攪拌装置
【課題】省エネルギーを考慮しつつ、液体の効率的な攪拌を可能とする装置を提供する。
【解決手段】内径Dの円筒形容器を備え、容器内には、攪拌しようとする液体が収容されており、容器のほぼ中央に、液面から深さH1 のところに上向きに配向されたノズルが配置されており、深さH1 と内径Dとの比H1 /Dが、0.3〜1の範囲にあり、ノズルから液体内に吹き込まれる気体の流量Qが、ρL Q2 /(σL D3 )=10-5を満足する流量以上であり、かつ、気体の気泡が液面を吹き抜けない流量以下である攪拌装置において、容器内への空気の吹き込みを許容したり遮断したりするためのバルブと、バルブを開閉駆動するためのバルブ駆動部と、バルブ駆動部にバルブ開閉信号を出力するためのバルブ制御部とを備えることを特徴とする。
【解決手段】内径Dの円筒形容器を備え、容器内には、攪拌しようとする液体が収容されており、容器のほぼ中央に、液面から深さH1 のところに上向きに配向されたノズルが配置されており、深さH1 と内径Dとの比H1 /Dが、0.3〜1の範囲にあり、ノズルから液体内に吹き込まれる気体の流量Qが、ρL Q2 /(σL D3 )=10-5を満足する流量以上であり、かつ、気体の気泡が液面を吹き抜けない流量以下である攪拌装置において、容器内への空気の吹き込みを許容したり遮断したりするためのバルブと、バルブを開閉駆動するためのバルブ駆動部と、バルブ駆動部にバルブ開閉信号を出力するためのバルブ制御部とを備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、攪拌装置に関する。より詳細には、本発明は、省エネルギーを考慮しつつ、液体を効率的に攪拌することができる攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、機械的な駆動源を必要とせずに、流体を効率的に攪拌させることができる種々の攪拌装置を提案している(特許文献1〜特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3058876号明細書
【特許文献2】特許第4195782号明細書
【特許文献3】特許第4384477号明細書
【特許文献4】特許第4710070号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の攪拌装置では、容器内の液体中に常時ガス又は液体を吹き込むことにより、液体の攪拌を可能にしているが、本発明は、上述の特許文献、とりわけ特許文献1において提案された装置を改良発展させたものであり、省エネルギーを考慮しつつ、液体の効率的な攪拌を可能とする装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
図3を参照して、本発明の攪拌装置の作動原理について説明する。底部に単孔ノズルを備えた円筒形容器内に液体を充填し、単孔ノズルから液体内にガスを吹き込むと上昇気泡噴流が形成されるが、本発明者は、特許文献1に示したように、一定条件下において、この上昇気泡噴流によって、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを見い出した。すなわち、円筒形容器の内径をD、単孔ノズルと液面との高さの差をH1 とすると、DとH1 との関係が約0.3<H1 /D<約1である場合に、気泡噴流の半径方向変位が比較的小さく、周期が短い旋回現象が発生し、円筒形容器内の液体は、スロッシングに似た挙動を示す。ここで、スロッシングとは、容器が軸方向又は半径方向に加振されることによって液体の振動が誘起される現象をいう。上述の旋回現象は、気泡の生成、上昇に伴う気体から液体への周期的加振によって誘起されたものと推測される。
【0006】
また、本発明者は、DとH1 との関係が約0.3<H1 /D<約1.7であるときに単孔ノズルから液体内に液体を噴出させると上昇噴流が形成され、上述のガスを液体内に吹き込んだ場合と同様な現象が発生することを見い出した。
【0007】
上述の旋回現象が気泡(又は、液体)による液体への周期的な加振によって誘起されるものであるため、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生するためには、吹き込まれるガス(又は、液体)の流量が臨界値以上であり、かつ、気泡(又は、液体)が液面を吹き抜ける程度以下であることが必要である。なお、本明細書において使用される語「吹き抜け」とは、ノズルから液体中に吹き込まれた気体(又は、液体)が気柱(又は、液柱)を作って液面から外部へ出る現象を意味している。
【0008】
本発明者は、ガス(又は、液体)の流量の臨界値を以下のように算定した。スロッシングに関する研究によれば、容器の加振によって液面における波動が誘起され、この波動が粘性を介して液体の内部に伝わり、液体内部の運動が起こるといわれている。したがって、旋回は、液面の波動現象が抑えられることによって止まるものと推測される。本発明者の実験によれば、加振力の主要な部分は、気泡(又は、液体)が上昇して液面から出る際にほぼ周期的に液体に及ぼす力であろうと結論できる。この力は、上昇する液体の慣性力に依存すると仮定する。また、波動を止めようとする力には、表面張力が関与しているであろう。本発明者は、液体の慣性力と表面張力の比として定義されるウェーバー数We =ρL Q2 /(σL D3 )が10-5以上であれば、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを実験により確かめた。すなわち、上式のウェーバー数We =10-5が臨界値となる。ここで、ρL は液体の密度、Qはガスの吹き込み流量(又は、液体の噴出流量)、σL は液体の表面張力、Dは円筒形容器の内径である。
【0009】
一方、単孔ノズルより上方の液体が、図3(b)の矢印Aで示されるように、一方向に旋回すると、角運動量保存則により、単孔ノズルより下方の液体は、図3(b)の矢印Bで示されるように、逆方向に旋回する。単孔ノズルより下方における旋回流Bは、単孔ノズルより上方における旋回流Aを安定化させており、旋回流Aへの固形物等の投入により旋回流Aの速度の低下や乱れが生じても、旋回流Bが存在していれば、容易に元の状態に復帰することができる。このため、必須ではないが、単孔ノズルより下方に一定の深さの領域を設けるのが好ましい。
【0010】
上述のように、底部に単孔ノズルを備えた円筒形容器内に液体を充填し、単孔ノズルから液体内にガスを吹き込む(又は、液体を噴出させる)ことにより、一定条件下で、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを見い出したが、この装置では、常時ガスを吹き込む(又は、液体を噴出させる)ことを必要としているため、効率性の観点からは、必ずしも満足すべきものであるとは言い難かった。そこで、本発明では、ガスの吹き込み(又は、液体の噴出)を常時行わずに、容器内の液体が良好に攪拌される装置を開発した。
