説明

搬送用拍車、これを備えたメディア搬送装置および記録装置

【課題】簡易な構成で、拍車痕を低減し、拍車に付着した記録材料が搬送物に転写することを抑制する。
【解決手段】搬送用拍車は、複数の歯部15が形成された歯車形状であり、歯部15が搬送物2に接触した状態で回転し、搬送物であるメディア2を搬送する。歯部15は、搬送用拍車の回転方向Rの下流側に位置する第1の表面15aと、回転方向Rの上流側に位置する第2の表面15bと、を有している。メディア2に接触する歯部15の接触部15cと搬送用拍車の回転中心とを結ぶ基準線Lに対して第1の表面15aが成す第1の角度θ1は、基準線Lに対して第2の表面15bが成す第2の角度θ2より小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送物を搬送する搬送用拍車、および搬送用拍車を備えメディアに記録を行う記録装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
搬送物であるメディアを搬送しつつメディアに記録を行う記録装置の1つとして、インクジェット記録装置がある。インクジェット記録装置は、記録後のメディアを搬送するために、円板の円周部に歯部が形成された搬送用拍車(以下、単に拍車と呼ぶ。)を有している(特許文献1および特許文献2参照。)。
【0003】
このような装置を用いて、例えば連続してインクを吐出する場合には、インクがメディアに完全に定着する前にメディアを搬送することになる。そのため、拍車の歯部が、記録されたインク層を傷付け、メディアにその痕(以下、拍車痕と呼ぶ。)が付くことがある。また、インクが完全に定着していないため、拍車の歯部にインクが付着し、当該歯部からメディアにインクが転写されるという課題もある。
【0004】
拍車による拍車痕の低減や、拍車の歯部に付着したインクがメディアへ転写することを抑制する構成が、特許文献1および特許文献2に記載されている。特許文献1に記載の拍車は、拍車の歯部の先端部側に、インクの粒径よりも薄い略均一の板厚をなす薄板部が形成されている。これにより、薄板部の側面とインク粒子との接触面積が小さくなり、インクの付着量が低減する。また、特許文献2に記載のインクジェット記録装置では、拍車のインク汚れを吸収する吸収部材が設けられている。
【特許文献1】特開2002−60106号公報
【特許文献2】特許第2750753号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の拍車では、拍車の歯部の先端がインク粒径よりも薄くなっているため、歯部の強度が低下して耐久性に課題がある。さらに、歯部の先端の構造が複雑化するという課題もある。また、特許文献2に記載されているように、拍車のインク汚れを除去する手段を設置すると、装置の構成が複雑化し、装置の製造コストが上昇し、装置が大型するという課題がある。
【0006】
なお、上記のような拍車を用いる限り、メディアにインクで記録を行なう場合に限られず、メディアにインク以外の記録材料で記録を行なう場合にも同様な課題がある。
【0007】
本発明の目的は、上記背景技術の課題の少なくとも1つを解決することにある。その課題の一例は、簡易な構成で、拍車痕を低減し、拍車に付着した記録材料が搬送物に転写することを抑制する、搬送用拍車、その拍車を有するメディア搬送装置および記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の少なくとも1つを解決するため、本発明に係る搬送用拍車は、複数の歯部が形成された歯車形状であり、歯部が搬送物に接触した状態で回転する搬送用拍車であって、歯部は、搬送用拍車の回転方向の下流側に位置する第1の表面と、回転方向の上流側に位置する第2の表面と、を有し、搬送物に接触する歯部の接触部と搬送用拍車の回転中心とを結ぶ基準線に対して第1の表面が成す第1の角度は、基準線に対して第2の表面が成す第2の角度より小さいことを特徴とする。
【0009】
