説明

撹拌水槽

【課題】 凝集分離の工程に使用する撹拌水槽において、省エネルギー化を図ると共に、均一で十分な撹拌をなしうるようにする。
【解決手段】 凝集剤が投入された原水をポンプ2を接続した原水流入管5を通し撹拌水槽6内の水中へ所定の流速で吐出させる。この撹拌水槽6内は一定間隔で配された多数の区画板で複数の室に仕切られ、かつ、天井壁と底壁との間に隙間を交互に設けて原水が上流から下流へ迂回しながら流下できるようになっている。原水流入管5は撹拌水槽6の上流側側面の下端中央部に開口し、最上流の室である急速撹拌室9を仕切っている区画板8Aに原水が直角に衝突する方向で設置されており、衝突によって生じる流れにより急速撹拌室9内は効果的に撹拌される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、撹拌水槽に関するものである。
【0002】
【従来の技術】上水処理、工業用水処理、廃水処理、汚水処理、下水処理等の分野において、水中に存在する浮遊物質、コロイド状物質、リン化合物、着色成分等を除去する作業がある。除去するための前処理の最も有力な方法として、フロック(大型浮遊物)を形成する凝集分離が知られている。
【0003】凝集分離の工程は大きく分けると2段階に分けられる。第1段階として処理すべき水に、アルミニウム塩、鉄塩等の無機凝集剤、酸及びアルカリ等のpH調整剤を混入し、急速撹拌して溶液を均一にする。この時、凝集剤中の金属イオンは浮遊物質、コロイド状物質等の表面電荷と電気的に中和結合し、フロックを形成する。第2段階としてこのフロックを破壊することなく成長させるため、処理すべき水を緩速撹拌するというものである。
【0004】撹拌については以下の2方法が一般的である。水平もしくは垂直の軸廻りに回転するパドルによる撹拌(機械撹拌)、上下もしくは左右に多数の板を水路に交互に配置し、その隙間を処理すべき水が迂流することによる撹拌(水理的撹拌)である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記した第1段階の工程では急速撹拌が必要であるため、撹拌の方法としては機械撹拌が有効である。水理的撹拌では撹拌力が低く、投入した凝集剤を全体に均一に混合させるのには不向きとされていたからである。しかし、機械撹拌では大型モーターを必要とするため、消費電力が大きくランニングコストがかさむという問題があった。
【0006】本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、その目的は省エネルギー化を図ると共に、均一で十分な撹拌をなしうる水槽を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、不純物を凝集させるための凝集剤が投入された原水を、槽内で撹拌しつつ流下させることによって前記不純物を凝集させフロックの状態にして分離可能とする撹拌水槽であって、側面には前記原水を槽内の水中へ所定の流速によって吐出させるための圧送手段を備えた原水流入管が接続されるとともに、この原水流入管が開口する室は隣接する室とは原水の流下を許容した状態で区画された急速撹拌室となっており、かつこの急速撹拌室では前記圧送手段から吐出された水流を前記区画壁にほぼ直角に衝突するようにしてある構成としたところに特徴を有する。
【0008】請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記槽内は、複数の区画壁によって原水の流下方向に沿って前記急速撹拌室を最上流とした複数の室に区画され、さらに原水が各区画壁を流下するときの流域において流れ方向と直行する方向の隙間が下流側に行くに連れて次第に大きくなるように設定されているところに特徴を有する。
【0009】
【発明の作用及び効果】<請求項1の発明>請求項1の発明によれば、前記圧送手段から吐出された水流が前記区画壁にほぼ直角に衝突することにより、急激な撹拌をなしうる水流が発生する。この水流が凝集剤を投入した原水の急速撹拌室内での淀むことのない、均一で十分な急速撹拌を引き起こす。よって、撹拌力が高い水流を利用しているので省エネルギー化が図れ、かつ均一で十分な撹拌ができる。
