説明

攪拌装置

【課題】試料と溶液とをより均一に攪拌し、培養された試料又は洗浄された試料を連続して安定的に得る攪拌装置を提供する。
【解決手段】攪拌装置1は、ケーシング2と、ケーシング2内に配置され振動源3に接続された軸部4と、軸部4の振動によりその軸方向に振動して試料を攪拌させる攪拌羽根5と、ケーシング2の内周面から突出し、流通路を複数の攪拌室7に仕切る仕切り板6と、攪拌羽根5を包囲するように取り付けられ、攪拌室7を内部攪拌室8と外部攪拌室9とに区分し、試料の攪拌により発生した廃棄物を通過させる濾過部材10と、溶液を流通させる溶液供給管11と、溶液供給管11と連結し、溶液を内部攪拌室8に供給する溶液供給口12と、濾過部材10を通過した廃棄物を含む排液を外部攪拌室9から排出する排液排出口13と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は攪拌装置に係り、特に、試料に溶液を供給しつ、攪拌羽根を用いて試料と溶液とを攪拌し、試料の攪拌により発生した廃棄物を排出する攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多細胞生物の細胞や組織の一部、或いは微生物を人工的な環境下で増殖させる方法として培養が採用されている。すなわち、培養により、タンパク質や核酸、その他の特定細胞や組織を大量に抽出したり、菌類、藻類、原生動物、細菌類等の微生物を大量に発生させたりすることが可能となる。なお、本発明に係る培養の対象となる試料は、上記の細胞や組織、又は微生物に限らず、培養により増殖される全てのものを含む。
【0003】
この培養には、可溶性栄養源を含む液体中で増殖させる液体培養という増殖様態を採る場合がある。例えば、血液等の細胞や組織、乳酸、有機酸、核酸、酵素等の微生物を増殖させる場合である。この液体培養には、衝撃に対して脆弱な細胞を増殖させる場合に用いられる静置培養、振とう培養、攪拌培養などがある。
【0004】
振とう培養とは、0.5Hz〜数Hz程度の頻度で培養容器を振動させ増殖速度を向上させる方法である。特許文献1に、振とう培養に関する例を示す。ここでは、細胞や組織等の試料の恒温振とうによる培養方法とその装置が開示されている。このように、振とう培養では、培養すべき細胞や組織等を培地中に注入した三角フラスコ等の容器に入れ、この容器を振とう機の振とう台上に載上して振動を加えるものである。その他、タッパーやシャーレ等の容器において少ない液量で振とうさせるシーソー振とう培養、遠沈管等を転倒攪拌する変動形揺動による振とう培養等がある。
【0005】
また、攪拌培養とは、攪拌子又はスクリュー等の翼の回転により細胞や微生物等の試料と培地とを混合させる方法である。この混合により細胞や微生物等の試料を培地成分に接触させ、攪拌しない静置培養法と比較して増殖速度を上げることができる。さらに、液体培地を強制的に攪拌して深い液内で行う培養を特に液体深部培養といい、例えば微生物たんぱく質の生産などに用いられている。
【0006】
この液体深部培養においては、培養槽内に各種の攪拌翼を設置し、この攪拌翼を回転軸に取り付けて回転させ、培養槽内の液体培地に下記の旋回流を発生させて混合する方法が一般的である。図12に、一般的な培養槽及び培養槽内に設けられた攪拌翼の例を示す。図12(a)の培養槽30には、攪拌軸34に取り付けられた櫂型翼31を、図12(b)には、図12(a)のE−E断面を示す。この櫂型翼31は培養槽30内に水平回転流35を発生させる。図12(c)の培養槽30には、攪拌軸34に取り付けられたプロペラ型翼32を、図12(d)には、図12(c)のF−F断面を示す。このプロペラ型翼32は水平回転流35に加えて半径方向の流れである放射流36も発生させる。
【0007】
また、液体培養には、その培地添加のタイミングによる分類として、回分培養、半回分培養、連続培養がある。回分培養とは、いわゆるバッチ処理方法であり、1回ごとに新たな培地を用意して培養を行う方法である。また、半回分培養とは、培養中に培地自体や倍地中の特定の成分を添加する培養方法である。さらに、連続培養とは、一定の速度で培養器に培地を供給し、同時に同量の培養液を排出させる培養方法である。この連続培養は、他の培養方法と比較して培養環境を一定に保ちやすく、生産性が安定するという特徴を有する。例えば微生物たんぱく質の生産に用いられる攪拌翼を用いた攪拌培養は、上記の培養法のうち回分培養により行われるのが一般的である。
