説明

搾乳パッド及びそれを用いた搾乳装置

【課題】乳児が乳頭を吸引する場合と同様の蠕動様運動を使用者に感じさせ、使用感の自然さに優れた搾乳パッドおよび搾乳装置の提供。
【解決手段】一端側が大径開口部とされ、前記一端側から他端側に向かって内径が縮小して前記他端側が前記大径開口部よりも内径の小さい小径開口部12Bとされると共に、外側からの押圧力によって変形可能とされた本体12Cと、本体12Cにおける一端側に固定され、本体12Cの大径開口部とともに本体12Cの一端側に乳頭を挿入する乳頭挿入側開口部12Aを形成する環状の開口部フレーム12Dと、を備える搾乳パッド12、および搾乳パッド12を備える搾乳装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体から母乳を採取するための搾乳パッド及びそれを用いた搾乳装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラッパ状に形成された乳受け部材の大径側開口部から乳頭を挿入させ、該乳受け部材内に陰圧を付与することで搾乳を行う搾乳装置や、陰圧の付与に加え、乳受け部材を介して乳頭に蠕動様運動(しごき運動)を加える搾乳装置が知られている。
【0003】
しかしながら、陰圧に伴う圧力変動を利用する従来の搾乳装置では、それに用いる乳頭被覆部材は、陰圧による搾乳用途への適用が中心であり、十分な押圧刺激を加えることについて考慮されていない。また、しごき運動を加える従来の搾乳装置では、乳頭被覆部材(パッド)が全体として柔軟なシリコーンゴム等により構成されており、この乳頭被覆部材が全体として変形してしまうので、押圧刺激の付与に伴って乳房と乳頭被覆部材との間に隙間が形成される場合があり、この点に改善の余地がある。
【0004】
そこで、一端側に乳首を挿入するための大径側開口部が形成されると共に他端側に小径開側口部が形成された筒状フレームと、前記筒状フレームの前記大径側開口部と小径側開口部との間における周方向の一部に設けられ、前記筒状フレームの外側からの押圧力によって該筒状フレームの内方に向けて変形可能な第1の柔軟部と、前記筒状フレームの前記大径側開口部と小径側開口部との間における前記第1の柔軟部と対向する位置に前記第1の柔軟部とは独立して設けられ、前記筒状フレームの内側からの押圧力によって該筒状フレームの外方に向けて変形可能な第2の柔軟部とを備えた乳首被覆部材と、前記乳首被覆部材の前記小径側開口部に連通され、乳を回収するための回収器と、前記第1の柔軟部に乳首への押圧刺激を伝達するための刺激手段と、前記乳首被覆部材における前記第2の柔軟部の外側に配置され、前記第1の柔軟部を介して伝達される前記刺激手段による乳首への押圧刺激に対し、前記乳首被覆部材に挿入された乳首を支持するための乳首支持部と、前記刺激手段に対する前記乳首支持部との相対位置を調整可能な支持位置調整手段と、を備えた搾乳装置が開発された(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−183143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の搾乳装置においても、乳児が乳頭を吸引する場合と異なり、乳頭から離れた位置で蠕動様運動を感じるため、使用感の自然さの点で不十分であった。
【0007】
本発明は、乳児が乳頭を吸引する場合と同様の蠕動様運動を使用者に感じさせ、使用感の自然さに優れた搾乳パッドおよび搾乳装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、一端側が大径開口部とされ、前記一端側から他端側に向かって内径が縮小して前記他端側が前記大径開口部よりも内径の小さい小径開口部とされると共に、外側からの押圧力によって変形可能とされた本体と、前記本体の大径開口部と密着され、前記本体の大径開口部とともに乳頭を挿入する乳頭挿入側開口部を形成する環状の開口部フレームと、を備える搾乳パッドに関する。
【0009】
請求項1によれば、乳頭挿入側開口部に乳頭を挿入したときの密着感が高く、前記本体の側面の一部を蠕動様運動させることにより、十分な押圧力が得られ、また、乳児が乳頭を吸引する場合と同様の搾乳感が得られる搾乳パッドが提供される。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記本体の肉厚が均一に形成されている請求項1に記載の搾乳パッドに関する。
【0011】
