説明

改良された酸化プロピレンとスチレン単量体の同時製造方法

【課題】 プロピレンオキシドとスチレンとの同時製造では、金属主としてナトリウムを含有する重質残留物の副生物が生成され、これは以前は低品質の燃料としてのみ用いるのに適当であった。
【解決手段】 本発明によれば、重質残留物を無機強酸の存在下に 150〜 250℃の温度で且つ大気圧よりも低い圧力で脱水処理してスチレンを得且つ香料工業で用いる化合物である2−フェニルエタノール及び金属類を実質的に含有せず燃料として用い得る重質残留物を回収する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は改良された酸化プロピレンとスチレン単量体とを同時に製造する (c-oproduction)方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】米国特許第 5,210,354号明細書には、改良された酸化プロピレンとスチレンとを同時に製造する方法が記載されている。この改良方法は、副生物として得られる重質(heavy) のナトリウム含有残留物流を再評価する(revaluate) ことからなる。この方法によれば、前記のナトリウム含有重質残留物は水性酸、好ましくは硫酸と比較的穏和な条件で、例えば20〜 100℃、好ましくは40〜90℃で混合される。得られた混合物は、混和しない2つの相、すなわちナトリウムを含有する水性相と限られたナトリウム含有量を有する有機相とに分離される。この有機相には相溶性の酸触媒、例えばp−トルエンスルホン酸が添加され、得られた混合物が高温で分解されて1−フェニルエタノールとスチレン単量体とを生成する。これら両方の生成物は蒸留することによって残存する重質化合物から分離し得る。前記の分解には軽質化合物を蒸発させるのに適当な70〜 300℃、好ましくは 120〜 220℃の温度と、大気圧よりも低い圧力、例えば 100〜 400mmHgの圧力とが使用される。前記の分解生成物、すなわち1−フェニルエタノールとスチレンは、1−フェニルエタノールがスチレン先駆体であるという点からみて、該方法の実施中にスチレンの高められた性能を伴う(increased perforamnce) 。また、前記の重質分解生成物はナトリウム含有量の少ない燃料として有用である。この方法の最も好ましい態様では、酸処理後に、有機相を薄膜蒸発器中で真空蒸発させて揮発性化合物の留分の約40重量%を分離する。この頂部留分は商用プロピレン/スチレン酸化物の同時製造プロセスの脱水区域に直接に取り入れ得、そこで軽質ヘッダー留分のうちのある種の成分が、1−フェニルエタノールの脱水に通常適用される条件下でスチレンに転化する。薄膜蒸発器の重質残留物はそのナトリウム含有量が少ないことから再評価燃料(revalued fuel) として使用される。
【0003】前記の酸は前記重質残留物中に存在するナトリウム全部と反応させるのに十分な量で使用される。硫酸を使用する場合には、硫酸ナトリウムを生成させるのに十分な量の酸を使用する、すなわち重硫酸ナトリウムを生成させるのにはナトリウム1グラム原子当たり 0.5モル未満の硫酸、好ましくはナトリウム1グラム原子当たり1モル未満の硫酸を使用する。
【0004】米国特許第 5,276,235号明細書は先の米国特許に記載した方法の改良を記載している。この改良における重要な観点は、重質残留物に存在するナトリウムと反応させるのに用いた前記の酸が溶解限度を越えて生じた水溶液中の塩濃度に対応するモル濃度で使用されることに在る。即ち、前記の反応によって生成した塩は相混合物中で懸濁物を生成し、この懸濁物は次いで水性相と有機相との間の密度差を最大とさせ、相分離を容易とさせ且つ水性相中の有機物汚染を低下させる。
【0005】前記の両米国特許に記載された方法は、スチレンの収量が比較的低く且つ例えば生物学的分解によって浄化を必要とする有機化合物によって汚染された塩含量の高い水性流を生成するという欠点がある。更に、相分離は問題がある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は改良されたプロピレンオキシドとスチレン単量体との同時製造方法に関する。この方法の改良点は追加量のスチレンを入手し且つプロセスの副生物の形で得られた金属主にナトリウム含有重質残留物から2−フェニルエタノールを回収することに在る。本発明の目的であるこの方法によると、スチレンの収量は従来技術の方法から得られる収量よりも多く;香料工業で用いる化合物である2−フェニルエタノール含量の高い留分が同時に得られ;金属塩及び有機化合物で高度に汚染された水は生ぜずしかも実質的に金属無含有の不揮発性残留物が得られこれは適当な燃料として役立ち得る。
