説明

操作感触測定装置及び操作感触測定方法

【課題】従来技術は、回転盤の上面を手指で押圧して回転操作する形態の回転操作型入力デバイスの操作感触を測定することができないという問題がある。
【解決手段】上記の課題を解決するために、本発明に係る操作感触測定装置は、入力デバイスを搭載して回転する回転ステージと、回転ステージに搭載された入力デバイスの回転盤上面を押圧する接触子と、接触子の位置を制御する接触子制御機構と、を有し、接触子の端部には、接触子が入力デバイスの回転盤上面を押圧する際に、その上面から受ける垂直方向の応力を検出する垂直方向荷重センサが具備され、接触子とその保持部との間には、接触子に作用する回転ステージの円運動接線方向の応力を検出する回転方向荷重センサが具備されること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に搭載されるスイッチなどの入力デバイスの操作感触を測定する操作感触測定技術に関し、特に、回転盤の上面を押圧して回転操作する形態の回転操作型入力デバイスの操作感触を測定する操作感触測定装置及び操作感触測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家電やモバイル製品などに用いられる入力デバイスにはプッシュ、スライド、回転など様々な操作様式があるが、近年急速に進んだ軽薄短小化、多機能化により限られたスペース、数の入力デバイスで多種多様な操作を実現する必要性が生じてきており、複雑化、複合化した入力デバイスには単に入力機能を満足するだけでなく、煩雑な操作であっても負担無く快適に利用できるような「操作感触」を有することが期待されている。
【0003】
この入力デバイスを提供する上では、製品価値向上の観点からもユーザーやセットメーカーが期待する「操作感触」を的確に反映することが欠かせないが、その実現には操作感触に強い影響を与える動作特性を正確に把握して製品に投影する必要がある。
【0004】
ここで、入力デバイスの動作特性評価にはこれまでにいくつかの手法が報告されている。例えば特許文献1では操作部品の操作部に電磁駆動部の可動部を当接させ、操作時の位置と力の関係を電磁駆動部材の可動部の位置と力の関係から求める手法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、回転軸を摘んで回す形態の回転操作型電子部品について、その回転軸をチャックで保持して回転させて回転荷重を検出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−160212号公報
【特許文献2】特開平11−337429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術は、例えば特開2003−36767号公報に記載される複合スイッチに含まれるような、回転盤の上面を手指で押圧して回転操作する形態の回転操作型入力デバイスの操作感触を測定することができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る操作感触測定装置は、回転盤の上面を押圧して回転操作する回転操作型入力デバイスの操作感触を測定する。この操作感触測定装置は、入力デバイスを搭載して回転する回転ステージと、回転ステージに搭載された入力デバイスの回転盤上面を押圧する接触子と、接触子の位置を制御する接触子制御機構と、を有し、接触子の端部には、接触子が入力デバイスの回転盤上面を押圧する際に、その上面から受ける垂直方向の応力を検出する垂直方向荷重センサが具備され、接触子とその保持部との間には、接触子に作用する回転ステージの円運動接線方向の応力を検出する回転方向荷重センサが具備されること、を特徴とする。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係る操作感触測定方法は、回転盤の上面を押圧して回転操作する回転操作型入力デバイスの操作感触を測定する。この操作感触測定方法は、入力デバイスを回転ステージに搭載し、接触子が入力デバイスの回転盤上面を押圧するように、接触子制御機構によって位置を制御され、その状態で回転ステージの回転を開始し、接触子の端部に設けられた垂直方向荷重センサで入力デバイスの回転盤上面から受ける垂直方向の応力を検知し、接触子とその保持部との間に設けられた回転方向荷重センサで接触子に作用する回転ステージの円運動接線方向の応力を検知すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、回転盤の上面を押圧して回転操作する回転操作型入力デバイスの操作感触を測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】操作感触測定装置100の側面図。
