説明

搬送装置及び印刷装置

【課題】搬送不良を防ぐことができる搬送装置、印刷装置を提供すること。
【解決手段】金属板の対向する一対の端部が近接するあるいは当接するように円筒状に形成された繋ぎ目を有し、被搬送媒体を搬送する高摩擦層が表面に形成された主動ローラーと、前記主動ローラーを押圧すると共に前記主動ローラーの回転に伴って回転し、前記主動ローラーとの間で被搬送媒体を挟持する第1従動ローラーと、前記第1従動ローラーによって押圧される前記主動ローラーを支持すると共に主動ローラーの回転に伴って回転する第2従動ローラーとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置及び印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シート状の記録媒体上に情報を印刷する印刷装置が用いられており、この印刷装置には記録媒体を搬送する搬送装置が設けられている。この搬送装置は、回転することで記録媒体を搬送する搬送ローラーと、当該搬送ローラーに付勢されて当接された従動ローラーとを有しており、搬送ローラーと従動ローラーとで記録媒体を挟持して搬送するようになっている。搬送ローラーには中実の棒状部材が一般的に使用されている。その一方で、中実の材料は重量およびコストが嵩むという課題がある。ここで、特許文献1には、金属板を曲げ加工して円筒状に成形する技術が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の円筒軸では、金属板を曲げ加工して円筒状に形成する際に、金属板の端面同士を突き合わせるようにする。このため、円筒軸の全長に亘って金属板の一対の端面間に繋ぎ目が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−289496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記構成においては、時間の経過と共に円筒軸の繋ぎ目の形状が変化し、これに伴って円筒軸の形状が変化する可能性があることを本発明者らは見出した。この形状変化は、例えば円筒軸を曲げ加工する際に応力が残留し、当該残留応力が時間の経過と共に緩和することによる影響であると考えられる。円筒軸の形状が変化すると、搬送不良が生じる虞がある。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、搬送不良を防ぐことができる搬送装置、印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る搬送装置は、金属板の対向する一対の端部が近接するあるいは当接するように円筒状に形成された繋ぎ目を有し、被搬送媒体を搬送する高摩擦層が表面に形成された主動ローラーと、前記主動ローラーを押圧すると共に前記主動ローラーの回転に伴って回転し、前記主動ローラーとの間で被搬送媒体を挟持する第1従動ローラーと、前記第1従動ローラーによって押圧される前記主動ローラーを支持すると共に主動ローラーの回転に伴って回転する第2従動ローラーとを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、第1従動ローラーによって押圧される主動ローラーを第2従動ローラーによって支持するため、主動ローラーの回転を妨げることなく、第1従動ローラー及び第2従動ローラーの双方から主動ローラーに対して押圧力を作用させることができる。このようにして主動ローラーに働く当該押圧力により、残留応力の緩和の影響が抑制されることとなる。これにより、主動ローラーの変形を抑えることができるので、搬送不良を防ぐことができる。
【0009】
また、前記第2従動ローラーは、前記高摩擦層に対向する位置に設けられることが好ましい。
本発明によれば、第2従動ローラーが高摩擦層に対向する位置に設けられるため、主動ローラーのうち搬送に影響の大きい部分の変形を確実に防ぐことができる。これにより、搬送不良を一層効率的に防ぐことができる。
【0010】
また、前記第2従動ローラーは、前記第1従動ローラーとの間で前記主動ローラーを挟む位置に設けられることが好ましい。
本発明によれば、第2従動ローラーが第1従動ローラーとの間で主動ローラーを挟む位置に設けられるため、主動ローラーに効率的に押圧力を作用させることができる。
【0011】
また、前記第2従動ローラーは、前記第1従動ローラーとの間で前記主動ローラーの中心軸を挟む位置に設けられることが好ましい。
本発明によれば、第2従動ローラーが第1従動ローラーとの間で主動ローラーの中心軸を挟む位置に設けられるため、第1従動ローラー及び第2従動ローラーから主動ローラーの周方向に対して均一に押圧力が作用されることになる。
【0012】
また、前記第2従動ローラーは、前記主動ローラーの中心軸方向に沿って複数設けられることが好ましい。
本発明によれば、第2従動ローラーが主動ローラーの中心軸方向に沿って複数設けられるため、主動ローラーの変形をより確実に抑えることができる。
【0013】
また、前記第2従動ローラーは、前記主動ローラーの周方向に沿って複数設けられることが好ましい。
本発明によれば、第2従動ローラーが主動ローラーの周方向に沿って複数設けられるため、主動ローラーの変形をより確実に抑えることができる。
【0014】
本発明に係る印刷装置は、被搬送媒体を搬送する搬送部と、前記搬送装置によって搬送される前記被記録媒体に対して印刷処理を行う印刷部と、を備え、前記搬送部として、上記の搬送装置が用いられることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、搬送不良を防ぐことができる搬送装置を用いて被搬送媒体を搬送しつつ印刷を行うことができるため、高精度の印刷が可能な印刷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るインクジェットプリンターの側断面図である。
【図2】(A)は搬送ユニット部分の平面図、(B)は駆動系の側面図である。
【図3】(a)、(b)は搬送ローラー機構の概略構成図である。
【図4】(a)、(b)は第1実施形態に係るローラー本体の基材としての金属板を示す平面図である。
【図5】(a)〜(c)は金属板のプレス加工を説明するための工程図である。
【図6】(a)〜(c)は金属板のプレス加工を説明するための工程図である。
【図7】第1実施形態に係るローラー本体の斜視図である。
【図8】第1実施形態に係るローラー本体の繋ぎ目の形状を説明するための図である。
【図9】(a)は繋ぎ目の側断面図、(b)繋ぎ目の拡大した側断面図である
【図10】(a)〜(c)はローラー本体への高摩擦層の形成工程を示す図である。
【図11】高摩擦層を形成するための塗装ブースの概略構成図である。
【図12】ローラー本体の繋ぎ目とその近傍の要部拡大図である。
【図13】(a)、(b)は第2実施形態に係るローラー本体の基材としての金属板を示す平面図である。
【図14】(a)は第2実施形態に係るローラー本体の斜視図、(b)は繋ぎ目の側断面図である。
【図15】(a)は第2実施形態に係るローラー本体の繋ぎ目の形状の説明図、(b)は繋ぎ目の側断面図である。
【図16】(a)はローラー本体の要部斜視図、(b)は要部側断面図である。
【図17】(a)はローラー本体の要部斜視図、(b)は側面図である。
【図18】(a)はローラー本体の要部斜視図、(b)は側面図である。
【図19】(a)はローラー本体の要部斜視図、(b)は側面図である。
【図20】(a)〜(c)は展開係合部を示す金属板の要部平面図である。
【図21】(a)〜(c)は搬送ローラー機構の概略構成図である。
【図22】搬送ローラー機構の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明を詳しく説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
まず、図1、図2を参照して、本発明に係る搬送ローラーを備えた印刷装置について説明する。
図1は本発明に係る搬送ユニットを備えた印刷装置(インクジェットプリンター)の側断面図、図2(A)は同印刷装置の搬送ユニット部分の平面図、図2(B)は同印刷装置の駆動系の側面図である。
【0018】
図1は、本発明の印刷装置の一実施形態となるインクジェットプリンター1を示している。このインクジェットプリンター1は、プリンター本体3と、該プリンター本体3の後側上部に設けられた給紙部5と、プリンター本体3の前側に形成された排紙部7と、を備えて構成されたものである。
【0019】
給紙部5には給紙トレイ11が設けられており、給紙トレイ11には複数枚の用紙(記録媒体)Pが積載されるようになっている。ここで、用紙Pとしては、普通紙、コート紙、OHP(オーバーヘッドプロジェクタ)用シート、光沢紙、光沢フィルム等が用いられる。
給紙トレイ11の下流側には給紙ローラー13が設けられている。給紙ローラー13は、対向する分離パッド(図示せず)との間で給紙トレイ11の最上部に位置する用紙Pを挟圧し、前方へ送り出すように構成されている。
【0020】
