説明

摺動性樹脂材料、摺動性樹脂ペレット、摺動性樹脂成形体及びチューブ状摺動性樹脂成形体

【課題】フッ素樹脂よりも低い動摩擦抵抗値を有する摺動性樹脂材料とこれらの樹脂を成形して得られる摺動性樹脂成形体、特に摺動性樹脂材料を用いた医療用具用チューブを提供すること。
【解決手段】
粘度平均分子量が10万以上〜1000万以下のオレフィン系樹脂30〜90重量部およびフッ素樹脂10〜70重量部の合計量100重量部に対して、0.1〜20重量部の潤滑性助剤からなる摺動性樹脂材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超高分子量ポリマー及びフッ素樹脂を主成分とし、シリコーンオイル又はパラフィン系炭化水素化合物等の潤滑性助剤を溶融混練してなる摺動性樹脂材料及びこれ用いた成形体に関する。詳しくは前記摺動性樹脂材料を用い、チューブ状に押出成形した動摩擦抵抗値の低いチューブ状成形体に関する。より詳しくは、医療器具に使用される医療用具用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用具用チューブを用いた医療器具の代表的なものは、カテーテルが挙げられ、現在、多くの種類のカテーテルが使用されている。カテーテルは人体の腔、管、血管等に挿入する中空状の医療器具であり、治療において液体の注入、吸入、通路の確保等に用いられ通常は内径0.1〜10mm程度の細い医療用具用チューブが使用されている。これらのカテーテルは、診断や治療等の様々な用途で利用されているが、カテーテルの中には、特定の診断あるいは治療に適用するために、カテーテルの形状やカテーテルを構成する医療用具用チューブに対しても、特別な仕様や特性が要求される。
【0003】
上記カテーテルは人体の細かで複雑に配置されている血管内部に、ガイドワイヤーの誘導によって患部まで導かれ治療がなされる。これらのカテーテルを疾患部まで導く手段は、ガイディングカテーテル内に治療用のカテーテルを挿入し、ガイドワイヤーによって疾患部まで誘導される。このような操作においてカテーテルの外側はガイディングカテーテルの内壁に、また内側はガイドワイヤーの外面と接触することになり、カテーテルの内外面の低摩擦特性は重要な特性の一つとして要求される。
【0004】
また、近年、医療現場からはカテーテルの特に内面の、更なる低摩擦化が求められている。カテーテルは体内に挿入された場合、例えば、血管の中では当然のことながら充満した血液に直接接触し、また、管や膣内では体液、治療用の薬液等に接触しながら使用される。したがって、血液やその他の液体が充満した中にあっても、摩擦抵抗の低いカテーテル及び、カテーテルに用いる医療用具用チューブの開発が嘱望されている。
【0005】
このような要求に対応するために、本発明者らは、医療用チューブ内外面の摺動性(低摩擦化)の改良について、特許文献1でポリイミド樹脂とフッ素樹脂からなる医療用チューブをすでに提案している。該医療用チューブは、ポリイミド樹脂とフッ素樹脂の混合成分が加熱硬化された医療用チューブであり、フッ素樹脂は前記チューブの内面又は内外面に溶融して析出しており、そのフッ素樹脂析出面は、低い摩擦抵抗特性を有する医療用チューブである。
【0006】
また、特許文献2では、内層樹脂層及び上記内層樹脂層上の外層樹脂層を有するカテーテルチューブにおいて、上記内層樹脂層が架橋PTFE樹脂を含有するPTFE樹脂によって構成されていることを特徴とするカテーテルチューブが提案され、プラスチックの中では最も低い摩擦抵抗を有するといわれているフッ素樹脂を内層材料として用いたカテーテルが開示されている。
【0007】
しかしながら、フッ素樹脂やポリイミド樹脂は300〜450度Cの非常に高温で加工する必要があるため、製造方法、設備投資などを含め製造コストが高くなる大きな問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開2005−205183号公報
【特許文献2】特開2000−316977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は上記した問題点を有効に解決するために考案されたものであってその解決課題は、プラスチックの中で最も低い摩擦抵抗を有するといわれているフッ素樹脂よりも更に低い摩擦特性を有する摺動性樹脂材料、及びそれを用いた成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に対して実験および研究を鋭意繰り返した結果、フッ素樹脂およびオレフィン系樹脂を主成分とし、シリコーンオイル又はパラフィン系炭化水素化合物を混練した摺動性樹脂材料からなる成形体が、フッ素樹脂単体よりなる、成形体よりも低い摩擦特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、粘度平均分子量が10万以上〜1000万以下のオレフィン系樹脂30〜90重量部およびフッ素樹脂10〜70重量部の合計量100重量部に対して、0.1〜20重量部の潤滑性助剤からなることを特徴とする摺動性樹脂材料である。
