説明

摺動部材の製造方法

【課題】生産性及び品質の安定性に優れた油溜まりを有する樹脂層を被覆した摺動部材の製造方法を提供する。
【解決手段】基材1の一部に樹脂組成物Aを被覆する一次被覆工程と、樹脂組成物Aに含有した有機溶剤を乾燥する一次乾燥工程と、樹脂組成物Bを一次乾燥工程後の基材1の全面に被覆する二次被覆工程と、樹脂組成物Bに含有した有機溶剤を乾燥する二次乾燥工程と、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bを焼成する焼成工程と、からなる製造方法により製造された摺動部材の樹脂層2には、焼成時の収縮率の違いにより表面に凹部を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に複数の凹部を有する樹脂層を基材上に被覆した摺動部材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関用等のすべり軸受では、摺動面に微細な油溜まりを形成したものが用いられている。この油溜まりは、凹部に潤滑油を保持し、摺動面に潤滑油が供給され易くなるため、すべり軸受の摺動特性を高めることができる。また、この種のすべり軸受を製造する方法としては、例えば特許文献1〜4に開示されるように、摺動面に油溜まりを形成するための各種方法が提案されている。
【0003】
具体的には、特許文献1では、軸受合金層上にオーバレイ層として合金等の金属系材料を被着し、ショットブラスト処理を行い、摺動面であるオーバレイ層の表面に微小な硬質粒子を吹き付けて微細な凹部を形成することで、すべり軸受の保油性を向上させたものが開示されている。また、特許文献2では、摺動面がポリエーテルエーテルケトンにより形成された摺動部材において、レーザー加工により摺動面に複数の凹部を形成する方法が開示されている。また、特許文献3では、樹脂と溶剤と固体潤滑剤を混合した樹脂塗料を基材上にスプレー法等により塗布し、乾燥後、プレス加工により樹脂塗料に複数の凹部を形成し、焼成する方法が開示されている。さらに、特許文献4では、軸受合金層上に固体潤滑剤を含んだ樹脂オーバレイ層を備えたすべり軸受において、切削加工により樹脂オーバレイ層の摺動表面に凹状部を形成する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−147459号公報
【特許文献2】特開2005−344736号公報
【特許文献3】特開2007−255312号公報
【特許文献4】特開2008−14454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、樹脂層の表面に油溜まりとなる凹部を形成する方法として特許文献1〜4に開示された方法を用いると、以下の問題がある。すなわち、特許文献1に開示された方法では、金属系材料のように塑性変形しやすい摺動面に凹部を形成するには有効な方法であるが、樹脂材料の場合、弾性が高いために硬質粒子を衝突させても樹脂層は弾性変形するだけで十分に塑性変形させることができない。このため、すべり軸受の樹脂層には、浅い凹部しか形成されず、十分に保油性を向上させることができない。また、特許文献2に開示された方法では、樹脂層にレーザー光線を照射して凹部を形成すると、凹部付近が高温になり、樹脂材料の劣化が生じてしまう。
【0005】
また、特許文献3に開示された方法では、樹脂塗料に含有する溶剤を乾燥した後の段階で、樹脂層の表面に凹凸面を有するプレス型を押圧して凹部を形成すると、凹部の周辺部がプレスの加圧により圧縮されて密度が高くなり、その後に焼成することで、凹部の周囲の強度を向上することが可能とされている。しかしながら、プレスの加圧前の樹脂層中に溶剤が残存している場合には、この残存した溶剤が焼成時に気化するものであるが、プレスの加圧により焼成前の樹脂層の表面の密度が高くなっているために、樹脂層の表面側から気化した溶剤が排出され難くなっている。このため、樹脂層中に気化した溶剤が留まり、膨れが発生するおそれがある。これに対し、長時間にわたって乾燥加熱を行い、焼成前の樹脂層中の溶剤を完全に除去することにより、焼成時における樹脂層の膨れの発生を防ぐことが可能であるが、生産性が悪く現実的ではない。
【0006】
さらに、特許文献4に開示された方法では、切削加工により樹脂層に凹部を形成すると、樹脂材料が剥がれてしまい表面に荒れが生じてしまう。加えて、切削加工の速度を速くすると、樹脂材料の塑性変形性が低いため、摺動表面にクラックが生じ易くなる。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、生産性及び品質の安定性に優れた油溜まりを有する樹脂層を基板上に被覆した摺動部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明が採用した手段を、図面を参照して説明すると、図3に示すように、表面に複数の凹部を有する樹脂層2を基材1上に被覆した摺動部材を製造する方法において、樹脂成分を有機溶剤で溶かした複数の樹脂組成物を調整し、この調整した複数の樹脂組成物のうち、樹脂組成物A(本発明の「第一の樹脂組成物」に相当)を前記基材1の一部に被覆する一次被覆工程と、前記樹脂組成物Aに含有した有機溶剤を乾燥する一次乾燥工程と、前記複数の樹脂組成物のうち、樹脂組成物B(本発明の「第二の樹脂組成物」に相当)を前記一次乾燥工程後の基材1の全面に被覆する二次被覆工程と、前記樹脂組成物Bに含有した有機溶剤を乾燥する二次乾燥工程と、前記樹脂組成物A及び前記樹脂組成物Bを焼成する焼成工程と、からなることを特徴とする。
