説明

摩擦抵抗低減型船舶の製造方法

【課題】船舶を改造して容易に摩擦抵抗低減船舶を製造することが可能な摩擦抵抗低減型船舶の製造方法を提供する。
【解決手段】摩擦抵抗低減船舶の製造方法は船舶の船体外板3に開口部3aを形成する工程と、気体吹き出し部1を製作する工程と、ただし、気体吹き出し部1は、気体供給チャンバ12と、複数の気体吹き出し口14を有し、前記気体供給チャンバ12と結合した底板11とを備え、気体吹き出し部1を開口部3aに挿入する工程と、底板11が船体外板3と同一面を形成するように結合する工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関し、特に摩擦抵抗低減型船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の船体に作用する抵抗を低減する一手法として、船底から空気(気泡)を吹き出し、船底全体を気泡で覆う方法が知られている。上記手法を取り入れた船舶は、船底に、空気吹き出し部を有し、その空気吹き出し部から水中へ気泡を吹き出している。図1Aは、そのような抵抗低減手法を取り入れた船舶(摩擦抵抗低減型船舶)の空気吹き出し部を示す概略斜視図である。空気吹き出し部は、船体外板110に設けられた複数の空気吹き出し口111と、複数の空気吹き出し口111を覆うように船体外板110に結合された空気供給チャンバ101とを備えている。空気供給装置(図示されず)から空気供給チャンバ101に供給された空気は、複数の空気吹き出し口111から水中へ吹き出される。
【0003】
このような摩擦抵抗低減型船舶を新造船として新たに製造する場合を考える。図1Bは、新造船において空気吹き出し部を製作する様子を示す模式図である。新造船において空気吹き出し部を製作する場合、船舶の各ブロックを製作するときに、空気供給チャンバ101を船体外板110に設置することができる。すなわち、船内側から空気供給チャンバ101を船体外板110に溶接等の方法で結合させることができる。このように、新造船において空気吹き出し部を組み立てることは容易である。
【0004】
関連する技術として、特開平11−301570号公報(特許文献1)に摩擦抵抗低減船の空気吹き出し器が開示されている。この摩擦抵抗低減船の空気吹き出し器は、船底外板の所要位置に、加圧空気を水中に吹き出させることにより微小気泡を発生させるようにするための複数の空気吹き出し部を、船体幅方向に配列して設け、且つ空気送給パイプを通して送給された加圧空気を上記各空気吹き出し部へ分散して導くための空気分散チャンバを形成するように、船体幅方向に延びる耐食材製半割りパイプを、船底のロンジを貫通するように上記船底外板の内側に組み付けた構成を有することを特徴とする。
【0005】
また、特開2010−120610号公報(特許文献2)に船体摩擦抵抗低減装置が開示されている。この船体摩擦抵抗低減装置は、気泡を発生させて船底に気泡膜を形成することにより、航行する船体の摩擦抵抗を低減する。船体摩擦抵抗低減装置は、前記船体内部の船底に配設されたエアーチャンバと、前記エアーチャンバの底部となる前記船底に列設して形成された複数の空気噴出孔と、前記エアーチャンバを被覆するように前記船体内部の船底に配設されたシーチェストと、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−301570号公報
【特許文献2】特開平2010−120610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、新造船ではなく修繕船において、改造により新たに摩擦抵抗低減装置(空気吹き出し部)を組み込もうとする場合、以下のような問題点がある。すなわち、船内側には様々な構造材や配管や配線や装置などが存在しており、空気吹き出し部(空気供給チャンバ)を船内側から組み込むことは容易ではない。船舶、特に修繕船を改造して容易に摩擦抵抗低減装置を組み込むことが可能な技術が望まれる。短期間に摩擦抵抗低減装置を組み込むことが可能な技術が求められる。
【0008】
本発明の目的は、船舶を改造して容易に摩擦抵抗低減船舶を製造することが可能な摩擦抵抗低減型船舶の製造方法を提供することにある。船舶を改造して短期間に摩擦抵抗低減船舶を製造することが可能な摩擦抵抗低減型船舶の製造方法を提供することにある。
【0009】
この発明のこれらの目的とそれ以外の目的と利益とは以下の説明と添付図面とによって容易に確認することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に、発明を実施するための形態で使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態との対応関係を明らかにするために括弧付きで付加されたものである。ただし、それらの番号・符号を、特許請求の範囲に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0011】
