説明

撥水型ガス拡散電極、その形成方法、および膜−電極接合体

【課題】 好ましくは、弗素を用いることなく、導電性およびガス透過性が共に高く且つ撥水性の高いガス拡散電極、その形成方法、およびこれを備えたMEAを提供する。
【解決手段】 撥水性微粒子26は、粒径が10〜100(μm)のシリカ粒子28と、その表面を覆う撥水被膜30とから成るもので、この撥水性微粒子26が点在する多孔質基材22の表面24は撥水性を有するものとなっている。しかも、表面24には微細な凹凸が形成されていることから、撥水性微粒子26の撥水性と相俟ってガス拡散電極20に高い撥水性が与えられており、更に、多孔質基材22の表面24が覆われていないことから、多孔質基材22自体の特性は殆ど損なわれておらず、厚み方向における高いガス透過性および低い断面加圧抵抗を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池を構成するためのガス拡散電極、その形成方法、およびこれを備えた膜−電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料として水素、メタノール、化石燃料からの改質水素等の還元剤を用い、空気や酸素を酸化剤として、電池内で燃料を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換して取り出すものである。そのため、内燃機関に比較して効率が高く、静粛性に優れると共に、大気汚染の原因となるNOx、SOx、粒子状物質(PM)等の排出量が少ないことから、近年、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。例えば、自動車用エンジンの代替、住宅用等の分散型電源や熱電供給システムとしての利用が期待されている。
【0003】
このような燃料電池は、用いる電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形、固体高分子形等に分類される。これらのうちプロトン伝導性の電解質を用いるリン酸形および固体高分子形は、熱力学におけるカルノーサイクルの制限を受けることなく高い効率で運転できるものであり、その理論効率は、25(℃)において83(%)にも達する。特に、固体高分子形燃料電池は、近年電解質膜や触媒技術の発展により性能の向上が著しくなり、低公害自動車用電源や高効率発電方法として注目を集めている。
【0004】
ところで、固体高分子形燃料電池は、一般に、薄い高分子電解質層の両面を一対のガス拡散電極で挟んだ構造を備えるものであり、通常は、このような膜−電極接合体(Membrane Electrode Assembly:以下、MEA)をセパレータを介して積層したスタック構造で用いられる。ガス拡散電極は触媒層およびガス拡散層から構成されており、これら触媒層およびガス拡散層は、一体化或いは複層化されたものもある。
【0005】
上記ガス拡散電極は、触媒層および電解質層表面に燃料ガスや空気を導くと共に、発生した電流を取り出すために、高いガス拡散性能と高い導電性とが共に要求される。また、加湿燃料中の水蒸気や反応により発生した水によるガス流路の閉塞を抑制するために優れた撥水性能を有することも要求されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−171970号公報
【特許文献2】特開2000−239704号公報
【特許文献3】特公平05−020867号公報
【特許文献4】特許第3547013号公報
【特許文献5】特開2004−055393号公報
【特許文献6】特開平11−003715号公報
【特許文献7】特開2007−048495号公報
【特許文献8】特開平05−283082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガス拡散電極に撥水性を付与する方法として、従来から、(1)導電材料自体に撥水性を持たせる、(2)ガス拡散層電極表面に撥水性を持たせる、(3)ガス拡散電極を撥水層と導電層の二層構造とする、等が提案されている。
【0008】
導電材料自体に撥水性を持たせる方法としては、例えば、炭素質材料と撥水性物質とを混合して高温に加熱する等によって炭素質材料を熔融状態の撥水性物質とを接触させてこれを被覆するものがある(例えば、特許文献1を参照。)。炭素質材料としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛等が、撥水性物質としては、弗素樹脂、珪素樹脂、シランカップリング剤、ワックスが挙げられている。また、導電性粒子とシラン化合物とを液中に分散させる等によって導電性粒子の表面にシラン化合物で撥水層を形成したものがある(例えば、特許文献2を参照。)。しかしながら、これらの方法では、材料表面に撥水皮膜が形成されることから、導電材料相互の接触が撥水被膜で妨げられるので、ガス拡散電極の導電性が著しく低下し延いては発電性能が著しく低下する問題がある。
【0009】