【0011】
上述の攪拌装置における液体の旋回現象は、液体内へのガスの吹き込み(又は、液体の噴出)を前提しているため、ガスの吹き込み(又は、液体の噴出)を止めてから一定時間経過すると、旋回が停止することが予想される。本発明では、この点に着目し、ガスの吹き込み時間(又は、液体の噴出時間)を制御することにより、省エネルギーを考慮しつつ、液体の効率的な攪拌を可能とする装置を開発した。
【0012】
液体内へのガスの吹き込み(又は、液体の噴出)によって生ずる旋回現象が定常状態に達した後、ガスの吹き込み(又は、液体の噴出)を停止してから容器内の液体の振動が観察されなくなるまでの時間を、旋回停止時間と定義し、この旋回停止時間を実験的に求めることとする。
【0013】
図4に、この実験に用いる実験装置を示す。実験では、内径D=80mm、123mm、200mmの3種類のアクリル製の円筒形容器を用い、内径dn =2mmのノズルから空気を、質量流量計で制御して流量QA =20〜300cm3/s の範囲で吹き込んだ。なお、旋回停止時間の測定を目視で行うと、ばらつきが大きくなるため、プローブを利用した。すなわち、円筒形容器の側壁から5mm内側の静止液面の上方0.5mmの位置に単針のプローブを設置し、このプローブの出力信号をペンレコーダで記録した。プローブの先端の電極は、周期的に液体に浸され、そのときの出力電圧は5Vになるが、液体の旋回がおさまると、出力電圧は一周期にわたって0Vになる。そこで、出力電圧が0となるまでに要する時間を、旋回停止時間TS,A とした。
【0014】
図5は、縦軸に旋回停止時間TS,A (s)、横軸に吹き込みガス流量QA (cm3/s )をとり、この実験の測定結果を示したものである。D=80mm、123mmの測定値については、高ガス流量域でガスの吹き抜けが起こるため、傾向がやや異なっているが、旋回停止時間TS,A は、ガス流量QA が大きいほど長くなっている。これは、ガス流量QAが大きいほどガスから与えられる液体の運動エネルギーが大きく、旋回停止に時間を要することによる。
【0015】
図6は、無次元数を用いて実験の測定結果を整理したものである。図6において、横軸は、次元解析で求めた無次元数Re1/2 ・(HL QA /D7/2 g1/2 )、縦軸は、無次元数TS,A QA /D3 を示す。
ここで、Re〔=(QA 2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL 〕は、気泡の半径方向への広がりの尺度である(QA 2 /g)1/5 (g/D)1/2 を代表長さ、(QA 2 /g)1/5(g/D)1/2 を代表速度とするレイノルズ数であり、気泡噴流に同伴して旋回している液体の運動を記述する無次元数である。
なお、(g/D)1/2 は、旋回周期の尺度、gは重力加速度(mm/s2 )、νL は液体の動粘度(mm2 /s)、HL は水深(mm)である。HL QA /D7/2 g1/2 は、下式の単位時間当たりの投入エネルギーを考慮して導かれたものであり、気泡噴流部を除く液体の運動を記述する無次元数である。
ε=(ρL −ρg )・g・HL ・QA
また、TS,A QA /D3 は、空塔速度を代表速度とするストローハル数の逆数となっている。
【0016】
実験から、旋回停止時間TS,A は、以下の式(1)によって得られる。
TS,A QA /D3 =11Re1/2 ・(HL QA /D7/2 g1/2 ) (1)
ただし、0.02<Re1/2 ・(HL QA /D7/2 g1/2 )<2
【0017】
上述の例では、ノズルから液体内にガスを吹き込むことにより旋回現象を生じさせているが、ガスの代わりに、ある臨界値以上の流量でノズルから液体内に液体を噴出させることによっても、旋回現象を生じさせることができる。ガスの吹き込みでは、気泡に働く浮力が液体の循環運動を誘起させるまでに十分な時間を要するのに対して、液体の噴出では、液体の慣性力をそのまま利用できるため、液体の旋回運動の発生に至る時間の大幅な短縮が見込まれる。また、ガスの吹き込みによる攪拌では、ガス流量を大きくすると、吹き抜け現象が生ずるため、投入したエネルギーが効率的に攪拌に用いられない状況が予測されるが、液体の噴出による攪拌では、そのようなおそれはない。
【0018】
ガス吹き込みの例と同様に、液体内への液体の噴出によって生ずる旋回現象が定常状態に達した後、液体の噴出を停止してから容器内の液体の振動が観察されなくなるまでの時間を、旋回停止時間と定義し、この旋回停止時間を実験的に求めることとする。
【0019】
図7に、この実験に用いる実験装置を示す。実験では、円筒形容器として、内径D=100mm、130mm、150mm、200mm、309mmの5種類のアクリル製のものを用い、円筒形容器の底面中央に設置するノズルとして、内径dn =5mm、10mm、13mm、15mmの4種類を用いた。円筒形容器の周囲を正方形断面の容器で覆い、その間をイオン交換水で満たした。そして、インバータでポンプの出力を調整して、吹き込み水の流量QL を調整した。その際、円筒形容器内の水面が一定になるように、円筒形容器の底部に設けた4個のドレインから水を排出し、循環させた。実験においては、水流量は0〜750cm3/s の範囲で設定し、水深HL を円筒形容器の内径Dで除した値をアスペクト比と定義し、0〜1.5の範囲で変化させた。
【0020】
縦軸を旋回停止時間TS,L に、横軸を噴出水流量QL にとり、図8(a)に円筒形容器別の、図8(b)にノズル別の、図8(c)にアスペクト比別の実験結果を示す。旋回停止時間TS,L は、水流量、ノズル内径、アスペクト比の影響をほとんど受けず、内径Dのみに依存するものと考えられる。
【0021】
図9は、無次元数を用いて実験の測定結果を整理したものである。図9において、縦軸は、容器内径D(mm)と重力加速度g(mm/s2 )を用いて無次元化した旋回停止時間TS,L (s)、横軸は、修正ロスビー数Rom を示す。
ここで、修正ロスビー数Rom は、噴流の有する慣性力と旋回する液体の慣性力との比を表すが、旋回停止時間TS,L は、修正ロスビー数Rom には依存せず、以下の式(2)によって±25%の偏差で近似できる。
TS,L (g/D)0.5 =500 (2)
Rom =QL 2 /(gdn 2 D3 )
【0022】