【0009】
ここで、一次被覆工程は、図1(A)又は図2(A)に示すように、樹脂組成物Aを基材1の一部に被覆する工程であるが、その後の工程を経ると、樹脂組成物Aを被覆した部分が摺動面(すなわち、摺動部材として相手材を支持する骨格部)となり、樹脂組成物Aを被覆しなかった部分が凹部3となるので、摺動部材の使用に合わせた任意の形状パターン及び厚さで樹脂組成物Aを被覆する必要がある。
【0010】
一次乾燥工程は、図1(B)又は図2(B)に示すように、一次被覆工程で被覆した樹脂組成物Aに含有する有機溶剤を乾燥する工程である。この工程では、樹脂組成物Aに含有する有機溶剤を単に除去するだけで、樹脂組成物Aにおける樹脂成分を全く、又は殆ど焼成させない温度及び時間で乾燥する。また、この一次乾燥工程では、一次被覆工程で基材1に任意の形状パターンで被覆した樹脂組成物Aが、次工程以降の取り扱い中に溶剤濃度が高いために流動してしまうのを防ぐ程度に溶剤濃度を低めることを目的としており、樹脂組成物Aに含有する有機溶剤を完全に除去しなくてもよい。但し、樹脂組成物Aに含有する有機溶剤の溶剤濃度が、二次被覆工程の樹脂組成物Bに含有する有機溶剤の溶剤濃度よりも低くなるように乾燥する必要がある。
【0011】
二次被覆工程は、図1(C)又は図2(C)に示すように、樹脂組成物Aの一次乾燥工程後における基材1の全面に樹脂組成物Bを被覆する工程である。この工程では、一次乾燥工程で樹脂組成物Aにおける樹脂成分を焼成していないため、基材1の全面に樹脂組成物Bを被覆すると、樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとの境界付近では、樹脂組成物Bに含有する有機溶剤が溶剤濃度の低い樹脂組成物Aとの境界部に浸透し、同時に樹脂成分も一部が互いに混じり合う。また、二次被覆工程では、一次乾燥工程で乾燥した樹脂組成物Aの表面を樹脂組成物Bで、図2(C)に示すように、完全に被覆してもよいし、図1(C)に示すように、完全に被覆しなくてもよい。
【0012】
二次乾燥工程は、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bに含有する有機溶剤を乾燥する工程であり、焼成工程は、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bを焼成する工程である。これらの工程では、図1(D)又は図2(D)に示すように、一次乾燥工程で乾燥した樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとの溶剤濃度が異なるため、収縮率の違いにより表面が凹凸となる。すなわち、一次乾燥工程で乾燥した樹脂組成物Aよりも樹脂組成物Bの方が収縮率が高いため、一次被覆工程で樹脂組成物Aを被覆した部分に摺動面(凸部)を形成し、樹脂組成物Aを被覆しなかった部分に凹部3を形成することができる。
【0013】
また、二次乾燥工程及び焼成工程では、二次被覆工程で被覆した樹脂組成物Bの成分が樹脂組成物Aとの境界部に浸透しているため、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの乾燥、焼成時に収縮率が異なっていても、境界部の互いに混じり合った部分が収縮率の差を緩和し、樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとの境界部に割れを発生することがない。これに対し、一次乾燥工程で樹脂組成物Aの樹脂成分を焼成した場合には、樹脂組成物Bの乾燥、焼成時に樹脂組成物Aが殆ど収縮しないため、樹脂組成物Bとの収縮差が大きく、樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとの境界部に割れが発生してしまう。
【0014】
また、二次乾燥工程及び焼成工程では、二次被覆工程で被覆した樹脂組成物Bの成分が樹脂組成物Aとの境界部に浸透しているほど、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの乾燥、焼成時に強固な被膜(樹脂層)を形成することができる。このため、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bについては、同種溶剤、同種樹脂の組み合わせである場合が特に好ましい。これは、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bに含有する有機溶剤成分が同種であると、互いの成分が境界部で浸透して混じり合い易く、また樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの樹脂成分が同種であると、焼成時に架橋し易くなるためである。
【0015】
