説明

操業データの予測方法

【課題】説明変数に対し時間的遅れを有する目的変数の値を予測することが可能な、非線形なプロセスの操業データの予測方法を提供する。
【解決手段】特定時刻tの前の時刻t−1以前における目的変数の値及び特定時刻t以前における説明変数の値を蓄積したデータベースから、少なくとも、最新の目的関数の値が得られている時刻t−nにおける目的変数の値及び時刻t−n+1における説明変数の値の集合Aと類似する、時刻t−nよりも前の任意の時刻iにおける目的変数の値及び時刻i+1における説明変数の値の集合B、を抽出する抽出工程と、抽出された集合Bの時刻i+1における目的変数の値を、時刻t−n+1における目的変数の予測値として出力する出力工程と、を有し、少なくとも、抽出工程で類似か否かを判断する際に、目的変数と説明変数との時間のずれが考慮される、操業データの予測方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操業データの予測方法に関し、特に、説明変数に対し時間的遅れを有する目的変数の値を予測することが可能な、非線形なプロセスの操業データの予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラント等に代表される各種工業プラントでは、製造される製品の品質確保や製造工程の異常防止等を目的として、製造プロセスが制御される。製造プロセスの制御には、各種分析機器(ハードセンサー)やソフトセンサー等が用いられている。これらの中でも、ソフトセンサーとは、複数の目的変数から説明変数を予測する技術のことであり、分析遅れがなく、連続値が得られるシステムを低コストで構築可能である等の長所を有することから、製造プロセスの制御に利用されている。
【0003】
ソフトセンサーを用いた制御法に関する技術として、例えば、特許文献1や非特許文献1には、統計的手法を用いて説明変数と目的変数との関係を数式化し、数式化したモデルに基づいて目的変数の値を予測する技術が開示されている。
【0004】
ところが、数式化したモデルに基づいて目的変数の値を予測する技術では、限られた運転範囲において、目的変数と説明変数との関係が線形であると仮定して、予測誤差を最小化するように数式化するため、運転条件の変更等により想定していた運転範囲から外れると、予測精度が低下する虞がある。すなわち、特許文献1に開示されている技術には、運転条件の変化に対応できないという問題があった。運転条件が変化すると予測精度が低下することは対象プロセスが非線系であることに起因する。この問題は、定期的にモデルを修正することにより解決可能だが、モデルの修正作業は煩雑であるため、モデルの修正作業を軽減し得る制御法の開発が望まれていた。
非特許文献1では、狭い範囲であれば線形近似が可能という考えから、必要時に類似運転データセットより局所的な数式モデルを作成して推定を行うという手法が開示されている。
【0005】
一方、数式化したモデルに代えて、過去の類似する運転データを蓄積したデータベースを利用して目的変数の値を予測する技術が、これまでに提案されている。例えば、非特許文献2には、正常運転時の履歴データをデータベースに蓄積して、ダイナミックプロセスの正常状態の予測に直接用いる手法が開示されている。
【0006】
非特許文献2に開示されている技術では、ベクトル化された所定の時刻における状態と、データベースに蓄積されているベクトル化された履歴データとの距離を計算することにより類似度を算出し、算出された類似度を用いて正常状態を予測する。そのため、運転条件が変化した場合であっても、その運転条件が過去に存在していれば、モデルを修正することなく、正常状態を予測することができる。つまり、非特許文献2に開示されている技術では、データベースを適宜更新することにより、常に最新の運転状態に適したモデルを維持することが可能になる。
【0007】
また、特許文献2には、データベースに蓄積されている類似データを検索し、検索された類似データを用いることで制御性能を向上させる技術が開示されており、この技術では、異常検知や運転支援に類似データを用いている。
【0008】
【特許文献1】特開2008−50303号公報
【特許文献2】特開2007−272646号公報
【非特許文献1】藤原幸一、他2名、「相関型Just-In-Timeモデリングによるソフトセンサの設計」、計測自動制御学会論文集、社団法人計測自動制御学会、2008年4月、第44巻、第4号、p.317−324
【非特許文献2】豊田洋平、他3名、「データベースモデルを利用したボイラープラントの正常状態の予測」、信学技報、社団法人電子情報通信学会、2006年10月、第106巻、第306号、p.7−12、R2006−28
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献2や特許文献1に開示されている技術では、説明変数の変化の影響が目的変数に表れるまでのタイムラグ(時間のずれ)が考慮されていない。一方、化学プラント等に代表される各種工業プラントでは、時間のずれが大きい変数(例えば、温度や濃度等)が存在する。そのため、非特許文献2や特許文献1に開示されている技術を、時間のずれが大きい変数の値の予測に適用すると、予測精度が低下しやすいという問題があった。非特許文献1では必要時に類似運転データより局所的な予測式を構築するため、特許文献1のように唯一つの式にて予測を行う場合と比べて、予測精度の低下を防ぐことができる。しかし、非線形性が強い対象に対しては適用が難しく、データセットをどの程度の期間とするべきか等検討すべき課題も多い。
また、特許文献1では、現在の状態しか予測できないため、上記タイムラグを取り除くというソフトセンサー本来の目的を果たしておらず、実際に利用することはできなかった。加えて、非特許文献2で提案された方法では目的変数と説明変数のサンプリング間隔に関して考慮されておらず、目的変数の値が得られた時点でしか予測を行うことができなかった。
さらに、非特許文献2で提案された方法により予測を行う際には、異なる単位系を揃えるために、用いる履歴データに標準化処理を施し、各変数を均等に考慮して予測する。ところが、化学プラント等に代表される各種工業プラントでは、説明変数毎に目的変数との関係の強弱が存在するため、非特許文献2に開示されている技術をそのまま用いると、予測精度が低下しやすいという問題があった。
