説明

改善されたキャパシタ性能のための誘電性流体

特定のアントラキノン化合物およびスカベンジャの組み合わせを含み、キャパシタの装置故障への改善された耐性を与える誘電性流体。該誘電性流体を含むキャパシタは、該組み合わせを含まずに作られたキャパシタと比較して、高い放電開始電圧を有することができ、また改善された故障閾値電圧を有することができる。従って、これらのキャパシタは故障に対してより耐性がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
この出願は、2007年10月18日出願の米国仮特許出願第60/981041号に対して、米国連邦法規類集第35巻第119条第e項に基づく優先権の利益を主張し、その出願の内容をここにその全てを参照によって組み込む。
【0002】
本発明は、包括的には誘電性流体用の組成物に関する。より詳細には、本発明は、故障への改善された耐性を有するキャパシタの誘電性流体用の組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
キャパシタは電気的装置であり、電荷を蓄えるために用いることができる。キャパシタは、ポリマー膜のような非導電性材料によって隔てられた導電性プレートを含んでいる少なくとも1つのキャパシタパックを含むことができる。この導電性プレートおよび非導電性材料は巻かれていて巻物を形成していてもよい。この巻物は、ケーシング、例えば金属もしくはプラスチックの筐体の内部に収容されていてもよい。このケーシングは巻物を環境から保護し、また電気的に隔離する。力率補正キャパシタにおいては、この巻物は通常は誘電性流体中に浸漬されている。この誘電性流体は、絶縁材料として働いて、キャパシタのプレート間の空間における部分的な荷電の絶縁破壊を防止する。もしもこれらの空間が、適切な誘電性材料で満たされていなければ、部分的な放電が電気的ストレスによって発生し、装置の故障をもたらす可能性がある。
【0004】
装置の故障を回避するための従来の技術は、キャパシタの設計仕様を最適化することであり、例えば、キャパシタに課される電気的ストレスの設計対象を低下されること、および/またはキャパシタ内部のポリマー膜の厚さを最適化することによるものである。しかしながら、キャパシタの設計仕様の変更は、装置の機能性を制限し、装置の大きさを増大させ、および/または装置の製造のための費用を高くする。従って、当技術分野では、装置の故障を回避し、前記の欠陥の1つもしくはそれ以上を克服する代替の技術への継続した要求が存在している。設計仕様を変更することなく、および/または装置の大きさを増大させることなく、部分的な放電または荷電の絶縁破壊への増大された耐性を備えた改善されたキャパシタを提供することが望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、部分的な放電または荷電の絶縁破壊への改善された耐性を備えた誘電性流体を提供することである。
【0006】
上記の議論は、当該技術が直面する問題の性質のよりよい理解を提供するためにのみ示したものであり、従って本出願に対しての従来技術であると容認したものとは決して理解されてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
キャパシタにおける装置故障への改善された耐性を与える誘電性流体は、特定のアントラキノン化合物およびスカベンジャの組み合わせを含んでいる。特に、本発明の誘電性流体は、高温の周囲温度における装置の故障の可能性を低減し、他の温度範囲における性能を犠牲にはしない。この誘電性流体を含むキャパシタは、この組み合わせを含まないキャパシタと比較して、より高い放電開始電圧を有することができ、また高い故障閾値電圧を有することができる。従って、これらのキャパシタは、特定の故障に対してより耐性がある。
【0008】
本発明の1つの例示的な態様では、誘電性流体はβ−メチルアントラキノンおよびエポキシドを含んでいることができる。この誘電性流体は、(i)約0.1〜約3質量%、好ましくは約0.3〜約0.8質量%、より好ましくは約0.3〜約0.6質量%、そして最も好ましくは約0.35〜約0.5質量%のβ−メチルアントラキノン、および(ii)約0.1〜約1質量%、好ましくは約0.5〜約0.9質量%、およびより好ましくは約0.6質量%のエポキシド、含んでいることができる。
【0009】
本発明の他の例示的な態様では、エポキシドの量は、β−メチルアントラキノンの量に対して、約1〜約10、通常は約1.0〜約3.0、好ましくは約1.2〜約2.8、そしてより好ましくは約1.8〜約2.5の比率である。あるいは、エポキシドの量は、β−メチルアントラキノンの量に対して、約1.5〜約1.7の比率であることができる。
【0010】
本発明のこれらの態様および他の態様、目的ならびに特徴は、以下の例示的な実施態様の詳細な説明を参照し、添付の図面と共に読み、また図面を参照することによって、よりよく理解されるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明の例示的な実施態様についての下記の記載では、ここで用いられる用語は、他に規定されない限り、当技術分野における通例の、および慣習的な意味を有していることが理解されなければならない。ここで参照される全ての質量%は、他に規定されない限り、誘電性流体の総組成物の質量%として与えられる。
【0012】
本発明は、誘電性流体へのアントラキノン化合物、そして特定のアントラキノン化合物とスカベンジャの組み合わせを含む添加剤が、誘電性流体の誘電特性を、特に高温の周囲温度において、向上させるという発見を基にしている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は例示的な実施態様によるキャパシタの透視図である。
【図2】図2は例示的な実施態様による図1に示したキャパシタのキャパシタパックの透視図である。
【図3】図3は、β−メチルアントラキノン(「BMAQ」)を含む誘電性流体を充填したミニキャパシタおよび、BMAQを含まない対照の誘電性流体を充填したミニキャパシタについての、室温および高温での絶縁破壊が発生する、定格AC電圧に対するパーセントを示している。
【図4】図4は、BMAQを含む誘電性流体またはBMAQを含まない対照の誘電性流体のいずれかを充填したミニキャパシタが、−40℃において、定格電圧の130%のDC電圧に耐える時間(分間)を示している。
【図5】図5は、異なる設計のミニキャパシタであって、BMAQを含む誘電性流体またはBMAQを含まない対照の誘電性流体のいずれかを充填し、そして高温で養生し、また作動させたミニキャパシタの、キロボルトでの平均DC絶縁破壊電圧を示している。
【図6】図6は、異なる設計のミニキャパシタであって、BMAQを含む誘電性流体またはBMAQを含まない対照の誘電性流体のいずれかを充填し、そして高温で養生し、また作動させたミニキャパシタの、キロボルトでのACおよびDC絶縁破壊電圧を示している。
【図7】図7は、BMAQを含む誘電性流体またはBMAQを含まない対照の誘電性流体のいずれかを充填し、そして異なる条件で養生し、また室温もしくは75℃で作動させたミニキャパシタの、キロボルトでのDC絶縁破壊電圧を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
このような高温の周囲温度としては、室温より高いいずれかの温度を含むことができる。例えば、高温の周囲温度は、40℃以上、55℃以上、60℃以上、65℃以上、または75℃以上であることができる。特に、これらの添加剤は、部分的放電または誘電性DC絶縁破壊への耐性の向上を与える。部分的放電または荷電の絶縁破壊への耐性は、放電開始電圧(DIV)またはDC電圧への抵抗能力を基に定量化することができる。更に、これらの添加剤の添加は、他の温度範囲においては誘電性流体の性能を著しくは犠牲にしないことが観察された。
【0015】
1つの添加剤はアントラキノン化合物である。アントラキノン化合物としては、例えばβ−メチルアントラキノン(CAS番号84−54−8)またはβ−クロロアントラキノン(CAS番号131−09−9)を挙げることができる。例示的な実施態様では、誘電性流体は、以下に示す式Iの構造を有する、β−メチルアントラキノン(「BMAQ」)を含んでいる
【0016】
【化1】

【0017】
BMAQは、シグマルドリッチ(Sigma Aldrich)およびAlfa Aesar/Avacadoを含む多くの商業的販売会社から、約95%〜約99%の純度の粉末として、商業的に入手可能である。誘電性流体は、BMAQを、約0.1〜約3質量%、好ましくは約0.3〜約0.8質量%、より好ましくは約0.3〜約0.6質量%、そして最も好ましくは約0.35〜約0.5質量%で含むことができる。あるいは、誘電性流体は、BMAQを、約0.4〜約0.8質量%、好ましくは約0.4〜約0.6質量%で含むことができる。例えば、BMAQは誘電性流体中に、約0.5質量%で存在することができる。他の例示的な実施態様では、BMAQは、誘電性流体中に約0.4質量%で存在することができる。
【0018】
他の添加剤はスカベンジャである。このスカベンジャは、キャパシタを作動させる間にキャパシタ内部で放出もしくは生成される分解生成物を中性化することができる。このスカベンジャはまた、キャパシタの有効寿命を向上させることができる。スカベンジャとしては、エポキシド化合物を挙げることができ、好ましくは通常以下の構造(式II)を有するジエポキシドを挙げることができる。
【0019】
【化2】

