説明

携帯用椅子

【課題】着座部と脚部とを一体化することにより、三脚タイプの携帯用椅子を軽量化する。
【解決手段】3本のロッド10、20、30をヒンジ部40によって揺動自在に結合して、ヒンジ部を中心に畳んで重合された状態とヒンジ部を中心に展開された状態とに転換可能とされ、ヒンジ部より下方側を脚部とし、ヒンジ部より上方側に着座部(シート80)が配置されて椅子とされる。ヒンジ部は、3本のロッドのうち第1及び第2のロッド10、20が第3のロッド30を間に挟んで互いに重合及び展開可能とされ、しかも、互いに展開された第1及び第2のロッドの各軸線上を通る仮想平面に対して第3のロッドが角度を持って展開可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、必要に応じてコンパクトに畳むことが可能とされた三脚タイプの携帯用椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、三脚タイプの携帯用椅子が開示されている。この携帯用椅子は、着座部と脚部とが台座を挟んで上下に設けられ、台座に対して着座部と脚部とがそれぞれ独立して畳まれた状態と展開された状態とに転換可能とされている。着座部は台座の上部にあり、展開されることにより着座が可能とされ、畳まれることにより着座部が椅子全体を持ち運ぶ際の握り部とされる。一方、脚部は台座の下部にあり、縦方向に三つ割り可能とされた円筒体が三方に展開されることにより椅子全体が安定して自立可能とされ、三方に展開された脚が円筒体に戻されることによりコンパクトに持ち運び可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−344609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記台座は、着座部に着座した着座者の体重を受け、脚部に伝達するものであるため、それなりの強度が必要で、重量も重くなる。
本発明は、このような問題に鑑み、台座をなくし着座部と脚部とを一体化することにより、携帯用椅子を軽量化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1発明は、3本のロッドをヒンジ部によって揺動自在に結合して、ヒンジ部を中心に畳んで重合された状態とヒンジ部を中心に展開された状態とに転換可能とされ、ヒンジ部より下方側を脚部とし、ヒンジ部より上方側に着座部が配置されて椅子とされ、
前記ヒンジ部は、3本のロッドのうち第1及び第2のロッドが第3のロッドを間に挟んで互いに重合及び展開可能とされ、しかも、互いに展開された前記第1及び第2のロッドの各軸線上を通る仮想平面に対して前記第3のロッドが角度を持って展開可能とされていることを特徴とする携帯用椅子である。
第1発明によれば、上記特許文献1における台座のような部材はなく、ヒンジ部によって揺動自在に結合された3本のロッドの下方側が脚部とされ、上方側が着座部とされて携帯用椅子が構成されるため、無駄のない構成で軽量化を図ることができる。
【0006】
本発明の第2発明は、上記第1発明において、前記ヒンジ部は、第1の球体内に第2の球体が相対的に摺動自在に挿入され、更に第2の球体内に第3の球体が相対的に摺動自在に挿入され、前記第1の球体は前記第1のロッドに、また前記第2の球体は前記第2のロッドに、更に前記第3の球体は前記第3のロッドにそれぞれ結合され、第1の球体及び第2の球体には、第1及び第2のロッドが第3のロッドを間に挟んで互いに重合及び展開可能となるように、且つ互いに展開された前記第1及び第2のロッドの各軸線上を通る仮想平面に対して前記第3のロッドが角度を持って展開可能となるように切欠部がそれぞれ形成されていることを特徴とする。
第2発明によれば、3本のロッドにそれぞれ結合された3つの球体の組合わせによりヒンジ部が構成されるため、3本のロッドを3方向へ展開可能とするためのヒンジ部を軽量に構成することができる。
【0007】
本発明の第3発明は、上記第1又は第2発明において、前記第1のロッド及び第2のロッドは前記第3のロッド側を受け面とする樋形状とされ、3本のロッドが重合されたとき前記第1のロッド及び第2のロッドの受け面同士が合わせられ、その結果、前記第1のロッド及び第2のロッドの受け面によって形成される筒状空間内に前記第3のロッドが収納されることを特徴とする。
第3発明によれば、3本のロッドが重合されたとき、2本のロッドによって形成される筒状空間内に残りの1本のロッドが収納されるため、あたかも1本のロッドのように畳むことができ、携帯時にコンパクトに持ち運ぶことができる。
【0008】