加えて、非特許文献2で提案された方法では、データベースの更新に関しては特別考慮されておらず、データベースを更新することにより常に最新の運転状態に適した状態を保つことができるという利点を十分に活かしていなかった。
【0010】
そこで、本発明は、説明変数に対し時間的遅れを有する目的変数の値を予測することが可能な、非線系なプロセスの操業データの予測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、経時変化する目的変数及び説明変数を有する工程の、特定時刻tにおける目的変数の値を予測する操業データの予測方法であって、特定時刻tの前の時刻t−1以前における目的変数の値及び特定時刻t以前における説明変数の値を蓄積したデータベースから、少なくとも、最新の目的変数の値が得られている時刻t−n(nは自然数)における目的変数の値及び時刻t−nの次の時刻t−n+1における説明変数の値の集合Aと類似する、時刻t−nよりも前の任意の時刻iにおける目的変数の値及び時刻iの次の時刻i+1における説明変数の値の集合B、を抽出する抽出工程と、抽出工程で抽出された集合Bの、時刻iの次の時刻i+1における目的変数の値を、時刻t−n+1における目的変数の予測値として出力する出力工程と、を有し、n=1の場合には、出力工程で出力された時刻t−n+1における目的変数の予測値を、特定時刻tにおける目的変数の予測値とし、n≧2の場合には、出力工程で予測値として出力される目的関数の時刻t−n+1が特定時刻tと一致するまで少なくとも抽出工程及び出力工程を繰り返すことにより、特定時刻tにおける目的変数の値が予測され、少なくとも、抽出工程で類似か否かを判断する際に、目的変数と説明変数との時間のずれが考慮されることを特徴とする、操業データの予測方法である。
【0012】
ここに、「目的変数」とは、予測対象であって、説明変数の変化により影響を受け変化する変数をいう。そのため、目的変数は、説明変数の変化に時間的遅れを有して変動する。さらに、目的変数のサンプリング間隔は説明変数のサンプリング間隔に比べて長く、例えば、目的変数のサンプリング間隔は1分〜数時間である。目的変数の具体例として、化学プラント等においては、組成等の製品品質等が挙げられる。さらに、「説明変数」とは、目的変数に影響を与える変数であって、サンプリング間隔が、例えば1秒〜1分程度と短いものをいう。説明変数の具体例として、化学プラント等においては、流量、圧力、温度等が挙げられる。さらに、「特定時刻tの前の時刻t−1」とは、特定時刻tの直前に説明変数のサンプリングが行われた時刻を意味する。例えば、説明変数のサンプリング間隔が1秒、及び、特定時刻tが午前10時の場合、時刻t−1は、午前9時59分59秒をいう。さらに、「時刻t−nの次の時刻t−n+1」とは、最新の目的変数の値が得られている時刻t−nの直後に説明変数のサンプリングが行われた時刻を意味する。例えば、説明変数のサンプリング間隔が1秒、及び、時刻t−nが午前9時59分の場合、時刻t−n+1は、午前9時59分1秒をいう。さらに、「特定時刻t−nよりも前の任意の時刻i」とは、任意の時刻iが時刻t−nよりも前の時刻であることを意味する。例えば、時刻t−nが午前9時59分の場合、任意の時刻iは午前9時59分よりも前の任意の時刻(例えば、午前8時等)をいう。さらに、「時刻iの次の時刻i+1」とは、時刻iの直後に説明変数のサンプリングが行われた時刻を意味する。例えば、説明変数のサンプリング間隔が1秒、及び、時刻iが午前8時の場合、時刻i+1は、午前8時0分1秒をいう。さらに、「集合Aと類似する集合B」とは、例えば、時刻t−nにおける目的変数の値及び時刻t−n+1における説明変数の値を各成分とするベクトルと、時刻iにおける目的変数の値及び時刻i+1における説明変数の値を各成分とするベクトルとの距離が、所定の値以下であることをいう。ここで、集合Aと類似する集合Bを抽出する際の、集合A及び集合Bの要素の数(すなわち、集合Aのベクトルの数及び集合Bのベクトルの数)は、1以上の等しい数(例えば、集合Aのベクトルの数及び集合Bのベクトルの数が、共に3である等)であれば特に限定されるものではなく、例えば、1以上20以下の任意の数とすることができる。好ましくは、3以上10以下である。さらに、「集合Bの時刻iの次の時刻i+1における目的変数の値」とは、例えば、集合Bを構成する目的変数の時刻iが午前8時、及び、説明変数のサンプリング間隔が1秒の場合には、午前8時0分1秒における目的変数の値をいう。さらに、「目的変数と説明変数との時間のずれが考慮される」とは、説明変数の変化の影響が目的変数に表れるまでのタイムラグが考慮されることをいう。本発明において、時間のずれの考慮の仕方は特に限定されるものではないが、例えば、目的変数と、該目的変数に対して時間的にずらした説明変数との回帰分析を実施し、目的変数と時間的にずらした説明変数との相関係数が最も高い時間のずれを、目的変数と説明変数との時間のずれと決定し、決定された時間のずれを定数として含む式を用いて、ベクトル間の距離を計算する等の形態とすることができる。
【0013】
また、上記本発明において、抽出工程と出力工程との間に、実際に得られた時刻t−n+1における目的変数の値と、出力工程で出力される時刻t−n+1における目的変数の予測値との誤差を補正する補正処理工程が備えられることが好ましい。
【0014】
ここに、「実際に得られた時刻t−n+1における目的変数の値と、出力工程で出力される時刻t−n+1における目的変数の予測値との誤差」とは、例えば、時刻t−n+1が午前9時59分1秒、説明変数が温度、及び、目的変数が濃度の場合、午前9時59分1秒における温度の値を用いて予測した午前9時59分1秒における濃度の値(予測値)と、午前9時59分1秒よりも後の時刻(例えば、午前10時)になって検出結果が出力されることにより判明した午前9時59分1秒における濃度計の検出結果(実測値)との差をいう。
【0015】
また、上記本発明において、複数の要素からなる集合Bが抽出工程で抽出された場合には、集合Bの複数の要素各々と集合Aの複数の要素各々との類似度に応じて異なる重み付け係数を乗じる過程を通じて、特定時刻tにおける目的変数の予測値が導出されることが好ましい。
【0016】
また、上記本発明において、抽出工程の前に、実際に得られた特定時刻tにおける目的変数の値をデータベースへと追加または削除することにより、データベースを更新する更新工程が備えられることが好ましい。
【0017】
