改善された感度を有する半導体放射線検出器
対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するよう構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、複数のアノード電極とを含む放射線検出器を開示する。半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数は、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材の仕事関数よりも小さい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本願は、2009年2月2日に出願された米国特許出願第12/364,042号の恩典を主張し、その全体が参照によって本願明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の背景
本発明は、概して、ガンマ線検出装置、およびX線検出装置のための検出器に関する。
【発明の概要】
【0003】
本発明の一態様は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極とを含む、放射線検出器に関する。半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数は、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材の仕事関数よりも小さい。
【0004】
本発明の別の態様は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極と、アノード電極がカソード電極よりも高電位で維持され、かつ、信号がアノード電極から収集されるように、作動中に順バイアスを検出器に印加する手段とを含む、放射線検出器システムである。半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数は、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材料の仕事関数よりも小さい。
【0005】
最後に、別の態様は、以下の工程を含む、放射線検出器を作動させる方法に関する。すなわち、a)対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極とを含む放射線検出器を提供する工程;b)放射線をカソード電極で受光する工程;c)アノード電極をカソード電極よりも高電位で維持するために順バイアスを検出器に印加する工程;d)信号をアノード電極から収集する工程。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】アノード電極のピクセルを有するCZT基板の斜視図である。
【図2A】ハウジングを備えた検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図2B】ハウジングを備えた検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図2C】ハウジングを備えた検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図2D】ハウジングを備えた検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3A】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3B】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3C】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3D】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3E】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3F】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3G】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3H】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3I】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図4】金を含むカソードを有し、放射線にさらされていない比較装置の、I-Vの特徴を示すグラフである。
【図5】金を含むカソードを有し、放射線にさらされた比較装置の、I-Vの特徴を示すグラフである。
【図6】インジウムを含むカソードを有し、放射線にさらされていない、本発明の一態様の、I-Vの特徴を示すグラフである。
【図7】インジウムを含むカソードを有し、放射線にさらされた、本発明の一態様の、I-Vの特徴を示すグラフである。
【図8】異なるピクセル間ギャップ幅を有する、本発明の例示的な一態様についての縁部ピクセルのピクセル間抵抗を示すグラフである。
【図9】異なるピクセル間ギャップ幅を有する、本発明の例示的な一態様についての中央ピクセルのピクセル間抵抗を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
好ましい態様の詳細な説明
以下の定義を本願明細書において使用する。
【0008】
カソード電極:入射ガンマ線または入射X線が検出器に入る、すなわち、放射線源に向けて配置されている、検出器基板のうちの一方の主要面上の電極。
【0009】
アノード電極:基板の後面に位置づけられた、すなわち、放射線源から離れた方に配置されている、セグメント化電極接触子。
【0010】
順バイアス:アノードがより高電位にさらされ、カソードがより低電位を受けるような、アノード導電接触子とカソード導電接触子との間への電位の印加。本願明細書で用いられる順バイアスが意味するのは、アノードが、たとえば検出器に入る入射ガンマ線または入射X線によって発生する電圧または電流などの電気信号がそこから収集される電極であるということである。
【0011】
ピクセル間、またはピクセルの間:ピクセル電極同士を隔てる領域またはギャップ。ピクセル化されていない別々の接触子セグメントを有する電極構成については、この用語は、接触子セグメント間のギャップに同等に適用される。
【0012】
ソルダマスク:半導体検出器またはプリント基板(「PCB」)上のコーティングであり、半導体検出器上のセグメント化されたアノード(ピクセル)またはPCB上の接合金属パッドを絶縁して保護するように設計されており、PCB取付けプロセス中にこれらが短絡しないようにする。ソルダマスクは、たとえば濃緑色/青色、および場合によっては黄色がかった色など任意の適切な色をしていてもよい。
【0013】
本発明の態様は、たとえば金属-半導体-金属(MSM)検出器、または金属/半導体ヘテロ接合型の検出器など、改善された感度を有する放射線検出器を記載する。換言すれば、検出器は、好ましくは、半導体基板またはタイルに形成されるp-i-nダイオードまたはp-nダイオードを含まない(すなわち半導体p-n接合ではない)。実際には、本発明の態様の放射線検出器は、p-i-nヘテロ接合装置に通常は求められる冷却を必要とせずに室温で作動するという、さらなる利益をもたらす。本発明の態様は、検出器の感度の改善という利益をもたらすとともに、たとえばより低い漏れ電流および高い検出器エネルギー分解能などの他の有益な特性をも維持する。さらに、本発明の態様は、大量生産に対して信頼性があり好適であるという、さらなる利益をもたらすことができる。一態様では、放射線検出器は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するよう構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、複数のアノード電極とを含む。好ましくは、半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数が、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材料の仕事関数よりも小さい。たとえば、T. Takahashi et al., "High-resolution Schottky CdTe diode for hard X-ray and gamma-ray astronomy", Nuclear Instruments & Methods in Physics Research A 436 (1999) 111-119に開示されているような先行技術の放射線検出器装置は、カソード電極材料としてではなくアノード電極材料としてインジウムを代わりに利用しており、誘起信号がアノードおよびカソードからそれぞれ収集されるように、順バイアスおよび逆バイアスを印加することに留意されたい。たとえば、正バイアスが、T. Takahashi et al.の研究において開示されている装置のInアノードに配置される。しかし、アノード電極材料としてインジウムを用いたアノードにおける信号収集は、本発明の態様の構成における光電ピーク計数感度の増大という利益をもたらさない。
【0014】
放射線検出器を、さまざまな方法で構成することができる。一般的な構成は、半導体板または基板の両側に位置づけられた1つのカソード電極と複数のアノード電極とを含む。一般的に、これらの放射線検出器は、さまざまな堆積プロセスおよびリソグラフィプロセスによって製造されたピクセル化されたアノード電極のアレイを有し、結果として、ピクセル間ギャップまたはピクセル間領域と称されるピクセル間のギャップが生じる。本発明の例示的態様では、ピクセル間ギャップが100μmから500μmの間の幅を有する。より好ましくは、ピクセル間ギャップが200μmから400μmの間の幅を有する。
【0015】
好ましい態様では、放射線検出器は、たとえばCdZnTe(CZT)またはCdTeを好ましくは含む半導体材料など、対向する前後面を有し、かつp-n接合またはp-i-n接合のない半導体材料を含む。しかしながら、ヨウ化鉛、臭化タリウム、ガリウムヒ素、またはケイ素で例示される他のタイプの半導体材料を使用してもよい。
【0016】
固有の電子的特性を有する広帯域ギャップの三元II-VI族化合物半導体である、Cd(1-x)ZnxTe(但し、xは0.5以下)がより好ましい。このタイプの半導体は、核放射線検出、分光法、および医用画像法の用途のために、室温で作動する分光計として使用されるガンマ線検出器およびX線検出器において、有用である。
【0017】
さらに、好ましい態様では、放射線検出器は、放射線を受光するように構成され、半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極とを含む。カソード電極材料の仕事関数は、好ましくは約4.5eV未満であり、一方、アノード電極材料の仕事関数は、好ましくは約4.8eV以上である。約4.5eV未満の仕事関数を有するカソード電極材料は、たとえば、In、Al、およびTi、ならびにその合金のうちの1つを含む群から選択されてもよい。4.8eV以上の仕事関数を有するアノード電極材料は、たとえば、Au、Pt、および他の貴金属、ならびにそれらの合金のうちの1つを含む群から選択されてもよい。本発明の態様では、約4.5eV未満の仕事関数などの低仕事関数を有するカソード電極材料、たとえばインジウムを含むカソード電極材料を利用することによって、高密度の電荷注入、すなわち電子注入が、カソードから金属/半導体界面で生じる。
【0018】
作動中、好ましい態様のアノードおよびカソードは、電圧源に電気的に接続される。たとえば、カソードを接地しつつ正電圧をアノードに印加することによって、あるいは負電圧をカソードに印加してアノードを仮想的に接地することによって、アノードはカソードよりも高電位にさらされる。
【0019】