本発明の第4発明は、上記第1乃至第3発明のいずれかにおいて、前記第1のロッド及び第2のロッドは第3のロッドに比べて短く設定され、第3のロッドのヒンジ部より上方側で、第3のロッドの外周上に摺動自在にスライダが設けられ、第3のロッド上で前記スライダより下方側にはスライダの摺動の下限位置を決定するストッパが設けられ、第1のロッド及び第2のロッドの各上端部と前記スライダの上端部との間に柔軟性を備えたシートが着座部となるように張設され、第1のロッドのヒンジ部及び上端部の間に設けられた第1の支持部と前記スライダの上端部より下側に設けられた第3の支持部との間に第1のリンクが揺動自在に設けられ、第2のロッドのヒンジ部及び上端部の間に設けられた第2の支持部と前記第3の支持部との間に第2のリンクが揺動自在に設けられていることを特徴とする。
第4発明によれば、柔軟性を備えたシートによって着座部を構成したので、携帯時に椅子をコンパクトに畳むことができる。また、各ロッドに対してスライダとリンクとを設けたので、スライダを下方に摺動することにより各ロッドを展開して椅子とすることができ、スライダを上方へ摺動することにより各ロッドを重合状態として椅子を畳むことができる。このようにスライダの摺動によりロッドの展開と重合とを行うことができるので、操作をスムースに行うことができる。
【0009】
本発明の第5発明は、上記第1乃至第4発明のいずれかにおいて、前記第3のロッドの外周面と前記スライダの内周面との間には周方向への相対回転に対して互いに係合可能な回転止部が設けられていることを特徴とする。
第5発明によれば、第3のロッドとスライダとの間に回転止部が設けられているため、スライダが第3のロッドに対して周方向に回転することが防止され、スライダに結合されたリンクを介して第1のロッド及び第2のロッドの展開と重合動作が乱されるのを防止することができる。
【0010】
本発明の第6発明は、上記第1乃至第5発明のいずれかにおいて、前記3本のロッドが重合された状態において、第3のロッドのヒンジ部より下端部までの長さは、第1のロッド及び第2のロッドのヒンジ部より下端部までの長さより長く設定されていることを特徴とする。
第6発明によれば、3本のロッドが重合されたとき、中心に位置する第3のロッドが他の2本のロッドより突出しているため、3本のロッドが重合されて杖のように使用されたとき、第3のロッドにのみ力がかかり、第1のロッド及び第2のロッドには力が加わらないため、第1のロッド及び第2のロッドを介してヒンジ部に外力が加わることを防止でき、ヒンジ部が損傷を受けるのを抑制することができる。
【0011】
本発明の第7発明は、上記第4乃至第6発明のいずれかにおいて、前記3本のロッドの重合時には、第3のロッドに対する前記第1のリンク及び第2のリンクの軸線が通る仮想平面の傾斜方向が、3本のロッドの展開時の傾斜方向に対して反対方向となるように、第1の支持部、第2の支持部及び第3の支持部の位置を設定し、前記第3のロッドのスライダより上側にはばねが固定され、前記3本のロッドが重合された状態において、前記ばねは前記スライダを下方へ付勢することを特徴とする。
第7発明によれば、第3のロッドに対する第1のリンク及び第2のリンクの軸線の傾斜方向が、3本のロッドの重合時には、3本のロッドの展開時の傾斜方向に対して反対方向とされているため、第1のリンク及び第2のリンクを介して第1のロッド及び第2のロッドは展開時とは反対方向にばねによる付勢力を受け、椅子を携帯する際に各ロッドが不用意に展開されることを防止できる。また、第1のリンク、第2のリンク及び第1のロッド、第2のロッドを介してばねの付勢力はヒンジ部に伝達されるため、椅子を携帯する際にヒンジ部のガタによる異音の発生を抑制することができる。
更に、3本のロッドを重合された状態から展開する際は、第3のロッドに対する第1のリンク及び第2のリンクの軸線が通る仮想平面の傾斜方向を3本のロッドを展開させる方向に手動により転換させた後は、スライダ及びリンクを介して、ばねの付勢力は3本のロッドを展開させる方向に作用するため、ばねの付勢力が働く範囲では3本のロッドの展開を自動的に行うことができ、展開操作を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る携帯用椅子の一実施形態(畳まれた状態)の斜視図である。
【図2】上記実施形態(展開途中)の背面図である。
【図3】上記実施形態(展開状態)の斜視図である。
【図4】上記実施形態のシート部分の拡大斜視図である。
【図5】上記実施形態のヒンジ部部分の拡大斜視図である。
【図6】上記実施形態のヒンジ部を成す第1の球体の部分断面平面図である。
【図7】上記実施形態のヒンジ部を成す第2の球体の部分断面平面図である。