ガス拡散層電極表面に撥水性を持たせる方法としては、導電性多孔体の表面にシラン化合物で撥水層を形成したものがある(例えば、特許文献2を参照。)。また、電極基板をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンに浸漬し、PTFEを電極基板内部に充填すると共に、静電粉体塗装法でPTFE粉末を付着させた後、PTFEの熔融温度で加熱処理するものがある(例えば、特許文献3を参照。)。また、炭素繊維から成る電極の上に弗素樹脂で撥水処理された触媒担持炭素粉末を散布し、高温で加圧溶着固着させるものがある(例えば、特許文献4を参照。)。また、カーボン繊維と膨張黒鉛と結合剤を基材とするガス拡散電極の表面に弗素樹脂を含浸させるものがある(例えば、特許文献5を参照。)。また、カーボンペーパーにポリホスファゼンを含浸させて撥水性を持たせるものがある(例えば、特許文献6を参照。)。しかしながら、これらの方法では、ガス拡散層上のガス流路が撥水材料で塞がれるためガス拡散性能が低くなると共に、触媒層や電解質層との間の導電性が低下するので、発電性能が得られない問題がある。また、導電性を確保するためにはガス拡散電極の表面が撥水層で完全に覆われないようにする必要があるが、撥水層で覆われていない部分に水が溜まることになるため導電性と撥水性を両立困難である。
【0010】
ガス拡散電極を撥水層と導電層の二層構造とする方法としては、カーボン粒子と弗素樹脂とを含む第1多孔質層と、繊維状カーボンと弗素樹脂とを含む第2多孔質層とから構成するものがある(例えば、特許文献7を参照。)。また、撥水剤を含浸させた多孔性炭素基材と、親水性カーボンブラックおよび弗素樹脂の混合スラリーから形成される反応層とから構成するものがある(例えば、特許文献8を参照。)。しかしながら、前者の方法では、第1多孔質層がカーボン粒子と弗素樹脂の混合物から形成されるため十分な撥水性能が得られない。また、後者の方法では、撥水層表面に弗素樹脂層が形成されるため触媒層や電解質層との間の導電性が阻害され、延いては発電性能が低下する問題がある。
【0011】
また、前記特許文献1,3〜8においては、撥水材料として弗素樹脂が用いられているが、近年、弗素および一部の弗素化合物が環境配慮の観点から規制対象となっている問題もある。例えば、環境基本法第16条に基づく環境省告示「水質汚濁に係る環境基準」では、1999年2月の改訂において「人の健康の保護に関する環境基準」別表1の項目に弗素、硼素、硝酸性窒素および亜硝酸窒素が追加された。その後、水質汚濁防止法においても、2001年7月の改正で排水基準に弗素およびその化合物、硼素およびその化合物、アンモニア、アンモニア化合物、亜硝酸化合物および硝酸化合物が追加され、排出規制の対象物質になっている(水質汚濁防止法第2条第2項第1号、同法第3条第1項、水質汚濁防止法施行令第2条、排水基準を定める省令第1項)。
【0012】
また、大気汚染防止法では、煤煙、揮発性有機化合物、粉塵、有害大気汚染物質、自動車排出ガスの5種類を規制しているが、これらのうち煤煙は、「物の燃焼、合成、分解その他の処理に伴い発生する物質のうち、カドミウム及びその化合物、塩素及び塩化水素、弗素、弗化水素及び弗化珪素、鉛及びその化合物、窒素酸化物」等と定められている(大気汚染防止法第2条第1項第3号、大気汚染防止法施行令第1条)。すなわち、弗素および弗素化合物は排出規制の対象物質である。これら水質および大気に係る規制は、全ての弗素樹脂に当てはまるものではないが、製造、使用、廃棄の過程において弗素或いは有害な弗素化合物が生成する可能性を考慮して使用を避けるべきとの要求がある。
【0013】
また、今後の燃料電池の普及のためには初期費用をどれだけ下げられるかが重要な問題である。そのため、全ての材料や製造工程に低コスト化が求められているが、弗素樹脂は燃料電池材料の中では高価な材料であるから、これに代わる安価な撥水材料が望まれている。
【0014】
また、弗素樹脂で撥水膜を構成した燃料電池では、使用中に酸化性の強い弗素ガスが発生し、燃料電池システムを構成する周辺材料や周辺機器がその弗素ガスで腐食させられる懸念がある。そのため、弗素を含む物質の使用を避けたいとの要望が非常に強い。
【0015】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、導電性およびガス透過性が共に高く且つ弗素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極、その形成方法、およびこれを備えたMEAを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
斯かる目的を達成するため、第1発明の要旨とするところは、固体高分子形燃料電池を構成するために固体高分子電解質上に気体を導き得る状態で設けられる多孔質の撥水型ガス拡散電極であって、(a)導電性を有する多孔質基材の表面に撥水処理が施された無機微粒子が点在させられたことにある。
【0017】
また、第2発明の要旨とするところは、固体高分子形燃料電池を構成するために固体高分子電解質上に気体を導き得る状態で設けられる多孔質の撥水型ガス拡散電極の形成方法であって、(a)所定の撥水処理が施された無機微粒子の分散液を導電性を有する多孔質基材に担持させる担持工程と、(b)前記分散液を担持させた前記多孔質基材に乾燥処理を施す乾燥工程とを、含むことにある。
【0018】
また、第3発明の膜−電極接合体の要旨とするところは、固体高分子電解質層と、その一面および他面にそれぞれ設けられた触媒層と、それら触媒層の各々の表面に設けられた前記第1発明の撥水型ガス拡散電極とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0019】
