説明

改変ポリメラーゼおよび弱毒化ウイルスならびにそれらの使用方法

本発明は、種々のアミノ酸のうちの1つまたは複数の置換を保存領域に有するウイルスポリメラーゼに関する組成物および方法を包含し、複製の速度および忠実度の異なる酵素を産出する。弱毒化ウイルスおよび抗ウイルスワクチンの生成に関する普遍的に適用可能なポリメラーゼ機構に基づく手段を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して分子生物学、微生物学、および免疫学の分野に関する。より具体的に、本発明は、ウイルスの弱毒化および抗ウイルスワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの奏効するウイルスワクチンは、弱毒化生ウイルス株を用いる。生ウイルスワクチン開発の律速段階は、適切な弱毒化ウイルスの同定である。弱毒化ウイルスを開発する従来の方法は、ウイルスが新たな条件下で進化するにつれて、その元の宿主に対する病原性を低下させるように、“外来”細胞系または非増殖許容性細胞系中におけるウイルスの継代培養などの新規の条件下におけるウイルスの増殖を伴う。この方法は、目覚ましい成功を示したが、弱毒化変異が生じて進化する過程についてはほとんど知られておらず、弱毒化ウイルスの単離はランダムで緩慢な過程である。加えて、試みられる弱毒化の多くは予測不能であり、弱毒化の性質に依存し、弱毒化ウイルスが毒性に転じることもある。
【0003】
現在用いられる弱毒化法の一部は、毒性が強すぎて生成できないウイルスワクチン株を引き起こす。強毒性株は宿主にとって有害であり、ワクチンの開発はウイルスの不活化を要する。ここにはある欠点が存在する。例えば、経口または経鼻適用されるワクチンとしての不活化ウイルスは、抗体の著しい増加を引き起こすためには高濃度で投与しなければならない。別の例では、副作用のない経鼻または経口投与による簡便な市販の調剤で不活化インフルエンザウイルスまたは抗原を投与しても、アジュバントの使用なしでは十分な免疫反応をもたらさない(非特許文献1および非特許文献2参照)。したがって、例えば、乳剤不活化ワクチンの経口投与により免疫反応を最適に誘導するには、抗原66μg/投与から抗原384μg/投与の抗原含量が必要とされる(非特許文献3参照)。この用量は、抗原約15μg/投与である非経口投与用の不活化ワクチンの用量をはるかに上回る。
【0004】
経鼻投与に関する臨床試験で見出される低温適応の弱毒化インフルエンザ生ウイルスワクチンはウイルス抗原に基づき、それに由来するリアソートメントを、対応するA型インフルエンザ株またはB型インフルエンザ株の血球凝集素抗原およびノイラミダーゼ抗原に対する遺伝子を弱毒化された低温適応マスターウイルス株に転移させる遺伝学的方法により、毎年生成しなければならない。この方法はきわめて長時間を要し、手間もかかる。加えて、復帰変異を介して弱毒化ウイルスが毒性ウイルスに復帰突然変異し、ウイルス血症を引き起こしうる危険が存在する。生ウイルスにより免疫処置を行う場合、免疫化された個体の体内でさらなる拡散も起こる。低温適応ウイルスを用いる場合、できる限り−20℃に近い氷点下においてウイルスワクチンを保管する恒常的な必要性もまた存在し、これがワクチンの十分な保管寿命を確保するための冷凍の連鎖を絶対的に維持する必要を生じる。
【0005】
弱毒化インフルエンザ生ウイルスワクチンの生成、ウイルスリアソートメント、およびワクチンウイルスの増殖には卵細胞が用いられるが、存在しうる夾雑感染性因子が卵細胞内に転移されうる危険性がこれには伴う。生ウイルスは感染性物質の典型であり、したがって安全性のより高い基準が維持されなければならないので、その精製もまた問題なしではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chen et al., 1989, Current Topics in Microbiology and Immunology 146:101-106
【非特許文献2】Couch et al., 1997, J. Infect. Dis. 176:38-44
【非特許文献3】Avtushenko et al., 1996, J. Biotechnol. 44:21-28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
迅速かつ非ランダムな方法でウイルスを弱毒化する技法が用いられれば、現行の方法に付随する欠点は除かれるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、野生型(WT)ポリメラーゼと比較して複製速度の変化および忠実度の変化をもたらす活性部位リシン残基の置換を有する改変ウイルスポリメラーゼの開発に関する。典型的な実施形態において、ここに記載する改変ポリメラーゼは、ウイルス中に組み込まれたとき、対応するWTポリメラーゼよりも低い複製速度および高い忠実度を示す。ここに記載する実験において、ポリオウイルス(PV)3Dpol活性部位残基であるLys−359は、ヌクレオチド組み込み反応のリン酸転移段階における一般酸触媒として同定された。驚くべきことに、ポリメラーゼの反応速度および反応精度におけるわずかな変化がウイルスに対する劇的な弱毒化効果を有することが判明した。変異PVウイルスは、K359RまたはK359H置換をもたらす改変ポリメラーゼ遺伝子を有するように作製した。これらのウイルスは、WTウイルスと比べ、細胞内で感染性でありかつ弱毒化されることが示された。ここに記載するポリメラーゼ活性部位に良好に保存される残基は、ポリメラーゼの反応速度および/または反応精度を調節し、したがってウイルス弱毒化の標的となる。他のクラスの活性部位リシン残基もまた同定および解析した。かくして、ここに記載する組成物および方法は、一定間隔の抗原変化を伴うウイルス(例えば、インフルエンザ)、新興および再興ウイルス(例えば、SARS、西ナイル、デング)、およびテロまたは生物兵器の作用物質として用いられるウイルス(例えば、エボラ、天然痘)を含むあらゆるウイルスに適用することができる。したがって、ここに記載する組成物および方法は、抗ウイルスワクチン用にウイルスを弱毒化する普遍的な手段を提供する。本発明はまた、強毒性ウイルスのワクチン生成の問題、および体液性免疫反応もしくは細胞性免疫反応またはその両方の免疫反応を誘導する量でのワクチン生成の問題をどちらも解決する。
【0009】
したがって、本発明は、ロイシン残基、ヒスチジン残基、またはアルギニン残基へのリシン残基の置換をもたらす改変を有するポリメラーゼをコードするポリメラーゼ遺伝子を含む弱毒化ウイルスを含み、リシン残基は、ヌクレオチド組み込み反応のリン酸転移段階において一般酸触媒として機能する能力を有し、AファミリーポリメラーゼのヘリックスO、BファミリーポリメラーゼのヘリックスP、ならびにRNA依存性RNAポリメラーゼおよび逆転写酵素の構造モチーフDのループ上に位置する。この置換により、ポリメラーゼの忠実度は、改変を有さないWTポリメラーゼ遺伝子によりコードされるポリメラーゼと比較して向上する。ポリメラーゼは、例えば、PVポリメラーゼおよび受託番号V01148を有する核酸配列によりコードされるアミノ酸配列の位置359に位置するリシン残基、インフルエンザポリメラーゼおよび受託番号AAY44773を有する配列の位置481に位置するリシン残基、またはHIV−1逆転写酵素および受託番号4139739を有する配列の位置220に位置するリシン残基でありうる。ポリメラーゼは、例えば、Aファミリーポリメラーゼ、Bファミリーポリメラーゼ、またはDNA依存性DNAポリメラーゼでありうる。典型的な実施形態において、ウイルスは感染性である。
【0010】
(a)ポリメラーゼをコードするポリメラーゼ遺伝子を含む弱毒化ウイルスであって、ポリメラーゼ遺伝子は、ロイシン残基、ヒスチジン残基、またはアルギニン残基へのリシン残基の置換をもたらす改変を有し、リシン残基は、ヌクレオチド組み込み反応のリン酸転移段階において一般酸触媒として機能する能力を有し、AファミリーポリメラーゼのヘリックスO、BファミリーポリメラーゼのヘリックスP、ならびにRNA依存性RNAポリメラーゼおよび逆転写酵素の構造モチーフDのループ上に位置する、弱毒化ウイルスと、薬学的に許容される担体とを含有するワクチンもまた本発明の範囲内にある。この置換により、ポリメラーゼの忠実度は、改変を有さないWTポリメラーゼ遺伝子によりコードされるポリメラーゼと比較して向上する。ポリメラーゼは、例えば、PVポリメラーゼおよび受託番号V01148を有する核酸配列によりコードされるアミノ酸配列の位置359に位置するリシン残基、インフルエンザポリメラーゼおよび受託番号AAY44773を有する配列の位置481に位置するリシン残基、またはHIV−1逆転写酵素および受託番号4139739を有する配列の位置220に位置するリシン残基でありうる。ポリメラーゼは、Aファミリーポリメラーゼ、Bファミリーポリメラーゼ、またはDNA依存性DNAポリメラーゼでありうる。ワクチンはアジュバントをさらに含有しうる。
【0011】
別の実施形態において、本発明は、ポリメラーゼをコードするポリメラーゼ遺伝子を含む精製核酸であって、ポリメラーゼ遺伝子は、ロイシン残基、ヒスチジン残基、またはアルギニン残基へのリシン残基の置換をもたらす改変を有し、リシン残基は、ヌクレオチド組み込み反応のリン酸転移段階において一般酸触媒として機能する能力を有し、かつ、AファミリーポリメラーゼのヘリックスO、BファミリーポリメラーゼのヘリックスP、ならびにRNA依存性RNAポリメラーゼおよび逆転写酵素の構造モチーフDのループ上に位置する、精製核酸を含む。この置換により、ポリメラーゼの忠実度は、改変を有さないWTポリメラーゼ遺伝子によりコードされるポリメラーゼと比較して向上する。核酸はベクター内に存在しうる。
【0012】
さらに別の実施形態において、本発明は、ポリメラーゼをコードするウイルスポリメラーゼ遺伝子を改変する工程を含むウイルスを弱毒化する方法であって、その改変は、ロイシン残基、ヒスチジン残基、またはアルギニン残基へのリシン残基の置換をもたらし、リシン残基は、ヌクレオチド組み込み反応のリン酸転移段階において一般酸触媒として機能する能力を有し、AファミリーポリメラーゼのヘリックスO、BファミリーポリメラーゼのヘリックスP、ならびにRNA依存性RNAポリメラーゼおよび逆転写酵素の構造モチーフDのループ上に位置する、方法を含む。この置換により、ポリメラーゼの忠実度は、改変を有さないWTポリメラーゼ遺伝子によりコードされるポリメラーゼと比較して向上する。
【0013】
別段の定義がない限り、ここで用いられるすべての技術的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
ここで用いられる「弱毒化された」という用語は、WTウイルスよりも毒性(病原性)の弱い形に改変されたウイルスを意味する。
【0014】
ここで用いられる「ワクチン」という用語は、すべての予防的ワクチンおよび治療的ワクチンを含む。一実施形態によれば、ワクチンは、無毒性の感染性ウイルスまたは弱毒化された感染性ウイルスを含有し、ウイルスポリメラーゼはポリメラーゼの保存領域にアミノ酸の変化を有する。これらの変化は、例えば、アミノ酸の置換、類似体、欠失などを含む。
【0015】
本発明のワクチン組成物は、インビボで生体適合性を有する形態で対象へ投与するのに適する。ここで用いられる「インビボ投与に適する生体適合性のある形態」とは、投与すべき物質の治療効果が毒性作用を上回る形態を意味する。その物質は、任意の動物、好ましくはヒトに投与してよい。
【0016】
「RNA依存性ポリメラーゼ」および「RDP」という用語は、RNA鋳型からRNAまたはDNAを転写するウイルスポリメラーゼを意味する。ここに記載するRNAウイルスは、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RDRP)を産生し、ここに記載するレトロウイルスは、「逆転写酵素」とも称するRNA依存性DNAポリメラーゼを産生する。
【0017】
「DNA依存性DNAポリメラーゼ」という用語は、DNA鋳型からDNAを転写するウイルスポリメラーゼを意味する。
ここで用いられる「核酸」、「核酸分子」、または「ポリヌクレオチド」とは、RNA(リボ核酸)およびDNA(デオキシリボ核酸)などの2つ以上のヌクレオチドからなる鎖を意味する。「精製」核酸分子とは、核酸が自然発生する細胞または生物体内の他の核酸配列から実質的に分離または孤立している(例えば、夾雑物を30、40、50、60、70、80、90、95、96、97、98、99、100%含まない)核酸分子である。この用語は、例えば、ベクター、プラスミド、ウイルス中に組み込まれた組み換え核酸分子、あるいは原核生物もしくは真核生物のゲノムを含む。
【0018】
ここで用いられる「タンパク質」または「ポリペプチド」は、長さまたは翻訳後の修飾、例えば、グリコシル化もしくはリン酸化の有無にかかわらず、任意のペプチド結合したアミノ酸鎖を意味するように同義に用いられる。
【0019】
核酸分子、ポリペプチド、またはウイルスを指す場合、「天然の」という用語は、自然発生の(例えば、WTの)核酸、ポリペプチド、またはウイルスを指す。
ここで用いられる「ベクター」という用語は、それが連結された別の核酸を運ぶ能力を有する核酸分子を指す。それらが作動的に連結された遺伝子の発現を誘導する能力を有するベクターを、ここでは「発現ベクター」と称する。
【0020】
第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的な関係に置かれる場合、第1の配列は第2の核酸配列と「作動的に」連結される。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、プロモーターはコード配列に作動的に連結される。一般に、作動的に連結された核酸配列は隣接し、2つのタンパク質コード領域を接続する必要がある場合にはリーディングフレーム内で隣接する。
【0021】
本発明の実施または試験では、ここに記載する組成物および方法と類似または同等の組成物および方法を用いることができるが、適切な組成物および方法が以下に説明される。ここで言及されるすべての刊行物、特許出願、および特許は、その全体が参照によりここに組み込まれる。矛盾が生じる場合は、定義を含む本願明細書が優先される。以下に考察される特定の実施形態は、例示的であるにとどまり、限定的であることを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、ポリメラーゼによって触媒されるリン酸転移の概略図のペアである。図1Aは、2金属イオン機構を表す。ヌクレオシド三リン酸は、2価カチオン(Mg2+、金属B)を有する活性部位に入り込む。この金属は、ヌクレオチドのβ−リン酸およびγ−リン酸によって、3Dpol残基を示すが、すべてのポリメラーゼの構造モチーフAに位置するAsp残基によって、ならびにおそらく水分子(特定の指示がなければ、金属に対する酸素配位子として示される)によって配位結合される。この金属は、活性部位中の三リン酸を配向し、触媒作用の間に電荷中和に寄与しうる。ヌクレオチドが所定の位置にあれば、第2の2価カチオンが結合する(Mg2+、金属A)。金属Aは、3’−OH、α−リン酸、ならびに構造モチーフAおよびCのAsp残基によって配位結合される。この金属は、3’−OH(Hとして示す)のpKaを低下させて生理的pHでの触媒作用を促進する。図1Bは、プロトン転移反応を示す図である。リン酸転移反応の間に、2プロトン転移反応が起こりうる。3’−OH求核基(H)のプロトンは取り除かれなければならず、プロトンはピロリン酸離脱基(H)に与えられてもよい。
【図2】図2は、2つのイオン性基がリン酸転移に必要とされることを示すグラフのペアである。kpolの値は、ストップフローアッセイを使用して、Mg+2(図2A)またはMn+2(図2B)でのS/S−+1へのAMPの組み込みについて得た。Mg+2およびMn+2での10を超えるpHの値は、ヌクレオチドの沈殿を引き起こした。実線は、7.0±0.1および10.5±0.1のpKa値が得られるMg+2について式3にデータをフィットさせたもの、および8.2±0.1のpKa値が得られるMn+2について式4にデータをフィットさせたものを示す。図2Bの点線は、予測される曲線から、Mn+2に存在する10.5のpKaを有するイオン性基が得られるはずであることを示す。
【図3】図3は、定常状態前のヌクレオチド組み込みの反応速度に対する溶媒重水素同位体効果を示す一連のグラフである。Mg2+(図3A)またはMn2+(図3B)でのHO(●)またはDO(■)中におけるS/S−+1へのAMPの定常状態前の組み込み。実線は、式1にデータをフィットさせたものであり、Mg2+でHOおよびDOについてそれぞれ30±4秒−1および10±1秒−1の速度定数kobsが得られ、Mn2+で10±1秒−1および1.4±0.3秒−1の速度定数kobsが得られた。Mg2+(図3C)またはMn2+(図3D)でのHO(●)またはDO(■)中におけるS/S−+1へのAMPの定常状態の組み込み。線は、線にデータをフィットさせたものであり、HOおよびDO中でそれぞれ3.4×10−4±1×10−5μMs−1および2.9×10−4±3×10−5μMs−1のMg2+の速度、ならびにMn2+で0.5±0.1μMs−1および0.3±0.1μMs−1の速度を得た。
【図4】図4は、2つのプロトンがリン酸転移の間に転移されることを示すグラフのペアである。プロトンインベントリーをMg2+(図4A)またはMn2+(図4B)で行った。kは、DOの特定のモル分率のヌクレオチド組み込みについて観察された速度定数である。kH2OはHO中でのヌクレオチド組み込みについて観察された速度定数である。nは、DOのモル分率である。実線は、2プロトン転移モデル(式5)にデータをフィットさせたものを表す。点線は、1プロトン転移モデル(式6)から予測される線を示す。
【図5】図5は、すべてのポリメラーゼによって触媒されるリン酸ジエステル結合形成の間に2つのプロトンが転移することを示す一連のグラフである。図5Aは、他のポリメラーゼについての溶媒重水素同位体効果を示す。[i]RB69 DdDp、[ii]T7 DdRp、および[iii]HIV RT。ヌクレオチド組み込みについての定常状態前速度定数は、HO(●)またはDO(■)ですべてのポリメラーゼについて決定した。実線はデータを式1にフィットさせたものである。速度定数は、RB69 DdDpについてHOおよびDOでそれぞれ160±15秒−1および60±6秒−1、T7 DdRpについてHOおよびDOでそれぞれ46±5秒−1および8±1秒−1、HIV RTについてHOおよびDOでそれぞれ140±14秒−1および60±5秒−1。図5Bは、他のポリメラーゼについてのプロトンインベントリーを示す。[i]RB69 DdDp、[ii]T7 DdRp、および[iii]HIV RT。実線は、2プロトン転移モデル(式5)にデータをフィットさせたものである。点線は、1プロトン転移モデル(式6)で予測される線を示す。すべての場合で、2プロトン転移モデルがデータに最もフィットする。
