説明

改良ポリメラーゼ

改変したDNAポリメラーゼは、DNAに対する親和性を有し、当該のポリメラーゼは、各反応サイクルにおいて、1種又は複数のヌクレオチドを、複数の別々のDNA鋳型内に取り込む能力を有するようになっている。当該のポリメラーゼは、各反応サイクルにおいて、より多くの生産的なポリメラーゼ−DNA複合体を形成することができる。改変したDNAポリメラーゼを、多くのDNAシークエンシングの用途に、特に、クラスターアレイに関連して、使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、ポリメラーゼ酵素に関し、より具体的には、DNAに対する親和性を有する、改変したDNAポリメラーゼに関し、当該のポリメラーゼは、各反応サイクルにおいて、1種又は複数のヌクレオチドを、複数の別々のDNA鋳型に取り込む能力を有し、且つ各反応サイクルにおいて、より多くの生産的なポリメラーゼ−DNA複合体を形成することができるようになっている。また、本発明の範囲には、当該の改変したポリメラーゼを、DNAシークエンシングに、特に、クラスターアレイに関連して、使用する方法も含まれる。
【0002】
[関連技術の説明]
あるDNAポリメラーゼの3次元結晶構造は、3つの別々のサブドメインを明らかにし、これらは、掌(palm)、指(finger)及び親指(thumb)と名付けられており(Joyce,C.M.及びSteiz,T.A.(1994)Function and structure relationships in DNA polymerases,Annu.Rev.Biochem.,63,777−822)、それぞれがDNAの重合の際に重要な役割を有する。
【0003】
DNAポリメラーゼのC末端の親指サブドメインは、DNAとの結合及び処理能力に関係があるとされている(Doublieら、1998.Nature 391,251;Trunigerら、2004.Nucleic Acids Research 32,371)。DNAポリメラーゼのこの領域の残基が、プライマー:鋳型の二本鎖と相互作用する。
【0004】
部位特異的変異の導入又は少数のアミノ酸の欠失による切り詰めのいずれかによって、この領域の構造を破壊させて、DNA親和性及び処理能力が低下するが、dNTP親和性及びヌクレオチド挿入の忠実度等、その他の物性に関しては総じて変化がないバリアントが証明されている(Trunigerら、2004.Nucleic Acids Research 32,371;Minnickら、1996.J.Biol.Chem.,271,24954;Poleskyら、1990.J.Biol.Chem.,265,14579)。
【0005】
ポリメラーゼを、ファミリーA及びファミリーBと呼ばれる2種の構造的に異なるファミリーに分けることができる。
【0006】
ファミリーBのポリメラーゼのC末端のサブドメインは、十分には研究されていないが、主にポリメラーゼRB69の閉鎖型(DNA結合)のX線結晶構造の観察に基づいて、DNAとの結合に関与すると考えられている。変異誘発試験が、この親指ドメイン内で、ファミリーBの2つの例、すなわち、Phi29及びT4について行われている。しかし、これらの研究は、ドメインの広い部分にわたるアミノ酸の欠失に限定されるものであった。同一のタイプの欠失を、Klenow(ファミリーAのポリメラーゼ)で起こしている。これらの研究におけるバリアントの性能を、それらがdNTPに結合し、それを取り込む能力の面から評価したところ、欠失の効果は、忠実度及びDNAに対する親和性に及び、さらに、アクセサリータンパク質との相互作用にも及んだ。
【0007】
好熱性古細菌からのポリメラーゼの親指ドメインの研究は、過去に行われていない。
【0008】
[発明の概要]
本発明は、ポリメラーゼがDNA鋳型と密接に結合することは、必ずしも有利な特性であるとは限らないという認識に基づく。このことは、各反応サイクルで、単一のヌクレオチドの取り込みが1回のみ発生することが要求されるシークエンシング反応の場合に、特に当てはまる。したがって、DNAと密接に結合するポリメラーゼの場合、DNAに対する親和性が低いバリアントポリメラーゼと比較して、複数のDNA鎖上でヌクレオチドの取り込みに関与するポリメラーゼの能力が制限される。
【0009】
本発明者らは、3’糖ヒドロキシル基における修飾を有するヌクレオチド類似体を使用する、DNAをシークエンシングするための方法を考案するに至った。当該の修飾は、さらなるヌクレオチドの取り込みをブロックする(中に例及び引用が記載されている国際公開第03/048387号パンフレットを参照)。3’ブロックを有するヌクレオチドの使用によって、ポリヌクレオチド鎖内へのヌクレオチドの連続的な取り込みを制御することが可能になる。ヌクレオチドが付加される毎に、3’ブロックが存在すると、鎖内へのさらなるヌクレオチドの取り込みが阻止される。取り込まれたヌクレオチドの性質が決定されると、当該のブロックを取り除き、次のヌクレオチドの付加のために、遊離の3’ヒドロキシル基を残しておくことができる。
【0010】
その上、(上記で議論し、本明細書中の以下でより詳細に議論するような)修飾されたヌクレオチドが関与するシークエンシング反応等の反応の場合には、ポリメラーゼの密接な結合は、実は、反応の完了の面から、特定の不利益をもたらすことがある。例えば、密接なDNA結合親和性を有する不活性なポリメラーゼ分子が、鋳型DNA分子と安定な複合体を形成する場合、その特定の鋳型DNA分子からの伸長は不可能となる。
【0011】
このような認識の下、本発明は、鋳型DNAとより弱く相互作用する、変化させたポリメラーゼを提供する。したがって、本発明のポリメラーゼは、1反応サイクルの間に、ある鋳型DNA分子から別の鋳型DNA分子へ移動する能力が改良されている。より多くの生産的なポリメラーゼ−DNA複合体を形成するこの能力は、各反応サイクルで単一のヌクレオチドの付加が関与する反応のレベル又は反応の完了を大幅に改良することができるという利点を有する。
【0012】
未改変のポリメラーゼは、高い親和性でDNAと結合する傾向にあり、したがって、式:
【数1】


は、[Pol:DNA]複合体を好む方へ大きくシフトしている。
【0013】
対照的に、本発明では、変化させたポリメラーゼは、DNAとの結合がそれより弱いので、平衡の位置が、左辺側にシフトしている。
【0014】
したがって、本発明は、DNAに対する親和性が低下した、改変したポリメラーゼを提供し、当該のポリメラーゼは、各反応サイクルにおいて、1種又は複数のヌクレオチドを、複数の別々のDNA鋳型内に取り込む能力を有するようになっている。
【0015】
「DNA鋳型」とは、これにポリメラーゼが結合し、核酸合成のための鋳型として用いることができる、あらゆるDNA分子を意味する。
【0016】
本明細書では、「ヌクレオチド」は、ヌクレオチド及びヌクレオシドの両方を含むと定義される。ヌクレオシドは、ヌクレオチドについてと同様、プリン塩基又はピリミジン塩基が、グリコシド結合によってリボース又はデオキシリボースと結合しているが、ヌクレオシドは、リン酸基を欠いている。ヌクレオシドにリン酸基が結合すると、ヌクレオチドとなる。合成及び天然のヌクレオチドが、本定義の内に含まれる。標識化ヌクレオチドも、本定義の内に含まれる。本ポリメラーゼの有利な特性は、DNA鋳型に対する親和性が低下している一方で、本ポリメラーゼが取り込むヌクレオチオドに対する親和性及び忠実度を維持している点である。
【0017】
好ましい一態様では、DNAに対する親和性が低下した、変化させたポリメラーゼを提供し、当該のポリメラーゼは、各反応サイクルにおいて、少なくとも1種の合成ヌクレオチドを、複数のDNA鋳型内に取り込む能力を有するようになっている。本発明の前は、ポリメラーゼを改変して、有利な特性を維持する一方で、自然でないヌクレオチドを取り込み、DNA親和性が低下するようになすという問題は、認識されておらず、誰もそれに取り組んでいなかった。
【0018】
一実施形態では、ヌクレオチドは、周知のサンガーのシークエンシング反応で使用されるようなジデオキシヌクレオチド三リン酸(ddNTP)を含む。これらのヌクレオチドを、例えば、質量標識、放射標識又は蛍光標識のうちのいずれかを用いて標識化することができる。
【0019】
別の実施形態では、ヌクレオチドは、3’糖ヒドロキシル基において修飾されているヌクレオチドを含み、対照ポリメラーゼと比較して、置換基が天然の3’ヒドロキシル基より大きくなっている。
【0020】
好ましい実施形態では、ヌクレオチドは、プリン又はピリミジン塩基と、リボース又はデオキシリボースの糖部分であって、当該糖部分に共有結合している取り除くことができる3’−OHブロック基を有する糖部分とを含み、前記3’炭素原子が、
【化1】


[ただし、Zは、−C(R’)−O−R’’、−C(R’)−N(R’’)、−C(R’)−N(H)R’’、−C(R’)−S−R’’及び−C(R’)−Fのいずれかである]の構造の基に結合しており、
R’’が、取り除くことができる保護基であるか、その一部であり;
R’のそれぞれが、独立に、水素原子、アルキル、置換されているアルキル、アリールアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、複素環、アシル、シアノ、アルコキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ若しくはアミド基、又は連結基を介して結合した検出可能な標識であるか;(R’)が、式=C(R’’’)(ただし、R’’’は、同一であってもよいし、異なっていてもよく、水素及びハロゲンの原子並びにアルキル基を含む群から選択される)のアルキリデン基を示し;且つ
前記の分子を反応させて、R’’のそれぞれが、Hに交換されているか、Zが、−C(R’)−Fである場合には、Fが、OH、SH又はNH、好ましくはOHに交換されているかである中間体を得ることができ、この中間体が、水性の状態下で解離して、遊離の3’OHを有する分子を産出するが;
Zが、−C(R’)−S−R’’である場合には、両方のR’基は、水素ではない。
【0021】
一実施形態によると、本発明のポリメラーゼが取り込むヌクレオシド又はヌクレオチドは、プリン塩基又はピリミジン塩基と、リボース又はデオキシリボースの糖部分であって、それに共有結合したブロック基を、好ましくは、3’O位で有する糖部分とを含み、当該のブロック基は、追加のヌクレオチドの取り込みを阻止するために3’−OH基のブロックが要求される手法、例えば、シークエンシング反応、ポリヌクレオチド合成、核酸の増幅、核酸ハイブリダイゼーションアッセイ、一塩基多型研究及びその他のそのような手法等において、当該の分子を有用にする。
【0022】
いったんブロック基が取り外されると、別のヌクレオチドを遊離の3’−OH基へ取り込むことが可能となる。
【0023】
好ましい修飾されたヌクレオチドは、Solexa Limitedの名の下で、国際公開第2004/018497号パンフレットに例示されており、この参照文献は、本明細書にその全体が組み入れられている。
【0024】
好ましい実施形態では、修飾されたヌクレオチド又はヌクレオシドのR’基は、アルキル又は置換されているアルキルである。別の実施形態では、修飾されたヌクレオチド又はヌクレオシドの−Z基は、−C(R−Nの式で表される。最も好ましい実施形態では、修飾されたヌクレオチド又はヌクレオシドは、アジドメチル基であるZ基を含む。
【0025】
本発明の好ましいポリメラーゼは、以下で詳細に議論するように、Zがアジドメチル基であるヌクレオチド類似体の取り込みに関して、特に好ましい。
【0026】
修飾されたヌクレオチドを、所望のリンカーによって、塩基を介して検出可能な標識に連結することができ、そのような標識は、例えば、フルオロフォアであることができる。検出可能な標識は、所望であれば、その代わりに、式「Z」のブロック基内に組み入れることができる。リンカーは、酸反応性であってもよく、感光性であってもよく、又はジスルフィド結合を含有してもよい。その他の結合、特に、その内容の全体が本明細書に組み入れられている国際公開第2004/018497号パンフレットにより詳細に記載されているように、ホスフィン切断可能アジド含有リンカーを本発明に利用することができる。
【0027】
好ましい標識及び結合には、国際公開第03/048387号パンフレットに開示されているものが含まれる。この参照文献は、本明細書にその全体が組み入れられている。
【0028】
一実施形態では、修飾されたヌクレオチド又はヌクレオシドは、切断可能なリンカーを介して検出可能な標識に結合した塩基を有し、当該の切断可能なリンカーは、
【化2】


[ただし、Xは、O、S、NH及びNQ(Qは、C1−10の置換されている又は置換されていないアルキル基である)を含む群から選択され、Yは、O、S、NH及びN(アリル)を含む群から選択され、Tは、水素又はC1−10の置換されている若しくは置換されていないアルキル基であり、*は、当該の部分がどこでヌクレオチド又はヌクレオシドの残部と接続するかを示す]
を含む群から選択される部分を含有することを特徴とする。
【0029】
一実施形態では、検出可能な標識は、蛍光標識を含む。適切なフルオロフォアは、当技術分野では周知である。好ましい実施形態では、異なるヌクレオチドのタイプのそれぞれが、異なる蛍光標識を保有する。これは、特定のヌクレオチドの同定及び取り込みを容易にする。したがって、例えば、修飾されたアデニン、グアニン、シトシン及びチミンはいずれも、異なるフルオロフォアに結合して、容易にそれらを相互に識別することを可能にするであろう。驚くべきことに、変化させたポリメラーゼは、いくつもの異なる蛍光標識を保有する修飾されたヌクレオチド誘導体を取り込むことができることが見出されている。さらに、本ポリメラーゼは、4種の塩基のいずれをも取り込むことができる。これらの特性は、核酸シークエンシングのプロトコールにおいて、本発明のポリメラーゼの使用に関して、実質的な利点をもたらす。
【0030】
上記で述べたように、好ましいヌクレオチド誘導体には、3’位においてO−アジドメチル官能基を含有するものが含まれる。その他のヌクレオチド誘導体に対しては、DNA結合に顕著に関与するC末端の親指サブドメイン領域におけるポリメラーゼの好ましいアミノ酸配列は、最適な取り込みのために、変化させることができることが理解されよう。いかなる所与のヌクレオチド誘導体に対しても、C末端の親指サブドメイン領域(以下でより詳細に議論するように、RB69中の残基Lys790、800、844、874,878及びArg806、並びに9°Nポリメラーゼ中の残基Arg743、Arg713及びLys705等)における最適配列の優先度を、実験によって、例えば、ライブラリー又は別々の数の変異体を構築し、次いで、取り込みアッセイ系中で個々のバリアントを試験することによって決定することができる。
【0031】
上記で述べたように、本発明の変化させたポリメラーゼは、異なる大きさ及び異なる化学的性質の大きな3’置換基を有する広い範囲の修飾されたヌクレオチドを含む、全てのヌクレオチドの改良された取り込みを可能にする。本ポリメラーゼの有利な特性は、それらが取り込むヌクレオチドに対する親和性及び忠実度に不利に作用することなく、ポリメラーゼのDNAからの解離の増加をもたらす、DNA鋳型に対する親和性の低下によるものである。
【0032】
本発明のポリメラーゼの低下したDNA結合親和性のおかげで、単一の反応サイクル中に、1種又は複数のヌクレオチドを、いくつかの異なるDNA分子内への取り込むことができる。したがって、反応の全体的な効率が改良され、より高いレベルの完了をもたらす。
【0033】
「反応サイクル」とは、鋳型中へのヌクレオチドの取り込みを可能にする適切な反応期間を意味する。単一の反応サイクルの例示的な条件として、30分、45℃のインキュベーション期間があげられる。
【0034】