送り出された用紙Pは、下側に配置された搬送ローラー15と、上側に配置された従動ローラー17と、からなる搬送ローラー機構19に至る。搬送ローラー15は、後述するように本発明の搬送ローラーの一実施形態となるものである。
また、この搬送ローラー15と従動ローラー17と、さらに搬送ローラー15を回転駆動する駆動装置とにより、搬送ユニット10が構成される。
そして、搬送ローラー機構19に至った用紙Pは、搬送ローラー15の回転駆動によって印刷処理に伴う精密で正確な搬送(紙送り)動作を受けつつ、搬送ローラー機構19の下流側に位置する印字ヘッド(印刷部)21へ搬送されるようになっている。
【0021】
印字ヘッド21は、キャリッジ23に保持されており、キャリッジ23は、給紙方向(用紙Pの搬送方向)と直交する方向に往復移動するよう構成されている。
印字ヘッド21と対向する位置には、プラテン24が配設されており、プラテン24は、キャリッジ23の移動方向に沿って間隔をあけて配置された、複数のダイヤモンドリブ25によって構成されている。
ダイヤモンドリブ25は、印字ヘッド21によって用紙Pに印刷を行う際に、用紙Pを下側から支持するものであり、詳しくは、ダイヤモンドリブ25の頂面が支持面として機能するようになっている。
なお、印字ヘッド21による印字処理(印刷処理)は、制御部CONTによって制御されるようになっている。
【0022】
印字ヘッド21とダイヤモンドリブ25との距離は、用紙Pの厚さに応じて調節可能になっており、これによって用紙Pは、ダイヤモンドリブ25の頂面上を滑らかに通過しつつ、高品質に印刷されるようになっている。
印字ヘッド21で印刷された用紙Pは、排紙部7に設けられる排紙ローラー29によって順次排出されるようになっている。
排紙ローラー機構27は、下側に配置された排紙ローラー29と上側に配置された排紙ギザローラー31とを備えて構成されたもので、排紙ローラー29の回転駆動によって用紙Pを引き出し、排出するようになっている。
【0023】
ここで、搬送ローラー機構19及び排紙ローラー機構27における、搬送ローラー15、排紙ローラー29の駆動系、及び両ローラー15、29の駆動速度の関係について説明する。
プリンター本体3には、図2(A)、(B)に示すように、前述の制御部CONTの制御下で駆動される搬送モーター(駆動装置)32が設けられている。
この搬送モーター32の駆動軸にはピニオン33が設けられており、ピニオン33には搬送駆動ギア35が歯合しており、搬送駆動ギア35には前述の搬送ローラー15が内挿されて連結されている。このような構成のもとに搬送モーター32は、搬送ローラー15を回転駆動する駆動装置となっている。
【0024】
また、搬送ローラー15には、搬送駆動ギア35と同軸にインナーギア39が設けられており、このインナーギア39には中間ギア41が歯合しており、中間ギア41には排紙駆動ギア43が歯合している。
排紙駆動ギア43の回転軸は、図2(a)に示すように排紙ローラー29の軸体45となっている。このような構成のもとに、搬送ローラー機構19の搬送ローラー15と排紙ローラー機構27の排紙ローラー29とは、同一の駆動源である搬送モーター32からの回転駆動力を受け、駆動されるようになっている。
【0025】
なお、排紙ローラー29の回転速度は、前述の各ギアのギア比を調整することにより、搬送ローラー15の回転速度より速くなるように設定されている。したがって、排紙ローラー機構27の排紙速度は、搬送ローラー機構19の搬送速度より増速率sだけ速くなっている。
また、搬送ローラー機構19による用紙Pの挟持力(押圧力)は、排紙ローラー機構27による挟持力(押圧力)よりも大きく設定されている。したがって、搬送ローラー機構19と排紙ローラー機構27とが共に用紙Pを挟持しているとき、その用紙搬送速度は、排紙ローラー機構27の排紙速度とは関係なく、搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されるようになっている。
【0026】
次に、本発明に係る搬送ローラー15を備えてなる、搬送ローラー機構19について説明する。
図3(a)及び図3(b)は、搬送ローラー15及び従動ローラー17からなる搬送ローラー機構19の概略構成を示す図である。
搬送ローラー15は、亜鉛メッキ鋼板やステンレス板等の金属板がプレス加工されて円筒状に形成されたローラー本体16と、このローラー本体16の表面に設けられた高摩擦層50とを備えてなるものである。ここで、ローラー本体16は、本発明における円筒軸の一実施形態となるものである。
【0027】
また、この搬送ローラー15は、その両先端側が軸受70に回転可能に保持されている。そして、特に前述のインナーギア39や搬送駆動ギア35に連結された側の端部には、これらインナーギア39や搬送駆動ギア35に回転不能に係合し連結するための係合部(図示せず)が形成されている。
【0028】
なお、搬送ローラー15には、種々の連結部品に連結するため、後述するように種々の形態の係合部が形成可能になっている。また、高摩擦層50は、この例ではローラー本体16の両端部を除く中央部に選択的に形成されている。
【0029】
また、ローラー本体(円筒軸)16は、金属板がプレス加工され、対向する一対の端部(端面)が互いに近接させられ、あるいは当接させられて円筒状に形成されたものである。したがって、このローラー本体16は、一対の端部間に繋ぎ目80(図3(b)参照)が形成されているが、この繋ぎ目80には、通常は一対の端部(端面)間が僅かながら離間することにより、隙間が形成されている。本実施形態では、ローラー本体16の径は例えば5mm〜20mm程度に形成されており、厚さは例えば0.3mm〜0.8mm程度に形成されている。勿論、当該寸法は一例であり、当該寸法とは異なる寸法に形成されていても構わない。
【0030】
従動ローラー17は、第1従動ローラー17a及び第2従動ローラー17bを有している。第1従動ローラー17aは、例えば搬送ローラー15の中心軸16aの方向(中心軸方向)に沿って複数(例えば6個)設けられており、複数の第1従動ローラー17aが同軸に配列されて構成されている。第1従動ローラー17aは、搬送ローラー15の高摩擦層50に対向して該高摩擦層50に当接する位置に配置されたものである。これら第1従動ローラー17aには、付勢バネ(図示せず)が取り付けられており、これによって第1従動ローラー17aは、搬送ローラー15側に付勢されている。したがって、第1従動ローラー17aは、搬送ローラー15の高摩擦層50に所定の押圧力(用紙Pに対する挟持力)で接し、搬送ローラー15の回転動作に従動して回転するようになっている。
【0031】
また、搬送ローラー15と第1従動ローラー17aとの間で用紙Pを挟持する力が大きくなり、用紙Pの搬送性がより良好になっている。なお、この第1従動ローラー17aの表面には、高摩擦層50との摺接による損傷を緩和するため、例えばフッ素樹脂塗装等の低摩耗処理が施されている。
【0032】
第2従動ローラー17bは、第1従動ローラー17aによって押圧される搬送ローラー15を支持する。第2従動ローラー17bは、搬送ローラー15を支持することで当該搬送ローラー15の回転が伝達されるようになっている。したがって、第2従動ローラー17bは、搬送ローラー15の回転に伴って回転するようになっている。
【0033】
第2従動ローラー17bは、例えば第1従動ローラー17aとの間で搬送ローラー15を挟む位置に設けられている。このため、第2従動ローラー17bは、第1従動ローラー17aによる押圧力を受ける位置に配置されていることになる。第2従動ローラー17bは、第1従動ローラー17aによる押圧力を受けることで搬送ローラー15を支持するようになっている。
【0034】
搬送ローラー15は、金属板がプレス加工されて円筒状に形成される際に応力が残留した状態となっている場合がある。時間の経過により当該残留応力が緩和されると、搬送ローラー15が変形する場合がある。一方、搬送ローラー15には、第1従動ローラー17aからの押圧力と、第2従動ローラー17bからの反作用力(支持力)とが加わった状態になっている。この2つの力により、搬送ローラー15の残留応力の緩和による影響が抑制されるようになっている。
【0035】
本実施形態では、第2従動ローラー17bの位置は固定されており、特に搬送ローラー15側への付勢機構は設けられていない構成となっている。勿論、第2従動ローラー17bにそのような付勢機構を取り付けた構成としても構わない。この第2従動ローラー17bを、例えば搬送ローラー15の中心軸を挟む位置に設けるようにする構成は、第1従動ローラー17aによる押圧力と第2従動ローラー17bによる反作用力とが搬送ローラー15に最も効率的に加わることになるため好ましい構成であるといえる。
【0036】
第2従動ローラー17bは、搬送ローラー15の中心軸方向においては例えば高摩擦層50に対向する位置に設けられており、当該高摩擦層50に当接されている。より具体的には、図3(a)に示すように、第2従動ローラー17bは、搬送ローラー15の中心軸方向において、例えば高摩擦層50のほぼ中央に対向する位置に設けられている。
【0037】
〔搬送ローラー15(ローラー本体16)の第1実施形態〕
次に、搬送ローラー15(ローラー本体16)の第1実施形態についての詳細な説明として、図4〜図12を用いて、その詳細構造及び製造方法について説明する。