【図6】図6は、ポリメラーゼによって触媒されるヌクレオチジル転移反応での一般的な塩基および一般的な酸の概略図である。データは、求核基の活性化が7.0のpKaで起こり、離脱基のプロトン化が10.5のpKaで起こるモデルと一致している。このpKaは、用いる2価カチオンによっておよびヌクレオチド基質のα−位置に存在する原子によって調整されるので、7.0のpKaはおそらく3’−OHである。
【図7】図7は、3Dpolによって触媒されるヌクレオチド組み込み反応のための蛍光プローブとしての2−アミノプリンを示す図である。図7Aは、2−アミノプリン(2A)塩基を示す概略図であり、これは蛍光性であってウラシルと2つの塩基対を形成する能力を有する一方、2Aとは反対のUMPの組み込みは、Aとは反対の組み込みほど効率的ではない。図7Bは、ここで使用されるプライマー鋳型基質を示す。それはsym/subと呼ばれる10ntの自己相補的RNAである。鋳型位置は、図のとおりに指定した。S/S−0、S/S−+1、およびS/S−+2。図7Cは、蛍光性の過渡応答の大きさおよび方向が鋳型中の2Aの位置に依存することを示す一連のグラフである。S/S−0、S/S−+1、およびS/S−+2の位置で2Aについて使用した基質の実際の配列を示す。最初の「正しい」ヌクレオチドのみを評価した。位置0についてのUTP(200μM)ならびに位置+1および+2についてのATP(200μM)。S/S−0へのUMP組み込みは、蛍光の50%の変化および1±0.1秒−1の観察された速度定数kobsを示した。S/S−+1へのAMPの組み込みは、蛍光の25%の変化および60±8秒−1のkobsを示した。S/S−+2へのAMPの組み込みは、蛍光の15%の変化および50±6秒−1のkobsを示した。
【図8】図8は、ストップフロー蛍光アッセイが化学的クエンチフローアッセイと同じ反応速度定数を得ることを示すグラフのペアである。図8Aは、2APの蛍光によってモニターされたATP濃度の関数としてのAMP組み込みの反応速度を示す。3DpolをS/S−+1とインキュベートし、ストップフロー装置中で40〜1200μMのATPと混合した。実線は、単一の指数方程式(式1)にデータをフィットさせたものを表す。図8Bは、図8Aで得られた値をATP濃度の関数としてプロットしたことを示す。実線は、双曲型方程式(式2)にデータをフィットさせたものを表し、70±10μMのKD,appおよび70±10秒−1のkpolの値を得た。
【図9】図9は、3Dpolによって触媒されるヌクレオチド組み込みについての反応速度機構を示す略図である。ポリオウイルス由来のRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)(3Dpol)についての反応速度機構を一実施形態として示す。この系の利点のうちの1つは、3Dpolがプライマー鋳型基質上に集合すると、この複合体は2時間を超える半減期を有し、反応速度分析を非常に単純化することである。段階1では、酵素核酸複合体(ER)がヌクレオシド三リン酸に結合し、3元複合体(ERN)を形成する。段階2は、触媒作用のために三リン酸を配向させる構造変化(*ERN)を含む。段階3で、リン酸転移が起こり(*ERn+1PP)、第2の構造変化の段階(ERn+1PP)およびピロリン酸の放出(ERn+1)がそれに続く。
【図10】図10は、PVポリメラーゼの構造モチーフDがFluポリメラーゼで予測されることを示す略図である。図10Aは、赤で強調したモチーフDと共に、灰色で色づけしたカートゥーン(cartoon)モデル(pdb:1RAJ)として表したPVポリメラーゼのパーム(触媒)ドメインを示す。図10Bは、示されている重要な残基Lys359およびThr362を有するPVポリメラーゼのモチーフDを示す。図10Cは、シアンで色づけしたインフルエンザポリメラーゼのモチーフDのモデル化構造を示す。BのLys359およびThr362に対して等価な位置の残基Lys481およびIle484を示す。図10Dは、A型、B型、およびC型のインフルエンザウイルス由来のPB1タンパク質のモチーフDの残基の揃いを、ポリオウイルス3Dpolとともに示す。保存されている残基を赤で示す。
【図11】図11は、PV 3Dpol RdRp Lys−359が一般酸触媒として機能するための位置に存在することを明らかにする配列アラインメントおよび分子モデリングを示す図である。図11A:様々なRNAポリメラーゼのアミノ酸配列アラインメントが、モチーフD活性部位のリシンの絶対的な保存を示している。ポリオウイルス(PV)、コクサッキーウイルス(Cox)、ヒトライノウイルス14(HRV14)、ウサギ出血性疾患ウイルス(RHDV)、ネコカリシウイルス(FCV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS)、マウス肝炎ウイルス(MHV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス1型逆転写酵素(HIVRT)、バクテリオファージQ−β(QBeta)。図11B:ポリオウイルス3Dpol−三重複合体に関するモデルにおけるLys−359、Asp−328、および結合ヌクレオチド(ATP)の配置。Lys−359は、ヌクレオチド三リン酸部分のβ−リン酸と最も密接に相互作用する。図11C:Lys−359は、リン酸転移において一般酸触媒として機能するように配置される。図11Ci:Lys−359は、リン酸転移の以前、β−リン酸と空間的に近接している。図11Cii:リン酸転移の遷移状態に近づくと、プライマー3’−OHプロトン、Hは未同定の塩基によって引き離され、Lys−359のε−アミノ基は、その解離性プロトン、Hを、α−リン原子とβ−リン原子の間の非架橋の酸素に与える。
【図12】図12は、PV 3Dpol WTに関するpH速度プロファイル、および位置359突然変異体がLys−359の一般酸触媒としての役割を支えることを示す一連のグラフである。図12A:WT K359 3Dpolに関するpH−速度プロファイルは、2つのイオン性基がリン酸転移の速度に影響を与えることを示す。2つの基の推定pKaは、3’−OHプロトンに相当すると考えられる7.0、およびLys−359プロトンに相当すると仮定される10.5である。図12B:pH−速度プロファイルの塩基性のアームは3Dpol K359L酵素において消失し、これは、1つの化学的に影響を与えるイオン性基の消失を示す。図12C:K359H 3DpolおよびK359R 3DpolのpH−速度プロファイルは、K359L酵素に関するそれと重なり合う。K359Hポリメラーゼは、およそHisイミダゾール基解離性プロトンのpKaであるpH7.5においてK359Lより反応速度論的に5倍優れているが、それよりも高いpHではK359Lの反応速度特性に収束する。K359Rポリメラーゼは、pH7.5においてK359Lよりも反応速度論的に5倍優れているが、それよりも高いpHでは、Arg側鎖のpKaに近づくにつれて、K359Rの触媒能力はWT K359 3Dpolのそれに近づく。
【図13】図13は、図12C中に示したグラフを拡大したものである。
【図14】図14は、Lys−359が触媒作用時の1プロトン転移の源であることを明らかにする、WT K359 3DpolならびにK359LおよびK359R変異体に関するpD7.5におけるプロトンインベントリーを示す一連のグラフである。図14A:WT K359のプロトンインベントリーのプロットはボウル形であり、リン酸転移の遷移状態のときに2つ以上の速度増大プロトンが転移することを示す。実線は2プロトンモデル(式5)に適合しており、破線の直線は視覚的な参考として加えている。図14B:K359L 3Dpolに関するプロトンインベントリーのデータは1プロトンの直線モデル(式6)に最も適合しており、化学的に不活性なLeuへのLys−359の変化がリン酸転移反応の間の1つの速度増大プロトンの転移を消失させたことを示す。図14C:K359R 3Dpolに関するプロトンインベントリーはボウル形であり、Argが3Dpol 359位置を占めるとき、2つ以上のプロトンが遷移状態において転移することを示す。
【図15】図15は、HIV−1、T7、およびRB69ポリメラーゼに関する一連の結晶構造である。保存活性部位のLysは、他のクラス由来のポリメラーゼのリン酸転移において一般酸触媒として機能するための位置に存在する。高解像度X線結晶構造から、保存活性部位のリシンは、HIV−1 RT RdDpのLys−220(図15A)、RB69 DdDpのLys−560(図15B)、およびT7 DdRpのLys−631(図15C)であることが分かる。それぞれの場合において、保存されているLysは、ヌクレオチド三リン酸部分のα−リン原子とβ−リン原子の間の架橋酸素と密接に相互作用すると考えられる。
【図16】図16は、保存活性部位のLys位置におけるWTポリメラーゼおよびLeu変異体に関するプロトンインベントリーを示す一連のグラフであり、全てのクラスの核酸ポリメラーゼにおけるこのLysに関する一般酸触媒としての役割を示す。図16Ai:HIV−1 RT WT Lys−220 RdDpに関するプロトンインベントリーのプロットはボウル形であり、遷移状態のときに2つ以上のプロトンが転移することを示す。実線は2プロトンモデル(式5)に適合しており、破線の直線は視覚的な参考として加えている。図16Aii:HIV−1 RT K220L RdDpに関するプロトンインベントリーは直線モデル(式6)に最も適合しており、位置220の化学的に不活性なLeuによるLysの置換がリン酸転移反応の間の1つの速度増大プロトンの転移を消失させたことを示す。図16Bi:同様に、WT RB69 Lys−560 DdDpのプロトンインベントリーはボウル形であり、2つ以上のプロトンの転移が触媒作用を高めることを示す。図16Bii:RB69 K560Lに関するプロトンインベントリーのデータは直線に最も適合しており、この変異体ではただ1つのプロトンの転移が触媒作用を高めることを示す。図16C:T7 DdRp WT Lys−631のプロトンインベントリーのプロットはボウル形であり、2つ以上のプロトンの転移がヌクレオチド組み込みのリン酸転移段階の速度に影響することを示す。
【図17】図17は、PV K359R、HのサブゲノムレプリコンがWTレプリコンよりも複製が遅いことを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、WTポリメラーゼと比較して複製速度の変化および忠実度の変化をもたらす活性部位リシン残基の置換を有する改変ウイルスポリメラーゼの開発に関係する組成物および方法を包含する。ここに記載する組成物および方法は、ウイルスワクチン用にウイルスを弱毒化する普遍的な手段を提供する。
【0024】
ポリメラーゼが触媒するヌクレオチジル基転移反応には、2金属イオン機構が提起されている[リュー ジェイ(Liu,J.)およびツァイ エム ディー(Tsai,M.−D.)(2001)Biochemistry 40,9014−9022;シュタイツ ティー エー(Steitz,T.A.)(1993)Current Opinion in Structural Biology 3,31−38]。この機構(図1A)では、金属AがそのpK値を低下させることによりプライマー3’−OHの求核性を上昇させ、金属Bが遷移状態において形成されるオキシアニオンを安定化させ、ピロリン酸の放出を促進しうる。ヌクレオチジル基転移時においては、プライマーの3’−OHからプロトン(図1BのH)を除去しなければならない。ピロリン酸離脱基がプロトン化(図1BのH)されなければならないかどうかは知られていないが、ピロリン酸のプロトン化により、pK値が9.3領域にあるとした場合の生理的条件下における触媒速度は上昇するであろう。活性部位における残基が、これらの重要なプロトン転移反応のアクセプターまたはドナーとして機能するかどうかはこれまで知られていなかった。
【0025】
ここに記載する試験では、ヌクレオチジル基転移機構により、ピロリン酸離脱基をプロトン化することによってヌクレオチド付加を促進するすべてのポリメラーゼの活性部位中における残基が同定され、この残基はPVポリメラーゼ中のLys−359である(図6)。表1に示すとおり、ポリメラーゼのこの位置における種々のアミノ酸の置換により、複製の速度および忠実度の異なる酵素が産出される。変異PVウイルスは、各々がK359R置換またはK359H置換をもたらす改変ポリメラーゼ遺伝子を有するように作製した。これらのウイルスは、WTウイルスと比べて、細胞内で感染性であり弱毒化されていることが示された。すべてのウイルスポリメラーゼ中にこの残基の機能的な同等物が存在するので、1つまたは複数のPV変異体がWTのPVによる攻撃に対して保護能を有するならば、ウイルスワクチン株の生成に関する普遍的に適用可能なポリメラーゼ機構に基づく手段を確立する段階が定められるであろう。
【0026】
【表1】

以下に説明される好ましい実施形態では、これらの組成物および方法の適応を例示する。しかしながら、以下に示される説明に基づき、これらの実施形態の説明から本発明の他の態様を作製および/または実施することができる。
【0027】
生物学的方法
ここでは、従来の分子生物学の技法にかかわる方法を説明する。このような技法は当該技術分野で一般的に知られており、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,vol.1−3,サムブルックら編(ed.Sambrook et al.),コールドスプリングハーバーラボラトリープレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press)[ニューヨーク州コールドスプリングハーバー所在],2001、およびCurrent Protocols in Molecular Biology,アウスベルら編(ed.Ausubel et al.),グリーンパブリシングアンドワイリーインターサイエンス社(Greene Publishing and Wiley−Interscience)[ニューヨーク州所在],1992(定期的な改定を伴う)などの方法論文において詳細に説明されている。ワクチン生成用のウイルスを増殖させ、ウイルスワクチンを投与する方法もまた、当該技術分野で一般的に知られており、例えば、Vaccine Protocols(Methods in Molecular Medicine),アンドリュー ロビンソン(Andrew Robinson),マーチン ピー クレニッジ(Martin P.Cranage),およびマイケル ジェイ ハドソン(Michael J.Hudson)著,2nd ed.,フマーナプレス(Humana Press)社[ニュージャージー州トトワ所在],2003;Vaccine Adjuvants and Delivery Systems,マンモハン シン(Manmohan Singh)著,1st ed.,ワイリーインターサイエンス社(Wiley−Interscience)[ニュージャージー州ホボケン],2007;アーヴィン エー エム(Arvin A.M.)およびグリーンバーグ エイチ ビー(Greenberg H.B.),Virology 344:240−249,2006;およびアール モレンヴァイザー(R.Morenweiser),Gene Therapy suppl.1:S103−S110,2005において詳細に説明されている。ウイルスポリメラーゼのアミノ酸配列、およびウイルスポリメラーゼをコードする核酸配列は当該技術分野で知られている。例えば、受託番号4139739を有するHIV−1 RTアミノ酸配列は、フアンら(Huang et al.)(Science 282:1669−1675,1998)において説明されている。このHIV−1 RTは、WTバックグラウンドに基づくが、固有の発現、結晶学的特性を許容し、かつ、酵素をそのRNA/DNA基質と共有結合させる改変を有する。別の例では、受託番号V01148を有するヒトPV核酸配列が説明されている[北村およびヴィンマー(Kitamura and Wimmer),Proc.Natl.Acad.Sci.77:3196−3200,1980]。さらに別の例では、受託番号AAY44773を有するヒトA型インフルエンザのアミノ酸配列が説明されている[ゲディンら(Ghedin et al.),Nature 437:1162−1166,2005]。これらの参考文献は参照によりここに組み込まれる。
【0028】
弱毒化ウイルス
本発明は、ウイルスポリメラーゼの活性部位中の保存アミノ酸残基に少なくとも1つの変異(例えば、置換、欠失、挿入)を有する弱毒化ウイルスを含む。典型的に、こうした改変ポリメラーゼは、ヌクレオチド組み込みのリン酸転移段階において一般酸触媒として機能する能力を有するポリメラーゼ活性部位のリシン残基を、ロイシン残基、ヒスチジン残基、またはアルギニン残基に置換することを含む。このリシン残基は、隣接する保存アミノ酸残基とともに、AファミリーポリメラーゼのヘリックスO、BファミリーポリメラーゼのヘリックスP、ならびにRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)および逆転写酵素(RT)のモチーフDのループ上に位置している。
【0029】
ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼは保存構造を有する。PVのLys−359は、ここでインフルエンザ用にモデル化されたモチーフ(図10C)である保存構造モチーフD(図10B)上にある酵素の「パーム」サブドメイン(図10A)中に存在する。インフルエンザにおけるLys−359との構造的相同体は、PB1サブユニットのLys−481である(図10C)。この残基は、インフルエンザA、BおよびC遺伝子型に見出される(図10D)。まとめると、これらの観察により、インフルエンザは、ここに記載するポリメラーゼ機構に基づく手段を用いることにより弱毒化しうるという考えが強化される。
【0030】