図1に示すのは、たとえばCZT基板(「タイル」とも称される)などの半導体基板304上に形成された、ピクセル化アノード電極302の一例である。カソード電極は、基板304の底面に形成されている。
【0020】
図2Aは、CZT基板304の後面にアノード電極のピクセル400を含み、かつCZT基板の前面にカソード電極201を含む、本発明の一態様の放射線検出器装置を示す。任意で、図2Bに示すように、保護コーティング420が、CZTタイルの研磨された側縁部に塗布される。たとえば、CZTタイルは、露出した側面を被覆するために、保護コーティング(ソルダマスクなど)に浸漬されて、少なくとも5時間乾燥されてもよい。
【0021】
任意のハウジングは、別個に、かつ放射線検出器に取り付ける前に形成されるのが好ましい。米国特許第7,462,833号に記載されているハウジングは、参照によって本願明細書に組み込まれるが、任意のハウジングとして使用されてもよい。したがって、一態様の検出器を作製する方法は、(a)対向する前後面を有する半導体基板と、半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、半導体基板の後面に複数のアノード電極とを含む放射線検出器を提供する工程であって、カソード電極材料の仕事関数がアノード電極材料の仕事関数よりも低い、工程、(b)別々に形成された導電性ハウジングを提供する工程、および(c)ハウジングとカソード電極とが電気的に接触するように、ハウジングをカソード電極に取り付ける工程を含む。代替として、任意のハウジングは完全に省略されてもよく、あるいは、格子状のPCBタイプのカソード板など、任意のプリント基板タイプのカソード板で代用されてもよい。
【0022】
特定の態様の方法についての非限定的な例が、図2Aから図2Dに表されており、ハウジングを検出器に取り付けるさまざまな段階での検出器の側面断面図を示している。図2Aから始めると、放射線検出器、ならびにその基本構成要素であるカソード電極201、半導体基板304、およびアノード電極400が示されている。アノード電極およびカソード電極は、図3により詳細に記載されているように、基板304上にどのような順で形成されてもよい。検出器は、ガードリングまたはシールド電極のうちの少なくとも1つを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。次に、図2Bに示すように任意の保護コーティング(すなわちソルダマスク)420が、基板304の縁部に塗布される。代替として、一旦ハウジングをコーティング上に形成したら、このコーティングを除去してもよく、結果としてハウジングと検出器の側面との間にエアギャップが生じる。代替として、このコーティング420は、ヒュミシール(Humiseal)などの他の電気絶縁材料でできている。
【0023】
図2Cに示すように、導電性ハウジングが、カソード、および任意で検出器の両側面に取り付けられる。この図示では、ハウジング425が、上部440と任意の側面430とを含む。後で保護コーティングを除去することを望む場合など、さまざまな理由に応じて、検出器の両側面が、検出器の両側面を被覆する保護コーティング(すなわちソルダマスク)420に接着されていてもよいし、接着されていなくてもよい。当業者は他の接着剤から選択することができるが、この例では、エポキシによってハウジングをカソードに取り付けている。
【0024】
導電性ハウジング425は、背景電磁場(または磁場)から検出器を遮蔽する。さらに、このハウジングを使用して、装置電場が集束する。ハウジングはまた、好ましくは、X線放射線またはガンマ線放射線に対して透過性である。さらに、ハウジングは、好ましくは、周囲空気中、たとえば検出器の正常運転条件下で、酸化を示すことがほとんどまたは全くない。このように、ハウジングは、最も好ましくは薄型構造であり、放射線に対して透過性があり、背景電磁場に実質的に影響されない材料を含み、周囲条件で酸化を示すことがほとんどまたは全くない。
【0025】
たとえば、ハウジングは、約50ミクロンから約100ミクロンの間の厚さであってもよい。いくつかの事例では、金属箔がハウジングとして十分である。
【0026】
上に記載されているパラメータに基づいて、当業者はハウジングを構成するために多数の材料から選択することができる。一般に、金属および金属合金が好ましい。空気中で実質的に酸化しない任意の適した金属を使用してもよい。適した金属合金の非限定的な例には、ステンレス鋼、真鍮(Ni/Tiをコーティングした真鍮など)、NiCo合金、NiFe合金、NiFeCo合金、NiFeMo合金、またはNiFeCuMo合金が含まれる。「ミューメタル」と称される金属合金の種類が最も好ましい。ミューメタルは、一種のNiFe合金であり、静磁場または低周波磁場を遮蔽するのに特に効果的である。いくつかの事例では、上述の合金は、他の合金元素でドープされてもよく、機械的に前処理されてもよく(たとえば冷間加工または熱間加工など)、化学的に表面処理されてもよく(たとえば耐食性表面コーティング)、またはその任意の組み合わせであってもよい。
【0027】
特定の態様では、放射線検出器のためのハウジングは、半導体放射線検出器のカソード電極を電気的に接触させるための第1の手段と、検出器の少なくとも1つの側面を遮蔽するための第2の手段とを含む。たとえば、第1の手段は、上部440を含んでいてもよく、一方、第2の手段は、ハウジング425の側面430を含んでいてもよい。いくつかの事例では、側面430が、少なくとも一方の側面で、半導体基板のわずかな厚さを覆って延在していてもよい。しかし、側面430を完全に省略してもよい。上部440は、放射線検出器のアノードとカソードとが電気的に接触している高電圧供給源と最適に電気的に接触するように形成されるのが好ましく、カソードに対してより高電位でアノードを維持するのが好ましい。
【0028】
いくつかの事例では、平坦な上部440が好ましい。別の特定の態様では、ハウジング425は半球型またはドーム型であり、半導体基板の少なくとも一方の側面を部分的にまたは完全に被覆する。
【0029】
いくつかの態様では、ハウジング425が検出器の幾何学的形状に適合するように、より具体的には、ハウジング425が固定されているカソードの幾何学的形状に適合するように、成形されている。それゆえに、当業者は、検出器の形状を考慮して、湾曲しているかまたは角のあるさまざまなハウジングの形状を企図することができる。非限定的な例では、ハウジングは矩形または円形の断面を有する(たとえば円筒形)形状である。
【0030】
ハウジングが、基板の少なくとも一方の側面を(部分的にまたは完全に)覆って延在するように構成される場合、当該少なくとも一方の側面は、ハウジングから間隔を置いて配置されている。このギャップは、空であるか、あるいは絶縁材料で充填される。
【0031】
ハウジングとカソード電極との間に導電路が存在するように、ハウジング425がカソード電極201に取り付けられる。好ましい事例では、ハウジングおよびカソードが、導電性材料を介して取り付けられる。最も好ましくは、ハウジングの内面または表面に塗布された導電性エポキシなどの、導電性ポリマー材料が使用される。
【0032】
図2Dは、必須ではない工程を示す。ここでは、ソルダマスク450がピクセル化アノード電極400を覆って配置されており、機械的保護をもたらすと同時に、電極への外部からのアクセスが可能になる。マスクがピクセル化アノード電極400間にピクセル間領域で形成される場合、ソルダマスク450によってアノード電極をさらに電気的に絶縁することができる。
【0033】
したがって、任意の特定の態様は、カソード電極201に接触しているハウジング425に加えて、アノード電極の上に配置されているソルダマスクを含む、放射線検出器を目的とする。本願の態様に適したソルダマスクは、2006年12月21日に出願され、その全体が参照によって本願明細書に組み込まれる米国特許出願第11/642,819号に記載されている。
【0034】
アノード400をおおうソルダマスク450の材料の部分が、マスクを通る紫外線などの放射線に直接さらされるように、ソルダマスクは、好ましくは光画像形成性(photoimageable)である。使用されるエポキシのタイプ(すなわち、ポジ型のフォトレジストに類似しているかネガ型のフォトレジストに類似しているか)に依存して、放射線はソルダマスクの露出部を架橋するか、あるいは架橋しない。架橋されていない部分は、続いて選択的にエッチングされて、アノード400の表面の一部分を露出させる開口部460を形成する。代替として、非光画像形成性のソルダマスク材料については、ソルダマスクを覆って形成されている従来のフォトレジストマスクを、パターニング工程で使用してもよい。放射線検出器装置全体は、カソードおよび開口部によって露出しているアノード領域を除いて、ソルダマスクで被覆される。好ましくは、各アノード400の一部分のみが、各開口部460で露出し、タイル304は露出しない。したがって、ソルダマスクは、放射線検出器装置全体を保護するための保護コーティング(すなわちパッシベーション/封入剤)として使用される。
【0035】
米国特許出願第11/642,819号に記載されているように、ソルダマスクを含む放射線検出器装置は、接合パッドに位置づけられているアンダーフィルの充填位置で、読み出しプリント基板(PCB)に接続されてもよい。はんだ球が、ソルダマスクに形成された開口部460に配置されており、検出器装置のアノード400とプリント基板の導体パッドとを電気的に相互接続するのに役立つ。
【0036】
図3Aから図3Iは、検出器セル間に高い比抵抗を有するピクセル間ギャップを有する放射線検出器セルを、規定する位置(ピクセル)において、半導体基板の上に3層の金属アノード接触子を形成する方法における段階の一例を示すが、本願の態様を制限する意図はない。3層接触子が図示されているが、単一層または2層のアノード電極を使用してもよいことを理解されたい。たとえば、ヨウ化鉛、臭化タリウム、ガリウムヒ素、またはケイ素などの他の半導体材料を使用可能であることは明らかであるが、この例では、半導体基板がテルル化カドミウム亜鉛(CdZnTe)、またはテルル化カドミウム(CdTe)から製造されると想定される。また、他の金属アノード、合金、または、たとえば白金など他の導電材料を代わりに使用可能であることは明らかであるが、金属化層および接触子のために使用される金属が金であると想定される。
【0037】
このように、図3Aから図3Iは、金のアノード接触子をCdZnTe基板に形成するさまざまな段階における、検出器基板の側面から見た模式的断面図である。このプロセスの各段階での詳細な特徴および構造が示されており、結果として、CZTの後面におけるアノード接触子ピクセルのアレイ(この図示では上向きに描かれている)と、CZTタイルの前面における単一のカソード電極(この図示では下向きに描かれている)とがもたらされる。この例では、装置の構成を改善するために、2つのさらなる接触層が、後面にあるピクセル化された一次接触層の上に付加されている。このプロセスは、CZT装置の任意のアレイサイズおよびピクセル構成に適用することができる。典型的な装置サイズは、用途に応じて8x8ピクセルまたは11x11ピクセルを有する、20x20x5mmの検出器である。接触子を構成するプレカーサーとして、高品質で清浄な結晶表面が堆積プロセスのために用意されるように、CZTウエハが研磨されエッチングされる。
【0038】
ダイレクトリソグラフィ構成プロセスが、図3Aから図3Iを参照しつつ説明されており、一次アノード接触子が金であり、2つのさらなる接触層を有している事例について、および図3Aに示されているCZTタイルすなわち基板304の対向する面にカソード接触子を別々に形成することについて、説明されている。しかし、留意されたいのは、アノード電極を形成するダイレクトリソグラフィプロセスは、電極を形成するのに用いることのできる多くのプロセスのうちの単に1つにすぎないことである。リフトオフ法を含むがこれに限定されない他の方法が、電極を形成するために代替的に使用されてもよい。たとえば、本発明の態様のアノード電極を形成するためのリフトオフ法は、以下の工程を含む。すなわち、a)基板を提供する工程、b)基板表面上にマスク(フォトレジストマスクなど)を形成する工程であって、パターンがマスク材料の部分とマスク材料のない空間とを含む、工程、c)アノード電極材料をマスクの上に堆積させる工程であって、アノード電極材料の第1の部分が、マスクパターンの空間中で基板上に形成され、一方、アノード電極材料の第2の部分がマスク材料上に形成される、工程、およびd)マスク材料上に形成されたアノード電極材料の第2の部分がマスクにより除去され、かつ基板と接触しているアノード電極材料の第1の部分が基板上に残留するように、マスクを除去またはリフトオフする工程。