前記第1発明によれば、撥水型ガス拡散電極は、撥水処理が施された無機微粒子すなわちその無機微粒子を核としてその表面に撥水被膜が形成された撥水性微粒子が多孔質基材の表面に点在させられることにより構成される。そのため、多孔質基材の表面にはその撥水性微粒子で微細な凹凸が形成されることから、高い撥水性を有する。すなわち、撥水性微粒子自体にそれほど高い撥水性が要求されないので、撥水処理に弗素を用いる必要がない。このとき、上記撥水性微粒子は多孔質基材の表面に設けられるので、その多孔質基材を構成する繊維や粒子相互間の導電性に何ら影響しない。しかも、点在させられた撥水性微粒子は多孔質基材の表面を覆わないので、多孔質基材と電解質層や触媒層との間の十分に高い導電性を確保できると共に、その多孔質基材の十分に高いガス拡散性も確保できる。したがって、導電性およびガス拡散性が共に高く且つ弗素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極が得られる。
【0020】
なお、第1発明において、「電解質上に」とは、固体高分子電解質の上に撥水型ガス拡散電極が直接設けられている場合の他、触媒層等の他の層を介して撥水型ガス拡散電極が設けられている場合が含まれる。
【0021】
また、前記第2発明によれば、担持工程において、撥水処理が施された無機微粒子の分散液が多孔質基材に担持され、次いで、乾燥工程において乾燥処理が施されることで撥水型ガス拡散電極が得られる。そのため、分散液の濃度を適宜定めることによって、多孔質基材の表面に撥水性微粒子を点在させ、その撥水性微粒子で微細な凹凸が形成された高い撥水性を有する前記第1発明の撥水型ガス拡散電極が得られる。このとき、上記撥水性微粒子は多孔質基材の表面に担持されるので、その多孔質基材を構成する繊維や粒子相互間の導電性に何ら影響しない。また、撥水性微粒子を多孔質基材の表面を覆い隠さないようにその表面に点在させれば、多孔質基材と電解質層や触媒層との間の十分に高い導電性を確保できると共に、その多孔質基材の十分に高いガス拡散性も確保できる。したがって、導電性およびガス拡散性が共に高く且つ弗素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極が得られる。なお、上記撥水性微粒子を担持する方法は特に限定されない。分散液の含浸、スプレー塗布、刷毛塗り等、適宜の方法を適用し得る。
【0022】
また、前記第3発明によれば、固体高分子電解質層の一面および他面に触媒層を介して前記第1発明の撥水型ガス拡散電極が設けられることによってMEAが構成されることから、導電性およびガス透過性が共に高く且つ弗素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極を備えたMEAが得られる。
【0023】
ここで、好適には、前記無機微粒子はシリカから成るものである。このようにすれば、シリカは固体高分子形燃料電池用途に十分な耐熱性を有すると共に、多孔質基材の表面に微細な凹凸を形成する撥水性微粒子の核として好適な適宜の大きさのものを容易に用意することができる。
【0024】
また、好適には、前記無機微粒子がシリカから成る場合において、前記多孔質基材は炭素から成るものであり、その表面におけるその無機微粒子の担持量がSi換算で0.01〜10(atm%)である。このようにすれば、撥水型ガス拡散電極の断面加圧抵抗が十分に低く保たれる範囲で、十分に高い撥水性を付与することができる。担持量が0.01(atm%)以上になると、多孔質基材の表面粗さにも依存するが水の静的接触角が例えば140°を超えて、従来の弗素樹脂が用いられている撥水膜よりも高い撥水性が得られる。また、担持量が10(atm%)以下であれば、多孔質基材の露出面積が十分に大きいので断面加圧抵抗の変化(増大量)が無視できる程度の小さい値に留められる。担持量は、一層好適には、0.3(atm%)以上であり、このようにすれば、静的接触角が例えば145°を超えて更に高い撥水性が得られる。また、担持量は、一層好適には、7(atm%)以下であり、このようにすれば、断面加圧抵抗が無機微粒子を担持させない場合と同程度に保たれ、導電性が一層高いガス拡散電極が得られる。
【0025】
また、好適には、前記撥水処理は前記無機微粒子をシランカップリング剤で疎水化するものである。前記無機微粒子に施される撥水処理は、従来から一般に用いられている弗素樹脂等で行うこともできるが、前述したような環境上の配慮等から弗素化合物を用いないことが望ましく、本発明によれば、前記の通り、弗素を用いなくとも撥水性の高いガス拡散電極を得ることができる。弗素を含まない撥水剤としては、ロウやシリコーン等も挙げられるが、前者は耐熱性が低く、後者は撥水性が低いので、シランカップリング剤が特に好適である。また、前記無機微粒子がシリカから成る場合には、無機微粒子および撥水被膜が共に珪素化合物であるので、それらの親和性が高く撥水処理が容易である。シランカップリング剤は、官能基および加水分解性基の異なる種々のものが知られているが、特に限定されず様々なものを用い得る。例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0026】
また、好適には、前記多孔質基材は、前記表面の算術平均粗さRaが2〜50(μm)の範囲内である。このようにすれば、ガス拡散電極に積層される電解質膜の性能に影響を与えない範囲で多孔質基材の表面が十分に粗いため、水が容易に転がる程度の高い撥水性が与えられ、高い排水性能を有するガス拡散電極が得られる。表面粗さが2(μm)以上であれば、多孔質基材の表面で水が転がる程度の撥水性が現れる。また、表面粗さが50(μm)以下であれば、電解質膜が破損し延いてはその性能が低下させられることがない。因みに、固体高分子形燃料電池を構成する電解質膜の厚さ寸法は、一般に20〜100(μm)程度の範囲内である。プロトンの移動抵抗を低くするためには電解質膜は薄い方がよいが、薄くなるほど膜に欠陥が生じ易くなるので、上記厚さ寸法の範囲が好ましい。多孔質基材の表面粗さは、電解質膜の膜厚の半分以下が好ましく、上記の通り通常用いられる膜厚が100(μm)程度以下であるから、表面粗さは50(μm)以下が好ましい。