【0012】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記オレフィン系樹脂が超高分子量ポリエチレンであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3に記載された発明は請求項1に記載された発明において 前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(PETFE)の群れから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4に記載された発明は請求項1に記載された発明において前記潤滑性助剤が、シリコーンオイル又はパラフィン系炭化水素化合物であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5に記載された発明は請求項1〜4のいずれかに記載された発明において摺動性樹脂材料を溶融混練した後に、ペレタイズして得られることを特徴とする摺動性樹脂ペレットである。
【0016】
請求項6に記載された発明は請求項1〜5のいずれかに記載の発明において摺動性樹脂材料を成形してなることを特徴とする摺動性樹脂成形体である。
【0017】
請求項7に記載された発明は請求項6に記載された発明において前記樹脂成形体がチューブ状成形体であることを特徴する。
【0018】
請求項8に記載された発明は請求項7に記載された発明において上記チューブ状成形体の内面の動摩擦抵抗値がポリテトラフルオロエチレン樹脂単体からなるチューブよりも小さいことを特徴とするチューブ状成形体である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の摺動性樹脂材料を用いて成形した医療用具用チューブによると、空気中及び水中の動摩擦抵抗値において、フッ素樹脂単体で成形したチューブよりも低い特性を得ることができる。また、本発明の摺動性樹脂材料は熱可塑性であるため押出成形法などによる成形が可能であり、しかも200度C以下の通常のプラスチックの加工温度範囲内で成形できるため、フッ素樹脂の加工温度300〜450度Cと比較するとはるかに低コストで製造できる。また、本発明の摺動性樹脂材料を厚みの薄いチューブ状に成形し、その外側に熱可塑性ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエステル、あるいはナイロンなど材料を被覆することにより、内面に低い摩擦抵抗を有し、他材料の機械的特性、あるいは柔軟性もあわせ持つ多層チューブの製造が可能であり、カテーテルなどの人体挿入用医療用具等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明の摺動性樹脂材料とは、プラスチックの中で最も低い摩擦特性及び離型性等の特性を有するフッ素樹脂よりも、さらに低い摩擦特性を有する摺動性樹脂材料である。本発明の摺動性樹脂材料はフィルムやシート状、繊維状、ロッド状あるいはチューブ状に成形して使用できる。
【0021】
本発明の医療用具用チューブは図1に示すように、最内層を本発明の摺動性樹脂材料で成形した低摩擦層1、及びその外表面を覆う樹脂層2を備えることが好ましい。もちろん、本発明の摺動性樹脂単体からなるチューブであってもよい。
【0022】
図1および図2に示した外表面を覆う樹脂あるいは中間樹脂は、カテーテルなどの医療機材の必要特性に応じて選択することができる。例えば、ナイロンエラストマー、ポリウレタン系、シリコーン系、ポリ塩化ビニル系などの熱可塑性樹脂を用いることができる。このように多層化することによって優れた低摩擦特性と機械的特性あるいは柔軟性などの特性を付加できるからである。
【0023】
具体的には、本発明の摺動性樹脂材料は粘度平均分子量が10万以上〜1000万以下のオレフィン系樹脂30〜90重量部およびフッ素樹脂10〜70重量部の合計量100重量部に対して、0.1〜20重量部の潤滑性助剤からなる。フッ素樹脂の混合量はオレフィン系樹脂との合計量に対して10重量部以上70重量部以下であることが好ましい。10重量部以下であると低摺動特性を得るための効果が低く、また70重量部を越えると機械的特性が低下するからである。より好ましくは20重量部から60重量部の範囲である。
【0024】
本発明の摺動性樹脂材料では前記オレフィン系樹脂の粘度平均分子量が10万〜1000万のオレフィン系樹脂であることが好ましい。より好ましくは20万〜700万である。 粘度平均分子量が上記範囲にある場合、押出成形加工時の生産性が良好であると共に滑り性、耐摩耗性、耐衝撃性、低温特性、耐薬品性等の特性が最大限に活かされる。
【0025】
