説明

操作されたヘテロ二量体タンパク質ドメイン

本発明は、少なくとも2つの異なる操作されたドメインを含むマルチドメインタンパク質であって、各ドメインのそれぞれが2以上の現存の相同親ドメイン由来のアミノ酸配列セグメントを含み、それによって、操作されたドメインに親ドメインの会合特異性と異なる会合特異性を付与する前記操作されたマルチドメインタンパク質を提供する。特に、操作されたドメインは互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する。操作されたタンパク質の設計方法および使用方法もまた含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作されたヘテロ二量体タンパク質ドメインおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界には、関連タンパク質のファミリーに分類される多数のホモ二量体タンパク質およびタンパク質ドメインが存在する。このようなタンパク質およびドメインは、しばしばそれら自身とホモ二量体を形成するが、他のファミリーメンバーとはヘテロ二量体を形成しない。他方では、ヘテロ二量体またはヘテロ多量体タンパク質は、しばしば有用である。それらは新規治療剤および研究ツールを提供する。例えば、少なくとも2つの異なる抗原に結合できる二重特異性抗体(BsAb)は、in vitroおよびin vivoでの免疫診断および療法のための標的剤ならびに診断イムノアッセイのための標的剤として広範囲の臨床応用に大きな可能性を有する。診断分野において、細胞表面分子の機能特性を探ることおよび細胞障害を媒介する種々のFc受容体の能力を明確にすることに大変役立ってきた(Fanger et al. (1992) Crit. Rev. Immunol. 12:101-124、その教示は参照により本願に組み込まれる)。しかしながら、単に、特異性を有さずに相互作用できる多数構成成分の共発現によりBsAbが生成される場合、しばしば多数の種が生成され、望ましくない種から望ましい種を分離することがしばしば困難である。従って、ヘテロ多量体を効率よく製造する技術を有することが望ましい。組換え細胞培養物からBsAbを直接に回収することができるように、ホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する抗体サブユニットを生成することが特に望ましい。
【0003】
ヘテロ二量体タンパク質の製造方法は報告されている。例えば、StahlおよびYancopoulosは、循環中の所定のサイトカインに結合することができ、それに伴ってそのサイトカインの活性を遮断することができる可溶性ヘテロ二量体受容体を形成する2つの異なる受容体サブユニットを含む融合タンパク質の使用を記載した(米国特許第6,472,179号参照)。Carterらはヘテロ二量体のFc部分を作製するための“腔内突起(protuberance-into-cavity)”アプローチを記載した(米国特許第5,807,706号参照)。
【0004】
これらの既存の方法により、個々のヘテロ二量体の構築は可能になるが、多数のドメイン相互作用を伴う多量体タンパク質の構築のための一般的技術は提供されない。従って、多数の異なる潜在的会合パートナーを含む環境において特異的に会合できるヘテロ二量体を設計するための一般システムが求められている。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
本発明は、優先的にヘテロ二量体化またはヘテロ多量体化するタンパク質ドメインを設計するための新規アプローチを提供する。特に、本発明は、ヘテロ二量体化またはヘテロ多量体化を促進するタンパク質-タンパク質相互作用界面を設計するための“鎖交換操作ドメイン(Strand Exchange Engineered Domain)”(SEED)戦略を用いる。本発明はまた、本発明の方法を用いて操作されたドメインを含むタンパク質を提供する。
【0006】
一側面において、本発明は、非同一の操作された第1および第2ドメイン少なくとも含むマルチドメインタンパク質に関し、前記操作された第1および第2ドメインのそれぞれが2以上の天然に存在する相同親ドメイン由来のアミノ酸配列セグメントを含むタンパク質-タンパク質相互作用界面を含み、それによって前記操作された第1および第2ドメインに親ドメインの会合特異性と区別される会合特異性が付与されており、前記操作された第1および第2ドメインが互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する(例えば、ヘテロ二量体は二量体の総量の55%、65%、75%、80%、85%、90%または95%以上を構成する)。この操作された第1および第2ドメインは抗体可変領域ではない。いくつかの実施形態において、本発明のマルチドメインタンパク質は、操作された第1ドメインを含む第1サブユニットおよび操作された第2ドメインを含む第2サブユニットを含む。本明細書において、“アミノ酸配列セグメント”は、2以上のアミノ酸(例えば、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上または10以上)を含む任意の配列要素を含む。
【0007】
好ましい実施形態において、本マルチドメインタンパク質は、免疫グロブリンスーパーファミリードメイン(例えば抗体のCH3ドメイン)である天然に存在する相同親ドメインから設計された(操作された)非同一ドメインを含む。具体的には、この操作されたドメインはIgGおよびIgAのCH3ドメインに由来する。
いくつかの実施形態において、本発明のマルチドメインタンパク質は、ジスルフィド結合で結合したポリペプチド鎖の一部である操作されたドメインを含む。
一実施形態において、本発明のマルチドメインタンパク質に含まれる操作されたドメインの1つは、同じ親ドメイン由来の少なくとも2つの非隣接配列セグメントを含む。他の実施形態において、操作された第1および第2ドメインのそれぞれは、同じ親ドメイン由来の少なくとも2、3または4以上の非隣接配列セグメントを含む。他の実施形態において、操作されたドメインの少なくとも1つは、長さで少なくとも2つのアミノ酸である各親ドメインからの配列セグメントを含む。他の実施形態において、操作されたドメインの少なくとも1つは、長さで少なくとも3、4、5または6アミノ酸である各親ドメインからの配列セグメントを含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、本発明のマルチドメインタンパク質は第1生物活性ドメインを含む。第1生物活性ドメインは、操作された第1ドメインのN末端位置またはC末端位置を占めることができる。
さらなる実施形態において、マルチドメインタンパク質は第1生物活性ドメインに加えて第2生物活性ドメインをさらに含むことができる。一実施形態において、第2生物活性ドメインは操作された第2ドメインと会合し、操作された第2ドメインのN末端位置またはC末端位置を占めることができる。他の実施形態において、第2生物活性ドメインはまた、操作された第1ドメインと会合し、第1生物活性ドメインの反対側の位置を占めることができる。例えば、第1および第2生物活性ドメインは、それぞれ、操作された第1ドメインのN末端位置およびC末端位置を占めることができる。
【0009】
二重特異性抗体を生成するために本発明のマルチドメインタンパク質を用いることができる。例えば、本マルチドメインタンパク質は、抗体可変領域を含む第1生物活性ドメインおよび、異なる特異性を有する第2抗体可変領域を含む第2生物活性ドメインを含むことができる。
他の側面において、本発明は、第1生物活性領域が、第1特異性または特異性の第1の組み合わせの2以上の抗体可変領域を含むマルチドメインタンパク質を提供する。本マルチドメインタンパク質はまた、第2特異性または特異性の第2の組み合わせの2以上の抗体可変領域を含む第2生物活性領域を含むことができる。例えば、マルチドメインタンパク質は、1以上の一本鎖Fv部分、ダイアボディ(diabody)(1つのVH-VL鎖)、一本鎖ダイアボディ[VH(1)-VL(2)-----VH(2)-VL(1)]または他の一本鎖Fv融合反復配列(同一または異なる特異性の)を含むことができる。
他の側面において、本発明は、第1生物活性領域が、第1特異性または特異性の第1組み合わせの2以上の抗体可変領域を含むマルチドメインタンパク質を提供する。マルチドメインタンパク質は、第1の特異性組み合わせと実質的に異なる、第2の特異性または特異性の第2の組合わせの2以上の抗体可変領域を含む第2生物活性領域をさらに含む。
【0010】
本発明は、さらに、生物系に投与したときに生物活性ドメインを共局在化させる方法を考慮する。本方法は、種々の実施形態における前述の第1および第2生物活性ドメインを含む多量体タンパク質を生物系に投与する工程を含む。一実施形態において、生物系は哺乳動物である。より好ましい実施形態において、生物系はヒトである。
他の側面において、本発明は、界面で接する非同一の操作された第1および第2ドメインを少なくとも含むマルチドメインタンパク質を提供する。前記操作された第1ドメインの界面は少なくとも2つのアミノ酸配列セグメントを含み、各セグメントは天然に存在する異なる相同親ドメインに由来し、それによって親ドメインの会合特異性と区別される会合特異性が付与され、前記操作された第1および第2ドメインは互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する。好ましい実施形態において、操作された第2ドメインはまた、少なくとも2つのアミノ酸配列セグメントを含み、各セグメントは天然に存在する異なる相同親ドメインに由来し、それによって親ドメインの会合特異性と区別される会合特異性が付与され、前記操作された第1および第2ドメインは互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する。
【0011】
さらに他の側面において、本発明は、界面で接する操作された異なる第1および第2ドメインを少なくとも含むマルチドメインタンパク質であって、(1)前記操作された第1および第2ドメインが、2以上の天然に存在する相同親ドメインに由来し、(2)前記操作された第1ドメイン由来の界面が、同じ親ドメイン由来の操作された前記第2ドメインの界面上のアミノ酸配列セグメントと相互作用する少なくとも1つのアミノ酸配列セグメントを含み、(3)前記操作された第1および第2ドメインが互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する、前記マルチドメインタンパク質を提供する。
他の側面において、本発明は、2以上の相同親ドメイン由来のアミノ酸配列を有するドメイン、および、前記親ドメインの2以上に由来するアミノ酸を含み多量体化を媒介する前記ドメイン上の相互作用面を含む多量体タンパク質であって、異なる親ドメイン由来のアミノ酸の存在により多量体化の特異性が増強されている、前記多量体タンパク質を提供する。いくつかの実施形態において、前記ドメインは会合を促進するジスルフィド結合を有するポリペプチド鎖の一部である。
【0012】
さらなる側面において、本発明は、2以上の親免疫グロブリンドメイン由来のアミノ酸を含むタンパク質-タンパク質相互作用界面を含む操作された免疫グロブリンドメインに関し、前記タンパク質-タンパク質相互作用界面により前記操作された免疫グロブリンドメインに親免疫グロブリンドメインの会合特異性と区別される会合特性が付与される。前記操作された免疫グロブリンドメインは抗体可変領域ではない。好ましい実施形態において、本発明の操作された免疫グロブリンドメインは、親ドメインと比較して向上した特異性でパートナードメインと会合する。いくつかの実施形態において、パートナードメインは本発明の操作された免疫グロブリンドメインである。
さらに他の側面において、本発明は、2以上の親免疫グロブリンスーパーファミリードメイン由来のアミノ酸を含むタンパク質-タンパク質相互作用界面を含む操作された免疫グロブリンスーパーファミリードメインであって、前記タンパク質-タンパク質相互作用界面によって親免疫グロブリンスーパーファミリードメインの相互作用特性と区別される相互作用特性が付与された、操作された免疫グロブリンスーパーファミリードメインを提供する。
【0013】
本発明はまた、以下の特性を有する操作されたドメインを含むマルチドメインタンパク質を提供する。第1に、前記操作されたドメインはタンパク質-タンパク質相互作用界面を含む。第2に、前記操作されたドメインは天然に存在するドメインのファミリーと相同であり、好ましくは、前記操作されたドメインのアミノ酸配列が天然に存在するドメインのアミノ酸配列とアラインメントできるように相同であり、それらはさらに互いにアラインメントできるものである。好ましくは、天然に存在するドメインのアミノ酸配列のアラインメントは、天然に存在するドメインの3次元構造のアラインメントに対応する。第3に、操作されたドメインの相互作用界面は、2以上の天然に存在する親ドメインからの対応する配列位置からのアミノ酸を含む。第4に、操作されたドメインの界面におけるアミノ酸は、基として考慮した場合、天然に存在する相同のドメインの任意の単一メンバーの対応する界面においてその全てが見られるわけではない。第5に、操作されたドメインの相互作用界面は、親ドメインのいずれとも区別される会合特性を付与する。好ましくは、相互作用界面は、会合パートナーと特異的な接触を行う2以上の異なる親からのアミノ酸を有するため、操作されたドメインの会合特性は特有であり、それにより親ドメインの会合特異性間の雑種である会合特異性を獲得する。
【0014】
さらにまた、本発明は、種々の上記実施形態に記載されているマルチドメインタンパク質をコードする核酸を提供する。特に、本発明は、少なくとも1つの生物活性ドメインを含むマルチドメインタンパク質をコードする核酸を提供する。本発明はまた、本発明の核酸を含む細胞を提供する。
【0015】
他の側面において、本発明は、優先的にヘテロ二量体化するドメインを有するマルチドメインタンパク質の設計方法を提供する。本方法は、(a)第1ポリペプチド、第2ポリペプチド、第3ポリペプチドおよび第4ポリペプチドを選択する工程であって、前記第1および第3ポリペプチドは互いに二量体化するが前記第2または第4ポリペプチドとは二量体化せず、前記第2および第4ポリペプチドは互いに二量体化するポリペプチドである、前記工程、(b) 第1および第2ポリペプチドから、前記第1ポリペプチドの少なくとも1つの会合部分を含む第1ドメインのアミノ酸配列を構成する工程、(c) 第3および第4ポリペプチドから第3ポリペプチドの少なくとも1つの会合部分を含む第2ドメインのアミノ酸配列を構成する工程、を含み、前記第1および第3ポリペプチド由来の会合部分が互いに会合し、それによって前記第1ドメインと第2ドメインのヘテロ二量体化が促進される。
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、第2ポリペプチドの会合部分をさらに含む第1ドメインのアミノ酸配列および第4ポリペプチドからの会合部分をさらに含む第2ドメインのアミノ酸配列を含み、それにより前記第2および第4ポリペプチド由来の会合部分が互いに会合し、それによって前記第1ドメインと第2ドメインのヘテロ二量体化が促進される。
いくつかの実施形態において、上記の方法の工程(b)または工程(c)は、第1、第2、第3または第4ポリペプチドの2以上の3次元構造を比較することを含む。いくつかの実施形態において、同一の第1および第3ポリペプチドが選択される。他の実施形態において、同一の第1および第3ポリペプチドが選択され、同一の第2および第4ポリペプチドが選択される。
いくつかの実施形態において、上記の方法の工程(b)または工程(c)は、第1、第2、第3または第4ポリペプチドの2以上のアラインメントしたアミノ酸配列を比較することを含む。いくつかの実施形態において、同一の第1および第3ポリペプチドが選択される。他の実施形態において、同一の第1および第3ポリペプチドが選択され、同一の第2および第4ポリペプチドが選択される。
【0016】
本発明の他の特徴、対象および利点は、以下の詳細な説明において明らかである。しかしながら、この詳細な説明は、本発明の好ましい実施形態を示してはいるものの、例示することを目的とするものであって、限定することを目的とするものではないことは理解されるべきである。本発明の範囲内の種々の変更および修飾は、この詳細な説明から当業者に明らかとなるであろう。
【0017】
要約すれば、本発明は:
・非同一の操作された第1および第2ドメインを少なくとも含むマルチドメインタンパク質であって、前記操作された第1および第2ドメインのそれぞれが2以上の天然に存在する相同親ドメイン由来のアミノ酸配列セグメントを含むタンパク質-タンパク質相互作用界面を含み、それによって前記操作された第1および第2ドメインに親ドメインの会合特異性と区別される会合特異性が付与され、前記操作された第1および第2ドメインが互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する前記操作されたマルチドメインタンパク質;
・マルチドメインタンパク質が、操作された第1ドメインを含む第1サブユニットおよび操作された第2ドメインを含む第2サブユニットを含む、上記マルチドメイン;
・2以上の天然に存在する相同親ドメインが免疫グロブリンスーパーファミリードメインである、上記マルチドメインタンパク質;
・免疫グロブリンスーパーファミリードメインが抗体のCH3ドメインである、上記マルチドメインタンパク質;
・CH3ドメインがIgGおよびIgAのCH3ドメインを含む、上記マルチドメインタンパク質;
【0018】
・操作された第1および第2ドメインが、ジスルフィド結合で結合したポリペプチド鎖の一部である、上記マルチドメインタンパク質;
