説明

擁壁補強構造物及びその構築方法

【課題】掘削、埋戻し作業を少なくし、工期や工費の低減に優れた擁壁補強構造物及びその構築方法を提供する。
【解決手段】逆T型擁壁50などの片持ばり式擁壁の地表付近より上方の竪壁51下部に沿って形成された竪壁補強部10と、この竪壁補強部10に一体化され、逆T型擁壁50のつま先版52Aの上方の地表付近に形成された地表基礎部11と、この地表基礎部11に一体化され、かつ逆T型擁壁50のつま先版52Aの前方の地中に形成される水平力支持部12と、を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擁壁補強構造物及びその構築方法に関し、詳しくは土止め壁又は貯槽の外周壁に用いられる擁壁の耐震補強のための構造物及びその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
擁壁は、一般的に、土圧や水圧に対抗して土の崩れを防ぐ土止め壁として、例えば、切り取りや盛り土をした法面が崩れるのを防いだり、橋台や岸壁や宅地周辺の土止めなどに使用されている。また、土止め壁以外にも、汚水中の浮遊物を沈殿分離し、沈殿物と上澄液に分ける沈殿槽等の貯槽の外周壁にも利用されている。
ここで、沈殿槽等の貯槽の外周壁に用いた逆T型擁壁50には、地震時に、図5に示すように、貯留された汚水(貯留物)Wからの水圧(側圧)により外側方向への擁壁転倒モーメントがかかる。そのため、図5に示すように、底版52と竪壁51との接合部(A部分)や竪壁51の下部内側(B部分)、及び底版52におけるかかと版52Bと杭53との接合部(C部分)や杭地中部(D部分)に亀裂や破損が生じやすい。
この擁壁における地震時の転倒を防ぐ耐震補強の従来例では、逆T型擁壁50にかかる水平力を負担するために、図6に示すように、底版52の前側(つま先版52A)の前方に杭(又は鋼矢板)60を逆T型擁壁50に沿って打設すると共に、つま先版52Aの前面を拡幅(底版拡幅)して、この拡幅部61を介して杭(又は鋼矢板)60と逆T型擁壁50を一体化させ、地震の際の水平力や転倒モーメントの一部を杭(又は鋼矢板)60で負担させるものである。なお、この際、必要に応じて、竪壁の耐力不足の場合にはバットレス(又は壁の増し厚)62を形成して耐力を確保する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の擁壁補強では、底版拡幅のために地盤Gの掘削、埋戻しが必要であり、そのため、掘削のための土留め・支保工・水替え等や掘削土の仮置き・管理、埋戻し土の締め固めなどの施工上の煩雑な作業の発生に伴い、工期と工費がかかるという問題がある。また、擁壁の外周周辺に建築物や工作物が存在する場合には、これらの構造物に対して影響を与えることなく擁壁を補強することは困難であった。
そこで、本発明の主たる課題は、掘削、埋戻し作業を少なくし、工期や工費の低減に優れた擁壁補強構造物及びその構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決した本発明は、次のとおりである。
<請求項1記載の発明>
片持ばり式擁壁の地表付近より上方の竪壁下部に沿って形成された竪壁補強部と、この竪壁補強部に一体化され、前記擁壁底版つま先部の上方の地表付近に形成された地表基礎部と、この地表基礎部に一体化され、かつ前記擁壁底版つま先部の前方の地中に形成される水平力支持部と、を備えた、
ことを特徴とする擁壁補強構造物である。
本発明に係る、補強の対象とする片持ばり式擁壁としては、逆T型擁壁、L型擁壁および逆L型擁壁を含む。
【0005】
<請求項2記載の発明>
請求項2記載の発明は、前記水平力支持体は、鋼矢板、杭又は地中連続壁である請求項1記載の擁壁補強構造物である。
【0006】
<請求項3記載の発明>
前記地表基礎部は、地表を浅掘した部分あるいは地表上に形成される補強床又は補強梁である、請求項1又は2記載の擁壁補強構造物である。
【0007】
<請求項4記載の発明>
請求項4記載の発明は、前記片持ばり式擁壁が、土止め壁又は貯槽の外周壁として用いられるものである、請求項1乃至3のいずれか1項記載の擁壁補強構造物である。
【0008】
(作用効果)
逆T型擁壁などの片持ばり式擁壁の地表付近より上方の竪壁下部に沿って形成された竪壁補強部と、この竪壁補強部に一体化され、擁壁底版つま先部の上方の地表付近に形成された地表基礎部と、この地表基礎部に一体化され、かつ前記擁壁底版つま先部の前方の地中に形成される水平力支持部と、を備えた構成とすることにより、地震が発生した際には、前記擁壁の竪壁にかかる水平力の一部を、竪壁補強部や地表基礎部が受け、受けた水平力を、地表基礎部を介して水平力支持部に最終的に伝達することができる。