【図2】操作感触測定装置100のシステム構成例を示す図。
【図3】操作感触測定装置100の処理フロー例を示す図。
【図4】回転ステージ20上に入力デバイス11を搭載する方法を説明するための図。
【図5】入力デバイス11の回転盤の中心と回転ステージ20の回転中心線とが一致した状態を示す図。
【図6】接触子40が入力デバイス11の回転盤上面を押圧している状態を示す図。
【図7】図1の破線Bで囲まれた部分の上方拡大斜視図。
【図8】図1の破線Bで囲まれた部分の下方拡大斜視図。
【図9】垂直方向荷重センサがアレイセンサである場合の概念図。
【図10】(A)は回転方向荷重センサ43の出力と回転角度との関係例を、(B)は垂直方向荷重センサ41の出力と回転角度との関係例を示す図。
【図11】(A)は接触子40の形状例1、(B)は接触子40の形状例2、(C)は接触子40の形状例3を示す図。
【図12】取得したデータから操作特性を抽出する際の処理フロー例を示す図。
【図13】変形例1に係る接触子40’が入力デバイス11の回転盤上面を押圧している状態を示す図。
【図14】(a)は剛体40’b上に垂直方向荷重センサ41が設けられ低弾性体40’aを介して入力デバイス11の回転盤上面から応力を受ける例、(b)は垂直方向荷重センサ41が低弾性体40’aによって挟まれ、低弾性体40’aを介して入力デバイス11の回転盤上面から応力を受ける例、(c)は接触子40’の形状を人指型形状とした場合の例を示す図。
【図15】初期条件測定手段110の側面図を示す図。
【図16】実施例2に係る操作感触測定装置200の処理フロー例を示す図。
【図17】接触状態を測定する際の処理フロー例を示す図。
【図18】設定初期条件を抽出する際の処理フロー例を示す図。
【図19】(A)は入力デバイス11の回転盤上面上に分布型の感圧センサ140を設置した場合の初期条件測定手段110の側面図、(B)は上面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<考察>
特許文献1を利用することにより、プッシュ形式などの単純な操作スイッチについて一定の現象解析は行えるが、回転操作型入力デバイスにこの技術を適用してその回転の操作感触を測定することはできない。操作感触測定装置の可動部(接触子)に回転操作をさせる駆動、及びその回転トルクの反力の測定が、特許文献1記載の技術によっては実行不可能だからである。
【0013】
特許文献2は、回転軸を摘んで回す形態の回転操作型電子部品の回転荷重を検出することはできるが、特許文献1と同様に回転盤の上面を手指で押圧して回転操作する形態の回転操作型入力デバイスの操作感触を測定することはできない。
【0014】
ここで特許文献2の技術の応用として、特許文献2に記載される装置のチャックや取付板に相当するような、回転盤上面に対して嵌合、或いは摩擦係合する治具を用意し、これを何らかの構成の回転荷重検出手段に連結して特許文献2と同様の方法を実施することは可能である。しかし、そのような方法によって測定されるのは、単なる回転荷重のデータであって、実際に人の手指で入力デバイスを操作する際に経験される操作感触を反映するものではなく、それとは著しく相違するものである。
【0015】
具体的には、実際の操作感触は、回転盤の上面上の手指を接触押圧する接触位置、接触面積、垂直方向荷重、手指と上面とがなす角度等の入力デバイスへの入力に関わる諸条件、及び回転盤の上面に施される意匠すなわち表面形状、入力デバイスの操作部を構成する各部品の形状、摩擦、製品個体ごとの組立てのガタ等の入力デバイス自体またはその出力に関わる諸条件によって変化するものである。だが上記従来技術の応用によって測定されるのは、このような諸条件の影響を全く排除した単なる回転荷重のデータでしかない。
【0016】
すなわち従来は、回転盤の上面を押圧して回転操作する回転操作型入力デバイスについて、上記諸条件を含んでなる実際の使用状況を考慮してその操作感触を客観的に測定する手段がなかった。そのため、具体的な操作感触の良し悪しは人間の主観に判断が委ねられてきた。しかしながら、この主観評価結果を製品設計にフィードバックすることは容易ではなく、操作感触を追及するに際しては長期間の試行錯誤が伴う結果となっていた。
【0017】
ここで本発明は上記問題点を鑑みてなされたもので、入力デバイスの実際の操作状態を考慮しており、入力デバイスの入力操作部に荷重センサなどの物理量検知センサを任意荷重で接触させ、かつ、それと同時に入力デバイスの非稼動部を操作部品の動作方向と反対方向に制御駆動させることで操作時に発生する物理量の動作特性を取得することを特徴とした操作感触測定装置である。この構成により、評価すべき操作部品の形態・様式に寄らずにユーザーが実際に操作する際に感じ取る動作時の挙動を測定することができる。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