多くの重合反応が、ポリメラーゼと比較して過剰量のDNAの存在下で起こる。本発明のポリメラーゼは、別々の鋳型のDNA分子上で、1種又は複数のヌクレオチドの多数回の取り込みを触媒することができることから、本ポリメラーゼは、そのような重合反応が、より効果的に進行することを可能にする。他方、未変化のポリメラーゼ、特に、DNAにさらにより密接に結合するポリメラーゼは、各反応サイクルで単一の鋳型上におけるヌクレオチドの取り込みにのみ関与する可能性が大きいことから、この能力を有さないであろう。本発明によるポリメラーゼは、DNAの濃度と比較してポリメラーゼの濃度が制限的である条件下で、高いレベルの反応の完了を可能にする。具体的には、本ポリメラーゼは、DNA:ポリメラーゼの比が少なくとも約2:1、3:1又は5:1である条件下で、1種又は複数のヌクレオチドを別々のDNA分子内に取り込む、改良された能力を示す。しかし、ポリメラーゼの高い濃度では、本改良は、覆い隠されてしまう場合がある。
【0035】
したがって、所与の親和性を有する、変化させたポリメラーゼを提供し、当該のポリメラーゼは、各反応サイクルにおいて、より多くの生産的なポリメラーゼ−DNA複合体を形成することができるようになっている。
【0036】
本発明のポリメラーゼの改良された特性を、適切な対照と比較することができる。「対照ポリメラーゼ」は、本明細書では、変化させたポリメラーゼの活性を比較する対象となるポリメラーゼと定義される。対照ポリメラーゼは、変化させたポリメラーゼと同一のタイプであるが、ポリメラーゼのDNAに対する親和性を低下させる変化を保有しない。したがって、最も好ましい実施形態では、対照ポリメラーゼは、9°Nポリメラーゼであり、改変したポリメラーゼは、9°NポリメラーゼのDNAに対する親和性を低下させる1つ又は複数の改変が存在する以外は、同一の9°Nポリメラーゼである。
【0037】
一実施形態では、対照ポリメラーゼは、野生型のポリメラーゼであり、これを変化させて、変化させたポリメラーゼを提供し、この変化させたポリメラーゼを、未変化のポリメラーゼと直接比較することができる。
【0038】
一実施形態では、対照ポリメラーゼは、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLeu408及びTyr409及びPro410と機能的に同等である位置において、置換変異を含む。したがって、この実施形態では、対照ポリメラーゼは、408位においてロイシンから異なるアミノ酸、409位においてチロシンから異なるアミノ酸、及び410位においてプロリンから異なるアミノ酸への置換変異を有するか、又はポリメラーゼが9°N DNAポリメラーゼではない場合には機能的に同等である位置において置換変異を有する。好ましい実施形態では、対照ポリメラーゼは、当該の置換変異を含む9°N DNAポリメラーゼである。
【0039】
別の実施形態では、対照ポリメラーゼは、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLeu408Tyr及びTyr409Ala及びPro410Valと機能的に同等である置換変異を含む。したがって、この実施形態では、対照ポリメラーゼは、408位においてロイシンからチロシン、409位においてチロシンからアラニン、及び410位においてプロリンから異なるバリンへの置換変異を有するか、又はポリメラーゼが9°N DNAポリメラーゼではない場合には機能的に同等である位置において置換変異を有する。好ましい実施形態では、対照ポリメラーゼは、当該の置換変異を含む9°N DNAポリメラーゼである。
【0040】
対照ポリメラーゼは、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のCys223と機能的に同等である位置において、置換変異をさらに含むことができる。したがって、この実施形態では、対照ポリメラーゼは、223位においてシステインから異なるアミノ酸への置換変異を有するか、又はポリメラーゼが9°N DNAポリメラーゼではない場合には機能的に同等である位置において置換変異を有する。好ましい実施形態では、対照ポリメラーゼは、当該の置換変異を含む9°N DNAポリメラーゼである。別の実施形態では、対照ポリメラーゼは、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のCys223Serと機能的に同等である置換変異を含む。したがって、この実施形態では、対照ポリメラーゼは、223位においてシステインからセリンの置換変異を有するか、又はポリメラーゼが9°N DNAポリメラーゼではない場合には機能的に同等である位置において置換変異を有する。好ましい実施形態では、対照ポリメラーゼは、当該の置換変異を含む9°N DNAポリメラーゼである。
【0041】
好ましくは、対照ポリメラーゼは、上記で述べた変異の組合せを含む9°N DNAポリメラーゼである。
【0042】
本ポリメラーゼは、通常、DNAに対する親和性が低下している。これは、解離定数の面から定義することができる。したがって、野生型ポリメラーゼは、ナノ−ピコモルの範囲の解離定数を有する傾向がある。本発明の目的のためには、未変化の対照ポリメラーゼと比較してDNAに対する親和性が低下しているポリメラーゼが適する。好ましくは、変化させた結果、未変化の対照ポリメラーゼと比較して、解離定数が、少なくとも、又はおよそ、2倍、3倍、4倍又は5倍等に増加している。
【0043】
「機能的に同等」とは、別のポリメラーゼのアミノ酸の位置において起きるアミノ酸置換であって、酵素において同一の機能的役割を有するとみなされる置換を意味する。例えば、Vent DNAポリメラーゼ中の412位におけるチロシンからバリンへの変異(Y412V)は、9°N DNAポリメラーゼ中の409位におけるチロシンからバリンへの置換(Y409V)と機能的に同等であろう。このアミノ酸残基のかさ高い部分が、「立体ゲート(steric gate)」として作用して、ヌクレオチドの糖の2’−ヒドロキシルが結合部位に接近するのをブロックすると考えられている。また、Ventポリメラーゼ中の残基488は、9°N ポリメラーゼ中のアミノ酸485と同等であるとみなされており、したがって、Vent中の488位におけるアラニンからロイシンへの変異(A488L)は、9°N ポリメラーゼ中のA485L変異と同等であるとみなされる。
【0044】
一般に、2種以上の異なるポリメラーゼにおける機能的に同等な置換変異は、それらのポリメラーゼのアミノ酸配列中の相同なアミノ酸位置において起きる。したがって、本明細書における「機能的に同等」という用語の使用は、変異したアミノ酸の特定の機能が知られているか否かにかかわらず、所与の変異と「位置的に同等」又は「相同」である変異も包含する。2種以上の異なるポリメラーゼのアミノ酸配列中の位置的に同等又は相同であるアミノ酸残基を、配列アライメント及び/又は分子モデル化に基づいて同定することが可能である。
【0045】
変化させたポリメラーゼは、通常、「単離した」又は「精製した」ポリペプチドである。「単離したポリペプチド」とは、炭水化物、脂質、核酸又は本来ポリペプチドに関連させることができるその他のタンパク質性の不純物等、細胞性の汚染成分を実質的に含まないポリペプチドを意味する。典型的には、単離したポリメラーゼの調製物は、ポリメラーゼを、高度に精製した形態、すなわち、少なくとも約80%の純度、好ましくは、少なくとも約90%の純度、より好ましくは、少なくとも約95%の純度、それより好ましくは、少なくとも約98%、最も好ましくは、少なくとも約99%の純度で含有する。酵素調製物の純度を、例えば、標準的なSDS−ポリアクリルアミド電気泳動ゲル上の単一のバンドの出現によって評価することができる。
【0046】
変化させたポリメラーゼは、「組換え」のポリペプチドであることができる。
【0047】
本発明による変化させたポリメラーゼは、いずれのDNAポリメラーゼであってもよい。より具体的には、変化させたポリメラーゼは、ファミリーBタイプのDNAポリメラーゼ、或いはその変異体又はバリアントであることができる。ファミリーBのDNAポリメラーゼとして、多数の古細菌のDNAポリメラーゼ、ヒトのDNAポリメラーゼα、並びにT4、RB69及びφ29ファージのDNAポリメラーゼがあげられる。これらのポリメラーゼは、Taq及びT7のDNAポリメラーゼ等のポリメラーゼを含むファミリーAのポリメラーゼほどには十分に研究されていない。一実施形態では、ポリメラーゼは、ファミリーBの古細菌のDNAポリメラーゼ、ヒトのDNAポリメラーゼα、並びにT4、RB69及びφ29ファージのDNAポリメラーゼから選択される。
【0048】
古細菌のDNAポリメラーゼは、多くの場合、超好熱性古細菌に由来し、このことは、ポリメラーゼがしばしば熱安定性であることを意味する。したがって、より好ましい実施形態では、ポリメラーゼは、好熱性古細菌のポリメラーゼであり、好ましくは、Vent、Deep Vent、9°N及びPfuポリメラーゼから選択される。Vent及びDeep Ventはそれぞれ、超好熱性古細菌サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)及びピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)から単離されたファミリーBのポリメラーゼに使用される商品名である。また、9°Nポリメラーゼも、サーモコッカス種から同定された。Pfuポリメラーゼは、ピロコッカス・フリオサスから単離された。上記で述べたように、本発明までは、好熱性のポリメラーゼの親指ドメインは、研究されていなかった。本発明の最も好ましいポリメラーゼは、9°Nポリメラーゼであり、その変異体及びバリアントも含まれる。9°Nポリメラーゼは、アクセサリータンパク質を要求しない。このことは、親指ドメインの欠失が、ポリメラーゼのその他の特性を変化させない一方で、アクセサリータンパク質との相互作用に不利に影響することが示された、以前に研究されたポリメラーゼと対照をなすことができる。対照的に、以下の実験の項で示すように、9°Nの多数の残基の欠失は、9°Nの重要な特性に対して顕著に不利に作用し、触媒活性が顕著に損なわれるようになる。
【0049】
本発明をファミリーBのポリメラーゼの変異体及びバリアントに限定する意図がないことを理解されたい。また、変化させたポリメラーゼは、ファミリーAのポリメラーゼ、或いはその変異体又はバリアント、例えば、変異体又はバリアントのTaq又はT7のDNAポリメラーゼ酵素であってもよく、或いはファミリーA又はファミリーBのいずれにも属さないポリメラーゼ、例えば、逆転写酵素等であってもよい。しかし、本明細書に記載する理由によって、ファミリーBのポリメラーゼが特に好ましい。
【0050】
本発明によって、いくつかの異なるタイプの変化が意図されており、DNAに対する親和性が低下する結果として、所望の特性を示すポリメラーゼを得る。付加変異及び欠失変異も有用なポリメラーゼを生じることができるが、特に好ましいのは、ポリメラーゼの一次アミノ酸配列中の置換変異である。例えば、部位特異的変異誘発等、適切な変化の手法が、当技術分野では周知である。
【0051】
したがって、「変化させたポリメラーゼ」とは、対照ポリメラーゼ酵素と比較して、少なくとも1つのアミノ酸の変化を有するポリメラーゼを意味する。通常、この変化は、少なくとも1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換を含む。好ましい実施形態では、これらの変化は、非保存的な変化であるが、本発明は、タンパク質の全体的な電荷の分布を維持する保存的な変化も想定している。さらに、得られるポリメラーゼは、対照ポリメラーゼと比較して、DNA親和性が低下し、各反応サイクルにおいて、1種又は複数のヌクレオチドを、複数の別々のDNA鋳型内に取り込む能力を有するならば、ポリメラーゼ配列の改変が、1つ又は複数のアミノ酸のタンパク質からの欠失又はタンパク質への付加であることができることも、本発明の意図の範囲内である。
【0052】
一実施形態では、本発明のポリメラーゼを形成する変化は、ポリメラーゼ中の残基における少なくとも1つの変異、好ましくは、少なくとも1つの置換変異を含み、その変異はポリメラーゼとDNAとの相互作用を不安定化する。したがって、得られるポリメラーゼは、安定性のより低い様式でDNAと相互作用する。上記で述べたように、ポリメラーゼのDNAに対する親和性の低下は、各反応サイクルにおける1種又は複数のヌクレオチドのいくつかの異なるDNA分子内への取り込みを可能にする。したがって、反応の全体的な効率が改良され、より高いレベルの反応の完了をもたらす。
【0053】
別の実施形態では、変化は、少なくとも1つの変異、好ましくは、少なくとも1つの置換変異を、DNAと結合するポリメラーゼ中の残基において含む。変異を起こす適切な標的残基を、適切なポリメラーゼについての入手可能な、特に、閉鎖状態(DNAに結合している)で結晶化した結晶構造によって選択することができる。DNAとの結合の接点を減らすことによって、DNA結合親和性の全体的な低下を達成することができる。したがって、得られるポリメラーゼは、DNAへの密接な結合が不利になるヌクレオチド取り込み反応の場合に、改良された特徴を示す。
【0054】
同様に、ポリメラーゼは、少なくとも1つの変異、好ましくは、少なくとも1つの置換変異を、ポリメラーゼのDNA結合ドメインに存在する残基において含む変化を保有することもできる。ここでも、そのような変異は、変化させたポリメラーゼのDNA結合親和性を低下させることが予想され、したがって、反応中に、ポリメラーゼは、より容易に別の鋳型のDNA分子と結合したり、それから解離したりできる。
【0055】
一実施形態では、ポリメラーゼは、少なくとも1つの変異、好ましくは、少なくとも1つの置換変異を、ポリメラーゼ中の塩基性アミノ酸残基において含む変化を含む。当技術分野では周知であるように、ポリメラーゼ中の正に荷電しているアミノ酸残基の多くは、全体的に負に荷電しているDNAの二重らせん、特に、DNA中のヌクレオチドの特異的なリン酸基と相互作用する。
【0056】
上記で述べたように、本発明によってポリメラーゼに得られる好ましいタイプの変化は、少なくとも1つの置換変異を含む。以下の実験の項で示すように、ポリメラーゼのアミノ酸配列からの残基の欠失は、低下したDNAに対する親和性を有する一方で、触媒活性が損なわれることから、全体的に有利な特性は有しないポリメラーゼをもたらす場合がある。特に好ましい実施形態では、ポリメラーゼは、2つの置換変異を含むが、得られるポリメラーゼが所望の特性を有するならば、4つ、5つ、6つ又は7つ等の変異を含有することができる。
【0057】
好ましくは、ヌクレオチドに対するポリメラーゼの親和性は、当該の変化によって実質的に影響されない。実験の項(特に、実施例6)で示すように、ポリメラーゼを変異させ、例えば、dNTP又はddNTP、或いはそれらの修飾型であることができるヌクレオチド(上記のヌクレオチドの定義を参照)に対するポリメラーゼの親和性に不利に影響しない一方で、DNAに対する親和性が低下するようになすことができる。この文脈での「実質的に影響されない」とは、ヌクレオチドに対する親和性が、未変化のポリメラーゼの場合と同一の次数に留まることを意味する。好ましくは、ヌクレオチドに対する親和性が、変化によって影響されない。
【0058】
好ましくは、ポリメラーゼの忠実度は、当該の変化によって実質的に影響されない。実験の項(特に、実施例6)で示すように、ポリメラーゼを変異させ、ポリメラーゼの忠実度が変化によって実質的に影響されない一方で、DNAに対する親和性が低下するようになすことができる。この文脈での「実質的に影響されない」とは、各ヌクレオチドについての誤取り込みの頻度が、未変化のポリメラーゼの場合と同一の次数に留まることを意味する。好ましくは、ポリメラーゼの忠実度が、変化によって影響されない。
【0059】