本願請求項1に記載の、内径Dの円筒形容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ多角形容器を備えた攪拌装置であって、前記容器内には、攪拌しようとする液体が収容されており、前記容器のほぼ中央に、液面から深さH1 のところに上向きに配向され、前記液体内に気体を吹き込み又は液体を噴出させるためのノズルが配置されており、深さH1と内径又は内接円径Dとの比H1 /Dが、気体の吹き込みの場合は0.3〜1の範囲、液体の噴出の場合は0.3〜1.7の範囲にあり、前記ノズルから前記液体内に吹き込まれる気体の流量又は噴出される液体の流量Qが、ρL Q2 /(σL D3 )=10-5(ここで、ρL は液体の密度、σL は液体の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、前記気体の気泡又は液体の液柱が前記液体の液面を吹き抜けない流量以下である攪拌装置は、前記容器内への空気の吹き込み又は液体の噴出を許容したり遮断したりするためのバルブと、前記バルブを開閉駆動するためのバルブ駆動部と、前記バルブ駆動部にバルブ開閉信号を出力するためのバルブ制御部とを備え、前記バルブ制御部から前記バルブ駆動部にバルブ開信号又はバルブ閉信号を出力することにより、予め設定した条件に従って前記空気の吹き込み又は液体の噴出を許容したり遮断したりするように構成されていることを特徴とするものである。
【0023】
本願請求項2に記載の攪拌装置は、前記請求項1の装置において、前記予め設定した条件が、空気の吹き込みの場合には、空気の吹き込みを停止した後、次式
TS,A Q/D3 =11Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )
ただし、0.02<Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )<2
によって得られる時間TS,A (ここで、Reは(Q2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL によって得られるレイノルズ数、gは重力加速度)の経過時に、
液体の噴出の場合には、液体の噴出を停止した後、次式
TS,L (g/D)0.5 =500
によって得られる時間TS,L の経過時に、空気の吹き込み又は液体の噴出を再開することであることを特徴とするものである。
【0024】
本願請求項3に記載の攪拌装置は、前記請求項1の装置において、前記予め設定した条件が、空気の吹き込みの場合には、空気の吹き込みを停止した後、次式
TS,A Q/D3 =11Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )
ただし、0.02<Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )<2
によって得られる時間TS,A (ここで、Reは(Q2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL によって得られるレイノルズ数、gは重力加速度)からさらに所望の時間経過時に、
液体の噴出の場合には、液体の噴出を停止した後、次式
TS,L (g/D)0.5 =500
によって得られる時間TS,L からさらに所望の時間経過時に、空気の吹き込み又は液体の噴出を再開することであることを特徴とするものである。
【0025】
本願請求項4に記載の攪拌装置は、前記請求項1の装置において、前記予め設定した条件が、空気の吹き込みの場合には、空気の吹き込みを停止した後、次式
TS,A Q/D3 =11Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )
ただし、0.02<Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )<2
によって得られる時間TS,A (ここで、Reは(Q2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL によって得られるレイノルズ数、gは重力加速度)が経過する前に、
液体の噴出の場合には、液体の噴出を停止した後、次式
TS,L (g/D)0.5 =500
によって得られる時間TS,L が経過する前に、空気の吹き込み又は液体の噴出を再開することであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の攪拌装置によれば、用途に応じて、常時ガス又は液体の吹き込みを行わずに所要時にのみガス又は液体の吹き込みを行うことにより、省エネルギーを考慮しつつ、液体の効率的な攪拌を実施することができる。本発明の攪拌装置は、プロペラ等の駆動源を必要としないため、構造が極めて簡単であり、従って、装置の製造コスト、維持コストを廉価に押さえることができ、保守点検に要する時間・手間を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の好ましい実施の形態に係る攪拌装置を示した全体概略図である。
【図2】図1の攪拌装置の作動態様を説明するための模式図である。
【図3】図1の攪拌装置の作動原理を説明するための図である。
【図4】図1の攪拌装置においてガスを吹き込む場合の旋回停止時間を求めるために実施した実験装置を示した図である。
【図5】図4に示す実験装置を用いて実施された実験の測定結果を示したグラフである。
【図6】図5の測定結果を整理したグラフである。
【図7】図1の攪拌装置において液体を噴出させる場合の旋回停止時間を求めるために実施した実験装置を示した図である。
【図8】図7に示す実験装置を用いて実施された実験の測定結果を示したグラフである。
【図9】図8の測定結果を整理したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る攪拌装置について説明する。図1において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施の形態に係る攪拌装置は、側壁12aと底壁12bとを有する円筒形容器12を備えている。円筒形容器12の内径は、図1に示されるように、Dである。円筒形容器12内には、底壁12bから液面までの高さがH1 +H2 となるように、攪拌しようとする液体が収容されている。
【0029】
円筒形容器12の底壁12bのほぼ中央には、液面から深さH1 の個所に上向きに配向されたノズル14aが配置されており、ノズル14aから延びた空気導入管14が、エアコンプレッサ(図示せず)に連結されている。これにより、空気が空気導入管14を介してノズル14aから液体内に吹き込まれるようになっている。
【0030】
なお、液面からノズル14aまでの深さH1 と円筒形容器12の内径Dとの比H1 /Dは、約0.3〜約1の範囲にある。好ましくは、比H1 /Dは、約0.5である。
【0031】
攪拌装置10はまた、空気導入管14に配置されたバルブ16と、バルブ16を開閉駆動するためのバルブ駆動部18と、バルブ駆動部18にバルブ開閉信号を出力するためのバルブ制御部20とを備えている。そして、予め設定した条件に従ってバルブ制御部20からバルブ駆動部18にバルブ開信号又はバルブ閉信号を出力することにより、バルブ駆動部18を駆動させてバルブ16を開閉することによって、ノズル14aから円筒形容器12内に空気を吹き込んだり吹き込みを停止したりすることができるようになっている。なお、バルブ16、バルブ駆動部18およびバルブ制御部20は、公知の型式のものを使用してよい。