【0008】
さらに、培養には、所望の細胞や組織或いは微生物を、血液などの多細胞生物の一部から、又は自然界から採取された土壌や水などから分離させ適切な培地により培養して増殖させる粗培養がある。この場合には、培養の前段階として細胞や組織或いは微生物に付着した付着物を分離させる工程が行われる。また、混合物から純物質を物理的或いは化学的に分離する、例えば、細胞の場合には、細胞の塊から所望の単細胞を分離する単離といわれる工程が行われる。また、この単離とは、例えば、微粉末を含む紛体を液体中で洗浄して分離する場合など、多細胞生物の細胞や組織の一部、或いは微生物以外の物質を分離する場合も含まれる。なお、本発明に係る試料の洗浄には、この粗培養や細胞などの単離が含まれ、さらに一般の物質を対象とした洗浄も含まれる。
【0009】
一方、特許文献2には、攪拌混合装置および殺菌装置および洗浄装置が開示されている。ここでは、紛体を短時間で均一に溶解又は加熱溶融させ、加熱により流動性を向上させ攪拌混合装置、及び短時間で殺菌又は減菌が可能な殺菌装置、及び短時間で洗浄可能な洗浄装置が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2005−269921号公報
【特許文献2】特開2005−58916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した振とう培養では、容器全体を振動させるため、容器内の液体培地の流動が均一ではなく部分的なむらが発生する。また、試料と液体培地とは、同じように流動するため混合効果が低い。また、振とう培養は、三角フラスコ等の容器を用いる回分培養であり、試料への溶液の供給と試料から排出される廃棄物の処理とを連続して安定的に行うことは難しい。
【0012】
また、上述した攪拌培養では、攪拌翼の回転により試料と液体培地との混合効果は得られるが、培地の粘度が高い場合には、回転軸や培養槽の周囲に混合が不十分な部分が発生し、混合効果にむらが生じる。一方、培地の粘度が低い場合には、攪拌翼を回転させると培養槽内の培地全体が、水平回転流等の旋回流を起こし攪拌力が低下する。また、攪拌翼の回転により発生するせん断力で試料を損傷する虞がある。さらに、上述した攪拌培養は一般的に回分培養により行われ、試料への溶液の供給と試料から排出される廃棄物の処理とを連続して安定的に行うことは難しい。
【0013】
本願の目的は、かかる課題を解決し、試料と溶液とをより均一に攪拌し、培養された試料又は洗浄された試料を連続して安定的に得る攪拌装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係る攪拌装置は、試料が含まれた溶液が流通する流通路をその内部に有するケーシングと、ケーシング内に配置され振動源に接続された軸部と、軸部の回りに取り付けられ、軸部の振動によりその軸方向に振動して試料を攪拌させる攪拌羽根と、ケーシングの内周面から突出し、流通路を複数の攪拌室に仕切る仕切り板と、攪拌羽根を包囲するように取り付けられ、攪拌室を内部攪拌室と外部攪拌室とに区分し、試料の攪拌により発生した廃棄物を通過させる濾過部材と、溶液を流通させる溶液供給管と、溶液供給管と連結し、溶液を内部攪拌室に供給する溶液供給口と、濾過部材を通過した廃棄物を含む排液を外部攪拌室から排出する排液排出口と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る攪拌装置は、溶液には、試料の培養に用いられる培養液が含まれ、試料の攪拌により発生した廃棄物を排液排出口から排出させることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る攪拌装置は、溶液には、付着物が付着した試料の洗浄に用いられる洗浄液が含まれ、試料の攪拌により分離した付着物を廃棄物として排液排出口から排出させることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る攪拌装置は、試料を排出させる試料排出口を備え、溶液供給口と排液排出口と濾過部材とが、複数の攪拌室にそれぞれ設けられ、仕切り板は流体が流通する開口を有し、複