【0027】
また、好適には、前記第2発明において、前記無機微粒子はゾル(すなわちコロイド溶液)中の分散粒子である。このようにすれば、粉体のままでは取扱いが困難な程度まで微細な粒径が1(μm)以下、例えば10〜100(nm)程度の無機微粒子を用いて容易に撥水型ガス拡散電極を得ることができる。上記ゾルが用いられる場合には、前記撥水処理は例えばゾルに撥水剤を混合することで行うことができ、これにより、同時に撥水処理が施された無機微粒子(すなわち撥水性微粒子)の分散液が得られる。例えば、前記無機微粒子がシリカである場合には、シリカゾル(コロイダルシリカともいう)を用いることができる。
【0028】
また、好適には、前記撥水性微粒子の分散液は、前記無機微粒子を含むゾルと、撥水剤と、溶媒とを混合し、適当な温度で加温しつつ撹拌することで調製することができる。攪拌時の温度は撥水剤や溶媒の種類に応じて適宜定められるが、例えば、撥水剤にシランカップリング剤、溶媒に水および2−プロパノールを用いる場合には、80(℃)程度が好ましい。
【0029】
また、前記撥水性微粒子の分散液は、上記構成成分を適宜の割合で混合することで調製されるが、好ましい混合割合の一例としては、例えば、ゾルを無機微粒子の固形分換算で0.5〜10(重量%)の範囲内、例えば5(重量%)、撥水剤を0.5〜20(重量%)の範囲内、例えば5〜10(重量%)の範囲内、精製水を1〜10(重量%)の範囲内、例えば5(重量%)、有機溶媒(ゾルの分散媒を含む)を60〜98(重量%)の範囲内、例えば80〜85(重量%)の範囲内の割合としたものが挙げられる。
【0030】
また、前記導電性を有する多孔質基材は、特に限定されず、固体高分子形燃料電池のガス拡散電極に一般に用いられている適宜のものを用い得るが、例えば、市販のカーボンペーパー、炭素繊維織物、或いは炭素繊維を樹脂炭化物で結着したもの等、炭素材料から成るものが好ましい。多孔質基材がこのような炭素繊維により構成される場合には、前記表面粗さは、その炭素繊維によって基材表面に形成される凹凸に基づくものである。
【0031】
また、上記の他、炭素繊維を炭素微粒子が相互間に介在させられた状態で樹脂で相互に結合したもの等も多孔質基材に好適である。例えば、多孔質基材の膜厚に対する繊維長の比(=繊維長/膜厚)が0.1〜1の範囲内の多数の炭素繊維と、粒径がそれら炭素繊維の繊維径よりも小さい多数の炭素微粒子と、それら多数の炭素繊維を相互間にそれら多数の炭素微粒子が介在させられた状態で相互に接合する樹脂とを含むものが挙げられる。このような多孔質基材は、高いガス透過性を有すると共に、樹脂を炭化することなく高い導電性を有するため、本発明を適用してそのガス透過性および導電性を保ちながら撥水性を高めることにより、発電特性の優れたMEAを構成することができる。また、上記のように構成されることによって炭素繊維相互の絡み合いが生じ、前記のような好適な表面粗さが得られる。前記「炭素から成る」多孔質基材には、このような炭素繊維や炭素微粒子を接合するための樹脂が炭化されないまま残存するものも含まれ、主として炭素から成るものであれば足りる。
【0032】
なお、上記の多孔質基材等において、前記炭素繊維は特に限定されず、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等の適宜のものを用い得る。ポリアクリロニトリル系炭素繊維を用いた場合には、炭素繊維の強度が高いため機械的強度の特に高いガス拡散電極が得られる。また、ピッチ系炭素繊維を用いた場合には、電気伝導性の特に高いガス拡散電極が得られる。
【0033】
また、多孔質基材を構成する前記樹脂は特に限定されないが、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱硬化性樹脂が好適である。これらの樹脂は、所望する特性等を考慮して用途に応じて選択されるが、例えば、機械的強度および耐熱性の点では特にフェノール樹脂が好ましい。
【0034】
また、固体高分子形燃料電池には、燃料極側および空気極側のそれぞれにガス拡散電極が備えられるが、本発明は、それら燃料極側および空気極側の何れの電極にも適用され得る。但し、両極で同一構成の電極が設けられることが必須ではなく、所望する特性や製造上の都合等に応じて、適宜の電極構成を採用することができ、本発明を適用されるのが両極のうちの一方のみであってもよい。
【0035】
また、本発明は、種々の固体高分子電解質が用いられた固体高分子形燃料電池に適用され、固体高分子電解質の材質は特に限定されない。例えば、イオン交換基(-SO3H基等)を有するモノマーの単独重合体または共重合体、イオン交換基を有するモノマーとそのモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、加水分解等の後処理によりイオン交換基に転換し得る官能基(すなわちイオン交換基の前駆的官能基)を有するモノマーの単独重合体、または共重合体(プロトン伝導性高分子前駆体)に同様な後処理を施したもの等が挙げられる。
【0036】