【0020】
適切なエポキシド化合物の例としては、1,2−エポキシ−3−フェノキシプロパン、アジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)、(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボン酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、アジピン酸ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)、4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、などの化合物が挙げられる。1つの例示的な実施態様では、スカベンジャは脂環式のエポキシ樹脂であり、例えば、アジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロへキシル)(ダウケミカル社(Dow Chemical Co.)からERL−4299の名称で市販されている)、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(ダウケミカル社(Dow Chemical Co.)からERL−4221の名称で市販されている)および3,4−エポキシシクロへキシルカルボン酸(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチル,(CAS番号2386−87−0)(ダイセル化学工業株式会社(Daicel Chemical Industries, Ltd.)からCelloxide2021Pの名称で市販されている)が挙げられる。
【0021】
本発明の他の例示的な実施態様によれば、BMAQおよびエポキシドを、部分的な放電またはDC絶縁破壊への耐性を、特に高温の周囲温度において向上させるための添加剤として含む誘電性流体が提供される。これらの添加剤は、いずれかの適切な誘電性流体中に含まれることができる。好ましくは、この誘電性流体は、少なくとも1種の芳香族炭化水素、例えばベンジルトルエン、1,1−ジフェニルエタン、1,2−ジフェニルエタン、ジフェニルメタン、1,フェニル−1−(3,4−キシリルエタン)、ポリベンジル化トルエンなどを含んでいる。この誘電性流体は、低粘度および低蒸気圧を有することができる。
【0022】
1つの実施態様では、この添加剤はベンジルトルエン、ジフェニルエタンおよびジフェニルメタンを含む誘電性流体に添加することができる。ベンジルトルエンとしては、オルトモノベンジルトルエン、メタモノベンジルトルエン、パラモノベンジルトルエンまたはそれらの組み合わせを挙げることができる。ベンジルトルエンは、通常は誘電性流体の約15〜約65%を構成する。1つの実施態様では、ベンジルトルエンは誘電性流体の約15〜約40%を構成することができる。他の実施態様では、ベンジルトルエンは誘電性流体の約52〜約65%を構成することができる。特には、ベンジルトルエンは誘電性流体の60.9%を構成することができる。あるいは、ベンジルトルエンは誘電性流体の約36〜約50%を構成することができ、そして特には45%を構成することができる。
【0023】
ジフェニルエタンとしては、1,1−ジフェニルエタンおよび1,2−ジフェニルエタンを挙げることができる。通常は誘電性流体は約33〜約85%のジフェニルエタンを含んでいる。1つの実施態様では、誘電性流体は約50〜約60%のジフェニルエタンを含むことができる。この実施態様では、誘電性流体は特には53.1%のジフェニルエタンを含むことができる。更に、誘電性流体は、約5質量%未満の1,2−ジフェニルエタンを、好ましくは約0.1〜約5質量%の1,2−ジフェニルエタンを、より好ましくは約0.1〜約3質量%の1,2−ジフェニルエタンを、最も好ましくは約0.1〜0.5質量%の1,2−ジフェニルエタンを含むことができる。他の実施態様では、誘電性流体は約60〜約85%のジフェニルエタンを含むことができる。好ましくは、誘電性流体は、約60〜80%の1,1−ジフェニルエタンおよび約0.1〜約5%の1,2−ジフェニルエタンを含むことができる。他の実施態様では、誘電性流体は、約33〜約44%の1,1−ジフェニルエタンおよび約0.1〜約2%の1,2−ジフェニルエタンを含むことができる。1つの好ましい実施態様では、誘電性流体は、35.4%の1,1−ジフェニルエタンおよび1.2%の1,2−ジフェニルエタンを含むことができる。
【0024】
ジフェニルメタンは、通常は誘電性流体の約0.1〜約5%を構成する。より好ましくは、ジフェニルメタンは、誘電性流体の約0.1〜約4%を構成することができる。1つの例示的な実施態様では、ジフェニルメタンは、誘電性流体の約0.1〜約2%を構成することができる。好ましい例示的な実施態様では、ジフェニルメタンは、誘電性流体の1.2%を構成することができる。あるいは、誘電性流体は0.8%のジフェニルメタンを含むことができる。
【0025】
本発明の例示的な実施態様によればこの添加剤は、慣用の誘電性流体に添加することができる。例示的な適切な慣用の誘電性流体は、ニッセキケミカルテキサス社(Nisseki Chemical Texas, Inc.)から、SAS−40、SAS−60、SAS−60EおよびSAS−70、SAS−70Eの名称で商業的に入手可能である。更に、他の例示的な適切な慣用の誘電性流体は、クーパーインダストリー社(Cooper Industries, Inc.)から「Edisol ST」、「Edisol XT」および「Envirotemp」の商標名で、アルケマカナダ社(Arkema Canada Inc.)からJARYLEC(登録商標)C−100の商標名で商業的に入手可能である。
【0026】
本発明の例示的な実施態様による誘電性流体は、いずれかの種類の誘電装置、例えばキャパシタおよび変圧器に充填するのに用いることができる。好ましくは、本発明の誘電性流体は誘電キャパシタ中で用いることができる。より好ましくは、本発明の誘電性流体は、交流(AC)キャパシタ中で用いることができる。誘電キャパシタは、いずれかの適切な設計特性を有することができる。以下に与えられる例においては、キャパシタは2または3のいずれかの誘電体層を含んでおり、それぞれが1.2ミル(30.5μm)の総厚さを有している。しかしながら、当業者は、本発明の誘電性流体はいずれかの適切な設計のキャパシタを満たすのに用いることができ、またここで与えられる例示的なキャパシタの設計特性に限定されないことを理解するであろう。このキャパシタが高温の周囲温度での作動に適切であることもまた好ましい。図1を参照すると、キャパシタ10の例示的な実施態様はケーシング11を含んでおり、これはキャパシタパック14を取り囲んでいる。充填管12をケーシング11の上面に配置することができ、これによってキャパシタの内部の領域を減圧下に乾燥することが可能となり、また誘電性流体22をキャパシタに加えることが可能となる。
【0027】
図2を参照すると、キャパシタパック14の例示的な実施態様は、誘電体層17によって隔離された金属箔15,16の巻かれた二つの(2)層を含んでいる。誘電体層17は1層または多層で構成されていてもよい。箔15、16は、誘電体層17に対してずれており、また互いに対してずれていて、パックの上部18において箔15はパックの誘電体層17の上方に延びており、またパックの底部19において箔16は誘電体層17の下方に延びている。
【0028】
図1を参照すると、キャパシタパック14はクリンプ20によって互いに結合されていてよく、それが1つのパックの箔15、16の延びた部分と、隣接するパックの延びた箔との、密接な接触を保持する。箔15、16の延びた部分は、隣接するパックから絶縁することができ、キャパシタ10の中において、パック14の直列の配置を与えることができる。誘電性流体22が管12を通してキャパシタ10に加えられた後に、キャパシタの内部領域を、例えば管12を圧着する(crimp)ことによって、封止することができる。2つの端子13は、リード線(示されていない)によって最終のパックの近くのクリンプに電気的に結合されていてよく、ケーシング11の上面を通して突き出ていることができる。少なくとも1つの端子はケーシング11から絶縁されていてよい。端子13は電気システムに連結することができる。
【0029】
図2を参照すると、箔15、16はいずれかの所望の電気的に伝導性の材料、例えばアルミニウム、銅、クロム、金、モリブデン、ニッケル、白金、銀、ステンレススチール、またはチタンから形成されていることができる。誘電体層17は、ポリマー膜またはクラフト紙で構成されていてよい。ポリマー膜は、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルフォン、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、などのポリマーから作ることができる。箔15,16の誘電体層17の表面は、誘電性流体が、まかれたパックに侵入する、また箔と誘電体層との間の空間に含浸することが可能なように、十分な表面の不規則性または変形を有していることができる。
【0030】
誘電性流体22は、キャパシタを減圧下で乾燥した後にキャパシタに加えることができる。特に、キャパシタパック14を収容したキャパシタケーシング11は、キャパシタ10の内部から水蒸気および他のガスを取り除くのに十分な時間乾燥することができる。500ミクロン未満の圧力が通常は用いられ、100ミクロン未満の圧力を用いても実施される。40時間よりも長い乾燥時間を用いることができるが、しかしながらこの時間は減圧の大きさに依存する。乾燥は、室温よりも高い温度で実施することでき、また通常は100℃未満の温度で行なうことができる。
【0031】
また、誘電性流体22は、キャパシタ10中に導入する前に脱ガスすることができる。流体22は、例えば200ミクロン未満、または100ミクロン未満の圧力で、減圧処理に付すことができる。流体22は、脱ガス過程を援けるために、例えば循環、攪拌または混合によって、かき混ぜることができる。脱ガスの時間は流体22の粘度、減圧の大きさ、および用いられるかき混ぜの種類に依る。通常は、流体22は60℃未満の温度、例えば室温において脱ガスすることができる。
【0032】
脱ガスされた誘電性流体22は、排気されたキャパシタケーシング11中に、管12を通してキャパシタ10に流体22を加えることによって、導入することができる。充填した後に、キャパシタ10の内部に減圧を適用して、パック14中に流体14を染み込ませることができる。12時間以上の染み込ませる時間を用いることができる。陽圧、例えば約0.1〜5.0psig(0.7〜34kPa))を次いでキャパシタ10の内部に、約6時間以上適用して、パック14が流体22に含浸されるのを援けることができる。ケーシング11は次いで封止することができ、例えば幾らかの陽圧を保持することができる。
【0033】
ここに記載された添加剤は、いずれかの適切な方法によって誘電性流体中に混合することができることが予期される。1つの実施態様では、この添加剤は濃縮物の形態で誘電性流体原料中に加えられる。その後、この濃縮物は、キャパシタ内での使用に適切な濃度に再組成することができる。他の実施態様では、それぞれの添加剤の濃縮物が調製されて、そして個々に誘電性流体に加えられ、そして適切な濃度に希釈される。これらの実施態様によって、誘電性流体の商業規模での製造のための添加剤の均一な分配、より堅牢な製造方法、および/またはより容易な調製が可能となる。任意選択の工程として、本発明の添加剤を含む誘電性流体は、いずれかの残留する粒子を取り除くためにろ過することができる。
【0034】
場合によっては、再組成された誘電性流体内部に含まれる添加剤の量は、誘電性流体をキャパシタ中に導入する前に分析し、また検証することができる。例えば、再組成された誘電性流体の試料を、クロマトグラフィーを用いて分析して、その中に含まれる添加剤の濃度を測定することができる。分析の結果が、所望の添加剤濃度と良好に一致していれば、次いで誘電性流体をキャパシタに加えることができる。そうでなければ、誘電性流体を、所望の添加剤濃度が得られるまで、更に混合し、および/または調整することができる。
【0035】
アントラキノンおよびスカベンジャの特定の組み合わせは、誘電性流体中で一緒に混合した場合に、沈殿物を形成することが観察された。例えば、市販の誘電性流体SAS−40(ニッセキケミカルテキサス社(Nisseki Chemical Texas, Inc.))中にBMAQの市販品(Alfa Aesar、97%の純度)を約2%含む溶液は、エポキシドERL−4299(ダウケミカル社(Dow Chemical Co.))を含む誘電性流体中に加えられた時に、固体残渣を形成することが観察されている。しかしながら、この問題は、高水準の純度を備えたBMAQの商業的供給源を用いることにより、および/またはBMAQ濃縮物から、エポキシドを含む誘電性流体中への添加の前に不溶性の混入物をろ過することによって修復することができることが期待される。あるいは、この問題はまた、BMAQ濃縮物を、エポキシドを含む誘電性流体中への添加の前に、クレイ処理することによって修復することができることが期待される。クレイ処理は、絶縁破壊の原因になる極性の混入物を誘電性流体から取り除くための不可逆性の吸収工程である。クレイ処理はBMAQ濃縮物の誘電特性を向上させることができる。アントラキノン化合物、例えばBMAQおよび/またはスカベンジャ、例えばERL−4299の濃縮物中の適切な量は、沈殿物の形成を促進しない水準であることができる。
【0036】
アントラキノン化合物、例えばBMAQおよびスカベンジャ、例えばERL−4299の誘電性流体中の適切な量は、沈殿物の形成を促進しない水準であることができる。例えば、誘電性流体は、約0.1%〜約3%のBMAQを、約0.1%〜約1%のERL−4299とともに含むことができる。1つの例示的な実施態様では、誘電性流体は約0.4%〜約0.8%のBMAQを、約0.5%〜約0.9%のERL−4299とともに含むことができる。他の例示的な実施態様では、誘電性流体は、約0.4%〜約0.6%のBMAQを、約0.5%〜約0.9%のERL−4299とともに含むことができる。好ましい例示的な実施態様では、誘電性流体は、約0.5%のBMAQを、約0.6%のERL−4299とともに含むことができる。
【0037】
スカベンジャ、例えばエポキシドERL−4299、とアントラキノン化合物、例えばBMAQの誘電性流体中の適切な量は、沈殿物の形成を促進しないであろう比率であることができる。例えば、誘電性流体は、ERL−4299とBMAQを、約2〜約10の比率で含むことができる。1つの例示的な実施態様では、誘電性流体は、ERL−4299とBMAQを、約1.0〜約3.0の比率で含むことができる。他の例示的な実施態様では、ERL−4299とBMAQを、約1.2〜約2.8の比率で含むことができる。好ましい例示的な実施態様では、ERL−4299とBMAQを、約1.8〜約2.5の比率で含むことができる。あるいは、誘電性流体は、ERL−4299とBMAQを、約1.5〜約1.7の比率で含むことができる。
【0038】
誘電性流体中でのアントラキノンとスカベンジャの組み合わせは、特にはその装置が、高温で作動された場合に、通常は約55℃超、そしてより典型的には75℃以上の高温で作動された場合に、装置の故障に改善された耐性を与えることができる。この改善は、添加剤の、または誘電性流体の種々の特性における相乗的な改善として現れる。例えば、この組合せは、部分的な放電またはDC絶縁破壊への改善された耐性を与えることができる。部分的な放電または荷電の絶縁破壊への耐性は、放電開始電圧(DIV)またはDC電圧への抵抗能力を基に定量化することができる。
【0039】
放電開始電圧(DIV)は、液体誘電体系の中で電圧を増加させた時に、部分的な放電が発生する閾値電圧を示している。このDIVは、ACキャパシタの主要な制限的設計変数であり、何故ならば、DIV以上の電圧でのキャパシタの作動は、装置の故障を急速に導くからである。通常は、ACキャパシタは、キャパシタに加えられる常規操作電圧が、選ばれた温度、例えば室温もしくは高温の周囲温度において、DIVが操作電圧の180%以上であるように選択されるように設計される。この設計上の制限は、キャパシタが、所望の作動条件下で、損害を与える放電に過剰に曝されることを防止する。従って、誘電性流体のDIVの増加は、装置の信頼性を増大させることができ(言い換えれば、一時的な過電圧のための装置の故障もしくは損傷の可能性を低減し)、および/またはより多くの電気的ストレスに耐性のある改善されたキャパシタを与えることができる。あるいは、または更に、誘電体系のDIVの増加によって、キャパシタの作成における材料のより効果的な使用が可能となり、それは次にはより小さなユニットサイズおよび/またはより低いコストをもたらすことができる。特定の環境では、このより低いコストは、新しい材料による付加的なコストと等しいか、もしくはそれを凌ぐ可能性がある。
【0040】
ここに記載した例示的な実施態様による誘電性流体を含む誘電体系は、室温もしくは高い周囲温度における通常の使用の間に遭遇する電気的ストレスにおいて、誘電体系に部分的な放電への改善された耐性を与えることが期待される。通常の電気的なストレスは、選択した温度におけるキャパシタの作動電圧によって定量化することができる。
【0041】
DC電圧への抵抗能力は、DC用途の下でのキャパシタが耐え得る電気的ストレスの量を定量化する。電気的な放電は絶縁系の誘電特性の劣化をもたらし、また潜在的に装置の故障をもたらす。従って、室温もしくは高温の周囲温度での通常の使用の間に遭遇する電気的なストレスにおいて、誘電性流体へ改善された荷電の絶縁破壊耐性を与えることは望ましい。ここに記載された例示的な実施態様による誘電性流体は、このような改善を提供することができる。
【実施例】
【0042】
ミニキャパシタ
ACからDCへの切り替え試験
アントラキノンおよびスカベンジャの組み合わせの、装置の故障の耐性を向上させる能力を、この組み合わせを含む誘電性流体を有するミニキャパシタを調製することによって、調べた。例示的なミニキャパシタは少なくとも以下の特徴を有していた:1.2ミル(30.5μm)のパッド厚さ、定格2200V、有効領域15インチ、また14〜15nFの静電容量。比較の組成物、実施例1〜4は、それぞれ研究室で小さいバッチで、市販の誘電性流体SAS−40に、テーブル1に従ってBMAQおよびERL−4299(Dow Chemical Co.)を加えることによって、調製したが、但し、対照のA試料にはERL−4299は加えたが、BMAQは加えていない。
【0043】
【表1】

