説明

撥水性微細繊維の製造方法、撥水性微細繊維および撥水処理物品

【課題】種々の物品表面に撥水性を付与することができる撥水性微細繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】被処理体の表面に形成される撥水性微細繊維の製造方法であって、高分子が溶解された溶液に撥水性材料からなる添加剤を添加してポリマー溶液を調製する工程と、ポリマー溶液に高電圧を印加して、エレクトロスピニング法により積層された微細繊維を形成する工程とを備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスピニング法を利用した撥水性微細繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水の技術は、学術的な表面科学の分野だけではなく、半導体分野ではもとより、フィルタ、建築建装資材、繊維処理などの産業分野でも広く研究されており、種々の物品の表面に撥水性を付与することにより、その性能を向上せしめるような提案が種々なされている。例えば、特許文献1では、フィルタの表面を撥水性材料で被覆することにより、汚れが付着しにくくフィルタの交換回数が少なくなり、また、フィルタを洗浄して再利用することができる技術が開示されている。
【特許文献1】実開昭56−66731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの技術に対して、近年、エレクトロスピニング技術が注目を集めている。エレクトロスピニング法は、ナノオーダー径を有する微細繊維(ナノファイバー)を比較的簡単に作ることができる方法であり、ナノオーダー径の繊維の需要が高まった最近になって、その重要性が見直されている技術である。エレクトロスピニング法は、ポリマー溶液にプラスの高電圧を印加し、それがアースやマイナスに帯電した表面にスプレーされる過程で繊維化を起こさせる手法である。このエレクトロスピニング技術を利用することにより、さらに機能性に富んだ素材や用途を開発することが望まれており、そのうちの一つとして、撥水技術への展開が課題となっている。
【0004】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、エレクトロスピニング技術を利用することにより、種々の物品表面に撥水性を付与することができる撥水性微細繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために本発明に係る撥水性微細繊維の製造方法は、被処理体の表面に形成される撥水性微細繊維の製造方法であって、高分子が溶解された溶液に撥水性材料からなる添加剤を添加してポリマー溶液を調製する工程と、ポリマー溶液に高電圧を印加して、エレクトロスピニング法により積層された微細繊維を形成する工程とを備えて構成される。
【0006】
このように構成された撥水性微細繊維の製造方法において、添加剤がフッ素系撥水剤であることが好ましい。
【0007】
なお、撥水性微細繊維の製造方法において、添加剤をシリコン系撥水剤としてもよい。
【0008】
また、このように構成された撥水性微細繊維の製造方法において、高分子が撥水性材料の高分子であることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る撥水性微細繊維は、上記構成の撥水性微細繊維の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明に係る撥水処理物品は、上記構成の撥水性微細繊維の製造方法を用いて、撥水性微細繊維が物品表面に形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高分子が溶解された溶液に撥水性材料の添加材を添加したポリマー溶液を使用することにより、エレクトロスピニング法を用いて、優れた撥水効果を有する撥水性微細繊維を比較的簡単に形成することができる。また、材質を問わず種々の物品表面に撥水性微細繊維を形成して、撥水処理物品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。本発明に係る撥水性微細繊維の製造方法は、原料(高分子)および溶媒に添加剤を加えたポリマー溶液をエレクトロスピニング法により特定条件下で噴射して繊維状物(ナノファイバー)を積層させて撥水性の微細繊維を形成するものである。
【0013】
エレクトロスピニング法は、電気の力を利用した繊維化方法(溶液紡糸)として公知の方法であり、比較的簡単にナノファイバーを作ることができる手法である。本実施形態で利用するエレクトロスピニング装置の概念図を図1に示す。
【0014】
エレクトロスピニング装置Eは、アースしたターゲット板1と、ポリマー溶液(原料液等)を保持するシリンジ2と、シリンジの先端に取り付けられたキャピラリ3と、直流電源4とを主体に構成される。このエレクトロスピニング装置Eでは、ターゲット板1とキャピラリ3との間に、直流電源4でポリマー溶液側にプラス、ターゲット板1側にマイナスの直流電圧(高電圧)を印加することにより、ポリマー溶液をキャピラリ3先端からターゲット板1に向けて噴射し、ポリマー溶液が極細化すると同時に溶媒が蒸発していく。この過程により、溶液中の液成分がほぼ揮発して繊維径が数十〜数百ナノメートルオーダーの均一なナノファイバー5からなる堆積層(不織布)がターゲット板1上に形成される。この堆積層から形成されるファイバー膜が撥水性微細繊維としてなるものである。
