説明

支承装置及び橋桁の支承構造

【課題】高面圧化及び疲労耐久性を高めることができる支承装置を提供する。
【解決手段】支承装置2は、上部支持部材3と下部支持部材4との間に弾性層5を介在させて構成されている。上部支持部材3は、面方向の中央部を上部内孔が貫通したリング状を呈しており、下面には上部収容凹部が形成されている。上部収容凹部は、上部内孔の外側に上部内孔と同心の環状に延びている。下部支持部材4は、上部支持部材3の上下を反転させた形状を有しており、上部内孔と対向する位置に下部内孔を備え、上面の上部収容凹部と対向する位置に下部収容凹部を備えている。弾性層5には、環状の硬質部材6が埋設されている。硬質部材6は、リング状の部材であり、上部収容凹部と下部収容凹部とで囲まれる領域に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁等で用いられる支承装置及び支承構造に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等に用いられる支承では、支承体の高面圧化が望まれている。このため、下記の特許文献1,2では、弾性層の上部及び下部に固定される支持部材に環状の反力壁を設けると共に、反力壁同士の間隙に位置するよう硬質板を弾性層に埋設し、弾性層の内部応力を広く分布させると共に、弾性層の側方への膨出を抑制している。
【0003】
また、下記の特許文献3では、上部鋼板と下部鋼板との間に配置されるゴム層の厚みを中央部から外周部にかけて漸増させて、面圧が大きくなる中央部での剛性を高めると共に、ゴムの膨出を抑えている。
【0004】
また、下記の特許文献4では、上沓に凹部を設けると共に、凹部に嵌合する凸部を下沓に設けることで、上沓と下沓との間に配置されるゴム層の膨出が抑えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−236944号公報
【特許文献2】特開2004−308109号公報
【特許文献3】特開2011−38394号公報
【特許文献4】特開2005−337002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2,4の方法では、上部構造側と下部構造側とで挟み込まれた弾性層で、面方向の中央部での内部応力が相当に高くなり、疲労耐久性を高めるのが難しかった。また、特許文献3の方法では、上部鋼板側から加えられる荷重を十分に緩衝できる弾性を弾性層に持たせながら、高面圧化を図るのには限界があった。
【0007】
本発明の目的は斯かる課題に鑑みてなされたもので、高面圧化及び疲労耐久性を高めることができる支承装置、及び橋桁の支承構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明の支承装置は、上部支持部材と下部支持部材との間に弾性層が介在した支承装置であって、前記上部支持部材の下面に形成されて環状に延びた収容凹部と、前記下部支持部材の上面の前記収容凹部と対向する位置に形成されて環状に延びた収容凹部と、前記弾性層に埋設されて前記上部支持部材及び前記下部収容部材の前記収容凹部内に配置された環状の硬質部材と、前記上部支持部材及び前記下部支持部材の少なくとも一方に形成されて、前記収容凹部に周囲を囲まれた内孔とを備えることを特徴とする。
また、本発明は、前記上部支持部材と前記下部支持部材との間の間隙が内周縁及び外周縁にかけて漸増させていることを特徴とする。
また、本発明の橋桁の支承構造は、上沓と下沓との間に上記支承装置を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、収容凹部の形成位置に沿った広い範囲に弾性層の内部応力が大きな箇所を分散させ、支承装置の許容支圧応力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態の橋桁の支承構造を示す正面図である。
【図2】図1の支承装置を示す図で、(a)は平面図,(b)は断面図である。
【図3】図2の枠A内の拡大図である。
