説明

改良化安定化剤シアノアクリレート調合物

【課題】安定化された接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマー、安定化有効量の第一フリーラジカル安定化剤、および、安定化有効量の第二フリーラジカル安定化剤を含む安定化接着剤組成物が提供される。フリーラジカル安定化剤は、組成物中の変異原性を最少化するように選択され、フリーラジカル安定化剤の有害作用を軽減しながら、長期保存に適した安定化を提供する。安定化接着剤組成物は、さらに、蒸気相陰イオン性安定化剤を含む第一陰イオン性安定化剤、および、液相陰イオン性安定化剤を含む第二陰イオン性安定化剤を含むことができる。安定化接着剤組成物は、重合開始剤も含むことができ、あるいは、重合開始剤とともに使用されることができる。安定化接着剤組成物の生体組織への適用法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、安定化モノマーおよびポリマー接着剤およびシーラント組成物、ならびに、産業および医療的な利用のためのそれらの使用に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
モノマーおよびポリマー接着剤は、産業用(家庭を含む)および医療用の両方の利用に使用される。これらの接着剤に含まれるのは、α-シアノアクリレートなどの1,1-二置換エチレンモノマーおよびポリマーである。かかるモノマーおよびポリマーの接着特性の発見以来、モノマーおよびポリマーは、モノマーおよびポリマーが硬化する速度、結果として形成される結合の強度、および、それらが比較的使い易いことから広く使用されるようになった。これらの特性は、α-シアノアクリレート接着剤をプラスチック、ゴム、ガラス、金属、木材および、ごく最近では、生体組織の接着などの多数の利用への第一選択肢とした。
【0003】
1,1-二置換エチレン接着組成物の医療的な利用は、創傷閉鎖における手術用縫合糸およびステープルの代用品もしくは補助手段として、ならびに、裂傷、擦過傷、火傷、口内炎、ただれおよび他の表面創傷などの表面創傷の被覆および保護のための使用を含む。接着剤が適用される場合、接着剤は、通常、そのモノマー形態で適用され、重合が起こり、接着結合(adhesive bond)を生じる。
【0004】
例えば、重合性1,1-二置換エチレンモノマーおよびかかるモノマーを含む接着剤組成物は、Leungらへの米国特許第5,328,687号に開示されている。特に医療的な利用の際に基材へのかかる組成物の適切な適用法は、例えば、すべてLeungらへの米国特許第5,928,611号、第5,582,834号、第5,575,997号および第5,624,669号に記述されている。
【0005】
一部のモノマーα-シアノアクリレートは、反応性が極端に高く、空気中に存在する湿気または動物組織などの湿った表面を含めて、重合開始剤(initiator)の存在下で、それが微量であっても、急速に重合する。α-シアノアクリレートモノマーは、陰イオン重合可能またはフリーラジカル重合可能、あるいは、両性イオンもしくはイオン対によって重合可能であり、ポリマーを形成する。いったん重合が開始されると、硬化速度は、モノマーの選択に応じて非常に急速な場合がある。そのため、適切な保存期間を有するモノマーα-シアノアクリレート組成物を得るためには、陰イオン性およびフリーラジカル安定化剤などの重合抑制剤が組成物にしばしば添加される。しかし、特定の安定化剤の添加は、組成物の硬化速度の実質的な遅滞をもたらす可能性がある。さらに、一部の汎用安定化剤は、組成物および/または使用量に応じて毒性、突然変異原性、発癌性を示すことが既知である。
【0006】
よって、生体適合性を含めた接着剤の性能を犠牲にすることなく許容可能な保存期間を有する改良化シアノアクリレートモノマー接着剤組成物が求められている。さらに、ヒトを含めた動物との接触で使用される、副作用が軽減された、または、最少の、あるいは、副作用がないシアノアクリレート組成物の十分な安定化を得ることが求められている。
【0007】
〔発明の概要〕
1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマー、5〜70 ppmの量のハイドロキノンから成る第一フリーラジカル安定化剤、および、500〜10,000 ppmの量のブチル化ヒドロキシアニソールから成る第二フリーラジカル安定化剤を含む安定化接着剤組成物が提供される。
【0008】
別の実施の形態では、1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマー、安定化有効量のハイドロキノンから成る第一フリーラジカル安定化剤、安定化有効量のブチル化ヒドロキシアニソールから成る第二フリーラジカル安定化剤、蒸気相陰イオン性安定化剤を含む第一陰イオン性安定化剤、および、液相陰イオン性安定化剤を含む第二陰イオン性安定化剤を含む安定化接着剤組成物であって、安定化接着剤組成物が少なくとも1年間に亘って約200 cp未満の粘度を示し、マウスリンパ腫スクリーニング試験において、124.1 × 10E-6単位の変異体頻度最低基準未満の変異誘発活性レベルを示す安定化接着剤組成物が提供される。ある実施の形態では、当該安定化接着剤組成物は、少なくとも1年間に亘って、好ましくは少なくとも2年間に亘って、500%未満の粘度増加を示す。
【0009】
さらなる実施の形態では、1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマー、安定化有効量のハイドロキノンから成る第一フリーラジカル安定化剤、安定化有効量のブチル化ヒドロキシアニソールから成る第二フリーラジカル安定化剤を含む安定化接着剤組成物であって、ハイドロキノンの安定化有効量対ブチル化ヒドロキシアニソール安定化量の比が、1:25〜1:75である安定化接着剤組成物が提供される。
【0010】
別の実施の形態では、生体組織の治療法であって、1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマー、安定化有効量のハイドロキノンから成る第一フリーラジカル安定化剤、安定化有効量のブチル化ヒドロキシアニソールから成る第二フリーラジカル安定化剤、蒸気相陰イオン性安定化剤を含む第一陰イオン性安定化剤、および、液相陰イオン性安定化剤を含む第二陰イオン性安定化剤を含む生体適合性接着剤組成物の生体組織への適用を含む生体組織の治療法が提供され、ハイドロキノンの安定化有効量対ブチル化ヒドロキシアニソールの安定化有効量の比は、1:25〜1:75である。
【0011】
〔好ましい実施形態の詳細な説明〕
1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含む安定化シアノアクリレート接着剤組成物と、かかる接着剤組成物の使用法が提供される。安定化シアノアクリレート接着剤組成物は、特定のフリーラジカル安定化剤の配合物の使用、好ましくは規定量の特定のフリーラジカル安定化剤の配合物の使用によって得られる。
【0012】
1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含む安定なシアノアクリレート接着剤組成物は、フリーラジカル安定化剤の配合物を、変異原性もしくは他の有害作用を軽減もしくは排除し、一方で前記モノマーシアノアクリレート接着剤組成物の許容可能な安定化を提供する量で添加することによって調製される。安定モノマーシアノアクリレート接着剤組成物は、ヒト患者を含む生存患者との接触を含む医療的な利用の際には安全に使用されることができる。さらに、安定化剤配合物は、安定モノマーシアノアクリレート接着剤組成物の許容可能な保存期間を可能にするのに十分に、組成物のモノマーの重合を抑制する。安定モノマーシアノアクリレート接着剤組成物は、好ましくは、医療的な利用の際に使用のために滅菌される。さらに好ましくは、安定モノマーシアノアクリレート接着剤組成物は、医療的な利用に対する適合性を保持しながら、乾熱滅菌によって滅菌されることができる。
【0013】
1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含むシアノアクリレート接着剤組成物での使用に適したフリーラジカル安定化剤は、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、カテコール、ピロガロール、ベンゾキノン、2-ヒドロキシベンゾキノン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、および、t-ブチルハイドロキノン、および、それらの混合物もしくは配合物を含む。好ましい実施の形態では、少なくとも2種類のフリーラジカル安定化剤の配合物が使用される。好ましくは、これらの実施の形態では、使用されるフリーラジカル安定化剤は、少なくともハイドロキノンおよびブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)である。はるかに好ましい実施の形態では、3種類のフリーラジカル安定化剤が使用され、好ましくはハイドロキノン、BHAおよびp-メトキシフェノールである。
【0014】
前記フリーラジカル安定化剤、または、1種類以上の追加フリーラジカル安定化剤と配合されたハイドロキノンなどのフリーラジカル安定化剤配合物は、1種類以上のシアノアクリレートモノマーを安定化有効量で含むシアノアクリレート接着剤組成物に使用される。本発明の目的上、「安定化有効量」は、重合モノマーの少なくとも部分的な安定化を提供するのに十分な量である。
【0015】