数の攪拌室を通過した試料を試料排出口から排出させることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る攪拌装置は、溶液供給管が、外部から仕切り板を貫通して溶液を内部攪拌室に供給することが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る攪拌装置は、排液を流通させて排液排出口と連結する排液排出管を備え、排液排出管が、仕切り板を貫通して排液を外部攪拌室から排出することが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る攪拌装置は、攪拌濾過部材が、軸部との間に開口を有する仕切り板を介してケーシングの内周面と接続し、ケーシングの内部には、流通路を攪拌濾過部材と仕切り板とにより仕切られた複数の攪拌室が設けられることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明に係る攪拌装置は、軸部が複数の軸に分割され、隣接する軸の端部同士が、バネ及びダンパを介して接続され、軸の振動数をそれぞれ変化させることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
上記構成により、本発明に係る攪拌装置は、攪拌室に試料が含まれた溶液を供給する溶液供給口と、廃棄物を含む排液を排出する排液排出口とを有し、試料への溶液の供給と試料から排出される廃棄物の排出とを安定的に連続処理することが可能となる。また、試料は、軸部の振動によりその軸方向に振動して試料を攪拌させる攪拌羽根により、後述する周期的に反転する流れが溶液内に発生し、攪拌室内でのより均一な攪拌による混合効果が発生する。
【0023】
以上のように、本発明に係る攪拌装置によれば、試料と溶液とを効果的に攪拌し、培養された試料又は洗浄された試料を連続して安定的に得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、図面を用いて本発明に係る攪拌装置につき、詳細に説明する。
【0025】
(第1の実施形態)
まず、本攪拌装置1の構成について説明する。図1に、攪拌装置1の第1の実施形態の概略構成を示す。また、図2に、図1のA−A断面を示す。本実施形態の攪拌装置1は、ケーシング2、軸部4、攪拌羽根5、仕切り板6、濾過部材10、溶液供給管11、溶液供給口12、及び排液排出口13から構成される。また、攪拌装置1には、軸部4と接続し、軸部4をその軸方向に振動させる振動源3が設けられる。また、攪拌装置1には、試料を攪拌室7内に供給する試料供給口17及び試料を攪拌室7から排出させる試料排出口16が設けられる。
【0026】
ケーシング2は、その内部に細胞や微生物等の試料が含まれた溶液が流通する流通路22を有する。本実施形態では、この流通路22は、仕切り板6により複数の攪拌室7に分割される。図1では、この流通路22は4つの攪拌室7及び1つの試料排出室23から構成されるが、この攪拌室7の数は4つに限らず任意の数で良い。また、試料排出室23は設けられず、最外部の攪拌室7に試料排出口16が設けられ、そこから試料が排出されても良い。仕切り板6は、ケーシング2の内面から突出して設けられる。また、仕切り板6は、図2に示すように、内部に開口部21を有する環状の板であり、ケーシング2の内部の軸部4との間には隙間がある。軸部4は、この仕切り板6の開口部21内を貫通する。また、軸部4はケーシング2の内部にシール材18でシールされて挿入される。攪拌室7は、図2に示すように円形に取り付けられた濾過部材10により、内部攪拌室8と外部攪拌室9とに区分される。この濾過部材10が、攪拌羽根5を包囲するように取り付けられ、攪拌羽根5は内部攪拌室8の内部に納められる。なお、攪拌羽根5は、図1では各攪拌室7に2枚ずつ配置されるが、その枚数はこれに限らない。
【0027】