【0038】
搬送ローラー15を製造するには、まず、図4(a)に示すように、矩形板状または帯状の大型金属板(第1金属板)65を用意する。この大型金属板65としては、例えば厚さ1mm程度の亜鉛メッキ鋼板が用いられる。
続いて、この大型金属板65をプレス加工することで切断処理し、図4(b)に示すように、前述のローラー本体16に対応する大きさの細長い略矩形板状の金属板(第2金属板)60、すなわちローラー本体16の基材となる金属板60を形成する。
【0039】
ただし、この大型金属板65をプレス加工するに際しては、前述の切断処理と同時に、前述した一対の端部間に形成される繋ぎ目において矩形波状の折曲部を形成するべく、対向する一対の長辺となる端部61a、61bの長さ方向全域に、矩形波状の凹凸部110を形成する。
なお、これら一対の長辺(端部61a、61b)は、プレス加工によって近接させられ、あるいは当接させられるため、当然ながら互いに対応する(対向する)箇所間では、一方の長辺の凹凸部110が凸部となる場合に、他方の長辺の凹凸部110では凹部となるように形成する。また、逆に一方の長辺の凹凸部110が凹部となる場合に、他方の長辺の凹凸部110では凸部となるように形成する。
また、このような金属板60の形成に際しては、一対の長辺(端部61a、61b)をプレス加工によって近接させた際、その間に形成される繋ぎ目においてこれに形成される隙間、すなわち互いに対向する端部(端面)間の距離が、各部位間において後述するような関係になるように寸法等を設計しておき、これに基づいてプレス加工を行う。
【0040】
次いで、金属板60を図5(a)〜(c)、図6(a)〜(c)のプレス加工工程図に示すように円筒状(パイプ状)にプレス加工し、その両側(長辺側)の端部61a、61bを近接させ、あるいは当接させる。
すなわち、まず、図5(a)に示す雄型101と雌型102とで金属板60をプレス加工し、金属板60の両側部62a、62bを円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。
なお、図5(a)においては、各部材を分かりやすくするため、金属板60と雄型101と雌型102との間にそれぞれ間隔を開けてこれらの部材を記しているが、この間隔は実際には存在せず、金属板60と雄型101、雌型102とはそれぞれの接触部においてほぼ密着している。これは、後述する図5(b)、(c)、図6(a)〜(c)においても同様である。
【0041】
続いて、図5(a)で得られた金属板60の幅方向(曲げ方向)における中央部を、図5(b)に示す雄型103と雌型104とでプレス加工し、円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。
次いで、図5(c)に示すように、図5(b)で得られた金属板60の内部に芯型105を配置し、図5(c)に示す上型106と下型107とを用いて、図6(a)〜(c)に示すようにして金属板60の両側部62a、62bの各端面(端部)61a、61bを近接させる。
【0042】
ここで、図5(c)および図6(a)〜(c)に示す芯型105の外径は、形成する円筒状の中空パイプの内径と等しくしてある。また、上型106のプレス面106cの半径と下型107のプレス面107aの半径は、それぞれ、形成する中空パイプの外径の半径と等しくしてある。また、図6(a)〜(c)に示すように上型106は左右一対の割型であり、これら割型106a、106bは、それぞれ独立して昇降可能に構成されている。
【0043】
すなわち、図5(c)に示す状態から、図6(a)に示すように右側の割型106aを下型107に対して相対的に下降させ(以下、同様に型の移動は相対的移動を意味する)、金属板60の一方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。なお、下型107も上型106と同様左右一対の割型とし(割面107b参照)、この図6(a)に示す工程の際に、同じ側の下型を上昇させてもよい。
次いで、図6(b)に示すように、割型106aを少し(一方の側の端部61aと他方の側の端部61bとを近接させることができる程度に)下降させるとともに、他方の側の割型106bを下降させ、金属板60の他方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。
【0044】
その後、図6(c)に示すように、芯型105および上型106(割型106a、106b)をともに下降させ、円筒状の中空パイプ(ローラー本体16)を形成する。この状態で左右両側の端部61a、61bは、僅かな隙間を介して十分に近接し、あるいは部分的に当接した状態となる。すなわち、この円筒状の中空パイプにあっては、基材である金属板60の両端部61a、61bが互いに近接しあるいは当接したことにより、これら両端部61a、61b間に繋ぎ目が形成されている。したがって、この繋ぎ目には、通常は両端部61a、61bが僅かながら離間していることで隙間を有したものとなる。
【0045】
次いで、本実施形態では、形成した中空パイプ(ローラー本体16)の真円度を高め、振れを少なくするべく、従来公知のセンターレス研磨加工を行い、前述の中空パイプ(ローラー本体16)の外周面を研磨する。
すると、この中空パイプは、センターレス研磨加工前に比べその真円度がより良好になり、また、振れ量も小さいローラー本体16、すなわち本発明に係る円筒軸となる。また、このローラー本体(円筒軸)16にあっては、前述の両端部61a、61b間がより狭まることで、図7に示すようにこれら両端部61a、61b間の隙間がより狭くされた繋ぎ目80が形成される。
【0046】
なお、前述のプレス加工やセンターレス研磨加工では、金属板60の両端部61a、61b間の隙間が無くなるように、すなわち、両端部61a、61bが互いに当接するようにするのが好ましい。
しかしながら、得られる中空パイプ(ローラー本体16)の真円度や振れ量を良好にしつつ、この隙間を完全に無くすのは非常に困難であり、したがって、現状ではある程度の隙間が形成されるようになる。
【0047】
このようにして形成される繋ぎ目80には、図4(b)に示した凹凸部110が嵌合したことにより、図7に示したようにローラー本体16の長さ全体に亘って矩形波状の折曲部81が形成されている。
【0048】
この折曲部81(繋ぎ目80)は、図8に示すように、ローラー本体(円筒軸)16の中心軸16aに交差する複数の交差部82と、隣り合う一対の交差部82、82の一方の側の端部間を結ぶ第1直線部83aと、他方の側の端部間を結ぶ第2直線部83bとからなっている。
ここで、第1直線部83aおよび第2直線部83bはローラー本体16の中心軸16aに略平行となるように形成し、交差部82はこれら第1直線部83aおよび第2直線部83bと直交するように、つまりローラー本体16の中心軸に略直交するように形成する。
また、第2直線部83bは第1直線部83aより短く形成する。
【0049】
そして、このローラー本体(円筒軸)16では、特に第2直線部83bにおいて互いに対向する一対の端部間の距離d3を、第1直線部83aにおいて互いに対向する一対の端部間の距離d4より長く形成する。なお、ここでいう一対の端部間の距離d3、d4は、後述するように、いずれもローラー本体16における外周面に形成される隙間における端部間の距離とする。
【0050】
このようにすれば、ローラー本体16の、円筒状中空パイプとしての形状や寸法の精度をより高くすることができ、したがって、ローラー本体16の変形等に起因する搬送ムラを防止することができる。すなわち、このようなローラー本体16を形成するための基材となる金属板では、第2直線部83bを構成する一方の端部は、隣り合う一対の交差部82、82とこれらの端部間を結ぶ第2直線部83bとを外形とする凸片88となる。
したがって、金属板をプレス加工してこの凸片88を対向する端部に近接させようとした際、図9(a)中に二点鎖線で示すように、この凸片88の先端側が円周面状に十分に曲げられずに、対向する端部に対して寸法t1分浮いた状態になる。その結果として、この第2直線部83bおいて段差を形成してしまう。すると、この段差に起因して、得られるローラー本体16には変形等が生じ易くなり、形状や寸法について良好な精度が得られにくくなってしまう。
【0051】
そこで、この第2直線部83bにおける端部間の距離d3を、この第2直線部83bより長く形成されている第1直線部83aにおける端部間の距離d4よりも長くする。これにより、図9(a)中に実線で示すように、凸片88の先端側が外側に浮く分の寸法t2が前述のt1に比べて少なく(小さく)なり、これによって第2直線部83bにおいて段差が形成されるのを抑えることができる。
なお、図9(a)では、理解を容易にするため寸法t2も大きく記しているが、実際にはこの寸法t2はほとんど零に近くなり、実質的な段差がなくなるようになる。つまり、このように第2直線部83bにおいて段差が形成されるのを抑えることにより、この段差に起因するローラー本体16の変形等を抑え、形状や寸法についての精度を高めることができるのである。
【0052】
