説明

携行形の振動測定装置、その振動測定方法及びそのためのプログラム

【課題】 被測定物から離れた位置で簡単に被測定物の振動を測定することができ、携行にも便利な手持ち形の振動測定装置を提供する。
【解決手段】 発信部11aから被測定物Tの表面に向けて照射した光又は音波等を受信部11bで受信することで被測定物Tの振動特性を求める振動測定装置において、少なくとも発信部11a及び受信部11bを収容する手持ち形の装置本体11と、受信部11bが受信した受信信号に基づく検出波形の中から、手持ちのゆらぎに由来するノイズ成分を除去するノイズ成分除去手段12とを有する。ノイズ成分の除去は、離散ウェーブレット変換を用いた多重解像度解析を利用するとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の振動特性(波形、周波数、周波数分布、振幅等の振動の性質)を求める振動測定装置,その方法及びそのプログラムに関し、特に、携行性に優れ、離れた位置から間便な方法で前記被測定物の振動特性を求めることのできる携行形の振動測定装置、振動測定方法及び前記振動測定装置のためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
発電所等の施設には多数の機器が設置されており、運転中の振動を定期的又は非定期的に測定することで、機器の異常の有無を検査している。このような機器の振動を測定する手段としては、被測定物に圧電センサや加速度計等の振動センサを設置し、この振動センサからの検出信号に基づいて振動を記録するのが一般的である。
しかし、このような接触式センサは、センサが脱落したり、ケーブルを巻き込むおそれがある等の問題がある。また、高所の被測定物に対しては足場が必要になるという問題もある。
【0003】
上記問題を解決するため、例えば特許文献1の構造体の振動検出方法や特許文献2に非接触振動測定システムのように、レーザー光を用いて非接触で被測定物の振動を検出する方法や装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4001806号公報
【特許文献2】特開2010−230464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これら従来の非接触形の振動測定装置は、三脚等の支持器を用いてレーザー光の発振源を固定する必要があるため、足場の悪い現場や傾斜した現場では設置しづらいという問題がある。また、設置した固定部の振動が支持器を介して振動測定装置に伝達されるという問題がある。さらに、特許文献1のようなレーザードップラを利用した振動測定装置は、価格が高いうえに装置が大型になり、携行には不便であるという問題がある。
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、被測定物から離れた位置で簡単に被測定物の振動を測定することができ、携行にも便利な手持ち形の振動測定装置、振動測定方法及びそのプログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本願発明者は、被測定物の表面の変位を計測するのに用いられているレーザー変位計や超音波変位計等の変位計に着目した。
例えば、レーザー変位計では、レーザー光を被測定物の表面に照射し、前記被測定物の表面からの反射光を受光素子で受光し、当該受光素子における反射光の受光位置の変化から、前記被測定物の表面の変位を測定するものである。そして、一定時間内の変位の回数(周波数)から、被測定物の振動を測定することが可能である。
しかし、このような変位計を作業者が手持ちすると、被測定物に対するレーザー光等の発信源の位置や照射角度が安定せず、前記被測定物の表面の変位(振動)を正確に測定することは困難になる。
また、手持ちの際に前記変位計と被測定物との距離を可能な限り一定に保つべく、変位計に接触棒のような一定長さの距離決め部材を取り付け、この距離決め部材を被測定物に当接させることが考えられるが、前記距離決め部材を介して被測定物の振動が前記変位測定装置に伝達されてしまい、これによっても前記被測定物の表面の変位を正確に測定することが困難になる。
【0007】
