずみゲージの抵抗値が120Ωの場合と350Ωの場合において、それぞれ容量値Caと、ひずみεとの関係を(5)式と(8)式とから求めてグラフで示したグラフ図である。
図6に示すグラフからは、測定ブリッジのC分の不平衡分(容量値Ca)が2000〔PF〕のとき、ひずみゲージの抵抗値が120Ωの場合は約4000〔μ〕のひずみが測定値として出力されるのに対し、ひずみゲージの抵抗値が350Ωの場合には約11000〔μ〕ものひずみが測定値として出力されることが理解される。
このように、容量分に関しては、入力ケーブルの長さ、周囲の温度、湿度の他、ひずみゲージの抵抗値によっても大きな影響を受けることが明らかとなった。
ところで、測定ブリッジに容量不平衡分が発生してもそれを打消し得る搬送波型のひずみ測定器として、本件出願人は、特許文献1(特公平2−16441号公報)に記載のひずみ増幅器を先に提案した。
この特許文献1の正弦波搬送波方式のひずみ増幅器は、検出部ブリッジの出力側に該検出部ブリッジの容量変化分に対応する出力成分を抽出する回路と、この回路の出力振幅でブリッジ電源から得た電圧を制御しコンデンサを介して前記検出部ブリッジに帰還する回路とを設け、前記検出部ブリッジに容量Cが混入したとき、
【0015】
【数10】

なる電圧を前記コンデンサに与える構成とし、検出部ブリッジに容量不平衡分が発生してもそれを完全に打消すことができるようにしたものである。
また、抵抗式ひずみゲージを含むブリッジ回路の初期不平衡の影響を補償しつつ、ブリッジ回路とひずみ測定装置との間の接続線間の浮遊容易などによる位相のずれの影響を補償し、ひずみゲージのひずみに応じた抵抗値変化に伴う実際の抵抗成分を検波するようにした発明として特許文献2(特開2005−195509号公報)に記載されたものがある。
【0016】
この特許文献2に係る発明は、抵抗式ひずみゲージを含むブリッジ回路に交流電源電圧を付与しつつ、該ブリッジ回路の出力電圧信号を交流増幅器に入力して増幅すると共に、該交流増幅器の出力電圧信号から、前記交流電源電圧に対して所定の位相関係を有する信号成分を前記ブリッジ回路の抵抗値変化に応じた抵抗成分として検波し、その検波した抵抗成分から前記ひずみゲージのひずみ値に応じたひずみ測定信号を生成するようにした搬送波型ひずみ測定方法において、
前記ひずみゲージの無ひずみ状態での前記ブリッジ回路の出力電圧信号を前記交流増幅器に入力しつつ、該交流増幅器の出力電圧信号の抵抗成分と該抵抗成分に対して90°の位相差を有する容量成分とが零になるように該交流増幅器に付加的に入力する初期不平衡補償信号を決定する初期不平衡調整ステップと、
この初期不平衡補償信号の決定後に、前記ブリッジ回路に固定抵抗値の抵抗体を接続して、該ブリッジ回路の出力電圧信号と前記初期不平衡補償信号とを前記交流増幅器に入力しつつ、前記交流増幅器の出力電圧信号の前記交流電源電圧に対する位相のずれ量を決定する位相ずれ決定ステップとを備え、
この位相ずれの決定後に、前記固定抵抗値の抵抗体を前記ブリッジ回路から切り離してひずみ測定を行う時に、前記交流増幅器の出力電圧信号のうち、前記位相ずれ決定ステップで決定したずれ量だけ前記交流電源電圧に対して位相差を有する信号成分を前記ブリッジ回路の抵抗値変化に応じた抵抗成分として検波するようにした搬送波型ひずみ測定方法を提案するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特公平2−16441号公報
【特許文献2】特開2005−195509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記特許文献1におけるひずみ増幅器では、測定ブリッジや該測定ブリッジに発生する容量成分を打消す容量分打消し回路や1次側電源回路等の1次側回路部分と、搬送波増幅回路、容量分位相検波回路、搬送波発振回路および2次側電源等の回路部分とが、直接電気的に接続されているため電源ノイズがひずみ測定値に影響を与え、S/N比が充分とはいえず、さらに高精度での測定の実現が望まれている。