本発明に係るメディア搬送装置は、上記の搬送用拍車と、駆動力を持ったローラと、を含み、メディアを搬送する搬送機構を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る記録装置は、上記のメディア搬送装置と、搬送するメディアに対して記録を行なう記録部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易な構成で、拍車痕を低減し、拍車に付着した記録材料が搬送物に転写することを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、本発明は、メディア搬送装置を有するインクジェット方式を用いた記録装置に好適に用いられる。記録装置としては、例えば、記録機能のみを有するシングルファンクションプリンタであってもよいし、また、例えば、記録機能、FAX機能、スキャナ機能等の複数の機能を有するマルチファンクションプリンタであってもよい。あるいは、カラーフィルタ、電子デバイス、光学デバイス等を、インクジェット記録方式で製造するための製造装置であってもよい。また、本発明は、メディア搬送装置を有し、メディアに記録を行なう装置であれば、インクジェット方式に限らず、電子写真方式、サーマル方式、ドットインパクト方式など、さまざまな記録材料を用いた記録装置にも適用可能である。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット方式の記録装置の要部を示す概略図である。記録装置は、記録部において、インクジェット方式の記録ヘッド1が有する吐出口から記録材料であるインクをメディア2に噴射して記録を行う。インクジェット方式は、ヒータを用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式など、さまざま採用することができる。メディア2としては、用紙やプラスチック薄板等が用いられる。記録ヘッド1の吐出口が形成された面に対向する位置には、プラテン3が配置されている。メディア2は、プラテン3に密着し、且つ記録ヘッド1の吐出口との間に例えば1.0mm程度の隙間をあけた状態で、搬送ローラ6とピンチローラ7とからなるローラ対を含む搬送機構により搬送される。搬送ローラ6とピンチローラ7は、記録ヘッド1よりもメディアの搬送方向Tの上流側に設けられている。記録部での記録領域よりも搬送方向Tの下流側には、記録後のメディア2に搬送力を与えるため、駆動力を持った排出ローラ4と、駆動力を持たずに従動回転する拍車5(搬送用拍車)と、からなるローラ対を有する排出用の搬送機構が配置されている。排出ローラ4と拍車5とは、それぞれメディア2の裏面と表面とに圧接され、メディア2を挟みこむ。ここで、メディア2の表面とは、メディア2の記録が行われる面(以下、「記録面」とも呼ぶ。)をさす。記録面に接触する方のローラ、つまり拍車5は、複数の歯部が形成された歯車形状をしている。
【0014】
次に、拍車5について、図2を用いて詳細に説明する。本実施形態において、拍車5は、円板の円周部に複数の、鋭利な先端を持った歯部15が形成された歯車形状をしている。拍車5は、拍車の回転中心5aを中心として、回転可能に構成されている。これにより、拍車5の歯部15の鋭利な先端が、メディア2と接触し、メディア2を押さえながら従動回転し、メディア2の搬送を補助する。
【0015】
歯部15の形状の詳細について、図3〜6を参照して説明する。図3は、本実施形態の拍車5と比較するために示された従来例に関する拍車の歯部の拡大図である。図4は本実施形態の第1の実施例における拍車5の歯部15の拡大図であり、図5は本実施形態の第2の実施例における拍車5の歯部15の拡大図である。
【0016】
拍車5の歯部15は、拍車5の回転方向Rの下流側に位置する第1の表面15aと、回転方向Rの上流側に位置する第2の表面15bと、を有している。いずれも側面図であるため図中には表れていないが、表面15a、15bは回転中心5aの軸方向(メディアの搬送方向Tと直交する方向)において所定の微小幅を有しており、表面15a、15bはある微小面積を持った平面である。なお、表面15a、15bで形成される歯部15の先端(直線状の線分)は、拍車5の回転軸と平行であるが、これには限定されず、先端の線分が拍車5の回転軸に対して非平行となるように若干の角度を有していても良い。
【0017】
本明細書において、メディア2に接触する歯部15先端の接触部15cと拍車5の回転中心5aとを結ぶ直線を基準線Lと定義する。また、拍車5を回転軸方向の側面から見たとき、この基準線Lに対して、第1の表面15aが成す第1の角度をθ1と定義し、基準線Lに対して第2の表面15bが成す第2の角度をθ2と定義する。
【0018】