なお、このような折曲部81からなる繋ぎ目80は、金属板60の外周面と内周面とが同じ寸法(幅)であることにより、特に一対の端部(端面)61a、61b間の距離が短い第1直線部83aでは、図9(b)に示すように、ローラー本体16の外周面側で相対的に広く、内周面側で相対的に狭くなっている。
すなわち、これら一対の端部61a、61b間の、ローラー本体16の外周面側での距離d1は、内周面側での距離d2に比べて大になっている。具体的には、本実施形態では外周面側での距離d1(=d4)は20μm程度となり、内周面側での距離d2は8μm程度となっている。
なお、この第1直線部83aより一対の端部(端面)61a、61b間の距離が長い第2直線部83bでは、外周面側での距離d1(=d3)は30μm程度となり、内周面側での距離d2は10μm程度となっている。
【0053】
このようにして本発明に係る円筒軸となるローラー本体16を形成したら、図3に示したようにこのローラー本体16の表面に高摩擦層50を形成する。
この高摩擦層50の形成方法としては、乾式法及び湿式法(またはこれらを併用した方法)が採用可能であるが、本実施形態では乾式法が好適に採用される。具体的には、まず、高摩擦層50の形成材料として、樹脂粒子と無機粒子とを用意する。樹脂粒子としては、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂等からなる、直径10μm程度の微粒子が好適に用いられる。
【0054】
また、無機粒子としては、酸化アルミニウム(アルミナ;Al2O3)や炭化珪素(SiC)、二酸化珪素(SiO2)等のセラミックス粒子が好適に用いられる。中でもアルミナは、比較的硬度が高く摩擦抵抗を高める機能が良好に発揮され、また、比較的安価であってコストダウンを妨げることもないため、より好適に用いられる。したがって、本実施形態では無機粒子としてアルミナ粒子を用いるものとする。
このアルミナ粒子としては、破砕処理によって所定の粒径分布に調整されたものが用いられる。破砕処理によって製造されることにより、このアルミナ粒子は端部が比較的鋭く尖ったものとなり、この鋭く尖った端部によって高い摩擦力を発揮するようになる。
【0055】
また、このアルミナ粒子としては、本実施形態では粒径が15μm以上90μm以下の範囲とされ、かつ、中心径となる加重平均の粒径(平均粒径)が、45μmとなるように調整されたものが用いられている。
すなわち、本発明では、アルミナ粒子(無機粒子)としてその平均粒径(中心径)が、前述の繋ぎ目80の外周面側での距離d1(30μm)より大となるものが用いられる。
また、特にその粒径分布(粒度範囲)については、繋ぎ目80の外周面側での距離d1より小となり、かつ、内周面側での距離d2(10μm)より大となる粒子を含んでいるのが好ましい。さらに、その粒径分布における最小粒径が、繋ぎ目80における一対の端部61a、61b間の最短距離、例えば内周面側での距離d2より大であるのが好ましい。
【0056】
このような樹脂粒子と無機粒子とを用意したら、まず、ローラー本体16に前述の樹脂粒子を塗布する。すなわち、ローラー本体16を塗装ブース(図示せず)内に配置し、さらにこのローラー本体16を単体の状態で例えば−(マイナス)電位にしておく。
そして、樹脂粒子を、静電塗装装置(図示せず)のトリボガンを用いてローラー本体16に向けて噴霧(噴出)し吹き付けつつ、この噴霧粒子(樹脂粒子)を+(プラス)高電位に帯電させる。すると、この帯電された樹脂粒子はローラー本体16の外周面に吸着され、樹脂膜を形成する。
【0057】
ここで、樹脂粒子の吹付による樹脂膜の形成は、図3に示した高摩擦層50の形成領域に対応させる。すなわち、ローラー本体16の全長に亘って行うことなく、例えばその両端部をテープ等でマスキングしておくことにより、図10(a)に示すようにこの両端部を除いた中央部のみに行う。つまり、このローラー本体16からなる搬送ローラー15の、少なくとも搬送する用紙(媒体)Pに接触する領域となる中央部に対応する領域にのみ、選択的に樹脂膜51を形成する。
なお、図10(a)及び後述する図10(b)、(c)では、繋ぎ目80については図示を省略している。
【0058】
樹脂膜51には、吹付塗装後に+0.5KV程度の微弱な静電気が残存する。なお、この吹付塗装に際しては、ローラー本体16を軸廻りに回転させることにより、その全周に亘って樹脂膜51をほぼ均一な厚さに形成する。この樹脂膜51の膜厚については、前述のアルミナ粒子の粉径を勘案して、例えば10μm〜30μm程度に形成する。このような膜厚については、樹脂粒子の噴出量及び噴出時間等によって適宜に調整することができる。
【0059】
次いで、この樹脂膜51を形成したローラー本体16を前述の塗装ブースから取り出し、ハンドリングロボット(図示せず)によって図11に示す別の塗装ブース90に移す。
この塗装ブース90には、その下部に一対の回転駆動部材91、91が設けられており、これら回転駆動部材91、91には、ローラー本体16を略水平に支持するためのチャック92が設けられている。
そして、ローラー本体16の両端部をチャック92、92に保持させて固定し、さらに回転駆動部材91によってチャック92、92を回転させる。これにより、ローラー本体16をその軸廻りに、例えば100rpm〜500rpm程度の低速でゆっくり回転駆動させる。なお、ローラー本体16については、若干斜めに支持してもよいのはもちろんである。
【0060】
また、塗装ブース90には、その上部にコロナガン93が配置されており、このコロナガン93は、シャフト94上を図11中左右方向に移動するようになっている。また、塗装ブース90の底部には排気機構90aが設けられている。これにより、塗装ブース90内には下方に向かうゆっくりとした気流が形成されるようになっている。なお、この排気機構94の吸引風量は適宜に設定されるようになっている。
【0061】
このような構成のもとに、ローラー本体16をその軸廻りに回転させつつ、コロナガン93から前述のアルミナ粒子95を噴霧し吹き付けることにより、ローラー本体16に形成した樹脂膜51上に、アルミナ粒子95を選択的に静電吸着させる。アルミナ粒子を樹脂膜51上に選択的に静電吸着させるには、樹脂膜51の形成と同様に、ローラー本体16の両端部をテープ等でマスキングしておくことで行う。
【0062】
この静電塗装時には、チャック92及び回転駆動部材91の表面電位が、ローラー本体16の電位とほぼ等しくなり、しかも塗装ブース90の内面電位が、電気的に中立で略零電位となるように設定する。コロナガン93からのアルミナ粒子95が、ローラー本体16以外の部位に吸着されないようにするためである。この塗装ブース90の内表面電位を電気的に中立に保持するためには、塗装ブース90を、内表面電気抵抗が例えば1011Ω程度の鋼板を用いて製造するのが望ましい。
【0063】
そして、コロナガン93にかける電位を零Vとし、さらにこのコロナガン93に供給するエアーの圧力を0.2Mpa程度に低く設定する。次いで、このコロナガン93を図10中の左右方向に移動させつつ、上方より略零電位のアルミナ粒子95を吹き出させ、アルミナ粒子95を自重で鉛直方向に自然落下させる。
すると、前述したように、ローラー本体16の樹脂膜51には、静電塗装によって形成されたことで微弱な静電気(約+0.5KV)が残存しているため、この静電気によってアルミナ粒子95が樹脂膜51の全周にほぼ均一に静電吸着する。このようにして静電吸着したアルミナ粒子95は、樹脂膜51表面に当接しさらに一部入り込んだ状態で、この樹脂膜51をバインダとしてローラー本体16の外周面に付着する。
【0064】
ここで、本実施形態では塗装ブース90の内面電位が電気的に中立で略零電位となっており、しかも塗装ブース90内の気流が下向きにゆっくりとした流れに形成されているので、アルミナ粒子95はその自重によって鉛直方向下方に自然落下する。落下方向の下方には、水平支持されたローラー本体16がその軸廻りにゆっくり回転しているので、このローラー本体16の外周面には、アルミナ粒子95がほぼ均一に散布される。
【0065】
したがって、特にマスキングされていない樹脂膜51の表面にアルミナ粒子95が均一に付着し、これによってローラー本体16には、図10(b)に示すようにその中央部の樹脂膜51中に、アルミナ粒子(無機粒子)95が分散し露出する。すなわち、アルミナ粒子95は、静電吸着力によって樹脂膜51に当接した際、この樹脂膜51中に一部が入り込み、残部が樹脂膜51の表面から突き出た状態になる。その際、アルミナ粒子95はローラー本体16の表面に対して垂直に立った状態になり易いため、アルミナ粒子95は均一に分布され、その殆どが鋭く尖った端部(頂部)を外側に向けて付着する。
【0066】
したがって、アルミナ粒子95は樹脂膜51の表面から突き出た端部により、高い摩擦力を発揮するようになる。ここで、アルミナ粒子95が用紙Pに対して必要かつ十分な摩擦力を発揮するには、樹脂膜51の面積に対して、アルミナ粒子95の占める面積が20%〜80%となるようにするのが好ましい。
なお、このアルミナ粒子95の塗布(散布)については、アルミナ粒子95が鉛直方向下方にゆっくりと散布されるのであれば、静電塗装法による塗布に限定されるものではなく、例えばスプレーガンを用いた塗布(散布)法であってもよい。
【0067】