・操作された第1および第2ドメインの1つが、同じ親ドメイン由来の少なくとも2つの非隣接配列セグメントを含む、上記マルチドメインタンパク質;
・操作された第1および第2ドメインのそれぞれが、同じ親ドメイン由来の少なくとも2つの非隣接配列セグメントを含む、上記マルチドメインタンパク質;
・アミノ酸配列セグメントのそれぞれが2以上のアミノ酸を含む、上記マルチドメインタンパク質;
・操作された第1ドメインのタンパク質-タンパク質相互作用界面が各親ドメイン由来の少なくとも2つのアミノ酸を含む、上記マルチドメインタンパク質。
・マルチドメインタンパク質が第1生物活性ドメインを含む、上記マルチドメインタンパク質;
・第1生物活性ドメインが、操作された第1ドメインのN末端位置を占める、上記マルチドメインタンパク質;
・マルチドメインタンパク質が第2生物活性ドメインをさらに含む、上記マルチドメインタンパク質;
・第2生物活性ドメインが、操作された第1ドメインのC末端位置を占める、上記マルチドメインタンパク質;
・第1生物活性ドメインが抗体可変領域を含む、上記マルチドメインタンパク質;
・マルチドメインタンパク質が、異なる特異性を有する第2抗体可変領域を含む第2生物活性ドメインをさらに含む、上記マルチドメインタンパク質。
・生物系に投与した場合に生物活性ドメインを共局在化させる方法であって、上述したおよび請求項に記載の多量体タンパク質を生物系に投与する工程を含む前記方法;
・生物系が哺乳動物である、上記方法;
【0019】
・界面で接する非同一の操作された第1および第2ドメインを少なくとも含むマルチドメインタンパク質であって、前記操作された第1および第2ドメインのそれぞれの界面が、天然に存在する異なる相同親ドメインにそれぞれ由来する少なくとも2つのアミノ酸配列セグメントを含み、それによって親ドメインの会合特異性と区別される会合特異性が付与され、前記操作された第1および第2ドメインは互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する、前記操作されたマルチドメインタンパク質;
・界面で接する非同一の操作された第1および第2ドメインを少なくとも含む上記マルチドメインタンパク質であって、(1)前記操作された第1および第2ドメインが、2以上の天然に存在する相同親ドメインに由来し、(2)前記操作された第1ドメインの界面が、同じ親ドメイン由来の操作された第2ドメインの界面上のアミノ酸配列セグメントと相互作用する少なくとも1つのアミノ酸配列セグメントを含み、(3)前記操作された第1および第2ドメインが互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する前記操作されたマルチドメインタンパク質;
・ 2以上の相同親ドメイン由来のアミノ酸配列を有するドメイン、
多量体化を媒介し、前記親ドメインの2以上由来のアミノ酸を含む、前記ドメイン上の相互作用面;
を含む多量体タンパク質であって、異なる親ドメインからのアミノ酸の存在により多量体化の特異性が増強された、前記多量体タンパク質;
【0020】
・ドメインが、多量体化を促進するジスルフィド結合を形成するシステインを含むポリペプチド鎖の一部である、上記多量体タンパク質;
・タンパク質-タンパク質相互作用界面が、操作された免疫グロブリンドメインに親免疫グロブリンドメインの会合特異性と異なる会合特異性を付与するように、2以上の親免疫グロブリンドメイン由来のアミノ酸を含むタンパク質-タンパク質相互作用界面を含む操作された免疫グロブリンドメインであって、抗体可変領域ではない、前記操作された免疫グロブリンドメイン;
・操作された免疫グロブリンドメインが、前記親ドメインと比較して増強された特異性でパートナードメインと会合する、上記操作された免疫グロブリンドメイン。
・タンパク質-タンパク質相互作用界面が親免疫グロブリンドメインの相互作用特性と異なる相互作用特性を操作された免疫グロブリンドメインに付与するように、2以上の親免疫グロブリンドメイン由来のアミノ酸を含むタンパク質-タンパク質相互作用界面を含む、操作された免疫グロブリンスーパーファミリー定常ドメイン;
・タンパク質-タンパク質相互作用界面を含む操作されたドメインを含むマルチドメインタンパク質であって、前記ドメインは天然に存在するドメインのファミリーと相同であり、前記界面は2以上の前記天然に存在するドメインにおける対応する配列位置に見られるアミノ酸を含み、前記アミノ酸は天然に存在するドメインの前記ファミリーの任意の単一メンバーにおける対応する配列位置にその全てが見られるわけではない、前記マルチドメインタンパク質;。
・操作されたドメインの相互作用界面が親ドメインの会合特性のいずれとも区別される会合特性を付与する、上記マルチドメインタンパク質。
【0021】
・免疫グロブリンスーパーファミリーの第1メンバー由来の天然に存在する第1免疫グロブリン鎖および免疫グロブリンファミリーの異なる第2メンバー由来の天然に存在する第2免疫グロブリン鎖を含む操作されたヘテロ二量体免疫グロブリン分子であって、前記免疫グロブリン鎖のそれぞれが、抗体可変領域ではない生物活性ドメインおよびもう一方の免疫グロブリンスーパーファミリー鎖からの相補的アミノ酸セグメントを含むタンパク質-タンパク質界面ドメインを含み;前記第1鎖のタンパク質-タンパク質の界面ドメインが、前記第2鎖のタンパク質-タンパク質界面ドメインと、前記相互作用ドメイン内の同じ免疫グロブリンスーパーファミリー由来の対応するアミノ酸セグメントの二量体化、好ましくはホモ二量体化により相互作用している、前記操作されたヘテロ二量体免疫グロブリン分子;
・生物活性ドメインが抗体のCH3ドメイン、CH2-CH3ドメインまたはCH1-CH2-CH3ドメインである、上記操作されたヘテロ二量体免疫グロブリン分子;
・非同一の操作された第1および第2ドメインを少なくとも含むマルチドメインタンパク質をコードする核酸であって、前記操作された第1および第2ドメインのそれぞれが2以上の天然に存在する相同親ドメイン由来のアミノ酸配列セグメントを含むタンパク質-タンパク質相互作用界面を含み、それによって、前記操作された第1および第2ドメインに親ドメインの会合特異性と区別される会合特異性が付与され、 (1)前記操作された第1および第2ドメインが互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成し、(2)前記操作された第1および第2ドメインが抗体可変領域ではない、前記操作されたマルチドメインタンパク質をコードする核酸;
・前記核酸を含む細胞;
・前記多量体タンパク質をコードする核酸;
【0022】
・優先的にヘテロ二量体化するドメインを有するマルチドメインタンパク質の設計方法であって、
(a)第1ポリペプチド、第2ポリペプチド、第3ポリペプチドおよび第4ポリペプチドを選択する工程であって、前記第1および第3ポリペプチドは互いに二量体化するが前記第2または第4ポリペプチドとは二量体化せず、前記第2および第4ポリペプチドは互いに二量体化するポリペプチドである、前記工程、
(b)前記第1および第2ポリペプチドから、前記第1ポリペプチドの少なくとも1つの会合部分を含む第1ドメインのアミノ酸配列を構成する工程、
(c)前記第3および第4ポリペプチドから、前記第3ポリペプチドの少なくとも1つの会合部分を含む第2ドメインのアミノ酸配列を構成する工程、
工程を含み、前記第1および第3ポリペプチド由来の会合部分が互いに会合し、それによって前記第1ドメインと第2ドメインのヘテロ二量体化が促進される、前記方法;
・第1ドメインが第2ポリペプチドの会合部分をさらに含み、第2ドメインが第4ポリペプチドの会合部分をさらに含み、前記第2および第4ポリペプチド由来の会合部分が互いに会合し、それによって第1ドメインと第2ドメインのヘテロ二量体化を促進する、上記方法;
・工程(b)または工程(c)が、第1、第2、第3または第4ポリペプチドの2以上の3次元構造を比較することを含む、上記方法;
・第1および第3ポリペプチドが同一である、上記方法;
・第2および第4ポリペプチドが同一である、上記方法;
に関する。
【0023】
本図面は例示のためのものであって、限定のためのものではない。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は、優先的にヘテロ二量体化またはヘテロ多量体化するタンパク質ドメインを設計するための方法を提供する。特に、本発明は、ヘテロ二量体化またはヘテロ多量体化を促進するタンパク質-タンパク質相互作用界面を設計するための“鎖交換操作ドメイン”(SEED)戦略を用いる。本発明はまた、本アプローチを用いて操作されたドメインを含むマルチドメインタンパク質を提供する。このように、本発明は、タンパク質工学における重要な進歩を表している。
本発明の種々の側面は、以下のサブセクションにおいてさらに詳細に説明される。サブセクションの使用は、本発明を限定することを意味するものではない。各サブセクションは、本発明の任意の側面に適用できる。
【0025】
本明細書において、“マルチドメインタンパク質”は、2以上のドメインを含む任意のタンパク質を含む。これらのドメインは単一のポリペプチド上に存在することもでき、異なるポリペプチド上に存在することもできる。“ヘテロ多量体化”は、ドメイン相互作用により媒介される多量体複合体を形成する非同一ドメインのことを言う。“ヘテロ多量体タンパク質”は、少なくとも第1サブユニットおよび第2サブユニット含むタンパク質分子であり、各サブユニットは非同一のドメインを含む。ヘテロ多量体は、第1および第2サブユニットにより形成される“ヘテロ二量体”を含むことができ、あるいは第1および第2サブユニットに加えてサブユニットポリペプチドが存在する高次構造(例えば、三元)を形成することができる。一般的には、各サブユニットはドメインを含む。ヘテロ多量体の典型的な構造は、ヘテロ二量体、ヘテロ三量体、ヘテロ四量体(例えば、二重特異性抗体)およびさらなるオリゴマー構造を含む。
【0026】
本明細書において、“ドメイン”は、対象の会合パートナー(例えば、他のドメイン、リガンド、受容体、基質または阻害剤)と選択的に会合することに関与するポリペプチドの任意の領域を含む。例示的なドメインは、免疫グロブリンスーパーファミリー定常ドメイン(例えばCH2またはCH3ドメイン)、受容体結合ドメイン、リガンド結合ドメイン、酵素ドメインまたは操作されたおよび/もしくは標的に結合するように選択された任意のポリペプチドを含む。2つのドメインが互いに会合するとき、それらはタンパク質-タンパク質相互作用界面で接する。本明細書において、“タンパク質-タンパク質相互作用界面”、“相互作用界面”または“界面”は、第2ドメインの界面における1以上の“接触”残基(アミノ酸または他の非アミノ酸基)と相互作用する、第1ドメインにおける“接触”残基(アミノ酸または他の非アミノ酸残基、例えば炭水化物基、NADH、ビオチン、FADまたはヘム基)を含む。本明細書において、“接触”残基は、ファンデルワールス力、水素結合、水を介した水素結合、塩橋もしくは他の静電力、芳香族側鎖間の引力相互作用、ジスルフィド結合の形成または当業者に既知の他の力により、異なるドメイン由来の他のアミノ酸または非アミノ酸残基と相互作用する1つのドメイン由来の任意のアミノ酸または非アミノ酸残基のことを言う。相互作用界面における、相互作用している2つの接触アミノ酸残基のα炭素間の距離は、典型的には12Å以下である。より典型的には、相互作用界面における、相互作用している2つの接触アミノ酸残基のα炭素間の距離は11Å以下である。
【0027】
本明細書において、“親ドメイン”は、鎖交換戦略により設計されるドメインを設計するための親配列として用いることができる、前述の任意の現存の会合ドメインのことを言う。適切な親ドメインは、一般的には、関連または相同しており、特定の会合特異性を有する。一般的には、“相同”とは、少なくとも35%、40%、45%、50%、55%、60%、62%、65%、68%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の配列同一性を共有する2つのドメインを意味する。親ドメインが共通の溶液中に存在する場合、親ドメインは互いにヘテロ二量体化するよりもホモ二量体化する傾向を有しうる。本明細書において、“現存の会合ドメイン”は、生物、例えば数例をあげるとヒト、マウス、酵母、細菌などからの野生型または天然に存在する配列ばかりでなく、野生型配列から改変された誘導体配列、例えば安定化された配列;免疫原性の低下した配列;改変された、増大したもしくは低下した会合特異性、改変された酵素特性、改変された溶解性または向上した発現が与えられた配列;短縮型配列;または他のポリペプチドに融合させた配列を含む。“現存の会合ドメイン”はまた、分子デザイン、in vitroもしくはin vivoでの選択法(例えば、酵母ツーハイブリッドシステム(yeast two-hybrid system)、ファージディスプレイ法)またはそれらの組み合わせに基づいて合成される部分または全合成配列であることもできる。
【0028】
“操作されたドメイン”は、少なくとも2つの異なる親ドメインから設計されたドメインのことを言う。操作されたドメインはまた、娘ドメイン(daughter domain)とも呼ばれる。一般的には、本発明の操作されたドメインは、2以上の現存の相同親ドメイン由来のアミノ酸配列セグメントを含む。好ましくは、操作されたドメインの界面は、2以上の親ドメイン由来のアミノ酸を含む。異なる親ドメインからのアミノ酸の存在により、親ドメインの会合特異性と区別される会合特異性が付与される。例えば、異なる親ドメイン由来のアミノ酸の存在により、ヘテロ二量体化またはヘテロ多量体化が促進または増強される。
鎖交換操作ドメイン(SEED)は、以下に詳細に説明する鎖交換によって少なくとも2つの異なる親ドメインから設計された、操作されたドメインである。
【0029】
本明細書において、“ポリペプチド”は、一般に約10を超えるアミノ酸を有する任意のポリペプチドまたはタンパク質のことをいう。好ましくは、哺乳動物のポリペプチド(そもそもは哺乳動物に由来するポリペプチド)がSEED操作に用いられ、より好ましくは、培地中に直接分泌されるものが用いられる。細菌ポリペプチドの例は、例えば、アルカリホスファターゼおよびβ-ラクタマーゼを含む。哺乳動物のポリペプチドの例は、レニン、ヒト成長ホルモンを含む成長ホルモン;ウシ成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;α1-アンチトリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;第VIIIC因子、第IX因子、組織因子およびvon-Willebrands因子などの凝固因子;プロテインCなどの抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿性因子肺界面活性物質;ウロキナーゼまたはヒト尿もしくは組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)などのプラスミノーゲンアクチベーター;ボンベシン;トロンビン;造血因子;腫瘍壊死因子-αおよび-β;エンケファリナーゼ;RANTES(regulated on activation normally T-cell expressed and secreted);ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1-α);ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミン;ミュラー管抑制物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロリラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;ディーエヌアーゼ;インヒビン;アクチビン;血管形成誘導因子(VEGF);ホルモンまたは増殖因子の受容体;インテグリン;プロテインAまたはD;リウマチ因子;骨由来神経栄養因子(BDNF)などの神経栄養因子、ニューロトロフィン-3、-4、-5もしくは-6(NT-3、NT-4、NT-5もしくはNT-6)またはNGF-βなどの神経成長因子;血小板由来増殖因子(PDGF);AFGFおよびbFGFなどの線維芽細胞増殖因子;上皮増殖因子(EGF);TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4またはTGF-β5を含むTGF-αおよびTGF-βなどのトランスフォーミング成長因子(TGF);インスリン様成長因子-Iおよび-II(IGF-IおよびIGF-II);des(1-3)-IGF-I(脳IGF-I)、インスリン様成長因子結合タンパク質;CD-3、CD-4、CD-8およびCD-19などのCDタンパク質;エリスロポエチン;骨誘導因子;免疫毒素;骨形成因子(BMP);インターフェロン-α、-βおよび-γなどのインターフェロン;コロニー刺激因子(CSF)、例えばM-CSF、GM-CSFおよびG-CSFなど;インターロイキン(ILs)、例えばIL-1〜IL-10;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞受容体;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレッシン;制御タンパク質;免疫グロブリン(抗体);ならびに上記のポリペプチドのいずれかのフラグメントなどの分子を含む。
【0030】
