説明

摺動ケーブルおよびコントロールケーブル

【課題】潤滑剤を良好に保持でき、且つ摺動抵抗を減少可能な摺動ケーブルを提供する。
【解決手段】摺動ケーブル12は、ケーブル本体20と、網目状構造体22と、を備える。ケーブル本体20は、複数の鋼線20aを撚り合わせて形成される。網目状構造体22は、ケーブル本体20の表面に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル、特に、ケーシング等の内側を摺動する摺動ケーブル、および摺動ケーブルを備えるコントロールケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
自転車等の運輸機器には、部品を動作させるために摺動ケーブルが用いられる。摺動ケーブルは、ケーシング内を移動する。従来の摺動ケーブルとして、鋼線を撚り合わせて形成されたケーブル本体の表面に凸部を設けられたものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。従来の摺動ケーブルは、ケーブル本体と、ケーブル本体の外周に軸方向に真っ直ぐ延びる凸部を有する合成樹脂製の外層と、を有する。このような凸部が摺動方向に沿って延びている外層を設けることにより、摺動抵抗を減少させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−19732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の摺動ケーブルでは、摺動抵抗を減少させることができる。しかし、ケーブル本体の内部にグリース等の潤滑剤を配すると、配された潤滑剤が外層内で軸方向に移動するおそれがある。このため、潤滑剤を良好に保持できない。潤滑剤がなくなると摺動抵抗が増加するおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、潤滑剤を良好に保持でき、且つ摺動抵抗を減少可能な摺動ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る摺動ケーブルは、ケーブル本体と、網目状構造体と、を備える。ケーブル本体は、複数の鋼線を撚り合わせて形成される。網目状構造体は、ケーブル本体の表面に配置される。
【0007】
この摺動ケーブルでは、ケーブル本体の表面に網目状構造体が配置されるので、網目状構造体の網目により、ケーブル本体の表面に周囲が閉ざされた空間が形成される。このため、摺動ケーブルに潤滑剤を配した場合、網目状構造体の網目に潤滑剤を良好に保持できる。また、網目状構造体の網目がケーブル本体の表面から突出する凸部になるため、ケーシング等の被摺動部材との接触面積が効率的に減少し、摺動抵抗が少なくなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ケーブル本体の表面に網目状構造体が配置されるので、網目状構造体の網目により、ケーブル本体の表面に周囲が閉ざされた空間が形成される。このため、摺動ケーブルに潤滑剤を配した場合、網目状構造体の網目に潤滑剤を良好に保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態を採用したコントロールケーブルの斜視部分図。
【図2】コントロールケーブルの断面図。
【図3】本発明の一実施形態による摺動ケーブルの斜視部分図。
【図4】網目状構造体の網目の交差部分の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1および図2において、本発明の一実施形態を採用した摺動ケーブルは、たとえば、自転車の制動装置、変速装置、サスペンション装置などの動作装置をコントロールするためのコントロールケーブル10に用いられる。コントロールケーブル10は、摺動ケーブル12と、アウターケーシング14と、を有する。
【0011】
摺動ケーブル12は、図2および図3に示すように、複数の鋼線20aを撚り合わせて形成されたケーブル本体20と、ケーブル本体20の表面に配置される網目状構造体22と、を備える。ケーブル本体20は、この実施形態では、中心に1本、その外周側に6本、さらにその外周側に12本の合計19本の鋼線20aを撚り合わせてケーブル本体20が形成される。最外周の鋼線20aは、外周面がダイス等の工具を用いて、表面が円の一部を構成する円弧状に引き抜き加工される。ケーブル本体20の各鋼線20aの周囲には、たとえば塗布または吹き付け等の作業により潤滑剤が配される。潤滑剤は、たとえばシリコン系または油脂系のグリースである。
【0012】
網目状構造体22は、低摩擦係数の複数本の糸22aから構成される。網目状構造体22は、ケーブル本体20の外表面に熱融着している。網目状構造体22は、筒状に形成され、ケーブル本体20の全周を覆うように配置される。網目状構造体22の網目22bを構成する各糸22aは、ケーブル本体20の周方向に対して交差して配置される。したがって、網目22bの形状は菱形または平行四辺形の形状である。これにより、アウターケーシング14との間に摺動方向に対して直交ではなく斜めの網目22bを有する網目状構造体22が配置される。このため、さらに摺動抵抗が小さくなり、摺動効率が向上する。
【0013】
また、図2および図3では網目22bの交差部分を正確には描いていないが、図4に示すように、網目22bの交差部分22cでは、一方の糸22aが他方の糸22aに重なって配置される。なお、交差部分22cでは糸22aは、僅かに扁平している。この交差部分22cは他方の糸を乗り換えているため、交差部分22cで径方向外側に突出する。この突出した交差部分22cが凸部となり、アウターケーシング14に接触する。この交差部分22cは、網目状構造体22の一部であるため、ケーブル本体20の外周面において、凸部が周方向および軸方向に概ね均等に配置される。このように、網目22bの交差部分22cにおいて、一方の糸22aが他方の糸22aに重なって配置することにより、アウターケーシング14との接触面積を更に減少させることが可能となり、摺動抵抗をより小さくすることができる。
【0014】
また、一方の糸22aが他方の糸22aをおさえるように構成されているため、網目状構造体22の一部が切断されても、網目状構造体22が容易にケーブル本体20から剥がれることを防止できる。
【0015】