<操作感触測定装置100>
図1は操作感触測定装置100の側面図を、図2は操作感触測定装置100のシステム構成例を、図3は操作感触測定装置100の処理フロー例を示す。図1から3を用いて実施例1に係る操作感触測定装置100を説明する。
操作感触測定装置100は、回転ステージ20、接触子40及び接触子制御機構60を有する。操作感触測定装置100は、回転盤の上面を押圧して回転操作する回転操作型入力デバイス11の操作感触を測定する。以下に処理の概略を説明する。
【0020】
<処理フロー>
まず、測定者は回転ステージ20に入力デバイス11を搭載する(s30)。次にPC30を操作して、ステージ制御プログラム33を起動し、回転ステージ20の制御条件を入力する(s31)。例えば、回転ステージ20が任意の速度(例えば、1〜10rpm)で正・逆方向に回転するように制御条件を入力する。
【0021】
測定者は接触子40の押圧条件をPC30に入力する(s32)。押圧条件とは、接触子制御機構60を用いて回転開始前の制御ステージ20に接触子40を接触させる際の条件であり、例えば、接触子40の位置、姿勢及び荷重値(入力デバイス11の回転盤上面から受ける垂直方向の応力)等である。
【0022】
測定者は押圧条件に合わせ、接触子制御機構60を用いて、接触子40の位置、姿勢等を制御し、さらに、PC30にZ方向自動微調部71の移動量をマイクロメートル単位で入力する。PC30は、コントローラ26を介してZ方向自動微調部71に制御信号を入力する。Z方向自動微調部71は、制御信号に従って移動し、接触子40のZ軸方向の位置を微調整する(s33)。操作者は、接触子40の端部に具備される垂直方向荷重センサ41(詳細は後述する)から荷重値を取得し、押圧条件として入力した荷重値となるように微調整する。
【0023】
垂直方向荷重センサ41、回転方向荷重センサ43及び44のサンプリングを開始する(s34)。PC30は、各センサで取得したアナログ信号を受け取り、アンプA/D変換部46で増幅し、デジタル信号に変換する。
【0024】
さらに、接触子40が入力デバイス11の回転盤上面を押圧した状態で、s31で入力した制御条件に合わせて、回転ステージ20が回転する(s35)。PC30内のステージ制御プログラム33はコントローラ26を介してドライバ24に制御信号を入力する。さらに、制御信号に従って、回転モータ23が回転し、回転モータ23の回転軸に接続された回転ステージ20が回転する。なお、回転モータ23及びZ方向自動微調部71は、電源25から駆動に必要な電力を得る。
【0025】
所定の時間(または、所定の角度)経過後に、測定者の操作によって、または、自動的に、操作感触測定装置100は、回転ステージ20の回転を停止し、各センサのサンプリングを停止する(s36)。
PC30内のデータ取得・解析プログラム31は、各センサのサンプリングで取得したデータを保存する(s37)。
【0026】
所定のサンプル数に達している場合には、処理を終了し、達していない場合には、ステージ制御条件入力(s31)から処理を繰り返す(s38)。なお、条件の一部だけを変更したり、同じ条件でサンプリングのみ(s34〜s37)を繰り返してもよい。以下、各部の詳細を説明をする。
【0027】
<回転ステージ20>
回転ステージ20は、入力デバイス11を搭載し、回転する。例えば、回転ステージ20は円形板状である。図4は回転ステージ20上に入力デバイス11を搭載する方法を説明するための図である。図5は入力デバイス11の回転盤の中心と回転ステージ20の回転中心線とが一致した状態を示す図である。
【0028】
まず、回転ステージ20上に矩形板状の固定プレート21をネジ21a,21b等で固定する。固定プレート21は、入力デバイス11を回転ステージ20に固定する際のアジャスターである。回転ステージ20の回転中心線と入力デバイス11の回転盤の中心がほぼ一致するように、固定プレート21上に入力デバイス11を置く。
【0029】
次に、位置決めカバー26のテーパ孔26aに入力デバイス11が入るように、入力デバイス11を位置決めカバー26で覆う。位置決めバー28を位置決めカバー26の(テーパ孔26aと反対面に設けられる)貫通孔26bに徐々に下ろす。位置決めバー28の中心は、回転ステージ20の回転中心線上に位置する。そのため、位置決めバー28が位置決めカバー26の貫通孔26bに収まると、位置決めカバー26及び入力デバイス11の回転盤の中心も回転ステージ20の回転中心線と一致する。一致した状態で、固定プレート21上に入力デバイス11の非操作部11aをネジ21c等で固定する。なお、上述の例では貫通孔26bを径一定の円筒状としたが、その一部に上方に向かって径が拡大するテーパ部を設け、回転ステージ20の回転中心線と、位置決めカバー26及び入力デバイス11の回転盤の中心が一致していない場合には、その貫通孔26bのテーパ部と位置決めバー28のテーパ部28cが係合して位置決めカバー26及び入力デバイス11の回転盤の中心が回転ステージ20の回転中心線方向にずれるように構成してもよい。
