説明

摺動部材の製造方法

【課題】強度・耐熱性・低摩擦性・低磨耗性に優れている摺動部材の製造方法を提供するものである。
【解決手段】含水したゲル状のバクテリアセルロースを強化繊維とし、これに親水性の有機溶剤で溶解した液状のフェノール樹脂を混合して、水分の乾燥工程と樹脂の含浸工程を同時に行なった後、この混合物を乾燥・硬化させて、所望形状のFRP成形体を作成し、次いでこのFRP成形体を不活性雰囲気下で焼成して、バクテリアセルロースとフェノール樹脂とを炭化し、バクテリアセルロースを炭化した炭素繊維の体積含有率が30〜70体積%の摺動部材を製造するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリアセルロースを炭化させた炭素繊維を強化繊維とし、炭化させたフェノール樹脂をマトリックスとした摺動部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、セラミックス材料は、多方面での工業的応用を可能にする特性を有している。例えば、機械工業分野では、これまで、セラミックス材料は、過酷なトライボロジー環境下での使用が期待されており、特に、無潤滑下での摺動材料としての利用が期待されている。なかでも、炭素繊維強化炭素材料は、他の工業用セラミックスと比べても、破壊強度、破壊靭性などの機械的特性が優れているため、無潤滑下で使用する摺動材料として用いられている。
【0003】
従来、炭素繊維強化炭素材料を製造する場合、炭素繊維と例えばフェノール樹脂などのように炭化収率の高い熱硬化性樹脂を用いてFRPを成形し、その後、500〜1500℃程度の高温で焼結させてプカーサーを製造する。この時、マトリックスとなる樹脂は炭化して体積が収縮し、空隙が発生して機械特性が低下する問題がある。
【0004】
このためピッチの粉末などを含浸させて緻密化することにより機械特性を向上させる方法(特許文献1)が提案されている。しかしながらこの方法では、高価な炭素繊維を使用している上、ピッチ粉末などの混合と炭化工程を何度も繰り返す必要があるため、製造期間が長く、製造コストが高くなる問題があった。
【0005】
また、酢酸の製造工程で生成されるバクテリアセルロースは、その潜在的な性能から工業材料としての研究開発(特許文献2)がなされているが、含水率が80重量%以上という高さから、その利用方法がなく大部分は産業廃棄物として処分されている。またバクテリアセルロースを用いてFRPにする場合、含水率が高いことから、脱水工程に手間がかかる上、脱水後に樹脂と混合させるために、乾燥バクテリアセルロースを粉砕しなければならず、この工程も製造コストが高くなり、工業化されない要因のひとつとなっていた。
【特許文献1】特開平9−268082
【特許文献2】特開2003−82535
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況の中で、無潤滑下で使用可能な炭素繊維強化炭素材料を開発することを目標として、鋭意研究を続けた結果、廃棄物として処分されている水分を多量に含有するバクテリアセルロースを用い、これにフェノール樹脂を直接含浸することにより水分の乾燥工程と樹脂含浸工程を同時に行なって工程を簡略化し、無潤滑下において低摩擦性・低磨耗性を兼ね備えた軽量で、高強度、 高硬度の摺動部材の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1記載の摺動部材の製造方法は、含水したゲル状のバクテリアセルロースを強化繊維とし、これに親水性の有機溶剤で溶解した液状のフェノール樹脂を混合して、水分の乾燥工程と樹脂の含浸工程を同時に行なった後、この混合物を乾燥・硬化させて、所望形状のFRP成形体を作成し、次いでこのFRP成形体を不活性雰囲気下で焼成して、バクテリアセルロースとフェノール樹脂とを炭化し、バクテリアセルロースを炭化した炭素繊維の体積含有率が30〜70体積%の摺動部材を製造することを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項2記載の摺動部材の製造方法は、請求項1において、ゲル状のバクテリアセルロースの含水率を80重量%以上とし、液状のフェノール樹脂の有機溶剤の含有量を40重量%以上とし、ゲル状のバクテリアセルロースに混合する液状のフェノール樹脂の混合比率を5〜40重量%としたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る請求項1記載の摺動部材の製造方法によれば、バクテリアセルロースとフェノール樹脂とからなるFRPを炭化して、バクテリアセルロース由来の微細な繊維状炭素化合物を強化繊維とし、フェノール由来のガラス状炭素化合物をマトリックスとして強化することにより、材料自体の破壊靱性値が向上し、脆性破壊に起因する磨耗が抑制され、無潤滑下でも、充分な低摩擦性と低摩耗性を兼ね備えた摺動部材を製造することができる。
【0010】
また、水分を80重量%以上含有しているバクテリアセルロースゲルにフェノール樹脂を直接、含浸することにより水分の乾燥工程と樹脂含浸工程を1つにすることが可能になり、工程を省略して材料コストを下げることができる。
【0011】
また請求項2記載の摺動部材の製造方法によれば、ゲル状のバクテリアセルロースの含水率が80重量%以上であり、酢酸の製造工程で生成されるバクテリアセルロースをそのまま利用することができる。また液状のフェノール樹脂の有機溶剤の含有量を40重量%以上とすることにより、バクテリアセルロースに液状のフェノール樹脂が十分に含浸される。またバクテリアセルロースに混合する液状のフェノール樹脂の混合比率を5〜40重量%とすることにより、水分の乾燥工程が促進されると共に、炭化した微細な炭素繊維がガラス状炭素化合物に分散した摺動部材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
先ず、ゲル状のバクテリアセルロースを強化繊維とし、これを親水性の有機溶剤で溶解した液状のフェノール樹脂を混合する。酢酸の製造工程で生成されるゲル状のバクテリアセルロースは、一般にその含水率は80重量%以上である。またフェノール樹脂は、バクテリアセルロースと混合しやすいように親水性の有機溶剤で溶解した液状のものを用いる。この場合、有機溶剤としては、例えばアルコール類、フェノール類、アセトン類、エーテル類を用いる。また液状のフェノール樹脂の有機溶剤の含有量は40重量%以上とすることにより、粘性が低くバクテリアセルロースと混合・含浸し易い。
【0013】
ゲル状のバクテリアセルロースに、親水性の有機溶剤で溶解した液状のフェノール樹脂を混合すると、親水性の有機溶剤がバクテリアセルロースに含まれる水分を脱水すると共に、バクテリアセルロースにフェノール樹脂が含浸されて、水分の乾燥工程と樹脂の含浸工程を同時に行なってプリプレグを製造する。この場合、第3成分として他の材料、例えば炭素、木材、無機鉱物などいずれか1つ、もしくは数種加えてもよい。
【0014】
この場合、ゲル状のバクテリアセルロースに混合する液状のフェノール樹脂の混合比率は5〜40重量%の範囲が望ましい。この場合、5重量%未満の添加では、バクテリアセルロース同士を十分に固めることができず、炭化して炭素繊維とした場合に研磨材の摩耗量が多くなり、また40重量%を越えて添加すると、強化材としてバクテリアセルロースから生成される炭素繊維の割合が少なくなり、クラックの進展を防ぐことができず、この結果、摩耗量が多くなるからである。
【0015】
含水したバクテリアセルロースにフェノール樹脂を混合して、同時に乾燥させてプリプレグを製造する場合、自然乾燥、オーブンなどによる強制乾燥、真空ポンプなどを用いた減圧乾燥など、いずれの方法で乾燥させても良い。
【0016】
次に、作成したプリプレグを所定の型に投入し、加圧・加熱工程を経て、FRPを作成する。この時、フェノール樹脂の脱水縮合反応のためガスが発生するが、この反応ガスを除去するのに、ガス抜き工程を何度か行ったほうがよいが、発生量が少ない場合ガス抜き工程は省略してもよい。
【0017】
最後に、所定の形状に成形したFRPを不活性雰囲気下で、500〜1500度の温度範囲で焼結させることにより、ガラス状炭素中にナノーオーダーの直径の微細な炭素繊維が分散した摺動部材を得ることができる。この場合、摺動部材は、バクテリアセルロースを炭化した炭素繊維の体積含有率を30〜70体積%にすることにより、無潤滑下でも、0.25以下の充分な低摩擦性と低摩耗性とが得られる。
【0018】
なおこの場合、炭素繊維の体積含有率が30体積%未満では、炭素繊維の割合が少なくなり、充分な低摩擦性と低摩耗性とが得られず、また70体積%を超えると摩耗量が多くなるからである。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
含水率90重量%のゲル状のバクテリアセルロースに、アルコールを50重量%含む液状のフェノール樹脂を、混合比率20重量%で混合して、水分の乾燥工程と樹脂の含浸工程を同時に行なった。次にこの混合物を自然乾燥して硬化させてプリプレグを作成した。次にこのプリプレグを型に入れて、圧力6kg/cm で、160℃の温度で30分間、加圧・加熱してFRPを作成した。この後、不活性雰囲気下で、1000℃に60分間、加熱して焼成して炭化させ、摺動部材(N 1)を製造した。この摺動部材の炭素繊維含有率は40体積%で、機械的特性は表1の通りであった。また本発明の摺動部材と、窒化ケイ素系セラミックス、ダイヤモンドライクカーボンと比摩耗量を比較した結果を表2に示した。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】