「安定化」または「安定化された」は、本明細書で使用される場合、一定期間に亘って1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含むシアノアクリレート接着剤組成物の粘度によって測定されることができる。その理由は、シアノアクリレートモノマー組成物の早期重合の指標が、組成物の経時的な粘度増加であるからである。即ち、1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含む接着剤組成物が重合するにつれ、組成物の粘度が増加する。粘度が高すぎる場合、即ち、重合の発生が早すぎると、組成物は、その使用目的に不適切になる、あるいは、適用が非常に困難になる。よって、組成物の粘度の変化によって測定可能であるような組成物の一部の重合または増粘が起こることができるが、シアノアクリレートモノマー組成物が安定化される場合のかかる変化は、それほど広範囲ではなく、それによって、組成物の有用性を破壊もしくは著しく損なう。1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含むシアノアクリレート接着剤組成物は、安定化有効量のハイドロキノンを含めた一定のフリーラジカル安定化剤の配合物を提供することによって、かかる安定化配合物を含まない1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含むシアノアクリレート組成物に比較して、少なめの量、または、許容可能な低量の早期重合を示すことになる。かかる安定化組成物は、組成物の粘度の制御を可能にする。好ましくは、安定化有効量のフリーラジカル安定化剤の配合物が、前記モノマーの重合の十分な抑制、即ち、組成物の安定化を提供することになり、モノマーシアノアクリレート接着剤組成物は、少なくとも1年間、好ましくは18ヶ月間、最も好ましくは少なくとも2年間に亘って、早期重合もしくは増粘の結果として、500%未満、好ましくは300%未満、さらに好ましくは200%未満、最も好ましくは150%未満の粘度増加を示す。さらに特定の実施の形態では、安定化有効量のフリーラジカル安定化剤配合物を含むシアノアクリレートモノマー組成物は、少なくとも6ヶ月間安定化される、あるいは、100%未満の粘度増加を示すようになる。
【0016】
一般に、フリーラジカル安定化剤配合物を含むシアノアクリレートモノマー組成物の粘度は、少なくとも1年間、好ましくは少なくとも2年間未満に亘って約200センチポア(cP)未満、好ましくは少なくとも1年間に亘って約100 cP未満になる。当業者は、シアノアクリレートモノマー接着剤組成物の粘度を容易に決定し、さらに、所望の最終用途の適合性に所望の粘度を決定することができる。好ましい実施の形態では、フリーラジカル安定化剤の安定化有効量は、本明細書に詳述されている量である。
【0017】
ハイドロキノンは、典型的には、安定化有効量、好ましくは5〜70 ppm、好ましくは10〜70 ppmの量でフリーラジカル安定化剤配合物中に使用される。さらに好ましい実施の形態では、ハイドロキノンは、15〜60 ppmの量で使用される。最も好ましい実施の形態では、ハイドロキノンは、20〜50 ppmの量で使用される。
【0018】
1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含む重合性シアノアクリレート組成物は、ハイドロキノンと1種類以上の追加フリーラジカル安定化剤を含むフリーラジカル安定化剤の配合物もしくは混合物を含む。少なくとも1種類以上の追加フリーラジカル安定化剤は、シアノアクリレートモノマーとの使用が既知のいずれかの安定化剤であることができる。好ましくは、フリーラジカル安定化剤の混合物は、ハイドロキノンと、ブチル化ヒドロキシアニソールまたはp-メトキシフェノールの一方を含む。一部の実施の形態では、フリーラジカル安定化剤混合物は、ハイドロキノン、BHAおよびp-メトキシフェノールを含む。1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含むシアノアクリレート接着剤組成物の幾つかの好ましい実施の形態では、組成物中に存在する唯一のフリーラジカル安定化剤は、ハイドロキノン、BHAおよびp-メトキシフェノールであり、例えば、シアノアクリレートモノマー組成物には、他のフリーラジカル安定化剤は存在しない。
【0019】
現在、ハイドロキノンが少なくとも1種類の追加フリーラジカル安定化剤、好ましくはBHAとの配合で使用される場合、重合性シアノアクリレート接着剤組成物の使用時に、1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含むシアノアクリレート接着剤組成物中のハイドロキノンの存在によって起こる有害作用を回避する、または、軽減するのに十分に低量で使用されることができる、と認められている。
【0020】
ハイドロキノンが、1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含むシアノアクリレート接着剤組成物に使用されるフリーラジカル安定化剤の一つである場合、ハイドロキノンの安定化有効量は、好ましくは、シアノアクリレート組成物に使用される場合に許容不可能な変異誘発作用を示さない量である。
【0021】
BHAは、1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含む重合性シアノアクリレート接着剤組成物でハイドロキノンとの配合で使用される場合、配合物の最終用途に応じて、重合性シアノアクリレート接着剤組成物の安定化に有用であることが既知の安定化有効量で使用される。使用時のシアノアクリレート接着剤組成物からの何らかの毒性作用または変異誘発作用を最小限に抑えるために、前記BHAは、ハイドロキノンの量よりもはるかに多量、好ましくは、ハイドロキノンの25〜75倍の量、例えばハイドロキノン対BHA比1:25〜1:75で使用される。好ましい実施の形態では、BHAは、500〜10,000、好ましくは800〜3200 ppm、さらに好ましくは1000〜2000 ppmの量でハイドロキノンとの配合で使用される。
【0022】
第三もしくは追加安定化剤が使用される場合、かかる安定化剤は、一般に、二次安定化剤と見なされる。典型的には、かかる安定化剤の量は、BHAの量よりも少なくなるが、量は、使用される特定の安定化剤、および、接着剤が利用されることになる目的によって決定されることができる。ある実施の形態では、第三安定化剤、即ち二次安定化剤、p-メトキシフェノール、がハイドロキノンおよびBHAとともに使用される。p-メトキシフェノールは、組成物の最終用途に応じて、重合性シアノアクリレート接着剤組成物の安定化に有用であることが既知の安定化有効量で使用されることができる。好ましい実施の形態では、p-メトキシフェノールは、0〜500 ppm、好ましくは50〜200 ppmの量で使用されることができる。
【0023】
幾つかの実施の形態では、シアノアクリレート接着剤組成物は、1種類以上のシアノアクリレートモノマー、少なくとも2種類のフリーラジカル安定化剤および1種類以上の適切な陰イオン性安定化剤を含む。シアノアクリレート接着剤組成物は、任意に、少なくとも1種類の陰イオン性蒸気相安定化剤と少なくとも1種類の陰イオン性液相安定化剤の両方を含むことができる。これらの安定化剤は、重合を抑制する。かかる陰イオン性安定化剤の例は、例えば、米国特許第6,620,846号に記述されており、当該特許は、その全体が参照により本明細書に組み入れられている。
【0024】
陰イオン性蒸気相安定化剤は、既知安定化剤の中から選択されることができ、二酸化イオウ、三フッ化ホウ素およびフッ化水素を含むが、それらに制限されない。モノマー組成物に添加される陰イオン性蒸気相安定化剤の量は、蒸気相安定化剤との配合で選択される液相安定化剤の種類、安定化の対象となるモノマー、ならびに、組成物用に使用されるべき包装材に左右される。好ましくは、各陰イオン性蒸気相安定化剤は、100万分の200部(parts per million、ppm)未満の濃度を生じるように添加される。好ましい実施の形態では、各陰イオン性蒸気相安定化剤は、約1〜200 ppm、さらに好ましくは約10〜75 ppm、はるかに好ましくは約10〜50 ppm、最も好ましくは10〜20 ppmで存在する。使用すべき量は、必要以上の実験を行わず、既知技術を使って、当業者によって決定されることができる。
【0025】
複数の実施の形態では、陰イオン性安定化剤は、とりわけ、二酸化イオウである蒸気相陰イオン性安定化剤を含む。
【0026】
複数の実施の形態では、液相陰イオン性安定化剤は、超強酸である。本発明で使用される場合、超強酸は、1.0未満の水中pKaを有する酸である。適切な超強酸性安定化剤は、超強鉱酸および/または含酸素酸を含むが、それらに制限されない。かかる超強酸の例は、硫酸(pKa−3.0)、過塩素酸(pKa−5)、塩化水素酸(pKa−7.0)、臭化水素酸(pKa−9)、フルオロスルホン酸(pKa<−10)、クロロスルホン酸(pKa−10)を含むが、それらに制限されない。複数の実施の形態では、超強酸液相陰イオン性安定化剤は、1〜200 ppmの最終濃度を生じるように添加される。好ましくは、超強酸液相陰イオン性安定化剤は、約5〜80 ppm、さらに好ましくは、10〜40 ppmの濃度で存在する。使用されるべき超強酸液相陰イオン性安定化剤は、必要以上の実験を行わずに、当業者によって決定されることができる。
【0027】
好ましくは、超強酸液相陰イオン性安定化剤は、硫酸、過塩素酸、または、クロロスルホン酸である。さらに好ましくは、超強酸液相陰イオン性安定化剤は、硫酸である。