この濾過部材10にはフィルタが貼られる。濾過部材10は、後述するように、試料を通過させず、廃棄物を通過させる役割を有する。従って、このフィルタの網目は、その役割に適した大きさのものが選択されるが、試料及び廃棄物のスケールによりミクロレベルの粗さの網目(ファインメッシュ)が選択されても良い。また、フィルタは、例えば、ステンレス製、セラミック製から成るが、これに限らず高分子(ナノフィルタ膜)等であっても良い。このフィルタにより、攪拌羽根5による攪拌により培養される試料は、この濾過部材10で堰き止められ、攪拌室7を順次移動して試料排出室23へと向かい、試料の攪拌により発生した廃棄物、例えば、試料の老廃物は、この濾過部材10を通過して外部に排出される。また、付着物が付着した試料は、この濾過部材10で堰き止められ、攪拌室7を順次移動して試料排出室23へと向かい、試料から分離された付着物はこの濾過部材10を通過して外部に排出される。
【0028】
本実施形態では、溶液供給管11、溶液供給口12及び排液排出口13は、攪拌室7ごとに設けられる。図3に、溶液供給管11及び溶液供給口12につき、図1の一部分を拡大した断面で示す。溶液供給管11は、仕切り板6の板厚内に埋め込まれ、ケーシング2の外部とケーシング2の内部の内部攪拌室8とを連通する。また、溶液供給管11のケーシング2の内部側には溶液供給口12が設けられ、内部攪拌室8と流通する。また、図1に示すように、排液排出口13はケーシング2を貫通して設けられ、ケーシング2の内部の外部攪拌室9とケーシング2の外部とを連通する。図4に、排液の排出についての他の実施例を示す。この実施例では、排液排出管14は、仕切り板6の板厚内に埋め込まれ、ケーシング2の内部の外部攪拌室9とケーシング2の外部とを連通する。また、排液排出管14のケーシング2の内部側には排液吸引口20が設けられ、排液は排液吸引口20から吸引されて排液排出口19から排出される。本実施形態では、図2に示すように、これら溶液供給管11、溶液供給口12及び排液排出口13,19は、攪拌室7ごとに各々1箇所に設けられるが、その個数はこれに限らず2箇所以上であっても良い。
【0029】
このように、攪拌装置1は、各攪拌室7に培養液を含む溶液を供給する手段と廃棄物を含む排液を排出する手段とを備える。これらの手段により、試料への溶液の供給と試料から発生する排液の排出とを連続処理する連続培養が可能となる。また、粗培養や単離の場合においても、付着物が付着した細胞の塊や微粉末を含む紛体が、洗浄液を含む溶液を供給する手段と付着物を含む排液を排出する手段により、試料への溶液の供給と試料から発生する排液の排出とを連続処理する連続処理が可能となる。
【0030】
培養される試料とは、例えば、血液等の細胞や組織、乳酸、有機酸、核酸、酵素等の微生物であるが、これらの細胞や組織、又は微生物に限らず、培養により増殖される全てのものを含む。また、この試料が含まれた溶液とは、これらの試料を培養するために必要な培養液である。これらの試料は、攪拌装置1のケーシング2の内部で供給される培養液により細胞を構成する物質を合成し、それを組み立てることにより新たな細胞を作り出し増殖する。従って、培養液には、この試料の増殖に必要な栄養源が含まれる。栄養源としては、例えば炭水化物類、油類、有機酸類といった炭素源、尿素などの窒素源、無機塩類などが挙げられる。また、細胞の増殖は環境因子の影響を受ける。環境因子には温度、圧力、光線、pH、浸透圧、溶存酸素などがある。連続培養では、これらの環境因子を常に適切な状態に維持することができ、安定的な培養が可能となる。
【0031】
洗浄される試料とは、培養される前段階の細胞や組織、微生物、或いは純物質を物理的或いは化学的に分離する場合の混合物が含まれる。また、洗浄される試料には、単離される細胞の塊が含まれ、微粉末を分離する紛体も含まれる。溶液に含まれる洗浄液とは、こういった単離や分離を促進するものを総称する。勿論、洗浄液には細胞や組織、微生物などの生物の場合には、培養に用いられる培養液も含まれる。
【0032】
次に、図1を用いて本攪拌装置1の1の培養方法について説明する。試料を含んだ溶液は、まず試料供給口17から供給される。この溶液は、仕切り板6の内側の開口部21を通じて試料供給口17側の攪拌室7から試料排出口16側の攪拌室7へと順次移動していく。試料の供給が完了すると、軸部4に接続された攪拌羽根5が振動源3により軸方向に振動する。一方、各攪拌室7の溶液供給管11からは培養液が供給され、溶液供給口12から内部攪拌室8へと注入される。この軸方向の振動により、溶液内の試料と注入された培養液に含まれる栄養源とが混合される。この混合される際に、溶液には攪拌羽根5により乱流が発生し、内部攪拌室8全体にわたり、後述するほぼ均一な混合が行われる。試料は、この混合により培養液に含まれる栄養源等を摂取し増殖する。そして、試料は成長に伴い排泄物を排出する。また、この排泄物は溶液中の培養に不要なものとともに廃棄物として、内部攪拌室8から濾過部材10を通過して外部攪拌室9へと移動する。一方、試料自体は濾過部材10を通過できないため内部攪拌室8内に留まる。この廃棄物を含む溶液は排液として外部攪拌室9に連通する排液排出口13から排出される。