【図8】上記実施形態のヒンジ部を成す第3の球体の部分断面平面図である。
【図9】上記実施形態の第1のロッドとリンクとの結合部分の拡大斜視図である。
【図10】上記実施形態のスライダ部分の拡大斜視図である。
【図11】上記実施形態のワイヤ収納部の説明図である。
【図12】上記実施形態のワイヤ収納部におけるワイヤ誘導金具の平面図、正面図及び底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
この実施形態の携帯用椅子は、展開時に椅子となり、畳まれた状態では杖となるように構成されており、図1は畳まれて杖となった状態を示し、図2は展開途中を示し、図3は展開完了し、椅子として使用可能となった状態を示す。
当該椅子は、図1〜3に良く示されるように、3本のロッド10、20、30をヒンジ部40によって揺動自在に結合して、ヒンジ部40を中心に畳んで重合された状態とヒンジ部40を中心に展開された状態とに転換可能とされ、ヒンジ部40より下方側を脚部とし、ヒンジ部40より上方側に着座部が配置されて椅子とされている。
ヒンジ部40は、3本のロッドのうち第1のロッド10及び第2のロッド20が第3のロッド30を間に挟んで互いに重合及び展開可能とされ、しかも、互いに展開された第1のロッド10及び第2のロッド20の各軸線上を通る仮想平面に対して第3のロッド30が角度を持って展開可能とされている。
このように構成したため、上記特許文献1における台座のような部材はなく、ヒンジ部40によって揺動自在に結合された3本のロッド10、20、30の下方側が脚部とされ、上方側が着座部とされて携帯用椅子が構成されるため、無駄のない構成で軽量化を図ることができる。
【0014】
図5〜8に良く示されるように、ヒンジ部40は、第1の球体41内に第2の球体42が相対的に摺動自在に挿入され、更に第2の球体42内に第3の球体43が相対的に摺動自在に挿入されて成る。そのため、各球体41、42、43の直径は、第1、第2、第3の順番に小さくされている。
各球体41、42、43は、それぞれ2つの半球体を組合わせて形成されており、図6のように第1の球体41は半球体411と412とを組合わせて溶接して一つの球体とされている。図7のように第2の球体42は半球体421と422とを組合わせて溶接して一つの球体とされ、図8のように第3の球体43は半球体431と432とを組合わせて溶接して一つの球体とされている。なお、図6のように第1の球体41の半球体411と412との間の中心部にはヒンジ軸414が溶接にて固定されている。また、図7のように第2の球体42の半球体421と422の各中心部にはヒンジ軸414が貫通するための孔424、425がそれぞれ設けられている。
第1の球体41は第1のロッド10に、また第2の球体42は第2のロッド20に、更に第3の球体43は第3のロッド30にそれぞれ溶接にて結合されている。
【0015】
そして、第1の球体41及び第2の球体42には、第1のロッド10及び第2のロッド20が第3のロッド30を間に挟んで互いに重合及び展開可能となるように、且つ互いに展開された第1のロッド10及び第2のロッド20の各軸線上を通る仮想平面に対して第3のロッド30が角度を持って展開可能となるように切欠部413,423、433、434がそれぞれ形成されている。
詳細には、図8のように第3の球体43には上記ヒンジ軸414が貫通し、その状態で第3の球体43が図8において上下方向に摺動可能となるための切欠部433と434が形成されている。切欠部433と434は第3の球体43の球心に対して点対象に形成されている。図7のように第2の球体42には、第3の球体43に固定された第3のロッド30が貫通し、上述のような第2のロッド20と第3のロッド30との相対移動を可能とするように切欠部423が形成されている。更に、図6のように第1の球体41には、第3の球体43に固定された第3のロッド30及び第2の球体42に固定された第2のロッド20がそれぞれ貫通し、上述のような第1のロッド10、第2のロッド20及び第3のロッド30の相対移動を可能とするように切欠部413が形成されている。なお、図6及び図7には切欠部がそれぞれ一つのみ記載されているが、各球体41、42には、第3の球体43の場合と同様に、各球体41、42の球心に対して点対象となるように、それぞれ切欠部が形成されると共に、各ロッド10、20の下方側を成す部分が結合されている。
【0016】
