説明

摩擦材及びブレーキ装置の制輪子

【課題】入手が容易で安価な繊維基材によって摩擦係数を安定化させフェードやビルドアップの発生を抑えることができる摩擦材及びブレーキ装置の制輪子を提供する。
【解決手段】摩擦材4bは、繊維基材としてロックウール繊維及びアクリル繊維を含有し、結合剤としてシリコン変性フェノール樹脂を含有する。このため、現状の摩擦材とほぼ同一の摩擦係数を維持しつつ、耐熱性に優れたロックウール繊維やシリコン変性フェノール樹脂を使用することによって、フェードやビルドアップの発生を抑えることができる。また、比較的高価で入手が困難なアラミド繊維やセラミックス繊維に代えて、比較的安価で入手が容易なロックウール繊維やアクリル繊維を使用することによって、アラミド繊維やセラミックス繊維を含有する摩擦材とほぼ同一の摩擦係数を維持しつつ、安価に摩擦材4bを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被接触部と接触して摩擦力を発生させる摩擦材、及び制動力を発生させるブレーキ装置の制輪子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の摩擦材は、繊維基材としてアラミド繊維を含有し、結合剤としてフェノール樹脂を含有している(例えば、特許文献1参照)。このような従来の摩擦材は、アラミド繊維の特性によってブレーキパッドの強度を保持しつつブレーキ音の発生を抑制している。
【0003】
【特許文献1】特開2002-371266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の摩擦材は、繊維基材としてアラミド繊維を使用しているが、アラミド繊維は近年需要が増大しているため市場に安定して供給されておらず、入手が困難であり価格が高いという問題点がある。このため、アラミド繊維と同等の機能を有し、入手が容易で安価な代替の繊維基材が求められている。例えば、鉄道車両では、ディスクブレーキと制輪子との間の摩擦係数に合わせて車両が製造されている。このため、鉄道車両のブレーキ装置では、アラミド繊維を含有する摩擦材が制輪子に使用されている場合に、アラミド繊維の代替物として他の繊維基材に変更したときには、制輪子を変更する前の摩擦係数と制輪子を変更した後の摩擦係数とがほぼ同一であることが望ましい。また、鉄道車両のブレーキ装置では、ブレーキ作動時に発生する熱によって摩擦係数が急激に低下する現象(以下、フェードという)や、停止直前に摩擦係数が急激に上昇する現象(以下、ビルドアップという)などが問題となる。このため、アラミド繊維の代替物として他の繊維基材に変更したときには、フェードやビルドアップの発生を抑える必要がある。
【0005】
この発明の課題は、入手が容易で安価な繊維基材によって摩擦係数を安定化させフェードやビルドアップの発生を抑えることができる摩擦材及びブレーキ装置の制輪子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、被接触部(3a)と接触して摩擦力を発生させる摩擦材であって、繊維基材としてロックウール繊維を含有し、結合剤としてシリコン変性フェノール樹脂を含有することを特徴とする摩擦材(4b)である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の摩擦材において、前記ロックウール繊維の配合量が2〜3mass%であることを特徴とする摩擦材である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の摩擦材において、前記繊維基材としてアクリル繊維を含有することを特徴とする摩擦材である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3に記載の摩擦材において、前記アクリル繊維の配合量が4〜6mass%であることを特徴とする摩擦材である。
【0010】
請求項5の発明は、制動力を作用させるブレーキ装置(2)の制輪子であって、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の摩擦材(4b)を備えることを特徴とするブレーキ装置の制輪子(4)である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によると、入手が容易で安価な繊維基材によって摩擦係数を安定化させフェードやビルドアップの発生を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、この発明の実施形態に係る摩擦材が使用されるブレーキ装置の模式図であり、図1(A)は非制動時の状態を示す模式図であり、図1(B)は制動時の状態を示す模式図である。