本発明の摩擦抵抗低減船舶の製造方法は、船舶(90)の船体外板(3、4)に開口部(3a、4a)を形成する工程と、気体吹き出し部(1、1a、1b、1c、1d、1e)を製作する工程と、ただし、気体吹き出し部(1、1a、1b、1c、1d、1e)は、気体供給チャンバ(12、12a、22)と、複数の気体吹き出し口(14、24)を有し、気体供給チャンバ(12、12a、22)と結合した底板(11、11a、21、21a)とを備え、気体吹き出し部(1、1a、1b、1c、1d、1e)を開口部(3a、4a)に挿入する工程と、底板(11、11a、21、21a)が船体外板(3、4)と同一面を形成するように結合する工程とを具備している。
【0012】
上記の摩擦抵抗低減船舶の製造方法において、底板(11、11a、21、21a)の面積は、気体供給チャンバ(12、12a、22)の底板(11、11a、21、21a)との結合面の面積よりも大きいことが好ましい。
【0013】
上記の摩擦抵抗低減船舶の製造方法において、底板(21、21a)は、開口部を形成する前の船体外板(4)の曲面と同じ曲面を有することが好ましい。
【0014】
上記の摩擦抵抗低減船舶の製造方法において、気体吹き出し部(1e)は、気体供給チャンバ(12)を覆うように底板(11a)に結合したシーチェスト(15)を更に備えることが好ましい。
【0015】
上記の摩擦抵抗低減船舶の製造方法において、シーチェスト(15)は、船体外板(3)と同一材料且つ同一厚みの板で形成されることが好ましい。
【0016】
上記の摩擦抵抗低減船舶の製造方法において、船舶(90)は修繕船であることが好ましい。
【0017】
本発明の摩擦抵抗低減船舶の製造方法は、船舶の船体外板に開口部を形成する工程と、気体回収部を製作する工程と、ただし、気体回収部は、気体回収チャンバと、複数の気体回収口を有し、気体回収チャンバと結合した底板とを備え、気体回収部を開口部に挿入する工程と、底板が船体外板と同一面を形成するように結合する工程とを具備している。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、船舶を改造して容易に摩擦抵抗低減船舶を製造することが可能となる。船舶を改造して短期間に摩擦抵抗低減船舶を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1Aは、従来の摩擦抵抗低減型船舶の空気吹き出し部を示す概略斜視図である。
【図1B】図1Bは、新造船において空気吹き出し部を製造する様子を示す模式図である。
【図2A】図2Aは、本発明の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成の一例を示す概略側面図である。
【図2B】図2Bは、本発明の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成の一例を示す概略底面図である。
【図3A】図3Aは、本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法の一例の工程を示す模式図である。
【図3B】図3Bは、本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法の一例の工程を示す模式図である。
【図3C】図3Cは、本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法の一例の工程を示す模式図である。
【図3D】図3Dは、本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法の一例の工程を示す模式図である。
【図3E】図3Eは、本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法の一例の工程を示す模式図である。
【図4A】図4Aは、気体吹き出し部の構成の変形例を示す模式図である。
【図4B】図4Bは、気体吹き出し部の構成の他の変形例を示す模式図である。
【図5】図5は、図4Bの気体吹き出し部の場合での図3Eに相当する工程を示す模式図である。
【図6A】図6Aは、本発明の第2の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法の他の例の工程を示す模式図である。
【図6B】図6Bは、本発明の第2の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法の他の例の工程を示す模式図である。
【図6C】図6Cは、本発明の第2の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法の他の例の工程を示す模式図である。
【図6D】図6Dは、本発明の第2の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法の他の例の工程を示す模式図である。