ここに、「実際に得られた特定時刻tにおける目的変数の値」とは、例えば、目的変数の値を予測した後に検出結果が出力されることにより判明した、特定時刻tにおける濃度計の検出結果(実測値)をいう。さらに、「更新」とは、データの追加と削除の両方を含む概念である。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、目的変数の値を予測する際に、目的変数と説明変数との時間のずれ及び変数のサンプリング間隔が考慮される。そのため、本発明によれば、説明変数に対し時間的遅れを有する目的変数の将来の値を予測することが可能な操業データの予測方法をサンプリング間隔によらず提供することができる。さらに、本発明では、目的変数と説明変数との関係を数式化しない。そのため、本発明によれば、化学プラント等に代表される各種工業プラントにおける非線形なプロセスにも適用可能な、操業データの予測方法を提供することができる。加えて、本発明によれば、データベースをリアルタイムで更新することにより、予測精度の低下を防止することが可能な、操業データの予測方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。なお、図面に示す形態はあくまでも本発明の例示であり、本発明は図面に示す形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明にかかる操業データの予測方法に備えられる工程の流れを示すフローチャートである。図1に示すように、本発明にかかる操業データの予測方法は、前準備工程(工程S1)と、異常判断工程(工程S2)と、データベース更新判断工程(工程S3)と、更新工程(工程S4)と、抽出工程(工程S5)と、出力工程(工程S6)と、終了判断工程(工程S7)と、を有している。
【0021】
図2は、本発明にかかる操業データの予測方法に用いられる操業データ予測システム10の形態例を示すブロック図である。図2に示す操業データ予測システム10において、制御対象1から得られた運転データは、入出力インターフェイス2(例えば、化学プラントで用いられている集中制御装置等)を介して、運転データ収集システム3に蓄積される。本発明により操業データを予測する際には、運転データ収集システム3から予測器4へと運転データが送られる。予測器4は、運転データ収集システム3から送られてきた運転データが正常な値であるか否かを判断する異常判断手段4aと、異常判断手段4aによって正常な値であると判断された運転データを蓄積する運転データベース4bと、運転データベース4bに蓄積された運転データに基づいて操業データを予測する予測手段4cと、予測手段4cで予測された操業データの予測誤差を補正する補正手段4dと、を有している。運転データベース4bには、正常な過去の運転データが時系列順に保存されており、運転データ収集システム3から得られる運転データを用いてリアルタイムに更新される。操業データ予測システム10において、予測器4は、最新の運転データ及び運転データベース4bに蓄積された過去の運転データを用いて、現在又は未来の運転状態(操業データ)を予測する。予測器4で予測された操業データの結果は、プロセスコンピュータ5及び入出力インターフェイス2へ出力され、制御対象1の制御に利用される。予測器4における処理については後述する。
【0022】
次に、本発明にかかる操業データの予測方法で操業データを予測する前に行われる前準備工程(工程S1)について説明する。
本発明により操業データを予測する際には、値を予測する操業データ(以下において「目的変数」ということがある。)を特定し、当該目的変数の挙動を決定する変数(以下において「説明変数」という。)と目的変数との時間のずれ(説明変数に対する目的変数の遅れ)を求める。説明変数と目的変数との時間のずれは、例えば、重回帰分析や部分的最小二乗法(PLS)回帰分析によって求めることができる。重回帰分析を行う場合には、共線性の強い変数を予め除去しなければならない。説明変数と目的変数との時間のずれを求める際に用いるデータには、標準化処理(スケーリング)を施し、異なる単位をもつ変数を一緒に扱えるようにする。また、説明変数と目的変数とが非線形な関係であり、その関係が明らかな場合には、予め線形化処理を行った後に、回帰分析を実施する。線形化処理とは、例えば目的変数が説明変数の2乗に比例するならば、予め説明変数の2乗値を求めておく処理である。後述する抽出工程(S5)で用いるデータには同様の標準化処理を適用して処理を行う。説明変数を目的変数に対し1ステップずつずらしていき、説明変数と目的変数との相関が最も高くなった時間のずれを、説明変数と目的変数との時間のずれ(以下において「遅れo」又は「oステップの遅れ」ということがある。)と定義する。すなわち、本発明にかかる操業データの予測方法で操業データを予測する際には、事前に、遅れoを求めておくことが必要とされる。
【0023】
次に、予測器4における処理について説明する。
時刻tにおけるm次元説明変数ベクトルをU(t)、時刻tにおけるr次元目的変数ベクトルをY(t)とする。さらに、目的変数が説明変数に対してoステップの遅れが存在する対象において、最新の目的変数の値が得られた時刻t−nにおける運転状態(以下、「S(t−n)」と称する。)、及び、運転データベース4bに存在する時刻iにおける運転状態(以下、「Z(i)」と称する。)を、それぞれ次のように定義する。ただし、Kは運転データベース4bに蓄積されているデータ数である。
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
S(t−n)と全てのZ(i)とを比較することにより、運転データベース4bに蓄積されている類似の運転状態を検索し、時刻t−n+1における目的変数の予測値ベクトルY’(t−n+1)を求める。Y’(t−n+1)の決定法については後述する。本発明の操業データの予測方法において、時刻t−n+1以降、例えば時刻t−n+2の目的変数Y’(t−n+2)の予測を行う場合には、前回の予測値ベクトルY’(t−n+1)と時刻t−n+2−oにおける説明変数ベクトルU(t−n+2−o)をS(t−n+1)として使用する。本発明の操業データ予測方法では、予測を繰り返し行うことにより、遅れoが1以下の場合は時刻t+oの目的変数ベクトルY’(t+o)、遅れoが1以上の場合は時刻t+o−1の目的変数ベクトルY’(t+o−1)まで予測することができる。それ以降は、説明変数ベクトルU(t+1)が得られる度に1ステップずつ予測を実施する。
【0027】
【数3】