図3に示す従来例の拍車5では、第1の角度θ1が第2の角度θ2と等しい(θ1=θ2)。一方、本実施形態の第1及び第2の実施例における拍車5では、図4、図5に示すように、第1の角度θ1が第2の角度θ2よりも小さい(θ1<θ2)。図4の例では、θ1=15°、θ2=50°となっている。また、図5の例では、θ1=0°、θ2=50°となっており、歯部15の第1の表面15aが、基準線Lを含む面となっている。なお、第1および第2の角度θ1、θ2は上述の値には限定されず、好ましくは、拍車の歯部の先端角度(θ1+θ2)は30°以上、且つ、第1の角度と第2の角度との差(θ2−θ1)は10°以上の条件を満たす範囲とする。
【0019】
次に、さまざまな拍車において、耐久試験を行った結果について説明する。耐久試験では、複数のメディア2に記録動作を連続して行い、拍車の歯部に付着したインク量を測定した。耐久試験を行った拍車は、図3に示す従来例の拍車、図5に示す本実施形態の第2の実施例の拍車、および比較例の拍車である。比較例の拍車の歯部は、第1の角度θ1が第2の角度θ2より大きい(θ1>θ2、図7(c)も参照。)。耐久試験の結果を図6に示す。図6を参照すると、従来例の拍車よりも、第2の実施例に示す拍車5のほうが、歯部15へ付着したインク量が少ない。一方、比較例の拍車では、従来例の拍車よりも歯部15へ付着したインク量が多い。
【0020】
この結果について、図7(a)〜(c)を参照して説明する。第1の角度θ1が小さいほど、歯部15がメディア2に打ち込まれたインク層8をメディア2の記録面に垂直な方向へ押す力は小さい。そのため、拍車5の歯部15が接触部15cから離れる際に、歯部15にインクが付着しづらい。一方で、第1の角度θ1が大きいほど、歯部15は、インク層8を強く押しつけるため、歯部15に付着するインク量は増大する。また、記録面の垂直方向に押す力が強いほど、拍車痕が形成されやすくなってしまう。
【0021】
本実施形態の拍車5では、第1の角度θ1が小さくても、第2の角度θ2を十分大きくすることで、歯部15の強度を維持したまま、歯部15に付着するインク量を低減することができる。これにより、メディア2へのインク転写を低減し、拍車痕を低減することができる。
【0022】
図8は、本実施形態の第3の実施例における拍車5の歯部15の拡大図である。第3の実施例では、歯部15の第1の表面15aが、基準線Lを含む面より回転方向Rの上流側に位置している。この場合、メディア2に接触する歯部15の接触部15cと拍車5の回転中心5aとを結ぶ基準線Lに対して、第1の表面15aが成す第1の角度θ1は、必然的に、第2の角度θ2より小さくなる。この場合にも、メディア2上のインク層8に接触した歯部15が、インク層8を下方に押しつける力が弱くなるため、歯部15に付着するインク量は低減する。
【0023】
なお、以上の各実施例では、第1の表面15aと第2の表面15bとは平面としたが、部位によって角度θ1、θ2が変化する多角面あるいは曲面であってもよい。この場合、歯部先端のメディア2に接触する局所的な部位(接触部15c)における角度θ1、θ2が、上述の条件を満たせばよい。
【0024】
また、拍車5の歯部15は、拍車5の円周に沿って規則的なピッチで形成されていても良く、不規則なピッチで形成されていてもよい。図2では、不規則なピッチで歯部15が形成された拍車5が示されている。図9は、図2に示す拍車5が拍車痕を形成した場合の、メディア2の様子を示している。歯部15は不規則なピッチで形成されているため、メディア2には、不規則なピッチで拍車痕9が形成されている。人の目には、規則的な並びの拍車痕は認識しやすいが、不規則なピッチの拍車痕9は認識し難い。したがって、不規則なピッチで歯部15が設けられた拍車5は、仮に拍車痕9が形成されたとしても、拍車痕が人の目に認識し難いという利点を有している。
【0025】
拍車5の歯部15には、記録ヘッドが吐出する液体を撥ねる薄膜がコーティングされていてもよい。このようなコーティング処理により、拍車5の歯部15に液体(例えばインクなどの記録材料)が付着し難くなるため、メディア2へのインクの転写がさらに低減し、拍車痕がより形成されにくくなる。液体を撥ねる薄膜の一例として、ポリテトラフロオロエチレンを用いることが好ましい。ポリテトラフロオロエチレンは濡れ性が低く、さらに耐食性、耐汚染性に優れているいという利点を有している。
【0026】
また、少なくとも拍車5の歯部15を、エッチングや電解研磨などにより化学的研磨してもよい。これにより、歯部15の表面粗さが低下し、記録ヘッドが吐出する液体に対する濡れ性が低下する。これにより、歯部15への液体の付着は低減され、拍車痕の形成がより低減する。歯部15に施される処理は、エッチング処理および電解研磨の一方であってもよく、両方であってもよい。これらの処理を行ったうえで、さらに上記の薄膜をコーティングしても良い。