【0028】
複数の実施の形態では、二酸化イオウは、蒸気相陰イオン性安定化剤として使用され、硫酸は、液相陰イオン性安定化剤として使用される。
【0029】
組成物は、重合を抑制する少なくとも1種類の他の陰イオン性安定化剤も任意に含むことができる。これらの安定化剤は、本明細書では、以下で「一次」安定化剤と称される強もしくは超強液相陰イオン性安定化剤と当該安定化剤を対比させるために、二次陰イオン性活性剤と称される。二次陰イオン性活性剤は、例えば、接着剤組成物の硬化速度の調整を目的として組成物に含まれることができる。
【0030】
二次陰イオン性活性剤は、通常、一次陰イオン性安定化剤よりも高いpKaを有する酸であることができ、接着剤の硬化速度および安定性、ならびに、硬化接着剤の分子量をより正確に制御するために提供されることができる。組成物の化学が損なわれず、混合物が、組成物の所望の重合速度を著しく抑制しない限りは、一次陰イオン性安定化剤と二次活性剤のいずれの混合物が含まれてもよい。さらに、混合物は、医療用接着剤組成物中では、許容不可能な毒性レベルを示さない。
【0031】
適切な二次陰イオン性活性剤は、2〜8、好ましくは2〜6、最も好ましくは2〜5の範囲の水中pKaイオン化定数を有する物質を含む。かかる適切な二次陰イオン性安定化剤の例は、酢酸(pKa 4.8)、安息香酸(pKa 4.2)、クロロ酢酸(pKa 2.9)、シアノ酢酸、および、それらの混合物などの有機酸を含むが、それらに制限されない。好ましくは、これらの二次陰イオン性安定化剤は、酢酸または安息香酸などの有機酸である。複数の実施の形態では、酢酸および/または安息香酸の量は、約25〜500 ppmである。酢酸濃度は、典型的には50〜400 ppm、好ましくは75〜300 ppm、さらに好ましくは100〜200 ppmである。
【0032】
少なくとも1種類の蒸気相安定化剤と少なくとも1種類の液相陰イオン性安定化剤の配合物が好ましい。例えば、二酸化イオウと硫酸の配合物が使用されることができる。2タイプの陰イオン性安定化剤は、これらの安定化剤が、選択される接着剤組成物および互いの安定化剤、ならびに、前記組成物の製造および包装に使用される包装材および設備と適合性を示すように関連して選択される。言い換えれば、蒸気相安定化剤、液相安定化剤およびモノマーの配合物は、包装(および、組成物が医療的な利用のために意図されている場合は、滅菌)後に、安定化された、実質的に重合していない接着剤組成物が存在するようなものであることが望ましい。
【0033】
上記の安定化剤を含む好ましいシアノアクリレート接着剤モノマー組成物と当該モノマー組成物から形成されるポリマーは、組織接着剤、出血防止用または開放創被覆用シーラントとして、および、他の生物医学的な利用において有用である。モノマー組成物は、例えば、体液漏洩防止、体内の空気漏れの封鎖、組織接合、術中切開組織または外傷性裂傷組織の並置、創傷からの血流の遅滞、薬剤送達、火傷ドレッシング、皮膚または他の表在または深部組織表面の創傷(擦過傷、皮膚の擦りむけまたは生皮、および/または、口内炎など)のドレッシング、修復補助、および、生体組織の再増殖への使用がある。本発明のモノマー組成物、および、モノマー組成物から形成されるポリマーは、各種生体組織、内臓および血管の創傷封鎖に幅広い用途を有し、例えば、血管および各種臓器または組織の内外に適用されることができる。本発明のモノマー組成物、および、モノマー組成物から形成されるポリマーは、産業および家庭での利用に、例えば、ゴム、プラスチック、木材、複合材、織物、および、他の天然および合成材料の接着にも有用である。
【0034】
本発明で使用されることができるモノマーは、容易に重合可能であり、例えば、陰イオン性重合可能、フリーラジカル重合可能、または、両性イオンもしくはイオン対により重合可能で、ポリマーを形成する。かかるモノマーの一部は、例えば、Leungらへの米国特許第5,328,687号に開示されており、当該特許は、参照することによってその全体が本明細書に組入れられている。好ましくは、シアノアクリレート接着剤組成物は、1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含み、生体適合性を示す。1種類以上のシアノアクリレートモノマーを含むシアノアクリレート接着剤組成物は、シアノアクリレートモノマーの配合物または混合物を含むことができる。
【0035】
用語「生体適合性」は、医療用具の要件に適合し、当該要件を満たす材料を指し、長期もしくは短期のインプラント、非植え込み式用途に使用され、それによって、予定の場所に植え込まれる、または、適用されると、材料は、許容不可能な反応を惹起することなく所要時間中に予定の機能を発揮する。長期インプラントは、30日以上植え込まれる用品として定義される。
【0036】
一例として、有用なモノマーは、式(I)のα-シアノアクリレートを含む。これらのモノマーは、技術上周知であり、次式を有し、
【化1】

式中、
R2は水素であり、
R3は、ヒドロカルビル基または置換ヒドロカルビル基、式−R4−O−R5−O−R6を有する基団(式中、R4は炭素原子2〜4個を有する1,2-アルキレン基、R5は炭素原子2〜4個を有するアルキレン基、および、R6は炭素原子1〜6個を有するアルキル基である)、または、次式を有する基団であり、
【化2】

式中、
R7は次式であり、
【化3】

式中、
nは1〜10、好ましくは1〜5個の炭素原子であり、R8は有機部分である。
【0037】
適切なヒドロカルビル基および置換ヒドロカルビル基の例は、炭素原子1〜16個を有する直鎖もしくは枝分れ鎖アルキル基;アシロキシ基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基またはハロアルキル基で置換された直鎖もしくは枝分れ鎖C1〜C16アルキル基;炭素原子2〜16個を有する直鎖もしくは枝分れ鎖アルケニル基;炭素原子2〜12個を有する直鎖もしくは枝分れ鎖アルキニル基;シクロアルキル基;アラルキル基;アルキルアリール基;および、アリール基を含む。
【0038】
有機部分R8は、置換型であることも、非置換型であることもでき、直鎖、枝分れまたは環状、飽和、不飽和または芳香族であることができる。かかる有機部分の例は、C1〜C8アルキル部分、C2〜C8アルケニル部分、C2〜C8アルキニル部分、C3〜C12環式脂肪族部分、フェニルおよび置換フェニルなどのアリール部分、ベンジル、メチルベンジルおよびフェニルエチルなどのアラルキル部分を含む。他の有機部分は、ハロゲンなどの置換炭化水素部分(例えば、クロロ、フルオロおよびブロモ置換炭化水素)、および、オキシ置換炭化水素(例えば、アルコキシ置換炭化水素)部分を含む。好ましい有機ラジカルは、炭素原子1〜8個を有するアルキル、アルケニルおよびアルキニル部分、および、そのハロゲン置換誘導体である。特に好ましいのは、炭素原子4〜6個のアルキル部分である。
【0039】
式(I)のシアノアクリレートモノマーにおいて、R3は、好ましくは炭素原子1〜10個を有するアルキル基、または、式−AOR9を有する基団で、式中、Aは炭素原子2〜8個を有する二価直鎖もしくは枝分れ鎖アルキレンまたはオキシアルキレン部分で、R9は炭素原子1〜8個を有する直鎖もしくは枝分れアルキル部分である基団である。
【0040】
式−AOR9で表される基団の例は、1-メトキシ-2-プロピル、2-ブトキシエチル、イソプロポキシエチル、2-メトキシエチル、および、2-エトキシエチルを含む。
【0041】
式(I)のα-シアノアクリレートは、技術上周知の方法に従って調製されることができる。それぞれ参照することによって本明細書に組入れられている米国特許第2,721,858号および第3,254,111号は、α-シアノアクリレートの調製法を開示している。例えば、α-シアノアクリレートは、非水性有機溶媒中、塩基性触媒の存在下でアルキルシアノアセテート(シアン酢酸アルキル)をホルムアルデヒドと反応させた後、重合抑制剤の存在下での無水中間体ポリマーの熱分解によって調製されることができる。
【0042】
式(I)のシアノアクリレート(式中、R3は式R4-O-R5-O-R6を有する基団である)は、Kimuraらへの米国特許第4,364,876号に開示されている方法に従って調製されることができ、当該特許は、参照することによってその全体が本明細書に組入れられている。Kimuraらの方法では、α-シアノアクリレートは、シアン酢酸のアルコールとのエステル化によって、あるいは、アルキルシアノアセテートとアルコールのエステル交換によって、シアノアセテートを生成し、シアノアセテートとホルムアルデヒドまたはパラ-ホルムアルデヒドを触媒存在下、0.5〜1.5:1、好ましくは0.8〜1.2:1のモル比で縮合し、縮合体を得て、直接、または、縮合触媒の除去後に縮合反応混合物を脱重合し、粗シアノアクリレートを生じ、粗シアノアクリレートを蒸留して、高純度シアノアクリレートを形成することによって調製される。
【0043】
式(I)のα-シアノアクリレート(式中、R3は次式を有する)は、Kronenthalらへの米国特許第3,995,641号に記述される手法に従って調製されることができ、当該特許は、参照することによってその全体が参照により本明細書に組入れられている。
【化4】

