説明

改善された引裂強さを有するシリコーンエラストマー

本発明の対象は、付加架橋性のシリコーン材料(M)であって、(A)1分子当たりに少なくとも2個のアルケニル基を有し、少なくとも1000000mPa・sの粘度を有し、かつ0.3モル%のアルケニル基を有する、アルケニル基含有のポリジオルガノシロキサン100質量部と、(B)SiH官能性の架橋剤と、(C)ヒドロシリル化触媒と、(D)比表面積50m2/g〜350m2/gを有する補強性充填剤10〜80質量部と、(E)粘度20〜5000mPa・sを有し、フェニル基及びC1〜C6−アルキル基から選択される基を有し、全ての基の少なくとも5モル%がフェニル基であるシリコーン油とを含有する、付加架橋性のシリコーン材料(M)、該付加架橋性のシリコーン材料(M)の製造方法、該付加架橋性のシリコーン材料(M)の架橋によって得られるシリコーンエラストマーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋して良好な引裂強さ(Einreissfestigkeit)を有するシリコーンエラストマーとなる付加架橋性のシリコーン材料(M)、該付加架橋性のシリコーン材料(M)の製造方法並びに架橋されたシリコーンエラストマーに関する。
【0002】
公知のように、シリコーンエラストマーからなる完成部分品は、鋭利な対象物、例えば刃物などの対象物、鋭利な異形材もしくは金属部材との接触に際して、多くの用途において不十分な引裂強さを有する。それにより、完成部分品は、これが例えば組み立て時に鋭利な金属部材もしくはプラスチック部材と接触するときに、繰り返し損傷される。シリコーンゴムからなるシーリングは、しばしば金属部材もしくはプラスチック部材とともに組み合わされて2成分構成部材となる。その際、前記シリコーンシーリングが、鋭利な金属もしくはプラスチックの完成部分品上に押しつけられるか、又は鋭利な金属もしくはプラスチックの完成部分品が、シリコーンシーリングの空隙に押し入れられる。その際、繰り返しシリコーンシーリングは損傷を受けて、それにより2成分構成部材が破壊される。
【0003】
確かにこの現象は公知であるが、文献では、どのようにしてシリコーンエラストマーの引裂強さを改善できるかという示唆は殆ど見いだせない。
【0004】
有機ゴムからなる手袋では、引裂強さは、例えば金属ワイヤもしくは繊維を使用することによって改善される(EP1911866号)。
【0005】
WO9918156号では、有機ゴム及びシリコーンエラストマーの引裂強さは、少なくとも3のモース硬度を有する充填剤の添加によって改善される。その際、好ましくは、金属、セラミックもしくは結晶性鉱物からなる小片形の不活性充填剤が使用される。しかしながら、この不活性充填剤の使用によって、適度の機械的特性しか実現できない。更に、この材料は、射出成形において加工性がよくない。それというのも、使用される充填剤は、非常に高い摩耗性を有するからである。
【0006】
ワタナベ(Watanabe)は、JP07082488号において、雲母及びポリジメチルシロキサン油を用いて、ペルオキシド架橋性の固形シリコーンゴムの引裂強さを改善できることを記載している。しかしながら、雲母を使用する際には、中程度の機械的特性が実現されるにすぎない。しかしながら、数多くの用途のためには、迅速に架橋ができ、顕著な極限引張強さ(Reissfestigkeit)及び破断点伸び(Reissdehnung)を有し、かつ明らかに改善された引裂強さを有するシリコーンエラストマーが必要となる。
【0007】
本発明の課題は、迅速に架橋して良好な引裂強さを有するシリコーンエラストマーとなり、かつ良好な機械的特性をなおも有する付加架橋性のシリコーン材料を提供することである。
【0008】
本発明の対象は、付加架橋性のシリコーン材料(M)であって、
(A)1分子当たりに少なくとも2個のアルケニル基を有し、少なくとも1000000mPa・sの粘度を有し、かつ高くても0.3モル%のアルケニル基を有する、アルケニル基含有のポリジオルガノシロキサン100質量部と、
(B)SiH官能性の架橋剤と、
(C)ヒドロシリル化触媒と、
(D)比表面積50m2/g〜350m2/gを有する補強性充填剤10〜80質量部と、
(E)粘度20〜5000mPa・sを有し、フェニル基及びC1〜C6−アルキル基から選択される基を有し、全ての基の少なくとも5モル%がフェニル基であるシリコーン油と、
を含有する、付加架橋性のシリコーン材料(M)である。