図6、7には、3本のロッド10、20、30を重合した状態と展開した状態とに移動させる際の各球体41、42、43及び各ロッド10、20、30の位置関係を示すため、切欠部413、423内における第3のロッド30の位置を二点鎖線の円で示している。図6、7の二点鎖線の円のうち、Aは3本のロッド10、20、30が重合された状態、Bは第3のロッド30を間に挟んで第1のロッド10と第2のロッド20が横に展開された状態、Cは互いに展開された第1のロッド10及び第2のロッド20の各軸線上を通る仮想平面に対して第3のロッド30が角度を持って展開された状態を示す。
なお、図7のように切欠部423の一部形状を二点鎖線で示すように変更することにより、第1のロッド10と第2のロッド20とを横方向に展開したとき、第2の球体42の切欠部423の縁部の一部426によって第3のロッド30がBの位置からCの位置に押し出されるため、第3のロッド30を第1のロッド10と第2のロッド20の展開に連動させて展開させることができる。つまり、各ロッド10、20、30の展開を、第3のロッド30を間に挟んで第1のロッド10と第2のロッド20を横に展開させる第1の動作と、互いに展開された第1のロッド10及び第2のロッド20の各軸線上を通る仮想平面に対して第3のロッド30を角度を持って展開させる第2の動作と分けて行うことなく、第1のロッド10と第2のロッド20を横に展開させる一つの動作のみで第3のロッド30も展開させることができる。
このように、3本のロッド10、20、30にそれぞれ結合された3つの球体41、42、43の組合わせによりヒンジ部40が構成されるため、3本のロッド10、20、30を3方向へ展開可能とするためのヒンジ部を軽量に構成することができる。
【0017】
図1〜3、図5〜7、及び図9に示されるように、第1のロッド10及び第2のロッド20は第3のロッド30側を受け面とする樋形状とされ、図1のように、3本のロッド10、20、30が重合されたとき第1のロッド10及び第2のロッド20の受け面同士が合わせられ、その結果、第1のロッド10及び第2のロッド20の受け面によって形成される筒状空間内に第3のロッド30が収納される。
このように、3本のロッド10、20、30が重合されたとき、2本のロッド10、20によって形成される筒状空間内に残りの1本のロッド30が収納されるため、あたかも1本のロッドのように畳むことができ、携帯時にコンパクトに持ち運ぶことができる。
なお、図2、3、5に良く示されるように、樋形状とされた第1のロッド10及び第2のロッド20には、樋形状を成す円弧断面に沿って補強リブが設けられている。
【0018】
図2、3に示されるように、第1のロッド10及び第2のロッド20は第3のロッド30に比べて短く設定されている。また、第3のロッド30のヒンジ部40より上方側で、第3のロッド30の外周上に摺動自在にスライダ50が設けられ、第3のロッド30上でスライダ50より下方側にはスライダ50の摺動の下限位置を決定するストッパ31が設けられている。
第1のロッド10及び第2のロッド20の各上端部とスライダ50の上端部52との間に柔軟性を備えたシート80が着座部となるように張設されている。この場合のシート80は、合成繊維を使用した織物から成る。
第1のロッド10のヒンジ部40及び上端部の間に設けられた第1の支持部12とスライダ50の上端部52より下側に設けられた第3の支持部51との間に第1のリンク61が揺動自在に設けられ、第2のロッド20のヒンジ部40及び上端部の間に設けられた第2の支持部22と第3の支持部51との間に第2のリンク62が揺動自在に設けられている。
第1のリンク61及び第2のリンク62と第1のロッド10及び第2のロッド20との結合は、第1のロッド10及び第2のロッド20に溶接固定されたリング体12及び22に第1のリンク61及び第2のリンク62の先端に固定されたリング体612及び622が連結して行われ、更にリング体12及び22の周りを、やはり第1のロッド10及び第2のロッド20に溶接固定されたリング体13及び23のリング部で囲むようにしている。リング体12及び22とリング体612及び622との連結によって第1のリンク61及び第2のリンク62と第1のロッド10及び第2のロッド20とは結合されているが、リング体13及び23が設けられることにより、各ロッド10、20、30の展開のためにスライダ50が下方に押し下げられたとき、第1のリンク61及び第2のリンク62の下端がリング体12及び22に噛み込んでしまうことが防止されている。つまり、リング体13及び23はリング体12及び22の下方への余分な動きを規制している。
第1のリンク61及び第2のリンク62と第3の支持部51との結合は、第1のリンク61及び第2のリンク62の先端に固定されたリング体611及び621と第3の支持部51の下方に溶接固定されたリング体511及び512とが連結して行われている。