このようにしてアルミナ粒子95を樹脂膜51上に散布し付着させたら、このローラー本体16を180℃〜300℃程度の温度で20分〜30分間程度加熱し、樹脂膜51を焼成し硬化させる。これにより、アルミナ粒子95をローラー本体16に固着する。こうして、図10(c)に示すように樹脂膜51中にアルミナ粒子(無機粒子)95が分散し露出してなる高摩擦層50が形成され、本発明に係る搬送ローラー15が得られる。
なお、本実施形態では、樹脂粒子の塗布(吹付)とアルミナ粒子(無機粒子)の塗布(吹付)とを別々の塗装ブースで実施したが、同一の塗装ブース内で行ってもよいのはもちろんである。
【0068】
このようにして高摩擦層50を形成すると、特に図7、図8に示した繋ぎ目80には、金属板60の端部(端面)61a、61b間の隙間に起因する溝が形成されることなく、端部61a、61b間の隙間が主にアルミナ粒子95によって埋め込まれる。
すなわち、アルミナ粒子95としてその平均粒径が、繋ぎ目80の、外周面側での距離d1より大となるものを用いているので、アルミナ粒子95はその大半が繋ぎ目80内に入り込むことなく、図11に示すようにローラー本体16の外周面上に樹脂膜51を介して付着している。したがって、繋ぎ目80には金属板60の端部61a、61b間に隙間が形成されているにもかかわらず、アルミナ粒子95がこの隙間上を覆うことにより、この隙間に起因する溝が実質的に形成されなくなる。
【0069】
また、アルミナ粒子95として、前述の繋ぎ目80の外周面側での距離d1より小となり、かつ、内周面側での距離d2(10μm)より大となる粒子95aを含む粒径分布(粒度範囲)のものを用いているので、このような粒子95aが繋ぎ目80に形成された隙間に入り込んでここに留まることにより、繋ぎ目80による溝が確実に形成されなくなる。
また、使用時等において、ローラー本体16(搬送ローラー15)に前述の隙間を狭める方向に力が働いても、ここに入り込んだアルミナ粒子95aがこの力に抗するため、ローラー本体16(搬送ローラー15)の変形が抑えられる。したがって、この搬送ローラー15を備えた搬送ローラー機構19にあっては、搬送ローラー15の変形に起因する搬送ムラが防止される。
【0070】
このような搬送ローラー15を構成するローラー本体(円筒軸)16にあっては、一対の端部61a、61b間に形成された繋ぎ目80を、図8に示したように、第2直線部83bにおいて互いに対向する一対の端部間の距離d3が、第1直線部83aにおいて互いに対向する一対の端部間の距離d4より長くなるように形成しているので、円筒状中空パイプとしての形状や寸法についての精度がより高くなる。
【0071】
すなわち、図9中に実線で示したように、第2直線部83bを形成する凸片88の先端側が外側に浮く分の寸法t2を、図9中に二点鎖線で示した寸法t1に比べて少なく(小さく)することができ、これによって第2直線部83bにおいて段差が形成されるのを抑えることができる。
そして、このように第2直線部83bにおいて段差が形成されるのを抑えることにより、この段差に起因するローラー本体16の変形等を抑え、形状や寸法についての精度を高めることができる。
【0072】
また、折曲部81における第1直線部83a、第2直線部83bを、ローラー本体16の中心軸16aに略平行に形成しているので、基材となる金属板60をプレス加工した際、繋ぎ目80の全長に亘って対向する一対の端部61a、61b間を、比較的精度良く近接させあるいは当接させることができる。
また、折曲部81における交差部82を、ローラー本体16の中心軸16aに対して略直交する方向に延在させているので、金属板60をプレス加工した際に、該交差部82において対向する端部間を、比較的精度良く近接させあるいは当接させることができる。
【0073】
そして、このようなローラー本体16に高摩擦層50を形成してなる搬送ローラー15は、金属板60が円筒状にプレス加工されてなるローラー本体(円筒軸)16を用いていることにより、中実の丸棒材を用いた場合に比べてコストダウン及び軽量化が可能になる。また、アルミナ粒子95(無機粒子)を含有してなる高摩擦層50が設けられていることにより、良好な搬送力を発揮するものとなる。さらに、ローラー本体16が前述したように形状や寸法についての精度がより高くなっているので、精度が不十分であることに起因する搬送ムラも抑制されたものとなる。
【0074】
また、一般にローラー本体16(搬送ローラー15)の両先端側は、歯車などの駆動系の連結部品を取り付けるための部位となり、用紙P(記録媒体)に直接接触するのは、ローラー本体16の中央部となる。したがって、本実施形態では、前述の高摩擦層50をローラー本体16の両端部を除く中央部、すなわち用紙(媒体)Pに接触する領域に設けているので、用紙Pの搬送性能を低下させることなく、高摩擦層50の材料コストを最小限に抑えることができる。
【0075】
以上のように、本実施形態によれば、第1従動ローラー17aによって押圧される搬送ローラー15を第2従動ローラー17bによって支持するため、搬送ローラー15の回転を妨げることなく、第1従動ローラー17a及び第2従動ローラー17bの双方から搬送ローラー15に対して押圧力及び反作用力を加えることができる。このようにして搬送ローラー15に働く当該押圧力及び反作用力により、残留応力の緩和の影響が抑制されることとなる。これにより、搬送ローラー15の変形を抑えることができるので、搬送不良を防ぐことができる搬送ユニット10を提供することができる。
【0076】
また、本実施形態によれば、搬送不良を防ぐことができる搬送ユニット10を用いて被搬送媒体である用紙Pを搬送しつつ印刷を行うことができるため、高精度の印刷が可能なインクジェットプリンター1を提供することができる。
【0077】
〔搬送ローラー15(ローラー本体16)の第2実施形態〕
次に、搬送ローラー15(ローラー本体16)の第2実施形態についての詳細な説明として、図13〜図15を用いて、その詳細構造及び製造方法について説明する。
なお、第1実施形態と同一の構成、製造方法等については、その説明を省略又は簡単にする。
【0078】
第2実施形態に係る搬送ローラー15を製造するには、まず、図13(a)に示すように矩形板状または帯状の大型金属板(第1金属板)65を用意する。続いて、この大型金属板65をプレス加工することで切断処理し、図13(b)に示すように、前述のローラー本体16に対応する大きさの細長い略矩形板状の金属板(第2金属板)60、すなわちローラー本体16の基材となる金属板60を形成する。
【0079】
ただし、この大型金属板65をプレス加工するに際しては、前述の切断処理と同時に、前述した一対の端部間に形成される繋ぎ目において折曲部を形成するべく、対向する一対の長辺となる端部61a、61bの、長さ方向における両端部に、矩形波状の凹凸部110を形成する。また、各長辺(端部61a、61b)においては、その両端部に形成した凹凸部110間、つまり中央部に直線部111を形成する。
【0080】
次いで、第1実施形態と同様に、金属板60を図5(a)〜(c)、図6(a)〜(c)のプレス加工工程図に示すように円筒状(パイプ状)にプレス加工し、その両側(長辺側)の端部61a、61bを近接させ、あるいは当接させる。
【0081】
また、第1実施形態と同様に、プレス加工により形成した中空パイプ(ローラー本体16)の真円度を高め、振れを少なくするべく、センターレス研磨加工を行い、中空パイプ(ローラー本体16)の外周面を研磨する。
【0082】
このようにして形成される繋ぎ目80には、図13(b)に示した凹凸部110が嵌合したことにより、図14(a)に示したように、ローラー本体16の両端部に矩形波状の両端折曲部85が形成されている。また、これら両端折曲部85間には、図13(b)に示した直線部111が近接していることにより、中央直線部84が形成されている。この中央直線部84は、後述する高摩擦層と対応する領域、すなわち、少なくとも高摩擦層を形成する領域を含んで形成されている。
【0083】
この繋ぎ目80は、前述の金属板60の外周面と内周面とが同じ寸法(幅)であることにより、例えば中央直線部84では、図14(b)に示すように、一対の端部(端面)61a、61b間の距離が、ローラー本体16の外周面側で相対的に広く、内周面側で相対的に狭くなっている。
すなわち、これら一対の端部61a、61b間の、ローラー本体16の外周面側での距離d1は、内周面側での距離d2に比べて大になっている。具体的には、本実施形態では外周面側での距離d1は30μmとなり、内周面側での距離d2は10μmとなっている。
【0084】
また、前記両端折曲部85は、図15(a)に示すように、ローラー本体16の中心軸16aと略平行な連結直線部87(第1直線部87a、第2直線部87b)と、これに直交し、したがって中心軸16aに略直交する直線状の交差部86とからなっている。
すなわち、繋ぎ目80において両端部に形成した両端折曲部85は、直線状の複数の交差部86と、交差部86の一方の側の端部間を結ぶ第1直線部87aと、他方の側の端部間を結ぶ第2直線部87bと、からなるように形成されている。
ここで、連結直線部87のうちの第1直線部87aは、中央直線部84と同一直線上に形成されている。また、この第1直線部87aは、連結直線部87のうちの他方の第2直線部87bより長く形成されている。