図1に示す車軸1は、車両の車輪を取り付ける部材であり、図示しないレール上を転がり接触する車輪が両端部にそれぞれ取り付けられており、これらの車輪と一体となって回転する。
【0013】
ブレーキ装置2は、制動力を作用させる装置であり、ブレーキディスク3と制輪子4などを備えている。ブレーキ装置2は、ブレーキディスク3の摩擦面(摺動面)3aに発生する摩擦力によって制動させるディスクブレーキ装置であり、図示しないブレーキシリンダが発生する駆動力を制輪子4に伝達して摩擦面3aに制輪子4を圧着させブレーキ力を発生させる。図1に示すブレーキ装置2は、車軸1にブレーキディスク3が取り付けられた軸ディスク式のディスクブレーキ装置であり、例えば在来線の付随車(T車)などに使用されている。
【0014】
ブレーキディスク3は、制動時(ブレーキ時)に制輪子4が摩擦面3aに押し付けられる部材であり、車軸1の左右の車輪寄りにそれぞれ固定されており、車軸1と一体となって回転する円板状の摩擦材である。ブレーキディスク3の材質は、例えば、熱伝導性及び耐摩耗性から鋳鉄、鋳鋼又は鍛鋼などである。ブレーキディスク3は、摩擦面3aを備えており、この摩擦面3aは制輪子4と接触するブレーキ面でありブレーキディスク3の両面に形成されている。
【0015】
制輪子4は、ブレーキディスク3の摩擦面3aに押し付けられてブレーキ力を発生する部材であり、取付部4aと摩擦材(摩擦部材)4bなどを備えている。制輪子4は、図1に示すように、ブレーキディスク3を挟み込むように対向して一対配置されており、合成樹脂(レジン)を主体として成形された合成制輪子(レジン制輪子)である。取付部4aは、摩擦材4bを取り付ける部材であり、ブレーキシリンダが発生する駆動力によって摩擦材4bと一体となって往復移動する。取付部4aは、摩擦材4bの裏面と密着して支持可能なように板状に形成された金属製の裏金(裏板)である。
【0016】
摩擦材4bは、ブレーキディスク3の摩擦面3aと接触して摩擦力を発生させる部材であり、ブレーキディスク3の摩擦面3aに押し付けられてブレーキ力を発生するブレーキライニング(表張り)である。摩擦材4bは、ブレーキディスク3の摩擦面3aと対向する側の取付部4aの表面に固定されており、ブレーキシリンダが発生する駆動力によって摩擦面3aと接触及び離間する。図1に示す摩擦材4bは、繊維基材、結合剤及び摩擦調整剤などを含有する複合摩擦材(レジンブロック)である。摩擦材4bは、摩擦係数の速度特性を材料の組成によって調整可能であるとともに、降雪時や降雨時の湿潤条件にも対応可能であり、摩耗が少なく軽量であるため在来線の電車の制輪子などに使用される。
【0017】
繊維基材としては、ロックウール繊維、アクリル繊維、アルミナ繊維、カーボン繊維、スチール繊維、アラミド繊維、セラミックス繊維、チタン酸カリウム又はこれらの2種以上の混合物などであり、コストの低減を考慮する場合には入手が容易で安価なロックウール繊維及びアクリル繊維が好ましく、作業安全性を考慮する場合には生体溶解性ロックウール繊維が特に好ましい。ロックウール繊維の配合量は、2mass%を下回るとコスト低減効果が小さくなり、3mass%を超えると摩擦係数が安定化しないおそれがあるとともにフェード及びビルドアップが発生するおそれがあるため、2〜3mass%であることが好ましい。アクリル繊維の配合量は、4mass%を下回ると強度が低下するおそれがあり、6mass%を超えると他の材料とのバランスをとることが困難となるため4〜6mass%であることが望ましい。
【0018】
結合剤としては、シリコン変性フェノール樹脂、フェノール樹脂、ゴム又はこれらの2種以上の混合物などであり、耐熱性に優れたシリコン変性フェノール樹脂が好ましい。シリコン変性フェノール樹脂の配合量は、5mass%程度が好ましく、ゴムの配合量は10mass%程度が好ましい。ゴムとしては、ニトリルゴム又はアクリルゴムなどが好ましく、耐熱性及び耐摩耗性に優れ比較的安価なニトリルゴムが特に好ましい。
【0019】