【0015】
このエレクトロスピニング法において、印加電圧、キャピラリ3とターゲット板1との距離、キャピラリ3の吐出口径、ポリマー溶液の組成等を適宜選択することにより、所望の繊維径および繊維長さのナノファイバーを形成することができる。
【0016】
エレクトロスピニング法における印加電圧は、特に限定されるものではないが、例えば、5〜30kV程度の範囲が好ましい。多くのポリマー溶液は5kVを超える電圧で紡糸が可能であるためであり、30kVを超えると人体に対して感電等の危険性があるためである。
【0017】
エレクトロスピニング法におけるキャピラリ3先端とターゲット板1との距離は、印加電圧やポリマー溶液の粘度等によっても異なるが、例えば、40〜150mm程度の範囲が好ましい。この距離が近すぎても遠すぎても良好なナノファイバーを形成することはできない。ここで、キャピラリ3とターゲット板1との位置関係は、キャピラリ3が取り付けられたシリンジを垂直にして、その真下にターゲット板1を置くことが一般的である。ただし、溶液の粘度が低い場合には、形成されたナノファイバー上に液だれによって液滴が付着するのを防止するために、シリンジを斜めに傾けた状態でターゲット板をシリンジの真下から少しずらした位置にセッティングするのが好ましい。
【0018】
エレクトロスピニング法におけるキャピラリ3の吐出口径は、特に限定されるものではないが、例えば、0.3〜1.0mmの範囲が好ましい。
【0019】
本実施形態でのエレクトロスピニング法で使用されるポリマー溶液は、高分子(ポリマー)である原料、この高分子を溶解する溶媒、および撥水効果を有する添加剤を混合することにより得られる。
【0020】
原料は、エレクトロスピニング法が実施可能な高分子である限り特に限定されず、例えば、ポリエチレンフタレート(PET)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ乳酸、ナイロン6、シルク等が挙げられる。
【0021】
溶媒は、上記原料を溶解するものとして当該原料の種類に応じて適宜選択されるものである。例えば、水、蟻酸、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ジメチルホルムアルデヒド、クロロホルム、アセトン等が挙げられる。また、溶媒の蒸発速度はナノファイバーを形成するためには重要な因子であるため、沸点の低い高揮発性の溶媒とそれより沸点が高い揮発性の溶媒との混合溶媒を用いてもよい。
【0022】
添加剤は、撥水性に優れ、上記溶媒に不溶または難溶な撥水性材料(撥水剤)が使用される。この撥水剤としては、フッ素系やシリコン系の撥水剤またはこれらの組み合わせを用いたものが挙げられるが、フッ素を含有したものが表面のエネルギーを低下させる効果が大きいため好ましい。フッ素系撥水剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、パーフルオロアルキル化合物、パーフルオロポリエーテル化合物等が挙げられる。
【0023】
上記ポリマー溶液中の原料(高分子)の濃度は、特に限定されるものではないが、10〜30重量%程度の範囲が好ましい。ポリマー溶液中の濃度が低すぎると霧状に噴射されて粒子になってしまうためであり、濃度が高すぎるとキャピラリ3から噴射ができないためである。また、ポリマー溶液中の撥水剤の濃度も、特に限定されるものではないが、5〜20重量%程度の範囲が好ましい。
【0024】
上述した撥水性微細繊維の製造方法によれば、ポリマー溶液をエレクトロスピニング法によりターゲット板1に向けて噴射することによりナノファイバー5を積層させて撥水性微細繊維(ファイバー膜)を形成することができる。また、撥水性微細繊維を物品の表面に形成させるためには、ターゲット板近傍に物品を配置させて、ポリマー液をエレクトロスピニング法により物品に向けて噴射すればよい。なお、ターゲット板を移動自在に構成したり、ターゲット板に代えて回転自在なドラムを用いて構成したりすることにより、物品を移動や回転させながらエレクトロスピニング法によりナノファイバーからなる堆積層を形成させれば、物品全体の表面に均一な撥水性微細繊維を形成することができる。なお、表面などに撥水性微細繊維を形成する物品としては、材質などを問わず適用することが可能であり、例えば、フィルタ、建築建装資材、衣服などの繊維類、ケーブルなどのエレクトロニクス部材、等が挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0026】
[実施例1]
図1に示す原理のエレクトロスピニング装置Eを用い、原料としてナイロン6を20wt%と、溶媒として蟻酸を70wt%と、添加剤としてフッ素系撥水剤を10wt%とを混合したポリマー溶液を、印加電圧を20kV、キャピラリ先端からターゲット板(銅板にアルミ箔を貼り付けたもの)までの距離を56mmに調整してエレクトロスピニングしたところ、繊維径が約100nmのナノファイバーが不織布状にターゲット板上に形成されて、ファイバー膜を作ることができた。ここで、フッ素系撥水剤としては、ダイキン工業製ユニダイン(フッ素系ポリマーを28.1wt%含有)を使用している。なお、本実施例ではファイバー膜を形成したのち、160°の熱風でファイバー膜(撥水剤)を1分間加熱(キュア)することにより硬化させている。