請求項2によれば、前記本体の肉厚が不均一な搾乳パッドと比較して更に密着感と使用感とに優れた搾乳パッドが提供される。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記本体がエラストマ系材料から形成され、前記開口部フレームが硬質樹脂系材料から形成されている請求項1または2に記載の搾乳パッドに関する
【0013】
請求項3によれば、本体がエラストマ系材料から形成されているために柔軟性が高く、一方、前記開口部フレームが硬質樹脂系材料から形成されているために、後述する蠕動手段からの押圧力によって乳頭挿入側開口部が変形することが効果的に抑止される搾乳パッドが提供される。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の搾乳パッドと、前記搾乳パッドにおける小径開口部に連通された母乳を回収するための母乳回収瓶と、前記搾乳パッドの本体における側面の一部を蠕動させて乳頭に押圧刺激を伝達する蠕動手段と、前記本体を挟んで前記蠕動手段に相対するように設けられ、前記蠕動手段による乳頭への押圧刺激に対し、前記搾乳パッドに挿入された乳頭を支持する支持部と、前記本体に対する前記支持部の位置を調整する支持位置調整手段と、を備える搾乳装置に関する。
【0015】
請求項4によれば、前記搾乳パッドの乳頭挿入側開口部に乳頭を挿入した状態で蠕動手段によって前記搾乳パッドにおける本体の側壁の一部を蠕動させると、前記蠕動手段からの押圧力が前記本体の側壁を介して前記乳頭に押圧荷重または変位として入力される。一方、乳頭は、前記支持部によって前記本体における蠕動手段の反対側の側壁を介して支持される。これにより、前記蠕動手段からの押圧荷重または変位が乳頭に確実に伝達されるから、母乳の採取を効果的に行うことができる
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記搾乳パッドの乳頭挿入側開口部から乳頭が挿入された状態で前記搾乳パッドの内部に負圧を生じさせるための負圧発生手段をさらに備える請求項4に記載の搾乳装置に関する。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、搾乳パッドに挿入された乳頭に対し、蠕動手段による押圧動作を付与しつつ、負圧発生手段による負圧を付与する。これにより、一層効率的に母乳の採取を行うことができる搾乳装置が提供される。
【0018】
請求項6に記載の発明は、前記支持部が、前記搾乳パッドに対し外側から接離可能に構成された支持部材を含んで構成され、前記支持位置調整手段が、前記支持部材を前記蠕動手段に接離するようにガイドするガイド手段と、前記支持部材を前記蠕動手段に対する接離方向における複数の位置で保持し得る保持手段とを含んで構成されている請求項4または5に記載の搾乳装置に関する。
【0019】
請求項6の発明においては、前記支持部材による乳頭支持位置の調整を行う際には、ガイド手段にガイドさせながら前記支持部材を蠕動手段に対して接離させ、接離方向の所望の位置で保持手段によって支持部材を保持させるから、使用者の状態に応じて、簡単に乳頭支持位置の調整を行うことができる搾乳装置が提供される。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、乳児が乳頭を吸引する場合と同様の蠕動様運動を使用者に感じさせ、使用感の自然さに優れた搾乳パッドおよび搾乳装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施形態1に係る搾乳装置の全体的な構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る搾乳装置を構成する乳頭支持機構を示す斜視図である。
【図3】図3は、実施形態1に係る搾乳装置を構成する搾乳機構の要部を示す側断面図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る搾乳装置を構成する搾乳パッドを示し、(A)は斜視図であり、(B)は縦断面図である。
【図5】図5は、実施形態1に係る搾乳装置を構成するパッドを示す図であって、(A)は側面図であり、(B)は底面図である。
【図6】図6は、実施形態1に係る搾乳装置を構成する蠕動機構を示す一部切り欠いた斜視図である。
【図7】図7は、実施形態1に係る搾乳装置に使用される搾乳パッドの別の例を示し、(A)は斜視図であり、(B)は縦断面図である。