【0009】
付加架橋性のシリコーン材料(M)は架橋して、良好な引裂強さを有し、なおも良好な機械的特性を有するシリコーンエラストマーとなる。
【0010】
架橋されたシリコーンエラストマーは、好ましくは、少なくとも3の、特に好ましくは少なくとも5の、特に少なくとも10のショアA硬度を有し、かつ好ましくは高くても70の、特に好ましくは高くても60の、特に高くても50のショアA硬度を有する。
【0011】
付加架橋性のシリコーン材料(M)中に含まれるアルケニル基含有のポリジオルガノシロキサン(A)は、1種類のポリマーからなるか、又はポリマーの混合物からなる。しかしながら、混合物において、全ての成分は、1分子当たりに少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ多くても0.3モル%のアルケニル基を有さねばならない。
【0012】
アルケニル基含有のポリジオルガノシロキサン(A)において、好ましくはアルケニル基は、末端位にある。アルケニル基は、特にビニル基もしくはアリル基である。好ましくは、鎖内の基は、C1〜C6−アルキル基もしくはアルケニル基、特にメチル基、エチル基、ビニル基もしくはアリル基である。
【0013】
アルケニル基含有のポリオルガノシロキサン(A)は、好ましくは、少なくとも2000000mPa・sの、特に好ましくは少なくとも5000000mPa・sの、かつ好ましくは高くても50000000mPa・sの粘度を示す。
【0014】
アルケニル基含有のポリオルガノシロキサン(A)は、好ましくは1分子当たりに、高くても0.2モル%の、特に高くても0.15モル%のアルケニル基を有する。ポリオルガノシロキサン(A)は、好ましくは鎖内のビニル基を有さない。
【0015】
好ましくは、ポリジオルガノシロキサン(A)は、最大で100質量ppmのSi結合されたOH含量を有する。特に好ましくは、OH含量<50質量ppmである。
【0016】
SiH官能性の架橋剤(B)は、好ましくは、少なくとも2個の、好ましくは少なくとも3個のケイ素に結合された水素原子を1分子当たりに有する、有機ケイ素化合物又は少なくとも2種の有機ケイ素化合物からなる混合物である。
【0017】
架橋剤(B)は、好ましくは、シリコーン材料(M)中に、そのケイ素に結合された水素原子と、ポリオルガノシロキサン(A)のアルケニル基+充填剤(D)の炭素−炭素多重結合の合計との比率が、少なくとも1.1:1、好ましくは高くても5:1、特に高くても3:1である量で使用される。
【0018】
架橋剤(B)は、好ましくは平均的な一般式(1)
a1bSiO(4-a-b)/2 (1)
[式中、
1は、一価の、ハロゲン置換もしくはシアノ置換されていてよい、SiCを介して結合されたC1〜C10−炭化水素基であって、脂肪族の炭素−炭素多重結合を有さないものを意味し、
aは、0、1、2もしくは3を意味し、
bは、0、1、2もしくは3を意味し、かつ
合計a+b≦3である]の単位からなるが、但し、
少なくとも2個のケイ素結合された水素原子が1分子当たりに存在する。
【0019】
非置換の基R1の例は、アルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、ヘキシル基、例えばn−ヘキシル基、ヘプチル基、例えばn−ヘプチル基、オクチル基、例えばn−オクチル基及びイソオクチル基、例えば2,2,4−トリメチルペンチル基、ノニル基、例えばn−ノニル基、デシル基、例えばn−デシル基;シクロアルキル基、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−エチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基及びメチルシクロヘキシル基;アリール基、例えばフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基;アルカリール基、例えばo−、m−、p−トリル基及びエチルフェニル基;アラルキル基、例えばベンジル基、α−及びβ−フェニルエチル基である。
【0020】
基R1としての置換された炭化水素基の例は、ハロゲン化炭化水素、例えばクロロメチル基、3−クロロプロピル基、3−ブロモプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基及び5,5,5,4,4,3,3−ヘキサフルオロペンチル基並びにクロロフェニル基、ジクロロフェニル基及びトリフルオロトリル基である。
