説明

携帯装置

【課題】人体の動きによる低周波数の振動によって充分に駆動し、軽量化や小型化が可能で、コストが低く、耐久性に優れた携帯装置を提供する。
【解決手段】振動発電器を備える携帯装置であって、前記振動発電器が、エレクトレット12を備える静電誘導型発電素子3を備え、前記エレクトレット12が、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体または該含フッ素重合体に由来する材料を含有する樹脂膜に電荷を注入してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動発電器を備えた携帯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯装置の一つとして、腕時計のような携帯時計が挙げられる。携帯時計分野において、運針等の駆動に必要な電力は、従来、電池によって賄われていたが、このような時計は定期的に電池を交換する必要がある。近年、環境問題やエネルギー問題についての関心が高まるなか、電池の代わりに発電器を内蔵させることが行われている。
携帯装置用の発電器としては、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池、温度差を電気エネルギーに変換する熱発電器、人体の動きによって生じる振動のエネルギー(運動エネルギー)を電気エネルギーに変換する振動発電器等がある。
【0003】
携帯装置用の振動発電器としては、電磁誘導型のものや圧電型のものが実用化されている。たとえば電磁誘導型の振動発電器を備えた時計として、振動により回転する回転錘と、輪列機構と、ロータと、ロータの回転により生じる磁界変動により発電する発電コイルと、ロータの磁束を発電コイルに伝達するステータとを備えるものが挙げられる。このような時計の場合、外部からの振動により回転錘が回転すると、その回転が輪列機構により増幅されてロータに伝達され、ロータを高速回転させる。このロータの回転により生じる磁束の変化がステータにより発電コイルに伝達され、電圧が誘起されて交流電力が取り出される。取り出された交流電力は、直流電力に整流され、運針等を制御する回路部に供給されたり、キャパシタ、バッテリー等の蓄電装置に蓄えられる。
【0004】
一方、従来、コンデンサマイクロフォンや静電誘導型振動発電器に、絶縁材料に電荷を注入したエレクトレット(Electret)を使用した静電誘導型変換素子が用いられている。エレクトレットを構成する絶縁材料としては、従来、主に、二酸化ケイ素等の無機材料が用いられている。また、有機系の絶縁材料として、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等の鎖状の高分子化合物も使用されている。
最近、エレクトレット材料として、主鎖に脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を用いることが提案されている(特許文献1)。また、このような含フッ素重合体を用いたエレクトレットの表面電荷密度の向上のために、アミノ基を有するシランカップリング剤を配合することが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−180450号公報
【特許文献2】国際公開第08/114489号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した、発電器を内蔵させた携帯装置のうち、太陽電池を備えた携帯装置は、光源がないと発電できないため、たとえば夜間の屋外での長期使用は難しい。また、黒色または紺色である太陽電池に光が当たるように配置する必要があるため、デザインが制限されてしまう(たとえば携帯時計の文字盤など)。また、熱発電器を備えた携帯装置は、熱発電素子の体側(高温側)とその反対側(低温側)との温度差を利用するものであるため、温度差が小さい場合(装着後に低温側の温度が上がったり外気温が高い場合)は発電効率が悪く、コストも高い。これに対し、振動発電器を備えた携帯装置は、人体の動きを利用しているため、光源が不要で、デザイン的な制限が少なく、気温等の環境の影響も少ないことから、今後の需要の拡大が期待される。
【0007】
振動発電器を備えた携帯装置としては、上述したように、電磁誘導型や圧電型のものが実用化されているが、このような携帯装置は、軽量化や薄型化が難しい、コストが高い、耐久性が不充分である等の問題がある。たとえば人体の運動によって生じる振動は1〜10Hz程度の低周波数であるが、電磁誘導型や圧電型の振動発電器はこのような低周波数の振動では発電効率が悪い。そのため、時計の駆動に充分な電力を得るためには、上述した輪列機構のような増幅機構を設ける必要がある。そのため、部品点数が多くなり、それに伴って重量や必要スペース、コスト等が増大する。また、圧電型の場合、圧電素子を取り付けた振動板が変形することによって発電が行われるため、部品の劣化が生じやすい。さらに、発電量を上げるためには振動板の長さが必要なので小型化も難しい。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、人体の運きによる低周波数の振動によって充分に駆動し、軽量化や薄型化が可能で、コストが低く、耐久性に優れた携帯装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[6]である。
[1]振動発電器を備える携帯装置であって、
前記振動発電器が、エレクトレットを備える静電誘導型発電素子を備え、
前記エレクトレットが、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体(a)または該含フッ素重合体(a)に由来する材料(a’)を含有する樹脂膜に電荷を注入してなるものであることを特徴とする携帯装置。
[2]前記静電誘導型発電素子は、前記エレクトレットが設けられた第一の電極と、前記エレクトレットから離間配置された第二の電極とを備え、外部からの振動によって前記エレクトレットおよび前記第二の電極の一方が他方に対して相対的に運動するように構成されている、[1]の携帯装置。
[3]前記含フッ素重合体(a)が、末端基としてカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する、[1]または[2]の携帯装置。
[4]前記材料(a’)が、前記含フッ素重合体(a)と、アミノ基を有するシランカップリング剤との混合物または反応生成物を含む、[1]〜[3]のいずれかの携帯装置。
[5]温度、気圧、振動、磁気および加速度から選ばれる少なくとも1種の情報を検知するセンサを備える、[1]〜[4]のいずれかの携帯装置。
[6]腕時計である、[1]〜[5]のいずれかの携帯装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、人体の動きによる低周波数の振動によって充分に駆動し、軽量化や薄型化が可能で、コストが低く、耐久性に優れた携帯装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の携帯装置の例として時計の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す時計の電源部の概略構成を示すブロック図である。
【図3】電源部に用いられる振動発電器の一実施形態を示す斜視分解図である。
【図4】図3に示す振動発電器1の部分断面図である。
【図5】図3に示す振動発電器1を構成する可動電極部10の、第一の電極11およびエレクトレット12が設けられている側の平面図である。
【図6】整流回路の回路構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書における携帯装置とは、人体に直接的または衣服を介して間接的に装着する装置である。本発明の携帯装置は、人体が歩行等の運動により発生させる低周波数の振動をエネルギー源とする。携帯装置としては、時計(腕時計、懐中時計等)、体温計、温度計、歩数計、携帯オーディオ、キーレスエントリー用携帯機、補聴器、心臓ペースメーカー、携帯電話およびゲーム機が挙げられる。
本発明の携帯装置は、振動発電器を備える携帯装置であって、該振動発電器が、エレクトレットを備える静電誘導型発電素子を備え、前記エレクトレットが、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体(a)または該含フッ素重合体(a)に由来する材料(a’)を含有する樹脂膜に電荷を注入してなるものであることを特徴とする。
前記静電誘導型発電素子を備える振動発電器は、エレクトレットに特定の材料が用いられていることにより、歩行等の人体の動きによって生じる低周波数の振動での発電効率が高い。そのため、該静電誘導型発電素子を電源として用いることにより、低周波数の振動を高周波数の振動に変換するための増幅機構を設けなくても、携帯装置の駆動に充分な電力が得られる。特に携帯装置の例としての時計がセンサ、タイマ、アラーム、ワールドタイム、電波時計(電波による自動誤差修正)等の各種機能を備える多機能時計の場合、消費電力も大きいが、本発明においては、このような多機能時計であっても、駆動に充分な電力が得られる。そのため、従来の振動発電器を備える時計に比べて軽量化や薄型化が可能で、コストも低い。また、エレクトレット自体の寿命が長い(電荷保持安定性が高い)こと、発電する際にエレクトレットを変形させたり他の部材と接触させる必要がないことなどから、携帯装置全体としての耐久性も優れている。