本発明で好ましいオレフィン系樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸ビニル共重合樹脂、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル等やこれらのブレンド物などの超高分子量体を用いることができる。本発明で最も好ましいオレフィン系樹脂は、押出成形加工時の生産性と化学的な安定性の点で、超高分子量ポリエチレンである。超高分子量ポリエチレンはフッ素樹脂の約5〜6倍の耐磨耗性を有し、耐薬品性、無毒性などの特性に優れ、医療用材料として優れているからである。本発明に用いられる超高分子量ポリエチレンは、エチレンを主成分として(全共重合成分中、最大のモル%) なるものであり、例えば、エチレンの単独重合体、エチレンを主成分とし該エチレンと該エチレンと共重合可能な他の単量体との共重合体などが挙げられる。また、粘度平均分子量の異なる超高分子量ポリエチレンを2種類以上使用してもかまわない。これらの超高分子量ポリエチレンは、旭化成(株)( 商品名: ハイモラー) 、三井化学(株)( 商品名: ハイゼックス・ミリオン) 、ドイツ・ヘキスト社( 商品名:Hostalengur) 、アメリカ・ハーキュレス社(Hifax1000)などから販売されている。
【0026】
次に、本発明の摺動性樹脂材料では上記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(PETFE)の群れから選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。特に好ましくはPTFE、PFA、FEPである。これらのフッ素樹脂は耐薬品性に優れ、化学的に安定であり、人体への挿入用具として用いても安全性が高いからである。また、本発明において、フッ素樹脂はパウダー状であることが好ましく、1〜50μmの粒子径であることが好ましい。より好まし範囲は平均粒子径が10〜30μmのパウダーである。
【0027】
また、本発明の摺動性樹脂材料では上記潤滑性助剤が、シリコーンオイル又は流動パラフィン、石油ワックスなどのパラフィン系炭化水素化合物であることが好ましい。より好まし潤滑性助剤シリコーンオイルであり、ジメチルシリコーンオイル、アミノ変成シリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどを用いることができる。本発明の摺動性樹脂材料において前記潤滑性助剤の添加量は、フッ素樹脂とオレフィン系樹脂の合計量100重量部に対して、摺動特性および成形体表面の平滑性の点から0.1重量部以上、20重量部以下の添加量が好ましく、より好ましくは、0.3〜10重量部である。
【0028】
本発明の摺動性樹脂材料には特性に影響を与えない範囲で帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、UV吸収剤、界面活性剤、充填剤、X線造影剤、着色剤などを添加することができる。
【0029】
次に、本発明の摺動性樹脂材料を各種の成形法に適用するための好適な形態は、本発明の摺動性樹脂材料を溶融混練した後に、ペレタイズして得られる摺動性樹脂ペレットの形状である。本発明の摺動性樹脂材料を溶融混練するための具体的な加工機械としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等が挙げられる。
【0030】
本発明の摺動性樹脂材料を用いて、各業界から要求される部品等の形状を付与するために通常、射出成形法、押出成形法などの溶融成形法、プレス成形法、真空成形法などの加熱成形法など、公知の加工方法が採用できる。本発明において、摺動性樹脂材料は混練機や二軸押出機によって十分に混練されることによって調製される。調製された摺動性樹脂材料は押出成形、プレス成形、射出成形などの成形方法により所定の形に成形される。本発明の摺動性樹脂材料および/または上記の摺動性樹脂ペレットは、特に押出成形法の加工方法に好適に使用することができる。
【0031】
本発明の摺動性樹脂材料からなる樹脂成形体の形状は特に限定するものではない。本発明の摺動性樹脂材料はフィルム、シート、テープ状の成形体として好ましく使用できる。本発明の摺動性樹脂材料からなる押出成形法で成形するフィルムは、表面平滑性、厚みの均一性が特に優れる。更に、この摺動性樹脂材料からなる押出成形フィルムはプレス成形または真空成形などの成形法で二次加工品として成形することもできる。
【0032】
本発明の摺動性樹脂材料からなる摺動性樹脂成形体は医療用具用チューブに好適に用いることができる。これらの医療用具用チューブは内径0.1mm〜10mmものが好ましい。カテーテルなどの医療用具用チューブは内径が大きく厚みが薄いものが好ましく、またこれらの医療用具用チューブ状成形体の外面を柔軟なウレタン樹脂や、シリコーンゴムなどで被覆し複合チューブとして用いることができる。医療現場で使用するに際して、血管等に押し込みやすい特性(プッシャビリティ)や、カテーテルの基端部で操作された回転力がカテーテルの先端部まで確実に伝達される特性(トルク伝達性)や、カテーテルの先端で血管を損傷させることを防止するための柔軟性、耐キンク性などの特性が付加できるからである。