【0044】
1.2ミルのパッド厚さを備えた二つの(2)誘電体層を有するミニキャパシタおよび1.2パッド厚さを備えた三つの(3)誘電体層を有するミニキャパシタを以下のように充填した。
ケーシングを、大気条件下で、室温の真空チャンバー中に置いた。このチャンバーに、25〜30μmHgの範囲の水準で、四(4)日間に亘り真空を適用した。この後、テーブル1の誘電性流体を真空チャンバー中に導入してミニキャパシタを調製した。ミニキャパシタは、ケーシングを誘電性流体で充填する、もしくは含浸させることによって調製した。チャンバー中の真空の水準は、充填もしくは含浸過程の間は、50μmを超えなかった。
【0045】
種々のパックデザインを有するミニキャパシタを作成した。繰り返しの使用に擬するために、ミニキャパシタを、75℃の高温の周囲温度で、1000時間に亘って養生した。試験は、75℃の高温の周囲温度で、誘電性流体およびキャパシタデザインそれぞれについて五つの(5)ミニキャパシタで、部分放電検出器を用いて行い、DIV(その電圧で部分放電が発生する電圧)、および放電消滅電圧(DEV)(その電圧では部分放電がもはや観察されない電圧)を測定した。通常は、部分放電検出器はDIVが検出されるまで、次第に増加する電圧を与える。この電圧は当初は1kV/sの速度で増加し、そして全体の電圧が予測されるDIVに近づいた時に100V/sの速度に低下させる。その後、次第に減少する電圧を、部分放電がもはや検出されなくなるまで適用することができる。
【0046】
この結果は、BMAQを含む誘電性流体で充填された、二つ(2)および三つ(3)の誘電体層を有するミニキャパシタが、損失係数に著しい変化を現さないことを示している。この結果を下記のテーブル2中に与えた。
【0047】
【表2】