【0033】
この攪拌羽根5が軸方向に振動する攪拌方法は、攪拌羽根5が往復運動を行い、その運動方向が連続して反転することに特徴がある。すなわち、試料を含む溶液は、攪拌羽根5の往復運動により「折りたたみ」と「引き伸ばし」とを繰り返し、局所的な混合が促進される。この混合は、さらにケーシング2内部の流通路22が仕切り板6で仕切られることでより効果が発揮され、攪拌室7の内部においてより均一な攪拌による混合効果が発生する。また、この攪拌方法は、細胞や組織或いは微生物にとってより損傷の危険性の少ない好ましい攪拌方法である。すなわち、流体に水平回転流等の旋回流を起こす従来の攪拌方法では、攪拌翼の回転により発生するせん断力が試料を損傷する虞がある。また、試料は旋回流ともなって移動させられストレスが発生する。一方、本攪拌方法の「折りたたみ」及び「引き伸ばし」は、試料に対する圧力の変化であり、せん断力と比較して損傷の危険性は少ない。また試料は局所的な圧力の変化であり、旋回流と比較して試料の移動はより少なくストレスが少ない。
【0034】
本実施形態では、試料を含んだ溶液を試料供給口17から加圧しながら供給する。従って、試料は、この圧力により時間の経過と共に試料排出口16側へと移動してゆく。そして、一定期間の経過後に、試料排出室23へと移動し、資料排出口16から排出される。このように、本実施形態の攪拌装置1によれば、試料は、各攪拌室7を移動しながら、その都度、培養液の供給と廃棄物の排出とを受けて増殖を重ね、試料を連続して安定的に培養することが可能である。また、増殖した試料を順次取り出すことが可能となる。
【0035】
また、本実施形態の攪拌装置1は、試料の洗浄に用いることができる。すなわち、採取された試料には付着物が付着している場合があり、洗浄液が含まれる溶液により上述した要領で攪拌羽根5により攪拌する。攪拌羽根5の軸方向の振動により、溶液内の試料と注入された洗浄液とが混合される。この混合される際に、溶液には攪拌羽根5により乱流が発生し、内部攪拌室8全体にわたってほぼ均一に混合が行われる。この混合により試料に付着した付着物が分離される。そして、この付着物は廃棄物として、内部攪拌室8から濾過部材10を通過して外部攪拌室9へと移動する。一方、試料自体は濾過部材10を通過できないため内部攪拌室8内に留まる。この付着物は排液として外部攪拌室9に連通する排液排出口13から排出される。この洗浄液の供給と廃棄物の排出とを攪拌室7ごとに行い攪拌することで、試料からの付着物の分離を連続して安定的に行うことが可能となる。
【0036】
本実施形態では、試料を含んだ溶液を試料供給口17から加圧しながら供給する。従って、付着物が付着した試料は、この圧力により時間の経過と共に試料排出口16側へと移動してゆく。その間に付着物は次第に分離され、一定期間の経過後に試料排出室23へと移動し、試料排出口16から排出される。このように、本実施形態の攪拌装置1によれば、試料から付着物を連続的に分離させることが可能であり、付着物が分離された試料を順次取り出すことが可能となる。
【0037】
(第2の実施形態)
図5に、攪拌装置の第2の実施形態の概略構成を示す。また、図6に、図1のB−B断面を示す。本実施形態の攪拌装置100は、攪拌室7がそれぞれ独立して試料の攪拌を行う構成である。すなわち、仕切り板26は、軸部4とシール材24により接続され、攪拌室7相互は溶液が流通しない。また、図1に示す、試料供給口17、試料排出室23及び試料排出口16は設けられない。なお、上記第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0038】
本実施形態では、試料の供給及び排出は、溶液供給管11を通じて溶液供給口12から行われる。すなわち、溶液供給口12からの試料を含んだ溶液の供給が完了した後、溶液供給口12から溶液を連続して供給して試料を増殖させる。試料の増殖が所定の程度になると、溶液供給口12から試料を含んだ溶液を吸引して溶液供給管11を通じてケーシング2の外部に排出する。
