説明

摺動材

【課題】 本発明の目的は、回転軸の熱膨張率にほぼ等しい熱膨張率を有し、低トルク性、耐磨耗性を向上させ、且つ回転軸シール部分からの流体の漏出が防止されたシール材を提供することにある。
【解決手段】 10〜60重量%のフッ素樹脂、37〜60重量%の天然黒鉛粉末、及び2〜30重量%の炭素繊維から成るフッ素樹脂組成物を成形して得られるシール材中の空隙に、熱硬化性樹脂を含浸し硬化させることにより該空隙を封孔したシール材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂からなる摺動材に関する。さらに詳しくは、回転軸の熱膨張率にほぼ等しい熱膨張率を有し、低トルク性、耐磨耗性を向上させ、且つ回転軸封部からの流体の漏出が防止されたフッ素樹脂からなる摺動材に関する。
【背景技術】
【0002】
各種回転機器の軸封部に使用されている摺動材は、高速、高圧、高温になるに従い、軸封部からの流体(水、油、各種薬液等)の漏出が起こり易くなる。これは摺動材として使用している材料の熱膨張率が、回転軸の材料の熱膨張率と異なること、或いは、摺動材の磨耗に起因することが多く、特に、ドライでの使用状態においては、その傾向が顕著である。
【0003】
このように使用環境が厳しくなるに従い、回転軸封部(摺動部)では、回転軸材料と固定部材料との熱膨張率の違いによる回転軸封部(摺動部)と摺動材との間の空間(クリアランス)の変化、即ち該空間(クリアランス)の拡大、及び軸封部の摺動面の磨耗の増加が起こり、その結果、密封機能が低下し流体が漏出する。
【0004】
これらの現象を解決するための提案がなされてきた。例えば、特開2001−294720公報では、ポリテトラフルオロエチレン樹脂に、黒鉛および炭素繊維を配合したポリテトラフルオロエチレン樹脂組成物が提案されている。しかしながら、この樹脂組成物からなる摺動材では、回転軸材料と固定部材料との熱膨張率の違いによる空間変化が大きく、摺動摺動面の摩耗は少ないが、黒鉛や炭素繊維を多量に添加すると空隙が増加し摺動材を流体が浸透(通気)してしまうという問題があった。また、特開平11−21406号公報では、テトラフルオロエチレンと変性四フッ化エチレン樹脂、炭素繊維、膨張黒鉛を配合した四フッ化エチレン樹脂組成物が提案されている。しかしながら、この樹脂組成物からなる摺動材では、摺動材の空隙は低く、流体の浸透(通気)は少ないが、回転軸材料と固定部材料との熱膨張率の違いによる空間変化が大きく、密封機能が低下し流体が流出するという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−294720公報
【特許文献2】特開平11−21406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、前記摺動材の課題を解決すべく、改善された特性を有する摺動材の開発を行った結果、回転軸封部からの流体の漏出を防止できる摺動材を見い出し、本発明に到達したものである。
本発明の目的は、回転軸の熱膨張率にほぼ等しい熱膨張率を有し、低トルク性、耐磨耗性を向上させ、且つ回転軸封部からの流体の漏出が防止された摺動材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特定のフッ素樹脂組成物を成形して得られる摺動材中の空隙に、熱硬化性樹脂を含浸し硬化させ該空隙を封孔することにより、回転軸封部からの流体の漏出を防止できることを発見したことに基づくものであって、回転軸の熱膨張率にほぼ等しい熱膨張率を有し、低トルク性、耐磨耗性を向上させ、且つ回転軸摺動部分からの流体の漏出が防止された摺動材を提供するものである。
【0008】
すなわち本発明は、10〜70重量%のフッ素樹脂、30〜60重量%の黒鉛粉末、及び/または2〜30重量%の炭素繊維、酸化亜鉛、ガラス繊維から選択される少なくとも1つから成るフッ素樹脂組成物を成形して得られる摺動材中の空隙に、熱硬化性樹脂を含浸し硬化させた摺動材を提供する。
前記熱硬化性樹脂が、フッ素樹脂の軟化点よりも低い温度で硬化する熱硬化性樹脂である前記した摺動材料は本発明の好ましい態様である。
【0009】
前記フッ素樹脂の軟化点よりも低い温度で硬化する熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、フラン樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれた少なくとも1種である前記した摺動材料は本発明の好ましい態様である。
【0010】