【0032】
図2は、攪拌装置10の作動態様を説明するための模式図である。図2において、横軸は時間、縦軸は円筒形容器12内における液体の旋回の度合を示す。また、図2の横軸における<1>は液体内への空気の吹き込みを開始した時点、<2>は液体の旋回現象が定常状態に達した時点、<3>は液体内への空気の吹き込みを停止した時点、<4>は液体の旋回現象が停止した時点をそれぞれ示す。したがって、<3>から<4>までの時間が旋回停止時間TS,A となる。
【0033】
攪拌装置10の作動において、空気の吹き込み再開時期は、以下の3通りとなる。
(A)空気の吹き込みを停止した後、液体の旋回が停止すると、ほぼ同時に空気の吹き込みを再開する(図2(b)参照)。
この場合には、空気の吹き込みを停止した後、上記の式(1)を満足する時間TS,A の経過時に空気の吹き込みを再開することとなる。
(B)空気の吹き込みを停止し、液体の旋回が停止した後、所定時間t経過後、空気の吹き込み再開する(図2(c)参照)。
この場合には、空気の吹き込みを停止した後、上記の式(1)を満足する時間TS,A +tの経過後に空気の吹き込みを再開することとなる。
(C)空気の吹き込みを停止し、液体の旋回が停止する前に、空気の吹き込みを再開する(図2(d)参照)。
この場合には、空気の吹き込みを停止した後、上記の式(1)を満足する時間TS,A が経過する前に空気の吹き込みを再開することとなる。
(A)〜(C)のいずれに設定するかは、攪拌装置の用途等により使用者が所望のように選択することできるが、(C)の場合が最も好ましい。
【0034】
空気の吹き込み停止及び吹き込み再開を繰り返すことにより、空気を常時吹き込む場合と比較して、省エネルギー(吹き込み空気量の低減、空気吹き込み動力の低減など)を実現しつつ、効率的な液体の攪拌を実施することができる。
【0035】
空気を吹き込む場合に関連して攪拌装置10について説明したが、空気以外の気体を吹き込んでもよく、また、空気の代わりに、液体を噴出させてもよい。
【0036】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0037】
たとえば、前記実施の形態では、円筒形容器12の平面形状は円であるが、平面形状をn角形(n≧3)にした多角形容器(図示せず)を円筒形容器12の代わりに使用してもよい。この場合のDは、n角形の内接円の径となる。
【符号の説明】
【0038】
10 攪拌装置
12 円筒形容器
14 空気導入管
14a ノズル
16 バルブ
18 バルブ駆動部
20 制御手段
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、攪拌装置に関する。より詳細には、本発明は、省エネルギーを考慮しつつ、液体を効率的に攪拌することができる攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、機械的な駆動源を必要とせずに、流体を効率的に攪拌させることができる種々の攪拌装置を提案している(特許文献1〜特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3058876号明細書
【特許文献2】特許第4195782号明細書
【特許文献3】特許第4384477号明細書
【特許文献4】特許第4710070号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の攪拌装置では、容器内の液体中に常時ガス又は液体を吹き込むことにより、液体の攪拌を可能にしているが、本発明は、上述の特許文献、とりわけ特許文献1において提案された装置を改良発展させたものであり、省エネルギーを考慮しつつ、液体の効率的な攪拌を可能とする装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
図3を参照して、本発明の攪拌装置の作動原理について説明する。底部に単孔ノズルを備えた円筒形容器内に液体を充填し、単孔ノズルから液体内にガスを吹き込むと上昇気泡噴流が形成されるが、本発明者は、特許文献1に示したように、一定条件下において、この上昇気泡噴流によって、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを見い出した。すなわち、円筒形容器の内径をD、単孔ノズルと液面との高さの差をH1 とすると、DとH1 との関係が約0.3<H1 /D<約1である場合に、気泡噴流の半径方向変位が比較的小さく、周期が短い旋回現象が発生し、円筒形容器内の液体は、スロッシングに似た挙動を示す。ここで、スロッシングとは、容器が軸方向又は半径方向に加振されることによって液体の振動が誘起される現象をいう。上述の旋回現象は、気泡の生成、上昇に伴う気体から液体への周期的加振によって誘起されたものと推測される。
【0006】
また、本発明者は、DとH1 との関係が約0.3<H1 /D<約1.7であるときに単孔ノズルから液体内に液体を噴出させると上昇噴流が形成され、上述のガスを液体内に吹き込んだ場合と同様な現象が発生することを見い出した。
【0007】
上述の旋回現象が気泡(又は、液体)による液体への周期的な加振によって誘起されるものであるため、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生するためには、吹き込まれるガス(又は、液体)の流量が臨界値以上であり、かつ、気泡(又は、液体)が液面を吹き抜ける程度以下であることが必要である。なお、本明細書において使用される語「吹き抜け」とは、ノズルから液体中に吹き込まれた気体(又は、液体)が気柱(又は、液柱)を作って液面から外部へ出る現象を意味している。
【0008】
本発明者は、ガス(又は、液体)の流量の臨界値を以下のように算定した。スロッシングに関する研究によれば、容器の加振によって液面における波動が誘起され、この波動が粘性を介して液体の内部に伝わり、液体内部の運動が起こるといわれている。したがって、旋回は、液面の波動現象が抑えられることによって止まるものと推測される。本発明者の実験によれば、加振力の主要な部分は、気泡(又は、液体)が上昇して液面から出る際にほぼ周期的に液体に及ぼす力であろうと結論できる。この力は、上昇する液体の慣性力に依存すると仮定する。また、波動を止めようとする力には、表面張力が関与しているであろう。本発明者は、液体の慣性力と表面張力の比として定義されるウェーバー数We =ρL Q2 /(σL D3 )が10-5以上であれば、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを実験により確かめた。すなわち、上式のウェーバー数We =10-5が臨界値となる。ここで、ρL は液体の密度、Qはガスの吹き込み流量(又は、液体の噴出流量)、σL は液体の表面張力、Dは円筒形容器の内径である。