【0039】
図3Bに示すダイレクトリソグラフィプロセスの段階1では、金の一次層200が、CZTタイル304の後面に堆積する(後面は、図3Bでは上を向いて示されている)。金層200は、無電解析出によって堆積させてもよい。あるいは、たとえばスパッタリングまたは蒸発などの他の知られている技術によって、金層200を堆積させてもよい。さらに、インジウムを含むカソード電極層201は、スパッタリング、無電解メッキ法または他の適した方法によって、CZTタイルの対向する前面に堆積する。このCZTタイルは、まず、よく知られているようにアセトン中で洗浄される。洗浄されたCZTタイル304は適切にマスクされて、第1の側面に金を、第2の側面にインジウムをスパッタリングまたはメッキするために、チャンバに配置される。堆積するカソード層の典型的な厚さは、10nmからlO0nmの間であってもよい。基板への密着性を増大させるために、堆積した金を、90℃で15分間アニールしてもよい。密着性の質を確認するために、スコッチテープを使用して、数時間後に密着性試験を行ってもよい。
【0040】
図3Cに示す任意の段階2では、2つのさらなる接触層が、タイルの後面(ピクセル化されることになるアノード側)で一次接触層200上に堆積する。この例では、Ni層312が、スパッタリングまたは熱蒸発プロセスを用いて、l00nm未満、名目上は50nmの厚さまで堆積する。ついで、別の金層310が、スパッタリング、熱蒸発プロセス、および/または無電解プロセスを用いて、50nm未満、名目上20nmの厚さまで堆積する。代替の導電性接触子材料を、このさらなる接触層のいずれか一方または両方と交換することができる。
【0041】
段階3では、図3Dに示すように、フォトレジスト202が接触層上に塗布される。タイル304は、レジスト、たとえば Shipley 1805レジストの中に浸漬される。必要に応じて、余分なレジストがQ-チップを使用して縁部から除去され、レジストが、ピクセルの品質にとって有害となりうるいかなるエッジビードも(特にピクセル化面において)形成しないことが保証される。一般に、できるだけ少量のレジストが、ピクセル化面上に残るべきである。ピクセル化面を上にかつ水平に保ちながら、このレジストを10分間完全に乾燥する。
【0042】
レジストコーティングは、段階4において、90℃で10分間焼成することによって硬化される。この段階は、レジストから余分な溶媒をなくすために行われる。タイルは、これで、リソグラフィ露光のために準備される。
【0043】
段階5では、図3Eに示すように、フォトリソグラフィによって、ピクセルパターンがタイル304の後面上に形成される。紫外線マスク204がCZTタイルの表面上に位置合わせされ、ポジ型レジストが紫外線にさらされる。ダイレクトリソグラフィマスクによって、選択されたピクセルパターンにおけるレジスト領域が遮蔽され、ピクセル間ギャップが紫外線照射にさらされる。接触子マスクが示されているが、近接マスクおよび投影マスクなどの他の方法も同様に機能する。ガラス板が頂部に配置され、そのガラス板が水平であることが保証される。このことによって、タイルとマスクとの間の均一な接触が保証される。例示的なレジストとして、紫外線ランプ(365nm波長)による数分間の露光が適している。所望により、ポジ型フォトレジストの代わりにネガ型レジストを使用してもよい(その場合には、露光マスクの透過領域と不透過領域とが逆転する)。
【0044】
図3Fに示される段階6では、露光したフォトレジストが現像される。レジスト現像器(たとえば、Microposit developer, MF-319)でタイルを覆う。このタイルは、ピクセル化面を上に向けて現像器の中に配置され、2分間現像される。タイルは現像器から取り出されて、脱イオン水の中で洗浄される。紫外線露光されたレジストは、ピクセル間ギャップの作製に備えて除去される。
【0045】
段階7では、残留レジストのピクセルパターン314を、90℃で20分間焼成する。この工程は、レジストをさらに硬化させるために行われる。
【0046】
図3Gに示す段階8では、露光された接触領域316(ピクセルレジストパターン314によって覆われていない)がエッチングされる。この例の接触子材料について、以下のエッチング溶液が、一次接触層だけか、または任意の3層接触子かのいずれかをエッチングするのに適している。エチレングリコール25mlをプラスチック製のビーカーに注入し、続いて使い捨てピペットを使用して臭素0.5mlを添加することによって、2%の臭素-エタノールグリコール(BrEG)溶液を調製する。同じピペットを使用して、均一になるまで溶液をよく混合する。しかし、異なるピペットまたは混合装置を使用してもよい。エッチングは、約3分間行われる。このエッチングは、マスクされていないピクセル間接触子材料を除去するために行われる。ピクセル間ギャップを露出して何もないピクセル間ギャップを得るために、能動噴霧攪拌(active spray agitation)が行われる。使い捨てピペットを使用して、Br-EGの一定流を発生させて、より良好にエッチングするために攪拌することができる。しかし、異なるピペット、または攪拌装置あるいは混合装置もまた、使用してもよい。噴霧エッチング技術によって、ピクセル間ギャップから接触子材料の剥片が迅速に除去され、結果として高いピクセル間抵抗がもたらされる。タイルは、エッチング液から取り出されて、脱イオン水の中で洗浄される。
【0047】
図3Hに示す段階9では、残留レジストが、アセトン浴を用いて剥離され、結果として、接触子のピクセルアレイを有するタイル320となる。したがって、フォトレジストは、CdTeまたはCdZnTe検出器の上に残留しない。というのは、通常、フォトレジストは、やがて湿度を吸収して、検出器の性能を低下させる吸湿性材料であるからである。
【0048】
金などの約4.8eV以上の仕事関数を有する金属層を基板後面上に堆積させるプロセス、インジウムなどの約4.5eV未満の仕事関数を有する金属層を前面上に堆積させるプロセス、ダイレクトフォトリソグラフィプロセス、およびエッチングプロセスをすべて組み合わせると、漏れ電流を最小限に抑え、装置の性能の改善がもたらされる。
【0049】
図3Iに示す任意の段階10では、構成されたCZT装置322のタイル305のある面にある一次接触子材料(この例では金)が、側面研磨によって除去される。たとえば、タイルのこの面は、まず1200番グリッドで研磨され、ついで、微細研磨加工として0.3ミクロンで研磨される。1つの代替態様では、段階1において両面に金を堆積させる代わりに、CZTタイルの両面をマスクすることができる。このため、表面の接触子を除去する段階10は必須でなくてもよい。結果として得られる構成されたCZT装置は、前面に残るカソード電極201と、一次接触層200および二次接触層312および310とから形成され、後面上でピクセル間ギャップ316によって隔てられているピクセル化されたアノード電極のアレイとを有する。図3Iは、多層ピクセルは、例示的目的のために断面が同一の幅であるとして示されている。
【実施例】
【0050】
オーム性は、典型的に、直線状の電流-電圧(I-V)の関係によって示される。カソード電極材料としてのインジウムは、金と比較してより大きなオーム性を呈する。図4から図7に示すように、比較装置および本発明の例示的態様について、Co-57線源で照射してもしなくても、カソードで0Vから5Vの間の電流が測定された。線形回帰分析は、曲線の線形性を測定するのに使用されるR2によって行われた。なお、R2の最大値=1は、完全な線形の曲線、したがって完全なオーム特性を示す。
【0051】
図4に示すように、回帰分析が示すのは、カソード電極材料として金を含み、Co-57線源からの放射線にさらされていない比較装置が、結果として0.8532に等しいR2値をもたらすことである。図5に示すように、図4の装置を照射すると、I-Vの関係の回帰分析は、結果として得られるR2値が0.7861に等しいことを示し、これは金のカソードのオーム性が減少したことを示す。
【0052】
図6に示すように、回帰分析が示すのは、カソード電極材料としてインジウムを含み、Co-57線源によって照射されない例示的装置が、結果として0.9996に等しいR2値をもたらすことであり、I-Vの関係について高度な線形性を表す。図7に示すように、図6の装置を放射線にさらすと、回帰分析が示すのは、インジウムカソードのオーム性は、極めてわずかにのみ減少することであり、結果として得られるR2値は0.9991に等しく、これはなお高度な線形性、したがって、オーム特性を表す。
【0053】
図4〜7より明らかなことは、カソード電極材料としての金をインジウムと交換することによって、本発明の態様が、たとえば放射線検出器として作動する場合に、電荷収集の改善という利益をもたらすことである。
【0054】
光電ピーク計数を改良するために、発明者らは、検出器の感度の改善を達成するさまざまな構成を発見した。たとえば、電極のうちの1つの材料を変更することによって、すなわち、カソード電極材料を金からインジウムに変更することによって、結果として、電極のオーム性が増大する。また、検出器の活性体積(active volume)を変化させることによって、たとえばピクセル間ギャップ幅を減少させることによって、結果として、装置の性能が改良される。
【0055】
これらの結果を達成するために、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、複数のアノード電極とを含む、放射線検出器が製造された。この装置のさまざまな要素が、特定の実験を実行するために変更された。たとえば、金のカソード電極およびアノード電極を有する検出器の上で、ピクセル間ギャップは、ピッチを2.46mmに維持しながら、600〜460μmの間を変化した。続いて、アノード上のピクセル化には影響を及ぼさずに、カソードが研磨され、インジウムによって金属被覆された。最終段階として、カソードが保護され、アノードは、300μmのピクセル間ギャップで再度構成された。
【0056】
以下は、本発明の態様の放射線検出器装置の具体的な装置構成を詳述する、非限定的な例である。
【0057】
比較例1:460μmのピクセル間ギャップを有するInカソードおよびAuアノード
放射線検出器装置の第1の比較例として、8x8のピクセル構成を有する20x20x5mm3の放射線検出器装置が、表1においてCE1として記載されている。この装置は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられた金を含むカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、金を含む複数のアノード電極とを含む。複数のアノード電極は、各ピクセル間のピクセル間ギャップが約600μmであるピクセルとして形成されている。アノード電極およびカソード電極は、約400Vの順バイアス電位を印加する手段を提供する電圧源に電気的に接続されているとともに、Co-57線源がカソードから25mmのところに配置されている。
【0058】
比較例2:300μmのピクセル間ギャップを有するInカソードおよびAuアノード
放射線検出器装置の第2の比較例として、8x8のピクセル構成を有する20x20x5mm3の放射線検出器装置が、表1においてCEとして記載されている。この装置は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられた金を含むカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、金を含む複数のアノード電極とを含む。複数のアノード電極は、各ピクセル間のピクセル間ギャップが約460μmであるピクセルとして形成されている。アノード電極およびカソード電極は、約400Vの順バイアス電位を印加する手段を提供する電圧源に電気的に接続されているとともに、Co-57線源がカソードから25mmのところに配置されている。