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂である前記した摺動材料は、本発明の特に好ましい態様である。
【0011】
フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエ−テル)から選ばれるモノマーの重合体又は共重合体である摺動材は、本発明の好ましい態様である。
【0012】
摺動材が、回転機器の回転軸封部(摺動部)に使用される摺動材であることは、本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、回転軸の熱膨張率にほぼ等しい熱膨張率を有し、低トルク性、耐磨耗性を向上させ、且つ回転軸封部からの流体の漏出が防止された摺動材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、10〜60重量%のフッ素樹脂、37〜60重量%の黒鉛粉末、及び2〜30重量%の炭素繊維から成るフッ素樹脂組成物を成形して得られる摺動材中の空隙に、熱硬化性樹脂を含浸し硬化させた摺動材を提供する。
【0015】
本発明において用いられるフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)などのパ−フルオロモノマーの重合体または共重合体などを挙げることができる。パ−フルオロフッ素樹脂の具体的な例としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)、TFE/PAVE共重合体(以下、PFAという)、TFE/HEP共重合体(以下、FEPという)、TFE/HEP/PAVE共重合体(以下、EPEという)などを挙げることができる。この内、テトラフルオロエチレンとパ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)との共重合体においては、パ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)のアルキル基が炭素数1〜5、特に1〜3が好ましい。また、これらの重合体または共重合体をブレンドして使用してもよい。
【0016】
好ましいフッ素樹脂としては、TFEの重合体または共重合体が上げられ、より好ましくは、PTFEまたは1重量%以下の上記フッ素含有モノマーにて変性された変性PTFEが挙げられる。
【0017】
フッ素樹脂の形状としては、粉末状、顆粒状または造粒した粒状のものを使用することができ、懸濁重合または乳化重合により直接粉末状にしたものであっても、塊状重合物を粉砕したものであってもよい。
本発明におけるフッ素樹脂の平均粒径は、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。この様なフッ素樹脂は、従来公知の方法にて製造された市販のフッ素樹脂粉末を適宜選択して使用することができる。
【0018】
フッ素樹脂組成物中のフッ素樹脂は、10〜70重量%であることが好ましい。フッ素樹脂が少なすぎる場合には、強度低下や気孔が増大する傾向があり、多すぎる場合には黒鉛や炭素繊維の割合が低くなるので低トルク特性が阻害されるので好ましくない。
【0019】
本発明に用いられる黒鉛粉末は、固定炭素が95%以上の天然黒鉛であることが好ましい。より好ましくは鱗片状の天然黒鉛である。本発明に用いられる黒鉛粉末の平均粒径は、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜30μmであることが望ましい。
【0020】
フッ素樹脂組成物中の黒鉛粉末は、30〜60重量%であることが好ましい。少なすぎる場合には、低トルク性を得ることができないため好ましくなく、多すぎる場合には強度の低下や空隙の増大を招くため好ましくない。
【0021】
本発明に用いられる炭素繊維は、ピッチ系或いはPAN系の炭素繊維であって、繊維長が20〜1000μm、繊維径が5〜20μm、アスペクト比が4〜80であることが好ましい。
【0022】
本発明に用いられる酸化亜鉛は、特にその製造方法や形状が限定されるものではなく、例えば、特開2004−210839号公報に記載されるテトラポット状の立体構造をもつ酸化亜鉛ウィスカーが挙げられる。また、酸化亜鉛ウィスカーは、その表面がシラン系、クロム系、あるいはチタン系カップリング剤によって処理されていてもよい。特にシラン系カップリング剤によって酸化亜鉛ウィスカーが表面処理されていると、ポリテトラフルオロエチレン重合体粒子中への分散性を向上させることができる。
【0023】