本明細書において、“第1ポリペプチド”または“第1サブユニット”は、操作されたドメイン間の相互作用により第2ポリペプチドと会合できる任意のポリペプチドである。“第2ポリペプチド”または“第2サブユニット”は、操作されたドメイン間の相互作用により第1ポリペプチドと会合できる任意のポリペプチドである。操作されたドメインに加えて、第1および/または第2ポリペプチドは、1以上のさらなる生物活性ドメイン、例えば、抗体可変領域、受容体結合ドメイン、リガンド結合ドメインもしくは酵素ドメイン)または他の“結合ドメイン”、例えばCH3およびCH2ドメインを含む抗体定常ドメイン(またはその部分)を含むことができる。例として、第1ポリペプチドは、本発明の少なくとも1つの操作されたドメイン、例えば免疫グロブリンの操作されたCH3ドメインを含むことができ、第1ポリペプチドの界面を形成することができる。第1ポリペプチドは、他の抗体重鎖結合ドメイン(例えば、CH1、CH2またはCH4)ならびにさらなる生物活性ドメイン、例えば受容体ポリペプチド(特に他の受容体ポリペプチドと二量体を形成するもの、例えば、インターロイキン-8受容体およびインテグリンヘテロ二量体、例えば、LFA-1またはGPIIIb/IIIa)、リガンドポリペプチド(例えば、サイトカイン、神経成長因子、ニューロトロフィン-3および脳由来神経栄養因子-Arakawa et al. (1994) J. Biol. Chem. 269(45):27833-27839および Radziejewski et al. (1993) Biochem. 32(48):1350参照)および抗体可変領域ポリペプチド(例えば、ダイアボディおよびBsAb)をさらに含むことができる。
【0031】
本明細書において、“会合”は、マルチサブユニットタンパク質の産生中に生じるタンパク質-タンパク質相互作用のことを言う。例えば、抗体産生中、重鎖および軽鎖は小胞体に付着するリボソームにより合成される。ついで各鎖は、重鎖および軽鎖の適切な会合により成熟抗体に会合する。例えば、IgG抗体の場合、Fab部分の会合は、主としてCH1およびCLドメイン間の相互作用により、また同様にVHおよびVL領域間の相互作用により駆動される。2本の重鎖の場合、最初の会合反応は2つのCH3ドメインの会合である。これらの最初の会合反応に続いて、常にとは限らないが、通例会合されたサブユニットポリペプチド間のジスルフィド結合形成が行われる。本明細書において、“会合”は“結合”とは区別される。会合とは、成熟タンパク質、例えば細胞から分泌される前の抗体、の産生中に生じるタンパク質相互作用事象のことを言い、一方、結合とは、分泌後に生じる、抗体と抗原またはFc受容体との相互作用などのタンパク質相互作用事象のことを言う。操作上の意味としては、治療用または診断用タンパク質の会合は、産物をバイアル中に入れるまで(入れることを含む)に治療用タンパク質の作製中に生じ、治療用または診断用タンパク質の結合は、治療用タンパク質が患者に投与された後、または診断用タンパク質が診断テストに用いられるときに生じる事象のことを言う。
“結合”とは、タンパク質の合成および会合以後の標的タンパク質とタンパク質の相互作用を意味する。
【0032】
鎖交換による操作
タンパク質-タンパク質相互作用を媒介する天然のタンパク質ドメインは、しばしば相同であるか、あるいはホモ二量体の場合同一であり、このようなタンパク質およびドメインはしばしば自分自身とホモ二量体化するのみで一般的には他のファミリーメンバーとヘテロ二量体化しないか、あるいはホモ二量体化のための自身の親和性と等しいかまたはそれを超える親和性を伴って他のファミリーメンバーとヘテロ二量体化しないという事実を本発明は用いる。本発明によれば、以下に詳細に述べる鎖交換による操作を用いてヘテロ二量体またはヘテロ多量体タンパク質を設計するためにこのようなタンパク質を用いることができる。このような操作されたドメインはまた、“鎖交換操作ドメイン”(“SEED”)とも呼ばれる。このような操作されたドメインを含むマルチドメインタンパク質はまた、鎖交換操作タンパク質とも呼ばれる。
【0033】
鎖交換による設計は、典型的には、二量体の親タンパク質ドメインの構造モデルから始まる。それぞれがホモ二量体化できるかまたはそれ自身の会合パートナーと二量体化できるが、互いにヘテロ二量体化できない2つの親ドメインの構造アラインメントを行う。親ドメインは向かい合わせで二量体化することもある(すなわち、二量体パートナーは180度回転対称によって関連付けられることもある)。親ドメインはまた、表裏に二量体化することもある。
【0034】
ホモ二量体タンパク質の回転対称の幾何学により、ホモ相互作用する相互作用面において、通例アミノ酸の線が存在する。すなわち、他のサブユニットにおけるカウンターパートと相互作用するアミノ酸が存在する。例えば、IgG1のCH3ドメインにおいて、これらのアミノ酸はL351、P352、T366、T394、P395およびY407を含む。このアミノ酸の線は、一般に、二量体の回転対称軸に平行する。親ドメインの選択において、二量体化界面の長軸が回転対称軸に対して強くは平行しないようにホモ二量体化するタンパク質を選択することがしばしば有用である。例えば、二量体化界面は対称軸に平行であり、アミノ酸相互作用の多くはホモ型であるため、ロイシンジッパーファミリーメンバーに基づいたSEEDは構築するのが困難である。従って、いくつかの好ましい実施形態において、本発明の操作されたドメインはロイシンジッパードメインではない。それに引き換え、CH3ファミリードメインは、相互作用面のかなりの部分が対称線の外側に位置するため、特に有用である。しかしながら、対称線(すなわちホモ相互作用するアミノ酸の線)が過度の単純化であることは、当業者により容易に理解されるであろう。例えば、対称線上のアミノ酸の側鎖は、ドメインの疎水性コアに向いている可能性がある。
【0035】
新規二量体化界面は概念的には、典型的にはホモ相互作用線(すなわち、対称線)のどちらかの側に位置する少なくとも2つの領域に設計され分割される。ついで、各親配列から相補的セグメントを選ぶことにより、2つのアラインメントした親ドメインのアミノ酸配列から2つの娘ドメインの直鎖状アミノ酸配列が構築される鎖交換により、新規ドメインが設計される。結果として、二量体化界面の領域において、2つの娘ドメイン(すなわち、2つのSEED)は親ドメインからの相補的アミノ酸セグメントを有する。この概念は、図1Aおよび1Bに示される。図1Aに示すように、2つの娘SEED配列1および2は、完全に相補的な形で2つの親配列(AおよびB)から設計される。娘1が、相互作用界面の所定の領域で親Aからのアミノ酸セグメントを有するとすれば、娘2は親Bからの対応するアミノ酸セグメントを有する。娘1上の少なくとも1つのアミノ酸配列セグメントが、同じ親ドメイン由来の娘2上のアミノ酸配列セグメントと相互作用するように相互作用界面が設計される。図1Bにおいて、娘SEEDドメインは主として1つの親ドメインから誘導される。しかしながら、どちらの娘SEEDドメイン上の二量体化界面におけるアミノ酸も、相補的な様式で1つの親またはもう1つの親のどちらかに由来する。
図1Aおよび図1Bは、本発明の2つの極端な例を示しており、図1Aおよび図1Bの中間の設計を有する本発明の方法により、SEEDが操作されうることに留意すべきである。例えば、実施例により詳細に記載されているように、免疫グロブリンCH3ドメインファミリーからの親ドメインに基づいてSEEDを構築することが可能である。娘SEEDは、主としてIgGおよびIgAから相補的な形で誘導できるが、FcRnと相互作用するアミノ酸は、FcRnとの相互作用を保つためにIgGから誘導される。
【0036】
このように、SEEDは、典型的には、2以上の相同親ドメインを組み合わせることにより設計される。親ドメインは、少なくとも4つのアミノ酸で互いに異なるポリペプチドである。SEEDの作製において、相同性、理論的構造モデル、結晶もしくは溶液構造またはそれらの任意の組み合わせに基づいて、元のポリペプチドの配列がアラインメントされる。1以上のアラインメントした配列位置において少なくとも1つの異なるアミノ酸が存在し、あるいはアラインメントした元の配列の少なくとも1つの対において異なる数のアミノ酸が存在する。ついで親配列は、少なくとも1つのアミノ酸をそれぞれが含む少なくとも2つのセグメントに分割される。元の配列の中から各分割セグメントに望ましい配列を選択することによりSEED配列を構成することができる。SEEDは、各個の親配列とは、しばしば少なくとも2つの連続アミノ酸で異なり、時には3以上または4以上の連続アミノ酸で異なる。元の親ポリペプチドから配列を選択することに加えて、他の設計要求を満たすために、SEEDは、設計される界面の外側位置などの任意の位置で任意の望ましいアミノ酸を含むことができる。
【0037】
親配列が1つの親から第2の親に変化する、SEEDの配列上の位置が存在する。これらの位置は、交換点または交換位置と呼ばれる。交換点または交換位置は、特性が両方の親に共通の1以上のアミノ酸を含むことができる。典型的には、対称線上またはその付近のアミノ酸から交換点が選択されるが、他の交換点もまた選択されうる。交換点はまた、親に共通でないアミノ酸を含むことができる。この場合は、配列は、1つの親から他の親に突然に切り替わる。さらにまた、交換点はまた、親のいずれにも属さない1以上の新規のアミノ酸を含むことができる。この場合は、典型的には、新規のアミノ酸のいずれの側にも異なる親配列が現れる。SEEDの配列に複数の交換点が存在する場合、親セグメントの総数は、3以上、交換点の数を1つ越える数までであり得る。これらの親セグメントは別個の親ドメインから選択されることができる。このように、本発明は2つを超える親ドメインから操作されたSEEDを考慮する。
便宜上、各SEEDは典型的にはその親配列のSEEDのN末端から開始する順序に従って名付けられる。以下に示す実施例において、AG SEEDはN末端にIgA1配列セグメントを有し、次いでこれは第1交換点においてIgG1配列セグメントに変わる。GA SEEDはN末端にIgG1配列セグメントを有し、次いでこれは第1交換点においてIgA1配列に変わる。
【0038】
このように、本発明のSEEDの相互作用界面は、2以上の親ドメイン由来のアミノ酸配列セグメントを含む。結果として、SEEDの界面は親ドメインの相互作用特性と区別される相互作用特性を有する。特に、異なる親ドメインからのアミノ酸の存在により、親ドメインのどちらかの会合特異性と区別される会合特異性が付与される。例えば、ヘテロ二量体化またはヘテロ多量体化の特異性は、SEEDの界面上の異なる親ドメインからのアミノ酸の存在により増強される。結果として、SEED対は、互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する。このように、発現系において一組のSEEDが発現される場合、ホモ二量体を除去するための分離工程を苦心して作る必要なく、細胞培養系からヘテロ二量体SEEDを直接に回収することができるようにSEEDのヘテロ二量体は特異的に会合することができる。
【0039】
CH3ベースのSEED
親ドメインの二量体化界面間の主鎖の相同性および差異は、SEEDを作製する上で重要である。このように、本発明の一実施形態によれば、免疫グロブリンタンパク質クラスは親ドメインの有用な供給元である。2つの異なる免疫グロブリンクラスからの親配列を用いてSEEDを作製できる。例えば、SEEDは本発明の方法によりCH3ファミリードメインから操作され得る。SEEDを設計するのに適したCH3ファミリードメインは、限定するものではないが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgAおよびIgDのCH3ドメインならびにIgEおよびIgMのCH4ドメインを含む。
【0040】
ヒトIgG1およびIgAのCH3ドメインは互いにホモ二量体を形成するが、互いにヘテロ二量体は形成しない。従って、SEED対(例えば、AG SEEDおよびGA SEED)は、互いにヘテロ二量体化することはできるがホモ二量体化する能力は最小限であるように、IgG1およびIgAのCH3ドメインから設計することができる。一実施形態によれば、CH3ドメイン上の会合界面は、ホモ相互作用の線のどちらかの側に位置する2つの領域に分割される。水を排除するのに2つの側鎖が十分に接近しているかどうかを決定するために、1.4Å分解能で結晶構造を観察および探査することによりIgAおよびIgG1のCH3ドメインのホモ相互作用を決定することができる。もし表面が界面の全域で密着していれば、このことは側鎖が密接に相互作用していることを意味する。例えば、IgG1の野生型CH3ドメインにおいて、ホモ相互作用するアミノ酸は、限定するものではないが、L351、P352、T366、T394、P395およびY407を含む。IgA1の野生型CH3ドメインに関しては、ホモ相互作用するアミノ酸は、限定するものではないが、L352、P353、T368、W398、A399およびT414を含む。1つの例示的なSEEDサブユニットにおいて、ホモ相互作用線の左に位置し外に向いている側鎖を有するアミノ酸は、IgG1のCH3から選択され、ホモ相互作用線の右に位置し外に向いている側鎖を有するアミノ酸はIgAのCH3から選択される。他のSEEDサブユニットにおいて、ホモ相互作用線の左に位置し外に向いている側鎖を有するアミノ酸はIgAのCH3から選択され、ホモ相互作用線の右に位置し外に向いている側鎖を有するアミノ酸はIgG1のCH3から選択される。ホモ相互作用線に沿ったアミノ酸の選択は、構造的考察に基づくものであり、個別的に行われるが、SEEDの特定の領域についてはどちらかの親ドメインからのアミノ酸を選択できると考えられる。
【0041】
例えば、CH3ベースのAG SEEDは、配列番号1に示すポリペプチド配列を有することができる(X1、X2またはX3は任意のアミノ酸であることができる)。いくつかの実施形態において、X1はKまたはSであり、X2はVまたはTであり、X3はTまたはSである。好ましくは、X1はSであり、X2はVまたはTであり、X3はSである。CH3ベースGA SEEDは、配列番号2に示すポリペプチド配列を有することができる(X1、X2、X3、X4、X5またはX6は任意のアミノ酸であることができる)。いくつかの実施形態において、X1はLまたはQであり、X2はAまたはTであり、X3はL、V、DまたはTであり、X4はF、A、D、E、G、H、K、N、P、Q、R、SまたはTであり、X5はAまたはTであり、X6はEまたはDである。好ましくは、X1はQであり、X2はAまたはTであり、X3はL、V、DまたはTであり、X4はF、A、D、E、G、H、K、N、P、Q、R、SまたはTであり、X5はTでありX6はDである。例示的なSEEDヘテロ二量体は、AG(f0) SEED(配列番号3)、AG(f1) SEED(配列番号4)またはAG(f2) SEED(配列番号5)から選択される一つのSEEDサブユニットおよびGA(f0) SEED(配列番号6)、GA(f1) SEED(配列番号7)、GA(f2) SEED(配列番号8)またはGA(f3) SEED(配列番号9)から選択される他のSEEDサブユニットを含むことができる。例えば、SEEDヘテロ二量体は、AG(f0) SEED(配列番号3)およびGA(f0) SEED(配列番号6)サブユニットを含むことができる。他の例において、SEEDヘテロ二量体は、AG(f2) SEED(配列番号5)およびGA(f2) SEED(配列番号8)サブユニットを含むことができる。さらに他の実施形態において、SEEDヘテロ二量体は、AG(s0) SEED(配列番号10)およびGA(s0) SEED(配列番号11)サブユニットを含むことができる。
【0042】
生物活性ドメイン
本発明記載のSEEDは、融合パートナーと連結させるとき特に有用である。融合パートナー(X)を、SEEDのN末端に融合させることができるが(X-SEED)、これをSEEDのC末端に融合させることもできる(SEED-X)。加えて、融合パートナーをSEEDのN末端およびC末端に同時に融合させることができる(X-SEED-X)。2つの異なる融合パートナーをSEEDに融合させることができる(X-SEED-Y)。
【0043】
2つのSEED配列が典型的にはヘテロ二量体を形成するので、SEEDヘテロ二量体において少なくとも1つ、2つ、3つまたは4つの融合パートナーを考慮する事が可能である。例えば、一実施形態によれば、第1娘SEEDが1つの融合パートナーを有し、第2娘SEEDが融合パートナーを有さず、それにより以下の典型的な配置が得られる:SEEDとヘテロ二量体化したSEED-X;またはSEEDとヘテロ二量体化したX-SEED。さらなる例において、第1娘SEEDは2つの異なる融合パートナー(X、Y)を有し、第2娘SEEDは、第1娘SEEDの融合パートナーとは異なる2つの異なる融合パートナー(W、Z)を有する。可能な例示的配置は、限定するものではないが:W-SEED-Zとヘテロ二量体化したX-SEED-Y;Z-SEED-Wとヘテロ二量体化したX-SEED-Y;W-SEED-Zとヘテロ二量体化したY-SEED-X;またはZ-SEED-Wとヘテロ二量体化したY-SEED-Xを含む。本発明によれば、SEEDは、例えば、N末端に順次融合した2以上の融合パートナー(X)を有することができる(X-X-SEED)。また、本発明の他の実施形態において、第1娘SEEDは1つの融合パートナー(X)を有し、第2娘SEEDは1つの融合パートナー(Y)を有し、それにより以下の例示的配置が得られる:Y-SEEDとヘテロ二量体化したX-SEED;SEED-Yとヘテロ二量体化したX-SEED;またはSEED-Yとヘテロ二量体化したSEED-X。本発明のさらに他の実施形態において、第1娘SEEDは1つの融合パートナー(X)を有し、第2娘SEEDは2つの融合パートナー(Z、Y)を有する。可能な例示的配置は、限定するものではないが:Y-SEED-Zとヘテロ二量体化したX-SEED;Z-SEED-Yとヘテロ二量体化したX-SEED;Z-SEED-Yとヘテロ二量体化したSEED-X;またはY-SEED-Zとヘテロ二量体化したSEED-Xを含む。例示的配置は図1Cに示されている。
特に、融合パートナーは、任意の生物活性タンパク質またはそれらの生物活性部分を含む1以上の生物活性ドメインであることができる。例えば、生物活性ドメインは、限定するものではないが、VLドメイン、VHドメイン、Fv、一本鎖Fv、ダイアボディ、Fabフラグメント、一本鎖FabまたはF(ab’)2を含む抗体の定常または可変領域を含むことができる。