同等の残基は、AファミリーポリメラーゼのヘリックスO、BファミリーポリメラーゼのヘリックスP、ならびにRdRpおよびRTのモチーフDのループ上に位置している(表6)。多くのDNAウイルスポリメラーゼはBファミリーポリメラーゼ、例えばヘルペスウイルスおよびポックスウイルスであり、この保存されているLys残基を有する。これらのウイルスもまた、ここに記載するポリメラーゼ機構に基づく手段を用いることにより弱毒化することができる。以下に記載する実験において、PV変異ウイルスK359RおよびK359Hは複製されることが分かった。
【0031】
ここに記載する一部の実施形態において、弱毒化ウイルスは、複製欠損型または非複製型であり、宿主細胞内で発現される外来の核酸を含む。こうした核酸の例は、例えばサイトカインや酵素などの治療分子を含む。
【0032】
したがって、本発明はまた、本発明のワクチンを、それを必要とする動物に投与する工程を含んだウイルス感染の予防法または治療法も含む。例えば、本発明によるヒト疾患を引き起こすウイルス体は、フィロウイルス、ヘルペスウイルス、肝炎ウイルス、レトロウイルス、オルソミクソウイルス、パラミクソウイルス、トガウイルス、ピコナウイルス、パポバウイルス、および胃腸炎ウイルスを含む(ただし、これらに限定されない)。
【0033】
一部の実施形態において、弱毒化ウイルスは、複製欠損型であるか複製能がなく、ワクチンの製造に用いられる。例えば、ワクチン調製に用いられる急速複製型毒性ウイルス、例えばインフルエンザウイルス(例えば、H5N1)やHIVウイルスは、宿主細胞にとって有害である。弱毒化ワクチン株は、複製速度が緩慢であり、所望の場合にはウイルスが非複製型とされる点において有利であり、急速な複製速度のせいでウイルス株が宿主に対して致死性となることを阻止する。したがって、好ましい実施形態において、複製速度は、一般酸をリシンから別の残基(例えば、ロイシン、アルギニン、ヒスチジン)に変化させる変異を組み込む工程により制御される。一般に、ここに記載する改変ポリメラーゼおよび方法を用いると、ウイルス複製は、WTウイルスと比較して少なくとも24分の1にまで低減される。別の実施形態において、弱毒化ウイルス株は、正常ウイルスにより正常に溶解される宿主細胞内で増殖する。例としては、ヒトリンパ球内で増殖してこれらの細胞を即時に溶解または死滅させない弱毒化HIV株がある。
【0034】
核酸
ここに記載する改変ウイルスポリメラーゼは、ヌクレオチド組み込み反応のリン酸転移段階において一般酸触媒として機能する能力を有するポリメラーゼ活性部位のアミノ酸残基に変異(例えば、置換、欠失、挿入)をもたらす改変を有するウイルスポリメラーゼ遺伝子によりコードされる。ウイルスポリメラーゼの保存領域における1つまたは複数の変異は、ポリメラーゼの活性(例えば、複製速度、忠実度など)を調節する。
【0035】
以下に記載する実験において、PVポリメラーゼは、受託番号V01148を有する核酸配列によりコードされるWTのPVポリメラーゼアミノ酸配列の位置359に対応するリシンがロイシン、アルギニン、ヒスチジンに置換されることを含むよう改変された。HIV−1ウイルスおよびインフルエンザウイルス中の対応する残基もまた同定した。例えば、HIV−1 RT中の対応するリシンは、受託番号4139739を有するHIV−1 RTアミノ酸配列の位置220に対応する。同様に、インフルエンザウイルス中の対応するリシンは、受託番号AA444773を有するWTのインフルエンザウイルス遺伝子セグメントのPB1アミノ酸配列の位置481に対応する。
【0036】
一部の実施形態において、ポリメラーゼ遺伝子中の複数の隣接する核酸は、保存アミノ酸残基をコードしないオリゴヌクレオチドで置換することができる。本発明に関して想定される一部の好ましいオリゴヌクレオチドの例としては、改変骨格、例えば、ホスホロチオエート、ホスホトリエステル、メチルホスホン酸、短鎖アルキル結合もしくはシクロアルキル糖間結合、または短鎖ヘテロ原子結合もしくはヘテロサイクリック糖間結合を含むオリゴヌクレオチドがある。最も好ましいのは、ホスホロチオエート骨格を有するオリゴヌクレオチド、およびヘテロ原子骨格を有するオリゴヌクレオチド、特に、天然のホスホジエステル骨格がO−P−O−CHと表される、CH−NH−O−CH骨格、CH−N(CH)−O−CH骨格[メチレン(メチルイミノ)骨格またはMMI骨格]、CH−O−N(CH3)−CH骨格、CH−N(CH)−N(CH)−CH骨格、およびO−N(CH)−CH−CH骨格である。デ メスメカーら(De Mesmaeker et al.)Acc.Chem.Res.1995,28:366−374により開示されたアミド骨格もまた好ましい。モルホリノ骨格構造を有するオリゴヌクレオチド[サマートンおよびウェラー(Summerton and Weller),米国特許第5,034,506号]もまた好ましい。ペプチド核酸(PNA)骨格など他の好ましい実施形態では、オリゴヌクレオチドのホスホジエステル骨格がポリアミド骨格で置換され、核酸塩基がポリアミド骨格のアザ窒素原子に直接または間接に結合する[ニールセンら(Nielsen et al.)Science 1991,254,1497]。オリゴヌクレオチドはまた、1つまたは複数の置換糖部分も含みうる。好ましいオリゴヌクレオチドは、以下の1つを含む。OH、SH、SCH、F、OCN、OCHOCH、OCHO(CHCH、O(CHNH、またはO(CHCH[式中、nは1〜約10]、C〜C10の低級アルキル、アルコキシアルコキシ、置換低級アルキル、アルカリール、またはアラルキル、Cl、Br、CN、CF、OCF、O−、S−、またはN−アルキル、O−、S−、またはN−アルケニル、SOCH、SOCH、ONO、NO、N、NH、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリール、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA切断基、レポーター基、挿入基、オリゴヌクレオチドの薬物動態特性を改善する基、またはオリゴヌクレオチドの薬力学特性を改善する基、および同様の特性を有する置換基。好ましい改変は、2’−メトキシエトキシ[2’−O−(2−メトキシエチル)としても知られる2’−O−CHCHOCH][マーチンら(Martin et al.),Helv.Chim.Acta,1995,78,486]を含む。他の好ましい改変は、2’−メトキシ(2’−O−CH)、2’−プロポキシ(2’−OCHCHCH)、および2’−フルオロ(2’−F)を含む。同様の改変はまた、オリゴヌクレオチドの他の位置、特に、3’末端ヌクレオチド上における糖の3’位置および5’末端ヌクレオチドの5’位置においても行いうる。オリゴヌクレオチドはまた、ペントフラノシル基の代わりにシクロブチルなどの糖模倣体も有しうる。
【0037】
オリゴヌクレオチドはまた、それに加えてあるいは代わって、核酸塩基(当該技術分野では、単に「塩基」と称することが多い)の改変または置換も含みうる。ここで用いられる「非改変の」核酸塩基または「天然の」核酸塩基は、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)、およびウラシル(U)を含む。改変核酸塩基は、天然の核酸中ではまれにまたは一過性で見出されるにすぎない核酸塩基、例えば、ヒポキサンチン、6−メチルアデニン、5−Meピリミジン、特に、5−メチルシトシン(5−メチル−2’デオキシシトシンとも称し、当該技術分野では5−Me−Cと称することが多い)、5−ヒドロキシメチルシトシン(HMC)、グリコシルHMC、およびゲントビオシルHMCの他、合成核酸塩基、例えば、2−アミノアデニン、2−(メチルアミノ)アデニン、2−(イミダゾリルアルキル)アデニン、2−(アミノアルキルアミノ)アデニン、または他のヘテロ置換アルキルアデニン、2−チオウラシル、2−チオチミン、5−ブロモウラシル、5−ヒドロシキメチルウラシル、8−アザグアニン、7−デアザグアニン、N(6−アミノヘキシル)アデニン、および2,6−ジアミノプリンを含む[コーンバーグ エー(Kornberg,A.),DNA Replication,ダブリューエイチフリーマンアンドカンパニー社(W.H.Freeman & Co.)[サンフランシスコ],1980,pp75−77;ゲベイェフ ジーら(Gebeyehu,G.,et al.)Nucl.Acids Res.1987,15:4513]。当該技術分野で知られる「普遍的な」塩基、例えばイノシンを含めてよい。5−Me−C置換は、核酸の2本鎖での安定性を0.6〜1.2℃だけ上昇させることが示されており[サンヴィー ワイ エス(Sanghvi,Y.S.),クルーク エス ティー(Crooke,S.T.)およびルブルー ビー(Lebleu,B.)編,Antisense Research and Applications,CRCプレス社(CRC Press)[米国ボカラトン(Boca Raton)所在],1993,pp.276−278]、現在のところ好ましい塩基置換である。
【0038】
本発明によるオリゴヌクレオチドの別の改変は、オリゴヌクレオチドの活性または細胞内への取り込みを増強する1つまたは複数の部分または共役体のオリゴヌクレオチドへの化学的連結を含む。こうした部分は、コレステロール部分、コレステリル部分などの脂質部分[レスティンガーら(Letsinger et al.),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1989,86,6553]、コリン酸[マノハランら(Manoharan et al.)Bioorg.Med.Chem.Let.1994,4,1053]、チオエーテル、例えば、ヘキシル−S−トリチルチオール[マノハランら(Manoharan et al.)Ann.N.Y.Acad.Sci.1992,660,306;マノハランら(Manoharan et al.)Bioorg.Med.Chem.Let.1993,3,2765]、チオコレステロール[オーバーハウザーら(Oberhauser et al.),Nucl.Acids Res.1992,20,533]、脂肪族鎖、例えば、ドデカンジオール残基またはウンデシル残基[セゾン−ベモアラら(Saison−Behmoaras et al.)EMBO J.1991,10,111;カバノフら(Kabanov et al.)FEBS Lett.1990,259,327;スヴィナルチュクら(Svinarchuk et al.)Biochimie 1993,75,49]、リン脂質、例えば、ジ−ヘキサデシル−rac−グリセロールまたはトリエチルアンモニウム1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac−グリセロ−3−H−ホスホネート[マノハランら(Manoharan et al.)Tetrahedron Lett.1995,36,3651;シェイら(Shea et al.)Nucl.Acids Res.1990,18,3777]、ポリアミン鎖またはポリエチレングリコール鎖[マノハランら(Manoharan et al.)Nucleosides & Nucleotides 1995,14,969]、またはアダマンタン酢酸[マノハランら(Manoharan et al.)Tetrahedron Lett.1995,36,3651]を含むがこれらに限定されない。親油性部分を含むオリゴヌクレオチド、およびこうしたオリゴヌクレオチドの調製法は、当該技術分野、例えば米国特許第5,138,045号、同第5,218,105号、および同第5,459,255号で知られている。
【0039】
所与のオリゴヌクレオチド中のすべての位置が一様に改変される必要はなく、実際、前述の複数の改変は、単一のオリゴヌクレオチド中、あるいはオリゴヌクレオチド内のまさに単一のヌクレオシド内に組み込んでよい。本発明はまた、先に定義したようなキメラオリゴヌクレオチドであるオリゴヌクレオチドを含む。
【0040】
別の実施形態において、本発明の核酸分子は、脱塩基ヌクレオチド、ポリエーテル、ポリアミン、ポリアミド、ペプチド、炭水化物、脂質、またはポリ炭化水素化合物を含むがこれに限定されない別の部分と共役する。当業者は、これらの分子を、糖、塩基、またはリン酸基上の複数の位置において、核酸分子を含む1つまたは複数の任意のヌクレオチドに連結しうることを認めるであろう。
【0041】
RNA干渉(RNAi):RNAiは、二重鎖RNA(dsRNA、ここでは低分子干渉RNAの場合にsiRNA、または二重鎖低分子干渉RNAの場合にds siRNAとも称する)が動物または植物細胞中の相同的なmRNAの配列特異的な分解を誘導する目覚ましく有効な方法である[フトヴァーグナーおよびゼイマー(Hutvagner and Zamore),Curr.Opin.Genet.Dev.,12:225−232(2002);シャープ(Sharp),Genes Dev.,15:485−490(2001)]。哺乳動物細胞において、RNAiは、低分子干渉RNA(siRNA)の2本鎖[チウら(Chiu et al.),Mol.Cell.,10:549−561(2002);エルバシールら(Elbashir et al.),Nature,411:494−498(2001)]によっても、マイクロRNA(miRNA)、機能的低分子ヘアピンRNA(shRNA)、またはRNAポリメラーゼIIIプロモーターと共にDNA鋳型を用いてインビボで発現される他のdsRNA[ゼンら(Zeng et al.),Mol.Cell,9:1327−1333(2002);パディソンら(Paddison et al.),Genes Dev.,16:948−958(2002);リーら(Lee et al.),Nature Biotechnol.,20:500−505(2002);ポールら(Paul et al.),Nature Biotechnol.,20:505−508(2002);トゥシュル ティー(Tuschl,T.),Nature Biotechnol.,20:440−448(2002);ユーら(Yu et al.),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99(9):6047−6052(2002);マクマナスら(McManus et al.),RNA,8:842−850(2002);スイら(Sui et al.),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99(6):5515−5520(2002)]によっても始動される。
【0042】
ここに記載する作用物質は、ポリメラーゼ間で保存される残基領域および/または異なるポリメラーゼ間における構造的相同領域を標的とする(すなわち、これに結合する)dsRNA分子を含みうる。例えば、ポリオウイルスポリメラーゼの位置359に位置するリシン(例えば、表1および表6も参照されたい)。構造的な相同領域は、BLASTなど各種プログラムを用いて容易に同定される。
【0043】
dsRNA分子は、各鎖中に16〜30、例えば、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30のヌクレオチドを含むのが典型的であり、一方の鎖は、mRNA中の標的領域と、例えば、少なくとも80%(あるいはそれ以上、例えば、85%、90%、95%、または100%)同一であるか、3つ、2つ、1つ、または0のミスマッチするヌクレオチドを有するなど、実質的に同一であり、もう一方の鎖は、第1の鎖と同一であるかあるいは実質的に同一である。各鎖はまた、1つまたは複数のオーバーハンギングの(すなわち、非相補的な)ヌクレオチド、例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、またはこれを超えるオーバーハンギングのヌクレオチド、例えばdTdTdTもまた有しうる。
【0044】
dsRNA分子は化学的に合成することもでき、インビトロにおいてDNA鋳型から転写することもでき、インビボにおいて、例えばshRNAから転写することもできる。dsRNA分子は、当該技術分野で知られる任意の方法を用いて設計することができ、多数のアルゴリズムが当該技術分野で知られており[例えば、トゥシュルら(Tuschl et al.),Genes Dev 13(24):3191−7(1999)を参照されたい]、多くがインターネット上、例えば、ダルマコン社(Dharmacon)[コロラド州ラファイエット所在]またはアンビオン社(Ambion)[テキサス州オースチン所在]のウェブサイト上で入手できる。
【0045】
陰性対照のsiRNAは、選択されたsiRNAと同じヌクレオチド組成を有するとしても、適切なゲノムに対する著しい配列相補性を有さない。こうした陰性対照は、選択されたsiRNAのヌクレオチド配列に無作為のスクランブルをかける工程により設計することができ、相同性検索を実施して、陰性対照が、適切なゲノム中の他の任意の遺伝子に対して相同性を欠くことを確認することができる。加えて、陰性対照siRNAは、配列内に1つまたは複数の塩基ミスマッチを導入する工程によっても設計することができる。
【0046】
約22ヌクレオチドのマイクロRNA(miRNA)を用いて、転写後または翻訳後の段階における遺伝子発現を調節することができる。miRNAは、細胞内において、ダイサー、RNアーゼIII型酵素、またはこれらの相同体により、約70ヌクレオチドの前駆体RNAステムループから切り出すことができる。miRNA前駆体のステム配列を、標的のmRNAに対して相補的なmiRNA配列で置換することにより、新規のmiRNAを発現するベクター構築物を用いて、哺乳動物細胞内の特異的なmRNA標的に対してRNAiを開始するsiRNAを生成することができる[前出のゼン(Zeng)(2002)]。ポリメラーゼIIIプロモーターを含有するDNAベクターにより発現される場合、マイクロRNAにより設計されたヘアピンは、遺伝子発現をサイレンシングすることができる[前出のマクマナス(McManus)(2002)]。
【0047】
dsRNAは、当該技術分野で知られる方法、例えば、陽イオンリポソームトランスフェクション法、ナノ粒子法、および電気穿孔法を用いて、インビボまたはインビトロで細胞内に直接に送達することもでき、機能的な二重鎖siRNAを発現する能力を有する哺乳動物Pol IIIプロモーター系(例えば、H1プロモーター系またはU6/snRNAプロモーター系[前出のトゥシュル(Tuschl)(2002)])を含み、細胞内におけるより長期にわたる標的遺伝子の抑制を可能とする、組み換えDNA構築物からインビボまたはインビトロで発現させることもできる[バジェラら(Bagella et al.),J.Cell.Physiol.177:206−213(1998);前出のリーら(Lee et al.)(2002)、前出の宮岸ら(Miyagishi et al.)(2002)、前出のポールら(Paul et al.)(2002)、前出のユーら(Yu et al.)(2002)、前出のスイら(Sui et al.)(2002)]。