本発明において使用できるガラス繊維は、特に制限されるものではなく、ガラス繊維の特性(例えば、融点、長さ、太さ等)は、使用目的に応じ、適宜選択することができる。ガラス繊維が所定量より下回ると、摺動時に樹脂組成物の摩耗が激しく、ガラス繊維の添加量が所定量を上回ると、組成物中のガラス繊維が相手金属を著しく摩耗させ好ましくない。
【0024】
フッ素樹脂組成物中の炭素繊維、酸化亜鉛、ガラス繊維から選択される少なくとも1つは、2〜30重量%であることが好ましい。少なすぎる場合には、耐摩耗性を向上させることができなくなるため好ましくなく、多すぎる場合には、フッ素樹脂や黒鉛の割合が少なくなり低トルク特性が阻害されるおそれがある。
【0025】
本発明のフッ素樹脂組成物を得る方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法により、フッ素樹脂、黒鉛粉末、炭素繊維、炭素繊維、酸化亜鉛、ガラス繊維から選ばれる少なくとも1種を混合して得ることができる。例えば、本発明のフッ素樹脂に黒鉛粉末、及び炭素繊維を添加した後、ヘンシェルミキサーを用いて均一に混合して、本発明のフッ素樹脂材料組成物を得ることができる。
【0026】
本発明において摺動材中の空隙に、含浸し硬化させる熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂から選ばれた少なくとも1種が好ましい熱硬化性樹脂であり、特にフェノール樹脂が好ましい。
【0027】
フェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂が好ましい。この様なフェノール樹脂は、市販されているものから適宜選択して使用することができる。
【0028】
フラン樹脂およびエポキシ樹脂もまた、市販されているものから適宜選択して使用することができる。フラン樹脂およびエポキシ樹脂の、好ましい例としては、DIC株式会社製EXA-850CRP(エポキシ樹脂)を挙げることができる。
【0029】
本発明のフッ素樹脂組成物には、固体潤滑剤、酸化安定剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、難燃剤、顔料などの1種または2種以上の各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合してもよい。例えば、MoS2、タルク、顔料などの充填材を適宜配合してもよい。
【0030】
本発明のフッ素樹脂組成物を摺動材に成形する方法としては、圧縮成形法或いは押出し成形法など従来公知の方法が用いられ、特に限定されるものではない。例えば、金型を用いてフッ素樹脂組成物を圧縮成形して予備成形物を成形した後、フッ素樹脂の融点以上の温度(PTFEの場合は、330℃〜390℃)で焼成する、いわゆるフリーベーキングを行った後に冷却して得られた成形体を、切削加工などにより所望の摺動材に加工することができる。
【0031】
本発明のフッ素樹脂組成物を成形して得られる摺動材に、フェノール樹脂を含浸させる方法としては、該摺動材を真空槽に入れ脱気し、真空槽中の該摺動材が完全に沈むまでフェノール樹脂を注入した後、加圧含浸することが好ましい。脱気は、真空度が不十分な場合には、摺動材の開気孔内に残存する空気により含浸効果が損なわれることがあるので、真空度200Pa以下になるまで脱気することが好ましい。
【0032】
また、加圧含浸は、3〜10MPaGの圧力で行われることが好ましい。
【0033】
圧力が3〜10MPaGで空隙はフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂で十分に含浸されている。
【0034】
本発明のフッ素樹脂組成物を成形して得られる摺動材に加圧含浸されたフェノール樹脂を硬化させる方法としては、熱風循環式焼成炉を用いて行うことが好ましい。好ましい効果例として、昇温速度30℃/時間で200℃まで昇温し、200℃で1時間保持して、含浸したフェノール樹脂の硬化を行う方法を挙げることができる。
【0035】
また、本発明のフッ素樹脂組成物を成形して得られる摺動材表面の空隙は、熱硬化性樹脂をコーティング、或いは刷毛塗りした後、熱硬化性樹脂を硬化して含浸させることもできる。
【0036】
本発明のフッ素樹脂組成物を成形して得られる摺動材表面の空隙は、熱硬化性樹脂を含浸させることによって封孔されているので、本発明の効果が得られるものと考えられる。
【0037】
本発明の摺動材は、回転機器の回転軸封部に好適に使用することができる。
本発明の摺動材は、回転軸の材料である金属相当、例えばステンレス相当の低熱膨張率を有するため、特に分割式の軸周型セグメントシールに用いた場合、摺動性の向上が顕著に現れる。これは、熱によるシャフト(スリーブ)の膨張収縮に分割したシャフトパッキン(セグメントシール)が追従し、シャフトとシャフトパッキンとの間の空間(クリアランス)が常に一定に維持されることにより、安定したシール性を長期間維持することを可能にする。