【図8】図8は、実施形態1に係る搾乳装置に使用される搾乳パッドのさらに別の例を示し、(A)は斜視図であり、(B)は縦断面図である。
【図9】図9は、実施形態1に係る搾乳装置に使用される搾乳パッドのさらに別の例を示し、(A)は斜視図であり、(B)は縦断面図である。
【図10】図10は、実施形態1に係る搾乳装置に使用される搾乳パッドのさらに別の例を示し、(A)は斜視図であり、(B)は縦断面図である。
【図11】図11は、実施形態1に係る搾乳装置に使用される搾乳パッドのさらに別の例を示し、(A)は斜視図であり、(B)は縦断面図である。
【図12】図12は、実施形態1に係る搾乳装置で搾乳したときに蠕動様運動を感じる位置と、乳児に授乳しているときに蠕動様運動を感じる位置との比較を示す模式図である。
【図13】図13は、特許文献1に記載された搾乳装置で搾乳したときに蠕動様運動を感じる位置は、乳児に授乳しているときに蠕動様運動を感じる位置との比較を示す模式図である。
【図14】図14は、本体の肉厚およびその分布、並びに口径の異なる搾乳パッドについて評価した評価項目、および評価基準を示す説明図である。
【図15】図15は、本体の肉厚分布および肉厚の異なる3種の搾乳パッドについての評価結果を示す説明図である。
【図16】図16は、口径の異なる3種の搾乳パッドについての評価結果を示す説明図である。
【図17】図17は、口径は同一であって本体の肉厚のみが異なる3種の搾乳パッドについての評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.実施形態1
【0023】
本発明の実施形態に係る搾乳装置としての搾乳装置10について、図面に基づいて説明する。なお、説明の便宜上、各図に適宜矢印F、矢印U、矢印Lにて示す側(方向)をそれぞれ手前側(方向)、上側(方向)、下側(方向)ということとし、矢印Wにて示す方向を幅方向ということとする。
【0024】
搾乳装置10は、図1に示すように、搾乳を行う搾乳ユニット102と、乳房で封止された後述する搾乳パッド12内に陰圧を付与するための真空ポンプユニット24とを主要構成要素として構成されている。
【0025】
搾乳ユニット102は、図1〜図3に示すように、乳房における乳頭や乳輪近傍を含む部分に装着されて乳頭およびその周辺を外周側から覆う搾乳パッド12と、採取した母乳を回収するための母乳回収瓶としての哺乳瓶14と、搾乳パッド12と哺乳瓶14とを母乳が流通するように連通するための連通管16と、搾乳パッド12を介して乳頭に押圧刺激を付与する蠕動手段としての蠕動機構18と、蠕動機構18の反対側から乳頭を支持するための支持部および支持位置調整手段としての乳頭支持機構20と、これら搾乳パッド12と哺乳瓶14と連通管16と蠕動機構18と乳頭支持機構20とを所定の姿勢(相対位置)で保持するための装置フレーム22とを備える。詳細は後述するが、蠕動機構18は、押圧刺激として、乳頭を圧迫する方向に押圧動作を付与するようになっており、ここでは、乳児による舌の蠕動様運動を再現し、使用者が乳房を手前側から反対方向へしごくような動きをする刺激手段として構成されている。
【0026】
図1〜図4に示すように、搾乳パッド12は、全体として、一端側の乳頭挿入側開口部12Aが他端側の連結側開口部12Bよりも大径とされた略ラッパ状に形成され、乳頭挿入側開口部は上下方向に対し、下側が手前方向に10〜20度、好ましくは約15度傾斜して形成されている。
【0027】
搾乳パッド12は、一端側が大径開口部とされ、他端側が、前記大径開口部よりも内径が小さく、連結側開口部12Bを形成する小径開口部とされた本体12Cと、本体12Cの大径開口部に固定され、前記大径開口部とともに乳頭挿入側開口部12Aを形成する開口部フレーム12Dとを備える。本体12Cは、エラストマ系材料、具体的にはシリコーンゴム、ポリエステル系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、ポリオレフィン系エラストマ、スチレン系エラストマ、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体などが使用される。一方、開口部フレーム12Dは、硬質樹脂系材料、例えばエポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルフィド樹脂、硬質ポリウレタン樹脂等の硬質な樹脂が使用される。この実施形態では、エポキシ樹脂(日新レジン(株)製クリスタルレジンスーパークリア)を用いて開口部フレーム12Dが構成されている。