【0010】<請求項2の発明>請求項2の発明によれば、前記構成の隙間を適正に決定することにより、上流では早い流速による強い撹拌を、下流に行くに連れて流速が遅くなり緩やかな撹拌を促すことができ、形成されたフロックを破壊せず成長させることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。本発明の実施形態を図1ないし図2によって説明する。まず、凝集分離の工程の概要を説明すると、貯水層1に貯めておいた処理すべき水(以下、原水とする)に、凝集剤、pH調整剤を添加し、ポンプ2(圧送手段)にて原水流入管5を通し直方体の撹拌水槽6に吐出させる。この撹拌水槽6内に区画された室のうち最上流側の室ではポンプ2からの吐出流により急速撹拌がなされる。この後、各室を迂回しつつ流下する過程では緩速撹拌がなされ、この間に成長したフロックが最下流の室で除去される。
【0012】さて、この撹拌水槽6の上流側の下端には原水流入管5が、下流側の下端には排水管7がそれぞれ接続されている。また、撹拌水槽6内は、一定ピッチ毎に配された多数の区画板8A〜8Gにより複数の室に区画されている。このうち、最上流の区画板8Aは、撹拌水槽6の底面に全幅に亘って立設したものであり、原水流入管5が接続されている壁面と平行に設けられている。また、この区画板8Aの上端と撹拌水槽6の上端との間には、所定の隙間が保有されるようになっている。さらに、上記最上流の区画板8Aに続いて設けられる2番目以降の区画板8B〜8Gは天井壁からのものと、底壁からのものとが交互に繰り返されるようにしてある。
【0013】原水流入管5には、凝集剤導入管3とpH調整剤導入管4と、原水を最上流の室内に吐出させるためのポンプ2(ニクニ株式会社製 20KPD04Z)が接続されている。原水流入管5は、ポンプ2より吐出された水流が最上流の室の区画板8Aに直角に衝突するような方向で撹拌水槽6の側面に開口している。また、原水流入管5は撹拌水槽6における前記側面の下端中央部に配されている。これは、槽内に流れのよどみを生じにくくし、撹拌の均質化を図るための配置上の工夫である。すなわち、原水がポンプ2から撹拌水槽6の水中に吐出されると、原水は最上流の室の区画板8Aに直角に衝突した後、区画板8Aの壁面に沿って放射状に拡散し、その後、区画板8Aと直交する壁面、さらには原水流入管5が接続されている前壁面へと回流する循環した流れを作る。これにより、最上流の室(以下、急速撹拌室9とする)内は流れのよどみ部分を作らず、室内を均一に撹拌させることができるのである。
【0014】なお、この実施形態では図2のように撹拌水槽6の寸法をa=100mm、b=450mm、d=600mmとし、最上流の室に吐出させる流速を1.5〜2.0m/secと設定した。かくして、この水流即ち急速撹拌水流の作用により原水は急速撹拌室9で急速に撹拌される。
【0015】原水が急速撹拌室9に吐出されると、最上流の区画板8Aの上端と撹拌水槽6の上端との間の隙間H1を乗り越えて隣の室へと流下する。さらに、2番目の区画板8Bの下端と撹拌水槽6との隙間L1を通過し、3番への室へと流下する。このように最下流の排出室10まで天井壁の隙間H1〜H4と底壁の隙間L1〜L3を交互に通過し、その間の室内を上下に迂回しながら流下する。天井壁の隙間はH1からH4の順に次第に大きくしてある。底壁の隙間も同様にL1からL3へ行くに従って大きくなっている。即ち、上流から下流に向かうに連れて、天井壁の隙間、底壁の隙間という各グループ内で大きくしているのである。また、この実施形態では撹拌水槽6内の室数を図2のようにc=8とした。
【0016】最下流の排出室10では、図示はしないが天井面に開閉式の扉があり、そこから成長したフロックを除去する別装置までフロック除去管にて連結されている。処理後の原水は下端に設置されている排水管7より排出される。
【0017】本実施形態の撹拌水槽6は上記のように構成されたものであり、次のような作用効果を発揮することができる。ポンプ2を駆動させると、貯水槽1内の原水が原水流入管5を介して撹拌水槽6内に吐出される。このとき、原水流入管5には凝集剤とpH調整剤とがそれぞれ導入管3、4を経て供給される。
【0018】ポンプ2にて圧送された原水は、前記したように、最上流の区画板8Aの中央下端部に衝突する。この衝突によって、衝突地点を中心として放射方向へ拡散する急速な流れを生じる。そして、この拡散水流は急速撹拌室9内の各壁面に沿って回流するため、同室9内に流れのよどみを生じない。かくして、上記した急速撹拌水流の作用により、凝集剤・pH調整剤と原水とが効果的に撹拌された処理水となる。