上記高分子電解質の具体例としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂等のパーフルオロ型のプロトン伝導性高分子、パーフルオロカーボンカルボン酸樹脂膜、スルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体膜、スルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFE共重合体膜、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)スルホン酸膜、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)膜、炭化水素系膜等が例示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0038】
図1は、本発明の一実施例である平板型のMEA10の断面構造を示す図である。図1において、MEA10は、薄い平板層状の電解質膜12と、その両面に備えられた触媒層14,16と、触媒層14,16の各々の表面に設けられたガス拡散電極18,20とから構成されている。
【0039】
上記の電解質膜12は、例えばNafion(デュポン社の登録商標) DE520等のプロトン導電性電解質から成るもので、例えば20〜100(μm)の範囲内、例えば50(μm)程度の厚さ寸法を備えている。
【0040】
また、上記の触媒層14,16は、例えば球状の炭素粉末に白金等の触媒を担持させたPt担持カーボンブラックから成るものである。これは、例えば田中貴金属工業(株)から市販されているもの(例えばTEC10E70TPM等)を用い得る。触媒層14,16の厚さ寸法は、例えば50(μm)程度である。
【0041】
また、上記のガス拡散電極18,20は、高い導電性を有し且つその表面と裏面(すなわち触媒層14,16側の一面)との間で容易に気体が流通し得るように構成された多孔質層で、例えばそれぞれ100〜400(μm)程度の範囲内、例えば280(μm)程度の厚さ寸法を備えている。また、このガス拡散電極18,20は、優れた撥水性を有する撥水型ガス拡散電極で、加湿燃料中の水蒸気や使用中に生成された水が容易に排出されるようになっている。
【0042】
これらガス拡散電極18,20は、ガス拡散電極20について図2に示すように、多孔質基材22を備え、その表面24に多数の撥水性微粒子26が点在するものである。図示はしないが、ガス拡散電極18も同様な構造を備えている。上記の多孔質基材22は、例えば市販のカーボンペーパー(例えば東レ製TGP-H-090)で、その表面24に点在する多数の撥水性微粒子26によって上述したような撥水性が与えられている。
【0043】
上記の撥水性微粒子26は、例えば、粒径が10〜100(μm)の範囲内のシリカ粒子28と、その表面を覆うシランカップリング剤由来の撥水被膜30とから成るものである。シランカップリング剤は親水基がシリカ粒子28に結合することから、その疎水基が表面側に位置するので、撥水被膜30は高い撥水性を有し、延いては撥水性微粒子26は高い撥水性を有する。そのため、この撥水性微粒子26が点在する多孔質基材22の表面24が撥水性を有するものとなっている。
【0044】
しかも、上記撥水性微粒子26は、多孔質基材22の表面24に0.01〜10(atm%)の範囲内、例えば5(atm%)程度のの担持量で点在させられている。そのため、表面24には微細な凹凸が形成されていることから、撥水性微粒子26の撥水性と相俟ってガス拡散電極20に例えば静的接触角が140°以上の高い撥水性が与えられている。ここで、上記担持量は、ガス拡散電極18,20の表面をEDX(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)によって定量分析した値である。この結果、本実施例のガス拡散電極18,20は、撥水処理に一般に用いられている弗素を含むことなく、十分に高い撥水性を有している。
【0045】
また、上記のように撥水性微粒子26が点在し、多孔質基材22の表面24を覆っていないことから、多孔質基材22自体の特性は殆ど損なわれていない。すなわち、厚み方向におけるガス透過性が30(kPa)の差圧で例えば8500〜10500(ml・mm/cm2/min)程度の高い値に保たれると共に、断面加圧抵抗も、2(MPa)で加圧したときの値で例えば11〜15(mΩ・cm2)程度の低い値に保たれている。
【0046】
上記平板型のガス拡散電極18,20は、例えば図3に示す工程に従って製造される。上記の図3において、まず、カーボンペーパー、シリカゾル、シランカップリング剤、精製水、および溶剤を用意し、撹拌工程P1において、シリカゾルにシランカップリング剤、精製水、および溶剤を加えて、ホットスターラーで加熱しつつ撹拌処理を施す。撹拌条件は、温度が80(℃)、回転数が300(rpm)、撹拌時間が30分である。これにより、シリカゾル中のシリカ微粒子がシランカップリング剤によって撥水処理されたシリカ撥水剤が得られる。なお、調合割合および各材料の詳細については後述する。
【0047】
次いで、担持工程P2においては、上記のシリカ撥水剤にカーボンペーパーを浸漬することにより、そのシリカ撥水剤を含浸して担持する。この含浸処理(すなわち担持処理)は、例えば1回行われるが、シリカ担持量を多くする場合には、含浸処理を必要回数繰り返すか、シリカ撥水剤の濃度を高くすればよい。
【0048】
次いで、熱処理工程P3では、シリカ撥水剤を担持したカーボンペーパーに熱処理を施すことにより、シリカ撥水剤中の溶剤および水分を除去する。これにより、カーボンペーパーから成る多孔質基材22の表面に、シリカ粒子28の表面に撥水被膜30が形成された撥水性微粒子26が、シリカ撥水剤中におけるシリカ粒子28の含有量に応じて点在した前記ガス拡散電極18,20が得られる。なお、熱処理条件の詳細については後述する。