【0028】
本体12Cは、図4に示すように乳頭挿入側開口部12Aから連結側開口部12Bに向かって肉厚が変化するように形成されていてもよいが、図7〜図11のように、周方向および乳頭挿入側開口部12Aから連結側開口部12Bに向かう方向の何れにおいても肉厚が一定に形成されていれば、使用感の自然さの点で更に好ましい。
【0029】
乳頭挿入側開口部12Aの口径は、図4および図7〜図11に示すように30〜70mm程度が好ましい。
【0030】
また、本体12Cの連結側開口部12B近傍には、後述する連通管16を連結側開口部12Bに挿入したときに本体12Cが外側に拡張して結合が緩むのを防止するために前記硬質樹脂系材料からなる補強環12Eが嵌装されている。
【0031】
図1に示すように、哺乳瓶14の開口部へ接続された連通管16は、搾乳パッド12の連結側開口部12Bへ連結された横管16Aと、横管16Aにおける搾乳パッド12とは反対側の端部に連設されると共に下端において哺乳瓶14の開口端に連結された立管16Bとを有する。また、連通管16の立管16Bの上端には、空気抜き部16Cが設けられている。空気抜き部16Cは、チューブ38を介して真空ポンプユニット24に連通されるようになっている。なお、好ましくは、立管16Bの下端には、哺乳瓶14の空気を分離しつつ、母乳を流通させられる弁体を設け、上端には、母乳が真空ポンプユニット24に逆流しないための逆流防止手段を形成しても良い。
【0032】
装置フレーム22は、図1に示すように、主に哺乳瓶14及び連通管16を支持する母乳回収側フレーム22Aと、主に蠕動機構18及び乳頭支持機構20(を介して搾乳パッド12)を支持する搾乳側フレーム22Bとが連結されて構成されている。詳細な説明は省略するが、母乳回収側フレーム22Aと搾乳側フレーム22Bとは、搾乳パッド12の軸線廻りに相対角を調整(変更、保持)可能に構成されている。すなわち、搾乳装置10では、哺乳瓶14を略上下方向に沿った姿勢に保ちつつ、乳頭を含む乳房に蠕動機構18による蠕動様運動を付与可能な構成とされている。
【0033】
蠕動機構18は、図1〜図3、および図6に示すように、幅方向(矢印W方向)に対向して搾乳側フレーム22Bを構成する一対の側板22Cにそれぞれ回動自在に支持された各一対の第1アーム40、第2アーム42、第3アーム44を備えている。図6では、幅方向一方側のアームを示し、他方側のアームの図示を省略している。一対の第1アーム40は、互いに同形状に形成されており、かつ互いの回動軸40Aが同軸上に配置されている。同様に、一対の第2アーム42、第3アーム44も、それぞれ互いに同形状に形成されると共に、回動軸42A同士、回動軸44A同士が同軸上に配置されている。各回動軸40A、42A、44Aは、手前側から後側に向けてこの順に互いに離間して(それぞれ異なる位置に)配置されると共に、互いに平行とされている。また、各第1アーム40、第2アーム42は、それぞれ一対の側板22C外側に配置され、各第3アーム44は一対の側板22C間に配置されている。
【0034】
図1、図3、および図6に示すように、一対の第1アーム40は、それぞれ側面視で略V字状に形成されており、V字の一端部に回動軸40Aが設けられている。一対の第1アーム40の屈曲部近傍には、押圧部としての第1押圧ローラ46が架け渡されている。第1押圧ローラ46は、略円柱(ローラ)状に形成されており、その長手(軸線)方向が回動軸40Aの軸線と略平行とされている。また、一方の第1アーム40における回動軸40Aに対し第1押圧ローラ46とは反対の腕部にはブラケット48の一端が接続されており、ブラケット48の他端にはカムローラ50が回動軸40Aと平行な軸廻りに回転自在に支持されている。蠕動機構18では、側面視で回動軸40A、第1押圧ローラ46、カムローラ50の各軸心を結ぶ三角形が鋭角三角形を成すように一対の第1アーム40、ブラケット48が構成されている。
【0035】
一対の第2アーム42は、それぞれ側面視で略「L」字状に形成されており、その一端部の近傍に回動軸42Aが設けられている。一対の第2アーム42の他端部には、押圧部としての第2押圧ローラ52が架け渡されている。第2押圧ローラ52は、略円柱状に形成されており、その長手(軸線)方向が回動軸42Aの軸線と略平行とされている。また、一方の第2アーム42の回動軸42A近傍には、ブラケット54の一端が接続されており、ブラケット54の他端にはカムローラ56が回動軸42Aと平行な軸廻りに回転自在に支持されている。蠕動機構18では、側面視で回動軸42A、第2押圧ローラ52、カムローラ56の各軸心を結ぶ三角形が鈍角三角形を成すように一対の第2アーム42、ブラケット54が構成されている。
