説明

支柱の固定構造とその構築方法

【課題】 構造が単純で施工コストが低いにもかかわらず、堅牢で再構築も行いやすいパイプ支柱の固定構造を提供する。
【解決手段】 主アーチ構成パイプ41の先端柱脚部43を打込んだ後、当該主アーチ構成パイプ先端柱脚部43のハウス桁方向側部に隣接して補助パイプ42を打込み、その後自在クランプ44を用い、両者を地表部で一体的に固定する。
補助パイプ42は、主アーチを構成するパイプ41の先端柱脚部43に隣接し、かつ負荷がかかる方向に垂直な方向に自在クランプ44を用いて固定されているので、地中埋設部での負荷方向への対向面積が増大し、地盤に対する抵抗モーメントが大きくなって、支柱の倒れ、傾斜変形が抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニールハウス等、骨組みをパイプ材で構成したパイプハウス支柱の地中での固定構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨組みをパイプ材で構成したビニールハウス等では、例えば図1に示すように、アーチ状に湾曲させた複数本の主アーチ11を桁方向に平行に並設し、その両端を地中に打込み、或いは埋め込んで固定している。そして、複数の主アーチ11と桁方向に配置される肩用直管12や外母屋13との交差部が連結金具で固定されている。
なお、図1中、14は根がらみ、15は補助アーチである。また、16は側筋かい、17は屋根筋かいである。
【0003】
このような骨組みをパイプ材で構成したビニールハウス等にあって、主アーチ11の先端を単に打込んだだけでは、強風を受けたときにぐらついてハウスが変形したり、抜けてハウスが倒壊したりする恐れがある。このため、主アーチ11の打込み深さを深くしたり、例えば特許文献1に見られるように、主アーチを構成するパイプ材の先端21を地中で固定するために、コンクリート製の基礎22を施工し、この基礎22にパイプの先端21を固定し、掘削した孔23に埋めたりすること(図2参照)が一般的である。
【0004】
また、特許文献2には、図3に示すように、支柱31の下端に支柱とほぼ直角に水平板32を固定してあり、しかも支柱31の側面に半径方向に立てて固定した羽根板33の下端を前記の水平板32に連結固定してなる支柱31を用い、前記支柱31の前記羽根板33を含む部分を地中に掘った縦孔に挿入し立てた状態で、前記水平板32の上を埋め込んだ支柱31の固定構造が提案されている。なお、図3中、34は、主アーチを構成するパイプの先端を挿入してピン等で固定するためのピン挿通孔である。
【特許文献1】特開平11−187773号公報
【特許文献2】特開2003−259742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、打込み深さを深くしても、施工性が悪くなるだけで、補強効果はさほど期待できない。特許文献1に見られるようなコンクリート基礎22を用いた固定構造は、堅牢ではあるが、掘削の手間やコンクリートの養生に時間を要する点で施工性に難があり、コスト高となってしまう。またパイプハウスの再構築が行い難い。
特許文献2で提案された固定構造も、施工に手間がかかる。例えば、主アーチの先端に水平板や羽根板を溶接等で固定する必要があるため、現実には同特許文献にも記載されているように、地中で固定される支柱部は主アーチとは別体に製造される。支柱部を地中に掘った孔内に挿入・埋め込んだ後に、当該支柱部の上端に主アーチ部を連結することになる。堅牢ではあるが、特許文献1の技術と同様、コスト高となってしまう。また、パイプハウスの再構築には支柱部を掘り起こす必要があり、再構築の施工性も良くない。
【0006】
特許文献2で提案されているような複雑形状の固定部材ではなく、単純形状の根かせをパイプの先端に設け、地中に埋め込むことも行われているが、根かせの取付け,孔の掘削及び埋め戻しの作業を必要とするために、施工性が悪く、コスト高となってしまう。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、構造が単純で施工コストが低いにもかかわらず、堅牢で再構築も行いやすいパイプ支柱の固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の支柱の固定構造は、その目的を達成するため、地中に打込んだ支柱を固定する構造であって、先端柱脚部が地中に打込まれた主アーチ構成パイプと、該主アーチ構成パイプ先端柱脚部のハウス桁方向側部に隣接して打込まれた補助パイプと、該補助パイプ及び前記主アーチ構成パイプ先端柱脚部を地表部で一体に固定する自在クランプとからなることを特徴とする。