【0039】
このように、本実施形態では、複数の攪拌室7が独立して試料の培養又は洗浄を行い、それぞれが同一の軸部4により攪拌される。これにより、攪拌室7には、異なる種類の試料を供給することができ、それらを同時に培養又は洗浄することが可能となる。また、洗浄して付着物を分離した後に培養する試料の場合には、洗浄の工程と培養の工程とを1つの攪拌装置100により連続して安定的に行うことが可能となる。
【0040】
(第3の実施形態)
図7に、攪拌装置の第3の実施形態の概略構成を示す。また、図8に図7のC−C断面を示す。本実施形態の攪拌装置200は、第1の実施形態の攪拌装置1に攪拌濾過部材15が付加されたものである。攪拌濾過部材15は、円環状の仕切り板6の内部の開口部21に設けられる円環状の部材であり、外側が仕切り板6に固定され、内側が軸部4に固定される。なお、上記第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0041】
この攪拌濾過部材15は、それが取り付けられる仕切り板6とともに攪拌室7を仕切る要素となる。従って、仕切り板6と協働して攪拌室7での攪拌羽根5の攪拌による混合効果を上げる。また、攪拌濾過部材15の内側は、軸部4と接続されるために、軸部4の軸方向の振動にともない軸方向に振動する。一方、攪拌濾過部材15の外側は仕切り板6により固定されているため振動しない。これにより、攪拌濾過部材15は、その両側の攪拌室7の内部の溶液に攪拌羽根5とは異なる振動による乱流を発生させる。
【0042】
この攪拌濾過部材15にはフィルタが貼られる。攪拌濾過部材15は、試料を通過させ役割を有する。従って、このフィルタの網目は、その役割に適した大きさのものが選択されるが、試料及び廃棄物のスケールによりミクロレベルの粗さの網目(ファインメッシュ)が選択されても良い。また、フィルタは、例えば、ステンレス製、セラミック製から成るが、これに限らず高分子(ナノフィルタ膜)等であっても良い。
【0043】
本実施形態は、例えば結合した細胞の塊を攪拌羽根5及び攪拌濾過部材15により単離させて抽出する場合にも用いられる。すなわち、攪拌濾過部材15のフィルタの網目の粗さを、細胞の塊は通過させず単離された細胞を通過させるように調節する。また、試料は、この振動する攪拌濾過部材15に接触することで結合力が弱まるか、或いは結合力が切れて単離が促進される。
【0044】
また、この攪拌濾過部材15の網目の粗さを、試料供給口17側を粗くし、試料排出口16側を細かくすることができる。これにより、試料供給口17から加圧された細胞の塊は内部攪拌室8で分離され、より小さな塊となったものから試料排出口16側へと移動し、試料排出口16から排出される。
【0045】
また、この攪拌濾過部材15は、上述したように、試料を通過させる役割を有するが、フィルタ自身が振動することで、試料や廃棄物のフィルタの網目への目詰まりが起きにくいという特徴を有する。
【0046】
(第4の実施形態)
図9に、攪拌装置の第4の実施形態を示す。本実施形態の攪拌装置300は、第1の実施形態の攪拌装置1の軸部4にダンパ25及びバネ26が取り付けられたものである。また、このダンパ25及びバネ26による構成は、図5に示す第2の実施形態、又は図7に示す第3の実施形態に組み込んでも良い。なお、上記第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0047】
図10に、軸部4の一部に取り付けられたダンパ25及びバネ26をそれぞれ記号により示す。このように、軸部4は、軸部4a及び軸部4bに離間して切り離され、それぞれの端部においてダンパ25及びバネ26を介して直列に接続される。このダンパ25及びバネ26により、その試料供給口17側の軸部4aの振動数を、その試料排出口16側の軸部4bの振動数に対して低減された値とすることが可能となる。
【0048】