Kronenthalらの方法では、かかるα-シアノアクリレートモノマーは、α-シアノアクリル酸のアルキルエステルを環式1,3-ジエンと反応させて、Diels-Alder(ディールス‐アルダー)付加物を形成し、次に、当該付加物が、アルカリ加水分解を受けた後、酸性化され、対応するα-シアノアクリル酸付加物を形成することによって調製される。α-シアノアクリル酸付加物は、好ましくは、ブロモ酢酸アルキルでエステル化され、対応するカルボアルコキシメチルα-シアノアクリレート付加物を生成する。別法として、α-シアノアクリル酸付加物は、塩化チオニルとの反応によってα-シアノアクリルイルハロゲン化物付加物に変換されることができる。次に、α-シアノアクリルイルハロゲン化物付加物は、ヒドロキシ酢酸アルキルまたはヒドロキシ酢酸メチル置換アルキルと反応され、それぞれ対応するカルボアルコキシメチルα-シアノアクリレート付加物またはカルボアルコキシアルキルα-シアノアクリレート付加物を生成する。環式1,3-ジエン遮断基は、最終的に除去され、カルボアルコキシメチルα-シアノアクリレート付加物またはカルボアルコキシアルキルα-シアノアクリレート付加物は、わずかに不足量の無水マレイン酸の存在下で付加物を加熱することによって対応するカルボアルコキシアルキルα-シアノアクリレートに変換される。
【0044】
式(I)のモノマーの例は、シアノペンタジエノエートおよび次式のα-シアノアクリレートを含み、
【化5】

式中、Zは-CH=CH2であり、R3は上記のとおりである。式(II)のモノマー(式中、R3は炭素原子1〜10個のアルキル基である)、即ち、2-シアノペンタ-2,4-ジエン酸エステルは、塩化亜鉛などの触媒の存在下で適当な2-シアノアセテートをアクロレインと反応させることによって調製されることができる。この2-シアノペンタ-2,4-ジエン酸エステルの調製法は、例えば米国特許第3,554,990号に開示されており、当該特許は、参照することによってその全体が本明細書に組入れられている。
【0045】
単独で、または、配合によって使用される好ましいα-シアノアクリレートモノマーは、2-オクチルシアノアクリレートなどのオクチルシアノアクリレート、ドデシルシアノアクリレート、2-エチルヘキシルシアノアクリレート、メトキシエチルシアノアクリレート、2-エトキシエチルシアノアクリレート、n-ブチルシアノアクリレートなどのブチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、3-メトキシブチルシアノアクリレート、2-ブトキシエチルシアノアクリレート、2-イソプロポキシエチルシアノアクリレート、および、1-メトキシ-2-プロピルシアノアクリレートを含めたアルキルα-シアノアクリレートである。さらに好ましいモノマーは、エチル、n-ブチルおよび2-オクチルα-シアノアクリレートである。
【0046】
他の好ましいシアノアクリレートは、アルキルエステルシアノアクリレートを含む。上記の方法とは別に、アルキルエステルシアノアクリレートは、アルキルシアノアセテートまたはアルキルエステルシアノアセテートのパラホルムアルデヒドとのクネベナゲル反応(Knoevenagel reaction)によっても調製されることができる。これは、シアノアクリレートオリゴマーを生じる。オリゴマーのその後の熱分解が、シアノアクリレートモノマーを形成する。さらなる蒸留後、高純度(95.0%以上、好ましくは99.0%以上、さらに好ましくは99.8%以上)のシアノアクリレートモノマーが得られることができる。
【0047】
低水分調製の、本質的に不純物のない(例えば、手術用)モノマーが生物医学的な利用には好ましい。産業目的で用いられるモノマーは、純正である必要はない。
【0048】
一部の好ましい実施の形態では、アルキルエステルシアノアクリレートモノマーは次式を有し、
【化6】

式中、R1'およびR2'は、それぞれ、H、直鎖、枝分れまたは環式アルキルであり、あるいは、環式アルキル基中に結合され、また、R3'は直鎖、枝分れまたは環式アルキル基である。好ましくは、R1'は、H、または、メチルもしくはエチルなどのC1、C2もしくはC3アルキル基であり、R2'は、H、または、メチルもしくはエチルなどのC1、C2もしくはC3アルキル基であり、R3'は、C1〜C16アルキル基、さらに好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルもしくはデシルなどのC1〜C10アルキル基であり、はるかに好ましくは、C2、C3もしくはC4アルキル基である。
【0049】
好ましいアルキルエステルシアノアクリレートの例は、ブチルラクトイルシアノアクリレート(BLCA)、ブチルグリコロイルシアノアクリレート(BGCA)、イソプロピルグリコロイルシアノアクリレート(IPGCA)、エチルラクトイルシアノアクリレート(ELCA)、および、エチルグリコロイルシアノアクリレート(EGCA)、および、それらの配合物を含むが、それらに制限されない。BLCAは、上記の式で表されることができ、式中、R1'はH、R2'はメチル、R3'はブチルである。BGCAは、上記の式で表されることができ、式中、R1'はH、R2'はH、R3'はブチルである。IPGCAは、上記の式で表されることができ、式中、R1'はH、R2'はH、R3'はイソプロピルである。ELCAは、上記の式で表されることができ、式中、R1'はH、R2'はメチルであり、R3'はエチルである。EGCAは、上記の式で表されることができ、式中、R1'はH、R2'はH、R3'はエチルである。本発明で有用な他のシアノアクリレートは、Kronenthalらへの米国特許第3,995,641号に開示されており、当該特許の全開示内容は、参照することによって本明細書に組入れられている。
【0050】
別法として、あるいは、追加的に、アルキルエーテルシアノアクリレートモノマーが使用されることができる。アルキルエチルシアノアクリレートは、以下の一般式を有し、
【化7】

式中、R1"は直鎖、枝分れまたは環式アルキルであり、R2"は直鎖、枝分れまたは環式アルキル基である。好ましくは、R1"はメチルもしくはエチルなどのC1、C2もしくはC3アルキル基であり、R2"はC1〜C16アルキル基、さらに好ましくはC1〜C10アルキル基で、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルまたはデシルなどであり、はるかに好ましくは、C2、C3もしくはC4アルキル基である。
【0051】
好ましいアルキルエーテルシアノアクリレートの例は、イソプロポキシエチルシアノアクリレート(IPECA)およびメトキシブチルシアノアクリレート(MBCA)およびそれらの配合物を含むが、それらに制限されない。IPECAは、上記の式で表されることができ、式中、R1"はエチレンであり、R2"はイソプロピルである。MBCAは、上記の式で表されることができ、式中、R1"はn-ブチレンであり、R2"はメチルである。
【0052】
アルキルエステルシアノアクリレートおよびアルキルエーテルシアノアクリレートは、生体組織および付随する体液による吸収性のために、医療への利用に特に有用である。好ましくは、これらのタイプのシアノアクリレートモノマーを使用する場合、重合および適用シアノアクリレートの100%が、生体組織への接着剤の適用後、3年未満、好ましくは約2〜24ヶ月、さらに好ましくは3〜18ヶ月、最も好ましくは6〜12ヶ月の期間中吸収されることができる。吸収時間は、特定用途および関係組織に応じて変動してもよい。よって、例えば、接着剤組成物が骨などの硬い組織に適用される場合、長めの吸収時間が望ましいが、接着剤組成物がより軟らかい組織に適用される場合は、より速い吸収時間が望ましい。
【0053】
モノマーの選択は、生じるポリマーの吸収速度、ならびに、モノマーの重合速度に影響を与えることになる。異なる吸収速度および/または重合速度を有する2種類以上の異なるモノマーが、配合によって使用され、生じるポリマーの吸収速度、ならびに、モノマーの重合速度をより大幅に制御することができる。
【0054】
一部の実施の形態によれば、接着剤組成物は、吸収速度の異なるモノマー種の混合物を含む。吸収速度は十分に異なるのが好ましく、それによって、異なる吸収速度を有する2種類のモノマー種が使用される場合、2種類のモノマーの混合物が、2種類のモノマーのそれぞれの吸収速度と効果的に異なる第三の吸収速度を生じることができる。これらの実施の形態に従った組成物は、例えば、2001年8月2日に出願され、2002年3月28日に米国特許公報第2002/0037310号として公開された米国特許出願第09/919,877号、および、米国特許第6,620,846号に記述されており、両者とも参照することによってそれらの全体が本明細書に組入れられている。
【0055】
例えば、好ましい実施の形態に従った適切な組成物は、適量の2-オクチルアルファ-シアノアクリレートを、ブチルラクトイルシアノアクリレート(BLCA)、ブチルグリコロイルシアノアクリレート(BGCA)、イソプロピルグリコロイルシアノアクリレート(IPGCA)、エチルラクトイルシアノアクリレート(ELCA)およびエチルグリコロイルシアノアクリレート(EGCA)のいずれかと混合することによって調製されることができる。好ましくは、かかる混合物は、約90:10〜約10:90の重量比、好ましくは約60:40〜約40:60の重量比など、約75:25〜約25:75の重量比に及ぶ。
【0056】