【0021】
1は、好ましくは1〜6個の炭素原子を有する。殊に好ましいのは、メチル、3,3,3−トリフルオロプロピル及びフェニルである。
【0022】
架橋剤(B)の水素含量であって、もっぱらケイ素原子に直接的に結合された水素原子に対するものは、好ましくは、0.002〜1.7質量%の水素、特に好ましくは0.1〜1.7質量%の水素である。
【0023】
架橋剤(B)は、好ましくは少なくとも3個で、多くても600個のケイ素原子を1分子当たりに有する。特に好ましくは、4〜200個のケイ素原子を1分子当たりに有する架橋剤(B)の使用である。
【0024】
架橋剤(B)の構造は、直鎖状、分枝鎖状、環状又は網目状であってよい。
【0025】
特に好ましい架橋剤(B)は、平均一般式(2)
(R23SiO1/2d(HR2SiO2/2e(R22SiO2/2f (2)
[式中、
2は、R1の意味を有し、かつ
d、e、fは、0の値又は正の整数を意味するが、但し、
方程式d=2、e>2、5<(e+f)<200、及び0.1<e/(e+f)<1を満たしている]の直鎖状のポリオルガノシロキサンである。
【0026】
ヒドロシリル化触媒(C)としては、好ましくは、付加架橋性のシリコーン材料(M)の架橋に際して行われるヒドロシリル化反応を触媒するあらゆる公知の触媒が使用できる。
【0027】
ヒドロシリル化触媒(C)は、特に、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム及びインジウムといった金属及びそれらの化合物から選択される。
【0028】
好ましくは、白金又は白金化合物が使用される。特に、ポリオルガノシロキサン中に可溶性の白金化合物が好ましい。可溶性の白金化合物としては、例えば式(PtCl2・オレフィン)2及び式H(PtCl3・オレフィン)で示される白金−オレフィン錯体を使用することができ、その際、有利には、2〜8個の炭素原子を有するアルケン、例えばエチレン、プロピレン、ブテンとオクテンの異性体又は5〜7個の炭素原子を有するシクロアルケン、例えばシクロペンテン、シクロヘキセン及びシクロヘプテンが使用される。他の可溶性の白金触媒は、式(PtCl2362で示される白金−シクロプロパン錯体、ヘキサクロロ白金酸とアルコール、エーテル及びアルデヒドとの反応生成物あるいはその混合物又はヘキサクロロ白金酸とメチルビニルシクロテトラシロキサンとをエタノール性溶液中の重炭酸ナトリウムの存在下で反応させた反応生成物である。特に、白金と、sym−ジビニルテトラメチルジシロキサンなどのビニルシロキサンとの錯体が好ましい。同様に非常に適しているのは、EP1077226号A1及びEP0994159号A1に記載される白金化合物であり、これに関するその開示も本願に含まれているべきである。
【0029】
ヒドロシリル化触媒(C)は、あらゆる任意の形態で、例えばヒドロシリル化触媒を含有するマイクロカプセルもしくはポリオルガノシロキサン粒子(EP1006147号A1に記載されるような)の形態でも使用でき、それに関するその開示も本願に含まれているべきである。
【0030】
ヒドロシリル化触媒(C)の含量は、付加架橋性のシリコーン材料(M)が、好ましくは0.1〜200ppmのPt含量、特に好ましくは0.5〜40ppmのPt含量を有するように選択される。
【0031】
付加架橋性のシリコーン材料(M)は、好ましくは少なくとも15質量部、特に好ましくは少なくとも20質量部の、かつ好ましくは高くても70質量部の、特に好ましくは高くても60質量部の補強性の充填剤(D)を含有する。
【0032】
補強性の充填剤(D)の比表面積は、好ましくは100m2/g、特に好ましくは120m2/gであり、かつ好ましくは高くても350m2/g、特に好ましくは高くても250m2/gである。
【0033】
補強性の充填剤(D)は、好ましくは沈降ケイ酸及び熱分解法ケイ酸並びにカーボンブラックから選択される。
【0034】