【図6E】図6Eは、本発明の第2の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法の他の例の工程を示す模式図である。
【図7】図7は、気体吹き出し部の構成の変形例を示す模式図である。
【図8】図8は、本発明の第3の実施の形態に係る気体吹き出し部の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法に関して、添付図面を参照して説明する。
【0021】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成について説明する。図2Aは、本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成の一例を示す概略側面図である。本図において、摩擦抵抗低減型船舶90の船体80の船長方向(前後方向)、船幅方向(左右方向)及びそれらいずれにも垂直な方向が、それぞれx方向、y方向及びz方向として示されている。静水面に浮いている船体80の水面と接する線を喫水線DLとする。この摩擦抵抗低減型船舶1は、海や河川を航行する船舶である。摩擦抵抗低減型船舶90は、船体80と、船体80内に設けられた気体吹き出し装置60とを備えている。
【0022】
気体吹き出し装置60は、航行時に、船体80の船底3や船側4を気泡で覆うように、船側や船底に設けられた気体吹き出し部から水中へ気体(例示:空気、主機等からの排出ガス)を吹き出す。気体吹き出し装置60は、気体吹き出し部1(、1a、1b、1e)、1c(、1d)と、気体供給部57とを備えている。気体吹き出し部1(、1a、1b、1e)は、平坦な船体外板に設けられ、水中へ空気を吹き出し可能である。本実施の形態では、平坦な船体外板の一例として、船底の船体外板3に設けられている場合について説明する。また、気体吹き出し部1c(、1d)は、曲面を有する船体外板に設けられ、水中へ空気を吹き出し可能である。この気体吹き出し部1c(、1d)に関しては第2の実施の形態において説明する。第2の実施の形態では、曲面を有する船体外板の一例として、船側の船体外板4に設けられている場合について説明する。気体供給部57は、コンプレッサ又はブロワを備えている。気体供給部57は、配管56を介して、気体吹き出し部1(、1a、1b、1e)、1c(、1d)へ気体を供給する。各気体吹き出し部1(、1a、1b、1e)、1c(、1d)は、供給された気体を水中へ吹き出す。
【0023】
図2Bは、本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成の一例を示す概略底面図である。x方向、y方向及びz方向については図2Aと同じである。船体80の船長方向の中心線を船体中心線Cとする。
【0024】
気体吹き出し部1(、1a、1b、1e)は、船体中心線C上又は船体中心線C近傍に設けられる。気体吹き出し部1が一個の場合(図2Bの場合)には、気体吹き出し部1(、1a、1b、1e)は、船体中心線Cに対して対称となる形状を有することが好ましい。一方、気体吹き出し部1(、1a、1b、1e)が複数個の場合には、気体吹き出し部1(、1a、1b、1e)は、船体中心線Cに対して対称となるように配置されること好ましい。例えば、偶数個ならば船体中心線Cを挟んで両側に同数個ずつ線対称となるように、奇数個ならば少なくとも一個(奇数個)を船体中心線Cに配置して他を船体中心線Cを挟んで両側に同数個ずつ線対称となるように配置する。なお、全て船体中心線C上に配置しても良い。いずれも、船体80の摩擦抵抗低減効果が左右両舷で同程度となり、操操舵が容易となるためである。
【0025】
気体吹き出し部1c(、1d)は右舷及び左舷の両舷に設けられている。右舷(−y側)の気体吹き出し部1c(、1d)は、右舷の船側の船体外板4に設けられ、右舷船側の水中へ空気を吹き出し可能である。左舷(+y側)の気体吹き出し部1c(、1d)は、左舷の船側の船体外板4に設けられ、左舷船側の水中へ空気を吹き出し可能である。右舷の船側気体吹き出し部1c(、1d)と左舷の船側気体吹き出し部1c(、1d)とは、船体中心線Cに対して対称となるように設けられることが好ましい。船体80の摩擦抵抗低減効果が左右両舷で同程度となり、操舵が容易となるためである。
【0026】
なお、図2A及び図2Bに示す気体吹き出し部1(、1a、1b、1e)、1c(、1d)の配置は、一例である。本発明はこの例に限定されるものではなく、気体吹き出し部は設置可能であれば船底や船側のどの位置に設けられていても良い。
【0027】
次に、本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法について説明する。この製造方法は、摩擦抵抗低減型船舶を新造船として新たに製造する場合ではなく、修繕船を改造して、新たに摩擦抵抗低減装置(例示:気体吹き出し装置60)を組み込んで、摩擦抵抗低減型船舶として製造する方法である。ただし、本実施の形態では、平坦な船体外板に気体吹き出し部を設ける場合について説明する。なお、新造船に対して本実施の形態を適用しても良い。