その固定構造は、主アーチ構成パイプの先端柱脚部を地中に打込んだ後、該主アーチ構成パイプ先端柱脚部のハウス桁方向側部に隣接して補助パイプを打込み、その後自在クランプを用いて前記補助パイプ及び前記主アーチ構成パイプ先端柱脚部を地表部で一体的に固定することにより構築される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の支柱の固定構造は、単純な構造により高い固定強度が得られるため、構築が極めて容易に行えるばかりでなく、軟弱地盤にも適用できる。しかも、自在クランプを外し、両パイプを引き抜けば再構築も極めて容易に行える。
したがって、堅牢なパイプハウスが極めて低コストで構築できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者等は、堅牢で再構築も行いやすいパイプ支柱の固定構造について、種々検討を重ねてきた。
ビニールハウス等、骨組みをパイプ材で構成したハウスにおいて、構築物として維持していく際に最も障害となるのが風雨、特に強風である。強風の影響でビニール等のシート,フィルムが破損されることもあるが、強風により構築物としての骨格が変形させられた場合の方が、構築物としての被害は大きくなる。また積雪により骨格が変形させられたときも同様である。
【0010】
ところで、桁方向に長手状に構築されたビニールハウス等の構築物にあって、横風を受けたとき、或いはシートやフィルム上に雪が積もったとき、シートやフィルムを固定している支柱には、引張応力,圧縮応力及び曲げモーメントが負荷としてかかる。
支柱の変形抑制は、負荷がかかる方向に関係なく必要であり、地中埋め込みパイプハウス安全構造基準では各部の変形限度を、柱の倒れはh/35以下、軒のたわみはL/60以下と定めている。ただし、上記変形限度におけるh及びDは、図4に示すように、それぞれパイプハウスの柱の高さ及び間口の広さである。
そして、図4に見られるような妻側からの風圧等、桁方向水平力による変形は、壁面及び屋根面に設けた側筋かい及び屋根筋かい(図1中の16及び17)により抑制することができるが、桁側からの妻方向水平力による変形に対しては、妻方向に筋かいを設けることができないために抑制し難く、構築物としては妻方向へ変形しやすくなる。
すなわち、妻方向への変形抑制策を検討する必要がある。
【0011】
一般的に、支柱を一本の鉛直な棒体と想定したとき、水平方向の負荷に耐え、棒体の倒れを抑制するためには、棒体の地中埋設部の負荷方向への対向面積を増やし、抵抗モーメントを大きくすることが有効である。主アーチを構成するパイプ材の基本断面は円形であるので、支柱そのもので地中埋設部の負荷方向への対向面積を増やすことはできない。そこで、図5に示すように、主アーチを構成するパイプ材41の他に、補助パイプ42を、主アーチを構成するパイプ材の先端柱脚部43に隣接して、しかも、負荷がかかる方向に垂直な方向に打込んで、自在クランプ44を用いて両者を固定しておけば、地中埋設部での負荷方向への対向面積が増大し、地盤に対する抵抗モーメントが大きくなって、支柱の倒れ、傾斜変形が抑制できることを見出したものである。
【0012】
本発明の支柱の固定構造について、まずその構築方法から説明する。構築するパイプハウス等の構築物は、基本的には図1に示したものと同形のものである。
図6に示すようなアーチ状に湾曲させた主アーチ41を構成するパイプの先端柱脚部43の近傍に、打込み用の単クランプ45を固定する。単クランプ45上に打込み用の治具46を載置し、この打込み用の治具の上から打込み機47を当て主アーチパイプの先端柱脚部43を所定の深さまで打込む(図6の(a))。単クランプ45は、主アーチパイプの打込み後、取り外す。
【0013】
次に、主アーチ構成パイプの先端柱脚部43に隣接し、当該先端柱脚部のハウス桁方向側に隣接した位置に補助パイプ42を、ハンマー48等を用いて打込む(図6の(b))。補助パイプ42としては、主アーチ構成パイプ41と同材質、同径の短尺材を用いることができる。抵抗モーメントを大きくする意味では、先端を平らに変形させたパイプを、平らな面をハウスの桁方向と平行になるように打込むことも効果的である。2本の補助パイプを主アーチ構成パイプの両側に打込むことも有効である。
【0014】
さらにその後、自在クランプ44を用い、両者を地表部で一体的に固定することにより、図5で示したような固定構造が構築される。
自在クランプとしては、昭和56年労働省告示第103号鋼管足場用の部材及び附属金具の規格第66条に規定されているものを用いる。その構造の一例を図7に示す。本体71内に挿入したパイプ(図示せず)を、ふた72とボルト73及びナット74で固定するものである。75はピンである。なお、図7は、2本のパイプを交差して緊結する形態になっているが、本発明で主アーチ構成パイプの先端柱脚部と補助パイプを固定する際には、左右の本体部を回転させ、平行にして用いる。