そこで、本発明の発明者が、手持ちの変位計から照射されたレーザー光等により検出された検出波形を観察したところ、検出波形に手持ちの影響によると見られる非定常のゆらぎが含まれることを見いだした。また、距離決め部材を用いた場合には、被測定物から伝達される振動成分が含まれることを見いだした。そこで、これらを除去することで、被測定物の振動測定を正確に行えることに想到した。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の振動測定装置は、発信部から被測定物の表面に向けて照射した光又は音波等を受信部で受信することで前記被測定物の振動特性を求める振動測定装置において、少なくとも前記発信部及び前記受信部を収容する手持ち形の装置本体と、前記受信部が受信した受信信号に基づく検出波形の中から、手持ちのゆらぎに由来するノイズ成分を除去するノイズ成分除去手段とを有する構成としてある。
レーザー変位計を用いた場合のように、被測定物と装置本体との位置関係を可能な限り一定に保つことが好ましい場合には、請求項2に記載するように、前記装置本体に取り付けられ、前記被測定物又はその周囲の固定部に当接させて前記被測定物に対する前記装置本体の距離決めを行う距離決め部材を設けるとよい。
この場合、距離決め部材を介して装置本体に振動が伝達されないようにするために、請求項3に記載するように、前記距離決め部材と前記被測定物又は前記固定部との間に絶縁部材を介在させるとよい。
【0009】
ノイズ成分除去手段としては、例えば、請求項4に記載するように、離散ウェーブレット変換を用いた多重解像度解析を行うものを利用することができる。
この場合は、分解レベルの初期と後期を除いた途中領域の詳細成分を用いて波形の再構成を行うとよい。
また、請求項5に記載するように、前記ノイズ成分除去手段が、前記ゆらぎに由来するノイズ成分と被測定物の振動成分とその他のノイズ成分とを含む以下の多重解像度解析の式

(Ψ(t):ウェーブレット関数、Φ(t):スケーリング関数、w,s:展開係数、j:分解レベル、J:分解レベルの最大値、k:シフトパラメータ)
によって得られた分解レベルの途中領域の詳細成分を用いて波形の再構成を行うことで、前記被測定物の振動波形を求めるようにする。
【0010】
本発明の振動測定方法は、請求項6に記載するように、発信部から被測定物の表面に向けて照射した光又は音波等を受信部で受信することで前記被測定物の振動特性を求める振動測定方法において、少なくとも前記発信部及び前記受信部を収容する手持ち形の装置本体を準備し、前記受信部が受信した受信信号に基づく検出波形の中から、手持ちのゆらぎに由来するノイズ成分を除去する方法である。
請求項7に記載するように、離散ウェーブレット変換を用いた多重解像度解析により前記ノイズ成分を除去するようにしてもよく、この場合は、分解レベルの初期と後期を除いた途中領域の詳細成分を用いて波形の再構成を行うとよい。また、請求項8に記載するように、前記ゆらぎに由来するノイズ成分と被測定物の振動成分とその他のノイズ成分とを含む以下の多重解像度解析の式

(Ψ(t):ウェーブレット関数、Φ(t):スケーリング関数、w,s:展開係数、j:分解レベル、J:分解レベルの最大値、k:シフトパラメータ)
によって得られた分解レベルの途中領域の詳細成分を用いて波形の再構成を行うことで、前記被測定物の振動波形を求めるようにするとよい。
具体例としては、例えば被測定物の振動周波数が200Hz以下である場合には、前記分解レベルの最大値を10〜15とし、分解レベル5〜10の途中領域の詳細成分を用いて波形の再構成を行うようにするとよい。
【0011】
本発明のプログラムは、請求項9に記載するように、発信部から被測定物表面に向けて照射した光又は音波等を受信部で受信することで前記被測定物の振動特性を求める携行形の振動測定装置のためのプログラムにおいて、前記受信部が受信した受信信号に基づく検出波形の中から、手持ちのゆらぎに由来するノイズ成分を、離散ウェーブレット変換を用いた多重解像度解析により除去する処理を実行し、この処理の実行では、前記ゆらぎに由来するノイズ成分と被測定物の振動成分とその他のノイズ成分とを含む以下の多重解像度解析の式


(Ψ(t):ウェーブレット関数、Φ(t):スケーリング関数、w,s:展開係数、j:分解レベル、J:分解レベルの最大値、k:シフトパラメータ)
によって得られた分解レベルの途中領域の詳細成分を用いて波形の再構成を行うものとしてある。
このプログラムを、パーソナルコンピュータ(PC)等にインストールすることで、前記PC等をノイズ成分除去手段として機能させることが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、手持ちのゆらぎに由来するノイズ成分やその他のノイズ成分を効果的に除去することができ、安価で携行に便利な手持ち形の変位計を利用して、離れた位置から被測定物の振動を正確,簡単かつ迅速に測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
