説明

撮影装置

【課題】化学発光および蛍光撮影が可能な安価で小型の撮影装置を提供する。
【解決手段】被写体6を置くためのベースボード2およびデジタルカメラ3を具備した撮影フード1から構成され、ベースボード2の上面に撮影フード1は着脱可能な状態で配置され、撮影フード1にはベースボード2の上面と対向する底面を有するフランジ4を具備しており、フランジ4およびベースボード2にはそれぞれ遮光固定された少なくとも1つの遮光部材5a,5bを有し、ベースボード2上に撮影フード1を装着した際、フランジ4およびベースボード2の遮光部材5a,5bは入れ子状に配置されることでベースボード2の上面、フランジ4の底面および遮光部材5a,5bの側面から成るライトトラップ7を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分子生物学分野における化学発光の微弱光撮影に用いることができ、かつ蛍光画像も撮影可能な撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、化学発光を利用して目的のたんぱく質や核酸を検出する化学発光検出は、非常に高い感度を有するために広く利用されてきた。特に電気泳動の分野では、ゲルで分離したタンパク質や核酸をニトロセルロース、PVDFあるいはナイロンなどのメンブレンシート上にブロットして、ルミノール、アクリジニウムエステルあるいはアダマンタン化合物(ジオキセタン)などを化学発光させ、被写体であるメンブレンシートから発する微弱光を冷却CCDや高感度CMOSカメラなどのデジタルカメラにより撮影して検出する方法が確立し、それに伴い高感度撮影が可能な化学発光撮影装置が普及してきている(特許文献1および2参照)。
【0003】
一方、アガロースゲルなどで分離した核酸をゲルのままエチジウムブロマイドなどの蛍光色素で染色し、トランスイルミネーター(特許文献3参照)と呼ばれる励起光源のガラスフィルター上にゲルを載せ、核酸から発せられる蛍光をゲルの上方からデジタルカメラにより撮影して検出する方法が頻繁に行われている。従来は暗室内で蛍光の撮影を行っていたが、通常の室内で撮影が行えるに様に室内光を適度に遮断できるフードが付いたフード付きカメラが普及してきている。
【0004】
化学発光撮影に用いられる化学発光撮影装置は、一般的に被写体を設置する暗箱と暗箱に取付けられたデジタルカメラから構成されている。化学発光は極微弱な光であるため、暗箱は高度に遮光された状態を保持する必要がある。そのため暗箱は被写体を出し入れするための扉を具備した完全な箱型構造となっており、扉を閉めると完全な暗箱を形成する。一般的に分子生物学の研究室においては化学発光のみ撮影することは極希で、多くの研究室では核酸の蛍光撮影も行われている。従って用途ごとに撮影装置をそれぞれ設備しなければならず非常に不経済である。そこで専用のトランスイルミネーターを化学発光撮影装置の暗箱内に増設することにより、化学発光と蛍光の両方が撮影できる装置が市販されている。この場合、専用のトランスイルミネーターを暗箱内に設置しなければならないため装置が大型化し、さらに遮光にかかわるコストも増加することから、大変高価な装置となっている(非特許文献1参照)。
【0005】
一方、エチジウムブロマイドなどの蛍光撮影に用いることができるフード付きカメラは、コンパクトデジタルカメラのレンズ側に中空のフードが取付けられており、フードの被写体側は完全な開口状態で、その開口部を被写体が載せられたトランスイルミネーターに被せて遮光し被写体を撮影する構造となっている。このようにフード付きカメラはいたってシンプルな構造であることから安価なものとなっている。このフード付きカメラによる遮光は簡易的なものであって、仮にコンパクトデジタルカメラの代わりに高感度カメラを採用して化学発光を撮影しようとしても、フードの外から漏れてくる光に邪魔されて正常な画像を得ることはできない。そのような理由から現在フード付きカメラで化学発光撮影が可能なカメラは存在しない。
【0006】