また、特許文献1においては、虚数項検波回路の出力を、ローパスフィルタを介して振幅制御回路に与えて打消し回路を制御するように構成されており、該振幅制御回路は、ローパスフィルタから得られた信号に応じて発光ダイオードを駆動する回路であり、打消し回路は、抵抗と発光ダイオードからの入射光により抵抗値が変化する、例えば、Cdsセル等のような受光素子との直列回路の両端をブリッジ電源に接続し、前記直列回路の接続点からとり出した信号を増幅器を介して前記コンデレサCoに与えるように構成されている。
しかしながら、打消し回路に含まれるCdsは、RoHS(Restriction of Hazardous Substances :危険物質に関する制限の頭文字をとったもの)、即ち「電子・電気機器における特定有害物質の使用制限についての欧州連合による指令」において規制物質に指定されているカドミウムを含有している。
【0019】
カドミウムは、腎臓に対して、機能障害を起こす恐れがある危険物質であり、100ppm以下(2007年7月現在)に規制されているため、光電変換素子としてCdsを使用することに問題がある。
また、特許文献2においても、測定ブリッジが含まれる1次側回路部分と、搬送波発振回路、搬送波増幅回路、90°位相検波回路、90°位相バランス回路およびこれら回路部分に電源を供給する電源等が電気的に接続されているため、上述したように、電源ノイズが、ひずみ測定値に混入し測定精度を低下させる、という問題がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、使用回路は、環境問題にも配慮したRoHS対応部品で構成し、電源ノイズの低減を図りつつ、測定ブリッジとひずみ測定回路との間の接続線間の浮遊容量などによる不平衡成分を自動的に打消し、測定ブリッジに含まれるひずみゲージに応じた抵抗値変化に伴う実際の抵抗成分を精度よく測定し得る搬送波型ひずみ測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1に記載した発明に係る搬送波型ひずみ測定装置は、上記の目的を達成するために、
搬送波型ひずみ測定装置において、
ひずみゲージを含む測定ブリッジと、
前記測定ブリッジに結合トランスを介して印加する搬送波を発生する搬送波発振回路と、
前記測定ブリッジに印加される搬送波に重畳された測定信号を入力トランスを介して受け増幅する搬送波増幅回路と、
前記搬送波増幅回路の出力を受けて前記測定ブリッジの容量変化分に対応する不平衡成分を抽出し、前記不平衡成分に対応した補償量の信号を出力する容量分位相検波回路と、
少なくとも1つの発光ダイオードとこれと対峙するように配置された受光ダイオードからなる光信号伝達手段と、
前記補償量の信号に応じて前記発光ダイオードの発光輝度を制御する容量分打消し駆動回路と、
前記発光ダイオードの発光を受けて、電気信号に変換する前記受光ダイオードに流れる電流に応じて前記補償量に対応した極性と振幅を持つ補償用電位に変換し、前記極性に応じて出力波形の位相を変えて前記搬送波に前記補償用電位を重畳して前記入力トランスの1次側に供給し、前記測定ブリッジに発生する容量成分による不平衡成分を自動的に打消す容量分打消し回路と、
2次側の各回路に電力を供給する2次側電源と、
前記2次側電源から電力トランスを介して電力を受け、1次側の各回路に電力を供給する1次側電源回路と、
を具備し、
前記搬送波増幅回路、前記容量分位相検波回路、前記容量分打消し駆動回路、前記発光ダイオード、前記搬送波発振回路および前記2次側電源に対し、
前記測定ブリッジ、前記容量分打消し回路、前記受光ダイオードおよび前記1次側電源回路は、
前記入力トランス、前記光信号伝達手段、前記結合トランスおよび前記電力トランスからなる電磁的手段および前記光信号伝達手段により接続され、電気的には絶縁された状態で接続されていることを特徴としている。