[装置構成]
図1は、本発明の振動測定装置の一実施形態にかかり、その構成を説明する概略構成図である。
振動測定装置1は、被測定物Tにレーザー光を照射する発信部11aと、被測定物Tから反射したレーザー光を受光する受光部11bとを有する装置本体としてのヘッド部11と、このヘッド部11からの検出信号を処理してノイズ成分を除去する除去部12と、得られた振動特性を表示するディスプレイ等の表示部14とを有する。
【0014】
この実施形態においてヘッド部11は、受光したレーザー光の変化から被測定物Tの表面の変位を検出するレーザー変位計として構成されている。このヘッド部11として、市販のレーザー変位計を利用することができる。
ヘッド部11は、作業者が手持ちするハンドル16の先端に取り付けられている。このハンドル16の基部には、発信部11aからレーザー光を照射させるためのトリガ17が設けられている。ハンドル16は、ヘッド部11を手持ちできるものであればグリップ形やピストル形、ロッド形などあらゆる形態のものを選択することができるが、図示の例では伸縮自在なロッドから形成されている。
また、図示のハンドル16のように、ラチェット18を介してヘッド部11を取り付けることで、被測定物Tにおける振動測定位置や被測定物Tの配置位置及び形状等に応じて、ヘッド部11の向きを調整することが可能になる。
【0015】
ハンドル16の長さは、被測定物Tに対してある程度離れた距離から作業者が振動測定の作業を行える長さとする。前記距離としては、振動測定を行う現場の作業環境や被測定物Tの配置位置、種類にもよるが、例えば、発電所における配管やモータ,タービン等の振動測定には、50cm〜2m程度が適当である。
振動測定の際には、発信部11aから照射されたレーザー光が受光部11bに受光できるように、被測定物Tの表面に対するヘッド部11の距離決めを行う必要がある。この実施形態では、ヘッド部11に距離決めの目安となる距離決め部材15を取り付けている。
【0016】
そして、この距離決め部材15の先端を被測定物Tの表面に近接させるか、前記表面に軽く接触させることで、被測定物Tの表面に対するヘッド部11の距離決めが行われるようにしてある。なお、距離決め部材15の先端を被測定物Tの表面に接触させたときに、距離決め部材15を介して被測定物Tの振動がヘッド部11に伝達されないようにするために、距離決め部材15の先端にスポンジ,ゴム又はコイルばね等を取り付けて、被測定物Tの振動がヘッド部11に伝達されないようにするとよい。
【0017】
上記構成の振動測定装置1では、被測定物Tの表面又はその周囲の固定物に距離決め部材15を近接又は軽く接触させて、発信部11a及び受光部11bと被測定物Tとの距離を決定する。この状態で、トリガ17を引いて発信部11aからレーザー光を被測定物Tの表面に照射すると、被測定物Tの表面で反射したレーザー光が受光部11bに受光される。
【0018】
受光部11bには図示しない受光素子が内蔵され、この受光素子からレーザー光の受光位置に関する検出信号(検出波形)が除去部12へ送信され、この除去部12で、被測定物Tの振動波形以外の成分(ノイズ成分)が除去される。このノイズ成分には、手持ちのゆらぎに由来するノイズ成分と、その他のノイズ成分とが含まれる。そして、除去後の結果が、被測定物Tの振動特性としてディスプレイ等の表示部14に表示される。
【0019】
[除去部の構成及び作用]
除去部12では、離散ウェーブレット変換による多重解像度解析を用いて波形解析を行う。この手法は、小領域の波形を平行移動又は伸縮させて解析したい波形の局所的な様子を表現し、これを元に波形を解析していくものとして公知である。
【0020】
図2は、多重解像度解析の概念を説明するための図である。図2に示すように、信号処理部12から除去部12に入力された検出波形のオリジナル信号に対して、1回変換を行うと分解レベル1となり、A1(近似成分)とD1(詳細成分)のウェーブレット係数が算出される。
次に、近似成分の信号A1に対して1回変換を行うと、分解レベル2となり、A2(近似成分)とD2(詳細成分)のウェーブレット係数が算出される。
さらに近似成分の信号A2に対して1回変換を行うと、分解レベル3となり、A3(近似成分)とD3(詳細成分)のウェーブレット係数が算出される。