【0030】
中心が一致していない状態で得られるデータは、人が操作した場合に得られる感触とは全く違うものとなるため、上記方法により、中心を一致させる。なお、位置決めバー28の支持部28aは操作感触測定装置100に接続しており、操作感触測定装置100を操作することで、X−Y平面上の位置を変えずに、上下動する。
<接触子制御機構60による接触子40の制御方法>
図1を用いて、接触子制御機構60による接触子40の制御方法について説明する。接触子制御機構60は、例えばX方向粗動ネジ61、X方向粗動部63、X−Y方向微調部65、Y方向微調ネジ67、X方向微調ネジ69、保持部70、Z方向自動微調部71、Z方向粗動ネジ73、Z方向粗動部75、姿勢調節ネジ77、姿勢調節部79を備える。
【0031】
接触子制御機構60は、押圧条件に従って接触子40が入力デバイス11の回転盤上面を押圧するように制御する。つまり、接触子制御機構60は、接触子40による入力デバイス11の回転盤上面の接触、押圧の状態が、s32で入力した押圧条件と合うように接触子40の位置、姿勢及び荷重値等を制御する。例えば、測定者がX方向粗動ネジ61を回転させることで、X方向粗動部63はX軸方向に移動し(例えば、移動量は±50mm)、Y方向微調ネジ67、X方向微調ネジ69を回転させることで、X−Y方向微調部65はそれぞれY軸方向、X軸方向に移動する。さらに、姿勢調節ネジ77を回転させることで、図1の矢印A方向に姿勢調節部79は移動する。姿勢調節部79を移動させることで、保持部70及び保持部70に保持される接触子40の入力デバイス11の回転盤上面に対する姿勢(角度)を変えることができる。姿勢を制御することでより、より人の手指に近い押圧条件で、操作感触データを取得することができる。
【0032】
測定者がZ方向粗動ネジ73を回転させることで、Z方向粗動部75はZ軸方向に移動する。Z軸方向の位置は、荷重値に大きく影響を及ぼすため、マイクロメートル単位での調整が必要となる。そこで、測定者はZ方向粗動部75を移動した上で、後述する垂直方向荷重センサ41が検出する入力デバイス11の回転盤上面から受ける垂直方向の応力(荷重値)を確認しながら、PC30にマイクロメートル単位の移動量を入力し、任意の荷重値となるように、PC30の制御によりZ方向自動微調部71を移動させる。なお、任意の荷重値とは、入力デバイス11の最小荷重値、最大荷重値、平均荷重値等であり、適宜設定する。また、接触子40のX、Y方向の位置や姿勢等も、ユーザーの通常利用する範囲を考慮して適宜設定する。
<接触子40及び接触子制御機構60>
図6は接触子40が入力デバイス11の回転盤上面を押圧している状態を示す。接触子40の端部には、接触子40が入力デバイス11の回転盤上面を押圧する際に、その上面から受ける垂直方向の応力を検出する垂直方向荷重センサ41が具備される。
【0033】
図7は図1の破線Bで囲まれた部分の上方拡大斜視図、図8は下方拡大斜視図、図9は垂直方向荷重センサがアレイセンサである場合の概念図である。例えば保持部70は保持部材70a,70b,70cからなり、回転ステージ20の円運動接線方向において接触子40を保持する保持部材70b、70cと接触子40との間にそれぞれ回転方向荷重センサ43、44が設けられる。
【0034】
回転方向荷重センサ43、44は、例えばロードセルである。回転方向荷重センサ43、44によって、回転操作方向のがたつきや振動等を評価することができる。垂直方向荷重センサ41は、例えば1.4mmピッチの10×10の分布型の感圧センサ(アレイセンサ)である。人の手指は2mm程度以内の2点の刺激を区別することができないため、このような構成によって、より人の手指が受ける感触に近づけることができる。なお、アレイセンサを用いる場合には、押圧条件として、接触面積、荷重の分布等を加えてもよい。アレイセンサを用いることによって、回転盤上面に施される意匠すなわち表面形状が及ぼす微細な感触に係る力の分布を測定することができ、また、接触面積を測定することができる。
【0035】
なお、参考文献1中には、人の触覚への入力振動数帯域(Frequency range)と、感触の様相(Sense modality)との関係が記載されている。
参考文献1:V.G.Chouvardas, A.N.Milioua and M.K.Hatalis,"Tactile displays: Overview and recent advances", Displays, July 2008, Volume 29, Issue 3, p.185-19