【0085】
そして、本実施形態では、この両端折曲部85において、一対の交差部86、86と第2直線部87bとによって形成される凸片88の先端部となる第2直線部87b側の、互いに対向する一対の端部間の距離d7を、中央直線部84において互いに対向する一対の端部間の距離d6(=d1)より長く形成している。
また、この第2直線部87bにおける端部間の距離d7については、第1直線部87aにおいて互いに対向する一対の端部間の距離d8よりも長く形成している。ここで、第1直線部87aにおける端部間の距離d8については、中央直線部84における端部間の距離d6と同じかこれより長く形成するのが好ましい。
なお、前述した一対の端部間の距離d6、d7、d8は、いずれもローラー本体16における外周面に形成される隙間における端部間の距離とする。
【0086】
具体的には、本実施形態では中央直線部84における距離d6(=d1)が前述したように30μmであるのに対し、第2直線部87bにおける距離d7は、30μmより長く、例えば40μm以上に形成されている。
このように距離d7を距離d6(=d1)より長く形成しているので、このローラー本体(円筒軸)16にあっては、円筒状中空パイプとしての形状や寸法についての精度がより高くなっている。
【0087】
すなわち、このようなローラー本体16を形成するための基材となる金属板60では、第2直線部87bを構成する一方の端部は、隣り合う一対の交差部86、86とこれらの端部間を結ぶ第2直線部87bとを外形とする凸片88となる。したがって、金属板60をプレス加工してこの凸片88を対向する端部に近接させようとした際、図15(b)中に二点鎖線で示すように、この凸片88の先端側が円周面状に十分に曲げられずに、対向する端部に対して寸法t1分浮いた状態になる。その結果として、この第2直線部87bおいて段差を形成してしまう。すると、この段差に起因して、得られるローラー本体16には変形等が生じ易くなり、形状や寸法について良好な精度が得られにくくなってしまう。
【0088】
そこで、この第2直線部87bにおける端部間の距離d7を、この第2直線部87bより長く形成されている中央直線部84における端部間の距離d6よりも長くする。これにより、図15(b)中に実線で示すように、凸片88の先端側が浮く分の寸法t2が前述のt1に比べて少なく(小さく)なる。したがって、第2直線部87bにおいて段差が形成されるのを抑えることができる。
なお、図15(b)では、理解を容易にするため寸法t2も大きく記しているが、実際にはこの寸法t2はほとんど零に近くなり、実質的な段差がなくなるようになる。つまり、このように第2直線部87bにおいて段差が形成されるのを抑えることにより、この段差に起因するローラー本体16の変形等を抑え、形状や寸法についての精度を高めることができるのである。
【0089】
また、第1直線部87aにおける端部間の距離d8を、中央直線部84における端部間の距離d6と同じに形成した場合、金属板60の、第1直線部87aを構成する両側端と中央直線部84を構成する両側端とを、それぞれ同じラインに合わせることができる。したがって、金属板60のプレス加工を容易にすることができる。
よって、このように構成することにより、得られるローラー本体16の形状や寸法についての精度をより良好にし、変形等を抑えることができる。
【0090】
一方、第1直線部87aにおける端部間の距離d8を、中央直線部84における端部間の距離d6より長く形成した場合には、図15(b)で説明した場合と同様に、この第1直線部87a側を先端部とする凸片89の先端側が浮く分の寸法を少なく(小さく)する。これによって、第1直線部87aにおいて段差が形成されるのを抑えることができる。
【0091】
このようにして、円筒軸となるローラー本体16を形成したら、第1実施形態と同様に、図3に示したようにこのローラー本体16の表面に高摩擦層50を形成する。
なお、樹脂粒子の吹付による樹脂膜の形成は、図3に示した高摩擦層50の形成領域に対応させて、図9(a)に示すように両端折曲部85(両端部)を除いた中央部のみに行う。すなわち、このローラー本体16からなる搬送ローラー15の、少なくとも搬送する用紙(媒体)Pに接触する領域となる中央部、つまり中央直線部84に対応する領域にのみ、選択的に樹脂膜51を形成する。
【0092】
このような搬送ローラー15を構成するローラー本体(円筒軸)16にあっては、一対の端部61a、61b間に形成された繋ぎ目80が、図14(a)に示したように直線状に形成された中央直線部84と、この中央直線部84の両側に形成された両端折曲部85とによって形成されているので、中央直線部84では凹凸による嵌合がなくなる。そのため、繋ぎ目80の全長に亘って凹凸による嵌合部を形成した場合に比べ、ローラー本体16に歪みや捩れ等が生じにくくなり、真円度や振れなど、形状や寸法について良好な精度が得られ易くなる。
【0093】
また、図15(a)に示したように、両端折曲部85における第2直線部87bにおいて互いに対向する一対の端部間の距離d7を、中央直線部84において互いに対向する一対の端部間の距離d6より長く形成しているので、このローラー本体(円筒軸)16にあっては、円筒状中空パイプとしての形状や寸法についての精度がより高くなっている。
【0094】
すなわち、図15(b)中に実線で示したように、第2直線部87bを形成する凸片88の先端側が外側に浮く分の寸法t2を、図15(b)中に二点鎖線で示した寸法t1に比べて少なく(小さく)することができる。これによって第2直線部87bにおいて段差が形成されるのを抑えることができる。
そして、このように第2直線部87bにおいて段差が形成されるのを抑えることにより、この段差に起因するローラー本体16の変形等を抑え、形状や寸法についての精度を高めることができる。
【0095】
また、両端折曲部85における連結直線部87(第1直線部87a、第2直線部87b)を、ローラー本体16の中心軸16aに略平行に形成しているので、これら連結直線部87が中央直線部84と略平行になる。したがって、基材となる金属板60をプレス加工した際、繋ぎ目80の全長に亘って、対向する一対の端部61a、61b間を、比較的精度良く近接させあるいは当接させることができる。
また、前述の連結直線部87における第1直線部87aを、中央直線部84と同一直線上に形成しているので、これによっても、金属板60をプレス加工した際に繋ぎ目の全長に亘って対向する一対の端部間を、比較的精度良く近接させあるいは当接させることができる。
【0096】
また、連結直線部87における第1直線部87aを、他方の第2直線部87bより長く形成しているので、これによっても、金属板をプレス加工した際に繋ぎ目の全長に亘って対向する一対の端部間を、比較的精度良く近接させあるいは当接させることができる。
さらに、連結直線部87の第2直線部87bにおける端部間の距離d7を、第1直線部87aにおける端部間の距離d8より長く形成しているので、特に第1直線部87aにおける端部間の距離d8を中央直線部84における端部間の距離d6と同じにしても、また、これより長くしても、いずれの場合にも、前述したように得られるローラー本体16に変形等が生じるのを抑えることができる。
また、両端折曲部85における交差部86を、ローラー本体16の中心軸16aに対して略直交する方向に延在させているので、金属板60をプレス加工した際に、該交差部86において対向する端部間を、比較的精度良く近接させあるいは当接させることができる。
【0097】
したがって、第2実施形態に係るローラー本体16(搬送ローラー15)は、第1実施形態と同様に、金属板60が円筒状にプレス加工されてなるローラー本体(円筒軸)16を用いていることにより、中実の丸棒材を用いた場合に比べてコストダウン及び軽量化が可能になる。また、アルミナ粒子95(無機粒子)を含有してなる高摩擦層50が設けられていることにより、良好な搬送力を発揮するものとなる。さらに、ローラー本体16が前述したように形状や寸法についての精度がより高くなっているので、精度が不十分であることに起因する搬送ムラも抑制されたものとなる。
【0098】
また、一般にローラー本体16(搬送ローラー15)の両先端側は、歯車などの駆動系の連結部品を取り付けるための部位となり、用紙P(記録媒体)に直接接触するのは、ローラー本体16の中央部となる。したがって、本実施形態では、高摩擦層50をローラー本体16の両端折曲部85を除く中央直線部84、すなわち用紙(媒体)Pに接触する領域に設けているので、用紙Pの搬送性能を低下させることなく、高摩擦層50の材料コストを最小限に抑えることができる。
【0099】
次に、第1実施形態及び第2実施形態に係るローラー本体16(搬送ローラー15)の両先端側に形成される係合部について、図16〜図20を用いて説明する。
ローラー本体16(搬送ローラー15)の両先端側には、その一方あるいは両方に、図2に示した搬送駆動ギア35やインナーギア39など、種々の連結部品に連結するための係合部が形成可能になっている。