【0028】
以下では、平坦な船体外板の一例として、船底の船体外板3に気体吹き出し部を設ける場合について説明する。ただし、本発明はこの例に限定されるものではなく、平坦な船体外板であれば、他の箇所の船体外板であっても良い。図3A〜図3Eは、本発明の第1の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法の一例の各工程を示す模式図である。
【0029】
図3A及び図3Bに示すように、気体吹き出し部1を製作する。具体的には、まず、底板11と、気体供給チャンバ12と、部分配管13とを準備する。
【0030】
底板11は、後述される平坦な船体外板3の開口部3aとほぼ同じ形状を有する平坦な金属板である。開口部3aに嵌め、周辺を船体外板3と溶接等するためである。例えば矩形形状の金属板である。ただし、底板11は、開口部3aよりやや大きい形状としても良い。この場合、重なり部分を溶接、ボルト、リベット等の方法で結合する。底板11は、気体を吹き出すための複数の貫通孔である複数の気体吹き出し口14を有している。金属板は、船体外板3としての機能も有する必要があるため、船体外板3と同一材料且つ同一厚みの板で形成されることが好ましい。部分配管13は、配管56に結合するための配管である。
【0031】
気体供給チャンバ12は、例えば直方体形状の金属チャンバである。一つの面(以下、第1面ともいう)は部分配管13を結合するための貫通孔を有している。他の一つの面(以下、第2面ともいう)は底板11と結合するために開放(開口)されている(何もない)。又は底板11と同様の複数の貫通孔を有していても良い。あるいは底板11が大きな開口部を有し、第2面が当該大きな開口部に収まるような複数の小さな貫通孔を有しても良い。第2面の面積と、底板11における第2面に結合する面の面積とは概ね等しい。
【0032】
次に、部分配管13を気体供給チャンバ12の第1面の貫通孔に結合する。これにより、部分配管13を介して気体供給チャンバ12に気体が供給可能になる。また、底板11を気体供給チャンバ12の第2面に結合する。それにより、気体供給チャンバ12の第2面は、底板11で蓋をされたと見ることができる。以上により、図3Bに示すように、気体吹き出し部1が完成する。なお、気体吹き出し部1の製造方法は、この例に限定されるものではない。また、部分配管13はこの段階で無くても良い(後から結合しても良い)。この工程は、船舶90の状態に拘わらず、別途予め実行することが可能である。
【0033】
一方、図3Cに示すように、船体外板3に開口部3aを形成する。この開口部3aは、図3Bの気体吹き出し部1を挿入し、設置するための孔である。開口部3aの形状は、底板11とほぼ同じ形状を有する。ただし、開口部3aは、底板11よりやや小さい形状としても良い。この場合、重なり部分を溶接、ボルト、リベット等の方法で結合する。なお、気体吹き出し部1の製作と、船体外板3での開口部孔3aの形成とは、どちらを先に行っても良いし、同時進行で行っても良い。
【0034】
続いて、図3Dに示すように、気体吹き出し部1を、船体80の船外から船内に向かって、船体外板3の開口部3aに挿入する。そのとき、気体供給チャンバ12を船内側に向け、底板11を船外側に向けて挿入する。かつ、底板11の外側の表面と、船体外板3の外側の表面とが滑らかに(段差なく)つながる位置まで挿入する。それにより、底板11が開口部3aに殆ど隙間なくはまり込む。
【0035】
その後、図3Eに示すように、底板11を船体外板3に結合する。すなわち、船体外板3と底板11とが相対する部分18を溶接等の手段により結合する。このとき、底板11の外側の表面と船体外板3の外側の表面とが、同一面を形成するように結合する。なお、開口部3aが底板11よりやや小さい形状の場合、重なり部分を溶接、ボルト、リベット等の方法で結合すると共に、底板11と船体外板3の段差を滑らかにするように研磨等する。
【0036】
その後、船内において、気体供給部57及び配管56を設置する。配管56は、部分配管13に結合される。以上のようにして、摩擦抵抗低減船舶の製造方法が実施される。
【0037】
上記図3A〜図3Eで示される実施の形態では、修繕船のような既に内部構造が出来上がっている船舶において、予め外部で気体吹き出し部を製作し、船体外板に開口部を設け、船外からその気体吹き出し部を挿入し、船体80に設置している。すなわち、船外から気体吹き出し部1を導入するので、その組み込みが容易となる。また、気体吹き出し部は予め製作することができるので、船舶が到着して開口部を形成後に直ちに組み込みを行うことができ、工期を短期間にすることができる。
【0038】
次に、平坦な船体外板に気体吹き出し部を設ける場合における変形例について説明する。