【0021】
請求項2に記載した発明に係る搬送波型ひずみ測定装置は、上記の目的を達成するために、
前記光信号伝達手段は、第1の抵抗と第1の発光ダイオードと第2の発光ダイオードと第2の抵抗とよりなる直列回路と、
第1の受光ダイオードと第3の抵抗とからなる直列回路と、第2の受光ダイオードと第4の抵抗とよりなる直列回路とが互いに並列に接続されてなることを特徴としている。
請求項3に記載した発明に係る搬送波型ひずみ測定装置は、上記の目的を達成するために、
前記容量分打消し回路は、前記光信号伝達手段の前記第1の受光ダイオードと前記第3の抵抗との接続点電位と、前記第2の受光ダイオードと前記第4の抵抗との接続点電位とを比較して前記補償量の電位と極性を判定し、出力波形の振幅と位相を決定して出力するように構成されていることを特徴としている。
【0022】
請求項4に記載した発明に係る搬送波型ひずみ測定装置は、上記の目的を達成するために、
特定の1つまたは複数の較正値に対応する較正電圧を発生する較正値発生回路の出力を、前記搬送波に重畳して前記入力トランスの1次側に選択的に供給し得るように構成されていることを特徴としている。
請求項5に記載した発明に係る搬送波型ひずみ測定装置は、上記の目的を達成するために、
前記測定ブリッジの抵抗値の初期不平衡分を打消す電位を発生する抵抗分調整回路の出力を、前記搬送波に重畳して前記入力トランスの1次側に常時供給するように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1の搬送波型ひずみ測定装置によれば、
搬送波型ひずみ測定装置において、
ひずみゲージを含む測定ブリッジと、
前記測定ブリッジに結合トランスを介して印加する搬送波を発生する搬送波発振回路と、
前記測定ブリッジに印加される搬送波に重畳された測定信号を入力トランスを介して受け増幅する搬送波増幅回路と、
前記搬送波増幅回路の出力を受けて前記測定ブリッジの容量変化分に対応する不平衡成分を抽出し、前記不平衡成分に対応した補償量の信号を出力する容量分位相検波回路と、
少なくとも1つの発光ダイオードとこれと対峙するように配置された受光ダイオードからなる光信号伝達手段と、
前記補償量の信号に応じて前記発光ダイオードの発光輝度を制御する容量分打消し駆動回路と、
前記発光ダイオードの発光を受けて、電気信号に変換する前記受光ダイオードに流れる電流に応じて前記補償量に対応した極性と振幅を持つ補償用電位に変換し、前記極性に応じて出力波形の位相を変えて前記搬送波に前記補償用電位を重畳して前記入力トランスの1次側に供給し、前記測定ブリッジに発生する容量成分による不平衡成分を自動的に打消す容量分打消し回路と、
2次側の各回路に電力を供給する2次側電源と、
前記2次側電源から電力トランスを介して電力を受け、1次側の各回路に電力を供給する1次側電源回路と、
を具備し、
前記搬送波増幅回路、前記容量分位相検波回路、前記容量分打消し駆動回路、前記発光ダイオード、前記搬送波発振回路および前記2次側電源に対し、
前記測定ブリッジ、前記容量分打消し回路、前記受光ダイオードおよび前記1次側電源回路は、
前記入力トランス、前記光信号伝達手段、前記結合トランスおよび前記電力トランスからなる電磁的手段および前記光信号伝達手段により接続され、電気的には絶縁された状態で接続されているので、RoHS指令の特定有害物質に指定された有害物質であるカドミウムを含むCdsを用いることなく光信号伝達手段として発光ダイオードと受光ダイオードを用いることで、リサイクルを容易にし、また、最終的に埋立てや焼却処分されるときに、ヒトと環境に影響を与えずに済み、