【0059】
実施例1:460μmのピクセル間ギャップを有するInカソードおよびAuアノード
本発明の非限定的な態様の第1の実施例として、8x8のピクセル構成を有する20x20x5mm3の放射線検出器装置が、表1に記載されている。実施例1の装置は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたインジウムを含むカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、金を含む複数のアノード電極とを含む。複数のアノード電極は、各ピクセル間のピクセル間ギャップが約460μmであるピクセルとして形成されている。アノード電極およびカソード電極は、約400Vの順バイアス電位を印加する手段を提供する電圧源に電気的に接続されているとともに、Co-57線源がカソードから25mmのところに配置されている。
【0060】
実施例2:300μmのピクセル間ギャップを有するInカソードおよびAuアノード
本発明の別の非限定的な態様の第2の実施例として、8x8のピクセル構成を有する20x20x5mm3の放射線検出器装置が、表1に記載されている。実施例2の装置は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたインジウムを含むカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、金を含む複数のアノード電極とを含む。複数のアノード電極は、各ピクセル間のピクセル間ギャップが約300μmであるピクセルとして形成されている。アノード電極およびカソード電極は、約400Vの順バイアス電位を印加する手段を提供する電圧源に電気的に接続されているとともに、Co-57線源がカソードから25mmのところに配置されている。すべての計測に同じCo-57線源が使用されており、この計測が互いに数週間以内に行われ、約17μCiの線源強度に基づいて計測されたことに留意されたい。
【0061】
【表1】
【0062】
表1で示すCE1とCE2の構成の間で、光電ピーク計数における12%の平均増加が認められる。
【0063】
表1で示すCE2とEx1の構成の間で、光電ピーク計数における11%の平均増加が認められる。
【0064】
表1で示すEx1とEx2の構成の間で、光電ピーク計数における10%の平均増加が認められる。
【0065】
表1に示される結果は、CE1の構成をEx2の構成に進歩させると、光電ピーク計数が30%から50%有効に増加することを要約している。
【0066】
表2は、さまざまな放射線源強度についてのCE1とCE2との構成間での、中央ピクセルの光電ピーク計数における変化を示す。放射線源強度が2倍になっても、縁部ピクセルは予想される変化を示さなかったことから、表2に示される結果を得る実験では、分析からエッジ効果を排除するため、中央ピクセルのみが考慮される。表2に示すように、ピクセル間ギャップ幅が600μmから460μmまで変化する場合、光電ピーク計数が2%から23%まで増加する結果となる。このことが示すのは、構成の他の局面、たとえばピッチを維持しつつピクセル間ギャップを減少させることが、検出器の感度を高めるのに有利となるということである。
【0067】
【表2】
【0068】
次の段階において、ピクセル間ギャップ幅が460μmの、4つの検出器のカソード電極を、Inに変更した。これは、アノードを保護することによって構成を維持し、かつ無電解インジウム溶液の中にカソードを吊るすことによって行われた。表3は、このような構成における変化の結果を示す。
【0069】
【表3】
【0070】
最終段階において、4つの検出器のアノード電極が、300μmというより小さなピクセル間ギャップで再度構成された。表4は、この段階の結果を示す。この変化によって、7〜17%の光電ピーク計数の増加が見られる。このことが示すのは、この特定の検出器構成における感度を改良するのに、300μmのピクセル間ギャップが最良であるということである。一般に、ギャップ幅は、検出器の他の材料および寸法に依存して、100ミクロンから500ミクロンまで、たとえば200ミクロンから400ミクロンまで変化してもよい。
【0071】
【表4】
【0072】
留意されたいのは、本願明細書において開示されている本発明の態様のさらなる例として、ピクセル間ギャップをさらに100μmまで減少したが、これらの検出器の測定されたピクセル間抵抗が、460μmのピクセル間ギャップ幅を含む本発明の態様に対して平均して2桁少なかったことである。加えて、抵抗プロファイルが高バイアスで激減し、このことは、電気絶縁破壊の可能性を示している。たとえば、図8は、460μm、300μm、および100μmのピクセル間ギャップ幅を含む、本発明の例示的態様における縁部ピクセルのピクセル間抵抗の比較を示している。図9は、これらの構成の検出器の中央ピクセルについての同様の比較を示す。上述のように、中央ピクセルは、一般的に、検出器全体の中で最良のピクセル間抵抗を有する。そのうえ、300μmのピクセル間ギャップ幅を含む例示的態様は、460μmのピクセル間ギャップ幅を含む例示的態様よりも抵抗がわずかに低いが、抵抗プロファイルは、電気安定性が保証されるのになお十分に均一である。反対に、100μmのピクセル間ギャップ幅を含む例示的態様は、460μmのピクセル間ギャップ幅を含む例示的態様よりも抵抗が2桁低く、高バイアスに向かって極めて急激に減少する傾向がある。換言すれば、100μmのピクセル間ギャップ幅を含む例示的態様は優れた感度を示すが、一方で、ピクセル間抵抗が不十分であり、そして、ピクセル間抵抗は、放射線検出器のエネルギー分解能において極めて重要な要因である。
【0073】
上記は特定の好ましい態様を説明しているが、本発明がそのように制限されないことが理解されよう。開示された態様に対してさまざまな改変がなされ、そのような改変は本発明の範囲内にあることが意図されることは、当業者にとって想像されるであろう。本願明細書で引用した刊行物、特許出願、および特許はすべて、その全体が参照によって本願明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本願は、2009年2月2日に出願された米国特許出願第12/364,042号の恩典を主張し、その全体が参照によって本願明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の背景
本発明は、概して、ガンマ線検出装置、およびX線検出装置のための検出器に関する。
【発明の概要】
【0003】
本発明の一態様は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極とを含む、放射線検出器に関する。半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数は、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材の仕事関数よりも小さい。
【0004】
本発明の別の態様は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極と、アノード電極がカソード電極よりも高電位で維持され、かつ、信号がアノード電極から収集されるように、作動中に順バイアスを検出器に印加する手段とを含む、放射線検出器システムである。半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数は、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材料の仕事関数よりも小さい。
【0005】
最後に、別の態様は、以下の工程を含む、放射線検出器を作動させる方法に関する。すなわち、a)対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極とを含む放射線検出器を提供する工程;b)放射線をカソード電極で受光する工程;c)アノード電極をカソード電極よりも高電位で維持するために順バイアスを検出器に印加する工程;d)信号をアノード電極から収集する工程。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】アノード電極のピクセルを有するCZT基板の斜視図である。
【図2A】ハウジングを備えた検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図2B】ハウジングを備えた検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図2C】ハウジングを備えた検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図2D】ハウジングを備えた検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3A】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3B】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3C】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3D】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3E】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3F】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3G】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3H】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図3I】接触子が上に形成されるさまざまな段階での、検出器を作製する方法の概略断面図である。
【図4】金を含むカソードを有し、放射線にさらされていない比較装置の、I-Vの特徴を示すグラフである。
【図5】金を含むカソードを有し、放射線にさらされた比較装置の、I-Vの特徴を示すグラフである。
【図6】インジウムを含むカソードを有し、放射線にさらされていない、本発明の一態様の、I-Vの特徴を示すグラフである。
【図7】インジウムを含むカソードを有し、放射線にさらされた、本発明の一態様の、I-Vの特徴を示すグラフである。
【図8】異なるピクセル間ギャップ幅を有する、本発明の例示的な一態様についての縁部ピクセルのピクセル間抵抗を示すグラフである。
【図9】異なるピクセル間ギャップ幅を有する、本発明の例示的な一態様についての中央ピクセルのピクセル間抵抗を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
好ましい態様の詳細な説明
以下の定義を本願明細書において使用する。
【0008】
カソード電極:入射ガンマ線または入射X線が検出器に入る、すなわち、放射線源に向けて配置されている、検出器基板のうちの一方の主要面上の電極。
【0009】
アノード電極:基板の後面に位置づけられた、すなわち、放射線源から離れた方に配置されている、セグメント化電極接触子。
【0010】
順バイアス:アノードがより高電位にさらされ、カソードがより低電位を受けるような、アノード導電接触子とカソード導電接触子との間への電位の印加。本願明細書で用いられる順バイアスが意味するのは、アノードが、たとえば検出器に入る入射ガンマ線または入射X線によって発生する電圧または電流などの電気信号がそこから収集される電極であるということである。
【0011】
ピクセル間、またはピクセルの間:ピクセル電極同士を隔てる領域またはギャップ。ピクセル化されていない別々の接触子セグメントを有する電極構成については、この用語は、接触子セグメント間のギャップに同等に適用される。
【0012】