【0007】既知のプロピレンオキシド及びスチレンの同時製造方法は例えばスペイン特許第 314,229号、第 314,231号、第 307,877号、第 320,168号、第 323,754号、第331,818号、第 334,098号、第 335,098号、第 343,579号及び第 365,624号に記載されている。第1の段階では、エチルベンゼンを高温で分子状酸素と反応させてエチルベンゼンヒドロペルオキシドを生成する。このエチルベンゼンヒドロペルオキシドはプロピレンと反応してプロピレンオキシド及び1−フェニルエタノールを生成する。エポキシ化反応から得られる混合物は通常アルカリ洗浄し且つ一連の蒸留操作を行って種々の成分;プロピレンオキシド、未反応のエチルベンゼン及び1−フェニルエタノールを分離してナトリウム及びその他の金属の含量が低い重質残留物を残留させる。1−フェニルエタノール流は、例えば日本特許公開第 8,019,247号明細書に記載される如く、スチレン単量体を製造するための触媒としてp−トルエンスルホン酸を用いる方法の如き既知方法によって脱水処理する。
【0008】本発明によると、価値の低いナトリウム含有重質残留物は、金属特にナトリウムを前もって除去することなくスチレン、香料工業で用いる化合物である2−フェニルエタノール含量の比較的高い留分及び燃料として用いるナトリウム含量の低い重質残留物を製造するための原料として直接用い得る。
【0009】本発明によると、ナトリウム及びその他の金属を含有する重質残留物は触媒として作用する無機強酸の存在下に約 150〜 250℃の温度で且つ大気圧より低い圧力で好ましくは50〜 400mmHgで脱水反応させ、同時に軽質化合物の前記脱水反応で生成した主としてスチレンと2−フェニルエタノールとを気化させる;この有機留出物は重質残留物の約20〜50重量%を成し次いで蒸留の如き既知方法によって分別して精製スチレンと比較的高含量の2−フェニルエタノール含有留分とを回収する。この留分は既知の方法によって香料品位の2−フェニルエタノールを製造する原料として用い得る。不揮発性の反応残留物は重質の有機生成物即ちナトリウム塩及びその他の無機酸金属塩及びコン跡量の過剰のミネラル無機酸よりなる。前記の金属塩は例えば濾過により有機生成物から容易に分離でき、ナトリウム及びその他の金属を実際上含有しない不揮発性の有機残留物を生成しこれは燃料目的に用いるのに適当である。
【0010】明らかに且つ本発明によると、重質残留物からナトリウム及びその他の金属の大部分が水性酸での処理及び次後の相中での分離の如き既知の方法によって除去されている重質残留物はこれを原料として用いることができる。然しながら、この実施法は当該処理の型式に伴なう不都合の故に本発明の範囲内では通常適当ではない。
【0011】ナトリウム及びその他の金属を含有する重質残留物を処理するのに用いる無機強酸は硫酸であるのが好ましい。本発明の範囲内で用い得るその他の無機酸には燐酸、ピロ燐酸、ポリ燐酸及びフルオロ燐酸があり、更にポリ燐酸中の V 2O 5溶液等がある。前記無機酸の混合物もまた用い得る。
【0012】無機強酸はこれを重質残留物に存在するナトリウム及びその他の金属全部と反応させるために化学量論量よりも多い量で用いねばならない。無機強酸はナトリウム及びその他の金属の1g原子当り1酸当量以上の量で用いねばならない。化学量論量よりも過剰であるなら制限されない。通常ナトリウム及びその他の金属と反応させた後には、 0.001〜1重量%の程度で反応媒質中に遊離酸濃度を与えるのに十分に高い量で無機強酸を用いるのが好ましい。より少ない量の無機強酸を用いると反応は比較的緩慢であり;他方より多い量の無機強酸を用いても追加の利点は与えない。
【0013】実施例1重質残留物の脱水反応は、攪拌手段を取付けしかもその上部で水冷コンデンサーに接続した50Lのガラス反応器中で行なった。真空は水ポンプから得られて 220mmHgの定圧を与える。30kgの重質残留物(1重量%のナトリウム)及び 0.7kgの96%硫酸を最初に添加した。真空を 220mmHgで印加し、該混合物を徐々に 220℃に加熱した。続いて、重質残留物(1重量%のナトリウム)及び96%硫酸の連続供給をそれぞれ10kg/時及び0.23kg/時の流量で開始し、硫酸ナトリウム及びその他の金属を含有する不揮発性残留物を5.68kg/時の平均流量で底部から同時に抽出し、4.32kg/時の平均流量で有機留出物を頂部から抽出し、該有機留出物は44.4%のスチレンと12.9%の2−フェニルエタノールと 1.8%のアセトフェノンと 0.7%の1−フェニルエタノールとを含有してなり、残余は主として水と酸素付加化合物例えばプロピレンオキシド縮合生成物、エーテル等とを含有する。
【0014】本発明を実際に応用すると、スチレンの生成は2.09%に増大し;これは1年当り 500,000トンのスチレンを生産し得る工業的な生産設備では、現在のスチレン価格で 888百万ペセタの追加の利益を表わす。