また、二次被覆工程で被覆される樹脂組成物Bは、前述したように、一次乾燥工程で乾燥した樹脂組成物Aの表面に被覆しても被覆しなくてもよいが、図1(C)に示すように、樹脂組成物Aの一次乾燥工程後の厚さよりも樹脂組成物Bの被覆厚さが僅かに薄くなるように被覆した場合には、被覆時に既に凹凸面を形成することができる。一方、図2(C)に示すように、樹脂組成物Aの一次乾燥工程後の厚さよりも樹脂組成物Bの被覆厚さが厚くなるように被覆した場合には、樹脂組成物Bが流動して、被覆表面が平滑な面となることがある。しかし、その後の二次乾燥工程及び焼成工程では、上記したように一次乾燥工程で乾燥した樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとで収縮率が異なるため、樹脂組成物Bを樹脂組成物Aの表面に被覆した部分と樹脂組成物Bを基材1上に被覆した部分との焼成後の厚さに差が生じて、図2(D)に示すように、被覆表面に凹部3を形成することができる。
【0016】
摺動部材の油溜まりとなる凹部3の配置パターンや厚さは、摺動部材が用いられる内燃機関等の軸受装置の仕様により異なるが、凹部3間の平均間隔が0.1乃至10mmの範囲で、且つ凹部3の深さ(凹凸の高低差)が2乃至20μmの範囲であることが望ましい。
【0017】
また、樹脂組成物Bの溶剤濃度は、樹脂組成物Aの溶剤濃度を超える溶剤濃度であることが好ましい(請求項2の発明)。この場合には、樹脂組成物Aの溶剤濃度が低いほど、樹脂組成物Aの粘度が高まるため、一次被覆工程で基材1に任意の形状パターンで被覆した樹脂組成物Aを次工程以降でも容易に維持することができる。また、樹脂組成物Aの溶剤濃度が低いほど、一次乾燥工程で樹脂組成物Aに含有する有機溶剤を乾燥するための乾燥時間を短縮することができる。
【0018】
また、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bにおける樹脂成分は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂又はポリベンゾイミダゾール樹脂のいずれか一種以上であることが好ましい(請求項3の発明)。これらの樹脂成分は、耐熱性が高く、内燃機関等の摺動部材における樹脂層2として好適に用いることができる。
【0019】
また、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bに含まれる有機溶剤は、非プロトン性極性溶媒からなることが好ましい(請求項4の発明)。この場合には、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bに含まれる有機溶剤が非プロトン性極性溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン)であると、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂又はポリベンゾイミダゾール樹脂等の樹脂成分が可溶であり、二次被覆工程で互いの成分が境界部で浸透して混じり合い易くなるため、二次乾燥工程及び焼成工程での樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとの収縮差を緩和する効果が高まり、境界部に割れが発生することを一層防ぐことができる。なお、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bに含まれる有機溶剤は、非プロトン性を失わない限りにおいて、非プロトン性極性溶媒を他の有機溶媒で希釈した有機溶剤を用いてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によれば、焼成工程前に被覆工程及び乾燥工程を二段階に分けて行い、第一の樹脂組成物及び第二の樹脂組成物に含有する有機溶剤を効率よく除去することにより、生産性に優れた油溜まりを有する樹脂層を被覆した摺動部材を製造することができる。また、本発明の製造方法によれば、被覆工程及び乾燥工程を二段階に分けて行いながらも、二次被覆工程で被覆した第二の樹脂組成物の成分を第一の樹脂組成物との境界部に浸透させ、境界部の互いに混じり合った部分が収縮率の差を緩和することで、第一の樹脂組成物及び第二の樹脂組成物の乾燥、焼成時に境界部に割れを発生することがなく、品質の安定性に優れた油溜まりを有する樹脂層を被覆した摺動部材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図3には、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bからなる樹脂層を基材上に被覆するための製造工程が示されている。基材1は、鋼とAl系軸受合金からなる平面板状の複層材料を用いる。また、樹脂組成物Aは、熱硬化性樹脂であるポリアミドイミド樹脂(PAI)を、プロトン供与性をもたない非プロトン性極性溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン)を含む有機溶剤で、溶剤濃度を60体積%に希釈したものを用いる。また、樹脂組成物Bは、同じく熱硬化性樹脂であるPAIを、プロトン供与性をもたない非プロトン性極性溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン)を含む有機溶剤で、溶剤濃度を65体積%に希釈したものを用いる。