ソルダマスク:半導体検出器またはプリント基板(「PCB」)上のコーティングであり、半導体検出器上のセグメント化されたアノード(ピクセル)またはPCB上の接合金属パッドを絶縁して保護するように設計されており、PCB取付けプロセス中にこれらが短絡しないようにする。ソルダマスクは、たとえば濃緑色/青色、および場合によっては黄色がかった色など任意の適切な色をしていてもよい。
【0013】
本発明の態様は、たとえば金属-半導体-金属(MSM)検出器、または金属/半導体ヘテロ接合型の検出器など、改善された感度を有する放射線検出器を記載する。換言すれば、検出器は、好ましくは、半導体基板またはタイルに形成されるp-i-nダイオードまたはp-nダイオードを含まない(すなわち半導体p-n接合ではない)。実際には、本発明の態様の放射線検出器は、p-i-nヘテロ接合装置に通常は求められる冷却を必要とせずに室温で作動するという、さらなる利益をもたらす。本発明の態様は、検出器の感度の改善という利益をもたらすとともに、たとえばより低い漏れ電流および高い検出器エネルギー分解能などの他の有益な特性をも維持する。さらに、本発明の態様は、大量生産に対して信頼性があり好適であるという、さらなる利益をもたらすことができる。一態様では、放射線検出器は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するよう構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、複数のアノード電極とを含む。好ましくは、半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数が、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材料の仕事関数よりも小さい。たとえば、T. Takahashi et al., "High-resolution Schottky CdTe diode for hard X-ray and gamma-ray astronomy", Nuclear Instruments & Methods in Physics Research A 436 (1999) 111-119に開示されているような先行技術の放射線検出器装置は、カソード電極材料としてではなくアノード電極材料としてインジウムを代わりに利用しており、誘起信号がアノードおよびカソードからそれぞれ収集されるように、順バイアスおよび逆バイアスを印加することに留意されたい。たとえば、正バイアスが、T. Takahashi et al.の研究において開示されている装置のInアノードに配置される。しかし、アノード電極材料としてインジウムを用いたアノードにおける信号収集は、本発明の態様の構成における光電ピーク計数感度の増大という利益をもたらさない。
【0014】
放射線検出器を、さまざまな方法で構成することができる。一般的な構成は、半導体板または基板の両側に位置づけられた1つのカソード電極と複数のアノード電極とを含む。一般的に、これらの放射線検出器は、さまざまな堆積プロセスおよびリソグラフィプロセスによって製造されたピクセル化されたアノード電極のアレイを有し、結果として、ピクセル間ギャップまたはピクセル間領域と称されるピクセル間のギャップが生じる。本発明の例示的態様では、ピクセル間ギャップが100μmから500μmの間の幅を有する。より好ましくは、ピクセル間ギャップが200μmから400μmの間の幅を有する。
【0015】
好ましい態様では、放射線検出器は、たとえばCdZnTe(CZT)またはCdTeを好ましくは含む半導体材料など、対向する前後面を有し、かつp-n接合またはp-i-n接合のない半導体材料を含む。しかしながら、ヨウ化鉛、臭化タリウム、ガリウムヒ素、またはケイ素で例示される他のタイプの半導体材料を使用してもよい。
【0016】
固有の電子的特性を有する広帯域ギャップの三元II-VI族化合物半導体である、Cd(1-x)ZnxTe(但し、xは0.5以下)がより好ましい。このタイプの半導体は、核放射線検出、分光法、および医用画像法の用途のために、室温で作動する分光計として使用されるガンマ線検出器およびX線検出器において、有用である。
【0017】
さらに、好ましい態様では、放射線検出器は、放射線を受光するように構成され、半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極とを含む。カソード電極材料の仕事関数は、好ましくは約4.5eV未満であり、一方、アノード電極材料の仕事関数は、好ましくは約4.8eV以上である。約4.5eV未満の仕事関数を有するカソード電極材料は、たとえば、In、Al、およびTi、ならびにその合金のうちの1つを含む群から選択されてもよい。4.8eV以上の仕事関数を有するアノード電極材料は、たとえば、Au、Pt、および他の貴金属、ならびにそれらの合金のうちの1つを含む群から選択されてもよい。本発明の態様では、約4.5eV未満の仕事関数などの低仕事関数を有するカソード電極材料、たとえばインジウムを含むカソード電極材料を利用することによって、高密度の電荷注入、すなわち電子注入が、カソードから金属/半導体界面で生じる。
【0018】
作動中、好ましい態様のアノードおよびカソードは、電圧源に電気的に接続される。たとえば、カソードを接地しつつ正電圧をアノードに印加することによって、あるいは負電圧をカソードに印加してアノードを仮想的に接地することによって、アノードはカソードよりも高電位にさらされる。
【0019】
図1に示すのは、たとえばCZT基板(「タイル」とも称される)などの半導体基板304上に形成された、ピクセル化アノード電極302の一例である。カソード電極は、基板304の底面に形成されている。
【0020】
図2Aは、CZT基板304の後面にアノード電極のピクセル400を含み、かつCZT基板の前面にカソード電極201を含む、本発明の一態様の放射線検出器装置を示す。任意で、図2Bに示すように、保護コーティング420が、CZTタイルの研磨された側縁部に塗布される。たとえば、CZTタイルは、露出した側面を被覆するために、保護コーティング(ソルダマスクなど)に浸漬されて、少なくとも5時間乾燥されてもよい。
【0021】
任意のハウジングは、別個に、かつ放射線検出器に取り付ける前に形成されるのが好ましい。米国特許第7,462,833号に記載されているハウジングは、参照によって本願明細書に組み込まれるが、任意のハウジングとして使用されてもよい。したがって、一態様の検出器を作製する方法は、(a)対向する前後面を有する半導体基板と、半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、半導体基板の後面に複数のアノード電極とを含む放射線検出器を提供する工程であって、カソード電極材料の仕事関数がアノード電極材料の仕事関数よりも低い、工程、(b)別々に形成された導電性ハウジングを提供する工程、および(c)ハウジングとカソード電極とが電気的に接触するように、ハウジングをカソード電極に取り付ける工程を含む。代替として、任意のハウジングは完全に省略されてもよく、あるいは、格子状のPCBタイプのカソード板など、任意のプリント基板タイプのカソード板で代用されてもよい。
【0022】
特定の態様の方法についての非限定的な例が、図2Aから図2Dに表されており、ハウジングを検出器に取り付けるさまざまな段階での検出器の側面断面図を示している。図2Aから始めると、放射線検出器、ならびにその基本構成要素であるカソード電極201、半導体基板304、およびアノード電極400が示されている。アノード電極およびカソード電極は、図3により詳細に記載されているように、基板304上にどのような順で形成されてもよい。検出器は、ガードリングまたはシールド電極のうちの少なくとも1つを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。次に、図2Bに示すように任意の保護コーティング(すなわちソルダマスク)420が、基板304の縁部に塗布される。代替として、一旦ハウジングをコーティング上に形成したら、このコーティングを除去してもよく、結果としてハウジングと検出器の側面との間にエアギャップが生じる。代替として、このコーティング420は、ヒュミシール(Humiseal)などの他の電気絶縁材料でできている。
【0023】
図2Cに示すように、導電性ハウジングが、カソード、および任意で検出器の両側面に取り付けられる。この図示では、ハウジング425が、上部440と任意の側面430とを含む。後で保護コーティングを除去することを望む場合など、さまざまな理由に応じて、検出器の両側面が、検出器の両側面を被覆する保護コーティング(すなわちソルダマスク)420に接着されていてもよいし、接着されていなくてもよい。当業者は他の接着剤から選択することができるが、この例では、エポキシによってハウジングをカソードに取り付けている。
【0024】
導電性ハウジング425は、背景電磁場(または磁場)から検出器を遮蔽する。さらに、このハウジングを使用して、装置電場が集束する。ハウジングはまた、好ましくは、X線放射線またはガンマ線放射線に対して透過性である。さらに、ハウジングは、好ましくは、周囲空気中、たとえば検出器の正常運転条件下で、酸化を示すことがほとんどまたは全くない。このように、ハウジングは、最も好ましくは薄型構造であり、放射線に対して透過性があり、背景電磁場に実質的に影響されない材料を含み、周囲条件で酸化を示すことがほとんどまたは全くない。
【0025】
たとえば、ハウジングは、約50ミクロンから約100ミクロンの間の厚さであってもよい。いくつかの事例では、金属箔がハウジングとして十分である。
【0026】
上に記載されているパラメータに基づいて、当業者はハウジングを構成するために多数の材料から選択することができる。一般に、金属および金属合金が好ましい。空気中で実質的に酸化しない任意の適した金属を使用してもよい。適した金属合金の非限定的な例には、ステンレス鋼、真鍮(Ni/Tiをコーティングした真鍮など)、NiCo合金、NiFe合金、NiFeCo合金、NiFeMo合金、またはNiFeCuMo合金が含まれる。「ミューメタル」と称される金属合金の種類が最も好ましい。ミューメタルは、一種のNiFe合金であり、静磁場または低周波磁場を遮蔽するのに特に効果的である。いくつかの事例では、上述の合金は、他の合金元素でドープされてもよく、機械的に前処理されてもよく(たとえば冷間加工または熱間加工など)、化学的に表面処理されてもよく(たとえば耐食性表面コーティング)、またはその任意の組み合わせであってもよい。
【0027】
特定の態様では、放射線検出器のためのハウジングは、半導体放射線検出器のカソード電極を電気的に接触させるための第1の手段と、検出器の少なくとも1つの側面を遮蔽するための第2の手段とを含む。たとえば、第1の手段は、上部440を含んでいてもよく、一方、第2の手段は、ハウジング425の側面430を含んでいてもよい。いくつかの事例では、側面430が、少なくとも一方の側面で、半導体基板のわずかな厚さを覆って延在していてもよい。しかし、側面430を完全に省略してもよい。上部440は、放射線検出器のアノードとカソードとが電気的に接触している高電圧供給源と最適に電気的に接触するように形成されるのが好ましく、カソードに対してより高電位でアノードを維持するのが好ましい。
【0028】
いくつかの事例では、平坦な上部440が好ましい。別の特定の態様では、ハウジング425は半球型またはドーム型であり、半導体基板の少なくとも一方の側面を部分的にまたは完全に被覆する。
【0029】
いくつかの態様では、ハウジング425が検出器の幾何学的形状に適合するように、より具体的には、ハウジング425が固定されているカソードの幾何学的形状に適合するように、成形されている。それゆえに、当業者は、検出器の形状を考慮して、湾曲しているかまたは角のあるさまざまなハウジングの形状を企図することができる。非限定的な例では、ハウジングは矩形または円形の断面を有する(たとえば円筒形)形状である。
【0030】
ハウジングが、基板の少なくとも一方の側面を(部分的にまたは完全に)覆って延在するように構成される場合、当該少なくとも一方の側面は、ハウジングから間隔を置いて配置されている。このギャップは、空であるか、あるいは絶縁材料で充填される。
【0031】