【0048】
siRNAの発現を介する標的遺伝子の特異的なサイレンシングを誘導するには、例えば、RNA Pol IIプロモーターによる転写制御下においてsiRNAを有する組み換えアデノウイルスを生成する工程[前出のシアら(Xia et al.)(2002)]によってウイルスを介する送達機構を使用することもできる。RNA Pol IIIによる転写の終結は、DNA鋳型中においてT残基が4回連続で現れる際に生じ、特異的な配列においてsiRNA転写物を終端させる機構を提供する。こうして生成されたdsRNAは、標的遺伝子の5’→3’方向および3’→5’方向における配列に対して相補的であり、同じ構築物中でも別個の構築物中でもsiRNAの2本鎖を発現させることができる。H1プロモーターまたはU6 snRNAプロモーターにより駆動され、細胞内で発現されるヘアピンsiRNAは、標的遺伝子の発現を阻害することができる[前出のバジェラら(Bagella et al.)(1998)、前出のリーら(Lee et al.)(2002)、前出の宮岸ら(Miyagishi et al.)(2002)、前出のポールら(Paul et al.)(2002)、前出のユーら(Yu et al.)(2002)、前出のスイら(Sui et al.)(2002)]。T7プロモーターの制御下にあるsiRNA配列を含有する構築物もまた、ベクター発現T7 RNAポリメラーゼと共に細胞内に共トランスフェクトすると、機能的なsiRNAを創出する[前出のジャック(Jacque)(2002)]。
【0049】
動物の場合、全胚電気穿孔法により、合成siRNAを植え込み後のマウス胚中に効率的に送達することができる[カレガーリら(Calegari et al.),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99(22):14236−40(2002)]。成体マウスの場合、siRNAの効率的な送達は「高圧」送達法であり、siRNAを含有する大量の溶液を、尾静脈を介して動物に急速に(5秒以内)注射することにより達成することができる[前出のリュー(Liu)(1999)、前出のマカフレイ(McCaffrey)(2002)、ルイス(Lewis),Nature Genetics 32:107−108(2002)]。例えば、細胞内への送達を容易にするリピオドール(油中のヨウ素)などの担体による局所的送達を使用することもできる。
【0050】
細胞または全生物体内に導入されるここに記載する組み換えRNA前駆体は、所望のsiRNA分子の生成に用いることができる。次いで、こうしたsiRNA分子は、RNAi経路の内因性タンパク質成分と会合して、特異的なmRNA配列に結合し、これを切断および破壊の標的とする。このようにして、組み換えRNA前駆体から生成されたsiRNAにより標的化されるmRNAは細胞または生物体から枯渇し、そのmRNAによりコードされるタンパク質の細胞または生物体中の濃度は低下する。RNAiの使用に関する追加の情報は、RNA Interference Editing,and Modification:Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology),ゴット編(Gott,Ed.),[フマーナプレス社(Humana Press),2004]中に見出すことができる。
【0051】
アンチセンスポリヌクレオチド:「アンチセンス」核酸は、ポリメラーゼ間で保存される残基領域および/または異なるポリメラーゼ間における構造的相同領域をコードする「センス」核酸に対して相補的であるヌクレオチド配列を含みうる。例えば、ポリオウイルスポリメラーゼの位置359に位置するリシン(例えば、表1および表6も参照されたい)。
【0052】
ここに開示する配列に基づけば、当業者は、本発明に従って用いられる多数の適切なアンチセンス分子のいずれかを容易に選択し合成することができる。例えば、ポリメラーゼ間で保存される残基領域および/または異なるポリメラーゼ間における構造的相同領域の全長にわたる15〜30ヌクレオチドからなる一連のオリゴヌクレオチドを含む「遺伝子ウォーク」。例えば、ポリオウイルスポリメラーゼの位置359に位置するリシン(例えば、表1および表6も参照されたい)。核酸を調製した後で、ウイルス複製の阻害について調べることができる。場合によっては、5〜10ヌクレオチドのギャップをオリゴヌクレオチド間に残すことで、合成して調べるオリゴヌクレオチド数を低減することができる。コンピュータによる解析法、RNAアーゼによるHマッピング法、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドによる走査マイクロアレイ法を含む他の方法を用いることもできる[DNA Microarrays:A Practical Approach,シェーナ編(Schena,Ed.)オックスフォード大学出版局(Oxford University Press)1999;シェルおよびロッシ(Scherr and Rossi),Nucl.Acids Res.,26(22):5079−5085(1998)]。
【0053】
アンチセンス核酸は、標的ポリメラーゼの全コード領域に対して相補的であるように設計することができるが、標的mRNAのコード領域または非コード領域のごく一部に対してアンチセンスであるオリゴヌクレオチドでもありうる。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的mRNAの翻訳開始部位の周囲の領域、例えば、対象の標的遺伝子ヌクレオチド配列の−10〜+10の領域に対して相補的でありうる。アンチセンス核酸は、ポリメラーゼ間で保存される残基領域および/または異なるポリメラーゼ間における構造的相同領域を標的とすることが好ましい。例えば、ポリオウイルスポリメラーゼの位置359に位置するリシン(例えば、表1および表6も参照されたい)。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約7、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80またはこれを超えるヌクレオチド長でありうる。
【0054】
アンチセンス核酸は、当該技術分野で知られる手順を用いた化学合成反応および酵素連結反応を用いて構築することができる。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、分子の生物学的安定性を向上させること、あるいはアンチセンス核酸とセンス核酸との間で形成される2本鎖の物理的安定性を向上させることを目的とする自然発生のヌクレオチド、または様々に改変されたヌクレオチドを用いて化学的に合成することができ、例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジンで置換したヌクレオチドを用いることができる。アンチセンス核酸はまた、その中に核酸がアンチセンス方向(すなわち、挿入された核酸から転写されるRNAが、対象の標的核酸に対してアンチセンスの方向となる)にサブクローンされた発現ベクターを用いて、生物学的にも生成することができる。
【0055】
アンチセンス核酸は、典型的には、対象に対して投与される(例えば、組織部位への直接の注射により)か、あるいはポリメラーゼ間で保存される残基領域および/もしくは異なるポリメラーゼ間における構造的相同領域をコードするmRNAおよび/もしくはDNAとハイブリダイズするか、もしくはこれに結合するようにその場で(in situ)生成される。例えば、ポリオウイルスポリメラーゼの位置359に位置するリシン。
【0056】
あるいは、アンチセンス核酸分子を改変して、選択された細胞を標的化し、その後に全身投与することができる。全身投与の場合、アンチセンス分子は、選択された細胞表面上で発現される受容体または抗原にそれらが特異的に結合するよう、例えば、アンチセンス核酸分子を、細胞表面の受容体または抗原に結合するペプチドまたは抗体に連結することにより改変することができる。アンチセンス核酸分子はまた、ここに記載するベクターを用いても細胞に送達することができる。アンチセンス分子の十分な細胞内濃度を達成するためには、アンチセンス核酸分子が強力なpol IIプロモーターまたはpol IIIプロモーターの制御下に置かれるベクター構築物を用いることができる。
【0057】
さらに別の実施形態において、本発明のアンチセンス核酸分子はα−アノマー核酸分子である。α−アノマー核酸分子は、相補的なRNAと特異的な2本鎖によるハイブリッド体を形成するが、ここでは、通常のβユニットとは異なり、2本鎖が互いに平行に並ぶ[ゴルティエら(Gaultier et al.),Nucleic Acids.Res.15:6625−6641(1987)]。アンチセンス核酸分子はまた、2’−o−メチルリボヌクレオチド[井上ら(Inoue et al.)Nucleic Acids Res.15:6131−6148(1987)]またはキメラRNA−DNA類似体[井上ら(Inoue et al.)FEBS Lett.,215:327−330(1987)]も含みうる。
【0058】
いわゆる「スイッチバック型」の核酸分子を創出することにより、3重らせんの形成を標的としうる潜在的な配列を増加させることができる。スイッチバック型分子は、2本鎖のうちまず第1の一本鎖、次いで他の鎖と塩基対を形成することで、2本鎖の1つの鎖上に存在すべきプリンまたはピリミジンが相当程度に伸展する必要がなくなるよう、配列5’→3’方向と3’→5’方向とが交代する形で合成される。
【0059】
リボザイム:リボザイムは、特異的かつ配列依存的な形で、他のRNA標的を酵素的に切断し不活化するよう組み換えうる種類のRNAである。標的RNAを切断することにより、リボザイムは翻訳を阻害し、これにより標的遺伝子の発現を阻止する。リボザイムは、実験室内で化学的に合成し、当該技術分野で知られる方法を用いて、その安定性および触媒活性を上昇させるよう構造的に改変することができる。あるいは、当該技術分野で知られる遺伝子送達機構を介して、細胞内にリボザイム遺伝子を導入することもできる。ポリメラーゼ間で保存される残基領域および/または異なるポリメラーゼ間における構造的相同領域に対する特異性を有するリボザイムは、これらのヌクレオチド配列に対して相補的な1つまたは複数の配列、およびmRNA切断の原因となる既知の触媒配列を有する配列を含みうる[米国特許第5,093,246号、または、ハッセウホッフおよびゲルラッハ(Haselhoff and Gerlach),Nature,334:585−591(1988)]。
【0060】
以下の実施例は、例示のために提示されるものであり、限定のために提示されるものではない。具体的な実施例が提供されているが、上記の説明は例示的なものであり、限定的なものではない。前述で説明された実施形態の1つまたは複数の任意の特徴を、本発明における他の任意の実施形態の1つまたは複数の特徴と、任意の形で組み合わせることができる。さらに、本明細書を検討した当業者には、本発明の多くの変更が明らかとなるであろう。
【0061】
本出願に引用されるすべての刊行物および特許文献は、各個別の刊行物または特許文献がそのように個別に表示されたと仮定した場合と同じ程度に、すべての目的に関する関連部分において組み込まれる。本件出願人は、本文書中で各参考文献を引用することにより特定の参考文献が自らの発明に対する「先行技術」であることを承認するわけではない。
【0062】
組成物の投与
ここに記載するワクチン組成物、弱毒化ウイルス、および弱毒化ウイルスを含む組成物は、任意の適切な製剤中において、任意の適切な方法により細胞内に導入することも対象(例えば、ヒト)に投与することもできる。例えば、ここに記載する組成物および抗ウイルスワクチンは、マイクロインジェクションなどにより細胞内に直接注入してもよい。別の例では、ここに記載する組成物および抗ウイルスワクチンは、静脈内(IV)注射、腹腔内(IP)注射、皮下注射、筋肉内注射、あるいは標的組織内へのin situでの注射を含む方法により、対象(例えば、ヒト)に直接導入してよい。例えば、従来のシリンジおよび注射針を用いて、ここに記載する抗ウイルスワクチンを含有する懸濁液を対象に注射することができる。所望の投与経路に応じて、注射は、in situ(すなわち、特定の組織または組織上の特定の位置に)、IM、IV、IP、または別の非経口経路によることが可能である。ここに記載する組成物および抗ウイルスワクチンはまた、経口投与、吸入、経皮投与、または坐薬塗布によっても投与することができる。
【0063】
本発明のワクチンは、適切な希釈剤、アジュバント、および/または担体を追加的に含有することがある。ワクチンは、インビボにおけるワクチンの免疫原性を増強しうるアジュバントを含有することが好ましい。アジュバントは、グラム陰性菌内毒素のリピッドA部分、マイコバクテリアのトレハロースジミコレート、リン脂質であるリゾレシチン、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA)、一部の直鎖状ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン(POP−POE)ブロックポリマー、水酸化アルミニウム、およびリポソームを含む当該技術分野で知られる多くのアジュバントから選択しうる。ワクチンはまた、GM−CSF、IL−2、IL−12、TNF、およびIFNγを含む免疫反応を増強することが知られるサイトカインも含有しうる。
【0064】
ワクチンの用量は、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびに個体内において抗体が所望の反応を引き起こす能力に応じて変化しうる。投与計画を調整することにより、最適の治療応答を提供しうる。例えば、複数回に分割した用量を毎日投与してもよく、治療状況の必要が示す度合いに応じて用量を低減してもよい。最適の予防的な投与応答を提供するためには、状況に応じてワクチンの用量を変化させうる。
【0065】
実施例
本発明は、以下の特定の実施例によってさらに示される。実施例は、例示のみのために提供され、発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0066】
RNA依存性およびDNA依存性のRNAポリメラーゼおよびDNAポリメラーゼによって触媒されるヌクレオチジル転移についての律速的な遷移状態での2プロトン転移反応
材料および方法
材料:[γ−32P]ATP(>7000Ci/mmol)はICN社から購入した。
[α−32P]ATP(3000Ci/mmol)はニューイングランドニュークリアー社(New England Nuclear)から入手した。ヌクレオシド5’−三リン酸(超高純度の溶液)はアマシャムファルマシアバイオテクインコーポレイティッド社(Amersham Pharmacia Biotech,Inc)から入手した。アデノシン5’−O−(1−チオ三リン酸)(ATPαS)はアクソラバイオケミカルズ社(Axxora Biochemicals)[カリフォルニア州サンディエゴ所在]から入手した。DOは、アイソテック社(Isotec)[オハイオ州マイアミズバーグ所在]から購入した。重水素化グリセロールは、ケンブリッジアイソトープラボラトリーズ社(Cambridge Isotope Laboratories)[マサチューセッツ州アンドーバー所在]から入手した。RNAオリゴヌクレオチドはすべてダーマコンリサーチインコーポレイティッド社(Dharmacon Research,Inc.)[コロラド州ボールダー所在]から入手した。DNAオリゴヌクレオチドはすべてインテグレイテッドDNAテクノロジーズ社(Integrated DNA Technologies)[アイオワ州コーラルビル所在]から入手した。T4ポリヌクレオチドキナーゼはニューイングランドバイオラボインコーポレイティッド社(New England Biolabs,Inc)から入手した。他のすべての試薬は、シグマ社(Sigma)、フィシャー社(Fisher)、またはVWR社から入手可能な最上級のものとした。
【0067】
略語:DdRpはDNA依存性RNAポリメラーゼ、DdDpはDNA依存性DNAポリメラーゼ、RNApはDNA依存性RNAポリメラーゼ、RTは逆転写酵素、PVはポリオウイルス、S/Sは対称プライマー/鋳型基質、CQFは化学的クエンチフロー機器、SFはストップフロー機器、2APは2−アミノプリン、SDIEは溶媒重水素同位体効果、DTTはジチオトレイトール、BMEはベータ−メルカプトエタノール、EDTAはエチレンジアミノテトラ酢酸、NP−40はnonident P−40、PMSFはフッ化フェニルメチルスルホニル、PEIはポリエチレンイミンである。
【0068】
PV 3Dpolによって触媒されるヌクレオチド組み込み実験
ストップフロー実験:ストップフロー実験は、水浴を装備したModel SF−2001ストップフロー装置(キンテックコーポレーション社(Kintek Corp.)[テキサス州オースチン所在])を使用して行った。反応はすべて30℃で行った。反応は、バッファーの2つの異なるセットで行った。HEPES中での反応は、50mM HEPES、pH7.5、10mM 2−メルカプトエタノール、5mM MgCl、60μM ZnCl中で3分間、室温で1μM酵素を1μM sym/sub(0.5μM2本鎖)とインキュベートすることによって行い、次いで、サンプル区画内で30℃で平衡を保たせて、次いで、同じバッファーを使用することによって調製したヌクレオチドと素早く混合した反応を指す。MTCNまたはMHCN中での反応は、3分間、室温で1mM HEPES pH7.5中で1μM酵素を1μM sym/sub(0.5μM2本鎖)とインキュベートすることによって行い、次いで、サンプル区画内で30℃に平衡を保たせて、次いで、示されるpHで2×MTCNバッファーを含有する溶液中でヌクレオシド三リン酸基質と素早く混合した反応を指す。1×MTCNバッファーは、50mM MES、25mM TRIS、25mM CAPS、および50mM NaClとする。酵素−sym/subおよびヌクレオチド溶液の両方についての他のバッファー成分は同じものとした。1×MHCNバッファーは、50mM MES、25mM HEPES、25mM CAPS、および50mM NaClとする。3Dpolは、使用の直前に、酵素バッファー(50mM HEPES、pH7.5、10mM 2−メルカプトエタノール、60μM ZnCl、および20%グリセロール)に希釈した。あらゆる反応に添加した酵素の容量は、全反応容量の20分の1と常に等しくした。1mMよりも高い最終ATP濃度を有する反応については、遊離Mg2+の量は、反応中のMgClの量を1mMを上回るATP濃度に加えた5mMに増加させることによって一定に保った。例えば、5mM ATPを含有する反応では、最終Mg2+濃度は9mMに調整した。使用した励起波長は313nmとした。蛍光発光は、370nmカットオンフィルター(モデルE370LP、クロマテクノロジーコーポレーション社(Chroma Technology Corp.)[バーモント州ロッキンガム所在])を使用することによってモニターした。加水分解抵抗性のATP類似体α,β−メチレンアデノシン5’−三リン酸(AMPCPP)を利用する反応は、蛍光で観察される変化が、ヌクレオチド結合の結果として2AP環境での変性に起因した可能性を調べるために行った。これは、蛍光の変化が調査下の時間枠にわたって最小限であったので、そうではないことを証明した。ヌクレオチド基質の濃度および使用するバッファーの含有量は適切な図および表の説明文に示す。ヌクレオチド組み込みについての速度定数は、機器のデータ分析ソフトウェアを使用することによって得た。