【0022】
なお、非プロトン性極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)の他、ジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルアセトアミド(DMAC)等があり、本発明においては、いずれを用いてもよい。
【0023】
摺動部材の製造方法を図3(A)により説明すると、まず、樹脂組成物Aをロールコート法により基材1であるAl系軸受合金の表面に、図4(E)に示す線状の状態に厚さ約30μm被覆した後(一次被覆工程)、120℃で30分間加熱し、樹脂組成物Aの溶剤濃度を低下させるための乾燥処理(一次乾燥工程)を行った。このとき、樹脂組成物Aの樹脂成分には焼成現象が生じておらず、乾燥処理における加熱温度及び時間を樹脂組成物Aの樹脂成分が焼成しない程度としている。また、樹脂組成物Aは、溶剤濃度が60体積%に希釈されているが、基材1の表面に被覆する際に溶剤濃度が70体積%以下であれば樹脂組成物Aが流動しないことが確認されている。
【0024】
そして、樹脂組成物Aを乾燥した基材1の表面には、樹脂組成物Bをブレード法で表面が平滑の状態となるよう、すなわち乾燥後の樹脂組成物Aの厚さよりも樹脂組成物Bの被覆厚さが厚くなるように被覆する(二次被覆工程)。このとき、樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとの境界部では、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bが同種溶剤、同種樹脂の組み合わせであるため、互いの成分が浸透して境界部で混じり合い易くなっている。
【0025】
次いで、基材1の表面に被覆した樹脂組成物Bを120℃で20分間加熱し、樹脂組成物Bの溶剤濃度を低下(樹脂組成物Aに含有する有機溶剤が完全に除去されていなければ樹脂組成物Aの溶剤濃度も低下)させるための乾燥処理(二次乾燥工程)を行った後、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bを250℃で1時間焼成した(焼成工程)。この焼成により、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの樹脂成分が硬化し、基材1の表面に樹脂層2が形成される。また、焼成後の樹脂層2には、焼成前の樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとの溶剤濃度が異なるため、収縮量の違いにより表面に凹部3(図1(D)又は図2(D)参照)が形成される。このように、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの初期の溶剤濃度や乾燥時間を異ならせ、焼成前の樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとの溶剤濃度に差を設けることで、凹部3の深さ(凹凸の高低差)を制御することができる。また、焼成前の樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとの境界部では、互いの成分が浸透して混じり合っているため、焼成時に収縮量の差による割れが発生することなく、互いの樹脂成分どうしが強固に接合することができる。
【0026】
樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの組成は、実施例に示したものに限定されず、ポリイミド樹脂(PI)又はポリベンゾイミダゾール樹脂(PBI)等の他の樹脂成分を用いたり、固体潤滑剤や硬質粒子等の各種の充填剤を含む樹脂組成物を用いることもできる。また、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの溶剤、溶剤濃度は、実施例に示したものに限定されず、非プロトン性極性溶媒以外の他の溶剤を用いたり、60〜65体積%以外の溶剤濃度に変更することもできる。
【0027】
また、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bを被覆する基材1の形状は、実施例に示したものに限定されず、図3(B)に示す半円筒形状やその他の形状の基材を用いることもできる。このとき、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの被覆方法は、基材1の形状等に合わせて適切な方法を用いればよい。例えば、樹脂組成物Aの被覆方法は、実施例に示したものに限定されず、基材1に任意の形状パターンで被覆されるようにマスキングを施した上でスプレー法やブレード法を用いたり、印刷法やデスペンサー法等を用いることもできる。また、樹脂組成物Bの被覆方法は、実施例に示したものに限定されず、ロールコート法やデスペンサー法等を用いることができる。