好ましくは、沈降ケイ酸及び熱分解法ケイ酸並びにその混合物である。特に、シリル化剤で表面処理された熱分解法ケイ酸が好ましい。前記ケイ酸の疎水化は、ポリオルガノシロキサン中に混加する前に行なってもよいし、ポリオルガノシロキサンの存在下にインサイチュー法により行なってもよい。両者の方法は、回分法でも連続的にも実施できる。シリル化剤としては、当業者に公知のあらゆる疎水化剤を使用でき、その際、付加的に水を使用してもよい。シリル化剤は、好ましくはシラザン、特にヘキサメチルジシラザン及び/又は1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン及び/又はポリシラザンである。付加的に、他のシリル化剤、例えばSiOH及び/又はSiCl及び/又はアルコキシ官能性のシランもしくはシロキサンを疎水化剤として使用することもできる。同様に、環状の、直鎖状のもしくは分枝鎖状の非官能性のオルガノシロキサン、例えばオクタメチルシクロテトラシロキサンもしくはポリジメチルシロキサンを、それぞれ個別に採用して又はシラザンに加えて、シリル化剤として使用することができ、疎水化を促進するために、例えばヒドロキシドなどの触媒活性添加剤を添加してもよい。疎水化は、一工程で、1種以上の疎水化剤を使用して行えるが、また、1種以上の疎水化剤を使用して複数の工程で行うこともできる。
【0035】
沈降ケイ酸もしくは熱分解法ケイ酸が好ましい。特に、80〜350m2/gの、特に好ましくは100〜300m2/gのBETによる比表面積を有するケイ酸が好ましい。
【0036】
付加架橋性のシリコーン材料(M)は、好ましくは少なくとも1質量部の、特に好ましくは少なくとも3質量部の、特に少なくとも5質量部の、かつ好ましくは高くても30質量部の、特に好ましくは高くても15質量部の、特に高くても10質量部のシリコーン油(E)を含有する。
【0037】
該シリコーン油(E)は、好ましくは、少なくとも50mPa・sの、特に好ましくは少なくとも100mPa・sの、かつ好ましくは高くても2000mPa・sの、特に好ましくは高くても1000mPa・sの粘度を示す。
【0038】
好ましくは、シリコーン油(E)中の全ての基の少なくとも15モル%が、特に好ましくは少なくとも20モル%が、かつ好ましくは多くても80モル%が、特に好ましくは多くても60モル%が、フェニル基である。
【0039】
シリコーン油(E)において、C1〜C6−アルキル基は、好ましくはメチル基及びエチル基から選択される。
【0040】
好ましくは、シリコーン油(E)は、トリメチルシロキシ単位、ジフェニルシロキシ単位、フェニルメチルシロキシ単位及びジメチルシロキシ単位から選択される単位から構成されている。
【0041】
付加架橋性のシリコーン材料(M)は、選択的に、更なる成分(F)として考えられる添加剤を、0〜150質量部の割合で、好ましくは0.0001〜50質量部の割合で含有してよい。これらの添加剤は、例えば樹脂状のポリオルガノシロキサンであって、ポリオルガノシロキサン(A)、(B)及び(E)とは異なるもの、分散助剤、溶剤、定着剤(Haftvermittler)、顔料、着色剤、可塑剤、有機ポリマー、熱安定剤、抑制剤などであってよい。これには、着色剤、顔料などの添加剤が該当する。更に、成分として、チキソトロピー化成分、例えば高分散性ケイ酸もしくは別の市販のチキソトロピー添加剤が含まれていてよい。
【0042】
架橋性の材料の加工時間、開始温度及び架橋速度を狙い通りに調整することを担う更なる添加剤が含まれていてよい。これらの抑制剤及び安定剤は、架橋性の材料の分野で非常によく知られている。
【0043】
付加的に、EP0834534号A1に記載される硫黄化合物(それに関する開示も本願に含まれるべきである)などの、圧縮永久歪を改善する添加剤も添加してよい。付加的に、また、中空体あるいは発泡性中空体が添加されてもよい。付加的にまた、フォームを生じさせるために発泡剤を添加してもよい。
【0044】
本発明の更なる対象は、付加架橋性のシリコーン材料(M)の製造方法、付加架橋性のシリコーン材料(M)からの架橋されたシリコーンエラストマーの製造方法並びにこうして得られたシリコーンエラストマー成形部材である。
【0045】
シリコーン材料の製造もしくは配合は、好ましくはポリオルガノシロキサン(A)と、シリコーン油(E)と、充填剤(D)の混合によって行われる。架橋剤(B)及びヒドロシリル化触媒(C)の添加後の架橋は、好ましくは、加熱によって、好ましくは30〜250℃での、好ましくは少なくとも50℃の、特に少なくとも100℃の、好ましくは150〜210℃での加熱によって行われる。
【0046】
付加架橋性のシリコーン材料(M)は、付加架橋性のHTV材料の製造のために適しており、その際、好ましくは、第一の成分はヒドロシリル化触媒(C)の他に、かつ第二の成分は、SiH架橋剤(B)を含有する。1成分系触媒(例えばEP1077226号A1及びEP0994159号A1に記載される)を使用する場合には、1成分系の混合物を製造することもできる。