一部のアルキルエステルシアノアクリレートモノマーは、かさ高なアルキル基のために、ゆっくりと反応し、手術用接着剤としての利用可能性を明らかに制限する場合がある。一部のアルキルエステルシアノアクリレートは、数時間でひとりでに硬化する、あるいは、ある場合には、完全には硬化しない。モノマーの遅い重合に伴う問題を克服するため、アルキルエステルシアノアクリレートモノマーの重合を開始または促進する相溶性物質が、モノマー組成物とともに使用されることができる。適切な重合開始剤によって硬化する、あるいは促進剤によってさらに急速に硬化するように刺激されるアルキルエステルシアノアクリレートが製造され、数秒から数分程度の短時間で硬化することができる。硬化速度は、シアノアクリレートに添加される重合開始剤または促進剤の量もしくは濃度の選択によって、綿密に制御されることができ、よって、本開示内容に照らして、当業者によって容易に制御されることができる。適切な重合開始剤は、モノマーの一貫制御が可能な完全重合を提供し、それによって、特定の利用にとって望ましい時間でモノマーの重合を起こすことができる。かかる理由で、アルキルエステルシアノアクリレートの場合、四級アンモニウム塩が重合開始剤として特に望ましい。
【0057】
重合開始剤または促進剤は、粉末もしくは固体フィルムなどの固体の形態、あるいは、粘性もしくはペースト状材料などの液体の形態であることができる。重合開始剤または促進剤は、界面活性剤もしくは乳化剤などの多様な添加剤も含むことができる。好ましくは、重合開始剤または促進剤は、モノマー組成物に可溶性であり、および/または、少なくとも1種類の界面活性剤を含み、あるいは、伴い、これが、複数の実施の形態では、重合開始剤または促進剤が当該モノマー組成物と共溶出する助けになる。複数の実施の形態では、当該界面活性剤は、モノマー組成物中への重合開始剤または促進剤の分散に役立つことができる。
【0058】
一例として、重合開始剤は、モノマー組成物に先行して組織に適用されることができ、あるいは、いったんモノマー組成物が組織に適用されると、重合開始剤が、モノマー組成物に直接適用されることができる。複数の実施の形態では、重合開始剤または促進剤は、組織への組成物の適用直前に、モノマー組成物と配合されることができる。
【0059】
重合開始剤または促進剤の選択は、さらに、重合化モノマーが生体組織に吸収される速度に影響を与えることができる。そのため、最も適切な重合開始剤または促進剤は、3年未満で実質的に吸収されるポリマーを提供しながら、医療的な利用に適した速度でモノマーの重合を開始または促進する物質である。
【0060】
本明細書の目的上、「医療的な利用に適した」という語句は、重合開始剤または促進剤が、5分未満もしくは3分未満、好ましくは2.5分未満、さらに好ましくは1分未満、しばしば45秒未満でモノマーの重合を開始または促進することを意味する。当然、所望の重合時間は、異なる組成物および/または用途に応じて異なることができる。好ましくは、吸収性が望ましい場合、生体組織への前記接着剤適用後3〜18ヶ月または6〜12ヶ月など、2〜24ヶ月で生体によって実質的に吸収されるポリマーを提供するのに適した重合開始剤または促進剤および適切なモノマーが選択される。
【0061】
適切な重合開始剤は、技術上周知であり、例えば、ともに参照することによって本明細書にその全体が組入れられている米国特許第5,928,611号および第6,620,846号、および、同じく参照することによって本明細書にそれらの全体が組入れられている米国特許出願第2002/0037310号に記載されている。重合開始剤として有用な四級アンモニウム塩は、特に適している。一例として、とりわけ臭化ドミフェン、塩化ブチリルコリン、臭化ベンザルコニウム、塩化アセチルコリンなどの四級アンモニウム塩が使用されることができる。
【0062】
塩化ベンザルコニウムなどのベンザルコニウムハロゲン化物は、複数の実施の形態で特に好ましい。ベンザルコニウムハロゲン化物は、使用される場合、さまざまな鎖長の化合物の混合物を含む未精製状態のベンザルコニウムハロゲン化物であることができ、あるいは、C12、C13、C14、C15、C16、C17およびC18化合物を含むが、それらに制限されない炭素原子約12〜約18個の鎖長を有する化合物を含むいずれかの適切な精製化合物であることができる。
【0063】
他の重合開始剤または促進剤も、必要以上の実験を行うことなく、当業者によって選択されることができる。かかる適切な重合開始剤または促進剤は、洗浄剤組成物;界面活性剤:例えばポリソルベート20(例、ICI AmericaのTween 20(登録商標))、ポリソルベート80(例えば、ICI AmericaのTween 80(登録商標))およびポロキサマーなどの非イオン系界面活性剤、臭化テトラブチルアンモニウムなどの陽イオン系界面活性剤、テトラデシル硫酸ナトリウムなどの陰イオン系界面活性剤、水酸化ドデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウム、内塩などの両性もしくは両イオン性界面活性剤;アミン、イミンおよびアミド、例えばイミダゾール、アルギニンおよびポビジンなど;ホスフィン、ホスファイトおよびホスフォニウム塩、例えばトリフェニルホスフィンおよびトリエチルホスファイトなど;エチレングリコール、メチルガレート(没食子酸メチル)などのアルコール;タンニン;無機塩基および塩、例えば亜硫酸水素ナトリウム、硫酸カルシウムおよびケイ酸ナトリウムなど;チオウレアおよびポリスルフィドなどのイオウ化合物;モネンシン、ノナクチン、クラウンエーテル、カリキサレンおよび高分子エポキシドなどの高分子環式エーテル;環式および非環式カーボネート、例えばジエチルカーボネートなど;Aliquat 336などの相間移動触媒;有機金属、例えばナフテン酸コバルトおよびマンガンアセチルアセトナートなど;および、ラジカル重合開始剤または促進剤、例えばジ-t-ブチルパーオキサイドおよびアゾビスイソブチロニトリルなどを含むことができるが、それらに制限されない。
【0064】
複数の実施の形態では、3種類、4種類もしくはそれ以上など、2種類以上の重合開始剤または促進剤の混合物が使用されることができる。複数の重合開始剤または促進剤の配合物は、例えば、重合性モノマー種の重合開始剤を調製するのに有益な場合がある。例えば、モノマーブレンドが使用される場合、重合開始剤ブレンドが、単一重合開始剤よりも優れた結果を提供することができる。例えば、重合開始剤ブレンドは、優先的に1種類のモノマーの重合を開始する1種類の重合開始剤、および、優先的に別のモノマーの重合を開始する第二の重合開始剤を提供できるか、あるいは、両モノマー種が同等の速度、または、所望の同等でない速度で重合を確実に開始するのに役立つ重合開始速度を提供することができる。このように、重合開始剤ブレンドは、必要な重合開始剤量の最少化に役立つことができる。さらに、重合開始剤ブレンドは、重合反応速度論を強化することができる。
【0065】
複数の実施の形態では、いずれかの適切なアプリケーターが使用され、前記接着剤組成物を基材に適用することができる。例えば、当該アプリケーターは、アプリケーター本体を含むことができ、この本体は、一般に、閉鎖末端、開放末端、および、つぶれ易い、または、壊れ易いアンプルを保持する内部中空を有する管状に形成される。アプリケーターおよびその関連包装は、単回使用(使い捨て)アプリケーターとして、または、頻回(繰返し)使用アプリケーターとしてデザインされることができる。適切な頻回使用アプリケーターは、例えば、2004年10月12日交付の米国特許第6,802,416号に開示されており、当該特許の全開示内容は、参照することによって本明細書に組入れられている。
【0066】
本発明の複数の実施態様では、前記アプリケーターは、アプリケーター本体およびアンプル以外のエレメントを含むことができる。例えば、アプリケーターの開放末端にはアプリケーターチップが提供されることができる。アプリケーターチップの材料は、アンプル内の組成物の適用を増強、容易にするように、性質が多孔質、吸収性または吸着性であってもよい。本発明に従って使用されることができるアプリケーターおよびアプリケーターチップの適切なデザインは、例えば、米国特許第5,928,611号、第6,428,233号、第6,425,704号、第6,455,064号および第6,372,313号に開示されており、当該特許の全開示内容は、参照することによって本明細書に組入れられている。
【0067】
本発明の複数の実施の形態では、アプリケーターは、アプリケーター、または、アプリケーターチップの表面の一部分、または、アプリケーターチップの表面全体に、チップの内側および外側を含めて、重合開始剤または促進剤を含有することができる。重合開始剤または促進剤がアプリケーターチップ内もしくは上に含有される場合、重合開始剤または促進剤は、用途に応じて、アプリケーターチップ表面に適用されることができ、あるいは、アプリケーターチップのマトリックスもしくは内部に含浸される、または、組み入れられることができる。さらに、重合開始剤または促進剤は、例えば、チップ加工中に、アプリケーターチップ内に組み入れられることができる。
【0068】
他の実施の形態では、重合開始剤は、アプリケーター本体の内面、および/または、アプリケーター本体内部に配置されたアンプルまたは他の容器の外面にコートされることができ、第二のフランジブル(壊れやすい)バイアルまたはアンプルの形態でアプリケーター本体内に配置されることができ、かつ/または、重合性モノマー組成物と重合開始剤の間の非接触関係が、接着剤の使用時まで維持される限り、別途、アプリケーター本体内に含有されることができる。
【0069】
増粘剤、可塑剤、着色剤、防腐剤、熱放散剤、追加安定化剤などを含めて、他の任意の成分が重合性シアノアクリレート組成物中に存在することができる。典型的には、これらの成分は、組成物の総重量換算で、0〜25重量%、さらに好ましくは0〜10重量%、例えば、0〜5重量%の量で使用されることができる。
【0070】