【0048】
通常の作動故障条件を擬するために、75℃で1000時間に亘って養生した後に、対照Aおよび実施例1と2のそれぞれについて十個(10)のミニキャパシタならびに実施例3と4のそれぞれについて九個(9)のミニキャパシタを、75℃の周囲温度に維持し、そして高いAC電圧をかけ、またその後DC電圧に曝した。特に、このミニキャパシタに4750VrmsのAC電圧を五(5)分間に亘ってかけ、そして次いで6698VのDC電荷に更に五(5)分間曝した。これらの特定の電圧が選択されたのは、これらの条件下で、対照Aの誘電性流体を充填したミニキャパシタが高い故障率を示したためである。
【0049】
これらの結果は、BMAQを含む実施例1〜4の誘電性流体は、高温において、BMAQを含まない対照Aよりも、装置故障へのよりよい耐性を与えることを示している。これらの組成物の中で、0.4%のBMAQと0.8%のERL−4299を含む実施例4は、対照Aと比較して、装置故障への耐性で、最も顕著な改善を与えた。これらの結果を下記のテーブル3中に与えた。
【0050】
【表3】

【0051】
ステップストレス試験
アントラキノンおよびスカベンジャの組み合わせを含む誘電性流体の、種々の温度下での電気的ストレスに耐える得る能力を、例示的なミニキャパシタを用いて調べた。二つ(2)の誘電体層を有するキャパシタパックを含むミニキャパシタと三つ(3)の誘電体層を有するキャパシタパックを含むミニキャパシタを、ACからDCへの切り替え試験について上述した方法を用いて作った。これらのミニキャパシタを、研究室内で小バッチで調製し、そしてテーブル5に従ってBMAQおよびERL−4299を含む比較組成物、実施例5と6を有する誘電性流体で充填した。対照(対照A)は上記と同じままである。テーブル5中の組成物に用いられた全ての材料は、前述のものと同じである。
【0052】
【表4】

【0053】
1.2ミルのパッド厚さを有する二つ(2)の誘電体層を有するキャパシタパックを含む三つ(3)のミニキャパシタを、対照A、実施例5と6のそれぞれについて作製した。更に、1.2ミルのパッド厚さを有する三つ(3)の誘電体層を有する三つ(3)のミニキャパシタを、実施例5について作製した。これらのミニキャパシタを、室温で一晩中、平衡状態にし、また消勢した(unenergized)。周囲温度を、この試験を通して室温に維持した。ミニキャパシタに電圧をかけ、そして30分間、定格電圧の130%で作動させた。この特定の実施例では、ミニキャパシタの定格電圧は2.64kVであり、また最初のステップは3.43kVであった。ミニキャパシタを、次いで4時間以上に亘って消勢した(de-energized)。消勢の後に、このミニキャパシタに再び電圧を付加し、そして30分間に亘り、10%の増加率(例えば264Vの増加量)(定格電圧の140%である)で作動させた。このミニキャパシタを一晩、消勢した。この消勢/再通電サイクルを10%の増加率(すなわち、定格電圧の150%、160%、170%、180%、190%および200%)で、絶縁破損が発生するまで繰り返した。
【0054】
この結果は、誘電性流体へのBMAQの添加は、室温で養生したミニキャパシタの装置故障への耐性には著しい影響を有していないことを示唆している。室温ステップストレスデータについては、2つの誘電体層および1.2ミルのパッド厚さを有する対照Aのミニキャパシタは、定格電圧の170〜180%の範囲で破損を示した。特に対照Aのミニキャパシタの67%が、定格電圧の170%で故障した。同様の特徴を有し、しかしながら実施例5と6の誘電性流体で充填されたミニキャパシタは、対照Aのミニキャパシタと同様の範囲、特に定格電圧の180%で、故障を示した。しかしながら、BMAQは、室温養生のミニキャパシタの装置故障への耐性のごく僅かの改善を与えることができることが観察された。特に、2つの誘電体層を有し、また1.2ミルのパッド厚さを有し、そして実施例5と6のいずれかで充填されたミニキャパシタの全ては、定格電圧の180%で破損しており、一貫して高い抵抗性を示した。反対に、対照Aの誘電性流体のミニキャパシタは、試験した対照Aのミニキャパシタの33%だけが、定格電圧の180%の故障水準を示した。室温ステップストレス試験のこれらの結果をテーブル6中に示した。
【0055】
【表5】

【0056】
1.2ミルのパッド厚さを有し、そして対照Aの誘電性流体またはBMAQを含む誘電性流体で充填されたミニキャパシタを、ACからDCへの切り替え試験について上記した方法を用いて調製した。試験は、それぞれの誘電性流体およびキャパシタデザインについて、三つ(3)のミニキャパシタに対して室温で行なった。これらのミニキャパシタは、室温で一晩養生した。試験は、これらのミニキャパシタに対して室温で行い、DIVおよび放電消滅電圧(DEV)を測定した。これらの結果は、誘電性流体へのBMAQの添加は、室温におけるいずれの不利益な性能ももたらさないことを示している。これらの結果を下記のテーブル7中にキロボルト(kV)で示した。
【0057】
【表6】

【0058】
二つ(2)の誘電体層を有するキャパシタパックを含む三つ(3)のミニキャパシタを、対照A、実施例5および実施例6のそれぞれについて作製した。更に、三つ(3)の誘電体層を含むキャパシタパックを含む三つ(3)のミニキャパシタを、対照A、実施例5および実施例6のそれぞれについて作製した。これらのミニキャパシタを用いて、第二のステップストレス試験を行なった。これらのミニキャパシタは、75℃の高温の周囲温度で、一晩、平衡状態にし、また消勢した(unenergized)。周囲温度は、第二のステップストレス試験を通して55℃に維持した。このミニキャパシタを、上記の方法を用いて、絶縁破壊が発生するまで、電圧を加え、また消勢した。
【0059】
これらの結果は、誘電性流体へのBMAQの添加は、高温(すなわち75℃)で養生したミニキャパシタを、高温(すなわち55℃)で作動させる場合の装置故障への耐性に改善を与えることを示している。55℃ステップストレスデータについては、1.2ミルのパッド厚さを有する対照Aのミニキャパシタは、定格電圧の180〜190%の範囲内で故障を示した。特に、対照Aのミニキャパシタの67%が、定格電圧の180%で故障したが、一方で対照Aのミニキャパシタの33%が、定格電圧の190%で故障した。実施例5および6の誘電性流体を充填したミニキャパシタは、定格電圧の190〜200%の範囲で故障を示した。特に、これらのミニキャパシタの91%が定格電圧の190%かそれ以上で故障した。特に、0.8%のBMAQおよび0.8%のERL−4299を含み、また3つの誘電体層を有する実施例6は、全ての試験したミニキャパシタ試料について、定格電圧の200%の故障水準を示した。高温のステップストレス試験の結果を下記のテーブル8中に示した。
【0060】
【表7】

