説明

携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置

【課題】小型、軽量で可搬性を備えると共に、高度な専門知識や専用の治具等を不要にして現場測定の利便性が向上する、携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置を提供する。
【解決手段】着脱交換可能な空気清浄用の除去筒12及び湿度調整用の調湿筒13と、空気を流通させるためのポンプ14と、流通した空気の流量を計測する流量計15と、標準ガス及び試料ガスの注入部16と、着脱交換可能なプレカラム17と、前記試料ガスを各成分に分離する着脱交換可能な分離カラム18と、前記各成分を検知して物質を測定する検出器19と、該検出器19で変換した電気信号をPC等のデータ処理手段へ送出する信号取出部20とを備える携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置11である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型、軽量で可搬性を有する携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のガスクロマトグラフ分析装置としては、次のような構成のものが知られている。このガスクロマトグラフ分析装置は、キャリアガスとしてヘリウムや窒素等の不活性ガスが充填されるガスボンベと、そのキャリアガスと共に送られる試料ガスを分離する分離部(以下、カラムと称する)と、カラムを所定温度に維持する恒温槽と、カラムで分離された各成分を検知して電気信号に変換し物質の同定、定量をおこなう検出器等の種々の部位を備える(特許文献1、2,及び3参照)。
【0003】
また、検出器は、例えば水素炎イオン化検出器(FID)、炎光光度検出器(FPD)、熱伝導度検出器(TCD)、又は質量分析器(MS)等の種々な種類のものが知られている。
【特許文献1】特開2001−174445号公報
【特許文献2】特開平11−83824号公報
【特許文献3】特開平10−300737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この従来例のガスクロマトグラフ分析装置においては、上述のようにガスボンベや恒温槽を設ける必要があり、また、大容量の電力設備を必要とするので、装置の大型化及び複雑化が生じると共に、重量が嵩んで持ち運びが実質的に不可能であるという欠点を有している。
【0005】
また、ガスクロマトグラフ分析装置を使用する際には、高度で専門的な知識が必要であり、また、専用の治具や標準物質等を準備する必要があって煩雑であるという欠点も有している。
【0006】
従って、従来例におけるガスクロマトグラフ分析装置においては、装置の小型化、軽量化を図って可搬性を備えることと、高度な専門知識や専用の治具等を不要にして現場測定における利便性を向上させることとに解決しなければならない課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来例の課題を解決する具体的手段として本発明は、着脱交換可能な空気清浄用の除去筒及び湿度調整用の調湿筒と、空気を流通させるためのポンプと、流通した空気の流量を計測する流量計と、標準ガス及び試料ガスの注入部と、着脱交換可能なプレカラムと、前記試料ガスを各成分に分離する着脱交換可能な分離カラムと、前記各成分を検知して物質を測定する検出器と、該検出器で変換した電気信号をPC等のデータ処理手段へ送出する信号取出部と、を少なくとも備えることを特徴とする携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置を提供するものである。
【0008】
また、前記除去筒及び調湿筒は、筒体の内部に所定量のVOCガスの除去剤、除湿剤、又は調湿剤が充填されている構成としたものであり、そして、前記標準ガスは、両端部が閉塞すると共に一端部側が折欠き可能なガラス管の内部に、有機溶剤が封入された標準ガス供給管から採取されたものである構成としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置は、着脱交換可能な空気清浄用の除去筒及び湿度調整用の調湿筒と、空気を流通させるためのポンプと、流通した空気の流量を計測する流量計と、標準ガス及び試料ガスの注入部と、着脱交換可能なプレカラムと、前記試料ガスを各成分に分離する着脱交換可能な分離カラムと、前記各成分を検知して物質を測定する検出器と、該検出器で変換した電気信号をPC等のデータ処理手段へ送出する信号取出部と、を少なくとも備えることによって、除去筒及び調湿筒を有すると共にプレカラムを用いることで、試料ガスの分離、除去能力を可変させることが可能である。従って、従来例において重量増加の原因となった恒温槽が不要であり、装置の小型化、軽量化を図ることができる。また、可搬性を備えることによって現場測定における利便性が向上する。
そして、除去筒、調湿筒、プレカラム等の着脱、交換が可能な種々の部品等を用いることで、従来のような据付けや、前後処理に要する時間を軽減し、また、操作に専門的な知識を不要として、現場測定における作業者の負担を軽減するという種々の優れた効果を奏する。
【0010】