特異的で且つ好ましい構造変異体の面から、これらは、最も好ましいポリメラーゼ、すなわち、9°N DNAポリメラーゼに基づくことができる。以下の実施例1で議論するように、9°N−7 DNAポリメラーゼの開放型(PDB=1ght)、密接に関連するDNAポリメラーゼRB69の開放構造(PDB=1ih7)及びRB69の閉鎖型(PDB=1ig9)の結晶構造の、エネルギーを最少にする重複アライメント(Cressetに委託)を、DNA結合に関与する重要な残基の同定のための構造モデルとして使用した。したがって、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLys705、Arg713及び/又はArg743と機能的に同等である1つ又は複数の位置において、1つ、2つ又は3つのアミノ酸を別のアミノ酸に置換する変異を含む又は組み入れた、変化させたポリメラーゼを提供する。好ましくは、ポリメラーゼは、これらの変異を含む9°N DNAポリメラーゼである。1つ、2つ又は3つの変異の順列及び組合せの全てが、本発明の範囲内で意図されている。
【0060】
また、変異は、DNAと複合体を形成したRB69ポリメラーゼの既知の結晶構造との「開放」9°N DNAポリメラーゼ構造(すなわち、DNAに結合していない)のアライメントに基づいて、その他の特異的な残基において起こすこともできる。したがって、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のArg606及び/又はHis679と機能的に同等である1つ又は複数の位置において、1つ又は2つのアミノ酸を別のアミノ酸に置換する変異を含む又は組み入れた、変化させたポリメラーゼを提供する。好ましくは、ポリメラーゼは、これらの変異を含む9°N DNAポリメラーゼである。異なる変異の順列及び組合せの全てが、本発明の範囲内で意図されている。したがって、これらの変異を、上記で議論したその他の変異と組み合わせて起こすことができる。
【0061】
好ましい実施形態では、ポリメラーゼは、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のArg713又はArg743のいずれかと機能的に同等である位置において、少なくとも1つのアミノ酸を別のアミノ酸に置換する変異を含む。以下の実験の項でより詳細に議論するように、これらの2つの位置は、変異にとって特に好ましい部位の代表である。両方の残基を、同一のポリメラーゼ中で、異なるアミノ酸に変異させることができる。
【0062】
異なるアミノ酸の性質の面から、好ましくは、1つ又は複数の置換変異は、置換されるアミノ酸を、非塩基性のアミノ酸(すなわち、リジン及びアルギニンではない)に変換する。いずれの非塩基性のアミノ酸をも選択することができる。
【0063】
好ましい1つ又は複数の置換変異は、置換されるアミノ酸を、
(i)酸性アミノ酸、
(ii)芳香族アミノ酸、特に、チロシン(Y)又はフェニルアラニン(F);及び
(iii)非極性アミノ酸、特に、アラニン(A)、グリシン(G)又はメチオニン(M)
から選択されるアミノ酸に変換する。
【0064】
一実施形態では、1つ又は複数の置換変異は、置換されるアミノ酸を、アラニンに変換する。
【0065】
より特異的な実施形態では、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLys705Ala及び/又はArg713Ala及び/又はArg743Alaと機能的に同等である、1つ又は複数の置換変異を含む、変化させたポリメラーゼを提供する。したがって、この実施形態では、ポリメラーゼは、705位においてリジンからアラニン、及び/又は713位においてアルギニンからアラニン、及び/又は743位において、アルギニンからアラニンへの置換変異を有するか、或いはポリメラーゼが9°N DNAポリメラーゼではない場合には機能的に同等である位置において変異置換を有する。好ましい実施形態では、ポリメラーゼは、当該の置換変異を含む9°N DNAポリメラーゼである。
【0066】
一実施形態では、変化させたポリメラーゼは、Arg713Alaと機能的に同等であるアミノ酸の置換を含み、別の実施形態では、変化させたポリメラーゼは、Arg743Alaと機能的に同等であるアミノ酸の置換を含む。好ましくは、変化させたポリメラーゼは、9°N DNAポリメラーゼである。
【0067】
また、特異的な構造的な変異は、「開放」構造及び「閉鎖」構造が知られているRB69ポリメラーゼ等、その他のタイプのポリメラーゼに基づくこともできる。したがって、RB69DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLys790、Lys800、Arg806、Lys844、Lys874及び/又はLys878と機能的に同等である1つ又は複数の位置において、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つのアミノ酸を別のアミノ酸に置換する変異を含む又組み入れた、変化させたポリメラーゼを提供する。好ましくは、これらの類似の又は機能的に同等な変異を含む9°N DNAポリメラーゼである。1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つの変異の順列及び組合せの全てが、本発明の範囲内で意図されている。
【0068】
異なるアミノ酸の性質の面から、好ましくは、1つ又は複数の置換変異は、置換されるアミノ酸を、非塩基性のアミノ酸(すなわち、リジン及びアルギニンではない)に変換する。いずれの非塩基性のアミノ酸をも選択することができる。
【0069】
好ましい1つ又は複数の置換変異は、置換されるアミノ酸を、
(i)酸性アミノ酸、
(ii)芳香族アミノ酸、特に、チロシン(Y)又はフェニルアラニン(F);及び
(iii)非極性アミノ酸、特に、アラニン(A)、グリシン(G)又はメチオニン(M)
から選択されるアミノ酸に変換する。
【0070】
一実施形態では、1つ又は複数の置換変異は、置換されるアミノ酸を、アラニンに変換する。
【0071】
本発明を上記で述べた様式で変化させているポリメラーゼのみに限定する意図がないことに留意されたい。本発明のポリメラーゼは、例えば、国際公開第2005/024010号パンフレットに詳細に開示されている好ましい変異ポリメラーゼ等、いくつかの追加の変異を含むことができる。特に、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLeu408及びTyr409及びPro410と機能的に同等である位置において変異置換を含むポリメラーゼが意図されている。好ましい実施形態では、当該の置換変異を含む9°N DNAポリメラーゼである。
【0072】
特異的な実施形態では、ポリメラーゼは、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLeu408Tyr及びTyr409Ala及びPro410Valの少なくとも1つ又は2つ、しかし好ましくは全部と機能的に同等である置換変異を含む。好ましい実施形態では、ポリメラーゼは、当該の置換変異の全部を含む9°N DNAポリメラーゼである。
【0073】
ポリメラーゼは、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のCys223と機能的に同等である位置において置換変異をさらに含むことができる。好ましい実施形態では、ポリメラーゼは、当該の置換変異を含む9°N DNAポリメラーゼである。一実施形態では、ポリメラーゼは、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のCys223Serと機能的に同等である置換変異を含む。好ましい実施形態では、ポリメラーゼは、当該の置換変異を含む9°N DNAポリメラーゼである。
【0074】
好ましくは、ポリメラーゼは、上記で述べた変異の組合せを含む9°N DNAポリメラーゼである。
【0075】
また、本発明は、配列番号1、3、5又は21のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含むか、配列番号1、3、5又は21のいずれか1つに示すアミノ酸配列から実質的になるか、或いは配列番号1、3、5又は21のいずれか1つに示すアミノ酸配列からなる9°N DNAポリメラーゼ分子にも関する。また、本発明は、配列番号1、3、5又は21に示すアミノ酸配列とは、ポリメラーゼの機能に多大に影響することがないアミノ酸の変化の点のみで異なるアミノ酸配列を有するポリメラーゼも包含する。この場合、ポリメラーゼの当面の機能は、(対照ポリメラーゼと比較して)当該のポリメラーゼが各反応サイクルにおいて1種又は複数のヌクレオチドを複数の別々のDNA鋳型に内に取り込む能力を有するようになる、及び/又は(対照ポリメラーゼと比較して)当該のポリメラーゼが各反応サイクルにおいてより多くの生産的なポリメラーゼ−DNA複合体を形成することができるようになる、低下したDNAに対する親和性と定義する。
【0076】
したがって、低下したDNA親和性を有するポリメラーゼのバリアントのこの活性に関しては重要でない残基における保存的置換は、本発明の範囲内に含まれる。酵素の機能に対するさらなる変異の効果は、例えば、周知のヌクレオチド取り込みアッセイ(国際公開第2005/024010号パンフレットの実施例、並びに以下の実施例3及び4に記載されているアッセイ等)を使用して、容易に試験することができる。
【0077】
また、本発明の変化させたポリメラーゼを、その低下したDNAに対する親和性に直接注目して定義することもでき、その低下したDNAに対する親和性は、実質的に未変化の忠実度及びヌクレオチドに対する親和性と一緒になって、本発明のポリメラーゼに伴う利点をもたらす。したがって、DNAに対する解離定数(K)が、未変化の対照ポリメラーゼの少なくとも、およそ2倍超、3倍超、4倍超又は5倍超である、或いはこの範囲内である、変化させたポリメラーゼを提供する。
【0078】
一実施形態では、約500mM以下、好ましくは500mM未満の濃度を有する塩溶液、好ましくは、NaCl溶液の存在下で、DNAから解離するものとする、変化させたポリメラーゼを提供する。塩溶液は、本発明の低下した親和性のポリメラーゼを、DNAとより密接に結合する未変化のポリメラーゼと区別することが可能であるような適切な濃度であることができる。適切な塩溶液濃度(好ましくは、NaCl)は、およそ150mM、200mM、250mM、300mM又は350mMの範囲内であり、好ましくは200mMである。いずれかの適切な二本鎖DNA分子を用いて、変化がDNA親和性の低下の面で所望の効果を有するか否かを決定することができる。好ましくは、それからポリメラーゼが解離するDNA分子は、配列番号18に記載する配列を含む。好ましくは、洗浄用液中の当面のNaCl濃度で、ポリメラーゼの少なくともおよそ40%、50%、60%、70%等がDNAから解離するものとする。
【0079】
解離実験を、いずれかの既知の手段、例えば、以下の実験の項の実施例5で詳述する洗浄アッセイ(図6及び7も参照)等を用いることによって行うことができる。
【0080】
上記で述べたように、DNA親和性の低下は、(好ましくは)ヌクレオチドに対するポリメラーゼの親和性を顕著に又は有意に低下させることなく達成される。また、驚くべきことに、本発明の変化させたポリメラーゼは、DNA結合親和性が低下しているにもかかわらず、Vmaxの面では、未改変のポリメラーゼに匹敵する活性も示す。本発明のポリメラーゼが示すこの驚くべき特性を、特に、以下の実験の項の実施例6において及び図8を参照して、本発明の特定の酵素の反応速度論的解析において示す。
【0081】
また、本発明の変化させたポリメラーゼは、ポリメラーゼを発現させた宿主細胞から精製される能力の改良に直接注目して定義することもできる。したがって、変化させたポリメラーゼの低下したDNAに対する親和性(これは、実質的に未変化のヌクレオチドに対する親和性及び忠実度と一緒になって、本発明のポリメラーゼに伴う利点をもたらす)のおかげで、当該のポリメラーゼをより容易に精製することができる。酵素の精製の際に、宿主細胞からの内在性DNAによる持ち越し汚染が減少する。したがって、精製過程後にポリメラーゼに結合して残留する内在性のDNAが減少することから、より純粋な産物を得る。変化させたポリメラーゼの低下したDNAに対する親和性の追加の利点は、実質的に純粋なポリメラーゼの調製物を提供するために、それほど厳密な精製の手順を用いる必要がないことである。したがって、精製過程自体によって不利に影響されるポリメラーゼが減少し、高いレベルの全体的な活性を有するポリメラーゼ調製物を得るであろう。その上、より均一な精製が可能になるはずであり、ポリメラーゼのバッチ間の変動が減少する。精製手順の際の内在性DNAによる持ち越し汚染の改良に関する代表的なデータを、以下の実験の項の実施例7に提供する。
【0082】
好ましくは、約60ng/ml、50ng/ml、40ng/ml、30ng/ml、20ng/ml、10ng/ml未満、より好ましくは、約5ng/ml未満の宿主のDNAが、ポリメラーゼの精製後に持ち越し汚染する。標準的な精製プロトコール、例えば、Colleyら、J.Biol.Chem.264:17619−17622(1989);Guide to Protein Purification,in Methods in Enzymology,vol.182(Deutscher編、1990)を参照等、を用いることができる。
【0083】
したがって、本発明は、DNAに対する親和性を有する、変化させたポリメラーゼを提供し;
(i)当該のポリメラーゼは、DNAに対する解離定数が、未変化/対照ポリメラーゼの少なくとも約、又はおよそ、2倍、3倍、4倍又は5倍を超え、及び/又は
(ii)約200nMから500nMの間、好ましくは、約200nMから300nMの間の濃度を有する塩化ナトリウム溶液を作用させると、少なくとも50%、60%、70%又は80%の当該のポリメラーゼが、当該のポリメラーゼが結合しているDNAから解離し、及び/又は
(iii)当該のポリメラーゼを発現させた細胞からの精製過程後に、約60、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、3、1又は0.5ng/ml未満の内在性のDNAが、当該のポリメラーゼに結合して残留する
ようになっており;
当該の変化は、ヌクレオチド結合親和性に対しても、忠実度に対しても、顕著に不利に影響することがなく、したがって、当該のポリメラーゼは、
(a)反応サイクルの間中、より多くの生産的なポリメラーゼ−DNA複合体を形成する(反応の完了のレベルを改良する)こと、及び/又は
(b)全体的なレベルが改良された(/増加した/上昇した)ヌクレオチドの取り込みを触媒すること
が可能であり;
特に、DNAの濃度と比較して、ポリメラーゼの濃度が制限的である条件下で、これらのことが可能である。
【0084】
さらに、本発明は、本発明の変化させたポリメラーゼ酵素をコードする核酸分子にも関する。
【0085】
アミノ酸配列がわかっており、好ましくは、ポリメラーゼをコードする野性型のヌクレオチド配列もわかっているポリメラーゼの変異型である、いずれか所与の変化させたポリメラーゼに関して、分子生物学の基本原理によって、当該の変異体をコードするヌクレオチド配列を得ることができる。例えば、9°Nポリメラーゼをコードする野性型のヌクレオチド配列がわかっていることを考慮すると、標準的な遺伝暗号を使用して、1つ又は複数のアミノ酸置換を有する9°Nのいずれか所与の変異型をコードするヌクレオチド配列を推定することができる。同様に、ヌクレオチド配列を、ファミリーA及びファミリーBのポリメラーゼの両方からのその他のポリメラーゼ、例えば、Vent(商標)、Pfu、Tsp JDF−3、Taq等の変異型に関しても容易に引き出すことができる。次いで、要求されるヌクレオチド配列を有する核酸分子を、当技術分野で既知の標準的な分子生物学の手法を使用して、構築することができる。
【0086】
特異的な実施形態では、本発明は、9°Nポリメラーゼの変異型をコードする核酸分子に関する。
【0087】
したがって、本発明は、変化させた9°N DNAポリメラーゼをコードする核酸分子を提供し、当該の核酸分子は、配列番号2、4、6、19又は20のいずれかのヌクレオチド配列を含むか、配列番号2、4、6、19又は20のいずれかのヌクレオチド配列から実質的になるか、或いは配列番号2、4、6、19又は20のいずれかのヌクレオチド配列からなる。
【0088】