水平力支持部としては、鋼矢板、鋼管杭、H形鋼杭などの鋼製杭、RC杭、PHC杭、SC杭などの既製コンクリート杭、場所打ちコンクリート杭又は地中連続壁から地盤状況等により適宜選択すればよい。
地表基礎部は、地表を浅掘した部分に形成される補強床又は補強梁であることにより、従来の擁壁補強のようなつま先版の前面を拡幅(底版拡幅)する必要がないため、ほとんどドライワークとなり掘削や埋戻し作業が軽減され、また、掘削に伴う仮設が軽微なもので済むため、工期及び工費の面で有利である。
なお、逆T型擁壁などの片持ばり式擁壁は、土止め壁又は貯槽の外周壁として用いられるものも含まれる。
【0009】
<請求項5記載の発明>
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項記載の擁壁補強構造物の構築方法であって、
片持ばり式擁壁に沿って、擁壁底版つま先部の前方に水平力支持体を形成し、その後、前記擁壁の竪壁から水平力支持体までの部分を浅掘し、その後、地表基礎部及び竪壁補強部を形成する、
ことを特徴とする擁壁補強構造物の構築方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、掘削、埋戻し作業を少なくし、工期や工費を低減することができる等の利点がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る擁壁補強構造物について、一実施形態である沈殿槽の外周壁に用いられる逆T型擁壁に基づき説明する。
<擁壁補強構造物の構成>
本発明に係る擁壁補強構造物1は、図1に示すように、地震時に逆T型擁壁50にかかる水平力の一部を負担するために、逆T型擁壁50の底版52の前側(つま先版側52A)に形成されるものであり、本実施の形態では、図示はしないが、角型又は円筒型の沈殿槽の外周壁を形成している逆T型擁壁50の外周を連続して囲っているものである。
【0012】
本発明に係る擁壁補強構造物1は、図1に示すように、逆T型擁壁50の地表付近より上方の竪壁51下部に沿って形成された竪壁補強部10と、この竪壁補強部10に一体化され、逆T型擁壁50のつま先版52Aの上方の地表付近に形成された地表基礎部11と、この地表基礎部11に一体化され、かつ逆T型擁壁50のつま先版52Aの前方の地中に形成される水平力支持部12と、を備えている。
【0013】
竪壁補強部10は、竪壁51の下部(竪壁51の高さの略半分の高さ)の破損(例えば、鉄筋欠損や地震による竪壁下部の破損)に対する補強として機能し、実質的には、竪壁51の増し打ち部分となっている。地震が発生した際には、逆T型擁壁50の竪壁51にかかる水平力の一部を、まずこの竪壁補強部10が受けるものである。なお、竪壁補強部10の高さは、内水位や竪壁50との必要接合長を勘案したうえで地表付近からの高さを適時設定する。
【0014】
地表基礎部11は、地表から50cm程度の深さで掘削(浅掘)したところに形成される補強床又は補強梁であり、地震が発生した際に竪壁補強部10が受けた水平力と地表基礎部11の端部から受けた水平力を、後述する水平力支持部12に伝達するためのものである。従来の擁壁補強のようなつま先版52Aの前面を拡幅(底版拡幅)する必要がないためほとんどドライワークとなり、掘削や埋戻し作業が軽減され、また、掘削に伴う仮設が軽微なもので済むため、工期及び工費の面で有利である。なお、本実施の形態では補強床11aを用いているが、この補強床11aに代えて補強梁(図示せず)を使用する場合には、梁と梁の合間に植樹等をすることができる。また、地表基礎部11は、地表付近に形成すればよいため、必ずしも掘削の必要はなく、既存の地表面上に形成してもよい。
【0015】
水平力支持体12は、地震が発生した際に、逆T型擁壁50の竪壁51にかかる水平力の一部を最終的に負担するものである。水平力支持体12は、壁体又は杭体から構成されるものであり、具体的には、鋼矢板、鋼管杭、H形鋼杭などの鋼製杭、RC杭、PHC杭、SC杭などの既製コンクリート杭、場所打コンクリート杭、地中連続壁から地盤状況等により適宜選択されるものである。なお、本実施の形態のように、鋼矢板12aを用いる場合には、沈殿槽における逆T型擁壁50の底版52や基礎底版54および底版接続部からの漏水の地中周囲への逸散低減を図ることができる。
【0016】
<擁壁補強構造物の構築方法>