摩擦調整剤としては、鉄粉、カシューダスト、黒鉛又はこれらの2種以上の混合物などが好ましい。鉄粉の配合量は、20mass%程度が好ましく、カシューダストの配合量は12mass%程度が好ましく、黒鉛の配合量は23mass%程度が好ましい。
【0020】
次に、この発明の実施形態に係る摩擦材の製造方法について説明する。
先ず、繊維基材、結合剤及び摩擦調整剤などを混練機によって均一に混合して混合物が生成される。次に、この混合物を所定の形状に成型するために、この混合物を成形金型に投入して加圧しながら加熱し、所定の形状の成型物が生成される。最後に、この成型物を熱処理することによって摩擦材4bが生成される。
【0021】
この発明の実施形態に係る摩擦材には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、繊維基材としてロックウール繊維を摩擦材4bが含有し、結合剤としてシリコン変性フェノール樹脂を摩擦材4bが含有する。また、この実施形態では、繊維基材としてアクリル繊維を摩擦材4bが含有する。このため、耐熱性に優れたロックウール繊維やシリコン変性フェノール樹脂を使用することによって、現状の鉄道車両のディスクブレーキ装置に使用される摩擦材とほぼ同一の摩擦係数を維持しつつ、フェードやビルドアップの発生を抑えることができる。また、比較的高価で入手が困難なアラミド繊維やセラミックス繊維に代えて、比較的安価で入手が容易なロックウール繊維やアクリル繊維を使用することによって、アラミド繊維やセラミックス繊維を含有する摩擦材とほぼ同一の摩擦係数を維持しつつ、安価に摩擦材4bを製造することができる。さらに、耐熱性に優れるセラミックス繊維の配合量を少なくしロックウール繊維の配合量を高くしたときに、耐熱性に優れ比較的安価なシリコン変性フェノールを使用することによって、摩擦材の耐熱性が低下するのを防ぐことができる。
【0022】
(2) この実施形態では、制動力を作用させるブレーキ装置2の制輪子4が摩擦材4bを備えている。このため、現状の鉄道車両のディスクブレーキと制輪子との間の摩擦係数にほぼ合致した制輪子4に交換することができる。このため、車両の基本構造を変更せずに、現状の高価な制輪子を安価な制輪子4に置き換えて、フェードやビルドアップの発生を抑えることができる。
【実施例】
【0023】
次に、この発明の実施例について説明する。
(試料)
摩擦材の摩擦係数とフェード及びビルドアップの発生とを確認するために、ブレーキライニングの試料(試験片)を複数作製し、これらの試料をブレーキ試験によって評価した。ブレーキ試験に使用した試料を以下の表1に示す。表1に示す試料A〜Fは、摩擦調整剤の組成及び配合量が全て同じである。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示す試料Aは、繊維基材としてアクリル繊維を5mass%、ロックウール繊維を10mass%、チタン酸カリウムを15mass%含有し、結合材としてフェノール樹脂を5mass%、ニトリルゴムを10mass%含有し、摩擦調整剤として鉄粉を20mass%、カシューダストを12mass%、黒鉛を23mass%含有する。
【0026】
試料Bは、繊維基材としてアクリル繊維を5mass%、ロックウール繊維を4mass%、セラミックス繊維を6mass%、チタン酸カリウムを15mass%含有し、結合材としてフェノール樹脂を5mass%、ニトリルゴムを10mass%含有し、摩擦調整剤として鉄粉を20mass%、カシューダストを12mass%、黒鉛を23mass%含有する。試料Bは、繊維基材の組成のみが試料Aとは異なり、セラミックス繊維を6mass%含有し、試料Aよりもロックウール繊維の配合量が6mass%少ない。
【0027】
試料Cは、繊維基材としてアクリル繊維を5mass%、ロックウール繊維を3mass%、セラミックス繊維を7mass%、チタン酸カリウムを15mass%含有し、結合材としてシリコン変性フェノール樹脂を5mass%、ニトリルゴムを10mass%含有し、摩擦調整剤として鉄粉を20mass%、カシューダストを12mass%、黒鉛を23mass%含有する。試料Cは、繊維基材の組成が試料Bと同じであるが配合量が試料Bとは異なり、ロックウール繊維の配合量が1mass%少なく、セラミックス繊維の配合量が1mass%多い。また、試料Cは、結合剤の組成の一部が試料A,Bとは異なり、試料A,Bのフェノール樹脂をシリコン変性フェノール樹脂に置き換えている。