本発明の組成物に有用な防腐剤は、抗菌剤であることができる。複数の実施の形態では、防腐剤は、パラベンおよびクレゾールを含むが、それらに制限されない防腐剤の中から選択されることができる。例えば、適切なパラベンは、メチルパラベン、メチルパラベンナトリウム、エチルパラベン、プロピルパラベン、プロピルパラベンナトリウム、ブチルパラベンなどのアルキルパラベンおよびそれらの塩を含むがそれらに制限されない。適切なクレゾールは、クレゾール、クロロクレゾールなどを含むが、それらに制限されない。防腐剤は、ハイドロキノン、ピロカテコール、レゾルシノール、4-n-ヘキシルレゾルシノール、カプタン(即ち、3a,4,7,7a-テトラヒドロ-2-((トリクロロメチル)チオ)-1H-イソインドール-1,3(2H)-ジオン)、安息香酸、ベンジルアルコール、クロロブタノール、デヒドロ酢酸、o-フェニルフェノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、安息香酸カリウム、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、ソルビン酸、チメロサール、チモール、フェニル水銀化合物(例えば、ホウ酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀および酢酸フェニル水銀など)、ホルムアルデヒド、および、防腐剤Germall 11(登録商標)およびGermall 115(登録商標)(イミダゾリジニルウレア、Sutton Laboratories, Charthan, N.J.から販売)などのホルムアルデヒド生成剤を含むが、それらに制限されない他の既知物質からも選択されることができる。他の適切な防腐剤は、米国特許第6,579,469号に開示されており、当該特許の全開示内容は、参照することによって本明細書に組入れられている。複数の実施の形態では、2種類以上の防腐剤の混合物も使用されることができる。
【0071】
本発明のモノマー組成物は、熱放散剤も含むことができる。熱放散剤は、モノマーに可溶性または不溶性であることができる液体または固体を含む。液体は、揮発性であることができ、重合中、蒸発し、それによって、組成物から熱を放出することができる。適切な熱放散剤は、Leungらへの米国特許第6,010,714号に開示されており、当該特許の全開示内容は、本明細書に組入れられている。
【0072】
組成物は、任意に、モノマーから形成されるポリマーに柔軟性を付与する少なくとも1種類の可塑剤も含むことができる。可塑剤は、好ましくは、湿気をほとんどもしくはまったく含有せず、モノマーの安定性または重合にそれほど影響を与えないことが必要である。かかる可塑剤は、創傷、切開部、擦過傷、ただれの閉鎖または被覆、または、接着剤の柔軟性が望ましい他の利用に使用される重合化組成物に有用である。ポリ-2-エチルヘキシルシアノアクリレートなどの一部の増粘剤も、ポリマーに柔軟性を付与することができる。
【0073】
適切な可塑剤の例は、クエン酸アセチルトリブチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジブチル、リン酸トリエチル、リン酸トリ(2-エチルヘキシル)、リン酸トリ(p-クレシル)、三酢酸グリセリル、三酪酸グリセリル、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸、トリメリット酸トリオクチル、グルタール酸ジオクチル、ポリジメチルシロキサン、および、それらの混合物を含む。好ましい可塑剤は、クエン酸トリブチルおよびクエン酸アセチルトリブチルである。複数の実施の形態では、適切な可塑剤は、ポリエチレングリコール(PEG)エステルおよびキャッピングPEGエステルまたはエーテル、グルタール酸ポリエステルおよびアジピン酸ポリエステルなどのポリマー可塑剤を含む。
【0074】
0.5重量%〜25重量%または1重量%〜20重量%または3重量%〜15重量%または5重量%〜7重量%の範囲の量での可塑剤の添加は、可塑剤無添加の重合化モノマーに勝る重合化モノマーの伸びおよび靭性を提供する。
【0075】
前記組成物は、少なくとも1種類の増粘剤も含むことができる。適切な増粘剤は、例えば、ポリシアノアクリレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸-グリコール酸コポリマー、ポリカプロラクトン、乳酸-カプロラクトンコポリマー、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸、ポリオルソエステル、ポリアルキルアクリレート、アルキルアクリレートと酢酸ビニルのコポリマー、ポリアルキルメタクリレート、および、アルキルメタクリレートとブタジエンのコポリマーを含む。
【0076】
前記組成物は、任意に、少なくとも1種類の揺変剤(チオトロープ剤thixotropic agent)も含むことができる。適切な揺変剤は、当業者に周知で、シリルイソシアネート(イソシアン酸シリル)処理されたものなどのシリカゲルを含むが、それらに制限されない。適切な揺変剤の例は、例えば、米国特許第4,720,513号に開示されており、当該特許の開示内容は、その全体が本明細書に組入れられている。
【0077】
前記組成物は、任意に、少なくとも1種類の天然もしくは合成ゴムも含み、耐性を付与することができ、これは、特に、本発明の工業用組成物に好ましい。適切なゴムは、当業者に周知である。かかるゴムは、ジエン、スチレン、アクリロニトリル、および、それらの混合物を含むが、それらに制限されない。適切なゴムの例は、例えば、米国特許第4,313,865号および第4,560,723号に開示されており、当該特許の開示内容は、それらの全体が本明細書に組入れられている。
【0078】
本発明の医療用組成物は、前記ポリマーのインビボ(生体内in vivo)生分解中に生成される活性ホルムアルデヒド濃度レベルの低減に有効な、少なくとも1種類の生体適合性物質(本明細書では、「ホルムアルデヒド濃度低減剤」とも称する)も含むことができる。好ましくは、この成分は、ホルムアルデヒドスカベンジャー化合物である。有用なホルムアルデヒドスカベンジャー化合物の例は、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、および、とりわけ亜硫酸塩と重亜硫酸塩の混合物を含む。ホルムアルデヒドスカベンジャー化合物およびその実施法の有用な追加例は、すべてLeungらへの米国特許第5,328,687号、第5,514,371号、第5,514,372号、第5,575,997号、第5,582,834号および第5,624,669号に認められることができ、当該特許は、参照することによってそれらの全体が本明細書に組入れられている。好ましいホルムアルデヒドスカベンジャーは、重亜硫酸ナトリウムである。
【0079】
好ましい実施の形態では、ホルムアルデヒド濃度低減剤は、有効量で前記シアノアクリレートに添加される。「有効量」とは、重合化シアノアクリレートの後からのインビボでの生分解中に生成されるホルムアルデヒド量を低減するのに十分な量である。この量は、活性ホルムアルデヒド濃度低減剤の種類に依存することになり、当業者によって、不必要な実験なしで容易に決定されることができる。
【0080】
ホルムアルデヒド濃度低減剤は、遊離形態かマイクロカプセル化形態のいずれかで使用されることができる。マイクロカプセル化される場合、ホルムアルデヒド濃度低減剤は、シアノアクリレートポリマーのインビボでの生分解中、経時的に連続してマイクロカプセルから放出される。
【0081】
マイクロカプセル化形態のホルムアルデヒド濃度低減剤が好ましく、その理由は、この実施の形態が、当該ホルムアルデヒド濃度低減剤によって前記シアノアクリレートモノマーの重合を阻止する、あるいは、実質的に低減し、このことが、保存期間を延長し、使用中の前記モノマー組成物の取扱いを容易にするからである。マイクロカプセル化技術は、参照することによってその全体が本明細書に組入れられている米国特許第6,512,023号に開示されている。
【0082】
一例として、ある実施の形態では、シアノアクリレート接着剤組成物は、約75%2-オクチルシアノアクリレート、約25%ブチルラクトイルシアノアクリレート、約70 ppm未満ハイドロキノン、約1600 ppm BHA、約110 ppm p-メトキシフェノール、約5.0 ppm硫酸、約15.0 ppm二酸化イオウおよび約103.0 ppm酢酸を含む。シアノアクリレート接着剤組成物は、例えば、重合開始剤としての約0.0195%四級アンモニウム塩とともに使用されることができる。
【0083】
本発明を概説したが、数件の具体的実施例を参照することによって、さらに深い理解が得られることができ、本実施例は、例証のためにだけ本明細書に提供されており、他に規定されない限り、制限することを意図されるものではない。
【0084】
〔実施例1〕
ハイドロキノン含有シアノアクリレート組成物の変異誘発活性を定量するために、技術上周知の方法に従ってマウスリンパ腫スクリーニング試験が実施された。使用されたアッセイプロトコルは431ICH 1第3版(L5178Y TK±)で、Covance, Inc.によって実施された。それぞれの前記シアノアクリレート組成物中のラジカル安定化剤の量は変動された。選択剤は、3.0 μg/mLの5-トリフルオロチミジン(TFT)であった。本スクリーニング試験の結果は、以下に表1に示された。この表に示されるように、約1200 ppmのハイドロキノンを含有するシアノアクリレート組成物だけが、変異誘発活性(124.1 x 10E-6単位と確定)を示した。含有されるハイドロキノンが1200 ppm未満のシアノアクリレート組成物は、変異誘発活性の最低必要条件を満たさなかったが、このサンプルの正確なハイドロキノン量は、組成物が前抽出されたため、確かではなかった。70 ppm未満のハイドロキノンおよび3000 ppmまたは1000 ppmのBHAを含有するシアノアクリレート組成物は、対照(変異体頻度結果を示す欄を参照されたい)と同様に、変異誘発最低基準より低い変異誘発活性を有した。