【0012】
本発明の時計の一実施形態を、図面を用いて説明する。
図1に本実施形態の時計の概略構成を説明するブロック図を示す。
本実施形態の時計は、振動発電器を備える電源部101と、情報を表示する表示部102と、センサ部103と、計時のための発振回路と分周回路を備える計時部105と、時計の駆動制御およびセンサ部103からの出力信号の処理を行う制御部104とを備えている。また制御部104は、電源部101から出力された電圧があらかじめ設定された電圧値より低下した時に電圧低下の情報を表示部102に出力すると共に、表示部102およびセンサ部103への電力供給を制限する等、回路全体の電力制御機能も備えている。
電源部101から計時部105および制御部104に対し、各部の駆動に必要な電力が供給されるようになっている。表示部102およびセンサ部103の駆動に必要な電力は、制御部104で各部に最適な電力供給形態に変換された後に、制御部104を介して供給される。
【0013】
表示部102で表示される情報としては、時刻情報(時、分、秒等)、カレンダー情報(日付、曜日等)、センサ部103で検知された情報等が挙げられる。時刻情報の表示形式は、指針(時針、分針、秒針等)によって表示するアナログ式でも、数字によって表示するデジタル式でもよい。アナログ式の場合、指針の運針は、指針が連結された指針軸に取り付けられたステッピングモータによって行われ、このモータの駆動が制御部104によって行われる。デジタル式の時刻情報やセンサ部103で検知された情報は、制御部104からの出力信号に基づき、液晶ディスプレイ等の表示装置に表示される。
センサ部103で検知された信号は制御部104でA/D変換等された後、必要な情報を抽出するための信号処理がなされ、表示部102に入力され、情報として表示される。
【0014】
表示部102、センサ部103、制御部104、計時部105はそれぞれ特に限定されず、従来の時計に用いられているものが利用できる。
たとえば計時部105には、高精度な時刻情報取得およびに低消費電力化のために、電源部から供給される電圧より低電圧な定電圧回路が備えられていることが好ましい。
制御部104についても、C−MOS ICの消費電力PはP=fCV(f=動作周波数、C=負荷容量、V=動作電圧)で表され、レギュレータ回路で低電圧化を行うことが好ましい。
また、センサ部103に、温度、圧力、振動、磁気、加速度、ジャイロ、位置(GPS)等を検知するセンサを適用することで、温度、気圧、水圧、高度、方位、歩数など、使用者にとって付加価値の高い情報を与えることが可能となる。センサとしては、特に、温度、気圧、振動、磁気および加速度から選ばれる少なくとも1種の情報を検知するものが好ましい。選ばれる情報は携帯機器の付加価値を高める一方で、温度は発電器の劣化に影響する因子であり、また加速度は発電量を決める因子であるため、選定することが望ましい。
【0015】
図2に、電源部101の概略構成を説明するブロック図を示す。
電源部101は、振動発電器1と、振動発電器1で発電された電力を充電するための蓄電部2とを備える。
振動発電器1は、静電誘導型発電素子3と電源回路部4とを備える。
静電誘導型発電素子3は、詳しくは後述するが、エレクトレットが設けられた第一の電極と、該エレクトレットから離間配置された第二の電極とを備え、外部からの振動によってエレクトレットが第二の電極に対して相対的に運動するように構成されているものである。
【0016】
電源回路部4は、整流回路41と、電圧変換回路42とを備える。
整流回路41は、静電誘導型発電素子3で発電された交流電力を整流して直流電力に変換する回路である。
電圧変換回路42は、整流回路41で整流された直流電流の電圧値を使用される二次電池の充電に最適な電圧に変換する回路であり、整流回路41から入力された直流電流の電圧値が、振動発電器1からの出力電圧値に変換される。
【0017】
蓄電部2は、図示しない二次電池および充放電制御回路を備える。
充放電制御回路は、振動発電器1から出力された直流電力を二次電池に充電あるいは二次電池から放電する時に、二次電池を保護するための過充電、過放電を防止するための制御回路と、効率良く充電、放電するための制御回路とを備える。
【0018】
振動発電器1の概略構造を、図3〜4に示す。図3は、振動発電器1の斜視分解図であり、図4は振動発電器1の部分断面図である。
本実施形態において、振動発電器1は、第一の電極11およびエレクトレット12を備える上部ユニットAと、第二の電極21を備える下部ユニットBとから構成される。
上部ユニットAは、第一の電極11、エレクトレット12および表面が平滑な長方形状の第一の基板13から構成される可動電極部10と、矩形の枠部材14と、第一の基板13を枠部材14に取り付けるばね部材15a、15bとから構成される。
上部ユニットAにおいて、可動電極部10は、枠部材14の枠内に配置され、第一の基板13の長辺側の両側縁がそれぞればね部材15a、15bによって枠部材14に取り付けられている。これにより、可動電極部10が、枠部材14の枠内で一定方向(図3〜5中の矢印D方向)に往復運動(振動)できるようになっている。
下部ユニットBは、第二の電極21および表面が平滑な長方形状の第二の基板22から構成される固定電極部20と、電源回路部4と、固定部材23とから構成される。
本実施形態においては、可動電極部10および固定電極部20により静電誘導型発電素子3が構成されている。
静電誘導型発電素子3の第一の電極11および第二の電極21はそれぞれ電源回路部4の整流回路41に接続されている。
なお、上部ユニットAと下部ユニットBとが入れ替わってもよい。
【0019】
<上部ユニットA>
図5に、可動電極部10の、第一の電極11およびエレクトレット12が設けられている側の平面図を示す。
図5に示すように、第一の電極11は、櫛形状のパターンで形成されたパターン電極であり、複数のライン状の櫛歯部分11aと、各櫛歯部分11aの一端を連絡する直線部11bとから構成される。
櫛歯部分11aは、ラインの長手方向が、可動電極部10の振動方向Dに交差するように形成されている。
直線部11bの末端は、図示しない配線によって電源回路部4の整流回路41に接続されている。
【0020】
櫛歯部分11aの幅(振動方向Dにおける長さ)は、特に限定されないが、該幅が小さいほど、小さな相対運動(振動)によって運動エネルギーから電気エネルギーへの変換を行うことができ、変換効率が向上するため好ましい。そのため、櫛歯部分11aの幅は、それぞれ、1,000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。該幅の下限は特に限定されないが、耐久性、生産性、エレクトレットとしての特性(表面電荷密度の高さやその安定性、静電反発特性、寄生静電容量等)等を考慮すると、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。
第一の電極11は、単一の層からなるものであってもよく、複数の層からなるものであってもよく、組成に分布のある構造を形成していてもよい。
第一の電極11の厚さ(複数の層よりなる場合は合計の厚さ)は、それぞれ、10〜1,000nmが好ましく、100〜500nmがより好ましい。該厚さが上記範囲内であると、導電性、生産性に優れる。
第一の電極11の厚さは、触針式表面形状測定器(ULVAC社製DEKTAK8等)により測定できる。
【0021】
第一の電極11を構成する材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されない。該材料の抵抗値としては体積固有抵抗値で0.1Ωcm以下が好ましく、0.01Ωcm以下がより好ましい。
導電性材料として具体的には、金、銀、銅、ニッケル、クロム、アルミニウム、チタン、タングステン、モリブデン、錫、コバルト、パラジウム、白金、これらのうちの少なくとも1種を主成分とする合金等が挙げられる。また、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)などの金属酸化物導電膜;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン系導電性ポリマー(PEDOT/PSS)、カーボンナノチューブなどから成る有機導電膜;も例示できる。
【0022】
第一の電極11の形成方法としては、特に限定されず、公知の方法を利用できる。具体的には、たとえば基板(第一の基板13)上に導電性薄膜を形成し、該導電性薄膜をパターニングする方法が挙げられる。
導電性薄膜の形成方法は特に限定されず、物理的蒸着法、無電解めっき法等の、導電性薄膜の形成方法として公知の方法を利用できる。
物理蒸着法としては、スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