【0038】
また、本発明の摺動材をメカニカルシールに用いた場合には、本発明の摺動材は低熱膨張率であるため摺動部分の摺動発熱による歪みが緩和され、摺動面からの流体の漏れを防ぐことが可能になる。本発明の摺動材は、回転用運動に限らず、往復運動、あるいは回転と往復が組み合わされた運動などの軸封部(摺動部)にも適用できる。
【0039】
本発明の摺動材は、回転軸の熱膨張率にほぼ等しい熱膨張率を有し、低トルク性、耐磨耗性を向上させ、且つ回転軸封部からの流体の流出が防止されるので、回転機器の回転軸封装置の用途に最適である。例えば、軸周型分割式セグメントシール、メカニカルシールなどに好適に用いられる。
【実施例1】
【0040】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
本発明において各物性の測定は、下記の方法によって行った。
【0041】
A.物性の測定
(1)開気孔率
JIS(R1634)に従い、開気孔率を測定した。
(摺動材に水を含浸(飽水重量)し以下計算式により算出)
Pb=(W3−W1)/(W3−W2)×100
Pb:開気孔率(%)
W1:乾燥重量(g)
W2:水中重量(g)
W3:飽水重量(g)
【0042】
(2)引張り強さ
JIS(K7161)に従い、引張り強さを測定した。
(JISK7161 1(1/2)号形に試験片を加工し(株)島津製作所製オートグラフAGS−5KNDにより引張強さを測定、試験速度1mm/min)
(3)曲げ強度
JIS(K7171)に従い、曲げ強度を測定した。
(幅10mm、長さ80mm、厚さ4mmの試験片を加工し(株)島津製作所製オートグラフAGS−5KNDにより曲げ強さを測定、試験速度2mm/min)
(4)熱膨張率
JIS K7197に従い熱膨張率を測定した。
幅5mm、長さ10mm、厚み5mmの試験片を加工し30〜100℃まで2℃/minで昇温し平均熱膨張率を算出した。
【0043】
(5)摩擦・摩耗・漏れ試験(メカニカルシール試験機)
実施例及び比較例で得られるメカニカルシール用インサート形状のPTFE複合材(摺動材)の摺動面を、平面度0.2μm以下、表面粗さRy2μmとなるようラッピング処理した後、軸径φ60のアンバランス型メカニカルシールの試験機にセットし、下記の試験条件で摩擦・摩耗・漏れ量を測定した。
摩擦係数は、運転時のトルクにより算出した。
摩耗量は、運転前後のPTFE複合材の高さより、単位時間あたりの摩耗量を算出した。
漏れ量は、摺動部の漏れ量を流量計にて測定した。
相手材質(回転環):アルミナ
固定環:PTFE複合材
回転数1.0(m/s)
圧力0.3(MGPa)
運転時間:50hr
【0044】
(6)漏れ試験(セグメントシール)
実施例及び比較例で得られるセグメントシール(軸周型シール、セグメント形状に分割されたリングを組み合わせ回転軸に装着しシールする装置)をφ300(mm)の軸径に取り付け下記試験条件で漏れ量を測定した。
漏れ量は摺動部の漏れ量を流量計にて測定した。
相手材質(軸材質):SUS304
回転数:20(m/s)
圧力 :0.2(KPaG)
【0045】
B.原料
本発明の実施例、および比較例で用いた原料は下記の通りである。
(1)フッ素樹脂
三井・デュポンフロロケミカル製、懸濁重合により得られたPTFE粉末
(平均粒子径:5〜100μm)。
(2)天然黒鉛
日本黒鉛工業社製、特CP
(3)人造黒鉛
オリエンタル産業株式会社製 ATNo.10、平均粒径20μm
(4)炭素繊維
(株)クレハ社製、M2007S
(5)酸化亜鉛
株式会社アムテック社製 品名:WZ−0501
(針状短繊維径0.2〜30μm、針状短繊維長2〜50μmのテトラポット型酸化亜鉛ウィスカー)
(6)ガラス繊維
日東紡績株式会社製、平均繊維径10.5μm、平均繊維長20μmのガラス繊維
(7)含浸樹脂
液状フェノール樹脂
【0046】
(実施例1−7)
表1に示す重量割合にて、全量約500gになるよう高速回転混合機(傾倒式粉砕機)を用いて、25000rpmで3分間混合した。得られた混合粉をΦ100×0(mm)の金型で成形圧1.5t/cmで成形し、Φ100×0×30(mm)の成形体を得た。得られた成形体を熱風循環式焼成炉(旭科学社製H−100、温度分布±5℃以下)にて昇温速度50℃/時間で370℃まで昇温し、370℃で3時間保持してPTFE複合材1を得た。
【0047】