【0044】
本発明によれば、融合パートナーは、直接または間接にSEED部分と連結されていることができる。例えば、融合パートナーは、Hustonらへの米国特許第5,258,498号および米国特許第5,482,858号またはWhitlowらへの米国特許第5,856,456号および米国特許第5,990,275号(それらの教示は参照により本願に組み込まれる)に記載されているように、ペプチドリンカーによりSEED部分に結合されていることができる。典型的には、適切なペプチドリンカーはグリシンおよびセリン残基を含むことができる。典型的には、適切なペプチドリンカーは異なる特性を有することもできる。例えば、いくつかの実施形態において、リンカーは、マトリックスメタロプロテアーゼ認識部位などのプロテアーゼ切断部位をさらに含むことができる。
【0045】
このように、本発明は、SEED技術に基づく多重特異性抗体を作製するための新規方法を提供する。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する分子である。このような分子は、一般的には単に2つの抗原(すなわちBsAb)に結合するのみであるが、本明細書においては、この表現により、三重特異性または4重特異性抗体などのさらなる特異性を有する抗体が含まれる。BsAbの例は、同じ細胞表面上の異なる抗原に結合するものまたは細胞表面抗原および非細胞表面抗原に結合するものを含む。非細胞表面抗原は、限定するものではないが、細胞外または細胞内抗原、可溶性または不溶性抗原を含む。多重特異性抗体は、異なる抗原に同時に結合することができるが、多重特異性抗体の機能に関しては同時結合は必須ではない。いくつかの応用において、抗原はEGFRおよびHER2などに優先的に機能的に関連する。特に有用なタイプの多重特異性抗体は、限定するものではないが、抗EGFR/抗HER2;抗EGFR/抗HER2/抗HER3;抗EGFR/抗HER3;抗EGFR/抗HER2/抗IGF1R;抗EGFR/抗HER2/抗HER3/抗IGF1R;抗EGFR/抗HER3/抗IGF1R;抗EGFR/抗IGF1R;および抗HER2/抗IGF1Rを含む。EGFR、HERファミリーおよびIGF1Rを含む特異性の他の組み合わせは、本発明の範囲内である。
【0046】
さらなるBsAbの例は、1つのアームが腫瘍細胞抗原に向けられ、他のアームが細胞障害性トリガー分子、例えば、抗FcγRI/抗CD15、抗p185HER2/FcγRIII(CD16)、抗CD3/抗悪性B細胞(1D10)、抗CD3/抗p185HER2、抗CD3/抗p97、抗CD3/抗腎細胞癌、抗CD3/抗OVCAR-3、抗CD3/L-D1(抗結腸癌)、抗CD3/抗メラニン細胞刺激ホルモンアナログ、抗EGF受容体/抗CD3、抗CD3/抗CAMA1、抗CD3/抗CD19、抗CD3/MoV18、抗神経細胞接着分子(NCAM)/抗CD3、抗葉酸結合タンパク質(FBP)/抗CD3、抗pan癌関連抗原(AMOC-31)/抗CD3;腫瘍抗原に特異的に結合する1つのアームおよび毒素に結合する1つのアームを有するBsAb、例えば抗サポリン/抗Id-1、抗CD22/抗サポリン、抗CD7/抗サポリン、抗CD38/抗サポリン、抗CEA/抗リシンA鎖、抗インターフェロン-α(IFN-α)/抗ハイブリドーマイディオタイプ、抗CEA/抗ビンカアルカロイド;酵素活性化型プロドラッグを変換するためのBsAb、例えば抗CD30/抗アルカリホスファターゼ(マイトマイシンホスフェートプロドラッグのマイトマイシンアルコールへの変換を触媒する);線維素溶解薬として使用できるBsAb、例えば、抗フィブリン/抗組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、抗フィブリン/抗ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA);細胞表面受容体への免疫複合体のターゲッティングのためのBsAb、例えば抗低密度リポタンパク質(LDL)/抗Fc受容体(例えば、FcγRI、FcγRIIまたはFcγRIII);感染症の治療に使用するためのBsAb、例えば抗CD3/抗単純ヘルペスウイルス(HSV)、抗T細胞受容体:CD3複合体/抗インフルエンザ、抗FcγR/抗HIV;in vitroまたはin vivoでの腫瘍検出のためのBsAb、例えば抗CEA/抗EOTUBE、抗CEA/抗DPTA、抗p185HER2/抗ハプテン;ワクチン用アジュバントとしてのBsAb;および診断ツールとしてのBsAb、例えば抗ウサギIgG/抗フェリチン、抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)/抗ホルモン剤、抗ソマトスタチン/抗サブスタンスP、抗HRP/抗FITC、抗CEA/抗β-ガラクトシダーゼに向けられたものを含む。三重特異性抗体の例は、抗CD3/抗CD4/抗CD37、抗CD3/抗CD5/抗CD37および抗CD3/抗CD8/抗CD37を含む。
【0047】
本発明によれば、他の生物活性ドメインはホルモン、サイトカイン、ケモカイン、分泌酵素、リガンド、膜貫通型受容体の細胞外部分または受容体を含む。ホルモンは、限定するものではないが、成長ホルモンまたはグルカゴン様ペプチド(GLP-1)を含む。サイトカインは、限定するものではないが、インターロイキン-2(IL-2)、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-18、IL-21、IL-23、IL-31;造血因子、例えば顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、G-SCFおよびエリスロポエチン;腫瘍壊死因子、例えばTNF-α;リンホカイン、例えばリンホトキシン;代謝過程調節剤、例えばレプチン;ならびにインターフェロン(IFN)、例えばIFN-α、IFN-βおよびIFN-γを含む。
【0048】
このように、本発明の操作されたヘテロ多量体タンパク質により、生物系における異なる生物活性ドメインの共局在化が可能になる。例えば、1つの抗体可変領域を1つの操作されたドメインに融合させ、第2抗体可変領域を、操作された第1ドメインと優先的に会合する第2の操作されたドメインに融合させた、2つの異なる抗体可変領域を導入した多量体タンパク質との関連においてこのことが達成できる。このような操作されたタンパク質の投与により、2つの異なる活性(この場合は、結合活性)が生物系において同じ分子内に存在する結果となり、それにより生物系中で活性が共局在化される。他の分子への結合(例えば、抗体可変領域/抗原相互作用、リガンド/受容体相互作用など)酵素活性またはそれらの組み合わせのいずれを活性が含もうと、本発明は、活性が同じ場所に存在することを必要とするシステムを提供し、それにより例えば、特定の細胞型または部位への治療活性のターゲッティング;異なる受容体または細胞の架橋;抗原およびアジュバントの共局在化;などが可能となる。このことは、生物系への操作されたヘテロ多量体タンパク質の直接投与または生物系内でのサブユニットをコードする核酸の発現により達成できる。核酸の発現により、系におけるさらなるレベルの調節の操作が可能となる。例えば、完全なヘテロ多量体タンパク質およびもたされた活性の共局在化が各サブユニットの発現に必要なすべての条件の存在によってのみ生じるように、各サブユニットの発現制御が異なっていることができる。
【0049】
低減された免疫原性を有する操作されたドメイン
本発明の他の実施形態において、その潜在的免疫原性を低減するために、SEED配列を改変する事ができる。SEEDポリペプチドは、2つの異なる天然に存在するヒト配列の雑種であるため、SEEDポリペプチドは、その接合部位において天然のヒトタンパク質には見いだされない配列セグメントを有する。生物においては、これらの配列セグメントは非自己T細胞エピトープにプロセッシングされる可能性がある。
【0050】
T細胞エピトープを形成するペプチド配列の潜在性を分析する方法は当該分野で公知である。例えば、ProPred (http://www.imtech.res.in/raghava/propred; Singh and Raghava (2001) Bioinformatics 17:1236 - 1237)は、HLA-DR対立遺伝子に結合するペプチドの予測のために使用できる公表されているウェブベースツールである。ProPredは、50組のHLA-DR対立遺伝子セットについてSturnioloにより記載された行列予測アルゴリズムに基づいている(Sturniolo et al., (1999) Nature Biotechnol. 17:555 - 561)。このようなアルゴリズムを用いて、AG SEEDおよびGA SEEDポリペプチド配列中に大きな結合強度で複数のMHCクラスII対立遺伝子に結合すると予測され、それによって潜在的に免疫原性を有する種々のペプチド配列が見いだされた。
【0051】
例えば、一実施形態において、SEED配列中に存在する1以上のT細胞エピトープを除去するためにAG SEEDおよびGA SEED配列が改変される。この改変は、T細胞エピトープを除去するための1以上のアミノ酸残基の置換、欠失または改変を含むことができる。表1は、AG SEEDおよびGA SEEDにおける潜在的T細胞エピトープであるペプチド配列ならびにT細胞エピトープを低減または除去すると予測される、可能性のあるアミノ酸置換のリストを示す。
【0052】

【0053】
表1は、AG(f0) SEEDまたはGA(f0) SEEDにおける、HLA-DR対立遺伝子に結合すると予測され、潜在的T細胞エピトープであるペプチド、ならびに、HLA-DR対立遺伝子への結合を低減すると予測されるペプチド内の特定の残基(太字で示されている)部位におけるアミノ酸置換を示す。“Pos”は、配列内のペプチドの位置を示す。アミノ酸の番号付けは、順番に、SEED分子の第1アミノ酸に関連付けられている。
【0054】
元の“全”AG SEED(AG(f0) SEED(配列番号3))およびGA SEED(GA(f0) SEED(配列番号6))ポリペプチドならびにAG(f1) SEED(配列番号4)、AG(f2) SEED(配列番号5)、GA(f1) SEED(配列番号7)、GA(f2) SEED(配列番号8)およびGA(f3) SEED(配列番号9)を含むいくつかの典型的なバリアントポリペプチドを以下のアラインメントに示す。
【0055】
AG SEEDのアラインメント(点は残基の一致を示す)
1 GQPFRPEVHLLPPSREEMTKNQVSLTCLARGFYPKDIAVEWESNGQPENNYKTTPSRQEP AG(f0) SEED
1 ..................................S......................... AG(f1) SEED
1 ..................................S......................... AG(f2) SEED

61 SQGTTTFAVTSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKTISL AG(f0) SEED
61 ..........................................S... AG(f1) SEED
61 ..............T...........................S... AG(f2) SEED
【0056】
GA SEEDのアラインメント(点は残基の一致を示す)
1 GQPREPQVYTLPPPSEELALNELVTLTCLVKGFYPSDIAVEWLQGSQELPREKYLTWAPV GA(f0) SEED
1 ......................Q..................................T.. GA(f1) SEED
1 ......................Q..................................... GA(f2) SEED
1 ......................Q..................................T.. GA(f3) SEED

61 LDSDGSFFLYSILRVAAEDWKKGDTFSCSVMHEALHNHYTQKSLDR GA(f0) SEED
61 V..............T.D............................ GA(f1) SEED
61 D.....H........T.D............................ GA(f2) SEED
61 T.....D........T.D............................ GA(f3) SEED
【0057】
本発明によるさらなる例示的な実施形態を以下に詳細に説明する。
【0058】
実施例
実施例1
SEEDの親になる相同な構造の同定
この一連の実施例において、目的は、2つの可能なホモ二量体の形成よりもヘテロ二量体の形成が有利であり、従ってCH3ホモログヘテロ二量体の優位をもたらす2つの異なるCH3ホモログSEEDを作製することである。第1の課題は、一組のSEEDの親として用いるとき、このような結果を生じる2以上のCH3ドメインを同定することである。CH3ホモ二量体は、βシート間で二量体化界面を形成する。優先的にヘテロ二量体化する有効なSEED対を作製するために、この界面において有意差を有する2つのCH3ドメインを見いだすことが重要である。
【0059】
IgGのCH3ドメインは、動物界のすべてにわたって構造的に高度に保存されており、古典的な免疫グロブリンドメインのβサンドイッチフォールドを含む。外表面上に見いだされるアミノ酸の同一性には種間で有意差があるものの、二量体化により覆い隠される二量体化界面は大部分保存されている。
それぞれの異なる免疫グロブリンクラスは、それぞれの独自のFcを有し、特に、IgG CH3配列および構造の固有の等価物を有する。ヒトIgA1のFc部分の結晶構造におけるCH3ドメインの調査(PDB登録番号:1OW0、3.1Å分解能)により、全体的なフォールディングはヒトIgG CH3と相同であることが明らかとなった。IgA Fc1OW0およびIgG Fc1L6Xの単一のCH3ドメインのアラインメントの主鎖のRMSD(標準偏差)は、アラインメントが異なる長さを有するターンを除外すれば、約0.99Åであった(表2参照)。しかしながら、IgA1のCH3ホモ二量体界面は、IgG1のそれと比較して大きく異なっている。このように、ヒトIgA1のCH3およびヒトIgG1のCH3から作製される2つのSEEDは、それぞれIgA1からの界面のある部分およびIgG1からの界面のある部分を含み、それら自身またはどちらかの親CH3とは二量体化しないが、他の相補的SEEDと優先的に二量体化するするように設計される。
【0060】
表2.IgGおよびIgAからのCH3ドメインの構造アラインメント*

* IgGおよびIgA配列の部分を用いて構造を重ね合わせ、主鎖のRMSDを決定した。InsightIIプログラム(Accelrys, San Diego, CA)により、上記の構造的に相同な配列に含まれる残基の主鎖原子を重ね合わせた。2つの主鎖(表における領域内で)間のRMSDは0.99Åであった。
【0061】
例として、ヒトIgA1のCH3ドメインおよびヒトIgG1のCH3ドメインを親ポリペプチドとして用いた。構造アラインメントおよびモデリングのために、IgG1 PDB エントリー1DN2(2.7Å分解能)および1L6X(2つの小さな相違点を有するが、1DN2と相同性が高いCH3配列、1.65Å分解能)ならびにIgA1 PDB エントリー1OW0(3.1Å分解能)を用いた。図2は、2つの配列の構造アラインメントを示す。IgG1のCH3ドメインは、Kabat EU Index (Kabat et al., (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition, NIH Publication 91-3242)に従って番号付けされ、一方、IgAのCH3ドメインは、PDB構造1OW0におけるように順番に番号付けされている。太文字は、表2に記載されているアラインメントに含まれていた主鎖の位置を示し、これらをさらに、SEEDの設計における接合交差点の設計のために用いた。
【0062】
実施例2
交換点の選択
ひとたび構造アラインメントが決定され、界面残基が同定されれば、SEEDを作製するための交換点は容易に選択される。CH3ホモ二量体は、β鎖にほぼ直角にドメイン間を横切る軸の周りに180°の回転対称を示す(図4)。各ドメインは、対称軸の反対側にN末端およびC末端を有する。従って、CH3ドメインは握手をするように二量体化するが、そこで対称軸に沿った界面の中心の下部でのみ一列になって1つの側の残基が他のパートナーの同じ残基と接触する。その線のどちらかの側の残基は、反対の仕方でパートナードメインと接触する。例えば、第1ドメインのN末端側の残基は、C末端側である第2ドメインの残基と接触し、逆もまた同様である。
【0063】
一実施形態において、CH3ベースSEEDは、対称性を破り、2つの側が異なるように設計される。例えば、鎖交換により、二量体の1つの側をよりIgA1様にし、他の側をよりIgG様にする。このアプローチにより、IgGおよびIgA由来アミノ酸の使用においておおよそ相補的な、2つの異なるCH3ベースSEEDが作製される。図3Aおよび3Bに示すように、二量体構造の1つの物理的側をIgA様にし、他の側をIgG様にするために、IgGおよびIgA配列間で直鎖状ポリペプチド配列が前後に及んでいる。このように、それぞれの最終SEED配列は、直鎖状配列がIgAからIgGへ、またはIgGからIgAへ変化するそれぞれの部位で複数の交換点を含む(図3Aおよび3B)。