【0028】
予測器4において、異常判断手段4aでは、運転データ収集システム3から送られてきた運転データが正常な値であるか否かを判断する、異常判断工程(工程S2)が実施される。異常判断手段4aでは、送られてきた運転データが予め定めた閾値を超えた場合、及び、通信異常により新しい運転データが得られなかった場合に、異常と判断する。運転データが工程S2で異常と判定された場合、その周期には予測が行われず、その値はデータベースの更新時にデータベースに追加されることもない。ただし、目的変数のみが異常と判断された場合、後述する誤差による予測値補正を行わずに予測を継続する。閾値には、上下限値及び変化率がある。上下限値は、操業データの各変数(説明変数及び目的変数)に対して予め設定された範囲の最大値及び最小値であり、変化率は、操業データの各変数(説明変数及び目的変数)に許される最大変化量である。
【0029】
異常判断手段4aで正常な値と判断された場合、値は次回の更新時まで保存される。その後、工程S3においてデータベース更新タイミングであれば運転データベース4bの更新を実施する。前回の更新から工程S3における判定時までに工程S2にて正常と判断された運転データを運転データベース4bに追加し、前回の予測時に後述する抽出工程(工程S5)にて不要と判断された運転データを運転データベース4bから削除する。更新は予め決められた周期毎、もしくは任意のタイミングで実施される。運転データは運転データベース4bへと送られ、データベースを更新する周期であれば、運転データベース4bに蓄積され(更新工程S4)予測に用いられる(抽出工程S5)。更新周期でなければその運転データは運転データベース4bに蓄積されることなく予測に用いられる。運転データベース4bには、正常な過去の運転データが時系列順に保存されており、更新周期であれば運転データベース4bの更新を行う。更新周期は必要に応じて任意に変更することができる。更新周期を長めにすることにより、本発明の操業データの予測方法における予測誤差の傾向を監視することができるほか、本発明にかかる操業データの予測方法の結果をプラントの異常検知に利用することもできる。
【0030】
予測手段4cでは、抽出工程(工程S5)が実施される。抽出工程は、前処理工程、類似度計算工程、及び、出力値計算工程を有している。
予測手段4cで行われる前処理工程は、運転データベース4bに蓄積されている各データに対して行われる標準化処理及び線形化処理を行う工程である。この標準化処理及び線形化処理は、上記前準備工程(工程S1)におけるものと同様の処理である。
【0031】
予測手段4cで行われる類似度計算工程は、S(t−n)とZ(i)との類似度を計算する工程である。本予測は繰り返し行われるため、時刻t−n以降の全時刻t−n+1、t−n+2、…における運転状態Sにおいて類似度を計算する。類似度の計算では、プロセスの経時変化が考慮されるため、現在のみならず過去の状態にも類似する運転状態を、運転データベース4bから検索する。過去の状態まで考慮した類似度を、下記式で表される加重平均距離d’(t−n、i)で定義する。ただし、Bは、どの程度過去まで考慮するかを表す値であり、fは過去の状況をどの程度の重みで考慮するかを表す値である。また、Aは、変数毎にかける重みを定義した対角行列である。
【0032】
【数4】