更に、湿度の調整とカラムの組み合わせにより、室温で高極性物質を良好に分離できることとなる。一例を上げると、沸点が138℃の1−ペンタノールは、湿度調整と専用のカラムを使用することで、室温でありながら従来の1/2以下の測定時間で、ピークの形状が良好で精度良く分析が可能となる。
【0011】
また、除去筒及び調湿筒は、筒体の内部に所定量のVOCガスの除去剤、除湿剤、又は調湿剤が充填されていることによって、空気清浄機能及び湿度調整機能を備えることとなり、即ち、除去筒及び調湿筒がガス精製装置としての機能を有するという優れた効果を奏する。
【0012】
そして、標準ガスは、両端部が閉塞すると共に一端部側が折欠き可能なガラス管の内部に、有機溶剤が封入された標準ガス供給管から採取されたものであることによって、現場における標準となる物質に関して有機溶剤は物質の飽和蒸気圧曲線から推算可能であり、従って、ガスクロマトグラフの保持時間の確認や検量線の作成等の現場校正が可能となる。更には、高度な専門性を有さずとも測定精度が担保されると共に、測定に係る時間的コストや人的コストが削減できるという種々の優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。まず、図1において、符号11は携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置を示し、この簡易ガスクロマトグラフ分析装置11は、着脱交換可能な空気清浄用の除去筒12及び湿度調整用の調湿筒13と、ポンプ14と、流量計15と、標準ガス及び試料ガスの注入部16と、プレカラム17と、分離カラム18と、検出器19と、信号取出部20とから構成される。
【0014】
簡易ガスクロマトグラフ分析装置11は、ハンディタイプのケース型に形成されており、その上部には持ち運びが便利なように把手21が設けられている。そして、ケースの側部には空気の吸入口22が形成されており、更に、正面側には装置を駆動、停止させるON/OFFのスイッチ23が設けられている。
【0015】
また、簡易ガスクロマトグラフ分析装置11は、重量が約1.7kg程度であって、可搬性を有するので作業現場等の任意の場所に携帯して設置することが可能である。電源は100Vの家庭用電源、又はバッテリーが使用できるように構成されている。
【0016】
除去筒12及び調湿筒13は、一例を上げると長さ寸法が80〜100mm程度であり、直径寸法が8〜15mm程度の筒状に形成される。また、除去筒12及び調湿筒13は、所定量のVOC(揮発性有機化合物)ガスの除去剤、除湿剤、又は調湿剤等が充填されており、この充填物によって空気清浄機能又は湿度調整機能を備えることとなり、従って、除去筒12及び調湿筒13がガス精製装置としての機能を有する。
【0017】
除去筒12及び調湿筒13に充填される充填物の一例としては、活性炭、シリカゲル、モレキュラーシーブス、過塩素酸マグネシウム、塩化カルシウム、水酸化ナトリウム等が上げられる。
【0018】
除去筒12の内部は、具体的には図2に示すように、除湿剤パッキン24と除湿剤パッキン25とが所定の間隔を開けて配設されており、その間に除湿剤層26を有し、そして、除湿剤パッキン24の上部にはパイプパッキン27が配設されている。
【0019】
このような構成の除去筒12及び調湿筒13は、測定したい物質に応じたものを適宜に選択して所定位置にセットする。そして、図1に示すように、除去筒12は吸入口22と連通しており、この除去筒12を挿通した空気が順次、調湿筒13を挿通するように構成される。
【0020】
ポンプ14は、吸入口22から吸入した空気を分離カラム18へ流通させる役目を果たし、その流通した空気の流量が流量計15で計測される。また、流量調整部28でその流量を適宜に調整できる構成になっている。
【0021】
注入部16は、シリンジ29で採取した標準ガスと試料ガスとを順次注入する部位であり(図3参照)、これらのガスはプレカラム17へ流通する。
【0022】
標準ガスは、図4に示すように、両端部が閉塞すると共に一端部30a側が折欠き可能なガラス管の内部に、有機溶剤30bが充填された標準ガス供給管30から採取されたものである。このような、現場における標準となる物質に関して有機溶剤30bは物質の飽和蒸気圧曲線から推算可能であり、従って、ガスクロマトグラフの保持時間の確認や検量線の作成等の現場校正が可能となる。
【0023】
プレカラム17は、試料ガス中の目的以外の物質を除去すると共に、分離カラム18の汚染防止の役目を果たすものであり、着脱交換可能に形成されている。
【0024】
分離カラム18は、除去筒12及び調湿筒13により湿度調整をおこなうことで分離特性を発揮することが特徴である。また、測定したい物質に応じたカラム組成の分離カラム18を適宜に選択して所定位置にセットするものであり、分離カラム18は着脱交換可能に形成されている。
【0025】
特に、分離カラム18の添着剤にステアリン酸を使用し、その割合を0.01〜1.0%の範囲で変化させることで、常温でありながら分離性能が著しく向上して、不安定物質の分析も可能になる。例えば、珪藻土に0.1%のステアリン酸を添着したカラムを使用し、前述の調湿筒13を使用した場合にはホルムアルデヒド、二硫化炭素等の分析が可能になる。
【0026】