無電解めっき法とは、金属塩、還元剤等を含む無電解めっき液に、表面に触媒が付着した基板を浸漬し、還元剤から生じる電子の還元力によって、触媒が付着した基板表面において選択的に金属を析出させ、無電解めっき膜を形成する方法である。
無電解めっき液に含まれる金属塩としては、ニッケル塩(硫酸ニッケル、塩化ニッケル、次亜リン酸ニッケル等。)、第二銅塩(硫酸銅、塩化銅、ピロリン酸等。)、コバルト塩(硫酸コバルト、塩化コバルト等。)、貴金属塩(塩化白金酸、塩化金酸、ジニトロジアンミン白金、硝酸銀等。)等が挙げられる。
無電解めっき液に含まれる還元剤としては、次亜リン酸ナトリウム、ホルムアルデヒド、テトラヒドロほう酸ナトリウム、ジアルキルアミンボラン、ヒドラジン等が挙げられる。
無電解めっき法により導電性薄膜を形成する場合、導電性薄膜を形成する前に、予め、基板の表面に触媒を付着させておくことが好ましい。該触媒としては、金属微粒子、金属を担持した微粒子、コロイド、有機金属錯体等が挙げられる。
【0023】
導電性薄膜のパターニングは、フォトリソグラフィー法とウェットエッチング法の組み合わせ、ナノメタルインク等を印刷することによる配線形成、等により実施できる。たとえばフォトリソグラフィー法とウェットエッチング法の組み合わせによるパターニングは、導電性薄膜上にフォトレジストを塗布してレジスト膜を形成した後、該レジスト膜に対し、露光、現像を行うことでパターン(レジストマスク)を形成し、該レジストマスクをマスクとして導電性薄膜をエッチングすることにより実施できる。導電性薄膜のエッチングは、たとえばエッチング液として導電性薄膜を溶解する液体(通常は酸性溶液)を用いたウェットエッチングにより実施できる。また、ナノメタルインク等を印刷する方法としてはスクリーン印刷法、インクジェット法またはマイクロコンタクトプリンティング法等を用いることができる。ナノメタルインクとは前述の導電性材料のナノ粒子を有機溶媒や水等に分散させたインクのことをいう。
【0024】
エレクトレット12は、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体(a)または該含フッ素重合体(a)に由来する材料(a’)を含有する樹脂膜(以下、樹脂膜(A)ということがある。)を形成し、該樹脂膜(A)に電荷を注入することにより形成される。
樹脂膜(A)およびその形成方法ならびに電荷の注入方法についての詳細は後述する。
エレクトレット12は、第一の電極11の複数の櫛歯部分11aそれぞれの上面に、櫛歯部分11aに対応するパターンで形成されている。すなわち、樹脂膜(A)として、櫛歯部分11aと略同一の幅および長さのライン状のパターンのパターン膜を形成し、これに電荷を注入することにより形成されている。
各エレクトレット12の幅は特に限定されないが、第一の電極11の櫛歯部分11aの幅と同じかそれよりも大きいことが好ましく、櫛歯部分11aの幅よりも大きいことがより好ましい。エレクトレット12の幅が櫛歯部分11aの幅よりも大きいと、エレクトレット化した際の表面電位値や電荷保持の安定性(常温安定性、加熱時の安定性の両方)を高くできる。
エレクトレット12の厚さ(第一の電極11の上面からエレクトレット12の頂部までの最短距離)は、発電出力、加工しやすさ等を考慮すると、1〜200μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。
エレクトレット12の厚さは、光干渉式膜厚測定装置により測定できる。
【0025】
第一の基板13を構成する材料としては、絶縁材料が好ましい。該絶縁材料の抵抗値としては体積固有抵抗値で1010Ωcm以上が好ましく、1012Ωcm以上がより好ましい。
絶縁材料として具体的には、ガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリカーボネート、アクリル樹脂等の有機高分子材料等が挙げられる。
なお、基板は上記絶縁材料に金属材料を混合した複合材料を用いることもできる。
【0026】
枠部材14の材質は特に限定されず、金属のような導電材料を用いることもできるし、基板13と同様の絶縁材料を用いることもできる。発電器の軽量化および、エレクトレットの耐久性(放電しにくさ)の観点から絶縁材料を用いることが好ましい。絶縁材料としては、有機高分子材料を用いるのが特に好ましい。
バネ部材15a、15bの材質(バネ材料)についても、枠部材14同様に、金属のような導電材料を用いることもできるし、基板13と同様の絶縁材料を用いることもできる。バネ材料として金属材料を用いる場合は、利用する振動の周波数に合わせた共振周波数に対応できるバネ定数を有するバネ材料が用いられる。バネ材料として絶縁材料、特に高分子材料を用いた場合に広い振動周波数域に対応できる共振周波数を有するバネを作製することができる。
高分子材料としては、ポリパラキシリレンまたはその誘導体(ポリパラキシリレン類ともいう。)が好ましい。該ポリパラキシリレン類は、常温の気相中で重合できる特殊なポリマーである。例えば、以下に示されるダイマーを160℃程度で昇華させた後、690℃で熱分解してモノマーとし、常温の真空容器(4Pa程度)に導入して固体表面で重合させることでポリマー(ポリパラキシリレン)が得られる。
【0027】
【化1】

【0028】
ポリパラキシリレン類には幾つかの種類がある。ベンゼン環に塩素が付いた分子構造を有する化合物(商品名parylene−C)は、絶縁破壊強度及び耐薬品性が高く、バネ材料として好適である。
上記parylene−Cを含め、バネ材料として使用できるポリパラキシリレン類の例を以下に示す。なお、各構造式の下には商品名を示している。
【0029】
【化2】

【0030】
ポリパラキシリレン類を用いたバネには特開2008−174811号公報に記載の方法により導電材料を導入しても良い。
【0031】
<下部ユニットB>
第二の電極21は、第一の電極11と面対称となるパターンで形成された櫛形状のパターン電極であり、第一の電極11と同様、複数のライン状の櫛歯部分と、各櫛歯部分の一端を連絡する直線部とから構成され、直線部の末端が、図示しない配線によって電源回路部4の整流回路41に接続されている。
第二の電極21の櫛歯部分11aの幅、第二の電極21の厚さの好ましい範囲は、それぞれ、第一の電極11と同様である。
第二の電極21を構成する材料としては、第一の電極11の説明で挙げたものと同様のものが挙げられる。
第二の電極21は、単一の層からなるものであってもよく、複数の層からなるものであってもよく、組成に分布のある構造を形成していてもよい。
第二の電極21の組成(材料、層構成等)は、第一の電極11の組成と同じであっても異なってもよい。
第二の電極21の形成方法としては、特に限定されず、第一の電極11と同様の手順で形成できる。
【0032】
第二の基板22を構成する材料としては、第一の基板13の説明で挙げたものと同様のものが挙げられる。
固定部材23は、片面に固定電極部20に対応する凹部が設けられ、一角に電源回路部4に対応する切り欠き部が設けられている。ただし、電源回路部4の設置場所は限定的ではなく、たとえば第二の基板22の背面に設置されてもよい。
固定部材23の材質は特に限定されず、金属のような導電材料を用いることもできるし、基板13と同様の絶縁材料を用いることもできる。発電器の軽量化および、エレクトレットの耐久性(放電しにくさ)の観点から絶縁材料を用いることが好ましい。絶縁材料としては、有機高分子材料を用いるのが特に好ましい。
【0033】
電源回路部4は、上述したとおり、整流回路41と、電圧変換回路42とを備える。
整流回路41、電圧変換回路42それぞれの回路構造は特に限定されず、従来、静電誘導型の振動発電器に用いられているものが利用できる。たとえば整流回路41の回路構成は、一般的なAC−DCコンバータの回路構成と同様であってよい。電圧変換回路42の回路構成は、一般的なDC−DCコンバータの回路構成と同様であってよい。
【0034】
図6に、整流回路の回路構成例を示す。本例の整流回路41は、ダイオードD1〜D4で構成されたダイオードブリッジと、このダイオードブリッジの出力端子TOUT1およびTOUT2の間に設けられたコンデンサChにより構成されている。整流回路の入力端子TIN1およびTIN2にはそれぞれ、静電誘導型発電素子の第一の電極11および第二の電極21が接続されている。
整流回路41では、静電誘導型発電素子から入力される交流電力がダイオードブリッジで全波整流され、かつコンデンサChで平滑されて、直流電力として出力される。
なお、ここでは全波整流用の回路構成例を示したが、半波整流用の回路構成としてもよい。
【0035】
下部ユニットBは、固定部材23の凹部に固定電極部20を取り付け、切り欠き部に電源回路部4を取り付けることにより構成される。このとき、固定電極部20は、第二の電極21の櫛歯部分のラインの長手方向が、可動電極部20の振動方向Dに交差するように、つまり第一の電極11の櫛歯部分のラインの長手方向と一致するように取り付けられる。
上述したように、上部ユニットAの可動電極部10は、枠部材14の枠内で一定方向(図3〜5中の矢印D方向)に往復運動(振動)できるようになっている。この上部ユニットAの枠部材14を、下部ユニットBの固定部材23上に固定することで、エレクトレット12と第二の電極21とが一定の間隔を開けて対向する。