例えば、図16(a)、(b)に示すように、円筒状のパイプ(中空パイプ)からなるローラー本体16の相対向する位置、すなわちローラー本体16の直径を規定する二点の形成面に、それぞれ貫通孔71a、71aを形成する。そして、これら一対の貫通孔71a、71aを含んでなる係合孔(係合部)71を形成する。この係合孔71によれば、歯車等の連結部品72を軸やピン等(図示せず)によって固定することができる。
【0100】
また、図17(a)、(b)に示すように、ローラー本体16の端部にDカット状の係合部73を形成することもできる。この係合部73は、円筒状の中空パイプ(ローラー本体16)の端部に形成されたもので、図17(a)に示すようにその一部が平面視矩形状に切り欠かれて開口73aを形成する。これによって、図17(b)に示すように端部側面の外形が見掛け上D状に形成されたものである。
【0101】
したがって、歯車等の連結部品(図示せず)を、この見掛け上D状に形成された係合部73に係合させることにより、該連結部品をローラー本体16(搬送ローラー15)に対し空回りさせることなく、取り付けることができる。また、この係合部73については、中空パイプ(ローラー本体16)の内部孔に通じる溝状の開口73aが形成されていることから、この開口73aを利用することによっても、連結部品をローラー本体16に対し空回りさせることなく取り付けることができる。具体的には、連結部品に凸部を形成しておき、この凸部を前述の開口73aに嵌合させることにより、空回りを防止することができる。
【0102】
また、図18(a)、(b)に示すように、ローラー本体16の端部に溝74aとDカット部74bとを有した係合部74を形成することもできる。この係合部74において、Dカット部74bはローラー本体16の外端に形成されており、溝74aはDカット部74bより内側に形成されている。溝74aは、図18(a)に示すように、ローラー本体16がその周方向に略半分切り欠かれて形成されたものである。
Dカット部74bは、溝74aの外側において該溝74aと直交する方向に延在する開口74cを有し、この開口74cの両側に、一対の折曲片74d、74dを有したものである。すなわち、図18(b)に示すようにこれら一対の折曲片74d、74dがローラー本体16の中心軸側に折曲させられたことにより、これら折曲片74d、74dに対応する部分が、ローラー本体16の円形の外周面から凹んだ状態となっている。
【0103】
したがって、歯車等の連結部品(図示せず)を、前述の溝74aに係合させまたはDカット部74bに係合させることにより、該連結部品をローラー本体16(搬送ローラー15)に対し空回りさせることなく、取り付けることができる。また、この係合部74では、折曲片74d間に形成された開口74cを利用することによっても、連結部品をローラー本体16に対し空回りさせることなく取り付けることができる。具体的には、連結部品に凸部を形成しておき、この凸部を前述の開口74cに嵌合させることにより、空回りを防止することができる。
【0104】
また、図19(a)、(b)に示すように、ローラー本体16の端部に溝75aと開口75bとを有した係合部75を形成することもできる。この係合部75において、開口75bはローラー本体16の外端に形成されており、溝75aは開口75bより内側に形成されている。溝75aは、図19(a)に示すように、ローラー本体16がその周方向に略半分切り欠かれて形成されたものである。開口75bは、溝75aの外側においてローラー本体16の一部が平面視矩形状に切り欠かれ、これによって図19(b)に示すように端部側面の外形が見掛け上D状に形成されたものである。
【0105】
したがって、歯車等の連結部品(図示せず)を、前述の溝75aに係合させまたは開口75bによって形成された見掛け上D状に形成された部位に係合させることにより、該連結部品をローラー本体16(搬送ローラー15)に対し空回りさせることなく、取り付けることができる。また、この係合部75でも、図18(a)、(b)に示した係合部73と同様に、開口75bを利用することによって、連結部品をローラー本体16に対し空回りさせることなく取り付けることができる。
【0106】
このような係合孔71や係合部73、74、75を形成するには、金属板60をプレス加工して得られたローラー本体16に対して、さらに切削加工等を施すことで行うことができる。例えば、図18(a)、(b)に示した係合部73については、その端部を切削加工して開口73aを形成することにより、見掛け上D状の係合部73を形成することができる。また、図17(a)、(b)に示した係合孔71についても、ローラー本体16に対して孔開け加工することで、一対の貫通孔71a、71aをより良好に対向させることができる。
【0107】
もっとも、このようにローラー本体16に対してさらに加工を施すのでは、係合部の形成だけのために別途加工工程を追加することで、コストや時間についての効率が低下してしまう。そこで、ローラー本体16にプレス加工する前に、別のプレス加工によって係合部となる展開係合部を金属板に形成しておき、この金属板をプレス加工してローラー本体16とする際に、係合部も同時に形成するのが好ましい。
【0108】
具体的には、図4(a),図13(a)に示した大型の金属板(第1金属板)65を、図4(b),図13(b)に示したような凹凸部110を有した細長い略矩形板状の金属板(第2金属板)60にプレス加工する際、この大型金属板65から小型の金属板60への加工と同時に、得られる金属板60の長辺の長さ方向における端部、すなわち折曲部81、両端折曲部85の外端部に、切欠状、突片状、孔状、あるいは溝状等の展開係合部を形成する。
例えば、図20(a)に示すように、金属板60の凹凸部110の外端部の所定位置に一対の貫通孔71a、71aを加工し、これらを展開係合部76aとしておくことにより、この金属板60をプレス加工することで前述の一対の貫通孔71a、71aを対向させ、図16(a)、(b)に示した係合孔71を形成することができる。
【0109】
また、図20(b)に示すように、金属板60の凹凸部110の外端部を所定形状に切り欠いて展開係合部76bとしておくことにより、この金属板60をプレス加工することで図18(a)、(b)に示した係合部74を形成することができる。すなわち、展開係合部76bとして、一対の切欠部(凹部)74e、74eと一対の突片74f、74fとを形成しておくことにより、係合部74を形成することができる。ただし、この例では、金属板60をプレス加工した後、一対の突片74f、74fを内側に折り曲げ加工して折曲片74dとする必要があるため、加工工程についてのコストや時間の効率化を十分に高めるにはやや不十分であるとも言える。
【0110】
そこで、図20(c)に示すように、金属板60の凹凸部110の外端部を所定形状に切り欠いて展開係合部76cとしておくことにより、この金属板60をプレス加工することで図19(a)、(b)に示した係合部75を形成することができる。すなわち、展開係合部76cとして、一対の切欠部(凹部)75c、75cと一対の突片75d、75dとを形成しておくことにより、係合部75を形成することができる。この例では、金属板60をプレス加工した際に一対の突片75d、75dも円弧状に曲げることにより、これら突片75d、75d間に図19(b)に示した開口75bを形成することができる。したがって、プレス加工によって形成したローラー本体16に対し、さらに加工を追加する必要がなく、これにより加工工程についてのコストや時間の効率化を十分に高めることができる。
【0111】
次に、前述の搬送ローラー機構19を備えてなるインクジェットプリンター(印刷装置)1の動作について、図1、図2を参照して説明する。
給紙ローラー13によって給紙された用紙Pは、搬送ローラー機構19の上流側近傍に至ると、搬送ローラー15と従動ローラー17との間に引き込まれ、両ローラーの駆動によって下流側に位置する印字ヘッド21の下方に向けて定速で搬送される。
【0112】
その際、搬送ローラー15には高摩擦層50が形成されており、従動ローラー17がこの高摩擦層50に当接する位置に配置されているので、これら搬送ローラー15と従動ローラー17との間で用紙Pを挟持する力が大きくなり、用紙Pの搬送性がより良好になっている。
また、特に搬送ローラー15は、高摩擦層50の形成の際に所定粒径のアルミナ粒子を用いたことで繋ぎ目80による溝がないため、この溝に起因する搬送ムラも防止されている。さらに、ローラー本体16が形状や寸法について良好な精度になっているので、これによっても搬送ムラが防止されている。よって、この搬送ローラー機構19は、より正確で安定した紙送り(搬送)を行うようになっている。
【0113】
そして、用紙Pの印刷開始端が、印字ヘッド(印刷部)21の直下の所定の印刷位置に到達すると、印刷が開始される。
その後、用紙Pの始端が排紙ローラー機構27に至ると、排紙動作が開始される。なお、排紙ローラー機構27の搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度より速く設定されているため、用紙Pにはバックテンションが掛かった状態で搬送される。ただし、搬送ローラー機構19と排紙ローラー機構27とが共に用紙Pを挟持しているときには、前述したようにその用紙搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されている。したがって、このように排紙ローラー機構27と搬送ローラー機構19とによって排紙と搬送とを同時に行う際にも、その用紙搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されているため、搬送ムラのない正確で安定した紙送り(搬送)がなされるようになる。