このような構成によれば、柔軟性を備えたシート80によって着座部を構成したので、携帯時に椅子をコンパクトに畳むことができる。また、各ロッド10、20、30に対してスライダ50とリンク61、62とを設けたので、スライダ50を下方に摺動することにより各ロッド10、20、30を展開して椅子とすることができ、スライダ50を上方へ摺動することにより各ロッド10、20、30を重合状態として椅子を畳むことができる。このようにスライダ50の摺動によりロッド10、20、30の展開と重合とを行うことができるので、操作をスムースに行うことができる。
【0019】
図2〜4に示されるように、シート80は全体として三角形に縫製され、スライダ50の上端部52への取り付けは、シート80の先端が二つ割りにされ、その先端にスライダ50を挟み込んで縛り付けることにより行っている。詳しくは、上端部52はスライダ50に直交する部材が該スライダ50に溶接されて成り、この直交部材の上方側でスライダ50にシート80の先端が縛り付けられている。
シート80の第1のロッド10及び第2のロッド20の各上端部への取り付けは、第1のロッド10に関して図9に示されるように、第1のロッド10の上端部に被せられる袋体81が第1のロッド10の上端部に対応する位置のシート80に縫合され、この袋体81を第1のロッド10の上端部に被せて行われている。更に袋体81に隣接して設けられたループ状の掛止帯82を、第1のロッド10の上端部側壁に突設された突起部(不図示)に掛止させることによってシート80が第1のロッド10から外れないようにしている。第2のロッド20に関しても以上説明した第1のロッドの場合と同様である。
これら袋体81、掛止帯82は、シート80の第1のロッド10及び第2のロッド20との取付部に第1のロッド10及び第2のロッド20を囲むように設けられた垂下帯83、84に縫合される。
なお、図4に良く示されるように、シート80は第1のロッド10及び第2のロッド20の取付部を補強するため、角部や端部に補強布85、86が縫合されている。
【0020】
図10に良く示されるように、第3のロッド30の外周面とスライダ50の内周面との間には周方向への相対回転に対して互いに係合可能な回転止部53が設けられている。具体的には、回転止部53は、スライダ50に第3のロッド30の軸方向にスリット531が設けられ、このスリット531に嵌合するように第3のロッド30の表面に突起532が設けられて成る。なお、スライダ50に設けられたスリット531はスライダ50の上下端で閉じられて、スライダ50がスリット531によって開いてしまうことがないようにされている。
このように、第3のロッド30とスライダ50との間に回転止部53が設けられているため、スライダ50が第3のロッド30に対して周方向に回転することが防止され、スライダ50に結合されたリンク61、62を介して第1のロッド10及び第2のロッド20の展開と重合動作が乱されるのを防止することができる。
【0021】
図1に示されるように、3本のロッド10、20、30が重合された状態において、第3のロッド30のヒンジ部40より下端部までの長さは、第1のロッド10及び第2のロッド20のヒンジ部40より下端部までの長さより僅かに長く設定されている。
このように、3本のロッド10、20、30が重合されたとき、中心に位置する第3のロッド30が他の2本のロッド10、20より突出しているため、3本のロッド10、20、30が重合されて杖のように使用されたとき、第3のロッド30にのみ力がかかり、第1のロッド10及び第2のロッド20には力が加わらないため、第1のロッド10及び第2のロッド20を介してヒンジ部40に外力が加わることを防止でき、ヒンジ部40が損傷を受けるのを抑制することができる。
【0022】
図では明らかではないが、3本のロッド10、20、30の重合時には、第3のロッド30に対する第1のリンク61及び第2のリンク62の軸線が通る仮想平面の傾斜方向が、3本のロッド10、20、30の展開時の傾斜方向に対して反対方向となるように、第1の支持部12、第2の支持部22及び第3の支持部51の位置を設定している。また、図1〜3に示されるように、第3のロッド30のスライダ50より上側にはばね35が固定され、3本のロッド10、20、30が重合された状態において、ばね35はスライダ50を下方へ付勢する。
このような構成によれば、第3のロッド30に対する第1のリンク61及び第2のリンク62の軸線が通る仮想平面の傾斜方向が、3本のロッド10、20、30の重合時には、3本のロッド10、20、30の展開時の傾斜方向に対して反対方向とされているため、第1のリンク61及び第2のリンク62を介して第1のロッド10及び第2のロッド20は展開時とは反対方向にばね35による付勢力を受け、椅子を携帯する際に各ロッド10、20、30が不用意に展開されることを防止できる。