【0061】
図3は、室温のステップストレス試験および高温のステップストレス試験の両方で、絶縁破壊が発生する、定格電圧に対するパーセントを示している。室温のステップストレス試験で、絶縁破壊が発生する定格電圧のパーセントは、図の左側に示してあり、一方で高温のステップストレス試験で、絶縁破壊が発生する定格電圧のパーセントは、図の右側に示してある。見て取れるように、0.4と0.8%のBMAQをそれぞれ含む実施例5と6の誘電性流体を充填されたミニキャパシタは、室温および55℃の高い周囲温度において、ERL−4299は含むが、BMAQは含まない対照Aの誘電性流体を充填されたミニキャパシタと比較して、故障への改善された耐性を示した。
【0062】
対照Aの誘電性流体およびBMAQを含む誘電性流体を充填されたミニキャパシタを、ACからDCへの切り替え試験について上記で記載した方法を用いて調製した。これらのミニキャパシタを、75℃の高い周囲温度で、1000時間に亘って養生した。これらのミニキャパシタの試験を、55℃で部分放電検出器を用いて行ない、DIVおよびDEVを測定した。
【0063】
これらの結果は、BMAQを含む誘電性流体を充填されたミニキャパシタは、加えられたBMAQに応じて、55℃の周囲温度において、DIVで4%〜7%の改善が実証されることを示している。また、これらの結果は、BMAQを含む誘電性流体を充填されたミニキャパシタは、加えられたBMAQに応じて、55℃の周囲温度において、DEVで3.0%〜9.1%の改善を示すことを提示している。
【0064】
三つ(3)の誘電体層を有するキャパシタパックを含む三つ(3)のミニキャパシタを、対照Aおよび実施例6のそれぞれについて、ACからDCへの切り替え試験について上記した方法を用いて作製した。第三のステップストレス試験を、これらのミニキャパシタを用いて行なった。これらのミニキャパシタを、室温で一晩、平衡状態にし、また消勢した。周囲温度は、第三のステップストレス試験を通して、−40℃に維持した。このミニキャパシタに電圧をかけ、そして絶縁破壊が発生するまで定格電圧の130%で作動させた。この特定の例においては、ミニキャパシタの定格電圧は2.64kVであり、また初期のステップは3.43kVであった。
【0065】
これらの結果は、BMAQを含む、または含まない誘電性流体を充填したミニキャパシタは、−40℃では、全て、定格電圧の130%で故障することを示している。しかしながら、誘電性流体へのBMAQの添加は、ミニキャパシタが電気的ストレスに耐えることのできる時間の長さを大きく改善した。特に、BMAQを含む誘電性流体を充填されたミニキャパシタは、−40℃において、対照Aの誘電性流体を充填されたミニキャパシタよりも、著しく長い時間、電気的ストレス(すなわち、定格電圧の130%)に耐えることが可能であった。一般には、これらの結果は、誘電性流体への0.8%のBMAQの添加が、−40℃の周囲温度において、ミニキャパシタの装置故障への耐性を大きく改善することを示している。−40℃のステップストレス試験の結果を、時間の範囲として記録し、そして下記のテーブル9中に示した。一般には、実施例6の誘電性流体を充填したミニキャパシタは、定格電圧の130%の電気的ストレスに、対照Aの誘電性流体を充填されたミニキャパシタよりも著しく長い時間耐えた。
【0066】
【表8】

【0067】
また、テーブル9の結果は、図4中にも与えた。対照Aの誘電性流体を充填したミニキャパシタが耐えた時間の長さを図の左側に示し、一方で、0.8%のBMAQを含む誘電性流体を充填したミニキャパシタが耐えた時間の長さを、図の右側に示した。
【0068】
DC絶縁破壊試験
二つ(2)の誘電性層を有し、1.2ミルのパッド厚さを有するキャパシタパックを含む十個(10)のミニキャパシタを、対照Aおよび実施例1、2、5および6のそれぞれについて、ACからDCへの切り替え試験について上記した方法を用いて作製した。更に、三つ(3)の誘電体層を有し、1.2ミルのパッド厚みを有するキャパシタパックを含む三つ(3)のミニキャパシタを、対照Aおよび実施例1、2、5および6のそれぞれについて作製した。高温での繰り返しの使用を擬するために、このミニキャパシタを、75℃の高い周囲温度で、1000時間に亘って養生した。周囲温度は、このDC絶縁破壊試験を通して、75℃に維持した。このミニキャパシタを、絶縁破壊が発生するまで、次第に増加するDC電圧で、電圧を加えた。
【0069】
大幅なずれは見られるものの、これらの結果は、それでもなお、誘電性流体へのBMAQの添加は、高温(すなわち75℃)で養生したミニキャパシタの、同じ高温(すなわち75℃)で作動させた場合のDC絶縁破壊へ、改善された耐性を与えることを示唆している。また、異なる量のBMAQを有する誘電性流体によっても、同様の水準の改善が実証されることが観察された。このDC絶縁破壊の結果を下記のテーブル10に示した。
【0070】
【表9】

【0071】
図5に、このDC絶縁破壊試験の結果を、ボックスプロットで与えた。当業者は、ボックスプロットが、一組のデータの形状、分散および中央についての情報を要約しており、また一組のデータの外れ値であろうデータ点を識別することを可能にさせることを理解するであろう。それぞれの垂直な線の上端は、一組のデータの、第1の四分の一位数(Q1)を表し、一方でそれぞれの垂直の線の下端は第3の四分の一位数(Q3)を表す。垂直の線は、四分位数範囲(IQR)、または一組のデータの中央50%を表す。ボックスを通して引かれた線は、データのメジアンを表す。それぞれの垂直の線の上端から延びる線は、外れ値を除外して、データセット中の、最も高い値まで外側に延びている。同様に、それぞれの垂直の線の下端から延びる線は、データセット中の、最も低い値まで外側に延びている。極値もしくは外れ値は、星印で表される。これらの値は、これらの値がIQRの1.5倍超Q3より大きいか、またはQ1よりも小さいので、外れちと識別される。データが適切に対称であれば、メジアン線が概ねIQRボックスの中央にあり、そしてひげの長さは同じでとなる。もしもデータが歪んでいたら、メジアンはIQRボックスの中央にはならず、また恐らくは一方のひげが他方よりも著しく長いであろう。当業者は、絶縁破壊を評価する場合には、通常は大幅な偏差が観察されることを理解するであろう。しかしながら、データの有意性は、データセットの分布に原因を帰させることができる。見て取れるように、BMAQを含む誘電性流体についてのデータは、対照Aと比較して、母集団全体についてDC絶縁破壊の上昇を示している。
【0072】
第2のDC絶縁破壊試験を、加えるDC電圧を、絶縁破壊が観察されるまで、500V/秒の速度で次第に増加させることによって、行なった。ミニキャパシタは、ACからDCへの切り替え試験について上記した方法を用いて作製した。1ミル(25μm)のパッド厚さを有する十個(10)のミニキャパシタを、対照Aの誘電性流体および比較の組成物、実施例5と7(これらはテーブル11に従ってBMAQおよびERL−4299を含んでいる)のそれぞれで充填した。実施例5Aは、実施例5と同じ量のBMAQおよびERL−4299を含んでいる。しかしながら、実施例5Aは、商業的な製造設備を用いて大きなバッチで調製し、一方で、実施例5は研究室で小さなバッチで調製した。
【0073】
【表10】