さらには、測定ブリッジが出力側(2次側)と絶縁されていることによる電源ノイズの低減と高電位な場所でのひずみ測定を可能としつつ、併せて、測定ブリッジに生じる容量不平衡分を常時完全に打消し得る搬送波型ひずみ測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る搬送波型ひずみ測定装置の全体回路構成を示す回路図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る搬送波型ひずみ測定装置における光信号伝達手段と打消し回路の詳細構成と、その間の配線および容量分打消し駆動回路との配線を示す回路図である。
【図3】打消し回路からの出力電圧(補償量)を帰還するための具体的な回路接続を示す回路図である。
【図4】(a)は、一般的な搬送波型ひずみ測定装置において、測定装置からホィートストンブリッジ回路構成の測定ブリッジに至るまでの回路構成を図式化した説明図であり、(b)は、(a)の等価回路図である。
【図5】図4(b)における抵抗R1〜R4の抵抗値をRとし、4辺のC分の不平衡分をCaとし、グラウンド間のC分をCgとしたとき、の等価回路図である。
【図6】ひずみゲージの抵抗値が120Ωの場合と350Ωの場合における、それぞれ容量値Caと、ひずみ量εとの関係をグラフで示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の搬送波型ひずみ測定装置の第1の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る搬送波型ひずみ測定装置全体の回路構成を示す回路図である。
同図において、本実施形態の搬送波型ひずみ測定装置は、ひずみゲージをもって構成されたホイートストンブリッジ回路(以下、「測定ブリッジ」と略称する)11と、該測定ブリッジ11の出力を後述する帰還された補償量で補正する回路とから成る1次側回路系統(以下、「1次側」と略称する)と、該測定ブリッジ11の出力から前記補償量を生成する補償量検出回路を有する2次側回路系統(以下、「2次側」と略称する)とに分けられる。1次側と2次側は、磁気的な結合手段、例えば、入力トランス12、結合トランス19、電力トランス20と光学的な結合手段、例えば、光信号伝達手段13とを介してのみ結合され、電気的に直接接続されていない。
【0026】
まず、1次側として、ホイートストンブリッジ回路で構成されている測定ブリッジ11と、測定ブリッジ11の出力を受けて磁気結合により2次側に伝える入力トランス12(1次コイル)と、光信号伝達手段13を構成する受光ダイオード13b側と、測定ブリッジ11に入力する搬送波をリファレンス電圧として受けて補償量に比例した電圧値で変調した電圧値を入力トランス12に帰還(注入)する打消し回路14と、測定ブリッジ11に入力する搬送波と同じ搬送波を受けて打消し回路14にリファレンス電圧を供給するB.V波形供給回路15が含まれる。
さらに、1次側には、特定の1または複数の較正値を搬送波に重畳して入力トランス12に供給する較正値発生回路16と、無ひずみ状態において、測定ブリッジ11の出力に含まれる抵抗分の初期平衡成分による誤差を調整する電圧を搬送波に重畳させて入力トランス12に注入する抵抗分調整回路17と、1次側の回路が使用する電力を供給する1次側電源回路18と、2次側の搬送波(この場合、正弦波)発振回路としての発振回路26から出力される搬送波を測定ブリッジ11に伝達する結合トランス19(2次コイル)と、2次側のパワーアンプ回路27から出力される搬送波の電力を受けて、1次側電源回路18に伝達する電力トランス20(2次コイル)と、を備える。
【0027】
次に、2次側として、入力トランス12(2次コイル)から出力される搬送波出力を増幅する搬送波増幅回路21と、搬送波出力のうち、抵抗の不平衡分(上記(5)式の実数項分)を抽出し、更に、搬送波成分を除去する抵抗分位相検波回路22と、搬送波出力のうち容量不平衡分(即ち、上記(5)式の虚数項成分)を抽出し、更に、搬送波成分を除去する容量分位相検波回路23と、容量分の不平衡成分による位相のずれを補償量に変換する容量分打消し駆動回路24と、前記補償量に比例する光量(輝度)を発光する光信号伝達手段13の発光ダイオード13aと、容量分の不平衡成分による位相のずれの基準となる基準電圧(搬送波と位相が90度ずれた電圧波形)を容量分位相検波回路23に供給する移相回路25と、を備える。