【0069】
急速化学的クエンチフロー実験
急速混合/クエンチング実験は、ModelRQF−3化学的クエンチフロー装置(キンテックコーポレーション社(Kintek Corp.)[テキサス州オースチン所在])を使用することによって行った。3Dpol−sym/sub複合体およびすべてのバッファー溶液は、上記に記載されるストップフロー実験と同じ方法で調製した。反応は、1Mの最終濃度までの、HClの添加によってクエンチした。HClの添加直後に、溶液は、1M KOHおよび300mM Tris塩基(最終濃度)の添加によって中和した。ヌクレオチド基質の濃度および使用するバッファーの含有量は適切な図および表の説明文に示す。
【0070】
急速クエンチ産物分析:変性PAGE
等容量のローディング/クエンチング色素(85%ホルムアミド、0.025%ブロモフェノールブルー、および0.025%キシレンシアノール、90mM EDTA)を、10μlのクエンチした反応混合物に添加し、1×TBE(2mM EDTA、89mMホウ酸、87mM Tris)および7M尿素を含有する変性23%ポリアクリルアミドゲル上に5μlを加える前に2〜5分間70℃に加熱した。電気泳動は90Wで1×TBE中で行った。ゲルは、リン撮像装置を使用することによって視覚化し、ImageQuantソフトウェア(モレキュラーダイナミクス社(Molecular Dynamics))を使用することによって定量化した。
【0071】
sym/subの中へのAMPの定常状態の組み込み
定常状態の実験は、30℃で、90秒間、pH7.5の1Mm HEPESバッファー中で、1μM 3Dpolを、30μM sym/sub(15μM2本鎖)とインキュベートすることによって行い、次いで、pH7.5の2×MTCNバッファー中でATPと混合した。反応は、等容量のローディング/クエンチング色素と混合することによって様々な時間でクエンチした。産物分析は、上記に記載されるように、変性PAGEを使用することによって行った。バッファーおよび溶液はすべて、各実験についてHOまたはDO中のいずれかで調製した。pDは、DO中の溶液のためにpHの代わりに使用し、pD=pH+0.4に従って調整した。
【0072】
プロトンインベントリー
プロトンインベントリー実験のための酵素、基質、およびバッファーは、100%水または100%DO中で調製し、その後、適切な比で混合して、0、25、50、75、または100%のDOを得た。重水素化グリセロールは、DO中のすべての溶液中で使用した。データ収集はすべて、上記に示されるストップフロー機器で行った。pDは、上記に記載されるように、DO中の溶液のためにpHの代わりに使用した。
【0073】
データ分析
固定ヌクレオチド濃度での時間的経過を単一指数関数にフィットさせた:
[産物]=A*exp(−kobs*t)+C (1)
Aはバーストの振幅であり、kobsはバーストを説明する観察された1次速度定数であり、tは時間であり、Cは定数である。ストップフロー機器からの時間的経過は、機器ソフトウェアを使用して同じ式にフィットさせた。データは、プログラムKaleidaGraph(シナジーソフトウェア社(Synergy Software)[ペンシルベニア州レディング所在])を使用して非線形回帰によってフィットさせた。ヌクレオチド組み込み(kpol)についての見かけの結合定数(KD,app)および最大速度定数は式:
obs=kpol[NTP]/KD,app+[NTP] (2)
を使用して決定した。
【0074】
polのpH依存性についてのpK値は、2−イオン性基(ベビラックア ピー シー(Bevilacqua,P.C.)(2003)Biochemistry 42,2259−65):
pol=kind/(1+10^(pKa1−pH)+(pH−pKa2)) (3)
または1−イオン性基(ベビラックア ピー シー(Bevilacqua,P.C.)前掲)
pol=kind/(1+10^(pK−pH)) (4)
indはpH非依存性の速度定数である、を説明するモデルにフィットさせることによって得た。
【0075】
プロトンインベントリーのデータは、改変Gross−Butler式にフィットさせ、2プロトン転移モデルについては(ショーウェン アール エル(Schowen,R.L.)およびベンカタスッバン ケー エス(Venkatasubban,K.S.)(1985)CRC Crytical reviews in Biochemistry 17,1−44):
/kH2O=(1−n+n*φ)(1−n+n*φ) (5)
または1プロトン転移モデル(ショーウェンら(Schowen et al.))については:
/kH2O=(1−n+n*φ) (6)
とし、kは、異なるパーセンテージのDOで観察された速度定数であり、kH2Oは、水中で観察された速度定数であり、nは、DOのモル分率であり、φは、各イオン性基の同位体効果の逆数である。
【0076】
報告された平衡定数および速度定数は、それぞれ少なくとも2回決定した。誤差は、式6を使用することによって積および指数によって増大させた。
Δz=((Δx/x)+(Δy/y))^1/2*z (7)
xおよびyは1次データであり、zはxおよびyの積または指数であり、Δx、Δy、およびΔzは対応する誤差の値である(エイケンス ディー エー(Aikens,D.A.),ベイリー アール エー(Bailey,R.A.),ムーア ジェイ エー(Moore,J.A.),ジョアキーノ ジー ジー(Giachino,G.G.)およびトムキンス アール ピー ティー(Tomkins,R.P.T.)(1984)Principles and techniques for an integrated chemistry laboratory(ウェーブランドプレス社(Waveland Press),イリノイ州プロスペクトハイツ所在)。
【0077】
RB69 DdDpの発現および精製
RB69 DdDpをBL21(DE3)細胞中で発現させた。凍結させた細胞を、解凍し、溶解バッファー(100mM KPO pH8.0、20%グリセロール、20mM DTT、0.5mM EDTA pH8.0、2.8μg/mLペプスタチンA、2.0μg/mLロイペプチン)中に懸濁させ、1000psiでフレンチプレスを通過させることによって溶解させた。溶解の直後に、NP−40を0.1%(容量/容量)まで添加し、PMSFを2mMまで添加した。ポリエチレンイミン(PEI)を、0.25%(容量/容量)の最終濃度まで4℃で滴下し、30分間攪拌した。次いで、この懸濁液を、4℃で30分間、75,000xgで遠心分離した。上清をデカントし、収集し、粉砕した硫酸アンモニウム粉末を4℃で60%飽和度までゆっくり添加し、30分間攪拌した。硫酸アンモニウム沈殿物をバッファーA(50mM Tris pH8.0、20%グリセロール、10mM DTT、0.1%NP−40)中に懸濁させ、12〜14,000DaのMWCO膜を使用して、75mM NaClを含有する1LのバッファーAに対して一晩透析した。透析の後にサンプルを、50mMの最終NaCl濃度までバッファーA中に希釈した。サンプルは、1mL/分間の流速で、ホスホセルロースカラム(約1mLベッド容量/25mg総タンパク質量)上にロードした。カラムは、50mM NaClを含有するバッファーAの10カラム容量を用いて洗浄し、タンパク質を、150mM NaClを含有するバッファーAを用いて溶出した。画分は、8%SDS−PAGEゲル上のそれらの純度に基づいてプールした。プールした画分を、50mMの最終塩濃度までバッファーA中に希釈した。サンプルを、1mL/分間で、Q−Sepharoseカラム(1mLベッド容量/40mgのタンパク質)上にロードした。カラムは、50mM NaClを含有するバッファーAの10カラム容量を用いて洗浄し、タンパク質を、150mM NaClを含有するバッファーAを用いて溶出した。タンパク質を含有する画分を前のようにプールした。タンパク質を、小さな(0.5ml)Q−Sepharoseカラムを使用して濃縮した。カラムのロードおよび洗浄は上記に記載される通りのものとした。溶出は、500mM NaClを含有するバッファーA中で行った。
【0078】
T7 DdRpの発現および精製
T7 DdRpの精製は、以下の修正を有する、RB69 DdDpと同じプロトコールを使用して行った。1.硫酸アンモニウムを40%飽和度まで添加した。2.ホスホセルロースカラムは、バッファーA中で50mM〜700mM NaClの直線勾配(6カラム容量)を使用して溶出した。3.Q−Sepharoseカラムをロードし、洗浄し、タンパク質は、バッファーA中で50mM〜400mM NaClの直線勾配(6カラム容量)を使用して溶出した。タンパク質を含有する画分を前のようにプールした。タンパク質を濃縮するための付加的なステップは必要ではなかった。
【0079】
HIV RTの発現および精製
HIV RTを、以前に記載されるように発現させて生成した(レグライス エス エフ(Le Grice,S.F.)およびグルニンガー−ライチ エフ(Gruninger−Leitch,F.)(1990)Eur J Biochem 187,307−14)。
【0080】
RB69 DdDpについての溶媒重水素同位体効果およびプロトンインベントリー
実験は、小さな修正を伴うが本質的には記載されるように(ヤン ジーら(Yang,G.,et al.)(2002)Biochemistry 41,2526−34)、25℃でストップフロー機器を用いて行った。アッセイは、1μM RB69 WT酵素および150nMプライマー鋳型基質を用いて、1×MTCN pH7.5、10mM MgCl、1mM dATP中で行った。使用したDNAプライマーは、5’−CCGACCAGCCTTG−3’(配列番号1)であり、使用したDNA鋳型は、5’−AAAGC(2AP)TCAAGGCTGGTCGG−3’(配列番号2)とした。溶媒重水素同位体効果およびプロトンインベントリーは3Dpolについて上記に記載されるように行った。
【0081】
T7 DdRpについての溶媒重水素同位体効果およびプロトンインベントリー
実験は、小さな修正を伴うが3Dpolについて本質的には記載されるように、30℃でストップフロー機器を用いて行った。1μM RNAプライマー、5’−UUUUGCCGCGCC−3’(配列番号3)を1μM DNA鋳型、5’−GGAATGC(2AP)TGGCGCGGC−3’(配列番号4)にアニールし、次いで、1×MTCN pH7.5、10mM BME、および5mM MgCl中で、室温で10分間、1.6μM T7 WTとインキュベートした。反応は、MTCN pH7.5、10mM BME、7mM MgCl、100mM NaCl(付加的)中で、3mM ATPとT7プライマー鋳型複合体を混合することによって開始した。溶媒重水素同位体効果およびプロトンインベントリーは3Dpolについて上記に記載されるように行った。
【0082】
HIV−RTについての溶媒重水素同位体効果およびプロトンインベントリー
定常状態前の実験は、いくつかの修正を伴うが本質的には記載されるように(ゴッテ エムら(Gotte,M.,et al)(2000)Journal of Virology,3579−3585)、37℃で化学的クエンチフロー機器を用いて行った。2μM 32PラベルDNAプライマー、5’−TTAAAAGAAAAGGGGGGACTGGA−3’(配列番号5)を2.2μM DNA鋳型、5’−CGTTGGGAGTGAATTAGCCCTTCCAGTCCCCCCTTTTCTTTTAAAAAGTGGCTAAGA−3’(配列番号6)とアニールし、金属を含有しない溶液中で4μM RTとインキュベートした。反応は、10mM MgClを含有する反応バッファー中で200μM dATPの添加によって開始した。混合の後に、反応物の濃度を50%低減させた。反応は、化学的クエンチフロー機器を使用することによって行った。産物分析は、以下の修正を伴うが本質的にはPV 3Dpolについて記載されるように行った。1.非標識DNAプライマーは、以前に記載されるように(アーノルド ジェイ ジェイ(Arnold,J.J.),ゴーシュ エス ケイ(Ghosh,S.K.),ベビラックア ピー シー(Bevilacqua,P.C.)およびキャメロン シー イー(Cameron,C.E.)(1999)Biotechniques 27,450−2,454,456)、標識プライマーの100倍の濃度でローディング/クエンチング色素に添加した。2.40%ホルムアミドを含有する15%ポリアクリルアミドゲルを使用した。
【0083】
【表2】

結果
3Dpolによって触媒されるヌクレオチド組み込みの評価のための急速蛍光アッセイを開発した。このアッセイは、この反応のpH依存性を評価するために用いられ、ヌクレオチド組み込みのための律速段階での2つのイオン性基についての証拠を提供してきた。生理学的条件下で、溶媒重水素同位体効果が観察された。プロトンインベントリー実験は、ポリメラーゼによって触媒されるヌクレオチド組み込みの間の2プロトン転移反応についての最初の観察を提供した。2プロトン転移反応はまた、RB69 DNA依存性DNAポリメラーゼ、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼ、およびHIV逆転写酵素によって触媒されるヌクレオチジル転移反応についても観察された。共に、これらのデータは、ポリメラーゼによって触媒されるヌクレオチジル転移反応での一般的な塩基および一般的な酸の使用のための非常に説得力のある証拠を提供する。
【0084】
2つのイオン性基は、RdRpによって触媒されるヌクレオチジル転移に必要とされる。化学作用が、3Dpolによって触媒されるヌクレオチド組み込みについて少なくとも部分的に律速であるので、本発明者らは、反応のpH依存性を評価することによって、律速的な遷移状態の間に起こるプロトン転移を洞察することが可能であるはずだと推論した。得られる反応速度データの量を最大限にするために、本発明者らは、2−アミノプリンを含有するRNA鋳型を用いた、3Dpolについてのストップフロー蛍光アッセイを開発し、検証した(図7および図8)。イオン強度を変動させずに、反応のpHを変動させるために、本発明者らはMTCNおよびMHCNのバッファー系を選んだ(エリス ケイ ジェイ(Ellis,K.J.)およびモリソン ジェイ エフ(Morrison,J.F.)(1982)Methods Enzymol 87,405−426)。バッファーは比較可能であり、pH7.5でそれぞれ200±20μMおよび50±10s−1のKD,app値およびkpol値を得た(表3)。前に用いたバッファー系と比べたATPについてのより高いKD,app値は、MTCNおよびMHCNのバッファーのイオン強度の増加によって引き起こされた。
【0085】
【表3】

ヌクレオチド組み込みについてのKD,app値およびkpol値をMg2+またはMn2+で異なるpH値で測定した(表4)。実験は、より高いpH値ではヌクレオチドが沈殿するので、Mg2+でpH10に、Mn2+でpH9に制限した。kpolについての値をpHの関数としてプロットした(図2)。Mg2+では、2つのイオン性基を示すベル型曲線が観察された。データを式3にフィットさせて、7.1±0.1および10.5±0.1のpK値が得られた。Mn2+では、同様のpH依存性がプロフィールの酸性の範囲について観察されたが、8.2±0.1への約1pH単位のpKのシフトが伴った。これらのデータは、単一イオン化モデルに十分にフィットする。しかしながら、本発明者らは、Mn2+での2イオン化モデルを除外することができなかった。8.2および10.5のpK値で観察されるであろうpH速度プロフィールを図2Bに示す(点線)。pH9を上回るデータは、1イオン化モデルおよび2イオン化モデルを区別するために必要とされるであろう。
【0086】
【表4】

pHの関数としての律速段階。律速段階がpHの関数として変化していたかどうかを決定するために、本発明者らは、上で評価されるpH領域にわたるホスホロチオエート(チオ)の効果を評価した(表5)。3Dpolについては、化学作用は、pH7.5でMg2+で部分的に律速である。これらの条件下で、観察されたチオの効果は3±0.3であった(表5)。7.5未満のpH値では、チオの効果についての値が変化しなかった(pH7.0)または増加しなかった(pH6.0)ので、化学作用は、明らかに、部分的に律速であった(表5)。チオの効果はまた8.0および9.0のpH値でも観察された。しかしながら、pH10では観察されなかった(表5)。興味深いことには、pH7.5を上回るチオの効果の値の減少は、AMPαS組み込みについて観察された速度定数の特定の増加によるものであり、AMPの組み込み(表5)に対するいかなる有意な効果も伴わなかった。pH7.5のMn2+では、化学作用は唯一の律速段階となる。pH6.0〜9.0で、チオの効果は7〜5まで変動し(表5)、このpH領域にわたって速度論的に有意なままである化学作用と一致した。
【0087】
【表5】

ヌクレオチド組み込みの間の律速段階についての試験としての溶媒重水素同位体効果。pH10.0でのMg2+のチオの効果の損失を解釈するのが困難であったので、溶媒重水素同位体効果を調べた。プロトン転移が、ヌクレオチド組み込みアッセイによって測定される律速段階の間に起こっている場合、同位体効果は見かけ上のものであるはずである。pH7.5でのMg2+では、3±0.5の同位体効果は、定常状態前のAMPの組み込みで観察された(図3A)。pH7.5でのMn2+では、7±2の同位体効果が観察された(図3B)。用いた2価カチオンに対する同位体効果の大きさの依存性は、化学作用がMg2+で部分的に律速となり、Mn2+ではもっぱら律速となる前の観察と一致していた。しかしながら、観察された同位体効果の原因としての、構造上の原因を除外するために、定常状態でのAMPの組み込みを評価した。