【0036】
一対の第3アーム44は、それぞれ側面視で略「へ」字状に形成されており、その一端部の近傍に回動軸44Aが設けられている。一対の第3アーム44の他端部には、押圧部としての第3押圧ローラ58が架け渡されている。第3押圧ローラ58は、略円柱状に形成されており、その長手(軸線)方向が回動軸44Aの軸線と略平行とされている。また、一方の第3アーム44の長さ方向中間部には、ブラケット60の一端が接続されており、ブラケット60の他端にはカムローラ62が回動軸44Aと平行な軸廻りに回転自在に支持されている。蠕動機構18では、側面視で回動軸44A、第3押圧ローラ58、カムローラ62の各軸心を結ぶ三角形が鈍角三角形を成すように一対の第3アーム44、ブラケット60が構成されている。
【0037】
図3に示される如く、蠕動機構18を構成する各押圧ローラ46、52、58は、搾乳パッド12の本体12Cにおける異なる位置34A、34B、34Cを、それぞれの略法線方向にタイミングをずらして押圧するようになっている。これらの位置34A、34B、34Cは、乳児の口腔の舌における位置に対応している。
【0038】
また、図6に示される如く、蠕動機構18は、第1アーム40のカムローラ50、第2アーム42のカムローラ56、第3アーム44のカムローラ62がそれぞれ独立して接触するカム64、66、68を備えている。これらのカム64、66、68は、それぞれ略円板状に形成されて外周面を対応するカムローラ50、56、62に接触させた偏心カムとされている。この実施形態では、カム64、66、68は、共通のモータ70(図4参照)に駆動される共通の回転軸72に一体回転可能に接続されている。回転軸72は、一対の側板22Cを架け渡して自軸廻りに回転自在に搾乳側フレーム22Bに支持されており、モータ70は搾乳側フレーム22Bに対し固定的に保持されている。
【0039】
これらにより、蠕動機構18は、モータ70が作動されてカム64、66、68が回転すると、第1アーム40、第2アーム42、第3アーム44がそれぞれ回動軸40A、42A、44A廻りに回動(揺動)し、第1押圧ローラ46、第2押圧ローラ52、第3押圧ローラ58が、搾乳パッド12の本体12Cをタイミングをずらしてしごき動作をするように、かつ周期的に押圧するようになっている。この実施形態では、蠕動機構18では、第1押圧ローラ46、第2押圧ローラ52、第3押圧ローラ58が本体12Cにおける乳頭の根元側、中間部、先端側に対応して異なる位置に接触されており、各接触位置を所定の位相差で乳頭の根元側から先端側に向かって順次、蠕動様に押圧(しごき動作)するようになっている。なお、実験結果であるが、押圧ローラ46,52,56は好ましくは、図3に示す矢印F方向に対し直交方向へ搾乳パッドを押圧するように蠕動機構18を構成することが望ましいことが判明している。
【0040】
乳頭支持機構20は、図1〜図3、および図5に示すように、本体12Cにおける蠕動機構18で押圧される位置34A、34B、34Cの部分とは反対側の部分を搾乳パッド12の外側から押さえるための乳頭支持部材としての支持ピース74を有する。支持ピース74は、平面視が図5(B)に示すように長手方向(矢印F)に長軸方向が一致された略T字型形状を成すと共に、図5(A)に示すように支持ピース74のパッド接触面がF方向に直行する幅方向の横断面においてその中央部が両端部に対し凹とされたブロック状に形成されており、図3に示すように本体12Cの搾乳パッド12の軸方向中間部(径急変部と緩変部との間)に接触又は近接して配置されて、蠕動機構18の動作が伝達される乳頭の上側を支持するようになっている。
【0041】
図2に示すように、支持ピース74における搾乳パッド12側とは反対側には、ガイド手段及び保持手段としてのピース位置調整機構76が配設されている。ピース位置調整機構76は、装置フレーム22の一対の側板22Cからそれぞれ上側に連結又は延設された一対のサブフレーム78を備えている。一対のサブフレーム78間には、保持手段を構成する橋架板80が架け渡されている。この橋架板80には、ガイド部及び保持部として機能する止めねじ82が螺合されるようになっている。なお、この橋架板80は搾乳パッドの中心軸方向(F方向)に対し約17°傾斜するように設けられている。
【0042】
