説明

撚線及びそれを用いた耐屈曲ケーブル

【課題】導体素線の引張強度に左右されることなく、屈曲特性が良好な撚線及びそれを用いた耐屈曲ケーブルを提供するものである。
【解決手段】本発明に係る撚線は、中心導体の周りに、導体素線を撚り合わせてなる撚線層を有する撚線において、上記導体素線及び銅被覆鋼線を用いて撚り合わせ、上記撚線層を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源・電力用や信号伝送用の耐屈曲ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なケーブルは、中心導体の周りに、導体素線を撚り合わせてなる撚線層を有する。ここで、導体素線の撚り合わせ方により、集合撚り線と同心撚り線とがある。
【0003】
図10に示すように、複数本(図10中では7本)の素線からなる中心導体101及び複数本(図10中では54本)の導体素線103をまとめて撚り合わせたものが集合撚り線100であり、3層構造の撚線層102を有する。また、図11に示すように、複数本(図11中では7本)の素線からなる中心導体101の周りに、複数本(図11中では54本)の導体素線103を層状に、かつ、同心状に撚り合わせたものが同心撚り線110であり、3層構造の撚線層112を有する。各撚線100,110は、その周りに、用途又は必要性に応じて絶縁被覆層105を有していてもよい。また、中心導体の構成素線及び導体素線103としては、一般的に、導電性の高い銅線が用いられる。
【0004】
ロボットアームなどの駆動用電源ケーブルや屋外用送電線などの電源・電力用ケーブル、信号伝送(信号線)用ケーブルは、動きが激しい部位に使用されることから、外力による強制的な動き(屈曲)を伴う。このため、これらのケーブルにおいては、良好な屈曲特性が求められる。例えば、Snを0.1〜0.9wt%、Inを0.1〜0.5wt%、酸素を50ppm以下含み、残部がCuから成る熱処理された銅合金で構成される銅合金線がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−96200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の銅合金線では、良好な屈曲特性が得られる。これは銅合金の組成及び製造プロセス(熱処理プロセス)を適正化したことにより、銅合金自体の引張強度が向上したことに起因している。
【0007】
ところで、特許文献1記載の銅合金線では、銅合金線(導体素線)の引張強度により屈曲寿命が決まり、銅合金線の引張強度が高い程、屈曲寿命が長くなる。しかし、銅合金線の引張強度の向上には自ずと限界があることから、屈曲特性の向上についても限界があった。
【0008】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、導体素線の引張強度に左右されることなく、屈曲特性が良好な撚線及びそれを用いた耐屈曲ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく本発明に係る撚線は、中心導体の周りに、導体素線を撚り合わせてなる撚線層を有する撚線において、上記導体素線及び銅被覆鋼線を用いて撚り合わせ、上記撚線層を形成したものである。
【0010】
ここで、撚線層の内、最外層の直下の層は、銅被覆鋼線で構成してもよい。また、撚線層の最外層を除く全ての層は、上記銅被覆鋼線で構成してもよい。さらに、中心導体の少なくとも一部は、銅被覆鋼線で構成してもよい。
【0011】
銅被覆鋼線は、1種類の鋼線材からなってもよい。また、銅被覆鋼線は、引張強度の異なる少なくとも2種類の鋼線材を含んでいてもよい。
【0012】
銅被覆鋼線は、400MPa以上の引張強度を有することが好ましい。
【0013】
一方、本発明に係る耐屈曲ケーブルは、前述した撚線の周りに、絶縁被覆層を設けたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、屈曲特性及び導電率の調整が可能な撚線を得ることができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適一実施の形態に係る撚線の横断面図である。
【図2】図1における高強度導体素線の拡大断面図である。