【0009】
一方、単孔ノズルより上方の液体が、図3(b)の矢印Aで示されるように、一方向に旋回すると、角運動量保存則により、単孔ノズルより下方の液体は、図3(b)の矢印Bで示されるように、逆方向に旋回する。単孔ノズルより下方における旋回流Bは、単孔ノズルより上方における旋回流Aを安定化させており、旋回流Aへの固形物等の投入により旋回流Aの速度の低下や乱れが生じても、旋回流Bが存在していれば、容易に元の状態に復帰することができる。このため、必須ではないが、単孔ノズルより下方に一定の深さの領域を設けるのが好ましい。
【0010】
上述のように、底部に単孔ノズルを備えた円筒形容器内に液体を充填し、単孔ノズルから液体内にガスを吹き込む(又は、液体を噴出させる)ことにより、一定条件下で、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを見い出したが、この装置では、常時ガスを吹き込む(又は、液体を噴出させる)ことを必要としているため、効率性の観点からは、必ずしも満足すべきものであるとは言い難かった。そこで、本発明では、ガスの吹き込み(又は、液体の噴出)を常時行わずに、容器内の液体が良好に攪拌される装置を開発した。
【0011】
上述の攪拌装置における液体の旋回現象は、液体内へのガスの吹き込み(又は、液体の噴出)を前提しているため、ガスの吹き込み(又は、液体の噴出)を止めてから一定時間経過すると、旋回が停止することが予想される。本発明では、この点に着目し、ガスの吹き込み時間(又は、液体の噴出時間)を制御することにより、省エネルギーを考慮しつつ、液体の効率的な攪拌を可能とする装置を開発した。
【0012】
液体内へのガスの吹き込み(又は、液体の噴出)によって生ずる旋回現象が定常状態に達した後、ガスの吹き込み(又は、液体の噴出)を停止してから容器内の液体の振動が観察されなくなるまでの時間を、旋回停止時間と定義し、この旋回停止時間を実験的に求めることとする。
【0013】
図4に、この実験に用いる実験装置を示す。実験では、内径D=80mm、123mm、200mmの3種類のアクリル製の円筒形容器を用い、内径dn =2mmのノズルから空気を、質量流量計で制御して流量QA =20〜300cm3/s の範囲で吹き込んだ。なお、旋回停止時間の測定を目視で行うと、ばらつきが大きくなるため、プローブを利用した。すなわち、円筒形容器の側壁から5mm内側の静止液面の上方0.5mmの位置に単針のプローブを設置し、このプローブの出力信号をペンレコーダで記録した。プローブの先端の電極は、周期的に液体に浸され、そのときの出力電圧は5Vになるが、液体の旋回がおさまると、出力電圧は一周期にわたって0Vになる。そこで、出力電圧が0となるまでに要する時間を、旋回停止時間TS,A とした。
【0014】
図5は、縦軸に旋回停止時間TS,A (s)、横軸に吹き込みガス流量QA (cm3/s )をとり、この実験の測定結果を示したものである。D=80mm、123mmの測定値については、高ガス流量域でガスの吹き抜けが起こるため、傾向がやや異なっているが、旋回停止時間TS,A は、ガス流量QA が大きいほど長くなっている。これは、ガス流量QAが大きいほどガスから与えられる液体の運動エネルギーが大きく、旋回停止に時間を要することによる。
【0015】
図6は、無次元数を用いて実験の測定結果を整理したものである。図6において、横軸は、次元解析で求めた無次元数Re1/2 ・(HL QA /D7/2 g1/2 )、縦軸は、無次元数TS,A QA /D3 を示す。
ここで、Re〔=(QA 2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL 〕は、気泡の半径方向への広がりの尺度である(QA 2 /g)1/5 (g/D)1/2 を代表長さ、(QA 2 /g)1/5(g/D)1/2 を代表速度とするレイノルズ数であり、気泡噴流に同伴して旋回している液体の運動を記述する無次元数である。
なお、(g/D)1/2 は、旋回周期の尺度、gは重力加速度(mm/s2 )、νL は液体の動粘度(mm2 /s)、HL は水深(mm)である。HL QA /D7/2 g1/2 は、下式の単位時間当たりの投入エネルギーを考慮して導かれたものであり、気泡噴流部を除く液体の運動を記述する無次元数である。
ε=(ρL −ρg )・g・HL ・QA
また、TS,A QA /D3 は、空塔速度を代表速度とするストローハル数の逆数となっている。
【0016】
実験から、旋回停止時間TS,A は、以下の式(1)によって得られる。
TS,A QA /D3 =11Re1/2 ・(HL QA /D7/2 g1/2 ) (1)
ただし、0.02<Re1/2 ・(HL QA /D7/2 g1/2 )<2
【0017】
上述の例では、ノズルから液体内にガスを吹き込むことにより旋回現象を生じさせているが、ガスの代わりに、ある臨界値以上の流量でノズルから液体内に液体を噴出させることによっても、旋回現象を生じさせることができる。ガスの吹き込みでは、気泡に働く浮力が液体の循環運動を誘起させるまでに十分な時間を要するのに対して、液体の噴出では、液体の慣性力をそのまま利用できるため、液体の旋回運動の発生に至る時間の大幅な短縮が見込まれる。また、ガスの吹き込みによる攪拌では、ガス流量を大きくすると、吹き抜け現象が生ずるため、投入したエネルギーが効率的に攪拌に用いられない状況が予測されるが、液体の噴出による攪拌では、そのようなおそれはない。
【0018】
ガス吹き込みの例と同様に、液体内への液体の噴出によって生ずる旋回現象が定常状態に達した後、液体の噴出を停止してから容器内の液体の振動が観察されなくなるまでの時間を、旋回停止時間と定義し、この旋回停止時間を実験的に求めることとする。
【0019】
図7に、この実験に用いる実験装置を示す。実験では、円筒形容器として、内径D=100mm、130mm、150mm、200mm、309mmの5種類のアクリル製のものを用い、円筒形容器の底面中央に設置するノズルとして、内径dn =5mm、10mm、13mm、15mmの4種類を用いた。円筒形容器の周囲を正方形断面の容器で覆い、その間をイオン交換水で満たした。そして、インバータでポンプの出力を調整して、吹き込み水の流量QL を調整した。その際、円筒形容器内の水面が一定になるように、円筒形容器の底部に設けた4個のドレインから水を排出し、循環させた。実験においては、水流量は0〜750cm3/s の範囲で設定し、水深HL を円筒形容器の内径Dで除した値をアスペクト比と定義し、0〜1.5の範囲で変化させた。
【0020】
縦軸を旋回停止時間TS,L に、横軸を噴出水流量QL にとり、図8(a)に円筒形容器別の、図8(b)にノズル別の、図8(c)にアスペクト比別の実験結果を示す。旋回停止時間TS,L は、水流量、ノズル内径、アスペクト比の影響をほとんど受けず、内径Dのみに依存するものと考えられる。