参考文献1によると、神経が発火するような振動数帯域は4つあり、それらの帯域に属する振動を触覚に入力すると、それぞれの様相すなわち「擦り」(stroking)、「圧覚」(pressure)、「振動」(vibration)、及び「皮膚の引張」(skin stretch)の感触として感じられる。この振動数帯域に属さない振動は、神経の発火を誘起しない。これらの感触の様相は、それぞれ特定の触覚の受容器が関わっていると考えられるため、アレイセンサを用いた操作感触測定装置100による測定結果を用いることで、何れかの受容器で発火しやすい(感受性の高い)振動数を抽出し、生理現象に基づいた現象解析を行うことができる(参考文献1参照)。
【0036】
なお、垂直方向荷重センサ41は、接触子40による入力デバイス11の回転盤上面の押圧ないしその感触に係る力を測定し、上述のように接触子制御機構60で制御される荷重値をモニタする作用も果す。
このような構成として、回転モータ23を駆動することで、ユーザーが入力デバイス11を操作する際に指先下で検知する変動と同等の動作挙動が取得できる。
【0037】
<実験結果>
図10(A)は回転方向荷重センサ43の出力と回転角度との関係例を、(B)は垂直方向荷重センサ41の出力と回転角度との関係例を示す図である。
測定サンプルの入力デバイス11は、回転盤に結合していて外周に山形状の凹凸を設けた環状のローターと、それに摺接する固定した板バネとでなる機構を具備している。そのため、回転方向荷重センサ43の出力は山形状の凹凸の影響を受け、周期的な波形となっていることがわかる。垂直方向荷重センサ41はアレイセンサであり、(B)は複数の感圧センサが検出した荷重の合計を表す。なお、アレイセンサを用いることにより、他に接触面積、ピーク荷重、荷重中心の変化等を測定することもできる。
【0038】
<効果>
接触子40は、入力デバイス11を操作する人の手指を模擬する作用を果し、回転ステージ20は、回転によってその手指による回転操作に代替する同等の入力操作を再現する作用を果す。垂直方向荷重センサ41は、接触子40による入力デバイス11の回転盤上面の押圧ないしその感触に係る力を測定し、回転方向荷重センサ43、44は、接触子による回転盤の回転操作の反力を測定する。このような構成とすることによって、従来技術や従来技術を組合せることによっては、測定することができなかった回転操作型入力デバイスの操作感触を定量的に測定することができる。
【0039】
また、複数の入力デバイスに対して同様の条件でサンプリングを行うことができるので、入力デバイス自体またはその出力に関わる諸条件によって発生する操作感触の違いも測定することができる。
【0040】
なお、従来技術を単に組合せた場合には、入力デバイス11を固定し、接触子40を回転させる方法が考えられるが、その場合には、制御が複雑となる。本発明では、回転ステージ20で入力デバイス11を回転させることで、複雑な構成無しに、実際の利用状況を考慮した「操作感触」測定が可能な操作感触測定装置を構成することができる。
【0041】
<その他>
回転ステージ20に入力デバイスを固定する方法としては、固定プレート21を用いず、入力デバイス11を直接回転ステージ20に固定する構成としてもよい。また、他の方法を用いて、入力デバイス11の回転盤の中心と、回転ステージ20の回転中心線を一致させてもよい。
【0042】
また、接触子制御機構60は、接触子の位置及び荷重値だけを制御する構成であってもよい。その場合、姿勢調節部79、姿勢調節ネジ77等を設けなくともよい。また、接触子制御装置60は、少なくとも接触子40の位置及び荷重値を制御できればよく、上述以外の従来技術によって、位置を制御してもよい。また、Y軸方向に大きく接触子40を移動させる必要がある場合には、Y方向粗動ネジとY方向粗動部を設けてもよい。なお、保持部70は、接触子制御機構60に備えられ、接触子40を保持する部分であればよく、上述の形状に限定されない。但し、回転ステージ20の円運動接線方向において接触子40を保持し、保持部70と接触子40との間には、それぞれ回転方向荷重センサが設けられる。また、Z方向自動微調部は必ずしもPC30により制御されなくともよく、精度が良い装置であれば、手動等であってもよく、また他の方法であってもよい。また、押圧条件の荷重値となるように接触子40のZ方向を微調整する方法は、押圧条件として、測定者が荷重値を入力しておき、この荷重値と垂直方向荷重センサ41から得られる荷重値とを比較し、PC30の制御により、自動的に予め入力した荷重値までZ軸方向に接触子を移動させる構成としてもよい。
【0043】
なお、操作感触測定装置100内部にPC30を組み込む構成であってもよい。