【0033】
さらに、本発明の摺動性樹脂材料からなるチューブ状成形体の内面の動摩擦抵抗値はポリテトラフルオロエチレン樹脂単体からなるチューブよりも小さく、医療用具用チューブのみならず、薬液の搬送チューブ、分析機器類の試薬搬送チューブなどに好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。尚、実施例中における「部」は、「重量部」を表す。また、本発明で得られた医療用具用チューブの動摩擦抵抗値および、材料等の諸特性は下記の方法で測定した。
(1)摺動性樹脂シートの表面性特性測定
HEIDON式表面性試験機(新東科学(株)製)で測定した。シートサンプルの大きさは3cm角であり、荷重1kg、速度5mm/秒の条件で空気中および水中で試験を行った
(2)医療用具用チューブの内面動摩擦抵抗値の測定方法
測定方法を図2に示す。長さ900mmの摺動性樹脂チューブ52に、線径0.35mm,長さ1100mmのPTFEがコーティングコートされたステンレス線51をあらかじめ挿入し、直径67mmの金属製のチューブ支持体53に前記チューブを4周巻き付け、その両端約25mm部分はそれぞれ垂直に保持し、粘着テープで固定した。摺動性樹脂チューブを固定した前記支持体53を引張試験機の固定チャック57に取り付け、前記ステンレス線51の片方の端部を引張試験機55のクリップ54に固定し、矢印56の方向に1分間に200mmの速度で引張り、このときの荷重を測定することにより、摺動性樹脂チューブ内壁とPTFEがコーティングされたステンレス線外面との摩擦抵抗値を測定した。引張り荷重が小さいほど摩擦抵抗は小さいことになる。測定は前記引張り荷重の値を引張り距離間100mmにわたりチャートに記録させ、そのデータより3回試験の平均値を算出した。
(3)粘度平均分子量の測定
本発明における超高分子量ポリエチレンの粘度平均分子量は下式(1)より求めた。
【0035】
(式1)
M=5.34×10 [η]1.49
式中、Mは粘度平均分子量であり、[η]は135度C、デカリン中における極限粘度を表す。
(実施例1)
超高分子量ポリエチレン(リュブマーL5000P、分子量95万、三井化学(株)製)とPTFEパウダー(デュポン(株)MP1300、平均粒子径11μm)と、助剤としてシリコーンオイル(TSF451−1M 信越化学(株)製)をそれぞれ7:3:0.3(重量比)の割合で、170度Cで20分間溶融混合し、摺動性樹脂材料を作製した。その後、摺動性樹脂材料をペレタイザーで粉砕し摺動性樹脂ペレットを得た。前記摺動性樹脂ペレットを用い加熱プレス機を使用して厚み2.0mm、長さ200mm、幅150mmの金型枠を用い170度Cで加熱溶融させて、厚み2.0mmの摺動性樹脂シートを作製した。前記摺動性樹脂シートの空気中及び水中の摺動特性をHEIDON式表面性試験機で測定した結果を表1に示す。
(実施例2)
実施例1の超高分子量ポリエチレンとPTFEを用い、助剤としてパラフィン(融点57度C)をそれぞれ7:3:1(重量比)の割合で、170度Cで20分間溶融混合し、摺動性樹脂材料を作製した。その後、ペレタイザーで粉砕し、摺動性樹脂ペレットを得た。前記摺動性樹脂ペレットを用い、実施例1と同様の条件で摺動性樹脂シートを製作し、HEIDON式表面性試験機にて実施例1と同一条件で摺動性樹脂シートの表面特性を測定した。測定結果を表1に示す。
(実施例3)
超高分子量ポリエチレン(ハイゼックス・ミリオン240M、三井化学(株)製、分子量290万)とPTFEパウダー(デュポン(株)製、MP1300)、及び助剤としてアルキル変性シリコーンオイル(信越化学(株)製、KF−412)をそれぞれ7:3:0.3(重量比)の割合で、170度Cで20分間溶融混合し、摺動性樹脂材料を作製した。その後、ペレタイザーで粉砕し、摺動性樹脂ペレットを得た。前記摺動性樹脂ペレットを用い、実施例1と同様の条件で摺動性樹脂シートを製作し、HEIDON式表面性試験機にて実施例1と同一条件で摺動性樹脂シートの表面特性を測定した。測定結果を表1に示す。
(比較例1)
摺動性樹脂材料の代わりにPTFEシートを用意し、実施例1と同様にHEIDON式表面特性試験機を用いてPTFEシートに対する摩擦係数を測定した。その結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例1で作製した摺動性樹脂ペレットでチューブ押出機を用いて、内径3mm、厚み300μmの摺動性樹脂チューブを作製した。前記摺動性樹脂チューブの内面の動摩擦抵抗値を測定した。その結果を表2に示す。
(比較例2)
内径3mm、厚み300μmのPTFE製チューブを用いPTFE製チューブ内面の動摩擦抵抗値を測定した。その結果を表2に示す。
(実施例5)