【0047】
このためには、成形部材は、好ましくは、付加架橋性のシリコーン材料(M)を使用して製造されたHTV材料から射出成形によって製造される。例えば、付加架橋性のシリコーン材料(M)から、特にその優れたノッチ強さ(Einschnittfestigkeit)を特徴とするシーリングが得られる。
【0048】
前記式の全ての存在する記号は、それらの意味をそれぞれ互いに無関係に有する。全ての式中でケイ素原子は四価である。
【0049】
以下の実施例及び比較例においては、それぞれ特に記載がない限り、全ての量及び割合の表示は、質量に対するものであり、かつ全ての反応は、0.10MPa(絶対圧)の圧力及び20℃の温度で実施される。以下、全ての粘度表示は25℃の温度に対するものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、引裂強さの測定法を示している。
【0051】
実施例
実施例1*(本発明によるものではない):
基礎材料1の製造:
研究用混練機中で、粘度100000mPa・sの粘度(25℃)を有するビニルジメチルシロキシ末端を有するポリジメチルシロキサン(ビニルシロキシ含量0.16モル%)260gを150℃に加熱し、そして150m2/gの比表面積と3.2質量%の炭素含量を有するヘキサメチルジシラザンで疎水化された熱分解法ケイ酸80gと混合した。高粘性の材料が生じ、それを引き続き150℃で真空下(10ミリバール)での混練によって1時間以内で加熱して、揮発性の成分を除去した。
【0052】
架橋性の混合物の製造:
基礎材料330gに、エチニルシクロヘキサノール0.30g、粘度250mPa・s(25℃)及びSiH含量0.48質量%を有するジメチルシロキシ単位とメチルハイドロジェンシロキシ単位とトリメチルシロキシ単位とからなる混合重合体4.5g、白金−sym−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を含有する、1質量%のPtを含有する溶液0.48g、そして33モル%のジフェニルシロキシ単位と66モル%のジメチルシロキシ単位を有し、かつ200mPa・sの粘度(25℃)を有するトリメチルシロキシ末端を有するポリジオルガノシロキサン16.5gを添加した。
【0053】
このようにして製造したシリコーン材料を、引き続き液圧プレス中で165℃の温度において15分以内で架橋させ、引き続き200℃で4時間熱処理した。
【0054】
実施例2*(本発明によるものではない):
基礎材料2の製造:
実施例1との違いにおいて、基礎材料2の製造に際しては、粘度100000mPa・sの粘度(25℃)を有するビニルジメチルシロキシ末端を有するポリジメチルシロキサンを使用せずに、14000000mPa・sの粘度(25℃)を有するビニルジメチルシロキシ末端を有するポリジメチルシロキサンであって、更にポリマー鎖中にビニルメチルシロキシ単位を有し、かつ0.4モル%のビニルシロキシ単位の割合を有するポリジメチルシロキサンを使用した。
【0055】
架橋性の混合物の製造及び該付加架橋性の材料の架橋並びに引き続いての熱処理は、実施例1に記載されるように実施した。
【0056】
実施例3:
基礎材料3の製造:
実施例1との違いにおいて、基礎材料3の製造に際しては、粘度100000mPa・sの粘度(25℃)を有するビニルジメチルシロキシ末端を有するポリジメチルシロキサンを使用せずに、16000000mPa・sの粘度(25℃)を有するビニルジメチルシロキシ末端を有するポリジメチルシロキサンであって、更にポリマー鎖中にビニルメチルシロキシ単位を有し、かつ0.12モル%のビニルシロキシ単位の割合を有するポリジメチルシロキサンを使用した。
【0057】
架橋性の混合物の製造及び該付加架橋性の材料の架橋並びに引き続いての熱処理は、実施例1に記載されるように実施した。
【0058】
第1表:
【表1】

* 本発明によるものではない
【0059】
第1表から、高粘性のビニルが少ないポリジオルガノシロキサンの使用によって、引裂強さは明らかに改善できることが明白である。
【0060】
実施例4
基礎材料4の製造:
実施例1との違いにおいて、基礎材料4の製造に際しては、粘度100000mPa・sの粘度(25℃)を有するビニルジメチルシロキシ末端を有するポリジメチルシロキサンを使用せずに、15000000mPa・sの粘度(25℃)を有するビニルジメチルシロキシ末端を有するポリジメチルシロキサンであって、更にポリマー鎖中にビニルメチルシロキシ単位を有し、かつ0.08モル%のビニルシロキシ単位の割合を有するポリジメチルシロキサンを使用し、実施例1に記載されるものであるが、表面積200m2/gを有する熱分解法ケイ酸を使用した。