さらに、接触子40は実施例1で示した形状以外の形状であってもよい。図11の(A)は接触子40の形状例1、(B)は接触子40の形状例2、(C)は接触子40の形状例3を示す。接触子40の姿勢を考慮しない場合には、(A)の形状としてもよい。(C)の接触子は、人の手指の形状をしており、より人の手指に近い押圧条件で、操作感触データを取得することができる。また、垂直方向荷重センサ41は、分布型の感圧センサ(アレイセンサ)以外のセンサ(分布型ではない感圧センサ等)であってもよく、また、複数のセンサで構成してもよい。また、回転方向荷重センサ43、44もロードセル以外の荷重センサであってもよく、また変位センサ等であってもよい。
【0044】
また、取得したデータから操作特性を抽出する構成としてもよい。図12はその際の処理フロー例を示す。まず、取得したデータを解析、比較し(s41)、操作特性を抽出する(s42)。例えば、ユーザーに入力デバイスを操作してもらい、その感触(操作反力やがたつき、ざらつき、滑らかさ等)をアンケート等により集計し、同じ入力デバイスを操作感触測定装置100で測定する。測定結果とユーザーのアンケート結果からどのようなデータが、ユーザーにどのような感触を与えるかを推定し、ある感触を表す典型的なデータのパターンを作成する。
【0045】
操作感触測定装置100を利用し入力デバイス11を測定することにより、定量的なデータを取得し、これとデータパターンを比較、解析し(s41)、操作特性を抽出することができる(s42)。このような構成により、ユーザーが感じる微妙な操作感触を検証することができ、その結果を設計にフィードバックすることで、所望の操作感触を有する入力操作部品を効率的に作製することが可能となる。また、これまで被験者の主観評価や単純なトルク測定、F−S測定などにより限定的に判定していた各種入力デバイスの操作感触について、操作感触測定装置100は、複雑な構成や複合構造を持つデバイスであっても操作感触の良し悪しや微妙な操作性の違いなどの詳細な動作挙動を可視化することができ、個人の判断に寄らない操作感触測定装置として利用することも可能となる。
【0046】
[変形例1]
実施例1と異なる部分についてのみ説明する。図13は変形例1に係る接触子40’が入力デバイス11の回転盤上面を押圧している状態を示す。
変形例1に係る接触子40’の端部は低弾性の材料で構成されており、垂直方向荷重センサ41は、低弾性体40’aの外側に設けられ、直接、入力デバイス11の回転盤上面から受ける垂直方向の応力を検出する。例えば、接触子40’は、低弾性体40’aと剛体40’bからなり、その大きさは平均的なユーザーの手指の大きさ等とする。低弾性体40’aは柔軟性の高い素材やゲル等であり、アスカーC15前後(10〜20)とする。
【0047】
このような構成とすることによって、接触子をより人の手指に近づけることができ、人の手指に作用する感触に近いデータを取得することができる。
【0048】
但し、低弾性体40’a、剛体40’b及び垂直方向荷重センサ41の配置、形状は変更することができる。図14(A)は剛体40’b上に垂直方向荷重センサ41が設けられ低弾性体40’aを介して入力デバイス11の回転盤上面から応力を受ける例、(B)は垂直方向荷重センサ41が低弾性体40’aによって挟まれ、低弾性体40’aを介して入力デバイス11の回転盤上面から応力を受ける例、(C)は接触子40’の形状を人指型形状とした場合の例である。
【0049】
なお、(C)の場合、剛体40’bを人の手指における骨を模擬するように形成し、低弾性体40’aを人の手指における肉を模擬するように形成し、手指で操作するときに回転盤上面と接触する手指の腹に該当する部分(低弾性体40’aの外側)に垂直方向荷重センサ41を設置することによって、さらに人の手指に近い感触を測定することができる。但し、この場合も、低弾性体40’aの内側に垂直方向荷重センサ41を配置してもよい。
【実施例2】
【0050】
<操作感触測定装置200及び初期条件測定手段110>
図2を用いて実施例2に係る操作感触測定装置200を説明する。なお、図2中において、実施例2の操作感触測定装置200で新たに加わった構成については破線で表す。
操作感触測定装置200は、操作感触測定装置100の構成に加え、初期条件測定手段110を有する。図15は初期条件測定手段110の側面図を示す。初期条件測定手段110は、固定ステージ120と力覚センサ130を備える。
【0051】
<固定ステージ120>
固定ステージ120は、入力デバイス11を搭載して固定する。例えば、固定ステージ120は回転ステージ20と同様に円形板状であり、入力デバイス11の回転盤の中心と固定ステージ120の中心とが一致するように入力デバイス11を搭載する。実施例1で説明した回転ステージ20上に入力デバイス11を搭載する方法と同様の方法により、中心が一致するように搭載することができる。なお、その際、位置決めバー28の中心は、固定ステージ120の中心を通る垂線と一致する。
【0052】
<力覚センサ130>