【0027】
上記の実施形態では、搬送物としてメディアを用いて説明したが、拍車で搬送可能であれば、搬送物はどのようなものでも良い。
【0028】
以上、本発明の望ましい実施形態について提示し、詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない限り、さまざまな変更及び修正が可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る記録装置の要部構成を示す概略図。
【図2】本発明の一実施形態に係る拍車の概略側面図。
【図3】従来例における拍車の歯部の拡大図。
【図4】第1の実施例における拍車の歯部の拡大図。
【図5】第2の実施例における拍車の歯部の拡大図。
【図6】様々な拍車に対する耐久試験において、歯部へ付着したインク量の結果を示すグラフ。
【図7】(a)は従来例の拍車がインク層を有するメディアを搬送する様子を示す図、(b)は第2の実施例の拍車がインク層を有するメディアを搬送する様子を示す図、(c)は比較例の拍車がインク層を有するメディアを搬送する様子を示す図である。
【図8】第3の実施例における拍車の歯部の拡大図。
【図9】図2の拍車によってメディアにインクが転写された場合の様子を示す図。
【符号の説明】
【0030】
5 拍車
5a 回転中心
8 インク層
9 拍車痕
15 歯部
15a 第1の表面(回転方向の上流側に位置する歯部の表面)
15b 第2の表面(回転方向の下流側の位置する歯部の表面)
15c 接触部
R 拍車の回転方向
L 回転中心と接触部とを結ぶ基準線
θ1 第1の角度(基準線Lと第1の表面との間の角度)
θ2 第2の角度(基準線Lと第2の表面との間の角度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の歯部が形成された歯車形状であり、前記歯部が搬送物に接触した状態で回転する搬送用拍車であって、
前記歯部は、前記搬送用拍車の回転方向の下流側に位置する第1の表面と、前記回転方向の上流側に位置する第2の表面と、を有し、
前記搬送物に接触する前記歯部の接触部と前記搬送用拍車の回転中心とを結ぶ基準線に対して前記第1の表面が成す第1の角度は、前記基準線に対して前記第2の表面が成す第2の角度より小さいことを特徴とする搬送用拍車。
【請求項2】
前記第1の表面が、前記基準線を含む面または前記基準線を含む面より前記回転方向の上流側に位置していることを特徴とする、請求項1に記載の搬送用拍車。
【請求項3】
前記歯部が不規則なピッチで形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の搬送用拍車。
【請求項4】
前記第1の角度をθ1、前記第2の角度をθ2としたとき、θ1+θ2は30°以上、且つ、θ2−θ1は10°以上の条件を満たすことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の搬送用拍車。
【請求項5】
前記歯部の前記接触部に、エッチング処理および電解研磨の一方、もしくは両方が施されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の搬送用拍車。
【請求項6】
液体を撥ねる薄膜が前記歯部にコーティングされていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の搬送用拍車。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の搬送用拍車と、駆動力を持ったローラと、を含み、メディアを搬送する搬送機構を有することを特徴とするメディア搬送装置。
【請求項8】
請求項7に記載のメディア搬送装置と、搬送するメディアに対して記録を行なう記録部と、を有することを特徴とする記録装置。
【請求項9】
前記記録部はインクジェット方式により前記メディアに記録を行なうことを特徴とする、請求項8に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−137942(P2010−137942A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314728(P2008−314728)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】