本発明によると、定義した核酸は、同一の核酸を含むのみならず、特に、保存的アミノ酸置換における縮重コードによる同義のコドン(同一のアミノ酸残基を特定する異なるコドン)に至る場合の置換を含む、何れかのマイナーな塩基の変化もまた含む。また、「核酸配列」という用語は、塩基の変化に関して与えられたいずれかの一本鎖の配列に対する相補的な配列も含む。
【0089】
また、本明細書に記載する核酸分子を、好都合に、適切な発現ベクター内に含ませ、適切な宿主内で、当該の核酸分子がコードするポリメラーゼのタンパク質を発現させることもできる。したがって、ここに、配列番号2、4、6、19又は20のいずれかのヌクレオチド配列を含むか、配列番号2、4、6、19又は20のいずれかのヌクレオチド配列から実質的になるか、或いは配列番号2、4、6、19又は20のいずれかのヌクレオチド配列からなる発現ベクターを提供する。クローン化したDNAの適切な発現ベクターへの組み入れ及びそれに続く上記の細胞のその後の形質転換及びそれに続く形質転換させた細胞の選択は、Sambrookら、(1989),Molecular cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratoryに提供されているように、当業者には周知である。
【0090】
そのような発現ベクターは、プロモーター領域等、当該のDNA断片の発現をもたらすことができる制御配列に操作可能に連結させた本発明による核酸を有するベクターを含む。「操作可能に連結させた」という用語は、記載する成分が意図する様式で機能することを可能にする関係で存在する近位を指す。そのようなベクターを適切な宿主細胞内に形質転換して、本発明によるタンパク質を発現させることができる。
【0091】
核酸分子は、成熟タンパク質をコードしてもよく、又は前タンパク質上のリーダー配列をコードする前配列をはじめとする、前配列を有するタンパク質をコードしてもよく、これは、続いて宿主細胞によって切断されて成熟たんぱく質を形成する。
【0092】
ベクターは、例えば、複製開始点、並びに所望により当該のヌクレオチドの発現のためのプロモーター及び所望によりプロモーターの制御因子を提供されたプラスミド、ウイルス又はファージのベクターであることができる。ベクターは、1種又は複数の選択可能なマーカー、例えば、抗生物質抵抗性遺伝子等を含有することができる。
【0093】
発現に必要となる制御エレメントは、RNAポリメラーゼに結合するプロモーター配列及び転写開始を適切なレベルに導くプロモーター配列を含み、さらに、リボゾームに結合するための翻訳開始配列も含む。例えば、細菌の発現ベクターは、lacプロモーター等のプロモーター及び翻訳開始のためのシャイン−ダルガノ配列、並びに開始コドンAUGを含むことができる。同様に、真核細胞の発現ベクターは、RNAポリメラーゼIIに対する異種又は同種のプロモーター、下流のポリアデニル化シグナル、開始コドンAUG及びリボゾームからの解離のための終始コドンを含むことができる。そのようなベクターは、市販品が入手可能であることもあれば、当技術分野で周知の方法によって、記載されている配列から構築することも可能である。
【0094】
より高等な真核細胞による本発明のポリメラーゼをコードするDNAの転写を、ベクター内にエンハンサー配列を含ませることによって最適化することができる。エンハンサーはDNAのシス作動性エレメントであり、プロモーターに作用して、転写レベルを増加させる。また、ベクターは、通常、選択可能なマーカーに加えて、複製開始点も含む。
【0095】
(変化させたポリメラーゼの好ましい使用)
別の態様では、本発明は、ヌクレオチドのポリヌクレオチド内への取り込みに用いる、本発明によるDNAに対する親和性が低下した、変化させたポリメラーゼの使用に関する。上記で述べたように、本発明の変化させたポリメラーゼは、当面のヌクレオチドに対する親和性を保持することから、ヌクレオチドの性質は、制限的ではない。
【0096】
上記で述べたように、本発明は、ポリメラーゼがDNA鋳型と密接に結合することは、必ずしも有利な特性であるとは限らないという認識に基づく。このことは、各反応サイクルで、各鋳型DNA分子に対して、単一のヌクレオチドの取り込みが1回のみ発生することが要求されるシークエンシング反応の場合に、特に当てはまる。多くのこれらのシークエンシング反応で、標識化ヌクレオチドを用いる。
【0097】
したがって、本発明は、変化させてあるポリメラーゼの使用を提供し、当該のポリメラーゼは、標識化ヌクレオチドをポリヌクレオチド内に取り込むために、低下したDNAに対する親和性及び各反応サイクルで標識化ヌクレオチドを複数の別々のDNA鋳型内に取り込む能力を示すようになっており、当該の標識は、添加したヌクレオチドの性質を決定するために用いる。
【0098】
一実施形態では、ヌクレオチドは、ddNTPを含む。したがって、本発明のポリメラーゼを、当技術分野でその詳細が周知である従来のサンガーのシークエンシング反応に用いることができる。
【0099】
好ましい実施形態では、ヌクレオチドは、3’糖ヒドロキシルにおいて修飾されており、置換基が天然の3’ヒドロキシル基より大きくなっている、修飾されたヌクレオチドである。
【0100】
本発明のポリメラーゼを、ヌクレオチド、例えば、3’糖ヒドロキシル位において天然のヒドロキシル基より大きい置換基を有する修飾されたヌクレオチドのポリヌクレオチド鎖内への取り込みを可能にすることが要求される/望まれる技術のいずれかの領域で使用することができる。本発明のポリメラーゼを、本酵素のいずれかの望ましい特性が必要とされる技術のいずれかの領域で使用することができ、例えば、DNAが過剰に存在する条件下であっても、ヌクレオチドの取り込み速度が改良されること、及びこのような条件下において、反応完了のレベルが増加することが望まれている。これは、実用的、技術的又は経済的な利点である。
【0101】
変化させたポリメラーゼは、低下したDNAに対する親和性によって、大きな3’置換基を有する修飾されたヌクレオチドの取り込みに関して、望ましい特性を示すが、本酵素の有用性は、そのようなヌクレオチド誘導体の取り込みに限定されない。低下したDNAに対する親和性による、変化させたポリメラーゼの望ましい特性は、当技術分野で既知の酵素と比較して、未修飾のヌクレオチドを含む、いずれかのその他のヌクレオチドの取り込みに関して、利点をもたらすことができる。本質的に、本発明の変化させたポリメラーゼを使用して、当該のポリメラーゼが取り込む能力を有するタイプのヌクレオチドであれば、いずれのタイプをも取り込むことができる。
【0102】
本発明のポリメラーゼは、ヌクレオチドのポリヌクレオチド内への取り込みを必要とする種々の手法において有用であり、それらには、シークエンシング反応、ポリヌクレオチド合成、核酸の増幅、核酸ハイブリダイゼーションアッセイ、一塩基多型研究及びその他のそのような手法が含まれる。シークエンシング反応における使用は、最も好ましい実施形態の代表である。本発明の改変したポリメラーゼを用いる全てのそのような使用及び方法は、本発明の範囲内に含まれる。
【0103】
また、本発明は、ヌクレオチドをDNA内に取り込むための方法であって、以下の成分:
(i)本発明によるポリメラーゼ;
(ii)DNA鋳型;及び
(iii)ヌクレオチド溶液
が相互作用することを可能にするステップを含む方法にも関する。
上記で議論したように、本発明のポリメラーゼは、各反応サイクルで、単一のみ又は比較的少数のヌクレオチドの取り込みが要求される反応において特別の応用性を有する。しばしば、これらの反応では、ヌクレオチドの1種又は複数が標識化されるであろう。したがって、本発明は、標識化ヌクレオチドをDNA内に取り込むための方法であって、以下の成分:
(i)変化させてあるポリメラーゼであって、低下したDNAに対する親和性及び各反応サイクルで標識化ヌクレオチドを複数の別々のDNA鋳型内に取り込む能力を示すようになっているポリメラーゼ;
(ii)DNA鋳型;及び
(iii)ヌクレオチド溶液
が相互作用することを可能にするステップを含む方法を提供する。
【0104】
特異的な実施形態では、本発明は、3’糖ヒドロキシルにおいて、置換基が天然の3’ヒドロキシル基より大きくなるように、修飾されたヌクレオチドをDNA内に取り込むための方法であって、以下の成分:
−(上記に記載したような)本発明によるポリメラーゼ
−DNA鋳型;及び
−3’糖ヒドロキシルにおいて、置換基が天然の3’ヒドロキシル基より大きくなるように、修飾されているヌクレオチドを含有するヌクレオチド溶液
が相互作用することを可能にすることを含む方法を提供する。
【0105】
特に好ましいのは、クラスターアレイ上で行われる使用及び方法である。核酸分子のクラスターアレイを、当技術分野で一般に知られる手法を使用して作製することができる。例えば、国際公開第98/44151号パンフレット及び国際公開第00/18957号パンフレット(これらはいずれも、本明細書に参照によって組み入れられている)はいずれも、固定化された核酸分子のクラスター又は「コロニー」からなるアレイを形成するために、増幅産物を固体の支持体上に固定化することを可能にする核酸増幅の方法を記載している。また、その全部の内容が参照によって本明細書に組み入れられている国際公開第2005/078130号パンフレットも、そこで参照されている引用を含め、参照されたい。本ポリメラーゼは、ヌクレオチドを非常に近接している複数のDNA鋳型内に取り込むことができ、したがって、高度に効率的な反応を提供することから、クラスター上への取り込み、特に、クラスターアレイ上でのシークエンシングは、特異的な利点をもたらす。
【0106】
上記の成分は、ヌクレオチドの5’リン酸基とDNA鋳型上の遊離の3’ヒドロキシル基との間でリン酸ジエステル結合を形成させる条件下で、相互作用することが可能になり、それによって、ヌクレオチドがポリヌクレオチド内へ取り込まれる。修飾されたヌクレオチドを含む、好ましいヌクレオチドは、上記で詳細に記載されている。
【0107】
取り込み反応を、遊離の溶液中で起こしてもよいし、又はDNA鋳型を固体の支持体上に固定してもよい。
【0108】
変異酵素が示すヌクレオチドの取り込み速度は、未変化の酵素が示すヌクレオチドの取り込み速度に類似することができる。低下したDNAに対する親和性のおかげで、改変した酵素の改良された活性により、同一の取り込み速度は、単一の反応サイクルにおいて、ヌクレオチドを複数の鋳型内に取り込む能力と組み合わさって、完了の全体的な速度を改良する。しかし、変異酵素が実用的に有用であるためには、ヌクレオチドの取り込み速度が、未変化の酵素のヌクレオチドの取り込み速度と正確に同一である必要はない。反応の完了の面で、全体的な反応の効率が改良されるならば、取り込み速度は、未変化の酵素のヌクレオチドの取り込み速度と比較して、遅くてもよいし、同等であってもよいし、又は速くてもよい。
【0109】
本発明の特定の実施形態では、本発明の変化させたポリメラーゼを使用して、合成による配列解析(sequencing−by−synthesis)プロトコールに関連して、修飾されたヌクレオチドをポリヌクレオチド鎖内に取り込むことができる。本方法のこの特定の態様では、ヌクレオチドは、3’糖ヒドロキシルにおいて、置換基が天然の3’ヒドロキシル基より大きくなるように、修飾されていることができる。DNA鋳型の配列を決定するために、これらのヌクレオチドを検出する。
【0110】
したがって、さらに別の態様では、本発明は、DNAをシークエンシングする方法であって、以下の成分:
−(上記に記載したような)本発明によるポリメラーゼ
−DNA鋳型;及び
−3’糖ヒドロキシルにおいて、置換基が天然の3’ヒドロキシル基より大きくなるように、修飾されているヌクレオチドを含有するヌクレオチド溶液が相互作用することを可能にし、次いで、取り込まれた修飾されたヌクレオチドを検出し、それによって、DNA鋳型のシークエンシングを可能にする
ことを含む方法を提供する。
【0111】
シークエンシング反応のためのDNA鋳型は、典型的には、シークエンシング反応において、さらなるヌクレオチドを付加するためのプライマー又は開始点として働く遊離の3’ヒドロキシル基を有する二本鎖領域を含むものとする。シークエンシングの対象であるDNA鋳型の領域は、相補鎖上の、この遊離の3’ヒドロキシル基を突出する。遊離の3’ヒドロキシル基を有するプライマーを、シークエンシングの対象である鋳型の領域とハイブリダイズする別の成分(例えば、短いオリゴヌクレオチド)として添加することができる。別法として、プライマー及びシークエンシングの対象である鋳型の鎖のそれぞれが、分子内二本鎖を形成することができる部分的に自己相補的な核酸の一本鎖の部分、例えば、ヘアピンループ構造等を形成することができる。ヌクレオチドは、遊離の3’ヒドロキシル基に連続的に付加し、その結果、5’から3’の方向にポリヌクレオチド鎖が合成される。1つのヌクレオチドが付加する度に、付加した塩基の性質を決定することになり、こうして、DNA鋳型に関する配列情報を提供する。
【0112】
そのようなDNAシークエンシングは、修飾されたヌクレオチドが、鎖ターミネーターとして作用することができる場合に、可能になるであろう。修飾されたヌクレオチドが、シークエンシングされている鋳型の領域に相補的である、成長しているポリヌクレオチド鎖内に取り込まれると、さらなる配列の伸長を導くのに利用可能な遊離の3’−OH基はもはや存在せず、したがって、ポリメラーゼは、さらなるヌクレオチドを付加することができない。成長している鎖内に取り込まれた塩基の性質を決定したら、3’ブロックを取り除いて、次に続くヌクレオチドを付加させることができる。これらの修飾されたヌクレオチドを使用して誘導した産物を整理することによって、DNA鋳型のDNA配列を推定することができる。修飾されたヌクレオチドのそれぞれが、特定の塩基に対応することがわかっている異なる標識を結合しており、各取り込みステップにおいて付加した塩基間の識別を容易にする場合には、そのような反応を、単一の実験で行うことができる。別法として、修飾されたヌクレオチドのそれぞれを別々に含有する反応を個別に行うことができる。
【0113】
好ましい実施形態では、修飾されたヌクレオチドは、ヌクレオチドの検出を容易にする標識を保有する。好ましくは、これは、蛍光標識である。各ヌクレオチドのタイプが、異なる蛍光標識を保有することができる。しかし、検出可能な標識は、蛍光標識である必要はない。DNA配列内へのヌクレオチドの取り込みの検出を可能にする標識であれば、いずれをも使用することができる。
【0114】
本発明の方法において使用するのに適した蛍光標識化ヌクレオチドを検出するための一方法は、標識化ヌクレオチドに特異的な波長のレーザー光の使用又はその他の適切な照光源の使用を含む。
【0115】
一実施形態では、ヌクレオチド上の標識からの蛍光を、CCDカメラによって検出することができる。
【0116】
DNA鋳型を表面上に固定化する場合には、好ましくは、DNA鋳型を、表面上に固定化して、高密度アレイを形成することができ、このようなアレイは、好ましくは、上記で議論したようなクラスター又は「コロニーからなる」アレイである。一実施形態における、さらに、本発明の出願人によって開発された技術による高密度アレイは、単一分子のアレイを含み、そこでは、アレイ上に、検出可能である単一のDNA分子が別々の各部位において存在する。光学的な手段によって個別に分解可能な核酸分子からなる単一分子アレイ及びシークエンシングにおけるそのようなアレイの使用が、例えば、その内容が参照によって本明細書に組み入れられている国際公開第00/06770号パンフレットに記載されている。個別に分解可能な、ヘアピンループ構造をはじめとする、核酸分子からなる単一分子のアレイは、その内容も参照によって本明細書に組み入れられている国際公開第01/57248号パンフレットに記載されている。本発明のポリメラーゼは、国際公開第00/06770号パンフレット又は国際公開第01/57248号パンフレットの開示によって作成する単一分子のアレイと共に使用するのに適する。しかし、本発明の範囲を、単一分子のアレイに関連する本ポリメラーゼの使用に限定する意図がないことを理解されたい。
【0117】