このように、近似成分Ak(k=1,2,3・・・)に対して繰り返しウェーブレット変換をかけることで、より詳細な解析を行なうことが可能となる。従って、分解レベルの最大値を大きくするほどより詳細な解析が可能になるが、除去部12の処理能力等を考慮して、適切な最大値を選択する。この最大値は、周波数依存で決定することができ、例えば被測定物の周波数が低い場合には、分解能を高めるべく、周波数が高い場合よりも最大値を大きくする。
【0021】
先に説明したように、レーザー変位計等の変位計を利用して図1のような手持ち形の振動測定装置1を構成する場合、検出される振動には、測定しようとする被測定物Tの振動のほかに、手持ちのゆらぎに由来するノイズ成分と、その他の振動成分とがノイズとして含まれる。
そこで、この実施形態では、多重解像度解析を用いた検出波形にかかる測定データ(時間信号)d(t)を示す式として、前記ゆらぎに由来するノイズ成分と被測定物の振動成分とその他のノイズ成分とが含まれる以下の式1を用いた。
【0022】

【0023】
この式1において、Ψ(t)はウェーブレット関数で、Φ(t)はスケーリング関数である。w,sはそれぞれの展開係数である。jはレベルを表し、Jは分解レベルの最大値で、kはシフトパラメータと呼ばれ時間軸上の位置、tは時間、a,bは正の整数である。
なお、本発明に用いることのできるウェーブレット関数は直交型であればよく、例えば、Daubechiesウェーブレットやカーディナル・スプライン・ウェーブレット等を挙げることができる。
【0024】
高周波ノイズは分解初期の詳細成分(右辺第1項)に含まれ、低周波のゆらぎは分解後期の詳細成分および近似成分(第3項と第4項)に含まれる。そこで、第2項のみで信号を再構成すれば、高周波ノイズとゆらぎを除去した信号を得ることができる。
なお、ウェーブレット関数Ψ(t)はスケーリング関数Φ(t)を用いて以下の式2のように表される。
【0025】

【0026】
この式2において、qは展開係数である。
上記の式1,2から、測定データはスケーリング関数のみで表せることがわかる。
したがって、ゆらぎに由来するノイズ成分とその他のノイズ成分を適切に除去するためには、スケーリング関数と再構成する詳細成分(右辺第2項)を適切に決める必要がある。
【0027】
測定データ(検出波形)に含まれる周波数成分の特徴(例えば周波数の大きさ、単一周波数か複数周波数か、複数周波数の場合はどれくらいの帯域にまたがるか等)にもよるが、例えば発電所等の施設で用いられる配管、原動機、タービン又はモータ等においては、概ね200Hz以下の周波数で振動する機器が多い。このような機器の振動測定においては、分解レベルの最大値を10〜15程度とし、分解レベルの初期と後期を除いた途中領域の詳細成分を用いて波形を再構成するとよい。例えば、分解レベルの最大値を12とした場合は、途中領域である分解レベル5〜10の範囲内で波形を再構成する。このようにすることで、正確で、かつ、広帯域の周波数成分を含む振動に対しても対応が可能になる。
本発明の装置及び方法を用いて、ゆらぎに由来するノイズ成分を除去する前とノイズ成分を除去した後の振動波形を、図3(a)(b)に示す。
【0028】
本発明の発明者は、上記構成の振動測定装置1を使って実験を行い、その効果を確かめた。
この実施例では、多重解像度解析においてウェーブレット関数としてDaubechies 10を用い、分解レベルの最大値Jを12とした。
[第一実施例]
テスト波形として、100Hzの単一周波数のものを用いた。これに手持ちのゆらぎを模した非定常の振動を加えた。再構成においては、分解レベル7と分解レベル8の詳細成分(D7,D8)のみを用いた。
再構成の結果を図4に示す。図4において、縦軸は振幅、横軸は時間である。図4に示すように、検出波形(図中点線で示す)からゆらぎに由来するノイズ成分が除去されて、100Hzの高周波成分(同実線で示す)だけのものに再構成された。
【0029】
[第二実施例]
実際の機器の振動測定では、複数の周波数成分が含まれるのが一般的である。そこで、テスト波形として、20Hz,40Hz,80Hzの正弦波を含むものを用いた。この実施例では、ハンドル16を手持ちして、被測定部にレーザー光を照射した。他の条件については実施例1と同じである。再構成においては、分解レベル5〜10の詳細成分(D5〜D10)を用いた。実施例1の単一周波数の場合と異なり、広い範囲の周波数成分が含まれるので、実施例1の場合よりも多くの詳細成分を重ね合わせることとした。