以下に、沈殿槽の外周壁を形成している逆T型擁壁50を連続して囲う擁壁補強構造物1の構築方法の一実施形態を図1乃至図4に基づき説明する。
沈殿槽の外周壁を形成している逆T型擁壁50に沿って、逆T型擁壁50の底版52の外周側(つま先版52A)の前方に水平力支持体12として鋼矢板12aを順次打設する。その後、図示しないが、逆T型擁壁50の竪壁51から鋼矢板12aまでの部分を、地表から50cm程度の深さで掘削する。そして、掘削部分に地表基礎部11として補強床11aを形成するための鉄筋の配筋を行なうと共に、この補強床11aと鋼矢板12aを一体化させるために、図2及び図3(1)に示すように鋼矢板12aの頭部のウェブ表面にスタッド鉄筋(若しくはねじ鉄筋)13又は図3(2)に示す鉄筋溶接鋼板14を所定の間隔をもって複数取付ける。
また、竪壁50の下部の破損に対する補強となる竪壁補強部10を形成するために、図4に示すように、竪壁51に対して所定の間隔をもって後施工アンカー鉄筋15を複数取付ける。
【0017】
上記の鉄筋の配筋や後施工アンカー鉄筋の取付けに前後して、型枠(図示せず)を取付ける。その後、コンクリートを打設することにより、擁壁補強構造物1が形成される。なお、補強床11aの部分を竪壁補強部10よりも先にコンクリート打設してもよいし、補強床11aと竪壁補強部10とは同時に打設してもよい。
【0018】
なお、本実施の形態では、水平力支持体12として鋼矢板12aを順次打設したが、それに代えて鋼管杭、H形鋼杭などの鋼製杭、RC杭、PHC杭、SC杭などの既製コンクリート杭、場所打コンクリート杭、地中連続壁としてもよく、また、地表基礎部11として補強床の代わりに補強梁としてもよい。逆T型擁壁に替えて、L型擁壁および逆L型擁壁の場合も本発明の擁壁補強構造物を適用できるが、その構造は、上記の逆T型擁壁の補強形態から直ちに判るであろうから、図示を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る擁壁補強構造物の概要を説明するための縦断面図である。
【図2】水平力支持体と地表基礎部との接合部分(D部分)の平面図である。
【図3】その縦断面図である。
【図4】竪壁補強部と逆T型擁壁とのと接合部分(E部分)の縦断面図である。
【図5】沈殿槽(貯槽)の外周壁に用いられる逆T型擁壁の概要を説明するための縦断面図である。
【図6】従来の擁壁補強構造物の概要を説明するための縦断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1…擁壁補強構造物、10…竪壁補強部、11…地表基礎部、11a…補強床、12…水平力支持部、12a…鋼矢板、50…逆T型擁壁、51…擁壁竪壁、52…擁壁底版、52A…つま先版、52B…かかと版、53…PC杭、54…貯槽底版。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片持ばり式擁壁の地表付近より上方の竪壁下部に沿って形成された竪壁補強部と、この竪壁補強部に一体化され、前記擁壁底版つま先部の上方の地表付近に形成された地表基礎部と、この地表基礎部に一体化され、かつ前記擁壁底版つま先部の前方の地中に形成される水平力支持部と、を備えた、
ことを特徴とする擁壁補強構造物。
【請求項2】
前記水平力支持体は、鋼矢板、杭又は地中連続壁である請求項1記載の擁壁補強構造物。
【請求項3】
前記地表基礎部は、地表を浅掘した部分あるいは地表上に形成される補強床又は補強梁である、請求項1又は2記載の擁壁補強構造物。
【請求項4】
前記片持ばり式擁壁が、土止め壁又は貯槽の外周壁として用いられるものである、請求項1乃至3のいずれか1項記載の擁壁補強構造物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の擁壁補強構造物の構築方法であって、
片持ばり式擁壁に沿って、擁壁底版つま先部の前方に水平力支持体を形成し、その後、前記擁壁の竪壁から水平力支持体までの部分を浅掘し、その後、地表基礎部及び竪壁補強部を形成する、
ことを特徴とする擁壁補強構造物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−280738(P2008−280738A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125650(P2007−125650)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【Fターム(参考)】