更に、2次側として、測定ブリッジ11に入力する搬送波(例えば、5kHz)を出力する搬送波発振回路としての発振回路26と、発振回路26の出力を1次側の測定ブリッジ11に搬送波ブリッジ電圧として供給する結合トランス19の1次コイルと、搬送波電力の励振電力として電力トランス20(1次コイル)に供給するパワーアンプ27と、2次側に含まれるすべての回路が使用する電力を供給する2次側電源28と、を備える。
【0028】
以下、この第1の実施形態の搬送波型ひずみ測定装置が有する各回路構成要素について説明する。
先ず、1次側において、測定ブリッジ11は、ひずみゲージをもってホイートストンブリッジ回路に構成されており、当該ひずみゲージは、被測定対象物に添着されて、そのひずみを検出する。
入力トランス12(1次コイル)は、被測定対象物のひずみに比例する測定ブリッジからの出力(電圧値)を1次側(1次コイル)で受け、磁気結合により2次コイルに伝える。
光信号伝達手段13(受光ダイオード13b側)は、容量不平衡分を打消し得る補償量に比例した発光ダイオード13aの発光量(輝度)を受けて、前記補償量に比例した出力(電圧値)を出力し、打消し回路14に供給する。
一次側の打消し回路14は、一種の変調回路であり、B.V波形供給回路15が出力する搬送波波形の電圧値をリファレンス電圧として受けると共に、光信号伝達手段13の受光ダイオード13bが出力する補償量に比例した出力(電圧値と極性)とを入力して受け、前記補償量に比例した電圧値と上記極性に応じた位相(即ち90°の遅れか、270°の遅れ)の搬送波で重畳した電圧値を入力トランス12に帰還する。
【0029】
ここで、B.V波形供給回路15は、測定ブリッジ11に入力する搬送波と同じ基準電圧波形とする電圧値を出力し、打消し回路14に搬送波のリファレンスとして供給する。
較正値発生回路16は、ひずみゲージに実際に負荷を掛けることなく、特定の1つまたは複数の較正値に対応する較正電圧を発生して入力トランス12に印加する。
抵抗分調整回路17は、ひずみゲージに負荷をかけない状態における測定ブリッジ11の出力に含まれる抵抗分の初期不平衡成分を調整する(打消す)ことができる電圧値に対応する電圧を発生して搬送波に重畳して入力トランス12に伝達する。
1次側電源回路18は、2次側電源28から電源の供給を受けて駆動するパワーアンプ回路27によって励振される電力トランス20(2次コイル)に接続されている。この1次側電源回路18は、1次側の全ての回路要素が使用する電力を供給するためのものである。
結合トランス19(2次コイル)は、2次側の発振回路26で生成される搬送波(例えば、5kHzの発振周波数)をひずみの測定時に測定ブリッジ11に入力する搬送波電源(いわゆるブリッジ電源)を、磁気結合で受けて測定ブリッジ11に伝達する。
【0030】
また、2次側において、搬送波増幅回路21は、入力トランス12(2次側コイル)から出力される測定ひずみを含む搬送波出力を増幅する増幅回路であり、この増幅結果の出力を、抵抗分位相検波回路22と、容量分位相検波回路23とに送出する。
抵抗分位相検波回路22は、前記測定ひずみを含む搬送波出力から、測定プリッジ11のホイートストンブリッジを構成する4辺の抵抗分の初期不平衡成分を抽出し、さらに搬送波成分を除去してひずみに対応した信号を出力する。但し、この抵抗分位相検波回路22が検出した抵抗分の初期不平衡成分を打消して、これを補償する回路部分は、本発明の範囲外であるので、ここでの図示及び説明は省略する。