このように化学発光検出に用いられる化学発光撮影装置にはエチジウムブロマイドなどの蛍光撮影が可能な撮影装置も存在するが、専用のトランスイルミネーターを暗箱内に設置することから非常に大型で、かつ高価な装置となっている。またエチジウムブロマイドなどの蛍光撮影に用いることができるフード付きカメラでは、化学発光撮影に対応する高度な遮光ができず化学発光撮影を行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2000−241352号 公報
【特許文献2】 特開平10−215404号 公報
【特許文献3】 特開2007−333479号 公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「ImageQuant LAS4000シリーズ」インターネット イメージャー選択ガイドPDFカタログ,2010年,GEヘルスケア・ジャパン株式会社,P.5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のように、分子生物学分野においては化学発光の微弱光撮影に用いることができ、かつ蛍光画像も撮影可能な撮影装置が求められている。しかしながら化学発光撮影装置に蛍光撮影機能を持たせた場合には、撮影装置の大型化と高価格化という問題点があり、また蛍光撮影で用いるフード付きカメラに化学発光撮影機能を持たせるには、化学発光撮影時に何らかの手段を用い十分な遮光を施さなければならないという問題点を抱えており、その解決策が強く求められている。本発明はこれらの問題を一挙に解決し、化学発光および蛍光撮影が可能な安価で小型の撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、被写体を置くためのベースボードおよびデジタルカメラを具備した撮影フードから構成され、前記ベースボードの上面に前記撮影フードは着脱可能な状態で配置され、前記撮影フードには前記ベースボードの上面と対向する底面を有するフランジを具備しており、前記フランジおよび前記ベースボードにはそれぞれ遮光固定された少なくとも1つずつの遮光部材を有し、前記ベースボード上に前記撮影フードを装着した際に前記フランジおよび前記ベースボードの遮光部材は入れ子状に配置されることで前記ベースボードの上面、前記フランジの底面および前記遮光部材の側面から成るライトトラップを形成することを特徴とする撮影装置により解決することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、撮影フードが容易に着脱可能であることから、撮影フードをトランスイルミネーターに被せることで従来のフード付きカメラと同様に蛍光撮影が可能となる。またベースボードに撮影フードを装着することでライトトラップが形成され、そのライトトラップにより撮影フード内が高度に遮光されるために化学発光撮影も可能となる。さらに蛍光撮影のための専用トランスイルミネーターを必要とせず、すでに手持ちの汎用品が使用できるうえ、トランスイルミネーターは撮影装置の外部に置かれるため撮影装置は極めて小さくかつ安価なものを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の撮影装置の一態様を示す断面図
【図2】本発明の撮影装置の遮光原理を示す断面図
【図3】本発明の撮影装置の他の態様を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図1、2および3に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明の撮影装置の一態様を示した図で、箱型形状をした撮影装置の垂直断面図である。図1において、本発明の撮影装置は撮影フード1、ベースボード2、デジタルカメラ3、フランジ4、遮光部材5a、遮光部材5bおよび被写体6より構成されている。被写体6は、PVDFやニトロセルロースなどのメンブレンシートである。デジタルカメラ3はレンズを下側に向けて撮影フード1に遮光固定されている。撮影フード1は箱型形状で内側は中空、底面は完全に開口しており、その開口部分に沿って1周する形にフランジ4が設けられている。
【0015】