ハウジングとカソード電極との間に導電路が存在するように、ハウジング425がカソード電極201に取り付けられる。好ましい事例では、ハウジングおよびカソードが、導電性材料を介して取り付けられる。最も好ましくは、ハウジングの内面または表面に塗布された導電性エポキシなどの、導電性ポリマー材料が使用される。
【0032】
図2Dは、必須ではない工程を示す。ここでは、ソルダマスク450がピクセル化アノード電極400を覆って配置されており、機械的保護をもたらすと同時に、電極への外部からのアクセスが可能になる。マスクがピクセル化アノード電極400間にピクセル間領域で形成される場合、ソルダマスク450によってアノード電極をさらに電気的に絶縁することができる。
【0033】
したがって、任意の特定の態様は、カソード電極201に接触しているハウジング425に加えて、アノード電極の上に配置されているソルダマスクを含む、放射線検出器を目的とする。本願の態様に適したソルダマスクは、2006年12月21日に出願され、その全体が参照によって本願明細書に組み込まれる米国特許出願第11/642,819号に記載されている。
【0034】
アノード400をおおうソルダマスク450の材料の部分が、マスクを通る紫外線などの放射線に直接さらされるように、ソルダマスクは、好ましくは光画像形成性(photoimageable)である。使用されるエポキシのタイプ(すなわち、ポジ型のフォトレジストに類似しているかネガ型のフォトレジストに類似しているか)に依存して、放射線はソルダマスクの露出部を架橋するか、あるいは架橋しない。架橋されていない部分は、続いて選択的にエッチングされて、アノード400の表面の一部分を露出させる開口部460を形成する。代替として、非光画像形成性のソルダマスク材料については、ソルダマスクを覆って形成されている従来のフォトレジストマスクを、パターニング工程で使用してもよい。放射線検出器装置全体は、カソードおよび開口部によって露出しているアノード領域を除いて、ソルダマスクで被覆される。好ましくは、各アノード400の一部分のみが、各開口部460で露出し、タイル304は露出しない。したがって、ソルダマスクは、放射線検出器装置全体を保護するための保護コーティング(すなわちパッシベーション/封入剤)として使用される。
【0035】
米国特許出願第11/642,819号に記載されているように、ソルダマスクを含む放射線検出器装置は、接合パッドに位置づけられているアンダーフィルの充填位置で、読み出しプリント基板(PCB)に接続されてもよい。はんだ球が、ソルダマスクに形成された開口部460に配置されており、検出器装置のアノード400とプリント基板の導体パッドとを電気的に相互接続するのに役立つ。
【0036】
図3Aから図3Iは、検出器セル間に高い比抵抗を有するピクセル間ギャップを有する放射線検出器セルを、規定する位置(ピクセル)において、半導体基板の上に3層の金属アノード接触子を形成する方法における段階の一例を示すが、本願の態様を制限する意図はない。3層接触子が図示されているが、単一層または2層のアノード電極を使用してもよいことを理解されたい。たとえば、ヨウ化鉛、臭化タリウム、ガリウムヒ素、またはケイ素などの他の半導体材料を使用可能であることは明らかであるが、この例では、半導体基板がテルル化カドミウム亜鉛(CdZnTe)、またはテルル化カドミウム(CdTe)から製造されると想定される。また、他の金属アノード、合金、または、たとえば白金など他の導電材料を代わりに使用可能であることは明らかであるが、金属化層および接触子のために使用される金属が金であると想定される。
【0037】
このように、図3Aから図3Iは、金のアノード接触子をCdZnTe基板に形成するさまざまな段階における、検出器基板の側面から見た模式的断面図である。このプロセスの各段階での詳細な特徴および構造が示されており、結果として、CZTの後面におけるアノード接触子ピクセルのアレイ(この図示では上向きに描かれている)と、CZTタイルの前面における単一のカソード電極(この図示では下向きに描かれている)とがもたらされる。この例では、装置の構成を改善するために、2つのさらなる接触層が、後面にあるピクセル化された一次接触層の上に付加されている。このプロセスは、CZT装置の任意のアレイサイズおよびピクセル構成に適用することができる。典型的な装置サイズは、用途に応じて8x8ピクセルまたは11x11ピクセルを有する、20x20x5mmの検出器である。接触子を構成するプレカーサーとして、高品質で清浄な結晶表面が堆積プロセスのために用意されるように、CZTウエハが研磨されエッチングされる。
【0038】
ダイレクトリソグラフィ構成プロセスが、図3Aから図3Iを参照しつつ説明されており、一次アノード接触子が金であり、2つのさらなる接触層を有している事例について、および図3Aに示されているCZTタイルすなわち基板304の対向する面にカソード接触子を別々に形成することについて、説明されている。しかし、留意されたいのは、アノード電極を形成するダイレクトリソグラフィプロセスは、電極を形成するのに用いることのできる多くのプロセスのうちの単に1つにすぎないことである。リフトオフ法を含むがこれに限定されない他の方法が、電極を形成するために代替的に使用されてもよい。たとえば、本発明の態様のアノード電極を形成するためのリフトオフ法は、以下の工程を含む。すなわち、a)基板を提供する工程、b)基板表面上にマスク(フォトレジストマスクなど)を形成する工程であって、パターンがマスク材料の部分とマスク材料のない空間とを含む、工程、c)アノード電極材料をマスクの上に堆積させる工程であって、アノード電極材料の第1の部分が、マスクパターンの空間中で基板上に形成され、一方、アノード電極材料の第2の部分がマスク材料上に形成される、工程、およびd)マスク材料上に形成されたアノード電極材料の第2の部分がマスクにより除去され、かつ基板と接触しているアノード電極材料の第1の部分が基板上に残留するように、マスクを除去またはリフトオフする工程。
【0039】
図3Bに示すダイレクトリソグラフィプロセスの段階1では、金の一次層200が、CZTタイル304の後面に堆積する(後面は、図3Bでは上を向いて示されている)。金層200は、無電解析出によって堆積させてもよい。あるいは、たとえばスパッタリングまたは蒸発などの他の知られている技術によって、金層200を堆積させてもよい。さらに、インジウムを含むカソード電極層201は、スパッタリング、無電解メッキ法または他の適した方法によって、CZTタイルの対向する前面に堆積する。このCZTタイルは、まず、よく知られているようにアセトン中で洗浄される。洗浄されたCZTタイル304は適切にマスクされて、第1の側面に金を、第2の側面にインジウムをスパッタリングまたはメッキするために、チャンバに配置される。堆積するカソード層の典型的な厚さは、10nmからlO0nmの間であってもよい。基板への密着性を増大させるために、堆積した金を、90℃で15分間アニールしてもよい。密着性の質を確認するために、スコッチテープを使用して、数時間後に密着性試験を行ってもよい。
【0040】
図3Cに示す任意の段階2では、2つのさらなる接触層が、タイルの後面(ピクセル化されることになるアノード側)で一次接触層200上に堆積する。この例では、Ni層312が、スパッタリングまたは熱蒸発プロセスを用いて、l00nm未満、名目上は50nmの厚さまで堆積する。ついで、別の金層310が、スパッタリング、熱蒸発プロセス、および/または無電解プロセスを用いて、50nm未満、名目上20nmの厚さまで堆積する。代替の導電性接触子材料を、このさらなる接触層のいずれか一方または両方と交換することができる。
【0041】
段階3では、図3Dに示すように、フォトレジスト202が接触層上に塗布される。タイル304は、レジスト、たとえば Shipley 1805レジストの中に浸漬される。必要に応じて、余分なレジストがQ-チップを使用して縁部から除去され、レジストが、ピクセルの品質にとって有害となりうるいかなるエッジビードも(特にピクセル化面において)形成しないことが保証される。一般に、できるだけ少量のレジストが、ピクセル化面上に残るべきである。ピクセル化面を上にかつ水平に保ちながら、このレジストを10分間完全に乾燥する。
【0042】
レジストコーティングは、段階4において、90℃で10分間焼成することによって硬化される。この段階は、レジストから余分な溶媒をなくすために行われる。タイルは、これで、リソグラフィ露光のために準備される。
【0043】
段階5では、図3Eに示すように、フォトリソグラフィによって、ピクセルパターンがタイル304の後面上に形成される。紫外線マスク204がCZTタイルの表面上に位置合わせされ、ポジ型レジストが紫外線にさらされる。ダイレクトリソグラフィマスクによって、選択されたピクセルパターンにおけるレジスト領域が遮蔽され、ピクセル間ギャップが紫外線照射にさらされる。接触子マスクが示されているが、近接マスクおよび投影マスクなどの他の方法も同様に機能する。ガラス板が頂部に配置され、そのガラス板が水平であることが保証される。このことによって、タイルとマスクとの間の均一な接触が保証される。例示的なレジストとして、紫外線ランプ(365nm波長)による数分間の露光が適している。所望により、ポジ型フォトレジストの代わりにネガ型レジストを使用してもよい(その場合には、露光マスクの透過領域と不透過領域とが逆転する)。
【0044】
図3Fに示される段階6では、露光したフォトレジストが現像される。レジスト現像器(たとえば、Microposit developer, MF-319)でタイルを覆う。このタイルは、ピクセル化面を上に向けて現像器の中に配置され、2分間現像される。タイルは現像器から取り出されて、脱イオン水の中で洗浄される。紫外線露光されたレジストは、ピクセル間ギャップの作製に備えて除去される。
【0045】
段階7では、残留レジストのピクセルパターン314を、90℃で20分間焼成する。この工程は、レジストをさらに硬化させるために行われる。
【0046】
図3Gに示す段階8では、露光された接触領域316(ピクセルレジストパターン314によって覆われていない)がエッチングされる。この例の接触子材料について、以下のエッチング溶液が、一次接触層だけか、または任意の3層接触子かのいずれかをエッチングするのに適している。エチレングリコール25mlをプラスチック製のビーカーに注入し、続いて使い捨てピペットを使用して臭素0.5mlを添加することによって、2%の臭素-エタノールグリコール(BrEG)溶液を調製する。同じピペットを使用して、均一になるまで溶液をよく混合する。しかし、異なるピペットまたは混合装置を使用してもよい。エッチングは、約3分間行われる。このエッチングは、マスクされていないピクセル間接触子材料を除去するために行われる。ピクセル間ギャップを露出して何もないピクセル間ギャップを得るために、能動噴霧攪拌(active spray agitation)が行われる。使い捨てピペットを使用して、Br-EGの一定流を発生させて、より良好にエッチングするために攪拌することができる。しかし、異なるピペット、または攪拌装置あるいは混合装置もまた、使用してもよい。噴霧エッチング技術によって、ピクセル間ギャップから接触子材料の剥片が迅速に除去され、結果として高いピクセル間抵抗がもたらされる。タイルは、エッチング液から取り出されて、脱イオン水の中で洗浄される。
【0047】
図3Hに示す段階9では、残留レジストが、アセトン浴を用いて剥離され、結果として、接触子のピクセルアレイを有するタイル320となる。したがって、フォトレジストは、CdTeまたはCdZnTe検出器の上に残留しない。というのは、通常、フォトレジストは、やがて湿度を吸収して、検出器の性能を低下させる吸湿性材料であるからである。
【0048】
金などの約4.8eV以上の仕事関数を有する金属層を基板後面上に堆積させるプロセス、インジウムなどの約4.5eV未満の仕事関数を有する金属層を前面上に堆積させるプロセス、ダイレクトフォトリソグラフィプロセス、およびエッチングプロセスをすべて組み合わせると、漏れ電流を最小限に抑え、装置の性能の改善がもたらされる。
【0049】