【図3】図1の一変形例である。
【図4】本発明の他の好適一実施の形態に係る撚線の横断面図である。
【図5】図4の一変形例である。
【図6】本発明の別の好適一実施の形態に係る撚線の横断面図である。
【図7】図6の一変形例である。
【図8】本発明の更に別の好適一実施の形態に係る撚線の横断面図である。
【図9】図8の一変形例である。
【図10】従来のケーブルの一例を示す横断面図である。
【図11】従来のケーブルの他の例を示す横断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
本発明の好適一実施の形態に係る撚線の横断面図を図1に、図1における高強度導体素線の拡大断面図を図2に示す。
【0018】
図1に示すように、本発明の好適一実施の形態に係る撚線10は、中心導体11の周りに、導体素線13と、その導体素線13よりも引張強度の高い高強度導体素線14とを撚り合わせてなる複層構造(図1中では3層構造)の撚線層12を有している。この撚線10の外周に絶縁被覆層15を設けたものが、耐屈曲ケーブルとなる。
【0019】
ここで、撚線10は、集合撚り線であり、複数本(図1中では7本)の素線からなる中心導体11及び複数本(図1中では54本)の素線(導体素線13と高強度導体素線14を混ぜた束線)をまとめて撚り合わせたものである。また、中心導体11は、図1に示したように、導体素線13と高強度導体素線14を混ぜた束線で形成する他に、導体素線13のみで形成してもよい。
【0020】
導体素線13の構成材としては、80%IACS以上の導電率を有するものが好ましく、例えば、純Cu(例えば、引張強度が約200MPaのタフピッチ銅(以下、TPCと記す))、導電性が良好なCu合金(例えば、Cu-Ag系合金)、引張強度が高いCu合金(例えば、Cu-In系合金、具体的には引張強度が約300MPa以上のCu-In合金、Cu-Sn-In合金)などが挙げられる。
【0021】
高強度導体素線14としては、導体素線13よりも引張強度が高い線材であれば特に限定するものではないが、例えば、導体素線13がTPCやCu-In系合金(Cu-In合金、Cu-Sn-In合金)で構成される場合、図2に示すように、鋼線21の周りを銅被覆層22で被覆した銅被覆鋼線などが挙げられる。高強度導体素線14として銅被覆鋼線を用いることで、導体素線13の約2〜3倍、具体的には、400MPa以上、好ましくは400〜700MPaの引張強度を得ることが可能となる。
【0022】
銅被覆層22の構成材は、純Cu又はCu合金のいずれであってもよい。また、銅被覆層22の層厚は、鋼線21の表面を完全に覆うことができる厚さであれば、特に限定するものではない。例えば、製造の容易さを考慮すると、銅被覆層22の層厚は、最低でも約20μmあればよく、これよりも厚い方がより好ましい。さらに、銅被覆層22の形成方法は、メッキなどの化学的手法や、押出被覆などの物理的手法のいずれを用いてもよい。
【0023】
撚線層12全体に占める高強度導体素線14の割合を多くすると、引張強度は著しく向上するものの、導電率が低下してしまう。そこで、この高強度導体素線14の割合は、所望とする導電率及び引張強度に応じて適宜選択される。
【0024】
本実施の形態においては、全ての高強度導体素線14の引張強度が同じ場合(1種類の線材で構成される場合)について説明を行ったが、これに限定するものではない。つまり、引張強度の異なる少なくとも2種類の線材で構成される高強度導体素線14を用いてもよい。例えば、撚線10の、撚線層12の外側に配置される高強度導体素線は、銅被覆層22を薄くした引張強度優先タイプの線材とし、撚線10の、撚線層12の内側に配置される高強度導体素線は、銅被覆層22を厚くした導電率優先タイプの線材としてもよい。
【0025】
また、この逆に、撚線層12の外側に配置される高強度導体素線を導電率優先タイプ、撚線層12の内側に配置される高強度導体素線を引張強度優先タイプとしてもよい。
【0026】