図4Aは、気体吹き出し部の構成の変形例を示す模式図である。この変形例の気体吹き出し部1aは、気体供給チャンバ12aの形状が直方体形状ではなく、半円筒形状である点で図3A〜図3Eの気体吹き出し部1の場合と異なっている。本気体吹き出し部1aを用いた摩擦抵抗低減船舶の製造方法は、図3A〜図3Eの場合と同様である。
【0039】
更に、気体供給チャンバは、上述した各形状に限定されず、他の形状を有していても良い。また、気体供給チャンバは、その内部に気体の拡散を良くするための拡散板など、他の構成を含んでいても良い。気体供給チャンバは、(底板も含めて)既存のものを用いても良い。
【0040】
図4Bは、気体吹き出し部の構成の他の変形例を示す模式図である。この変形例の気体吹き出し部1bは、底板11aにおける気体供給チャンバ12を結合する面の面積が、気体供給チャンバ12の第2面(気体供給チャンバ12における底板11aと結合する面)の面積よりも大きい点で図3A〜図3Eの気体吹き出し部1の場合と異なっている。本気体吹き出し部1bを用いた摩擦抵抗低減船舶の製造方法は、図3A〜図3Eの場合と同様である。なお、図5には、気体吹き出し部1bの場合での図3Eに相当する工程を模式的に示す。
【0041】
気体吹き出し部の底板と船体外板の開口部とは、どちらの形状を先に決定(設計)しても良い。例えば、既存の気体供給チャンバを用いる場合や、気体供給チャンバの形状を先に決定(設計)した場合には、その形状に合わせた形状を有する開口部を形成する。一方、形成できる開口部の形状を先に決定(設計)した場合には、その形状に合わせた形状を有する気体供給チャンバを製作する。
【0042】
これら図4Aの場合や図4Bの場合やそれらと関連する他の場合にも、図3A〜図3Eの場合と同様の効果を得ることができる。
【0043】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成について説明する。
図2A及び図2Bは、本発明の第2の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成の一例を示す概略側面図及び概略底面図である。これらについては、第1の実施の形態と同様である。
【0044】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法について説明する。この製造方法は、摩擦抵抗低減型船舶を新造船として新たに製造する場合ではなく、修繕船を改造して、新たに摩擦抵抗低減装置(例示:気体吹き出し装置60)を組み込んで、摩擦抵抗低減型船舶として製造する方法である。ただし、本実施の形態では、曲面を有する船体外板に気体吹き出し部を設ける場合について説明する。なお、新造船に対して本実施の形態を適用しても良い。
【0045】
以下では、曲面を有する船体外板の一例として、船側の船体外板4に気体吹き出し部を設ける場合について説明する。ただし、本発明はこの例に限定されるものではなく、曲面を有する船体外板であれば、他の箇所の船体外板であっても良い。図6A〜図6Eは、本発明の第2の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の製造方法の他の例の各工程を示す模式図である。
【0046】
図6A及び図6Bに示すように、気体吹き出し部1cを製作する。具体的には、まず、底板21と、気体供給チャンバ22と、部分配管23とを準備する。
【0047】
底板21は、後述される曲面を有する船体外板4の開口部4aとほぼ同じ形状を有し、開口部4a形成前の船体外板4と同じ曲面を金属板である。開口部4aに嵌め、周辺を船体外板4と溶接等するためである。例えば矩形形状を有し、開口部4a形成前の船体外板4と同じ曲面を有する金属板である。この図の例では、外側に凹となる曲面である。ただし、底板21は、開口部4aよりやや大きい形状としても良い。この場合、重なり部分を溶接、ボルト、リベット等の方法で結合する。底板21は、気体を吹き出すための複数の貫通孔である複数の気体吹き出し口24を有している。金属板は、船体外板4としての機能も有する必要があるため、船体外板4と同一材料且つ同一厚みの板で形成されることが好ましい。部分配管13は、配管56に結合するための配管である。
【0048】
気体供給チャンバ22は、例えば直方体形状の金属チャンバである。一つの面(以下、第1面ともいう)は部分配管23を結合するための貫通孔を有している。他の一つの面(以下、第2面ともいう)は底板21と結合するために開放(開口)されている(何もない)。又は底板21と同様の複数の貫通孔を有していても良い。あるいは底板21が大きな開口部を有し、第2面が当該大きな開口部に収まるような複数の小さな貫通孔を有しても良い。加えて、第2面は、底板21の曲面に結合可能なように、その曲面に対応した変形がなされている。底板21における気体供給チャンバ22を結合する面の面積は、気体供給チャンバ22の第2面(気体供給チャンバ22における底板21と結合する面)の面積よりも大きい。