【0049】
前記のMEA10は、このようにして製造したガス拡散電極18,20を電解質膜12の両面に触媒層14,16を介して固着することで製造される。
【0050】
ここで、上記の製造方法に従って製造したガス拡散電極の特性を評価した結果を比較例のガス拡散電極と併せて説明する。下記の表1に、撥水剤の調合仕様、撥水化処理の熱処理条件、および評価結果を示す。
【0051】
【表1】

【0052】
上記の表1において、「参考」は、多孔質基材22を構成する前記カーボンペーパーに何ら処理を施していないものであり、撥水処理前後で特性を比較するために掲載した。実施例1〜4は、日産化学工業製シリカゾルIPA-ST-ZLまたはIPA-STと、東レダウコーニング製シランカップリング剤AY43-048(化合物名:イソブチルトリメトキシシラン)と、精製水と、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)とを用いたものである。IPA-ST-ZLは、粒子径が70〜100(nm)の範囲内のシリカ微粒子を30(重量%)の割合で含むイソプロピルアルコール分散シリカゾルで、上記調合量は固形分換算値を掲げている。また、IPA-STは粒子径が10〜20(nm)の範囲内のシリカ微粒子を含む他はこれと同様に構成されたものである。また、上記調合割合における2−プロパノール量(溶剤量)には、シリカゾル中のイソプロピルアルコールも含まれる。
【0053】
なお、上記表1に示される通り、実施例2の実施例1との相違は、シランカップリング剤および溶剤の調合量のみ、実施例3と実施例1との相違は、用いたシリカゾルの種類のみ、実施例4と実施例1との相違は、用いたシリカゾルの種類、シランカップリング剤および溶剤の調合量のみである。実施例1〜4の何れにおいても、シリカ粒子の含有量が固形分で5(重量%)と少ないため、前述した工程に従って撥水化処理を施せば、撥水被膜30を有するシリカ粒子28が多孔質基材22上に点在することになる。
【0054】
また、比較例1は、撥水剤として市販のシランカップリング剤AY43-048をそのまま用いたものである。また、比較例2は、撥水剤として市販のPTFEスラリー(ダイキン工業製POLYFLON)をそのまま用いたものである。また、比較例3は、撥水剤として市販の弗素樹脂系撥水剤(新昭和コート製G210)を用いたものである。
【0055】
評価に際しては、上記の実施例1〜4は、前記図3に示す工程に従ってシリカ撥水剤を調製し、比較例1〜3は、上記表1に示した各撥水剤をそれぞれ用意し、それぞれ前記カーボンペーパーを浸漬して撥水剤を含浸させた後、上記表1に示す温度および時間で熱処理を施して、それぞれ撥水化処理を行った。
【0056】
評価した特性は、上記表1に示すように、ガス透過率、断面加圧抵抗、および撥水性(接触角)である。ガス透過率は、パームポロメータ(例えばPMI社製Capillary Flow Porometer 1200 AEL)を用いて、厚み方向の差圧を30(kPa)に設定して測定した。また、断面加圧抵抗は、Cu板でガス拡散電極を挟み、2(MPa)で加圧した状態で単位面積当たりの厚み方向の電気抵抗を測定した。また、撥水性は、接触角計(例えば協和界面科学(株)製FACE接触角計CA-DT)を用いて、水の静的接触角を測定した。各特性の測定結果は、表1に掲げた通りである。
【0057】
実施例1〜4は、撥水化処理後においても、未処理のカーボンペーパーと同等の8500〜11000(ml・mm/cm2/min)の高いガス透過性を有している。また、断面加圧抵抗についても、未処理のものに比較して僅かに高くなっているものの、11〜15(mΩ・cm2)の低い値に保たれている。また、接触角は、未処理のものが120°であったのに対して、142〜145°と著しく大きくなっている。すなわち、実施例1〜4によれば、ガス拡散電極として十分なガス透過性および導電性を維持したまま、接触角140°以上の高い撥水性が得られている。
【0058】
これに対して、シランカップリング剤のみで撥水化処理を行った比較例1は、ガス透過率が高い値に保たれているものの、断面加圧抵抗が20(mΩ・cm2)と高く、しかも、接触角が135°と比較的小さい。すなわち、導電性および撥水性が不十分であるため、ガス拡散電極に適さない。
【0059】
また、PTFEスラリー或いは弗素樹脂系撥水剤のみで撥水化処理を行った比較例2,3は、接触角が138〜141°と比較的大きいものの、ガス透過率が著しく低く、導電性も著しく低い。したがって、これら比較例2,3も、ガス透過率および導電性が不十分であるため、ガス拡散電極に適さない。
【0060】
したがって、前記表1に示した評価結果によれば、シランカップリング剤で撥水処理を施したシリカ粒子28を、多孔質基材22の表面に点在させて撥水化処理を施すことで、その多孔質基材22のガス透過性および導電性を保ったまま、高い撥水性を有するガス拡散電極18,20を得ることができる。すなわち、撥水性微粒子26の撥水性と、これが点在することにより表面24に形成される微細な凹凸とによってガス拡散電極18,20は高い撥水性を有するものとなる。このとき、撥水性微粒子26は表面24に設けられるので、多孔質基材22自体の導電性には何ら影響せず、しかも、点在する撥水性微粒子26は多孔質基材22の表面24を覆わないので、ガス透過性を低下させることや、触媒層14,16および電解質膜12との間の導電性を低下させることもない。したがって、本実施例によれば、導電性およびガス拡散性が高く且つ撥水性の高いガス拡散電極18,20が得られる。
【0061】