【0088】
定常状態での律速段階ではプライマー鋳型基質からの酵素の解離である。この段階の同位体効果は予想されないと思われた。図3Cおよび3Dに示されるように、同位体効果は観察されなかった。溶媒重水素同位体効果は、ヌクレオチド組み込みの間の律速段階としての化学作用についての有用な試験であることが結論付けられた。Mg2+での溶媒重水素同位体効果のpH依存性の評価は、pH7.5〜10.0で2±0.2の一定値を示した(表5)。したがって、化学作用は、評価した全pH領域にわたって部分的に律速となる。
【0089】
RdRpについて律速的な遷移状態での2プロトン転移反応はヌクレオチジル転移を触媒した。ヌクレオチド組み込みについての速度定数に対する溶媒重水素同位体効果の存在により、律速的な遷移状態で転移されたプロトンの数の定量化を可能にする(プロトンインベントリー)。この実験では、ヌクレオチド組み込み(k)について観察された速度定数は、異なるモル分率のDO(n)を含有する反応で測定する。nの関数としての指数k/kH2O(kH2OはHOで観察された速度定数である)のプロットは、単一のプロトンが転移する場合、kH2O/kH2Oおよびk100%D2O/kH2Oによって定義される線上に当たるであろう。データは、2つのプロトンが転移する場合、2次多項式にフィットし、3つのプロトンが転移する場合、3次多項式にフィットするなどである。プロトンインベントリー実験を、Mg2+(図4A)およびMn2+(図4B)で3DpolによってAMPの組み込みについて行った。いずれの場合も、データは、単一のプロトン転移を定義するであろう線上に当たらなかった(図4A、4Bの点線)。
【0090】
しかしながら、データは、2次多項式、2プロトン転移についてのGross−Butler式(式5)に十分にフィットする(図4A、4Bで実線)。これらのデータに基づいて、本発明者らは、ポリオウイルスRdRpによって触媒されるリン酸ジエステル結合形成のための律速的な遷移状態で2プロトン転移反応が起こるといった結論を下した。
【0091】
他のクラスの核酸ポリメラーゼのヌクレオチジル転移のための律速的な遷移状態での2プロトン転移反応。RdRpについてここで到達した結論が他のクラスの核酸ポリメラーゼに適応するかどうかを決定するために、同様の実験を、RB69 DdDp、T7 DdRp、およびHIV RTを用いて行った。すべての場合で、溶媒重水素同位体効果は、3〜6の範囲(表1)で観察された(図5A、パネルi〜iii)。重要なことには、プロトンインベントリー実験は、これらのポリメラーゼについて2プロトンモデルに十分にフィットした(図5B、パネルi〜iiiおよび表2)。すべてのクラスの核酸ポリメラーゼによって触媒されるヌクレオチジル転移のための律速な遷移状態で2プロトン転移反応が起こることが結論付けられた。
【0092】
3Dpolによって触媒されるヌクレオチド組み込みは、2−アミノプリンを含有するプライマー/鋳型基質を使用することによってモニターすることができる。3Dpol機構に関する前の研究は、3Dpolによって触媒されるヌクレオチド組み込みの速度は、Mg2+の存在下で、構造変化および化学作用の両方によって部分的に制限される。しかしながら、Mn2+の存在下では、反応は、もっぱら、化学作用によって制限されることを明らかにした。これらの結論に結びつく実験に、放射能標識基質および化学的クエンチフロー機器(CQF)を用いた。このアプローチは遅く、反応の間に起こるかもしれない構造変化についての直接の情報を提供しない。2−アミノプリン(2AP)を、DNA依存性のDNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼによって触媒される反応を研究するために用いた。2APは構造がアデニンに類似しており、6位にそのアミノ基を有する(図7A)。2APは、らせん構造の著しい変化を伴うことなく核酸2本鎖でアデニンに取って代わることができる。我々は、sym/sub(S/S)と呼ばれる本発明者らのクラスのプライマー鋳型基質の鋳型鎖の様々な位置に存在する場合の、単一のヌクレオチドの添加についての蛍光プローブとしての2APの使用について調べた(図7B)。位置0は、2APが鋳型ヌクレオチドであることを示す(S/S−0)。位置+1は、2APが鋳型ヌクレオチドの1nt下流にあることを示し(S/S−+1)、位置+2は、2APが鋳型ヌクレオチドの2nt下流にあることを示す(S/S−+2)。2AP蛍光(ΔF)で観察された変化の大きさおよび方向は、鋳型ヌクレオチド(図7C)と比べた2APの位置に依存した。S/S−0へのUMPの組み込みは、最大のΔFおよび信号対雑音比を生成した(図7C)。しかしながら、この基質は、入ってくるヌクレオチドが「正しい」塩基によって鋳型にされない望ましくない特徴を有する。2APの場合には、UMPの組み込みは予想されたものよりも遅いが(1±0.1s−1)、化学的クエンチフローで観察されものと同程度である。2APが鋳型塩基の下流に移動すると共に、ΔFおよび信号対雑音比は減少したが、組み込みについて観察された速度定数(S/S−+1およびS/S−+2それぞれについて60±8s−1および50±6s−1)は、UMPと反対のAMPの組み込みについて予想された通りであった。振幅および信号対雑音は+2位置よりも+1位置の2APがより好都合であった。後のSF実験はすべてS/S−+1を利用した。
【0093】
SFアッセイの検証。本発明者らは、CQFで、放射標識S/Sを使用して、3Dpolによって触媒されるヌクレオチド組み込みの完全な反応速度機構を以前に決定した。KD,appおよびkpolについてそれらの実験で得られた値は、それぞれ、130±20μMおよび90±10s−1であった。CQF実験でのS/S−+1の使用により、それぞれ、70±10μMおよび80±10s−1のKD,appおよびkpolについての値がもたらされた(表3)。本発明者らは、2APによって引き起こされる隣接効果としてKD,appの減少を解釈する。kpol値が同じである−すなわち測定の誤差の範囲内であることに注目されたい。
【0094】
SFでのS/S−+1の実験は、313mnの励起波長を用いて行い、2APのみの励起であることを確実にし、蛍光で観察された変化は、3Dpolの活性部位で2APプローブを取り囲む環境の変化にのみ起因したことを保証した。蛍光で観察された変化はATP濃度の関数として測定した(図8A)。各ATP濃度で観察された速度定数、kobsはATP濃度の関数としてプロットし、データを双曲線(式2)にフィットさせて、それぞれ、70±10μMおよび70±10s−1のKD,appおよびkpolの値を得た(図8B)。2APアッセイは、産物形成またはその後のいくらか速い段階を報告することが結論付けられた。
【0095】
DNAポリメラーゼによって触媒されるヌクレオチジル転移についての化学機構の疑問は、構造変化はヌクレオチド組み込みに対して律速となるといった一般的な考えによって阻止されてきた。この考えは、非常に論争の的になっているパラメータである、チオの効果の大きさの解釈に依存した考えである(ジョイス シー エムら(Joyce,C.M.et al.)(2004)Biochemistry.43,14317−24;ショワルター エー ケイら(Showalter,A.K.et al.)(2002)Biochemistry 41,10571−6)。しかしながら、ポリオウイルス由来のRdRpについてここに記載される研究は、化学作用は、Mg2+でヌクレオチド組み込みに対して少なくとも部分的に律速となり、Mn2+で完全に律速となることを示した。この系は、ヌクレオチド組み込みアッセイを用いることによる化学機構の疑問を許容するものである。
【0096】
Mg2+での、PVポリメラーゼによって触媒されるヌクレオチド組み込みのpH依存性の評価は、7.0および10.5(図2A)のpKa値を有する2つのイオン性基への反応の依存性を明らかにした。このグループのプロトン化はヌクレオチド組み込みの効率を低減させ、化学作用は、pH7.5未満で明らかに律速となるので、7.0のpKa値を3’−OHに特定した(表5)。このグループの脱プロトン化はヌクレオチド組み込みの効率を低減させ、化学作用が7.5〜10.5のpH領域で律速となる程度は同じであるので、10.5のpKa値を、PP離脱基をプロトン化するための役目をする酵素上の残基に特定した(表5)。
【0097】
2価カチオンのサイズを増加させるまたはATPの代わりにATPαSを用いることによって引き起こされる歪みが、観察されたpKa値の増加を引き起こすので、3’−OHについて観察されたpKa値は、活性部位中の残基の性質に感受性である(図2Bおよび表5)。ATPαSを用いる場合の3’−OHの求核性の観察された低減は、7.5を上回るpH値でのチオの効果の、観察された低減を説明する。この観察は、ポリメラーゼ系でのチオ効果の正当性に疑問を呼ぶ。チオ効果の大きさについて、ヌクレオチド添加サイクルの間の律速段階についての情報を得るため、AMPの組み込みと比べたAMPαS組み込みについて速度定数の観察された低減は、もっぱら、硫黄置換によって引き起こされるα−亜リン酸の求電子性の低減に起因するはずである。RdRpデータから他のポリメラーゼ系を推測するために、AMPの組み込みについて観察される速度定数は、同じpH値でAMPαS組み込みについて観察された速度定数と直接比較するべきではない。
【0098】
溶媒重水素同位体効果は、RdRpによるヌクレオチド組み込みについての律速段階での化学作用についての有用な試験となる(図3および表5)。溶媒重水素同位体効果について実測値は、化学作用が単に部分的に律速となるpH7.5でのMg2+での2(図3A)から(1)化学作用は完全に律速となるpH7.5でのMn2+での7(図3B)までの範囲であった。有意な同位体効果は、いずれの2価カチオンの存在下でも定常状態で測定されず(図3Cおよび3D)、これらの条件下で測定されたポリメラーゼ解離について速度定数と一致した。他のポリメラーゼ系への溶媒重水素同位体効果の適用(図5A)は、化学作用が、RB69 DdDp、T7 DdRp、およびHIV RTによって触媒されるヌクレオチド組み込みについて、部分的に律速なものであることを明らかにし、すべてのポリメラーゼについての律速段階の有用な機構的な試験として溶媒重水素同位体効果を検証した(表2)。
【0099】
溶媒重水素同位体効果についての観察は、RdRp(図4)および同様に他のポリメラーゼによって(図5B)触媒されるヌクレオチド組み込みについて律速的な遷移状態の間の起こるプロトン転移反応の数の定量化を可能にした。すべての場合で、2プロトン転移反応は観察された(表2)。この観察は、3’−O−への3’−OHの変換が、結合したヌクレオチドのα−亜リン酸の攻撃の前に、別々の段階として起こらないことおよびPP離脱基が実際にプロトン化されたままではないといった最初の証拠を提供するを示唆すると思われた。
【0100】
7つの溶媒重水素同位体効果を、化学作用がヌクレオチド組み込みについて唯一の律速段階となる条件下でRdRpについて観察し(図3)、両方のプロトンが律速的な遷移状態で同時に転移するのと一致した。効率的なプロトン転移は適したプロトンアクセプターおよびプロトンドナーを必要とすると思われた。上記に論じられるように、構造の研究は、この機能に役立つ水分子を同定していない。さらに、PVポリメラーゼによって触媒されるヌクレオチジル転移についてここで観察された7.0および10.5のpKa値は(図2)もまた、水がプロトンアクセプターまたはプロトンドナーとして役立つことと一致しない。ここに記載されるデータは、一般的な塩基および一般的な酸は、すべてのポリメラーゼによって触媒されるヌクレオチジル転移反応で用いられることを示唆する(図6)。他の系のpolβ Asp−256の構造相同体は、モチーフCの進化的に保存されたAsp残基であるといった一般的な合意がある(表6)。多くのポリメラーゼ構造では、このモチーフCの残基は、一方または両方の金属の配位子として役立つと分かることが多い。この環境は、一般的な塩基として役立つ残基に対して使用される距離の議論を許容する。しかしながら、触媒作用を受けるバチルスステアロサーモフィルスDNAポリメラーゼI断片(BF)の構造では、このモチーフCの残基は、ヌクレオチド結合の後にであるが、第2の金属イオン(金属A)の結合の前にプライマー3’−OHと相互作用する。加えて、T7 DdDpによって触媒されるヌクレオチジル転移反応のコンピュータモデリングは、保存されたモチーフCの残基、Asp−654が一般的な塩基として役立つことを示唆した。
【0101】
Mg2+結合PPについてのpKa値は、触媒作用の間のプロトン化を妨げるのに十分に低いと一般に仮定されている。しかしながら、溶液中では、PPについての最も高いpKa値は約9.3である。したがって、一般的な酸によるPPのプロトン化は、触媒作用の速度を増加させるはずであるが、絶対的に不可欠ではないかもしれない。構造の研究は、塩基性アミノ酸、ほとんどの場合、リシンが、ある位置で、一般的な酸として役立つことを明らかにした(表6)。この残基は、AファミリーポリメラーゼのヘリックスO、BファミリーポリメラーゼのヘリックスP、ならびにRdRpおよびRTの構造モチーフDのループ上に位置する。モチーフDは、最初のRT構造の解決以来、構造的な足場以外の機能が捜されてきた。この推定上の一般的な酸を変更したすべての場合で、ヌクレオチド組み込みについて観察された速度定数は実質的に小さくなった。特に注目すべきは、化学作用は、RB69 DNAポリメラーゼ、Lys−560の推定上の一般的な酸をアラニンに変更することによって、律速段階になるように思われるといった観察である。
【0102】
PV由来のRdRpは、ここに記載される研究のモデルとして使用し、核酸ポリメラーゼについての化学機構の最初の包括的な分析をもたらした。この系は、酵素からのプライマー鋳型基質の解離についての速度定数の非常に遅い(0.0001s−1)、pH非依存性の性質のために、特に魅力的であることを証明した。これらの研究は、協調的に起こる、3’−OHからのおよびPPへのプロトン転移を伴う非常に対称的な遷移状態についての非常に説得力のある証拠を提供した。ピロリン酸プロトン化は予想されなかった。すべてのクラスのポリメラーゼは同様の遷移状態の構造を有するように思われる。協調的なプロトン転移反応は都合よく位置したアクセプターおよびドナーを必要とする。ヌクレオチジル転移のために必要とされる観察されたpKa値およびすべての場合での適切な位置の規則的な水分子の不在はすべてのポリメラーゼによる、一般の酸塩基によって促進される触媒作用を再提案することを余儀なくさせる。
【0103】
【表6】

【実施例2】
【0104】
核酸ポリメラーゼのリン酸転移反応において、一般酸触媒作用は重要である。
ここに記載する実験は、ポリオウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(3Dpol)の活性部位Lys−359が、触媒性の一般酸として作用することによって、リン酸転移速度を高めることを示す。この発見は、HIV−1 RT RdDpおよびRB69 DdDpの保存活性部位のリシンに関する、触媒性の一般酸としての役割の実証によって、他の種類に由来するポリメラーゼにおける保存活性部位のリシン残基まで拡大された。プロトンを供与できる保存活性部位の残基による一般酸触媒作用は、したがって、すでに2金属陽イオンにより供給されている速度上昇をさらに2〜3桁増し、ヌクレオチドの組み込み速度を生物学的に十分なレベルにさせる、核酸ポリメラーゼのリン酸転移反応の普遍的特徴であると思われる。
【0105】
核酸ポリメラーゼは、すべての生物およびウイルスにおけるゲノムの複製、維持および発現の主要因子である。この役割を果たすために、これらの酵素は、生物学的に十分な速度で核酸鎖を組み立てるだけでなく、適合に最適であるヌクレオチド選択の精度(忠実度)のレベルを達成しなければならない。
【0106】
核酸ポリメラーゼは、それらの核酸の役割において大きく変化する。それらは鋳型としてDNAまたはRNAを必要とする。ほとんどの状況において、それらは、DNA、RNAまたはペプチドのプライマー末端の3’−OHにヌクレオチドを付加する。しかし、いくつかの場合において、プライマーの末端の必要条件が欠けていて、ヌクレオチドの付加が新たに起こる。ポリメラーゼの忠実度も同様に大きく変化する。組み込み違いの頻度は、いくつかのゲノム複製DNAポリメラーゼにおける組み込み当たり、10−8の誤り程の低さから、特定のウイルスRNAポリメラーゼに関しては10−5まで、いくつかの修復酵素に関しては10−2またはそれより高い頻度に及ぶ。すべての場合において、組み込み違いの割合は、生物学的欲求を反映すると思われる。酵素の大きさおよび構造の複雑さもまた、ポリメラーゼ活性のみを有する小型の単一のサブユニット酵素から、さらなる活性を保有する、大型の、複数のサブユニットの巨大分子の集団まで大きく変化する。
【0107】
生物学的役割、組み込みの精度および全体構造における範囲の広さは、それ故に、ポリメラーゼのヌクレオチド組み込みの機構について複数の機能的制約を与える。さらに、この複雑性にもかかわらず、最も基本的で根本的なポリメラーゼ活性部位の構造的特徴は、高度に保存されている。さらに、すべての核酸ポリメラーゼは、同じ基本的なリン酸転移化学反応を達成し、単一のヌクレオチドの組み込みサイクルにおいて同じ5つのステップの機構を原則的に使用する。ステップ1において、入ってきたヌクレオチドは、酵素−プライマー/鋳型の2元複合体に結合する。ステップ2において、この3元複合体が構造変化を生じ、ステップ3においてリン酸転移のための反応官能基が1列に並ぶ。ステップ4において、化学反応後の構造変化が起こる。ステップ5においてリン酸の放出が起こり、サイクルがリセットされ、次の組み込みが開始される。
【0108】