図11に、ダンパ25及びバネ26の1つの実施例を示す。ダンパ25には例えば粘弾性材27を用いた機構を用いた構成とし、バネ26には、例えばスプリング28を用いた構成とすることができる。この実施例では、軸部4aには振動子29が取り付けられ固定される。一方、軸部4bには、この振動子29を包み込む凹部37が軸部4bの内部に設けられる。この振動子29は、本実施例では板状であるが、例えば棒状などの他の断面形状であっても良い。この振動子29と凹部37との隙間には粘弾性材27が埋め込まれる。この粘弾性材27は、接着などの手段により凹部37の壁面に固定される。また、振動子29が凹部37の内部に埋め込まれる長さ(図11中のL)は後述する粘弾性材27によるエネルギ吸収量により決定される。さらに、軸部4aと軸部4bとは、バネ26の一種であるスプリング28により接続される。このスプリング28は、軸部4aと軸部4bとの相対的な移動に対して弾性変形をし、復元力により元の間隔に戻す役割を有する。スプリング28は、図11では振動子29の左右に2個配置されているが、その個数はこれに限らない。
【0049】
この粘弾性材27は、流体のような粘性とスプリングのような弾性とを併せ持った力学的挙動をする高分子材料である。図11において、軸部4bが軸部4aに対して矢印で示す方向に振動すると、振動子29と軸部4aとの間に設けられた粘弾性材27はせん断力を受けてせん断変形する。粘弾性材27は、このせん断変形により塑性化し、この非線形な挙動により運動エネルギを吸収して熱エネルギに変換する。従って、試料供給口17側の軸部4aの振動エネルギ(E0)は、この粘弾性材27により一部熱エネルギ(δE)となる。このエネルギ吸収により、試料排出口16側の軸部4bに伝達される振動エネルギ(Ex)は、Ex=E0−δEに減衰される。この減衰された振動エネルギにより、試料排出口16側の軸部4bの振動数は、試料供給口17側の軸部4aの振動数より低減された値となる。
【0050】
本実施形態のように軸部4を分割し、分割された軸部4a及び4bの端部にダンパ25及びバネ26を取り付けることで、複数の攪拌室7のうちその内部の攪拌羽根5の振動の振動数(或いは周期)を異ならせることが可能となる。これにより、初期の攪拌室7では比較的低い振動数による攪拌を行い、試料が移動した後の攪拌室7では比較的高い振動数による攪拌を行うことができる。また、振動源3の位置を試料供給口17側に設置することで、初期の攪拌室7では比較的高い振動数による攪拌を行い、試料が移動した後の攪拌室7では比較的低い振動数による攪拌を行うことができる。また、図5に示す第2の実施形態の場合には、それぞれ独立した攪拌室7のうち、その内部の攪拌羽根5の振動数(或いは周期)を異ならせ、例えば、それぞれ要求される振動数が異なる攪拌及び洗浄を同時に行うことも可能となる。なお、図9では、ダンパ25及びバネ26を取り付ける位置は2箇所となっているが、この取付け位置及び個数は、上述した攪拌装置300の使用方法により決定される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る攪拌装置の第1の実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】溶液供給管及び溶液供給口を示す図1の部分拡大断面図である。
【図4】排液の排出についての他の実施例を示す部分拡大断面図である。
【図5】本発明に係る攪拌装置の第2の実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図6】図5のB−B断面図である。
【図7】本発明に係る攪拌装置の第3の実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図8】図7のC−C断面図である。
【図9】本発明に係る攪拌装置の第4の実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図10】第4の実施形態のダンパ及びバネを示す説明図である。
【図11】図10のダンパに粘弾性材を用い、バネにスプリングを用いた場合の断面図である。