【表1】

【0085】
〔実施例2〕
異なるハイドロキノン量を有するシアノアクリレート組成物の安定性が決定された。被験調合は、表2に示される。
【表2】

【0086】
粘度測定法
上記のシアノアクリレート接着剤組成物は、安定性について、次の方法により、Brokfieldコーン/プレート粘度計を使った粘度試験に従って検討された:
【0087】
スピンドルCP-40を備えたBrookfieldコーン/プレート粘度計モデルDV II+が、被験サンプルの粘度の測定に使用された。この粘度計のサンプルカップは、25±1℃の温度を維持できる再循環水浴に連結された。較正処理が実施され、コーンとプレートとを0.0005インチ(0.013 mm)の距離で離した。1セットの粘度標準品、Brookfield Engineering Laboratories, Inc.から入手された粘度既知の多目的シリコーン液が機器の較正に使用された。一般に、5および50センチポアの標準品が使用された。いったん対象機器が較正されると、サンプルが検査された。
【0088】
被験サンプルは、サンプルカップ(1回の測定当たり0.6 mL)に分配され、均一に展ばされた。カップは、スピンドルに接続され、コーン(スピンドル)およびプレート(カップ)配列を得た。スピンドルは、所定の設定速度(rpm)で回転を加えられ、機器の直線範囲内の表示読取り値に達した:40〜90%(トルク)。スピンドルは、読取り値を得るまでに、最低20回転を加えられた。例えば、スピンドルが、60 rpmに設定されると、20回転には20秒間かかる(20回転X60回転/60秒=20秒)。表示読み取り値と速度が記録された。
【0089】
粘度は、最も類似する標準品に対する割合として算出された。例えば、2種類の標準品が検査された:30 rpmでの4.8 cPsは、45.3%の表示を示し、3 rpmでの48.6 cPsは、44.5%の表示を示した。30 rpmの係数は、4.8/45.3=0.1060であり、3 rpmの係数は、48.6/44.5=1.0921であった。表示67.6%を示す30 rpmでのサンプル検査は、7.2 cPsの粘度を呈することになる(67.6 x 0.1060=7.2 cPs)。他の速度は、最も近い標準品から得られる係数を有する。例えば、20 rpmにおける係数は、最も近い標準品30 rpmにおける係数に比例することになる。係数は、0.1590((30 x 0.1060)/20=0.1590)となる。表示86.5%の20 rpmで検査されるサンプルは、13.8 cPsの粘度を有することになる(86.5 x 0.1590=13.8 cPs)。サンプルは、3回繰り返しで測定され、平均値が算出された。
【0090】
調製および検査手順は次のとおりであった。250g(即ち、≒25%)のBLCAと750gの2-OCAが、大型の高密度ポリエチレン容器に入れられ、十分に混合された。2-OCAの製造中、ハイドロキノンおよび各成分p-メトキシフェノール、硫酸、二酸化イオウ、および酢酸が調合物に入れられた。各成分p-メトキシフェノール、硫酸、二酸化イオウおよび酢酸の量は、A調合およびB調合の両方について表2に示される量と実質的に同様であった。ハイドロキノンは、0〜70 ppmの製造許容範囲に従って混合された。
【0091】
前記ブレンドに約1600 ppm(B調合)または2000 ppm(A調合)のBHAが添加された。添加されるBHAの正確な量は、ブレンド総量と、ブレンドの2-OCA部分にすでに存在するBHA量に依存した。次に、ブレンドの少なくとも5gが、既述のとおり、Brookfieldコーン/プレート粘度計検査を使って滅菌前粘度について検査された。
【0092】
少なくとも1680本のオニオンスキンチューブが、それぞれ、500μLのシアノアクリレート組成物で満たされ、密封され、被験サンプルを提供した。次に、サンプル組成物は、乾熱トンネルオーブンを使って乾熱滅菌された。滅菌後、サンプルは、少なくとも2時間冷却された。
【0093】
前記サンプルは、80℃の促進条件(乾熱)下で、安定チャンバー中で保存された。被験サンプルは、6、12および18日の予定間隔で、上記のとおりに粘度について検査された。サンプル材料が経時的に増粘するに伴って、保存期間が減少されることができる。いずれの保存条件の検討も、40cPが達成されると、終了とされた。評価されたバッチは、80℃で、12日まで一貫性と許容性を示した。シアノアクリレート接着剤組成物の先行安定性試験に基づいて、80℃への6、12および18日間の曝露は、一般に、それぞれ、室内条件下の1、2および3年と相関する。よって、サンプルシアノアクリレート接着剤組成物は、少なくとも約2年間安定であると予想される、と考えられる。
【0094】
1200 ppmのハイドロキノンを含有するA調合の調合物の7種類のバッチの比較サンプル(7種類の異なるロットのシアノアクリレートサンプル使用)が検査された。図1は、A調合に従ったサンプルが80℃の促進条件を使った試験で粘度について検査された場合に得られる安定性データのグラフである。3種類のバッチのサンプル(3種類の異なるロットのシアノアクリレートサンプル使用)は、表2に示されるB調合の調合に従って検査された。組成物についてクロマトグラフィーが実施され、これは、前記バッチ3種類が、それぞれ、53、54および25 ppmのハイドロキノンを含むことを表していた(製造業者の範囲:0〜70 ppm)。図2は、B調合のロットについて実施された、経時的な80℃促進条件下での粘度検査から得られた安定性データのグラフである。図1および2に示されるように、B調合のハイドロキノンの低レベル使用は、A調合で使用された高めのレベルに比較すると、適切な安定性を提供した。しかし、実施例1に示されるように、ハイドロキノンは、B調合のサンプルのレベルでは、変異原性を発揮しない。
【0095】
本発明は、好ましい実施の形態を参照して説明されたが、本発明は、提示された特定の実施例に制限されるものではなく、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当業者によって他の実施の形態および変更が加えられることができる。
【0096】
〔実施の態様〕
(1) 安定化接着剤組成物において、
1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマーと、
5〜70ppmの量のハイドロキノンから成る第一フリーラジカル安定化剤と、
500〜10,000ppmの量のブチル化ヒドロキシアニソールから成る第二フリーラジカル安定化剤と、
を含む、
安定化接着剤組成物。
(2) 実施態様1に記載の安定化接着剤組成物において、
第三フリーラジカル安定化剤、
をさらに含む、安定化接着剤組成物。
(3) 実施態様2に記載の安定化接着剤組成物において、
前記第三フリーラジカル安定化剤が、p-メトキシフェノールである、
安定化接着剤組成物。
(4) 実施態様1に記載の安定化接着剤組成物において、
1種類以上の前記重合性シアノアクリレートモノマーが、オクチルシアノアクリレート、ドデシルシアノアクリレート、2-エチルヘキシルシアノアクリレート、メトキシエチルシアノアクリレート、2-エトキシエチルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、3-メトキシブチルシアノアクリレート、2-ブトキシエチルシアノアクリレート、2-イソプロポキシエチルシアノアクリレート、1-メトキシ-2-プロピルシアノアクリレート、ブチルラクトイルシアノアクリレート、ブチルグリコロイルシアノアクリレート、イソプロピルグリコロイルシアノアクリレート、エチルラクトイルシアノアクリレート、エチルグリコロイルシアノアクリレート、イソプロポキシエチルシアノアクリレート、メトキシブチルシアノアクリレート、および、これらの混合物から成る群から選択される、
安定化接着剤組成物。
(5) 実施態様4に記載の安定化接着剤組成物において、
1種類以上の前記重合性シアノアクリレートモノマーが、2-オクチルシアノアクリレートおよびブチルラクトイルシアノアクリレートである、
安定化接着剤組成物。
(6) 実施態様1に記載の安定化接着剤組成物において、
蒸気相陰イオン性安定化剤および液相陰イオン性安定化剤、
をさらに含む、安定化接着剤組成物。
(7) 実施態様1に記載の安定化接着剤組成物において、
前記ハイドロキノンが、15〜60ppmの量である、
安定化接着剤組成物。
【0097】
(8) 実施態様1に記載の安定化接着剤組成物において、
前記ハイドロキノンが、20〜50ppmの量である、
安定化接着剤組成物。
(9) 実施態様8に記載の安定化接着剤組成物において、
前記ブチル化ヒドロキシアニソールが、1000〜2000ppmの量である、
安定化接着剤組成物。
(10) 安定化接着剤組成物において、
1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマーと、
安定化有効量のハイドロキノンから成る第一フリーラジカル安定化剤と、
安定化有効量のブチル化ヒドロキシアニソールから成る第二フリーラジカル安定化剤と、
を含み、
ハイドロキノンの安定化有効量対ブチル化ヒドロキシアニソールの安定化有効量の比が、1:25〜1:75である、
安定化接着剤組成物。
(11) 安定化接着剤組成物において、
1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマーと、