【0064】
一般に、ポリペプチド配列中に、IgA配列とIgG1配列とを互い違いにするように選択する事ができる多くの潜在的複数交換点が存在する。重要な問題は、最終構造が優れた構造特性(例えば、安定性、フォールディング、発現、元の構造に対する相同性)を有していなければならないということである。このことは、洞察、簡単なモデリング、大規模な計算、試行錯誤、選択または他の手段により達成できる。本明細書に記載の特定の実施形態において、交換点を決定するために、IgAおよびIgG1のCH3ドメイン間の配列相同性を用いた。IgG1およびIgAのCH3の結晶構造のアラインメントにより、ドメインの中央を横切るような角度の近似平面に沿ったアミノ酸のほぼ平行な線が明らかとなった。IgG1/IgA構造アラインメントにおいて、2つを除いてすべての鎖で両方のCH3クラスにおいて平面上の残基は同一であった。さらにまた、構造アラインメントにより一般に、特に疎水性コアにおいては、同じ回転異性体の配向のアミノ酸の側鎖が示された。これによって、これらの残基が交換点として使用でき、1つの側の残基または他の側の残基は、全体の構造を乱すことなく変えることができるという仮説が立てられた。図3Aおよび3Bに、交換点を太字で強調した配列のアラインメントを示す。図5および6A〜Cに、交換点の3次元位置を説明した分子構造を示す。
接合領域において残基が同じではない2つの場合において、交換点の選択は、構造の考察に基づいて行った。1例において、IgG1におけるPro395およびPro396は、IgA1におけるAla399およびSer400に構造的に対応している。これらの2つの残基間の分割を行った。他の位置はC末端に近く、IgGにおけるLeu441およびSer442は、IgA1におけるIle448およびAsp449に構造的に対応している。これらの残基間の分割を再度行った。
【0065】
タンパク質-タンパク質相互作用は、2つの相互作用する表面の相補性により媒介される。相互作用の支配因子は、これらの表面の組成および形状である。IgAおよびIgG1のCH3ドメインの基礎をなす骨格構造および疎水性内部が類似しているため、本発明の原理に従って、表面のみを改変すべきで、ドメインの残りはIgG配列を含むことができることが考えられた。この場合は、交換点は界面を形成する鎖上に設計され、互いに大変接近しており、二量体化に重要な残基のみが改変されることを可能にした。このように、別の方法として、構造の残りが会合ドメインを安定化を助けることができ、従って7つの鎖のそれぞれにおいて単一の交換点を有するCH3 SEEDは利点を有することができる。
従って、2つのタイプのSEEDが設計でき、ドメインにおける大部分またはすべての残基が鎖交換に関与するSEED(図1Aに対応する)を“全(full)”と名付け、改変される残基がCH3二量体化界面においてのみであるSEED(図1Bに対応する)を“表面(surface)”と名付けた。
本実施例に基づけば、免疫グロブリンスーパーファミリー定常ドメインに基づいてSEEDを生成するために種々の戦略を用いることができることは、当業者には明らかであろう。
【0066】
実施例3
“全”AG SEEDおよびGA SEEDの配列の設計
例として、最も簡単な“全”SEED作製法は、交換点の第1側に純粋なIgA配列を用い、交換点の第2側に純粋なIgG1配列を用いることであろう。交換点が適切に選択されれば、適切に折りたたまれ、ドメインの1つの側(例えば、おおよそ半分)でIgA1様二量体化表面を有し、他の側でIgG様二量体化表面を有するSEEDがもたらされるであろう。第1側がIgG1配列で構成され、第2側がIgA配列で構成される‘鏡像’SEEDも同様に作製できる。ヘテロ二量体においてのみ、各表面は、そのクラスにマッチする他のドメインの表面に接触するので、これらの2つのSEEDが共に発現されるとき、それらは優先的にヘテロ二量体を形成する。すなわち、IgA1様である第1SEEDの第1半分は、同様にIgA1様である第2SEEDの第2半分と接触し、一方で、IgG1様である第1SEEDの第2半分は、同様にIgG1様である第2SEEDの第1半分と接触する。接触表面の両方の側は高度に相補的であるため、会合は強力であろう。他方では、どちらかのSEEDがホモ二量体を形成しようとする場合、二量体化表面の各半分は、異なるクラス由来のパートナーSEEDの表面に接触する。すなわち、IgA様である1つのSEEDの第1半分は、IgG様であるパートナードメインの第2半分と接触し、IgG1様である第1SEEDの第2半分は、IgA様であるパートナードメインの第1半分と接触する。これらの表面は高度に相補的ではないため、それらの親和性は減少しており、それにより、より少ないホモ二量体およびより多いヘテロ二量体の形成が有利な熱力学が生じる。
【0067】
本実施例において、改変されたCH3はFcまたは抗体のほんの一部である。Fcまたは免疫グロブリンの残りはヒトIgG1由来である。CH3がCH2と接触または相互作用するアミノ酸配列を改変することにより、CH3 SEEDとIgG1 CH2ドメインの界面に関する問題が生じる恐れがある。加えて、この界面は、FcRnの結合部位を含み、そのことが、保持することが望ましい重要な特性をFcに付与している。従って、CH3とCH2間およびFcとFcRn間の相互作用に関与するCH3残基を同定するために構造情報(Martin et al. (2001) Molec. Cell 7:867)を用いた。すべてのSEEDにおける残基にヒトIgG1配列を用いた。FcRn相互作用面の構造を改変することを避けるように隣接残基を選択することの助けとするために、分子モデリングも使用した。CH2およびFcRnと相互作用するCH3の部分は二量体化界面の一部ではなく、従って、これらの改変はヘテロ二量体の形成を妨害しないと考えられる。
図3Bに、構造アラインメントでIgG1およびIgA配列とアラインメントした“全”SEED配列を示す。交換点に位置する残基は太字で強調されている。CH2および/またはFcRnとの相互作用を維持するのに重要なことから改変されなかった残基には下線が引かれている。
【0068】
実施例4
CH3ベースSEEDを含むヘテロ二量体Fcおよび抗体分子の構築
HuFcおよびHuFc-IL2構築物のみならず、IgG1 CH3ドメインの代わりにCH3 SEEDドメインを含む抗体構築物および抗体-IL2構築物を作製するために以下の一般的アプローチを用いた。IgG1のCH3ドメインは、IgG1 重鎖の定常領域を発現するpdCsまたはpdHL発現プラスミド中に存在する、おおよそ0.4kbのNgo MIV/Sma IゲノムDNAフラグメントにほぼ完全に含まれる。例示的な発現プラスミドは、例えば、pdCs-huFc-IL2(例えば、Lo et al., Protein Engineering [1998] 11:495参照)またはpdHL7-KS-IL2(例えば、米国特許第6,696,517号参照)である。Ngo MIV部位は、IgG1 CH3をコードするエキソンの5’に隣接するイントロン配列内に位置し、Sma I部位は、IgG1のC末端付近のSer444Pro445Gly446(Kabat EU Index)をコードする配列内に位置する。pdCsベクターから発現される成熟ヒトIgG1 Fcの典型的なDNA配列を配列番号27に示す。本発明のCH3 SEEDをコードするNgo MIV/Sma Iフラグメントで親Ngo MIV/Sma Iフラグメントを置換し、発現することにより、CH3 SEEDを有する定常領域を含むポリペプチドが生成する。
【0069】
配列番号27
末端リジン残基を含む成熟ヒトIgG1 FcをコードするpdCsのDNA配列
GAGCCCAAATCTTCTGACAAAACTCACACATGCCCACCGTGCCCAGGTAAGCCAGCCCAGGCCTCGCCCTCCAGCTCAAGGCGGGACAGGTGCCCTAGAGTAGCCTGCATCCAGGGACAGGCCCCAGCCGGGTGCTGACACGTCCACCTCCATCTCTTCCTCAGCACCTGAACTCCTGGGGGGACCGTCAGTCTTCCTCTTCCCCCCAAAACCCAAGGACACCCTCATGATCTCCCGGACCCCTGAGGTCACATGCGTGGTGGTGGACGTGAGCCACGAAGACCCTGAGGTCAAGTTCAACTGGTACGTGGACGGCGTGGAGGTGCATAATGCCAAGACAAAGCCGCGGGAGGAGCAGTACAACAGCACGTACCGTGTGGTCAGCGTCCTCACCGTCCTGCACCAGGACTGGCTGAATGGCAAGGAGTACAAGTGCAAGGTCTCCAACAAAGCCCTCCCAGCCCCCATCGAGAAAACCATCTCCAAAGCCAAAGGTGGGACCCGTGGGGTGCGAGGGCCACATGGACAGAGGCCGGCTCGGCCCACCCTCTGCCCTGAGAGTGACCGCTGTACCAACCTCTGTCCCTACAGGGCAGCCCCGAGAACCACAGGTGTACACCCTGCCCCCATCACGGGAGGAGATGACCAAGAACCAGGTCAGCCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTATCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGAACAACTACAAGACCACGCCTCCCGTGCTGGACTCCGACGGCTCCTTCTTCCTCTATAGCAAGCTCACCGTGGACAAGAGCAGGTGGCAGCAGGGGAACGTCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCTCCCTGTCCCCGGGTAAATGA
【0070】
本発明のCH3 SEEDをコードするDNA配列を得るために、標準法を用いた。例えば、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32および配列番号53に示す以下の配列を有するDNA分子をde novo合成し、pUC由来担体プラスミドで増幅させた(Blue Heron Biotechnology, Bothell, WA)。
【0071】
配列番号28
AG(f0) SEED(下線部、図3B“全AG SEED”に対応する)をコードする配列を含むNgo MIV/Sma I DNAフラグメント:
gccggctcggcccaccctctgccctgagagtgaccgctgtaccaacctctgtccctacaGGGCAGCCCTTCCGGCCAGAGGTCCACCTGCTGCCCCCATCACGGGAGGAGATGACCAAGAACCAGGTCAGCCTGACCTGCCTGGCACGCGGCTTCTATCCCAAGGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGAACAACTACAAGACCACGCCTTCCCGGCAGGAGCCCAGCCAGGGCACCACCACCTTCGCTGTGACCTCGAAGCTCACCGTGGACAAGAGCAGATGGCAGCAGGGGAACGTCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGACCATCTCCCTGtccccggg
【0072】
配列番号29
AG(s0) SEED(下線部、図3A“表面AG SEED”に対応する)をコードする配列を含むNgo MIV/Sma I DNAフラグメント:
gccggctcggcccaccctctgccctgagagtgaccgctgtaccaacctctgtccctacaGGGCAGCCCTTCGAACCAGAGGTCCACACCCTGCCCCCATCACGGGAGGAGATGACCAAGAACCAGGTCAGCCTGACCTGCCTGGTCCGCGGCTTCTATCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGAACAACTACAAGACCACGCCTTCCCGGCTGGAGCCCAGCCAGGGCACCACCACCTTCGCTGTGACCTCGAAGCTCACCGTGGACAAGAGCAGATGGCAGCAGGGGAACGTCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCTCCCTGtccccggg
【0073】
配列番号30
GA(f0) SEED(下線部、図3B“全GA SEED”に対応する)をコードする配列を含むNgo MIV/Sma I DNAフラグメント:
gccggctcggcccaccctctgccctgagagtgaccgctgtaccaacctctgtccctacaGGGCAGCCCCGAGAACCACAGGTGTACACCCTGCCCCCACCGTCGGAGGAGCTGGCCCTGAACGAGCTGGTGACGCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTATCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGCTGCAGGGGTCCCAGGAGCTGCCCCGCGAGAAGTACCTGACTTGGGCACCCGTGCTGGACTCCGACGGCTCCTTCTTCCTCTATAGTATACTGCGCGTGGCAGCCGAGGACTGGAAGAAGGGGGACACCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCGACCGCtccccggg
【0074】
配列番号31
GA(s0) SEED(下線部、図3A“表面GA SEED”に対応する)をコードする配列を含むNgo MIV/Sma I DNAフラグメント:
gccggctcggcccaccctctgccctgagagtgaccgctgtaccaacctctgtccctacaGGGCAGCCCCGAGAACCACAGGTGTACACCCTGCCCCCACCGTCGGAGGAGCTGGCCCTGAACAACCAGGTGACGCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTATCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGCCCCGCGAGAAGTACCTGACTTGGGCACCCGTGCTGGACTCCGACGGCTCCTTCTTCCTCTATTCGATACTGCGCGTGGACGCAAGCAGGTGGCAGCAGGGGAACGTCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCTCCCTGtccccggg
【0075】
配列番号32
GA(f1) SEED(下線部)をコードする配列を含むNgo MIV/Sma I DNAフラグメント:
gccggctcggcccaccctctgccctgagagtgaccgctgtaccaacctctgtccctacaGGGCAGCCCCGAGAACCACAGGTGTACACCCTGCCCCCACCGTCGGAGGAGCTGGCCCTGAACGAGCaGGTGACGCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTATCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGCTGCAGGGGTCCCAGGAGCTGCCCCGCGAGAAGTACCTGACTTGGaCcCCCGTGgTGGACTCCGACGGCTCCTTCTTCCTCTATAGTATACTGCGCGTGaCAGCCGAtGACTGGAAGAAGGGGGACACCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCGACCGCtccccggg
【0076】
配列番号53
GA(f2) SEED(下線部)をコードする配列を含むNgo MIV/Sma I DNAフラグメント:
gccggctcggcccaccctctgccctgagagtgaccgctgtaccaacctctgtccctacaGGGCAGCCCCGAGAACCACAGGTGTACACCCTGCCCCCACCGTCGGAGGAGCTGGCCCTGAACGAGCaGGTGACGCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTATCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGCTGCAGGGGTCCCAGGAGCTGCCCCGCGAGAAGTACCTGACTTGGgCaCCCGTGgacGACTCCGACGGCTCCcaCTTCCTCTATAGTATACTGCGCGTGaCAGCCGAtGACTGGAAGAAGGGGGACACCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCGACCGCtccccggg
【0077】
加えて、GA(f3) SEEDを含むポリペプチドは、以下のDNA配列によりコードされることができる:
配列番号54
GA(f3) SEED(下線部)をコードする配列を含むNgo MIV/Sma I DNAフラグメント:
gccggctcggcccaccctctgccctgagagtgaccgctgtaccaacctctgtccctacaGGGCAGCCCCGAGAACCACAGGTGTACACCCTGCCCCCACCGTCGGAGGAGCTGGCCCTGAACGAGCaGGTGACGCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTATCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGCTGCAGGGGTCCCAGGAGCTGCCCCGCGAGAAGTACCTGACTTGGaCcCCCGTGaccGACTCCGACGGCTCCgacTTCCTCTATAGTATACTGCGCGTGaCAGCCGAtGACTGGAAGAAGGGGGACACCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCGACCGCtccccggg
【0078】
フラグメント精製中、切り出したNgo MIV/Sma Iの望ましいインサートフラグメントと同様なサイズのプラスミドベクターフラグメントとの分離を容易にするために、これらの合成配列をおおよそ50bpのランダムDNAのストレッチを用いて3’末端をさらに伸長させた。ついで、ゲル精製したNgo MIV/Sma IフラグメントをFc部分またはFc-IL2部分のいずれかを含む同様に処理したpdCsベクター、あるいはDI-KSまたはDI-KS-IL2部分のいずれかを含む同様に処理したpdHLベクターに連結した。このようにして、例えば、AG(f0) SEED(配列番号28)についてはNgo MIV/Sma Iフラグメントを含むpdCs-HuFc(AG(f0))-IL2およびGA(f0) SEED(配列番号30)についてはNgo MIV/Sma Iフラグメントを含むpdCs-HuFc(GA(f0))が得られた。pdCs-HuFc(AG(f0))-IL2およびpdCs-HuFc(GA(f0))は、Fc(AG(f0) SEED)-IL-2ポリペプチド鎖およびFc(GA(f0) SEED)ポリペプチド鎖をそれぞれコードする。Fc(AG(f0) SEED)-IL-2とFc(GA(f0) SEED)の例示的な配列は、それぞれ以下の配列番号33および配列番号34で示される。得られたヘテロ二量体タンパク質の図を図11Aに示す。宿主細胞から両方のポリペプチド鎖の同時発現を行うために、以下の実施例5に記載のように、これらのFcポリペプチドのための転写ユニットを単一の発現ベクター上に組み合わせた。
【0079】
配列番号33
Fc(AG(f0) SEED)-IL2のポリペプチド配列:
EPKSSDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPFRPEVHLLPPSREEMTKNQVSLTCLARGFYPKDIAVEWESNGQPENNYKTTPSRQEPSQGTTTFAVTSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKTISLSPGKAPTSSSTKKTQLQLEHLLLDLQMILNGINNYKNPKLTRMLTFKFYMPKKATELKHLQCLEEELKPLEEVLNLAQSKNFHLRPRDLISNINVIVLELKGSETTFMCEYADETATIVEFLNRWITFCQSIISTLT
【0080】
配列番号34
Fc(GA(f0) SEED)のポリペプチド配列:
EPKSSDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPPSEELALNELVTLTCLVKGFYPSDIAVEWLQGSQELPREKYLTWAPVLDSDGSFFLYSILRVAAEDWKKGDTFSCSVMHEALHNHYTQKSLDRSPGK
【0081】
同様に、AG(f0) SEED(配列番号28)についてNgo MIV/Sma Iフラグメントを含むpdHL-DI-KS(AG(f0))-IL2およびGA(f0) SEED(配列番号30)についてNgo MIV/Sma Iフラグメントを含むpdHL-DI-KS(GA(f0))を得た。pdHL-DI-KS(AG(f0))-IL2およびpdHL-DI-KS(GA(f0))は、それぞれDI-KS(AG(f0) SEED)-IL-2重鎖(配列番号35)、DI-KS(GA(f0) SEED)重鎖(配列番号36)をコードする。両方の発現ベクターはまた、DI-KS 軽鎖(配列番号37)をコードする。
【0082】
配列番号35
DI-KS(AG(f0) SEED)-IL2重鎖のポリペプチド配列:
QIQLVQSGPELKKPGSSVKISCKASGYTFTNYGMNWVRQAPGKGLKWMGWINTYTGEPTYADDFKGRFTITAETSTSTLYLQLNNLRSEDTATYFCVRFISKGDYWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPFRPEVHLLPPSREEMTKNQVSLTCLARGFYPKDIAVEWESNGQPENNYKTTPSRQEPSQGTTTFAVTSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKTISLSPGAAPTSSSTKKTQLQLEHLLLDLQMILNGINNYKNPKLTRMLTFKFYMPKKATELKHLQCLEEELKPLEEVLNLAQSKNFHLRPRDLISNINVIVLELKGSETTFMCEYADETATIVEFLNRWITFCQSIISTLT
【0083】
配列番号36
DI-KS(GA(f0) SEED)重鎖のポリペプチド配列:
QIQLVQSGPELKKPGSSVKISCKASGYTFTNYGMNWVRQAPGKGLKWMGWINTYTGEPTYADDFKGRFTITAETSTSTLYLQLNNLRSEDTATYFCVRFISKGDYWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPPSEELALNELVTLTCLVKGFYPSDIAVEWLQGSQELPREKYLTWAPVLDSDGSFFLYSILRVAAEDWKKGDTFSCSVMHEALHNHYTQKSLDRSPGK
【0084】
配列番号37
DI-KS 軽鎖のポリペプチド配列:
QIVLTQSPASLAVSPGQRATITCSASSSVSYILWYQQKPGQPPKPWIFDTSNLASGFPSRFSGSGSGTSYTLTINSLEAEDAATYYCHQRSGYPYTFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0085】
DI-KS(AG(f0) SEED)-IL-2およびDI-KS(GA(f0) SEED)重鎖転写ユニットの両方ばかりでなく、共通の軽鎖転写ユニットを発現する単一の発現ベクターを得るために、本質的に以下のように構築物を作製した:KS(AG(f0) SEED)-IL-2をコードする配列を含むおおよそ3.9kbのSal I/Mfe IフラグメントをpdHL-10発現構築物(pdHL-10は、転写ユニットの外側に単一のSal I部位を含む新世代pdHL発現ベクターである)から切り出し、Bam HI/Mfe I二本鎖リンカーフラグメントと共にSal I/Bam HI消化pBSプラスミドと連結した。この二本鎖リンカーフラグメントはOligo11(配列番号38)およびOligo12(配列番号39)からなり、内部のSal I部位を含む。
Oligo11(配列番号38)
AATTGCCGGGTCGACATACG
Oligo12(配列番号39)
GATCCGTATGTCGACCCGGC
【0086】
ついで、Sal IフラグメントとしてpBSから3.9kbフラグメントを切り出し、DI-KS(GA(f0) SEED)重鎖およびthe DI-KS 軽鎖をコードする転写ユニットをすでに含んでいるpdHL-10発現構築物の唯一のSal I部位に挿入した。
【0087】
実施例5
CH3ベースSEEDを含むヘテロ二量体Fc分子を決定するためのアッセイ
本実施例は、Fcおよび免疫グロブリン重鎖の二量体を形成させる上で中核となる工程である、CH3二量体化を含む。理論上は、CH3ドメインを含む2つの異なるFc部分(例えば、AおよびBと名付ける)が細胞内で同時に発現される場合、次の配置でFc二量体分子を組み合わせて形成する事が可能である:A:A、A:BおよびB:B。CH3ドメインおよびヒンジドメインが同一であり、AおよびBが等しい量で発現されるとすれば、配置A:A、A:BおよびB:Bが1:2:1比で生じることが予期される。A-A、A-BおよびB-B相互作用の相対量、動力学および熱力学は、発現量と同様に、これら3つの最終種の観察される比のための重要な支配的要因である。一般に、タンパク質Aおよびタンパク質Bが相対量[A]および[B]で発現され([A]+[B]=1)、ホモ二量体およびヘテロ二量体が相対濃度[A-A]、[A-B]および[B-B]で生成される場合、会合に偏りがないとすれば、これらの二量体種は、それぞれ[A]2:2*[A]*[B]:[B]2の比率で存在するであろう。相対濃度が[A-B]>2*[A]*[B]であるとすれば、ヘテロ二量体化が有利であり、相対濃度が[A-B]<2*[A]*[B]であるとすれば、ホモ二量体化が有利である。好ましいSEED対に関しては、比[A-B]/2*[A]*[B]は2を超え、好ましくは3を超え、より好ましくは5を超える。
【0088】
異なる種の比率を決定するためには、アッセイによりそれらを識別する方法が必要である。このことを行うための簡単な方法は、Fcサブユニット(例えば、“A”)の1つに融合パートナーを結合させることであり、このことにより、かなり異なる分子量を有するそれぞれの3つの最終種が得られる。よって、1つの細胞内でヒトFc(HuFc)およびヒトIL-2に融合させたヒトFc(HuFc-IL-2)の両方を発現するように構築物を作製した。以下のように構築物を調製した:5’XbaI部位および3’XhoI部位での制限酵素処理により、Fc部分を含むベクターからHuFcの遺伝子を切り出した(例えば、Lo et al., Protein Engineering [1998] 11:495参照)。HuFc遺伝子を含む1.4Kbフラグメントをゲル精製し、第2ベクターであるpdCS-MuFc-KS-κにサブクローニングし、そのmuFcをHuFcで置き換えた。HuFc遺伝子はプロモーター領域の外側にある2つのSalI部位に隣接していた。
【0089】
HuFc遺伝子を組み込むために、HuFc-IL-2をコードする遺伝子および単一のSalI部位を含む第3のベクターを選択した。このベクターをSalIで切断し、仔牛小腸ホスファターゼ(Calf Intestinal Phosphatase)(CIP)で処理し、ゲル精製した。第2ベクターをSalIで消化し、2.5Kbフラグメントをゲル精製した。このフラグメントはHuFc遺伝子およびプロモーターを含んでおり、これをゲル精製した第3ベクターに挿入した。最終的に得られたベクターは、同じ調節要素の2連体を有する2つの異なる転写ユニット、野生型HuFcの発現を調節する1つの転写ユニットおよび野生型HuFc-IL-2の発現を調節する他の転写ユニットを含んでいた。SEEDベースHuFcおよびSEEDベースHuFc-IL-2を含む発現構築物も同様に作製した。
【0090】
この最終ベクターをQiagen maxi-prepを用いて増幅した。リポフェクタミン(Lipofectamine)TM2000キット(Invitrogen)を用い、10mgのDNAを用いて新生仔ハムスター腎臓(BHK)細胞を一過性にトランスフェクトした。細胞を分割し、2日間、半分を通常の培地で生育させ、他の半分を無血清培地で生育させた。上清(例えば、100μl)を回収した。10マイクロリットルのプロテインAビーズを加え、終夜4℃で混合し、タンパク質を結合させた。1%トリトン-X100を含有するPBSで3回洗浄した後、還元条件および非還元条件の両方で、サンプルをNu-Page(Invitrogen)4〜12%濃度勾配ビス-トリスゲルに載せた。直接タンパク質を可視化するためにコロイダルブルー(Invitrogen)でゲルを染色した。
図12において、典型的な対照結果をゲルの8〜10レーンで示す。図12Cにおける還元ゲルは、HuFcおよびHuFc-IL-2サブユニットの比率を示している。図12Bにおける非還元ゲルは、HuFcおよびHuFc-IL2分子は無作為に二量体化し、ホモ二量体化と比較してヘテロ二量体化への選択性は示されないことを示している。
【0091】
同様に、ウェスタンブロット分析のためにゲルをニトロセルロース膜に転写した。FcおよびIL-2の両方を測定するためにウェスタンブロットにおいて2つの方法でタンパク質を検出した。Fcを検出するために西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ヒトIgG Fc(Jackson Immunolabs)に対する抗体を用いた。ECL基質を用い、フィルム暴露により検出した。IL-2を検出するために、ヒトIL-2(R&D systems)に対するビオチン化抗体を用い、HRP標識アビジンを加えることによりシグナルを発現させ、ECL基質を用いてフィルム暴露により検出した。これらの実験により、図12に示されるバンドの素性を確認した。
【0092】
“全”GA SEED/AG SEEDおよび“表面”GA SEED/AG SEEDタンパク質の発現中に形成されるヘテロ二量体およびホモ二量体の濃度を測定するために、同様な実験を行った。AG SEED-IL2融合タンパク質およびGA SEEDタンパク質を発現する単一の発現ベクター構築物を、Fc/Fc-IL2の発現に関して上で述べたように構築した。図12Bおよび12Cの2〜4レーンに示すように、“全”GA SEED(Fc(GA(f0) SEED)および“全”AG SEED-IL-2(Fc(AG(f0) SEED)-IL2)タンパク質をNS/0細胞内で共発現させたとき、ヘテロ二量体化への優先性が強く、Fc(AG SEED)-IL2ホモ二量体は検出されず、Fc(GA SEED)ホモ二量体はほんの少量検出されただけだった。同様に、図12Bおよび12Cの5〜7レーンに示すように、“表面”GA SEED(Fc(GA(s0) SEED)および“表面”AG SEED-IL-2(Fc(AG(s0) SEED)-IL2)タンパク質をNS/0細胞内で共発現させたとき、ヘテロ二量体化が強く選択され、Fc(AG SEED)-IL-2ホモ二量体は検出されず、ほんの少量のFc(GA SEED)ホモ二量体が検出されただけだった。ヘテロ二量体は、細胞内で会合されたタンパク質の総量の約>90%を構成すると概算された。
【0093】
実施例6
低減された免疫原性を有するSEED分子の構築、発現およびヘテロ二量体化特性
AGおよびGA SEEDタンパク質配列は2つの異なる天然に存在するヒト配列間の雑種であるため、これらの配列は、正常なヒトタンパク質には見られず、非自己MHCクラスII T細胞エピトープにプロセシングされる可能性のあるペプチドセグメントを含む。従って、AG SEEDおよびGA SEED配列における潜在的非自己T細胞エピトープの数を低減するために、それぞれ配列番号1および配列番号2で示されるポリペプチド配列(式中、X1、X2、X3、X4、X5またはX6は任意のアミノ酸であることができる)により表される以下の配列を設計した。いくつかの実施形態において、配列番号1においては、X1はSであり、X2はVまたはTでありX3はSである。いくつかの実施形態において、配列番号2においては、X1はQであり、X2はAまたはTであり、X3はL、V、DまたはTであり、X4はF、A、D、E、G、H、K、N、P、Q、R、SまたはTであり、X5はTでありX6はDである。
【0094】
配列番号1
変動アミノ酸X1〜X3を有するAG SEEDのポリペプチド配列:
GQPFRPEVHLLPPSREEMTKNQVSLTCLARGFYPX1DIAVEWESNGQPENNYKTTPSRQEPSQGTTTFAVTSKLTX2DKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKX3ISL
【0095】
配列番号2
変動アミノ酸X1〜X6を有するGA SEEDのポリペプチド配列
GQPREPQVYTLPPPSEELALNEX1VTLTCLVKGFYPSDIAVEWLQGSQELPREKYLTWX2PVX3DSDGSX4FLYSILRVX5AX6DWKKGDTFSCSVMHEALHNHYTQKSLDR
【0096】
de novo合成により、例示的なSEED変種であるGA(f1) SEED(配列番号7)をコードするDNA分子(配列番号32)を作製し、実施例4に記載されているようにpdCs発現ベクター中に導入し、ポリペプチドFc(GA(f1) SEED)を作製した。
【0097】
配列番号7
GA(f1) SEEDのポリペプチド配列:
GQPREPQVYTLPPPSEELALNEQVTLTCLVKGFYPSDIAVEWLQGSQELPREKYLTWTPVVDSDGSFFLYSILRVTADDWKKGDTFSCSVMHEALHNHYTQKSLDR
【0098】
当業者に公知の標準法を用い、2工程PCRアプローチにより例示的な変種SEED部分であるAG(f1) SEED(配列番号4)、AG(f2) SEED(配列番号5)およびGA(f2) SEED(配列番号8)中に変異を導入した。この工程では、PCR増幅の第1ラウンドからの、2つの変異を導入した部分的に重複するPCRフラグメントを、PCR増幅の第2ラウンドで一緒にして最終の完全長フラグメントを生成した。本質的には、第1ラウンドにおいて、適切な制限部位(上流プライマーについてはNgo MIV、および下流プライマーについてはSma I)を含む適切な隣接するプライマーと組み合わせた、変異体配列を導入したPCRプライマーおよび適切な親SEED部分をコードするDNA鋳型をそれぞれ用いて2つのPCR反応を行った。第1PCR増幅産物を鋳型として用いて、同じフランキングPCRプライマーを第2PCR増幅反応に用いた。得られたフラグメントをpCR2.1ベクター(Invitrogen)にクローニングし、その配列を確認した。最終的に、実施例4に記載されているように、0.4kbのNgo MIV/Sma IDNAフラグメントをベクターから切り出し、ゲル精製し、同様に処理したレシピエント発現プラスミドと連結した。