得られたPTFE複合材1を、軸径φ60のアンバランス型メカニカルシール用インサート形状に機械加工した。次に、該インサート形状のPTFE複合材を真空槽に入れ、真空度200Pa以下になるまで脱気した後、該インサート形状のPTFE複合材が真空槽内において完全に沈むまで液状フェノール樹脂を注入し、圧力5MPaで加圧含浸を行った。その後、フェノール樹脂含浸メカニカルシール用インサート形状のPTFE複合材を、熱風循環式焼成炉(旭科学社製H−100、温度分布±5℃以下)にて昇温速度30℃/時間で200℃まで昇温し、200℃で1時間保持して含浸したフェノール樹脂の硬化を行った。得られたフェノール樹脂含浸メカニカルシール用インサート形状のPTFE複合材(摺動材1)の開気孔率を測定し、摩擦・摩耗・漏れ試験を行った。結果を表1に示す。
【0048】
また、上記で得られた混合粉をΦ100×0(mm)の金型で成形圧1.5t/cm2で成形し、Φ100×0×20(mm)のセグメントシール形状成形体を得た。得られた成形体を熱風循環式焼成炉(旭科学社製H−100、温度分布±5℃以下)にて昇温速度50℃/時間で370℃まで昇温し、370℃で3時間保持してセグメントシール形状PTFE複合材2を得た。得られたPTFE複合材2を、上記と同様にして脱気しフェノール樹脂を含浸硬化させて、得られたセグメントシール形状のPTFE複合材(摺動材2)の引張り強さ、曲げ強度および熱膨張率を測定し、濡れ試験を行った。結果を表1に示す。
【0049】
(比較例1−7)
表2に示す重量割合にて、全量約500gになるよう実施例1と同様にして混合粉を得た。得られた混合粉を用いて実施例1のPTFE複合材1及びPTFE複合材2と同様にして、PTFE複合材3及びPTFE複合材4を得た。得られたPTFE複合材3およびPTFE複合材4を用いて、それぞれフェノール含浸硬化操作を省略するほかは、実施例1と同様にして、軸径φ60のアンバランス型メカニカルシール用インサート形状のPTFE複合材(摺動材3)およびセグメント形状のPTFE複合材(摺動材4)を得た。摺動材3の開気孔率を測定し、摩擦・摩耗・漏れ試験を行い、摺動材4の引張り強さ、曲げ強度および熱膨張率を測定し、漏れ試験を行った。結果を表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1および表2の結果から、実施例1〜7に示すフェノール樹脂含浸品は、比較例1〜7に示すフェノール樹脂未含浸品に比較すると、漏れ量、強度が改善されていることが分かる。
また、フェノール樹脂を含浸処理することによる熱膨張の変化は無かった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により提供される摺動材は、回転軸の熱膨張率にほぼ等しい熱膨張率を有し、低トルク性、耐磨耗性を向上させ、且つ回転軸封部からの流体の流出が防止されるので、回転機器の回転軸封部の用途に最適である。例えば、軸周型分割式セグメントシール、メカニカルシールなどが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜60重量%のフッ素樹脂、37〜60重量%の天然黒鉛粉末、及び2〜30重量%の炭素繊維から成るフッ素樹脂組成物を成形して得られるシール材中の空隙に、熱硬化性樹脂を含浸し硬化させることにより該空隙を封孔したシール材。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂が、フッ素樹脂の軟化点よりも低い温度で硬化する熱硬化性樹脂である請求項1に記載のシール材。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、フラン樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれた少なくとも1種である請求項1または2に記載のシール材。
【請求項4】
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエ−テル)から選ばれるモノマーの重合体又は共重合体である、請求項1〜3のいずれかに記載のシール材。
【請求項5】
シール材が、回転機器の回転軸封部に使用されるシール材である、請求項1〜4のいずれかに記載のシール材。

【公開番号】特開2010−156398(P2010−156398A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334657(P2008−334657)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【出願人】(000209599)株式会社タンケンシールセーコウ (20)
【Fターム(参考)】