【0033】
【数5】

【0034】
【数6】

【0035】
【数7】

【0036】
加重平均距離d’(t−n、i)は、ベクトル間の距離を重みfで加重平均したものとして定義される。ベクトル間の距離d(t−n−b、i−b)は、それぞれの変数に重みa〜ar+mをかけて計算する。重み行列Aの各要素a〜ar+mは、上記前準備における回帰計算で得られた回帰係数(目的変数に対する各説明変数の寄与度を表す係数。相関係数。)である。2つの変数x、y間の回帰係数Rは、次式で表すことができる。
R=(xとyの共分散)/{(xの標準偏差)×(yの標準偏差)}
【0037】
本発明における類似度計算工程では、上記式によって表される加重平均距離d’(t−n、i)が参照距離drefよりも小さい運転状態を、「類似」と定義する。参照距離drefは類似とみなす運転データの各変数の最大の誤差を意味する。例えば、dref=0.01の場合、類似と判断された運転データであっても各変数とも最大で1%誤差がある可能性がある。運転データベース4bに蓄積されている類似の運転状態の個数をM(t−n)とするとき、類似の運転状態Z(i)は、以下の式で表すことができる。
【0038】
【数8】

【0039】
加重平均距離d’(t−n、i)を計算する際に、説明変数がほぼ等しい一方で目的変数が著しく異なる運転データは、今後の予測において利用される可能性が低い。そのため、本発明にかかる操業データの予測方法では、予測手段4cの処理の高速化を図る等の観点から、このような運転データを運転データベース4bから削除することが好ましい。ここで、「ほぼ等しい」とは、例えば、標準化後の値で差が3%以内であることをいい、好ましくは差が1%以内であることをいう。また、「著しく異なる」とは、例えば、標準化後の値で差が30%以上であることをいい、好ましくは差が10%以上であることをいう。
【0040】
予測手段4cで行われる出力値計算工程は、下記式で表される予測値ベクトルY’(t−n+1)を計算する工程である。予測値ベクトルY’(t−n+1)には、類似運転状態Z(i)の次の時刻の目的変数ベクトルY(i+1)を類似度で加重平均した値を用いる。
【0041】
【数9】

【0042】
ここで、wは予測器4からプロセスコンピュータ5へと送られる出力に対してかける重みであり、距離d’(t−n、i)に応じて減少する関数で定義される。
【0043】
【数10】

【0044】
補正手段4dでは、予測誤差を修正するための補正処理が実施される。補正手段4dによって補正された後の出力をY(t−n+1)とすると、補正手段4dで行われる補正処理は下記式で表すことができる。
【0045】
【数11】