【0099】
具体的には、AG(f1) SEEDに関して、PCR反応の第1ラウンドにおいてプライマー対Oligo1(配列番号40)/Oligo2(配列番号41)およびOligo3(配列番号42)/Oligo4(配列番号43)を鋳型pdCs-Fc(AG(f0) SEED)-IL2と共に用いた。PCR反応の第2ラウンドにおいてはOligo1(配列番号40)/Oligo4(配列番号43)を用いて配列番号44で示されるDNAフラグメントを作製し、このフラグメントをpdCs-Fc(AG(f0) SEED)-IL2に導入した。AG(f1) SEEDに関して、プライマー対Oligo1(配列番号40)/Oligo5(配列番号45)およびOligo6(配列番号46)/Oligo4(配列番号43)を配列番号44で示される配列を含む鋳型pCR2.1と共にPCR反応の第1ラウンドに用いた。PCR反応の第2ラウンドにおいて、Oligo1(配列番号40)/Oligo4(配列番号43)を用いて配列番号47で示されるDNAフラグメントを作製し、このフラグメントをpdCs-Fc(AG(f0) SEED)-IL2に導入した。GA(f2) SEEDに関しては、プライマー対Oligo1(配列番号40)/Oligo10(配列番号48)およびOligo7(配列番号49)/Oligo9(配列番号50)を、配列番号32で示される配列を含む鋳型担体プラスミドpUCと共に、PCR反応の第1ラウンドに用いた。PCR反応の第2ラウンドにおいて、Oligo1(配列番号40)/Oligo9(配列番号50)を用いて配列番号47で示されるDNAフラグメントを作製し、このフラグメントをpdCs-Fc(GA(f2) SEED)に導入した。上記のすべての配列を以下に示す。
【0100】
Oligo1(配列番号40)
GCCGGCTCGGCCCACCCTCT
Oligo2(配列番号41)
CGGCGATGTCGCTGGGATAGAA
Oligo3(配列番号42)
TTCTATCCCAGCGACATCGCCG
Oligo4(配列番号43)
CCCGGGGACAGGGAGATGGACTTCTGCGTGT
Oligo5(配列番号45)
GCTCTTGTCTGTGGTGAGCTT
Oligo6(配列番号46)
AAGCTCACCACAGACAAGAGC
Oligo7(配列番号49)
CCTGACTTGGGCACCCGTGGACGACTCCGACGGCTCCCACTTCCTCTATA
Oligo9(配列番号50)
CCCGGGGAGCGGTCGAGGCTC
Oligo10(配列番号48)
TATAGAGGAAGTGGGAGCCGTCGGAGTCGTCCACGGGTGCCCAAGTCAGG
【0101】
配列番号44
AG(f1) SEEDをコードする配列(下線部)を含むDNAフラグメントNgo MIV/Sma I:
gccggctcggcccaccctctgccctgagagtgaccgctgtaccaacctctgtccctacaGGGCAGCCCTTCCGGCCAGAGGTCCACCTGCTGCCCCCATCACGGGAGGAGATGACCAAGAACCAGGTCAGCCTGACCTGCCTGGCACGCGGCTTCTATCCCAgcGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGAACAACTACAAGACCACGCCTTCCCGGCAGGAGCCCAGCCAGGGCACCACCACCTTCGCTGTGACCTCGAAGCTCACCGTGGACAAGAGCAGATGGCAGCAGGGGAACGTCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGtCCATCTCCCTGtccccggg
【0102】
配列番号47
AG(f2) SEEDをコードする配列(下線部)を含むNgo MIV/Sma IDNAフラグメント:
gccggctcggcccaccctctgccctgagagtgaccgctgtaccaacctctgtccctacaGGGCAGCCCTTCCGGCCAGAGGTCCACCTGCTGCCCCCATCACGGGAGGAGATGACCAAGAACCAGGTCAGCCTGACCTGCCTGGCACGCGGCTTCTATCCCAgcGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGAACAACTACAAGACCACGCCTTCCCGGCAGGAGCCCAGCCAGGGCACCACCACCTTCGCTGTGACCTCGAAGCTCACCacaGACAAGAGCAGATGGCAGCAGGGGAACGTCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGtCCATCTCCCTGtccccggg
【0103】
HEK 293T細胞内で、Fc(AG(f1) SEED)、Fc(AG(f2) SEED)、Fc(GA(f1) SEED)-IL2およびFc(GA(f2) SEED)-IL2配列を個別および組み合わせて発現させ、得られた分泌タンパク質をStaphylococcusのプロテインAへのFcの結合に基づいて部分精製し、SDS-PAGEで分析した。還元SDSゲルでサンプルを分析したとき、Fc(AG(f1) SEED)およびFc(AG(f2) SEED)タンパク質はそれら自身発現は低かったことが明らかであったが、これは親Fc(AG(f0) SEED)タンパク質と類似している。理論に拘束されるものではないが、低い発現量は、おそらく二量体化パートナーを持たないモノマーのタンパク質分解により生じた結果だと思われる。Fc(GA(f1) SEED)-IL2タンパク質の発現は高レベルであったが、さらなるアミノ酸置換Val75Thrにより異なるFc(GA(f2) SEED)-IL2タンパク質の発現は大変低レベルであった。再び、理論に拘束されるものではないが、低い発現量は、二量体化パートナーを持たないモノマーのタンパク質のタンパク質分解による可能性がある。Fc(AG(f1) SEED)+Fc(GA(f1) SEED)-IL2、Fc(AG(f2) SEED)+Fc(GA(f1) SEED)-IL2、Fc(AG(f1) SEED)+Fc(GA(f2) SEED)-IL2およびFc(AG(f2) SEED)+Fc(GA(f2) SEED)-IL2の組み合わせを試験したところ、すべてが高レベルで発現された。同じサンプルを非還元ゲルで分析し、これらの結果を確認した。これらの組み合わせに関して、本質的にすべての発現タンパク質はヘテロ二量体であったことをこの分析は示している。低減された免疫原性を有する特定の変種GAおよびAG SEEDタンパク質は、それらのヘテロ二量体化に対する選択性を保持していることをこれらの結果は示している。
【0104】
実施例7
SEED Fc領域を用いる抗体-サイトカイン融合タンパク質の発現
SEEDベースFc領域の多機能性をさらに明らかにするために、実施例4に記載されているように、1つのIL-2部分を有する無傷の抗体を構築した。このタンパク質の図を図11Bに示す。具体的には、このタンパク質には、EpCAMに結合し、米国特許第6,696,517号に記載されている配列を有する抗体V領域、ヒトIgG1のCH1およびCH2ドメイン、ヒトCκ、GAおよびAG SEEDドメインならびにAG SEED含有重鎖のC末端に融合させたヒトIL-2を含有させた。
【0105】
標準法に従い、哺乳動物細胞内でタンパク質を発現させて、配列番号37、配列番号36および配列番号35に示すポリペプチド鎖を有するタンパク質を作製した。
哺乳動物細胞からヘテロ二量体が分泌される程度を決定するために、得られたタンパク質を分析した。例えば、非還元SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分泌タンパク質を分析した。原理的には、IL-2部分を0、1つまたは2つ有する抗体に対応する3つのバンドが同定されうる。実際の非還元ゲルは、1つのIL-2部分を有する抗体に対応する分子量を有する主に単一のバンドを示した。IL-2部分を有さない抗体に対応する分子量を有する、強度のずっと低いバンドが観察され、2つのIL-2部分に対応する分子量を有するバンドは検出されなかった。ゲルで分析する前にサンプルを還元した場合、おおよそ等しい量の抗体重鎖および重鎖-IL2に対応するタンパク質が検出された。
【0106】
前述の本発明の記載は、例示および説明を提供するものであって、網羅的ではなく、開示されたものだけに本発明を限定するものでもない。上記の教示と矛盾しない改変および変形は、発明の実施から得ることができる。このように、本発明の範囲は、請求項およびその均等物によって定義されることが指摘される。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1A】図1AはSEED構築物を設計する例示的な方法の概略図を表す。2つの関連親ドメインXおよびYがアラインメントされている。ついで、1つのSEEDサブユニットとして2つの親配列からの交互に配列セグメントを選択し、もう一方のSEEDサブユニット配列を生成するために相補配列セグメントを選択することにより2つのSEEDサブユニット(XYおよびYX)の配列が生成される。この方法で設計されたSEEDを“全”SEEDと呼ぶ。
【図1B】図1Bは、二量体化界面を形成するアミノ酸のみが親配列の1つから選択されるということ以外は図1Aと類似している、SEED構築物を設計する第2の例示的な方法の概略図である。この方法で操作されたSEEDを“表面”SEEDとも呼ぶ。
【図1C】図1Cは、第1娘SEED(白色楕円)および第2娘SEED(黒色楕円)ならびに融合パートナー、例えば生物活性ドメイン(柄のある白色菱形)、から構成される、SEEDヘテロ二量体の例示的な配置を表す図である。SEED部分と融合パートナーは、リンカーセグメント(図示せず)により連結されていることができる。2以上の融合パートナーとの配置において、融合パートナーは、互いに同一であっても、互いに異なっていてもよいが、図においては、それらは一般的に柄のある白色菱形として示されている。融合パートナーは、SEED部分に対してN末端(A)またはC末端(B)であることができる。(C)におけるように、SEEDの1つの末端に複数の連結された融合パートナーが存在してもよいし、あるいはこれらの融合パートナーはSEEDの反対側の末端に位置してもよい(D)。1つの融合パートナーを第1娘SEEDのN末端に位置させ、第2融合パートナーを第2娘SEEDのN末端(F)またはC末端(G)に位置させることもできる。SEEDヘテロ二量体は、3つ(H)または4つ(I)の融合パートナーを含むことができる。
【図2】図2は、ヒトIgG1 CH3(配列番号51)およびヒトIgA CH3(配列番号52)ドメインの構造アラインメントを表す。残基番号は配列の上下に示されている。IgG1は、Kabat EU番号付けに従って番号付けし、IgAは、PDB構造1OW0におけるように順番に番号付けした。太文字は、実施例1の表2に記載されているアラインメントに含まれていた主鎖の位置を示す。菱形は、IgG1およびIgAホモ二量体における二量体化界面に接触または接近する残基を示す。
【図3A】図3Aは、ヒトIgA(配列番号52)、IgG1(配列番号51)ならびに娘“表面”SEED配列である“AG SURF”(配列番号10)および“GA SURF”(配列番号11)の配列のアラインメントおよび二次構造を表す。IgG1は、Kabat EU番号付けに従って番号付けし、IgAは、PDB構造1OW0におけるように連続番号付けした(ネイティブ番号をアラインメントの中央に示した)。この図に関しては、分子の構造アラインメントを示すために、SEED配列の連続番号付けは、文字A”、“B”など(例えば、18A)で示される余剰ループ残基で中断されている。鎖交換点を太字の配列文字で示した。共通の残基を有さない2つの交換点はイタリック体で示されている。モデリングされた2つのSEEDの二次構造(配列の上下の矢印)は鎖交換を示し、図6Bおよび6Cに示すように、ドメインの分割のされ方を示すために着色されている。白色セグメントはIgA由来であり;灰色セグメントはIgG由来であり;黒色セグメントは交換点における共通の残基である。IgAセグメントの12残基には下線が引かれている。CH3/CH2界面領域に近接しているため、これらはIgGと同様に保存された残基である。これらの残基はCH3二量体化には関与しないが、CH2との相互作用および/またはFcRnとの複合体に潜在的に重要である。両方のSEEDに関して、CH2はヒトIgGであるため、ネイティブのCH2/CH3相互作用およびFcRn結合により付与される種々の既知の利点の両方を維持するためにこれらの残基を保存した。
【図3B】図3Bは、ヒトIgA、IgG1ならびに娘“全”SEED配列である“AG SEED”(配列番号3)および“GA SEED”(配列番号6)の配列のアラインメントおよび二次構造を表す。IgG1は、Kabat EU番号付けに従って番号付けし、IgAは、PDB構造1OW0におけるように連続番号付けした(ネイティブ番号をアラインメントの中央に示した)。この図に関しては、分子の構造アラインメントを示すために、SEED配列の連続番号付けは、文字A”、“B”など(例えば、18A)で示される余剰ループ残基で中断されている。鎖交換点を太字の配列文字で示した。共通の残基を有さない2つの交換点はイタリック体で示されている。モデリングされた2つのSEEDの二次構造(配列の上下の矢印)は鎖交換を示し、図6Bおよび6Cに示すように、ドメインの分割のされ方を示すために着色されている。白色セグメントはIgA由来であり;灰色セグメントはIgG由来であり;黒色セグメントは交換点における共通の残基である。IgAセグメントの12残基には下線が引かれている。CH3/CH2界面領域に近接しているため、これらはIgGと同様に保存された残基である。これらの残基はCH3二量体化には関与しないが、CH2との相互作用および/またはFcRnとの複合体に潜在的に重要である。両方のSEEDに関して、CH2はヒトIgGであるため、ネイティブのCH2/CH3相互作用およびFcRn結合により付与される種々の既知の利点の両方を維持するためにこれらの残基を保存した。
【図4】図4は、CH3ホモ二量体の対称性を示すIgG抗体分子を表す。垂直バーは2重回転対称軸を示す。
【図5】図5は、CH3ドメインのヘテロ二量体SEEDアナログと対になった、2つの異なるFabドメインを有する2重特異性抗体様分子を表す。切り刻まれた灰色部分はIgG由来部分を表し、白色部分はIgA由来部分を示す。AG/GAヘテロ二量体においては、CH3複合体の対称性は破られており、このことは2重回転対称軸を示す垂直バー上の“X”により示されている。
【図6】図6A〜Cは、IgG CH3および2つのCH3ベースSEEDの二次構造の概略図である。図6Aは、野生型CH3の二次構造を表す。図6Bは、“GA SEED”の二次構造および鎖交換パターンを表す。灰色はIgG配列を表し;白色はIgA配列を表し;黒色は交換点を表し、広めの黒色バンドは、IgAおよびIgGの両方において保存されている残基を示している。図6Cは、“GA SEED”のパターンの反対のパターンを含む“AG SEED”の二次構造を表す。
【図7A】図7A〜Cは、“GA SEED”および“AG SEED”のCH3ドメインの3次元構造、およびそれらの推定上のヘテロ二量体構造の3次元構造のリボン図表示であり、交換交差点およびCH3ドメイン相互作用を示す。すべての図において白色または淡灰色リボンはIgA配列および構造を表し、暗い灰色はIgGの配列および構造に対応し、黒色部分はGからAへの配列交換(逆もまた同様)を示している。55-56および101-102(図3Bに従って番号付けした)の2つの交換点を除いて、全ての黒色残基は、配列および基本構造においてIgAおよびIgGに共通している。図7Aは、7回交換後の、N末端がIgG配列で始まり、IgAで終わる“GA SEED”を表す。この構造において、β鎖の上層はシートの外側にあり、背部の層は他のCH3ドメインとの界面を形成している。
【図7B】図7A〜Cは、“GA SEED”および“AG SEED”のCH3ドメインの3次元構造、およびそれらの推定上のヘテロ二量体構造の3次元構造のリボン図表示であり、交換交差点およびCH3ドメイン相互作用を示す。すべての図において白色または淡灰色リボンはIgA配列および構造を表し、暗い灰色はIgGの配列および構造に対応し、黒色部分はGからAへの配列交換(逆もまた同様)を示している。55-56および101-102(図3Bに従って番号付けした)の2つの交換点を除いて、全ての黒色残基は、配列および基本構造においてIgAおよびIgGに共通している。図7Bは、IgA配列で始まる“AG SEED”を表す。この場合、前面のβ鎖は界面を形成し、背部のβ鎖は二量体の外側にある。
【図7C】図7A〜Cは、“GA SEED”および“AG SEED”のCH3ドメインの3次元構造、およびそれらの推定上のヘテロ二量体構造の3次元構造のリボン図表示であり、交換交差点およびCH3ドメイン相互作用を示す。すべての図において白色または淡灰色リボンはIgA配列および構造を表し、暗い灰色はIgGの配列および構造に対応し、黒色部分はGからAへの配列交換(逆もまた同様)を示している。55-56および101-102(図3Bに従って番号付けした)の2つの交換点を除いて、全ての黒色残基は、配列および基本構造においてIgAおよびIgGに共通している。図7Cは、“GA SEED”および“AG SEED”の推定上のヘテロ二量体構造を表す図である。図7Aで示される構造を図7Bで示される構造上に移動させれば界面表面が形成される。黒色の残基は、垂直に配向し、このページに垂直な近似平面を形成する。左寄りのすべての残基は暗い灰色(IgG)であり、右よりのすべての残基は白色(IgA)である。このように白色対白色、灰色対灰色により、IgAおよびIgG界面の融合として界面の全体がうまく形成される。代わりのホモ二量体(AG/AGおよびGA/GA)は、それぞれがそのIgA側をそのIgG側(分割面の両側)に併置されるので好ましくない。