【0036】
振動発電器1の外形寸法は、時計の筐体内に収納可能な大きさであればよく、時計に応じて適宜設定できる。
たとえば腕時計である場合、振動発電器1の厚さ(固定部材23の厚さ+枠部材14の厚さ)は、できる限り薄い方が好ましく、通常、0.4〜1.0mm程度である。面積は発電量に比例するので腕時計の消費電力を基準にして、腕時計内部の他のモジュール(駆動部、制御部、センサ部など)の大きさとの兼ね合いで決定される。横幅(振動方向Dにおける長さ)および縦幅(振動方向Dに対して垂直方向における長さ)は、それぞれ、1〜20mm程度である。
【0037】
振動発電器1においては、人体の動きによって外部から振動が与えられると、可動電極部10が固定電極部20に対して平行に、一定方向(図1中の矢印D方向)に振動する。これにより、交流電力が発生する。すなわち、固定電極部20の第二の電極21は、静止状態においては可動電極部10のエレクトレット12と対向する位置にある。このとき、第二の電極21では、対向する位置にあるエレクトレット12の表面電荷によって、エレクトレット12の表面電荷とは逆の極性を持つ電荷が静電誘導される。可動電極部10の振動によりエレクトレット12が移動し、エレクトレット12と第二の電極21との重なり部分の面積が減少すると、先に誘導された電荷に対向する逆電荷が無くなり、第二の電極21の電荷の量が減少する。エレクトレット12の位置が元の位置に戻り、第二の電極21との重なり部分の面積が増大すると、再度電荷が静電誘導され、第二の電極21の電荷の量が増大する。このように、第二の電極21とエレクトレット12と相対的な位置の変化により第二の電極21の電荷の量が変化すると、生じた電位差を打ち消すために電流が流れる。この繰り返しを電圧の波として取り出すことで交流電力が得られる。
出力された交流電力は、電源回路部4の整流回路41で整流され、直流電力として電源回路部4から出力される。
電源回路部4から出力された直流電力は、蓄電部5を介して制御部104に供給され、表示部102、センサ部103、制御部104等で消費される駆動電力として利用される。
【0038】
振動発電器1によれば、その外形寸法を、比較的小型の携帯装置、たとえば腕時計等の携帯時計の筐体内に収納可能な大きさまで小型化または薄型化しても、人体の動き(腕の振り等)によって生じる低周波数の振動で、駆動に充分な電力が得られる。
たとえば腕時計の場合、歩行時の腕の振りによって生じる振動は、1〜10Hz程度である。上記構成の振動発電器1によれば、このような振動でも、1〜100μW程度の電力が得られる。時計の消費電力は、たとえば時刻表示のみの場合であれば1〜5μW程度、センサや受信モジュール等の付加的な機能を設けた場合でも、5〜100μW程度であるため、振動発電器1以外の電源を設けなくても充分に駆動する。
したがって、本発明は、腕時計等の携帯時計である場合の有用性が高い。携帯時計としては、腕時計のほか、懐中時計、ナースウォッチ、携帯電話の時計機能等が挙げられる。これらの中でも、メンテナンスフリーで長期間使用される点で、腕時計が好適である。
【0039】
ここで、振動発電器1の最大発電出力Pmaxは、以下の数式で表すことができる。
max=2πσnAf/{εε/d×(εg/d+1)}
[式中、σはエレクトレット12の表面電荷密度、nは極数(第一の基板13の振動方向Dに配置された第二の電極21の数(つまりエレクトレット12の数))、Aはエレクトレット12と第二の電極21との最大重なり面積、fはエレクトレット12の往復運動の周波数、εは比誘電率、εは真空の誘電率、dはエレクトレット12の厚さ、gはエレクトレット12と第二の電極21との距離である。]
【0040】
上記数式に示されるように、エレクトレット12の表面積(複数の場合は合計の表面積)が同じである場合、エレクトレット12の表面電荷密度が高いほど、または厚さdが大きいほど、または振動方向Dにおけるエレクトレット12の数が多いほど、発電出力も大きくなる。従来、エレクトレットの材料としてはシリコン酸化膜、シリコン窒化膜等の無機材料が汎用されているが、このような無機材料の場合、強度および層形成プロセスの煩雑さ等の点から、厚さdを2μm以上とすることは難しく、微細加工も難しい。そのため、発電出力を大きくすることが難しく、時計にセンサ等の付加的な機能を付けた場合、その電力をエレクトレットのみで賄うことが難しい。また長期の電荷安定性にも課題がある。
これに対し、本発明で用いられる樹脂膜(A)は、含フッ素重合体(a)または材料(a’)を含有することにより、高い電荷保持性能を有しており、樹脂膜(A)に電荷を注入してなるエレクトレットは高い表面電荷密度を有する。また、たとえば厚さ10μm以上のエレクトレット12を容易に形成できる。また、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜に比べてより微細な加工が可能である。そのため、高い発電出力が得られ、時計にセンサ等の付加的な機能を付けた場合でも、必要な電力を充分に賄うことができる。
【0041】
<樹脂膜(A)>
樹脂膜(A)は、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体(a)または該含フッ素重合体(a)に由来する材料(a’)を含有する。
材料(a’)としては、詳しくは後述するが、含フッ素重合体(a)と含フッ素重合体(a)以外の他の成分との混合物、含フッ素重合体(a)と含フッ素重合体(a)以外の他の成分との反応生成物、等が挙げられる。樹脂膜(A)が前記反応生成物を含む場合、該樹脂膜(A)中には、前記反応生成物の形成に用いた含フッ素重合体(a)または他の成分の一部が未反応のまま残留していてもよい。
【0042】
[含フッ素重合体(a)]
含フッ素重合体(a)は、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体である。
ここで、「含フッ素重合体」は、その構造中にフッ素原子を有する重合体である。
含フッ素重合体(a)において、フッ素原子は、主鎖を構成する炭素原子に結合していてもよく、側鎖に結合していてもよい。低吸水率・低誘電率で絶縁破壊電圧が高く、体積抵抗率の高いエレクトレット化に適していることから、フッ素原子が、主鎖を構成する炭素原子に結合していることが好ましい。
【0043】
「主鎖に脂肪族環を有する」とは、脂肪族環の環骨格を構成する炭素原子のうち、少なくとも1つが、含フッ素重合体(a)の主鎖を構成する炭素原子であることを意味する。
たとえば含フッ素重合体(a)が、重合性二重結合を有する単量体の重合により得られたものである場合、重合に用いられた単量体が有する重合性二重結合に由来する炭素原子のうちの少なくとも1つが、前記主鎖を構成する炭素原子となる。たとえば含フッ素重合体(a)が、後述するような環状単量体を重合させて得た含フッ素重合体の場合は、該環状単量体が有する重合性二重結合を構成する2個の炭素原子が主鎖を構成する炭素原子となる。また、2個の重合性二重結合を有する単量体を環化重合させて得た含フッ素重合体の場合は、2個の重合性二重結合を構成する4個の炭素原子のうちの少なくとも2個が主鎖を構成する炭素原子となる。
【0044】
「脂肪族環」とは、芳香族性を有さない環を示す。脂肪族環は、飽和であってもよく、不飽和であってもよい。脂肪族環は、環骨格が、炭素原子のみから構成される炭素環構造のものであってもよく、環骨格に、炭素原子以外の原子(ヘテロ原子)を含む複素環構造のものであってもよい。該ヘテロ原子としては酸素原子、窒素原子等が挙げられる。
脂肪族環の環骨格を構成する原子の数は、4〜7個が好ましく、5〜6個がより好ましい。すなわち、脂肪族環は4〜7員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
脂肪族環は置換基を有していてもよく、有さなくてもよい。「置換基を有していてもよい」とは、該脂肪族環の環骨格を構成する原子に置換基(水素原子以外の原子または基)が結合してもよいことを意味する。
【0045】
脂肪族環は、非含フッ素脂肪族環であってもよく、含フッ素脂肪族環であってもよい。
非含フッ素脂肪族環は、構造中にフッ素原子を含まない脂肪族環である。非含フッ素脂肪族環として、具体的には、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素環、該脂肪族炭化水素環における炭素原子の一部が酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子で置換された脂肪族複素環等が挙げられる。
含フッ素脂肪族環は、構造中にフッ素原子を含む脂肪族環である。含フッ素脂肪族環としては、脂肪族環の環骨格を構成する炭素原子に、フッ素原子を含む置換基(以下、含フッ素基という。)が結合した脂肪族環が挙げられる。含フッ素基としては、フッ素原子、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、=CF等が挙げられる。
該含フッ素脂肪族環または非含フッ素脂肪族環は、含フッ素基以外の置換基を有していてもよい。