また、図1に示した本実施の形態に係る撚線10の一変形例を図3に示すように、撚線30は、複数本(図3中では7本)の素線(導体素線13と高強度導体素線14を混ぜた束線)からなる中心導体11の周りに、複数本(図3中では54本)の素線(導体素線13と高強度導体素線14を混ぜた束線)を層状に、かつ、同心状に撚り合わせた同心撚り線であってもよい。つまり、撚線30は、中心導体11の周りに、導体素線13と高強度導体素線14とを同心状に撚り合わせてなる複層構造(図3中では3層構造)の撚線層32を有している。この撚線30の外周に絶縁被覆層15を設けたものが、耐屈曲ケーブルとなる。
【0027】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0028】
一般に、線径が同じである場合、鋼線は、Cu又はCu合金で構成される導体素線13の約2〜3倍の引張強度を有していることから、導体素線13と鋼線とを撚り合わせて撚線層12を形成することで、屈曲寿命の向上を図ることができる。ところが、大気中又は多湿環境下で、Cu(導体素線13)とFe(鋼線)を接触放置すると、電池作用腐食(異種金属接触腐食)により腐食が進行してしまう。
【0029】
そこで、本実施の形態に係る撚線10においては、高強度導体素線14の一例として、鋼線21の周りを銅被覆層22で被覆した銅被覆鋼線を用いている。これによって、導体素線13と、その導体素線13に隣接配置された高強度導体素線(銅被覆鋼線)14との接触が同種金属接触となり、導体素線13と高強度導体素線(銅被覆鋼線)14との間で腐食が進行するおそれはない。また、この高強度導体素線(銅被覆鋼線)14は、導体素線13の約2倍の引張強度を有していることから、導体素線13と高強度導体素線14を撚り合わせて撚線層12を形成した撚線10は、導体素線103だけで撚線層102を形成した撚線100(図10参照)と比べて、屈曲寿命を長くすることができる。
【0030】
撚線10の屈曲特性は、高強度導体素線14自体の引張強度、及び撚線層12全体に占める高強度導体素線14の割合に大きく依存しており、導体素線13自体の引張強度の割合は低い。このため、導体素線13の引張強度を重視する必要性はあまりない。よって、導体素線13は、導電率を重視した材料(例えば、純Cu)で形成してもよい。その結果、引張強度は高強度導体素線14、導電率は導体素線13という具合に、撚線10に要求される機能を、導体素線13及び高強度導体素線14で分担させることができる。このため、同じ導体素線13及び高強度導体素線14を用いながらも、屈曲特性及び導電率の異なる複数の撚線を作製することができる。
【0031】
また、図10に示した従来の撚線100は、一旦、導体素線の材質を決定すると、線径及び素線数を変えることでしか、屈曲特性及び導電率を調整することができなかった。これに対して、本実施の形態に係る撚線10は、撚線層12全体に占める高強度導体素線14の割合を変えることで、線径は一定に保ったまま、屈曲特性及び導電率を自在に調整することができる。
【0032】
本実施の形態に係る撚線10は、撚線層12における導体素線13及び高強度導体素線14の配置はランダムであり、それらの配置位置は任意であることから、撚線層12の形成が容易となり、ケーブルの製造プロセスが簡略化される。その結果、撚線10を安価に製造することができる。
【0033】
次に、本発明の他の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0034】
(第2の実施形態)
本発明の他の好適一実施の形態に係る撚線の横断面図を図4に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については説明を省略する。
【0035】
図1に示した撚線10は、撚線層12における導体素線13及び高強度導体素線14の配置がランダムなものであった。
【0036】
これに対して、図4に示すように、本実施の形態に係る撚線40は、図1に示した撚線10と基本的な構造は同じであるが、撚線層42の層構造が異なっている。具体的には、撚線層42の内、最外層42cの直下の層42bが高強度導体素線14で構成され、層42bを除く層(図4中では層42a,42c)が導体素線13で構成される。
【0037】
ここで、中心導体11の少なくとも一部が、高強度導体素線14で構成されてもよい。言い換えると、導体素線13と高強度導体素線14を混ぜた束線で、中心導体11を形成してもよい。
【0038】
この撚線40の外周に絶縁被覆層15を設けたものが、耐屈曲ケーブルとなる。本実施の形態に係る撚線40及び耐屈曲ケーブルにおいても、第1の実施形態に係る撚線10及び耐屈曲ケーブルと同様の作用効果が得られる。