単一分子のアレイに基づくシークエンシングの方法は、単一分子のアレイに蛍光で標識化した修飾ヌクレオチド及び変化させたポリメラーゼを添加することによって効果を上げることができる。相補的なヌクレオチドが、各ヌクレオチド断片の第1の塩基と塩基対を形成し、次いで、改良されたポリメラーゼ酵素によって触媒される反応においてプライマーに付加される。残留する遊離のヌクレオチドは、取り除かれる。
【0118】
次いで、それぞれの修飾されたヌクレオチドの特異的な波長のレーザー光が、取り込まれた修飾ヌクレオチド上の適切な標識を励起させ、標識の蛍光を生じる。この蛍光を、アレイ全体を走査して各断片上に取り込まれた修飾ヌクレオチドを同定することができる適切なCCDカメラによって検出することができる。したがって、場合によっては、数百万個の部位を並行して検出することができる。次いで、蛍光を取り除くことができる。
【0119】
取り込まれた修飾ヌクレオチドの正体は、検体配列中の修飾ヌクレオチドが対を形成した塩基の正体を明らかにする。次いで、取り込み、検出及び同定のサイクルをおよそ25回繰り返して、アレイに結合した、オリゴヌクレオチド断片のそれぞれの中のはじめの25個の塩基を決定することができ、オリゴヌクレオチド断片のそれぞれを検出することが可能になる。
【0120】
したがって、アレイ上で全ての分子を同時にシークエンシングすることによって、これらの分子を検出することが可能になり、アレイに単一のコピーで結合した数億個のオリゴヌクレオチドの断片について、はじめの25個の塩基を決定することができる。明らかに、本発明は、25個の塩基のシークエンシングに限定されない。要求される配列情報の詳細のレベル及びアレイの複雑度によって、より多い又はより少ない多様な塩基を、シークエンスすることができる。
【0121】
適切なバイオインフォマティクスのプログラムを使用して、生成した配列を、整列させ、特異的な参照配列と比較することができる。これによって、いかなる数の既知及び未知の遺伝的変異、例えば、一塩基多型(SNP)等の決定も可能になる。
【0122】
本発明の変化させたポリメラーゼの有用性は、単一分子のアレイを使用するシークエンシングへの応用に限定されない。ヌクレオチドをポリヌクレオチド鎖内に取り込むためにポリメラーゼの使用を必要とする、いずれかのタイプのアレイに基づく(特に、いずれかの高密度アレイに基づく)シークエンシングの技術、特に、3’ブロック基等の大きな3’置換基(自然のヒドロキシル基より大きい)を有する修飾ヌクレオチドの取り込みに頼る、いずれかのアレイに基づくシークエンシングの技術と共に、本ポリメラーゼを使用することができる。
【0123】
本発明のポリメラーゼを、固体の支持体上への核酸分子の固定化によって形成されたアレイであれば、本質的にいかなるタイプのアレイであっても、核酸のシークエンシングのために使用することができる。単一分子のアレイに加え、適切なアレイとして、例えば、アレイ上の特徴的な領域が、1種の単一のポリヌクレオチド分子の複数のコピー又は少数の異なるポリヌクレオチド分子の複数のコピー(例えば、2本の相補的な核酸の鎖の複数のコピー)さえも含むマルチポリヌクレオチドアレイ又はクラスターアレイがあげられる。
【0124】
特に、本発明のポリメラーゼを、その内容が参照によって本明細書に組み入れられている国際公開第98/44152号パンフレットに記載されている核酸のシークエンシング法において用いることができる。この国際出願は、固体の支持体上の特徴的な位置に存在する複数の鋳型の並行シークエンシングの方法を記載している。この方法は、標識化ヌクレオチドのポリヌクレオチド鎖内への取り込みに頼る。
【0125】
本発明のポリメラーゼを、その内容が参照によって本明細書に組み入れられている国際公開第00/18957号パンフレットに記載されている方法において使用することができる。この出願は、多数の特徴的な核酸分子をアレイ化し、核酸コロニーの形成により高密度で同時に増幅した後、核酸コロニーをシークエンシングする固相の核酸増幅及びシークエンシングの方法を記載している。本発明の変化させたポリメラーゼを、この方法のシークエンシングのステップにおいて用いることができる。
【0126】
核酸分子のマルチポリヌクレオチドアレイ又はクラスターアレイを、当技術分野で一般に知られる手法を使用して作製することができる。例えば、国際公開第98/44151号パンフレット及び国際公開第00/18957号パンフレットはいずれも、固定化された核酸分子のクラスター又は「コロニー」からなるアレイを形成するために、増幅産物を固体の支持体上に固定化することを可能にする核酸増幅の方法を記載している。クラスターアレイの作成及びそのようなアレイの核酸のシークエンシングの鋳型としての使用に関する国際公開第98/44151号パンフレット及び国際公開第00/18957号パンフレットの内容は、参照によって本明細書に組み入れられている。これらの方法によって作成したクラスターアレイ上に存在する核酸分子は、本発明のポリメラーゼを使用するシークエンシングに適した鋳型である。しかし、本発明を、これらの特異的な方法により作成したクラスターアレイ上で行うシークエンシング反応における本ポリメラーゼの使用に限定する意図はない。
【0127】
さらに、本発明のポリメラーゼを、Mitraら、Analytical Biochemistry 320,55−65,2003に記載されている方法のような蛍光in situシークエンシングの方法においても使用することができる。
【0128】
また、本発明は、本発明のポリメラーゼを含むキットも意図し、これは、使用のための適切な説明書と一緒にパッケージされるであろう。本ポリメラーゼを、使用に適した形態で、例えば、適切な緩衝液中に提供することになるか、又は本ポリメラーゼは、使用のために再構成することができる形態(例えば、凍結乾燥形態)であることができる。
【0129】
したがって、ヌクレオチド取り込み反応又はアッセイに使用するためのキットであって、本明細書に記載するような本発明のポリメラーゼ及びヌクレオチドの溶液を含むキットを提供し、当該のヌクレオチドは、当該のポリメラーゼが、当該のヌクレオチドを、成長しているDNA鎖内に取り込むことができるようになっている。好ましいヌクレオチドは、適切に標識されたヌクレオチドを含み、したがって、これを例えば、シークエンシング反応において使用することができる。標識は、当技術分野で周知であるように、蛍光標識、放射標識及び/又は質量標識を含むことができる。
【0130】
好ましい実施形態では、ヌクレオチドの溶液は、合成の(すなわち、自然でない)ヌクレオチド、例えば、ddNTP等を含む、合成の(すなわち、自然でない)ヌクレオチドか、例えば、ddNTP等から実質的になる、又は合成の(すなわち、自然でない)ヌクレオチドか、例えば、ddNTP等からなる。したがって、本キットは、例えば、サンガーのシークエンシング反応において用いることができる。
【0131】
別の実施形態では、ヌクレオチドの溶液は、修飾されたヌクレオチド含むか、修飾されたヌクレオチドから実質的になるか、又は修飾されたヌクレオチドからなる。好ましい修飾ヌクレオチドは、本発明のポリメラーゼに関連して、上記で定義されており、この記載は、ここで準用する。
【0132】
また、本キットは、別の実施形態では、ヌクレオチド取り込み反応の実行を可能にする適切なプライマー及び/又はDNA鋳型の分子も組み入れることができる。
【0133】
さらに別の態様では、本発明は、本発明によるポリメラーゼを作製するための方法であって、
(i)ポリメラーゼ中で変異誘発のための残基を選択すること;
(ii)(i)で実施した選択に従って、変異ポリメラーゼを作製すること;
(iii)変異ポリメラーゼのDNAに対する親和性を決定すること;
(iv)DNAに対する親和性が低下した場合、各反応サイクルにおいて、より多くの生産的なポリメラーゼ−DNA複合体を形成する能力に関して、当該のポリメラーゼを試験すること
を含む方法を提供する。
【0134】
好ましくは、ヌクレオチドに対する親和性は、影響されないが、親和性が未改変のポリメラーゼに対してと同一の次数に留まる場合には、満足であるとみなすことができる。
【0135】
一実施形態では、本方法は、変異誘発後に、ポリメラーゼの忠実度が同一の次数に留まることを保障することをさらに含む。
【0136】
好ましくは、忠実度は、影響されないが、忠実度が改変したポリメラーゼに対してと同一の次数に留まる場合には、許容できるとみなすことができる。
【0137】
反応サイクルは、上記で定義されている。
【0138】
好ましい実施形態では、ポリメラーゼの試験は、より多くの生産的なポリメラーゼ−DNA複合体が形成されているか否かを決定するための合成ヌクレオチドの使用を含む。ポリメラーゼを試験することができる適切なヌクレオチド取り込みアッセイは、当技術分野では既知であり(例えば、国際公開第2005/024010号パンフレットを参照)、以下の実験の項でより詳細に記載されている。
【0139】
一実施形態では、残基を、9°Nの一次アミノ酸配列に基づいて選択する。一実施形態では、選択を、どのアミノ酸がDNAと接触するであろうかを予想することによって実施する。別法として、ポリメラーゼのDNAとの相互作用を安定化させると予想される残基、及び/又はポリメラーゼのDNA結合ドメインに見出される残基、及び/又は塩基性である残基を選択することができる。予想は、上記及び実験の項(実施例1)で議論するように、適切なポリメラーゼの結晶構造に基づくことができる。
【0140】
変異誘発、特に、部位特異的変異の方法は、当技術分野で十分に特徴付けられており、市販のキットが入手可能である。したがって、これらの手法は、詳細には議論しない。いずれかの適切な手法を、本発明の方法において用いることができる。
【0141】
DNAに対する親和性の低下を、いずれかの適切な方法によって測定することができる。好ましくは、親和性は、元々の未変化のポリメラーゼと比較して、少なくとも、又はおよそ、1.5倍、2倍、3倍、4倍又は5倍等低下する。この親和性を、例えば、解離定数に注目して測定することができる。
【0142】
好ましい実施形態では、ポリメラーゼは、ファミリーBのポリメラーゼであり、好ましくは、好熱性古細菌に由来し、最も好ましくは、9°Nポリメラーゼである。
【0143】
本発明は、以下の実験の項及び図を参照することによって、さらに理解が深まるであろう。
【0144】
[発明の詳細な説明]
(実験の項)
(実施例1−変化させたポリメラーゼの調製)
(原理)
部位特異的変異を、酵素のDNAに対する親和性を低下させる試みで、9°N−7 YAV C223SポリメラーゼのC末端領域に導入した(野生型9°N−7ポリメラーゼは、DNAに対する親和性が非常に高い、Kd=50pM;Southworthら、1996.PNAS.93,5281)。
【0145】
9°N−7 DNAポリメラーゼの開放型(PDB=1ght)、密接に関連するDNAポリメラーゼRB69の開放構造(PDB=1ih7)及びRB69の閉鎖型(PDB=1ig9)の結晶構造の、エネルギーを最少にする重複アライメントを、DNA結合に関与する重要な残基の同定のための構造モデルとして使用した(Cressetに委託)。RB69ポリメラーゼの閉鎖型の結晶構造(Franklinら、2001.Cell 105,657)が、複合体を形成したDNAと、H−結合又は静電気的な相互作用を、ヌクレオチドの塩基と直接的に又はリン酸骨格とのいずれかで形成するいくつかの残基を特定した。これらの残基が塩基性である割合が高く(Lys790、800、844、874、878及びArg806)、これは、酸性のリン酸基との予想される相互作用と一貫性がある。RB69の閉鎖構造を観察すると、これらの残基の大部分が、結合している二本鎖に向かう配向をとっていることがわかった。9°N−7 polの閉鎖型については、類似の構造が全く存在せず、したがって、我々は、我々の構造アライメントを使用して、RB69の開放構造から、(上記の残基のうちの)塩基性残基に類似する立体構造をとる、9°N−7 polの開放型中の塩基性の残基を同定した。RB69からの6つの塩基性残基のうち、3つが、9°N−7中に対応する塩基性残基を有することを見出し、これらは、Arg743(RB69のLys878)、Arg713(Lys800)及びLys705(Lys844)であった。4種の変異酵素、すなわち、見出された残基のアラニンのバリアント(R743A、R713A及びK705A)及び71アミノ酸の欠失(Δ71)を設計することが決まった。71アミノ酸の欠失は、その内部に上記の3つの残基が存在する親指サブドメインからα−へリックスを除去した(9°N−7 polの構造中で、残基が秩序を乱した)。
【0146】
(変異誘発及びクローン化)
変異を、pSV19(9°N−7 YAV C223S exo− ポリメラーゼをコードするプラスミド)内に、Stratagene Quikchange XLキット及びそのプロトコールを使用してPCR法によって導入した(国際公開第2005/024010号パンフレットも参照)。
【0147】
使用した変異原生プライマー:
・ R743A。
順行(fwd) 5’−CCCGGCGGTGGAGGCGATTCTAAAAGCC−3’(配列番号9)
逆行(rev) 3’−GGGCCGCCACCTCCGCTAAGATTTTCGG−5’(配列番号10)
・ R713A
順行(fwd) 5’−GAAGGATAGGCGACGCGGCGATTCCAGCTG−3’(配列番号11)
逆行(rev) 3’−CTTCCTATCCGCTGCGCCGCTAAGGTCGAC−5’(配列番号12)
・ K705A
順行(fwd) 5’−GCTACATCGTCCTAGCGGGCTCTGGAAGG−3’(配列番号13)
逆行(rev) 3’−CGATGTAGCAGGATCGCCCGAGACCTTCC−5’(配列番号14)
・ Δ71(C末端704)
順行(fwd) 5’−GCTACATCGTCCTATGAGGCTCTGGAAGG−3’(配列番号15)
逆行(rev) 3’−CGATGTAGCAGGATACTCCGAGACCTTCC−5’(配列番号16)
【0148】
有望なクローンを選択し、遺伝子のPCR断片をシークエンシングして、変異の存在を確認した。全ての変異体に関して、陽性のクローンを得た。
【0149】
(過剰発現及び増殖:)
・発現株Novagen製RosettaBlue DE3 pLysS内に形質転換した。
・国際公開第2005/024010号パンフレットの実験の項に記載されているように、増殖及び誘導を行った。
・国際公開第2005/024010号パンフレットの実験の項に記載されているように、回収及び溶解を行った。
・国際公開第2005/024010号パンフレットの実験の項に記載されているように、精製を行った。
【0150】
(結果)
変異酵素の過剰発現に成功した。全ての変異酵素が、過剰発現した。SDS−PAGEゲルを行い、構築物の過剰発現を調べた(−=未誘導;+=IPTG誘導)。得られたゲルを、図1に示す。
【0151】
(実施例2−タンパク質の粗調製物を使用したNUNC製チューブのアッセイ)
変異酵素のわずか5mlの培養液を(直接比較のために、YAV C223S exo− の培養液も)、国際公開第2005/024010号パンフレットに概要を述べるように熱処理のステップまで迅速精製を行った。この時点で、検体は、活性を試験するには、十分な純度であるとみなした。
【0152】
それぞれの粗調製物の緩衝液を、酵素学的緩衝液(50mM Tris pH8.0、6mM MgSO、1mM EDTA、0.05% Tween20)に、S300ゲルろ過スピンカラムを使用して交換した。検体は、濃度に関して規準化しなかった。用いた試験は、ffTTPの表面結合A鋳型ヘアピン内への単純な取り込みであった。2pmolの5’−アミノオリゴ815
(5’−CGATCACGATCACGATCACGATCACGATCACGATCACGCTGATGTGCATGCTGTTGTTTTTTTACAACAGCATGCACATCAGCG−3’)(配列番号17)
をNUNC−ヌクレオリンクストリップに、メーカーのプロトコールに従って結合させた。
【0153】