【図4】支承装置の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。
以下の説明で用いる上下,前後,左右の各方向は説明に用いる各図に示している。この上下,前後,左右は説明のために記載したもので、実際の配置と異なってよいことはもちろんである。
【0012】
図1に示す橋桁の支承構造1は、上部構造11にソールプレート12を介して上沓13を固定し、下部構造14に沓座モルタル15を介して下沓16を固定し、上沓13と下沓16との間に支承装置2を配置して構成されている。下沓16は、沓座モルタル15上に載置され、沓座モルタル15の上面から突出したアンカーボルト17で下部構造14に固定されている。上沓13は、ソールプレート12を通してセットボルト18が螺着されることで、上部構造11に固定されている。
【0013】
支承装置2は、図2に示すように、上部支持部材3と下部支持部材4との間に弾性層5を介在させて構成されている。上部支持部材3は、面方向の中央部を上部内孔31が貫通したリング状を呈しており、下面には上部収容凹部32が形成されている。上部支持部材3の下面の外周及び内周の縁部は、周縁に向かって上方に傾斜したテーパー状に形成されている。
【0014】
上部収容凹部32は、上部内孔31の外側に上部内孔31と同心の環状に延びており、図3に拡大して示すように、下面側にかけて漸次拡幅する台形の断面形状を有している。上部収容凹部32が備える傾斜面の傾斜角度θは、60°〜90°の範囲に定められている。
【0015】
図2に示すように、下部支持部材4は、上部支持部材3の上下を反転させた形状を有しており、上部内孔31と対向する位置に下部内孔41を備え、上面の上部収容凹部32と対向する位置に下部収容凹部42を備えている。また、下部支持部材4の上面の外周及び内周の縁部は、周縁に向かって下方に傾斜したテーパー状に形成されている。下部支持部材4は、上部支持部材3との間に間隙を設け、上部支持部材3と対向して配置されている。
【0016】
弾性層5は、天然ゴム,クロロプレンゴム(CR),エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM),ウレタンゴム等のゴム材料で形成されている。弾性層5は、上部支持部材3と下部支持部材4との間の間隙に充填されると共に、上部支持部材3及び下部支持部材4の外周面を覆っている。弾性層5には、環状の硬質部材6が埋設されている。
【0017】
硬質部材6は、図3に拡大して示すように、中央部から上下の端面にかけて漸次縮幅する方形の断面形状を有したリング状の部材であり、上部収容凹部32と下部収容凹部42とで囲まれる領域に配置されている。硬質部材6の傾斜面は、上部支持部材3の上部収容凹部32及び上部支持部材3の上部収容凹部32が備える傾斜面と同じ傾斜角度θで傾斜している。弾性層5は、上部支持部材3,下部支持部材4,及び硬質部材6と加硫接着で一体化されている。
【0018】
支承装置2は、図1に示すように、上沓13の嵌合凹部13aに上部支持部材3が、下沓16の嵌合凹部16aに下部支持部材4がそれぞれ嵌め合わされ、上沓13と下沓16との間に挟み込まれて配置される。上部支持部材3の上部内孔31及び下部支持構造の下部内孔41には、上沓13のピン挿通孔13bを通してピン13cが挿通される。
【0019】
ピン13cは、下沓16のネジ孔16bに螺合することで下沓16に固定される。ピン挿通孔13bは、上部が拡径されており、拡径部分の底面でピン13cの頭部が支持される。ピン13cは、ピン挿通孔13bの拡径部分の底面に頭部が当接することで、上沓13の上方への移動を規制するためのものである。
【0020】
上部支持部材3と下部支持部材4との間に介在した弾性層5は、上部支持部材3から上部構造11側の荷重が加えられ、上下方向に圧縮されている。弾性層5では、上部支持部材3及び下部支持部材4における上部収容凹部32及び下部収容凹部42の形成位置に沿って、内部応力が大きな箇所が環状に分布する。このため、上部収容凹部32と下部収容凹部42とで囲まれる領域でも、弾性層5が高面圧に保たれる。
【0021】