【0015】実施例2反応は1L容量の反応器を用いる以外は実施例1に記載したのと同様な設備で行なった。反応温度は 193℃であり圧力は 140mmHgである。 302g/時の重質残留物(1.0重量%のナトリウム) 及び 9.0g/時の75%硫酸を反応器に連続的に添加した。 127.3g/時(供給した重質残留物の42.2重量%)の有機留出物と18.5g/時の水とを反応器の頂部から採取し、 165.2g/時(供給した重質残留物の54.7重量%)の不揮発性残留物流を反応器の底部から採取した。有機留出物は66.2%のスチレンと22.0%の2−フェニルエタノールと 2.2%のアセトフェノンと1.8%の1−フェニルエタノールとプロピレンオキシド縮合生成物、エーテル等を含めて11.8重量%の種々の酸素付加生成物とよりなる。
【0016】比較例本発明の無機強酸流即ち 9.0g/時の代りに、1−フェニルエタノールの脱水に通常推奨される有機酸であるp−トルエンスルホン酸の21.9g/時流を用いる以外は実施例2と同じ条件下で正確に反復した。収率は供給した重質残留物の量に対して49.8%重量%となる量で得られ、有機留出物の組成は 0.6%のスチレンと25%の2−フェニルエタノールと 2.2%のアセトフェノンと18.0%の1−フェニルエタノールとプロピレンオキシド縮合生成物、エーテル等を含めて54.2重量%の種々の酸素付加生成物とよりなる。
【0017】本例は、本発明の重質残留物処理の利点を例証するものである。
【0018】実施例3実施例1で得られた有機留出物流を蒸留により分別して99.3%の富化スチレンと、既知方法により香料品位の2−フェニルエタノールを回収する原料として有利に用い得る24.7%の2−フェニルエタノールを含有する生成物流とを回収した。
【0019】実施例4実施例1で得られた硫酸ナトリウム及びその他の金属を含有する不揮発性残留物を No.4多孔質ガラス板に通して 280℃で濾過して、再評価燃料として使用できる< 0.1%硫酸灰分含有濾過物質を生成した。
【0020】前記の実施例な本発明を例証するものであり、本発明を何ら限定するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エチルベンゼンを分子状酸素で酸化してエチルベンゼンヒドロペルオキシドを製造し、該ヒドロペルオキシドを用いてプロピレンをエポキシ化して酸化プロピレンと1−フェニルエタノールとを生成させ、次いでこのエポキシ化生成物をアルカリ洗浄し且つ蒸留することによって酸化プロピレン、過剰量のエチルベンゼン及び1−フェニルエタノールを分離し、前記プロセス流の1つ又はそれ以上をアルカリ洗浄した結果としてナトリウム及びその他の金属を含有する重質残留物を生成させ、次いで1−フェニルエタノールを脱水反応させてスチレンを製造することによって酸化プロピレンとスチレン単量体とを同時に製造する方法において、前記のナトリウム及びその他の金属を含有する重質残留物の脱水反応を触媒として無機強酸の存在下で、該無機強酸を前記重質残留物に含まれるナトリウム及びその他の金属に対して化学量論量を越える量で使用して 150〜 250℃の温度及び大気圧よりも低い圧力で行うことを特徴とする酸化プロピレンとスチレン単量体とを同時に製造する方法。
【請求項2】 無機強酸が硫酸である請求項1記載の方法。
【請求項3】 無機強酸の量が前記重質残留物中に存在するナトリウム及びその他の金属に対して化学量論量比に対応する量よりも多いものであり、好ましくは前記重質残留物中に存在するナトリウム及びその他の金属と反応させた後に過剰の遊離の無機酸が 0.001〜1重量%の濃度で残存するような要領で選択されるものである請求項1及び2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】 無機強酸の存在下のナトリウム及びその他の金属を含有する重質残留物の脱水反応を50〜 400mmHgの絶対圧で行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】 前記のナトリウム含有重質残留物を無機強酸を用いて脱水することによって得られる有機留出物を蒸留して精製スチレンと比較的高い2−フェニルエタノール含有量の留分とを得る請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】 前記のナトリウム及びその他の金属を含有する重質残留物を無機強酸の存在下で脱水することによって得られる不揮発性残留物を濾過して無機塩を分離し且つ実質的にナトリウム及びその他のた金属を含有しない残留物であって燃料として十分に使用できる残留物を得る請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開平11−292802
【公開日】平成11年(1999)10月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−66805
【出願日】平成10年(1998)3月17日
【出願人】(594085247)レプソル・ケミカ・ソシエダ・アノニマ (2)