【0039】
更に、本実施の形態に係る撚線40においては、撚線層42の内、最外層42cの直下の層42bを高強度導体素線14で構成している。一般に、ケーブルを屈曲させるとケーブルに歪みが生じるが、最大歪みはケーブルの最外層に生じる。よって、ケーブルの断線は、ケーブル外層から内層側に向かって進行する。撚線40は、撚線層42の内、層42bだけに高強度導体素線14を配置させる必要があることから、図1に示した撚線10と比較して、撚線層42の形成工程がやや複雑になる。しかし、撚線40は、最外層42cの直下の層42bを高強度導体素線14で構成することによって、ケーブル外層から内層側に向かう断線の進行を、層42bでくい止めることができるため、結果として、撚線40の長寿命化(屈曲特性の向上)を図ることができる。また、撚線40における撚線層42の内、層42bを除く層は全て導体素線13で構成されるため、導電性を十分に確保することができる。
【0040】
また、図4に示した撚線40(集合撚り線)の一変形例を図5に示すように、撚線50は、複数本(図5中では7本)の導体素線13からなる中心導体11の周りに、第1層52aとして複数本(図5中では12本)の導体素線13を、第2層52bとして複数本(図5中では18本)の高強度導体素線14を、第3層52cとして複数本(図5中では24本)の導体素線13を、それぞれ層状に、かつ、同心状に撚り合わせてなる同心撚り線であってもよい。つまり、導体素線13で構成される中心導体11の周りに、導体素線13で構成される第1層52a及び第3層52cと高強度導体素線14で構成される第2層52bとを同心状に撚り合わせてなる複層構造(図5中では3層構造)の撚線層52を有する撚線50であってもよい。この撚線50の外周に絶縁被覆層15を設けたものが、耐屈曲ケーブルとなる。
【0041】
(第3の実施形態)
本発明の他の好適一実施の形態に係る撚線の横断面図を図6に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については説明を省略する。
【0042】
図4に示した撚線40は、撚線層42の内、最外層42cの直下の層42bが高強度導体素線14で構成され、層42bを除く層が導体素線13で構成されるものであった。
【0043】
これに対して、図6に示すように、本実施の形態に係る撚線60は、図1に示した撚線10と基本的な構造は同じであるが、撚線層62の層構造が異なっている。具体的には、撚線層62の内、最外層62cを除く全ての層(図6中では層62a,62b)が高強度導体素線14で構成され、最外層62cが導体素線13で構成される。
【0044】
ここで、中心導体11の少なくとも一部が、高強度導体素線14で構成されてもよい。言い換えると、導体素線13と高強度導体素線14を混ぜた束線で、中心導体11を形成してもよい。
【0045】
この撚線60の外周に絶縁被覆層15を設けたものが、耐屈曲ケーブルとなる。本実施の形態に係る撚線60及び耐屈曲ケーブルにおいても、第1の実施形態に係る撚線10及び耐屈曲ケーブルと同様の作用効果が得られる。
【0046】
更に、本実施の形態に係る撚線60においては、撚線層62の内、最外層62cだけを導体素線13で構成し、その他の層62a,62bを高強度導体素線14で構成している。このため、撚線60は、図4に示した撚線40と比較して、撚線の更なる長寿命化(屈曲特性の向上)を図ることができる。この撚線60は、撚線層62全体に占める高強度導体素線14の割合が多いため、高い導電率を得にくい。このため、導体素線13を、純Cu又は導電率の高いCu合金で構成することが好ましい。この撚線60は、非常に高い屈曲寿命が要求される耐屈曲ケーブルに好適である。
【0047】
また、図6に示した撚線60(集合撚り線)の一変形例を図7に示すように、撚線70は、複数本(図7中では7本)の導体素線13からなる中心導体11の周りに、第1層72aとして複数本(図7中では12本)の高強度導体素線14を、第2層72bとして複数本(図7中では18本)の高強度導体素線14を、第3層72cとして複数本(図7中では24本)の導体素線13を、それぞれ層状に、かつ、同心状に撚り合わせてなる同心撚り線であってもよい。つまり、導体素線13で構成される中心導体11の周りに、高強度導体素線14で構成される第1層72a及び第2層72bと導体素線13で構成される第3層72cとを同心状に撚り合わせてなる複層構造(図7中では3層構造)の撚線層72を有する撚線70であってもよい。この撚線70の外周に絶縁被覆層15を設けたものが、耐屈曲ケーブルとなる。