【0028】
試料Dは、繊維基材としてアクリル繊維を5mass%、ロックウール繊維を2mass%、セラミックス繊維を8mass%、チタン酸カリウムを15mass%含有し、結合材としてシリコン変性フェノール樹脂を5mass%、ニトリルゴムを10mass%含有し、摩擦調整剤として鉄粉を20mass%、カシューダストを12mass%、黒鉛を23mass%含有する。試料Dは、繊維機材の組成が試料Cと同じであり、結合剤の組成及び配合量も試料Cと同じであるが、繊維基材の配合量が試料Cとは異なり、試料Cよりもロックウール繊維の配合量が1mass%少なく、セラミックス繊維の配合量が1mass%多い。
【0029】
試料Eは、繊維基材としてアクリル繊維を5mass%、セラミックス繊維を10mass%、チタン酸カリウムを15mass%含有し、結合材としてフェノール樹脂を5mass%、ニトリルゴムを10mass%含有し、摩擦調整剤として鉄粉を20mass%、カシューダストを12mass%、黒鉛を23mass%含有する。試料Eは、結合剤の組成及び配合量が試料A,Bと同じであるが、繊維基材の組成が試料A〜Dとは異なり、試料A〜Dのロックウール繊維をセラミックス繊維に置き換えている。
【0030】
試料Fは、繊維基材としてアラミド繊維を5mass%、セラミックス繊維を10mass%、チタン酸カリウムを15mass%含有し、結合材としてフェノール樹脂を5mass%、ニトリルゴムを10mass%含有し、摩擦調整剤として鉄粉を20mass%、カシューダストを12mass%、黒鉛を23mass%含有する。試料Fは、繊維基材の組成が試料Eとは異なり、試料Eのアクリル繊維をアラミド繊維に置き換えている。試料Fは、鉄道車両のディスクブレーキ装置の制輪子に現在使用されている摩擦材(現行品)である。
【0031】
(試料の製造方法)
表1に示す繊維基材、結合剤及び摩擦調整剤を計量して混練機によって均一に混合した後に、各混合物を成型金型に投入し、加圧圧力20MPa、温度130℃で25分間成型した。その後、さらに150℃で7時間熱処理して所定の形状に切削加工し試料A〜Fのブレーキライニングを得た。
【0032】
(ブレーキ試験)
表1に示す試料A〜Fを実物大ブレーキ試験機によって以下の試験条件及びすり合わせ条件で試験を実施し、各試料A〜Fの摩擦係数を測定項目として測定した。試験条件は、ブレーキディスクに鋳鉄材(NCM)を使用し、慣性モーメントを1270.0kg・m2、ブレーキ初速度を95km/h,125km/h、ブレーキ押付け力を25kN、ブレーキ回数を2通りのブレーキ初速度の組み合わせで各5回、ブレーキ開始時のブレーキディスク温度を60℃とした。すり合わせ条件は、ブレーキディスクに鋳鉄材(NCM)を使用し、慣性モーメントを1270.0kg・m2、ブレーキ初速度を65km/h、ブレーキ押付け力を15kN、ブレーキ回数を100回、ブレーキ開始温度を60℃とした。ここで、ブレーキ初速度とは、ブレーキ動作開始時の車両換算速度であり、すり合わせ条件とは摩擦係数を安定化させるために、ブレーキディスクの摩擦面と試料A〜Fの摩擦面とを予め接触させるときの条件である。
【0033】
(評価方法)
ブレーキ試験の結果から試料A〜Fの摩擦係数、フェード及びビルドアップを評価した。表1に示す「摩擦係数」は、初速度125km/hからブレーキ押付け力25kNでブレーキをかけたときに、ブレーキディスクが停止するまでの平均摩擦係数である。表1に示す評価の「○」は、摩擦係数が0.44〜0.46の場合であり、「△」は0.42〜0.44又は0.46〜0.48の場合であり、「×」はそれ以外の場合である。
【0034】
表1に示す「フェード」は、ブレーキ初速度125km/hからブレーキ押付け力25kNでブレーキをかけたときに、瞬間摩擦係数の最大値(最大瞬間摩擦係数)とこの瞬間摩擦係数が最大値になった後の瞬間摩擦係数の最小値(最小瞬間摩擦係数)とを求め、これらの最大値と最小値との差である。このため、瞬間摩擦係数に変動がなくフラットなときには最大値と最小値との差はゼロになり、瞬間摩擦係数が速度低下にしたがって上昇する場合にはフェードは「なし」と評価される。表1に示す評価の「○」は、0.02未満の場合であり、「△」は0.02〜0.03の場合であり、「×」は0.03以上の場合である。