ポリメラーゼのアミノ酸配列アラインメントと、ポリメラーゼ−プライマー/鋳型−ヌクレオチド3元複合体の高解像度X線結晶構造の成長表との併用により、共有結合切断の正確な位置における、活性部位であるプラスに帯電したアミノ酸残基、普通はLysであるが時としてArgまたはHis、の普遍的な存在およびヌクレオチドの組み込みサイクルのリン酸転移であるステップ3の間の離脱基の形成が明らかになる。この特異的な位置におけるプロトンを供与できる残基の保存は、この活性部位のアミノ酸に関するリン酸転移の間の、一般酸触媒としての直接の役割を示唆する。しかし、いくつかの十分に研究された核酸ポリメラーゼモデル系の長年の実験的限界は、化学反応に先立つ、急速な律速的構造変化のため、直接かつ便利にリン酸転移ステップを調べることができないことである。この限界は、ここに記載された、PVポリメラーゼ(3Dpol)、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)に関して、リン酸転移は、それぞれMg2+またはMn2+において、部分的または完全に律速であり、したがって機構的検査に到達できるという発見により取り除かれた。
【0109】
ヌクレオチドの組み込みの化学的ステップの間の1つのプロトンの転移は、攻撃性求核試薬の作製の間のプライマー末端の3’−OHからのプロトンの除去(および不確定の受容体による受取)である。上記のように、結合切断の正確な部位においてプロトンを供与できる、プラスに帯電したアミノ酸残基の普遍的な保存、およびリン酸転移の間のピロリン酸離脱基の形成は、第2の触媒的に重要なプロトン転移が、一般酸触媒としての役割で、この活性部位のアミノ酸残基に関与し得ることを示唆している。
【0110】
材料および方法
材料: 材料は、実施例1に記載したように購入および調製した。
ポリメラーゼの発現および精製:3Dpol RdRp、HIV−1 RT、RB69 DdDpおよびT7 DdRpを、以下を除いて、前述のように大腸菌(E.coli)において発現させ、精製した(カストロら(Castro et al.),Proc.Natl.Acad.Sci.,104:4267−4272,2007)。RB69 DdDp K560L突然変異体の構築−K560L変異体を、pSP72−RB69−polの鋳型を使用して、突然変異をコードするK560Lを、フォワードオリゴヌクレオチドであるRB69−DdDp−K560L−fwd5’−GCACAAATTAA TCGTCTGTTGCTTATCAACTCAC−3’(配列番号7)およびリバースオリゴヌクレオチドであるRB69−DdDp−K560L−rev5’−GTGAGTTGATAAGCAACAGACGATTAATTTGTGC−3’(配列番号8)を使用するQuick Change PCRによって、ポリメラーゼ遺伝子(gp43)に導入して構築した。RB69 K560Aのための発現ベクターは、エール大学のウイリアム ケーニヒスマルク(William Konigsberg)博士のご厚意により提供いただいた。
【0111】
PV 3Dpol−触媒ヌクレオチドの組み込み実験。PV 3Dpolのストップフロー実験および化学的クエンチフロー実験を前述のように達成した(カストロら(Castro et al.),Proc.Natl.Acad.Sci.,104:4267−4272,2007)。プロトンインベントリー実験のための酵素、基質およびバッファーは、100%の水または100%のDOにおいて調製し、次いで適切な割合で混合し、0、25、50、75または100%のDOを得た。重水素化グリセロールを、すべてのDO中溶液に使用した。すべてのデータ収集は、ストップフロー装置において実施した。上記のようなDO中溶液に関して、pDをpHの代わりに使用した。
【0112】
WTおよびK220A HIV−RTに関する溶媒重水素同位体効果およびプロトンインベントリーを、原則的に実施例1に記載のように実施した。
RB69 WT DdDpのストップフロー実験および化学的クエンチフロー実験。RB69 DdDp WTの溶媒重水素同位体効果およびプロトンインベントリーの化学的クエンチフロー実験を、原則的に実施例1に記載のように行い、反応を1MのHClで停止させ、実施例1に記載のように中和し、分析した。
【0113】
RB69 K560Aに関する、ストップフローKd,appおよびkpol、溶媒重水素同位体効果ならびにプロトンインベントリー。原則的にWTに関して記載した通りの反応条件ならびにDNAのプライマーおよび鋳型を使用して実験を行った(カストロら(Castro et al.),Proc.Natl.Acad.Sci.,104:4267−4272,2007)。Kd,appおよびkpolの決定のために、kobsを、0.5、1、2.5、5および10mMの[dATP]を使用して得た。2.5および10mMのdATP反応のために、MgSOを添加し、遊離のMg2+を10mMに維持した。kobs対[dATP]のプロットは、双曲線(式2)に適合した。溶媒重水素同位体効果実験およびプロトンインベントリー実験を、[dATP]が10mMであり、MgSOを、dATPに結合する遊離のMg2+より10mM多く遊離のMg2+を提供するように増加したことを除いて、WTに関する通りに実施した。RB69 K560Aに関する、化学的クエンチフローの溶媒重水素同位体効果−実験を、[dATP]が5mMであったことを除いて、ストップフローにおいて上に記載したように行った。反応を、実施例1に記載したように、0.25M EDTAを用いて停止させた。
【0114】
RB69 K560Lに関する化学的クエンチフローのKd,appおよびkpac、溶媒重水素同位体効果およびプロトンインベントリー。原則的にWTに関して記載した通りの反応条件ならびにDNAのプライマーおよび鋳型を使用して実験を行った(カストロら(Castro et al.),Proc.Natl.Acad.Sci.,104:4267−4272,2007)。Kd,appおよびkpolの決定のために、kobsを、0.3、1、3、6および12mMの[dATP]を使用して得た。3、6および12mMのdATPの反応のために、MgSOを添加し、遊離のMg2+を10mMに維持した。kobs対[dATP]のプロットは、双曲線(式2)に適合した。溶媒重水素同位体効果実験およびプロトンインベントリー実験を、[dATP]が5mMであり、MgSOを、dATPに結合する遊離のMg2+より10mM多く遊離のMg2+を提供するように増加したことを除いて、WTに関する通りに実施した。化学的クエンチフローのRB69 K560L反応を、実施例1に記載したように、0.25mM EDTAを用いて停止させた。
【0115】
データ分析。データ分析を、実施例1に記載したように実施した。
結果
PV 3Dpolにおける保存活性部位のプラスに帯電したアミノ酸残基はLys−359である。核酸ポリメラーゼの構造は、パーム、親指および他の指状のサブドメインからなるカップ状の右手と似ている。保存構造モチーフは、パーム状のサブドメイン、ポリメラーゼ活性部位の位置を含む。RNAポリメラーゼのパーム状構造モチーフDのアミノ酸残基のアラインメントは、リシン残基の絶対的保存を示す(図11A)。PV 3Dpolにおいて、この保存活性部位の残基はLys−359である(図11A)。PV 3Dpolの結晶構造に基づいた分子モデリングは、3DpolのLys−359は、α−とβ−リン原子の間の部位における結合ヌクレオチドの三リン酸部分と密接に相互作用することを示唆する(図11Bおよび11Ci)。以下に要約する実験データは、PV 3DpolのLys−359は、結合切断部位におけるその解離性プロトンをピロリン酸離脱基に与えることによって、ヌクレオチド組み込みのリン酸転移段階中に一般酸触媒として働くことを示す(図11Cii)。
【0116】
3Dpol位置359突然変異体に関する動的パラメータはLys−359に関する触媒的役割を示唆する。リン酸転移段階に対するPV 3DpolのLys−359の影響を評価するために、この残基をLeu、HisまたはArgに変えた(表7)。K359L 3Dpolは金属イオン補因子としてのMg2+と共に、WT K359に対して単一ヌクレオチドの組み込みの触媒速度(kpol)の50倍の低下、およびKd,appによって報告されるヌクレオチド結合の3倍の弱化を示した。これらのデータは、触媒作用におけるLys−359の顕著な役割、およびヌクレオチド結合における低度の役割を示唆する。K359L 3Dpolの低下した触媒性能は、化学的に不活性なLeu側鎖によるプロトンを供給する能力の欠如と一致する。わずかではあるがヌクレオチド結合の低下は、マイナスに帯電したヌクレオチド三リン酸部分との結合相互作用におそらく重要な、Leu側鎖上のプラス電荷の不在と一致する。
【0117】
【表7】

WT K359 3Dpolに関する溶媒中重水素の動的同位体効果(SDKIE)は、Mg2+においてよりMn2+の存在下で2倍大きく、Mn2+において完全に律速であり、かつMg2+において部分的に律速であるという化学的性質と一致した。対照的に、同一および低いkpol値およびMg2+における区別不能なSDKIE値およびK359L 3Dpolに関するMn2+は、触媒作用におけるLys−359の重要性を指摘し、かつ化学的性質はこの突然変異体酵素のいずれかの金属イオン補因子によって完全に律速であることを示す(表7)。
【0118】
K359HおよびK359L 3Dpol変異体に関する触媒速度は、K359L 3Dpolに関する触媒速度より5倍速かったが、WT K359ポリメラーゼより10倍遅かった(表7)。K359HおよびK359L酵素に関するヌクレオチド結合相互作用は野生型のそれと同様であり、マイナスに帯電した流入ヌクレオチドと結合するプラスに帯電したHisおよびArg側鎖の保持能力と一致した。しかしながら、HisとArgの両方が触媒作用を支援するのに理論上利用可能である交換可能なプロトンを有しているが、WT K359酵素に対して10倍低下したそれらの触媒速度は、リン酸転移中の活性部位環境は、位置359に存在するときこれらの非生物学的残基の有効な触媒的使用を行うのに、化学的に(すなわち、pKaの適合など)および/または空間的に最適ではないことを示唆する。
【0119】
図12B中に示すように、K359L酵素に関するpH−速度プロファイルの塩基性のアームが消失し、リン酸転移に影響を与えるただ1つのイオン性基が離脱した。この発見は、一般酸触媒としての役割におけるLys−359によるプロトン供給と一致する。K359L酵素に関するプロファイルと重複する、K359HおよびK359R 3Dpolに関するpH−速度プロファイルは、プロトン供給触媒としてのLys−359の役割をさらに支持する(図13)。K359H酵素は低いpHにおいてK359Lより動力学的に優れており、約7.5のそのpKa付近で最高に優れており(表7および図13)、より高いpHではK359Lのそれに対する動的性能に収束した。K359HのpH−速度の挙動は、そのpKaまでおよびそのpKaをある程度超えて触媒作用を高める、その解離性イミダゾール基のプロトンのいくらかの能力を示唆する。しかしながら、位置359でLeuのそれを超えて触媒作用を高める能力は、K359Hではより高いpH値で失われる。なぜならHisイミダゾールは完全に脱プロトン化状態になるからである。(図2A中でWT K359 3Dpolに関して見られるように)K359HのpH−速度プロファイル(図13)は下行の塩基性のアームを欠く。なぜなら、プライマー鋳型3’−OHプロトンの転移と関係があるpKaとHisイミダゾールと関係があるpKaはおそらく十分類似しているので、それらはpH−速度プロファイルの同じ領域でほぼ重複し、したがって解明できないからである。
【0120】
K359R 3Dpolの動的挙動は、低いpH値においてK359Hのそれと同様であった(図13)。しかしながら、高いおよびより高いpH値では、K359R酵素はK359HおよびK359L 3Dpolの動的性能を次第に超え、pH10でWT K359ポリメラーゼのそれに近づいた。K359R 3DpolのpH−速度の挙動は、Arg側鎖の高いpKaと一致する。低いpHでは、Argの解離性プロトンは、プロトン供給によって触媒作用を支援するのにほぼ利用不能である。しかしながら、そのpKaに近づくと、Argの解離性プロトンは次第に利用可能な状態になり、一般酸触媒として次第に有効に機能する。予想通り、K359RのpH−速度プロファイルに関する塩基性のアームはpH10まで観察されなかった。Arg側鎖のpKaがpH12範囲にあると考えて、少なくともpH12を介した反応、沈殿による実験不能は、塩基性のアームを観察するのにおそらく必要とされる可能性がある。
【0121】
プロトンインベントリーは、PV 3Dpol Lys−359による一般酸触媒作用を明らかにする。PV WT Lys−359 3Dpolに関するプロトンインベントリーはボウル形であり、ヌクレオチド組み込みのリン酸転移段階の遷移状態における2つ以上のプロトンの転移が示された(図14A)。対照的に、K359L突然変異体ポリメラーゼに関するプロトンインベントリーは、遷移状態におけるただ1つのプロトンの転移を示す直線プロットをもたらした。この観察結果は、Lys−359が触媒作用を高めるプロトンのドナーであり、したがって一般酸触媒として働く強力な証拠である。これと一致して、動的データ(表7)およびpH−速度の挙動(図13)によって前に示唆されたように、K359R 3Dpol変異体に関するプロトンインベントリーはボウル形であり、プロトン供給により触媒作用を容易にする位置−359位置におけるArgに関するいくらかの能力が示された。
【0122】
保存活性部位のLysは、他のポリメラーゼクラスにおいて一般酸触媒である。配列アラインメントおよび高解像度結晶構造は、他のクラス由来の核酸ポリメラーゼにおいてPV 3Dpol Lys−359と同じ活性部位の機能的位置を占める保存Lys残基の同定を可能にする。HIV−1 RT RdDpのLys−220(図15A)、RB69 DdDpのLys−560(図15B)およびT7 DdRp(RNAポリメラーゼに関してRNAPと呼ばれることが多い)のLys−631(図15C)を調べた。PV 3Dpol Lys−359に関して前に記載した発見(表7)と一致して、動的データはこれらの他のポリメラーゼにおける保存活性部位のLys残基に関する触媒的役割を示唆する(表8)。保存活性部位のLysのLeuへの突然変異は、HIV−1 RT RdDpのK220LおよびT7 DdRpのK631Lに関して約2桁から、RB69 DdDpのK560Lに関して3桁を超えるまでの範囲の低下した触媒速度をもたらした。これらの酵素における触媒速度に対するLysからLeuへの変化の影響は一貫しており重大であったが、Kd,appによって報告したヌクレオチド結合に対する影響は非常に変動した。HIV−1 RT K220Lにおいて変化はほとんどまたはまったく見られず、結合親和性の25倍の低下がRB69 K560Lにおいて見られ、ヌクレオチド基質と結合する能力の衝撃的な消失がT7 DdRp K631Lにおいて見られた(表8)。後者の酵素に関しては、ヌクレオチドでの飽和を実験的に実施することはできなかった。75mMのATPでさえ、kobs対[ATP]プロットのプラトー領域において触媒速度をもたらすことはなかった。RB69 DdDpの場合興味深いのは、K560A酵素はK560Lより動力学的に10倍優れていた(ただし依然としてWT RB69 K560ポリメラーゼより250倍劣っていた)という発見であった。対照的に、K560AおよびK560Lに対するヌクレオチドの結合親和性は区別不能であった。
【0123】
【表8】

PV 3Dpol RdRpに関して前に記載したように(図14)、HIV−1 RT RdDpおよびRB69 DdDpに関するプロトンインベントリーのプロットは、これら後者2つのポリメラーゼにおける保存活性部位のLysの一般酸触媒としての役割を明らかにする。WT HIV−RT K220 RdDp、T7 K631 DdRpおよびRB69 K560 DdDpに関するプロトンインベントリーのプロットはボウル形であり、ヌクレオチド組み込み中のリン酸転移反応の遷移状態における2つ以上の速度に影響を与えるプロトンの転移を示した(図16Ai、16Biおよび16C)。対照的に、HIV−1 RT K220L(図16Aii)およびRB69 K560L(図16Bii)に関するプロトンインベントリーのプロットは直線状であり、遷移状態におけるただ1つの速度に影響を与えるプロトンの転移を示した。これらのデータは、一般酸触媒としてのHIV−RT RdDpおよびRB69 DdDpの保存活性部位のLys残基を強く示す。
【0124】
T7 DdRp K631Lポリメラーゼに関するプロトンインベントリーは実施することができなかった。なぜなら、前に記載したように、この酵素におけるLeuへのLysの突然変異は、実験的にヌクレオチドで酵素−プライマー/鋳型二重複合体を飽和する能力を無効にしたからである。
【0125】
DNAおよびRNAの複製および維持の作用物質としての核酸ポリメラーゼによって果たされる生物学的役割における広範囲の多様性にもかかわらず、1ヌクレオチドの組み込みを実施するために使用される根本的な活性部位構造および機構段階は高度に保存される。特に、リン酸転移中の触媒的役割は、2つの活性部位のMg2+イオンにほぼすべて割り当てられている。官能基と反応するこれらの金属イオンの配置はプライマー−3’末端−OHの脱プロトン化を容易にして、攻撃性求核剤を生成し、遷移状態中のマイナス電荷の蓄積を軽減する。
【0126】
しかしながら、2つの遷移状態のプロトンの転移が速度化学に影響を与えるという発見は、核酸ポリメラーゼのリン酸転移反応中のプロトン触媒作用の重要性を明らかにする。プライマー−3’末端−OHプロトンの分離は、1つの重要なプロトンの相互作用をおそらく含む。本書に記載する多数の一連の実験証拠は、他の重要なプロトンの交換は、一般酸触媒として作用する保存活性部位のプラスに帯電したアミノ酸残基、通常リシンによるプロトン供給であるという結論に収束する。近年の高解像度X線結晶構造は、このプラスに帯電した活性部位の残基の存在は絶対的に保存され、さらにより有意なことに、結合ヌクレオチド三リン酸部分のα−とβ−リン原子の間の架橋酸素付近のその空間位置、結合切断およびピロリン酸離脱基の離脱を容易にするのに理想的な位置も保存されることを明らかにする。このような特異的保存は、非常に重要な機能の考慮を必要とする。触媒作用中の保存活性部位の塩基性残基の直接的関与は、1)金属イオンの触媒作用は明らかに非常に重要である、2)ヌクレオチド結合における役割は保存塩基性残基の存在を説明すると考えられた、および3)リン酸転移段階を明確に調べる能力は多くのモデルポリメラーゼ系において欠けているので、大部分は見落とされている。
【0127】