【0061】
架橋性の混合物の製造、該付加架橋性の材料の架橋並びに引き続いての熱処理は、実施例1に記載されるように実施した。
【0062】
実施例5*(本発明によるものではない)
330gの実施例4に記載される基礎材料4に、16.5gの実施例1に挙げられるフェニルシリコーン油を混合した。しかしながら、実施例1に記載されるように、Pt触媒、SiH架橋剤及び抑制剤のエチニルシクロヘキサノールを添加することによって、架橋は行わなかった。その代わりに、2.3gのジクミルペルオキシドを添加した。架橋及び熱処理は、実施例1に記載されるようにして実施した。
【0063】
第2表:
【表2】

* 本発明によるものではない
【0064】
第2表から、付加架橋を介した架橋によって、ペルオキシド架橋性のシリコーンエラストマーと比較して、大きく高められた引裂強さが実現できることは明白である。
【0065】
実施例6*(本発明によるものではない):
基礎材料6の製造:
実施例3との違いにおいて、該基礎材料の製造に際して、150m2/gのBET表面積を有するケイ酸を使用せずに、BETによる比表面積400m2/g及び炭素含量3.9質量%を有するヘキサメチルジシラザンで疎水化された熱分解法ケイ酸を使用した。
【0066】
架橋性の混合物の製造、該付加架橋性の材料の架橋並びに引き続いての熱処理は、実施例1に記載されるように実施した。
【0067】
第3表:
【表3】

* 本発明によるものではない
【0068】
第3表から、BET表面積150もしくは200m2/gを有する熱分解法ケイ酸を使用することによって、400m2/gという非常に高いBET比表面積を有する熱分解法ケイ酸を使用する場合よりも良好な引裂強さが生ずることは明白である。
【0069】
実施例7*(本発明によるものではない):
実施例4との違いにおいて、架橋性の混合物の製造に際して、実施例1に記載されるフェニルシリコーン油を添加しなかった。該付加架橋性の材料の架橋並びに引き続いての熱処理は、実施例1に記載されるように実施した。
【0070】
実施例8*(本発明によるものではない):
実施例4との違いにおいて、該架橋性の混合物の製造に際して、実施例1に記載されるフェニルシリコーン油を添加せずに、粘度200mPa・s(25℃)を有するトリメチルシロキシ末端を有するポリジメチルシロキサン16.5gを添加した。
【0071】
該付加架橋性の材料の架橋並びに引き続いての熱処理は、実施例1に記載されるように実施した。
【0072】
第4表:
【表4】

* 本発明によるものではない
【0073】
第4表から、フェニルシリコーン油の添加によって、引裂強さの相当の改善が得られることは明白である。
【0074】
実施例9:
基礎材料9の製造:
混練機において、15000000mPa・sの粘度(25℃)を有するビニルジメチルシロキシ末端を有するポリジメチルシロキサンであって、更にポリマー鎖中にビニルメチルシロキシ単位を有し、かつ0.10モル%のビニルシロキシ単位の割合を有するポリジメチルシロキサン260gを、40mPa・sの粘度を有するα,ω−ジヒドロキシポリジメチルシロキサン(熱分解法ケイ酸の疎水化のために必要)20.6g及びBETによる比表面積150m2/gを有する熱分解法ケイ酸62.1gと一緒に150℃で1時間混練した。
【0075】
架橋性の混合物の製造、該付加架橋性の材料の架橋並びに引き続いての熱処理は、実施例1に記載されるように実施した。
【0076】
実施例10:
基礎材料10の製造:
基礎材料9の製造との違いにおいて、α,ω−ジヒドロキシポリジメチルシロキサン20.6gの代わりに、40mPa・sの粘度を有するα,ω−ジヒドロキシポリジメチルシロキサン15.4g及び30モル%のビニルメチル単位と70モル%のジメチルシロキシ単位を有し、かつ45mPa・sの粘度を有するα,ω−ジヒドロキシポリオルガノシロキサン7.7gを使用して、熱分解法ケイ酸を疎水化した。更に、比表面積150m2/gを有する熱分解法ケイ酸の代わりに、表面積200m2/gを有する熱分解法ケイ酸68.0gを使用した。
【0077】
架橋性の混合物の製造、該付加架橋性の材料の架橋並びに引き続いての熱処理は、実施例1に記載されるように実施した。
【0078】