洗浄後、各ウェルを、各20μlの酵素の粗調製物(以下に、酵素の正体を列挙する)及び5μM ffT−N3−647と共にインキュベートした。次いで、ストリップを、45℃にて、30分間インキュベートした。実験は、二つ組で行った。30分間のインキュベートが完了したら、ウェルを、100μlの高塩洗浄緩衝液(10mM Tris pH8.0、1M NaCl、10mM EDTA)を用いて3回洗浄し、次いで、100μlのミリQ水を用いて3回洗浄した。ストリップを、Typhoon蛍光イメージャー上、CY5フィルター、PMT=450V)で走査した。
【0154】
結果を、図2に示す。図中、ウェルは、以下の通りである。
1=20μlの酵素学的緩衝液のみ+1μlの100μM ffT−N3−647
2=20μlの粗YAV C223S exo− +1μlの100μM ffT−N3−647
3=20μlの粗YAV C223S R743A exo− (クローン12)+1μlの100μM ffT−N3−647
4=20μlの粗YAV C223S K705A exo− (クローン15)+1μlの100μM ffT−N3−647
5=20μlの粗YAV C223S R743A exo− (クローン16)+1μlの100μM ffT−N3−647
6=20μlの粗YAV C223S R713A exo− (クローン24)+1μlの100μM ffT−N3−647
7=20μlの粗YAV C223S Δ71 exo− (クローン38)+1μlの100μM ffT−N3−647
8=20μlの粗YAV C223S R713A exo− (クローン39)+1μlの100μM ffT−N3−647
【0155】
(結果)
酵素学的応答が、バックグラウンドのウェル(ミリQのみ)及びウェル1(酵素を含有しない対照)を除く、全てのウェルで観察された。蛍光の密度は、ffTTPの取り込み量に比例し、ウェルが濃いほど、取り込みのレベルが高い。変異酵素の性能を、YAV(クローン9)(YAV C223S exo−)と比較して議論するものとする。親指サブドメインの先端部の欠失(Δ71変異体)の結果、触媒活性が大幅に損なわれている酵素を得、取り込みは、クローン9で認められるレベルの35%に過ぎない。変異体K705Aは、クローン9と同等であった。2種のアルギニンの変異体であるR743A及びR713Aは、取り込みのレベルが上昇し、クローン9より約45%改良した。
【0156】
(結論)
変異酵素であるK705A、R713A及びR743Aは、改良されたレベルの取り込み、及び酵素の低下したDNAに対する親和性を示す。これら3つの塩基性の残基の全てを取り除き、さらに、追加の残基を除去すると、活性が消滅する(Δ71変異体)。3つの残基全てを置換しても、さらなる変異/欠失がなければ、活性の低下には至らないであろうと思われる。
【0157】
(実施例3−一塩基取り込みアッセイ)
酵素の粗調製物の活性(濃度を規準化した)を、国際公開第2005/024010号パンフレットに記載されているように、一塩基取り込みアッセイを使用して測定した。30μg/ml又は3μg/mlの酵素の粗調製物のいずれかを用いて、2μM ffT−N3−cy3及び20nM 10AヘアピンDNA(32Pで標識化されている)の存在下で、10分間インキュベートし、一定量の反応混合液を、0、30、60、180及び600秒で取り出し、12%アクリルアミドゲル上に供した。
【0158】
(結果)
ゲルの画像を、図3に示す。
【0159】
バンドの強度を、ImageQuantを使用して定量化し、蛍光強度を、インキュベートした時間に対しプロットして、図4に示す時間経過を得た。
【0160】
これらのデータから、YAVと比較して、ffTTPの第1の塩基の取り込みについて、変異酵素の性能を推定する。濃度の規準化によって、活性を直接比較することができる。Δ71変異体は、実質的に不活性であり(kobsは、YAVについて観察されたkobsの21%である)、R743A及びK705Aは、YAVに匹敵する活性を有するが、R713Aは、kobs(YAVについて観察されたkobsの2倍)及びサイクルの完了のレベルの両方において顕著な増強を示した。
【0161】
(実施例4−[DNA]が[pol]より大きい条件下における精製したポリメラーゼに関する一塩基取り込みアッセイ)
クローン9のポリメラーゼ(YAV C223S exo−)、並びに親指ドメインの変異体あるK705A、R713A及びR743Aの酵素の精製した標品の活性を、国際公開第2005/024010号パンフレットに記載されているように、一塩基取り込みアッセイを使用して測定した。それぞれのDNA及びポリメラーゼの濃度が、およそ5:1の比であるようにして、実験を行った。こうして、単一の反応サイクルでヌクレオチドを複数のDNA鋳型内に取り込む酵素の能力を調べた。4nMの精製した酵素を用いて、20nM 10AヘアピンDNA(32Pで標識化されている)及び2μM ffT−N3−cy3の存在下で、30分間インキュベートし、一定量の反応混合液を、0、15、30、60、180、480、900及び1800秒の間隔で取り出し、12%アクリルアミドゲル上に供した。
【0162】
(結果)
バンドの強度を、ImageQuantを使用して定量化し、蛍光強度を、(ゲル上の出発物質及び最終産物のバンドの相対強度に基づく)完了パーセントに変換し、これを、インキュベートした時間に対しプロットして、図5に示す時間経過を得た。
【0163】
クローン9及びK705Aの時間経過のプロットは、本来、二相性であり、はじめに、指数関数的な「突発」相(黒色の線)、次いで、時間に対する産物の線形関係(灰色の線)を示している。突発相の大きさは、K705Aの方がクローン9より大きく(それぞれ、〜 28%及び19%)、線形相の勾配は、K705Aの方がクローン9より急である(したがって、速い)。この観察の重要性は、以下で議論する。
【0164】
これとは対照的に、R713A及びR743Aの変異酵素の両方は、このような二相性を示さず、その代わり、急速な指数関数的な相のみが観察される。いずれの場合も、指数関数的な相の大きさは、〜 90%であり、このことは、このような指数関数的な相内においては、産物変換の程度が、クローン9又はK705Aのいずれよりも大きいことを示している。突発相は、反応の開始に先立ってポリメラーゼに結合したDNA分子集団がffTTPを取り込む速度、すなわち、pol:DNA:ffTTPの三元複合体が入れ替わることができる最大の速度に相当する。それに続く相はいずれも、ポリメラーゼが新しい基質分子(DNA及びffTTP)を捕捉するのに要する、より緩慢な解離/再結合の過程に起因する。クローン9及びK705Aに観察された二相性は、突発に続く遅い相が、酵素がDNAから解離し、DNAと再結合することが困難であることから生じ、それは、Kd(DNA)が低いことによる可能性が最も高いことを示唆している。
【0165】
ポリメラーゼが結合した場合に、二本鎖DNAと接触することができる塩基性残基を変異させて(すなわち、R713及びR743)、この機能性を取り除くと、その結果、突発性の動態のみを示す変異酵素(R713A及びR743A)を得る。我々は、これを、i)DNAに対する親和性を低下させること(Kd(DNA)の増加)によって、DNAに関する解離及び再結合の酵素の能力が改良されている;及び/又はii)これらの変異体においてDNAに対する親和性が低下し、その結果、ポリメラーゼ調製物中に、より大きな「活性な酵素」の画分を得た、の2つのうちの1つの様式であると解釈する。(溶解から持ち込まれた大腸菌(E.coli)のゲノムDNAで汚染されている)不純なDNAポリメラーゼは、調製物の活性な酵素の画分が減少することによって酵素を阻害することが示されている。
【0166】
時間経過を大まかにつき合わせると、クローン9及びK705Aについて認められた突発相の観察された速度定数は同等である(kobs 〜 0.06 S−1)が、このような速度定数は、R713A(kobs 〜 0.01 S−1)及びR743A(kobs 〜 0.004/ S−1)については、より小さいことが示唆されている。これらの実験条件下では、突発は、クローン9及びK705Aに関しての方が、R713A又はR743Aよりも、速いが、後者の2種の酵素は、クローン9及びK705Aに固有の緩慢な、線形の解離/再結合の相が存在しないことから、より短時間で完了に達する。
【0167】
(実施例5−洗浄アッセイ)
洗浄アッセイを用いて、精製した酵素調製物のDNAに対する親和性を定性的に評価する。2pmolの5’−アミノA−鋳型ヘアピン、オリゴ815
(5’H2N−CGATCACGATCACGATCACGATCACGATCACGATCACGCTGATGTGCATGCTGTTGTTTTTTTACAACAGCATGCACATCAGCG−3’)(配列番号18)を用いて、メーカーのプロトコールに従って、4本のNUNC−ヌクレオリンクストリップ(1×8)に機能性をもたせた。
【0168】
洗浄後、各ウェルを、20μlの500nMの酵素(クローン9、K705A、R713A又はR743Aの変異体)と共に45℃にて、30分間インキュベートした。インキュベート後、各ウェルを、種々の濃度(0、0.05、0.1、0.3、0.4、0.75、1.0、2.0M)のNaClを含む、100mlの10mM Tris pH8.0、10mM EDTAを用いて3回洗浄し、次いで、100mlのミリQ水を用いて3回洗浄した。次いで、ウェルを、酵素学的緩衝液を用いて、あらかじめ平衡化してから、さらに、20μlの2μM ffT−N3−647を用いて、45℃にて、30分間インキュベートした。ウェルを、100mlの高塩洗浄緩衝液(10mM Tris pH8.0、1M NaCl、10mM EDTA)を用いて3回洗浄し、次いで、100mlのミリQ水を用いて3回洗浄した。ストリップを、Typhoon蛍光イメージャー(y5フィルター、PMT=500V)上で走査した。
【0169】
(結果)
NUNC製ウェルの蛍光画像を、図6に示す。
【0170】
ウェルの蛍光はいずれも、洗浄後に、表面結合DNAに結合して残留する酵素が原因である。インキュベートの間に洗浄緩衝液のイオン強度を増加させると、静電気的な相互作用の遮蔽によって、ポリメラーゼとDNAとの間の相互作用が不安定化するはずである。酵素は、イオン強度が高いほど、効率的に洗い流されるはずである。
【0171】
インキュベートの間に低いイオン強度で洗浄すると、試験した酵素は全て、高いレベルの取り込みを示し、したがって、DNAからの酵素の解離には無効であった。洗浄緩衝液中のNaCl濃度を増加させると、酵素間で挙動が変化した。変異酵素であるR713A及びR743Aは、[NaCl]<200mMで、DNAからより効果的に解離したが、K705A及びクローン9は、相互に同様な応答を示し、DNAから解離するためには、より高い[NaCl]を要した。クローン9については、2M NaClを用いた洗浄後でさえ、0M NaClを用いた洗浄と比較して、顕著なレベル(およそ75%)の取り込みを観察した。このことは、図7に示すプロットに明確に示されている(K705Aのデータは、明確さのために省略されている)。興味深いことに、2M NaClを用いた洗浄を経た後でも、試験した酵素の中で、DNAからの完全な解離を示した酵素は1つもなかった。
【0172】
本実験から、残基R713及びR743を変異させた結果、より低いイオン強度の洗浄によってDNAから洗い流される能力によって立証されるように、クローン9より低いDNAに対する親和性を示す酵素を得ることが明らかである。
【0173】
(実施例6−クローン9、R713A及びR743AによるffT−N3−cy3の取り込み反応速度論)
酵素反応速度論の特徴付けを、NUNC製チューブのアッセイを使用して行い、種々の[ffTTP]における[DNA]<<[pol]又は[ffNTP]の場合の、ffT N3 cy3の一次の取り込みの速度定数を測定した。以下に、試験した3種のポリメラーゼのそれぞれに使用した方法を記載する。
【0174】
2pmolの5’−アミノA鋳型ヘアピンオリゴ815(5’H2N−CGATCACGATCACGATCACGATCACGATCACGATCACGCTGATGTGCATGCTGTTGTTTTTTTACAACAGCATGCACATCAGCG−3’)(配列番号18)を用いて、メーカーのプロトコールに従って、6本のNUNC製ヌクレオリンクストリップ(1×8)に機能性をもたせた。
【0175】
各ストリップを、特定の[ffT−N3−cy3]における時間経過実験に用いた。20μlの酵素学的緩衝液(50mM Tris pH8.0、6mM MgSO、1mM EDTA、0.05% Tween20)を、各NUNC製のウェル内で、45℃にて、2分間インキュベートした。
【0176】
45℃にて、2分間、あらかじめ平衡化した各20μlの2×酵素学的混合液(酵素学的緩衝液中のX μM ffT−N3−cy3、1.1μMポリメラーゼ)を、個別のウェルで同一の時点で反応を開始するために、8チェネルマルチピペット使用して添加することによって、時間経過を開始した。2×酵素学的混合液をウェル内の緩衝液に添加する動作は、混合を適切に行うのに十分である。所望の時点で、125μlの250mM EDTAを添加することによって、反応を停止した。8つのウェル全ての反応を停止した後、ストリップを、100mlの高塩洗浄緩衝液(10mM Tris pH8.0、1M NaCl、10mM EDTA)を用いて3回洗浄し、次いで、100mlのミリQ水を用いて3回洗浄した後、Typhoon蛍光イメージャー(Cy3フィルター、PMT=500V)上で走査した。各ウェルの蛍光強度を、ImageQuantを使用して定量化した。Cy3の蛍光強度の変化を、時間に対しプロットして、時間経過のグラフを得る。我々の実験条件下では、これらの時間経過のプロットは、単一の指数関数的な減衰過程(式:y=yo+Aexp(x/t)に当てはまる)を十分に評価し、これから反応の半減期tが決定され、その逆数は、実測した速度定数kobs(kobs=1/t)と名付けられている。
【0177】
実測した速度定数の大きさは、ffT−N3−cy3の濃度によって決まり、したがって、本実験を異なるffT−N3−cy3の濃度で繰り返すことによって、特定の酵素について、所与の範囲のkobs値を決定することができる。ffT−N3−cy3の濃度に伴うkobsの変化は、双曲線であり、標準的な酵素学的解析によるミカエリスメンテン式:Vmax=(kpol×[S])/(Kd+[S])、ここでは、S=ffT N3−cy3、によく当てはまる。ミカエリスのプロットから、特定の反応を触媒する特定の酵素に特徴的である重要な値、すなわち、kpol(無限の基質濃度における当該の過程の速度定数と定義される)及びKd(解離定数、kpol/2における基質の濃度と定義される)を得ることができる。この過程を、クローン9、R713A及びR743Aについて繰り返した。
【0178】
全ての酵素のミカエリスのプロットを、図8に重複させて示す。
【0179】
(結果)
試験した酵素に関するffT−N3−cy3の取り込みの反応速度論的な特徴を、以下にまとめる。
【0180】
【表1】

【0181】
これから、ポリメラーゼのDNA結合領域への変異は、酵素の活性(高い基質濃度では、kpolはVmaxに近づく)に対しても、酵素が完全に機能的なヌクレオチド(この場合は、ffT−N3−cy3であるが、本動向は全ての塩基に当てはまるとみなされる)に対して有する親和性に対しても、不利に影響することはないようである。変異は、酵素のDNA結合親和性を改変する望ましい効果を有しているが、その他の重要な触媒特性には影響しないことから、これは、理想的な状態である。
【0182】
(実施例7−ポリメラーゼの精製及び持ち越し汚染DNAのレベルの測定)
(DNA汚染)
PicoGreenアッセイ
( Molecular Probesキット、カタログ番号P11496)
【0183】
(必要な溶液)
TE緩衝液
10mM Tris HCl pH7.5
1mM EDTA
40mLを必要とし、2mLの20×TE緩衝液を38mLのHOに添加する
【0184】
(λDNA)
溶液1(2μg/mL λDNA):15μLのλDNAを、735λLの1×TE緩衝液で希釈する。