脂肪族環としては、電荷保持性能に優れることから、含フッ素脂肪族環が好ましい。
【0046】
好ましい含フッ素重合体(a)として、下記含フッ素環状重合体(I)、含フッ素環状重合体(II)が挙げられる。
含フッ素環状重合体(I):環状含フッ素単量体に基づく単位を有する重合体。
含フッ素環状重合体(II):ジエン系含フッ素単量体の環化重合により形成される単位を有する重合体。
「環状重合体」とは環状構造を有する重合体を意味する。
「単位」は、重合体を構成する繰り返し単位を意味する。
以下、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」とも記す。他の式で表される単位、化合物等についても同様に記し、たとえば式(3−1)で表される単位を「単位(3−1)」とも記す。
【0047】
含フッ素環状重合体(I)は、環状含フッ素単量体に基づく単位を有する。
「環状含フッ素単量体」とは、含フッ素脂肪族環を構成する炭素原子間に重合性二重結合を有する単量体、または、含フッ素脂肪族環を構成する炭素原子と含フッ素脂肪族環外の炭素原子との間に重合性二重結合を有する単量体である。
環状含フッ素単量体としては、下記の化合物(1)または化合物(2)が好ましい。
【0048】
【化3】

[式中、X、X、X、X、YおよびYは、それぞれ独立に、フッ素原子、酸素原子が介在してもよいペルフルオロアルキル基、または酸素原子が介在してもよいペルフルオロアルコキシ基である。XおよびXは相互に結合して環を形成してもよい。]
【0049】
、X、X、X、YおよびYにおけるペルフルオロアルキル基は、炭素数が1〜7であることが好ましく、炭素数が1〜4であることがより好ましい。該ペルフルオロアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状が好ましく、直鎖状がより好ましい。具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等が挙げられ、特にトリフルオロメチル基が好ましい。
、X、X、X、YおよびYにおけるペルフルオロアルコキシ基としては、前記ペルフルオロアルキル基に酸素原子(−O−)が結合したものが挙げられ、トリフルオロメトキシ基が特に好ましい。
前記ペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルコキシ基の炭素数が2以上である場合、該ペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルコキシ基の炭素原子間に酸素原子(−O−)が介在してもよい。
【0050】
式(1)中、Xは、フッ素原子であることが好ましい。
は、フッ素原子、トリフルオロメチル基、または炭素数1〜4のペルフルオロアルコキシ基であることが好ましく、フッ素原子またはトリフルオロメトキシ基であることがより好ましい。
およびXは、それぞれ独立に、フッ素原子または炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基であることが好ましく、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であることがより好ましい。
およびXは相互に結合して環を形成してもよい。前記環の環骨格を構成する原子の数は、4〜7個が好ましく、5〜6個であることがより好ましい。
化合物(1)の好ましい具体例として、化合物(1−1)〜(1−5)が挙げられる。
【0051】
【化4】

【0052】
式(2)中、YおよびYは、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基または炭素数1〜4のペルフルオロアルコキシ基が好ましく、フッ素原子またはトリフルオロメチル基がより好ましい。
化合物(2)の好ましい具体例として、化合物(2−1)〜(2−2)が挙げられる。
【0053】
【化5】

【0054】
含フッ素環状重合体(I)は、上記環状含フッ素単量体により形成される単位のみから構成されてもよく、該単位と、それ以外の他の単位とを有する共重合体であってもよい。
ただし、該含フッ素環状重合体(I)中、環状含フッ素単量体に基づく単位の割合は、該含フッ素環状重合体(I)を構成する全繰り返し単位の合計に対し、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、100モル%であってもよい。
該他の単量体としては、上記環状含フッ素単量体と共重合可能なものであればよく、特に限定されない。具体的には、ジエン系含フッ素単量体、側鎖に反応性官能基を有する単量体、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)等が挙げられる。ジエン系含フッ素単量体としては、後述する含フッ素環状重合体(II)の説明で挙げるものと同様のものが挙げられる。側鎖に反応性官能基を有する単量体としては、重合性二重結合および反応性官能基を有する単量体が挙げられる。重合性二重結合としては、CF=CF−、CF=CH−、CH=CF−、CFH=CF−、CFH=CH−、CF=C−、CF=CF−等が挙げられる。反応性官能基としては、後述する含フッ素環状重合体(II)の説明で挙げるものと同様のものが挙げられる。
なお環状含フッ素単量体とジエン系含フッ素単量体との共重合により得られる重合体は含フッ素環状重合体(I)として考える。
【0055】
含フッ素環状重合体(II)は、ジエン系含フッ素単量体の環化重合により形成される単位を有する。
「ジエン系含フッ素単量体」とは、2個の重合性二重結合およびフッ素原子を有する単量体である。該重合性二重結合としては、特に限定されないが、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基が好ましい。
ジエン系含フッ素単量体としては、下記化合物(3)が好ましい。
CF=CF−Q−CF=CF ・・・(3)。
式(3)中、Qは、エーテル性酸素原子を有していてもよく、フッ素原子の一部がフッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜5、好ましくは1〜3の、分岐を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。該フッ素以外のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
Qはエーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。その場合、該ペルフルオロアルキレン基におけるエーテル性酸素原子は、該基の一方の末端に存在していてもよく、該基の両末端に存在していてもよく、該基の炭素原子間に存在していてもよい。環化重合性の点から、該基の一方の末端に存在していることが好ましい。
【0056】
化合物(3)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CF=CFOCFCF=CF
CF=CFOCF(CF)CF=CF
CF=CFOCFCFCF=CF
CF=CFOCFCF(CF)CF=CF
CF=CFOCF(CF)CFCF=CF
CF=CFOCFClCFCF=CF
CF=CFOCClCFCF=CF
CF=CFOCFOCF=CF
CF=CFOC(CFOCF=CF
CF=CFOCFCF(OCF)CF=CF
CF=CFCFCF=CF
CF=CFCFCFCF=CF
CF=CFCFOCFCF=CF
【0057】
化合物(3)の環化重合により形成される単位として、下記単位(3−1)〜(3−4)等が挙げられる。
【0058】
【化6】

【0059】
含フッ素重合体(a)は、反応性官能基を有することが好ましい。
「反応性官能基」とは、加熱等を行った際に、当該含フッ素重合体(a)の分子間、または含フッ素重合体(a)とともに配合されている他の成分と反応して結合を形成し得る反応性を有する基を意味する。
たとえば該他の成分として、後述するシランカップリング剤または極性官能基を2個以上有する分子量50〜2,000の化合物(ただしシランカップリング剤は除く。)(以下、多価極性化合物という。)を混合し、それらを反応させて反応生成物とする場合は、含フッ素重合体(a)が、シランカップリング剤が有する官能基または多価極性化合物が有する極性官能基と反応し得る反応性官能基を有することが好ましい。
含フッ素重合体(a)が有する反応性官能基としては、重合体中への導入のしやすさ、シランカップリング剤または多価極性化合物との相互作用の強さ等を考慮すると、カルボキシ基、酸ハライド基、アルコキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、カーボネート基、スルホ基、ホスホノ基、ヒドロキシ基、チオール基、シラノール基およびアルコキシシリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、カルボキシ基またはアルコキシカルボニル基が特に好ましい。
反応性官能基は、含フッ素重合体(a)の主鎖末端に結合していてもよく、側鎖に結合していてもよい。