フランジ4には遮光部材5aがフランジの縁に沿って1周する形に遮光固定されている。ベースボード2には、遮光部材5bが遮光部材5aの内側に沿って配置される様に遮光固定されている。図1(a)は撮影フード1が持ち上げられ、ベースボード2と離された状態を示しているが、撮影フード1をベースボード2の上に載せ装着すると、フランジ4の周辺は図1(b)の様に遮光部材5aと遮光部材5bが入れ子状に配置されることになる。それによりベースボード2、フランジ4、遮光部材5aと遮光部材5bの4面によりライトトラップ7が形成され、前記4面は黒色光無反射素材でできているため光をトラップすることができる。その結果撮影フード1およびベースボード2から成る暗箱が形成される。
【0016】
ここでライトトラップ7の機能についてより詳しく説明すると、図2において遮光部材5aはフランジ4に遮光固定されているので、外部から光hνが進入する経路は遮光部材5aの底面とベースボード2の上面の隙間に限定される。進入光hνは、遮光部材5bがベースボード2に遮光固定されているため直進的に遮光部材5bを越えることはできない。従って、進入光hνはすべての面が黒色無反射素材から成るライトトラップ7の空間において、吸収と僅かな反射と散乱を繰返して減衰し消滅する。このように非常にシンプルな構造にもかかわらず、冷却CCDカメラや高感度CMOSカメラによる化学発光の撮影に於いては十分な遮光を達成することが可能である。さらに通常の室内環境下では、フランジ4の底面と遮光部材5bの上面が必ずしも密着している必要はなく、図2で示すようにフランジ4の底面と遮光部材5bの上面に隙間が存在しても本発明を実施することが可能である。
【0017】
図1においてフランジ4の形状は、撮影フード1の外側に張り出す形状で描かれているが、遮光部材5aが取付けまたは形成可能であればどのような形状でも良く、図3(a)で示すように撮影フード1の内側に張り出す形状でも、図3(b)で示すように内側および外側に張り出す形状でも本発明を実施することができる。またフランジ4の底面とベースボード2の上面は対向していれば良く、必ずしも平行である必要はない。例えばフランジ4の底面に段が存在していても斜めであっても本発明を実施することができる。フランジ4の素材は、ライトトラップ7を形成する底面が黒色無反射素材であれば特に限定されたものではない。例えば、鉄、アルミニウム合金、ステンレスなどの金属や樹脂素材に黒色のつや消し塗装を施しても良いし、黒色の植毛紙やモルトプレーンなどの無反射シートを表面に貼り付けても本発明を実施することができる。
【0018】
図1において撮影フード1をベースボード2に装着した場合、遮光部材5aの内側に遮光部材5bが入れ子状に配置されているが、この位置関係は限定されるものではなく、逆に遮光部材5bが外側にありその内側に遮光部材5aが入れ子状に配置されても本発明は実施することができる。さらに遮光部材は遮光部材5aおよび遮光部材5bの1対だけではなく、複数の櫛形遮光部材を互い違の入れ子状に配置することにより本発明を実施することも可能である。
【0019】
遮光部材5aおよび遮光部材5bの断面形状はライトトラップ7を形成できればどのような形状であっても良く、多角形または円形でも本発明を実施することができる。さらに図3(c)で示すように遮光部材5aは撮影フード1を兼用することも可能である。また遮光部材5aは、撮影フード1およびフランジ4と1体成型加工により製作することも可能である。同様にベースボード2と遮光部材5bは1体成型加工により製作することも可能である。遮光部材5aおよび遮光部材5bの素材は、ライトトラップ7を形成する側面が光を吸収し無反射であればどのような素材を用いても本発明を実施することができる。例えば金属素材に黒色のつや消し塗装を施しても良いし、黒色の植毛紙やモルトプレーンといった無反射シートを表面に貼り付けても良い。さらに黒色マット加工の樹脂や黒色の天然ゴムやエラストマーまたは黒色スポンジなども使用することができる。
【0020】
図1(b)における遮光部材5aと遮光部材5bの間隙Wは0mm以上であればその寸法に制限はないが、撮影フード1をベースボード2から容易に着脱でき、かつ大型化しないという点を考慮すると、Wを遮光部材5aと遮光部材5bの最小間隙と定義した場合、0.5mm以上50mm以下が好ましく、さらに好ましくは2mm以上10mm以下である。ライトトラップ7の高さ寸法Hは、原理的に高ければ高いほど遮光効果が向上するためその寸法に制限はないが、Hをフランジ4の底面とベースボード2の上面の最小間隙と定義した場合、撮影フード1の着脱の容易さにおいてHの値はW/3以上10W以下が好ましく、W以上5W以下の範囲がより好ましい。