続いて、前記撥水性微粒子26の点在の程度、すなわちシリカ担持量を評価した結果を説明する。なお、この評価は、前記カーボンペーパーから成る多孔質基材22に代えて、図4に断面の電子顕微鏡写真を示す多孔質基材を用いて行った。
【0062】
上記多孔質基材は、例えば、図5に示す工程に従って製造したものである。以下、この図5に従って、上記多孔質基材の製造方法の概略を説明する。まず、炭素繊維と、炭素微粒子と、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂と、1−プロパノール等の溶媒とを用意する。これらの調合割合は適宜定められるが、一例を挙げると、例えば、炭素繊維を3(g)、炭素微粒子を0.4〜0.6(g)、熱硬化性樹脂を1〜2(g)、溶剤を20(g)程度である。
【0063】
なお、上記炭素繊維は、適宜のものを用いることができるが、例えば、石油や石炭等の副生成物を高温で炭化したピッチ系ファイバー等が好ましい。また、炭素繊維は、直径10(μm)程度、繊維長が50〜250(μm)程度、例えば150(μm)程度で、ガス拡散電極18,20の膜厚の1/6〜5/6の繊維長を有しているものが好ましい。また、上記炭素微粒子は、例えば50(nm)程度の極めて微小な一次粒子径を備えたもので、多数個が凝集してクラスター構造を成すものが好ましい。
【0064】
次いで、混合工程S1において、炭素繊維、フェノール樹脂、溶剤、炭素微粒子を順次に適当な混合容器に入れつつ混合を行う。この混合処理は、例えば300(rpm)程度の回転数で1日程度行う。これにより、多孔質基材用スラリーが得られる。
【0065】
次いで、成形工程S2においては、調製した多孔質基材用スラリーを、スリップキャスティング等の良く知られた適宜のシート成型法を用い、或いは、適当なプレート上に塗布することにより、シート成形を行う。
【0066】
次いで、乾燥工程S3においては、例えば室温で4時間程度の乾燥処理を施し、更に、熱処理工程S4においては、例えば150(℃)で3時間程度の熱処理を施す。これにより、スラリーから溶剤が除去され、炭素繊維が相互に絡み合い且つクラスター構造の炭素微粒子を介して熱硬化性樹脂で結着させられたシート状物が得られる。すなわち、前記MEA10のガス拡散電極18,20を構成するための多孔質基材が得られる。乾燥・熱処理後の厚さ寸法は、例えば200(μm)程度である。上記多孔質基材は、このような工程を経て製造されることから、炭素繊維は相互に絡み合い、それらの接触点において炭素微粒子が介在させられた状態で熱硬化性樹脂によって結着されている。そのため、熱硬化性樹脂が炭化されていないにも拘わらず、カーボンペーパーから成る前記多孔質基材22と同程度のガス拡散性および導電性を備えている。
【0067】
本評価においては、上記のようにして製造した多孔質基材を用い、前記実施例1に示すシリカ撥水剤のシリカ濃度を変更すると共に前記図3に示す担持工程P2の回数を変更することでシリカ担持量を調節した。得られた各試料について、シリカ担持量、撥水性(接触角)、断面加圧抵抗、および比表面積を測定した。シリカ担持量の測定は、撥水化処理を施した多孔質基材の表面をEDX(例えば、日本電子製Analytical Scanning Electron Microscope JSM-6490LA)で定量分析して算出した。検出される元素はC,Si,O,H等で、シリカ担持量はこれら検出された全元素量に対するSi量である。また、撥水性および断面加圧抵抗は前記表1に示した場合と同様にして測定した。また、比表面積は全自動比表面積測定装置(例えば、(株)マウンラック製HM model-1200)で測定した。結果を表2、図6、および図7に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
上記の表2において、シリカ担持量が0(atm%)の試料は、上述した工程で製造した多孔質基材に撥水化処理を施していないものである。この試料の接触角は130°で、前記表1に示すカーボンペーパー(参考として挙げたもの)の接触角よりも大きい。すなわち、本実施例の多孔質基材は、基材自体の撥水性がカーボンペーパーに比較して優れているので、前述したような撥水化処理を施す効果が一層顕著に得られる。
【0070】
また、上記表2および図6に示されるように、シリカ担持量が増大するに従って断面加圧抵抗は高くなる傾向にあるが、担持量が7(atm%)を超えると上昇傾向が顕著になり、10(atm%)を超えると上昇傾向が更に顕著になる。一方、接触角は、シリカ担持量が10(atm%)を超えても殆ど変化が無く150°前後に保たれている。そのため、これらの評価結果によれば、シリカ担持量は、10(atm%)以下が好ましく、7(atm%)以下が一層好ましいと言える。
【0071】
また、上記表2および図7に示されるように、シリカ担持量が僅かであっても、接触角が大きくなる傾向は明らかに認められるが、担持量が少ない範囲では、断面加圧抵抗の増大は十分に小さく留められる反面で、接触角の改善も比較的小さい。0.005(atm%)以下の担持量では接触角は138°に留まる。担持量が0.01(atm%)以上になると、接触角が140°以上になり、その後、担持量が多くなるほど接触角が大きくなる傾向が略認められる。したがって、この評価結果によれば、シリカ担持量の下限値は無く、僅かであっても効果を享受することができるが、担持量を0.01(atm%)以上にすれば顕著な効果を得ることができる。
【0072】