【0019】こうして急速撹拌室9内で撹拌された処理水は、最上流の区画板8Aの上端を乗り越えて2番目の室へ移行する。さらに、2番目の室と3番目の室とは底面側において連通しているため、処理水は2番目の室から3番目の室へと流れ込む。3番目の室から4番目の室への流れ込みは、3番目の区画板8Cの上端を乗り越えることによってなされ、以後、処理水は順に底面側、天井側の隙間を通って流下してゆく。この間、区画板における底面側の各隙間及び天井側の各隙間はそれぞれ下流側へ行くに連れて大きくしてあるため、処理水の流下速度は下流側の室へ行くに連れ徐々に低下してゆく。これにより、処理水が各室を流下する過程で、フロックを破壊することなく成長させることができるため、最下流の室(排出室10)においてフロックの回収がしやすくなる。こうしてフロックの回収により、処理が完了した処理済み水は排出管7を通して必要な他の処理装置あるいはそのまま外部へ排出される。
【0020】以上のように、本実施形態によれば、ポンプ2から急速撹拌室9内に吐出された原水を最上流の区画板8Aに衝突させて室9内でよどみのない均一な撹拌状況を得ることができる。しかも、ポンプを駆動させるだけの電力ですむため、槽内全体をファンにて撹拌させる大型モータを駆動させるものに比較すれば、省電力化が図れる。また、下流へ行くに従い区画板8の隙間H1〜H4及びL1〜L3を次第に大きくしたことで、急速な流速による強い撹拌から遅い流速による緩やかな撹拌へと変化させることができる。よって形成されたフロックを排出室10まで破壊せず成長させることができる。
【0021】<他の実施形態>本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)本実施形態では、区画板によって原水の流れ方向と直行するような隙間を天井側もしくは底面側に設けたが、これに代え、側面に形成するようにしてもよい。
【0022】(2)また、隙間に代えて区画板に孔を設けるような形態であってもよい。この場合には、上流側から下流側へ行くにつれ、孔径を大きくすればよい。
【0023】(3)撹拌水槽の各寸法、室数、最上流の室に吐出させる流速は、前記したものに限らず設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の正面図である。
【図2】撹拌水槽の上流部分を示す斜視図である。
【符号の説明】
1…貯水槽
2…ポンプ
3…凝集剤導入管
4…pH導入管
5…原水流入管
6…撹拌水槽
7…排出管
8A,8B,8C,8D,8E,8F,8G…区画板
9…急速撹拌室
10…排出室
H1,H2,H3,H4…天井壁側の隙間
L1,L2,L3…底壁側の隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】 不純物を凝集させるための凝集剤が投入された原水を、槽内で撹拌しつつ流下させることによって前記不純物を凝集させフロックの状態にして分離可能とする撹拌水槽であって、側面には前記原水を槽内の水中へ所定の流速によって吐出させるための圧送手段を備えた原水流入管が接続されるとともに、この原水流入管が開口する室は隣接する室とは原水の流下を許容した状態で区画された急速撹拌室となっており、かつこの急速撹拌室では前記圧送手段から吐出された水流を前記区画壁にほぼ直角に衝突するようにしてあることを特徴とする撹拌水槽。
【請求項2】 前記槽内は、複数の区画壁によって原水の流下方向に沿って前記急速撹拌室を最上流とした複数の室に区画され、さらに原水が各区画壁を流下するときの流域において流れ方向と直行する方向の隙間が下流側に行くに連れて次第に大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1記載の撹拌水槽。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2002−166152(P2002−166152A)
【公開日】平成14年6月11日(2002.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−363328(P2000−363328)
【出願日】平成12年11月29日(2000.11.29)
【出願人】(000101639)アラコ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】