【0074】
それぞれの種類のミニキャパシタについての多くの試料から得られたデータの間には多少の偏差が存在するものの、これらの結果を統計学上のt検定を用いて評価し(これはデータの2つの母集団の間の差異の統計学上の有意性を判定するものである)、そして高い確からしさで、誘電性流体への0.4%のBMAQの添加がDC絶縁破壊への耐性を向上させることを示した。第二のDC絶縁破壊試験についての結果を、下記に、それぞれの種類のミニキャパシタの15試料についての平均と標準偏差として、テーブル12中に与えた。
【0075】
【表11】

【0076】
ACおよびDC絶縁破壊試験
ミニキャパシタを、ACからDCへの切り替え試験について上記した方法を用いて作製した。比較の組成物、実施例8〜12を、それぞれ研究室の小さなバッチで、テーブル13に従ってBMAQおよびERL−4299(Dow Chemical Co.)を、SAS−40(市販の誘電性流体)に加えることによって調製したが、但し、対照BにはERL−4299は加えたが、BMAQは加えていない。1ミルのパッド厚さを有するミニキャパシタに、対照Bまたは実施例8〜12のそれぞれを充填した。
【0077】
【表12】

【0078】
高温での繰り返しの使用を擬するために、ミニキャパシタを75℃の高い周囲温度で4376時間に亘り養生した。周囲温度は、ACおよびDC絶縁破壊試験を通して75℃に維持した。対照Bおよび実施例8〜12のそれぞれのミニキャパシタの幾つかは、絶縁破壊が発生するまで、次第に増加するDC電圧で電圧を加え、一方で、対照Bおよび実施例8〜12のそれぞれの他のミニキャパシタは、絶縁破壊が発生するまで、次第に増加するAC電圧で電圧を加えた。
【0079】
これらの結果は、誘電性流体へのBMAQの添加は、高温(すなわち75℃)で養生したミニキャパシタの、同じ高い温度(すなわち75℃)で作動させた場合のDC絶縁破壊への耐性に著しい改善を与えることを示している。これらの試験は、それぞれの組成物に対して三つ(3)のミニキャパシタを用いて3回行ない、またこれらのACおよびDC絶縁破壊試験の結果は図6中に示し、特性値をテーブル14中に与えた。これらの結果は、それぞれの組成物に対して3つのデータ点(kVで)の平均として、標準偏差とともに与えた。
【0080】
【表13】

【0081】
DC絶縁破壊試験
0.8ミル(20μm)および1.2ミル(30μm)のパッド厚さを有するミニキャパシタを、ACからDCへの切り替え試験について上記したのと同様の方法を用いて作製した。比較の誘電性流体組成物:(i)0.8%のERL−4299を含むSAS−40(対照A)、(ii)0.8%のERL−4299を含むSAS−40およびモノベンジルトルエンの当量混合物、および(iii)0.8%のERL−4299および0.5%のBMAQを含むSAS−40(実施例12)を調製した。両方の種類のミニキャパシタを、それぞれの誘電性流体について調製した。
【0082】
他のDC絶縁破壊試験を、室温および75℃の高い周囲温度で行なった。使用における種々の温度範囲を擬するために、1組のミニキャパシタを75℃の高い周囲温度で1000時間に亘り養生し、2組目のミニキャパシタを室温で1000時間に亘り養生し、また3組目のミニキャパシタを室温と75℃の間で循環する温度により、それぞれの条件を1週間に亘って100時間の完全な継続時間のために保持して、養生した。ミニキャパシタのそれぞれの組を、次いで2つの小さな組に分割した。DC絶縁破壊試験を通して、ミニキャパシタの一方の小さな組では、周囲温度は室温に維持し、一方で、ミニキャパシタの他方の小さな組では、周囲温度は75℃の高い周囲温度に維持した。これらのミニキャパシタは、絶縁破壊が発生するまで、次第に増加するDC電圧で電圧を加えた。これらの試験は、それぞれの組成物および条件に対して三つ(3)のミニキャパシタを用いて3回行ない、そしてこれらのDC絶縁破壊試験の結果を図7に示し、1.2ミルのパッド厚さを有するミニキャパシタについて与えられた特性値(kVで)をテーブル15中に示した。これらの結果は、それぞれの組成物および条件の組み合わせについて3つのデータ点の平均として、標準偏差とともに与えた。
【0083】
【表14】

【0084】
AC消勢モデル化
高い周囲温度での繰り返し使用およびキャパシタへのストレスを擬するために、キャパシタを、約65℃の周囲温度において交互のACおよびDCストレスに付した。0.6%のERL−4299を含むが、BMAQを含まないSAS−40を含む対照Bの誘電性流体を充填して10個(10)のミニキャパシタ、および0.6%のERL−4299および0.4%のBMAQを含むSAS−40を含む、本発明の例示的な誘電性流体(実施低13)を充填した10個(10)のミニキャパシタ(それぞれは1.2ミルのパッド厚さを有している)を、この例示的な実施態様のキャパシタのAC消勢を評価するために、作製した。また更に、対照Bを充填された10個(10)のミニキャパシタ、および実施例13を充填された10個(10)のミニキャパシタ(それぞれは0.8ミルのパッド厚さを備えている)を作製した。
【0085】
これらのミニキャパシタを、この試験のために、60℃の高い周囲温度を有するチャンバー中に置いた。これらのミニキャパシタは、電圧を加えられ、そして10分間、2.7kV/ミルのAC電圧で作動させた。これらのミニキャパシタを、次いで消勢した。消勢の後に、ミニキャパシタに再度電圧を加え、そしてキャパシタの定格DC電圧の1.95倍のDC電圧で、10分間作動させた。キャパシタの定格DC電圧は、通常はキャパシタユニットについての二乗平均平方根(RMS)電圧から与えられる。ミニキャパシタは、次いで消勢し、そしてミニキャパシタは電圧を加えて、また2.7kV/ミルのAC電圧で10に亘って作動させた。交互のACおよびDC消勢/再通電サイクルを、24時間に亘って10分間毎に繰り返した。もしも絶縁破壊が発生しなければ、DC電圧をキャパシタの定格DC電圧の2.1倍まで増大させ、そしてACおよびDCストレス消勢/再通電サイクルを、ACストレスを2.7kV/ミルに維持したままで、更に24時間繰り返した。ACおよびDCストレス消勢/再通電サイクルを、全てのミニキャパシタが故障するまで、24時間毎に定格電圧の0.15倍の増加量で、繰り返した。それぞれの故障したミニキャパシタについて、ストレス水準を予め定めたDIV値と比較する試験を行ない、キャパシタの故障は消勢/再通電サイクルによって引き起こされ、そして部分放電によって引き起こされたのではないことを確認した。AC通電モデル化についての結果を下記のテーブル16に与えた。
【0086】
【表15】

【0087】
誘電性流体へのBMAQの添加は、60℃の高温での、定格DC電圧の3倍以上のDCストレスでの、繰り返しのACおよびDC消勢/通電サイクルの下での故障に対する耐性に、著しい向上をもたらした。更に、キャパシタの通常の作動は、故障への耐性についての最も重要な水準は、定格電圧の2.7倍であることを示唆している。上記で示したように、DC電圧ストレスのこの特定の水準において、BMAQを有する誘電性流体を充填されたミニキャパシタは、明らかに故障に対する改善された耐性を示している。特に、0.8ミルのパッド厚さを有し、また定格DC電圧の2.7倍で試験されたミニキャパシタについては、添加剤としてBMAQを含まない誘電性流体を充填されたものは、BMAQを含む誘電性流体を充填されたものよりも、2倍の割合で故障した。更に注目すべきは、1.2ミルのパッド厚さを有するミニキャパシタについては、BMAQを含まない誘電性流体を充填されたミニキャパシタの40%が、定格電圧の2.7倍のDCストレスで故障したが、一方でBMAQを含む誘電性流体を充填されたものは、定格電圧の2.85倍か、もしくはそれ以上のDCストレスに付されるまでは故障し始めなかった。
【0088】
普通サイズのキャパシタ
また、アントラキノンおよびスカベンジャの組み合わせの、装置故障に対する耐性を向上する能力を、この組み合わせを含む誘電性流体を有する普通サイズのキャパシタを調製することによって調べた。例示的な普通サイズのキャパシタに、0.6%のERL−4299を含むが、BMAQを含まない対照Bの誘電性流体、または0.6%のERL−4299および0.5%のBMAQを含むSAS−40を含む本発明の例示的な誘電性流体(実施例14)のいずれかを充填した。他に断らない限り、普通サイズのキャパシタの誘電性流体は、商業的な製造設備を用いて大きなバッチで製造した。しかしながら、普通サイズのキャパシタは、下記のテーブル17に従ってその設計を変更した。
【0089】
【表16】