溶液2(50ng/mL λ):25μLのλDNAを、975μLの1×TE緩衝液で希釈する。
【0185】
(検量線)
2mLのエッペンドルフチューブ内に、以下の検体を調製した:
【0186】
【表2】

【0187】
各検体から、500μLを3回採り、3本のエッペンドルフチューブ入れた。
【0188】
(酵素検体)
5mLの小型の瓶内に、以下の検体を調製した:
【0189】
【表3】

【0190】
各検体から、500μLを2回採り、2本のエッペンドルフチューブ入れた。
【0191】
85μLのPicoGreen原液を、17mLの1×TE緩衝液に添加して、
PicoGreen溶液を調製した。
【0192】
500μLのこの溶液を、検量線用検体及び酵素検体のそれぞれに添加し、ピペットによってよく攪拌した後、全ての検体を、1.5mLの蛍光光度計のキュベットへ移した。
【0193】
(蛍光光度計の使用)
新型の読み取りプログラムであるCary Eclipseファイルを用いた。励起波長を480nmに設定し、発光波長を520nmに設定し、1000ボルトを使用した。
【0194】
(分析)
検量線用のデータを、GraphPad Prismに入力した。式:y=ax+cの検量線を当てはめた。次いで、濃度の値であるxを決定した。
【0195】
(結果)
【0196】
【表4】

【0197】
本実験から、精製中に内在性DNAによる持ち越し汚染が減少することから、ポリメラーゼの変化によって酵素の精製が向上されることが明らかである。上記で述べたように、内在性DNAの持ち越し汚染は、酵素の活性に不利な影響を及ぼすことができるので、変異は明らかに利点をもたらす。
【0198】
(実施例8:クローン9のポリメラーゼをコードする、コドンの使用を最適化した、改変ヌクレオチド配列の調製)
配列番号1に示すアミノ酸配列を、要求される/望ましいアミノ酸をコードする各コドンにおいて最適な核酸配列を使用して、核酸配列に翻訳した。
【0199】
推定される核酸配列を、配列番号19に示す。
【0200】
同様の筋書で、配列番号20に示す核酸配列も、配列番号21に示すポリメラーゼのアミノ酸配列に基づいて推定した。配列番号21に示すポリメラーゼのアミノ酸配列を有するポリメラーゼは、R743Aの変異を含み、さらに、残基141及び143の両方におけるセリンへの置換変異も保有する。それぞれのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を含む核酸分子及びタンパク質は、本発明の一部を形成する。
【0201】
(クローン9のコドン改変遺伝子を、発現ベクターpET11−a内に、NdeI−Nhe I部位を使用してクローン化する(内部Bam H I部位は保存する))
(クローン9のコドン最適化遺伝子の合成)
配列番号19の核酸配列は、GENEARTによって、合成され、pPCR−Scriptに供給された。DNA配列及びタンパク質配列を確認した(結果は表示されていない)。
【0202】
(pSV57(pPCRScriptベクター中のクローン9のコドン改変遺伝子)をpET11−a内にクローン化する(以下、pSV52と呼ぶ))
(pET11−aベクターの調製)
pET11−aベクター(Novagen、カタログ番号69436−3)を、Nde I及びNhe Iを用いて消化し、脱リン酸化し、未消化のベクターをいずれも、標準的な手法を使用してライゲーションした。
【0203】
消化されたベクターを、0.8%アガロースゲル上で、Qiagen(登録商標)製のMinElute(登録商標)ゲル抽出キットのプロトコールを使用して精製した。
【0204】
精製した消化されたpET11−aベクターを、ポリアクリルアミドTB 4−20%ゲルを使用して定量した。
【0205】
(挿入断片(クローン9のコドン改変遺伝子)の調製)
pPCRScriptベクター中の、GENEARTによって合成されたクローン9のコドン改変遺伝子(以下、pSV57)を、Nde I及びNheを用いて消化した。
【0206】
消化された挿入断片を、0.8%アガロースゲル上で、Qiagen(登録商標)製のMinElute(登録商標)ゲル抽出キットのプロトコールを使用して精製した。
【0207】
精製した消化された挿入断片を、ポリアクリルアミドTB 4−20%ゲルを使用して定量した。
【0208】
(ライゲーション)
pET11−aベクター及び挿入断片を、Nde I及びNhe Iの制限部位において、Quickライゲーションキット(NEB、M2200S)を使用してライゲーションした(1:3の比)。
【0209】
(形質転換)
2μlのライゲーション混合液を使用して、XL10−goldウルトラコンピテント細胞(Stratagene、カタログ番号200315)を形質転換した。挿入断片を含有するコロニーのPCRスクリーニング。
【0210】
形質転換体を拾い、ライゲーション産物で形質転換したXL10−goldの3種の陽性クローンのDNAのミニプレップを調製した。3種の精製したプラスミド(以下、pSV52、クローン1、2及び4は、クローン化部位でシークエンシングし、3種のクローンの全てが、クローン化部位に正しい配列を有することを見出した。
【0211】
また、ミニプレップを使用して、以下に記載するように、発現大腸菌宿主BL21−CodonPlus(DE3)−RIL(Stratagene、カタログ番号230245)も形質転換した。
【0212】
(サザンブロット法)
pVent(pNEB917由来ベクター)、pSV43(pET11−a中のクローン9)、pSV54(pET11−a中のコドン最適化クローン)、及びpSV57(GENEARTによって供給されたpPCR−Script中のコドン改変遺伝子)を、制限酵素処理し(restricted)、サザンブロットして、遺伝子間のクロスハイブリダイゼーションを調べた(結果は表示されていない)。
【0213】
(Pol52の発現研究)
pSV52(クローン1、2及び4)を、発現宿主大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)RIL(Stratagene、カタログ番号230245)へ形質転換。
【0214】
21−25ngの精製したpSV52プラスミドDNA(クローン1、2及び4)を使用して、発現宿主大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)RILのコンピテント細胞(以下、RIL)を、メーカーの指示を使用して形質転換した。
【0215】
50μlの各形質転換を、100μg/mlのカルベニシリン及び34μg/mlのクロラムフェニコールを含有する新鮮なLuria−Bertani(LB)寒天培養液(LBCC寒天培養液)上に蒔き、37℃にて、一晩インキュベートした。
【0216】
また、以下のグリセロール原液も、発現研究用の対照として使用するためにLBCC寒天プレート上に蒔き、37℃にて、一晩インキュベートした。
【0217】
SOL10204:RIL−pSV19(pNEB917ベクター中のクローン9)
SOL10354:RIL−pSV43(pET11−aベクター中のクローン9)
【0218】
(Pol52及びクローン9の陽性対照を発現する細胞ペレットの調製)
単一の形質転換した大腸菌コロニーを使用して、3mlのLBCC培養液のスターターカルチャーを、カルチャーチューブ内に播種し、振とう(225rpm)しながら、37℃にて、一晩インキュベートした。
【0219】
スターターカルチャーを、無菌の通気三角フラスコ中で、50mLのLBCC培養液中に1/100希釈し、OD600nmがおよそ1.0になるまで、激しく振とう(300rpm)しながら、37℃にて、およそ4時間インキュベートした。
【0220】
10mlの未誘導の培養液を取り出し、(下記に記載するように)細胞を回収した。
【0221】
IPTGを、1mMの最終濃度で添加し、培養液を、激しく振とう(300rpm)しながら、37℃にて、2時間誘導した。
【0222】
10mlの誘導した培養液を取り出し、以下のように細胞を回収した。
【0223】
未誘導の細胞及び誘導細胞を、5000×gで、4℃にて、30分間遠心分離することによって回収した。
【0224】
細胞ペレットを洗浄し、培養液の容積の1/10の1×リン酸緩衝食塩水(PBS)中に再懸濁させた後、上記のように遠心分離した。
【0225】
上清をデカントし、ペレットを、細胞の溶解及び精製のステップまで、−20℃にて保存した。
【0226】
(Pol52及びクローン9の細胞の溶解及び粗精製)
細胞ペレットを解凍し、培養液の容積の1/50の1×洗浄緩衝液(50mM Tris−HCl pH7.9、50mMグルコース、1mM EDTA)であって、新たに添加された4mg/mlのリゾチームを含有する1×洗浄緩衝液中に、再懸濁させた後、室温にて、15分間インキュベートした。
【0227】
等容積の1×溶解緩衝液(10mM Tris−HCl pH7.9、50mM KCl、1mM EDTA、0.5%(w/v)Tween 20)であって、0.5%(w/v)Tergitol NP−40及び1×「EDTAを全く含有しない」プロテイナーゼ阻害剤のカクテルを含有する(両方を、1×溶解緩衝液に新たに添加した)1×溶解緩衝液を、細胞に添加した後、穏やかに混合し、室温にて、30分間インキュベートした。
【0228】
細胞を、水浴中で、80℃にて、1時間加熱した後、38,800×gで、4℃にて、30分間遠心分離して、細胞の残骸及び変性したタンパク質を除去した。
【0229】
(容積及びSDS−PAGEの分析に用いる規準化した検体の調製)
Pol52及びクローン9のDNAポリメラーゼの発現を、未誘導及び誘導の対照検体の粗溶菌液をSDS−PAGE上で分析し、次いで、クーマシーブルーで染色することによって評価した。
【0230】
上清を注意深く除去し、50:50(v/v)の1×洗浄緩衝液及び1×溶解緩衝液を添加して、最終容積を370μlとすることによって、検体の容積を規準化した。
【0231】
(ゲル Iに用いる検体の調製)
10μlの(未誘導検体及び誘導検体からの)規準化した粗溶菌液を、143mM DTTを含有する10μlのローディング緩衝液(loading buffer)と混合した。
【0232】
(ゲル IIに用いる検体の調製)
誘導検体からの規準化した粗溶菌液のみを、蒸留水中で1/10に希釈し、最終容積を10μlとし、143mM DTTを含有する10μlのローディング緩衝液と混合した。
【0233】
全ての検体を、70℃にて、10分間加熱した。
【0234】
(SDS−PAGE)
NuPage(登録商標)4−12%Bis−Trisゲル(Invitrogen、カタログ番号NP0321BOX)を、メーカーの指示に従って調製した。
【0235】
10μlのSeeBlue(登録商標)Plus2染色済みタンパク質標準物質(Invitrogen、カタログ番号LC5925)及びμlの各検体を添加し、ゲルを、定電圧(constant)200Vで、50分間泳動(run)した。
【0236】
ゲルを、クーマシーブルー(SimplyBlue(商標)Safe染色、Invitrogen、カタログ番号LC6060)で染色した。
【0237】
(結果)
SDS−PAGEの結果を、図10に示す。
本実験で推定される発現レベルは、培養液中20mg/Lである。
発現ベクターpET11−aを使用して、大腸菌宿主BL21−CodonPlus(DE3)−RIL(Pol52)中のクローン9のコドン改変遺伝子の同様の発現レベルが、発現ベクターpNEB917(Pol19)又はpET11(Pol43)のいずれかを使用した同一の細胞中のクローン9の未改変の遺伝子と比較した場合に、得られた。
【0238】
Pol52の3種の異なるクローンの発現レベルについては、顕著な差は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0239】
【図1A】図1は本発明の変異酵素の過剰発現を示す。
【図1B】図1は本発明の変異酵素の過剰発現を示す。
【図2】図2は変異酵素の粗調製物を使用したNUNC製チューブのアッセイの結果を示す。
【図3A】図3は変異酵素を用いた一塩基取り込みアッセイの結果を示す。
【図3B】図3は変異酵素を用いた一塩基取り込みアッセイの結果を示す。
【図4】図4は変異酵素の活性のさらなる提示である。
【図5】図5は対照ポリメラーゼ(YAV)及び3種の変異酵素(K705A、R713A及びR743A)のそれぞれについて、[DNA]>[pol](5:1の比)における一塩基取り込みアッセイの時間経過の結果を示す。
【図6】図6はNUNC製ウェルの蛍光画像を用いて、洗浄アッセイの結果を示す。
【図7】図7はそれぞれのポリメラーゼのDNA鋳型に対する親和性を示す、洗浄アッセイの結果を示す(K705Aのデータは、明確さのために省略されている)。
【図8】図8はポリメラーゼ酵素の反応速度論的特徴を示す、ミカエリスプロットを示し、酵素を重複させて示す。
【図9−1】図9はクローン9のコドン改変遺伝子がコードするヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す。
【図9−2】図9はクローン9のコドン改変遺伝子がコードするヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す。
【図9−3】図9はクローン9のコドン改変遺伝子がコードするヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す。
【図9−4】図9はクローン9のコドン改変遺伝子がコードするヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す。
【図10】図10はSDS−PAGE実験の結果を示す。未誘導の培養液(ゲルI)及び誘導の培養液(ゲルI、II)の粗溶菌液中で、Pol52(pET11−a発現ベクター中で発現させたクローン9のコドン改変遺伝子)の3種のクローン(1、2及び4)の発現を、Pol19(pNEB917発現ベクターから発現させたクローン9の遺伝子)及びPol43(pET11−a発現ベクターから発現させたクローン9の遺伝子)と比較した。 略語:MW−分子量;PM−タンパク質マーカー;cl 9−クローン 9
【0240】
(参考文献)
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・ Crystal structure of a pol alpha family DNA polymerase from the hyperthermophilic archaeon Thermococcus sp.9°N−7. Rodriguez et al.2000.J.Mol.Biol.,299,471.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAに対する低下した親和性を有する変化させたポリメラーゼであって、対照ポリメラーゼと比較して、各反応サイクルにおいて1種又は複数のヌクレオチドを複数の別々のDNA鋳型内に取り込む能力を有するポリメラーゼ。
【請求項2】
DNAに対する低下した親和性を有する変化させたポリメラーゼであって、対照ポリメラーゼと比較して、各反応サイクルにおいて、より多くの生産的なポリメラーゼ−DNA複合体を形成することができるポリメラーゼ。
【請求項3】
対照ポリメラーゼが、ポリメラーゼと同一のタイプである、請求項1又は2に記載のポリメラーゼ。
【請求項4】
対照ポリメラーゼが、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLeu408Tyr及びTyr409Ala及びPro410Valと機能的に同等である置換変異を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリメラーゼ。
【請求項5】
対照ポリメラーゼが、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のCys223Serと機能的に同等である置換変異をさらに含む、請求項4に記載のポリメラーゼ。
【請求項6】