また、第1のリンク61、第2のリンク62及び第1のロッド10、第2のロッド20を介してばね35の付勢力はヒンジ部40に付与されるため、椅子を携帯する際にヒンジ部40のガタによる異音の発生を抑制することができる。
更に、3本のロッド10、20、30を重合された状態から展開する際は、第3のロッド30に対する第1のリンク61及び第2のリンク62の軸線が通る仮想平面の傾斜方向を、3本のロッド10、20、30を展開させる方向に手動により転換させた後は、スライダ50及び各リンク61、62を介して、ばね35の付勢力は3本のロッド10、20、30を展開させる方向に作用するため、ばね35の付勢力が働く範囲では3本のロッド10、20、30の展開を自動的に行うことができ、展開操作を容易にすることができる。
【0023】
図2に示されるように、第1のロッド10及び第2のロッド20のヒンジ部40より下方側には、両ロッド10、20間にワイヤ79が張設されている。即ち、ワイヤ79の一端は、樋形状の第1のロッド10の受面内に固定され、他端は樋形状の第2のロッド20の受面内に固定されている。このようにワイヤ79が設けられていることにより、シート80上に大きな荷重が加えられて、両ロッド10、20のヒンジ部40より下方側の脚部が開かれる力を受けたとき、その力の一部をワイヤ79に分担させ、ロッド10、20が変形するのを防止している。
3本のロッド10、20、30が重合されて畳まれるとき、ワイヤ79は湾曲変形することにより3本のロッド10、20、30間に挟持される。
【0024】
図2に示されるように、第3のロッド30と第1のロッド10及び第2のロッド20との間にも、上記ワイヤ79と同様、ワイヤ71、72がワイヤ79より下方側に張設されている。このワイヤ71、72もワイヤ79と同様に、シート80に大きな荷重が加えられて、3本のロッド10、20、30のヒンジ部40より下方側の脚部が開かれる力を受けたとき、その力の一部をワイヤ79に分担させ、ロッド10、20、30が変形するのを防止している。
図2及び図11に示されるように、各ワイヤ71、72は、筒状体である第3のロッド30の筒内に余長部分が収納されるようになっている。ワイヤ71、72は、第3のロッド30内で一本のワイヤ74に纏められて第3のロッド30内の上端部に設けられた固定ピン77に係止されている。固定ピン77に係止されるワイヤ76と上記ワイヤ74との間にはばね75が介挿されており、ワイヤ71、72が弛みを生じないようにしている。
ワイヤ71、72とワイヤ74との間には、ワイヤ誘導金具78が介在されている。ワイヤ誘導金具78は、ワイヤ71、72が第3のロッド30内に収納される際に貫通する孔部の直上の第3のロッド30内に嵌め込まれて固定されており、図12に良く示されるようにワイヤ誘導金具78の表面には上下方向にワイヤ71、72が通るための溝781が形成され、溝781は下端部において分岐されて溝782、783とされている。溝782、783にはワイヤ71、72が分離して通される。溝781の上部においてワイヤ71、72には抜け止め73が一体に設けられ、3本のロッド10、20、30が展開されて第3のロッド30と第1のロッド10、第2のロッド20との間にワイヤ71、72が張設されたとき、抜け止め73が溝781の上端に係止され、ワイヤ71、72が弛まないようにされている。従って、ワイヤ71、72に対する抜け止め73の固定位置は3本のロッド10、20、30が展開されたとき、ワイヤ71、72が第3のロッド30と第1のロッド10、第2のロッド20との間で弛みなく張設されるように設定される。
【0025】
図1〜3において、32は第3のロッド30の下端に設けられた緩衝ゴム体、11、21は第1のロッド10、第2のロッド20の下端に設けられた緩衝ゴム体である。このように各ロッド10、20、30の下端に緩衝ゴム体32、11、21が設けられているため、図3のように椅子として使用される際、及び図1のように杖として使用される際に、床を傷つけないように、また床との干渉音を抑制することができる。
図1において、33は杖として使用する際の把手部であり、90は杖として使用する際にロッド10、20、30、リンク61、62などがガタつくのを防止するため、全体を外側から巻き付けるカバー帯である。
【0026】
本発明は、上記実施形態で説明した外観、構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、
1.3本のロッドは全て丸棒にて構成しても良い。
2.ヒンジ部は複数本のヒンジ軸を組合わせたものでも良い。