【0035】
表1に示す「ビルドアップ」は、ブレーキ押付け力25kNでブレーキ初速度95km/hからブレーキをかけたときに、速度が30km/hになった時の瞬間摩擦係数と停止直前の瞬間摩擦係数との差である。表1に示す評価の「○」は、0〜0.05の場合であり、「△」は0.05〜0.1の場合であり、「×」は0.1以上の場合である。
【0036】
(評価結果)
図2は、フェードの測定結果を一例として示すグラフであり、図2(A)は試料Aの測定結果を示すグラフであり、図2(B)は試料Cの測定結果を示すグラフであり、図2(C)は試料Aの測定結果と試料Cの測定結果とを重ね合わせて示すグラフであり、図2(D)は試料Fの測定結果を示すグラフである。図3は、ビルドアップの測定結果を一例として示すグラフであり、図3(A)は試料Aの測定結果を示すグラフであり、図3(B)は試料Cの測定結果を示すグラフであり、図3(C)は試料Aの測定結果と試料Cの測定結果とを重ね合わせて示すグラフであり、図3(D)は試料Fの測定結果を示すグラフである。
図2及び図3に示すグラフは、速度と瞬間摩擦係数との関係を示し、縦軸は瞬間摩擦係数であり、横軸は速度である。図2及び図3に示す実線は、試料C,Fの測定結果であり、鎖線は試料Aの測定結果である。
【0037】
試料F(現行品)は、表1に示すように、摩擦係数、フェード及びビルドアップのいずれについても良好であり、図2(D)に示すようにフェードが見られず摩擦係数も安定しており、図3(D)に示すようにビルドアップも見られないことが確認された。
【0038】
試料Eは、表1に示すように、試料Fと同様に摩擦係数、フェード及びビルドアップのいずれについても良好である。試料Eは、試料Fと繊維基材の組成のみが異なるが測定結果はいずれも良好であるため、繊維基材のアラミド繊維をアクリル繊維に置き換え可能であることが確認された。
【0039】
試料Aは、表1に示すように、試料E,Fに比べて摩擦係数が高く、図2(A)に示すようにフェードによって低速域で瞬間摩擦係数が低下しており、図3(A)に示すようにビルドアップによって停止直前に摩擦係数が急激に上昇していることが確認された。試料Aは、試料E,Fとは繊維基材の組成のみが異なり、試料E,Fのアラミド繊維及びセラミックス繊維をアクリル繊維及びロックウール繊維に置き換えたものである。その結果、繊維基材からアラミド繊維及びセラミックス繊維を除き、ロックウール繊維を配合すると、摩擦係数が高くなるとともにフェード及びビルドアップが発生することが確認された。
【0040】
試料Bは、表1に示すように、フェード及びビルドアップのいずれについても良好であるが、試料A,E,Fに比べて摩擦係数が低い。試料Bは、繊維基材の組成及び配合量が異なり、試料Aのロックウール繊維の配合量を少なくする代わりにセラミックス繊維を配合している。その結果、試料Aに比べてロックウール繊維の配合量を少なくしてセラミックス繊維の配合量を多くすることによって、摩擦係数は低下するがフェード及びビルドアップを改善可能であることが確認された。
【0041】
試料Cは、表1に示すように、摩擦係数、フェード及びビルドアップのいずれについても良好であり、図2(B)(C)に示すようにフェードが見られず摩擦係数も安定しており、図3(B)(C)に示すようにビルドアップも見られないことが確認された。試料Cは、アクリル繊維の配合量が試料A,B,Eと同じであるが、試料Bに比べてロックウール繊維の配合量を少なくする代わりにセラミックス繊維の配合量を多くし、試料Bのフェノール樹脂をシリコン変性フェノール樹脂に置き換えたものである。その結果、試料Bのようにアクリル繊維とロックウール繊維とを配合したときには、結合材をフェノール樹脂からシリコン変性フェノール樹脂に変更することによって、試料F(現行品)とほぼ同等の摩擦係数が得られ、フェード及びビルドアップが良好になることが確認された。
【0042】
試料Dは、表1に示すように、試料Cと同様に摩擦係数、フェード及びビルドアップのいずれについても良好であった。試料Dは、ロックウール繊維の配合量とセラミックス繊維の配合量とが試料Cとは異なり、試料Cに比べてセラミックス繊維の配合量が多くロックウール繊維の配合量が少ない。その結果、ある数値範囲内でロックウール繊維の配合量を調整すると、摩擦係数、フェード及びビルドアップのいずれについても良好になることが確認された。
【0043】