図3Iに示す任意の段階10では、構成されたCZT装置322のタイル305のある面にある一次接触子材料(この例では金)が、側面研磨によって除去される。たとえば、タイルのこの面は、まず1200番グリッドで研磨され、ついで、微細研磨加工として0.3ミクロンで研磨される。1つの代替態様では、段階1において両面に金を堆積させる代わりに、CZTタイルの両面をマスクすることができる。このため、表面の接触子を除去する段階10は必須でなくてもよい。結果として得られる構成されたCZT装置は、前面に残るカソード電極201と、一次接触層200および二次接触層312および310とから形成され、後面上でピクセル間ギャップ316によって隔てられているピクセル化されたアノード電極のアレイとを有する。図3Iは、多層ピクセルは、例示的目的のために断面が同一の幅であるとして示されている。
【実施例】
【0050】
オーム性は、典型的に、直線状の電流-電圧(I-V)の関係によって示される。カソード電極材料としてのインジウムは、金と比較してより大きなオーム性を呈する。図4から図7に示すように、比較装置および本発明の例示的態様について、Co-57線源で照射してもしなくても、カソードで0Vから5Vの間の電流が測定された。線形回帰分析は、曲線の線形性を測定するのに使用されるR2によって行われた。なお、R2の最大値=1は、完全な線形の曲線、したがって完全なオーム特性を示す。
【0051】
図4に示すように、回帰分析が示すのは、カソード電極材料として金を含み、Co-57線源からの放射線にさらされていない比較装置が、結果として0.8532に等しいR2値をもたらすことである。図5に示すように、図4の装置を照射すると、I-Vの関係の回帰分析は、結果として得られるR2値が0.7861に等しいことを示し、これは金のカソードのオーム性が減少したことを示す。
【0052】
図6に示すように、回帰分析が示すのは、カソード電極材料としてインジウムを含み、Co-57線源によって照射されない例示的装置が、結果として0.9996に等しいR2値をもたらすことであり、I-Vの関係について高度な線形性を表す。図7に示すように、図6の装置を放射線にさらすと、回帰分析が示すのは、インジウムカソードのオーム性は、極めてわずかにのみ減少することであり、結果として得られるR2値は0.9991に等しく、これはなお高度な線形性、したがって、オーム特性を表す。
【0053】
図4〜7より明らかなことは、カソード電極材料としての金をインジウムと交換することによって、本発明の態様が、たとえば放射線検出器として作動する場合に、電荷収集の改善という利益をもたらすことである。
【0054】
光電ピーク計数を改良するために、発明者らは、検出器の感度の改善を達成するさまざまな構成を発見した。たとえば、電極のうちの1つの材料を変更することによって、すなわち、カソード電極材料を金からインジウムに変更することによって、結果として、電極のオーム性が増大する。また、検出器の活性体積(active volume)を変化させることによって、たとえばピクセル間ギャップ幅を減少させることによって、結果として、装置の性能が改良される。
【0055】
これらの結果を達成するために、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、複数のアノード電極とを含む、放射線検出器が製造された。この装置のさまざまな要素が、特定の実験を実行するために変更された。たとえば、金のカソード電極およびアノード電極を有する検出器の上で、ピクセル間ギャップは、ピッチを2.46mmに維持しながら、600〜460μmの間を変化した。続いて、アノード上のピクセル化には影響を及ぼさずに、カソードが研磨され、インジウムによって金属被覆された。最終段階として、カソードが保護され、アノードは、300μmのピクセル間ギャップで再度構成された。
【0056】
以下は、本発明の態様の放射線検出器装置の具体的な装置構成を詳述する、非限定的な例である。
【0057】
比較例1:460μmのピクセル間ギャップを有するInカソードおよびAuアノード
放射線検出器装置の第1の比較例として、8x8のピクセル構成を有する20x20x5mm3の放射線検出器装置が、表1においてCE1として記載されている。この装置は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられた金を含むカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、金を含む複数のアノード電極とを含む。複数のアノード電極は、各ピクセル間のピクセル間ギャップが約600μmであるピクセルとして形成されている。アノード電極およびカソード電極は、約400Vの順バイアス電位を印加する手段を提供する電圧源に電気的に接続されているとともに、Co-57線源がカソードから25mmのところに配置されている。
【0058】
比較例2:300μmのピクセル間ギャップを有するInカソードおよびAuアノード
放射線検出器装置の第2の比較例として、8x8のピクセル構成を有する20x20x5mm3の放射線検出器装置が、表1においてCEとして記載されている。この装置は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられた金を含むカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、金を含む複数のアノード電極とを含む。複数のアノード電極は、各ピクセル間のピクセル間ギャップが約460μmであるピクセルとして形成されている。アノード電極およびカソード電極は、約400Vの順バイアス電位を印加する手段を提供する電圧源に電気的に接続されているとともに、Co-57線源がカソードから25mmのところに配置されている。
【0059】
実施例1:460μmのピクセル間ギャップを有するInカソードおよびAuアノード
本発明の非限定的な態様の第1の実施例として、8x8のピクセル構成を有する20x20x5mm3の放射線検出器装置が、表1に記載されている。実施例1の装置は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたインジウムを含むカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、金を含む複数のアノード電極とを含む。複数のアノード電極は、各ピクセル間のピクセル間ギャップが約460μmであるピクセルとして形成されている。アノード電極およびカソード電極は、約400Vの順バイアス電位を印加する手段を提供する電圧源に電気的に接続されているとともに、Co-57線源がカソードから25mmのところに配置されている。
【0060】
実施例2:300μmのピクセル間ギャップを有するInカソードおよびAuアノード
本発明の別の非限定的な態様の第2の実施例として、8x8のピクセル構成を有する20x20x5mm3の放射線検出器装置が、表1に記載されている。実施例2の装置は、対向する前後面を有する半導体基板と、放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたインジウムを含むカソード電極と、前記半導体基板の後面に形成された、金を含む複数のアノード電極とを含む。複数のアノード電極は、各ピクセル間のピクセル間ギャップが約300μmであるピクセルとして形成されている。アノード電極およびカソード電極は、約400Vの順バイアス電位を印加する手段を提供する電圧源に電気的に接続されているとともに、Co-57線源がカソードから25mmのところに配置されている。すべての計測に同じCo-57線源が使用されており、この計測が互いに数週間以内に行われ、約17μCiの線源強度に基づいて計測されたことに留意されたい。
【0061】
【表1】
【0062】
表1で示すCE1とCE2の構成の間で、光電ピーク計数における12%の平均増加が認められる。
【0063】
表1で示すCE2とEx1の構成の間で、光電ピーク計数における11%の平均増加が認められる。
【0064】
表1で示すEx1とEx2の構成の間で、光電ピーク計数における10%の平均増加が認められる。
【0065】
表1に示される結果は、CE1の構成をEx2の構成に進歩させると、光電ピーク計数が30%から50%有効に増加することを要約している。
【0066】
表2は、さまざまな放射線源強度についてのCE1とCE2との構成間での、中央ピクセルの光電ピーク計数における変化を示す。放射線源強度が2倍になっても、縁部ピクセルは予想される変化を示さなかったことから、表2に示される結果を得る実験では、分析からエッジ効果を排除するため、中央ピクセルのみが考慮される。表2に示すように、ピクセル間ギャップ幅が600μmから460μmまで変化する場合、光電ピーク計数が2%から23%まで増加する結果となる。このことが示すのは、構成の他の局面、たとえばピッチを維持しつつピクセル間ギャップを減少させることが、検出器の感度を高めるのに有利となるということである。
【0067】
【表2】
【0068】
次の段階において、ピクセル間ギャップ幅が460μmの、4つの検出器のカソード電極を、Inに変更した。これは、アノードを保護することによって構成を維持し、かつ無電解インジウム溶液の中にカソードを吊るすことによって行われた。表3は、このような構成における変化の結果を示す。
【0069】
【表3】
【0070】
最終段階において、4つの検出器のアノード電極が、300μmというより小さなピクセル間ギャップで再度構成された。表4は、この段階の結果を示す。この変化によって、7〜17%の光電ピーク計数の増加が見られる。このことが示すのは、この特定の検出器構成における感度を改良するのに、300μmのピクセル間ギャップが最良であるということである。一般に、ギャップ幅は、検出器の他の材料および寸法に依存して、100ミクロンから500ミクロンまで、たとえば200ミクロンから400ミクロンまで変化してもよい。
【0071】
【表4】
【0072】
留意されたいのは、本願明細書において開示されている本発明の態様のさらなる例として、ピクセル間ギャップをさらに100μmまで減少したが、これらの検出器の測定されたピクセル間抵抗が、460μmのピクセル間ギャップ幅を含む本発明の態様に対して平均して2桁少なかったことである。加えて、抵抗プロファイルが高バイアスで激減し、このことは、電気絶縁破壊の可能性を示している。たとえば、図8は、460μm、300μm、および100μmのピクセル間ギャップ幅を含む、本発明の例示的態様における縁部ピクセルのピクセル間抵抗の比較を示している。図9は、これらの構成の検出器の中央ピクセルについての同様の比較を示す。上述のように、中央ピクセルは、一般的に、検出器全体の中で最良のピクセル間抵抗を有する。そのうえ、300μmのピクセル間ギャップ幅を含む例示的態様は、460μmのピクセル間ギャップ幅を含む例示的態様よりも抵抗がわずかに低いが、抵抗プロファイルは、電気安定性が保証されるのになお十分に均一である。反対に、100μmのピクセル間ギャップ幅を含む例示的態様は、460μmのピクセル間ギャップ幅を含む例示的態様よりも抵抗が2桁低く、高バイアスに向かって極めて急激に減少する傾向がある。換言すれば、100μmのピクセル間ギャップ幅を含む例示的態様は優れた感度を示すが、一方で、ピクセル間抵抗が不十分であり、そして、ピクセル間抵抗は、放射線検出器のエネルギー分解能において極めて重要な要因である。
【0073】
上記は特定の好ましい態様を説明しているが、本発明がそのように制限されないことが理解されよう。開示された態様に対してさまざまな改変がなされ、そのような改変は本発明の範囲内にあることが意図されることは、当業者にとって想像されるであろう。本願明細書で引用した刊行物、特許出願、および特許はすべて、その全体が参照によって本願明細書に組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する前後面を有する半導体基板と、
放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、
前記半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極と
を含む、放射線検出器であって、