安定化有効量のハイドロキノンから成る第一フリーラジカル安定化剤と、
安定化有効量のブチル化ヒドロキシアニソールから成る第二フリーラジカル安定化剤と、
蒸気相陰イオン性安定化剤を含む第一陰イオン性安定化剤と、
液相陰イオン性安定化剤を含む第二陰イオン性安定化剤と、
を含み、
前記安定化接着剤組成物が、少なくとも1年間に亘って約200cp未満の粘度を示し、マウスリンパ腫スクリーニング試験において、124.1×10E−6単位の変異体頻度最低基準未満の変異誘発活性レベルを示す、
安定化接着剤組成物。
(12) 実施態様11に記載の安定化接着剤組成物において、
第三陰イオン性安定化剤、
をさらに含む、安定化接着剤組成物。
(13) 実施態様12に記載の安定化接着剤組成物において、
前記第三陰イオン性安定化剤が、酢酸である、
安定化接着剤組成物。
(14) 実施態様11に記載の安定化接着剤組成物において、
1種類以上の前記重合性シアノアクリレートモノマーが、2-オクチルシアノアクリレートおよびブチルラクトイルシアノアクリレートである、
安定化接着剤組成物。
【0098】
(15) 生体組織の治療法において、
生体適合性接着剤組成物を生体組織に適用すること、
を含み
前記組成物は、
1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマーと、
安定化有効量のハイドロキノンから成る第一フリーラジカル安定化剤と、
安定化有効量のブチル化ヒドロキシアニソールから成る第二フリーラジカル安定化剤と、
蒸気相陰イオン性安定化剤を含む第一陰イオン性安定化剤と、
液相陰イオン性安定化剤を含む第二陰イオン性安定化剤と、
を含み、
ハイドロキノンの安定化有効量対ブチル化ヒドロキシアニソールの安定化有効量の比が、1:25〜1:75である、
生体組織の治療法。
(16) 実施態様15に記載の方法において、
前記生体適合性接着剤組成物が、重合開始剤と関連して適用される、
方法。
(17) 実施態様16に記載の方法において、
前記生体組織が、体内の生体組織である、
方法。
(18) 実施態様15に記載の方法において、
前記1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマーが、2-オクチルシアノアクリレートおよびブチルラクトイルシアノアクリレートである、
方法。
(19) 実施態様16に記載の方法において、
前記重合開始剤が、四級アンモニウム塩である、
方法。
(20) 実施態様15に記載の方法において、
前記生体適合性接着剤組成物が、生体組織に適用される前に乾熱滅菌によって滅菌される、
方法。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】表2においてA調合と表示され、実施例2で論じられている比較シアノアクリレート調合物の粘度(cP)対日数のグラフである。
【図2】表2においてB調合と表示され、実施例2で論じられているシアノアクリレート調合物の粘度(cP)対日数のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化接着剤組成物において、
1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマーと、
5〜70ppmの量のハイドロキノンから成る第一フリーラジカル安定化剤と、
500〜10,000ppmの量のブチル化ヒドロキシアニソールから成る第二フリーラジカル安定化剤と、
を含む、安定化接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の安定化接着剤組成物において、
第三フリーラジカル安定化剤、
をさらに含む、安定化接着剤組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の安定化接着剤組成物において、
前記第三フリーラジカル安定化剤が、p-メトキシフェノールである、
安定化接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の安定化接着剤組成物において、
1種類以上の前記重合性シアノアクリレートモノマーが、オクチルシアノアクリレート、ドデシルシアノアクリレート、2-エチルヘキシルシアノアクリレート、メトキシエチルシアノアクリレート、2-エトキシエチルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、3-メトキシブチルシアノアクリレート、2-ブトキシエチルシアノアクリレート、2-イソプロポキシエチルシアノアクリレート、1-メトキシ-2-プロピルシアノアクリレート、ブチルラクトイルシアノアクリレート、ブチルグリコロイルシアノアクリレート、イソプロピルグリコロイルシアノアクリレート、エチルラクトイルシアノアクリレート、エチルグリコロイルシアノアクリレート、イソプロポキシエチルシアノアクリレート、メトキシブチルシアノアクリレート、および、これらの混合物から成る群から選択される、
安定化接着剤組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の安定化接着剤組成物において、
1種類以上の前記重合性シアノアクリレートモノマーが、2-オクチルシアノアクリレートおよびブチルラクトイルシアノアクリレートである、
安定化接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の安定化接着剤組成物において、
蒸気相陰イオン性安定化剤および液相陰イオン性安定化剤、
をさらに含む、安定化接着剤組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の安定化接着剤組成物において、
前記ハイドロキノンが、15〜60ppmの量である、
安定化接着剤組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の安定化接着剤組成物において、
前記ハイドロキノンが、20〜50ppmの量である、
安定化接着剤組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の安定化接着剤組成物において、
前記ブチル化ヒドロキシアニソールが、1000〜2000ppmの量である、
安定化接着剤組成物。
【請求項10】
安定化接着剤組成物において、
1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマーと、
安定化有効量のハイドロキノンから成る第一フリーラジカル安定化剤と、
安定化有効量のブチル化ヒドロキシアニソールから成る第二フリーラジカル安定化剤と、
を含み、
ハイドロキノンの安定化有効量対ブチル化ヒドロキシアニソールの安定化有効量の比が、1:25〜1:75である、
安定化接着剤組成物。
【請求項11】
安定化接着剤組成物において、
1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマーと、
安定化有効量のハイドロキノンから成る第一フリーラジカル安定化剤と、
安定化有効量のブチル化ヒドロキシアニソールから成る第二フリーラジカル安定化剤と、
蒸気相陰イオン性安定化剤を含む第一陰イオン性安定化剤と、
液相陰イオン性安定化剤を含む第二陰イオン性安定化剤と、
を含み、
前記安定化接着剤組成物が、少なくとも1年間に亘って約200cp未満の粘度を示し、マウスリンパ腫スクリーニング試験において、124.1×10E−6単位の変異体頻度最低基準未満の変異誘発活性レベルを示す、
安定化接着剤組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の安定化接着剤組成物において、
第三陰イオン性安定化剤、
をさらに含む、安定化接着剤組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の安定化接着剤組成物において、
前記第三陰イオン性安定化剤が、酢酸である、
安定化接着剤組成物。
【請求項14】
請求項11に記載の安定化接着剤組成物において、
1種類以上の前記重合性シアノアクリレートモノマーが、2-オクチルシアノアクリレートおよびブチルラクトイルシアノアクリレートである、
安定化接着剤組成物。
【請求項15】
生体組織の治療法において、
生体適合性接着剤組成物を生体組織に適用すること、
を含み、
前記組成物は、
1種類以上の重合性シアノアクリレートモノマーと、
安定化有効量のハイドロキノンから成る第一フリーラジカル安定化剤と、
安定化有効量のブチル化ヒドロキシアニソールから成る第二フリーラジカル安定化剤と、
蒸気相陰イオン性安定化剤を含む第一陰イオン性安定化剤と、
液相陰イオン性安定化剤を含む第二陰イオン性安定化剤と、
を含み、
ハイドロキノンの安定化有効量対ブチル化ヒドロキシアニソールの安定化有効量の比が、1:25〜1:75である、
生体組織の治療法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−510226(P2009−510226A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533559(P2008−533559)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【国際出願番号】PCT/US2006/037629
【国際公開番号】WO2007/041143
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(500512427)クロージャー メディカル コーポレイション (9)
【Fターム(参考)】