【0114】
以上説明したように、本実施形態の搬送ローラー15にあっては、金属板60が円筒状にプレス加工されてなるローラー本体(円筒軸)16を用いていることにより、中実の丸棒材を用いた場合に比べてコストダウン及び軽量化が可能になる。
また、アルミナ粒子95(無機粒子)を含有してなる高摩擦層50が設けられていることにより、良好な搬送力を発揮するものとなる。
さらに、ローラー本体16が前述したように形状や寸法についての精度がより高くなっているので、精度が不十分であることに起因する搬送ムラも抑制されたものとなる。
【0115】
また、ローラー本体16の両端部を除いた中央部、すなわち用紙P(記録媒体)に直接接触する中央部に高摩擦層50を選択的に設けているので、用紙Pの搬送性能を低下させることなく、高摩擦層50の材料コストを最小限に抑えることができる。
また、第2実施形態に係るローラー本体16では、高摩擦層50を、少なくとも中央直線部84と対応する領域に設けているので、これによっても高摩擦層50の材料コストを最小限に抑えることができる。
ただし、本発明の搬送ローラーはこれに限定されることなく、例えばローラー本体16の全長に亘って高摩擦層50を形成することもできる。
【0116】
また、本実施形態の搬送ユニット10にあっては、前述したようにコストダウン及び軽量化が可能であり、さらに搬送ムラが抑制された搬送ローラー15を備えているので、この搬送ユニット自体のコストダウン及び軽量化が可能になる。さらに、搬送ローラー15による記録媒体の搬送性にも優れたものとなる。
【0117】
また、本実施形態のインクジェットプリンター(印刷装置)1は、前述の搬送ユニットを備えているため、コストダウン及び軽量化が可能である。さらに、記録媒体を良好に搬送することができる優れたものとなる。
なお、本発明は前述した実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0118】
例えば、前述した実施形態では本発明に係る円筒軸(ローラー本体)の繋ぎ目について、図8に示したようにその折曲部81(両端折曲部85)における交差部82(86)をローラー本体16の中心軸に対して直交させたが、これに限らない。
交差部82(86)を中心軸に対して直交させることなく、折曲部81(両端折曲部85)において一対の交差部82(86)と第2直線部83b(87b)とによって形成される凸片88の先端側の角度αを、鈍角(180°未満)に形成してもよい。このようにすれば、金属板のプレス加工において一対の端部61a、61bを近接させた際、凸片88の先端を対応する凹部に嵌合させ易くなる。したがって、ローラー本体16に歪みや捩れ等が生じるのを抑制することができる。
【0119】
また、前述した実施形態では本発明に係る搬送ローラーを、搬送ローラー機構19における搬送ローラー15に適用したが、これに限らない。
排紙ローラー機構27における排紙ローラー29や排紙ギザローラー31に適用することもできる。さらには、搬送ローラー機構19における従動ローラー17(ローラー17a)に適用することもできる。
【0120】
また、上記実施形態においては、搬送ローラー15を支持する第2従動ローラー17bを1つ設ける構成を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば図21(a)〜(c)及び図22に示すように、第2従動ローラー17bを複数設ける構成としても構わない。
【0121】
例えば図21(a)に示すように、搬送ローラー15の中心軸方向において、複数の第2従動ローラー17bを高摩擦層50の中央部と両端部とにそれぞれ配置する構成としても良い。この場合、搬送ローラー15のうち用紙Pを搬送する部分を支持することにより、当該搬送部分の変形を防ぐことができる。
【0122】
また、例えば図21(b)に示すように、第2従動ローラー17bを第1従動ローラー17aと同数設けると共に、第1従動ローラー17aに対向するようにそれぞれを配置させる構成としても構わない。この場合、第1従動ローラー17aによる押圧力をより確実に受けることができるため、第1従動ローラー17aによる押圧力、第2従動ローラー17bによる反作用力を、より確実に搬送ローラー15に加えることができる。これにより、搬送ローラー15の変形を一層確実に防ぐことができる。
【0123】
また、例えば図21(c)に示すように、複数の第2従動ローラー17bのうち一部を高摩擦層50に対向する位置に配置すると共に、残りを第2従動ローラー17bを高摩擦層50に対向する部分から外れた位置に設けた構成としても構わない。この場合、搬送ローラー15の中心軸方向の全体に亘って反作用力を加えることができるため、搬送ローラー15の変形を全体的に防ぐことができる。
【0124】
また、例えば図22に示すように、複数の第2従動ローラー17bが搬送ローラー15の周方向にずれた位置に配置された構成としても構わない。この場合、第2従動ローラー17bによって第1従動ローラー17aによる押圧力の反作用力を搬送ローラー15の周方向に分散して加えることができる。これにより、第1従動ローラー17aによる押圧力及び第2従動ローラー17bによる反作用力によって搬送ローラー15が変形するのを回避することができる。
【符号の説明】
【0125】
1…インクジェットプリンター(印刷装置)、10…搬送ユニット、15…搬送ローラー、16…ローラー本体(円筒軸)、16a…中心軸、17…従動ローラー、17a…第1従動ローラー、17b…第2従動ローラー、19…搬送ローラー機構、21…印字ヘッド(印刷部)、50…高摩擦層、51…樹脂膜、60…金属板(第2の金属板)、61a,61b…端部、62a,62b…側部、65…大型の金属板(第1の金属板)、71…係合孔(係合部)、72…連結部品、73,74,75…係合部、76a,76b,76c…展開係合部、80…繋ぎ目、81…折曲部、82…交差部、83a…第1直線部、83b…第2直線部、84…中央直線部、85…両端折曲部、86…交差部、87…連結直線部、87a…第1直線部、87b…第2直線部、88,89…凸片、90…塗装ブース、95…アルミナ粒子(無機粒子)、d3,d4,d6,d7,d8…一対の端部間の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の対向する一対の端部が近接するあるいは当接するように円筒状に形成された繋ぎ目を有し、被搬送媒体を搬送する高摩擦層が表面に形成された主動ローラーと、
前記主動ローラーを押圧すると共に前記主動ローラーの回転に伴って回転し、前記主動ローラーとの間で被搬送媒体を挟持する第1従動ローラーと、
前記第1従動ローラーによって押圧される前記主動ローラーを支持すると共に主動ローラーの回転に伴って回転する第2従動ローラーと
を備えることを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記第2従動ローラーは、前記高摩擦層に対向する位置に設けられる
請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記第2従動ローラーは、前記第1従動ローラーとの間で前記主動ローラーを挟む位置に設けられる
請求項1又は請求項2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記第2従動ローラーは、前記第1従動ローラーとの間で前記主動ローラーの中心軸を挟む位置に設けられる
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の搬送装置。
【請求項5】
前記第2従動ローラーは、前記主動ローラーの中心軸方向に沿って複数設けられる
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の搬送装置。
【請求項6】
前記第2従動ローラーは、前記主動ローラーの周方向に沿って複数設けられる
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の搬送装置。
【請求項7】
被搬送媒体を搬送する搬送部と、
前記搬送装置によって搬送される前記被記録媒体に対して印刷処理を行う印刷部と、を備え、
前記搬送部として、請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の搬送装置が用いられる
ことを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−136521(P2011−136521A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299053(P2009−299053)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】