【0060】
含フッ素重合体(a)の比誘電率は1.8〜8が好ましく、1.8〜5がより好ましく、1.8〜3がさらに好ましく、1.8〜2.7が特に好ましく、1.8〜2.3が最も好ましい。該比誘電率が上記範囲の下限値以上であると、エレクトレットとして蓄え得る電荷量が高く、上限値以下であると、電気絶縁性、およびエレクトレットとしての電荷保持安定性に優れる。該比誘電率は、ASTM D150に準拠し、周波数1MHzにおいて測定される。
また、樹脂膜(A)はエレクトレットとしての電荷保持を担う部分であることから、含フッ素重合体(a)としては、体積固有抵抗が高く、絶縁破壊強度が大きいものが好ましい。
含フッ素重合体(a)の体積固有抵抗は1010〜1020Ωcmが好ましく、1016〜1019Ωcmがより好ましい。該体積固有抵抗は、ASTM D257により測定される。
含フッ素重合体(a)の絶縁破壊強度は10〜25kV/mmが好ましく、15〜22kV/mmがより好ましい。該絶縁破壊強度は、ASTM D149により測定される。
含フッ素重合体(a)の屈折率は、基板との屈折率差を小さくし、複屈折等による光の干渉を抑え、透明性を確保する点から、1.2〜2が好ましく、1.2〜1.5がより好ましい。
【0061】
含フッ素重合体(a)の重量平均分子量(Mw)は、5万以上が好ましく、15万以上がより好ましく、20万以上がさらに好ましく、25万以上が特に好ましい。Mwが5万以上であると、製膜しやすい。特に20万以上であると、膜の耐熱性が向上し、エレクトレットとした際、保持した電荷の熱安定性が向上する。一方、Mwが大きすぎると、溶媒に溶けにくくなり、製膜プロセスが制限される等の問題が生じるおそれがある。したがって、含フッ素重合体(a)のMwは、100万以下が好ましく、85万以下がより好ましく、65万以下がさらに好ましく、55万以下が特に好ましい。
本明細書において、含フッ素重合体(a)のMwは、日本化学会誌、2001,NO.12,P.661に記載される、Mwと固有粘度[η](30℃)との関係式([η]=1.7×10−4×Mw0.60)を用いて算出される値である。
固有粘度[η](30℃)(単位:dl/g)は、30℃で、ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)を溶媒として、ウベローデ型粘度計により測定される値である。
【0062】
含フッ素重合体(a)は、前述した単量体を重合させることにより合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
主鎖にエーテル性酸素原子を含む含フッ素脂肪族環を有し、主鎖の末端にカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する含フッ素重合体の市販品としては、CYTOP(登録商標、旭硝子社製)が挙げられる。
【0063】
[材料(a’)]
材料(a’)としては、上述したように、含フッ素重合体(a)と含フッ素重合体(a)以外の他の成分との混合物、含フッ素重合体(a)と含フッ素重合体(a)以外の他の成分との反応生成物、等が挙げられる。
前記反応生成物としては、たとえば含フッ素重合体(a)および前記他の成分を溶媒に溶解したコーティング液を加熱(溶媒を揮発させて成膜する際のベーク等)した際に、各成分が反応して生成するものが挙げられる。
含フッ素重合体(a)と混合または反応させる他の成分としては、シランカップリング剤または多価極性化合物が好ましく、シランカップリング剤が特に好ましい。これにより、形成される樹脂膜(A)の電荷保持性能(保持した電荷の熱安定性、経時安定性等)が向上する。電荷保持性能の向上効果は、特に、含フッ素重合体(a)が末端基としてカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する場合に顕著である。
電荷保持性能の向上効果は、含フッ素重合体(a)とシランカップリング剤または多価極性化合物とがナノ相分離を引き起こし、シランカップリング剤または多価極性化合物由来のナノクラスタ構造が形成され、当該ナノクラスタ構造が、エレクトレットにおける電荷を蓄える部位として機能するためであると推察される。
材料(a’)中、シランカップリング剤または多価極性化合物は、分子同士が反応した状態で存在していてもよい。
【0064】
シランカップリング剤としては、特に限定されず、従来公知または周知のものを含めて広範囲にわたって利用できる。
シランカップリング剤としては、アミノ基を有するシランカップリング剤が好ましい。
入手の容易性等を考慮すると、特に好ましいシランカップリング剤は、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、およびN−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、から選択される1種以上である。
【0065】
シランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
シランカップリング剤の配合量は、含フッ素重合体(a)とシランカップリング剤との合計量に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.3〜10質量%がより好ましく、0.5〜5質量%が最も好ましい。この範囲にあると、含フッ素重合体(a)とともに溶媒に溶解してコーティング液とした際に、容易に均一な溶液とすることができる。
【0066】
多価極性化合物は、極性官能基を2個以上有する分子量50〜2,000の化合物(ただし前記シランカップリング剤は除く。)が好ましい。分子量は100〜2,000がより好ましい。多価極性化合物の分子量が上記範囲の下限値以上であると、分子量が高いために揮発しにくく、製膜後に膜中に残存させることが容易になる。また、上記範囲の上限値以下であると、含フッ素重合体(a)との相溶性が良好になる。
「極性官能基」とは、下記の(1a)および(1b)の何れか一方または両方の特性を有する官能基である。
(1a)電気陰性度の異なる2種類以上の原子を含み、当該官能基中に分極による極性を有する。
(1b)当該官能基と結合した炭素との電気陰性度の差により分極を生じさせる。
【0067】
上記特性(1a)のみを有する極性官能基の具体例としては、ヒドロキシフェニル基等が挙げられる。
上記特性(1b)のみを有する極性官能基の具体例としては、1級アミノ基(−NH)、2級アミノ基(−NH−)、ヒドロキシ基、チオール基等が挙げられる。
上記特性(1a)および(1b)の両方を有する極性官能基の具体例としては、スルホ基、ホスホノ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、酸ハライド基、ホルミル基、イソシアナート基、シアノ基、カルボニルオキシ基(−C(O)−O−)カーボネート基(−O−C(O)−O−)等が挙げられる。
【0068】
多価極性化合物としては、ペンタン−1,5−ジアミン、ヘキサン−1,6−ジアミン、シクロヘキサン−1,2−ジアミン、シクロヘキサン−1,3−ジアミン、シクロヘキサン−1,4−ジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,4−ジアミノベンゼン、トリアミノメチルアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、トリス(3−アミノプロピル)アミン、シクロヘキサン−1,3,5−トリアミン、シクロヘキサン−1,2,4−トリアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、2,4,6−トリアミノトルエン、1,3,5−トリス(2−アミノエチル)ベンゼン、1,2,4−トリス(2−アミノエチル)ベンゼン、2,4,6−トリス(2−アミノエチル)トルエン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンおよびポリエチレンイミンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、トリス(2−アミノエチル)アミン、トリス(3−アミノプロピル)アミン、シクロヘキサン−1,3−ジアミン、ヘキサン−1,6−ジアミン、ジエチレントリアミンおよびポリエチレンイミンからなる群から選ばれる少なくとも1種が最も好ましい。
【0069】
多価極性化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。たとえば、極性官能基を2個有する化合物と、極性官能基を3個以上有する化合物とを混合して用いてもよい。
多価極性化合物の配合量は、含フッ素重合体(a)の配合量の0.01〜30質量%であることが好ましく、0.05〜10質量%であることがより好ましい。該配合量が0.01質量%以上であると、多価極性化合物を配合することによる効果が充分に得られる。該配合量が30質量%以下であると、含フッ素重合体(a)との混和性が良好であり、コーティング液中での分布が均一となる。
【0070】
<樹脂膜(A)の形成方法>