【0090】
調整試験(Conditioning Tests)
普通サイズのキャパシタの繰り返しの使用に耐えられる能力を調べるために、キャパシタを長時間に亘って種々の電気的なストレスに付した。キャパシタ1の十六個(16)の試料に、0.5%のBMAQおよび0.6%のERL−4299を含む誘電性流体を充填した(実施例14)。キャパシタ1の全ての試料を、キャパシタの完全性を評価するための多くの定常試験に付した。調整試験を始める前に、16個のキャパシタの1つが故障した。実施例14の誘電性流体を充填したキャパシタ1の残った15個の試料に、15kVのAC電圧を60時間に亘って加えた。キャパシタ1の15個の試料の全ては、この調整試験を成功裏に通過し、誘電系の絶縁破壊は発生しなかった。
【0091】
実施例14の誘電性流体を充填したキャパシタ2の六個(6)の試料を50時間に亘って定格電圧の120%のDC電圧に付し、次いで60時間に亘って定格電圧の140%のDC電圧に付した。キャパシタ2の6試料の全ては、この試験を成功裏に通過し、誘電系の絶縁破壊は発生しなかった。
【0092】
実施例14の誘電性流体を充填したキャパシタ3の五個(5)の試料を、50時間に亘って定格電圧の125%のAC電圧に付し、次いで100時間に亘って150%のAC電圧に付した。ただ二個(2)の試料だけがこの試験を成功裏に通過した。1つの試料は、定格電圧の125%の下での4分間の後に故障した。他の試料は定格電圧の125%での50時間および定格電圧の135%での32時間の後に故障した。3番目の試料は、定格電圧の125%のAC電圧に付した時に故障した。
【0093】
−40℃ステップストレス試験
アントラキノンおよびスカベンジャの組み合わせを含む誘電性流体の、低温での電気的ストレスに耐える能力を、普通サイズのキャパシタを用いて調べた。これらのキャパシタは室温にて一晩、平衡状態にし、また消勢した。周囲温度を−40℃ステップストレス試験を通して−40℃に維持した。これらのキャパシタに電圧を加え、そして定格電圧の130%で作動させた。これらのキャパシタを、次いで4時間以上消勢した。消勢の後に、これらのキャパシタに再度通電し、そして10%の増加率(これは定格電圧の140%である)で30分間に亘って作動させた。これらのキャパシタを一晩、消勢した。この消勢/再通電サイクルを、10%の増加率(すなわち、定格電圧の150%、160%、170%、180%、190%および200%)で、絶縁破壊が発生するまで繰り返した。
【0094】
実施例14の誘電性流体を充填されたキャパシタ3の二つ(2)の試料を、−40℃ステップストレス試験に付した。一つ(1)の試料は、定格電圧の160%での6分間後に故障したが、一方で他の試料は定格電圧の150%での5分間後に故障した。
【0095】
実施例14の誘電性流体を充填されたキャパシタ4の二つ(2)の試料を、−40℃ステップストレス試験に付した。一つ(1)の試料は、定格電圧の170%での6分間後に故障したが、一方で他の試料は定格電圧の160%での15分間後に故障した。更に、対照Bの誘電性流体を充填したキャパシタ4の二つ(2)の試料もまた試験した。両方の試料が、定格電圧の170%での6分間の後に故障した。更に、対照Bの誘電性流体で、キャパシタ4の更なる二つ(2)の試料を、研究室内で小バッチで調製した。一つ(1)の試料は、定格電圧の170%での7分間後に故障したが、一方で他の試料は定格電圧の180%での1分間後に故障した。
【0096】
実施例14の誘電性流体を充填したキャパシタ5の二つ(2)の試料を、−40℃のステップストレス試験に付した。一つ(1)の試料は、定格電圧の150%で故障したが、一方で他の試料は定格電圧の130%で故障した。更に、対照Bの誘電性流体を充填したキャパシタ5の三つ(3)の試料もまた試験した。一つ(1)の試料は、定格電圧の140%での2分間後に故障し、他の試料は定格電圧の130%での7分間後に故障し、また3番目の試料は定格電圧の160%での18分間の後に故障した。更に、キャパシタ5の試料を、研究室内で小バッチで混合された対照Bの誘電性流体を用いて作製した。この試料は、定格電圧の130%での23分間の後に故障した。
【0097】
室温ステップストレス試験
アントラキノンおよびスカベンジャの組み合わせを含む誘電性流体の、室温での電気的ストレスに耐える能力を、普通サイズのキャパシタを用いて調べた。これらのキャパシタは室温にて一晩、平衡状態にし、また消勢した。周囲温度を室温ステップストレス試験を通して室温に維持した。これらのキャパシタに電圧を加え、そして定格電圧の130%で30分間に亘って作動させた。この後、これらのキャパシタを、10%の増加率で30分間に亘って作動させたが、これは定格電圧の140%である。電圧の増加を、10%の増加率(すなわち、定格電圧の150%、160%、170%、180%、190%および200%)で、絶縁破壊が発生するまで繰り返した。
【0098】
実施例14の誘電性流体を充填されたキャパシタ3の二つ(2)の試料を、室温ステップストレス試験に付した。一つ(1)の試料は、定格電圧の180%での28分間後に故障したが、一方で他の試料は定格電圧の170%での2分間後に故障した。
【0099】
実施例14の誘電性流体を充填されたキャパシタ4の二つ(2)の試料を、室温ステップストレス試験に付した。両方の試料は、定格電圧の210%で故障した。更に、対照Bの誘電性流体を充填したキャパシタ4の二つ(2)の試料もまた試験した。一つ(1)の試料は、定格電圧の180%での1.4時間後に故障したが、一方で他の試料は定格電圧の200%での1時間後に故障した。更に、キャパシタ4の二つ(2)の試料を、研究室内で小バッチで混合した対照Bの誘電性流体を用いて作製した。一つ(1)の試料は、定格電圧の200%での16分間後に故障し、また他の試料は定格電圧の200%での7分間後に故障した。これらの結果は、誘電性流体へのBMAQの添加が、室温においては、いかなる著しい不利益な性能をももたらさないことを更に示唆している。
【0100】
実施例14の誘電性流体を充填された二つ(2)の試料を、室温ステップストレス試験に付した。一つ(1)の試料は、定格電圧の190%での2分間後に故障し、また他の試料は定格電圧の190%での5分間後に故障した。
【0101】
55℃ステップストレス試験
アントラキノンおよびスカベンジャの組み合わせを含む誘電性流体の、高い温度(warm temperature)における電気的ストレスに耐える能力を、普通のサイズのキャパシタを用いて調べた。これらのキャパシタは55℃で一晩、平衡状態にし、また消勢した。周囲温度は55℃ステップストレス試験を通して55℃に維持した。これらのキャパシタに電圧を加え、そして定格電圧の130%で作動させた。これらのキャパシタを次いで、4時間以上消勢した。消勢の後に、これらのキャパシタを再通電し、そして10%の増加率で30分間に亘って作動させたが、これは定格電圧の140%である。これらのキャパシタを一晩、消勢した。消勢/再通電のサイクルを、電圧の10%の増加率(すなわち、定格電圧の150%、160%、170%、180%、190%および200%)で、絶縁破壊が発生するまで繰り返した。
【0102】
実施例14の誘電性流体を充填したキャパシタ3の二つ(2)の試料を、55℃ステップストレス試験に付した。一つ(1)の試料は、定格電圧の170%での13分間後に故障し、一方で、他の試料は定格電圧の170%で即座に故障した。
【0103】
実施例14の誘電性流体を充填したキャパシタ4の二つ(2)の試料を、55℃ステップストレス試験に付した。一つ(1)の試料は、定格電圧の220%での8分間後に故障し、また他の試料は定格電圧の220%での2分間後に故障した。更に、対照Bの誘電性流体を充填したキャパシタ4の試料もまた試験した。この試料は、定格電圧の210%での8分間後に故障した。更に、キャパシタ4の更なる二つ(2)の試料を、研究室内で小バッチで混合した対照Bの誘電性流体を用いて作製した。一つ(1)の試料は、定格電圧の200%での18分間後に故障し、また他の試料は定格電圧の210%での3分間後に故障した。
【0104】
−20℃ステップストレス試験
アントラキノンおよびスカベンジャの組み合わせを含む誘電性流体の、低い温度における電気的ストレスに耐える能力もまた、普通のサイズのキャパシタを用いて、−20℃で調べた。これらのキャパシタは室温で一晩、平衡状態にし、また消勢した。周囲温度は−20℃ステップストレス試験を通して−20℃に維持した。これらのキャパシタに電圧を加え、そして定格電圧の130%で作動させた。このキャパシタを次いで4時間以上に亘って消勢した。消勢の後に、これらのキャパシタを再通電し、そして10%の増加率で30分間に亘って作動させたが、これは定格電圧の140%である。これらのキャパシタを一晩、消勢した。消勢/再通電のサイクルを、電圧の10%の増加率(すなわち、定格電圧の150%、160%、170%、180%、190%および200%)で、絶縁破壊が発生するまで繰り返した。
【0105】
実施例14の誘電性流体を充填したキャパシタ3の四つ(4)の試料を、−20℃ステップストレス試験に付した。二つ(2)の試料は、定格電圧の130%で故障し、一方(1)は17分間後に、また他方は5分間後に故障した。残りの二個(2)の試料は定格電圧の150%で故障し、一方(1)は5分間後に、そして他方は4分間後に故障した。
【0106】
高温DC残留電圧試験
0.8%のERL−4299を含むが、BMAQを含まないSAS−40を含む対照Cの誘電性流体を充填させた二つ(2)の普通サイズのキャパシタ、および0.8%のERL−4299および0.4%のBMAQを含むSAS−60を含む本発明の例示的な誘電性流体(実施例15)を充填した二つ(2)の普通サイズのキャパシタ(それぞれが1.2ミルのパッド厚さを備えている)を作製した。これらのキャパシタは、7.2kVの定格電圧、200の定格キロボルト−アンペア無効電力(KVAR)(これはAC電力システムにおける無効電力の指標である)、および2000V/ミルの設計ストレスで設計された。
【0107】
高温の周囲温度における繰り返し使用およびキャパシタへのストレスを擬するために、これらのキャパシタを強制空気環境チャンバー中に置き、そして定格電圧の110%でAC電流を通電させた。このチャンバーの周囲温度を65℃まで上昇させた。これらのキャパシタを、これらの温度およびAC電圧条件下で、336時間(14日間)以上作動させた。その後、これらのキャパシタを消勢し、そしてそれぞれのユニットの静電容量を測定した。再通電したキャパシタを、次いでDC試験セル中に配置し、そして定格DC電圧の2.12倍の水準のDC電圧に付した。所望のDC電圧試験水準に到達した後に、電圧供給を直ちに取り除き、そしてキャパシタを、捕捉したDC電荷を備えたままで5分間分離した。5分間に亘る分離の後に、これらのキャパシタを短絡し、そして固体の静電容量を再測定した。0.4%のBMAQを含む誘電性流体を充填した両方のキャパシタは、所望の試験手順を成功裏に完了し、また対照Cの誘電性流体を充填した両方のキャパシタは、この試験のAC部分を成功裏に完了したが、しかしながらDC試験に曝された後に故障したことが観察された。上記のそれぞれのキャパシタのDC試験の前後の静電容量を下記のテーブル18に与えた。
【0108】
【表17】