【0022】
上表の結果から、高機械的特性を有し、また比摩耗量は従来のセラミックスに比べて優れていることが確認された。
【0023】
(実施例2)
実施例1において、含水率90重量%のゲル状のバクテリアセルロースに、アルコールを50重量%含む液状のフェノール樹脂の、混合比率を変えて混合した後、この混合物を実施例1と同じ条件で、乾燥硬化させてプリプレグを作成し、これを加圧・加熱してFRPを作成した。この後、不活性雰囲気下で、加熱して焼成して炭化させ、摺動部材(N 2、3)を製造した。また比較のために、ゲル状のバクテリアセルロースに、液状のフェノール樹脂の、混合比率を変えて混合したものについても、焼成して炭化させ、摺動部材(N 4、5)を製造し、混合比率と、炭素繊維含有率、動摩擦係数、比摩耗量を測定し、その結果を表3に示した。
【0024】
【表3】



【0025】
上表の結果から、炭素繊維含有率が30〜70体積%の範囲で動摩擦係数が低く、比摩耗量が少ないことが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水したゲル状のバクテリアセルロースを強化繊維とし、これに親水性の有機溶剤で溶解した液状のフェノール樹脂を混合して、水分の乾燥工程と樹脂の含浸工程を同時に行なった後、この混合物を乾燥・硬化させて、所望形状のFRP成形体を作成し、次いでこのFRP成形体を不活性雰囲気下で焼成して、バクテリアセルロースとフェノール樹脂とを炭化し、バクテリアセルロースを炭化した炭素繊維の体積含有率が30〜70体積%の摺動部材を製造することを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項2】
ゲル状のバクテリアセルロースの含水率を80重量%以上とし、液状のフェノール樹脂の有機溶剤の含有量を40重量%以上とし、ゲル状のバクテリアセルロースに混合する液状のフェノール樹脂の混合比率を5〜40重量%としたことを特徴とする請求項1記載の摺動部材の製造方法。

【公開番号】特開2010−37412(P2010−37412A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200617(P2008−200617)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業(発展型)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(505089614)国立大学法人福島大学 (34)
【出願人】(391041062)福島県 (42)
【Fターム(参考)】