【0049】
次に、部分配管23を気体供給チャンバ22の第1面の貫通孔に結合する。これにより、部分配管23を介して気体供給チャンバ22に気体が供給可能になる。また、底板21を気体供給チャンバ22の第2面に結合する。それにより、気体供給チャンバ22の第2面は、底板21で蓋をされたと見ることができる。以上により、図6Bに示すように、気体吹き出し部1cが完成する。なお、気体吹き出し部1cの製造方法は、この例に限定されるものではない。また、部分配管23はこの段階で無くても良い(後から結合しても良い)。この工程は、船舶90の状態に拘わらず、別途予め実行することが可能である。
【0050】
一方、図6Cに示すように、船体外板4に開口部4aを形成する。この開口部4aは、図6Bの気体吹き出し部1cを挿入し、設置するための孔である。開口部4aの形状は、底板21とほぼ同じ形状を有する。ただし、開口部4aは、底板21よりやや小さい形状としても良い。この場合、重なり部分を溶接、ボルト、リベット等の方法で結合する。なお、気体吹き出し部1cの製作と、船体外板4での開口部孔4aの形成とは、どちらを先に行っても良いし、同時進行で行っても良い。
【0051】
続いて、図6Dに示すように、気体吹き出し部1cを、船体80の船外から船内に向かって、船体外板4の開口部4aに挿入する。そのとき、気体供給チャンバ22を船内側に向け、底板21を船外側に向けて挿入する。かつ、底板21の外側の表面と、船体外板4の外側の表面とが滑らかに(段差なく)つながる位置まで挿入する。それにより、底板21が開口部4aに殆ど隙間なくはまり込む。
【0052】
その後、図6Eに示すように、底板21を船体外板4に結合する。すなわち、船体外板4と底板21とが相対する部分27を溶接等の手段により結合する。このとき、底板21の外側の表面と船体外板4の外側の表面とが、同一面を形成するように結合する。且つ、底板21の外側の曲面が、開口部4aを形成する前の船体外板4の曲面と同じ曲面を有するように結合する。なお、開口部4aが底板21よりやや小さい形状の場合、重なり部分を溶接、ボルト、リベット等の方法で結合すると共に、底板21と船体外板4の段差を滑らかにするように研磨等する。
【0053】
その後、船内において、気体供給部57及び配管56を設置する。配管56は、部分配管13に結合される。以上のようにして、摩擦抵抗低減船舶の製造方法が実施される。
【0054】
上記図6A〜図6Eで示される実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0055】
次に、曲面を有する船体外板に気体吹き出し部を設ける場合における変形例について説明する。
図7は、気体吹き出し部の構成の変形例を示す模式図である。この変形例の気体吹き出し部1dは、底板21aが外側に凸となる曲面である点で図6A〜図6Eの気体吹き出し部1cの場合と異なっている。本気体吹き出し部1cを用いた摩擦抵抗低減船舶の製造方法は、図6A〜図6Eの場合と同様である。
【0056】
また、気体吹き出し部1の場合と同様に、底板21における気体供給チャンバ22を結合する面の面積は、気体供給チャンバ22の第2面(気体供給チャンバ22における底板21と結合する面)の面積と同じであっても良い。
【0057】
気体吹き出し部の底板と船体外板の開口部とは、どちらの形状を先に決定(設計)しても良いのは、気体吹き出し部1、1a、1bの場合と同様である。ただし、底板の曲面は、船体外板の曲面に基づいて決定(設計)される。
【0058】
これら図7の場合やそれらと関連する他の場合にも、図6A〜図6Eの場合と同様の効果を得ることができる。
【0059】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成について説明する。
図2A及び図2Bは、本発明の第3の実施の形態に係る摩擦抵抗低減型船舶の構成の一例を示す概略側面図及び概略底面図である。これらについては、第1の実施の形態と同様である。
【0060】
図8は、本発明の第3の実施の形態に係る気体吹き出し部の構成の示す模式図である。この気体吹き出し部1eは、図4Bの気体吹き出し部1bと比較して、気体供給チャンバ12を覆うように底板11aに結合したシーチェスト15を更に備えている点が異なっている。
【0061】
上記各気体吹き出し部は、船底の船体外板3に貫通孔である気体吹き出し口14を設けている。そのため、気体供給チャンバ12が船底とみなされる可能性がある。その場合、気体供給チャンバ12の材料、その厚み及び強度などが、船体外板3と比較して同等ではない場合、船底として公的に認められない場合がある。そのため、シーチェスト15の材料、その厚み及び強度などを、船体外板3と同等のものとすることにより、シーチェスト15を船底として公的に認められるようにする。そのとき、部分配管13については、フランジ部16を介してシーチェスト15から外に取り出し、他の部分配管17と接続する。それにより、他の部分配管17を配管56と接続する。本気体吹き出し部1eを用いた摩擦抵抗低減船舶の製造方法は、図3A〜図3Eの場合と同様である。