【0109】
本明細書の開示の利益を有する当業者には、他の多くの変更、特徴および実施態様が、明らかとなるであろう。従って、本発明の上記の多くの態様は例示としてだけのものであり、そして明示的に別の様に明言していない限り、本発明の必要な、もしくは本質的な要素であることを意図してはいないことが理解されるべきである。また、本発明は、説明した実施態様には限定されないこと、また以下の特許請求の範囲の精神および範囲の中で種々の変更が可能であることが、理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングおよび該ケーシング中の誘電性流体を含む交流電気キャパシタであって、該誘電性流体が、約0.1〜約3質量%のβ−メチルアントラキノンおよび約0.1〜約1質量%の脂環式エポキシ樹脂を含む、電気キャパシタ。
【請求項2】
前記の脂環式エポキシ樹脂が、アジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロへキシル)、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチルおよび3,4−エポキシシクロへキシルカルボン酸(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチル,からなる群から選ばれる、請求項1記載の電気キャパシタ。
【請求項3】
前記の脂環式エポキシ樹脂がアジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロへキシル)である請求項2記載の電気キャパシタ。
【請求項4】
前記の誘電性流体が約0.3質量%〜約0.8質量%のβ−メチルアントラキノンを含む、請求項1記載の電気キャパシタ。
【請求項5】
前記の誘電性流体が約0.3質量%〜約0.6質量%のβ−メチルアントラキノンを含む、請求項4記載の電気キャパシタ。
【請求項6】
前記の誘電性流体が約0.35質量%〜約0.5質量%のβ−メチルアントラキノンを含む、請求項5記載の電気キャパシタ。
【請求項7】
前記の誘電性流体が約0.5質量%のβ−メチルアントラキノンを含む、請求項6記載の電気キャパシタ。
【請求項8】
前記の誘電性流体が約0.4質量%のβ−メチルアントラキノンを含む、請求項6記載の電気キャパシタ。
【請求項9】
前記の誘電性流体が更に、ベンジルトルエン、1,1−ジフェニルエタン、および約0.1〜約3質量%の1,2−ジフェニルエタンを含む、請求項1記載の電気キャパシタ。
【請求項10】
約0.1〜約3質量%のβ−メチルアントラキノン、および約0.1〜約1質量%の脂環式エポキシ樹脂を含む誘電性流体。
【請求項11】
前記の脂環式エポキシ樹脂が、アジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロへキシル)、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチルおよび3,4−エポキシシクロへキシルカルボン酸(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチルからなる群から選ばれる、請求項10記載の誘電性流体。
【請求項12】
前記の脂環式エポキシ樹脂がアジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロへキシル)である請求項11記載の誘電性流体。
【請求項13】
前記の誘電性流体が約0.3質量%〜約0.8質量%のβ−メチルアントラキノンを含む、請求項10記載の誘電性流体。
【請求項14】
前記の誘電性流体が約0.3質量%〜約0.6質量%のβ−メチルアントラキノンを含む、請求項13記載の誘電性流体。
【請求項15】
前記の誘電性流体が約0.35質量%〜約0.5質量%のβ−メチルアントラキノンを含む、請求項14記載の誘電性流体。
【請求項16】
前記の誘電性流体が約0.5質量%のβ−メチルアントラキノンを含む、請求項15記載の誘電性流体。
【請求項17】
前記の誘電性流体が約0.4質量%のβ−メチルアントラキノンを含む、請求項15記載の誘電性流体。
【請求項18】
前記の誘電性流体が更に、ベンジルトルエン、1,1−ジフェニルエタン、および約0.1〜約3質量%の1,2−ジフェニルエタンを含む、請求項10記載の誘電性流体。
【請求項19】
高温の周囲温度において交流の下に作動するキャパシタの故障の可能性を低減する方法であって、該キャパシタはキャパシタケーシングおよび複数の誘電体層を含んでおり、該キャパシタケーシングに、誘電性流体の約0.1〜約3質量%のβ−メチルアントラキノンおよび約0.1〜約1質量%の脂環式エポキシ樹脂を含む誘電性流体を充填することを含む方法。
【請求項20】
前記の脂環式エポキシ樹脂が、アジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロへキシル)、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチルおよび3,4−エポキシシクロへキシルカルボン酸(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチルからなる群から選ばれる、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記の脂環式エポキシ樹脂がアジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロへキシル)である請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記の高温の周囲温度が40℃超である、請求項19記載の方法。
【請求項23】
前記の高温の周囲温度が55℃超である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記の高温の周囲温度が約75℃である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
放電開始電圧(DIV)または放電消滅電圧(DEV)が3%以上増加する、請求項19記載の方法。
【請求項26】
交流電気キャパシタの故障の可能性を低減する方法であって、該キャパシタはキャパシタケーシングおよび複数の誘電体層を含んでおり、また定格電圧を有するように設計されており、該キャパシタケーシングを、前記の定格電圧の3倍未満の直流(DC)電圧水準で作動させる交流電気キャパシタの故障の可能を低減するのに有効な量のβ−メチルアントラキノンを含む誘電性流体で充填することを含む方法。
【請求項27】
前記の誘電性流体が約0.4質量%のβ−メチルアントラキノンを含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記の直流(DC)電圧水準が前記の定格電圧の2.7倍未満である、請求項26記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−501882(P2011−501882A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530152(P2010−530152)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/080350
【国際公開番号】WO2009/052410
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(506257537)クーパー テクノロジーズ カンパニー (35)
【Fターム(参考)】