【0048】
(第4の実施形態)
本発明の他の好適一実施の形態に係る撚線の横断面図を図8に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については説明を省略する。
【0049】
図4に示した撚線40及び図6に示した撚線60は、撚線層の一部を高強度導体素線14で構成したものであった。
【0050】
これに対して、図8に示すように、本実施の形態に係る撚線80は、高強度導体素線14で構成される中心導体11の周りに、導体素線13を撚り合わせてなる複層構造(図8中では3層構造)の撚線層82を有している。ここで、撚線80は、集合撚り線であり、複数本(図8中では7本)の高強度導体素線14からなる中心導体11及び複数本(図8中では54本)の導体素線13をまとめて撚り合わせたものである。
【0051】
この撚線80の外周に絶縁被覆層15を設けたものが、耐屈曲ケーブルとなる。本実施の形態に係る撚線80及び耐屈曲ケーブルにおいても、第1の実施形態に係る撚線10及び耐屈曲ケーブルと同様の作用効果が得られる。
【0052】
更に、本実施の形態に係る撚線80は、中心導体11を高強度導体素線14で構成し、撚線層82を導体素線13で構成しており、導体素線13の層及び高強度導体素線14の層という観点で捉えると、2層構造である。これに対して、図4に示した撚線40及び図6に示した撚線60は、導体素線13の層及び高強度導体素線14の層という観点で捉えると、3層構造である。よって、本実施の形態に係る撚線80は、撚線40及び撚線60と比較して、層構造がシンプルであるため、撚り合わせが容易であり、ケーブルの製造プロセスが簡略化される。その結果、撚線80は、図10に示した撚線100と略同等の導電性を有し、撚線100よりも屈曲寿命が長く、かつ、撚線40及び撚線60よりも製造コストが安価となる。
【0053】
また、図8に示した撚線80(集合撚り線)の一変形例を図9に示すように、撚線90は、複数本(図9中では7本)の高強度導体素線14からなる中心導体11の周りに、第1層92aとして複数本(図9中では12本)の導体素線13を、第2層92bとして複数本(図9中では18本)の導体素線13を、第3層92cとして複数本(図9中では24本)の導体素線13を、それぞれ層状に、かつ、同心状に撚り合わせてなる同心撚り線であってもよい。つまり、高強度導体素線14で構成される中心導体11の周りに、導体素線13で構成される第1層92a、第2層92b、及び第3層92cを同心状に撚り合わせてなる複層構造(図9中では3層構造)の撚線層92を有する撚線90であってもよい。この撚線90の外周に絶縁被覆層15を設けたものが、耐屈曲ケーブルとなる。
【0054】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0055】
次に、本発明について、参考例および実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<参考例1>
導体素線として線径が0.1mm、引張強度が220MPaのTPC線材を、高強度導体素線として線径が0.1mm、引張強度が300MPaのCu-0.1mass%In線材を用い、図4に示した構造の集合撚線を作製した(試料11)。
【0057】
導体素線として線径が0.1mm、引張強度が220MPaのTPC線材を、高強度導体素線として線径が0.1mm、引張強度が300MPaのCu-0.2mass%Sn-0.2mass%In線材を用い、図4に示した構造の集合撚線を作製した(試料12)。
【0058】
導体素線として線径が0.1mm、引張強度が220MPaのTPC線材を用い、図10に示した構造の集合撚線を作製した(試料13)。
【0059】
得られた試料11〜13の各集合撚線について、屈曲特性の評価を行った。屈曲特性は、屈曲寿命の長短により評価した。ここで言う屈曲寿命とは、集合撚線に特定の歪み割合の屈曲を繰り返し行った際に、集合撚線を構成する素線が少なくとも1本断線した時の屈曲回数を表している。