第5表:
【表5】

【0079】
第5表から、引裂強さは、特に20〜60のショアA硬度の低い硬度範囲と中程度の硬度範囲において改善できることは明白である。
【0080】
シリコーンエラストマー特性の特性決定は、DIN53505(ショアA)、DIN53504−S1(極限引張強さ及び破断点伸び)、ASTM D 624 B(引裂伝播抵抗(Weiterreisswiderstand))に従って行った。
【0081】
引裂強さは、図1に示されるように測定した:
厚さ2mmを有し、かつ中央に直径2mmの穴を有する20×20mmの試験体を製造した。その穴に、図1に示されるような、片側が鋭利な工具を、10mm/分の速度で挿入した。その際に、どの程度の針入深さでシリコーンエラストマー中に裂け目が生じるかを測定した。それぞれ5個の試験体の特性決定を行い、この5個の測定値からの平均値を評価のために考慮した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加架橋性のシリコーン材料(M)であって、
(A)1分子当たりに少なくとも2個のアルケニル基を有し、少なくとも1000000mPa・sの粘度を有し、かつ高くても0.3モル%のアルケニル基を有する、アルケニル基含有のポリジオルガノシロキサン100質量部と、
(B)SiH官能性の架橋剤と、
(C)ヒドロシリル化触媒と、
(D)比表面積50m2/g〜350m2/gを有する補強性充填剤10〜80質量部と、
(E)粘度20〜5000mPa・sを有し、フェニル基及びC1〜C6−アルキル基から選択される基を有し、全ての基の少なくとも5モル%がフェニル基であるシリコーン油と、
を含有する、付加架橋性のシリコーン材料(M)。
【請求項2】
アルケニル基含有のポリジオルガノシロキサン(A)中のアルケニル基が、ビニル基もしくはアリル基である、請求項1に記載の付加架橋性のシリコーン材料(M)。
【請求項3】
SiH官能性の架橋剤(B)が、ケイ素に結合された水素を1分子当たりに少なくとも2個含む、有機ケイ素化合物又は少なくとも2種の有機ケイ素化合物からなる混合物である、請求項1又は2に記載の付加架橋性のシリコーン材料(M)。
【請求項4】
ヒドロシリル化触媒(C)が、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム及びイリジウムの金属並びにそれらの化合物から選択される、請求項1から3までのいずれか1項に記載の付加架橋性のシリコーン材料(M)。
【請求項5】
補強性の充填剤(D)が、沈降ケイ酸及び熱分解法ケイ酸並びにカーボンブラックから選択される、請求項1から4までのいずれか1項に記載の付加架橋性のシリコーン材料(M)。
【請求項6】
3〜15質量部のシリコーン油(E)を含有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の付加架橋性のシリコーン材料(M)。
【請求項7】
シリコーン油(E)が、トリメチルシロキシ単位、ジフェニルシロキシ単位、フェニルメチルシロキシ単位及びジメチルシロキシ単位から選択される単位から構成されている、請求項1から6までのいずれか1項に記載の付加架橋性のシリコーン材料(M)。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の付加架橋性のシリコーン材料(M)の製造方法において、ポリオルガノシロキサン(A)、シリコーン油(E)及び充填剤(D)を混合し、引き続き架橋剤(B)及びヒドロシリル化触媒(C)を添加する前記製造方法。
【請求項9】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の付加架橋性のシリコーン材料(M)を架橋させることによって得られるシリコーンエラストマー。

【図1】
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【公表番号】特表2012−502155(P2012−502155A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526459(P2011−526459)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061192
【国際公開番号】WO2010/028969
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】