検出器19は、分離カラム18で分離された各成分を検知して電気信号に変換して物質の同定、定量をおこなう部位であり、具体的には、半導体式のセンサが用いられる。さらに具体的には、省電力型の熱線半導体式センサである。
【0027】
信号取出部20は、検出器19で変換した電気信号を、図示しないPC(パソコン)、あるいは各種データを計測保存するデータロガー等のデータ処理手段に送出する部位である。
【0028】
次に、以上のような構成の携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置11の流通路について説明する。図5に示すように、吸入口22から吸入された空気は、除去筒12→調湿筒13→ポンプ14→流量計15→注入部16→プレカラム17→分離カラム18→検出器19→信号取出部20と順次流通して、注入部16から注入された試料ガスの測定値を得るのである。
【0029】
次に、簡易ガスクロマトグラフ分析装置11の使用方法について簡単に説明する。まず、測定する任意の場所に持ち運んで設置し、図示しない家庭用電源又はバッテリーをセットする。次に、プレカラム17を所定の位置にセットすると共に、測定したい物質に応じた組成の除去筒12、調湿筒13、分離カラム18を適宜に選択して所定の位置にセットする。
【0030】
スイッチ23をONにして装置の暖気運転を開始する。このように、専門的な知識を必要とせずに装置の立ち上げが可能である。
【0031】
そして、図4に示すように、標準ガス供給管30の一端部30aを折欠き、濃度既知の標準ガスをシリンジ29で採取して、注入部16に注入する。なお、図4中の符号31は、標準ガス供給管30の開口部を施蓋するセプタムを示す。
【0032】
更に、測定する現場の空気を所定量シリンジで採取して、前記の場合と同様に注入部16に注入することにより、試料ガスの各成分が測定されて測定値を得ることができる。このように装置の校正作業に高度な専門知識や専用の治具が不要である。
【0033】
測定作業終了後には、スイッチ23をOFFにして装置の運転を停止する。除去筒12、調湿筒13、プレカラム17はワンタッチで取り外して消耗品として処分する。分離カラム18と電源を取り外して、簡易ガスクロマトグラフ分析装置11を回収する。従来例においては、恒温槽の温度を下げるなどの測定後の処理に時間と専門知識を必要とするが、本発明の簡易ガスクロマトグラフ分析装置11は、そのような処理の時間が不要であり、現場測定における作業者の負担を低減できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置11の正面図である。
【図2】本発明に係る除去筒12の正面図である。
【図3】シリンジ29で採取した標準ガスを注入部16に注入する状態を示す説明図である。
【図4】標準ガス供給管30からシリンジ29で標準ガスを採取する状態を示す説明図である。
【図5】携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置11の流通路を示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
11 携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置
12 除去筒
13 調湿筒
14 ポンプ
15 流量計
16 注入部
17 プレカラム
18 分離カラム
19 検出器
20 信号取出部
21 把手
22 吸入口
23 スイッチ
24、25 除湿剤パッキン
26 除湿剤層
27 パイプパッキン
28 流量調整部
29 シリンジ
30 標準ガス供給管
30a一端部
30b有機溶剤
31 セプタム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着脱交換可能な空気清浄用の除去筒及び湿度調整用の調湿筒と、空気を流通させるためのポンプと、流通した空気の流量を計測する流量計と、標準ガス及び試料ガスの注入部と、着脱交換可能なプレカラムと、前記試料ガスを各成分に分離する着脱交換可能な分離カラムと、前記各成分を検知して物質を測定する検出器と、該検出器で変換した電気信号をPC等のデータ処理手段へ送出する信号取出部と、を少なくとも備えること
を特徴とする携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置。
【請求項2】
前記除去筒及び調湿筒は、筒体の内部に所定量のVOCガスの除去剤、除湿剤、又は調湿剤が充填されていること
を特徴とする請求項1に記載の携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置。
【請求項3】
前記標準ガスは、両端部が閉塞すると共に一端部側が折欠き可能なガラス管の内部に、有機溶剤が封入された標準ガス供給管から採取されたものであること
を特徴とする請求項1に記載の携帯型の簡易ガスクロマトグラフ分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−101684(P2010−101684A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271933(P2008−271933)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(391028122)株式会社ガステック (15)