【0028】
また、樹脂組成物Aを被覆する形状パターンは、実施例に示したものに限定されず、図4(A)〜図4(C)に示す斑点状の状態に被覆する形状パターンや図4(D)に示す基材1の長手方向と垂直となる線状の状態に被覆する形状パターン、その他の形状パターンを用いることもできる。また、樹脂組成物Aを被覆する形状パターンは、基材1に対していずれの方向に向いてもよく、また樹脂組成物A及び樹脂組成物Bからなる樹脂層2を基材1の全面に被覆したり、基材1の一部に被覆することも可能である。
【0029】
また、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの乾燥条件、焼成条件は、実施例に示したものに限定されず、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの樹脂成分や樹脂組成物A及び樹脂組成物Bに含有する有機溶剤の種類に応じて適切な条件(例えば、乾燥条件は温度が80〜160℃、時間が5〜120分程度で、焼成条件は温度が180〜400℃、時間が20〜120分程度)で行えばよい。
【0030】
また、本発明では、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bが同じ組成(樹脂成分や有機溶剤、溶剤濃度)でもよいが、異なる組成を組み合わせる場合でも樹脂層2を得ることが可能である。また、本発明では、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの被覆方法によって樹脂組成物の最適な粘度が異なるが、この粘度調整は溶剤濃度だけでなく、樹脂成分以外の固形添加剤を添加することにより調整してもよい。
【0031】
また、本発明では、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの2種類の樹脂組成物からなる樹脂層2に限定されず、3種以上の樹脂組成物を用いてもよい。この場合には、1種類の樹脂組成物を被覆するごとに乾燥処理を行った後、これらの樹脂組成物を一度に焼成することで、表面に凹凸面を有する所望の樹脂層2を得ることが可能である。
【0032】
また、本発明では、焼成前後の樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの収縮率を考慮したうえで、摺動面に油溜まりとなる凹部3を形成することなく、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bの混在する被覆面が平滑な樹脂被膜の被膜方法にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】樹脂組成物A及び樹脂組成物Bからなる樹脂層の形成メカニズムを説明するための拡大図である。
【図2】樹脂組成物A及び樹脂組成物Bからなる樹脂層の形成メカニズムを説明するための拡大図である。
【図3】樹脂組成物A及び樹脂組成物Bからなる樹脂層を基材上に被覆するための製造工程図である
【図4】樹脂組成物を被覆する形状パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 基材
2 樹脂層
3 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の凹部を有する樹脂層を基材上に被覆した摺動部材を製造する方法において、
樹脂成分を有機溶剤で溶かした複数の樹脂組成物を調整し、この調整した複数の樹脂組成物のうち、第一の樹脂組成物を前記基材の一部に被覆する一次被覆工程と、
前記第一の樹脂組成物に含有した有機溶剤を乾燥する一次乾燥工程と、
前記複数の樹脂組成物のうち、第二の樹脂組成物を前記一次乾燥工程後の基材の全面に被覆する二次被覆工程と、
前記第二の樹脂組成物に含有した有機溶剤を乾燥する二次乾燥工程と、
前記第一の樹脂組成物及び前記第二の樹脂組成物を焼成する焼成工程と、からなることを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項2】
前記第二の樹脂組成物の溶剤濃度が前記第一の樹脂組成物の溶剤濃度を超える溶剤濃度であることを特徴とする請求項1記載の摺動部材の製造方法。
【請求項3】
前記第一の樹脂組成物及び前記第二の樹脂組成物における樹脂成分は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂又はポリベンゾイミダゾール樹脂のいずれか一種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項4】
前記第一の樹脂組成物及び前記第二の樹脂組成物に含まれる有機溶剤は、非プロトン性極性溶媒からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−151203(P2010−151203A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329013(P2008−329013)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】