【0021】
図9は、無次元数を用いて実験の測定結果を整理したものである。図9において、縦軸は、容器内径D(mm)と重力加速度g(mm/s2 )を用いて無次元化した旋回停止時間TS,L (s)、横軸は、修正ロスビー数Rom を示す。
ここで、修正ロスビー数Rom は、噴流の有する慣性力と旋回する液体の慣性力との比を表すが、旋回停止時間TS,L は、修正ロスビー数Rom には依存せず、以下の式(2)によって±25%の偏差で近似できる。
TS,L (g/D)0.5 =500 (2)
Rom =QL 2 /(gdn 2 D3 )
【0022】
本願請求項1に記載の、内径Dの円筒形容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ多角形容器を備えた攪拌装置であって、前記容器内には、攪拌しようとする液体が収容されており、前記容器のほぼ中央に、液面から深さH1 のところに上向きに配向され、前記液体内に気体を吹き込み又は液体を噴出させるためのノズルが配置されており、深さH1と内径又は内接円径Dとの比H1 /Dが、気体の吹き込みの場合は0.3〜1の範囲、液体の噴出の場合は0.3〜1.7の範囲にあり、前記ノズルから前記液体内に吹き込まれる気体の流量又は噴出される液体の流量Qが、ρL Q2 /(σL D3 )=10-5(ここで、ρL は液体の密度、σL は液体の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、前記気体の気泡又は液体の液柱が前記液体の液面を吹き抜けない流量以下である攪拌装置は、前記容器内への空気の吹き込み又は液体の噴出を許容したり遮断したりするためのバルブと、前記バルブを開閉駆動するためのバルブ駆動部と、前記バルブ駆動部にバルブ開閉信号を出力するためのバルブ制御部とを備え、前記バルブ制御部から前記バルブ駆動部にバルブ開信号又はバルブ閉信号を出力することにより、予め設定した条件に従って前記空気の吹き込み又は液体の噴出を許容したり遮断したりするように構成されていることを特徴とするものである。
【0023】
本願請求項2に記載の攪拌装置は、前記請求項1の装置において、前記予め設定した条件が、空気の吹き込みの場合には、空気の吹き込みを停止した後、次式
TS,A Q/D3 =11Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )
ただし、0.02<Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )<2
によって得られる時間TS,A (ここで、Reは(Q2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL によって得られるレイノルズ数、gは重力加速度)の経過時に、
液体の噴出の場合には、液体の噴出を停止した後、次式
TS,L (g/D)0.5 =500
によって得られる時間TS,L の経過時に、空気の吹き込み又は液体の噴出を再開することであることを特徴とするものである。
【0024】
本願請求項3に記載の攪拌装置は、前記請求項1の装置において、前記予め設定した条件が、空気の吹き込みの場合には、空気の吹き込みを停止した後、次式
TS,A Q/D3 =11Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )
ただし、0.02<Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )<2
によって得られる時間TS,A (ここで、Reは(Q2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL によって得られるレイノルズ数、gは重力加速度)からさらに所望の時間経過時に、
液体の噴出の場合には、液体の噴出を停止した後、次式
TS,L (g/D)0.5 =500
によって得られる時間TS,L からさらに所望の時間経過時に、空気の吹き込み又は液体の噴出を再開することであることを特徴とするものである。
【0025】
本願請求項4に記載の攪拌装置は、前記請求項1の装置において、前記予め設定した条件が、空気の吹き込みの場合には、空気の吹き込みを停止した後、次式
TS,A Q/D3 =11Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )
ただし、0.02<Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )<2
によって得られる時間TS,A (ここで、Reは(Q2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL によって得られるレイノルズ数、gは重力加速度)が経過する前に、
液体の噴出の場合には、液体の噴出を停止した後、次式
TS,L (g/D)0.5 =500
によって得られる時間TS,L が経過する前に、空気の吹き込み又は液体の噴出を再開することであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の攪拌装置によれば、用途に応じて、常時ガス又は液体の吹き込みを行わずに所要時にのみガス又は液体の吹き込みを行うことにより、省エネルギーを考慮しつつ、液体の効率的な攪拌を実施することができる。本発明の攪拌装置は、プロペラ等の駆動源を必要としないため、構造が極めて簡単であり、従って、装置の製造コスト、維持コストを廉価に押さえることができ、保守点検に要する時間・手間を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の好ましい実施の形態に係る攪拌装置を示した全体概略図である。
【図2】図1の攪拌装置の作動態様を説明するための模式図である。
【図3】図1の攪拌装置の作動原理を説明するための図である。
【図4】図1の攪拌装置においてガスを吹き込む場合の旋回停止時間を求めるために実施した実験装置を示した図である。
【図5】図4に示す実験装置を用いて実施された実験の測定結果を示したグラフである。
【図6】図5の測定結果を整理したグラフである。
【図7】図1の攪拌装置において液体を噴出させる場合の旋回停止時間を求めるために実施した実験装置を示した図である。
【図8】図7に示す実験装置を用いて実施された実験の測定結果を示したグラフである。
【図9】図8の測定結果を整理したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る攪拌装置について説明する。図1において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施の形態に係る攪拌装置は、側壁12aと底壁12bとを有する円筒形容器12を備えている。円筒形容器12の内径は、図1に示されるように、Dである。円筒形容器12内には、底壁12bから液面までの高さがH1 +H2 となるように、攪拌しようとする液体が収容されている。