力覚センサ130は、固定ステージ120に搭載された入力デバイス11の回転盤上面を、人の手指13が押圧して回転操作するときに固定ステージ120に作用する力を検出する。力覚センサには、多軸のセンサ、特に6軸力覚センサを用いるのが好適であり、回転盤上面の手指13による押圧の過程で垂直方向の応力の大きさとともにその手指の上面に対する角度(姿勢)をも直ちに検出できる。
【0053】
<処理フロー>
図16は実施例2に係る操作感触測定装置200の処理フロー例を示す。測定者はPC30の初期条件抽出プログラム135を起動し、初期条件測定手段110を用いて接触状態を測定する(s1)。任意のユーザーが手指13で入力デバイス11を操作し、力覚センサ130が、接触状態を測定する。接触状態とは、接触時の回転盤上面に係るZ方向の荷重値や、力の方向等である。なお、力の方向が手指13の方向と同じであると仮定し、力の方向を回転盤上面に対する手指の角度、姿勢とする。このような構成とすることにより、実際の使用状況に即した押圧条件を求めることができる。
【0054】
初期条件抽出プログラム135は、初期条件を抽出する(s2)。この初期条件を回転ステージ20の回転を開始するときの押圧条件とする。
【0055】
実施例1と同様の方法により操作感触を測定する(s3、図3のs30〜s38)。全ての入力デバイス11の測定が完了していない場合には(s39)、次の入力デバイス11について、接触状態の測定から処理を繰り返す(s1〜s3)。全ての入力デバイス11の測定が完了している場合には(s39)、処理を終了してもよいし、さらに、実施例1の<その他>で説明したように、操作特性を抽出する構成としてもよい(s4)。
【0056】
図17は接触状態を測定(s1)する際の処理フロー例を示す。まず初期条件測定手段110(の力覚センサ130)は、任意のユーザーの手指13の接触を検知する(s11)。接触を検知すると、力覚センサ130は、サンプリングを開始し(s12)、接触が検知されている間、サンプリングを続ける。ユーザーがその手指13を回転盤上面から離すと、力覚センサ130が荷重の除去を検知し(s13)、サンプリングを停止する(s14)。初期条件抽出プログラム135は、サンプリングによって取得した接触状態を表すデータをPC30に渡す。PC30は、アンプA/D変換部46で増幅し、デジタル信号に変換したデータを図示しない記憶部にデータを保存する(s15)。サンプリング人数が所定の人数に達した場合には、測定を終了し、達していない場合には、次の人の接触状態を測定する(s16)。
【0057】
図18は初期条件を抽出(s2)する際の処理フロー例を示す。PC30は、初期条件抽出プログラム135に保存したデータを入力する(s21)。初期条件抽出プログラム135は、データを集計し(s22)、初期条件を抽出する(s23)。初期条件として抽出する値は、一つであってもよいし、複数であってもよい。一つの場合には、例えば任意のユーザー全ての接触時の回転盤上面に係るZ方向の荷重値の平均値や力の方向(を表す値)の平均値等である。また、複数の場合には、荷重値等の分布の5%〜95%に存在するデータを全て、またはその一部を初期条件として抽出してもよい。
【0058】
抽出した初期条件を、実施例1の図3のs32で入力する押圧条件として用いる。接触子40がこの押圧条件に従って、接触子制御機構60に制御されて、回転ステージ20に搭載される入力デバイス11の回転盤上面を押圧する。操作感触測定装置200は、その状態で、回転ステージ20の回転を開始する。
【0059】
<効果>
力覚センサ130が、人の手指13が回転盤上面を押圧する垂直方向の応力と、手指と回転盤上面とがなす角度とを検出或いは算出し、出力する。初期条件測定手段110は、人の手指13の操作を接触子40によって再現し、回転操作を再現する際の初期条件としての接触子制御機構60の駆動の条件を決定することができる。このような構成により、ユーザーの操作に近づけることができ、より適切な測定が可能となる。また、測定者の経験等により生じるバラつきをなくすことができる。つまり、実施例1の場合には、測定者により初期条件の設定が異なり、測定結果にバラつきが生じる可能性があるが、本実施例であれば、ユーザーの操作を再現するため、測定者に関係なく適切な初期条件を設定することができる。
【0060】
<その他>
初期条件測定手段110は、固定ステージ120に搭載される入力デバイス11の回転盤上面上に設置される分布型の感圧センサ140をさらに含んで構成される。図19(A)は入力デバイス11の回転盤上面上に分布型の感圧センサ140を設置した場合の初期条件測定手段110の側面図を、(B)は上面図を示す。
【0061】