【0015】
上記の態様で所定数の主アーチ構成パイプの先端柱脚部及び補助パイプを所定個所に打込み、自在クランプで固定した後、図8に示すように、常法通り、桁方向に配置される肩用直管47や外母屋48、或いは補助アーチ49を取付け、それらの交差部を連結金具で固定することにより、堅牢なパイプハウスを構築する。なお、図8中、50は根がらみである。
【0016】
自在クランプ46で固定された主アーチ構成パイプ先端柱脚部43と補助パイプ42とは、パイプハウスの妻方向の接地面積を増すため、地盤抵抗モーメントが大きくなって主アーチ構成パイプの妻方向への傾倒が抑制される。
この補助パイプの効果を確認するために、以下のような傾倒試験を行った。
【0017】
主アーチ構成パイプを模してφ48.6mm×長さ2500mmの鋼管を試験体とし、φ48.6mm×長さ1000mmの鋼管を補助パイプとして用いた。
同径の鋼管を用いて、図9に示すような簡易試験構造体を構築した。
そして、補助パイプを用いた場合と用いなかった単管の場合とで、水平方向の力がかかったときの傾倒状況の違いを観た。なお、地中押し込み深さは両パイプとも700mmとし、補助パイプを用いた場合には、補助パイプの上端から50mm及び250mmの2箇所で自在クランプ62による固定を行った。
【0018】
加圧は支持体63に取付けたワイヤーロープ64と砂袋65で行い、滑車66を用いて鉛直方向の力を水平力に変換して試験体61に加えた。なお、変換効率による荷重低下を考慮し、実際に作用している水平力をバネばかり67で確認した。
水平力の付加は地上1500mmの位置で行い、水平力付加時の変位量は地上1400mmの位置で、支持体68との間の変位量を変位計69により計測することで測定した。
水平力付加条件は、予備荷重10kgを掛け1分後に除荷した後、本荷重として10kgずつ増加させた。そして本荷重の増加の都度1分経過後に荷重実測値をバネばかり67で測定するとともに、その時点での変位量を変位計69で測定した。
【0019】
その結果を図10に示す。
なお、参考とするために、基礎石(コンクリート)付き単管支柱についても同様の傾倒試験を行った。その結果も併せて図に示す。
【0020】
図10の結果からもわかるように、本発明の固定構造(図中×印)は、単純な構造により、従来の構造(図中△印)と比べて約2倍の傾倒耐力を有している。また、基礎石付き単管支柱(図中●印)と比べても、優れた傾倒耐力を有している。
このように本発明の支柱固定構造は、単に、補助パイプと自在クランプを用いることのみで堅牢なパイプハウスが構築できるばかりでなく、自在クランプの開放と補助パイプの引き抜きにより資材の再利用も可能になるため、パイプハウスが結果的に低コストで構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一般的なパイプハウスの構造を説明する図
【図2】従来の支柱固定構造を説明する図
【図3】従来の他の支柱固定構造を説明する図
【図4】パイプハウスに加わる各方向からの負荷を説明する図
【図5】本発明の支柱固定構造を説明する図
【図6】本発明の支柱固定構造を構築する手順を説明する図
【図7】緊結金具の構造を説明する図
【図8】本発明の支柱固定構造を採用したパイプハウスの構造を説明する図
【図9】支柱の傾倒試験方法を説明する図
【図10】傾倒試験による水平荷重と傾倒変位量の関係を説明する図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に打込んだ支柱を固定する構造であって、先端柱脚部が地中に打込まれた主アーチ構成パイプと、該主アーチ構成パイプ先端柱脚部のハウス桁方向側部に隣接して打込まれた補助パイプと、該補助パイプ及び前記主アーチ構成パイプ先端柱脚部を地表部で一体に固定する自在クランプからなることを特徴とする支柱の固定構造。
【請求項2】
主アーチ構成パイプの先端柱脚部を地中に打込んだ後、該主アーチ構成パイプ先端柱脚部のハウス桁方向側部に隣接して補助パイプを打込み、その後自在クランプを用いて前記補助パイプ及び前記主アーチ構成パイプ先端柱脚部を地表部で一体的に固定することを特徴とする地中に打込んだ支柱の固定構造構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−223157(P2006−223157A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39619(P2005−39619)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(397072695)平林物産株式会社 (9)
【出願人】(592260572)日新鋼管株式会社 (26)
【Fターム(参考)】