【0029】
円筒形容器12の底壁12bのほぼ中央には、液面から深さH1 の個所に上向きに配向されたノズル14aが配置されており、ノズル14aから延びた空気導入管14が、エアコンプレッサ(図示せず)に連結されている。これにより、空気が空気導入管14を介してノズル14aから液体内に吹き込まれるようになっている。
【0030】
なお、液面からノズル14aまでの深さH1 と円筒形容器12の内径Dとの比H1 /Dは、約0.3〜約1の範囲にある。好ましくは、比H1 /Dは、約0.5である。
【0031】
攪拌装置10はまた、空気導入管14に配置されたバルブ16と、バルブ16を開閉駆動するためのバルブ駆動部18と、バルブ駆動部18にバルブ開閉信号を出力するためのバルブ制御部20とを備えている。そして、予め設定した条件に従ってバルブ制御部20からバルブ駆動部18にバルブ開信号又はバルブ閉信号を出力することにより、バルブ駆動部18を駆動させてバルブ16を開閉することによって、ノズル14aから円筒形容器12内に空気を吹き込んだり吹き込みを停止したりすることができるようになっている。なお、バルブ16、バルブ駆動部18およびバルブ制御部20は、公知の型式のものを使用してよい。
【0032】
図2は、攪拌装置10の作動態様を説明するための模式図である。図2において、横軸は時間、縦軸は円筒形容器12内における液体の旋回の度合を示す。また、図2の横軸における<1>は液体内への空気の吹き込みを開始した時点、<2>は液体の旋回現象が定常状態に達した時点、<3>は液体内への空気の吹き込みを停止した時点、<4>は液体の旋回現象が停止した時点をそれぞれ示す。したがって、<3>から<4>までの時間が旋回停止時間TS,A となる。
【0033】
攪拌装置10の作動において、空気の吹き込み再開時期は、以下の3通りとなる。
(A)空気の吹き込みを停止した後、液体の旋回が停止すると、ほぼ同時に空気の吹き込みを再開する(図2(b)参照)。
この場合には、空気の吹き込みを停止した後、上記の式(1)を満足する時間TS,A の経過時に空気の吹き込みを再開することとなる。
(B)空気の吹き込みを停止し、液体の旋回が停止した後、所定時間t経過後、空気の吹き込み再開する(図2(c)参照)。
この場合には、空気の吹き込みを停止した後、上記の式(1)を満足する時間TS,A +tの経過後に空気の吹き込みを再開することとなる。
(C)空気の吹き込みを停止し、液体の旋回が停止する前に、空気の吹き込みを再開する(図2(d)参照)。
この場合には、空気の吹き込みを停止した後、上記の式(1)を満足する時間TS,A が経過する前に空気の吹き込みを再開することとなる。
(A)〜(C)のいずれに設定するかは、攪拌装置の用途等により使用者が所望のように選択することできるが、(C)の場合が最も好ましい。
【0034】
空気の吹き込み停止及び吹き込み再開を繰り返すことにより、空気を常時吹き込む場合と比較して、省エネルギー(吹き込み空気量の低減、空気吹き込み動力の低減など)を実現しつつ、効率的な液体の攪拌を実施することができる。
【0035】
空気を吹き込む場合に関連して攪拌装置10について説明したが、空気以外の気体を吹き込んでもよく、また、空気の代わりに、液体を噴出させてもよい。
【0036】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0037】
たとえば、前記実施の形態では、円筒形容器12の平面形状は円であるが、平面形状をn角形(n≧3)にした多角形容器(図示せず)を円筒形容器12の代わりに使用してもよい。この場合のDは、n角形の内接円の径となる。
【符号の説明】
【0038】
10 攪拌装置
12 円筒形容器
14 空気導入管
14a ノズル
16 バルブ
18 バルブ駆動部
20 制御手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径Dの円筒形容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ多角形容器を備えた攪拌装置であって、前記容器内には、攪拌しようとする液体が収容されており、前記容器のほぼ中央に、液面から深さH1 のところに上向きに配向され、前記液体内に気体を吹き込み又は液体を噴出させるためのノズルが配置されており、深さH1 と内径又は内接円径Dとの比H1 /Dが、気体の吹き込みの場合は0.3〜1の範囲、液体の噴出の場合は0.3〜1.7の範囲にあり、前記ノズルから前記液体内に吹き込まれる気体の流量又は噴出される液体の流量Qが、ρL Q2 /(σL D3 )=10-5(ここで、ρL は液体の密度、σL は液体の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、前記気体の気泡又は液体の液柱が前記液体の液面を吹き抜けない流量以下である攪拌装置において、
前記容器内への空気の吹き込み又は液体の噴出を許容したり遮断したりするためのバルブと、
前記バルブを開閉駆動するためのバルブ駆動部と、
前記バルブ駆動部にバルブ開閉信号を出力するためのバルブ制御部とを備え、
前記バルブ制御部から前記バルブ駆動部にバルブ開信号又はバルブ閉信号を出力することにより、予め設定した条件に従って前記空気の吹き込み又は液体の噴出を許容したり遮断したりするように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記予め設定した条件が、空気の吹き込みの場合には、空気の吹き込みを停止した後、次式
TS,A Q/D3 =11Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )
ただし、0.02<Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )<2
によって得られる時間TS,A (ここで、Reは(Q2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL によって得られるレイノルズ数、gは重力加速度)の経過時に、
液体の噴出の場合には、液体の噴出を停止した後、次式
TS,L (g/D)0.5 =500
によって得られる時間TS,L の経過時に、
空気の吹き込み又は液体の噴出を再開することであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記予め設定した条件が、空気の吹き込みの場合には、空気の吹き込みを停止した後、次式
TS,A Q/D3 =11Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )
ただし、0.02<Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )<2
によって得られる時間TS,A (ここで、Reは(Q2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL によって得られるレイノルズ数、gは重力加速度)からさらに所望の時間経過時に、
液体の噴出の場合には、液体の噴出を停止した後、次式
TS,L (g/D)0.5 =500
によって得られる時間TS,L からさらに所望の時間経過時に、
空気の吹き込み又は液体の噴出を再開することであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記予め設定した条件が、空気の吹き込みの場合には、空気の吹き込みを停止した後、次式
TS,A Q/D3 =11Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )
ただし、0.02<Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )<2
によって得られる時間TS,A (ここで、Reは(Q2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL によって得られるレイノルズ数、gは重力加速度)が経過する前に、
液体の噴出の場合には、液体の噴出を停止した後、次式
TS,L (g/D)0.5 =500
によって得られる時間TS,L が経過する前に、
空気の吹き込み又は液体の噴出を再開することであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項1】
内径Dの円筒形容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ多角形容器を備えた攪拌装置であって、前記容器内には、攪拌しようとする液体が収容されており、前記容器のほぼ中央に、液面から深さH1 のところに上向きに配向され、前記液体内に気体を吹き込み又は液体を噴出させるためのノズルが配置されており、深さH1 と内径又は内接円径Dとの比H1 /Dが、気体の吹き込みの場合は0.3〜1の範囲、液体の噴出の場合は0.3〜1.7の範囲にあり、前記ノズルから前記液体内に吹き込まれる気体の流量又は噴出される液体の流量Qが、ρL Q2 /(σL D3 )=10-5(ここで、ρL は液体の密度、σL は液体の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、前記気体の気泡又は液体の液柱が前記液体の液面を吹き抜けない流量以下である攪拌装置において、
前記容器内への空気の吹き込み又は液体の噴出を許容したり遮断したりするためのバルブと、
前記バルブを開閉駆動するためのバルブ駆動部と、
前記バルブ駆動部にバルブ開閉信号を出力するためのバルブ制御部とを備え、
前記バルブ制御部から前記バルブ駆動部にバルブ開信号又はバルブ閉信号を出力することにより、予め設定した条件に従って前記空気の吹き込み又は液体の噴出を許容したり遮断したりするように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記予め設定した条件が、空気の吹き込みの場合には、空気の吹き込みを停止した後、次式
TS,A Q/D3 =11Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )
ただし、0.02<Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )<2
によって得られる時間TS,A (ここで、Reは(Q2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL によって得られるレイノルズ数、gは重力加速度)の経過時に、
液体の噴出の場合には、液体の噴出を停止した後、次式
TS,L (g/D)0.5 =500
によって得られる時間TS,L の経過時に、
空気の吹き込み又は液体の噴出を再開することであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記予め設定した条件が、空気の吹き込みの場合には、空気の吹き込みを停止した後、次式
TS,A Q/D3 =11Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )
ただし、0.02<Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )<2
によって得られる時間TS,A (ここで、Reは(Q2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL によって得られるレイノルズ数、gは重力加速度)からさらに所望の時間経過時に、
液体の噴出の場合には、液体の噴出を停止した後、次式
TS,L (g/D)0.5 =500
によって得られる時間TS,L からさらに所望の時間経過時に、
空気の吹き込み又は液体の噴出を再開することであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記予め設定した条件が、空気の吹き込みの場合には、空気の吹き込みを停止した後、次式
TS,A Q/D3 =11Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )
ただし、0.02<Re1/2 ・(H1 Q/D7/2 g1/2 )<2
によって得られる時間TS,A (ここで、Reは(Q2 /g)2/5 (g/D)1/2 /νL によって得られるレイノルズ数、gは重力加速度)が経過する前に、
液体の噴出の場合には、液体の噴出を停止した後、次式
TS,L (g/D)0.5 =500
によって得られる時間TS,L が経過する前に、
空気の吹き込み又は液体の噴出を再開することであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2013−85978(P2013−85978A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225627(P2011−225627)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(599083547)
【出願人】(500430903)株式会社ヒューエンス (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(599083547)
【出願人】(500430903)株式会社ヒューエンス (7)
【Fターム(参考)】
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