図5(a)は、ゆらぎに由来するノイズ成分を除去する前の波形で、図5(b)は図5(a)の波形をフーリエ変換し、この波形の成分を分析したものである。
数Hz程度の低周波領域に波形のピークが見られ、これがゆらぎに由来するノイズ成分である。
図6(a)は図5(a)の波形からノイズ成分を除去した後の波形で、図6(b)は図6(a)の波形をフーリエ変換し、この波形の成分を分析したものである。
ノイズ除去後の波形はテスト波形とほぼ一致する。また、フーリエ変換による波形の分析結果も、ゆらぎに由来する低周波の部分がほぼ消滅し、20Hz,40Hz,80Hz付近に波形のピークが認められる。
【0030】
[第三実施例]
この実施例では、テスト波形として、20Hz,40Hz,80Hz,120Hz,160Hz,200Hzの一定振幅の正弦波を含むものを用いた。これに実施例1と同じゆらぎを模した非定常の振動を加えた。他の条件については実施例1と同じである。
再構成においては、実施例2と同様に分解レベル5〜10の詳細成分(D5〜D10)を用いた。
図7(a)に示すように、この実施例においても、検出波形(図中点線で示す)からゆらぎに由来するノイズ成分が除去されているのがわかる。
図7(b)は、ゆらぎに由来するノイズ成分が除去された後の波形をフーリエ変換し、この波形の成分を分析したものである。5Hz付近にゆらぎと考えられるピークが若干認められるが、20Hzから200Hzまでの各成分が明確に識別でき、ピークの高さ(振幅)も一定になっている。
【0031】
以上の実施例から、本発明によれば、被測定物の周波数が単一周波数から構成されるか、複数周波数から構成されるかに関わらず、手持ち形の変位計を用いて高い精度で被測定物の振動測定が行えるとともに、ノイズ成分を除去した波形を分析することで、波形成分の解析も行えることがわかる。
【0032】
[第四実施例]
作業者によって手持ちに由来するゆらぎの形態が異なることから、異なる波形のゆらぎに由来するノイズ成分を実施例1のオリジナル波形に加えた。
この実施例では、作業者がハンドル16を手持ちして、被測定部にレーザー光を照射し、かつ、作業者を変えて実験を行った。そして、それぞれについて実施例1と同様に波形の再構成を行った。
その結果を図8(a)(b)に示す。
両波形ともゆらぎに由来するノイズ成分が除去されてほぼ同じ波形が残存することがわかる。
この実施例から、本発明は、作業者が異なることによってゆらぎの形態が変化しても、ゆらぎに由来するノイズ成分等を有効に除去して正確な振動測定を行えることがわかる。
【0033】
本発明の好適な実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上記の説明に限定されるものではない。
例えば、上記の説明では、被測定物Tに対するヘッド部11の距離を決定するために距離決め部材15をヘッド部11に取り付けるものとして説明したが、発信部11aから照射されたレーザー光を受光部11bに受光できる距離にヘッド部11を配置できるのであれば、距離決め部材15は特に設けなくてもよい。
また、上記の説明では、長尺のハンドル16を用い、ハンドル16の長さを適切に選択することで、被測定物Tに対してある程度離れた距離(例えば50cm〜2m程度)から作業者が振動測定を行えるようにしているが、発信部11aから照射されたレーザー光を受光部11bに受光できる距離が、例えば50cm〜2m程度になるように発信部11a及び受光部11bを配置することで、ハンドル16のような長尺ロッド状ものを使用する必要はなくなり、ピストル形やグリップ形などの他の形態を選択することが可能になる。
さらに、変位計としてレーザー変位計を例に挙げたが、超音波変位計やその他の非接触形の変位計を利用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、発電所や工場、プラント等のあらゆる施設において、当該施設に設置されたタービン,原動機,モータ,配管等の機器の振動測定に広範に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の振動測定装置の一実施形態にかかり、その構成を説明する概略ブロック図である。
【図2】多重解像度解析を説明するための図である。
【図3】手持ちのゆらぎに由来するノイズ成分等が除去される前後の振動波形を示すものである。
【図4】本発明の第一実施例にかかり、再構成の結果を示す図である。
【図5】本発明の第二実施例にかかり、再構成前を示す図である。
【図6】本発明の第二実施例にかかり、再構成後を示す図である。