網目状構造体22は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフロオロアルコシキフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン重合体(PEP)、からなる群のいずれかにより製造される。この実施形態では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の糸22aにより製造される。ここでは、硬質で摺動性が良好なフッ素樹脂を用いるので、摺動抵抗を効率的に小さくすることができる。
【0016】
網目状構造体22の網目の間からはケーブル本体20の表面が露出する。また、図2に示すように、ケーブル本体20の鋼線20aには、潤滑剤24が配されてもよい。この場合、潤滑剤24は、網目状構造体22の網目の間に配される。このため、摺動ケーブル12がアウターケーシング14内を移動しても、潤滑剤24がケーブル本体20に保持されやすくなる。更には、網目状構造体22の網目の間に配された潤滑剤24は複数の鋼線20a間に含侵され、鋼線20a間の摩擦抵抗を減少させることが可能となる。
【0017】
網目状構造体22は、以下のようにして製造される。
たとえば、複数本の低摩擦係数の糸を交差するスパイラル状にケーブル本体20に等間隔に巻き付ける。このとき、一方の糸が他方の糸に乗り上げる。この状態でケーブル本体20を加熱して網目状構造体22の交差部分22cを接合し、かつ鋼線20aに糸22aを接着させる。接着方法としては鋼線20aに予め接着剤等を塗布し糸22aと接着させる、あるいは糸22aの融点以上に加熱して接着することも含まれる。
【0018】
アウターケーシング14は、図1および図2に示すように、網目状構造体22が配置されるケーブル本体20を摺動可能に収容する。アウターケーシング14は、合成樹脂製の外殻部材14aと、鋼線を編んだ筒状の可撓性を有する補強部材14bと、合成樹脂製のガイド部材14cと、を有する。
【0019】
このような構成の摺動ケーブル12では、ケーブル本体20の表面に網目状構造体22が配置されるので、網目状構造体22の網目22bにより、ケーブル本体20の表面に周囲が閉ざされた空間が形成される。このため、摺動ケーブル12に潤滑剤を配した場合、網目状構造体22の網目22bに潤滑剤を良好に保持できる。
【0020】
また、網目状構造体22の網目22bがケーブル本体20の表面から突出する凸部になるため、ケーシング等の被摺動部材との接触面積が効率的に減少し、摺動抵抗が少なくなる。この凸部は網目に関連して設けられるため、ケーブル本体20の表面に偏在することなく均一に分散して配置可能になる。
【0021】
また、網目22bの交差部分22cにおいて、一方の糸22aが他方の糸22aに重なっている構造とすることで、交差部分22cが更に突出する凸部となる。この網目22bの交差部分22cに形成される凸部も網目に関連して形成されるため、ケーブル本体20の表面に偏在することなく配置される。このため、アウターケーシング14との接触面積が効率的に減少し、摺動抵抗が少なくなる。
【0022】
さらに網目状構造体22の網目22bに配された潤滑剤24が網目22bの周囲に位置する糸22aによって保持され拡散しにくい。
【0023】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0024】
(a)前記実施形態では、自転車のコントロールケーブルに用いられる摺動ケーブルを例に本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、自動車および自動二輪車、航空機等の運輸機器に使用される摺動ケーブルおよび一般の機械装置に使用される摺動ケーブルにも本発明を適用できる。
【0025】
(b)前記実施形態では、網目状構造体に使用する糸の材質として、フッ素系樹脂を開示したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、繊維強化樹脂等の低摩擦係数の摺動性能が良好な合成樹脂製であってもよい。
【0026】
(c)前記実施形態では、網目状構造体22の網目22bをケーブル本体20の表面に対して斜めに配置したが、本発明はこれに限定されず、網目を構成する糸の配置は、任意に設定できる。
【0027】
(d)前記実施形態では、一方の糸を他方の糸を乗り越えるように配置したが、本発明はこれに限定されない。2つの糸を溶着して交差するように配置してもよい。
【符号の説明】
【0028】
10 コントロールケーブル
12 摺動ケーブル
14 アウターケーシング
14a 外殻部材
14b ガイド部材
20 ケーブル本体
20a 鋼線
22 網目状構造体
22a 糸
22b 網目
22c 交差部分(凸部の一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼線を撚り合わせて形成されたケーブル本体と、
前記ケーブル本体の表面に配置される網目状構造体と、
備える摺動ケーブル。
【請求項2】
前記網目状構造体の糸は、
前記網目の2本の糸が交差する部分で一方の糸は他方の糸に重なるように配置される、請求項1に記載の摺動ケーブル。
【請求項3】
前記ケーブル本体の表面は、前記網目状構造体の網目から露出する、請求項1または2に記載の摺動ケーブル。
【請求項4】
前記ケーブル本体の前記鋼線には潤滑剤が配される、請求項3に記載の摺動ケーブル。
【請求項5】
前記鋼線と前記網目状構造体は、接着している、請求項1から4のいずれか1項に記載の摺動ケーブル。
【請求項6】
前記網目状構造体は、低摩擦係数の複数本の糸から構成される、請求項1から5のいずれか1項に記載の摺動ケーブル。
【請求項7】
前記網目状構造体は、筒状に形成され、前記ケーブル本体の全周を覆うように配置される、請求項1から6のいずれか1項に記載の摺動ケーブル。
【請求項8】
前記網目状構造体は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフロオロアルコシキフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン重合体(PEP)、からなる群のいずれかにより製造される、請求項1から7のいずれか1項に記載の摺動ケーブル。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の摺動ケーブルと、
前記摺動ケーブルを被覆するアウターケーシングと、
を備える自転車に用いられるコントロールケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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