【0046】
【数12】

【0047】
ここで、b(t−n)は補正項、fは一次遅れフィルタ係数、eは最新の予測誤差である。eは、下記式で表すことができる。
【0048】
【数13】

【0049】
ここで、Yは得られている最新の目的変数の実測値、Yは本発明にかかる操業データの予測方法によって予測された、Yが得られた時刻における目的変数の予測値である。本発明にかかる操業データの予測方法において、eは、新しいYが得られた時点で更新される。本発明にかかる操業データの予測方法では、上記式で得られたY(t)が、目的変数の予測値として、プロセスコンピュータ5へと出力される。Y(t)をプロセスコンピュータ5へと出力する工程が、本発明における出力工程(工程S6)である。
出力工程(工程S6)が行われた後、本発明の操業データの予測方法では、終了判断工程(工程S7)において、目的変数の予測を終了するか否かが判断される。工程S7で否定判断がなされた場合には、処理が上記工程S2へと戻され、工程S7で肯定判断がなされるまで、上記工程S2〜工程S6が繰り返される。これに対し、工程S7で肯定判断がなされた場合には、本発明の操業データの予測方法が終了する。
【0050】
このようにして得られた目的変数の予測値は、入出力インターフェイス2において、制御対象1の制御に利用される。本発明を用いることにより、従来はサンプリング間隔毎、oステップ先(例えば、10分間先)にしか分からなかった目的変数の値を即座に知ることができる。従来は、説明変数と目的変数にタイムラグが存在する場合やサンプリング周期でない場合は、現在の目的変数の値を知ることができず、プロセスの制御を行うことが困難であった。ところが、本発明によれば、上記のような場合にも現在の目的変数の値を予測することができる。そのため、今まで困難であった説明変数に対する目的変数の遅れが大きく、ハードセンサーの無駄時間が長い対象であってもサンプリング周期によらず容易に制御することができる。
【0051】
本発明において、説明変数のサンプリング間隔は、目的変数のサンプリング間隔以下であれば良く、目的変数のサンプリング間隔が説明変数のサンプリング間隔以上となる場合には、データベースに含まれるデータに対してスプライン補間をすることにより値を補間することが好ましい。また、本発明において、目的変数の値の予測を行う時間間隔は、説明変数のサンプリング間隔と等しくなる。
【0052】
また、本発明において、目的変数を予測する際に用いられる集合A及び集合Bに含まれるベクトルの数は、特に限定されるものではない。任意の一時刻に限定されるものではなく、時刻t−n−p〜時刻t−nのように複数の時刻における運転状態S(t−n−p)〜S(t−n)を用いて予測する形態とすることも可能である。本発明において、pの値は特に限定されるものではなく、例えば、0≦p≦20とすることができる。好ましくは、3≦p≦10である。
【0053】
また、本発明において、類似であるか否かを判断する際に用いるdrefの値は特に限定されるものではないが、例えば、0<dref≦0.03とすることができる。好ましくは、0<dref≦0.01である。
【0054】
また、本発明において、運転データベースの更新は、自動で行われる形態に限定されるものではなく、運転データベースを手動で更新することも可能である。また、本発明において、運転データベースを更新した際には、異なる単位を持つ変数を同等に扱えるようにする標準化処理を行う。運転データベースへと追加される更新データを構成する目的変数のサンプリング間隔が説明変数のサンプリング間隔以下の場合は、スプライン補間を実施して値を補間すれば良い。なお、本発明におけるスプライン補間としては、3次スプライン補間を用いることができる。また、本発明の予測方法を行う場合、最初に用意すべき運転データベースは、3ヶ月以上、好ましくは半年〜1年間分のデータを含むものである。
【実施例】
【0055】
<実施例1 脱エタン塔における塔頂C3濃度の予測>
脱エタン塔塔頂のC3組成を目的変数とし、温度、圧力、及び、還流比を説明変数とするプロセスに、本発明にかかる操業データの予測方法を適用した結果を参照しつつ、本発明について、さらに説明する。なお、説明変数を選択する際には、脱エタン塔まわりの変数から、共線性が高い変数を予め除去した。説明変数のサンプリング間隔は1分、目的変数のサンプリング間隔は5分である。
【0056】
(1)説明変数と目的変数との時間のずれ(「遅れo」)の決定及び運転データベースの準備
本発明を適用する前準備として、説明変数に前処理(線形化処理、及び、標準化処理)を施し、目的変数に対して時間的にずらしつつ回帰分析を実施した。回帰分析の結果を図3に示す。図3の縦軸は相関係数、横軸はずらした時間[min]である。
【0057】
図3より、ずらした時間が27分の時に、相関係数の値が最大になった。そのため、説明変数に対する目的変数の遅れoは27分と決定し、本プロセスでは、時刻(k−1)の目的変数と時刻(k−27)の説明変数を1つのベクトルとみなした。各変数の回帰係数を、表1に併せて示す。
【0058】
【表1】