このような構成によって、接触子制御機構の駆動のより微細な条件を決定する手段を提供する。例えば、ユーザー操作時の接触面積や力の分布を得ることができ、接触子40の端部に具備される垂直方向荷重センサも分布型感圧センサとし、接触子制御機構60によって接触子40の制御する際の初期条件に反映する。このような構成とすることで、操作感触測定装置200が測定するデータをより人の手指が入力デバイスを操作したときに得られるデータに近づけることができる。また、分布型感圧センサ140により、手指13のX−Y方向の位置を検出することができ、これも初期条件に反映することができる。
【符号の説明】
【0062】
100、200 操作感触測定装置
20 回転ステージ
40、40’ 接触子
60 接触子制御機構
110 初期条件測定手段
120 固定ステージ
130 力覚センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転盤の上面を押圧して回転操作する回転操作型入力デバイスの操作感触を測定する操作感触測定装置であって、
前記入力デバイスを搭載して回転する回転ステージと、
前記回転ステージに搭載された前記入力デバイスの回転盤上面を押圧する接触子と、
前記接触子の位置を制御する接触子制御機構と、を有し、
前記接触子の端部には、接触子が前記入力デバイスの回転盤上面を押圧する際に、その上面から受ける垂直方向の応力を検出する垂直方向荷重センサが具備され、
前記接触子とその保持部との間には、接触子に作用する回転ステージの円運動接線方向の応力を検出する回転方向荷重センサが具備されること、
を特徴とする操作感触測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の操作感触測定装置であって、
前記接触子制御機構は、前記入力デバイスの回転盤上面に対する前記接触子の位置と姿勢を制御すること、
を特徴とする操作感触測定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の操作感触測定装置であって、
前記接触子に具備される前記垂直方向荷重センサは、分布型の感圧センサであること、
を特徴とする操作感触測定装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の操作感触測定装置であって、
前記接触子の端部は低弾性の材料で構成されており、
前記垂直方向荷重センサは直接、または、低弾性体を介して、前記入力デバイスの回転盤上面から受ける垂直方向の応力を検出すること、
を特徴とする操作感触測定装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の操作感触測定装置であって、
前記入力デバイスを搭載して固定する固定ステージと、
前記固定ステージに搭載された前記入力デバイスの回転盤上面を、人の手指が押圧して回転操作するときに固定ステージに作用する力を検出する力覚センサと、を備える初期条件測定手段を有し、
前記接触子が前記接触子制御機構に制御されて前記回転ステージに搭載される前記入力デバイスの回転盤上面を押圧し、前記回転ステージの回転を開始するときの押圧条件は、その初期条件測定手段で取得されるデータに基づいて決定されること、
を特徴とする操作感触測定装置。
【請求項6】
請求項5記載の操作感触測定装置であって、
前記初期条件測定手段は、前記固定ステージに搭載される入力デバイスの回転盤上面上に設置される分布型の感圧センサをさらに含んで構成されること、
を特徴とする操作感触測定装置。
【請求項7】
回転盤の上面を押圧して回転操作する回転操作型入力デバイスの操作感触を測定する操作感触測定方法であって、
前記入力デバイスを回転ステージに搭載し、前記接触子が前記入力デバイスの回転盤上面を押圧するように、接触子制御機構によって位置を制御され、
その状態で前記回転ステージの回転を開始し、前記接触子の端部に設けられた垂直方向荷重センサで前記入力デバイスの回転盤上面から受ける垂直方向の応力を検知し、前記接触子とその保持部との間に設けられた回転方向荷重センサで前記接触子に作用する回転ステージの円運動接線方向の応力を検知すること、
を特徴とする操作感触測定方法。
【請求項8】
請求項7記載の操作感触測定方法であって、
入力デバイスの操作感触を測定する前に、前記入力デバイスを固定ステージに固定して搭載し、力覚センサを用いて、人の手指が前記入力デバイスの回転盤上面を押圧して回転操作するときに固定ステージに作用する力を検出し、
前記入力デバイスを回転ステージに搭載し、前記接触子が上記力覚センサで検出したデータに基づいて決定される押圧条件で、前記入力デバイスの回転盤上面を押圧するように、前記接触子制御機構によって制御されること、
を特徴とする操作感触測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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