樹脂膜(A)の形成方法としては特に限定されず、公知の方法を利用できる。たとえば、第一の電極11が形成された第一の基板13の、第一の電極11側の表面上にコーティング膜を形成し、該コーティング膜を、第一の電極11に対応するパターンにパターニングする方法が挙げられる。
コーティング膜の形成方法としては、たとえば、含フッ素重合体(a)を溶媒に溶解してなるコーティング液、または含フッ素重合体(a)と該含フッ素重合体(a)以外の他の成分とを溶媒に溶解してなるコーティング液を用いてコーティング膜を製膜する方法が挙げられる。前記他の成分としては、上述したとおり、シランカップリング剤または多価極性化合物が好ましく、シランカップリング剤が特に好ましい。
【0071】
溶媒としては、少なくとも含フッ素重合体(a)を溶解する溶媒が用いられ、他の成分を含む場合、前記含フッ素重合体(a)を溶解する溶媒が、該他の成分を溶解するものであれば、該溶媒単独で均一な溶液とすることができる。また、該他の成分を溶解する他の溶媒を併用してもよい。
溶媒として具体的には、プロトン性溶媒、非プロトン性溶媒等が挙げられ、それらの中から当該コーティング液に配合される成分を溶解するものを適宜選択すればよい。
「プロトン性溶媒」とは、プロトン供与性を有する溶媒である。「非プロトン性溶媒」とは、プロトン供与性を有さない溶媒である。
【0072】
プロトン性溶媒としては、たとえば以下に示すプロトン性非含フッ素溶媒、プロトン性含フッ素溶媒等が挙げられる。
メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタオール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、1−オクタノール、2−オクタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、乳酸メチル等のプロトン性非含フッ素溶媒。
2−(ペルフルオロオクチル)エタノールなどの含フッ素アルコール、含フッ素カルボン酸、含フッ素カルボン酸のアミド、含フッ素スルホン酸等のプロトン性含フッ素溶媒。
【0073】
非プロトン性溶媒としては、たとえば以下に示す非プロトン性非含フッ素溶媒、非プロトン性含フッ素溶媒等が挙げられる。
ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、デカリン、アセトン、シクロヘキサノン、2−ブタノン、ジメトキシエタン、モノメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジグライム、トリグライム、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート(PGMEA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、アニソール、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリン、メチルナフタレン等の非プロトン性非含フッ素溶媒。
【0074】
1,4−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等のポリフルオロ芳香族化合物、ペルフルオロトリブチルアミン等のポリフルオロトリアルキルアミン化合物、ペルフルオロデカリン等のポリフルオロシクロアルカン化合物、ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等のポリフルオロ環状エーテル化合物、ペルフルオロポリエーテル、ポリフルオロアルカン化合物、ハイドロフルオロエーテル(HFE)等の非プロトン性含フッ素溶媒。
【0075】
これらの溶媒は、いずれか1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。またこれらの他にも広範な化合物が使用できる。
これらのうち、含フッ素重合体(a)の溶解の用いる溶媒としては、含フッ素重合体(a)の溶解度が大きく、良溶媒であることから、非プロトン性含フッ素溶媒が好ましい。
シランカップリング剤または多価極性化合物を溶解する溶媒としては、プロトン性含フッ素溶媒が好ましい。
該溶媒の沸点は、コーティングの際に均一な膜を形成しやすいことから、65〜220℃が好ましく、100〜220℃が好ましい。
【0076】
コーティング液の調製に用いる溶媒は、水分含量が少ないことが好ましい。該水分含量は、100質量ppm以下が好ましく、20質量ppm以下がより好ましい。
コーティング液における含フッ素重合体(a)の濃度は、0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましい。
コーティング液の固形分濃度は、形成しようとする膜厚に応じて適宜設定すればよい。通常、0.1〜30質量%であり、0.5〜20質量%が好ましい。
なお固形分は、質量を測定したコーティング液を常圧下200℃で1時間加熱することで、溶媒を留去し、残存する固形分の質量を測定して算出する。
【0077】
コーティング液は、各成分を含む組成物を予め調製し、これを溶媒に溶解して得てもよく、各成分をそれぞれ溶媒に溶解し、各溶液を混合して得てもよい。
各成分を含む組成物を予め調製する場合の該組成物の製造方法としては、固体と固体、または固体と液体を混練、共融押し出し法等により混合してもよく、それぞれを可溶な溶媒に溶解した各溶液を混合してもよい。これらの中でも、各溶液を混合することがより好ましい。
たとえば含フッ素重合体(a)とシランカップリング剤とを併用する場合、コーティング液は、含フッ素重合体(a)を非プロトン性含フッ素溶媒に溶解した重合体溶液と、シランカップリング剤をプロトン性含フッ素溶媒に溶解したシランカップリング剤溶液とを各々調製し、該重合体溶液とシランカップリング剤溶液とを混合することによって得ることが好ましい。
【0078】
コーティング膜の製膜は、たとえば、コーティング液を基板の表面にコーティングし、ベーク等により乾燥させることにより実施できる。
コーティング方法としては、溶液から膜を形成させる従来公知の方法が利用でき、特に限定されない。かかる方法の具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、キャスト法、ディッピング法、水上キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、ダイコート法、インクジェット法、スプレーコート法等が挙げられる。また、凸版印刷法、グラビア印刷法、平板印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法などの印刷技術も用いることができる。
乾燥は、常温での風乾により行ってもよいが、加熱してベークすることにより行うことが好ましい。ベーク温度は、溶媒の沸点以上であることが好ましく、特に230℃以上の高温で行うことが、添加したシランカップリング剤や多価極性化合物と含フッ素重合体(a)との反応を充分に完結させる点で特に好ましい。
【0079】
コーティング膜のパターニング方法としては、特に限定されず、公知のパターニング技術を利用できる。
具体例としては、前記コーティング膜上に、所定のパターンのマスクを形成し、エッチングする方法が挙げられる。
該マスクは、たとえば第一の電極11と同様の方法により形成できる。ただしマスクを構成する材料は、コーティング膜に対し、ある程度のエッチング選択比を有するものであればよく、導電性材料でなくてもよい。たとえば該マスクとして、第一の電極11に対応するパターンにパターニングされたレジスト膜を用いてもよい。レジスト膜のパターニングは、公知のリソグラフィー法により実施できる。
【0080】
<電荷の注入>
樹脂膜(A)に電荷を注入することでエレクトレット12とすることができる。
電荷の注入方法としては、一般的に絶縁体を帯電させる方法であれば手段を選ばずに用いることができる。たとえば、G.M.Sessler, Electrets Third Edition,pp20,Chapter2.2“Charging and Polarizing Methods”(Laplacian Press, 1998)に記載のコロナ放電法、電子ビーム衝突法、イオンビーム衝突法、放射線照射法、光照射法、接触帯電法、液体接触帯電法等が適用可能である。本発明においては特にコロナ放電法、電子ビーム衝突法を用いることが好ましい。
電荷を注入する際の温度条件としては、樹脂膜(A)に含まれる含フッ素重合体(a)または材料(a’)のガラス転移温度(Tg)以上で行うことが、注入後に保持される電荷の安定性の面から好ましく、該Tg+10℃〜該Tg+20℃程度の温度条件で行うことが特に好ましい。
電荷を注入する際の印加電圧としては、樹脂膜(A)の絶縁破壊電圧以下であれば、高圧を印加することが好ましい。本発明において、樹脂膜(A)への印加電圧は、正電荷では6〜30kV、好ましくは8〜15kVであり、負電荷では−6〜−30kV、好ましくは−8〜−15kVである。
含フッ素重合体(a)または材料(a’)は、正電荷より負電荷をより安定に保持できることから、印加電圧は負電荷であることが好ましい。この場合、エレクトレット12の表面電位はマイナスとなる。
【0081】