半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数が、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材料の仕事関数よりも小さい、
放射線検出器。
【請求項2】
カソード電極材料の仕事関数が約4.5eV未満であり、かつアノード電極材料の仕事関数が約4.8eV以上である、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
カソード電極材料が、In、Al、およびTiのうちの1つを含む、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項4】
アノード電極材料が、AuおよびPtのうちの1つを含む、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項5】
半導体基板がCdTeまたはCZTを含み、かつ該基板がp-n接合またはp-i-n接合をしていない、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項6】
複数のアノード電極が、2つの隣接するアノード電極ピクセルの各々の間にピクセル間ギャップを有するピクセルとして構成されている、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項7】
ピクセル間ギャップ幅が、100μmから500μmの間である、請求項6記載の放射線検出器。
【請求項8】
ピクセル間ギャップ幅が、200μmから400μmの間である、請求項7記載の放射線検出器。
【請求項9】
カソード電極と電気的に接触して位置づけられている導電性ハウジングをさらに含む、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項10】
アノード電極およびカソード電極に電気的に接続される電圧源をさらに含む、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項11】
対向する前後面を有する半導体基板と、
放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、
前記半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極であって、半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数が、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材料の仕事関数よりも小さい、アノード電極と、
アノード電極がカソード電極よりも高電位で維持され、かつ、信号がアノード電極から収集されるように、作動中に順バイアスを検出器に印加する手段と
を含む、放射線検出器システム。
【請求項12】
カソード電極材料の仕事関数が約4.5eV未満であり、アノード電極材料の仕事関数が約4.8eV以上である、請求項11記載の放射線検出器システム。
【請求項13】
カソード電極材料がIn、Al、およびTiのうちの1つを含み、アノード電極材料がAuおよびPtのうちの1つを含み、かつ半導体基板がCdTeまたはCZTを含む、請求項11記載の放射線検出器システム。
【請求項14】
以下の工程を含む、放射線検出器を作動させる方法:
対向する前後面を有する半導体基板と、
放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、
前記半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極と
を含む放射線検出器であって、半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数が、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材料の仕事関数よりも小さい、放射線検出器を提供する工程;
放射線をカソード電極で受光する工程;
アノード電極をカソード電極よりも高電位で維持するために順バイアスを検出器に印加する工程;および
信号をアノード電極から収集する工程。
【請求項15】
カソード電極材料の仕事関数が約4.5eV未満であり、かつアノード電極材料の仕事関数が約4.8eV以上である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
カソード電極材料がIn、Al、およびTiのうちの1つを含み、アノード電極材料がAuおよびPtのうちの1つを含み、かつ半導体基板がCdTeまたはCZTを含む、請求項14記載の方法。
【請求項17】
順バイアスが、カソード電極材料から半導体基板の前面に電子を注入する、請求項14記載の方法。
【請求項18】
放射線が、ガンマ線放射線およびX線放射線のうちの少なくとも1つを含む、請求項14記載の方法。
【請求項19】
複数のアノード電極が、2つの隣接するアノード電極ピクセルの各々の間にピクセル間ギャップを有するピクセルとして構成されており、かつ、信号が、各ピクセルで受光された放射線に対応する計測された電流または電圧を含む、請求項14記載の方法。
【請求項20】
ピクセル間ギャップ幅が、100μmから500μmの間である、請求項19記載の方法。
【請求項1】
対向する前後面を有する半導体基板と、
放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、
前記半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極と
を含む、放射線検出器であって、
半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数が、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材料の仕事関数よりも小さい、
放射線検出器。
【請求項2】
カソード電極材料の仕事関数が約4.5eV未満であり、かつアノード電極材料の仕事関数が約4.8eV以上である、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
カソード電極材料が、In、Al、およびTiのうちの1つを含む、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項4】
アノード電極材料が、AuおよびPtのうちの1つを含む、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項5】
半導体基板がCdTeまたはCZTを含み、かつ該基板がp-n接合またはp-i-n接合をしていない、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項6】
複数のアノード電極が、2つの隣接するアノード電極ピクセルの各々の間にピクセル間ギャップを有するピクセルとして構成されている、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項7】
ピクセル間ギャップ幅が、100μmから500μmの間である、請求項6記載の放射線検出器。
【請求項8】
ピクセル間ギャップ幅が、200μmから400μmの間である、請求項7記載の放射線検出器。
【請求項9】
カソード電極と電気的に接触して位置づけられている導電性ハウジングをさらに含む、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項10】
アノード電極およびカソード電極に電気的に接続される電圧源をさらに含む、請求項1記載の放射線検出器。
【請求項11】
対向する前後面を有する半導体基板と、
放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、
前記半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極であって、半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数が、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材料の仕事関数よりも小さい、アノード電極と、
アノード電極がカソード電極よりも高電位で維持され、かつ、信号がアノード電極から収集されるように、作動中に順バイアスを検出器に印加する手段と
を含む、放射線検出器システム。
【請求項12】
カソード電極材料の仕事関数が約4.5eV未満であり、アノード電極材料の仕事関数が約4.8eV以上である、請求項11記載の放射線検出器システム。
【請求項13】
カソード電極材料がIn、Al、およびTiのうちの1つを含み、アノード電極材料がAuおよびPtのうちの1つを含み、かつ半導体基板がCdTeまたはCZTを含む、請求項11記載の放射線検出器システム。
【請求項14】
以下の工程を含む、放射線検出器を作動させる方法:
対向する前後面を有する半導体基板と、
放射線を受光するように構成され、前記半導体基板の前面に位置づけられたカソード電極と、
前記半導体基板の後面に形成されている複数のアノード電極と
を含む放射線検出器であって、半導体基板の前面に接触しているカソード電極材料の仕事関数が、半導体基板の後面に接触しているアノード電極材料の仕事関数よりも小さい、放射線検出器を提供する工程;
放射線をカソード電極で受光する工程;
アノード電極をカソード電極よりも高電位で維持するために順バイアスを検出器に印加する工程;および
信号をアノード電極から収集する工程。
【請求項15】
カソード電極材料の仕事関数が約4.5eV未満であり、かつアノード電極材料の仕事関数が約4.8eV以上である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
カソード電極材料がIn、Al、およびTiのうちの1つを含み、アノード電極材料がAuおよびPtのうちの1つを含み、かつ半導体基板がCdTeまたはCZTを含む、請求項14記載の方法。
【請求項17】
順バイアスが、カソード電極材料から半導体基板の前面に電子を注入する、請求項14記載の方法。
【請求項18】
放射線が、ガンマ線放射線およびX線放射線のうちの少なくとも1つを含む、請求項14記載の方法。
【請求項19】
複数のアノード電極が、2つの隣接するアノード電極ピクセルの各々の間にピクセル間ギャップを有するピクセルとして構成されており、かつ、信号が、各ピクセルで受光された放射線に対応する計測された電流または電圧を含む、請求項14記載の方法。
【請求項20】
ピクセル間ギャップ幅が、100μmから500μmの間である、請求項19記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図3I】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図3I】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2012−516997(P2012−516997A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548042(P2011−548042)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/021142
【国際公開番号】WO2010/088066
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(507416182)レドレン テクノロジーズ インコーポレイティッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/021142
【国際公開番号】WO2010/088066
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(507416182)レドレン テクノロジーズ インコーポレイティッド (3)
【Fターム(参考)】
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