容量分位相検波回路23は、前記測定ひずみを含む搬送波出力を搬送波増幅回路21から受けると共に、発振回路26の出力に対して90°位相をずらせた出力を移相回路25から受けて、容量不平衡成分を抽出し、搬送波を除去して容量分打消し駆動回路24に送出する。
移相回路25は、発振回路26の出力に対し位相を90°遅らせて、容量分位相検波回路23に送出する。また、発振回路26は、結合トランス19を介して1次側の測定ブリッジ11に印加する搬送波出力を生成する。この発振回路26の出力は、上記移送回路25と2次側の抵抗分位相検波回路22とパワーアンプ回路27にも送出される。
【0031】
パワーアンプ27は、発振回路26が生成する搬送波(正弦波波形)の出力を増幅し、この増幅で得られた励振電圧を、電力トランス20(1次コイル)に供給する。
電力トランス20の2次コイルには、1次側電源回路18が接続されている。この1次側電源回路18からは、平滑化された直流電圧が生成され、1次側に含まれる回路要素へと供給される。
2次側電源28は、2次側の全ての回路要素が使用する電力を供給する。
図2は、本発明の第2の実施形態に係る搬送波型ひずみ測定装置における要部の構成を示す回路図である。
図2においては、容量分打消し駆動回路24、光信号伝達手段13、容量分打消し回路14およびこれらの接続関係を示している。
図2における容量分打消し駆動回路24は、図1に示す回路と同じものであり、光信号伝達手段13および打消し回路14は、図1の実施の形態と同じ符号を用いているが実施の形態は異なっている。
【0032】
即ち、光信号伝達手段13は、2次側電源28に対し、第1の抵抗Raと第1の発光ダイオードDaと第2の発光ダイオードDbと第2の抵抗Rbが直列に接続された直列回路と、
一次側電源回路18に対し、第1の受光ダイオードDcと第3の抵抗Rcが直列に接続された直列回路と、第2の受光ダイオードDdと第4の抵抗Rdが直列に接続された直列回路が、互いに並列に接続された並列回路からなっている。
そして、第1の発光ダイオードDaと第1の受光ダイオードDcとは、互いに接近して対峙して配設されており、また、第2の発光ダイオードDbと第2の受光ダイオードDdとは、同様に互いに接近して対峙して配設されている。
また、第1の抵抗Ra、第2の抵抗Rb、第3の抵抗Rcおよび第4の抵抗Rdは、電流制限抵抗として機能を果たす。
光量電圧安定化回路14aは、受光ダイオードDcとDdから受光量情報を安定的に処理する回路であり、例えば、オペアンプを用いて構成することができ、光信号伝達手段13から出力される2つの光量電圧がそれぞれ非反転入力端子(+)と反転入力端子(−)とに供給されると、両入力電圧を比較し、非反転入力端子の電圧が反転入力端子の電圧よりも高ければ、正極性で且つ、入力電圧に対応した補償用電圧を出力し、逆の関係であれば、反対の極性の補償用電圧を出力する。
【0033】
容量分打消し回路14bは、光量電圧安定化回路14aから受ける入力が、例えば+であれば、同位相の出力波形を出力し、−であれば、逆位相出力波形で且つ、入力電圧に応じた振幅の出力をBV波形供給回路15よりリファレンスとして受けた搬送波に重畳させて入力トランス12の入力側に注入する。
上記の作用を、より具体的に説明すると、容量分打消し駆動回路24からの出力値が+であれば、第1の発光ダイオードDaと第2の発光ダイオードDbとの接続電位が上昇し、第2の発光ダイオードDbの発光量(輝度)が第1の発光ダイオードDaよりも大きくなり、これに伴い第2の受光ダイオードDdにより大きな光電流が流れることになる。
すると、第2の受光ダイオードDdと第4の抵抗Rdとの接続点電位が大きくなり、第1の受光ダイオードDcと第3の抵抗Rcとの接続点電位が小さくなり、その結果、光量電圧安定化回路14aにおける非反転入力端子(+)よりも非反転入力端子(−)の入力電圧の方が高くなり、従って、光量電圧安定化回路14aからは、入力電圧に対応した大きさの(−)出力が現れる。