なお、ここでは、表面に第一の電極11が形成された第一の基板13の第一の電極11上に直接樹脂膜(A)を形成し、電荷を注入する例を示したが、エレクトレット12の作製方法はこれに限定されない。たとえば、任意の基板上に樹脂膜(A)を形成し、基板から剥離した後、表面に第一の電極11が形成された第一の基板13上に配置し、電荷を注入してエレクトレット12としてもよい。また、任意の基板上に樹脂膜(A)を形成し、電荷を注入してエレクトレット12とした後、該エレクトレット12を基板から剥離し、これを、表面に第一の電極11が形成された第一の基板13上に配置してもよい。
第一の基板13とは別の基板に樹脂膜(A)を形成する場合であって該基板上で電荷の注入を行わない場合、該基板としては、特に材質を選ばずに用いることができる。
第一の基板13とは別の基板に樹脂膜(A)を形成する場合であって該基板上で電荷の注入を行う場合、該基板としては、得られた積層体に電荷を注入する際にアースに接続できるような基板が用いられる。好ましい材質としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、クロム、アルミニウム、チタン、タングステン、モリブデン、錫、コバルト、パラジウム、白金、これらのうちの少なくとも1種を主成分とする合金等の導電性の金属が挙げられる。また、材質が導電性の金属以外のもの、たとえばガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリカーボネート、アクリル樹脂等の高分子化合物材料等の絶縁性の材料の基板(絶縁性基板)であっても、その表面にスパッタリング、蒸着、ウエットコーティング等の方法で金属膜、またはITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化スズ等の金属酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、PEDOT/PSS、カーボンナノチューブなどから成る有機導電材料などをコーティングしたものであれば用いることができる。またシリコン等の半導体材料も同様の表面処理を行ったものであるか、または半導体材料そのものの抵抗値が低いものであれば、基板として用いることができる。基板材料の抵抗値としては、体積固有抵抗値で0.1Ωcm以下であることが好ましく、特に0.01Ωcm以下であることがより好ましい。このような低抵抗値の基板材料であれば、当該基板上に形成された積層体にそのまま電荷を注入してエレクトレットとすることができる。
【0082】
以上、本発明の携帯装置の一例としての時計の構成を、図1〜6を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
たとえば携帯装置は時計以外のものであってもよい。
本発明の携帯装置が備える振動発電器の構成は、上記実施形態に示す振動発電器1の構成に限定されるものではなく、静電誘導型発電素子として、含フッ素重合体(a)または材料(a’)を含有するエレクトレットを備えるものを用いる以外は、公知の静電誘導型の振動発電器の構成を適宜採用できる。
たとえば上記実施形態では、エレクトレット12と第二の電極21との相対的な運動が、第一の基板13の振動により実現されているが、これに限られるものではない。たとえば、第一の基板13と第二の基板22とを入れ替えて、第二の基板22が振動するようにしてもよい。
また、本実施形態では、エレクトレット12が第一の電極11の上面を被覆する例を示したが本発明はこれに限定されず、エレクトレット12が、第一の電極11の上面及び側面を被覆してもよい。
【0083】
また、第一の電極、第二の電極がそれぞれ櫛形状のパターンで形成されたパターン電極(第一の電極11、第二の電極21)であり、エレクトレット12を構成する樹脂膜(A)が、第一の電極11の櫛歯部分に対応するパターン、つまり複数のラインが平行に配置されたパターンで形成されたパターンで形成されたパターン膜である例を示したが本発明はこれに限定されない。
たとえば第一の電極11、第二の電極21、エレクトレット12を、他のパターンで形成してもよい。該他のパターンとしては、たとえば従来、静電誘導型発電素子に用いられているパターン電極の形状を適宜採用できる。櫛形状およびライン状以外の形状としては、たとえばリング状、市松模様状等が挙げられる。基板表面に形成されるパターン電極およびパターン膜の数は、それぞれ1つであってもよく、複数であってもよい。
また、第一の電極11、第二の電極21、エレクトレット12が、それぞれ、パターニングされておらず、第一の基板13、第二の基板22それぞれの全面を被覆していてもよい。
【0084】
上記実施形態では、第一の基板13および第二の基板22がそれぞれ、表面が平滑な平板であり、その表面にそれぞれ第一の電極11、第二の電極21が形成された例を示したが、第一の基板13または第二の基板22として、表面に凹凸が形成された基板を用いてもよい。たとえば第二の基板22として、表面に、第二の電極21に対応するパターンの凹凸が形成された基板を用いてもよい。該基板には、その他のパターンの凹凸が形成されていてもよい。
表面に凹凸が形成された基板の作製方法としては、真空プロセス、湿式プロセス等の従来公知の方法が利用でき、特に限定されない。真空プロセスとしては、マスクを介したスパッタリング法、マスクを介した蒸着法等が挙げられる。湿式プロセスとしては、ロールコーター法、キャスト法、ディッピング法、スピンコート法、水上キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、ダイコート法、インクジェット法、スプレーコート法等が挙げられる。また、凸版印刷法、グラビア印刷法、平板印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法などの印刷技術も用いることができる。さらに、表面に微細な凹凸が形成された基板の作製方法として、ナノインプリント法、フォトリソグラフィー法なども挙げられる。
【0085】
第一の電極11が有する複数の櫛歯部分の間に、ガード電極を形成してもよい。エレクトレット12と対向することにより静電誘導が生じた第二の電極21が、相対的な位置が変動した際にガード電極と対向することで、第二の電極21に生じる電位の変化が大きくなり、発電量が増大する。同様の理由から、第二の電極21が有する複数の櫛歯部分の間に、ガード電極を形成してもよい。ガード電極は、第一の電極11と同様にして形成できる。ガード電極は通常接地される。
【符号の説明】
【0086】
1…振動発電器、2…蓄電部、3…静電誘導型発電素子、4…電源回路部、10…可動電極部、11…第一の電極、12…エレクトレット、13…第一の基板、14…枠部材、15…ばね部材、20…固定電極部、21…第二の電極、22…第二の基板、23…固定部材、41…整流回路、42…電圧変換回路、101…電源部、102…表示部、103…センサ部、104…制御部、105…計時部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発電器を備える携帯装置であって、
前記振動発電器が、エレクトレットを備える静電誘導型発電素子を備え、
前記エレクトレットが、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体(a)または該含フッ素重合体(a)に由来する材料(a’)を含有する樹脂膜に電荷を注入してなるものであることを特徴とする携帯装置。
【請求項2】
前記静電誘導型発電素子は、前記エレクトレットが設けられた第一の電極と、前記エレクトレットから離間配置された第二の電極とを備え、外部からの振動によって前記エレクトレットおよび前記第二の電極の一方が他方に対して相対的に運動するように構成されている、請求項1に記載の携帯装置。
【請求項3】
前記含フッ素重合体(a)が、末端基としてカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する、請求項1または2に記載の携帯装置。
【請求項4】
前記材料(a’)が、前記含フッ素重合体(a)と、アミノ基を有するシランカップリング剤との混合物または反応生成物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の携帯装置。
【請求項5】
温度、気圧、振動、磁気および加速度から選ばれる少なくとも1種の情報を検知するセンサを備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の携帯装置。
【請求項6】
腕時計である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の携帯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−138514(P2012−138514A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291032(P2010−291032)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】