以上の測定結果より、現行品のアラミド繊維及びセラミックス繊維をアクリル繊維及びロックウール繊維に代替可能であることが確認された。また、アクリル繊維の配合量は、5mass%程度であることが好ましく、ロックウール繊維の配合量は2〜3mass%程度であることが好ましく、シリコン変性フェノール樹脂の配合量は5mass%程度であることが好ましいことが確認された。その結果、アクリル繊維、ロックウール繊維及びシリコン変性フェノール樹脂の配合量をある一定の比率にすることによって、摩擦係数が安定化しフェード及びビルドアップが抑えられることが確認された。
【0044】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
この実施形態では、鉄道車両のディスクブレーキ装置を例に挙げて説明したが、自動車、自動二輪車又は自転車などのディスクブレーキ装置についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、ブレーキ装置2としてディスクブレーキ装置を例に挙げて説明したが、車輪踏面に制輪子を押し付けてこの車輪踏面に発生する摩擦力によって制動させる踏面ブレーキ装置についても、この発明を適用することができる。例えば、車輪踏面と制輪子との間の隙間がなくなる程度の弱い圧力をこれらの摩擦面に作用させて、降雪時や低温時にこの隙間に雪や氷が堆積するのを防止する耐雪ブレーキの制輪子に使用することもできる。さらに、この実施形態では、ブレーキ装置2の摩擦材4bを例に挙げて説明したが、駆動側から被駆動側に動力を伝達するクラッチ装置の摩擦材についても、この発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の実施形態に係る摩擦材が使用されるブレーキ装置の模式図であり、(A)は非制動時の状態を示す模式図であり、(B)は青銅時の状態を示す模式図である。
【図2】フェードの測定結果を一例として示すグラフであり、(A)は試料Aの測定結果を示すグラフであり、(B)は試料Cの測定結果を示すグラフであり、(C)は試料Aの測位結果と試料Cの測定結果とを重ね合わせて示すグラフであり、(D)は試料Fの測定結果を示すグラフである。
【図3】ビルドアップの測定結果を一例として示すグラフであり、(A)は試料Aの測定結果を示すグラフであり、(B)は試料Cの測定結果を示すグラフであり、(C)は試料Aの測定結果と試料Cの測定結果とを重ね合わせて示すグラフであり、(D)は試料Fの測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1 車軸
2 ブレーキ装置
3 ブレーキディスク
3a 摩擦面(被接触面)
4 制輪子
4a 取付部
4b 摩擦材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接触部と接触して摩擦力を発生させる摩擦材であって、
繊維基材としてロックウール繊維を含有し、
結合剤としてシリコン変性フェノール樹脂を含有すること、
を特徴とする摩擦材。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦材において、
前記ロックウール繊維の配合量が2〜3mass%であること、
を特徴とする摩擦材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の摩擦材において、
前記繊維基材としてアクリル繊維を含有すること、
を特徴とする摩擦材。
【請求項4】
請求項3に記載の摩擦材において、
前記アクリル繊維の配合量が4〜6mass%であること、
を特徴とする摩擦材。
【請求項5】
制動力を作用させるブレーキ装置の制輪子であって、
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の摩擦材を備えること、
を特徴とするブレーキ装置の制輪子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−13238(P2009−13238A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174693(P2007−174693)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】