また、ピース位置調整機構76は、止めねじ82の螺旋部を貫通させた長孔84Aを有し該止めねじ82の頭部82Aと橋架板80との間に配設された被ガイド部84を有し、この被ガイド部84は、支持ピース74における搾乳パッド12側とは反対側に固定的に設けられている。被ガイド部84の長孔84Aは、支持ピース74を搾乳パッド12(蠕動機構18)に対し接離させる方向(図5に示す矢印A方向)に長手とされている。したがって、被ガイド部84は、橋架板80に対し平行に移動可能となっており、支持ピース74を、乳頭が挿入されていない搾乳パッド12の本体12Cに接触させる位置(又は搾乳パッド12の内方に押し込む位置)から、支持ピース74を本体12Cから大きく離間させた位置までの範囲で、その位置を調整可能な構成とされている。
【0043】
これにより、乳頭支持機構20では、ピース位置調整機構76の止めねじ82を緩めた状態で、被ガイド部84を止めねじ82及び長孔84Aによってガイドさせつつ橋架板80に対しスライドさせることで、搾乳パッド12の本体12Cに対する支持ピース74の位置を調整し得るようになっている。また、乳頭支持機構20では、ピース位置調整機構76の止めねじ82を締めることで、橋架板80に対する被ガイド部84の位置すなわち本体12Cに対する支持ピース74の位置を保持するようになっている。なお、例えば、橋架板80及び被ガイド部84の一方に設けたガイド溝に他方に設けたガイド突起を入り込ませたり、被ガイド部84の幅方向両端を一対のサブフレーム78に近接させたりすることで、被ガイド部84すなわち支持ピース74の止めねじ82廻りの回動(首振り動作)を規制するようにしても良い。
【0044】
図示は省略するが、この実施形態では、一対のサブフレーム78が装置フレーム22に対し支軸78A廻りに回動可能に構成されており、図6(A)に示す使用位置からユニットフレーム86を水平側に回動させることで、支持ピース74を本体12Cから離間させることができる構成とされている。これにより、ピース位置調整機構76による支持ピース74の位置を調整した状態を維持しつつ、支持ピース74の使用位置と準備位置(乳頭挿入用位置)とを切り替えることができる構成とされている。なお、支軸78Aを中心とした回動ではなく、支持ピース74を動かすことで、乳頭を挿入できる構成としても良い。
【0045】
真空ポンプユニット24の構成は、特許文献1の段落「0043」〜「0045」および図11に示す構成とすることができる。
【0046】
次に、実施形態の作用を説明する。
【0047】
上記構成の搾乳装置10では、搾乳を行う際には、先ず、一対のサブフレーム78を支軸78Aを中心に回動させて、乳頭支持機構20の支持ピース74を搾乳パッド12の本体12Cから離間させた状態で、乳頭が乳頭挿入側開口部12Aから搾乳パッド12に入り込むように、該搾乳パッド12を含む搾乳ユニット102を乳房に近接させ、搾乳パッド12の乳頭挿入側開口部12Aを乳房に押し付ける。
【0048】
次いで、サブフレーム78を戻した後に、止めねじ82を緩め、被ガイド部84を橋架板80に対しスライドさせて乳頭が挿入された状態の搾乳パッド12の本体12Cに支持ピース74を接触させ、止めねじ82を締める。支持ピース74の位置が予め設定されていた場合には、乳頭支持機構20のユニットフレーム86を水平側に倒した準備位置で搾乳パッド12に乳頭を挿入した後、該ユニットフレーム86を使用位置にすれば良い。
【0049】
そして、蠕動機構18及び真空ポンプユニット24を共に作動させる。すると、蠕動機構18の一対の第1アーム40、第2アーム42、第3アーム44が対応するカム64、66、68に駆動されて揺動され、各押圧ローラ46、52、58がそれぞれ第1柔軟部34を介して乳頭にしごき動作を伝達する。これにより、乳頭は、乳児の舌による蠕動様運動を再現した蠕動様運動により直接的にしごかれる。このとき、乳頭は、蠕動機構18の反対側(上側)から本体12Cを介して乳頭支持機構20の支持ピース74にて支持されている。また、真空ポンプユニット24の動作によって、乳頭が挿入されて封止されている搾乳パッド12内には、この蠕動様運動による圧力(陽圧)変動に所定の位相差で周期的に陰圧が付与され、搾乳パッド12に挿入された乳頭から母乳が採取される。
【0050】
これら蠕動機構18による陽圧(蠕動様運動)の付与と真空ポンプユニット24による陰圧付与とにより、本搾乳装置10では、乳児による搾乳運動に近い形態で搾乳を行うことができる。この採取された母乳は、搾乳パッド12から連通管16を経由して哺乳瓶14に流入して哺乳瓶14にて回収される。