【0021】
図1で示す態様において、撮影フード1は自重のみにてベースボード2の上に載っている状態であるが、工業用ファスナーや止めネジなど自在に開閉可能な留め具を追加して、重力方向に加重したり撮影フード1をベースボード2に固定したりすることも可能である。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
本実施例では図1に示す本発明の撮影装置の一態様を用い、撮影フード1はリポニクス社製の化学発光撮影用カメラLumiCubeの底板を取り外すことにより底面全体を開口状態とした。次に、スチールを加工し黒色つや消し塗装を施したフランジ4を図1のように底面に取り付けた。ベースボード2をスチールで加工し黒色つや消し塗装を施した。断面の幅12mm高さ8mmの黒色ネオプレンゴムテープを撮影フード1に接着して遮光部材5aとした。遮光部材5bは黒色マット加工のアクリル樹脂を断面の幅10mm高さ7mmになるように加工し、ベースボード2に固定した。このときW=5mm,H=8mmであった。蛍光撮影用の被写体として、インビトロジェン社製DNAラダーをアガロースゲル電気泳動にて分離した後、エチジウムブロマイドにて染色を行った。312nmのUVトランスイルミネーターの上に上記アガロースゲルを載せ、撮影用のオレンジフィルターをカメラのレンズに取り付けた後、撮影フード1を上記アガロースゲルに被せて撮影を行った。カメラのISO感度800,絞り4.0,シャッタースピード2秒にてDNAの明瞭な蛍光画像を撮影することができた。
【0023】
次に撮影フード1をベースボード2の上に載せ装着し光の漏れ具合を確認した。カメラの感度12800,絞り1.4に設定して30分間のバルブ撮影を行ったところ、撮影画像からは光の漏れは全く確認できなかった。次に化学発光撮影用の被写体としてインビトロジェン社製のIgG抗体結合部位を持つタンパク質サイズマーカーをSDS−PAGEにて分離した後、PVDFメンブレンにブロティングしHRP標識IgG抗体を反応させた。GEヘルスケア社製のルミノール系化学発光試薬ECLに前記PVDFメンブレンを浸してからベースボード2上の被写体6の位置に載せ、撮影フード1をベースボード2の上に載せ装着してからカメラのISO感度12800,絞り1.4にて露光時間3分間のバルブ撮影を行ったところ、化学発光しているタンパク質の明瞭な画像を撮影することができた。
【符号の説明】
【0024】
1 撮影フード
2 ベースボード
3 デジタルカメラ
4 フランジ
5a 遮光部材
5b 遮光部材
6 被写体
7 ライトトラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学発光および蛍光を放出する被写体をデジタルカメラにて撮影する撮影装置であって、被写体を置くためのベースボードおよびデジタルカメラを具備した撮影フードから構成され、前記ベースボードの上面に前記撮影フードは着脱可能な状態で配置され、前記撮影フードには前記ベースボードの上面と対向する底面を有するフランジを具備しており、前記フランジおよび前記ベースボードにはそれぞれ遮光固定された少なくとも1つずつの遮光部材を有し、前記ベースボード上に前記撮影フードを装着した際に前記フランジおよび前記ベースボードの遮光部材は入れ子状に配置されることで前記ベースボードの上面、前記フランジの底面および前記遮光部材の側面から成るライトトラップを形成することを特徴とする撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−103233(P2012−103233A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260550(P2010−260550)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【特許番号】特許第4771267号(P4771267)
【特許公報発行日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(508041781)株式会社リポニクス (4)
【Fターム(参考)】