【図7】本発明の第三実施例にかかり、再構成の前後を示す図である。
【図8】本発明の第四実施例にかかり、再構成の前後を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1:振動測定装置
11:ヘッド部
11a:発信部
11b:受光部
12:除去部
14:表示部
15:距離決め部材
16:ハンドル
17:トリガ
18:ラチェット
T:被測定物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発信部から被測定物の表面に向けて照射した光又は音波等を受信部で受信することで前記被測定物の振動特性を求める振動測定装置において、
少なくとも前記発信部及び前記受信部を収容する手持ち形の装置本体と、
前記受信部が受信した受信信号に基づく検出波形の中から、手持ちのゆらぎに由来するノイズ成分を除去するノイズ成分除去手段と、
を有することを特徴とする携行形の振動測定装置。
【請求項2】
前記装置本体に取り付けられ、前記被測定物又はその周囲の固定部に当接させて前記被測定物に対する前記装置本体の距離決めを行う距離決め部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の携行形の振動測定装置。
【請求項3】
前記距離決め部材と前記被測定物又は前記固定部との間に、前記被測定物から前記距離決め部材を介して前記装置本体に振動が伝達されないようにするための絶縁部材を介在させたことを特徴とする請求項2に記載の振動測定装置。
【請求項4】
前記ノイズ成分除去手段が、離散ウェーブレット変換を用いた多重解像度解析を行うものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の携行形の振動測定装置。
【請求項5】
前記ノイズ成分除去手段が、前記ゆらぎに由来するノイズ成分と被測定物の振動成分とその他のノイズ成分とを含む以下の多重解像度解析の式

(Ψ(t):ウェーブレット関数、Φ(t):スケーリング関数、w,s:展開係数、j:分解レベル、J:分解レベルの最大値、k:シフトパラメータ)
によって得られた分解レベルの途中領域の詳細成分を用いて波形の再構成を行うことで、前記被測定物の振動波形を求めること、
を特徴とする請求項4に記載の携行形の振動測定装置。
【請求項6】
発信部から被測定物の表面に向けて照射した光又は音波等を受信部で受信することで前記被測定物の振動特性を求める振動測定方法において、
少なくとも前記発信部及び前記受信部を収容する手持ち形の装置本体を準備し、
前記受信部が受信した受信信号に基づく検出波形の中から、手持ちのゆらぎに由来するノイズ成分を除去すること、
を特徴とする携行形の振動測定装置における振動測定方法。
【請求項7】
離散ウェーブレット変換を用いた多重解像度解析により前記ノイズ成分を除去することを特徴とする請求項6に記載の携行形の振動測定装置における振動測定方法。
【請求項8】
前記ゆらぎに由来するノイズ成分と被測定物の振動成分とその他のノイズ成分とを含む以下の多重解像度解析の式

(Ψ(t):ウェーブレット関数、Φ(t):スケーリング関数、w,s:展開係数、j:分解レベル、J:分解レベルの最大値、k:シフトパラメータ)
によって得られた分解レベルの途中領域の詳細成分を用いて波形の再構成を行うことで、前記被測定物の振動波形を求めること、
を特徴とする請求項7に記載の携行形の振動測定装置における振動測定方法。
【請求項9】
発信部から被測定物表面に向けて照射した光又は音波等を受信部で受信することで前記被測定物の振動特性を求める携行形の振動測定装置のためのプログラムにおいて、
前記受信部が受信した受信信号に基づく検出波形の中から、手持ちのゆらぎに由来するノイズ成分を、離散ウェーブレット変換を用いた多重解像度解析により除去する処理を実行し、
この処理の実行では、前記ゆらぎに由来するノイズ成分と被測定物の振動成分とその他のノイズ成分とを含む以下の多重解像度解析の式

(Ψ(t):ウェーブレット関数、Φ(t):スケーリング関数、w,s:展開係数、j:分解レベル、J:分解レベルの最大値、k:シフトパラメータ)
によって得られた分解レベルの途中領域の詳細成分を用いて波形の再構成を行うこと、
を特徴とする携行形の振動測定装置のためのプログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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