すると、この(−)出力を受ける容量分打ち消し回路14bからは、リファレンス電圧とは、逆位相の補償量に対応した電圧を搬送波に重畳して、これを90°移相コンデンサC5を介して、入力トランス12の1次側コイルに注入する。
【0034】
また、容量分打消し駆動回路24からの出力値が−(マイナス)であれば、上述したところと反対の作用となり、容量分打消し回路14bからは、リファレンスと同相の補償量に対応した電圧を搬送波に重畳して、これを90°移相コンデンサC5を介して入力トランス12の1次側コイルに注入することになる。
尚、光信号伝達手段13については、図1に示すように、1つの発光ダイオード13aと1つの受光ダイオード13bによっても、容量不平衡分の情報を電気的に絶縁した状態が光信号に変換して信号を伝達することが可能ではあるが、光信号を安定して伝達し難いことが判明したため、図2に示すように、光信号伝達手段13として、第1の抵抗Raと第1の発光ダイオードDaと第2の発光ダイオードDbと第2の抵抗Rbとよりなる直列回路と、
第1の受光ダイオードDcと第3の抵抗Rcとからなる直列回路と、第2の受光ダイオードDdと第4の抵抗Rdとよりなる直列回路とを互いに並列に接続すると共に、前記容量分打消し回路14bは、前記光信号伝達手段13の前記第1の受光ダイオードDcと前記第3の抵抗Rcとの接続点電位と、前記第2の受光ダイオードDdと前記第4の抵抗Rdとの接続点電位を比較して、補償量の電位と極性を判定し、出力波形の振幅と位相を決定して出力するように構成することによって、極めて安定的に補償用の電位に変換することができる。
【0035】
図3は、本発明の第3の実施の形態に係る搬送波型ひずみ測定装置における打消し回路からの出力電圧(補償量)を、帰還するための回路構成を示す回路図である。
この第3の実施形態によれば、例えば、図1の打消し回路14からの打消し電圧のうち、容量不平衡分を打消す搬送波(正弦波)信号が同相か逆相かに応じて入力トランス12への入力形態を異ならせている。
即ち、同位相の場合、容量分打消し回路14の出力を受けて、これを増幅する打消し電圧増幅回路30は、90°移相コンデンサC5を介して入力トランス12の1次側コイルの一端に打消し電圧を搬送波に重畳させて供給する。
さらに容量分打ち消し回路14の出力を受けてこれを増幅する打消し電圧増幅回路30からの出力を、打消し電圧位相反転回路(例えばインバータ)31を介して反転されて、入力トランス12の1次側コイルの他端に、逆位相の搬送波打消し電圧を重畳させて供給する。
このように構成することにより、打消し電圧の振幅が図1に示す構成のものに対して1/2ですみ、これにより直線性の良好なところが使用することができ、打消し波形が歪むことなく、きれいな波形で注入されるため、より高精度に容量不平衡分を常に打消し得る搬送波型ひずみ測定装置を提供することができる。
【0036】
また、第1〜第3の実施形態のいずれによっても、搬送波を使用することにより、極めて変化の早い動的現象を測定することが可能であり、容量不平衡分を瞬時に且つ高精度に打ち消すことが可能であり、また、測定ブリッジや打ち消し回路、2次側電源回路が含まれる1次側回路部分と、搬送波増幅回路、容量分位相検波回路、容量分打ち消し駆動回路、発振回路および2次側電源が含まれる回路部分とを直接接続することなく、トランスのような電磁結合手段と発光ダイオードと受光ダイオードのような光信号伝達手段を介して接続する構成としたので、ノイズの混入、特に2次側回路からのノイズが混入することがなく、高精度な動的ひずみの測定が可能となる。
【符号の説明】
【0037】
11 測定ブリッジ
12 入力トランス
13 光信号伝達手段
13a 発光ダイオード
13b 受光ダイオード
14 打消し回路
14a 光量電圧安定化回路
14b 容量分打消し回路
15 B.V波形供給回路
16 較正値発生回路
17 抵抗分調整回路
18 1次側電源回路
19 結合トランス