【0027】
このようにして形成されたファイバー膜の接触角を計測した結果を図2に示す。なお、図2には、上記撥水剤が不添加のポリマー溶液で形成されたファイバー膜の接触角と、(ファイバー膜が形成されていない)アルミ箔自体の接触角との計測結果も並べて示されている。この結果からもわかるように、撥水剤を添加して形成されたファイバー膜では撥水角が133.8°となり高撥水性(一般に、接触角が110°〜150°の場合を「高撥水性」という)であることを示し、優れた撥水性の効果を有することがわかる。一方、撥水剤不添加のファイバー膜では、接触角が50.7°となり撥水性(一般に、接触角が90°以上の場合に撥水性とされる)の効果が示されなかった。
【0028】
[実施例2]
図1に示す原理のエレクトロスピニング装置Eを用い、原料としてナイロン6を20wt%と、溶媒として蟻酸を70wt%と、添加剤としてフッ素系撥水剤を10wt%とを混合したポリマー溶液を、印加電圧を20kV、キャピラリ先端からターゲット板(銅板に濾材を貼り付けたもの)までの距離を56mmに調整して、紡糸時間(スプレー時間)を60分に亘りエレクトロスピニングしたところ、繊維径が約100nmのナノファイバーが不織布状にターゲット板上に形成されて、濾材表面にファイバー膜を作ることができた。ここで、フッ素系撥水剤としては、実施例1と同様にダイキン製ユニダインを使用している。また、濾材としてはパルプ繊維を使用している。なお、本実施例ではファイバー膜を形成したのち、160℃の熱風で1分間加熱することによりファイバー膜(撥水剤)を硬化させている。
【0029】
このようにして濾材の表面に形成されたファイバー膜については、ファイバーが柔らかすぎて水滴が濾材に浸み込んでしまうため、接触角を計測することができなかった。このため、本実施例での計測結果としては、水滴が濾材に浸み込むまでの時間を計測した結果を図3に示す。なお、図3には、上記撥水剤が添加されていないポリマー溶液で形成されたファイバー膜での計測結果も並べて示されている。この結果からもわかるように、撥水剤不添加のファイバー膜では、水滴が浸み込む時間が1秒未満であったのに対して、撥水剤を添加して形成されたファイバー膜では53秒となり撥水効果を確認することができた。
【0030】
以上、原料および溶媒の混合液に撥水剤を添加したポリマー溶液を使用して、エレクトロスピニング法によりファイバー膜を形成することにより、優れた撥水効果を有する撥水性微細繊維を生成することができる。また、材質を問わず種々の物品表面にこの撥水性微細繊維を形成して、撥水効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に用いられるエレクトロスピニング装置の概念図である。
【図2】上記エレクトロスピニング装置により形成された膜の接触角の測定結果を示す表である。
【図3】上記エレクトロスピニング装置により濾材表面に形成された膜において、水滴が濾材に浸み込むまでの時間の測定結果を示す表である。
【符号の説明】
【0032】
1 ターゲット板
2 シリンジ
3 キャピラリ
4 直流電源
5 ナノファイバー
E エレクトロスピニング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体の表面に形成される撥水性微細繊維の製造方法であって、
高分子が溶解された溶液に撥水性材料からなる添加剤を添加してポリマー溶液を調製する工程と、
前記ポリマー溶液に高電圧を印加して、エレクトロスピニング法により積層された微細繊維を形成する工程とを備えて構成される撥水性微細繊維の製造方法。
【請求項2】
前記添加剤が、フッ素系撥水剤であることを特徴とする請求項1に記載の撥水性微細繊維の製造方法。
【請求項3】
前記添加剤が、シリコン系撥水剤であることを特徴とする請求項1に記載の撥水性微細繊維の製造方法。
【請求項4】
前記高分子が、撥水性材料の高分子であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の撥水性微細繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の撥水性微細繊維の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする撥水性微細繊維。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の撥水性微細繊維の製造方法を用いて、撥水性微細繊維が物品表面に形成されたことを特徴とする撥水処理物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−235653(P2009−235653A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86718(P2008−86718)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000252252)和興フィルタテクノロジー株式会社 (41)
【Fターム(参考)】