【0051】
ここで、本搾乳装置10では、搾乳パッド12には、剛直な開口部フレーム12Dと柔軟な本体12Cとが設けられているため、開口部フレーム12Dによって搾乳パッド12における乳頭挿入側開口部12Aおよびその近傍の部分の変形を抑制させつつ、蠕動機構18の蠕動様運動を本体12Cの側壁を介して搾乳パッド12内の乳頭に伝達させることができ、かつ本体12Cによって乳頭(乳房)と搾乳パッド12との密着性が確保される。これにより、搾乳パッド12内の乳頭に蠕動機構18による陽圧(蠕動様運動)と真空ポンプユニット24による陰圧とを付与する搾乳装置10において、搾乳動作に伴って搾乳パッド12と乳房との間に隙間が形成されることが防止される。すなわち、搾乳パッド12は、搾乳装置10に適用されて効果的に母乳の採取を行うことを可能とする。
【0052】
また、搾乳装置10では、搾乳パッド12の外側から乳頭支持機構20によって、搾乳パッド12内の乳頭を蠕動機構18とは反対側から支持するため、蠕動機構18による蠕動様運動を搾乳パッド12内の乳頭に確実に伝達させることができる。しかも、搾乳パッド12における乳頭支持機構20の支持ピース74が接触する部分が本体12Cであるため、本体12Cが搾乳パッド12に挿入された乳頭の形状に応じて変形することで、乳頭支持機構20による乳頭の支持位置(支持ピース74と蠕動機構18との間隔)すなわち乳頭における本地12Cを介した支持ピース74との当接位置を調整することができる構成が実現される。
【0053】
これにより、搾乳パッド12が適用された搾乳装置10は、上記の如く搾乳動作に伴う搾乳パッド12の変形(搾乳パッド12と乳房との隙間形成)が防止されると共に、乳頭形状の変化や個人差に応じた乳頭支持位置の調整を行うことができる。そして、本搾乳装置10では、乳頭支持機構20にピース位置調整機構76を設けることで、乳頭支持位置の調整機能を実現している。また、ピース位置調整機構76は、支持ピース74を本体12Cに対し接離する方向にガイドするガイド手段(主に被ガイド部84の長孔84A、止めねじ82)と、支持ピース74(被ガイド部84)を任意の位置で橋架板80(搾乳パッド12)に対し保持し得る保持手段(主に橋架板80と止めねじ82)とを有して構成されているので、支持ピース74による乳頭支持位置の調整作業が容易である。
【実施例】
【0054】
1.実施例1
実施形態1に記載の搾乳装置10に図4に示す搾乳パッド12を装着したものを用い、5人の被験者が1分間搾乳を行った。結果を図12に示す。図12および図13において、二点鎖線は乳児に授乳するときに被験者が蠕動様運動を感じる位置であり、破線は搾乳装置10で搾乳したときに被験者が蠕動様運動を感じた位置を示す。また、数字は5人の被験者各々を示す。
【0055】
図12から明らかなように被験者1〜5の何れにおいても、搾乳装置10で搾乳したときに蠕動様運動を感じる位置は、乳児に授乳しているときに蠕動様運動を感じる位置と殆ど同一の乳頭およびその近傍であることが判った。
【0056】
2.比較例1
先行文献1に記載の形態の搾乳装置を用いた以外は5人の被験者が実施例1と同様の手順に従って搾乳を行った。結果を図13に示す。図13から明らかなように被験者1〜5の何れにおいても、比較例1の搾乳装置で搾乳したときに蠕動様運動を感じる位置は、乳児に授乳しているときに蠕動様運動を感じる位置とは異なり、乳輪よりも外側であることが判った。
【0057】
3.実施例2
実施形態1に記載の搾乳装置10を用い、搾乳パッド12として口径(開口部フレーム部材の円の中心径)が70mmで本体12Cの肉厚が不均一なもの(図4、P1)、口径が50mmで本体12Cが3.0mmの均一な肉厚を有するもの(図7、P2)、口径が50mmで本体12Cが2.0mmの均一な肉厚を有するもの(図8、P3)、口径が70mmで本体12Cが2.5mmの均一な肉厚を有するもの(図9、P4)、口径が50mmで本体12Cが2.5mmの均一な肉厚を有するもの(図10、P5)、および口径が34mmで本体12Cが2.5mmの均一な肉厚を有するもの(図11、P6)の各々を装着したときの使用感を調査した。使用感の調査は、実施例1および比較例1と同一の被験者1〜5が、実施例1および比較例1と同一の手順に従って搾乳を行い、図14に示す5つの評価項目(Q1:搾乳装置10による搾乳が乳児の吸綴のように感じるか、Q2:搾乳装置10による搾乳が乳児のしごきのように感じるか、Q3:搾乳装置10による搾乳が心地よいか、Q4:搾乳装置10は使い勝手がよいか、Q5:授乳装置10は親しみ易いか)につき、非常に感じない、少し感じない、どちらでもない、少し感じる、非常に感じる、の5段階で評価した。結果を図15〜17に示す。