【図8】図8〜10は、本明細書記載のSEED部分を用いて作製できる一連のタンパク質分子を概略的に示す図である。これらの図のすべてに関して、異なっている部分は以下のように示される。図8および図9において、GA SEEDを含むポリペプチド鎖はすべて黒色に着色されており、AG SEEDを含むポリペプチド鎖は白色に着色されている。このようなポリペプチド鎖内では、GA SEED含有ポリペプチド鎖の一部である抗体V領域は、まばらな白色ストライプを伴う黒色であり、AG SEED含有ポリペプチド鎖の一部である抗体V領域は、まばらな黒色ストライプを伴う白色である。軽鎖定常領域はチェッカーボードパターンで示されている。抗体ヒンジ領域は、“S-S”で結合したほっそりした楕円で示され、太い線はヒンジ領域間のジスルフィド結合を表す。ポリペプチドリンカーは点線で表されている。 図8、図9および図10の部分には、以下のように数字ラベルが付けられている。図を簡素化するために、場合によっては数字ラベルを図示しないが、種々のドメインおよび領域の同一性は、対応するドメインおよび領域を有する図から推測することができる。“1”は重鎖および軽鎖V領域のGA関連セットを示す。“2”は重鎖および軽鎖V領域のAG関連セットを示す。“3”はGA関連軽鎖V領域を示す。“4”はFab領域を示す。“5”はGA関連重鎖V領域を示す。“6”はAG関連重鎖V領域を示す。“7”はAG関連軽鎖V領域を示す。“8”は軽鎖定常領域を示す。“9”はSEED対を含むFc領域を示す。“10”はSEED対を示す。“11”は人工のリンカーを示す。“12”はGA関連単一ドメインまたはラクダ科動物V領域を示す。“13”はAG関連単一ドメインまたはラクダ科動物V領域を示す。“14”はGA SEEDを含むポリペプチド鎖に導入されたダイアボディまたは一本鎖融合ダイアボディを示す。“15”はAG SEEDを含むポリペプチド鎖に導入されたダイアボディまたは一本鎖融合ダイアボディを示す。“16”、“17”、“18”または“19”は、非Igドメインなどの任意のタンパク質またはペプチドのことを言う。このようなドメインは、例えば、サイトカイン、ホルモン、毒素、酵素、抗原および細胞表面受容体の細胞外ドメインを含むことができる。“20”は標準的なホモ二量体Fc領域を示す。“21”はCH3ドメインの標準的なホモ二量体対を示す。図8は、本質的に天然に存在するV領域、例えばFab(図8Aおよび図8B)、一本鎖Fab(図8Cおよび図8D)、ならびに単一ドメインもしくはラクダ科動物単一ドメインV領域(図8Eおよび図8F)などを有する部分を含む抗体型SEED配置のタイプを示す。図8A、図8Cおよび図8Eは、CH2ドメインばかりでなくヒンジも含む本質的に無傷のFc領域を含む分子を示す。図8B、図8Dおよび図8FはCH2ドメインを欠く分子を示しており、場合により、ジスルフィド結合の能力を有するシステイン残基を有することも欠くこともあるリンカーによりヒンジが置き換えられている。
【図9】図9は、一本鎖Fvs(図9Aおよび図9B)、ダイアボディ(図9Cおよび図9D)ならびに2つのポリペプチド鎖(図9Eおよび図9F)のN末端および/またはC末端に結合されているさらなる部分を有する一本鎖Fvsなどの人工的に形成されたV領域を有する部分を含む抗体型SEED配置の種々のタイプを示す。図9A、図9Cおよび図9Eは、CH2ドメインばかりでなくヒンジも含む本質的に無傷のFc領域を含む分子を示す。図9B、図9Dおよび図9Fは、CH2ドメインを欠く分子を示しており、場合により、ジスルフィド結合の能力を有するシステイン残基を有することも欠くこともあるリンカーによりヒンジが置き換えられている。
【図10】図10は、抗体中のCH1-CL対がGA/AG SEED対により本質的に置き換えられた分子を示す。XおよびYにより示されるさらなる部分を、GAおよびAG SEEDのN-末端部位に配置することができる。部分Xおよび部分Yは、例えば、Fab、一本鎖Fab、ラクダ科動物単一ドメインV領域、一本鎖Fv、図9Cおよび図9Dにおいて“14”および“15”により示されるような一本鎖ダイアボディであることができる。CH3ドメインのC-末端にさらなる部分(“21”で示されている)を融合させることができる。
【図11】図11Aは、実施例5に記載されているように作製されたFcヘテロ二量体を示しており、AG SEED部分がC末端に融合したIL-2部分を有する。この場合、CH2およびヒンジ部分は同一である。図11Bは実施例7に記載されているように作製された抗体を示しており、AG SEED部分はそのC末端に融合したIL-2部分を有する。各抗体ドメインは楕円で表され、IL-2部分は白色正方形で表される。この場合、CH2、CH1、ヒンジ、VH、VLおよびCL部分は同一である。ヒンジ領域は、図中の“S-S”で表されるジスルフィド結合により結合されている。軽鎖定常領域は、チェッカーボードパターンで表されている。軽鎖V領域は垂直ストライプパターンで表されている。VH、CH1およびCH2領域は黒色である。
【図12−1】A〜Cは、同じ細胞内でFcおよびFc-IL2の発現の結果により示されるような、ヘテロ二量体へのAG/GA SEEDの選択的会合を示す。Aは、各二量体種が異なる分子量を有する、FcおよびFc-IL2の共発現から得られる分子の可能な配置を示す。Bは、以下のサンプル:レーン1―分子量標準品;レーン2〜4―NS/0細胞から発現された“全”Fc(GA SEED)/Fc(AG SEED)-IL2の総タンパク質約1、2および4マイクログラム;レーン5〜7―NS/0細胞から発現された“表面”Fc(GA SEED)/Fc(AG SEED)-IL2の総タンパク質約1、2および4マイクログラム;レーン8〜10―NS/0細胞から発現された親IgG Fc/Fc-IL2の総タンパク質約1、2および4マイクログラム;を載せた非還元SDSゲルを示す。Cは、IgG由来FcおよびFc-IL2の発現の比率を示す還元ゲルである。
【図12−2】D〜Eは、図12-1 B〜CのFc/Fc-IL2タンパク質の、非還元サンプル(パネルD)および還元サンプル(パネルE)のウェスタンブロット分析を示す。“全”Fc(GA SEED)/Fc(AG SEED)-IL2(レーン1および4)、“表面”Fc(GA SEED)/Fc(AG SEED)-IL2(レーン2および5)ならびに親Fc/Fc-IL2(レーン3および6)の2連サンプルを載せ、抗ヒトIgG Fc(レーン1〜3)抗体および抗ヒトIL-2(レーン4〜6)抗体を用いてブロットを検出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非同一の操作された第1および第2ドメインを少なくとも含むマルチドメインタンパク質であって、前記操作された第1および第2ドメインのそれぞれが2以上の天然に存在する相同親ドメイン由来のアミノ酸配列セグメントを含むタンパク-タンパク質相互作用界面を含み、それによって前記操作された第1および第2ドメインに親ドメインの会合特異性と区別される会合特異性が付与され、前記操作された第1および第2ドメインが互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する、前記マルチドメインタンパク質。
【請求項2】
マルチドメインタンパク質が、操作された第1ドメインを含む第1サブユニットおよび操作された第2ドメインを含む第2サブユニットを含む、請求項1記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項3】
2以上の天然に存在する相同親ドメインが免疫グロブリンスーパーファミリードメインである、請求項1または2記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項4】
免疫グロブリンスーパーファミリードメインが抗体のCH3ドメインである、請求項3記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項5】
CH3ドメインがIgGおよびIgAのCH3ドメインを含む、請求項4記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項6】
操作された第1および第2ドメインが、ジスルフィド結合で結合したポリペプチド鎖の一部である、請求項1〜5のいずれかに記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項7】
操作された第1および第2ドメインの1つが、同じ親ドメイン由来の少なくとも2つの非隣接配列セグメントを含む、請求項1〜6のいずれかに記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項8】
アミノ酸配列セグメントのそれぞれが2以上のアミノ酸を含む、請求項1〜7のいずれかに記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項9】
操作された第1ドメインのタンパク質-タンパク質相互作用界面が各親ドメインからの少なくとも2つのアミノ酸を含む、請求項1〜8のいずれかに記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項10】
マルチドメインタンパク質が第1生物活性ドメインを含む、請求項1〜9のいずれかに記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項11】
第1生物活性ドメインが、操作された第1ドメインのN末端位置を占める、請求項10記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項12】
マルチドメインタンパク質が第2生物活性ドメインをさらに含む、請求項10または11記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項13】
第2生物活性ドメインが、操作された第1ドメインのC末端位置を占める、請求項10〜12のいずれかに記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項14】
第1生物活性ドメインが抗体可変領域を含む、請求項10〜13のいずれかに記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項15】
マルチドメインタンパク質が、異なる特異性を有する第2抗体可変領域を含む第2生物活性ドメインをさらに含む、請求項14記載のマルチドメインタンパク質。
【請求項16】
生物系に投与するとき、生物活性ドメインを共局在化させる方法であって、請求項16記載の多量体タンパク質を生物系に投与する工程を含む前記方法。
【請求項17】
生物系が哺乳動物である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
界面で接する非同一の操作された第1および第2ドメインを少なくとも含むマルチドメインタンパク質であって、前記操作された第1および第2ドメインのそれぞれの界面が、天然に存在する異なる相同親ドメインにそれぞれ由来する少なくとも2つのアミノ酸配列セグメントを含み、それによって親ドメインの会合特異性と区別される会合特異性が付与され、前記操作された第1および第2ドメインが互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する、前記マルチドメインタンパク質。
【請求項19】
界面で接する操作された異なる第1および第2ドメインを少なくとも含むマルチドメインタンパク質であって、(1)前記操作された第1および第2ドメインが、2以上の天然に存在する相同親ドメインに由来し、(2)前記操作された第1ドメインの界面が、同じ親ドメイン由来の前記操作された第2ドメインの界面上のアミノ酸配列セグメントと相互作用する少なくとも1つのアミノ酸配列セグメントを含み、(3)前記操作された第1および第2ドメインが互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する、前記マルチドメインタンパク質。
【請求項20】
(i)2以上の相同親ドメイン由来のアミノ酸配列を有するドメイン;
(ii)多量体化を媒介し、前記親ドメインの2以上に由来するアミノ酸を含む前記ドメイン上の相互作用界面;
を含む多量体タンパク質であって、
異なる親ドメインからのアミノ酸の存在により多量体化の特異性が増強されている、前記多量体タンパク質。
【請求項21】
ドメインが、多量体化を促進するジスルフィド結合を形成するシステインを含むポリペプチド鎖の一部である、請求項20記載の多量体タンパク質。
【請求項22】
免疫グロブリンスーパーファミリーの第1メンバー由来の天然に存在する第1免疫グロブリン鎖、および、免疫グロブリンファミリーの異なる第2メンバー由来の天然に存在する第2免疫グロブリン鎖、を含む操作されたヘテロ二量体免疫グロブリン分子であって、前記免疫グロブリン鎖のそれぞれが、抗体可変領域ではない生物活性ドメインを含み、もう一方の免疫グロブリンスーパーファミリー鎖からの相補的アミノ酸セグメントを含むタンパク質-タンパク質界面ドメインを含み; 前記第1鎖のタンパク質-タンパク質界面が、前記第2鎖のタンパク質-タンパク質界面ドメインと、前記相互作用ドメイン内の同じ免疫グロブリンスーパーファミリー由来の対応するアミノ酸セグメントのホモ二量体化により相互作用している、前記操作されたヘテロ二量体免疫グロブリン分子。
【請求項23】
生物活性ドメインが抗体のCH3ドメイン、CH2-CH3ドメインまたはCH1-CH2-CH3ドメインである、請求項22記載の操作されたヘテロ二量体免疫グロブリン分子。
【請求項24】
生物活性ドメインが抗体のCH3ドメインである、請求項23記載の操作されたヘテロ二量体免疫グロブリン分子。
【請求項25】
非同一の操作された第1および第2ドメインを少なくとも含むマルチドメインタンパク質をコードする核酸であって、前記操作された第1および第2ドメインのそれぞれが2以上の天然に存在する相同親ドメイン由来のアミノ酸配列セグメントを含むタンパク質-タンパク質相互作用界面を含み、それによって、前記第1および第2ドメインに親ドメインの会合特異性と区別される会合特異性が付与され、 (1)前記操作された第1および第2ドメインが互いにホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成し、(2)前記操作された第1および第2ドメインは抗体可変領域ではない、前記マルチドメインタンパク質をコードする核酸。
【請求項26】
請求項25記載の核酸を含む細胞。
【請求項27】
請求項1〜24のいずれかに記載の多量体タンパク質をコードする核酸。
【請求項28】
優先的にヘテロ二量体化するドメインを有するマルチドメインタンパク質の設計方法であって、
(a)第1ポリペプチド、第2ポリペプチド、第3ポリペプチドおよび第4ポリペプチドを選択する工程であって、前記第1および第3ポリペプチドは互いに二量体化するが前記第2または第4ポリペプチドとは二量体化せず、前記第2および第4ポリペプチドは互いに二量体化するポリペプチドである、前記工程、
(b)前記第1および第2ポリペプチドから、前記第1ポリペプチドの少なくとも1つの会合部分を含む第1ドメインのアミノ酸配列を構成する工程、
(c)前記第3および第4ポリペプチドから、前記第3ポリペプチドの少なくとも1つの会合部分を含む第2ドメインのアミノ酸配列を構成する工程、を含み、
前記第1および第3ポリペプチド由来の会合部分が互いに会合し、それによって前記第1ドメインと第2ドメインのヘテロ二量体化が促進される、前記方法。
【請求項29】
第1ドメインが第2ポリペプチドの会合部分をさらに含み、第2ドメインが第4ポリペプチドの会合部分をさらに含み、前記第2および第4ポリペプチド由来の会合部分が互いに会合し、それによって前記第1ドメインと第2ドメインのヘテロ二量体化が促進される、請求項28記載の方法。
【請求項30】
工程(b)または工程(c)が、第1、第2、第3または第4ポリペプチドの2以上の3次元構造を比較することを含む、請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
第1および第3ポリペプチドが同一である、請求項28〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
第2および第4ポリペプチドが同一である、請求項31記載の方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図7C】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図8C】
image rotate

【図8D】
image rotate

【図8E】
image rotate

【図8F】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate

【図9D】
image rotate

【図9E】
image rotate

【図9F】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図12−1】
image rotate

【図12−2】
image rotate


【公表番号】特表2009−531040(P2009−531040A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501919(P2009−501919)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2007/002590
【国際公開番号】WO2007/110205
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】