【0062】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、それに加えて、気体供給チャンバ12の材料等が船体外板3と同等ではない場合であっても、シーチェスト15の材料等を船体外板3と同等とすることにより、船底として公的に認められるように、摩擦抵抗低減船舶を製造することが可能となる。
【0063】
なお、上記各実施の形態は、気体吹き出し部(気体吹き出しチャンバ、気体吹き出し口)について説明している。しかし、上記各実施の形態の技術は、図示を省略するが、摩擦抵抗低減船に用いられる気体回収部(気体回収チャンバ)に対しても同様に適用可能である。ただし、気体回収部(気体回収チャンバ、気体回収口)は、気体吹き出し部から吹き出された気泡を回収する装置であり、気泡を回収する以外は基本的な構造は同じである。気体吹き出し部から吹き出された気泡が船尾のプロペラなどに悪影響を与えないように、主に船尾部の船底や船側に設けられている。その場合、既存船(修繕船)に気体吹き出し部及び気体回収部の両方を後付けする場合だけでなく、既に気体吹き出し部を有しているが、気体回収部を有していない場合にも適用可能である。
【0064】
本発明は上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施の形態は適宜変形又は変更され得ることは明らかである。また、各実施の形態の技術は、矛盾の発生しない限り他の実施の形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1、1a、1b、1c、1d、1e 気体吹き出し部
3 船体外板
3a 開口部
4 船体外板
4a 開口部
11、11a、21、21a 底板
12、12a、22 気体供給チャンバ
13、23、17 部分配管
14、24 気体吹き出し口
15 シーチェスト
16 フランジ部
18、18a、27 相対する部分
56 配管
57 気体供給装置
60 気体吹き出し装置
80 船体
90 摩擦抵抗低減型船舶
101 空気供給チャンバ
110 船体外板
111 空気吹き出し口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船体外板に開口部を形成する工程と、
気体吹き出し部を製作する工程と、
ただし、気体吹き出し部は、
気体供給チャンバと、
複数の気体吹き出し口を有し、前記気体供給チャンバと結合した底板と
を備え、
前記気体吹き出し部を前記開口部に挿入する工程と、
前記底板が前記船体外板と同一面を形成するように結合する工程と
を具備する
摩擦抵抗低減船舶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦抵抗低減船舶の製造方法において、
前記底板の面積は、前記気体供給チャンバの前記底板との結合面の面積よりも大きい
摩擦抵抗低減船舶の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の摩擦抵抗低減船舶の製造方法において、
前記底板は、前記開口部を形成する前の前記船体外板の曲面と同じ曲面を有する
摩擦抵抗低減船舶の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の摩擦抵抗低減船舶の製造方法において、
前記気体吹き出し部は、前記気体供給チャンバを覆うように前記底板に結合したシーチェストを更に備える
摩擦抵抗低減船舶の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の摩擦抵抗低減船舶の製造方法において、
前記シーチェストは、前記船体外板と同一材料且つ同一厚みの板で形成される
摩擦抵抗低減船舶の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の摩擦抵抗低減船舶の製造方法において、
前記船舶は修繕船である
摩擦抵抗低減船舶の製造方法。
【請求項7】
船舶の船体外板に開口部を形成する工程と、
気体回収部を製作する工程と、
ただし、前記気体回収部は、
気体回収チャンバと、
複数の気体回収口を有し、前記気体回収チャンバと結合した底板と
を備え、
前記気体回収部を前記開口部に挿入する工程と、
前記底板が前記船体外板と同一面を形成するように結合する工程と
を具備する
摩擦抵抗低減船舶の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−214061(P2012−214061A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78943(P2011−78943)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)