PV 3Dpol RdRpでは、配列アラインメントおよび分子モデリングによって、推定活性部位の一般酸としてLys−359を同定した(図11)。WT K359 3DpolのpH−速度プロファイルは、2つのイオン性官能基がリン酸転移の速度に影響を与えることを示した(図12A)。プロトンインベントリーのアッセイは、WT 3Dpolに関する遷移状態中の2プロトンの転移をさらに支持した(図14A)。化学的に不活性なLeuへのLys−359の突然変異は塩基性のアームを欠くpH−速度プロファイルをもたらし(図12B)、K359L酵素において化学的性質に影響を与えるただ1つのイオン性基を示した。これと一致して、K359L 3Dpolのプロトンインベントリーは、遷移状態中のただ1つのプロトンの転移を示した(図12B)。PV 3Dpolの位置359におけるLeuへのLysの突然変異は、ヌクレオチド結合親和性のわずか3倍の低下をもたらしたが(その構造位置が明らかになるまで、その歴史的役割はこの保存残基に帰するものであった)、触媒速度のより一層著しい50倍の低下が見られた(表7)。
【0128】
K359HおよびK359R 3Dpolを用いた試験も、PV 3Dpol Lys−359に関する一般酸触媒としての役割を支援する。K359H 3DpolのpH−速度プロファイルは、この酵素はHisイミダゾール部分のpKaを超えてほぼ1pH単位までK359L酵素より動力学的に優れているが、次いで高いpHではK359L 3Dpolの触媒的非効率に収束することを明らかにした(図13)。K359R 3DpolのpH−速度プロファイルは、この酵素は低いpHではK359H 3Dpolと動力学的に同等であるが、さらに高いpHでは、K359RポリメラーゼはpH10までは触媒的によりよく働き、K359Rの触媒速度はWT K359酵素のそれに近づいたことを示した(図13)。さらに、3DpolのLys−359の一般酸触媒としての役割と一致したのは、K359R 3Dpolに関するプロトンインベントリーは、このポリメラーゼ変異体に関する遷移状態における2プロトンの転移を明らかにしたという発見であった(図14c)。HisまたはArgへのLys−359の突然変異によって、WT 3Dpol酵素に対してヌクレオチド結合はほとんど影響を受けない状態となったが、WT K359より10倍遅くK359L 3Dpolより5倍速い触媒速度をもたらした(表7)。要約すると、PV 3Dpol K359HおよびK359Rポリメラーゼ変異体に関する実験データは、HisまたはArgが位置359を占めるとき、いくつかの残基の一般酸触媒作用の機能が存在すること、ただしプロトン触媒作用はWT Lys−359と比較して実質的に低下した有効性で生じることを示唆する。これはおそらく、プロトンドナーとアクセプター群の間のpKaのミスマッチ、および/または非生物学的HisまたはArgがPV 3Dpolにおいてこの活性部位の位置を占めるときの相互作用原子間の空間的ミスアラインメントによる、プロトン供給の制限の結果である。
【0129】
保存ポリメラーゼ活性部位のプラスに帯電したアミノ酸残基に関する一般酸触媒としての役割をさらに支持する際に、PV 3Dpol RdRpに関して前に記載したこの結論を、他のクラスのポリメラーゼに拡大する。配列アラインメントと高解像度X線結晶構造の組合せは、HIV−1 RT RdDp(K220)(図15A)、RB69 DdDp(K560)(図15B)およびT7 DdRp(K631)(図15C)において保存活性部位リシン推定の一般酸触媒の同定を可能にした。これらのポリメラーゼのそれぞれにおいて、保存活性部位LysからLeuへの突然変異は、約2〜3桁の触媒速度の大幅な低下をもたらした(表8)。RB69 DdDpの場合興味深いのは、触媒速度の点で、K560AポリメラーゼはK560L変異体より動力学的に1桁優れていたが(ただし依然としてWT Lys−560酵素より2桁劣っていた)、一方K560A酵素とK560L酵素はヌクレオチド結合において同等であったという発見である(表8)。K560Lに優るK560Aの動的優位性に関して考えられる説明は、小さなAla側鎖は、非効率的ではあるがその部位で触媒的に貢献し得る水構造分子の、安定した挿入のための空間を与えることができるということである。
【0130】
WT HIV−1 RT RdDp、RB69 DdDpおよびT7 DdRpに関するプロトンインベントリーのプロットは明らかにボウル形であり、リン酸転移の遷移状態における2つ以上の速度に影響を与えるプロトンの転移が明らかになった(図16Ai、16Biおよび16C)。対照的に、HIV−1 RT K220LおよびRB69 K560Lポリメラーゼに関するプロトンインベントリーのプロットは直線状であり、ただ1つのプロトンが遷移状態において転移していたことが示された(図16Aiiおよび16Bii)。これらのプロトンインベントリーに関する発見は、PV 3Dpol RdRpに関して前に記載した発見と同様であった(図14Aおよび14B)。したがって、PV 3Dpol RdRp、HIV−1 RT RdDpおよびRB69 DdDpでは、プロトンとして不活性なLeuへの保存活性部位Lysの突然変異によって、リン酸転移段階の遷移状態において1つの速度に影響を与えるプロトンの転移がなくなり、触媒速度が2〜3桁低下した。
【0131】
どのようにして核酸ポリメラーゼが忠実度を高めるかは、現在非常に議論の的となっている。ヌクレオチド基質でT7 DdRp K631L反応を飽和する能力の欠如は、酵母菌では、RNAPIIのヌクレオチド結合と触媒作用を、活性部位の塩基性残基、His−1085によってカップリングさせることが可能であるという観察と実験上一致するようである。基質選択と触媒作用のカップリングは、RNAポリメラーゼにおいて忠実度を高める可能性があることがさらに示唆されている。Lys−631を有するT7 RNAP O−ヘリックスは、His−1085を有する酵母菌RNAPII誘導ループと機能的に類似している可能性がある:両者は、ポリメラーゼ活性部位へのヌクレオチドの進入に関与する可動構造要素である。基質としてdATPを用いたLeuへのRB69 Lys−560の突然変異は、(kpolの2500倍の低下と共に)Kd,appの25倍の低下をもたらしたという、ここで報告する発見(表8)は、ヌクレオチド結合および触媒作用との考えられるカップリングにおける、この残基の有意な役割を示唆する。しかしながら、PV 3Dpol RdRpおよびHIV−1 RdDpにおける触媒LysのLeuへの突然変異によるヌクレオチド結合の実質的な変化の欠如は、約2桁の触媒速度の低下にもかかわらず(表7および8)、基質結合と触媒作用のカップリングはこれらのポリメラーゼの特徴ではあり得ないことを示唆する。
【0132】
ここで好ましい機構モデルは、結合切断および離脱基の離脱を容易にするための、活性部位の一般的な酸からピロリン酸離脱基へのプロトンの供給に関与する。しかしながら、プロトンの完全な物理的供給は首尾よい触媒作用の要件ではあり得ないこと、およびプロトン共有は十分であり得ることに留意しなければならない。要約すると、ここに記載する多数の一連の証拠は、保存活性部位のプラスに帯電したアミノ酸残基は、核酸ポリメラーゼにおいて一般酸触媒として重要な機能を果たすことを全体で論じる。プロトン供給/共有は、酵素活性部位の反応においてエネルギー的に好ましくないマイナス電荷の発生をなくす、最も簡単な、最も基本的な手段である。ここで報告する発見は重要である。なぜならそれらは、どのようにしてリン酸転移の触媒作用が、この普遍的に重要な酵素群によって実施されるかという、より完全な概念を明らかにするからである。2金属イオンの触媒作用は明らかに非常に重要であり、ヌクレオチドの組み込みを加速するための主要基盤をもたらすが、金属イオンの触媒作用のみによって与えられる速度は不適切である可能性がある。活性部位の一般的な酸によって与えられる追加的な2〜3桁の触媒作用速度の増大は、生物学的に十分なレベルまでのヌクレオチド組み込み速度をもたらすのに必要である可能性がある。実際、3Dpol K359HおよびK359R突然変異体ポリオウイルスの細胞培養試験は、これらの変異体による有意に遅くなったプラーク形成を示し、ウイルスゲノム複製の不適切な速度が原因で感染性および病原性が弱化した状態になる可能性があることを示唆する。
【実施例3】
【0133】
突然変異体PV
PV突然変異体ウイルスK359RおよびK359Hを、作製し、複製(図17)、およびWTウイルスと比較して細胞内において感染性であり、弱毒化されていることを示した。HeLa細胞に野生型PVのRNA、3Dpolに表示の変異株を含むRNAをトランスフェクトし、またはRNAをトランスフェクトせず(モックのトランスフェクション)、PBSで100倍に希釈し、その後トランスフェクトされていないHeLa細胞の単分子層に播種した。プレートを、寒天培地で覆い、37℃において2日間インキュベートした。図17は、PV K359R、Hのサブゲノムレプリコンが、WTより複製が遅いことを例示する。用いたサブゲノムレプリコンは、ルシフェラーゼレポーター遺伝子によって置換された、カプシドコード領域を有した。HeLa細胞に、2mMのGdnHCL(+G)の存在下でWT配列を含む、またはGdnHCLの不在下でWT配列を含む、サブゲノムレプリコンRNAをトランスフェクトした。GdnHCLは、PV RNA複製の可逆的阻害剤である。したがって、GdnHCLの存在下で測定したルシフェラーゼ活性は、流入したRNAの翻訳結果である。GdnHCLの不在下において、K359R、H変異株を含むレプリコンを使用して、さらにトランスフェクションを実施した。トランスフェクション反応液を、37℃においてインキュベートした。トランスフェクション後、様々な時間に、細胞を処理し、ルシフェラーゼ活性を評価した。
【0134】
他の実施形態
組成物および方法のステップの一部またはすべてにおいて任意の改良が可能である。ここに引用した出版物、特許出願および特許を含むすべての参考文献は参照によりここに引用される。任意のおよびすべての実施例の使用、またはここで提供される例示の言葉(例えば「など」)は、発明の理解を容易にする意図のものであり、特に主張しない限り、発明の範囲の限定をもたらすものではない。本発明の性質または利益についての、または好ましい実施形態についてのここでのいかなる言及も限定する意図のものではなく、添付の特許請求の範囲は、このような言及によって限定されると判断すべきではない。さらに全般に、本明細書中のどのような言葉も、本発明の実践に必須である任意の要素が、特許請求されていないことを示すとして解釈されるべきではない。本発明は、適用法によって容認されるように、ここに添付の特許請求の範囲に記載される主題ののすべての変形および等価物を含む。ポリメラーゼの活性部位にリシン残基の置換を有する改変ポリメラーゼがここに記載されているが、ここに記載される改変ポリメラーゼは、プロトンを受容するおよびプロトンを供与するアミノ酸残基の突然変異、欠失、および置換を含む。ポリメラーゼの活性(例えば、複製速度、忠実度など)を変化させる任意の分子を利用できる。さらに、それらのすべての可能な変形において、上記の要素の任意の組合せは、ここに示されていない限り、または文脈により明らかに禁忌でない限り、本発明に包含される。
【受託番号】
【0135】
V01148
AAY44773
4139739

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメラーゼをコードするポリメラーゼ遺伝子を含む弱毒化ウイルスであって、前記ポリメラーゼ遺伝子は、ロイシン残基、ヒスチジン残基、またはアルギニン残基へのリシン残基の置換をもたらす改変を有し、前記リシン残基は、ヌクレオチド組み込み反応のリン酸転移段階において一般酸触媒として機能する能力を有し、かつ、AファミリーポリメラーゼのヘリックスO、BファミリーポリメラーゼのヘリックスP、ならびにRNA依存性RNAポリメラーゼおよび逆転写酵素の構造モチーフDのループ上に位置し、
前記置換により、前記ポリメラーゼの忠実度は、前記改変を有さない野生型ポリメラーゼ遺伝子によりコードされるポリメラーゼと比較して向上している、弱毒化ウイルス。
【請求項2】
前記ポリメラーゼはポリオウイルスポリメラーゼであり、前記リシン残基は受託番号V01148を有する核酸配列によりコードされるアミノ酸配列の位置359に位置する、請求項1に記載の弱毒化ウイルス。
【請求項3】
前記ポリメラーゼはインフルエンザポリメラーゼであり、前記リシン残基は受託番号AAY44773を有する配列の位置481に位置する、請求項1に記載の弱毒化ウイルス。
【請求項4】
前記ポリメラーゼはHIV−1逆転写酵素であり、前記リシン残基は受託番号4139739を有する配列の位置220に位置する、請求項1に記載の弱毒化ウイルス。
【請求項5】
前記ポリメラーゼはAファミリーポリメラーゼである、請求項1に記載の弱毒化ウイルス。
【請求項6】
前記ポリメラーゼはBファミリーポリメラーゼである、請求項1に記載の弱毒化ウイルス。
【請求項7】
前記ポリメラーゼはDNA依存性DNAポリメラーゼである、請求項1に記載の弱毒化ウイルス。
【請求項8】
前記ウイルスは感染性である、請求項1に記載の弱毒化ウイルス。
【請求項9】
(a)ポリメラーゼをコードするポリメラーゼ遺伝子を含む弱毒化ウイルスであって、前記ポリメラーゼ遺伝子は、ロイシン残基、ヒスチジン残基、またはアルギニン残基へのリシン残基の置換をもたらす改変を有し、前記リシン残基は、ヌクレオチド組み込み反応のリン酸転移段階において一般酸触媒として機能する能力を有し、かつ、AファミリーポリメラーゼのヘリックスO、BファミリーポリメラーゼのヘリックスP、ならびにRNA依存性RNAポリメラーゼおよび逆転写酵素の構造モチーフDのループ上に位置し、
前記置換により、前記ポリメラーゼの忠実度は、前記改変を有さない野生型ポリメラーゼ遺伝子によりコードされるポリメラーゼと比較して向上している、弱毒化ウイルスと、
(b)薬学的に許容される担体と
を含有するワクチン。
【請求項10】
前記ポリメラーゼはポリオウイルスポリメラーゼであり、前記リシン残基は受託番号V01148を有する核酸配列によりコードされるアミノ酸配列の位置359に位置する、請求項9に記載のワクチン。
【請求項11】
前記ポリメラーゼはインフルエンザポリメラーゼであり、前記リシン残基は受託番号AAY44773を有する配列の位置481に位置する、請求項9に記載のワクチン。
【請求項12】
前記ポリメラーゼはHIV−1逆転写酵素であり、前記リシン残基は受託番号4139739を有する位置220に位置する、請求項9に記載のワクチン。
【請求項13】
前記ポリメラーゼはAファミリーポリメラーゼである、請求項9に記載のワクチン。
【請求項14】
前記ポリメラーゼはBファミリーポリメラーゼである、請求項9に記載のワクチン。
【請求項15】
前記ポリメラーゼはDNA依存性DNAポリメラーゼである、請求項9に記載のワクチン。
【請求項16】
前記ワクチンはアジュバントをさらに含有する、請求項9に記載のワクチン。
【請求項17】
ポリメラーゼをコードするポリメラーゼ遺伝子を含む精製核酸であって、前記ポリメラーゼ遺伝子は、ロイシン残基、ヒスチジン残基、またはアルギニン残基へのリシン残基の置換をもたらす改変を有し、前記リシン残基は、ヌクレオチド組み込み反応のリン酸転移段階において一般酸触媒として機能する能力を有し、かつ、AファミリーポリメラーゼのヘリックスO、BファミリーポリメラーゼのヘリックスP、ならびにRNA依存性RNAポリメラーゼおよび逆転写酵素の構造モチーフDのループ上に位置し、
前記置換により、前記ポリメラーゼの忠実度は、前記改変を有さない野生型ポリメラーゼ遺伝子によりコードされるポリメラーゼと比較して向上している、精製核酸。
【請求項18】
前記核酸はベクター内に含まれている、請求項17に記載の核酸。
【請求項19】
ポリメラーゼをコードするウイルスポリメラーゼ遺伝子を改変する工程を含むウイルスを弱毒化する方法であって、その改変は、ロイシン残基、ヒスチジン残基、またはアルギニン残基へのリシン残基の置換をもたらし、前記リシン残基は、ヌクレオチド組み込み反応のリン酸転移段階において一般酸触媒として機能する能力を有し、かつ、AファミリーポリメラーゼのヘリックスO、BファミリーポリメラーゼのヘリックスP、ならびにRNA依存性RNAポリメラーゼおよび逆転写酵素の構造モチーフDのループ上に位置し、
前記置換により、前記ポリメラーゼの忠実度は、前記改変を有さない野生型ポリメラーゼ遺伝子によりコードされるポリメラーゼと比較して向上している、方法。

【図1】
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【図2AAND2B】
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【図3】
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【図4A−4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A−10D】
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【図11】
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【図12A−12C】
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【図13】
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【図14A−14C】
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【図15】
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【図16A−16C】
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【図17】
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【公表番号】特表2010−514424(P2010−514424A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543290(P2009−543290)
【出願日】平成19年12月24日(2007.12.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/088775
【国際公開番号】WO2008/140622
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(504356421)ザ ペン ステート リサーチ ファウンデーション (4)
【氏名又は名称原語表記】THE PENN STATE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】