対照ポリメラーゼが、9°N DNAポリメラーゼである、請求項4又は5に記載のポリメラーゼ。
【請求項7】
変化が、ポリメラーゼとDNAとの相互作用を安定化する、ポリメラーゼ中の残基において、少なくとも1つの変異を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリメラーゼ。
【請求項8】
変化が、ポリメラーゼ中のDNAと結合する残基において、少なくとも1つの変異を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリメラーゼ。
【請求項9】
変化が、ポリメラーゼのDNA結合ドメインに見出される残基において、少なくとも1つの変異を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリメラーゼ。
【請求項10】
変化が、ポリメラーゼ中の塩基性アミノ酸残基において、少なくとも1つの変異を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリメラーゼ。
【請求項11】
変化が、少なくとも1つの置換変異を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリメラーゼ。
【請求項12】
2つの置換変異を含む、請求項11に記載のポリメラーゼ。
【請求項13】
ポリメラーゼが、DNAポリメラーゼである、請求項1〜12のいずれか一項に記載のポリメラーゼ。
【請求項14】
DNAポリメラーゼが、ファミリーBタイプのDNAポリメラーゼである、請求項13に記載のポリメラーゼ。
【請求項15】
ファミリーBの古細菌DNAポリメラーゼのいずれか、ヒトDNAポリメラーゼα、並びにT4、RB69及びφ29ファージのDNAポリメラーゼから選択される、請求項14に記載のポリメラーゼ。
【請求項16】
Vent、Deep Vent、9°N及びPfuのポリメラーゼから選択される、請求項15に記載のファミリーBの古細菌DNAポリメラーゼ。
【請求項17】
ファミリーBの古細菌DNAポリメラーゼが、9°Nポリメラーゼである、請求項16に記載のポリメラーゼ。
【請求項18】
ポリメラーゼのヌクレオチドに対する親和性及び/又はポリメラーゼの忠実度が、変化によって実質的に影響されない、請求項1〜17のいずれか一項に記載のポリメラーゼ。
【請求項19】
1つ、2つ又は3つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換変異を、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLys705、Arg713及び/又はArg743と機能的に同等である1つ又は複数の位置において含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載のポリメラーゼ。
【請求項20】
1つ、2つ又は3つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換変異を、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLys705、Arg713及び/又はArg743と機能的に同等である1つ又は複数の位置において含む、変化させたポリメラーゼ。
【請求項21】
少なくとも1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換変異を、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のArg713又はArg743のいずれかと機能的に同等である位置において含む、請求項20に記載のポリメラーゼ。
【請求項22】
1つ又は2つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換変異を、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のArg606及び/又はHis679と機能的に同等である1つ又は複数の位置において含む、請求項1〜20のいずれか一項に記載の変化させたポリメラーゼ。
【請求項23】
1つ又は2つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換変異を、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のArg606及び/又はHis679と機能的に同等である1つ又は複数の位置において含む、変化させたポリメラーゼ。
【請求項24】
1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換変異を、RB69DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLys790、Lys800、Arg806、Lys844、Lys874及び/又はLys878と機能的に同等である1つ又は複数の位置において含む、変化させたポリメラーゼ。
【請求項25】
1つ又は複数の置換変異が、置換されるアミノ酸を非塩基性のアミノ酸に変換する、請求項19〜24のいずれか一項に記載のポリメラーゼ。
【請求項26】
1つ又は複数の置換変異が、置換されるアミノ酸を、
(i)酸性アミノ酸と;
(ii)芳香族アミノ酸、特に、チロシン(Y)又はフェニルアラニン(F)と;
(iii)非極性アミノ酸、特に、アラニン(A)、グリシン(G)又はメチオニン(M)と
から選択されるアミノ酸に変換する、請求項25に記載のポリメラーゼ。
【請求項27】
1つ又は複数の置換変異が、置換されるアミノ酸をアラニンに変換する、請求項26に記載のポリメラーゼ。
【請求項28】
9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLys705Ala及び/又はArg713Ala及び/又はArg743Alaと機能的に同等である1つ又は複数の置換変異を含む、変化させたポリメラーゼ。
【請求項29】
Arg713Alaと機能的に同等であるアミノ酸置換を含む、請求項28に記載の変化させたポリメラーゼ。
【請求項30】
Arg743Alaと機能的に同等であるアミノ酸置換を含む、請求項28又は29に記載の変化させたポリメラーゼ。
【請求項31】
1つ又は複数のアミノ酸の置換変異を、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLeu408及び/又はTyr409及び/又はPro410と機能的に同等である1つ又は複数の位置においてさらに含む、請求項1〜30のいずれか一項に記載の変化させたポリメラーゼ。
【請求項32】
9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のLeu408Tyr及びTyr409Ala及びPro410Valと機能的に同等である置換変異を含む、請求項31に記載の変化させたポリメラーゼ。
【請求項33】
異なるアミノ酸への置換変異を、9°N DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中のCys223と機能的に同等である位置においてさらに含む、請求項1〜32のいずれか一項に記載の変化させたポリメラーゼ。
【請求項34】
ポリメラーゼが、9°Nポリメラーゼのアミノ酸配列中のCys223Serと機能的に同等である置換変異を含む、請求項33に記載の変化させたポリメラーゼ。
【請求項35】
配列番号1、3、5又は21のいずれか1つであるアミノ酸配列を含む、変化させた9°Nポリメラーゼ。
【請求項36】
請求項1〜35のいずれか一項で定義する変化させたポリメラーゼをコードする核酸分子。
【請求項37】
変化させた9°N DNAポリメラーゼコードする、請求項36に記載の核酸分子であって、配列番号2、4又は6のヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項38】
配列番号19又は20のヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項39】
請求項36〜38に記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項40】
請求項39に記載のベクターを含有する宿主細胞。
【請求項41】
ポリメラーゼの使用であって、前記ポリメラーゼがDNAに対する低下した親和性を示すように変化させられており、その結果、前記ポリメラーゼが、標識ヌクレオチドをポリヌクレオチド内に取り込むための各反応サイクルにおいて標識ヌクレオチドを複数の別々のDNA鋳型内に取り込む能力を有し、前記標識は付加したヌクレオチドの性質を決定するために用いられる使用。
【請求項42】
ヌクレオチドをポリヌクレオチド内に取り込むための、請求項1〜35のいずれか一項に記載のポリメラーゼの使用。
【請求項43】
取り込みがクラスターアレイ上で起きる、請求項41又は42に記載の使用。
【請求項44】
標識ヌクレオチドをDNA内に取り込むための方法であって、以下の成分:
(i)各反応サイクルにおいて標識ヌクレオチドを複数の別々のDNA鋳型内に取り込む能力を有するように、DNAに対する低下した親和性を示すように変化させられているポリメラーゼと
(ii)DNA鋳型と;
(iii)ヌクレオチド溶液と
が相互作用させることを含む方法。
【請求項45】
ヌクレオチドをDNA内に取り込む方法であって、以下の成分:
(i)請求項1〜35のいずれか一項に記載のポリメラーゼと
(ii)DNA鋳型と;
(iii)ヌクレオチド溶液と
が相互作用させることを含む方法。
【請求項46】
DNA鋳型が、クラスターアレイを含む、請求項44又は45に記載の方法。
【請求項47】
ヌクレオチド取り込み反応を行う場合に使用するキットであって、
請求項1〜36のいずれか一項に記載のポリメラーゼと、ヌクレオチド溶液とを含むキット。
【請求項48】
ヌクレオチド溶液が、標識化ヌクレオチドを含む、請求項47に記載のキット。
【請求項49】
ヌクレオチドが、合成ヌクレオチドを含む、請求項47又は48に記載のキット。
【請求項50】
ヌクレオチドが、修飾ヌクレオチドを含む、請求項47〜49のいずれか一項に記載のキット。
【請求項51】
置換基が天然の3’ヒドロキシル基より大きくなるように、ヌクレオチドが3’糖ヒドロキシル基において修飾されている、請求項50に記載のキット。
【請求項52】
置換基が天然の3’ヒドロキシル基より大きくなるように、3’糖ヒドロキシル基において修飾されているヌクレオチドが、修飾されているヌクレオチド又はヌクレオシドの分子を含み、前記分子が、プリン又はピリミジン塩基と、リボース又はデオキシリボースの糖部分であって、当該糖部分に共有結合している取り除くことができる3’−OHブロック基を有する糖部分とを含み、前記3’炭素原子が、
【化1】


[ただし、Zは、−C(R’)−O−R’’、−C(R’)−N(R’’)、−C(R’)−N(H)R’’、−C(R’)−S−R’’及び−C(R’)−Fのいずれかである]の構造の基に結合しており、
R’’が、取り除くことができる保護基であるか、その一部であり;
R’のそれぞれが、独立に、水素原子、アルキル、置換されているアルキル、アリールアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、複素環、アシル、シアノ、アルコキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ若しくはアミド基、又は連結基を介して結合した検出可能な標識であるか;(R’)が、式=C(R’’’)(ただし、R’’’は、同一であってもよいし、異なっていてもよく、水素及びハロゲンの原子並びにアルキル基を含む群から選択される)のアルキリデン基を示し;且つ
前記の分子を反応させて、R’’のそれぞれが、Hに交換されているか、Zが、−C(R’)−Fである場合には、Fが、OH、SH又はNH、好ましくはOHに交換されているかである中間体を得ることができ、この中間体が、水性の状態下で解離して、遊離の3’OHを有する分子を産出するが;
Zが、−C(R’)−S−R’’である場合には、両方のR’基が、水素ではない、
請求項51に記載のキット。
【請求項53】
修飾されているヌクレオチド又はヌクレオシドのR’が、アルキル又は置換されているアルキルである、請求項52に記載のキット。
【請求項54】
修飾されているヌクレオチド又はヌクレオシドの−Zが、−C(R−Nの式である、請求項53に記載のキット。
【請求項55】
Zが、アジドメチル基である、請求項54に記載のキット。
【請求項56】
置換基が天然の3’ヒドロキシル基より大きくなるように、3’糖ヒドロキシル基において修飾されているヌクレオチドが、蛍光標識されており検出が可能である、請求項51に記載のキット。
【請求項57】
置換基が天然の3’ヒドロキシル基より大きくなるように、3’糖ヒドロキシル基において修飾されているヌクレオチドが、
【化2】


[ただし、Xは、O、S、NH及びNQ(Qは、C1−10の置換されている又は置換されていないアルキル基である)を含む群から選択され、Yは、O、S、NH及びN(アリル)を含む群から選択され、Tは、水素又はC1−10の置換されている若しくは置換されていないアルキル基であり、*は、部分がどこでヌクレオチド又はヌクレオシドの残部と接続するかを示す]
を含む群から選択される部分を含有することを特徴とする切断可能なリンカーを介して検出可能な標識に結合した塩基を有するヌクレオチド又はヌクレオシドを含む、請求項51に記載のキット。
【請求項58】
検出可能な標識が、蛍光標識を含む、請求項57に記載のキット。
【請求項59】
1種若しくは複数のDNA鋳型分子及び/又はプライマーをさらに含む、請求項47〜58のいずれか一項に記載のキット。
【請求項60】
請求項1〜35のいずれか一項に記載のポリメラーゼを作製する方法であって、
(i)ポリメラーゼ中で変異誘発のための残基を選択するステップと;
(ii)(i)で実施した選択に従って、変異ポリメラーゼを作製するステップと;
(iii)変異ポリメラーゼのDNAに対する親和性を決定するステップと;
(iv)DNAに対する親和性が低下した場合、各反応サイクルにおいて、より多くの生産的なポリメラーゼ−DNA複合体を形成する能力に関して、前記ポリメラーゼを試験するステップと
を含む方法。
【請求項61】
付随する図を参照する以上に記載した変化させたポリメラーゼ。
【請求項62】
付随する図を参照する以上に記載した使用。
【請求項63】
付随する図を参照する以上に記載した、ヌクレオチドを取り込むための方法。
【請求項64】
付随する図を参照する以上に記載したキット。
【請求項65】
付随する図を参照する以上に記載した、ポリメラーゼを作製する方法。


【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図9−4】
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【図1A】
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【図1B】
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【図6】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−539750(P2008−539750A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510637(P2008−510637)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001700
【国際公開番号】WO2006/120433
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(502279294)ソレックサ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】