3.シートは、布製に限らず、樹脂、金属、紙など各種材料のものが適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
10 第1のロッド
12 第1の支持部
20 第2のロッド
22 第2の支持部
30 第3のロッド
31 ストッパ
34 ばね
40 ヒンジ部
41 第1の球体
413 切欠部
414 ヒンジ軸
42 第2の球体
423 切欠部
43 第3の球体
433、434 切欠部
50 スライダ
51 第3の支持部
53 回転止部
61 第1のリンク
62 第2のリンク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
3本のロッドをヒンジ部によって揺動自在に結合して、ヒンジ部を中心に畳んで重合された状態とヒンジ部を中心に展開された状態とに転換可能とされ、ヒンジ部より下方側を脚部とし、ヒンジ部より上方側に着座部が配置されて椅子とされ、
前記ヒンジ部は、3本のロッドのうち第1及び第2のロッドが第3のロッドを間に挟んで互いに重合及び展開可能とされ、しかも、互いに展開された前記第1及び第2のロッドの各軸線上を通る仮想平面に対して前記第3のロッドが角度を持って展開可能とされていることを特徴とする携帯用椅子。
【請求項2】
請求項1において、前記ヒンジ部は、第1の球体内に第2の球体が相対的に摺動自在に挿入され、更に第2の球体内に第3の球体が相対的に摺動自在に挿入され、前記第1の球体は前記第1のロッドに、また前記第2の球体は前記第2のロッドに、更に前記第3の球体は前記第3のロッドにそれぞれ結合され、第1の球体及び第2の球体には、第1及び第2のロッドが第3のロッドを間に挟んで互いに重合及び展開可能となるように、且つ互いに展開された前記第1及び第2のロッドの各軸線上を通る仮想平面に対して前記第3のロッドが角度を持って展開可能となるように切欠部がそれぞれ形成されていることを特徴とする携帯用椅子。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記第1のロッド及び第2のロッドは前記第3のロッド側を受け面とする樋形状とされ、3本のロッドが重合されたとき前記第1のロッド及び第2のロッドの受け面同士が合わせられ、その結果、前記第1のロッド及び第2のロッドの受け面によって形成される筒状空間内に前記第3のロッドが収納されることを特徴とする携帯用椅子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記第1のロッド及び第2のロッドは第3のロッドに比べて短く設定され、
前記第3のロッドのヒンジ部より上方側で、第3のロッドの外周上に摺動自在にスライダが設けられ、
前記第3のロッド上で前記スライダより下方側にはスライダの摺動の下限位置を決定するストッパが設けられ、
前記第1のロッド及び第2のロッドの各上端部と前記スライダの上端部との間に柔軟性を備えたシートが着座部となるように張設され、
前記第1のロッドのヒンジ部及び上端部の間に設けられた第1の支持部と前記スライダの上端部より下側に設けられた第3の支持部との間に第1のリンクが揺動自在に設けられ、第2のロッドのヒンジ部及び上端部の間に設けられた第2の支持部と前記第3の支持部との間に第2のリンクが揺動自在に設けられていることを特徴とする携帯用椅子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、前記第3のロッドの外周面と前記スライダの内周面との間には周方向への相対回転に対して互いに係合可能な回転止部が設けられていることを特徴とする携帯用椅子。
【請求項6】
請求項4乃至5のいずれかにおいて、前記第3のロッドに対する前記第1のリンク及び第2のリンクの軸線が通る仮想平面の傾斜方向が、3本のロッドの重合時には、3本のロッドの展開時の傾斜方向に対して反対方向となるように、第1の支持部、第2の支持部及び第3の支持部の位置を設定し、
前記第3のロッドのスライダより上側にはばねが固定され、前記3本のロッドが重合された状態において、前記ばねは前記スライダを下方へ付勢することを特徴とする携帯用椅子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−235968(P2012−235968A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108264(P2011−108264)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(506048809)
【Fターム(参考)】