【図12】従来の培養槽及び培養槽内に設けられた攪拌翼の例を示す側面図及びその断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1,100,200,300 攪拌装置、2 ケーシング、3 振動源、4,4a,4b 軸部、5 攪拌羽根、6,26 仕切り板、7 攪拌室、8 内部攪拌室、9 外部攪拌室、10 濾過部材、11 溶液供給管、12 溶液供給口、13,19 排液排出口、14 排液排出管、15 攪拌濾過部材、16 試料排出口、17 試料供給口、18、24 シール材、20 排液吸引口、21 開口部、22 流通路、23 試料排出室、25 ダンパ、26 バネ、27 粘弾性材、28 スプリング、29 振動子、30 培養槽、31 櫂型翼、32 プロペラ型翼、33 平羽根タービン型翼、34 攪拌軸、35 水平回転流、36 放射流、37 凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が含まれた溶液が流通する流通路をその内部に有するケーシングと、
ケーシング内に配置され振動源に接続された軸部と、
軸部の回りに取り付けられ、軸部の振動によりその軸方向に振動して試料を攪拌させる攪拌羽根と、
ケーシングの内周面から突出し、流通路を複数の攪拌室に仕切る仕切り板と、
攪拌羽根を包囲するように取り付けられ、攪拌室を内部攪拌室と外部攪拌室とに区分し、試料の攪拌により発生した廃棄物を通過させる濾過部材と、
溶液を流通させる溶液供給管と、
溶液供給管と連結し、溶液を内部攪拌室に供給する溶液供給口と、
濾過部材を通過した廃棄物を含む排液を外部攪拌室から排出する排液排出口と、
を備えることを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の攪拌装置において、溶液には、試料の培養に用いられる培養液が含まれ、試料の攪拌により発生した廃棄物を排液排出口から排出させることを特徴とする攪拌装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の攪拌装置において、溶液には、付着物が付着した試料の洗浄に用いられる洗浄液が含まれ、試料の攪拌により分離した付着物を廃棄物として排液排出口から排出させることを特徴とする攪拌装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1に記載の攪拌装置において、試料を排出させる試料排出口を備え、溶液供給口と排液排出口と濾過部材とは、複数の攪拌室にそれぞれ設けられ、仕切り板は流体が流通する開口を有し、複数の攪拌室を通過した試料を試料排出口から排出させることを特徴とする攪拌装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1に記載の攪拌装置において、溶液供給管は、外部から仕切り板を貫通して溶液を内部攪拌室に供給することを特徴とする攪拌装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1に記載の攪拌装置において、排液を流通させて排液排出口と連結する排液排出管を備え、排液排出管は、仕切り板を貫通して排液を外部攪拌室から排出することを特徴とする攪拌装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1に記載の攪拌装置において、フィルタからなり、周辺部はケーシングの内周面と接続し、中央部は軸部に固定され、軸部の振動によりその軸方向に振動する攪拌濾過部材を備えることを特徴とする攪拌装置。
【請求項8】
請求項7に記載の攪拌装置において、攪拌濾過部材は、軸部との間に開口を有する仕切り板を介してケーシングの内周面と接続し、ケーシングの内部には、流通路を攪拌濾過部材と仕切り板とにより仕切られた複数の攪拌室が設けられることを特徴とする攪拌装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1に記載の攪拌装置において、軸部は複数の軸に分割され、隣接する軸の端部同士は、バネ及びダンパを介して接続され、軸の振動数をそれぞれ変化させることを特徴とする攪拌装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−237122(P2008−237122A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83150(P2007−83150)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000251211)冷化工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】