したがって、上記表2,図6、図7に示す結果によれば、シリカ担持量は10(atm%)以下に留めることが好ましく、7(atm%)以下に留めることが更に好ましい。また、0.01(atm%)以上、10(atm%)以下の範囲が一層好ましく、0.01〜7(atm%)の範囲が特に好ましいと言える。
【0073】
なお、比表面積は、多孔質基材表面に微粒子が存在することを確認するために測定したもので、一部の試料のデータを示す。上記表2に示されるように、シリカ担持量が0(atm%)の試料は比表面積が1.7(m2/g)に過ぎないが、担持量が多くなるほど比表面積が増大し、10(atm%)では比表面積が36.5(m2/g)にもなる。この結果は、多孔質基材表面に微粒子が点在し、これが多孔質基材表面に微細な凹凸を形成していることを表している。
【0074】
次に、上記評価に用いた多孔質基材の表面粗さと撥水性能との関係を評価した結果を説明する。なお、評価試料は、使用する炭素繊維の繊維長を種々変更することによって表面粗さを変化させて用意した。また、表面粗さは、表面粗さ計(例えば、東京精密製Surfcom120A)で測定した算術平均粗さRaである。評価結果を表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
上記表3において、転がり性は、評価試料である多孔質基材に水滴を0.05(ml)滴下した後、評価試料を10°傾けて、水滴が転がるか否かを目視で評価した。水滴が転がらなかったものを×、転がったものを○とした。ガス拡散電極18,20として用いる場合には、単に撥水性を有するだけでは足りず、ガス拡散電極18,20上の水が速やかに排出されることが必要である。したがって、上記のような転がり性が不十分な場合には、撥水性が十分であってもガス拡散電極18,20として好適とは言い難い。上記評価結果によれば、表面粗さRaが1.9(μm)以下では、接触角は140°と十分に大きいにも拘わらず、転がり性が不十分であった。表面粗さRaが2.3(μm)以上の試料では、接触角も142°以上と一層大きく、転がり性も良好であった。したがって、表面粗さRaが2(μm)以上であることが好ましいと言える。
【0077】
なお、多孔質基材の表面が粗くなり過ぎると、その上に積層される電解質膜12の品質に悪影響を及ぼす。電解質膜12の性能に影響を及ぼさないためには、表面粗さはその電解質膜12の膜厚の半分以下の値に留めることが好ましい。例えば、前述したように電解質膜12の膜厚が50(μm)程度であれば、表面粗さは25(μm)以下に留めるのがよい。
【0078】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施例である平板型のMEAを示す図である。
【図2】図1のMEAに備えられた撥水型ガス拡散電極の表面近傍の断面を模式的に示す図である。
【図3】図1のMEAに備えられた撥水型ガス拡散電極の製造方法を説明するための工程図である。
【図4】本発明の他の実施例に用いられる多孔質基材の断面の電子顕微鏡写真である。
【図5】図4の多孔質基材の製造方法を説明する工程図である。
【図6】図4の多孔質基材が用いられた撥水型ガス拡散電極のシリカ担持量とその表面における水の接触角および断面加圧抵抗との関係を評価した結果を表したグラフである。
【図7】図6においてシリカ担持量が0.03(atm%)以下の部分を拡大して示す図である。
【符号の説明】
【0080】
10:MEA、12:電解質膜、14,16:触媒層、18,20:ガス拡散電極、22:多孔質基材、24:表面、26:撥水性微粒子、28:シリカ粒子、30:撥水被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池を構成するために固体高分子電解質上に気体を導き得る状態で設けられる多孔質の撥水型ガス拡散電極であって、
導電性を有する多孔質基材の表面に撥水処理が施された無機微粒子が点在させられたことを特徴とする撥水型ガス拡散電極。
【請求項2】
前記無機微粒子はシリカから成るものである請求項1の撥水型ガス拡散電極。
【請求項3】
前記多孔質基材は炭素から成るものであり、その表面における前記無機微粒子の担持量がSi換算で0.01〜10(atm%)の範囲内である請求項2に記載の撥水型ガス拡散電極。
【請求項4】
前記多孔質基材は、前記表面の算術平均粗さRaが2〜50(μm)の範囲内である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の撥水型ガス拡散電極。
【請求項5】
固体高分子形燃料電池を構成するために固体高分子電解質上に気体を導き得る状態で設けられる多孔質の撥水型ガス拡散電極の形成方法であって、
所定の撥水処理が施された無機微粒子の分散液を導電性を有する多孔質基材に担持させる担持工程と、
前記分散液を担持させた前記多孔質基材に乾燥処理を施す乾燥工程と
を、含むことを特徴とする撥水型ガス拡散電極の形成方法。
【請求項6】
固体高分子電解質層と、その一面および他面にそれぞれ設けられた触媒層と、それら触媒層の各々の表面に設けられた請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の撥水型ガス拡散電極とを、含むことを特徴とする膜−電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−40464(P2010−40464A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205142(P2008−205142)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】