また、上部収容凹部32と下部収容凹部42とで囲まれる領域に配置された硬質部材6により、上部収容凹部32及び下部収容凹部42内での内部応力が分散される。
【0022】
また、上部支持部材3及び下部支持部材4の外周及び内周の縁部では、上部支持部材3と下部支持部材4との間の間隙が拡開して弾性層5が厚肉になっていることから、上下方向に圧縮された弾性層5が上部支持部材3及び下部支持部材4の外周及び内周の縁部から側方に膨出するのが抑えられる。
【0023】
支承装置2は、上沓13に上部支持部材3が固定され、下沓16に下部支持部材4が固定されることで、下部構造14に対する上部構造11の移動に追従して、上部支持部材3が下部支持部材4に対し移動する。
【0024】
下部支持部材4に対して上部支持部材3が上下方向に移動する際には、弾性層5が上下方向に圧縮されて変形することで、上部構造11側から加えられる荷重が緩和され、下部構造14側に伝達される。このとき、弾性層5は、上部収容凹部32と下部収容凹部42とで囲まれる領域では変形が拘束されて常時高面圧に保たれ、剛性が高められており、より大きな荷重を緩和することが可能となっている。
【0025】
また、下部支持部材4に対して上部支持部材3が水平方向に移動する際には、上部収容凹部32と下部収容凹部42とで囲まれる領域に配置された硬質部材6が、上部収容凹部32及び下部収容凹部42に弾性層5を介して係合し、下部支持部材4に対する上部支持部材3の水平方向への移動を規制する。
【0026】
本実施形態によれば、上部支持部材3が上部内孔31を、下部支持部材4が下部内孔41をそれぞれ備えることから、弾性層5では上部収容凹部32及び下部収容凹部42の形成位置に沿って内部応力が大きな箇所が環状に分布する。このため、上部支持部材3,下部支持部材4,及び弾性層5が円板状に形成されている場合に比べ、内部応力が大きな箇所を広い範囲に分散させ、より大きな荷重を緩和することが可能となる。従って、支承装置2の許容支圧応力を高めることができる。
【0027】
また、上部収容凹部32及び下部収容凹部42内での弾性層5の内部応力を硬質部材6で分散することで、大きな荷重を緩和することを可能とし、支承装置2の許容支圧応力を高めることができる。また、弾性層5の局部的なひずみを抑え、疲労耐久性を高めることもできる。
【0028】
また、上下方向に圧縮された弾性層5が上部支持部材3及び下部支持部材4の縁部から側方に膨出するのを抑えることで、弾性層5の局部的なひずみを抑え、疲労耐久性を高めることができる。
【0029】
また、硬質部材6が弾性層5を介して上部収容凹部32及び下部収容凹部42に係合することで、下部支持部材4に対する上部支持部材3の水平方向への移動を規制できる。しかも、上部支持部材3,下部支持部材4,及び硬質部材6の剛性を調整することで、上部支持部材3が下部支持部材4に対し水平方向に移動する際に加えられる水平荷重を緩和できる。
【0030】
また、上部収容凹部32及び下部収容凹部42の断面形状を傾斜面を備えた台形に形成し、弾性層5の断面形状をこれに対応した傾斜面を備えた方形に形成することで、上部収容凹部32と下部収容凹部42とで囲まれる領域に配置された箇所で弾性層5の隅部での応力集中を緩和することができる。
【0031】
なお、上記実施形態では、本発明の支承装置2を固定支承構造1に適用した場合について説明したが、可動型の支承構造1に適用しても良い。また、上沓13及び下沓16の上部構造11及び下部構造14への固定方法も任意である。例えば、上沓13は、ソールプレート12を介さずに上部構造11に直接固定されてもよい。また、下沓16は、沓座モルタル15を介さずに下部構造14に直接固定されてもよい。
【0032】
また、上記実施形態では、下部支持部材4が上部内孔31と対向する位置に下部内孔41を備えている場合について説明したが、下部内孔41を備えない構成としてもよい。また、上部支持部材3が上部内孔31を備えない構成としてもよい。また、弾性層5のみが円環状に形成されていてもよい。これらの場合、下部構造14側に固定された部材を上沓13の上面に当接させることで、上沓13の上方への移動を規制することができる。なお、PTFE(四ふっ化エチレン)等を用いたすべり支承構造1では、すべり面を一面の平滑面とするために、上部支持部材3が上部内孔31を備えない構成とするのが好ましい。