20 電力トランス
21 搬送波増幅回路
22 抵抗分位相検波回路
23 容量分位相検波回路
24 容量分打消し駆動回路
25 移相回路
26 発振回路
27 パワーアンプ回路
28 2次側電源
30 打消し電圧増幅回路
31 打消し電圧位相反転回路
C5、C6、90° 移相コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波型ひずみ測定装置において、
ひずみゲージを含む測定ブリッジと、
前記測定ブリッジに結合トランスを介して印加する搬送波を発生する搬送波発振回路と、
前記測定ブリッジに印加される搬送波に重畳された測定信号を入力トランスを介して受け増幅する搬送波増幅回路と、
前記搬送波増幅回路の出力を受けて前記測定ブリッジの容量変化分に対応する不平衡成分を抽出し、前記不平衡成分に対応した補償量の信号を出力する容量分位相検波回路と、
少なくとも1つの発光ダイオードとこれと対峙するように配置された受光ダイオードからなる光信号伝達手段と、
前記補償量の信号に応じて前記発光ダイオードの発光輝度を制御する容量分打消し駆動回路と、
前記発光ダイオードの発光を受けて、電気信号に変換する前記受光ダイオードに流れる電流に応じて前記補償量に対応した極性と振幅を持つ補償用電位に変換し、前記極性に応じて出力波形の位相を変えて前記搬送波に前記補償用電位を重畳して前記入力トランスの1次側に供給し、前記測定ブリッジに発生する容量成分による不平衡成分を自動的に打消す容量分打消し回路と、
2次側の各回路に電力を供給する2次側電源と、
前記2次側電源から電力トランスを介して電力を受け、1次側の各回路に電力を供給する1次側電源回路と、
を具備し、
前記搬送波増幅回路、前記容量分位相検波回路、前記容量分打消し駆動回路、前記発光ダイオード、前記搬送波発振回路および前記2次側電源に対し、
前記測定ブリッジ、前記容量分打消し回路、前記受光ダイオードおよび前記1次側電源回路は、
前記入力トランス、前記光信号伝達手段、前記結合トランスおよび前記電力トランスからなる電磁的手段および前記光信号伝達手段により接続され、電気的には絶縁された状態で接続されていることを特徴とする搬送波型ひずみ測定器。
【請求項2】
前記光信号伝達手段は、第1の抵抗と第1の発光ダイオードと第2の発光ダイオードと第2の抵抗とよりなる直列回路と、
第1の受光ダイオードと第3の抵抗とからなる直列回路と、第2の受光ダイオードと第4の抵抗とよりなる直列回路とが互いに並列に接続されてなることを特徴とする請求項1に記載の搬送波型ひずみ測定装置。
【請求項3】
前記容量分打消し回路は、前記光信号伝達手段の前記第1の受光ダイオードと前記第3の抵抗との接続点電位と、前記第2の受光ダイオードと前記第4の抵抗との接続点電位とを比較して前記補償量の電位と極性を判定し、出力波形の振幅と位相を決定して出力するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の搬送波型ひずみ測定装置。
【請求項4】
特定の1つまたは複数の較正値に対応する較正電圧を発生する較正値発生回路の出力を、前記搬送波に重畳して前記入力トランスの1次側に選択的に供給し得るように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の搬送波型ひずみ測定装置。
【請求項5】
前記測定ブリッジの抵抗値の初期不平衡分を打消す電位を発生する抵抗分調整回路の出力を、前記搬送波に重畳して前記入力トランスの1次側に常時供給するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の搬送波型ひずみ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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