【0059】
説明変数、及び、目的変数の過去1年分の運転履歴データを蓄積した運転データベース(以下において、「DB」ということがある。)を用意し、DBからは、分析計の点検による異常値を予め削除した。本実施例では、濃度1%以上の値、0.3%以上の変化があった場合は異常値としてDBから削除した。なお、適用対象により、異常値の定義は異なる。分析計の点検による異常値の例を、図4に示す。図4の縦軸はC3濃度[%]であり、横軸は時間[min]である。
【0060】
表1に示す標準化定数を用いて、DBに蓄積された全変数値を0〜1の範囲に標準化した。なお、本実施例で対象にしたプロセスにおいて、分析計のサンプリング周期は約5分間であった。そのため、DBに蓄積された分析値は、スプライン補間(3次スプライン補間)にて補間した。スプライン補間処理前と処理後の分析値例を、図5に示す。図5(a)はスプライン補間処理前の分析値例、図5(b)はスプライン補間処理後の分析値例を、それぞれ示している。図5(a)及び図5(b)の縦軸はC3濃度[%]であり、横軸は時間[min]である。
【0061】
(2)目的変数予測値にかける重み(加重係数)の決定及び予測誤差の補正値の決定
次に、目的変数の値を予測する時の、ベクトル間の距離を求める際に用いるベクトルの数、及び、それぞれの変数にかける重みfを変化させ、過去のデータを用いて検証を行った。検証には、予測値と真値との相関係数が高いパラメータ(遅れo=27分)を利用した。結果を図6に示す。図6の縦軸は相関係数、横軸は距離計算時に用いるベクトル数である。図6より、距離計算時に用いるベクトル数は7、加重係数に対する相関係数は0.3とした。加重係数は7つのベクトルにおいて、新しいベクトルに大きな重みをかけるために用いる。
【0062】
本実施例で対象にしたプロセスにおいて、C3組成の時定数はおよそ2時間であった。そのため、予測誤差の補正に用いる一次遅れフィルタの時定数も同様に2時間とした。
【0063】
(3)脱エタン塔における塔頂C3濃度(目的変数)の予測
次に、時刻t(特定時刻t)の目的変数を予測する。仮に時刻tでは分析値(目的変数の値)が得られず、時刻t−1で得られた分析値(目的変数の値)が最新であるとする。時刻t−1の分析値が最新でない場合は、分析値が得られた時点まで遡って、目的変数の予測を開始する。
【0064】
(I)最新の分析値である時刻t−1の目的変数、及び、時刻t−27の説明変数からなるベクトルを、時刻t−1のベクトルS(t−1)とする。
【0065】
(II)時刻t−1〜時刻t−7の計7つのベクトルS(t−1)〜S(t−7)と、DBに蓄積されている時刻i+6〜時刻iのベクトルZ(i+6)〜Z(i)それぞれとの距離を計算し、予め求めた相関係数0.3を用いて加重平均を行う。各変数の差には、表1に記載した回帰係数を用いて加重平均処理を実施し加重平均距離を求める。
【0066】
(III)同様に、時刻t−1〜時刻t−7の計7つのベクトルS(t−1)〜S(t−7)と、DBに蓄積されている時刻i+7〜時刻i+1のベクトルZ(i+7)〜Z(i+1)それぞれとの距離を計算し加重平均距離を求める。
【0067】
(IV)DB内の運転履歴データ全てに対し、同様の処理を繰り返す。
【0068】
(V)本実施例では、上記で求めた加重平均距離が0.01より小さい場合に類似しているとみなした。この閾値は標準化後の各変数値における最大誤差幅を意味する。すなわち、本実施例では、類似データを検索する際の目的変数の誤差許容幅を1%としたことと同義である。
【0069】
(VI)類似するベクトル群をDBから抽出し、それぞれ次の時刻(時刻k+6〜時刻kのベクトル群であれば時刻k+7)における目的変数値を求める。
【0070】
(VII)類似と判断されたベクトル群それぞれで求めた次の時刻での目的変数値を加重平均した値を予測値として出力する。その際、加重平均距離が小さい方により重みをつけた加重平均処理を行う。
【0071】
(VIII)目的変数の分析値が得られている場合にのみ、最新の予測誤差を計算する。
【0072】
(IX)予測誤差に時定数2時間の一次遅れフィルタをかけた値を用いて、予測値を補正する。
【0073】
(X)補正前の予測値、及び、補正後の予測値を、出力先へ書き込む。
【0074】
(XI)補正前の予測値を次の時刻t+1における目的変数の予測に用いて、上記(I)〜(XI)を繰り返す。
【0075】
<従来法との比較及び出力値の補正の効果の検証>
(1)従来法1との比較
実施例1で用いた脱エタン塔の運転データを用いて、本発明の方法と従来法である非特許文献2の手法を用いて脱エタン塔塔頂のC3濃度を予測した。従来法1(非特許文献2の予測法)は過去の運転データベースから類似事例を検索し予測に利用する手法である。従来法1ではサンプリング間隔について特に考慮されていないため、便宜的に予測開始1分前に分析値が得られたと仮定して予測した。また、従来法1及び本発明の方法では、検証以前の約半年分の運転データを蓄積したデータベースを利用した。従来法1と本発明の方法では、遅れoの考慮や予測値の補正等の有無が異なるので、これらの予測精度向上への影響を確認することができる。
【0076】
本発明の手法は27分前に予測した値を27分後の分析値と比較、従来法1は時間のずれoを考慮していないため、同時刻での予測値を分析値(実測値)と比較した。これらの結果を図7に示す。図7の縦軸は濃度[%]であり、横軸は時間[min]である。また、図7における実測値とそれぞれの予測値との誤差平均値、及び、誤差最大値(濃度[%])を、表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
図7及び表2から明らかなように、本発明の手法は27分前に予測が可能であり、かつ、従来法1と比べて予測精度が向上(誤差平均値;0.0076→0.0063、誤差最大値;0.0417→0.0322)した。
【0079】
(2)従来法1との比較2(補正の効果)
本発明の手法における予測値の補正効果について検証した。本発明の手法及び従来法1ともに定修(定期修理)前の運転データを蓄えたデータベースを用いて定修後の目的変数(C3濃度)の予測を行った。本発明の手法は27分前に予測した値を27分後の分析値(実測値)と比較、従来法1は時間のずれoを考慮していないため、同時刻での予測値を分析値(実測値)と比較した。結果を図8に示す。図8の縦軸は濃度[%]であり、横軸は時間[min]である。また、図8における実測値とそれぞれの予測値との誤差平均値、及び、誤差最大値(濃度[%])を、表3に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
定修前後でプロセスの特性が変化しているため、図8に示すように、予測開始時(100分間程度の時間が経過するまでの間)のいずれの予測値も、真値と大きく異なる値を出力していた。しかし、従来法1による予測値はこの誤差を保ち続けるが、本発明の手法では予測誤差を用いて予測値の補正を行っているため、約2時間後には分析値とほぼ等しい値を出力した。すなわち、本発明の手法では、予測値の補正を行うことによって、予測精度を容易に向上させることができた。
【0082】
<データベース更新の効果の検証>
本発明の手法におけるデータベース更新による予測精度の向上を確認するため、実施例1に記載した予測値の補正処理を行わない以外は同様に脱エタン塔塔頂C3濃度の予測を行い、同じデータを用いて特許文献1の予測法(以下、「従来法2」と称する。)で予測した値と比較した。ここで、従来法2は過去の運転データから回帰式を作成しこれを利用して予測する手法である。従来法2においても説明変数と目的変数に27分のタイムラグがあるとし、予め27分ずらしたデータから予測式を構築した。そのため、本発明の手法及び従来法2の両手法とも、27分前に予測した値を27分後の分析値(実測値)と比較した。
【0083】
補正の効果が表れるように、定期修繕(以下、「定修」と称する。)前、定修後予測開始直後、予測開始3日後、及び、予測開始20日後のそれぞれの予測値及び実測値を図9〜図12に示す。図9〜図12の縦軸は濃度[%]であり、横軸は時間[min]である。また、図9〜図12のそれぞれにおける実測値と予測値との誤差平均値、及び、誤差最大値(濃度[%])を、表4〜表7にそれぞれ示す。すなわち、図9及び表4、図10及び表5、図11及び表6、並びに、図12及び表7が、それぞれ対応している。
【0084】
【表4】