【0058】
図15から判るように、搾乳パッド12として口径が50mmで本体12Cが3.0mmの均一な肉厚を有するP2,および口径が50mmで本体12Cが2.0mmの均一な肉厚を有するP3を用いたときは、口径が70mmで本体12Cの肉厚が不均一なP1を用いた場合と比較して乳児のような吸綴感、心地よさ、および使い勝手の点で明らかに優位であることが判った。
【0059】
図16は、本体12Cの肉厚が2.5mmと同一であって口径のみが70mm(P4)、50mm(P5)、30mm(P6)と異なる場合の比較であるが、図16からわかるように、乳児のような吸綴感および扱き感の点で口径が50mmのP5が最も優位であった。
【0060】
一方、口径が50mmと同一で、本体12Cの肉厚が3.0mm(P2)、2.0mm(P3)、2.5mm(P5)と異なる場合は、図17から判るように前記5つの評価項目Q1〜Q5の何れについても殆ど差が見られなかった。
【0061】
以上の結果から、搾乳パッド12においては、本体12Cは2.0〜3.0mmの均一な肉厚のものが最適であり、口径は50mm前後が最適であることが判った。
【符号の説明】
【0062】
10 搾乳装置
12 搾乳パッド
12A 乳頭挿入側開口部
12B 連結側開口部
12C 本体
12D 開口部フレーム
12E 補強環
14 哺乳瓶
16 連通管
16A 横管
16B 立管
16C 部
18 蠕動機構
20 乳頭支持機構
21C 本体
22 装置フレーム
22A 母乳回収側フレーム
22B 搾乳側フレーム
22C 側板
24 真空ポンプユニット
38 チューブ
40 アーム
40A 回動軸
42 アーム
42A 回動軸
44 アーム
44A 回動軸
46 押圧ローラ
48 ブラケット
50 カムローラ
52 押圧ローラ
54 ブラケット
56 カムローラ
58 押圧ローラ
60 ブラケット
62 カムローラ
64 カム
70 モータ
72 回転軸
74 支持ピース
76 ピース位置調整機構
78 サブフレーム
78A 支軸
80 橋架板
82A 頭部
84A 長孔
84 被ガイド部
86 ユニットフレーム
102 搾乳ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側が大径開口部とされ、前記一端側から他端側に向かって内径が縮小して前記他端側が前記大径開口部よりも内径の小さい小径開口部とされると共に、外側からの押圧力によって変形可能とされた本体と、前記本体の大径開口部と密着され、前記本体の大径開口部とともに乳頭を挿入する乳頭挿入側開口部を形成する環状の開口部フレームと、を備える搾乳パッド。
【請求項2】
前記本体は、肉厚が均一に形成されている請求項1に記載の搾乳パッド。
【請求項3】
前記本体はエラストマ系材料から形成され、前記開口部フレームは硬質樹脂系材料から形成されている請求項1または2に記載の搾乳パッド。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の搾乳パッドと、
前記搾乳パッドにおける小径開口部に連通された母乳を回収するための母乳回収瓶と、
前記搾乳パッドの本体における側面の一部を蠕動させて乳頭に押圧刺激を伝達する蠕動手段と、
前記本体を挟んで前記蠕動手段に相対するように設けられ、前記蠕動手段による乳頭への押圧刺激に対し、前記搾乳パッドに挿入された乳頭を支持する支持部と、
前記本体に対する前記支持部の位置を調整する支持位置調整手段と、
を備える搾乳装置。
【請求項5】
前記搾乳パッドの乳頭挿入側開口部から乳頭が挿入された状態で前記搾乳パッドの内部に負圧を生じさせるための負圧発生手段をさらに備える請求項4に記載の搾乳装置。
【請求項6】
前記支持部は、前記搾乳パッドに対し外側から接離可能に構成された支持部材を含んで構成され、
前記支持位置調整手段は、前記支持部材を前記蠕動手段に接離するようにガイドするガイド手段と、前記支持部材を前記蠕動手段に対する接離方向における複数の位置で保持し得る保持手段とを含んで構成されている請求項4または5に記載の搾乳装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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