【0060】
試料13における集合撚線の屈曲寿命は500,000回であったのに対して、試料11,12における各集合撚線の屈曲寿命はいずれも700,000回であった。つまり、本発明の撚線である試料11,12は、従来の撚線である試料13と比べて、屈曲特性が1.4倍に向上することが確認できた。
【0061】
<参考例2>
導体素線として線径が0.1mm、引張強度が220MPaのTPC線材を、高強度導体素線として線径が0.1mm、引張強度が300MPaのCu-0.1mass%In線材を用い、図8に示した構造の集合撚線を作製した(試料21)。
【0062】
導体素線として線径が0.1mm、引張強度が220MPaのTPC線材を、高強度導体素線として線径が0.1mm、引張強度が300MPaのCu-0.2mass%Sn-0.2mass%In線材を用い、図8に示した構造の集合撚線を作製した(試料22)。
【0063】
得られた試料21,22の各集合撚線及び[参考例1]の試料13の集合撚線について、屈曲特性の評価を行った。
【0064】
試料13における集合撚線の屈曲寿命は500,000回であったのに対して、試料21,22における各集合撚線の屈曲寿命は650,000回であった。つまり、本発明の撚線である試料21,22は、従来の撚線である試料13と比べて、屈曲特性が1.3倍に向上することが確認できた。
【実施例1】
【0065】
導体素線として線径が1.0mm、引張強度が220MPaのTPC線材を、高強度導体素線として線径が1.0mm、銅被覆層の層厚が20〜50μm、引張強度が500MPaの銅被覆鋼線を用い、図4に示した構造で、4層構造の撚線層を有する集合撚線(素線総数91本)を作製した(試料31)。中心導体(素線数7本)、第1層(素線数18本)、第2層(素線数18本)、及び第4層(素線数30本)はTPC線材で、第3層(素線数24本)は銅被覆鋼線で形成した。
【0066】
得られた試料31の集合撚線及び[参考例1]の試料13の集合撚線について、屈曲特性の評価を行った。
【0067】
試料13における集合撚線の屈曲寿命は500,000回であったのに対して、試料31における集合撚線の屈曲寿命は800,000回であった。つまり、本発明の撚線である試料31は、従来の撚線である試料13と比べて、屈曲特性が1.6倍に向上することが確認できた。
【符号の説明】
【0068】
10 撚線
11 中心導体
12 撚線層
13 導体素線
14 高強度導体素線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体の周りに、導体素線を撚り合わせてなる撚線層を有する撚線において、上記導体素線及び銅被覆鋼線を用いて撚り合わせ、上記撚線層を形成したことを特徴とする撚線。
【請求項2】
上記撚線層の内、最外層の直下の層が、上記銅被覆鋼線で構成される請求項1記載の撚線。
【請求項3】
上記撚線層の最外層を除く全ての層が、上記銅被覆鋼線で構成される請求項1記載の撚線。
【請求項4】
上記中心導体の少なくとも一部が、上記銅被覆鋼線で構成される請求項1から3いずれかに記載の撚線。
【請求項5】
上記銅被覆鋼線が、1種類の鋼線材からなる請求項1から4いずれかに記載の撚線。
【請求項6】
上記銅被覆鋼線が、引張強度の異なる少なくとも2種類の鋼線材を含む請求項1から5いずれかに記載の撚線。
【請求項7】
上記銅被覆鋼線が、400MPa以上の引張強度を有する請求項1から5いずれかに記載の撚線。
【請求項8】
請求項1から7いずれかに記載の撚線の周りに、絶縁被覆層を設けたことを特徴とする耐屈曲ケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−45040(P2010−45040A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220154(P2009−220154)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【分割の表示】特願2004−277561(P2004−277561)の分割
【原出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】