【0085】
【表5】

【0086】
【表6】

【0087】
【表7】

【0088】
図9及び表4から明らかなように、定修前には両手法とも精度良く予測できていた。ところが、図10〜図12及び表5〜表7から明らかなように、定修後は大きく異なる値を予測した。詳細には、定修直後の予測(図10及び表5)では両手法ともに大きな誤差を有する値を予測したが、その後、本発明の手法による予測値は、3日(図11及び表6)、20日(図12及び表7)と時間が経過するにつれて、徐々に予測誤差が小さくなっていった。これに対し、従来法2では予測式の自動修正は行われないため、誤差が維持された。これは非線形な対象である本プロセスにおいて、従来法2は運転状態の変化に対応できず予測誤差が大きくなるが、本手法はデータベースを更新することによって、予測精度を向上させることが可能であることを意味する。
【0089】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う操業データの予測方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明にかかる操業データの予測方法に備えられる工程の流れを示すフローチャートである。
【図2】操業データ予測システム10の形態例を示すブロック図である。
【図3】回帰分析の結果を示す図である。
【図4】分析計の点検による異常値の例を示す図である。
【図5】スプライン補間処理前及び処理後の分析値の例を示す図である。図5(a)はスプライン補間処理前の分析値例を示す図であり、図5(b)はスプライン補間処理後の分析値例を示す図である。
【図6】距離計算時に用いるベクトル数と加重係数に対する相関係数の検証結果を示す図である。
【図7】予測値及び実測値の結果を示す図である。
【図8】予測値及び実測値の結果を示す図である。
【図9】予測値及び実測値の結果を示す図である。
【図10】予測値及び実測値の結果を示す図である。
【図11】予測値及び実測値の結果を示す図である。
【図12】予測値及び実測値の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
S1…前準備工程
S2…異常判断工程
S3…データベース更新判断工程
S4…更新工程
S5…抽出工程
S6…出力工程
S7…終了判断工程
1…制御対象
2…入出力インターフェイス
3…運転データ収集システム
4…予測器
4a…異常判断手段
4b…運転データベース
4c…予測手段
4d…補正手段
5…プロセスコンピュータ
10…操業データ予測システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経時変化する目的変数及び説明変数を有する工程の、特定時刻tにおける前記目的変数の値を予測する操業データの予測方法であって、
前記特定時刻tの前の時刻t−1以前における前記目的変数の値及び前記特定時刻t以前における前記説明変数の値を蓄積したデータベースから、少なくとも、最新の前記目的変数の値が得られている時刻t−n(nは自然数)における前記目的変数の値及び前記時刻t−nの次の時刻t−n+1における前記説明変数の値の集合A、と類似する、前記時刻t−nよりも前の任意の時刻iにおける前記目的変数の値及び前記時刻iの次の時刻i+1における前記説明変数の値の集合B、を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程で抽出された前記集合Bの、前記時刻iの次の時刻i+1における前記目的変数の値を、前記時刻t−n+1における前記目的変数の予測値として出力する出力工程と、を有し、
n=1の場合には、前記出力工程で出力された前記時刻t−n+1における前記目的変数の予測値を、前記特定時刻tにおける前記目的変数の予測値とし、
n≧2の場合には、前記出力工程で予測値として出力される前記目的関数の前記時刻t−n+1が前記特定時刻tと一致するまで、少なくとも前記抽出工程及び前記出力工程を繰り返すことにより、前記特定時刻tにおける前記目的変数の値が予測され、
少なくとも、前記抽出工程で類似か否かを判断する際に、前記目的変数と前記説明変数との時間のずれが考慮されることを特徴とする、操業データの予測方法。
【請求項2】
前記抽出工程と前記出力工程との間に、実際に得られた前記時刻t−n+1における前記目的変数の値と、前記出力工程で出力される前記時刻t−n+1における前記目的変数の前記予測値との誤差を補正する補正処理工程が備えられることを特徴とする、請求項1に記載の操業データの予測方法。
【請求項3】
複数の要素からなる前記集合Bが前記抽出工程で抽出された場合には、前記集合Bの前記複数の要素各々と前記集合Aの複数の要素各々との類似度に応じて異なる重み付け係数を乗じる過程を通じて、前記特定時刻tにおける前記目的変数の前記予測値が導出されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の操業データの予測方法。
【請求項4】
前記抽出工程の前に、実際に得られた前記特定時刻tにおける前記目的変数の前記値を前記データベースへと追加または削除することにより、前記データベースを更新する更新工程が備えられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の操業データの予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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