【0033】
また、上部支持部材3の下面及び下部支持部材4の上面は、少なくとも一方の外周縁部及び内周縁部がテーパー状に形成されていればよい。また、上部支持部材3の下面及び下部支持部材4の上面は、外周縁部又は内周縁部の何れか一方がテーパー状に形成されていてもよい。また、上部支持部材3の下面及び下部支持部材4の上面が、テーパー状に形成されていなくてもよい。また、上部支持部材3と下部支持部材4との間の間隙が内周縁及び外周縁にかけて漸増するのであれば、上部支持部材3及び下部支持部材4内周縁及び外周縁の形状は任意であり、上記実施形態での構成には限定されない。
【0034】
また、弾性層5は、上部支持部材3と下部支持部材4との間に介在していればよく、上部支持部材3及び下部支持部材4の外周面を覆っている必要はない。また、上部収容凹部32,下部収容凹部42,及び硬質部材6の断面形状も任意であり、例えば、図4に示す支承装置2のように傾斜面を備えていなくてよい。
【0035】
また、弾性層5は、上部収容凹部32と下部収容凹部42とで挟まれた箇所と他の箇所とでは異なったゴム材料が用いられてもよい。また、上部収容凹部32と下部収容凹部42とで挟まれた箇所は、上部支持部材3及び下部支持部材4と接着されていなくても、硬質部材6と接着されていなくてもよい。例えば、上部収容凹部32と下部収容凹部42とで挟まれた箇所に、注入後硬化するウレタンゴムや高粘度のオイルや高分子材料が封入されて、弾性層5が構成されていてもよい。
【0036】
また、上部支持部材3と下部支持部材4との間の間隙に位置した弾性層5の周面は、耐候性を高めるためにEPDM等で覆った外皮構造としてもよい。また、上部支持部材3,下部支持部材4,及び硬質部材6は、SS(一般構造用圧延鋼材)材やSM材(溶接構造用圧延鋼材)等の鋼材を切削機械加工,鍛造加工等して製造するのが好適であるが、これらの材質及び製造方法は任意であり、FCD材(球状黒鉛鋳鉄材)を鋳造加工して製造してもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 支承構造
11 上部構造
12 ソールプレート
13 上沓
13a 嵌合凹部
13b ピン挿通孔
13c ピン
14 下部構造
15 沓座モルタル
16 下沓
16a 嵌合凹部
16b ネジ孔
17 アンカーボルト
18 セットボルト
2 支承装置
3 上部支持部材
31 上部内孔
32 上部収容凹部
4 下部支持部材
41 下部内孔
42 下部収容凹部
5 弾性層
6 硬質部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部支持部材と下部支持部材との間に弾性層が介在した支承装置であって、
前記上部支持部材の下面に形成されて環状に延びた収容凹部と、
前記下部支持部材の上面の前記収容凹部と対向する位置に形成されて環状に延びた収容凹部と、
前記弾性層に埋設されて前記上部支持部材及び前記下部収容部材の前記収容凹部内に配置された環状の硬質部材と、
前記上部支持部材及び前記下部支持部材の少なくとも一方に形成されて、前記収容凹部に周囲を囲まれた内孔とを備えることを特徴とする支承装置。
【請求項2】
前記上部支持部材と前記下部支持部材との間の間隙が内周縁及び外周縁にかけて漸増することを特徴とする請求項1に記載の支承装置。
【請求項3】
上沓と下沓との間に請求項1又は2に記載の支承装置を配置したことを特徴とする橋桁の支承構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−32662(P2013−32662A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169953(P2011−169953)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000220147)東京ファブリック工業株式会社 (42)
【Fターム(参考)】