超高分子量ポリエチレン(リュブマーL3000P、三井化学工業(株)製、分子量30万)、とPTFEパウダー(デュポン(株)製、MP1300)、及び助剤としてアルキル変性シリコーンオイル(信越化学(株)製、KF−412)をそれぞれ7:3:0.3(重量比)の割合で、170度Cで20分間溶融混合し、摺動性樹脂材料を作製した。その後、ペレタイザーで粉砕し、摺動性樹脂ペレットを得た。その後、前記摺動性樹脂ペレットとナイロンエラストマー樹脂(Pebax7233)を材料としてチューブ押出機により二重押出し、内径3mm、総厚み500μmの2層チューブを作製した。この2層チューブ断面を観察したところ、最内層の摺動性樹脂チューブの厚みは300μmであり、外層面のナイロンエラストマー層の厚みは200μmであった。次に摩擦抵抗値の測定方法に基づき、摺動性樹脂チューブ内面の摩擦抵抗値を測定した。その結果を表2に示す。
(比較例3)
内径3mm、膜厚100μmのPTFEチューブの外面に押出機を用いてナイロンエラストマー(Pebax7233)を、チューブ全体の厚さが400μmになるように積層し、内面がPTFE層からなるPTFE・ナイロン2層チューブを作製した。前記PTFE・ナイロン2層チューブ内面の動摩擦抵抗値を測定定した。その結果を表2に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
上記表1から表3の結果で明らかなとおり、本発明の医療用具用チューブは、フッ素樹脂よりも動摩擦抵抗が低く、特に湿潤時の動摩擦抵抗が低く体内に挿入した場合の血液や体液が充満した中であっても低い摺動性を有する医療用具用チューブを作製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の摺動性樹脂材料からなるシートやフィルムは滑り性を必要とするテープカートリッジなどの摺動面、あるいは離型性シート、シリンジ用ガスケットなどの摺動部を有する機器部材として好適に用いることができる。また、医療用具用チューブでは、フッ素樹脂よりも低い摺動性を有するためカテーテルや内視鏡などの部材として、幅広く利用できる。さらに本発明の摺動性樹脂材料からなるチューブは精密機器類の液体搬送チューブなどにも耐薬品性や、溶液の付着防止などの特性から有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の用途例の一つで2層構造に成形した医療用具用チューブの断面図である。
【図2】本発明の実施例で使用した医療用具用チューブの動摩擦抵抗値の測定方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0042】
1.摺動性樹脂材料成形チューブ
2.外層熱可塑性樹脂成形チューブ
50. 動摩擦抵抗値測定装置
51.フッ素樹脂コーティングステンレス線
52.医療用具用チューブ
53.チューブ支持体
54.クリップ
55.引張試験機
56.引っ張り方向
57.引張試験機の固定チャック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量が10万以上〜1000万以下のオレフィン系樹脂30〜90重量部およびフッ素樹脂10〜70重量部の合計量100重量部に対して、0.1〜20重量部の潤滑性助剤からなることを特徴とする摺動性樹脂材料。
【請求項2】
前記オレフィン系樹脂が超高分子量ポリエチレンであることを特徴とする請求項1に記載の摺動性樹脂材料。
【請求項3】
前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(PETFE)の群れから選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の摺動性樹脂材料。
【請求項4】
前記潤滑助剤が、シリコーンオイル又はパラフィン系炭化水素化合物である請求項1に記載の摺動性樹脂材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の摺動性樹脂材料を溶融混練した後に、ペレタイズして得られることを特徴とする摺動性樹脂ペレット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の摺動性樹脂材料を成形してなることを特徴とする摺動性樹脂成形体。
【請求項7】
前記摺動性樹脂成形体が、チューブ状成形体である請求項6に記載の摺動性樹脂成形体。
【請求項8】
前記チューブ状成形体の内面の動摩擦抵抗値がポリテトラフルオロエチレン樹脂単体からなるチューブよりも小さいことを特徴とする請求項7に記載のチューブ状成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−156561(P2008−156561A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349668(P2006−349668)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】